(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024176869
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】集積回路及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 29/16 20060101AFI20241212BHJP
H01L 21/338 20060101ALI20241212BHJP
H01P 5/02 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
H01L29/16
H01L29/80 H
H01L29/80 E
H01P5/02 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023095712
(22)【出願日】2023-06-09
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業、「ホウ素化合物シートを用いた複合材料の作製法の開発」委託研究、令和4年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、未来社会創造事業、「縦型FET構造の開発」委託研究、令和4年度、国立研究開発法人情報通信研究機構「革新的情報通信技術研究開発委託研究/単原子長ゲートによる低環境負荷物質から成る高出力THz帯増幅器の創出」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(71)【出願人】
【識別番号】301022471
【氏名又は名称】国立研究開発法人情報通信研究機構
(71)【出願人】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100166545
【弁理士】
【氏名又は名称】折坂 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】吹留 博一
(72)【発明者】
【氏名】末光 哲也
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 一世
(72)【発明者】
【氏名】川原 実
(72)【発明者】
【氏名】秋山 昌次
(72)【発明者】
【氏名】飛坂 優二
(72)【発明者】
【氏名】川合 信
【テーマコード(参考)】
5F102
【Fターム(参考)】
5F102GJ02
5F102GJ03
5F102GJ09
5F102GJ10
5F102GK10
5F102GL04
(57)【要約】 (修正有)
【課題】1THz以上の信号周波数帯域での使用に適した集積回路を提供する。
【解決手段】短ゲート長トランジスタ形成領域、アンテナエレメント形成領域及び窒化ガリウムデバイス形成領域を有する集積回路は、最上面21が炭化珪素の単結晶であり、最上面と交わり最上面より下方に延びる垂直面22と、最上面と略平行であり垂直面と交わる下段面23とを有する基板2及び基板の最上面に接して設けられた単結晶のグラフェン層3を備える短ゲート長トランジスタ100と、アンテナエレメントとが一体的に形成される。短ゲート長トランジスタは、グラフェン層が垂直面と交わる端部をゲート電極とし、少なくとも、垂直面、グラフェン層の端部を覆う絶縁膜6と、最上面、垂直面及び下段面を覆うように形成され、グラフェン層及び/又は絶縁膜が存在する箇所についてはグラフェン層及び/又は絶縁膜をも覆うように重ねて形成される二次元半導体層7を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも最上面が炭化珪素の単結晶であり、前記最上面と交わり前記最上面より下方に延びる垂直面と、前記最上面と略平行であり前記垂直面と交わる下段面とを有する基板と、
前記基板の最上面に接して設けられた単結晶のグラフェン層と、
を備え、
短ゲート長トランジスタとアンテナエレメントとが一体的に形成された集積回路であって、
前記短ゲート長トランジスタは、
前記グラフェン層が前記垂直面と交わる端部をゲート電極とし、
少なくとも、前記垂直面、前記グラフェン層の前記端部を覆うように形成される絶縁膜と、
前記最上面、前記垂直面、および前記下段面を覆うように形成される二次元半導体層であって、前記グラフェン層および/または前記絶縁膜が存在する箇所については前記グラフェン層および/または前記絶縁膜をも覆うように重ねて形成される、二次元半導体層と、
前記二次元半導体層における前記最上面を覆う箇所に設けられるソース電極と、
前記二次元半導体層における前記下段面を覆う箇所に設けられるドレイン電極とを備え、
前記アンテナエレメントは、前記グラフェン層をパターニングにして形成される、
集積回路。
【請求項2】
前記グラフェン層において、前記短ゲート長トランジスタにおけるゲート電極を成す部分と前記アンテナエレメントを成す部分とは連続したグラフェンの膜として形成されることを特徴とする請求項1に記載の集積回路。
【請求項3】
前記基板上における、前記短ゲート長トランジスタおよび前記アンテナエレメントが設けられていない領域に、窒化ガリウム層をさらに備え、
前記窒化ガリウム層にアクティブ素子が形成されたことを特徴とする請求項1に記載の集積回路。
【請求項4】
少なくとも最上面が炭化珪素の単結晶であり、前記最上面と交わり前記最上面より下方に延びる垂直面と、前記最上面と略平行であり前記垂直面と交わる下段面とを有する基板と、
前記基板の最上面に接して設けられた単結晶のグラフェン層と、
前記基板上に設けられた窒化ガリウム層と、
を備え、
前記窒化ガリウム層に形成されたアクティブ素子部と、前記グラフェン層をゲートとして用いる短ゲート長トランジスタとが一体的に形成された集積回路であって、
前記短ゲート長トランジスタは、
前記グラフェン層が前記垂直面と交わる端部をゲート電極とし、
少なくとも、前記垂直面、前記グラフェン層の前記端部を覆うように形成される絶縁膜と、
前記最上面、前記垂直面、および前記下段面を覆うように形成される二次元半導体層であって、前記グラフェン層および/または前記絶縁膜が存在する箇所については前記グラフェン層および/または前記絶縁膜をも覆うように重ねて形成される、二次元半導体層と、
前記二次元半導体層における前記最上面を覆う箇所に設けられるソース電極と、
前記二次元半導体層における前記下段面を覆う箇所に設けられるドレイン電極とを備える、集積回路。
【請求項5】
前記短ゲート長トランジスタは、
ゲートを成す前記グラフェン層の上に、導体の遮蔽層をさらに備え、
前記遮蔽層の表裏両面に絶縁層が設けられる
ことを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載の集積回路。
【請求項6】
前記グラフェン層は、少なくとも、前記端部が単原子層のグラフェンであることを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載の集積回路。
