(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024177596
(43)【公開日】2024-12-20
(54)【発明の名称】顔料水分散剤、顔料を水に分散させる方法、及び水性塗料
(51)【国際特許分類】
C09C 3/10 20060101AFI20241213BHJP
C09D 201/00 20060101ALI20241213BHJP
C09D 7/62 20180101ALI20241213BHJP
C08F 216/12 20060101ALI20241213BHJP
【FI】
C09C3/10
C09D201/00
C09D7/62
C08F216/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021171609
(22)【出願日】2021-10-20
(71)【出願人】
【識別番号】000000387
【氏名又は名称】株式会社ADEKA
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【弁理士】
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【弁理士】
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100122437
【弁理士】
【氏名又は名称】大宅 一宏
(74)【代理人】
【識別番号】100209495
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 さおり
(72)【発明者】
【氏名】井上 聡
(72)【発明者】
【氏名】塚原 直樹
(72)【発明者】
【氏名】綾 洋一
【テーマコード(参考)】
4J037
4J038
4J100
【Fターム(参考)】
4J037CC11
4J037CC16
4J037FF15
4J038BA031
4J038HA216
4J038MA08
4J038MA10
4J038NA03
4J038NA04
4J038PC02
4J100AB02Q
4J100AE18P
4J100AJ02T
4J100AL03R
4J100AL04S
4J100BA02P
4J100BA08P
4J100BA56P
4J100CA03
4J100FA03
4J100FA21
4J100JA15
4J100JA24
(57)【要約】 (修正有)
【課題】耐水性、耐候性などに優れた水性塗料を提供しうる顔料水分散剤を提供すること。
【解決手段】本発明は、(A)下記一般式(1)で表わされる反応性不飽和化合物の少なくとも1種と、(B)(A)成分以外の反応性不飽和化合物から選ばれる少なくとも1種とを、重合して得られる共重合体を含有する顔料水分散剤、顔料を水に分散させる方法、及び水性塗料である。
(式中、R
1は炭素原子数8~20の炭化水素基を表わし、A
1及びA
2はそれぞれ独立して炭素原子数2~4のアルキレン基を表わし、Lは、重合する際の反応性基であり、pは1~10の数を表わし、Xは水素原子又はイオン性親水基を表わし、mは15~50の数を表わし、nは0~100の数を表わす。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)下記一般式(1)で表わされる反応性不飽和化合物の少なくとも1種と、(B)(A)成分以外の反応性不飽和化合物から選ばれる少なくとも1種とを重合して得られる共重合体を含有する顔料水分散剤。
【化1】
(式中、R
1は炭素原子数8~20の炭化水素基を表わし、A
1及びA
2はそれぞれ独立して炭素原子数2~4のアルキレン基を表わし、Lは下記一般式(2)で表わされる基を表わし、pは1~10の数を表わし、Xは水素原子又はイオン性親水基を表わし、mは15~50の数を表わし、nは0~100の数を表わす。)
【化2】
(式中、R
2及びR
3はそれぞれ独立して水素原子又はメチル基を表わし、sは0~12の数を表わす。)
【請求項2】
(B)成分である反応性不飽和化合物が、アクリル酸、メタアクリル酸、アクリル酸エステル、メタアクリル酸エステル及びスチレンからなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載の顔料水分散剤。
【請求項3】
(A)成分及び(B)成分の総質量に対して、(A)成分の含有量が、0.1~5質量%である、請求項1又は2に記載の顔料水分散剤。
【請求項4】
前記共重合体が、ポリマーエマルションの形態である、請求項1~3の何れか一項に記載の顔料水分散剤。
【請求項5】
前記顔料水分散剤が、無機顔料を水に分散させるために用いられる、請求項1~4の何れか一項に記載の顔料水分散剤。
【請求項6】
(A)下記一般式(1)で表わされる反応性不飽和化合物の少なくとも1種と、(B)(A)成分以外の反応性不飽和化合物の少なくとも1種とを重合して得られる共重合体を用いて顔料を水に分散させる方法。
【化3】
(式中、R
1は炭素原子数8~20の炭化水素基を表わし、A
1及びA
2はそれぞれ独立して炭素原子数2~4のアルキレン基を表わし、Lは下記一般式(2)で表わされる基を表わし、pは1~10の数を表わし、Xは水素原子又はイオン性親水基を表わし、mは15~50の数を表わし、nは0~100の数を表わす。)
【化4】
(式中、R
2及びR
3は、それぞれ独立して水素原子又はメチル基を表わし、sは0~12の数を表わす。)
【請求項7】
請求項1~4の何れか一項に記載の顔料水分散剤と、顔料と、水とを含む、水性塗料。
【請求項8】
前記顔料が無機顔料である、請求項7に記載の水性塗料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顔料水分散剤に関し、詳しくは、特定の反応性不飽和化合物を重合して得られる共重合体を含有する顔料水分散剤、該顔料水分散剤を用いて顔料を水に分散させる方法、及び該顔料水分散剤を含む水性塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
塗料は、建築物、自動車、鉄道等の車両、船舶、構造物、電気機械、金属製品、ガーデニング用品、家具、皮革、模型等、多様な用途で使用されており、近年は、環境問題の影響等によって、油性塗料から水性塗料に切り替わる傾向が高まりつつある。
【0003】
水性塗料は、水不溶性の顔料を水中に分散して製造されるため、分散不良により、塗料の保存安定性が不十分となったり、粗大粒子の発生により塗膜を形成した場合に、耐水性及び耐候性などが低下したりするという欠点があった。
【0004】
粗大粒子の発生を低減でき、顔料等の経時的な沈降を防止可能な水性顔料分散液としては、例えば少なくともアニオン性基を有する樹脂、顔料、及び塩基性化合物を含む混合物を閉鎖系の混練装置で混練し、固体若しくは半固体状の混練物を用いた水性顔料分散液が知られている(例えば特許文献1参照)。
【0005】
しかしながら、これまでに知られた顔料を水に分散させる方法を用いた場合には、顔料の分散液により形成された塗膜の耐水性及び耐候性が十分ではなかった。
【0006】
また、特許文献2などには、特定の反応性界面活性剤(反応性不飽和化合物)が提案されているが、これを用いて顔料を水に分散させる方法に関しては示唆されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003-226832号公報
【特許文献2】特開2006-75808号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明が解決しようとする課題は、耐水性及び耐候性に優れた水性塗料を提供しうる顔料水分散体を提供するための、顔料水分散剤を提供すること、さらに、顔料を水に分散させる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで本発明者等は鋭意検討し、親水性基を有する特定の反応性不飽和化合物とその他の反応性不飽和化合物より得られる共重合体を含む顔料水分散剤を用いて顔料を水に分散させた顔料水分散体が、塗膜の耐水性及び耐候性などの性能に優れた水性塗料を提供しうることを見出し、本発明に到達した。
【0010】
即ち、本発明は、(A)下記一般式(1)で表わされる反応性不飽和化合物の少なくとも1種と、(B)(A)成分以外の反応性不飽和化合物から選ばれる少なくとも1種とを重合して得られる共重合体を含有する顔料水分散剤を提供するものである。
【0011】
【0012】
(式中、R1は炭素原子数8~20の炭化水素基を表わし、A1及びA2はそれぞれ独立して炭素原子数2~4のアルキレン基を表わし、Lは下記一般式(2)で表わされる基を表わし、pは1~10の数を表わし、Xは水素原子又はイオン性親水基を表わし、mは15~50の数を表わし、nは0~100の数を表わす。)
