(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024176922
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】表面処理方法および表面処理物品
(51)【国際特許分類】
C08J 7/12 20060101AFI20241212BHJP
【FI】
C08J7/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023095799
(22)【出願日】2023-06-09
(71)【出願人】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504132881
【氏名又は名称】国立大学法人東京農工大学
(74)【代理人】
【識別番号】100108833
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】100162156
【弁理士】
【氏名又は名称】村雨 圭介
(74)【代理人】
【識別番号】100176407
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 理啓
(72)【発明者】
【氏名】矢野 宏和
(72)【発明者】
【氏名】小澤 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】臼井 博明
【テーマコード(参考)】
4F073
【Fターム(参考)】
4F073AA02
4F073BA24
4F073BB01
4F073CA70
4F073DA08
(57)【要約】
【課題】環境負荷を低減できるとともに、強固な表面処理を行うことが可能な表面処理方法、および当該方法によって製造された表面処理物品を提供する。
【解決手段】分子内にヒドロシリル基を有するヒドロシリル基含有化合物、分子内にアルコキシシリル基を有するアルコキシシリル基含有化合物、および、ルイス酸を含有する触媒、並びに、基材を準備する準備工程と、前記ヒドロシリル基含有化合物、前記アルコキシシリル基含有化合物、および、前記触媒を前記基材の少なくとも一部の表面に蒸着させるとともに、前記ヒドロシリル基含有化合物と前記アルコキシシリル基含有化合物とを重合させることで、前記基材の前記表面にケイ素含有ポリマー層を形成する蒸着重合工程とを含む表面処理方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子内にヒドロシリル基を有するヒドロシリル基含有化合物、分子内にアルコキシシリル基を有するアルコキシシリル基含有化合物、および、ルイス酸を含有する触媒、並びに、基材を準備する準備工程と、
前記ヒドロシリル基含有化合物、前記アルコキシシリル基含有化合物、および、前記触媒を前記基材の少なくとも一部の表面に蒸着させるとともに、前記ヒドロシリル基含有化合物と前記アルコキシシリル基含有化合物とを重合させることで、前記基材の前記表面にケイ素含有ポリマー層を形成する蒸着重合工程と
を含むことを特徴とする表面処理方法。
【請求項2】
前記ヒドロシリル基含有化合物は、前記ヒドロシリル基を1分子内に少なくとも2個以上含有することを特徴とする請求項1に記載の表面処理方法。
【請求項3】
前記アルコキシシリル基含有化合物は、前記アルコキシシリル基を1分子内に少なくとも2個以上含有することを特徴とする請求項1に記載の表面処理方法。
【請求項4】
前記ヒドロシリル基含有化合物は、下式(1)
SiR1
(3-a)Ha-(X)-SiR2
(3-b)Hb …(1)
(上記式(1)中、aおよびbは、それぞれ独立に、1から3のいずれかの整数であり、R1およびR2は、それぞれ独立に、炭素数が1~8のアルキル基であり、(X)は、2価の脂肪族炭化水素基または2価のオルガノシロキシ基である)
で示される構造を有する、分子両末端にヒドロシリル基を有する化合物であることを特徴とする請求項1に記載の表面処理方法。
【請求項5】
前記アルコキシシリル基含有化合物は、下式(2)
SiR3
(3-c)(OR5)c-(Y)-SiR4
(3-d)(OR5)d …(2)
(上記式(2)中、cおよびdは、それぞれ独立に、1から3のいずれかの整数であり、R3およびR4は、それぞれ独立に、炭素数が1~8のアルキル基であり、R5は、炭素数が1~8のアルキル基であり、(Y)は、2価の脂肪族炭化水素基または2価のオルガノシロキシ基である)
で示される構造を有する、分子両末端にアルコキシシリル基を有する化合物であることを特徴とする請求項1に記載の表面処理方法。
【請求項6】
前記ルイス酸は、ホウ素原子を含有することを特徴とする請求項1に記載の表面処理方法。
【請求項7】
前記蒸着重合工程における前記蒸着は、イオンアシスト蒸着であることを特徴とする請求項1に記載の表面処理方法。
【請求項8】
前記蒸着重合工程において、前記ヒドロシリル基含有化合物と前記アルコキシシリル基含有化合物との反応により、1気圧および23℃の環境下において気体状である化合物が脱離することを特徴とする請求項1に記載の表面処理方法。
【請求項9】
基材と、前記基材の少なくとも一部の表面に設けられたケイ素含有ポリマー層とを備えた表面処理物品であって、
前記表面処理物品が、
分子内にヒドロシリル基を有するヒドロシリル基含有化合物、分子内にアルコキシシリル基を有するアルコキシシリル基含有化合物、および、ルイス酸を含有する触媒を準備する準備工程と、
前記ヒドロシリル基含有化合物、前記アルコキシシリル基含有化合物、および、前記触媒を前記基材の少なくとも一部の表面に蒸着させ、前記ヒドロシリル基含有化合物と前記アルコキシシリル基含有化合物とを重合させることで、前記基材の前記表面にケイ素含有ポリマー層を形成する蒸着重合工程と
を含む表面処理方法で製造されたものであることを特徴とする表面処理物品。
【請求項10】
前記基材の形状は、シート状であり、
前記ケイ素含有ポリマー層は、剥離層であり、
前記表面処理物品は、剥離シートである
ことを特徴とする請求項9に記載の表面処理物品。
【請求項11】
前記ケイ素含有ポリマー層は、撥水層であることを特徴とする請求項9に記載の表面処理物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、剥離処理や撥水処理といった表面処理方法、および当該方法によって製造される表面処理物品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、剥離シートは、例えば、紙、プラスチックフィルム、ポリエチレンラミネート紙などの基材の少なくとも片面に剥離層を形成してなるものである。剥離シートは、例えば、粘着シート等が有する粘着剤層の保護用シート、樹脂シート作製用工程フィルム、セラミックグリーンシート成膜用工程フィルム、合成皮革製造用工程フィルム等として幅広く用いられている。
【0003】
剥離シートの剥離層は、通常、反応性化合物を含む剥離剤組成物を基材上に塗布して硬化させることにより形成される。剥離層を形成するための剥離剤組成物としては、例えば、シリコーン樹脂、ポリシロキサン、シリコーンオイル等のシリコーン化合物を含むシリコーン系剥離剤組成物が広く用いられている。
【0004】
一方、近年では、ドライプロセスを利用して、基材上に特定の剥離層を形成する方法も検討されている。例えば、先行文献1には、繊維強化プラスチックを成形加工する際に使用されるフィルムとして、分子内にSi-O結合を有する有機珪素化合物と低分子の炭素原子含有化合物とを含む混合ガス組成物を材料として、プラズマ化学気相成長法によってプラスチック基材上に剥離層を成膜してなるフィルムが開示されている。