【請求項7】
前記基板は、前記最上面と前記垂直面とが接する縁から離れた位置に前記最上面と非平行である斜面を備え、
前記グラフェン層は前記最上面から前記斜面に渡って形成され、
前記斜面の上における前記グラフェン層は多層のグラフェンである
ことを特徴とする請求項6に記載の集積回路。
【請求項8】
前記基板は、絶縁体のベース基板上に炭化珪素の単結晶層を作製したハイブリッド基板であることを特徴とする、請求項1から4の何れか1項に記載の集積回路。
【請求項9】
前記窒化ガリウム層は、前記グラフェン層の一部を覆うように設けられることを特徴とする請求項3または4に記載の集積回路。
【請求項10】
前記窒化ガリウム層は、前記グラフェン層をバッファ層としてエピタキシャル成長された層であることを特徴とする請求項9に記載の集積回路。
【請求項11】
前記窒化ガリウム層に形成されるアクティブ素子はHEMT(High Electron Mobility Transistor)を用いた増幅器を含むことを特徴とする請求項3または4に記載の集積回路。
【請求項12】
短ゲート長トランジスタとアンテナエレメントとが一体的に形成された集積回路の製造方法であって、
少なくとも最上面が炭化珪素の単結晶である基板を用意するステップと、
前記基板の最上面にグラフェン層を形成するステップと、
前記短ゲート長トランジスタが形成される前記基板の第1領域において、
微細加工により、一部に前記グラフェン層を残しつつ、他の部分について前記グラフェン層および前記基板の上部を除去して、前記基板に、前記最上面と交わり前記最上面より下方に延びる垂直面と、前記最上面と略平行であり前記垂直面と交わる下段面垂直面および下段面とを形成するステップと、
少なくとも、前記垂直面および前記グラフェン層の端部を覆うように絶縁膜を堆積するステップと、
前記最上面、前記垂直面、および前記下段面を覆うように、且つ、前記グラフェン層および/または前記絶縁膜が存在する箇所については前記グラフェン層および/または前記絶縁膜をも覆うように重ねて二次元半導体層を堆積するステップと、
前記二次元半導体層における前記グラフェン層を覆う箇所に重ねてソース電極を形成し、前記二次元半導体層における前記下段面を覆う箇所に重ねてドレイン電極を形成するステップと、
前記アンテナエレメントが形成される前記基板の第2領域において、前記グラフェン層をパターニングしてアンテナエレメントを形成するステップと、
を含む、集積回路の製造方法。
【請求項13】
前記グラフェン層をバッファ層として窒化ガリウム層をエピタキシャル成長するステップと、
前記第1領域および前記第2領域において、前記窒化ガリウム層を除去して前記グラフェン層を露出させるステップと、
残存する前記窒化ガリウム層に増幅器を含むアクティブ素子部を形成するステップと、
をさらに備えることを特徴とする請求項12に記載の集積回路の製造方法。
【請求項14】
前記グラフェン層の一部を除去するステップと、
前記グラフェン層が除去された領域に、窒化ガリウム層をエピタキシャル成長するステップと、
前記窒化ガリウム層に増幅器を含むアクティブ素子部を形成するステップと、
をさらに備え、
前記第1領域および前記第2領域は、前記グラフェン層が残存する領域に設けられることを特徴とする請求項12に記載の集積回路の製造方法。
【請求項15】
短ゲート長トランジスタと窒化ガリウム層に形成されるアクティブ素子とが一体的に形成された集積回路の製造方法であって、
少なくとも最上面が炭化珪素の単結晶である基板を用意するステップと、
前記基板の最上面にグラフェン層を形成するステップと、
前記グラフェン層をバッファ層として窒化ガリウム層をエピタキシャル成長するステップと、
前記短ゲート長トランジスタが形成される前記基板の第1領域において、
前記窒化ガリウム層を除去して前記グラフェン層を露出させるステップと、
微細加工により、一部に前記グラフェン層を残しつつ、他の部分について前記グラフェン層および前記基板の上部を除去して、前記基板に、前記最上面と交わり前記最上面より下方に延びる垂直面と、前記最上面と略平行であり前記垂直面と交わる下段面垂直面および下段面とを形成するステップと、
少なくとも、前記垂直面および前記グラフェン層の端部を覆うように絶縁膜を堆積するステップと、
前記最上面、前記垂直面、および前記下段面を覆うように、且つ、前記グラフェン層および/または前記絶縁膜が存在する箇所については前記グラフェン層および/または前記絶縁膜をも覆うように重ねて二次元半導体層を堆積するステップと、
前記二次元半導体層における前記グラフェン層を覆う箇所に重ねてソース電極を形成し、前記二次元半導体層における前記下段面を覆う箇所に重ねてドレイン電極を形成するステップと、
残存する前記窒化ガリウム層に増幅器を含むアクティブ素子部を形成するステップと、
と、
を含む、集積回路の製造方法。
【請求項16】
短ゲート長トランジスタと窒化ガリウム層に形成されるアクティブ素子とが一体的に形成された集積回路の製造方法であって、
少なくとも最上面が炭化珪素の単結晶である基板を用意するステップと、
前記基板の最上面にグラフェン層を形成するステップと、
前記グラフェン層の一部を除去するステップと、
前記グラフェン層が除去された領域に、窒化ガリウム層をエピタキシャル成長するステップと、
前記窒化ガリウム層に増幅器を含むアクティブ素子部を形成するステップと、
前記グラフェン層が残存する領域において、
微細加工により、一部に前記グラフェン層を残しつつ、他の部分について前記グラフェン層および前記基板の上部を除去して、前記基板に、前記最上面と交わり前記最上面より下方に延びる垂直面と、前記最上面と略平行であり前記垂直面と交わる下段面垂直面および下段面とを形成するステップと、
少なくとも、前記垂直面および前記グラフェン層の端部を覆うように絶縁膜を堆積するステップと、
前記最上面、前記垂直面、および前記下段面を覆うように、且つ、前記グラフェン層および/または前記絶縁膜が存在する箇所については前記グラフェン層および/または前記絶縁膜をも覆うように重ねて二次元半導体層を堆積するステップと、
前記二次元半導体層における前記グラフェン層を覆う箇所に重ねてソース電極を形成し、前記二次元半導体層における前記下段面を覆う箇所に重ねてドレイン電極を形成するステップと、
を含む、集積回路の製造方法。
【請求項17】
増幅器を含むアクティブ素子部が形成された窒化ガリウムデバイスを、前記基板上の前記グラフェン層に貼り合わせて窒化ガリウム層を設けるステップと、
を含む、請求項12に記載の集積回路の製造方法。
【請求項18】
前記アンテナエレメントを形成するステップにおいて、前記アンテナエレメントとともに、電極パッドおよび前記アンテナエレメントと前記電極パッドとを接続する接続部を形成し、
前記窒化ガリウム層を設けるステップにおいて、前記窒化ガリウムデバイスに設けられた電極と、前記電極パッドとが電気的に接続されるように、前記窒化ガリウムデバイスを前記基板上の前記グラフェン層に貼り合わせることを特徴とする請求項17に記載の集積回路の製造方法。
