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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024176859
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】複合発電システム及び複合発電方法
(51)【国際特許分類】
   F01K 17/02 20060101AFI20241212BHJP
   F01K 25/10 20060101ALI20241212BHJP
   F23K 5/22 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
F01K17/02
F01K25/10 F
F23K5/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023095697
(22)【出願日】2023-06-09
(71)【出願人】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(74)【代理人】
【識別番号】110004510
【氏名又は名称】弁理士法人維新国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100111132
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 浩
(72)【発明者】
【氏名】山下 義晶
(72)【発明者】
【氏名】宮本 隆博
【テーマコード(参考)】
3G081
3K068
【Fターム(参考)】
3G081BA02
3G081BB07
3G081BC01
3K068AA01
3K068AA11
3K068AB23
3K068BB02
3K068BB03
3K068CA11
3K068EA01
(57)【要約】
【課題】液体アンモニアから多量の燃焼用のアンモニアガスを生成する際のエネルギー損失を少なくすることができる複合発電システムを提供する。
【解決手段】蒸気を生成するボイラー設備4と、蒸気によって駆動される蒸気タービン8と、この蒸気タービン8に接続されて発電する第1の発電機9を有する第1の発電施設2と、液体アンモニアを貯蔵する貯蔵設備15と、この貯蔵設備15から供給される液体アンモニアを蒸気タービン8の排蒸気を用いてタービン駆動流体にするエネルギー付加設備と、このエネルギー付加設備において生成したタービン駆動流体によって駆動されるアンモニアタービン20と、このアンモニアタービン20に接続されて発電する第2の発電機21を有する第2の発電施設3を備え、ボイラー設備4又はこのボイラー設備4以外の少なくとも1の任意の設備、において排アンモニアガスを燃焼させる複合発電システム1Aによる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸気を生成するボイラー設備と、前記蒸気によって駆動される蒸気タービンと、前記蒸気タービンに接続されて発電する第1の発電機を有する第1の発電施設と、
液体アンモニアを貯蔵する貯蔵設備と、前記貯蔵設備から供給される前記液体アンモニアを前記蒸気タービンの排蒸気の余熱を用いてタービン駆動流体にするエネルギー付加設備と、前記エネルギー付加設備において生成した前記タービン駆動流体によって駆動されるアンモニアタービンと、前記アンモニアタービンに接続されて発電する第2の発電機を有する第2の発電施設を備え、
前記ボイラー設備、又は、前記アンモニアタービンから排出される排アンモニアガスを燃焼可能な燃焼部を有しかつ前記ボイラー設備以外の少なくとも1の任意の設備、において前記排アンモニアガスを燃焼させることを特徴とする複合発電システム。
【請求項2】
前記排アンモニアガスは、前記ボイラー設備において燃焼されることを特徴とする請求項1に記載の複合発電システム。
【請求項3】
前記エネルギー付加設備に供給する前記液体アンモニアを6MPaG以上に加圧する加圧設備を備えることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の複合発電システム。
【請求項4】
前記蒸気タービンは、
出口温度が200~450℃である中圧排蒸気を排出する中圧蒸気タービンと、
出口温度が30~200℃である低圧排蒸気を排出する低圧蒸気タービンを備え、
前記エネルギー付加設備はアンモニア気化設備であり、
前記液体アンモニアを予熱する予熱器と、
前記予熱器において予熱された前記液体アンモニアを気化する気化器と、
前記気化器において気化されたアンモニアガスを過熱する過熱器を備え、
前記中圧排蒸気の一部を前記過熱器に供給するとともに、前記過熱器において減温された前記中圧排蒸気の一部を前記気化器に供給する中圧排蒸気供給ラインと、
前記気化器又はその関連機器から生じる第1の温水、及び/又は、前記低圧蒸気タービンの関連機器から生じる第2の温水、を前記予熱器に供給する温水供給ラインを備えることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の複合発電システム。
【請求項5】
前記アンモニアタービンから排出される前記排アンモニアガスの余圧により、前記ボイラー設備又は前記任意の設備に前記排アンモニアガスを供給することを特徴とする請求項1に記載の複合発電システム。
【請求項6】
前記液体アンモニアは1質量%以下の水を含有することを特徴とする請求項1に記載の複合発電システム。
【請求項7】
前記ボイラー設備又は前記任意の設備、の燃焼部に供給される前記排アンモニアガスの温度は18.8℃以上であることを特徴とする請求項6に記載の複合発電システム。
【請求項8】
第1の発電機が接続される蒸気タービンをボイラー設備において生成される蒸気により駆動して第1の電力を発電するとともに、
前記蒸気タービンの排蒸気の余熱を用いて液体アンモニアからタービン駆動流体を生成し、第2の発電機が接続されるアンモニアタービンを前記タービン駆動流体により駆動して第2の電力を発電し、
前記ボイラー設備、又は、前記ボイラー設備以外の少なくとも1の任意の設備、において前記アンモニアタービンから排出される排アンモニアガスを燃焼させることを特徴とする複合発電方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体アンモニアを気化して燃焼用のアンモニアガスを生成する際のエネルギー損失を少なくする又は無くすことができる複合発電システム及びその方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、アンモニア(NH)は、常温(20℃、0.875MPaG(蒸気圧))では気体であるが冷却や加圧で容易に液化でき、燃料として使用する場合は液体のまま輸送や貯留することができる。このため、容易に液化できない気体燃料を取り扱う場合に比べて輸送や貯留に要するコストを低減できる。また、近年アンモニアは、燃焼時に温室効果ガスである二酸化炭素(CO)を排出しない燃料として注目されている。