【0013】
【0014】
(式中、R2及びR3は、それぞれ独立して水素原子又はメチル基を表わし、sは0~12の数を表わす。)
【0015】
なお、本発明の顔料水分散剤に含まれる共重合体は、繰り返し単位が一様ではなく、その構造と繰り返しはバラエティに富むものである。このため本発明に含まれる共重合体の構造を一律にある種の一般式で表すことはできない。したがって、本発明ではこのような共重合体を含む発明を「(A)成分と(B)成分とを重合して得られる」という、製造方法で共重合体を特定する記載により定義する。
【0016】
また、本発明は、(A)一般式(1)で表わされる反応性不飽和化合物の少なくとも1種と(B)(A)成分以外の反応性不飽和化合物から選ばれる少なくとも1種とを重合して得られる共重合体を用いて、顔料を水に分散させる方法を提供するものである。
さらに、本発明は、本発明の顔料水分散剤と、顔料と、水とを含む水性塗料である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の顔料水分散剤、及び該顔料水分散剤を用いた顔料を水に分散させる方法によれば、耐水性及び耐候性に優れた塗膜を形成することが可能な顔料水分散体を提供することができる。この顔料水分散体は、水性塗料として好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】実施例3-4の水性塗料により形成された塗膜の表面のSEM写真である。
【
図2】実施例3-5の水性塗料により形成された塗膜の表面のSEM写真である。
【
図3】比較例3-3の水性塗料により形成された塗膜の表面のSEM写真である。
【
図4】比較例3-4の水性塗料により形成された塗膜の表面のSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<顔料水分散剤>
以下に、本発明の顔料水分散剤について説明する。
【0020】
本発明の顔料水分散剤は、下記一般式(1)で表わされる反応性不飽和化合物の少なくとも1種である(A)成分と、(A)成分以外の反応性不飽和化合物から選ばれる少なくとも1種である(B)成分とを重合して得られる共重合体を含有する。
【0021】
【0022】
(式中、R1は炭素原子数8~20の炭化水素基を表わし、A1及びA2はそれぞれ独立して炭素原子数2~4のアルキレン基を表わし、Lは下記一般式(2)で表わされる基を表わし、pは1~10の数を表わし、Xは水素原子又はイオン性親水基を表わし、mは15~50の数を表わし、nは0~100の数を表わす。)
【0023】
【0024】
(式中、R2及びR3はそれぞれ独立して水素原子又はメチル基を表わし、sは0~12の数を表わす。)
【0025】
一般式(1)中、R1で表わされる炭素原子数8~20の炭化水素基としては、炭素原子数8~20のアルキル基、炭素原子数8~20のアルケニル基、炭素原子数8~20のアリール基が挙げられる。
【0026】
炭素原子数8~20のアルキル基としては、例えば、直鎖状又は2-エチルヘキシル基、2級オクチル基などの分岐鎖状オクチル基、直鎖状又は2級ノニル基などの分岐鎖状ノニル基、直鎖状又は2級デシル基などの分岐鎖状デシル基、直鎖状又は2級ウンデシル基などの分岐鎖状ウンデシル基、直鎖状又は2-ブチルオクチル基、2級ドデシル基などの分岐鎖状ドデシル基、直鎖状又は2級トリデシル基などの分岐鎖状トリデシル基、直鎖状又は2-ブチルデシル基、2-ヘキシルオクチル基、2級テトラデシル基などの分岐鎖状テトラデシル基、直鎖状又は2-ヘキシルデシル基、2級ヘキサデシル基などの分岐鎖状ヘキサデシル基、直鎖状又は2-オクチルデシル基、2-ヘキシルドデシル基、モノメチル分岐-イソステアリル基などの分岐鎖状ステアリル基、直鎖状又は分岐鎖状エイコシル基などが挙げられる。
【0027】
炭素原子数8~20のアルケニル基としては、例えば、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基、テトラデセニル基、オレイル基などが挙げられる。
【0028】
炭素原子数8~20のアリール基としては、例えば、キシリル基、クメニル基、スチリル基、トリチル基、エチルフェニル基、プロピルフェニル基、ブチルフェニル基、ペンチルフェニル基、ヘキシルフェニル基、ヘプチルフェニル基、オクチルフェニル基、ノニルフェニル基、デシルフェニル基、ウンデシルフェニル基、ドデシルフェニル基、トリデシルフェニル基、テトラデシルフェニル基などが挙げられる。
【0029】
これらの炭化水素基の中でも、炭素原子数8~20のアルキル基又は炭素原子数8~20のアリール基が好ましい。
炭素原子数8~20のアルキル基においては、分散性向上効果に優れるという観点から、炭素原子数8~15のアルキル基が好ましく、炭素原子数10~14のアルキル基がより好ましく、炭素原子数10~14の分岐鎖状アルキル基が更により好ましく、炭素原子数11~13の分岐鎖状アルキル基が最も好ましい。
また、炭素原子数8~20のアリール基においては、分散性向上効果に優れるという観点から、炭素原子数13~16のアルキルフェニル基が好ましく、オクチルフェニル基及びノニルフェニル基がより好ましく、ノニルフェニル基が最も好ましい。
【0030】
一般式(1)のA1及びA2で表わされるアルキレン基としては、それぞれ独立して、エチレン、プロピレン、イソプロピレン、ブチレン、イソブチレン、第二ブチレンなどの基が挙げられる。付加されるアルキレンオキシドなどの重合形態は限定されず、1種類のアルキレンオキサイドなどの単独重合、2種類以上のアルキレンオキサイドなどのランダム共重合、ブロック共重合又はランダム/ブロック共重合などであってよい。
【0031】
A1O及びA2Oが単独の基、又は2種類以上の基の場合でも、オキシエチレン基が(A1O)n又は(A2O)m内に存在することが好ましい。(A1O)n又は(A2O)m内のオキシエチレン基の割合は、50モル%未満の場合、形成されるポリマーエマルションの安定性が低下する場合があることから、50~100モル%が好ましく、60~100モル%がより好ましく、80~100モル%が更に好ましく、100モル%が最も好ましい。(A1O)nのnは、0~100であり、0~50が好ましく、0~20がより好ましく、0が最も好ましい。また、(A2O)mのmは、15~50であり、20~40が好ましい。
【0032】
一般式(1)中、pは1~10を表すが、製造方法によってはpが異なるものの混合物となる場合がある。混合物である場合にはpは平均値を表わす。pは、1~8の数であることが好ましく、1~5の数であることがより好ましく、1~3の数であることが更に好ましく、1であることが最も好ましい。
【0033】
また、一般式(1)において、Lは、一般式(2)で表わされる基であり、重合する際の反応性基である。一般式(2)中、sは0~12の数であり、好ましくは1~8の数、より好ましくは1~5の数、更に好ましくは1~3の数、最も好ましいのは1である。また、R2及びR3はそれぞれ独立して水素原子又はメチル基を表わす。よって、一般式(2)で表わされる反応性基としては、例えば、ビニル基、1-プロペニル基、アリル基、メタリル基、2-ブテニル基、3-ブテニル基、4-ペンテニル基、3-メチル3-ブテニル基、5-ヘキセニル基、8-ノネニル基、10-ドデセニル基などのアルケニル基が挙げられる。これらの中でも、他のモノマーとの反応性の観点からアリル基が最も好ましい。
【0034】
一般式(1)中のXは、水素原子、イオン性親水基であり、イオン性親水基としてはアニオン性親水基又はカチオン性親水基が挙げられる。
【0035】
一般式(1)中のXで表わされるイオン性親水基がアニオン性親水基である場合には、-SO3M、-R4-SO3M、-R5-COOM、-PO3M2、-PO3MH又は-CO-R6-COOM(式中、Mは水素原子、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子〔但し、アルカリ土類金属原子は通常2価であるため1/2モルがMに相当〕、アンモニウム塩を表わし、R4及びR5は炭素原子数1~6のアルキレン基を表わし、R6は炭素原子数1~12の炭化水素基を表わす。)で表わされるアニオン性親水基であることが好ましい。
【0036】
アニオン性親水基を表わす式中、Mで表わされるアルカリ金属原子としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウムなどが挙げられ、アルカリ土類金属原子としては、マグネシウム、カルシウムなどが挙げられる。また、Mで表わされるアンモニウム塩としては、-NH4、モノメチルアミン、ジプロピルアミンなどのアルキルアミン又はモノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどのアルカノールアミンが挙げられる。