【0005】
また、基材に対して、その表面の少なくとも一部に撥水層を設けて、撥水性を付与することも行われている。当該撥水層の材料としても、上述したシリコーン系剥離剤組成物が使用されることがあり、その形成方法としても、当該組成物を基材の表面に塗布して硬化させる方法に加え、上述したドライプロセスにより形成されることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述のとおり、シリコーン系剥離剤組成物から形成される剥離層は、一般に、シリコーン系剥離剤組成物を基材上に塗布して硬化させることにより形成される。ここで、シリコーン系剥離剤組成物をそのまま基材上に塗布して塗膜を形成することは難しいため、通常、シリコーン系剥離剤組成物を大量の有機溶剤で希釈してから基材上に塗布している。このとき、使用した有機溶剤の廃棄処理等によって二酸化炭素が排出されるため、環境に対する負荷が問題視されている。そのため、有機溶剤を使用せずに剥離シートが製造できれば、環境負荷の低減に有効である。
【0008】
ここで、特許文献1のようなドライプロセスによる製造方法では、有機溶剤を使用しないため、上述した環境負荷の問題を解消できる。しかしながら、特許文献1のような従来のドライプロセスによる製造方法では、強固な剥離層および撥水層の形成が難しく、これらの層から周囲へのシリコーン成分の移行が生じ易かったり、所定の溶液に浸漬された際のこれらの層の崩壊・溶出が生じ易いといった問題があった。
【0009】
本発明は、このような実状に鑑みてなされたものであり、環境負荷を低減できるとともに、強固な表面処理を行うことが可能な表面処理方法、および当該方法によって製造された表面処理物品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、第1に本発明は、分子内にヒドロシリル基を有するヒドロシリル基含有化合物、分子内にアルコキシシリル基を有するアルコキシシリル基含有化合物、および、ルイス酸を含有する触媒、並びに、基材を準備する準備工程と、前記ヒドロシリル基含有化合物、前記アルコキシシリル基含有化合物、および、前記触媒を前記基材の少なくとも一部の表面に蒸着させるとともに、前記ヒドロシリル基含有化合物と前記アルコキシシリル基含有化合物とを重合させることで、前記基材の前記表面にケイ素含有ポリマー層を形成する蒸着重合工程とを含むことを特徴とする表面処理方法を提供する(発明1)。
【0011】
上記発明(発明1)に係る表面処理方法では、上述したヒドロシリル基含有化合物、アルコキシシリル基含有化合物および触媒を準備し、これらを基材の少なくとも一部の表面に蒸着重合させることによって表面処理を行うことにより、有機溶剤を使用せず剥離層や撥水層を形成することができ、環境負荷を低減することができる。さらに、上記触媒の作用によって、ヒドロシリル基含有化合物とアルコキシシリル基含有化合物とが反応し、これらが良好に重合してなる構造が形成されるため、強固な剥離層や撥水層を形成することができる。
【0012】
上記発明(発明1)において、前記ヒドロシリル基含有化合物は、前記ヒドロシリル基を1分子内に少なくとも2個以上含有することが好ましい(発明2)。
【0013】
上記発明(発明1または2)において、前記アルコキシシリル基含有化合物は、前記アルコキシシリル基を1分子内に少なくとも2個以上含有することが好ましい(発明3)。
【0014】
上記発明(発明1~3)において、前記ヒドロシリル基含有化合物は、下式(1)
SiR1
(3-a)Ha-(X)-SiR2
(3-b)Hb …(1)
(上記式(1)中、aおよびbは、それぞれ独立に、1から3のいずれかの整数であり、R1およびR2は、それぞれ独立に、炭素数が1~8のアルキル基であり、(X)は、2価の脂肪族炭化水素基または2価のオルガノシロキシ基である)
で示される構造を有する、分子両末端にヒドロシリル基を有する化合物であることが好ましい(発明4)。
【0015】
上記発明(発明1~4)において、前記アルコキシシリル基含有化合物は、下式(2)
SiR3
(3-c)(OR5)c-(Y)-SiR4
(3-d)(OR5)d …(2)
(上記式(2)中、cおよびdは、それぞれ独立に、1から3のいずれかの整数であり、R3およびR4は、それぞれ独立に、炭素数が1~8のアルキル基であり、R5は、炭素数が1~8のアルキル基であり、(Y)は、2価の脂肪族炭化水素基または2価のオルガノシロキシ基である)
で示される構造を有する、分子両末端にアルコキシシリル基を有する化合物であることが好ましい(発明5)。
【0016】
上記発明(発明1~5)において、前記ルイス酸は、ホウ素原子を含有することが好ましい(発明6)。
【0017】
上記発明(発明1~6)において、前記蒸着重合工程における前記蒸着は、イオンアシスト蒸着であることが好ましい(発明7)。
【0018】
上記発明(発明1~7)においては、前記蒸着重合工程において、前記ヒドロシリル基含有化合物と前記アルコキシシリル基含有化合物との反応により、1気圧および23℃の環境下において気体状である化合物が脱離することが好ましい(発明8)。
【0019】
第1に本発明は、基材と、前記基材の少なくとも一部の表面に設けられたケイ素含有ポリマー層とを備えた表面処理物品であって、前記表面処理物品が、分子内にヒドロシリル基を有するヒドロシリル基含有化合物、分子内にアルコキシシリル基を有するアルコキシシリル基含有化合物、および、ルイス酸を含有する触媒を準備する準備工程と、前記ヒドロシリル基含有化合物、前記アルコキシシリル基含有化合物、および、前記触媒を前記基材の少なくとも一部の表面に蒸着させ、前記ヒドロシリル基含有化合物と前記アルコキシシリル基含有化合物とを重合させることで、前記基材の前記表面にケイ素含有ポリマー層を形成する蒸着重合工程とを含む表面処理方法で製造されたものであることを特徴とする表面処理物品を提供する(発明9)。
【0020】
上記発明(発明9)において、前記基材の形状は、シート状であり、前記ケイ素含有ポリマー層は、剥離層であり、前記表面処理物品は、剥離シートであることが好ましい(発明10)。
【0021】
上記発明(発明9または10)において、前記ケイ素含有ポリマー層は、撥水層であることが好ましい(発明11)。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係る表面処理方法は、環境負荷を低減できるとともに、強固な表面処理を行うことが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について説明する。
本実施形態に係る表面処理方法は、分子内にヒドロシリル基を有するヒドロシリル基含有化合物、分子内にアルコキシシリル基を有するアルコキシシリル基含有化合物、および、ルイス酸を含有する触媒、並びに、基材を準備する準備工程と、上記ヒドロシリル基含有化合物、上記アルコキシシリル基含有化合物、および、上記触媒を上記基材の少なくとも一部の表面に蒸着させるとともに、上記ヒドロシリル基含有化合物と上記アルコキシシリル基含有化合物とを重合させることで、上記基材の上記表面にケイ素含有ポリマー層を形成する蒸着重合工程とを含む。
【0024】
本実施形態に係る表面処理方法では、上記の通り、上記ヒドロシリル基含有化合物、上記アルコキシシリル基含有化合物および上記触媒の3成分を主要な材料とし、それらを基材の少なくとも一部の表面に蒸着重合させることによってケイ素含有ポリマー層を形成するものである。そのため、組成物を基材上に塗布して塗膜を形成する場合に必要となる、当該組成物を希釈するための有機溶剤が、本実施形態に係る表面処理方法では不要となり、環境負荷を大幅に低減することが可能となる。
