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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024177097
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】D-セリン濃度低減用組成物
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/20 20060101AFI20241212BHJP
   A23L 33/135 20160101ALN20241212BHJP
【FI】
C12N1/20 A
C12N1/20 E
A23L33/135
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024087757
(22)【出願日】2024-05-30
(31)【優先権主張番号】P 2023095621
(32)【優先日】2023-06-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】711002926
【氏名又は名称】雪印メグミルク株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】大淵 俊
(72)【発明者】
【氏名】塚原 拓也
(72)【発明者】
【氏名】加田 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】牟田口 祐太
【テーマコード(参考)】
4B018
4B065
【Fターム(参考)】
4B018MD85
4B018MD86
4B018ME14
4B065AA01X
4B065AC20
4B065CA41
4B065CA43
(57)【要約】
【課題】D-セリン濃度を好適に低減する。
【解決手段】D-セリン濃度低減用組成物は、エンテロクロスター属に属する菌体を含有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンテロクロスター属に属する菌体を含有することを特徴とするD-セリン濃度低減用組成物。
【請求項2】
前記エンテロクロスター属に属する菌体の菌種が、エンテロクロスター ボルテアエ、エンテロクロスター クロストリジオホルミス、エンテロクロスター ラヴァレンシス、エンテロクロスター アスパラギホルミス、エンテロクロスター シトロニアエ、及びエンテロクロスター アルデネンシスのうち、少なくともいずれか一つである請求項1に記載のD-セリン濃度低減用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、D-セリン濃度低減用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトの腸内には1000種、40兆個もの細菌が棲息しており、腸内細菌叢とも呼ばれる複雑な共生関係を形成している。腸内細菌叢を形成する腸内細菌は、様々な代謝産物を生産しており、その代謝産物の1つとしてD-アミノ酸が挙げられる。
【0003】
アミノ酸は分子中にアミノ基とカルボキシル基を持つ化合物の総称であり、そのうち1つの炭素原子にアミノ基とカルボキシル基が結合したものをα-アミノ酸と呼ぶ。α-アミノ酸は不斉炭素原子を持ち、鏡像異性体が存在するが、このうち左旋光性を持つアミノ酸をD-アミノ酸と呼ぶ。α-アミノ酸のうち、グリシンには鏡像異性体は存在しないが、それ以外のα-アミノ酸にはL-アミノ酸とD-アミノ酸が存在する。そのため、タンパク質を構成する20種類のα-アミノ酸のうち、グリシン以外の19種類にL-アミノ酸とD-アミノ酸が存在している。
【0004】
天然に存在するアミノ酸のほとんどが、タンパク質の構成要素となるL-アミノ酸であるが、わずかにD-アミノ酸も存在している。近年、D-アミノ酸は重要な生理機能を有することが明らかになってきている。例えば、脳、大腸、腎臓に含まれるD-セリンは、記憶や学習等の脳の高次機能に寄与しているほか、腎障害の保護を行うことが知られている。
【0005】
D-セリンを生産する事例は多数報告されており、特にヒトの腸内では一部の乳酸菌やビフィズス菌がD-セリンを生産することが知られている(特許文献1~3)。
一方で、体内のD-セリンが過剰になることで様々な健康障害が起こることが分かっている。D-セリンは腎保護作用を示す一方で、血漿中に蓄積されると尿細管の損傷を誘発し、慢性腎臓病の進行にも関与することが知られる(非特許文献1)。
【0006】
また、認知機能の変化を評価する指標として血中のD-セリンやD-プロリンが有用であることが見出されており、過剰なD-セリンが神経伝達の調節異常や認知症の発症に寄与することが示唆されている(非特許文献2)。
【0007】
