(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024176978
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】磁気共鳴イメージング装置及びそのキャリブレーション方法
(51)【国際特許分類】
A61B 5/055 20060101AFI20241212BHJP
【FI】
A61B5/055 370
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023095900
(22)【出願日】2023-06-09
(71)【出願人】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000888
【氏名又は名称】弁理士法人山王坂特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 康弘
(72)【発明者】
【氏名】濱田 康太
(72)【発明者】
【氏名】堀尾 秀之
(72)【発明者】
【氏名】池川 彩夏
【テーマコード(参考)】
4C096
【Fターム(参考)】
4C096AB01
4C096AB39
4C096AB44
4C096AD07
4C096BB18
4C096BB31
(57)【要約】
【課題】MR検査において検査時間の延長を招くことなく、自動キャリブレーションの精度を向上すること。
【解決手段】本撮像の前に実施されるキャリブレーションの範囲を、本撮像範囲と、それ以外の空間情報を参照して決定する。空間情報は、被検体領域、均一磁場領域、装置の構造的制限など、MR信号発生範囲を推定できる情報からなり、キャリブレーション範囲は、それに含まれるMR信号発生範囲の割合を極力高くなるように決定される。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
静磁場空間に置かれた被検体から生じる核磁気共鳴信号を収集し、被検体の画像を取得する本撮像及び当該本撮像に必要なキャリブレーションデータを収集するキャリブレーション撮像を行う撮像部と、前記撮像部の動作を制御する制御部とを備え、
前記制御部は、前記キャリブレーション撮像の範囲を設定するキャリブレーション範囲設定部を有し、当該キャリブレーション範囲設定部は、予め設定された本撮像範囲と本撮像範囲以外の空間情報を用いて、キャリブレーション範囲を設定することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項2】
請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記キャリブレーション範囲設定部は、前記本撮像範囲以外の空間情報として、静磁場均一範囲、傾斜磁場範囲、送受信感度範囲、ガントリ空間情報、及び被検体範囲のいずれか一つ以上を用いることを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項3】
請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記キャリブレーション範囲設定部は、前記本撮像範囲以外の空間情報を用いて、核磁気共鳴信号が発生する信号発生範囲を推定し、当該信号発生範囲を用いてキャリブレーション範囲を設定することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項4】
請求項3に記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記本撮像範囲以外の空間情報は、被検体範囲と、静磁場均一範囲、傾斜磁場範囲、送受信感度範囲、及びガントリ空間情報の少なくとも一つを含み、
前記キャリブレーション範囲設定部は、前記被検体範囲と、それ以外の空間情報とを用いて、前記信号発生範囲を推定することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項5】
請求項3に記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記キャリブレーション範囲設定部は、キャリブレーション範囲を占める前記信号発生範囲の割合(信号充填率)を最大化するように前記キャリブレーション範囲を設定することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項6】
請求項2に記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記キャリブレーション範囲設定部は、前記本撮像範囲の中心と前記被検体範囲の中心とがずれている場合に、被検体範囲と重ならない本撮像範囲の部分を除外してキャリブレーション範囲を設定することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項7】
