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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024177769
(43)【公開日】2024-12-24
(54)【発明の名称】多孔質体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/28 20060101AFI20241217BHJP
   C08L 1/00 20060101ALI20241217BHJP
【FI】
C08J9/28 CEP
C08L1/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023096100
(22)【出願日】2023-06-12
(71)【出願人】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 史生
(72)【発明者】
【氏名】國安 諭司
(72)【発明者】
【氏名】齋川 保
(72)【発明者】
【氏名】姫野 遼司
【テーマコード(参考)】
4F074
4J002
【Fターム(参考)】
4F074AA02
4F074AE04
4F074CB47
4F074CC28Y
4F074CC57Y
4F074DA24
4F074DA32
4F074DA54
4J002AB011
4J002AB052
4J002FA031
4J002FD202
4J002HA06
(57)【要約】
【課題】本発明は、透明性に優れる多孔質体が得られる多孔質体の製造方法の提供を課題とする。
【解決手段】セルロースナノファイバーを原料とする繊維径3~40nmの多孔質体を製造する製造方法であって、
セルロースナノファイバー水分散物をゲル化してゲル化物を得る工程Aと、
ゲル化物に含まれる水を、t-ブチルアルコールと水との質量比率が41:59~99:1となる混合溶媒で置換する工程Bと、
工程B後のゲル化物を凍結して凍結ゲル化物を得る工程Cと、
凍結ゲル化物を昇華乾燥する工程Dと、を含む、多孔質体の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースナノファイバーを原料とする繊維径3~40nmの多孔質体を製造する製造方法であって、
セルロースナノファイバー水分散物をゲル化してゲル化物を得る工程Aと、
前記ゲル化物に含まれる水を、t-ブチルアルコールと水との質量比率が41:59~99:1となる混合溶媒で置換する工程Bと、
前記工程B後の前記ゲル化物を凍結して凍結ゲル化物を得る工程Cと、
前記凍結ゲル化物を昇華乾燥する工程Dと、を含む、多孔質体の製造方法。
【請求項2】
前記混合溶媒におけるt-ブチルアルコールと水との質量比率が、60:40~99:1である、請求項1に記載の多孔質体の製造方法。
【請求項3】
前記混合溶媒におけるt-ブチルアルコールと水との質量比率が、85:15~95:5である、請求項1に記載の多孔質体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質体の製造方法に関する。より具体的には、本発明は、セルロースナノファイバーを原料とする多孔質体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースナノファイバー(以下、「CNF」ともいう。)は、セルロース系原料であるパルプ等から、粉砕処理、および、化学処理等によって製造される繊維である。CNFは、軽量で高強度なため、各種用途での活用が期待される。また、CNFは、植物または生物由来の天然材料であり、廃棄時等の環境負荷が小さい点でも注目される。
また、多孔質体は、その構造および比表面積等から、種々の用途に用いられてきた。ここで、CNFを含むセルロース多孔質体は、CNFの軽量で高強度な特性を有することが期待される。
【0003】
CNFを含むセルロース多孔質体の製造は、通常、CNFを含む分散液から、CNFの凝集を防ぎつつ、CNFの分散液から分散媒を除去して行われる。
例えば、特許文献1には、セルロースナノファイバー水分散物をゲル化した後に、ゲルに含まれる水系溶媒を除去し、乾燥させる方法が記載されており(請求項1および3参照)、実施例においては、水系溶媒をエタノールに置換した後、さらにt-ブチルアルコールに置換した後に乾燥させる方法が記載されている([0106]参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012-001626号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、特許文献1の実施例に記載された方法について検討したところ、水系溶媒がエタノール等の有機溶媒に完全に置換されてしまうと、透明性が低い多孔質体が得られる場合があり、改善の余地があることを明らかとした。
【0006】