このため、石炭等の化石燃料を使用する従来の火力発電施設において、燃料の一部としてアンモニアを用いることで温室効果ガスである二酸化炭素の排出量を低減する試みもなされている。
その一方で、アンモニアを燃料として用いる場合は、液体アンモニアを気化してアンモニアガスにする必要がある。
【0003】
アンモニアの沸点は-33.34℃であり、水に比べて大幅に低い。このため、液体アンモニアを気化させる際は、工業用水や海水を熱媒体として用いて容易に液体アンモニアを気化させることができる。
その一方で、液体アンモニアを気化させる際の熱媒体として工業用水や海水を使用する場合は、これらの揚水に要するエネルギーコストが増大することが予想される。このため、エネルギー収支の観点から、アンモニアを燃料として使用する際のコスト的なメリットが薄くなるという懸念があった。
このような事情に鑑み、従来の火力発電施設等において生じる余熱を利用して液体アンモニアを気化させて燃料として利用することが行われている。
当該技術分野の先願としては、例えば特許文献1に開示される「発電プラント用のアンモニア供給ユニット、発電プラント用のアンモニア気化処理方法、及び発電プラント」等が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2023-11172号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の特許文献1に開示される発明によれば、従来の火力発電施設等において生じる排熱を用いることで、気化時のエネルギー損失を極力抑制しながら燃焼用のアンモニアガスを生成できるものの、火力発電施設等において利用可能な排熱量は限られている。
このため、特許文献1を参酌する場合は、気化できる液体アンモニアの量に限りがあった。
【0006】
本発明はかかる従来の事情に対処してなされたものでありその目的は、多量の液体アンモニアを気化せしめて燃焼用のアンモニアガスを生成することができ、かつ、気化によるエネルギー損失を少なくする又は無くすことができる複合発電システム及びその方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための第1の発明である複合発電システムは、蒸気を生成するボイラー設備と、その蒸気によって駆動される蒸気タービンと、この蒸気タービンに接続されて発電する第1の発電機を有する第1の発電施設と、液体アンモニアを貯蔵する貯蔵設備と、この貯蔵設備から供給される液体アンモニアを蒸気タービンの排蒸気の余熱を用いてタービン駆動流体にするエネルギー付加設備と、このエネルギー付加設備において生成したタービン駆動流体によって駆動されるアンモニアタービンと、このアンモニアタービンに接続されて発電する第2の発電機を有する第2の発電施設を備え、ボイラー設備、又は、アンモニアタービンから排出される排アンモニアガスを燃焼可能な燃焼部を有しかつボイラー設備以外の少なくとも1の任意の設備、において排アンモニアガスを燃焼させることを特徴とする。
上記構成の第1の発明において、第1の発電施設は、ボイラー設備で生成した蒸気により蒸気タービンを駆動して、この蒸気タービンに接続される第1の発電機により第1の電力を発電するという作用を有する。
また、第2の発電施設のエネルギー付加設備は、貯蔵設備から供給される液体アンモニアを、第1の発電施設における蒸気タービンの排蒸気の余熱を利用してタービン駆動流体(過熱アンモニアガス又はアンモニアの超臨界流体)を生成するという作用を有する。さらに、第2の発電施設では、エネルギー付加設備において生成されるタービン駆動流体により、アンモニアタービンを駆動して、このアンモニアタービンに接続される第2の発電機により第2の電力を発電するという作用を有する。
さらに、第2の発電施設のアンモニアタービンから排出される排アンモニアガスは、ボイラー設備、又はこのボイラー設備以外の少なくとも1の任意の設備、において燃焼用のアンモニアガスとして用いられる。
つまり、第1の発明では、第1の発電施設において蒸気により第1の電力を発電しつつ、この蒸気の一部を用いて第2の発電施設において生成されるタービン駆動流体を用いて第2の電力を発電し、さらに第2の発電施設から排出される排アンモニアガスが燃料として使用される。
【0008】
第2の発明は、上述の第1の発明であって、排アンモニアガスは、ボイラー設備において燃焼されることを特徴とする。
上記構成の第2の発明は、アンモニアタービンから排出される排アンモニアガスを燃焼させる設備がボイラー設備に特定されている。よって、第2の発明による作用は、第1の発明による作用と同じである。
また、第2の発明では、アンモニアタービンから排出される排アンモニアガスをボイラー設備の燃料として用いることで、第1の発電施設において第1の電力を発電する際の二酸化炭素の排出量を削減するという作用を有する。
【0009】
第3の発明は、上述の第1又は第2の発明であって、エネルギー付加設備に供給する液体アンモニアを6MPaG以上に加圧する加圧設備を備えることを特徴とする。
上記構成の第3の発明は、上述の第1又は第2の発明による作用と同じ作用を有する。さらに、第3の発明では、エネルギー付加設備に供給する液体アンモニアを6MPaG以上に加圧しておくことで、無加圧の液体アンモニアを用いる場合に比べて、第1及び第2の発電施設における総発電量を増加させるという作用を有する。
【0010】
第4の発明は、上述の第1又は第2の発明であって、蒸気タービンは、出口温度が200~450℃である中圧排蒸気を排出する中圧蒸気タービンと、出口温度が30~200℃である低圧排蒸気を排出する低圧蒸気タービンを備え、エネルギー付加設備はアンモニア気化設備であり、液体アンモニアを予熱する予熱器と、この予熱器において予熱された液体アンモニアを気化させる気化器と、この気化器において気化されたアンモニアガスを過熱する過熱器を備え、中圧排蒸気の一部を過熱器に供給するとともに、過熱器において減温された中圧排蒸気の一部を気化器に供給する中圧排蒸気供給ラインと、気化器又はその関連機器から生じる第1の温水、及び/又は、低圧蒸気タービンの関連機器から生じる第2の温水、を予熱器に供給する温水供給ラインを備えることを特徴とする。
上記構成の第4の発明は、上述の第1又は第2の発明による作用と同じ作用を有する。また、第4の発明では、アンモニア気化設備の過熱器において、中圧排蒸気を利用して気化器において気化されたアンモニアガスを過熱するとともに、過熱器において使用済の中圧排蒸気の一部を気化器に供給して(=中圧排蒸気供給ライン)液体アンモニアの気化に利用することで、過熱アンモニアガスを効率良く生成させるという作用を有する。
また、第4の発明では、気化器又はその関連機器から生じる第1の温水、及び/又は、低圧蒸気タービンの関連機器から生じる第2の温水、を利用して(=温水供給ライン)予熱器に送給された液体アンモニアを予熱することで、気化器又はその関連機器が有する余熱、及び/又は、低圧蒸気タービンから生じる排熱を有効利用して、効率良く液体アンモニアを予熱するという作用を有する。