生体内のD-セリン濃度は腸内のD-セリン濃度に影響を受けるため、腸内のD-セリン濃度を高くなりすぎないようにすることが必要となる。このため、D-セリンを生産する腸内細菌などの影響により腸内のD-セリン濃度が高まった際には、腸内のD-セリン濃度を低減する手法が求められる。
【0008】
D-セリンを特異的に分解する酵素としてD-セリンデヒドラターゼが挙げられる。当該酵素は、一部のプロテオバクテリア門細菌や、β-、およびγ-プロテオバクテリア属細菌、真核生物であるサッカロミセス セレビシエ等に存在することが知られている。しかし、ヒトを含む哺乳類にはD-セリンデヒドラターゼが存在しない。また、D-セリンデヒドラターゼが存在する既知の腸内細菌は、いずれもヒト腸内において優勢には存在しないため、ヒト腸内のD-セリン濃度低減に寄与しにくいことが課題であった。
【0009】
そのほか、D-セリンを分解する酵素として、D-アミノ酸を代謝するD-アミノ酸オキシダーゼが存在するが、D-セリンに対する触媒活性はD-セリンデヒドラターゼより著しく劣ることが報告されている(非特許文献3)。
【0010】
このため、腸内のD-セリンを効果的に低減させる手法として、ヒトの腸内細菌叢において優勢に存在する腸内細菌からD-セリンの分解または資化を行う菌種を見出し、それを含有するD-セリン濃度低減用組成物が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許第5941445号公報
【特許文献2】特許第5965368号公報
【特許文献3】特許第6139217号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Sci Rep. 2017 Sep 11;7(1):11168
【非特許文献2】Sci Rep. 2020 vol.10 804
【非特許文献3】D-アミノ酸学会誌 2017 Vol.5 No.1 1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、D-セリン濃度を好適に低減することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
態様1のD-セリン濃度低減用組成物は、エンテロクロスター属に属する菌体を含有することを要旨とする。
態様2は、態様1のD-セリン濃度低減用組成物において、前記エンテロクロスター属に属する菌体の菌種が、エンテロクロスター ボルテアエ、エンテロクロスター クロストリジオホルミス、エンテロクロスター ラヴァレンシス、エンテロクロスター アスパラギホルミス、エンテロクロスター シトロニアエ、及びエンテロクロスター アルデネンシスのうち、少なくともいずれか一つである。
【発明の効果】
【0015】
本発明のD-セリン濃度低減用組成物によれば、D-セリン濃度を好適に低減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に係るD-セリン濃度低減用組成物を具体化した実施形態について説明する。D-セリン濃度低減用組成物は、エンテロクロスター属(Enterocloster)に属する菌体を含有する。なお、以下では、上記属の英語表記は省略する。
【0017】
D-セリン濃度低減用組成物は、エンテロクロスター属に属する菌体、又はその菌体の培養物を有効成分とすることが好ましい。
上記菌体の培養物は、公知の製剤、飲食品、飼料、又は食品グレードの素材等を培地として菌を培養したものを意味するものとする。培養物は、培養した菌体に対して、さらに濃縮、乾燥、凍結乾燥処理等の処理を行ったものであってもよい。培養物は、培養した菌体と培地とを含んだ懸濁物であってもよいし、培養物の上清であってもよい。
【0018】
D-セリン濃度低減用組成物とは、D-セリン濃度を低減することができる組成物を意味するものとする。具体的には、D-セリン濃度低減用組成物は、D-セリン濃度の低減率が1未満であるものを意味するものとする。D-セリン濃度低減用組成物は、D-セリン濃度の低減率が、0.9以下であることが好ましい。D-セリン濃度の低減率は、0.5以下であることがより好ましく、0.1以下であることがさらに好ましく、0.05以下であることが最も好ましい。
【0019】
なお、D-セリン濃度の低減率は、腸内細菌培養後に含まれるD-セリン濃度を、腸内細菌培養前に含まれるD-セリン濃度で除した値として定義することができる。D-セリン濃度の低減率が小さい値であるほど、D-セリン濃度がより低減されることを意味する。
【0020】
本実施形態において、「腸内細菌」は、哺乳類の糞便や小腸、大腸、結腸、回腸、盲腸から単離された細菌を意味するものとする。各腸内細菌種については、各基準株と16SリボゾームRNA遺伝子の塩基配列の相同性が97%以上、より好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上である菌種を指すものとする。
【0021】
また、本実施形態において、「組成物」には、製剤、飲食品ならびに飼料等の動物(ヒトを含む)が摂取し得る物が含まれるものとする。