【請求項19】
前記グラフェン層を形成するステップにおいて、前記基板の最上面の炭化珪素の単結晶における珪素原子を昇華させることによりグラフェン層をエピタキシャル成長させることを特徴とする請求項12から18の何れか1項に記載の集積回路の製造方法。
【請求項20】
前記基板は、絶縁体のベース基板上に炭化珪素の単結晶層を作製したハイブリッド基板であることを特徴とする、請求項12から18の何れか1項に記載の集積回路の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化珪素基板上に形成されたグラフェンを配線や電極として用いた集積回路及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
次世代の移動通信システム(いわゆる6G、Beyond5G)を実現するにあたり、100GHz以上といった高周波での送受信に適した、高性能のアンテナが求められている。このようなアンテナの候補として、従来アンテナエレメントにおける導体として用いられた銅、ITO(Indium Tin Oxide)等と比較して優れた特性(高導電率、高キャリア移動度、高熱伝導率)を有するグラフェンをアンテナエレメントに用いたアンテナが提案されている(例えば特許文献1を参照)。
【0003】
特許文献1に記載されているマイクロ波帯アンテナは、銅箔上にCVD法により形成したグラフェン膜を基板に転写し、転写したグラフェン膜上に適宜Au膜を設けつつ、フォトリソグラフィ技術、エッチング技術、UV-オゾン処理等によりパターニングすることでアンテナエレメントを形成する。これにより、基板上に所望の形状のアンテナエレメントを作製することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、移動通信システムに用いるアンテナは、アンテナエレメントで送受信する信号を増幅する増幅器とともに用いられる。数10GHzから100GHz以上の信号周波数帯域では、増幅器とアンテナエレメントとの間の伝送距離は、(例えば100μm未満となるように)極短くする必要がある。また、周波数帯域が1THzを超えるさらに次の世代の移動通信システムを見据えると、窒化ガリウム(GaN)のアクティブデバイスとは異なる、1THz以上の信号周波数帯域での使用に適したアクティブデバイスが求められる。そして、数10GHzから100GHz以上の信号周波数帯域から1THz以上の信号周波数帯域に遷移する際には、(例えば複数種類のアクティブデバイスを併用して)両方の帯域をカバーするデバイスが求められる。
【0006】
本発明は上記に鑑みなされたものであり、1THz以上の信号周波数帯域での使用に適した集積回路及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の実施形態に係る集積回路は、少なくとも最上面が炭化珪素(SiC)の単結晶であり、最上面と交わり最上面より下方に延びる垂直面と、最上面と略平行であり垂直面と交わる下段面とを有する基板と、基板の最上面に接して設けられた単結晶のグラフェン層と、を備え、短ゲート長トランジスタとアンテナエレメントとが一体的に形成されたものである。短ゲート長トランジスタは、グラフェン層が垂直面と交わる端部をゲート電極とし、少なくとも、垂直面、グラフェン層の端部を覆うように形成される絶縁膜と、最上面、垂直面、および下段面を覆うように形成される二次元半導体層であって、グラフェン層および/または絶縁膜が存在する箇所についてはグラフェン層および/または絶縁膜をも覆うように重ねて形成される、二次元半導体層と、二次元半導体層における最上面を覆う箇所に設けられるソース電極と、二次元半導体層における下段面を覆う箇所に設けられるドレイン電極とを備える。アンテナエレメントは、グラフェン層をパターニングにして形成される。
【0008】
本発明では、グラフェン層において、短ゲート長トランジスタにおけるゲート電極を成す部分とアンテナエレメントを成す部分とは連続したグラフェンの膜として形成されるとよい。
【0009】
本発明では、集積回路は、基板上における、短ゲート長トランジスタおよびアンテナエレメントが設けられていない領域に、窒化ガリウム層をさらに備えるとよく、当該窒化ガリウム層にアクティブ素子が形成されるとよい。
【0010】
本発明の実施形態に係る集積回路の他の例は、少なくとも最上面が炭化珪素の単結晶であり、最上面と交わり最上面より下方に延びる垂直面と、最上面と略平行であり垂直面と交わる下段面とを有する基板と、基板の最上面に接して設けられた単結晶のグラフェン層と、基板上に設けられた窒化ガリウム層と、を備え、窒化ガリウム層に形成されたアクティブ素子部と、グラフェン層をゲートとして用いる短ゲート長トランジスタとが一体的に形成された集積回路である。当該集積回路において、短ゲート長トランジスタは、グラフェン層が垂直面と交わる端部をゲート電極とし、少なくとも、垂直面、グラフェン層の端部を覆うように形成される絶縁膜と、最上面、垂直面、および下段面を覆うように形成される二次元半導体層であって、グラフェン層および/または絶縁膜が存在する箇所についてはグラフェン層および/または絶縁膜をも覆うように重ねて形成される、二次元半導体層と、二次元半導体層における最上面を覆う箇所に設けられるソース電極と、二次元半導体層における下段面を覆う箇所に設けられるドレイン電極とを備える。
【0011】
本発明では、短ゲート長トランジスタは、ゲートを成すグラフェン層の上に、導体の遮蔽層をさらに備え、遮蔽層の表裏両面に絶縁層が設けられるとよい。また、グラフェン層は、少なくとも、端部が単原子層のグラフェンであるとよい。
【0012】
本発明では、基板は、最上面と垂直面とが接する縁から離れた位置に最上面と非平行である斜面を備えるとよく、グラフェン層は最上面から斜面に渡って形成されるとよい。そして、斜面の上におけるグラフェン層は多層のグラフェンであるとよい。
【0013】
本発明では、基板は、絶縁体のベース基板上に炭化珪素の単結晶層を作製したハイブリッド基板とするとよい。
【0014】
本発明の窒化ガリウム層を備える構成において、窒化ガリウム層は、グラフェン層の一部を覆うように設けられるとよい。このとき、窒化ガリウム層は、グラフェン層をバッファ層としてエピタキシャル成長された層であるとよい。また、窒化ガリウム層に形成されるアクティブ素子はHEMT(High Electron Mobility Transistor)を用いた増幅器を含むとよい。
【0015】