特に、第4の発明が温水供給ラインを備えることで、環境に放出される排熱量を減らすことができる。
【0011】
第5の発明は、上述の第1の発明であって、アンモニアタービンから排出される排アンモニアガスの余圧により、ボイラー設備又は任意の設備に排アンモニアガスを供給することを特徴とする。
上記構成の第5の発明は、上述の第1の発明による作用と同じ作用を有する。また、第5の発明では、ボイラー設備又は任意の設備に排アンモニアガスを供給するための供給設備が不要になる。
【0012】
第6の発明は、上述の第1の発明であって、液体アンモニアは1質量%以下の水を含有することを特徴とする。
上記構成の第6の発明は、上述の第1の発明による作用と同じ作用を有する。また、第6の発明では、第2の発電施設における液体アンモニアやアンモニアガスの送給配管の材質として特に鋼材を用いる場合に、鋼材が応力腐食割れを起こすのを抑制するという作用を有する。
【0013】
第7の発明は、上述の第6の発明であって、ボイラー設備又は任意の設備、の燃焼部に供給される排アンモニアガスの温度は18.8℃以上であることを特徴とする。
上記構成の第7の発明は、上述の第6の発明による作用と同じ作用を有する。また、第7の発明では、ボイラー設備又は任意の設備、の燃焼部に供給される排アンモニアガスの温度が18.8℃以上に設定されることで、特に大気圧下において、排アンモニアガスが通過する燃焼部の表面に結露が生じるのを防ぐという作用を有する。
この場合、燃焼部において排アンモニアガスが接触する鋼材の表面に結露が生じて、その結露水により鋼材が腐食するのを抑制するという作用を有する。
【0014】
第8の発明である複合発電方法は、第1の発電機が接続される蒸気タービンをボイラー設備において生成される蒸気により駆動して第1の電力を発電するとともに、蒸気タービンの排蒸気の余熱を用いて液体アンモニアからタービン駆動流体を生成し、第2の発電機が接続されるアンモニアタービンをタービン駆動流体により駆動して第2の電力を発電し、ボイラー設備、又は、ボイラー設備以外の少なくとも1の任意の設備、においてアンモニアタービンから排出される排アンモニアガスを燃焼させることを特徴とする。
上記構成の第8の発明は、上述の第1の発明を方法の発明として特定したものであり、第8の発明による作用は、第1の発明による作用と同じである。
【発明の効果】
【0015】
上述のような第1の発明によれば、第1の発電施設において発電用に生成される蒸気(熱)の一部を利用して、燃焼用に使用する多量の液体アンモニアの気化を行うことができる。
また、第1の発明によれば、ボイラー設備又は任意の設備において、熱エネルギーを得るための燃料の少なくとも一部としてアンモニアガス(排アンモニアガス)を用いることで、燃焼による熱エネルギーを得る際の二酸化炭素の排出量を削減することができる。
さらに、第1の発明によれば、多量の液体アンモニアを気化させる際の熱源として、第1の発電施設の発電用の蒸気(熱)の一部を転用することによる第1の電力の発電量の低下の一部又は全部を、第2の発電施設における第2の電力の発電により補うことができる。
よって、第1の発明によれば、第1の発電施設と第2の発電施設を併用することで、多量の液体アンモニアを気化させる際のエネルギー損失を少なくする又は無くすことができる。
【0016】
第2の発明によれば、上述の第1の発明による効果と同じ効果を奏する。さらに、第2の発明によれば、第1の発電施設において第1の電力を発電する際に、燃料として化石燃料のみを用いる場合に比べて、二酸化炭素の排出量を削減できる。
【0017】
第3の発明によれば、上述の第1又は第2の発明による効果と同じ効果を奏する。加えて、第3の発明によれば、液体アンモニアを特定の圧力以上に加圧することで、タービン駆動流体を生成するために第1の発電施設から抽気する排蒸気量を、無加圧の液体アンモニアを用いてタービン駆動流体を生成する場合に比べて少なくすることができる。
よって、第3の発明によれば、第1の発電施設から転用する熱エネルギーを、第2の発電施設において効率良く電気エネルギーに変換することができる。
【0018】
第4の発明によれば、上述の第1又は第2の発明による効果と同じ効果を奏する。加えて、第4の発明によれば、中圧排蒸気の余熱をアンモニアガスの過熱(加熱器)と液体アンモニアの気化(気化器)に、この順序で供給するとともに、気化器において使用済の中圧排蒸気の余熱、及び/又は、低圧蒸気タービンの関連機器から生じる排熱を液体アンモニアの予熱(予熱器)に使用することで、過熱アンモニアガスの生成に用いられる熱エネルギーの損失を極力抑制することができる。
この結果、第4の発明によれば、第1の発電施設から転用した熱エネルギーを、第2の発電施設における第2の電力の発電に有効に活用することができる。
【0019】
第5の発明によれば、上述の第1の発明による効果と同じ効果を奏する。加えて、第5の発明によれば、ボイラー設備又は任意の設備に、排アンモニアガスを供給するための供給設備を別途設ける必要がないので、第5の発明の施設構造を簡素にできる。また、第5の発明によれば、排アンモニアガスを供給するための供給設備を有しないので、その稼働やメンテナンス等に要するコストも節減できる。したがって、第5の発明によれば、第1及び第2の電力を発電する際のコストを削減できる。
【0020】
第6の発明によれば、上述の第1の発明による効果と同じ効果を奏する。加えて、第6の発明によれば、アンモニアが水を含有しない場合に比べて、第2の発電施設におけるアンモニア送給配管が損傷するリスクを低減することができる。
このため、第6の発明によれば、第2の発電施設の修理やメンテナンスに要するコストを削減できる。この結果、第6の発明によれば、特に第2の電力を発電する際のコストを削減できる。
【0021】
第7の発明によれば、上述の第6の発明による効果と同じ効果を奏する。加えて、第7の発明によれば、ボイラー設備又は任意の設備、の燃焼部が結露した水により腐食するなどして劣化したり損傷したりするのを抑制できる。
このため、第7の発明によれば、ボイラー設備又は任意の設備、の修理やメンテナンスに要するコストを節減できる。この結果、第7の発明によれば、排アンモニアガスを燃焼させる設備を稼働させる際のコストを削減できる。
【0022】
第8の発明は、上述の第1の発明を方法の発明として特定したものであり、第8の発明による効果は、第1の発明による効果と同じである。
つまり、第8の発明によれば、第1の電力の発電に使用する熱エネルギーの一部を、多量の燃焼用のアンモニアガス(排アンモニアガス)を生成するのに転用することに伴う第1の電力の発電量の低下を、タービン駆動流体(過熱アンモニアガス又はアンモニアの超臨界流体)を用いて行う第2の電力の発電により補うことができる。
この結果、第8の発明によれば、アンモニアを気化して燃料として使用する際のエネルギー損失を少なくする又は無くすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本実施形態に係る複合発電システムのシステム構成図である。