上記エンテロクロスター属に含まれる菌種としては、以下のものが挙げられる。
【0022】
<菌種>
エンテロクロスター属に属する菌体の菌種としては、例えばエンテロクロスター ボルテアエ(Enterocloster bolteae)、エンテロクロスター クロストリジオホルミス(Enterocloster clostridioformis)、エンテロクロスター ラヴァレンシス(Enterocloster lavalensis)、エンテロクロスター アスパラギホルミス(Enterocloster asparagiformis)、エンテロクロスター シトロニアエ(Enterocloster citroniae)、及びエンテロクロスター アルデネンシス(Enterocloster aldenensis)等が挙げられる。
【0023】
D-セリン濃度低減用組成物は、上記エンテロクロスター属に含まれる菌種のうち、一つの菌種の菌体を単独で有効成分とするものであってもよいし、二種以上の菌種の菌体を組み合わせて有効成分とするものであってもよい。なお、以下では、上記菌種の英語表記は省略する。
【0024】
D-セリン濃度低減用組成物は、上記エンテロクロスター属に属する菌体の菌種が、エンテロクロスター ボルテアエであることが好ましい。
以下、D-セリン濃度低減用組成物を構成する菌体の培養方法について説明する。
【0025】
<培養方法>
D-セリン濃度低減用組成物を構成する菌体の培養方法には、一般的に腸内細菌の培養に使用する培地を用いることができる。一般的に腸内細菌の培養に使用する培地としては、例えばYCFA培地(JCM培地番号1130)や、EG培地(JCM培地番号14)等が挙げられる。これらの中でも、GAMブイヨン、変法GAMブイヨン等は、より調製が簡便であるため好ましい。
【0026】
培養温度は特に制限されないが、ヒトの体温付近の温度として36~38℃が挙げられ、37℃が好ましい。
大腸は無酸素状態にあり、ここに生育する腸内細菌は偏性嫌気性である。従って、窒素ガスにより培地中、及び培地気層中を無酸素状態に維持する必要がある。また、腸内には腸内細菌が産生する炭酸ガスや水素ガスも存在することから、これらを含むことが好ましい。割合としては、例えば窒素80~90%、炭酸ガス5~10%、水素ガス5~10%が挙げられる。
【0027】
培養時間は、特に制限されないが、濁度が目視で確認できるまで実施することが好ましい。
各種腸内細菌は、10mLの培地に対して、1.0E+05cfu/mL程度となるように加える。
【0028】
以下、D-セリン濃度の測定方法について説明する。
<D-セリン濃度測定方法>
D-セリン濃度の測定方法は特に制限されず、公知の測定方法を採用することができる。公知の測定方法としては、例えば、高速液体クロマトグラフ(以下、HPLCともいう。)、超高速液体クロマトグラフ(以下、UHPLCともいう。)等による測定が挙げられる。
【0029】
<その他成分>
D-セリン濃度低減用組成物は、D-セリン濃度低減用組成物の効果を妨げない範囲で、その他成分を含有してもよい。その他成分としては、例えば賦型剤、安定剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、矯味矯臭剤、懸濁剤、コーティング剤、着色剤、溶媒、薬剤等が挙げられる。
【0030】
以下、D-セリン濃度低減用組成物の適用形態について説明する。
<適用形態>
D-セリン濃度低減用組成物の適用形態としては特に制限されず、例えばD-セリン濃度低減用飼料組成物(以下、飼料組成物ともいう。)、D-セリン濃度低減用医薬組成物(以下、医薬組成物ともいう。)、又はD-セリン濃度低減用食品組成物(以下、食品組成物ともいう。)として適用される。医薬組成物は、医薬部外品組成物を含むものとする。
【0031】
以下、D-セリン濃度低減用組成物の用途について説明する。
<用途>
D-セリン濃度低減用組成物の用途は特に制限されず、飼料に配合して用いてもよいし、飲食品に配合して用いてもよい。飼料や飲食品の製造工程中に原料に添加してもよい。
【0032】
飲食品の具体例としては、特に制限されず、例えばチーズ、発酵乳、乳製品乳酸菌飲料、乳酸菌飲料、バター、マーガリン等の乳製品が挙げられる。また、乳飲料、果汁飲料、清涼飲料等の飲料、ゼリー、キャンディー、プリン、マヨネーズ等の卵加工品、バターケーキ等の菓子・パン類が挙げられる。さらに、各種粉乳の他、乳幼児食品、栄養組成物等を挙げることもできる。
【0033】
上記飲食品の分類は、特に制限されず、一般食品や保健機能食品、特別用途食品等に使用することができる。また、保健機能食品としては、特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品等に使用することができる。
【0034】