【0025】
さらに、本実施形態に係る表面処理方法では、形成された蒸着膜内において、上記触媒の作用により上記ヒドロシリル基含有化合物におけるヒドロシリル基と上記アルコキシシリル基含有化合物におけるアルコキシシリル基との重合反応が進行する。これにより、上記ヒドロシリル基含有化合物と上記アルコキシシリル基含有化合物との重合体が良好に生じ、強固なケイ素含有ポリマー層が形成されるものとなる。そのため、本実施形態に係る表面処理方法で製造された表面処理物品では、ケイ素含有ポリマー層に含有される成分が、当該層と接触する部材に移行することを抑制することができ、また、表面処理物品が種々の有機溶剤に浸漬された場合におけるケイ素含有ポリマー層の崩壊・溶出を抑制することもできる。
【0026】
なお、本実施形態に係る表面処理方法では、形成されるケイ素含有ポリマー層において、アルコキシシリル基含有化合物とアルコキシシリル基含有化合物との間における重合反応が完全に進行することが必要ではなく、ケイ素含有ポリマー層内に未反応のアルコキシシリル基含有化合物およびアルコキシシリル基含有化合物が残留するものとなってもよい。
【0027】
1.準備工程
上記準備工程では、上述した3成分および基材が準備される限り、それらの詳細や、準備する手法については特に限定されない。特に、上述した3成分は、合成したものを使用してもよく、または、市販のものを使用してもよい。
【0028】
(1)ヒドロシリル基含有化合物
本実施形態におけるヒドロシリル基含有化合物は、分子内にヒドロシリル基を有するものである限り、その詳細は限定されないものの、ヒドロシリル基含有化合物は、ヒドロシリル基を1分子内に少なくとも2個以上含有するものであることが好ましい。
【0029】
本実施形態におけるヒドロシリル基含有化合物の好ましい具体例としては、下式(1)
SiR1
(3-a)Ha-(X)-SiR2
(3-b)Hb …(1)
で示される構造を有する、分子両末端にヒドロシリル基を有する化合物が挙げられる。
【0030】
上記式(1)中、aおよびbは、それぞれ独立に、1から3のいずれかの整数である。特に、aおよびbが共に3であることが好ましい。
【0031】
また、上記式(1)中、R1およびR2は、それぞれ独立に、炭素数が1~8のアルキル基である。当該アルキル基の好ましい例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、フェニル基等が挙げられ、これらの中でもメチル基が好ましい。
【0032】
さらに、上記式(1)中、(X)は、2価の脂肪族炭化水素基または2価のオルガノシロキシ基である。また、上記オルガノシロキシ基の例としては、ジオルガノシロキサン単位の繰り返し単位数が2~50のものが挙げられ、特に、当該繰り返し単位数が20のものが好ましい。上記脂肪族炭化水素基および上記オルガノシロキシ基は、それぞれ、直鎖状であってもよく、分枝状であってもよい。上記脂肪族炭化水素基および上記オルガノシロキシ基が置換されている場合、これらの置換基としては、炭素数が1~20のアルキル基、ヒドロキシ基等が挙げられ、これらの中でも炭素数が1~6のアルキル基が好ましく、特にメチル基が好ましい。
【0033】
本実施形態におけるヒドロシリル基含有化合物の好ましい具体例としては、両末端ハイドロジェンシロキサン、側鎖型ハイドロジェン変性シリコーン等が挙げられる。
【0034】
本実施形態におけるヒドロシリル基含有化合物の重量平均分子量は、200~5000であることが好ましく、特に300~4000であることが好ましく、さらには400~3000であることが好ましい。なお、本明細書における重量平均分子量の測定方法は、当該GPC法により測定した標準ポリスチレン換算の値をいうものとする。
【0035】
(2)アルコキシシリル基含有化合物
本実施形態におけるアルコキシシリル基含有化合物は、分子内にアルコキシシリル基を有するものである限り、その詳細は限定されないものの、アルコキシシリル基含有化合物は、アルコキシシリル基を1分子内に少なくとも2個以上含有するものであることが好ましい。
【0036】
好ましい具体例としては、下式(2)
SiR3
(3-c)(OR5)c-(Y)-SiR4
(3-d)(OR5)d …(2)
で示される構造を有する、分子両末端にアルコキシシリル基を有する化合物が挙げられる。
【0037】
上記式(2)中、cおよびdは、それぞれ独立に、1から3のいずれかの整数である。特に、cおよびdが共に3であることが好ましい。
【0038】
また、上記式(2)中、R3およびR4は、それぞれ独立に、炭素数が1~8のアルキル基である。当該アルキル基の好ましい例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、フェニル基等が挙げられ、これらの中でもメチル基が好ましい。また、R5は、炭素数が1~8のアルキル基である。当該アルキル基の好ましい例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、フェニル基等が挙げられ、これらの中でもメチル基が好ましい。
【0039】
さらに、上記式(2)中、(Y)は、2価の脂肪族炭化水素基または2価のオルガノシロキシ基である。また、上記オルガノシロキシ基の例としては、ジオルガノシロキサン単位の繰り返し単位数が2~50のものが挙げられ、特に、当該繰り返し単位数が20のものが好ましい。上記脂肪族炭化水素基および上記オルガノシロキシ基は、それぞれ、直鎖状であってもよく、分枝状であってもよい。上記脂肪族炭化水素基および上記オルガノシロキシ基が置換されている場合、これらの置換基としては、炭素数が1~20のアルキル基、ヒドロキシ基等が挙げられ、これらの中でも炭素数が1~6のアルキル基が好ましく、特にメチル基が好ましい。
【0040】
本実施形態におけるアルコキシシリル基含有化合物の好ましい具体例としては、1,6-ビス(トリエトキシシリル)ヘキサン、両末端アルコキシ変性シリコーンオリゴマー等が挙げられる。
【0041】
本実施形態におけるアルコキシシリル基含有化合物の重量平均分子量は、200~5000であることが好ましく、特に300~4000であることが好ましく、さらには400~3000であることが好ましい。
【0042】
本実施形態におけるアルコキシシリル基含有化合物の使用量は、本実施形態におけるヒドロシリル基含有化合物の使用量100質量部に対して、5~100質量部であることが好ましく、特に10~50質量部であることが好ましく、さらには15~30質量部であることが好ましい。
【0043】
また、本実施形態におけるアルコキシシリル基含有化合物の使用量は、上記ヒドロシリル基含有化合物が有するヒドロシリル基とアルコキシシリル基含有化合物が有するアルコキシシリル基との比率が、25:1~1:25となる量であることが好ましく、特に5:1~1:5となる量であることが好ましく、さらには2:1~1:2となる量であることが好ましい。これにより、形成されるケイ素含有ポリマー層中にこれらの化合物が未反応のまま残留してしまうことを抑制し易いものとなる。
【0044】
(3)触媒
本実施形態における触媒は、ルイス酸を含有するものである限り特に限定されない。当該ルイス酸の好ましい例としては、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、インジウム、チタン等から選択される原子を含有するルイス酸が挙げられ、中でも、上述した重合反応を効率的に進行させ易いという観点から、ホウ素原子を含有するルイス酸が好ましい。