図2】変形例に係る複合発電システムのシステム構成図である。
図3】各種気体の圧力を変化させた際の比エンタルピーの変化を示すグラフである。
図4A】エクセルギー変化の推算に用いる熱源の蒸気(排蒸気)と気化後のアンモニアガスの熱力学的物性の前提条件を示した図である。
図4B】アンモニアの気化に必要なエクセルギー又は動力と気化アンモニアの圧力の関係を示すグラフである。
図5】比較例1、2及び実施例1~3に共通する火力発電施設の簡易モデルの概要を示す図である。
図6】比較例1のシミュレーションモデルの概要を示す図である。
図7】比較例2のシミュレーションモデルの概要を示す図である。
図8】実施例1のシミュレーションモデルの概要を示す図である。
図9】実施例2のシミュレーションモデルの概要を示す図である。
図10】実施例3のシミュレーションモデルの概要を示す図である。
図11】比較例1、2及び実施例1~3の各シミュレーションモデルにおいて1tのアンモニアガスを生成するのに必要な蒸気量を示すグラフである。
図12】各流体の比エクセルギーを示すグラフである。
図13】比較例1、2及び実施例1~3の各シミュレーションモデルにおける総発電量の推算結果を示すグラフである。
図14】比較例1、2及び実施例1~3の各シミュレーションモデルにおけるアンモニアガス1t当たりのエクセルギー収支の推算結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の実施形態に係る複合発電システム及びその方法について図1乃至図4Bを参照しながら詳細に説明する。
【0025】
[1-1;本発明の基本構成について]
まず、図1を参照しながら本発明の代表的な実施形態(以下、本実施形態という)に係る複合発電システムについて説明する。
図1は本実施形態に係る複合発電システムのシステム構成図である。
図1に示すように、本実施形態に係る複合発電システム1Aは、水蒸気(以下、単に「蒸気」という)を利用して第1の電力を発電する第1の発電施設2と、この第1の発電施設2において第1の電力を発電するために生成される蒸気の余熱を利用して液体アンモニアを気化させるとともに、気化されたアンモニアガスを利用して第2の電力を発電する第2の発電施設3を備え、さらに第2の発電施設3から排出される排アンモニアガスを第1の発電施設2のボイラー設備4において燃焼させることを特徴とする。
【0026】
また、上述のような本実施形態に係る複合発電システム1Aにおける第1の発電施設2は、例えば従来の火力発電施設をそのまま転用できる。
より具体的には、本実施形態に係る複合発電システム1Aにおける第1の発電施設2は、蒸気を生成するボイラー設備4と、このボイラー設備4において生成される蒸気によって駆動される蒸気タービン8(例えば、高圧蒸気タービン8a、中圧蒸気タービン8b及び低圧蒸気タービン8c)と、この蒸気タービン8に接続されて発電する第1の発電機9を備える。
なお、上述の第1の発電施設2はさらに、ボイラー設備4において生成される蒸気(熱媒体)を送給する蒸気送給配管L(以下、単に「配管L」という)と、この配管L内の蒸気(熱媒体)を流動させる動力源としてのポンプP~Pや、復水器11を含む熱交換器12、13、さらに脱気器14や補水設備10等の関連設備又は関連機器を、配管L上の所望個所に備えている。
なお、脱気器14は、蒸気タービン8の稼働に用いる熱媒体(水)中に存在する酸素や二酸化炭素等の気体を除去するための装置である。
【0027】
さらに、本実施形態に係る複合発電システム1Aにおける第2の発電施設3は、液体アンモニアを貯蔵する貯蔵設備15と、この貯蔵設備15から供給される液体アンモニアを、第1の発電施設2における蒸気タービン8から排出される排蒸気の余熱を利用して気化するアンモニア気化設備16(エネルギー付加設備)と、このアンモニア気化設備16において生成したタービン駆動流体であるアンモニアガス(過熱アンモニアガス)によって駆動されるアンモニアタービン20と、このアンモニアタービン20に接続されて第2の電力を発電する第2の発電機21を備える。
なお、上述の第2の発電施設3においてアンモニア(液体アンモニア及びアンモニアガス)は、上述の配管Lとは別の独立した配管からなるアンモニア送給ラインLにより送給される。
【0028】
また、第1の発電施設2のボイラー設備4は燃焼部5を備えている。さらに、この燃焼部5には、燃料供給装置6から燃料(例えば、天然ガス、石炭、石油等の化石燃料や、可燃性の廃棄物等)が供給されるとともに、第2の発電施設3におけるアンモニアタービン20から排出される排アンモニアガスも燃料として供給される。
なお、図1に示すボイラー設備4の燃焼部5では、燃料供給装置6から供給される燃料とアンモニアタービン20から排出される排アンモニアガスを混焼する場合を例にあげて説明しているが、燃焼部5に供給される燃料は排アンモニアガスのみでもよい。
【0029】
そして、第1の発電施設2のボイラー設備4では、燃焼部5において発生する熱により蒸気生成器7(例えば蒸気生成器7aや蒸気生成器(再熱器)7b等)において蒸気が生成され、この蒸気により蒸気タービン8を稼働している。
また、第1の発電施設2において蒸気タービン8から排出される排蒸気の一部を、第1の発電施設2の外に抽気して、他の施設の設備(図示せず)において利用してもよい(任意選択構成要素)。なお、図1中の符号X~Zは、蒸気タービン8から排出される排蒸気の一部を、第1の発電施設2の外に導いて別の目的に利用することを示している。
つまり、本実施形態に係る複合発電システム1Aにおける第1の発電施設2は、化学プラントの一部を構成してもよい。
【0030】
なお、本実施形態に係る複合発電システム1Aにおける第1の発電施設2の発電方式(蒸気タービンの方式)は図1に示す抽気復水式と再熱式を組み合せた方式に限定される必要はなく、これらのいずれか一方を採用する方式あるいは以下に示すいずれの方式でもよい。
(1)背圧式
(2)復水式
(3)抽気背圧式
【0031】
さらに、図1に示す本実施形態に係る複合発電システム1Aを、方法の発明として特定する場合は、例えば第1の発電機9が接続される蒸気タービン8をボイラー設備4において生成される蒸気により駆動して第1の電力を発電するとともに、この蒸気タービン8の排蒸気の余熱を用いて液体アンモニアからタービン駆動流体であるアンモニアガスを生成し、第2の発電機21が接続されるアンモニアタービン20をアンモニアガスにより駆動して第2の電力を発電し、アンモニアタービン20から排出される排アンモニアガスをボイラー設備4において燃焼させる複合発電方法となる。
【0032】
[1-2;本発明の基本構成による作用・効果について]
上述のような本実施形態に係る複合発電システム1A(又は複合発電方法)によれば、第1の発電施設2において蒸気タービン8の稼働に使用する熱(蒸気の余熱)の一部を用いて、つまり中圧蒸気タービン8bから排出される中圧排蒸気の一部を第2の発電施設3のアンモニア気化設備16に送給して、液体アンモニアの気化(及び過熱)を行うことで、多量の燃焼用のアンモニアガスを効率良く生成することができる。