本発明の実施形態に係る集積回路の製造方法は、短ゲート長トランジスタとアンテナエレメントとが一体的に形成された集積回路の製造方法である。当該製造方法は、少なくとも最上面が炭化珪素の単結晶である基板を用意するステップと、基板の最上面にグラフェン層を形成するステップと、短ゲート長トランジスタが形成される基板の第1領域において、微細加工により、一部にグラフェン層を残しつつ、他の部分についてグラフェン層および基板の上部を除去して、基板に、最上面と交わり最上面より下方に延びる垂直面と、最上面と略平行であり垂直面と交わる下段面垂直面および下段面とを形成するステップと、少なくとも、垂直面およびグラフェン層の端部を覆うように絶縁膜を堆積するステップと、最上面、垂直面、および下段面を覆うように、且つ、グラフェン層および/または絶縁膜が存在する箇所についてはグラフェン層および/または絶縁膜をも覆うように重ねて二次元半導体層を堆積するステップと、二次元半導体層におけるグラフェン層を覆う箇所に重ねてソース電極を形成し、二次元半導体層における下段面を覆う箇所に重ねてドレイン電極を形成するステップと、アンテナエレメントが形成される基板の第2領域において、グラフェン層をパターニングしてアンテナエレメントを形成するステップと、を含む。
【0016】
本発明では、グラフェン層をバッファ層として窒化ガリウム層をエピタキシャル成長するステップと、第1領域および第2領域において、窒化ガリウム層を除去してグラフェン層を露出させるステップと、残存する窒化ガリウム層に増幅器を含むアクティブ素子部を形成するステップと、をさらに備えるとよい。
【0017】
あるいは、本発明では、グラフェン層の一部を除去するステップと、グラフェン層が除去された領域に、窒化ガリウム層をエピタキシャル成長するステップと、窒化ガリウム層に増幅器を含むアクティブ素子部を形成するステップと、をさらに備えてもよく、この場合、第1領域および第2領域は、グラフェン層が残存する領域に設けられるとよい。
【0018】
本発明の実施形態に係る集積回路の製造方法の他の例は、少なくとも最上面が炭化珪素の単結晶である基板を用意するステップと、基板の最上面にグラフェン層を形成するステップと、グラフェン層をバッファ層として窒化ガリウム層をエピタキシャル成長するステップと、短ゲート長トランジスタが形成される基板の第1領域において、窒化ガリウム層を除去してグラフェン層を露出させるステップと、微細加工により、一部にグラフェン層を残しつつ、他の部分についてグラフェン層および基板の上部を除去して、基板に、最上面と交わり最上面より下方に延びる垂直面と、最上面と略平行であり垂直面と交わる下段面垂直面および下段面とを形成するステップと、少なくとも、垂直面およびグラフェン層の端部を覆うように絶縁膜を堆積するステップと、最上面、垂直面、および下段面を覆うように、且つ、グラフェン層および/または絶縁膜が存在する箇所についてはグラフェン層および/または絶縁膜をも覆うように重ねて二次元半導体層を堆積するステップと、二次元半導体層におけるグラフェン層を覆う箇所に重ねてソース電極を形成し、二次元半導体層における下段面を覆う箇所に重ねてドレイン電極を形成するステップと、残存する窒化ガリウム層に増幅器を含むアクティブ素子部を形成するステップと、を含む。
【0019】
本発明の実施形態に係る集積回路の製造方法のさらに他の例は、少なくとも最上面が炭化珪素の単結晶である基板を用意するステップと、基板の最上面にグラフェン層を形成するステップと、グラフェン層の一部を除去するステップと、グラフェン層が除去された領域に、窒化ガリウム層をエピタキシャル成長するステップと、窒化ガリウム層に増幅器を含むアクティブ素子部を形成するステップと、グラフェン層が残存する領域において、微細加工により、一部にグラフェン層を残しつつ、他の部分についてグラフェン層および基板の上部を除去して、基板に、最上面と交わり最上面より下方に延びる垂直面と、最上面と略平行であり垂直面と交わる下段面垂直面および下段面とを形成するステップと、少なくとも、垂直面およびグラフェン層の端部を覆うように絶縁膜を堆積するステップと、最上面、垂直面、および下段面を覆うように、且つ、グラフェン層および/または絶縁膜が存在する箇所についてはグラフェン層および/または絶縁膜をも覆うように重ねて二次元半導体層を堆積するステップと、二次元半導体層におけるグラフェン層を覆う箇所に重ねてソース電極を形成し、二次元半導体層における下段面を覆う箇所に重ねてドレイン電極を形成するステップと、を含む。
【0020】
上記何れかの例による製造方法において、増幅器を含むアクティブ素子部が形成された窒化ガリウムデバイスを、基板上のグラフェン層に貼り合わせて窒化ガリウム層を設けるステップを含むとよい。
【0021】
本発明では、アンテナエレメントを形成するステップにおいて、アンテナエレメントとともに、電極パッドおよびアンテナエレメントと電極パッドとを接続する接続部を形成するとよく、窒化ガリウム層を設けるステップにおいて、窒化ガリウムデバイスに設けられた電極と、電極パッドとが電気的に接続されるように、窒化ガリウムデバイスを基板上のグラフェン層に貼り合わせるとよい。
【0022】
本発明では、グラフェン層を形成するステップにおいて、基板の最上面の炭化珪素の単結晶における珪素原子を昇華させることによりグラフェン層をエピタキシャル成長させるとよい。
【0023】
本発明では、基板は、絶縁体のベース基板上に炭化珪素の単結晶層を作製したハイブリッド基板とするとよい。
【発明の効果】
【0024】
本発明の集積回路およびその製造方法によれば、1THz以上の信号周波数帯域での使用に適した集積回路を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図2】第1領域R1に形成される短ゲート長トランジスタの基本構造を示す断面図である。
【
図3】短ゲート長トランジスタの変形例の構造を示す断面図である。
【
図4】第3領域R3にGaN層を形成した構造を示す模式図である。
【
図5】集積回路1を作製する手順の第1の例を示す図である。
【
図6】短ゲート長トランジスタを作成する手順を示す図である。
【
図7】集積回路1を作製する手順の第2の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態について説明する。背景技術の説明に用いた図も含め、各図面における共通の構成要素については同じ符号を付す。
【0027】
図1は、本発明の実施形態に係る集積回路1の構造を示す模式図である。
図1に示すように、集積回路1は、基板2に第1領域R1、第2領域R2、第3領域R3が設けられた構造となっている。第1領域R1は、短ゲート長トランジスタ100が形成される領域である。第2領域R2は、アンテナエレメント200が形成される領域である。第3領域R3は、窒化ガリウムデバイス310が形成される領域である。したがって、集積回路1は、短ゲート長トランジスタ100、アンテナエレメント200、およびGaNデバイス310が、1つの基板上に形成されたものである。基板2上の短ゲート長トランジスタ100、アンテナエレメント200、およびGaNデバイス310は、求められる機能を実現すべく必要に応じて相互に接続される。
【0028】