請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記撮像部は、異なる本撮像範囲を設定して複数の本撮像を行うものであり、
前記制御部は、1の本撮像後に、当該1の本撮像に対し行ったキャリブレーション撮像のキャリブレーション範囲が、次の本撮像に対するキャリブレーション撮像に適用可能かを判断し、適用可能な場合に、前記次の本撮像に対するキャリブレーション撮像を行わないことを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項8】
請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記キャリブレーション範囲設定部が設定したキャリブレーション範囲を表示するとともに前記キャリブレーション範囲の変更を受け付けるUI部をさらに備えることを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項9】
被検体の画像を取得する本撮像に先立って本撮像に必要なキャリブレーションデータを収集するキャリブレーション方法であって、キャリブレーション範囲を設定するステップを含み、
前記キャリブレーション範囲を設定するステップは、
予め設定された本撮像範囲と、本撮像範囲以外の空間情報とを組み合わせて、キャリブレーション範囲を設定することを特徴とするキャリブレーション方法。
【請求項10】
請求項9に記載のキャリブレーション方法であって、
前記本撮像範囲以外の空間情報を用いて、核磁気共鳴信号が発生する信号発生範囲を推定するステップをさらに含み、
前記キャリブレーション範囲を設定するステップは、当該信号発生範囲を用いてキャリブレーション範囲を設定することを特徴とするキャリブレーション方法。
【請求項11】
請求項10に記載のキャリブレーション方法であって、
前記キャリブレーション範囲を設定するステップは、キャリブレーション範囲を占める前記信号発生範囲の割合(信号充填率)を最大化するように前記キャリブレーション範囲を設定することを特徴とするキャリブレーション方法。
【請求項12】
請求項9に記載のキャリブレーション方法であって、
前記本撮像範囲以外の空間情報は、静磁場均一範囲、傾斜磁場範囲、送受信感度範囲、ガントリ空間情報、及び被検体範囲のいずれかを含むことを特徴とするキャリブレーション方法。
【請求項13】
請求項12に記載のキャリブレーション方法であって、
前記キャリブレーション範囲を設定するステップは、
前記本撮像範囲の中心と前記被検体範囲の中心とがずれている場合に、前記被検体範囲を含んでキャリブレーション範囲を設定することを特徴とするキャリブレーション方法。
【請求項14】
請求項12に記載のキャリブレーション方法であって、
前記被検体範囲のうち、静磁場均一範囲に含まれない部分を前記キャリブレーション範囲から除いてキャリブレーション範囲を設定することを特徴とするキャリブレーション方法。
【請求項15】
請求項12に記載のキャリブレーション方法であって、
前記キャリブレーション範囲を設定するステップは、
前記ガントリ空間情報を用いて、前記本撮像範囲から被検体の配置が制限される領域を除いてキャリブレーション範囲を設定することを特徴とするキャリブレーション方法。
【請求項16】
請求項12に記載のキャリブレーション方法であって、
本撮像は、本撮像範囲が異なる複数の本撮像を含み、
前記キャリブレーション範囲を設定するステップは、前の本撮像について設定されているキャリブレーション範囲がある場合に、設定済のキャリブレーション範囲を流用するかを判定するステップを含むことを特徴とするキャリブレーション方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気共鳴イメージング装置(以下、MRI装置という)に係り、特にMRI装置の撮像前に実施されるキャリブレーション技術に関する。
【背景技術】
【0002】
MRI装置は均一な静磁場を発生させた撮像空間、被検体に高周波磁場を印加し、被検体から生じる核磁気共鳴信号を取得し画像化する。MRI装置で高画質を得るためには、静磁場、照射される高周波磁場、核磁気共鳴信号を受信する受信感度分布の均一性が高いことが重要となるが、これらは被検体や装置側の要因で様々な誤差を含んでいる。このため従来のMRI装置では、撮像前に多くのキャリブレーション(較正)撮像を実施し、様々な誤差を低減している。キャリブレーションの項目には、上述した静磁場分布(B0分布)、送信感度分布(B1分布)及び受信感度分布のほか、被検体外形、照射ゲイン、受信ゲイン、中心周波数、などが含まれる。
【0003】