そこで、本発明は、透明性に優れる多孔質体が得られる多孔質体の製造方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、セルロースナノファイバー水分散物のゲル化物に含まれる水を、t-ブチルアルコールと水との質量比率が特定の範囲となる混合溶媒で置換した後に凍結乾燥させることにより、透明性の高い多孔質体が得られることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明者らは、以下の構成により上記課題を解決できることを見出した。
【0008】
[1] セルロースナノファイバーを原料とする繊維径3~40nmの多孔質体を製造する製造方法であって、
セルロースナノファイバー水分散物をゲル化してゲル化物を得る工程Aと、
ゲル化物に含まれる水を、t-ブチルアルコールと水との質量比率が41:59~99:1となる混合溶媒で置換する工程Bと、
工程B後のゲル化物を凍結して凍結ゲル化物を得る工程Cと、
凍結ゲル化物を昇華乾燥する工程Dと、を含む、多孔質体の製造方法。
[2] 混合溶媒におけるt-ブチルアルコールと水との質量比率が、60:40~99:1である、[1]に記載の多孔質体の製造方法。
[3] 混合溶媒におけるt-ブチルアルコールと水との質量比率が、85:15~95:5である、[1]に記載の多孔質体の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、透明性に優れる多孔質体が得られる多孔質体の製造方法が提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされる場合があるが、本発明はそのような実施態様に制限されない。
【0011】
以下、本明細書における各記載の意味を表す。
本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0012】
<多孔質体の製造方法>
本発明の多孔質体の製造方法(以下、「本発明の製造方法」と略す。)は、セルロースナノファイバー(CNF)を原料とする繊維径3~40nmの多孔質体を製造する製造方法である。
また、本発明の多孔質体の製造方法は、セルロースナノファイバー水分散物をゲル化してゲル化物を得る工程Aと、ゲル化物に含まれる水をt-ブチルアルコール(以下、「TBA」とも略す。)と水との質量比率(TBA:水)が41:59~99:1となる混合溶媒(以下、「特定混合溶媒」とも略す。)で置換する工程Bと、工程B後のゲル化物を凍結して凍結ゲル化物を得る工程Cと、凍結ゲル化物を昇華乾燥する工程Dと、を含む。
【0013】
本発明の製造方法においては、上述した通り、セルロースナノファイバー水分散物のゲル化物に含まれる水を特定混合溶媒で置換した後に凍結乾燥させることにより、透明性の高い多孔質体を得ることができる。
この効果が発現する理由は、詳細には明らかではないが、本発明者らは以下のように推測している。
まず、後述する比較例2および3には、水を置換する溶媒としてTBA:水が39:61である混合溶媒や、TBA:水が100:0である溶媒を用いた場合には、得られる多孔質体の繊維径が大きくなり、透過率が低くなることが示されている。
そのため、本発明の製造方法においては、特定混合溶媒で置換することにより、置換後のゲル化物に水が特定量含まれていることになるが、本発明者らは、この水の存在により、TBAが凍結する際に形成される氷晶がTBA単独の場合よりも大幅に小さくなり、氷晶形成による繊維の凝集を防止できることを見出した。その結果、凍結乾燥後に得られる多孔質体の繊維径が3~40nmの範囲となって透明性が発現したと推察している。
以下、本発明の製造方法に用いられる各工程について詳細に説明する。
【0014】
[工程A]
本発明の製造方法が有する工程Aは、セルロースナノファイバー水分散物をゲル化してゲル化物を得るゲル化工程である。
ここで、セルロースナノファイバー水分散物とは、少なくとも水を含む分散媒中にセルロースナノファイバーが分散した分散液をいい、後述するセルロースナノファイバーの調製方法により得ることができる。
【0015】
(セルロースナノファイバー)
セルロースナノファイバー水分散物に含まれるセルロースナノファイバー(CNF)は、特に制限されず、公知のCNFを用いることができる。
なお、CNFとは、セルロース分子鎖が2本以上の束を形成してなるものをいう。セルロース分子鎖が2本以上の束を形成しているとは、2本以上のセルロース分子鎖が集合してミクロフィブリルと呼ばれる集合体を形成している状態をいう。
CNFは、一般に、植物由来の繊維を処理して得られる。CNFの原料は特に制限されず、例えば、木材、竹、麻、ジュート、ケナフ、綿、ビートパルプ、ポテトパルプ、農産物残廃物、布、および、紙等に含まれる植物由来の繊維が挙げられる。CNFの原料として、これらを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0016】
CNFは、化学修飾されたものであってもよく、得られる多孔質体の透過率をより高くしやすい点で、化学修飾されたCNFが好ましい。