【0045】
本実施形態における触媒の具体例としては、トリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン、トリス(ペンタクロロフェニル)ボラン、トリフェニルボラン、トリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン等が挙げられ、これらの中でも、上述した重合反応を効率的に進行させ易いという観点から、トリス(ペンタフルオロフェニル)ボランが好ましい。
【0046】
本実施形態における触媒の使用量は、本実施形態におけるヒドロシリル基含有化合物の使用量100質量部に対して、1~100質量部であることが好ましく、特に10~80質量部であることが好ましく、さらには20~60質量部であることが好ましい。
【0047】
(4)その他の成分
本実施形態に係る表面処理方法においては、上述したヒドロシリル基含有化合物、アルコキシシリル基含有化合物および触媒以外のその他の成分を使用してもよい。この場合、当該その他の成分は、主要な3成分とともに基材に蒸着してもよく、あるいは、蒸着以外の方法で使用されてもよい。
【0048】
(5)基材
基材の材料、形状等は目的に応じて適宜選択することができる。例えば、材料の例としては、樹脂、紙、金属、ガラス等が挙げられる。また、形状は、シート状であってよく、また、立体的な形状であってもよい。詳しくは、後述する通りである。
【0049】
2.蒸着重合工程
本実施形態に係る表面処理方法における蒸着重合工程においては、上記ヒドロシリル基含有化合物、上記アルコキシシリル基含有化合物、および、上記触媒を上記基材の少なくとも一部の表面に蒸着させるとともに、上記ヒドロシリル基含有化合物と上記アルコキシシリル基含有化合物とを重合させることで、基材の表面にケイ素含有ポリマー層を形成する。
【0050】
ここで、上記ヒドロシリル基含有化合物と上記アルコキシシリル基含有化合物との重合反応は、前述した通り、上記触媒の作用により、ヒドロシリル基含有化合物におけるヒドロシリル基とアルコキシシリル基含有化合物におけるアルコキシシリル基との反応に基づくものである。
【0051】
この反応について、ヒドロシリル基含有化合物が前述した式(1)で示される構造を有する化合物(特に、a=1且つb=1である化合物)であり、アルコキシシリル基含有化合物が前述した式(2)で示される構造を有する化合物(特に、c=1且つd=1である化合物)である場合における反応式を以下に例示する。
【化1】
【0052】
上記反応式に示されるように、ヒドロシリル基含有化合物が有するヒドロシリル基(SiH基)と、アルコキシシリル基含有化合物が有するアルコキシシリル基(SiOR5基)との間で、R5Hを離脱させる縮合反応が生じる。特に、この反応は、触媒中のルイス酸の空軌道が、ヒドロシリル基中の水素原子を捉えて中間体を形成した後、そこへ接近したアルコキシシリル基に上記中間体が転移し、その結果としてR5Hが離脱するとともに、ヒドロシリル基を形成していたケイ素原子と、アルコキシシリル基を形成していた酸素原子とが結合する反応である。この反応が、ヒドロシリル基含有化合物およびアルコキシシリル基含有化合物の両末端でそれぞれ進行することで、これらの化合物が連なった重合体が形成される。
【0053】
なお、ヒドロシリル基含有化合物とアルコキシシリル基含有化合物との重合反応は、基材表面における蒸着膜の形成と同時に進行するものであってもよく、蒸着膜の形成の完了後に進行するものであってもよく、さらには蒸着膜の形成と同時に進行し且つその後においても進行するものであってもよい。
【0054】
また、本実施形態における蒸着重合工程においては、上記ヒドロシリル基含有化合物と上記アルコキシシリル基含有化合物との反応により、1気圧および23℃の環境下において気体状である化合物が脱離することが好ましい。特に、ヒドロシリル基含有化合物におけるヒドロシリル基と、アルコキシシリル基含有化合物におけるアルコキシシリル基との間では縮合反応が生じるため、この際に脱離する化合物が上述の通り気体状であることが好ましい。気体状の化合物が脱離することにより、形成されるケイ素含有ポリマー層中に当該化合物が留まり難くなり、それによってより強固なケイ素含有ポリマー層を形成し易いものとなる。1気圧および23℃の環境下において気体状である化合物の例としては、アルカン等が挙げられ、特にメタン、エタン、プロパン、イソプロパン等が挙げられる。
【0055】
本実施形態における蒸着重合工程の蒸着の方法(材料を蒸発させ、基材に付着させる方法)としては、上記ヒドロシリル基含有化合物、上記アルコキシシリル基含有化合物、および、上記触媒の気体を供給する工程を含む方法であればよく、物理蒸着(PVD)法および化学気相蒸着(CVD)法のいずれの方法を用いてもよい。例えば、真空蒸着法、イオン化蒸着法、イオンプレーティング法、イオンアシスト蒸着法、プラズマ重合法、プラズマCVD法等の蒸着法等を用いることができる。これらの中でも、比較的簡便な装置によって効果的に蒸着可能であるという観点からは、真空蒸着法を用いるが好ましい。また、より強固なケイ素含有ポリマー層を形成し易いう観点からは、イオンアシスト蒸着法を用いることが好ましい。
【0056】
(1)真空蒸着法
真空蒸着法を行う場合、公知の手法に従って行うことができ、例えば、減圧した容器内に、上記ヒドロシリル基含有化合物、上記アルコキシシリル基含有化合物、および、上記触媒の3成分の気体をそれぞれ供給して、記基材の少なくとも一部の表面に蒸着させる。
【0057】
上記3成分の気体の供給は、例えば、チャンバー等の減圧可能な容器(以下、単に「減圧容器」ともいう。)外にるつぼ等の容器(以下、単に「原料容器」ともいう。)を設け、当該るつぼにおいて3成分(室温で液体又は固体)を蒸発又は気化させ、それらを、原料供給管等を用いて減圧容器内に供給してもよい。あるいは、減圧容器内に設けられた原料容器内にて、3成分(室温で液体又は固体)を蒸発又は気化させ、直接、または原料供給管等を介して、減圧容器内に導入してもよい。なお、いずれの場合においても、るつぼは成分ごとに1つずつ使用してもよく、あるいは、1つのるつぼに複数の成分を入れた状態にて蒸発又は気化させてもよい。
【0058】
上記減圧容器は、従来用いられる公知の真空容器を用いることができる。また、上記原料容器の開口部または上記原料容器に連結している原料供給管の出口を、蒸着のターゲットとする基材の表面側に向けることで、気化した成分の放出方向を制御することもできる。すなわち、当該方法を用いることで、基材表面における蒸着部分を制御することもできる。上記原料供給管は、気化した成分の排出量を制御するためのバルブ機構等を備えていてもよい。
【0059】
上記3成分の蒸発又は気化は、例えば、加熱等によって行うことができる。その加熱方法は、特に制限はなく、公知の加熱方法を用いることができる。加熱温度としては、用いる成分によって適宜設定可能であるが、これらの成分が熱分解しない温度であることが好ましい。
【0060】
ヒドロシリル基含有化合物の加熱温度は、例えば、蒸発速度を速めて所定の膜厚とするまでの時間を短縮できる観点から、好ましくは170℃以上、より好ましくは200℃以上、さらに好ましくは230℃以上である。一方、材料の熱劣化を抑制する観点から、好ましくは400℃以下、より好ましくは350℃以下、さらに好ましくは300℃以下である。
【0061】
