(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024177063
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】窒化ガリウムの粉末及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 21/06 20060101AFI20241212BHJP
C04B 35/58 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
C01B21/06 A
C04B35/58
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024048784
(22)【出願日】2024-03-25
(31)【優先権主張番号】P 2023095501
(32)【優先日】2023-06-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】楠瀬 好郎
(72)【発明者】
【氏名】原 慎一
(72)【発明者】
【氏名】飯浜 準也
(72)【発明者】
【氏名】召田 雅実
(57)【要約】
【課題】
従来の窒化ガリウムの粉末と比べ、成形密度の高い成形体が得られる窒化ガリウムの粉末、その製造方法及びこれを使用する焼結体の製造方法の少なくともいずれかを提供する。
【解決手段】
酸素含有量が0.5at%以下の窒化ガリウムの粉末であり、なおかつ、該粉末8gを、10mm×40mmの直方体状の金型に充填し、圧力100MPaで一軸加圧成形した場合における電気抵抗率が1.0×107Ω・cm以下である、窒化ガリウムの粉末。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素含有量が0.5at%以下の窒化ガリウムの粉末であり、なおかつ、該粉末8gを、10mm×40mmの直方体状の金型に充填し、圧力100MPaで一軸加圧成形した場合における電気抵抗率が1.0×107Ω・cm以下である、窒化ガリウムの粉末。
【請求項2】
前記窒化ガリウムが、窒素欠陥を有する窒化ガリウムである請求項1に記載の粉末。
【請求項3】
軽装嵩密度が1.00g/mL以上1.85g/mL以下である請求項1又は2に記載の粉末。
【請求項4】
平均粒子径が1μm以上150μm以下である請求項1又は2に記載の粉末。
【請求項5】
面積90%径に対する面積10%径が、0.01以上0.45以下である請求項1又は2に記載の粉末。
【請求項6】
窒化ガリウムの粉末を、不活性ガス流通雰囲気、900℃以上1300℃以下で熱処理する熱処理工程、を有する請求項1に記載の粉末の製造方法。
【請求項7】
前記窒化ガリウムの粉末が、金属ガリウムの窒化処理により得られた状態の窒化ガリウムの粉末である、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記不活性ガス流通雰囲気が、アルゴン及び窒素の少なくともいずれかを含むガスを流通させた雰囲気である、請求項6又は7に記載の製造方法。
【請求項9】
不活性ガスの流通速度が500mL/分以上5000mL/分以下である、請求項6又は7に記載の製造方法。
【請求項10】
請求項1又は2に記載の粉末を成形し成形体を得る工程、及び、成形体を焼成する焼成工程、を有する窒化ガリウムの焼結体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、窒化ガリウムの粉末、特にスパッタリングターゲットの前駆体として適した窒化ガリウムの粉末に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、窒化ガリウム(GaN)の焼結体は、窒化ガリウムの粉末の成形及び焼成(焼結)を同時に行うホットプレス処理等の加圧焼成で作製されていた。