D-セリン濃度低減用組成物の用途を付す場合、各種法律、施行規則、ガイドライン等によって定められた表示が挙げられる。用途の表示には、例えば包装、容器等のパッケージへの表示の他、パンフレット等の広告媒体への表示も含まれる。
【0035】
D-セリン濃度低減用組成物の投与対象は特に制限されず、ヒトに対して投与することができる。投与対象はヒト以外の動物(例えば、イヌ、ネコ、ウマ又はウサギ等)でもよい。投与対象がヒトである場合は、例えば20歳未満の未成年、成人、又は65歳以上の高齢者等に投与することができる。
【0036】
<実施形態の作用及び効果>
本実施形態の作用及び効果について説明する。
(1)D-セリン濃度低減用組成物は、エンテロクロスター属に属する菌体を含有する。エンテロクロスター属に属する菌体を含有することによって、D-セリン濃度を好適に低減することができる。したがって、ヒトの腸内細菌叢において優勢に存在する腸内細菌を用いて、D-セリン濃度を好適に低減することができる。また、D-セリン濃度を好適に低減することによって、良好な健康状態の維持に貢献することができる。
【0037】
(2)エンテロクロスター属に属する菌体の菌種が、エンテロクロスター ボルテアエ、エンテロクロスター クロストリジオホルミス、エンテロクロスター ラヴァレンシス、エンテロクロスター アスパラギホルミス、エンテロクロスター シトロニアエ、及びエンテロクロスター アルデネンシスのうち、少なくともいずれか一つである。したがって、D-セリン濃度をより好適に低減することができる。
【0038】
<変更例>
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。D-セリン濃度低減用組成物は、組成物全体でD-セリン濃度の低減率が1未満であれば、D-セリン濃度の低減率が1以上である菌体を含有してもよい。
【実施例0039】
以下、本発明の構成、及び効果をより具体的にするため、実施例等を挙げるが、本発明がこれらの実施例に限定されるというものではない。なお、特に説明のない限り、%の表示は容量%を示す。
【0040】
<試験例1>
1.腸内細菌の選択と凍結濃縮菌体の調製
(1)腸内細菌の入手
ヒトの腸内細菌叢において優勢に存在する腸内細菌の一種であるエンテロクロスター ボルテアエ、エンテロクロスター クロストリジオホルミス、エンテロクロスター ラヴァレンシスを、国立研究開発法人理化学研究所バイオリソース研究センター微生物材料開発室(以下、JCMともいう。)より入手した。
【0041】
(2)凍結濃縮菌体の調製
上記菌種を、変法GAMブイヨン培地(商品コード05433、ニッスイ)にて培養した。使用した変法GAMブイヨン培地の組成を表1に示す。
【0042】
【表1】
【0043】
上記変法GAMブイヨン培地を、121℃、15分間の加熱処理にて培地を滅菌した。上記菌種の腸内細菌を滅菌培地に植菌し、嫌気ワークステーション(セントラル科学貿易社製のコンセプト400)を用いて37℃で嫌気培養した。嫌気ワークステーション操作では混合ガスで通気して実施した。嫌気ガスの割合は、それぞれ窒素80%(v/v)、炭酸ガス10%(v/v)、水素10%(v/v)の割合とした。得られた培養物を遠心操作により濃縮し、10%(v/v)となるようにグリセロールを添加して濃縮菌体を取得した。得られた濃縮菌体を-80℃にて凍結した。
【0044】
凍結した濃縮菌体について、その後融解を実施した後、段階希釈を行い、変法GAMブイヨン寒天培地に塗沫して生菌数を測定した。1.0E+07cfu/mL以上の生菌数が含まれていることを確認した。
【0045】
(3)各腸内細菌の培養
上記凍結濃縮菌体を嫌気ワークスステーション内で融解し、変法GAMブイヨン培地10mLに2%となるように植菌し、同ワークステーション内に付属の培養装置にて37℃にて24時間または72時間培養した。培養時間は目視にて懸濁物が生成していることを確認して、懸濁物が生成した時点で24時間または72時間のいずれかに近い培養時間とした。
【0046】
通気する嫌気ガスの割合は、それぞれ窒素80%(v/v)、炭酸ガス10%(v/v)、水素10%(v/v)の割合とした。培養後に菌体を遠心操作により回収した。その後、DNeasy Blood&Tissueキット(QIAGEN)を使用して染色体DNAを抽出した。16SrRNA遺伝子の塩基配列を決定して、目的の菌種が培養できていることを確認した。
【0047】
(4)培養上清の調製
上記嫌気ワークステーション内で培養した腸内細菌について、嫌気ワークステーションから取り出した。大気下にて14,000rpm、10分、4℃にて遠心操作を行い、粗培養上清を9mL程度回収した。粗培養上清をさらに3kDa限外ろ過膜が付随したカラム(3kDモルカット;ミリポアメルク)にアプライした。14,000rpm、30分、4℃にて遠心操作を行い、高分子画分を除去した。限外ろ過膜を通過した画分をD-セリン測定用培養上清とした。D-セリン測定用培養上清を、表2に示す実施例1~3のD-セリン濃度低減用組成物とした。
【0048】