アルコキシシリル基含有化合物の加熱温度は、例えば、蒸発速度を速めて所定の膜厚とするまでの時間を短縮できる観点から、好ましくは130℃以上、より好ましくは220℃以上、さらに好ましくは250℃以上である。一方、材料の熱劣化を抑制する観点から、好ましくは400℃以下、より好ましくは350℃以下、さらに好ましくは300℃以下である。
【0062】
触媒の加熱温度は、例えば、蒸発速度を速めて所定の膜厚とするまでの時間を短縮できる観点から、好ましくは40℃以上、より好ましくは45℃以上、さらに好ましくは50℃以上である。一方、材料の熱劣化を抑制する観点から、好ましくは100℃以下、より好ましくは80℃以下、さらに好ましくは60℃以下である。
【0063】
減圧容器における、減圧した容器内の圧力(真空度)としては、所望のケイ素含有ポリマー層を形成できる限り、特に制限はないが、好ましくは2.0×10-5Torr以下、より好ましくは1.5×10-5Torr以下、さらに好ましくは1.0×10-5Torr以下である。真空度をこのように設定することにより、減圧容器内に存在する、ケイ素含有ポリマー層を形成する原料以外の吸着ガス成分がケイ素含有ポリマー層に混入する確率が低くなり、より良質なケイ素含有ポリマー層が得られ易くなる。
【0064】
(2)イオンアシスト蒸着法
イオンアシスト蒸着法を行う場合には、上述した蒸着と同時に、または、上述した蒸着の後に、基材における蒸着しようとする領域に対して、イオン照射を行うことが好ましい。これにより、ヒドロシリル基含有化合物とアルコキシシリル基含有化合物との重合反応がより進行し易くなり、強固なケイ素含有ポリマー層を形成し易いものとなる。なお、本実施形態における蒸着重合工程においては、前述した重合反応を進行させるうえで、イオン照射が必須ではない。そのため、本実施形態における蒸着重合工程では、イオン照射を行うことは必須ではなく、例えば前述した真空蒸着法のみを行ってもよい。
【0065】
上記イオンとしては、特に制限はないが、安全面の観点から取り扱いやすく、基材との密着性を発現しやすいものが好ましく、例えば、アルゴン、ヘリウム、ネオン、窒素、酸素、又は二酸化炭素をイオン化したものが挙げられる。中でも、強固で低極性のケイ素含有ポリマー層を形成し易いという観点から、アルゴン、ヘリウム及びネオンからなる群より選ばれる1種以上のイオンを用いることが好ましい。
【0066】
上記イオンとしては、公知のイオン発生装置を用い、各分子の気体をイオン化したものを用いることができる。イオン発生装置としては、例えば、外側にタングステンフィラメントからなる陰極を、内側にグリッド状の陽極を配置し、イオンの原料となる気体を内部に充填できる電子発生装置等が挙げられる。かかる電子発生装置においては、陰極のタングステンフィラメントに通電加熱して熱電子を発生させ、当該熱電子がグリッド状の陽極へ向かうように電圧を印加し、熱電子を気体に衝突させることによって、当該気体をイオン化することができる。
【0067】
また、例えば、各気体のうちプラズマ化できる原料を、プラズマ発生装置等により電離させてプラズマを発生させ、対象となるイオン(例えば、アルゴンプラズマから、アルゴンイオン(Ar+))を取り出し、当該イオンを用いてもよい。
【0068】
上記のように発生させたイオンは、後述するようにイオン加速電圧を印加することで、基材表面に照射してもよい。また、公知のイオン銃やプラズマ銃といった装置から照射したイオンを用いることもできる。
【0069】
上記のイオン照射においては、イオン発生装置のイオン照射部を、基材における蒸着させようとする表面側、すなわち、基材の蒸着面に向けて、イオンを照射することが好ましい。
【0070】
イオン照射条件としては、ヒドロシリル基含有化合物、アルコキシシリル基含有化合物および触媒の特性等に応じて適宜選択することができるが、一態様として、上記イオン照射は、イオンに対し電圧(イオン加速電圧)を印加して、イオンを加速させて行うことが好ましい。当該イオン加速電圧は、特に制限はないが、強固なケイ素含有ポリマー層を形成し易いという観点から、好ましくは0.1kV以上、より好ましくは0.2kV以上、特に好ましくは0.3kV以上、さらに好ましくは0.5kV以上である。また、同様の観点から、好ましくは10.0kV以下、より好ましくは5.0kV以下、特に好ましくは3.0kV以下、さらに好ましくは2.0kV以下である。
【0071】
また、上記イオン照射は、その途中で照射条件を変更してもよい。例えば、初期の段階ではイオン照射を行うものの、所定のタイミングでイオン照射を停止させてもよい。このように、初期にイオン照射することで、基材と蒸着膜との密着性を発現できると同時に、途中でイオン照射を停止することで、蒸着後半の堆積物を改質することなく、低極性および軽剥離性の蒸着膜を得易くなる。イオン照射を停止するタイミングは、例えば、形成される蒸着膜の厚さに基づいて決定することができる。一例として、目標厚さの半分まで達した段階で、イオン照射を提供することができる。
【0072】
イオン加速電圧を印加する方法は、特に制限はないが、例えば、加速されたイオンがより照射され易くなる観点から、基材を保持するための基板ホルダーに対して電圧を印加することによって行うことが好ましい。基材を保持するための基板ホルダーは、減圧容器内に設けられ、電圧が印加可能な基板ホルダーを用いることが好ましく、さらに、温度調節が可能な基板ホルダーを用いることもできる。また、当該基板ホルダーは、固定式であってもよいし、連続製造可能なように、回転ドラムやコンベア等のように一定速度で移動するものであってもよい。連続製造時には、基板ホルダー上に、例えば、基材として長尺の樹脂シート等を保持しながら運転することで、長尺の表面処理物品を製造してもよい。
【0073】
イオン照射は、ケイ素含有ポリマー層の膜強度の観点から、蒸着面積1cm2あたり、イオン照射量が0.01μA/cm2以上となる条件で行うことが好ましい。同様の観点から、イオン照射量は、より好ましくは0.05μA/cm2以上、特に好ましくは0.2μA/cm2以上、さらに好ましくは0.4μA/cm2以上である。また、副反応の抑制の観点から、上記イオン照射量は、好ましくは1000μA/cm2以下、より好ましくは500μA/cm2以下、特に好ましくは200μA/cm2以下、さらに好ましくは100μA/cm2以下である。なお、イオン照射量は変動するため、イオン照射量の変動範囲の最大値を、「イオン照射量」とする。
【0074】
イオン照射を行うにあたりイオン源となる気体を減圧した容器内に導入する場合、減圧した容器内の圧力(真空度)としては、ケイ素含有ポリマー層を形成できる限り、特に制限はないが、例えば、減圧容器を減圧するための設備への負荷を低減する観点から、好ましくは5.0×10-5Torr以下、より好ましくは4.0×10-5Torr以下、特に好ましくは3.0×10-5Torr以下である。また、当該圧力の下限値の範囲は、特に制限はないが、ケイ素含有ポリマー層をより形成し易くする観点から、前述した蒸着のための好ましい圧力以上の圧力とすることが好ましく、より好ましくは2.0×10-5Torr以上である。
【0075】
なお、以上のイオンアシスト蒸着法に代えて、真空蒸着とともにエネルギー線照射を行う方法を採用して重合反応の促進をしてもよい。エネルギー線としては、例えば、公知のγ線、電子線、紫外線等が挙げられ、良好な密着性を得易い観点からは、γ線および電子線のいずれかを使用することが好ましい。
【0076】
上記エネルギー線照射においては、エネルギー線発生装置のエネルギー線照射部を、基材における蒸着させようとする表面側、すなわち、基材の蒸着面に向けて、エネルギーを照射することが好ましい。