加圧焼成は大掛かりな装置を必要とし、また、得られる窒化ガリウムの焼結体の形状が制限される。そのため、加圧焼成によることなく、窒化ガリウムの焼結体を製造する方法が求められている。しかしながら、窒化ガリウムは成形性が低く、焼成に先立ち成形すること(圧粉体とすること)自体が困難であった。そのため、焼成に先立ち成形体を与えうる窒化ガリウムの粉末が検討されている。例えば、非特許文献1では、ジェットミルにより粉砕して粉末の粒径を制御することにより、窒化ガリウムの成形体が得られることが報告されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Journal of Crystal Growth 208 (2000) 100-106
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
非特許文献1で開示された窒化ガリウムの粉末は成形することができたが、得られる成形体は相対密度が60%と低く、さらに、成形体がへき開するため成形体として安定した形状を保持することが困難であった。
【0005】
本開示は、従来の窒化ガリウムの粉末と比べ、成形密度の高い成形体が得られる窒化ガリウムの粉末、その製造方法及びこれを使用する焼結体の製造方法の少なくともいずれかを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示では、加圧焼成によることなく、スパッタリングターゲットに適した窒化ガリウムの焼結体を得るため、焼成に先立ち、窒化ガリウムの成形体を作製することについて検討した。その結果、粉末の電気特性に着目し、これを特定の範囲に制御することで、成形密度の高い成形体が得られることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は特許請求の範囲の記載の通りであり、また、本開示の要旨は以下の通りである。
[1] 酸素含有量が0.5at%以下の窒化ガリウムの粉末であり、なおかつ、該粉末8gを、10mm×40mmの直方体状の金型に充填し、圧力100MPaで一軸加圧成形した場合における電気抵抗率が1.0×107Ω・cm以下である、窒化ガリウムの粉末。
[2] 前記窒化ガリウムが、窒素欠陥を有する窒化ガリウムである上記[1]に記載の粉末。
[3] 軽装嵩密度が1.00g/mL以上1.85g/mL以下である上記[1]又は[2]に記載の粉末。
[4] 平均粒子径が1μm以上150μm以下である上記[1]乃至[3]のいずれかひとつに記載の粉末。
[5] 面積90%径に対する面積10%径が、0.01以上0.45以下である上記[1]乃至[4]のいずれかひとつに記載の粉末。
[6] 窒化ガリウムの粉末を、不活性ガス流通雰囲気、900℃以上1300℃以下で熱処理する熱処理工程、を有する上記[1]乃至[5]のいずれかひとつに記載の粉末の製造方法。
[7] 前記窒化ガリウムの粉末が、金属ガリウムの窒化処理により得られた状態の窒化ガリウムの粉末である、上記[6]の製造方法。
[8] 前記不活性ガス流通雰囲気が、アルゴン及び窒素の少なくともいずれかを含むガスを流通させた雰囲気である、上記[6]又は[7]に記載の製造方法。
[9] 不活性ガスの流通速度が500mL/分以上5000mL/分以下である、上記[6]乃至[8]のいずれかひとつに記載の製造方法。
[10] 上記[1]乃至[5]のいずれかひとつに記載の粉末を成形し成形体を得る工程、及び、成形体を焼成する焼成工程、を有する窒化ガリウムの焼結体の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本開示により、従来の窒化ガリウムの粉末と比べ、成形密度の高い成形体が得られる窒化ガリウムの粉末、その製造方法及びこれを使用する焼結体の製造方法の少なくともいずれかを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の粉末について、実施形態の一例を示しながら説明する。なお、本開示において、「at%」は「atm%」と同義であり、原子数基準の割合を表す単位である。また、本開示には、本明細書で開示した各構成及びパラメータの任意の組合せを含むものとし、また、本明細書で開示した値の上限及び下限の任意の組合せの範囲も本開示に含まれるものとする。