【0037】
R4、R5はメチレン、エチレン、プロピレン、ブチレン、ペンテン、ペンタメチレン、ヘキサメチレンなどのアルキレン基を表わす。中でも乳化性の観点から、メチレン、エチレン、プロピレン、ブチレンなどの炭素原子数1~4のアルキレン基が好ましい。
【0038】
R6は、二塩基酸から2個のカルボキシル基を除いた残基である。二塩基酸としては、例えば、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、トリデカン二酸、テトラデカン二酸などの飽和脂肪族ジカルボン酸、シクロペンタンジカルボン酸、ヘキサヒドロフタル酸、メチルヘキサヒドロフタル酸などの飽和脂環族ジカルボン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリレンジカルボン酸、キシリレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸などの不飽和脂肪族ジカルボン酸、テトラヒドロフタル酸、メチルテトラヒドロフタル酸、ナジック酸(エンドメチレンテトラヒドロフタル酸)、メチルナジック酸、メチルブテニルテトラヒドロフタル酸、メチルペンテニルテトラヒドロフタル酸などの不飽和脂環族ジカルボン酸などが挙げられる。
【0039】
アニオン性親水基の中でも、-SO3M、-PO3M2又は-PO3MHで表わされる基が好ましく、-SO3Mが好ましい。また、Mはアルカリ金属原子、アンモニウム塩が好ましく、後述する共重合体により塗膜を形成した場合の塗膜の耐水性に優れることから、-NH4が更に好ましい。
【0040】
また、一般式(1)中のXで表わされるイオン性親水基がカチオン性親水基である場合には、例えば、-R7-NR8R9R10・Y、又は-Z-NR8R9R10・Yで表わされる基等が挙げられる。上記のカチオン性親水基を表わす式中、Yはハロゲン原子又はメチル硫酸基(-CH3SO4)を表わす。ハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子、よう素原子等が挙げられる。また、R7は炭素原子数1~6のアルキレン基を表わす。炭素原子数1~6のアルキレン基としては、例えば、上記アニオン親水基のR4で挙げたのと同様のアルキレン基を挙げることができる。
【0041】
R8、R9及びR10は、それぞれ独立に、炭素原子数1~4のアルキル基、炭素原子数2~4のアルカノール基又はベンジル基を表わす。炭素原子数1~4のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、2級ブチル基、ターシャリブチル基等が挙げられる。また、炭素原子数2~4のアルカノール基としては、2-ヒドロキシエチル基、2-ヒドロキシプロピル基、2-ヒドロキシブチル基等が挙げられる。また、Zは-CH2CH(OH)CH2-又は-CH(CH2OH)CH2-で表わされる基である。
【0042】
(A)成分の含有量は、(A)成分及び後述する(B)成分の総質量に対して、0.1~5質量%が好ましく、0.5~3質量%がより好ましい。0.1質量%未満では、(A)成分と(B)成分とを乳化重合する際にポリマーエマルションが得られない場合があり、5質量%を超える場合には、(A)成分と(B)成分とから得られる共重合体を用いて形成される塗膜の耐水性が低下するおそれがある。
【0043】
本発明の(A)成分の製造方法は特に限定されないが、例えば一般式(1)において、Xが水素原子に相当する化合物を合成した後、イオン性親水基を導入することで得ることができる。一般式(1)において、Xが水素原子に相当する化合物の製造方法としては、例えば、一般式(2)で表わされる反応性基を有するグリシジルエーテルとアルコール若しくはアルコキシレートとの反応物、又はアルコールのグリシジルエーテルと一般式(2)で表わされる反応性基を有するアルコールとの反応物に、公知の方法でアルキレンオキシド(例えば、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、1,4-ブチレンオキシド)、テトラヒドロフランなどを付加することにより得ることができる。また、グリシジルエーテル(エポキシ)の開環反応は、必要に応じて触媒を使用することができる。使用できる触媒はエポキシの開環反応に使用するものであれば特に限定されず、例えば、第3級アミン、第4級アンモニウム塩、三フッ化ホウ素又はそのエーテル錯塩、塩化アルミニウム、酸化バリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどが挙げられる。
【0044】
イオン性親水基を表わす式中、-SO3Mで表わされるアニオン性親水基を導入するために硫酸エステル化する場合は、アニオン性親水化剤として、例えば、スルファミン酸、硫酸、無水硫酸、発煙硫酸、クロロスルホン酸、及びこれらのアルカリ金属塩、アンモニウム塩などを使用することができる。硫酸エステル化する場合の反応条件は、特に限定されないが、通常温度は室温~150℃、圧力は常圧~0.5MPa程度の加圧下、反応時間は1~10時間程度である。必要に応じて、尿素などの触媒を使用してもよい。また、Mが水素原子の場合には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ、アンモニア、アルキルアミン又はモノエタノールアミン、ジエタノールアミンなどのアルカノールアミンなどで中和を行ってもよい。
【0045】
イオン性親水基を表わす式中、-R4-SO3Mで表わされるアニオン性親水基を導入する場合は、アニオン性親水化剤として、例えば、プロパンサルトン、ブタンサルトンなどを使用することができる。スルホン酸化する場合の反応条件は、特に限定されないが、通常温度は室温~100℃、圧力は常圧~0.5MPa程度の加圧下、反応時間は1~10時間程度である。また、必要に応じて、溶剤や水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリを触媒として使用してもよい。
【0046】
イオン性親水基を表わす式中、-R5-COOMで表わされるアニオン性親水基を導入するためにカルボン酸化する場合は、アニオン性親水化剤としては、例えばクロロ酢酸(R5がメチレン基に相当)、クロロプロピオン酸(R5がエチレン基に相当)及びこれらのアルカリ金属塩、アンモニウム塩などが使用できる。カルボン酸化する場合の反応条件は、特に限定されないが、通常温度は室温~150℃、圧力は常圧~0.5MPa程度の加圧下、反応時間は1~10時間程度である。また、Mが水素原子の場合には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ、アンモニア、アルキルアミン又はモノエタノールアミン、ジエタノールアミンなどのアルカノールアミンなどで中和を行ってもよい。
【0047】
イオン性親水基を表わす式中、-PO3M2又は-PO3MHで表わされるアニオン性親水基を導入するためにリン酸エステル化する場合は、アニオン性親水化剤としては、例えば、五酸化二リン、ポリリン酸、オルトリン酸、オキシ塩化リンなどが使用できる。リン酸化する場合には、モノエステル型の化合物とジエステル型の化合物が混合体として得られるが、これらは分離してもよいし、分離が難しい場合はそのまま混合物として使用してもよい。リン酸エルテル化する場合の反応条件は、特に限定されないが、通常温度は室温~150℃、圧力は常圧、反応時間は1~10時間程度である。
【0048】
イオン性親水基を表わす式中、-CO-R6-COOMで表わされるアニオン性親水基を導入するために二塩基酸化する場合は、アニオン性親水化剤としては、前述した二塩基酸又はその無水物などが使用できる。例えば、マレイン酸(R6がCH=CH基に相当)、フタル酸(R6がフェニル基に相当)、及びこれらのアルカリ金属塩、アンモニウム塩、並びにこれらの無水物などが挙げられる。二塩基酸化する場合の反応条件は、特に限定されないが、通常温度は室温~150℃、圧力は常圧、反応温度は1~10時間程度である。必要に応じて、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリを触媒として使用してもよい。また、Mが水素原子の場合には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ、アンモニア、アルキルアミン又はモノエタノールアミン、ジエタノールアミンなどのアルカノールアミンなどで中和を行ってもよい。
【0049】