【0077】
エネルギー線の照度、光量等のエネルギー線照射条件などは、ヒドロシリル基含有化合物、アルコキシシリル基含有化合物および触媒の特性等に応じて、適宜選択することができる。
【0078】
ケイ素含有ポリマー層と基材との十分な密着性を得る観点から、蒸着と、イオン照射またはエネルギー線照射とは、同時に行うことがより好ましい。同時に行うことにより、基材の表面に各成分が蒸着すると同時にイオン等と衝突して基材表面との結合形成や材料分子同士の結合が形成されるため、得られるケイ素含有ポリマー層中に未反応の成分が残存し難くなると考えられる。また、イオン等のエネルギーは、イオン等が衝突する蒸着膜の表面で最も運動エネルギーが伝わるため、各成分が活性化され反応がより進み易くなる。一方で、蒸着膜の深部(基材側に近い部分)に進むほど、二次、三次衝突した分子の衝突エネルギーとなるために、各成分の反応に供されるエネルギー量が少なくなる。そのため、蒸着と、イオン照射またはエネルギー線照射とを同時に行うことで、イオン等の衝突エネルギーをより有効に利用でき、各成分の反応が進み易くなり、得られるケイ素含有ポリマー層内に未反応の成分が、より一層残存し難くなると考えられる。したがって、蒸着と、イオン照射またはエネルギー線照射とを同時に行うことで、ケイ素含有ポリマー層の基材に対する十分な密着性を達成し易くなると考えられる。
【0079】
なお、上述の通り使用される減圧容器については、特に制限はなく、公知の蒸着重合で使用される真空容器等を用いることができる。また、上記減圧容器は、前述した各種装置の他、必要に応じて、各成分の蒸着やイオン等の基材表面への照射を遮断するためのシャッター、蒸着膜やケイ素含有ポリマー層の厚さを測定するための膜厚モニター、圧力モニター、ニュートラライザー(中和器)、所望の成分のトラップ、排気設備等のその他の設備を備えていてもよい。
【0080】
3.表面処理物品
本実施形態に係る表面処理方法によって製造される表面処理物品は、基材と、当該基材の少なくとも一部の表面に設けられたケイ素含有ポリマー層とを備える。ここで、本実施形態における表面処理物品は、基材およびケイ素含有ポリマー層の組成、物性、形状等に応じて、剥離シート、撥水処理物品等として使用することができる。
【0081】
(1)剥離シート
本実施形態における表面処理物品を剥離シートとして製造する場合、基材はシート状であることが好ましい。そして、この場合、ケイ素含有ポリマー層は、剥離層として機能するものとなる。
【0082】
上記基材の厚さとしては、剥離シートの用途に応じて適宜設定することができる。一般的には、ハンドリング性の観点から、10μm以上であることが好ましく、特に15μm以上であることが好ましく、さらには20μm以上であることが好ましい。また、同様の観点から、基材の厚さは、500μm以下であることが好ましく、特に300μm以下であることが好ましく、さらには200μm以下であることが好ましい。
【0083】
上記基材の材料としては、ケイ素含有ポリマー層(剥離層)を積層することができれば特に限定されるものではない。かかる基材としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、ポリブテン、ポリブタジエン、ポリメチルペンテン、アクリルウレタン、シクロオレフィンポリマー、ポリフェニレンスルフィド、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体、ABS樹脂、アイオノマー樹脂、各種熱可塑性エラストマーなどの樹脂からなる樹脂フィルム、またはそれらの積層フィルム;上質紙、コート紙、グラシン紙、クラフト紙、ポリエチレンラミネート紙等の紙類からなるシート材料などが挙げられる。これらのシート材料は、単層であってもよいし、同種又は異種の2層以上の多層であってもよい。
【0084】
樹脂フィルムは、公知のフィラー、着色剤、帯電防止剤、酸化防止剤、有機滑剤、触媒等を含有してもよい。また、樹脂フィルムは、透明なものであってもよいし、所望により着色等されていてもよい。
【0085】
樹脂フィルムにおいては、その表面に設けられるケイ素含有ポリマー層(剥離層)との密着性を向上させる目的で、所望により片面または両面に、酸化法や凹凸化法などによる表面処理、あるいはプライマー処理を施すことができる。上記酸化法としては、例えばコロナ放電処理、プラズマ放電処理、クロム酸化処理(湿式)、火炎処理、熱風処理、オゾン、紫外線照射処理などが挙げられ、また、凹凸化法としては、例えばサンドブラスト法、溶射処理法などが挙げられる。これらの表面処理法は、プラスチックフィルムの種類に応じて適宜選ばれるが、一般にコロナ放電処理法が効果および操作性の面から好ましく用いられる。
【0086】
本実施形態に係る表面処理方法によって製造された剥離シートの剥離力は、用途に応じて適宜設定することができる。例えば、当該離剥離力は、特に2000mN/20mm以下であることが好ましく、さらには1000mN/20mm以下であることが好ましく、500mN/20mm以下であることが最も好ましい。本実施形態に係る表面処理方法によれば、上記のように低い剥離力を有する剥離シートを製造することができる。一方、上記剥離力は、ハンドリング性を考慮すると、10mN/20mm以上であることが好ましく、特に20mN/20mm以上であることが好ましく、さらに30mN/20mm以上であることが好ましい。なお、本明細書における剥離力の測定方法の詳細は、後述する試験例に記載の通りである。
【0087】
(2)撥水処理物品
本実施形態における表面処理物品を撥水処理物品として製造する場合、基材の材料、形状等は目的に応じて適宜選択することができる。例えば、基材の材料としては、ガラス、金属、樹脂等が挙げられる。ガラス製の基材を使用する場合、撥水処理物品として、例えば撥水処理済みの窓材を得ることができる。金属製の基材を使用する場合、撥水処理物品として、例えば撥水処理済みの建築用鋼材を得ることができる。樹脂製の基材を使用する場合、撥水処理物品として、例えば撥水処理済みの化粧シート、マーキングフィルム等を得ることができる。また、基材の形状としては、シート状であってよく、また、立体的な形状であってもよい。
【0088】
そして、本実施形態における表面処理物品を撥水処理物品として製造する場合、ケイ素含有ポリマー層は、撥水層として機能するものとなる。撥水性に関し、撥水層の基材とは反対側の面における静的接触角は、撥水の目的に応じて適宜選択できるものの、例えば、90°以上であることが好ましく、特に93°以上であることが好ましく、さらには95°以上であることが好ましい。静的接触角の上限値についても適宜選択でき、例えば、110°以下であることが好ましく、特に105°以下であることが好ましく、さらには100°以下であることが好ましい。
【0089】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【実施例0090】
以下、実施例等により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例等に限定されるものではない。
【0091】
[剥離処理]
〔実施例1〕