化学修飾されたCNFにおいては、セルロース分子鎖における一部の基または全ての基が化学的な処理により変化している。例えば、化学修飾されたCNFにおけるセルロース分子鎖は、分子中のC6位水酸基の一部または全部がアルデヒド基、カルボキシル基などに酸化されたもの、C6位以外の水酸基を含む水酸基の一部または全部が酸化されたもの、硝酸エステル、酢酸エステル、リン酸エステルなどのようにエステル化されたもの、および、メチルエーテル、ヒドロキシプロピルエーテル、カルボキシメチルエーテルなどのようにエーテル化されたものなど他の官能基に置換されたものが挙げられる。
化学修飾によって導入される基としては、より具体的には、例えば、カルボキシ基、アセチル基、硫酸基、スルホン酸基、アクリロイル基、メタクリロイル基、プロピオニル基、プロピオロイル基、ブチリル基、2-ブチリル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、ヘプタノイル基、オクタノイル基、ノナノイル基、デカノイル基、ウンデカノイル基、ドデカノイル基、ミリストイル基、パルミトイル基、ステアロイル基、ピバロイル基、ベンゾイル基、ナフトイル基、ニコチノイル基、イソニコチノイル基、フロイル基、シンナモイル基等のアシル基、2-メタクリロイルオキシエチルイソシアノイル基等のイソシアネート基、メチル基、エチル基、プロピル基、2-プロピル基、ブチル基、2-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、ミリスチル基、パルミチル基、ステアリル基等のアルキル基、オキシラン基、オキセタン基、チイラン基、および、チエタン基等が挙げられる。
なかでも、化学修飾によって導入される基としては、少なくともカルボキシ基を含むことが好ましい。
【0017】
CNFの化学修飾は、通常の方法で実施できる。すなわち、セルロースを化学修飾剤と反応させることによって化学修飾することができる。必要に応じて、溶媒、触媒を用いたり、加熱、減圧等を行ったりしてもよい。
化学修飾剤の種類としては、酸、酸無水物、アルコール、ハロゲン化試薬、アルコール、イソシアナート、アルコキシシラン、オキシラン(エポキシ)等の環状エーテルが挙げられる。これらは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
酸としては、例えば、酢酸、アクリル酸、メタクリル酸、プロパン酸、ブタン酸、2-ブタン酸、ペンタン酸等が挙げられる。
また、化学修飾を行った後には、反応を終結させるために水で充分に洗浄することが好ましい。水で充分に洗浄した後、さらにアルコール等の有機溶媒で置換することも好ましい。この場合、セルロースをアルコール等の有機溶媒に浸漬しておくことで置換される。
【0018】
CNFの平均繊維径は、特に限定されないが、1~100nmが好ましく、2~50nmがより好ましく、2~10nmがさらに好ましい。平均繊維径が1~100nmのCNFを用いることによって、比表面積の大きい多孔質体を得やすい。平均繊維径が1nm以上であると、ナノファイバーの単繊維強度が大きくなり、多孔質体の構造を維持しやすい。
ここで、平均繊維径は、次に従って算出する。CNFを透過型電子顕微鏡(TEM:TransmissionElectronMicroscope)、または、走査型電子顕微鏡(SEM:ScanningElectronMicroscope)を用いて電子顕微鏡像を取得する。得られた像に対し、1枚の画像あたり縦横2本ずつの無作為な軸を引き、軸に交差する繊維の繊維径を目視で読み取っていく。このとき、構成する繊維の大きさに応じて5000倍、10000倍および50000倍のいずれかの倍率で行う。なお、試料または倍率は、20本以上の繊維が軸と交差する条件とする。こうして最低3枚の重なっていない表面部分の画像を電子顕微鏡で撮影し、各々二つの軸に交差する繊維の繊維径の値を読み取る。したがって、最低20本×2×3=120個の繊維情報が得られる。こうして得られた繊維径のデータから数平均繊維径を算出し、CNFの平均繊維径とする。なお、枝分かれしている繊維については、枝分かれしている部分の長さが50nm以上であれば1本の繊維として繊維径の算出に組み込む。
【0019】
また、CNFの平均繊維長は、特に制限されないが、0.01~20μmが好ましく、0.05~10μmがより好ましい。
なお、平均繊維長は、CNF水分散物を基板上に薄くキャストし、凍結乾燥したものをサンプルとして、SEMを用いて観察して算出する。得られた観察像に対し、1枚の像あたり10本ずつ独立した繊維を無作為に選び、その繊維長を目視で読み取っていく。このとき、構成する繊維の長さに応じて5000倍および10000倍のいずれかの倍率で行う。なお、試料または倍率は、繊維の始点と終点とが同じ画像内に収まっているものを対象とする。こうして最低12枚の重なっていない表面部分をSEMで観察し、繊維長を読み取る。したがって、最低10本×12枚=120本の繊維情報が得られる。こうして得られた繊維径のデータから数平均繊維長を算出し、CNFの平均繊維長とする。なお、枝分かれしている繊維については、その繊維の最も長い部分の長さを繊維長とする。