キャリブレーション撮像は、本撮像に先立って行われ、キャリブレーション撮像の結果は、本撮像の撮像条件や撮像後の画像再構成に利用され、誤差を低減した画像を得るようにしている。例えば、特許文献1には、キャリブレーションデータとして送信磁場と静磁場の位相を求め、本撮像におけるB0マップやB1マップを補正することが開示されている。また特許文献2には、キャリブレーション撮像によって受信感度分布を取得し、本撮像の画像再構成に用いることが開示されている。
【0004】
従来、キャリブレーション撮像は、本撮像の撮像位置(本撮像範囲)が決まると、本撮像範囲を参照して自動的に実施される。例えば特許文献2(
図5)には、検査部位を含むオブリークの撮像断面に対し、それを含む被検体より広い幅の領域をキャリブレーション範囲とすることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-153573号公報
【特許文献2】特開2015-119866号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、被検体の配置などによってはキャリブレーションの精度が低下し、画質劣化につながることがある。例えば、被検体の左右中心から離れた場所が検査部位である場合、例えば左右いずれかの肩や四肢の場合、本撮像範囲はその検査部位を静磁場中心に位置付けた状態で、検査部位を中心とする所定の範囲となる。本撮像範囲を含むようにキャリブレーション範囲を設定した場合、キャリブレーション範囲から外れた位置にも被検体領域が存在する可能性がある。キャリブレーション範囲外に存在する被検体はキャリブレーション結果が反映されないため、もし次の本撮像で撮像範囲を変更してキャリブレーション範囲外領域が本撮像範囲に含まれる場合、誤差が正しく補正されていない画像になるおそれがある。具体的には、受信コイル感度分布のキャリブレーション範囲外になると、感度分布データが正しく作成されないため、信号の再構成ができなくなる。また、静磁場分布のキャリブレーション範囲外になると、シミング計算データが正しく作成されないため、脂肪信号の抑制ができなくなる。
【0007】
画質劣化を防ぐために、自動キャリブレーションを再実行したり、特許文献2に開示されるように、被検体全幅を含むようにキャリブレーション範囲を広げてキャリブレーション撮像したりした場合、撮像時間が長時間化し、検査時間が延長する。
【0008】
本発明は、検査時間の延長を招くことなく、自動キャリブレーションの精度を向上することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、本撮像範囲に加えて、装置を構成する各要素或いは被検体に係る空間的情報を参照して、キャリブレーション撮像条件を適正化する。これにより冗長なキャリブレーションを回避し、自動キャリブレーションの精度を向上する。
【0010】
即ち本発明のMRI装置は、静磁場空間に置かれた被検体から生じる核磁気共鳴信号を収集し、被検体の画像を取得する本撮像及び当該本撮像に必要なキャリブレーションデータを収集するキャリブレーション撮像を行う撮像部と、撮像部の動作を制御する制御部とを備え、制御部は、キャリブレーション撮像の範囲を設定するキャリブレーション範囲設定部を有する。キャリブレーション範囲設定部は、予め設定された本撮像範囲と本撮像範囲以外の空間情報を用いて、キャリブレーション範囲を設定する。
【0011】
また本発明のキャリブレーション方法は、被検体の画像を取得する本撮像に先立って本撮像に必要なキャリブレーションデータを収集するキャリブレーション方法であって、キャリブレーション範囲を設定するステップを含む。キャリブレーション範囲を設定するステップは、予め設定された本撮像範囲と、本撮像範囲以外の空間情報とを組み合わせて、キャリブレーション範囲を設定する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、キャリブレーションの対象項目について、装置、その要素或いは被検体の空間的条件を考慮してキャリブレーション範囲を設定し、キャリブレーションを実行するので、効率的に本来必要な空間におけるキャリブレーション結果を得ることができる。それにより、キャリブレーションの再実行や広すぎる範囲設定など検査時間の延長につながる無駄をなくし、且つ精度の良いキャリブレーション結果を得ることができる。結果として短い検査時間で画質の良い画像を取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明が適用されるMRI装置の全体概要を示す図
【
図2】実施形態のMRI装置の制御部の機能ブロック図
【
図3】実施形態のキャリブレーション処理の流れを示す図
【
図4】キャリブレーション範囲における信号充填率を説明する図
【