基材として、厚さ100μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(三菱ケミカル社製,製品名「ダイアホイル(登録商標)T100」)を用意し、当該基材を、減圧容器であるチャンバー内の基板ホルダー上に保持した。一方、上記チャンバー内に、3つのるつぼを原料容器として設置した。そして、これらのるつぼのそれぞれに、ヒドロシリル基含有化合物としての両末端ハイドロジェンシロキサン(三菱ケミカル社製,製品名「DMS-H11」,表1中「A-1」と記載)、アルコキシシリル基含有化合物としての1,6-ビス(トリエトキシシリル)ヘキサン(東京化成工業社製,分子量:326.54g/mol,表1中「B-1」と記載)、および、触媒としてのトリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン(東京化成工業社製,分子量:511.88g/mol)を表1に記載した質量で充填した。その後、上記チャンバー内の真空度を1.0×10-5Torrまで減圧した。
【0092】
次に、ヒドロシリル基含有化合物を充填したるつぼを170℃に、アルコキシシリル基含有化合物を充填したるつぼを130℃に、触媒を充填したるつぼを60℃にそれぞれ加熱し、3種の材料を蒸発させた。蒸発した3種の材料は、るつぼから上記基材の一方の表面に向けて放出されるようになっており、この操作により、上記基材表面上に3種の材料を蒸着した。これにより、上記基材の片面に、上記ヒドロシリル基含有化合物と上記アルコキシシリル基含有化合物とが重合してなる厚さ100nmのケイ素含有ポリマー層(剥離層)を備える剥離シートを得た。
【0093】
なお、基材の厚さは、定圧厚さ測定器(テクロック社製,製品名「PG-02J」)を使用し、JIS K6783:1994、JIS Z1702:1994およびJIS Z1709:1995に準拠して測定した。また、剥離層の厚さは、分光エリプソメーター(ジェー・エー・ウーラム・ジャパン社製,製品名「M-2000」)を用いて測定した。これ以降の実施例および比較例においても同様である。
【0094】
〔実施例2〕
基材として、厚さ100μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(三菱ケミカル社製,製品名「ダイアホイル(登録商標)T100」)を用意し、当該基材を、減圧容器であるチャンバー内の基板ホルダー上に保持した。一方、上記チャンバー内に、3つのるつぼを原料容器として設置した。そして、これらのるつぼのそれぞれに、ヒドロシリル基含有化合物としての両末端ハイドロジェンシロキサン(三菱ケミカル社製,製品名「DMS-H11」,表1中「A-1」と記載)、アルコキシシリル基含有化合物としての1,6-ビス(トリエトキシシリル)ヘキサン(東京化成工業社製,分子量:326.54g/mol,表1中「B-1」と記載)、および、触媒としてのトリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン(東京化成工業社製,分子量:511.88g/mol)を、表1に記載した質量で充填した。その後、上記チャンバー内の真空度を1.0×10-5Torrまで減圧した。
【0095】
一方、上記チャンバー内に設けられた、外側にタングステンフィラメントからなる陰極、内側にグリッド状の陽極が配置され、内部がアルゴンガスで充満される電子発生装置を用いて、上記チャンバー内の真空度が2.0×10-5Torrになるようにアルゴンガスを導入した。
【0096】
次に、ヒドロシリル基含有化合物を充填したるつぼを170℃に、アルコキシシリル基含有化合物を充填したるつぼを130℃に、触媒を充填したるつぼを60℃にそれぞれ加熱し、3種の材料を蒸発させた。また、当該加熱と同時に、上記タングステンフィラメントを加熱し、加熱したタングステンフィラメントから発生した熱電子が上記グリッド状の陽極へ向かうように電圧を印加した。この操作によりアルゴンガスをイオン化した。
【0097】
さらに、上記基材を保持する基板ホルダーに所定電圧(基板電圧(イオン加速電圧))を印加した。このようにして、基材表面に蒸着される3種の材料に対してイオン照射を行った。当該イオン照射のイオン照射量は、電子発生装置の熱電子量を制御することで調整した。基板電圧および蒸着面積1cm2あたりのイオン照射量は、表1の通りとした。
【0098】
以上により、上記基材の片面に、上記ヒドロシリル基含有化合物と上記アルコキシシリル基含有化合物とが重合してなる厚さ100nmの剥離層を備える剥離シートを得た。
【0099】
〔実施例3〕
厚さ100μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(三菱ケミカル社製,製品名「ダイアホイル(登録商標)T100」)に対し、UVオゾンクリーナー(日本レーザ電子社製,製品名「NLUV2535」)を用いて20分間オゾン処理を施した。当該フィルムを基材として使用するとともに、ヒドロシリル基含有化合物、アルコキシシリル基含有化合物および触媒の使用量を表1に記載の通り変更した以外、実施例1と同様にして剥離シートを得た。
【0100】
〔実施例4~5〕
実施例3と同様にオゾン処理を施した基材を使用するとともに、ヒドロシリル基含有化合物、アルコキシシリル基含有化合物および触媒の使用量を表1に記載の通り変更し、さらに、イオン照射のイオン量を表1に記載の通り変更した以外、実施例2と同様にして剥離シートを得た。
【0101】
〔実施例6〕
ヒドロシリル基含有化合物、アルコキシシリル基含有化合物および触媒の使用量を表1に記載の通り変更するとともに、剥離層が目標厚さの半分を超えた段階でイオン照射を停止し、それ以降は、イオン照射を行うことなく目標厚さまで蒸着した以外は、実施例4と同様にして剥離シートを得た。
【0102】
〔実施例7〕
ヒドロシリル基含有化合物および触媒の使用量を表1に記載の通り変更するとともに、イオン照射のイオン量を表1に記載の通り変更した以外、実施例6と同様にして剥離シートを得た。
【0103】
〔実施例8~10〕
ヒドロシリル基含有化合物およびアルコキシシリル基含有化合物の種類を表1に記載の通り変更するとともに、ヒドロシリル基含有化合物、アルコキシシリル基含有化合物および触媒の使用量を表1に記載の通り変更した以外、実施例4と同様にして剥離シートを得た。
【0104】
なお、実施例8および10で使用した表1中「A-2」で示されるヒドロシリル基含有化合物は、側鎖型ハイドロジェン変性シリコーン(信越化学工業株式会社製,製品名「KF-99」)である。このヒドロシリル基含有化合物を充填したるつぼの加熱温度は200℃とした。また、表1中「B-2」で示されるアルコキシシリル基含有化合物は、両末端アルコキシ変性シリコーンオリゴマー(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製,製品名「XC-96-C2813」)である。このアルコキシシリル基含有化合物を充填したるつぼの加熱温度は220℃とした。
【0105】
〔比較例1〕
アルコキシシリル基含有化合物を使用することなく、且つ、ヒドロシリル基含有化合物および触媒の使用量を表1に記載の通り変更した以外、実施例7と同様にして剥離シートを得た。
【0106】
〔比較例2〕
アルコキシシリル基含有化合物を使用することなく、且つ、ヒドロシリル基含有化合物および触媒の使用量を表1に記載の通り変更した以外、実施例5と同様にして剥離シートを得た。
【0107】
〔試験例1〕(密着性の評価)
実施例および比較例で製造した剥離シートにおける剥離層側の面を指で擦り、剥離層の脱落の有無を目視で確認した。そして、以下の基準に基づいて、剥離層と基材との間における密着性を評価した。結果を表1に示す。
1:剥離層の脱落が生じた。
2:剥離層の脱落は生じないものの、表面が削れた(スミア)。
3:剥離層の脱落も表面の削れも生じなかった。
【0108】
〔試験例2〕(剥離力の測定)