【0010】
本実施形態の粉末は、酸素含有量が0.5at%以下の窒化ガリウムの粉末であり、なおかつ、該粉末8gを、10mm×40mmの直方体状の金型に充填し、圧力100MPaで一軸加圧成形した場合における電気抵抗が1.0×107Ω・cm以下である、窒化ガリウムの粉末、である。
【0011】
本実施形態の粉末は、窒化ガリウム(GaN)を主成分(マトリックス)とする粉末、すなわち、本質的に窒化ガリウムからなる粉末であればよく、不可避不純物を含んでいてもよい。
【0012】
本実施形態の粉末の酸素含有量は0.5at%以下であり、0.4at%以下又は0.3at%以下であることが好ましい。酸素含有量が0.5at%を超えると酸化ガリウム層が形成されるため電気抵抗率が高くなる。酸素含有量は少ないことが好ましいが、例えば、0.02at%以上又は0.05at%以上が挙げられる。好ましい酸素含有量として0.02at%以上0.5at%以下、又は、0.05at%以上0.3at%以下が挙げられる。
【0013】
本実施形態において、酸素含有量は、窒化ガリウム粉末に対する粉末中の酸素の原子割合[at%]であり、酸素・窒素分析装置(例えば、LECO ON736、Leco社製)を使用した、不活性ガス融解-赤外線吸収法により測定される値[質量%]から以下の(1)式により求められる値である。
酸素含有量[at%]
=(WO/MO)/{(WGa/MGa)+(WN/MN)+(WO/MO)} (1)
【0014】
(1)式においてMOは酸素の原子量(16.00[g/mol])、MGaはガリウムの原子量(69.72[g/mol])、及び、MNは窒素の原子量(14.01[g/mol])である。WO及びWNは、酸素・窒素分析装置(例えば、LECO ON736、Leco社製)を使用した、不活性ガス融解-赤外線吸収法により測定される値[質量%]である。WGaは、WO及びWNの測定値から(2)式により求められる値である。
100=WGa[質量%]+WO[質量%]+WN[質量%] (2)
【0015】
本実施形態の粉末は、該粉末8gを、10mm×40mmの直方体状の金型に充填し、圧力100MPaで一軸加圧成形した場合における電気抵抗率(以下、単に「電気抵抗率」ともいう。)が1.0×107Ω・cm以下、である。本実施形態の粉末が当該電気抵抗率と上述の酸素含有量とを兼備することで成形性の高い粉末となり、焼成を伴うことなく、成形体を得ることができる。本実施形態の粉末が優れた成形性を示す理由のひとつとして、以下のこと考えられる。すなわち、本実施形態の粉末の酸素含有量と電気抵抗率とを兼備することで、粉末粒子同士が適度に反発しあい局所的な凝集が生じにくくなる。その一方、外的な力を印加した場合に粉末粒子同士が密になりやすく、その結果、優れた成形性を示すと考えられる。
【0016】
電気抵抗率が低いほど成形性が高くなる傾向があるため、電気抵抗率は1×105Ω・cm以下、1Ω・cm以下又は1×10-1Ω・cm以下であることが好ましい。電気抵抗率は低いほど好ましいが、1×10―4Ω・cm以上又は1×10―3Ω・cm以上であることが挙げられる。好ましい電気抵抗率として、1×10-4Ω・cm以上1×107Ω・cm以下、1×10-3Ω・cm以上1×105Ω・cm以下、又は、1×10-4Ω・cm以上1×10-1Ω・cm以下が例示できる。
【0017】