基板2は、少なくとも最上面21が単結晶の炭化珪素となっている。最上面21は、基板2における最上部の平坦面である。基板2の最上面以外の部分は炭化珪素とは異なる絶縁体であってもよい。つまり、基板2は、炭化珪素の単結晶基板であってもよいし、絶縁体に炭化珪素の単結晶層を作製したハイブリッド基板であってもよい。基板2における炭化珪素の単結晶層の表面は(0001)面とするとよい。基板2は、グラフェン層3を成すグラフェンをエピタキシャル成長させるための下地となる。グラフェン層3は、基板2の最上面21に接して形成された単原子層または数原子層のグラフェンの薄膜である。グラフェン層3を成すグラフェンは、基板2として好適な炭化珪素の(0001)面に単層の薄膜を形成することが可能である。
【0029】
以下、基板2上の第1領域R1、第2領域R2、および第3領域R3について、それぞれその構成例および変形例を説明する。
【0030】
図2は、第1領域R1に形成される短ゲート長トランジスタ100の基本構造を示す断面図である。
図2に示すように短ゲート長トランジスタ100は、基板2上に、グラフェン層3、遮蔽層4、絶縁層5、絶縁膜6、二次元半導体層7、電極8、および電極9を備えた構成となっている。当該短ゲート長トランジスタ100の基本構造において、基板2には、最上面21から掘り下げる形で、垂直面22および下段面23が形成される。垂直面22は、最上面21と交わり、最上面21より下方に延びる平面である。
図2の例では、垂直面22と最上面21とは直交する。下段面23は、最上面21と略平行な平面として形成され、垂直面22とは交わる。
図2の例では、下段面23と垂直面22とは直交し、最上面21と下段面23とは平行となっている。垂直面22は、最上面21および下段面23と交わる平面として形成される。
【0031】
第1領域R1に形成される短ゲート長トランジスタ100においてグラフェン層3の厚みは、数nm程度以下とされる。また、グラフェン層3の一端から他端までの幅(
図2における水平方向)は、100nm~1μm程度とするとよい。グラフェン層3は、基板2における最上面21と垂直面22が交わる稜線付近まで、最上面21を覆うように設けられる。グラフェン層3における、最上面21と垂直面22が交わる稜線近傍に重なる端部(エッジ)31は、短ゲート長トランジスタ100におけるゲートとして機能する。また、グラフェン層3における上記のエッジ31以外の部分は、後述するゲートへの配線として機能する。
【0032】
第1領域R1に形成される短ゲート長トランジスタ100において、遮蔽層4は、グラフェン層3の上に設けられた金属等の導体の層であり、電極8とグラフェン層3との間を遮蔽する。遮蔽層4は、電気的には所定の接地電位(例えば0V)に接続される。遮蔽層4の少なくとも表裏両面には、遮蔽層4がグラフェン層3や電極8と短絡することを防ぐべく、絶縁層5が設けられる。遮蔽層4としては、アルミニウム(Al)やニッケル(Ni)を用いることが好ましい。遮蔽層4としてAlを用いる場合、Alの表面に形成される自然酸化膜を、そのまま絶縁層5として用いることができ、製造プロセスを簡素化することができる。遮蔽層4としてNiを用いる場合には、グラフェン層3や電極8との短絡を防ぐべく、別途絶縁層5を形成する必要がある。なお、電極8とグラフェン層3との間を遮蔽する必要が無い場合(例えば、電極8とグラフェン層3との間の信号干渉が問題にならない場合等)には、遮蔽層4および絶縁層5が設けられなくてもよい。絶縁層5の端面51は、垂直面22と略一致する平面とするとよい。
【0033】
絶縁膜6は、短ゲート長トランジスタ100のゲート絶縁膜として機能する絶縁体の薄膜である。絶縁膜6としては、酸化ハフニウム、炭化珪素、酸化ジルコニウム、酸化エルビウム、酸化アルミニウム等の高誘電率の絶縁膜や、炭化珪素の薄膜等を用いることができる。1THzを超えるような高周波用途においては、炭化珪素の薄膜が好適である。
図2に示す例では、絶縁膜6は、絶縁層5の上面から端面51、エッジ31、垂直面22を経て下段面23までを覆うように形成されている。なお、絶縁膜6は、基板2の少なくとも垂直面22、エッジ31、および端面51を覆っていれば、他の部分については形成されなくてもよい場合がある。例えば、絶縁層5と遮蔽層4を備える構成では、絶縁層5上には絶縁膜6を設けなくてもよい。一方、絶縁層5と遮蔽層4を備えない構成の場合には、グラフェン層3と電極8との短絡を防ぐべく、グラフェン層3と電極8の間にも絶縁膜6を設ける必要がある。また、基板2が十分な絶縁性を有する場合、下段面23上に絶縁膜6を設けなくてもよい。
【0034】
二次元半導体層7は、短ゲート長トランジスタ100のキャリア輸送層として機能する半導体の層である。二次元半導体層7は、最上面21、垂直面22、および下段面23を覆うように形成される。グラフェン層3、遮蔽層4、絶縁層5、および/または絶縁膜6がある箇所については二次元半導体層7はこれらをも覆うように重ねて形成される。二次元半導体層7には、単原子層もしくは数原子層の、グラフェン、遷移金属ダイカルコゲナイド(例えば、二硫化モリブデン(MoS2)、二硫化タングステン(WS2)、二セレン化タングステン(WSe2)等)、酸化インジウム(In2O3)、リン化ホウ素、砒化ホウ素等を用いることができる。1THzを超えるような高周波用途においては、二次元半導体層7としてグラフェンが好適である。300GHz~1THz程度の高周波用途においては、二次元半導体層7としてMoS2、WS2等の遷移金属ダイカルコゲナイドが好適である。ロジック回路等の比較的低周波の用途においては、二次元半導体層7としてIn2O3や遷移金属ダイカルコゲナイドが好適である。
【0035】
電極8と電極9は、Au、Al、In、Bi、Ni、Pd、Ti、Pt等の金属や、ITO、FTO等の透明導電性酸化物製の電極である。電極8は、二次元半導体層7のグラフェン層3を覆う箇所に重ねて設けられ、短ゲート長トランジスタ100のソース電極として機能する。電極9は、二次元半導体層7の下段面23を覆う箇所に重ねて設けられ、短ゲート長トランジスタ100のドレイン電極として機能する。
【0036】
上述のような基本構造を有する短ゲート長トランジスタ100では、グラフェン層3の形成面と、垂直面22を覆う二次元半導体層7の形成面とが直交する形となり、グラフェン層3のエッジ31が絶縁膜6を介して二次元半導体層7と対向するので、グラフェン層3の厚みがトランジスタ1のゲート長を定義する。グラフェン層3をグラフェンの単原子層とすれば、短ゲート長トランジスタ100のゲート長を0.3nmまで短くすることができる。グラフェン層3をグラフェンの多層膜とした場合であっても、グラフェン層3の厚みに対応する数nm以下のゲート長を実現することができる。
【0037】
第1領域R1に形成される短ゲート長トランジスタは、単原子層のゲート長を実現しつつゲート抵抗を抑制すべく、
図3に示す構造としてもよい。