【0020】
CNFの平均繊維径を調整する方法は特に限定されないが、例えば、機械的解砕法では、使用する超高圧ホモジナイザーやグラインダーの処理時間、回数により調整することが可能である。また、化学的解砕法では、酸化剤(例えば、次亜塩素酸ソーダなど)の種類、触媒(例えば、TEMPO(2,2,6,6-tetramethyl-1-piperidinyloxy)触媒など)の濃度、および、反応時間などで調整することが可能である。
【0021】
CNFの調製方法は特に限定されず、機械的または化学的に解砕する方法が好ましい。
機械的に解砕する方法としては、例えば、セルロース繊維含有材料の水懸濁液やスラリーを、リファイナー、高圧ホモジナイザー、グラインダー、一軸または多軸混練機、ビーズミル等により機械的に摩砕または叩解することにより解繊する方法が挙げられる。機械処理法として、例えば、特許第5500842号公報、特許第5283050号公報、特許第5207246号公報、特許第5170193号公報、特許第5170153号公報、特許第5099618号公報、特許第4845129号公報、特許第4766484号公報、特許第4724814号公報、特許第4721186号公報、特許第4428521号公報、国際公開第11/068023号、特許第5477265号公報、特開2014-84434号公報などが挙げられる。
一方、化学的に解砕する方法としては、例えば、セルロース系原料を、N-オキシル化合物と、臭化物および/またはヨウ化物の存在下で、酸化剤を用いて酸化し、さらに酸化されたセルロースを湿式微粒化処理して解繊し、ナノファイバー化することにより製造することができる。化学処理法として、例えば、特許第5381338号公報、特許第4981735号公報、特許第5404131号公報、特許第5329279号公報、特許第5285197号公報、特許第5179616号公報、特許第5178931号公報、特許第5330882号公報、特許第5397910号公報などに記載された方法が挙げられる。
【0022】
CNF水分散物における分散媒は、少なくとも水を含むものであれば特に限定されないが、分散媒の全質量に対して水を70質量%以上含むことが好ましく、90質量%以上含むことがより好ましく、99質量%以上含むことがさらに好ましい。なお、CNF水分散物における分散媒は、水であってもよい。
また、CNF水分散物におけるCNFの含有量は、CNF水分散物の全質量に対して、0.001~5質量%が好ましく、0.01~2質量%がより好ましく、0.1~1質量%がさらに好ましい。
【0023】
CNF水分散物は、工程Aに供するにあたって、解繊処理、粗大繊維の除去処理、濃縮処理を行ってもよい。
解繊処理とは、CNFの繊維をほぐす処理であり、例えば、機械的にせん断力を作用させる方法が挙げられる。解繊処理の具体的な方法としては、例えば、ミキサーによる処理、超音波を照射する処理が挙げられる。
粗大繊維の除去処理とは、CNF水分散物に含まれる粗大な繊維を除去する処理であり、例えば、フィルタリング、分級処理が挙げられる。分級処理の具体的な方法としては、例えば、遠心分級処理が挙げられる。
【0024】
CNF水分散物は、不凍剤をさらに含んでいてもよい。
不凍剤とは、水の凍結を抑制する機能があるものをいい、特に制限されず、公知の不凍剤を用いることができる。
不凍剤としては、例えば、水溶性高分子、糖類、および、不凍タンパク質類等が挙げられ、なかでも、不凍タンパク質類が好ましい。
不凍剤は、氷結晶の成長を抑制する効果があり、氷結晶の粗大化を抑制し得る。水分散物が不凍剤を含むと、凍結乾燥を行う際に氷結晶を粗大化させないため、得られる多孔質体の繊維径が細くなりやすい。
【0025】
不凍剤としての水溶性高分子は、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、および、ポリエチレングリコール等が挙げられる。
【0026】
不凍剤としての糖類としては、例えば、グルコース、マルトース、スクロース、ラクトース、トレハロース、ラフィノース等が挙げられる。また、菌類(例えばエノキタケ)から抽出した多糖類も好ましい。
【0027】
不凍タンパク質類としては、例えば、不凍糖タンパク質、および、不凍タンパク質が挙げられる。不凍タンパク質類は、氷結晶の成長を抑制する効果があればよく、魚類、植物、昆虫、および、菌等の天然資源から抽出し精製したものであってもよく、菌培養と遺伝子組換え技術を用いて生産したもの及び化学合成によって生産したものであってもよい。なかでも、得られる多孔質体の透明性により優れる点で、不凍タンパク質類は、魚類由来の不凍タンパク質類であることが好ましい。
【0028】
不凍タンパク質類には、アミノ酸組成および高次構造が異なる様々なバリエーションが存在する。