さらに、アンモニアタービン20から排出される排アンモニアガスを第1の発電施設2のボイラー設備4において燃料として用いることで、ボイラー設備4において二酸化炭素を排出する燃料のみを燃焼させる場合に比べて、二酸化炭素の排出量を削減することができる。
また、本実施形態に係る複合発電システム1A(又は複合発電方法)では、液体アンモニアを気化させる熱媒体として蒸気タービン8の稼働に用いる蒸気の一部を転用している。このため、本実施形態に係る複合発電システム1Aでは、蒸気タービン8に供給される熱エネルギーが減少し、そのせいで第1の電力の発電量が低下する。
その一方で、本実施形態に係る複合発電システム1A(又は複合発電方法)では、第2の発電施設3のアンモニア気化設備16において気化したアンモニアガスをさらに過熱してこの過熱アンモニアガス(タービン駆動流体)によりアンモニアタービン20を稼働して第2の電力を発電している。
これにより、本実施形態に係る複合発電システム1A(又は複合発電方法)では、第1の発電施設2における第1の電力の出力低下分の一部又は全部を、第2の発電施設3における第2の発電により補うことができる。
この結果、本実施形態に係る複合発電システム1A(又は複合発電方法)によれば、第1の発電施設2と第2の発電施設3を併用することで、液体アンモニアを気化して多量の燃焼用のアンモニアガス(排アンモニアガス)を得る際のエネルギー損失を少なくする又は無くすことができる。
【0033】
[2-1;本発明の変形例について]
次に、図2を参照しながら本実施形態の変形例に係る複合発電システム(以下、単に「変形例に係る複合発電システム」という)について説明する。
図2は変形例に係る複合発電システムのシステム構成図である。なお、図1に記載されたものと同一部分については同一符号を付し、その構成についての説明は省略する。
先の本実施形態に係る複合発電システム1Aでは、アンモニアタービン20から排出される排アンモニアガスを、第1の発電施設2のボイラー設備4において燃焼させているが、この排アンモニアガスを燃焼させる場所は必ずしもボイラー設備4でなくともよい。
つまり、変形例に係る複合発電システム1Bは、第1の発電施設2のアンモニアタービン20から排出される排アンモニアガスを、ボイラー設備4以外の任意の設備22の燃焼部23において燃焼させることを特徴とする。
【0034】
なお、図2に示す変形例に係る複合発電システム1Bにおける任意の設備22としては、例えば下記のような設備があげられる。
・排アンモニアガスを単独で又は他の燃料と組み合わせて燃焼させる他のボイラー設備
・排アンモニアガスを利用する焼却炉
・排アンモニアガスの燃焼熱を他のプラント等における熱処理等に利用するための設備
【0035】
また、図2に示す変形例に係る複合発電システム1Bでは、任意の設備22が1である場合を例にあげて説明しているが、第1の発電施設2の規模等に応じて2以上の任意の設備22に、アンモニアタービン20から排出される排アンモニアガスを燃料として供給してもよい(任意選択構成要素)。
さらに、特に図示しないが変形例に係る複合発電システム1Bは、アンモニアタービン20から排出される排アンモニアガスを、少なくとも1の任意の設備22のみならず、第1の発電施設2のボイラー設備4における燃焼部5に供給してもよい(任意選択構成要素)。
加えて、図2に示す変形例に係る複合発電システム1Bにおける第1の発電施設2は従来の火力発電施設と同様の発電施設である必要はなく、例えば従来の原子力発電施設でもよい(任意選択構成要素)。この場合、第2の発電施設3において生成される燃焼用のアンモニアガス(排アンモニアガス)は、少なくとも1の任意の設備22において燃焼されることになる。
【0036】
さらに、図2に示す変形例に係る複合発電システム1Bを、方法の発明として特定する場合は、第1の発電機9が接続される蒸気タービン8をボイラー設備4において生成される蒸気により駆動して第1の電力を発電するとともに、この蒸気タービン8の排蒸気の余熱を用いて液体アンモニアからタービン駆動流体であるアンモニアガスを生成し、第2の発電機21が接続されるアンモニアタービン20をアンモニアガスにより駆動して第2の電力を発電し、ボイラー設備4、又は、このボイラー設備4以外の少なくとも1の任意の設備(例えば任意の設備22)、においてアンモニアタービン20から排出される排アンモニアガスを燃焼させる複合発電方法となる。
【0037】
[2-2;本発明の変形例による作用・効果について]
上述のような変形例に係る複合発電システム1B(又は変形例に係る複合発電方法)によれば、先の[1-2]に記載される複合発電システム1A(又は複合発電方法)による効果と同じ効果を奏する。さらに、この効果に加えて、アンモニアタービン20から排出される排アンモニアガスを、ボイラー設備4及び/又は少なくとも1の任意の設備22において、燃焼熱を得るための燃料として有効活用できるという効果を奏する。
また、変形に係る複合発電システム1B(又は変形例に係る複合発電方法)によれば、ボイラー設備4の燃焼部5及び/又は少なくとも1の任意の設備22の燃焼部23、において二酸化炭素を排出する燃料のみを燃焼させる場合に比べて、ボイラー設備4及び/又は少なくとも1の任意の設備22から排出される二酸化炭素の量を削減することができる。
【0038】
[3;基本構成及び変形例に係る複合発電システムの任意付加的事項等について]
以下に、本実施形態に係る複合発電システム1A及び変形例に係る複合発電システム1Bに共通で、かつ必要に応じて付加可能な構成(任意付加的事項)について説明する。
また、本実施形態に係る複合発電システム1A又は変形例に係る複合発電システム1Bは、以下に示すそれぞれの任意付加的事項を単独で備えてもよいし、所望のものを複数種類併せて備えてもよい。
【0039】
<3-1;燃焼部への排アンモニアガスの供給方法について>
図1及び図2に示すボイラー設備4の燃焼部5や、図2に示す任意の設備22の燃焼部23への排アンモニアガスの供給は、アンモニアタービン20から排出される排アンモニアガスの余圧により行ってもよい(任意選択構成要素)。
この場合、燃焼部5や燃焼部23にアンモニアタービン20から排出される排アンモニアガスを供給するために、ブロワー等の気体送給装置を別途設ける必要がない。
この結果、本実施形態に係る複合発電システム1A又は変形例に係る複合発電システム1Bの施設構成を簡素にできる。これにより、これらのメンテナンス等に要するコストも節減できる。
【0040】
<3-2-1;アンモニアに水を含有させることについて>
図1及び図2に示す貯蔵設備15から供給され、アンモニアタービン20を稼働させる熱媒体である液体アンモニアは、1質量%以下の水を含有していてもよい(任意選択構成要素)。
この場合、第1の発電施設2におけるアンモニア送給ラインL及びアンモニア気化設備16を構成する機器等が特に鋼材からなる場合に、鋼材が応力腐食割れを起こすのを抑制できる。