実施例および比較例で得られた剥離シートを、23℃、50%RHの環境下で1日以上保管したものを試験対象の剥離シートとした。当該剥離シートについて、その剥離面に、幅20mmの粘着テープ(日東電工社製,製品名「No.31B」)を、2kgローラーを1往復させて貼付した後、23℃、50%RHの環境下で30分静置し、これを剥離力測定用のサンプルとした。当該サンプルを万能引張試験機(島津製作所製,製品名「オートグラフAGS-20NX」)に固定し、JIS Z0237:2009に準拠して、180°方向に引張速度300mm/分の速度で剥離層から粘着テープを剥離させることにより、剥離シートの剥離力(mN/20mm)を測定した。測定結果を表1に示す。
【0109】
〔試験例3〕(シリコーン移行量の測定)
試験例2で使用した粘着テープ粘着面について、X線光電子分光分析法(XPS)によって測定されるケイ素原子(Si)、炭素原子(C)及び酸素原子(O)の量(XPSカウント数)に基づき、下記の式によりケイ素原子比率(原子%)を算出した。結果を表1に示す。なお、ケイ素原子比率が高いほど、シリコーン成分の移行量が多いことを表す。
ケイ素原子比率(原子%)=[(Si元素量)/{(C元素量)+(O元素量)+(Si元素量)}]×100
【0110】
【0111】
表1から分かるように、実施例に係る表面処理方法で製造された剥離シートは、十分な剥離性を発揮しながらも、シリコーン成分の移行量を十分低減できるものであった。また、上述した表面処理方法の説明から明らかな通り、実施例に係る表面処理方法は、有機溶媒を使用することなく実施可能であり、環境負荷を低減できるものであった。
【0112】
[撥水処理]
〔実施例11〕
基材として、アルミニウムを蒸着したガラスを用意し、当該基材を、減圧容器であるチャンバー内の基板ホルダー上に保持した。このとき、アルミニウムの蒸着面に対して、後述する撥水処理が施されるように設置した。一方、上記チャンバー内に、3つのるつぼを原料容器として設置した。そして、これらのるつぼのそれぞれに、ヒドロシリル基含有化合物としての両末端ハイドロジェンシロキサン(三菱ケミカル社製,製品名「DMS-H11」)、アルコキシシリル基含有化合物としての1,6-ビス(トリエトキシシリル)ヘキサン(東京化成工業社製,分子量:326.54g/mol,表2中「B-1」と記載)、および、触媒としてのトリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン(東京化成工業社製,分子量:511.88g/mol)を、表2に記載した質量で充填した。その後、上記チャンバー内の真空度を1.0×10-5Torrまで減圧した。
【0113】
次に、ヒドロシリル基含有化合物を充填したるつぼを170℃に、アルコキシシリル基含有化合物を充填したるつぼを130℃に、触媒を充填したるつぼを60℃にそれぞれ加熱し、3種の材料を蒸発させた。蒸発した3種の材料は、るつぼから上記基材の一方の表面に向けて放出されるようになっており、この操作により、上記基材表面上に3種の材料を蒸着した。これにより、上記基材の片面に、上記ヒドロシリル基含有化合物と上記アルコキシシリル基含有化合物とが重合してなる厚さ100nmの撥水層を備える撥水処理物品を得た。
【0114】
〔実施例12~13〕
アルコキシシリル基含有化合物の種類を表2に通り変更するとともに、ヒドロシリル基含有化合物、アルコキシシリル基含有化合物および触媒の使用量を表2に記載の通り変更した以外、実施例11と同様にして撥水処理物品を得た。
【0115】
なお、実施例12および13で使用した表2中「B-2」で示されるアルコキシシリル基含有化合物は、両末端アルコキシ変性シリコーンオリゴマー(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製,製品名「XC-96-C2813」)である。このアルコキシシリル基含有化合物を充填したるつぼの加熱温度は220℃とした。
【0116】
〔比較例3〕
ヒドロシリル基含有化合物を使用せず、且つ、アルコキシシリル基含有化合物および触媒の使用量を表2に記載の通り変更した以外、実施例11と同様にして撥水処理物品を得た。
【0117】
〔比較例4〕
触媒を使用せず、且つ、ヒドロシリル基含有化合物およびアルコキシシリル基含有化合物の使用量を表2に記載の通り変更した以外、実施例11と同様にして撥水処理物品を得た。
【0118】
〔比較例5〕
アルコキシシリル基含有化合物および触媒を使用せず、且つ、ヒドロシリル基含有化合物の使用量を表2に記載の通り変更した以外、実施例11と同様にして撥水処理物品を得た。
【0119】
〔試験例4〕(ヒドロシリル基の有無の確認)
実施例および比較例で製造した撥水処理物品について、高感度反射法(RAS法)によるフーリエ変換赤外分光法(FT-IR)により、ヒドロシリル基含有化合物に含まれるヒドロシリル(Si-H)基由来の振動伸縮の波数(2000-2150cm-1)の吸収スペクトルが消失しているか、残存しているかを確認した。結果を表2に示す。なお、ヒドロシリル基含有化合物を使用していない比較例3については、撥水性は得られたものの、スペクトルを検出できる程度に堆積しておらず、Si-H基の有無を確認できなかった。
【0120】
上記試験において、「消失」と評価された例では、アルコキシシリル基含有化合物が有するアルコキシシリル基との反応により、ヒドロシリル基含有化合物のヒドロシリル基が消失していることを意味する。換言すれば、アルコキシシリル基含有化合物とヒドロシリル基含有化合物との反応が良好に進行したことを意味する。これに対し、「残留」と評価された例では、アルコキシシリル基含有化合物とヒドロシリル基含有化合物との反応が十分に進行しなかったことを意味する。
【0121】
〔試験例5〕(静的接触角の測定)
実施例および比較例で製造した撥水処理物品における撥水処理面に対し、23℃、50%RHの環境下で純水を2μl滴下し、その際の静的接触角(°)を、全自動接触角計(協和界面科学社製,製品名「DM701」)を用いて測定した。結果を表2に示す。
【0122】
〔試験例6〕(浸漬後の膜厚割合の測定)
実施例および比較例で製造した撥水処理物品を2.0cm×2.5cmのサイズにカットし、測定サンプルとした。当該測定サンプルを、23℃のアセトン20ml中に2時間に浸漬させた。その後、顕微鏡(キーエンス社製,製品名「ナノスケールハイブリッド顕微鏡VN-8000/8010」)を用いて、剥離層の厚さを測定した。そして、以下の式から、浸漬後の膜厚割合(%)を算出した。結果を表1に示す。
膜厚割合(%)=(浸漬試験後の膜厚)/(浸漬試験前の膜厚)
【0123】
【0124】
表2から分かるように、実施例に係る表面処理方法で製造された剥離シートは、十分な撥水性を発揮するものであった。そして、ヒドロシリル基由来の吸収スペクトルが消失していることから、撥水層内において、ヒドロシリル基含有化合物とアルコキシシリル基含有化合物との反応が十分に進行していることがわかった。さらに、アセトンに浸漬した後においても撥水層が十分に残留していたことから、撥水層が強固に硬化していることがわかった。また、上述した表面処理方法の説明から明らかな通り、実施例に係る表面処理方法は、有機溶媒を使用することなく実施可能であり、環境負荷を低減できるものであった。
本発明の表面処理方法は、剥離シートの製造や、物品の撥水処理に好適に使用することができる。さらに、本発明の表面処理方法は、物品の防汚処理、防錆処理、エアバッグ(シリコーン含侵布帛)の製造、摺動部材等のための易滑処理等の分野への適用が期待できる。