図3は、変形例に係る短ゲート長トランジスタ100aの構造を示す断面図である。短ゲート長トランジスタ100aは、上記の短ゲート長トランジスタ100と同様、基板2の第1領域R1において、グラフェン層3、遮蔽層4、絶縁層5、絶縁膜6、二次元半導体層7、電極8、および電極9を備える。基板2の第1領域R1は、最上面21、垂直面22、下段面23に加え、斜面24を有する。基板2において、少なくとも最上面21および斜面24は炭化珪素の単結晶とされる。斜面24は、最上面21の垂直面22と接する縁と反対の端部において最上面21と隣接して設けられる最上面21とは非平行の(傾斜した)面である。斜面24の傾斜角は任意であるが、例えば45°、22°等とするとよい。また、斜面24の傾斜角は一定である必要はなく、例えば湾曲した面として形成されてもよい。このような斜面24は、グラフェン層3の形成に先立って設けられる。そして、短ゲート長トランジスタ100aにおいて、グラフェン層3は最上面21から斜面24に渡って、同時に形成される。斜面24上でのグラフェンの成長速度は、炭化珪素の(0001)面である最上面21上でのグラフェンの成長速度よりも早いため、最上面21上に単層のグラフェンを成長させる間に、斜面24上には多層(好ましくは10~20層程度)のグラフェンが成長する。したがって、短ゲート長トランジスタ100aにおけるグラフェン層3は、最上面21から斜面24に渡って形成され、エッジ31の近傍を単層グラフェン32としつつ内側にある斜面24上では多層グラフェン33に切り替わる構造となる。基板2における最上面21と垂直面22が交わる稜線から、斜面24までの距離(すなわち、最上面21の長さ)は、多層グラフェンの形成がエッジ31の近傍まで及ぶことを避けるのに十分な距離(例えば数100nm程度)とするとよい。
【0038】
上記のようなグラフェン層3に、短ゲート長トランジスタ100と同様の遮蔽層4、絶縁層5、絶縁膜6、二次元半導体層7、電極8、および電極9を設けることで短ゲート長トランジスタ100aが構成される。なお、下地となる斜面24の傾斜によりグラフェン層3には斜面24の部分に窪みできることになるが、遮蔽層4、絶縁膜6、二次元半導体層7等を積み重ねる前にこの窪みを絶縁材料等で埋めて平坦な面となるようにするとよい。
【0039】
以上のように構成される短ゲート長トランジスタ100aでは、第1実施形態のトランジスタ1と同様の効果に加え、グラフェン層3の多層化によりキャリア密度が増加するため、グラフェン層3全体として低抵抗化することができる。一方、グラフェン層3のエッジ31では、単層のグラフェンが絶縁膜6を介して二次元半導体層7と対向してゲート電極として機能するため、トランジスタ1のゲート長は原子一個分(0.3nm程度)とすることができる。
【0040】
第2領域R2において、グラフェン層3は、
図1に示すように所望の形状にパターニングされることでアンテナエレメント200および接続部210を構成する。アンテナエレメント200は、グラフェン層3が所望のアンテナ特性を実現するための形状にパターニングされた構造を有する。パターニングされたグラフェンの一部または全部に重畳してAu等の金属膜や、絶縁体等の保護膜が設けられもよい。グラフェンは銅(Cu)をはじめとする金属やITOと比べて、導電率、キャリア移動度、熱伝導率等の諸特性が高い値を有するため、Cuを凌ぐアンテナ特性を実現することができ、アンテナのサイズを縮小しても特性劣化を抑制することができる。第2領域R2においてアンテナエレメント200を成すグラフェン層3と、第1領域R1において短ゲート長トランジスタ100のゲートを成すグラフェン層3とは、連続したグラフェンの膜として形成されるとよい。すなわち、短ゲート長トランジスタ100のゲートとアンテナエレメント200とは、グラフェン層3を配線として電気的に接続するとよい。このようにすれば、短ゲート長トランジスタ100のゲートとアンテナエレメント200とをつなぐ配線長を極めて短くすることができる。
【0041】
接続部210は、後述するGaNデバイス310の増幅器の電極312とアンテナエレメント200とを接続する配線である。接続部210には、後述するGaN層300が設けられないようにしてもよいし、その一部または全部にGaN層300が重ねて設けられていてもよい。接続部210は、グラフェン層3をパターニングすることにより形成されてもよいし、Au等の金属膜により形成されてもよい。また、接続部210は、一部が金属膜により形成され、他の部分がグラフェンにより形成されてもよく、グラフェンに金属膜が重畳して設けられている部分があってもよい。なお、アンテナエレメント200や接続部210をグラフェンのみで形成すると、透明配線を実現することができる。接続部210は、GaNデバイス310とアンテナエレメント200との間で伝送される信号が劣化しないよう、極力短く(例えば、好ましくは100μm未満、より好ましくは30μm未満、さらに好ましくは10μm未満の伝送距離となるように)形成されることが好ましい。
【0042】
第3領域R3では、基板2の上に窒化ガリウム層300が積層される。一例として、窒化ガリウム層300は、
図4(a)に示したようにグラフェン層3に重ねて設けられる。この構造では、グラフェン層3は、基板2とGaN層300の間で、応力を緩和するためのバッファ層として機能する。他の例としては、
図4(b)に示したように、窒化ガリウム層300は、グラフェン層3を介さずに基板2の上に直接設けられてもよい。窒化ガリウム層300には、増幅器等のアクティブ素子である窒化ガリウムデバイス310が、HEMT(High Electron Mobility Transistor)等の高速動作が可能な素子を用いて形成される。なお、
図4には示されていないが、必要に応じてグラフェン層3や窒化ガリウム層300に重ねて電極や配線パターンを形成するための金属膜(例えばAu膜)や、保護膜等が設けられてもよい。
【0043】
窒化ガリウムデバイス310は、上述の増幅器に加えそれ以外のアクティブ素子を備えてもよい。窒化ガリウムデバイス310は外部(例えばアンテナエレメント200や接続部210)からの配線が接続される電極312を備えてもよい。電極312は、窒化ガリウム層300の基板2と対向する面に設けられてもよいし、基板2と対向する面とは反対の面に設けられてもよい。
【0044】
電極312が、窒化ガリウム層300の基板2と対向する面に設けられる場合には、
図4(c)に示すように、電極312と接続部210の一端に設けられる電極パッド314とが直接または導体を挟んで間接的に接続されるようにするとよい。また、電極312が窒化ガリウム層300の基板2と対向する面とは反対の面に設けられる場合には、
図4(a)や
図4(b)に示すように、ワイヤボンディング316により電極312と接続部210とを接続してもよい。あるいは、
図4(d)に示すように、金属、グラフェン等の導体層318を付加して電極312と接続部210とを接続してもよい。
【0045】
第3領域の変形例として、基板2上に窒化ガリウム層300をエピタキシャル成長せずに、別途窒化ガリウムデバイス310を用意し、グラフェン層3が設けられた基板2の第3領域R3に窒化ガリウムデバイス310を貼り合わせることにより窒化ガリウム層300を設けてもよい。
図5(c)に示された構造はこの変形例の構成に対応する。
【0046】