また、Xが、-R7-NR8R9R10・Yで表わされるカチオン性親水基を導入する場合は、まず、塩化チオニル、臭化チオニル、ホスゲン等のハロゲン化剤により、Xが水素原子である一般式(1)で表わされる化合物の水酸基をハロゲン化し、その後、3級アミン化合物を反応させることにより導入することができる。また、3級アミン化合物の代わりに2級アミン化合物を反応させた後に、ハロゲン化アルキル、硫酸ジメチル等を反応させてもよい。水酸基をハロゲン化する場合の反応条件は、特に限定されないが、通常、温度は室温~100℃、圧力は常圧~0.5MPa程度の加圧下、反応温度は1~10時間程度である。また、アミノ化する場合の反応条件も、特に限定されないが、通常、温度は室温~150℃、圧力は常圧~0.5MPa程度の加圧下、反応温度は1~10時間程度である。必要に応じて、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリを触媒として使用してもよい。
【0050】
Xが、-Z-NR8R9R10・Yで表わされるカチオン性親水基を導入する場合は、まず、エピクロロヒドリン、エピブロモヒドリン等のエピハロヒドリンを、Xが水素原子である一般式(1)で表わされる化合物に反応させ、その後、更に3級アミン化合物を反応させることにより導入することができる。また、3級アミン化合物の代わりに2級アミン化合物を反応させた後に、ハロゲン化アルキル、硫酸ジメチル等を反応させてもよい。エピハロヒドリンを反応させる場合の反応条件は、特に限定されないが、通常、温度は室温~100℃、圧力は常圧~0.3MPa程度の加圧下、反応温度は1~10時間程度である。必要に応じて、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ触媒、又は硫酸、リン酸、塩化鉄、フッ化ホウ素、塩化スズ等の酸触媒を使用してもよい。また、アミノ化する場合の反応条件も、特に限定されないが、通常、温度は室温~150℃、圧力は常圧~0.5MPa程度の加圧下、反応温度は1~10時間程度である。必要に応じて、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリを触媒として使用してもよい。
【0051】
本発明に使用される(B)成分は、上記(A)成分以外の反応性不飽和化合物から選ばれる少なくとも1種であり、反応性不飽和化合物としては、例えば、不飽和カルボン酸又はそのエステル、並びにその他の反応性不飽和化合物が挙げられる。
上記不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸等のエチレン性不飽和モノカルボン酸;フマル酸、イタコン酸、マレイン酸、シトラコン酸等のエチレン性不飽和ジカルボン酸;2-カルボキシルエチルアクリレート、2-カルボキシルエチルメタクリレート等が挙げられる。
【0052】
また、不飽和カルボン酸エステルとしては、例えば、炭素原子数1~12のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸アルキルエステルが挙げられる。
上記アルキル基の炭素原子数が12を超えると、後述する共重合体を用いて形成される塗膜が硬くなりクラックが生じたり、成膜不良が生じたりする場合がある。
上記アルキル基の炭素原子数は、1~12であるが、上記観点から、好ましくは1~10、より好ましくは1~9、更に好ましくは1~8である。
即ち、不飽和カルボン酸エステルとしては、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、ペンチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、ヘプチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、オクチルアクリレート、ノニルアクリレート、デシルアクリレート、メチルメタクリレート(メタクリル酸メチル)、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、ブチルメタクリレート、ペンチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、ヘプチルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、オクチルメタクリレート、ノニルメタクリレート、デシルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート(メタクリル酸シクロヘキシル)等が挙げられる。
【0053】
(B)成分におけるその他の反応性不飽和化合物としては、例えば、スチレン、ジクロロスチレン、クロロメチルスチレン、メチルスチレン、アクリルアミド、アクリロニトリル、ブタジエン、マレインニトリルなどが挙げられる。
【0054】
また、(B)成分におけるその他の反応性不飽和化合物として、後述する共重合体を用いて形成される塗膜の物性を向上させる目的で、内部架橋剤として、さらに多官能性モノマーを配合してもよい。
多官能性モノマーとしては、例えば、(ポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、メチレンビスアクリルアミド、ジビニルベンゼン等が挙げられる。
(B)成分の反応性不飽和化合物は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0055】
上記(B)成分の含有量は、(A)成分及び(B)成分の総質量に対して、95~99.9質量%が好ましく、97~99.5質量%がより好ましい。
また、内部架橋剤として用いられる上記多官能性モノマーの含有量は、(A)成分及び(B)成分の総質量に対して、好ましくは0~2質量%、より好ましくは0~1.5質量%である。
【0056】
本発明の顔料水分散剤は、上述した(A)成分と(B)成分とを重合して得られる共重合体を含有する。
(A)成分と(B)成分とを重合して共重合体を製造する方法は、(A)成分及び(B)成分の混合物(以下、「単量体混合物」ともいう)に、水、重合開始剤、さらに必要に応じて乳化剤などを添加し、重合することにより実施することができる。
【0057】
共重合体を重合する際に使用することのできる乳化剤としては、公知の界面活性剤を使用することができる。例えば、一般のアニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両面界面活性剤、高分子系界面活性剤、反応性界面活性剤等を使用することができる。これらの乳化剤は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0058】
アニオン性界面活性剤としては、例えば、ナトリウムドデシルサルフェート、カリウムドデシルサルフェート、アンモニウムドデシルサルフェート等のアルキルサルフェート類;ナトリウムドデシルポリグリコールエーテルサルフェート;ナトリウムスルホリシノレート;スルホン化パラフィンのアルカリ金属塩、スルホン化パラフィンのアンモニウム塩等のアルキルスルホネート;ナトリウムラウレート、トリエタノールアミンオレート、トリエタノールアミンアビエテート等の脂肪酸塩;ナトリウムベンゼンスルホネート、アルキルフェノールヒドロキシエチレンのアルカリ金属サルフェート等のアルキルアリールスルホネート;高アルキルナフタレンスルホン酸塩;ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物;ジアルキルスルホコハク酸塩;ポリオキシエチレンアルキルサルフェート塩;ポリオキシエチレンアルキルアリールサルフェート塩;ポリオキシエチレンエーテルリン酸塩;ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸塩;N-アシルアミノ酸塩;N-アシルメチルタウリン塩などが挙げられる。
【0059】
ノニオン性界面活性剤としては、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノオレート等の多価アルコールの脂肪酸部分エステル類;ポリオキシエチレングリコール脂肪酸エステル類;ポリグリセリン脂肪酸エステル類;炭素原子数1~18のアルコールのエチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイド付加物;アルキルフェノールのエチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイド付加物;アルキレングリコール及び/又はアルキレンジアミンのエチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイド付加物などが挙げられる。
【0060】