図5】実施形態1のキャリブレーション範囲の設定を説明する図
【
図6】実施形態1の変形例1のキャリブレーション範囲の設定を説明する図
【
図7】実施形態1の変形例2のキャリブレーション範囲の設定を説明する図
【
図8】垂直磁場方式MRI装置におけるキャリブレーション範囲の設定を説明する図
【
図9】実施形態2のキャリブレーション範囲の設定を説明する図
【
図10】実施形態2のキャリブレーション範囲の設定を説明する図
【
図11】実施形態3のキャリブレーション範囲の設定を説明する図
【
図12】実施形態4のキャリブレーション範囲の設定を説明する図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0015】
本発明のMRI装置は、大きく分けて、静磁場空間に配置された被検体に核磁気共鳴を生じさせて、被検体から発生する核磁気共鳴信号(以下、MR信号という)を収集し被検体の画像を取得する撮像部と、撮像部の動作を制御する制御部と、からなる。撮像部が行う撮像には、被検体の画像を取得するため撮像(以下、本撮像という)のほかに、本撮像に用いるキャリブレーションデータを収集するためのキャリブレーション撮像が含まれる。制御部は、このようなキャリブレーション撮像を含めて撮像部の動作を制御する。
【0016】
本発明のMRI装置は、キャリブレーションに係る機能以外の装置の構成は、従来のMRI装置と同様である。以下、装置の概略を説明する。
図1に本発明が適用されるMRI装置の一例を示す。
【0017】
図1に示すように、MRI装置1は、静磁場発生系11、傾斜磁場発生系12、送信系13、受信系14及びシーケンサ15を有する撮像部10と、CPU21を含む制御部20と、UI部30とを備えている。静磁場発生系11は、図示していないが超電導磁石或いは常電動磁石、または永久磁石などの静磁場を発生する磁石からなり、被検体50が置かれる静磁場空間(撮像空間)を提供する。被検体50は寝台60に載置された状態で、静磁場空間に挿入される。発生する静磁場の方向によって水平磁場方式或いは垂直磁場方式のMRI装置がある。本発明はいずれの方式のMRI装置にも適用可能である。
【0018】
傾斜磁場発生系12は、静磁場発生系11が発生する静磁場に3軸方向の勾配を与えるもので3軸方向の傾斜磁場コイル121とそれらの電源121とを備える。送信系13は、高周波発信器131、変調器132、高周波増幅器133及び高周波コイル134を備え、被検体50にパルス状の高周波磁場を印加する。受信系134は被検体50から発生するMR信号を受信する高周波コイル141、増幅器142、直交位相検波器143及びA/D変換器144を備える。シーケンサ15は、所定のパルスシーケンスに従って、傾斜磁場発生系12、送信系13及び受信系14を動作させる。撮像部10の各要素の動作は一般的なMRI装置と同様であるので、詳細な説明は省略する。
【0019】
制御部20は、撮像部10の動作全体を制御するとともに、MR信号を用いた画像再構成や再構成された画像を用いた種々の演算などを行う。制御部20は、メモリ(ROM、RAM)22やCPU21を備えた計算機で構成することができる。但し制御部20が行う機能の一部は、ASICやFPGAなどのプログラマブルICで実現してもよいし、MRI装置とは別の処理装置で実現される場合もある。制御部20には、処理結果である画像やユーザとのやり取りを行うGUIなどを表示する表示装置31とマウス、トラックボール、キーボードなどの入力装置32を備えたUI部30が接続される。制御部(計算機)20には、外部記憶装置40が接続されていてもよい。
【0020】
制御部20の機能ブロック図の一例を
図2に示す。図示するように、制御部20は、シーケンサ15を介して撮像部10を制御する撮像制御部210、撮像条件設定部220、表示制御部230を有する。撮像条件設定部220は、本撮像の条件を設定する機能(本撮像範囲設定部221)の他に、キャリブレーション撮像の条件を設定する機能を有し、例えば、キャリブレーション範囲設定部223を含んでいる。キャリブレーション範囲設定部223は、本撮像の被検体配置をもとに決定される本撮像範囲とともに、それ以外の空間情報、具体的には、被検体に関する空間情報、静磁場発生系11や傾斜磁場発生系12などが形成する磁場分布情報、送信用及び受信用の高周波コイル134、141の位置情報、などを参照して、適切なキャリブレーション範囲を決定し、撮像部10が行うキャリブレーション撮像の条件として設定する。
【0021】
キャリブレーション範囲設定部223が参照する本撮像範囲以外の空間情報は、被検体の事前撮影で得た画像(スキャノグラムを含む)の情報、検査部位などの検査条件、装置のスペックとして所有している情報、シミュレーションによって得た磁場の情報などである。キャリブレーション範囲設定部223が設定するキャリブレーション範囲は、キャリブレーションの対象項目によって異ならせてもよいし、各項目に共通する範囲として設定してもよい。具体的なキャルブレーション範囲の設定については、後の実施形態で詳述する。