また、比較例1として、腸内細菌を含まないD-セリン測定用培養上清を用意した。D-セリン測定用培養上清は、培養上清の調製と同様に調製した。比較例1で測定されるD-セリン濃度は、腸内細菌培養前に含まれるD-セリン濃度を意味する。また、比較例2として、エンテロクロスター属に属する菌体に代えて、ルミノコッカス グナバスを用いたこと以外は、実施例1と同様の方法によってD-セリン濃度低減用組成物を調製した。
【0049】
2.D-セリン濃度の測定
実施例1~3、比較例1、2のD-セリン濃度低減用組成物に、o-フタルアルデヒド、及びN-イソブチリル-L-システインを添加して、各サンプルに含まれるD-及びL-セリンを蛍光標識されたジアステレオマー化した。その後、島津製作所社製のUHPLCに供して、分離を行った。
【0050】
得られたピークがD-セリンであることを確認するために、上記サンプルをあらかじめD-アミノ酸オキシダーゼによって処理して、誘導体化試薬に反応しないケト酸に変換した。同条件にて誘導体化処理後UHPLCに再度供した。酵素処理を施さずに得られた測定値から酵素処理を施して得られた測定値を差し引いた値を算出した。
【0051】
酵素処理の操作によって測定用サンプルは5倍希釈されるため、算出された値を5倍したものをD-セリン濃度とした。標準物質として、0.1、0.5、2.5、12.5、25μMのD-セリンを使用して検量線を作成し、測定値がこの範囲に入っていることを確認して定量を行った。
【0052】
<試験例2>
1.腸内細菌の選択と凍結濃縮菌体の調製
(1)腸内細菌の入手
エンテロクロスター クロストリジオホルミス、エンテロクロスター ボルテアエ、エンテロクロスター シトロニアエ、エンテロクロスター アルデネンシス、エンテロクロスター アスパラギホルミスの5菌種について、表3に示す6種類の菌株をドイツの菌株保存・分譲機関German Collection of Microorganisms and Cell Cultures GmbH(以下、DSMZともいう。)より入手した。
【0053】
(2)凍結濃縮菌体の調製
上記6種類の菌株を用いて、試験例1と同様の方法にて、凍結濃縮菌体を調製した。
(3)各腸内細菌の培養
試験例1と同様の方法にて、各腸内細菌を培養した。
【0054】
(4)培養上清の調製
試験例1と同様の方法にて、D-セリン測定用培養上清を調製した。これらD-セリン測定用培養上清を、表3に示す実施例4~9のD-セリン濃度低減用組成物とした。また、比較例3として、腸内細菌を含まないD-セリン測定用培養上清を用意した。
【0055】
2.D-セリン濃度の測定
試験例1と同様の方法にて、実施例4~9及び比較例3のD-セリン濃度低減用組成物のD-セリン濃度を測定した。
【0056】
<試験結果>
実施例1~3、比較例1、2のD-セリン濃度低減用組成物に含まれる腸内細菌種、D-セリン濃度、及び低減率を表2に示す。また、実施例4~9、及び比較例3のD-セリン濃度低減用組成物に含まれる腸内細菌種、D-セリン濃度、及び低減率を表3に示す。
【0057】
表2では、各D-セリン濃度低減用組成物とその菌株番号、D-セリン濃度、及びD-セリン濃度低減率を、それぞれ「含有菌種」欄、「JCM株番号」欄、「D-セリン濃度(μM)」欄、「低減率」欄に記載する。
【0058】
表3では、各D-セリン濃度低減用組成物とその菌株番号、D-セリン濃度、及びD-セリン濃度低減率を、それぞれ「含有菌種」欄、「DSM株番号」欄、「D-セリン濃度(μM)」欄、「低減率」欄に記載する。
【0059】
【表2】
【0060】
【表3】
【0061】
表2において、「低減率」は、比較例1のD-セリン濃度を基準にして、実施例1~3、比較例2のD-セリン濃度の低減率を算出した。表3において、「低減率」は、比較例3のD-セリン濃度を基準にして、実施例4~9のD-セリン濃度の低減率を算出した。
【0062】
表2に示すように、比較例2のD-セリン濃度低減用組成物は、低減率が1を超えているため、D-セリン濃度を低減する効果を奏していないことが確認された。これに対し、実施例1~3のD-セリン濃度低減用組成物は、D-セリン濃度低減率が1未満であり、D-セリン濃度をより好適に低減できることが確認された。また、実施例1のエンテロクロスター ボルテアエの低減率は0.04であり、D-セリン濃度をさらに好適に低減できることが確認された。
【0063】
また、表3に示すように、実施例4~9のD-セリン濃度低減用組成物は、D-セリン濃度低減率が1未満であり、D-セリン濃度をより好適に低減できることが確認された。また、実施例6のエンテロクロスター ボルテアエの低減率は0.050であり、D-セリン濃度をさらに好適に低減できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本願発明によれば、ヒトの腸内細菌叢において優勢に存在する腸内細菌を用いて、D-セリン濃度を好適に低減することができる。