この結果、第2の発電施設3のメンテナンスや修理に要するコストを節減できる。これにより、第2の発電施設3において第2の電力を発電する際のコストを削減できる。
【0041】
<3-2-2;燃焼部における排アンモニアガスの温度について>
アンモニアタービン20を稼働させる熱媒体である液体アンモニアが特に1質量%以下の水を含有している場合は、図1及び図2に示すボイラー設備4の燃焼部5や、図2に示す任意の設備22の燃焼部23に供給されるアンモニアガス(排アンモニアガス)の温度を18.8℃以上に設定しておいてもよい(任意選択構成要素)。
この場合、大気圧下でアンモニアガス(排アンモニアガス)中の水が結露するのを防ぐことができる。これにより、第2の発電施設3においてアンモニア送給ラインL図1又は図2を参照)を構成する鋼材や、燃焼部5又は燃焼部23である例えばバーナー等を構成する鋼材が、結露した水により腐食するのを抑制できる。
この場合も、第2の発電施設3のメンテナンスや修理に要するコストを節減できる。これにより、第2の発電施設3において第2の電力を発電する際のコストを削減できる。
【0042】
<3-3;液体アンモニアの加圧設備について>
図1及び図2に示すように、第2の発電施設3は、アンモニア気化設備16に供給する液体アンモニアを6MPaG以上に加圧する加圧設備P(例えばポンプ)を備えていてもよい(任意選択構成要素)。
この場合、無加圧の液体アンモニアを気化及び過熱する場合に比べて、過熱アンモニアガスの生成に要する熱エネルギーを少なくすることができる。つまり、第2の発電施設3においてアンモニアを気化及び過熱するために、第1の発電施設2の蒸気タービン8から抽気する排蒸気の量を少なくすることができる。
この理由を以下に説明する。
【0043】
図3は各種気体の圧力を変化させた際の比エンタルピーの変化を示すグラフである。なお、図3中に示す各種気体の比エンタルピーの推算はアメリカ 国立標準技術研究所(NSIT)の「REFPROP Version 10」により行った。
図3に示すように、アンモニア(NH)、水(HO)、メタノール(Methanol)及びエタノール(Ethanol)では、比エンタルピーが圧力に依存する傾向が認められた。つまり、アンモニア等の極性分子では、比エンタルピーが圧力依存性を有する。
よって、本実施形態に係る複合発電システム1A又は変形例に係る複合発電システム1Bでは、液体アンモニアを気化させる際に臨界圧に近い圧力まで加圧することで、無加圧のアンモニアを気化させる場合に比べて、気化に必要な熱エネルギーを、すなわち第1の発電施設2から抽気する排蒸気の量を、少なくすることができる。
また、液体アンモニアはアンモニアガスに比べて加圧した際の体積変化が小さい。このため、アンモニアガスを加圧する場合に比べて、液体アンモニアを加圧する場合の方が、加圧に必要な動力エネルギーを少なくできる。
つまり、先の図1又は図2に示すアンモニア気化設備16において、気化器18の上流側に加圧設備Pを配置しておくことで、加圧設備Pを気化器18の下流側に設置する場合に比べて、アンモニアを加圧するために必要な動力エネルギーを少なくすることができる。
【0044】
続いて、アンモニア気化設備16に供給される液体アンモニアの圧力を6MPaG以上にする理由について説明する。
一般に、火力発電施設(例えば第1の発電施設2)等において蒸気タービン(例えば蒸気タービン8)を用いる発電では、ボイラー設備(例えばボイラー設備4)において生じるエネルギーは、(i)膨張という機械的仕事によって発電される電気エネルギーと、(ii)冷却水に廃棄される熱エネルギーに分けられる。
また、火力発電施設(例えば第1の発電施設2)等において蒸気タービン(例えば蒸気タービン8)の入口に供給される蒸気が有する総エネルギーは、上述の(i)電気エネルギーと(ii)熱エネルギーを併せたものであり、一般に「エンタルピー(H)」といわれている。
さらに、上記エンタルピー(H)は下記(式1)により定義される。

(式1)
・エンタルピー(H)= 内部エネルギー(U)+仕事(PV)
= 熱エネルギー + 仕事
【0045】
さらに、温度(T)、圧力(P)の蒸気が任意の温度Tと、任意の圧力Pで定義される参照環境状態に達するまでに得られる最大仕事が「物理エクセルギー(Eph)」(以下、単に「エクセルギー」ともいう)であり、下記(式2)により算出できる。

(式2)
・Eph = H-H-T(S-S
ただし、H:エンタルピー
S:エントロピー

また、火力発電施設(例えば第1の発電施設2)等において蒸気タービン(例えば蒸気タービン8)を用いる発電では、蒸気タービン(例えば蒸気タービン8)の入口に供給される蒸気のエネルギーから、この蒸気が任意の参照環境状態に達するまでに取り出すことができる最大の仕事(電気エネルギー)、がその火力発電施設(例えば第1の発電施設2)等から得られるエクセルギーである。
【0046】
ここで、本実施形態に係る複合発電システム1A又は変形例に係る複合発電システム1Bにおいて、第1の発電施設2の蒸気タービン8から排出される蒸気(排蒸気)を利用して、第2の発電施設3の熱媒体である液体アンモニアを気化させる際の、第1の発電施設2から抽気される蒸気(排蒸気)と、第2の発電施設3において生成される気化アンモニア(アンモニアガス)のエクセルギー変化について検討する。
図4A図4Bに示すエクセルギー変化の推算に用いる熱源としての蒸気(排蒸気)と気化後のアンモニアガスの熱力学的物性の前提条件を示す図である。
また、図4Bは液体アンモニアの気化に必要なエクセルギー又は動力と、気化アンモニアの圧力の関係を示すグラフである。なお、図4A中に示す蒸気(排蒸気)とアンモニアの熱力学的物性値の推算もアメリカ 国立標準技術研究所(NSIT)の「REFPROP Version 10」により行った。
また、図4Bのグラフにおいて「曲線1」は、第1の発電施設2の蒸気タービン8から第2の発電施設3のアンモニア気化設備16に供給される排蒸気のエクセルギー変化を、「曲線2」は気化アンモニア(アンモニアガス)のエクセルギー変化を、「直線1」は液体アンモニアを加圧する加圧設備P(例えばポンプ)の所要動力の変化を、「直線2」はアンモニアの臨界圧力を、それぞれ示している。そして、図4Bのグラフに示される「曲線3」は、下記(式3)により求められるエクセルギー収支を示している。つまり、「曲線3」は、任意の気化アンモニアの圧力値(X軸上の数値)における「曲線2」の値から、「直線1」の値及び「曲線1」の値を差し引いた差分である。また、このエクセルギー収支(曲線3)がプラスでかつその値が大きいほど、従来の火力発電施設(第1の発電施設2のみに相当)の発電量に比べて、第1の発電施設2と第2の発電施設3の総発電量が増加することを示している。

(式3)
・[エクセルギー収支(曲線3)]=[気化NH3エクセルギー(曲線2)]-[供給蒸気エクセルギー(曲線1)]-[ポンプの所要動力(直線1)]
【0047】