【0022】
次に
図3を参照して、キャリブレーション撮像を含むMRI検査のフローを説明する。一般的な検査フローでは、複数種類の撮像(N回の撮像)を行うので、それを前提に説明する。
【0023】
まず撮像位置を決定するために、被検体の全身をスキャンする位置決め撮像を実施し(S1)、1回目の本撮像の撮像位置を設定する(S2)。この設定は例えばUI部30を介してユーザが行うことができる。本撮像の位置が設定されると本撮像設定部221は、FOV等の撮像条件をもとに本撮像範囲を決定する(S3)。従来は本撮像範囲をもとに決定される所定のキャリブレーション範囲を設定して自動キャリブレーション撮像を実行するが、本実施形態のMRI装置1は、キャリブレーション範囲設定部223が、キャリブレーション範囲を設定するのに必要な空間情報として、本撮像範囲以外の空間情報を取込み、本撮像範囲と取り込んだ空間情報とを用いてキャリブレーション範囲を設定する(S4)。
【0024】
キャリブレーション範囲が設定されたならば、撮像制御部210の制御のもと、撮像部10はキャリブレーション撮像を実行する(S5)。キャリブレーション撮像の内容は、キャリブレーションの項目、例えば静磁場分布、照射/受信感度分布等、によって異なるが、通常、FSE、FGRなどの高速シーケンスが用いられる。また複数の項目を一つのキャリブレーション撮像で取得する場合もある。
【0025】
次いでキャリブレーション結果を反映して本撮像を実行する(S6)。キャリブレーション結果の反映の仕方は、項目により異なるが、例えば、キャリブレーションデータとしてB1分布、受信感度分布、などを得た場合には、それを用いて、収集したMR信号或いはそれから再構成した画像を補正する。またキャリブレーションデータとして、B0分布、照射ゲイン、受信ゲイン、中心周波数、などを得た場合には、撮像時にこれらの値を調整して撮像を行う。
【0026】
2回目以降の撮像は、その本撮像範囲を決定した後(S7)、キャリブレーション範囲を変更する必要がなければ(S8)、そのまま本撮像を行う(S9)。本撮像範囲及びそれ以外の空間情報のいずれかに変更があり、キャリブレーション範囲の変更が必要な場合には、S4に戻り、キャリブレーション範囲を再設定して再度キャリブレーション撮像を行い(S5)、本撮像を行う(S6)。以上のステップを予定された回数(N回)の本撮像が終了するまで繰り返す。なおS4で参照する空間情報によっては、最初に設定したキャリブレーション範囲をその後の本撮像でも流用することが可能であり、その場合には、S8は不要となる。
【0027】
本実施形態によれば、キャリブレーション範囲の決定に必要な空間情報として、本撮像範囲だけでなく、それ以外の被検体や、装置側の空間的制約や装置が発生する磁場分布など装置側の空間情報を参照することで、画質向上に必要かつ十分なキャリブレーションデータを効率よく取得することができ、キャリブレーション撮像にかかる時間を短縮し、検査の効率化と画質向上とを両立することができる。また適切なキャリブレーション範囲を設定することで、キャリブレーションの再実行を低減でき、検査時間の延長を防止できる。
【0028】
以下、キャリブレーション範囲の設定の具体的な実施形態を説明するが、これら実施形態は、基本的に、キャリブレーション範囲における信号充填率を最大化するように行うことが特徴である。
【0029】
信号充填率とは、
図4に示すように、キャリブレーション範囲が、MR信号が発生する範囲(信号発生範囲)及び/又はMR信号を受信可能な範囲(両者を合わせてMR信号範囲という)をカバーする割合である。
信号充填率Rを3次元で定義すると、例えば次式で表すことができる。
R = MR信号範囲(X)/キャリブレーション範囲(X)
× MR信号範囲(Y)/キャリブレーション範囲(Y)
× MR信号範囲(Z)/キャリブレーション範囲(Z)
【0030】
なお、全方向のMR信号範囲の推定が難しい場合、簡易的に、特定方向の範囲のみを用いて算出しても良い。例えば、次式とする。
R = MR信号範囲(X)/キャリブレーション範囲(X)
【0031】
また、キャリブレーション範囲がMR信号範囲をカバーするという前提に基づくと、MR信号範囲はキャリブレーション範囲より小さいことが望ましい。
【0032】