集積回路1は、基板2上に上述した第1領域R1、第2領域R2、および第3領域R3、並びにその他の必要な回路要素を任意に組み合わせて配置することで、所望の機能を実現する。
【0047】
続いて、集積回路1の製造方法について説明する。
図5は、集積回路1を作製する手順の第1の例を示す図である。
【0048】
図5に示すように、はじめに基板2を用意する(
図5の(a))。基板2は、上述の通り、少なくとも最上面が単結晶の炭化珪素となっている。この最上面の炭化珪素の結晶構造は、4H-SiC、6H-SiC、3C-SiCのいずれかであることが好ましい。
【0049】
基板2として炭化珪素の単結晶基板ではなく、絶縁体に炭化珪素の単結晶層を作製したハイブリッド基板を用いる場合には、単結晶シリコン、サファイヤ、多結晶シリコン、アルミナ、窒化珪素、窒化アルミニウム、ダイヤモンド、多結晶炭化珪素の何れかをベース基板として、その上に必要に応じて酸化シリコン、単結晶シリコン、多結晶シリコン、アモルファスシリコン、アルミナ、窒化珪素、炭化珪素、窒化アルミニウム、またはダイヤモンドの膜を設け、ベース基板及び炭化珪素基板の貼り合わせ面に表面化処理を施して貼り合わせをする。その後、研削研磨による薄化や剥離前の炭化珪素基板に水素イオンやヘリウムイオン等を注入し、貼り合せ後に熱処理によりイオン注入界面で剥離を行うイオン注入剥離法等により炭化珪素の単結晶層を薄化したハイブリッド基板を作製すればよい。また、上記ハイブリッド基板を作製後に表面を多結晶炭化珪素でCVDしたのちに上記ベース基板を除去して絶縁体に炭化珪素の単結晶層を作製したハイブリッド基板を得るとよい。
【0050】
図示は省略するが、第1領域R1に、短ゲート長トランジスタ100aを形成する場合には、当該短ゲート長トランジスタ100aを形成する箇所に斜面24を形成しておく。
【0051】
続いて、基板2を好ましくは1,100℃以上に加熱することにより基板2の最上面21(および斜面24)近傍の珪素原子(Si)を昇華させて、所望の厚さ(例えば50~1,500nm程度)のグラフェン膜を形成し、グラフェン層3とする(
図5の(b))。グラフェンの典型的な成長条件の一例としては、アルゴン(Ar)雰囲気下で気圧10
5Pa(1bar)、1500~1600℃の温度で、5~30分間加熱するとよい。Siを昇華した際には、フラーレン、グラフェン、カーボンナノチューブの何れかのナノカーボン膜が形成されるが、作成条件を適宜調整してグラフェンが得られるようにする。このようにして形成されるグラフェン層3は、下地となる基板2の最上面の炭化珪素単結晶の結晶面に対して所定の向きに結晶が配向するように、いわゆるエピタキシャル成長する。
【0052】
続いて、グラフェン層3をバッファ層(すなわち、窒化ガリウムエピ結晶の核形成層(テンプレート層))として、窒化ガリウムをエピタキシャル成長させ、窒化ガリウム層300を形成する(
図5の(c))。窒化ガリウムは、例えば有機金属気相成長法(MOCVD法)によりエピタキシャル成長させるとよい。具体的には、Ga、Al、Nの前駆体として、それぞれトリメチルガリウム(TMGa)、トリメチルアルミニウム(TMAl)、アンモニア(NH
3)を用い、キャリアガスにはH
2とN
2を用いるとよい。成膜に先立ち、グラフェン層3を設けた基板2をH
2雰囲気中、1100℃で5分間程度の熱洗浄を行うとよい。洗浄後の基板表面に、AlNバッファ層を数10~数100nm程度成長させ、その後、1050℃で厚さ2μm程度のアンドープの窒化ガリウム層300を成長させるとよい。AlNバッファ層は、780℃程度で成長させた低温のAlNバッファ層の上に1080℃程度で成長させた高温のAlNバッファ層が積層されるように成長させるとよい。なお、上記の例ではグラフェン層3を窒化ガリウムエピ結晶の核形成層(テンプレート層)としたが、窒化ガリウムエピ結晶の成長前に、窒化ガリウムを成長させる部位(つまり、アクティブ素子部が設けられる部分)についてグラフェン層3を除去して、基板2の最上面21の炭化珪素単結晶に窒化ガリウムを直接成長するようにしてもよい。
【0053】
そして、形成した窒化ガリウム層300に、HEMT等のアクティブ素子、抵抗、キャパシタ、インダクタ等のパッシブ素子、配線、電極等を形成して、増幅器等を含む窒化ガリウムデバイス310を形成する(
図5の(d))。
【0054】
続いて、エッチングにより窒化ガリウムデバイス310以外の部分から窒化ガリウム層300を除去し、第1領域R1および第2領域R2となる領域のグラフェン層3を露出させる(
図5の(e))。さらに、グラフェン層3にアンテナエレメント200と接続部210をパターニングする(
図5の(f))。なお、グラフェン層3をパターニングする際、第1領域R1となる領域についてはグラフェン層3を残すようにする。このパターニングは、例えば、グラフェン層3にAu膜を蒸着した上で、Au膜に対しフォトリソグラフィ技術およびエッチング技術によりパターニングを行い、Au膜で覆われていない露出したグラフェンをUV-オゾン処理等により除去し、さらにAu膜の不要部分を除去する、という手順で行うとよい。
【0055】
続いて、第1領域R1となる領域に、短ゲート長トランジスタ100または100aを形成する(
図5の(g))。短ゲート長トランジスタ100を形成する詳細な手順は、
図6に示される。すなわち、グラフェン層3が露出した第1領域R1となる領域にAlの遮蔽層4を形成する。遮蔽層4の形成過程で遮蔽層4にはその表面を覆うように自然酸化膜の絶縁層5が形成される(
図6の(a))。なお、遮蔽層4としてAl以外の自然酸化膜が形成されない素材を用いる場合には、遮蔽層4とグラフェン3や電極8との絶縁性を確保すべく、遮蔽層4の上下に絶縁層を形成するとよい。続いて、塩素系ガスやフッ素系ガスを用いた反応性イオンエッチングもしくは中性粒子ビームエッチングにより微細加工を施すことにより、基板2の第1領域R1の一部を掘り下げることで基板2に垂直面22と下段面23を形成するとともに、垂直面22に合わせて遮蔽層4を加工する(
図6の(b))。微細加工の過程で遮蔽層4の側面が露出するが、露出した表面を覆うように改めて自然酸化膜の絶縁層5が形成される。微細加工により形成された垂直面22や下段面23にはグラフェン層3は無いが、残された最上面21の上には単層のグラフェン層3が残される。続いて、絶縁膜6を堆積する(
図6の(c))。
図6の(c)では、絶縁膜6は、絶縁層5の上面から端面51、エッジ31、垂直面22を経て下段面23までを覆うように形成されている。なお、絶縁膜6は、基板2の少なくとも垂直面22、エッジ31、および端面51を覆っていれば、他の部分については形成されなくてもよい場合がある。続いて、最上面21、垂直面22、および下段面23を覆うように二次元半導体層7を堆積させる(
図6の(d))。このとき、グラフェン層3、遮蔽層4、絶縁層5、および/または絶縁膜6がある箇所については二次元半導体層7はこれらをも覆うように重ねて形成される。そして、二次元半導体層7におけるグラフェン層3を覆う箇所に重ねて電極8を形成し、二次元半導体層7における下段面23を覆う箇所に重ねて電極9を形成する(