本実施形態において粉末の電気抵抗率は以下の方法で測定される値である。すなわち、粉末8gを10×40mmの直方体状の金型へと充填し、圧力100MPaで一軸加圧成形により成形し評価用成形体とする。一般的な抵抗率計(例えば、ロレスタ-GX MCP-T700、日東精工アナリテック社製)、及び、測定プローブとしてTFPプローブを使用し、当該評価用成形体の電気抵抗率測定を測定すればよい。
【0018】
このような電気抵抗率を有しやすくなるため、本実施形態の粉末における窒化ガリウムは、窒素欠陥を有する窒化ガリウム、いわゆる窒素欠損型窒化ガリウム、からなる粉末であることが好ましい。
【0019】
本実施形態の粉末は成形性が高いことに加え、輸送などのハンドリング時の充填性が高いことが好ましい。この様な充填性を示しやすくなるため、本実施形態の粉末の軽装嵩密度は、1.00g/mL以上、1.30g/mL以上又は1.50g/mL以上であればよい。また、軽装嵩密度は高いことが好ましいが、1.85g/mL以下、1.80g/mL以下又は1.70g/mL以下が例示でき、1.00g/mL以上1.85g/mL以下、1.30g/mL以上1.85g/mL以下、又は、1.50g/mL以上1.70g/mL以下であることが好ましい。
【0020】
軽装嵩密度はJIS Z 2504に準拠した方法で測定すればよい。すなわち、本実施形態において、軽装嵩密度は次の方法で測定すればよい。すなわち、オリフィス径2.5mm、漏斗角60°の漏斗を使用し、粉末を内径28mm、容積25cm3の円筒容器に注入し、円筒容器が粉末で充填されたときに粉末の注入を止める。注入後、圧縮及び振動を与えずに円筒容器の表面を擦切る。円筒容器の体積[25cm3]に対する、擦り切り後の粉末の質量[g]をもって、軽装嵩密度とすればよい。
【0021】
本実施形態の粉末の平均粒子径は1μm以上又は2μm以上、であり、また、150μm以下、50μm以下、20μm以下、15μm以下又は10μm以下であることが挙げられる。好ましい平均粒子径として、1μm以上150μm以下、2μm以上50μm以下、2μm以上20μm以下、又は、2μm以上10μm以下が挙げられる。この様な平均粒子径を有することで、酸素量が多くなり過ぎず、また、成形性が高くなりやすい。
【0022】
本実施形態において、平均粒子径は一般的な走査型電子顕微鏡(例えば、VE-9800、KEYENCE社製;以下、「SEM」ともいう。)を使用し、以下の条件により得られるSEM観察図において観察される一次粒子の面積から求められる値である。
加速電圧 :10kV
観察倍率 :50~5000倍
【0023】
得られたSEM観察図を一般的な画像解析ソフト(例えば、Image-Pro10)を使用して二値化処理及び画像解析し、SEM観察図において輪郭が途切れることなく観察される一次粒子を1200±400個抽出し、各一次粒子の最長径を計測し、これを各一次粒子の粒子径とする。各一次粒子の粒子径の平均値をもって、平均粒子径とすればよい。
【0024】
成形性が高くなりやすいため、本実施形態の粉末の一次粒子は適度な粒子径分布を有することが好ましく、例えば、面積90%径(D90)[μm]に対する面積10%径(D10)[μm]が、0.01以上0.45以下、更には0.04以上0.20以下であることが好ましい。
【0025】
本実施形態のD10及びD90は、平均粒子径の測定と同様な方法で得られる各一次粒子の最長径(粒子径)から、当該最長径を直径とする円相当面積を求め、累積面積10%及び90%に相当する円相当面積に対応する最長径を、それぞれ、D10及びD90とすればよい。
【0026】
本実施形態の粉末は、加圧焼成などの焼成に伴う成形によらず、成形することができる。
【0027】