図4Bのグラフに示されるように、エクセルギー収支(曲線3)は、気化アンモニアの圧力(X軸)が6MPaGを超えるあたりから増加の幅が小さくなり16MPaGでピークになる。
また、液体アンモニアは気化したアンモニアガスに比べて加圧時の体積変化が小さい。このため、図1又は図2に示す第2の発電施設3において加圧設備Pを駆動させるための動力エネルギー(直線1)が別途必要になったとしても、この動力エネルギーの増加分が上述のエクセルギー収支(曲線3)に与える影響は小さい(図4Bを参照)。
よって、本実施形態に係る複合発電システム1A又は変形例に係る複合発電システム1Bでは、第2の発電施設3で用いる熱媒体として極性分子であるアンモニアを用い、かつアンモニア気化設備16に供給する液体アンモニアを6MPaG以上に加圧することで、従来の火力発電施設(第1の発電施設2のみに相当)の発電量に比べて、第1の発電施設2と第2の発電施設3の総発電量を大きくすることができる。
なお、気化したアンモニアでアンモニアタービン20を稼働して発電を行う場合(第2の発電施設3)の液体アンモニアの圧力の上限は、アンモニアの臨界圧である11.2MPaG未満とすることが望ましい。
【0048】
<3-4;第1の発電施設及び第2の発電施設について>
ここで、先の図1及び図2を参照しながら本実施形態に係る複合発電システム1A又は変形例に係る複合発電システム1Bにおける、第1の発電施設2及び第2の発電施設3のより具体的な態様の一例について説明する。
図1及び図2に示すように、第1の発電施設2における蒸気タービン8は、例えば高圧排蒸気を排出する高圧蒸気タービン8aと、出口温度が200~450℃である中圧排蒸気を排出する中圧蒸気タービン8bと、出口温度が30~200℃である低圧排蒸気を排出する低圧蒸気タービン8cを備えていてもよい。
さらに、図1及び図2に示すように、第2の発電施設3におけるアンモニア気化設備16は、貯蔵設備15から供給される液体アンモニアを予熱する予熱器17(熱交換器)と、この予熱器17において予熱された液体アンモニアを気化させる気化器18(熱交換器)と、この気化器18において気化されたアンモニアガスを過熱する過熱器19(熱交換器)を備えていてもよい。
【0049】
そして、図1又は図2に示す第1の発電施設2及び第2の発電施設3が上記のように構成される場合は、第1の発電施設2の中圧蒸気タービン8bから排出される中圧排蒸気の一部を過熱器19に供給するとともに、この過熱器19において減温された中圧排蒸気の一部を気化器18に供給する中圧排蒸気供給ラインL図1及び図2中の配管Lにおいて破線を併記した部分)を備えていてもよい(任意選択構成要素)。
そして、本実施形態に係る複合発電システム1A又は変形例に係る複合発電システム1Bが、上述のような中圧排蒸気供給ラインLを備える場合は、第1の発電施設2から供給される排蒸気(中圧排蒸気)を利用して効率良く液体アンモニアを気化させることができる。
より詳細には、過熱アンモニア(アンモニアガス)と低圧排蒸気の蒸発潜熱を比較すると、低圧排蒸気の蒸発潜熱の方がかなり大きい。
・120℃のアンモニアガスの蒸発潜熱:480(kJ/kg)
・144℃の水蒸気の蒸発潜熱:2130(kJ/kg)
このため、アンモニア気化設備16の過熱器19及び気化器18で使用する熱源として、第1の発電施設2の中圧蒸気タービン8bから排出される中圧排蒸気を用いることで、少量の中圧排蒸気を用いて効率良くアンモニアを気化及び過熱することができる。
この結果、過熱アンモニアガスによるアンモニアタービン20の出力を高めることができる。
【0050】
さらに、図1又は図2に示す第1の発電施設2及び第2の発電施設3が上記のように構成される場合は、第1の発電施設2の低圧蒸気タービン8cの関連機器から生じる温水(第2の温水)を、第2の発電施設3におけるアンモニア気化設備16の予熱器17に供給する温水供給ラインL図1及び図2中の配管Lにおいて一点鎖線を併記した部分)を備えていてもよい(任意選択構成要素)。
なお、温水供給ラインLにおける第2の温水としては、例えば図1又は図2に示される第1の発電施設2の低圧蒸気タービン8cの下流側に設けられる復水器11(熱交換器)及び/又は熱交換器12において生じる熱交換後の温水を使用することができる。より具体的には、第2の温水として、例えば第1の発電施設2の低圧蒸気タービン8c側の給水や、給水加熱器ドレン等を使用することができる。
また、上記第2の温水とは別に、あるいはこの第2の温水に加えて、第2の発電施設3におけるアンモニア気化設備16の気化器18又はその関連機器から生じる温水(第1の温水)を予熱器17に供給するラインを設けて、このラインを温水供給ラインLとして用いてもよい(図示せず)。
なお、上記第1の温水としては、例えば気化器ドレン等があげられる。
そして、本実施形態に係る複合発電システム1A又は変形例に係る複合発電システム1Bが先の中圧排蒸気供給ラインLに加えて温水供給ラインLを備える場合は、第1の発電施設2において環境中に廃棄される排熱を液体アンモニアの気化(より詳細には予熱)に有効活用することができる。
【0051】
なお、本実施形態に係る複合発電システム1A又は変形例に係る複合発電システム1Bでは、発明の技術内容が理解されやすいよう、第1の発電施設2が高圧蒸気タービン8a、中圧蒸気タービン8b及び低圧蒸気タービン8cをそれぞれ1基ずつ備える場合を例にあげて説明しているが、高圧蒸気タービン8a、中圧蒸気タービン8b及び低圧蒸気タービン8cをそれぞれ複数基ずつ備えていてもよい(任意選択構成要素)。
また、本実施形態に係る複合発電システム1A又は変形例に係る複合発電システム1Bでは、必要に応じて第1の発電施設2のアンモニアタービン20を複数基備えていてもよい(任意選択構成要素)。
いずれの場合も、本実施形態に係る複合発電システム1A又は変形例に係る複合発電システム1Bによる効果と同様の作用・効果を奏する。
【0052】
なお、上述の本実施形態又はその変形例では、アンモニアタービン20を駆動するタービン駆動流体がアンモニアガス(過熱アンモニアガス)である場合を例に挙げて説明しているが、このタービン駆動流体はアンモニアの超臨界流体でもよい(任意選択構成要素)。
この場合は、先の図1及び図2に示すアンモニア気化設備16に代えて、液体アンモニアを加熱(排蒸気の余熱)及び加圧(ポンプ等の動力)してアンモニアの超臨界流体を生成するエネルギー付加設備(図示せず)を備える。
さらに、このエネルギー付加設備において生成されるアンモニアの超臨界流体は、アンモニアタービン20において気化する。
この場合も、上述の本実施形態に係る複合発電システム1A又は変形例に係る複合発電システム1Bによる効果と同様の作用・効果を奏する。
なお、タービン駆動流体としてアンモニアの超臨界流体を用いる場合のアンモニアの圧力は、エクセルギー収支を考慮してアンモニアの臨界圧である11.2~16MPaGにすることが望ましい(図4Bを参照)。
【0053】
[4;本発明の効果を確認するためのシミュレーションについて]
本実施形態に係る複合発電システム1A又は変形例に係る複合発電システム1Bによる効果を確認する目的で行ったシミュレーションについて図5乃至図14を参照しながら説明する。