図6の(e))。以上により短ゲート長トランジスタ100の構造が完成する。
【0056】
図5に戻り、最後に第1領域R1、第2領域R2、および第3領域R3の相互の接続(例えば窒化ガリウムデバイス310の電極312と接続部210との間の接続等)や、外部との接続のための電極パッド(例えば、短ゲート長トランジスタ100のソース電極、ドレイン電極、ゲート電極に接続するためのパッド)の形成を行うことで、集積回路1が得られる(
図5の(h))。
【0057】
以上のような手順により、基板2上に短ゲート長トランジスタ、アンテナエレメント、および窒化ガリウムデバイスが設けられたモノリシックの集積回路1を作製することができる。なお、短ゲート長トランジスタ、アンテナエレメント、および窒化ガリウムデバイスの形成は、順番を入れ替えて行ってもよいし、工程の一部または全部を同時に行ってもよい。
【0058】
上記のようにして作成された集積回路1は、アンテナエレメント200と短ゲート長トランジスタ100が近接して設けられ、連続したグラフェン層3にて接続されるため、1THz以上の信号周波数帯域においても、信号の劣化を抑制することができる。
【0059】
また、上記の手順で作製された集積回路1では、短ゲート長トランジスタ100に加え窒化ガリウムデバイス310も同一基板に形成できるため、数10GHzから100GHz以上の信号周波数帯域から1THz以上の信号周波数帯域を広くカバーすることが可能である。
【0060】
図7は、集積回路1を作製する手順の第2の例を示す図である。この手順では、窒化ガリウム層300をエピタキシャル成長せずに、別途窒化ガリウムデバイス310を用意し、グラフェン層3が設けられた基板2に窒化ガリウムデバイス310を貼り合わせることにより窒化ガリウム層を設ける点で前記の第1の例と異なる。
【0061】
集積回路を作製する手順の第2の例では、まず、
図5の(a)および(b)を参照して説明したのと同様の手法により、基板2を用意し(
図7の(a))、必要な場合は斜面24を形成し、グラフェン層3を形成する(
図7の(b))。
【0062】
続いて、グラフェン層3にアンテナエレメント200と接続部210をパターニングする(
図7の(c))。また、後段において窒化ガリウムデバイス310を貼り合わせる際に、集積回路の電極312と接続される電極パッド314も接続部210から延伸する形でパターニングする。なお、グラフェン層3をパターニングする際、第1領域R1となる領域についてはグラフェン層3を残すようにする。その他、窒化ガリウムデバイス310との接合に必要なグラフェン層3(またはその上に設けられるAu膜)のパターンを形成してもよい。つまり、グラフェン層3は、窒化ガリウムデバイス310を基板2に貼りつけるための接着層として機能してもよい。これらのパターニングは、例えば、グラフェン層3にAu膜を蒸着した上で、Au膜に対しフォトリソグラフィ技術およびエッチング技術によりパターニングを行い、Au膜で覆われていない露出したグラフェンをUV-オゾン処理等により除去し、さらにAu膜の不要部分を除去する、という手順で行うとよい。このようにして、基板2上にアンテナエレメント200をモノリシックに形成することができる。なお、窒化ガリウムデバイス310との接合に用いられるパターンは、グラフェン層3を除去してAu等の金属薄膜のみにより形成してもよい。窒化ガリウムデバイス310との接合に用いるパターンは、グラフェンによるもの、金属薄膜によるもの、あるいはこれらを積層したものであってよい。窒化ガリウムデバイス310との接合に用いられるパターンは、電極312と接続される電極パッド314と同様に、窒化ガリウムデバイス310内の素子と外部との電気的接続を確保する機能を兼ねてもよい。
【0063】
続いて、
図7を参照して説明したのと同様の手法により、第1領域R1に短ゲート長トランジスタ100または100aを形成する(
図7の(d))。
【0064】
続いて、別途用意した窒化ガリウムデバイス310を、基板2の第3領域R3における適切な位置に貼り合わせる(
図7(e))。窒化ガリウムデバイス310は、窒化ガリウムの基板上に増幅器等のアクティブ素子を形成して所定の寸法に切り出したものである。窒化ガリウムデバイス310の表面(基板2に張り合わされる面)は、信号の授受を行うための電極312が設けられる。窒化ガリウムデバイス310と基板2とを貼り合わせる際、窒化ガリウムデバイス310の電極312と基板2上の電極パッド314とが電気的に接続される。窒化ガリウムデバイス310と基板2との貼り合わせは、両者の表面に対し、活性化処理や表面処理を行った上で実施するとよい。また、窒化ガリウムデバイス310をフリップチップボンディングによって基板2に貼り合わせることもできる。基板2に貼り合わされた窒化ガリウムデバイス310は、集積回路1における窒化ガリウム層300となる。
【0065】
以上のような手順により、基板2上に短ゲート長トランジスタ、アンテナエレメント、および窒化ガリウムデバイスが設けられたモノリシックの集積回路1を作製することができる。
【0066】
上記のようにして作成された集積回路1は、アンテナエレメント200と短ゲート長トランジスタ100が近接して設けられ、連続したグラフェン層3にて接続されるため、1THz以上の信号周波数帯域においても、信号の劣化を抑制することができる。
【0067】
また、上記の手順で作製された集積回路1では、短ゲート長トランジスタ100に加え窒化ガリウムデバイス310も同一基板に形成できるため、数10GHzから100GHz以上の信号周波数帯域から1THz以上の信号周波数帯域を広くカバーすることが可能である。
【0068】
また、上記の手順で作製された集積回路1では、窒化ガリウムデバイス310を別途用意してから基板2に貼り合わせることができるため、窒化ガリウムデバイスの設計自由度が高い。また、貼り合わせる窒化ガリウムデバイス310を、機能や性能が異なる複数種類準備すれば、第1領域R1や第2領域R2を共通としつつ、第3領域R3については様々なバリエーションの集積回路1を作ることができる。
【0069】
なお、本発明は上記の実施形態や実施例に限定されるものではない。また、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一の構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなる変更がされたものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0070】
1 集積回路
2 基板
21 最上面
22 垂直面
23 下段面
24 斜面
3 グラフェン層
31 エッジ
4 遮蔽層
5 絶縁層
51 端面
6 絶縁膜
7 二次元半導体層
8,9 電極
100,100a 短ゲート長トランジスタ
200 アンテナエレメント
300 窒化ガリウム層
310 窒化ガリウムデバイス
318 導体層
R1 第1領域
R2 第2領域
R3 第3領域