ノニオン性界面活性剤を構成する炭素原子数1~18のアルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、2-プロパノール、ブタノール、2-ブタノール、第三ブタノール、アミルアルコール、イソアミルアルコール、第三アミルアルコール、ヘキサノール、オクタノール、デカンアルコール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、パルミチルアルコール、ステアリルアルコール等が挙げられ、アルキルフェノールとしては、フェノール、メチルフェノール、2,4-ジ第三ブチルフェノール、3,5-ジ第三ブチルフェノール、4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)フェノール、4-イソオクチルフェノール、4-ノニルフェノール、4-第三オクチルフェノール、4-ドデシルフェノール、2-(3,5-ジメチルヘプチル)フェノール、4-(3,5-ジメチルヘプチル)フェノール、ナフトール、ビスフェノールA、ビスフェノールF等が挙げられ、アルキレングリコールとしては、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、2-ブチル-2-メチル-1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール等が挙げられ、アルキレンジアミンとしては、アルキレングリコールのアルコール性水酸基がアミノ基に置換されたものが挙げられる。また、エチレンオキサイド付加物及びプロピレンオキシド付加物とは、ランダム付加物でもブロック付加物でもよい。
【0061】
カチオン性界面活性剤としては、例えば、アルキルピリジニウムブロマイド等のピリジニウム塩等のアルキルピリジニウム塩;イミダゾリニウムラウレート等のイミダゾリニウム塩;ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド、ジステアリルジメチルアンモニウムクロライド、ジデシルジメチルアンモニウムクロライド、ラウリルベンジルジメチルアンモニウムクロライド、ジデシルジメチルアンモニウムクロライド、ハロゲン化アルキル4級アンモニウム塩等の4級アンモニウム塩などが挙げられる。
【0062】
両性界面活性剤としては、例えば、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルジメチル酢酸ベタイン、ラウリルジメチルアミノ酸ベタイン、2-アルキル-N-カルボキシメチル-N-ヒドロキシメチルイミダゾリニウムベタイン、ラウリルヒドロキシスルホベタイン、ラウロイルアミドエチルヒドロキシエチルカルボキシメチルベタイン、ヒドロキシプロピルリン酸の金属塩等のベタイン型両性界面活性剤;β-ラウリルアミノプロピオン酸の金属塩等のアミノ酸型両性界面活性剤;硫酸エステル型両性界面活性剤;スルホン酸型両性界面活性剤などが挙げられる。
【0063】
上記乳化剤の中でも、重合して得られる共重合体のエマルション(以下、ポリマーエマルションともいう)の重合安定性及び機械安定性等の分散安定性を向上させ、水性塗料の分散安定性を良好にする観点から、アニオン性界面活性剤又はノニオン性界面活性剤が好ましく、アニオン性界面活性剤がより好ましい。
【0064】
乳化剤は、本願発明に使用される式(1)で表わされる反応性不飽和化合物が乳化剤としても作用するため必須なものではなく、任意であるが、使用する場合の乳化剤の添加量は、単量体混合物100質量部に対して、好ましくは0.5~12質量部、より好ましくは0.8~8質量部、更に好ましくは1~6質量部である。乳化剤の添加量が0.5質量部以上であれば、安定して乳化重合を進行させることができる。一方、12質量部以下であれば、未反応の乳化剤が残存することによる基材密着性や耐水性の低下といった弊害を防ぐことができる。
なお、乳化剤は、単量体混合物に水を加えた液に直接添加してもよく、予め重合容器内に添加しておいてもよく、又はそれらを併用してもよい。
【0065】
共重合体を製造する際に使用することのできる重合開始剤としては、特に限定されずに、水溶性又は油溶性のいずれであってもよい。
具体的な重合開始剤としては、例えば、2,2‘-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2.2’-アゾビスイソブチロニトリル、1,1‘-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩、2,2’-アゾビス(2-アミジノプロパン)ジヒドロクロライド等のアゾ系化合物、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩、ベンゾイルパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド、過酸化水素等の過酸化物等が挙げられる。また、過硫酸塩と亜硫酸水素ナトリウムとの組み合わせや、過酸物とアスコルビン酸ナトリウムとの組み合わせ等からなるレドックス開始剤を用いてもよい。
これらの重合開始剤は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
これらの中でも、重合安定性に優れているという観点から、過硫酸塩又はレドックス開始剤が好ましい。
【0066】
重合開始剤の添加量は、重合速度を速める観点から、単量体混合物100質量部に対して、好ましくは0.01~6質量部、より好ましくは0.03~4質量部、更に好ましくは0.1~2質量部である。
【0067】
重合開始剤は、予め重合容器内に添加しておいてもよく、重合開始直前に添加してもよく、重合開始後に複数回に分けて添加してもよい。また、単量体混合物中に、予め添加しておいてもよく、該単量体混合物からなる乳化液を調製後、当該乳化液に添加してもよい。
添加する際には、重合開始剤を別途溶媒や単量体混合物に溶解して添加してもよく、溶解した重合開始剤を更に乳化させて、添加してもよい。
【0068】
共重合体を製造する際に乳化重合させる場合において用いる水としては、イオン交換水が好ましい。
水の添加量は、単量体混合物100重量部に対して、好ましくは30~400質量部、より好ましくは35~200質量部、更に好ましくは40~150質量部である。水の添加量が30質量部以上であれば、得られるポリマーエマルションの粘度を適切な範囲とすることができ、得られるポリマーエマルションの重合安定性も良好となる。一方、水の添加量が400質量部以下であれば、得られるポリマーエマルションの固形分濃度を適切な範囲とすることができる。
【0069】
本発明の顔料水分散剤に含まれる共重合体を製造する方法は、特に限定されるものではないが、例えば、ミニエマルション重合を含む乳化重合、及び懸濁重合などが挙げられる。これらの重合方法の中でも均質なポリマーエマルションが容易に得られることから乳化重合が好ましく用いられる。
【0070】
また、乳化重合を行う際には、さらに連鎖移動剤やpH緩衝剤を添加してもよい。
連鎖移動剤としては、例えば、ラウリルメルカプタン、グリシジルメルカプタン、メルカプト酢酸、2-メルカプトエタノール、チオグリコール酸、チオグルコール酸2-エチルヘキシル、2,3-ジメルカプト-1-プロパノール、デカンチオール等が挙げられる。
pH緩衝剤としては、pH緩衝作用を有する化合物であれば特に制限されないが、例えば、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、リン酸一ナトリウム、リン酸一カリウム、リン酸二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、酢酸ナトリウム、酢酸アンモニウム、ギ酸ナトリウム、ギ酸アンモニウム等が挙げられる。
【0071】
(A)成分と(B)成分との共重合体のエマルションを乳化重合により製造する場合には、単量体混合物を乳化剤の存在下、重合開始剤を添加して、乳化重合を進行させることにより合成することができる。
【0072】
乳化重合を行う際の手順としては、以下の(1)~(3)の方法が挙げられ、重合温度の制御が容易であるとの観点から、(2)又は(3)の方法が好ましく、(3)の方法がより好ましい。
(1)反応容器内に単量体混合物、乳化剤、水等の全量を入れて、昇温し、水に溶かした重合開始剤を全量滴下又は分割添加して、重合する。
(2)反応容器内に水、乳化剤、単量体混合物の一部を入れ、昇温した後、水に溶かした重合開始剤を滴下又は分割添加して重合反応を進行させた後、残りの単量体混合物を全量滴下又は分割添加して重合を継続する。
(3)反応容器内に水に溶かした重合開始剤を入れておき昇温した後、単量体混合物、乳化剤、及び水からなる乳化液を全量滴下又は分割添加して重合する。
【0073】
重合方法における重合条件としては、特に限定されないが、以下の条件で行うことが好ましい。
(1)の方法では、温度範囲としては40~100℃が好ましく、昇温開始後1~8時間程度で重合反応を行うことが好ましい。