例えば、魚類由来の不凍タンパク質類には、Ala(アラニン)を主として含むαらせん構造からなる分子量約3000~5000のI型不凍タンパク質、タイプレクチン様の構造モチーフからなる分子量約14000~24000のII型不凍タンパク質、複数のβ構造を含む球状構造からなる分子量約7000のIII型不凍タンパク質、αらせんを束ねた構造からなる分子量約12000のIV型不凍タンパク質、及び、-Ala-Thr(スレオニン)-Ala-の3残基の繰り返し構造から構成され、この中のThr残基の側鎖が糖鎖修飾を受けている分子量約3000~24000の不凍糖タンパク質(AFGP)が挙げられる。
また、他の不凍タンパク質類としては、βヘリックス構造からなる分子量約7000~12000の昆虫由来の不凍タンパク質、および、カイワレ大根由来の不凍タンパク質も好ましく挙げられる。
【0029】
不凍剤は、熱ヒステリシスを示すことが好ましい。熱ヒステリシスとは、以下に示す平衡融点(℃)から凍結温度(℃)を減算した値(℃)で定義され、熱ヒステリシスを示すとは、この値が0.05℃以上であることをいう。この熱ヒステリシスが大きいほど、氷結晶の成長をより低い温度まで抑制できるため、不凍剤としての能力が大きいことを示す。
凍結温度は、不凍剤を含む水溶液において、水の凝固点以下とした際に、氷結晶の成長が開始する温度をいう。
平衡融点は、完全に凍結した不凍剤を含む水溶液の温度を上げた際に、融解が始まる温度をいう。
不凍剤は、熱ヒステリシスを示し、その値は、0.1℃以上が好ましく、0.4℃以上がより好ましく、0.5℃以上がさらに好ましく、0.9℃以上が特に好ましく、1.0℃以上が最も好ましい。熱ヒステリシスの値の上限は特に制限されないが、例えば、10℃が挙げられる。不凍剤の熱ヒステリシスの値が上記好ましい範囲にあると、得られる多孔質体の透明性により優れる。
【0030】
CNF水分散物における不凍剤の含有量は、CNF水分散物における分散媒以外の成分の全質量に対して、不凍剤の含有量が、1~40質量%となるように調整することが好ましく、10~30質量%となるように調整することが好ましい。
具体的には、例えば、CNF水分散物における不凍剤の含有量は、CNF水分散物全質量に対して、0.0001~0.8質量%が好ましく、0.001~0.4質量%がより好ましい。
【0031】
CNF水分散物は、CNFおよび不凍剤以外の添加剤を含んでいてもよい。
添加剤としては、例えば、撥水性成分、および、強度改質剤が挙げられる。
【0032】
撥水性成分とは、撥水機能を付与できるものを指し、公知の撥水性成分を用いることができる。
撥水性成分としては、例えば、フッ素系撥水剤、シリコーン系撥水剤、ワックス系撥水剤、アルキルケテンダイマー、および、アルコキシシランの加水分解縮合物等が挙げられる。また、発生性成分としては、界面活性剤も好ましく挙げられる。ここで、界面活性剤とは、分子内に、疎水性基と、親水性基とを有する化合物を指す。
なかでも、撥水性成分としては、フッ化アルキル基を有する化合物が好ましい。フッ化アルキル基は、部分フッ化アルキル基であっても、パーフルオロアルキル基であってもよい。
フッ化アルキル基の炭素数は、1~20が好ましく、2~16がより好ましく、4~12がさらに好ましい。なお、フッ化アルキル基の炭素数とは、フッ素原子が結合する炭素の数をいい、フッ素原子が結合しない炭素原子については、フッ化アルキル基の炭素数に含めない。
【0033】
撥水性成分の含有量は、CNF水分散物における分散媒以外の成分の全質量に対して、0.001~10質量%が好ましく、0.01~5質量%がより好ましい。
撥水性成分は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を同時に用いてもよい。撥水性成分を2種以上同時に用いる場合は、その合計含有量が、上記好ましい範囲であることが好ましい。
【0034】
強度改質剤としては、アクリル系ラテックス、NBR系ラテックス、酢酸ビニル系ラテックス、および、オレフィン系ラテックスなどの各種ラッテクスエマルジョン、ならびに、ポリアクリルアミド、ポリアミドエピクロロヒドリン、ポリビニルアルコール、および、澱粉などの水溶性高分子が挙げられる。
強度改質剤の含有量は、CNF水分散物における分散媒以外の成分の全質量に対して、5質量%以下が好ましく、1質量%以下がより好ましい。
なお、CNF水分散物は、上述した添加剤を含まなくてもよい。
【0035】
工程Aでは、CNF水分散物をゲル化する。
CNF水分散物をゲル化する方法は特に制限されないが、例えば、酸性成分またはアルカリ性成分を添加する方法が挙げられ、酸性成分を添加する方法が好ましい。上記成分の添加により、CNF水分散物におけるCNF同士の分散に寄与している静電反発力を弱めると、CNFのネットワークが形成されるため、CNF水分散物がゲル化し、ゲル化物が得られる。
添加する酸性成分は、特に制限されないが、例えば、無機酸(例えば、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸)、有機酸(例えば、メタンスルホン酸、トシル酸)、および、金属ハロゲン化物(例えば、塩化アルミニウム)が挙げられる。また、酸性成分は、溶液の状態でCNF水分散物に対して添加することが好ましい。