キャリブレーション範囲設定部223は、このMR信号範囲を確定するために空間情報を参照する(信号発生範囲の推定機能)。MR信号範囲の推定に用いる空間情報としては、具体的には、被検体領域、静磁場の均一磁場領域、寝台やガントリなどの構造による制限領域、傾斜磁場範囲、送受信感度範囲などがある。被検体領域は超高速撮像シーケンスで低空間分解能の画像を撮像し、大まかな領域を確定してもよいし、位置決め画像を利用してもよい。均一磁場領域は、静磁場磁石の設計時点で測定する磁力線の出力から得ることができる。別途シミュレーションで推定してもよい。寝台やガントリについては3次元設計データから、MR信号が発生しない領域として装置座標(撮像空間座標)における位置を確定することができる。傾斜磁場範囲や送信感度範囲はシミュレーションにより求めておくことができる。受信感度分布は、シミュレーション等で算出した受信コイル自体の感度分布及び被検体に装着された受信コイルの画像(カメラ画像或いはMR画像)を、装置座標と関連付けておくことで得ることができる。
【0033】
キャリブレーション範囲設定部223は、空間情報をもとに推定した信号充填率をできるだけ高くするようにキャリブレーション範囲を設定する。信号充填率を高めることで、画質に関与しない範囲を極力除外することができ、キャリブレーションの効率化即ちキャリブレーション撮像に係る時間の低減と画質の向上を両立できる。以下、信号充填率を高めるための具体的な実施形態を説明する。
【0034】
以下説明する実施形態において、
図2に示す制御部の構成、
図3に示すフローは共通しているので、適宜これら図面も参照する。
【0035】
<実施形態1>
本実施形態では、本撮像範囲以外の空間情報として、被検体位置を参照してキャリブレーション範囲を設定する。
【0036】
一例として、撮像部位が被検体中心から左右方向中心からずれている場合を
図5に示す。図中、最外側の楕円で示すガントリ内が撮像空間である(以下、同様)。本撮像範囲設定部221は、位置決め画像(スキャノグラム)をもとにユーザが指定した撮像部位Pが中心となるように本撮像範囲501を設定する。
図5の上側の図に示すように、撮像部位Pを概ね磁場中心に配置した場合には、図示するように、撮像部位Pを中心として予め定められた所定の範囲(例えば3次元の領域)に設定される。このとき、被検体50は寝台60の中央よりも左側に偏った位置に配置されている。
【0037】
図5の上側に示すように、本撮像範囲501をカバーするようにキャリブレーション範囲502を設定した場合、被検体の一部はキャリブレーション範囲から外れる可能性がある。一方、キャリブレーション範囲502の多くの部分は、MR信号が発生しない領域(MR信号範囲外)である。
【0038】
キャリブレーション範囲設定部223は、スキャノグラムから被検体位置を取得し、
図5の下側に示すように、被検体の左右方向の幅に合わせたキャリブレーション範囲503とする。このようにキャリブレーション範囲503を設定することで、信号充填率を高めることができ、必要なキャリブレーションデータを効率よく取得することができる。キャリブレーション範囲503では、本撮像範囲501のうち被検体50が存在しない領域が除かれているが、この領域はMR信号が発生しない領域であり、キャリブレーションデータによる補正が不要な領域であり、キャリブレーションデータの取得も必要がない。
【0039】
本実施形態によれば、被検体の位置情報を、キャリブレーション範囲を決定するための空間情報として用いることで、被検体の配置が磁場中心に対し偏っている場合にも、本撮像範囲を基準にした場合の範囲ではデータ漏れが出る可能性がある領域についても確実にキャリブレーションデータを取得することができるとともに、無駄なキャリブレーションデータの取得を低減することができる。その結果、キャリブレーションデータを用いた画質向上の実効性を高め、且つ検査時間の延長を抑制することができる。
【0040】
<実施形態1の変形例1>
実施形態1では、本撮像範囲以外の空間情報として、被検体の位置情報を用いたが、さらに別の空間情報を追加してキャリブレーション範囲を設定することが可能である。別の空間情報として、例えば、磁場均一性の空間情報(静磁場マップ)、装置的な制限によりMR信号が発生しない空間の情報を用いる。
【0041】
静磁場マップは、予め装置の静磁場分布を測定して得たデータ(装置のスペックとして所有している情報)を記憶装置40等に格納しておき、それをキャリブレーション範囲設定部223が読み込んで用いてもよいし、他のキャリブレーション撮像で得た情報を利用することも可能である。MR信号が発生しない空間の情報は、例えば、被検体が載置される寝台の位置情報、被検体に装着される固定具や抑制具の位置情報などがある。
【0042】
図6に、水平磁場方式のMRI装置において、静磁場分布を用いてキャリブレーション範囲を設定する場合を示す。
図5では、磁場中心からずれて配置された被検体の左右の幅をカバーするように、キャリブレーション範囲503を設定したが、本変形例では、静磁場測定データから均一磁場領域700と判定した領域の情報を参照し、均一磁場領域700(図中、円で示す領域の内側)から外れる領域を、