(2)の方法では、単量体混合物の1~50質量%を40~90℃で0.1~4時間で重合した後、残りの単量体混合物を1~5時間程度かけて全量滴下又は分割添加して、その後、同温度で1~3時間程度熟成することが好ましい。
(3)の方法では、水に溶かした重合開始剤を、好ましくは40~90℃まで昇温し、単量体混合物、乳化剤、及び水からなる乳化液を2~5時間程度かけて全量滴下又は分割添加することが好ましい。また、その後、同温度で1~5時間熟成することが好ましい。
【0074】
上記重合方法において、重合安定性の観点から、乳化剤(又は乳化剤の一部)を、単量体混合物に溶解しておくか、又は、単量体混合物を予めO/W型の乳化液の状態としておくことが好ましい。
【0075】
上記重合方法により得られたポリマーエマルションに、さらに、アンモニア水、各種水溶性アミン、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液等のアルカリ水溶液を添加して、pH5~9、好ましくはpH6~8.5に調整してもよい。
ポリマーエマルションについては、上記アルカリ水溶液を添加して、pHを上記範囲に調整することが好ましい。
アルカリ水溶液は、重合中又は重合終了後に添加することができるが、重合安定性及び得られるポリマーエマルションの経時粘度安定性の観点から、重合中の熟成段階で、室温まで冷却後、一部又は全量を添加することが好ましい。
【0076】
乳化重合により得られるポリマーエマルション中の固形分濃度は、好ましくは10~80質量%、より好ましくは25~70質量%である。
ここでいう固形分濃度とは、ポリマーエマルションを105℃、2時間かけて乾燥させた残渣の量をポリマーエマルションの量で割った数値で表わされる。
【0077】
ポリマーエマルションの25℃における粘度は、好ましくは30~400mPa・s、より好ましくは50~300mPa・sである。
ここでいう粘度とは、回転式粘度計を用いて25℃で測定した数値である。
【0078】
ポリマーエマルションの平均粒子径は、好ましくは100~900nm、より好ましくは150~600nmである。
ここでいう平均粒子径としては、動的光散乱法により測定されたものである。
【0079】
上記製造方法により得られたポリマーエマルションは、本発明の顔料水分散剤として用いられる。本発明の顔料水分散剤は上述した(A)成分と(B)成分との共重合体を含有していればよく、ポリマーエマルションの形態でなくてもよい。しかし、ポリマーエマルションの形態である方が、水性塗料中の顔料のバインダーとしての機能に優れるため、耐水性、耐候性等の塗膜性能を付与する観点で、好ましい。
顔料水分散剤としては、上記ポリマーエマルションをそのまま用いてもよく、顔料水分散剤に一般的に含まれるアニオン性、カチオン性、ノニオン性のアクリル共重合体、ブロック共重合体などのポリマー型分散剤を添加剤として加えてもよい。
【0080】
<顔料を水に分散させる方法>
次に、本発明の顔料を水に分散させる方法(以下、顔料水分散方法ともいう)について説明する。
本発明の顔料を水に分散させる方法は、(A)成分と(B)成分とを重合して得られる共重合体を用いて顔料を水に分散させる方法であり、本発明の顔料水分散剤を用いて顔料を水に分散させる方法である。
特に、(A)成分及び(B)成分から得られる共重合体が、上述したようなポリマーエマルションの形態で使用されることが好ましい。
【0081】
共重合体の添加量は、顔料100質量部に対して、1質量部~1000質量部であり、好ましくは、10質量部~500質量部である。1質量部未満の添加量では、顔料を水中に十分に分散することができないおそれがあり、1000質量部を超えて使用した場合には、顔料としての効果が十分発揮できないおそれがある。
【0082】
本発明の顔料水分散剤によって、水に分散させる顔料としては、特に限定されず公知の有機顔料又は無機顔料を使用することができる。顔料としては、例えば、酸化鉄、コンタクト法、ファーネス法、サーマル法等の公知の方法によって製造されたカーボンブラック、酸化チタン等の無機顔料、アゾ顔料(モノアゾ顔料、ジスアゾ顔料、ピラゾロン顔料等の不溶性アゾ顔料やベンズイミダゾロン顔料、ベータナフトール顔料、ナフトールAS顔料、縮合アゾ顔料などを含む)、多環式顔料(例えば、キナクリドン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、アントラキノン顔料、ジオキサジン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、イソインドリン顔料、キノフタロン顔料、ジケトピロロピロール顔料など)、フタロシアニン顔料、染料キレート(例えば、塩基性染料型キレート、酸性染料型キレートなど)、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラックなど有機顔料を使用することができる。顔料は、単独又は2種以上組み合わせ使用することができる。
顔料としては顔料誘導体を使用することもでき、該顔料誘導体としては、顔料に後述する特定の官能基を導入したものを使用することができる。官能基としては、カルボキシ基、スルホ基、アミノ基、ニトロ基、酸アミド基、カルボニル基、カルバモイル基、フタルイミド基、スルホニル基等が挙げられる。
【0083】
上記顔料を色ごとに具体的な製品名を挙げて説明する。
ブラック顔料としては、カーボンブラックであれば三菱ケミカル株式会社製の#2300、#980、#960、#900、#52、#45L、#45、#40、#33、MA100、MA8、MA7等、キャボット社製のRegalシリーズ、Monarchシリーズ等、オリオン・エンジニアドカーボンズ株式会社製のColor Blackシリーズ、Printexシリーズ、Special Blackシリーズ、NIPEXシリーズ、エスケー化研株式会社製のSK水性カラー(クロ)等を使用することができる。
【0084】
イエロー顔料としては、C.I.ピグメントイエロー1、2、12、13、14、16、17、73、74、75、83、93、95、97、98、109、110、114、120、128、129、138、150、151、154、155、174、180、185等を使用することができる。
【0085】
マゼンタ顔料としては、C.I.ピグメントレッド5、7、12、48(Ca)、48(Mn)、57(Ca)、57:1、112、122、123、146、149、150、168、176、184、185、202、209、213、269、282等を使用することができる。
【0086】
シアン顔料としては、C.I.ピグメントブルー1、2、3、15、15:1、15:2、15:3、15:4、15:6、16、22、60、63、66等を使用することができる。
【0087】
オレンジ顔料としては、C.I.ピグメントオレンジ5、13、16、17、34、36、43、51、64、71等を使用することができる。
【0088】
バイオレット顔料としては、C.I.ピグメントバイオレット1、3、5:1、16、19、23、38等を使用することができる。
【0089】
グリーン顔料としては、C.I.ピグメントグリーン1、4、7、8、10、17、18、36、50、58等を使用することができる。
【0090】
上記以外の色を示す顔料としては、例えば、エスケー化研株式会社製のSK水性カラー(オーカ)、SK水性カラー(アカサビ)等も挙げられる。
【0091】
上記に例示した顔料の中でも、例えば、酸化チタン、シリカ、アルミナ、炭酸カルシウム、タルク、カオリン、酸化亜鉛、硫酸バリウム、カーボンブラック、酸化鉄、トリポリリン酸二水素アルミニウム、マイカなどの無機顔料が好ましく、特に、酸化チタンは、顔料を水に分散させて水性塗料として用いた場合に、塗膜の耐候性や隠蔽性の観点から好ましい。
【0092】
顔料としては、ドライパウダーやウェットケーキの状態のものを使用することができ、単独で、又は2種以上を含む混合物や固溶体を使用することができる。
【0093】
顔料としては、一次粒子径が1.0μm以下であるものを使用することが好ましく、0.1μm~0.3μmであるものを使用することがより好ましい。上記範囲内の一次粒子径を有する顔料を使用することによって、顔料の経時的な沈降をより一層効果的に抑制することができる。顔料水分散体における一次粒子径は、例えば透過型電子顕微鏡(TEM)を使用して測定することができる。
【0094】
本発明の顔料水分散方法に使用される水としては、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、蒸留水等の純水、又は超純水を用いることができる。また、水としては、紫外線照射又は過酸化水素添加等によって滅菌された水を用いることが、水性顔料分散体やそれを使用した水性塗料等を長期保存する場合に、カビ又はバクテリアの発生を防止することができるため好適である。
【0095】