酸性成分の添加量は適宜調整し得るが、例えば、酸性成分の添加後のCNF水分散物の全体積に対して、0.01~5mol/Lとなるように添加することが好ましい。
酸性成分を添加する際には、強制的な撹拌を行わず添加し、その後、静置することも好ましい。静置する時間は、ゲル化物が得られれば特に制限されないが、0.1~12時間が好ましく、0.5~3時間がより好ましい。
【0036】
CNF水分散物をゲル化する際には、所望の形状にCNF水分散物を成型してゲル化することが好ましい。CNF水分散物を所望の形状に成型する方法としては、所望の形状を有する容器にCNF水分散物を収容する方法が挙げられる。
CNF水分散物をゲル化して得られるゲル化物の形状は、特に制限されないが、シート状が好ましい。シート状とは、対向する2つの主面を有する形状であって、主面に対して厚さが薄い、全体として平たい形状を意味する。上記主面は、完全に平坦である必要はない。シート状のゲル化物の主面の面内方向の最大長さに対する、ゲル化物の厚みの比は、0.5以下が好ましく、0.3以下がより好ましい。上記比の下限は特に制限されないが、0.00001以上が挙げられ、0.001以上である場合が多い。
シート状のゲル化物の主面の法線方向からみた際の形状は、特に制限されず任意の形状にでき、例えば、方形、多角形、円形、または、楕円形であってもよい。
シート状のゲル化物の主面の面内方向の最大長さは、1cm~2mが好ましく、10cm~1mがより好ましい。
また、シート状のゲル化物の主面の面積は、2cm~5mが好ましく、100cm~1mがより好ましい。
【0037】
本発明の製造方法においては、上述したように、ゲル化を行う際にCNF水分散物を所望の形状に成型してもよいが、ゲル化物を得た後に所望の形状となるように加工した後、後述する工程Bに供してもよい。
【0038】
[工程B]
本発明の製造方法が有する工程Bは、工程Aで得られたゲル化物に含まれる水をt-ブチルアルコール(TBA)と水との質量比率(TBA:水)が41:59~99:1となる混合溶媒(特定混合溶媒)で置換する溶媒置換工程である。
【0039】
本発明においては、透明性のより高い多孔質体が得られる理由から、特定混合溶媒におけるTBAと水との質量比率(TBA:水)は、60:40~99:1であることが好ましく、70:30~99:1であることがより好ましく、85:15~95:5であることがさらに好ましく、88:12~92:8であることが特に好ましい。
【0040】
溶媒置換の方法は特に限定されず、例えば、ゲル化物を特定混合溶媒に浸漬する方法;ゲル化物に対して特定混合溶媒を連続的に供給する方法;などが挙げられる。
これらのうち、ゲル化物を特定混合溶媒に浸漬する方法が好ましく、ゲル化物を特定混合溶媒に浸漬させながら振とうする方法がより好ましい。
また、ゲル化物の特定混合溶媒への浸漬は、浸漬する特定混合溶媒を交換して複数回(例えば、2~10回)行ってもよい。その際、TBAと水との質量比率(TBA:水)を目的の質量比率に徐々に変化させた特定混合溶媒に複数回浸漬させてもよい。
また、ゲル化物の特定混合溶媒への浸漬時間(複数回浸漬させる場合は1回の浸漬時間)は、ゲル化物の形状によって適宜調整できるため特に限定されないが、1~48時間であることが好ましく、1~24時間であることがより好ましい。
【0041】
[工程C]
本発明の製造方法が有する工程Cは、上記工程B後のゲル化物を凍結して凍結ゲル化物を得る工程である。
ここで、ゲル化物の凍結は、ゲル化物に含まれる溶媒成分の凝固点以下に冷却して実施すればよく、公知の方法で実施できる。なかでも、溶媒成分が凍結する際に生じる溶媒の氷晶がより大きくなりにくく、得られる多孔質体の繊維径がより細くなる点で、急速に冷却して凍結することが好ましい。
急速に冷却する方法としては、例えば、液体窒素に接触させる方法が挙げられ、具体的には、液体窒素に浸漬する方法が好適に挙げられる。
【0042】
[工程D]
本発明の製造方法が有する工程Dは、凍結ゲル化物を昇華乾燥する工程である。
ここで、昇華乾燥は、凍結ゲル化物に含まれる溶媒成分(上述した特定混合溶媒)の固体を、気体として凍結ゲル化物から脱離させる処理をいう。
また、昇華乾燥は、凍結ゲル化物に含まれる溶媒成分の凝固点以下の環境において実施することが好ましい。
また、昇華乾燥は、昇華の速度が向上する点で、大気圧よりも気圧が低い減圧環境下で実施することも好ましい。昇華乾燥を減圧環境下で実施する場合、その圧力は、0.01~10000Paが好ましく、0.1~1000Paがより好ましく、10~100Paがさらに好ましい。
また、昇華乾燥の時間は、凍結ゲル化物の形状等によって適宜調整し得るが、通常、1~48時間程度実施する。
【0043】
本発明の製造方法では、上述した工程A~Dを経ることにより、繊維径3~40nmの多孔質体が得られる。
【0044】
[多孔質体の繊維径]