本実施形態の粉末は、成形性が高く、例えば、粉末8gを、10mm×40mmの直方体状の金型に充填し、圧力100MPaで一軸加圧成形した場合の実測密度(以下、「成形密度」ともいう。)として2.0g/cm3以上、3.0g/cm3以上、3.5g/cm3以上、3.8g/cm3以上又は4.0g/cm3以上であることが挙げられる。成形密度は高いほど好ましいが、5.0g/cm3以下、4.5g/cm3以下、4.2g/cm3以下、又は4.1g/cm3以下が挙げられ、2.0g/cm3以上5.0g/cm3以下、3.0g/cm3以上4.5g/cm3以下、3.5g/cm3以上4.5g/cm3以下、3.8g/cm3以上4.5g/cm3以下、3.5g/cm3以上4.2g/cm3以下、又は、4.0g/cm3以上4.1g/cm3以下であることが挙げられる。
【0028】
また、本実施形態の粉末は、粉末8gを、10mm×40mmの直方体状の金型に充填し、圧力100MPaで一軸加圧成形した場合の抗折強度(以下、「成形体の抗折強度」ともいう。)が、2.1MPa以上、2.3MPa以上、又は、2.5MPa以上であることが挙げられる。成形体の抗折強度は高いほど好ましいが、10MPa以下、8MPa以下、7.0MPa以下、5.0MPa以下、4.5MPa以下又は4.0MPa以下が挙げられ、2.1MPa以上10MPa以下、2.3MPa以上7MPa以下、2.5MPa以上5.0MPa以下、又は、2.5MPa以上4.0MPa以下であることが挙げられる。
【0029】
本実施形態の粉末は、公知の窒化ガリウムの粉末の用途に使用することができ、特に焼結体の前駆体、スパッタリングターゲット用焼結体の前駆体、更には多結晶窒化ガリウム基板の前駆体として使用することが好ましい。
【0030】
次に、本実施形態の粉末の製造方法について説明する。
【0031】
本実施形態の粉末は、上述の構成を有する窒化ガリウムの粉末が得られればその製造方法は任意である。好ましい製造方法として、窒化ガリウムの粉末を、不活性ガス流通雰囲気、900℃以上1300℃以下で熱処理する熱処理工程、を有する粉末の製造方法、が挙げられる。
【0032】
熱処理工程に供する窒化ガリウムの粉末(以下、「原料粉末」ともいう。)は、金属ガリウムの窒化処理により得られた状態の窒化ガリウムの粉末であることが好ましい。
【0033】
窒化処理に供する金属ガリウムは、市販の金属ガリウムであればよく、純度が3N以上7N以下の金属ガリウムが例示できる。
【0034】
窒化処理は、金属ガリウムの窒化が進行する条件であればよいが、例えば、以下の条件が挙げられる。
窒化処理雰囲気 :窒素含有ガス流通雰囲気、
好ましくは窒素流通雰囲気又はアンモニア流通雰囲気
より好ましくはアンモニア流通雰囲気
窒化処理温度 :900℃以上1100℃以下、
好ましくは950℃以上1050℃以下
昇温速度 :5℃/min以上50℃/min以下
好ましくは8℃/min以上20℃/min以下
【0035】
窒化処理時間は、窒化処理に供する金属ガリウムや窒化処理方法により適宜調整すればよく、例えば、30分以上15時間以下、1時間以上10時間以下が挙げられる。
【0036】
熱処理工程では、原料粉末を、不活性ガス流通雰囲気、900℃以上1300℃以下で熱処理する。これにより、窒化ガリウムが適度に熱分解されることにより、窒素の一部が脱離して窒素欠損型窒化ガリウムとなり、導電キャリアが形成されると考えられる。これにより、成形性の向上に資する電気抵抗率を有する本実施形態の粉末が得られる。
【0037】
熱処理工程において、熱処理の雰囲気は不活性ガス流通雰囲気である。これにより、得られる粉末の酸素含有量が過剰に増加することがない。不活性ガス流通雰囲気は、原料粉末の酸化が進行しない雰囲気であればよく、アルゴン及び窒素の少なくともいずれかを含むガスを流通させた雰囲気が好ましく、窒素ガス流通雰囲気であることがより好ましい。
【0038】
不活性ガスの流通速度は処理に供する原料粉末の飛散が抑制され、かつ、熱処理により生成するガス分が置換される速度であればよく、例えば、500mL/分以上5000mL/分以下、800mL/分以上4000mL/分以下、又は、1000mL/分以上2500mL/分以下が挙げられる。