また、顔料水分散時において、水とともに水性溶剤を使用することができ、該水性溶剤としては、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのグリコール類;ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオールなどのジオール類;ラウリン酸プロピレングリコールなどのグリコールエステル;ジエチレングリコールモノエチル、ジエチレングリコールモノブチル、ジエチレングリコールモノヘキシル、カルビトールなどのジエチレングリコールエーテル類;プロピレングリコールエーテル、ジプロピレングリコールエーテル、及びトリエチレングリコールエーテルを含むセロソルブなどのグリコールエーテル類;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、ブチルアルコール、ペンチルアルコールなどのアルコール類;スルホラン、エステル、ケトン、γ-ブチロラクトンなどのラクトン類、2-ピロリジノン、N-(2-ヒドロキシエチル)ピロリドンなどのラクタム類、グリセリン及びそのポリアルキレンオキサイド付加物、ジプロピレングリコールnブチルエーテル(DPNB)など、水性溶剤として知られる他の各種の溶剤などを挙げることができる。これらの水性溶剤は、単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0096】
本発明の顔料水分散方法に使用可能な混練機としては、例えば、ペイントシェーカー、ボールミル、アトライター、バスケットミル、サンドミル、サンドグラインダー、ダイノーミル、ディスパーマット、SCミル、スパイクミル、アジテーターミル等を使用することができ、メディアを用いないものとして超音波ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、ナノマイザー、デゾルバー、ディスパー、高速インペラー分散機等を使用することができる。
【0097】
なお、顔料を水に分散させる際には、顔料に予め少量の水及びアニオン性、カチオン性、ノニオン性のアクリル共重合体、ブロック共重合体などのポリマー型分散剤を添加し、ディスパーなどで攪拌することによりペースト状にした後に、本発明の顔料水分散剤を含む水に分散させることが好ましい。
【0098】
<水性塗料>
本発明の顔料水分散剤を用いて、顔料を水に分散させた顔料水分散体は、水性塗料として好適に用いることができる。つまり、本発明の水性塗料は、本発明の顔料水分散剤と、顔料と、水とを含む。
本発明の水性塗料における顔料としては、上記顔料を水に分散させる方法において説明した顔料と同じであり、水性塗料における顔料の含有量は、好ましくは10~50質量%であり、より好ましくは15~40質量%である。
【0099】
本発明の水性塗料における顔料水分散剤の含有量は、好ましくは40~75質量%であり、より好ましくは50~70質量%である。
【0100】
また、本発明の水性塗料における水の含有量は、好ましくは2~30質量%であり、より好ましくは3~25質量%である。なお、ここでの水の含有量には、顔料水分散剤の水の量は含まれないこととする。
【0101】
本発明の水性塗料は水とともに水性溶剤を含有してもよく、含有する場合の水性溶剤の含有量は、好ましくは0.1~5質量%であり、より好ましくは0.5~3質量%である。
【0102】
本発明の水性塗料においては、任意の成分を配合することができる。任意の成分としては、例えば、粘稠剤、消泡剤、防腐剤、中和剤、分散剤、成膜助剤、凍結防止剤、酸化防止剤、硬化性調整剤、金属不活性化剤、オゾン劣化防止剤、リン系過酸化物分解剤、滑剤、消泡剤、発泡剤、防蟻剤、防かび剤、触媒、湿潤剤、流動制御剤、平滑剤、などを配合することができる。
【0103】
粘稠剤としては、例えば、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース(MC)などのセルロース系粘稠剤、非イオン性界面活性剤((株)ADEKA製;ADEKANOL UH-420)が挙げられる。
【0104】
消泡剤としては、例えば、ポリジメチルシリコーン、ジメチルシリコーンオイル、トリフルオロプロピルメチルシリコーン、コロイダルシリカ、ポリアルキルアクリレート、ポリアルキルメタクリレート、アルコールエトキシ/プロポキシレート、脂肪酸エトキシ/プロポキシレート及びソルビタン部分脂肪酸エステル、非イオン性界面活性剤とシリコーンとの配合品((株)ADEKA製;ADEKANATE B-1016)等が挙げられる。これらの消泡剤の好ましい配合量は、水性塗料に対して0.001~1.0質量%、より好ましくは0.001~0.5質量%である。
【0105】
防腐剤としては、公知の防腐剤であれば種類を選ばずに使用することができ、例えば、パラオキシ安息香酸エステル、デヒドロ酢酸ナトリウム、ヒノキチオール、しらこたん白抽出物、安息香酸又はその塩、ソルビン酸又はその塩、プロピオン酸又はその塩、ポリリジン、ナイシン、及び2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、1,2-ベンゾイソチアゾリン-3-オンや5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンなどのイソチアゾリン系防腐剤などが挙げられる。これらは単独で用いても、2種以上を組み合わせても良い。その中でも、安全性の点から、安息香酸又はその塩、ソルビン酸又はその塩、プロピオン酸又はその塩が好ましい。
【0106】
中和剤としては、例えば、アンモニア水、トリエチルアミン、ジメチルアミノエタノール、ジエチルアミノエタノールなどが挙げられる。
【0107】
分散剤としては、例えば、ポリカルボン酸ナトリウム((株)ADEKA社製 COL W-193等)、アニオン性、カチオン性、ノニオン性のアクリル共重合体、ブロック共重合体(BYK-Chemi社製 BYK-190)などのポリマー型分散剤などが挙げられる。
【0108】
成膜助剤としては、テキサノールなどの疎水溶剤が挙げられる。
【0109】
本発明の水性塗料は、例えば、建築(内装、外装、屋根、床)、構造物(土木構造物、鋼管・パイプ)、工業(金属製品、プラスチック、PCM)、自動車(中上塗り、補修用)などに好適に使用することができる。
【実施例0110】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。
【0111】
<顔料水分散剤(ポリマーエマルション)の調製>
〔実施例1-1〕
モノマーとしてスチレン30g、メタクリル酸メチル35g、アクリル酸2-エチルヘキシル33g、アクリル酸2gを混合し混合モノマー液を調製した。
混合モノマー液85.5gと下記式(a)で表わされる反応性不飽和化合物2.18g及びイオン交換水51.35gをホモミキサーで混合して混合モノマー乳濁液を調製した。
これとは別に、撹拌機、還流冷却器、温度計、窒素導入管及び滴下漏斗を備えた反応容器に、イオン交換水54.4gを入れ、攪拌した状態で、残りの混合モノマー液4.5gと下記式(a)で表わされる反応性不飽和化合物0.07gを反応容器に添加し、75℃に昇温させた。その後、75℃で安定した後に、重合開始剤として過硫酸アンモニウム0.2gをイオン交換水1.8gに溶解して加えて重合を開始させた。次いで、重合開始剤の添加15分後より3時間かけて、混合モノマー乳濁液の139.03gを滴下して重合させた。さらに、続けて2時間熟成した後、冷却してアンモニア水でpHを8に調整して本発明の評価実験に供するポリマーエマルション1-1を得た。
【0112】
【0113】
〔実施例1-2〕
実施例1-1の式(a)で表わされる反応性不飽和化合物を下記式(b)の化合物に変えた以外は、実施例1-1と同様の方法によりポリマーエマルション1-2を得た。
【0114】
【0115】
〔実施例1-3〕
実施例1-1の式(a)で表わされる反応性不飽和化合物を下記式(c)の化合物に変えた以外は、実施例1-1と同様の方法によりポリマーエマルション1-3を得た。
【0116】
【0117】
〔比較例1-1〕
実施例1-1の式(a)で表わされる反応性不飽和化合物を下記式(x)の化合物に変えた以外は、実施例1-1と同様の方法によりポリマーエマルション1-4を得た。
【0118】
【0119】
〔比較例1-2〕
実施例1-1の式(a)で表わされる反応性不飽和化合物を下記式(y)の化合物に変えた以外は、実施例1-1と同様の方法によりポリマーエマルション1-5を得た。
【0120】
【0121】
〔実施例2-1〕
モノマーとして、メタクリル酸シクロヘキシル30g、メタクリル酸37g、アクリル酸2-エチルヘキシル31g、アクリル酸2gを混合し混合モノマー液を調製した。
混合モノマー液100gと連鎖移動剤としてデカンチオールを0.11g、上記式(a)で表わされる反応性不飽和化合物1.87g及びイオン交換水30.8gを振とうにより混合し滴下用の乳濁液を調製した。