本発明の多孔質体の製造方法で得られる多孔質体(以下、形式的に「本発明の多孔質体」とも略す。)は、セルロースナノファイバー(CNF)を原料とする、繊維径が3~40nmの多孔質体である。
なお、本明細書において、多孔質体の繊維径は、X線小角散乱(SAXS:small angle X-ray scattering)法で測定されるものを採用する。具体的には、まず、多孔質体に対してX線を入射し、処理前散乱曲線を得る。この処理前散乱曲線における散乱強度を、ビームストッパーを透過した入射X線強度を基準に散乱強度を規格化し、多孔質体についての規格化散乱曲線を得る。また、ブランク測定を行い、同様にして媒質(空気)についての規格化散乱曲線を得る。多孔質体についての規格化散乱曲線から、媒質についての規格化散乱曲線を差し引くことで、多孔質体を構成する繊維についての散乱曲線I(q)を求める。
ここで、qは散乱角2θを用いて次式から計算される散乱ベクトルである。
q = 4*π*(sin(θ))/λ
(π:円周率、2θ:散乱角[rad]、λ:X線の波長[nm])
得られた多孔質体の散乱曲線I(q)を両対数グラフにプロットすると、傾きが直線となる領域が現れる。この領域について、断面に関するGuinierプロットを作成し、次式から散乱強度平均繊維径Dcを計算する。
q*I(q) ∝ exp(-(Dc2 * q2)/16)
上記式で求められる散乱強度平均繊維径Dcを、多孔質体の繊維径とする。
【0045】
本発明の多孔質体の繊維径は、上述したように、3~40nm以下であるが、多孔質体の透明性により優れる点で、4~30nmが好ましく、10~25nmがより好ましい。
なお、多孔質体の繊維径は、例えば、用いるCNFの繊維径および種類、および、本発明の多孔質体の製造方法における各工程の条件等によって調整し得る。
【0046】
本発明の多孔質体において、CNFの含有量は、多孔質体の全質量に対して、80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、95質量%以上がさらに好ましい。
【0047】
<用途>
本発明の多孔質体は、透明性が高く、種々の用途に適用が可能である。例えば、光を透過させつつ、断熱効果を発揮させる用途に対して好適に適用可能である。具体的には、本発明の多孔質体は、窓またはその部材に対して好適に適用可能である。すなわち、本発明の多孔質体は、透明断熱材として利用可能であり、上記透明断熱材は、窓またはその部材に対して好適に適用可能である。
以下、本発明の多孔質体を窓に対して適用する場合の具体例を記載するが、本発明の多孔質体の用途は下記の具体例に限定されない。
【0048】
[合わせガラス]
本発明の多孔質体は、合わせガラスの中間膜として適用可能である。
合わせガラスの構成は特に限定されず、公知の構成を利用可能である。例えば、合わせガラスに用いられるガラス板の枚数は、2枚以上であればよく、3枚以上であってもよく、4枚以上であってもよい。
本発明の多孔質体を合わせガラスの中間膜として用いる場合、合わせガラスに用いられる2枚以上のガラス板の間に配置されることになるが、ガラス板の枚数が3枚以上の場合は、それぞれのガラス板の間に本発明の多孔質体が配置されてもよく、1組のガラス板の間のみに本発明の多孔質体が配置されてもよい。
【0049】
本発明の多孔質体を合わせガラスの中間膜として用いる場合、1組のガラス板の間には、本発明の多孔質体以外の構成(他の層)を有していてもよい。すなわち、ガラス板の間に設けられる本発明の多孔質体は、ガラス板直接接していてもよく、他の層を介して接していてもよい。
上記他の層としては、例えば、ポリビニルブチラール、ポリカーボネート、エチレン-ビニルアセテート共重合体、および、ポリエチレンテレフタラート等からなる群から選択される1層以上の樹脂層が好ましく挙げられる。
上記他の層としては、接着層または粘着層も好ましく挙げられる。
また、後述する複層ガラスにおいて説明する他の層を、合わせガラスに適用してもよい。
【0050】
合わせガラスに用いるガラス板は、目的に応じて公知のガラスを用いることができ、例えば、透明ガラス板、型ガラス板、網入りガラス板、線入りガラス板、強化ガラス板、熱線反射ガラス板、熱線吸収ガラス板、Low-Eガラス板、および、その他の各種ガラス板などが挙げられる。また、合わせガラスに用いるガラス板の1つ以上は、ポリカーボネート等のガラス代替樹脂を用いてもよい。ガラス板の厚みは、目的に応じて適宜選択できる。
ガラス板の形状は特に制限されず、用途に応じて適宜調整可能である。また、ガラス板は、曲面を有していてもよい。
【0051】
合わせガラスは、公知の封止構造を有していてもよい。封止構造としては、例えば、合わせガラスの外縁部を樹脂等のシール材で封止してなる構造が挙げられる。
【0052】
[複層ガラス]
本発明の多孔質体は、複層ガラスに適用可能である。
複層ガラスとは、2枚以上のガラス板の間にガス層を含むガラスをいう。ガス層は、気体からなる層であり、ガス層に含まれる気体は、空気であってもよく、窒素ガスおよびアルゴンガス等の不活性ガスであってもよい。なお、ガス層は、大気圧よりも減圧されていてもよい。