<4-1;シミュレーションの設定条件等について>
先の図1に示す第1の発電施設2に対応する簡易タイプの火力発電施設をモデル(下記図5を参照、以下単に「簡易モデル」ともいう)にするとともに、そのボイラー設備4の燃焼部5に供給する液体アンモニアの気化方法を以下に示す5種類(比較例1、2及び実施例1~3)に設定して、エクセルギー収支をシミュレーションした。
また、本シミュレーションはAspenTech社製の「AspenPlus V14」により行った。
なお、このシミュレーションにおけるエクセルギー収支の算出方法は、先の(式3)と同じである。ただし、以下に示すそれぞれのケースにおいて液体アンモニアを加圧しない場合は、先の(式3)における「ポンプの所要動力(直線1)」の値はゼロになる。
さらに、シミュレーションした5種類のケース(比較例1、2及び実施例1~3)の設定内容及び共通条件を下表1に示した。
また、図5は下記5種類のケース(比較例1、2及び実施例1~3)に共通する火力発電施設の簡易モデル(先の図1における第1の発電施設2に対応)の概要を示す図である。さらに、図6は比較例1のシミュレーションモデルの概要を示す図である。また、図7は比較例2のシミュレーションモデルの概要を示す図である。加えて、図8は実施例1のシミュレーションモデルの概要を示す図である。そして、図9は実施例2のシミュレーションモデルの概要を示す図である。また、図10は実施例3のシミュレーションモデルの概要を示す図である。
なお、図8乃至図10に示す各シミュレーションモデルにおいて、アンモニアガスタービン(先の図1及び図2におけるアンモニアタービン20に相当)から排出される排アンモニアガスの送給先が単に「ボイラーへ」と表示されているが、これはシミュレーションのためボイラーの加熱セクションが「節炭器」、「加熱器」、「再熱器」に分けられているためである。
また、このシミュレーションは、完全にガス化したアンモニアでタービンを駆動させることを前提としているため、先の図1及び図2に示すアンモニアタービン20に相当する構成を特に「アンモニアガスタービン」としている。
【0054】
【表1】
【0055】
<4-2;シミュレーション結果について>
・4-2-1;1tのアンモニアガスを得るのに必要な蒸気量について
図11は比較例1、2及び実施例1~3の各シミュレーションモデルにおいて1tのアンモニアガスを生成するのに必要な蒸気量を示すグラフである。
図11に示すように、復水器の蒸気を利用して液体アンモニアを気化させる比較例2以外は全て、蒸気タービンの稼働に用いられる蒸気(熱エネルギー)を液体アンモニアの気化に使用している。
つまり、液体アンモニアを気化させる目的で蒸気タービンを稼働させる蒸気の一部を転用する場合(比較例1、実施例1~3)は、蒸気タービンの出力低下が不可避であることを意味する。
他方、復水器の蒸気を利用して液体アンモニアを気化させる比較例2では、蒸気タービンの出力低下は問題にならないが、気化できる液体アンモニアの量に制限がある。
【0056】
・4-2-2;各流体の比エクセルギーについて
図12は各流体の比エクセルギーを示すグラフである。また、図13は比較例1、2及び実施例1~3の各シミュレーションモデルにおける総発電量の推算結果を示すグラフである。
なお、図13に示すシミュレーションモデル毎の総発電量の推算には、図12に示す各流体の比エクセルギーの推算値を用いた。また、図12に示す各流体の比エクセルギーの算出に用いた参照環境設定を以下の表2に示した。なお、各流体の比エクセルギーの推算は、アメリカ 国立標準技術研究所(NSIT)の「REFPROP Version 10」により行った。
【表2】
【0057】
図12に示すように、過熱アンモニアガス(昇圧過熱気化NH)は、中圧(蒸気)タービン稼働用蒸気(300kPaG蒸気)とほぼ同等の比エクセルギーを有する。
このため、図13に示すように、中圧(蒸気)タービン稼働用蒸気(300kPaG蒸気)の余熱を用いて生成した過熱アンモニアガス(昇圧過熱気化NH)によりアンモニアガスタービン(NHタービン)を稼働することで、火力発電施設の簡易モデルにおける中圧(蒸気)タービンの出力損失を補うことができる。
【0058】
・4-2-3;アンモニアガス1t当たりのエクセルギー収支について
図14は比較例1、2及び実施例1~3の各シミュレーションモデルにおけるアンモニアガス1t当たりのエクセルギー収支の推算結果を示すグラフである。
図14に示すように、気化したアンモニアガスをさらに過熱アンモニアガスにしてアンモニアガスタービンを稼働させる実施例1~3では、エクセルギー収支がプラスになった。
【0059】
・4-2-4;まとめ
したがって、本実施形態に係る複合発電システム1A又は変形例に係る複合発電システム1Bによれば、第1の発電施設2の蒸気タービン8(特に中圧蒸気タービン8b)を稼働させる蒸気の一部を利用して、液体アンモニアからタービン駆動流体である過熱アンモニアガスを生成し、この過熱アンモニアガスによりアンモニアタービン20を稼働させ、さらにその排アンモニアガスを燃焼用の燃料として用いることで、アンモニアの気化(及び過熱)に伴う第1の発電施設2の出力低下を、第2の発電施設3の発電により補うことができる。
したがって、本実施形態に係る複合発電システム1A又は変形例に係る複合発電システム1B、並びに第2の発電施設3におけるタービン駆動流体がアンモニアの超臨界流体である本発明に係る複合発電システムによれば、多量の燃料用のアンモニアガスをその気化時のエネルギー損失を抑制しながら生成することができる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
以上説明したように本発明は、液体アンモニアを加熱して多量の燃焼用のアンモニアガスを生成することができ、かつそのために発電施設における発電用の熱エネルギーを転用してもその発電施設の発電出力の低下を抑制できる複合発電システム及びその方法であり、発電施設や化学プラント等の複合施設に関する技術分野において利用可能である。
【符号の説明】
【0061】
1A、1B…複合発電システム 2…第1の発電施設 3…第2の発電施設 4…ボイラー設備 5…燃焼部 6…燃料供給装置 7、7a、7b…蒸気生成器 8…蒸気タービン 8a…高圧蒸気タービン 8b…中圧蒸気タービン 8c…低圧蒸気タービン 9…第1の発電機 10…補水設備 11…復水器(熱交換器) 12…熱交換器 13…熱交換器 14…脱気器 15…貯蔵設備 16…アンモニア気化設備(エネルギー付加設備) 17…予熱器 18…気化器 19…過熱器 20…アンモニアタービン 21…第2の発電機 22…任意の設備 23…燃焼部 L…蒸気送給配管 L…中圧排蒸気供給ライン L…温水供給ライン L…アンモニア送給ライン P~P…ポンプ P…加圧設備
図1
図2
図3
図4A
図4B
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図14