【0039】
熱処理は、不活性ガス流通雰囲気、900℃以上1300℃以下で行う。熱処理温度が900℃未満であると窒化ガリウムの熱分解に非常に長時間を要し、現実的な時間での熱処理が困難である。一方、熱処理温度が1300℃を超えると窒化ガリウムの熱分解が過度に進行し、粉末自体が崩壊する。好ましい熱処理温度としては950℃以上又は1000℃以上であり、1200℃以下又は1100℃以下が挙げられ、950℃以上1200℃以下、又は、1000℃以上1100℃以下である。
【0040】
熱処理時間は、熱処理炉の特性などにより適宜調整すればよいが、例えば、15分以上15時間以下、30分以上10時間以下、又は、1時間以上3時間以下、が挙げられる。
【0041】
熱処理は、不活性ガス流通雰囲気での熱処理が可能な熱処理炉であればよく、管状炉、雰囲気式箱型電気炉及び雰囲気式マッフル炉の群から選ばれる1以上、更には管状炉が挙げられる。
【0042】
次に、本実施形態の粉末を使用した焼結体の製造方法について説明する。
【0043】
本実施形態の粉末は、従来の窒化ガリウムの焼結体の製造方法と同様な方法により、これを焼結体とすることができ、窒化ガリウム焼結体の前駆体として使用することができる。従来の製造方法としては、本実施形態の粉末を加圧焼成する工程を有する、窒化ガリウムの焼結体の製造方法が挙げられる。加圧焼成はホットプレス処理及び熱間静水圧プレス処理の少なくともいずれかであればよく、ホットプレス処理であることが好ましい。これにより、粉末の成形と焼成とを同時に進行させることができる。
【0044】
これに加え、本実施形態の粉末は成形性が高く、非加熱下での成形が可能である。そのため、本実施形態の粉末は、本実施形態の粉末を成形し成形体を得る工程、及び、成形体を焼成する焼成工程、を有する窒化ガリウムの焼結体の製造方法、に供することが好ましい。
【0045】
成形工程における成形方法は、所期の形状の成形体(圧粉体)が得られる方法であればよく、一軸加圧成形、冷間静水圧プレス処理、泥漿鋳込み成形及び射出成形の群から選ばれる1以上が挙げられ、一軸加圧成形であることが好ましく、成形圧50MPa以上150MPa以下で一軸加圧成形する成形方法であることがより好ましい。
【0046】
焼成工程における焼成方法は、常圧焼成及び加圧焼成の少なくともいずれかであればよく、常圧焼成が好ましい。なお、本実施形態における「常圧焼成」とは、成形体等の被焼成物に対して外的な力を加えずに、焼成が進行する温度以上の温度で加熱する方法である。
【0047】
本実施形態の製造方法により得られる焼結体は、窒化ガリウムの公知の用途に適用することができ、スパッタリングターゲット、窒化ガリウム多結晶基板及び単結晶窒化ガリウム育成用原料の群から選ばれる1以上に使用することができ、特にスパッタリングターゲットとして適している。
【実施例0048】
以下、実施例を用い本開示について説明する。しかしながら、本開示はこれらに限定されるものではない。
【0049】
(電気抵抗率)
粉末の電気抵抗率はロレスタ-GX MCP-T700(日東精工アナリテック)を用いて測定した。すなわち、粉末試料8gを10×40mmの直方体状の金型へと充填し、圧力100MPaで一軸加圧成形により成形し評価用成形体とした。測定プローブとしてTFPプローブを使用し、評価用成形体の電気抵抗率測定を測定した。
【0050】
(抗折強度)
成形体の抗折強度は、JIS R 1601に準拠し、以下の条件による方法により測定した。
試験方法:3点曲げ試験
支点間距離:30mm
試料サイズ:5×10×40mm
ヘッド速度:0.5mm/分
【0051】
(酸素含有量)
酸素含有量[質量%]は、酸素・窒素分析装置(装置名:LECO ON736、Leco社製)を使用した、不活性ガス融解-赤外線吸収法により測定した。得られた酸素含有量[質量%]および窒素含有量[質量%]から、式(1)および式(2)を用いて酸素含有量[at%]を算出した。