図5のキャリブレーション範囲503から除外し、キャリブレーション範囲504とする。均一磁場領域700から外れる領域は、均一磁場領域700と同じ条件では、MR信号が発生しないので、これを除外することでさらに信号充填率を高めることができる。
【0043】
<実施形態1の変形例2>
本変形例は、さらに被検体上下方向についても、信号充填率を高めるようにキャリブレーション範囲503を狭めた変形例であり、
図7に示すように、被検体の上下方向の位置情報と寝台の位置情報とを参照してキャリブレーション範囲505を決定する。被検体の上下方向の位置情報は、実施形態1と同様にスキャノグラム等事前計測画像から取得することができる。寝台の情報は、装置側が持っている寝台の幾何学的情報及び寝台の駆動情報から取得することができる。
【0044】
キャリブレーション範囲設定部223は、これら空間情報と、
図6と同様の均一磁場領域700の情報とを用いて、
図5のキャリブレーション範囲503から被検体50領域の上側の領域と寝台60が存在する領域とを除外するとともに、均一磁場領域700を除外してキャリブレーション範囲505を決定する。これによりさらに信号充填率を向上することができる。
【0045】
<その他の変形例>
変形例1、2では、磁場に関する空間情報として、均一磁場領域の情報を用いることを説明したが、さらに照射感度分布が均一な領域や一次の傾斜磁場が得られる領域の情報を用いてもよく、これらの情報を用いてMR信号範囲以外の領域を除外する。また装置に関わる空間情報として、寝台に加えて、静磁場発生磁石を収納し撮像空間を提供するガントリの情報を用いてもよい。すなわちキャリブレーション範囲がガントリ(構造体)を含む場合には、その範囲はMR信号範囲外であり除外する。
【0046】
また
図6、
図7は、
図5に示すキャリブレーション範囲503を基本として、変形を加えたキャリブレーション範囲設定の一例であるが、被検体領域に加えて参照する空間情報は、複数の組み合わせでもよいし、単独でもよい。また実施形態1の変形例ではないが、本撮像範囲の情報と被検体領域以外の空間情報とを用いて、キャリブレーション範囲を設定する実施形態も本発明に包含される。
【0047】
実施形態1及びその変形例では、被検体をトンネル状の撮像空間に載置する水平磁場方式のMRI装置を例に説明を行ったが、被検体の体軸と直交する方向に静磁場を発生する垂直磁場方式のMRI装置についても、同様の考え方でキャリブレーション範囲を設定することができる。
【0048】
図8に垂直磁場方式のMRI装置の概要を示す。垂直磁場方式のMRI装置は、撮像空間を挟んで垂直方向の上下に磁石を配置した構造を有し、上下方向に静磁場が発生している。このMRI装置では、上下の磁石をそれぞれ収納する上側ガントリと下側ガントリとの間に、寝台60に寝かせられた被検体50を置いて、撮像が行われる。垂直磁場方式でも、均一磁場領域800(図中、円で示す領域の内側)は撮像空間の中心から所定半径の球状の領域であり、均一磁場領域800からはずれた領域はMR信号が発生しない。従って、均一磁場領域800から外れた領域に被検体領域が存在していても、この部分はキャリブレーション範囲から除外してキャリブレーション範囲506を設定する。被検体50が存在しない本撮像範囲501の領域はキャリブレーション範囲506から除外することは実施形態1と同様である。このように垂直磁場方式であっても水平磁場方式と同様に、信号充填率が高く効率の良いキャリブレーション撮像を実現できる。
【0049】
<実施形態2>
本実施形態は、MR検査に含まれる複数の本撮像において、撮像範囲が異なる場合に適用される。MR検査では、例えば股関節撮像などにおいて、局部的な撮像とそれより広い範囲の撮像を同一検査内で実施することが少なくない。本実施形態では、複数の本撮像における被検体情報(撮像部位の情報)複数の本撮像に適用できるキャリブレーション範囲を設定する。なお、検査フローに撮像範囲が異なる複数の本撮像が含まれることは、検査フローのデータや撮像条件(撮像部位)から把握することができ、それを事前情報として取得し、本実施形態の処理を行うことができる。
【0050】
図9の上側の図と下側の図は、撮像範囲が異なる2つの本撮像の撮像範囲501-1、501-2を示す図である。図示するように本撮像1は、本撮像2よりも撮像範囲が小さく、また撮像範囲の中心と磁場中心との位置関係も異なる。撮像範囲を基準にキャリブレーション範囲502-1、502-2を決めると、本撮像1と本撮像2とではその範囲が異なる。
【0051】
本実施形態では、2つの本撮像の撮像範囲501-1、501-2と、被検体位置とを用いて両者に適用できるキャリブレーション範囲を決定する。具体的には、