これとは別に、撹拌機、還流冷却器、温度計、窒素導入管及び滴下漏斗を備えた反応容器に、イオン交換水55.22gを入れ、攪拌した状態で、80℃に昇温させた。80℃で安定したところに重合開始剤として過硫酸アンモニウム0.22gをイオン交換水1.98gに溶解して加えて重合を開始させた。次いで、重合開始剤の添加15分後より3時間かけて、混合モノマー乳濁液の132.78gを滴下して重合させた。さらに、続けて1時間熟成した後、冷却してアンモニア水でpHを7~8に調整して本発明の評価実験に供するポリマーエマルション2-1を得た。
【0122】
〔実施例2-2〕
実施例2-1の式(a)で表わされる反応性不飽和化合物を上記式(b)の化合物に変えた以外は、実施例2-1と同様の方法によりポリマーエマルション2-2を得た。
【0123】
〔実施例2-3〕
実施例2-1の式(a)で表わされる反応性不飽和化合物を上記式(c)の化合物に変えた以外は、実施例2-1と同様の方法によりポリマーエマルション2-3を得た。
【0124】
〔比較例2-1〕
実施例2-1の式(a)で表わされる反応性不飽和化合物を上記式(x)の化合物に変えた以外は、実施例2-1と同様の方法によりポリマーエマルション2-4を得た。
【0125】
〔比較例2-2〕
実施例2-1の式(a)で表わされる反応性不飽和化合物を上記式(y)の化合物に変えた以外は実施例2-1と同様の方法によりポリマーエマルション2-5を得た。
【0126】
上記実施例1-1~1-3のポリマーエマルション1-1~1-3及び実施例2-1~2-3のポリマーエマルション2-1~2-3は、本発明の顔料水分散剤に相当する。
【0127】
〔実施例3-1~3-6、比較例3-1~3-4〕
<水性塗料の調製>
上記実施例及び比較例のポリマーエマルション1-1~1-5及び2-1~2-5を含む水性塗料を以下の方法で製造した。
【0128】
顔料として二酸化チタンを含む水性塗料を製造するため、表1に示す処方にて二酸化チタンペーストを製造した。25℃に保持した容器内に、ディスパー型分散機を用いて攪拌しながら、配合成分を表の上から順に加えて混合し、二酸化チタンペースト(TiO2ペースト)を製造した。
【0129】
【0130】
HEC:ヒドロキシエチルセルロース
ADEKACOL W-193:(株)ADEKA製;ポリカルボン酸型アニオン性界面活性剤
Ti-Pure R-706:Chemours社製;二酸化チタン
ADEKANATE B-1016:(株)ADEKA製;消泡剤(ノニオン性界面活性剤+シリコーン配合品)
防腐剤:イソチアゾリン系防腐剤
【0131】
上記二酸化チタンペーストと、実施例及び比較例のポリマーエマルション1-1~1-5及びポリマーエマルション2-1~2-5を、表2に示す処方にて、ディスパー型分散機を用いて、25℃に保持しながら混合し、実施例3-1~3-6及び比較例3-1~3-4の水性塗料を製造した。
【0132】
【0133】
3%HEC*:水96.67g、ヒドロキシエチルセルロース〔HEC〕3g、アンモニア水0.3g、及びイソチアゾリン系防腐剤0.03gを、ディスパー型分散機を用いて、25℃に保持して3%HECを製造
ADEKANOL UH-420:(株)ADEKA製;非イオン界面活性剤
防腐剤:イソチアゾリン系防腐剤
【0134】
〔評価結果〕
実施例3-1~3-6及び比較例3-1~3-4の水性塗料を用いて下記の評価試験を実施した。
その結果を表3に示す。
【0135】
〔60°グロス〕 光沢
実施例3-1~3-6及び比較例3-1~3-4の水性塗料を、150μmベーカー式フィルムアプリケーターを用いて基材(材質:ステンレス)にそれぞれ塗布し、25℃にて48時間乾燥させた後、形成された塗膜を評価膜とした。各塗膜について、光沢計(日本電色製;VG7000)を用いて60°グロスを測定した。60°グロスの値が100%に近い程、光沢性に優れていると評価でき、90%以上であることが特に好ましい。
【0136】
〔隠蔽率〕
実施例及び比較例の水性塗料を、150μmベーカー式フィルムアプリケーターを用いて隠蔽率試験紙にそれぞれ塗付し、25℃にて48時間乾燥させた後、形成された塗膜を評価膜とした。隠蔽率試験紙の黒色部分(YB)及び白色部分(YW)を色差計で測定し、下記式により隠蔽率(Y)を求めた。隠蔽率の値が100%に近い程、塗膜の耐水性に優れると評価することができる。
【0137】
【0138】
〔粘度〕
実施例3-1~3-6及び比較例3-1~3-4の水性塗料についてブルックフィールド粘度計(B8H型、10rpm)を用いてそれぞれ粘度を測定した。表3に示される粘度は、10rpm粘度(単位:mPa・s)の値である。
【0139】
〔耐水性〕色差
実施例3-1~3-6及び比較例3-1~3-4の水性塗料に、着色顔料ペースト(SK水性カラー(クロ)/SK水性カラー(オーカ)/SK水性カラー(アカサビ)=重量比1/1/1で混ぜたもの)を水性塗料100gに対して3g添加し、ディスパー撹拌により水性塗料を着色した。その着色した塗料を150μmベーカー式フィルムアプリケーターを用いてSUS板に150μmの膜厚で塗布し、48時間、25℃で乾燥させた。その後、塗膜が形成されたSUS板を50℃の水中に24時間浸漬させた。水中浸漬前後のSUS板の塗布面について、分光測色計(CM-3700d;コニカミノルタ社製)を用いて色差(ΔE)を測定した。ΔEは、以下の式で求められる値であり、ΔE値が小さい程、塗膜の耐水性に優れると評価することができる。
【0140】
【数2】
(L
0,a
0,b
0):初期塗膜
(L
1,a
1,b
1):50℃の水中に24時間浸漬させた後の塗膜
【0141】
〔耐水性〕光沢
実施例3-1~3-6及び比較例3-1~3-4の水性塗料100gに対して、着色顔料ペースト(SK水性カラー(クロ)/SK水性カラー(オーカ)/SK水性カラー(アカサビ)=重量比1/1/1で混ぜたもの)を3g添加し、ディスパー撹拌により水性塗料を着色した。その着色した塗料をSUS板に150μmの膜厚で塗布し、48時間、25℃で乾燥させた。その後、塗膜が形成されたSUS板を50℃の水中に24時間浸漬させた。水中浸漬前後のSUS板の塗布面について日本電色工業社製VG7000を用いて60°グロスを測定し、下記式にて60°グロス保持率を求めた。60°グロス保持率の値が100%に近い程、塗膜の耐水性に優れると評価することができる。
【0142】
【0143】
〔耐候性〕光沢
実施例3-1~3-4及び比較例の水性塗料をSUS板に150μmの膜厚で塗布し、48時間、25℃で乾燥させた。試験機QUV/spray(Q-Lab社製)を用いて、8時間サイクル(60℃で4時間紫外線照射+50℃で結露(紫外線照射無し)で4時間)で耐候性試験を行い、400時間後のSUS板の塗布面を本電色工業社製VG7000を用いて60°グロスを測定し、下記式にて60°グロス保持率を評価した。60°グロス保持率の値が100%に近い程、塗膜の耐候性に優れると評価することができる。
【0144】
【0145】
【0146】
〔SEM 塗膜の表面解析〕
実施例3-4及び5並びに比較例3-4及び5の水性塗料を150μmベーカー式フィルムアプリケーターを用いてSUS板の表面に150μmの膜厚で塗布し、48時間、25℃で乾燥させた。得られた塗膜の表面をショットキー走査電子顕微鏡(SEM)((株)日立ハイテク社製;SU5000)を用いて観察した(加速電圧:3kV、真空度:100Pa、拡大:×5000)。結果を
図1~
図4に示す。
図1~
図4について、写真中、赤色で示される領域は1.28μm
2超、黄色で示される領域は0.96~1.28μm
2、黄緑色で示される領域は0.64~0.96μm
2、水色で示される領域は0.32~0.64μm
2、青色で示される領域は0.32μm
2未満の酸化チタンの分散性を示す。写真中、赤色又は黄色で示される領域は、酸化チタンが凝集していると認められる。
【0147】
実施例3-4の水性塗料により形成された塗膜表面のSEM写真(
図1)及び実施例3-5の水性塗料により形成された塗膜表面のSEM写真(
図2)と比較して、比較例3-3の水性塗料により形成された塗膜表面のSEM写真(
図3)及び比較例3-4の水性塗料により形成された塗膜表面のSEM写真(
図4)は、写真中、酸化チタンの凝集を示す黄色領域が多く認められ、特に、
図3において、酸化チタンの凝集が多く認められることが確認された。よって、本願実施例3-4及び3-5の水性塗料の方が塗膜を形成した場合に酸化チタンの分散性に優れていることが確認できた。
【0148】
また、表3に示すように、本発明の顔料水分散剤を用いて顔料を分散させた実施例3-1~3-6の水性塗料は、比較例3-1~3-4の水性塗料と比較して、耐水性及び耐候性に優れた塗膜を形成することができることを確認することができた。