【0052】
(粉末X線回折)
結晶相は、一般的な粉末X線回折装置(装置名:UltimaIII、リガク社製)を使用した、以下の条件によるXRD測定により行った。
線源 : CuKα線(λ=0.15418nm)
測定モード : 2θ/θスキャン
測定間隔 : 0.01°
発散スリット : 0.5deg
受光スリット : 0.3mm
計測時間 : 1.0秒
測定範囲 : 2θ=20°~80°
【0053】
得られたXRDパターンと、JCPDSNo.00-050-0792と対比することにより、結晶相の同定を行った。
【0054】
(平均粒子径)
原料粉末の平均粒子径は、SEM(装置名:VE-9800、KEYENCE社製)を使用し、以下の条件によりSEM観察図を得た。
加速電圧 :10kV
観察倍率 :50~5000倍
【0055】
得られたSEM観察図を画像解析ソフト(Image-Pro10)を使用して画像解析し、SEM観察図において輪郭が途切れることなく観察される一次粒子を1200±400個抽出し、各一次粒子の面積を求めた。得られた面積から円相当径を測定し、その平均値を求め、平均粒子径とした。
【0056】
(軽装嵩密度)
粉末の軽装嵩密度は次の方法で測定した。すなわち、オリフィス径2.5mm、漏斗角60°の漏斗を使用し、粉末を内径28mm、容積25cm3の円筒容器に注入し、円筒容器が粉末で充填されたときに粉末の注入を止めた。注入後、圧縮及び振動を与えずに、ヘラを用いて円筒容器に充填された粉末の表面を擦切った。円筒容器の体積[25cm3]に対する、粉末の質量[g]をもって、軽装嵩密度した。なお、粉末の質量は、擦切り後の円筒容器の質量から円筒容器の質量を除すことで求めた。
【0057】
(実測密度)
成形体の実測密度は、ノギスによる寸法測定から得られる体積[体積%]に対する、電子天秤により測定される質量[g]から求めた。寸法測定は、直方体状の成形体の長さ、幅及び厚みをそれぞれ測定した。
【0058】
実施例1
金属ガリウム(純度:6N)30gをアルミナ製容器に投入した。管状炉内にアルミナ製容器ごと金属ガリウムを配置した後、真空置換し、アンモニアガスを流通させながら、以下の条件で窒化処理を行い、原料粉末を得た。
昇温速度 :10℃/min
処理温度 :1050℃
処理時間 :2時間
【0059】
保持後、管状炉内で自然放冷して室温まで冷却した後に、アルミナ製容器を回収し、原料粉末を得た。
【0060】
得られた原料粉末30gをアルミナ製容器に投入した。管状炉内にアルミナ製容器ごと原料粉末を配置した後、真空置換し、その後、窒素ガスを流通させながら、以下の条件で原料粉末を焼成した。
昇温速度 : 10℃/min
焼成温度 : 1000℃
焼成時間 : 3時間
【0061】
焼成後、管状炉内で自然放冷し、本実施例の窒化ガリウムの粉末を得た。
【0062】
本実施例の窒化ガリウムの粉末は、酸素含有量が0.21at%、及び、軽装嵩密度が1.35g/mL、及び、電気抵抗率は8.45×10-2Ω・cmであった。
【0063】
実施例2
以下の条件で原料粉末を焼成したこと以外は実施例1と同様な方法で本実施例の窒化ガリウムの粉末を得た。
昇温速度 : 10℃/min
焼成温度 : 1050℃
焼成時間 : 1時間
【0064】
本実施例の窒化ガリウムの粉末は、酸素含有量が0.20at%、軽装嵩密度が1.35g/mL、及び、電気抵抗率は2.21×10-4Ω・cmであった。
【0065】
実施例3
以下の条件で原料粉末を焼成したこと以外は実施例1と同様な方法で本実施例の窒化ガリウムの粉末を得た。
昇温速度 : 10℃/min
焼成温度 : 1000℃
焼成時間 : 0.5時間
【0066】
本実施例の窒化ガリウムの粉末は、酸素含有量が0.20at%、軽装嵩密度が1.42g/mL、及び、電気抵抗率は7.60×10-1Ω・cmであった。