図10に示すように、キャリブレーション範囲502-3は、狭い方(この例では本撮像1)のキャリブレーション範囲502-1と、広い方(この例では本撮像2)のキャリブレーション範囲502-2との和から、MR信号範囲以外の領域を除外した範囲に決定される。
【0052】
このようにキャリブレーション範囲を設定することで、一つのキャリブレーション撮像で得たデータを本撮像1と本撮像2とで用いることができる。本実施形態の検査の流れは、
図2のフローにおいて、S8のステップを省略したものとなり、キャリブレーションの再実行を不要とし、検査時間を削減できる。
【0053】
なお
図9および
図10は、複数の本撮像範囲の情報と被検体位置とを用いてキャリブレーション範囲を設定した例であるが、実施形態1の変形例と同様に、被検体位置以外の空間情報、例えば均一磁場領域やMR信号範囲外の空間情報などを加味してもよく、同様の効果を得ることができる。
【0054】
<実施形態3>
実施形態1では、被検体の位置、特に静磁場中心からずれて配置された被検体の位置を参照してキャリブレーション範囲を設定したが、本実施形態では、設定された本撮像範囲が、被検体に対し不適切な範囲に設定されている場合などに、被検体の外形の空間情報を用いてキャリブレーション範囲を設定する。
【0055】
本撮像範囲は、設定した検査部位をもとにそれを含む範囲に設定されるが、例えばユーザが間違えて「肩関節」とすべきところを「手首関節」としたような場合、本撮像範囲は手首を中心とする小さな範囲となり、それをもとにキャリブレーション範囲を自動設定した場合、不適切なキャリブレーション範囲となる。例えば
図11の上側に示すように、本来の本撮像範囲501ではなく被検体領域の内側にキャリブレーション範囲501Aが設定される。このような不適切なキャリブレーション範囲502の設定は、被検体の体格が想定外に大きい場合にも起こりうる。
【0056】
本実施形態では、被検体が存在する領域の情報を取り込み、被検体の領域をカバーするようにキャリブレーション範囲506を設定する。
【0057】
図11は、本撮像範囲からだけでは本来必要なキャリブレーション範囲をカバーできない例を示しているが、被検体が想定以上に小さく、キャリブレーション範囲の信号充填率が大幅に少なくなる場合にも、被検体の空間情報を取り込み、被検体をカバーし、且つ信号充填率を高めるようにキャリブレーション範囲を設定する。
【0058】
本実施形態によれば、本撮像範囲から決定されるキャリブレーション範囲が被検体との関係で不適切になり、必要なキャリブレーションデータが得られないこと、或いは、本来必要でないキャリブレーションデータのためにキャリブレーション撮像時間が長時間化することを防止し、適切なキャリブレーション範囲を設定することができる。
【0059】
<実施形態4>
実施形態1~3とその変形例では、装置側が自動的に空間情報を読み取り適切なキャリブレーション範囲を設定する場合を説明したが、本実施形態はUI部30を介したユーザ調整を可能にした実施形態である。
【0060】
ユーザ調整は、表示制御部230が設定したキャリブレーション範囲をUI部30の表示装置31に提示し、ユーザによる調整を受け付けることで実現される。表示装置への表示の仕方は、特に限定されないが、キャリブレーション範囲設定部223が設定したキャリブレーション範囲503を、被検体の事前計測画像の上に、線図などで表示する。このとき
図12に示すように検査部位Pや本撮像範囲501とともに表示してもよい。キャリブレーション範囲を示す線図は、入力デバイスのマウス操作などで移動、拡大縮小が可能なGUIを構成しており、ユーザ一による変更を受け付ける。画像は3次元的な画像でもよいし、3断面の画像でもよい。
【0061】
ユーザは、提示されたキャリブレーション範囲を確認し、MR信号範囲外の領域を除外したり(
図12の例:503-1から503-2への調整)、ある程度時間がかかっても広い範囲のデータが必要かどうか、などを判断して範囲を広げたり、調整することができる。また範囲或いは部位が異なる複数の本撮像を行う場合には、本撮像ごとにそれ以前に行われたキャリブレーションの範囲を提示するとともに、キャリブレーションの再実行の要否を受け付けるボタン(GUI)を提示してもよい。
【0062】
本実施形態によれば、ユーザに調整の手段を提供することで、ユーザの自由度を高めることができ、また本撮像前に、実施形態3で説明したような不適切な検査部位の指定などの誤りに気付くことができる。
【0063】
以上、本発明の各実施形態と変形例を説明したが、これら実施形態とその変形例は技術的に矛盾しない限り適宜組み合わせることができ、その組み合わせも本発明に包含される。
【符号の説明】
【0064】
1:MRI装置、10:撮像部、20:制御部、30:UI部、40:外部記憶装置、50:被検体、210:撮像制御部、220:撮像範囲設定部、221:本撮像範囲設定部、223:キャリブレーション範囲設定部、230:表示制御部