【0067】
実施例4
金属ガリウム(純度:6N)300gをアルミナ製容器に投入した。管状炉内にアルミナ製容器ごと金属ガリウムを配置した後、管状炉内を真空置換し、その後、アンモニアガスを流通させながら、以下の条件で窒化処理を行い、原料粉末を得た。
昇温速度 :10℃/min
処理温度 :1140℃
処理時間 :2時間
【0068】
窒化処理後、降温速度10℃/minで1000℃まで降温した後に、アンモニアガスを窒素ガスに切り替え、窒素ガスを流通しながら1000℃で30分間で焼成した後、自然放冷により室温まで冷却し、本実施例の窒化ガリウムの粉末を得た。
【0069】
本実施例の窒化ガリウムの粉末は、酸素含有量が0.04at%、軽装嵩密度が1.71g/mL、及び、電気抵抗率は4.24×10-2Ω・cmであった。
【0070】
実施例5
金属ガリウム(純度:6N)30gをアルミナ製容器に投入した。管状炉内にアルミナ製容器ごと金属ガリウムを配置した後、管状炉内を真空置換し、その後、アンモニアガスを流通させながら、以下の条件で窒化処理を行い、原料粉末を得た。
昇温速度 : 10℃/min
処理温度 : 1125℃
保持時間 : 2時間
【0071】
窒化処理後、管状炉内で自然放冷により室温まで冷却し、原料粉末を得た。
【0072】
得られた原料粉末30gをアルミナ製容器に投入した。管状炉内にアルミナ製容器ごと金属ガリウムを配置した後、管状炉内を真空置換し、窒素ガスを流通させながら以下の条件で焼成した。
昇温速度 : 10℃/min
焼成温度 : 1000℃
焼成時間 : 3時間
【0073】
焼成後、自然放冷により室温まで冷却し、本実施例の窒化ガリウムの粉末を得た。
【0074】
本実施例の窒化ガリウムの粉末は、酸素含有量が0.07at%、軽装嵩密度が1.81g/mL、及び、電気抵抗率は3.82×10-2Ω・cmであった。
【0075】
比較例1
熱処理後の粉末を本比較例の窒化ガリウムの粉末とした。すなわち、金属ガリウム(純度:6N)30gを、アルミナ製容器に投入した。管状炉内にアルミナ製容器ごと金属ガリウムを配置した後、管状炉内を真空置換し、その後、アンモニアガスを流通させながら、以下の条件で窒化処理を行い本比較例の窒化ガリウム粉末を得た。
昇温速度 : 10℃/min
処理温度 : 1125℃
保持温度 : 2時間
【0076】
本比較例の窒化ガリウムの粉末は、酸素含有量が0.19at%、軽装嵩密度が1.89g/mL、及び、電気抵抗率が1×107Ω・m超であった。
【0077】
比較例2
市販の窒素ガリウム粉末(高純度化学製、4N、Lot.302577)を本比較例の窒化ガリウムの粉末とした。
本比較例の窒化ガリウムの粉末は、酸素含有量が15.50at%、軽装嵩密度が0.28g/mL、及び、電気抵抗率が8.91×106Ω・mであった
【0078】
測定例
実施例4及び5、並びに、比較例1及び2で得られた窒化ガリウムの粉末を、それぞれ、8g秤量し、これを10×40mmの直方体状の金型へと充填し、圧力100MPaで一軸加圧成形により成形することで成形体とし、その実測密度及び抗折強度を測定した。結果を下表に示す。
【0079】
【0080】
実施例の粉末から、4.0g/cm3以上の高い実測密度を有する成形体が作製できることが確認できた。また、このような成形体は2.1MPa以上の高い抗折強度を有することが確認できた。なお、比較例1の窒化ガリウムの粉末は、実施例の粉末と比べ、軽装嵩密度が高く充填性が高いにも関わらず、成形後、成形型から取り出す際に崩壊し実質的に成形ができなかった。そのため、比較例1においては、実測密度及び抗折強度はいずれも測定できなかった。これより、酸素含有量が多い粉末から得られる成形体は、強度が著しく低いことが確認できた。電気抵抗率の高い比較例2の窒化ガリウムの粉末は、成形体が作製できるものの、得られる成形体は実測密度及び抗折強度のいずれもが低いことが確認できた。