複層ガラスに含まれるガラス板は、2枚以上であればよく、3枚以上であってもよく、4枚以上であってもよい。
本発明の多孔質体を複層ガラスに適用する場合、本発明の多孔質体は、1組のガラス板の間に配置されることになるが、ガラス板の枚数が3枚以上の場合は、それぞれのガラス板の間に本発明の多孔質体が配置されてもよく、1組のガラス板の間のみに本発明の多孔質体が配置されてもよい。
【0053】
本発明の多孔質体を複層ガラスに適用する場合、1以上の本発明の多孔質体以外の構成(他の層)を有していてもよい。
他の層としては、上記説明した他の層の他、遮光層および遮熱層等が挙げられる。
遮光層は、可視光線の少なくとも一部の透過率が低い層であってもよく、紫外光線の少なくとも一部の透過率が低い層であってもよい。遮光層としては、金属蒸着膜、および、色素を含む色素層等の着色層が挙げられる。
遮熱層としては、赤外線を反射または吸収する層が挙げられ、例えば、金属蒸着膜、金属粒子または金属酸化物粒子を含むポリマー層、および、誘電体多層膜が適用できる。
また、他の層としては、難燃層も挙げられる。難燃層は、難燃剤を含む層が挙げられ、難燃剤としては、公知の難燃剤を適用可能である。難燃剤としては、芳香族リン酸エステル、および、赤リン等リン化合物、塩素および臭素の少なくとも一方を含む塩素化パラフィン等のハロゲン系化合物、三酸化アンチモン等のアンチモン化合物、水酸化アルミニウムおよび水酸化マグネシウム等の金属水酸化物、ならびに、シアヌル酸メラミン等の窒素化合物が挙げられる。
【0054】
ガラス板は、上述した合わせガラスに用いられるガラス板を適用可能である。
また、複層ガラスに含まれるガラス板は、合わせガラスであってもよい。合わせガラスは、上述した本発明の多孔質体を含む合わせガラスであってもよい。
【0055】
複層ガラスは、公知の封止構造を有していてもよい。封止構造としては、例えば、1組のガラス板の外縁部に設置されるスペーサーと、スペーサーと対向するガラス板との間に配置されるシール材による封止構造が挙げられる。上記封止構造により、1組のガラス板と、スペーサーによって形成される空間が上述したガス層となる。スペーサーは、上記ガス層の吸湿を目的として、乾燥材を含んでいてもよい。
また、上記スペーサーよりも上記ガラス板のさらに外縁部側は、他のシール材によって封止されていてもよい。他のシール材としては、例えば、ポリスルフィド系樹脂およびシリコーン系樹脂等の硬化型樹脂が挙げられる。
また、封止構造は、複層ガラスを保持する框体によって構成されていてもよい。
【0056】
上述した合わせガラスおよび複層ガラスに本発明の多孔質体を適用する際、一体成形された多孔質体を適用してもよく、複数の多孔質体をガラス板の平面方向に配列させて適用してもよい。また、複数の多孔質体をガラス板の積層方向に積層して適用してもよい。
なお、上述した合わせガラスおよび複層ガラスに本発明の多孔質体を適用する際、多孔質体に上述した難燃剤を添加してもよい。
【0057】
上述した合わせガラスおよび複層ガラスは、例えば、住宅用窓、乗用車等の移動体用窓として好適に利用可能である。
また、上述した合わせガラスおよび複層ガラスは、本発明の多孔質体が導電性を有さないため、電波を透過させることが可能である。電波を透過させたい場合、上述した他の層として、導電性を有さない層を選択することが好ましい。
【実施例0058】
以下に実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明する。
以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、および、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更できる。したがって、本発明の範囲は以下に示す実施例により限定的に解釈されるべきではない。
【0059】
<実施例1>
[セルロースナノファイバー水分散物の調製工程]
乾燥質量で2.00g相当分のNBKP(針葉樹の原料を漂白したクラフトパルプ、主に1000nmを超える繊維径の繊維から成るもの)と、0.025gのTEMPO(2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシラジカル)と、0.25gの臭化ナトリウムと、を水150mlに分散した後、13%次亜塩素酸ナトリウム水溶液を、NBKP 1.00gに対して、次亜塩素酸ナトリウムの量が5.00mmolとなるように次亜塩素酸ナトリウムを加えて反応を開始した。反応中は、0.50mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHを10に保った。2時間反応した後、反応物をろ過し、十分水洗することで酸化セルローススラリーを得た。0.15質量%の酸化セルローススラリーを、バイオミキサー(BM-2、日本精機製作所社製)を用いて、15000回転で5分間解繊処理し、さらに超音波分散機(型式US-300E、日本精機製作所社製)で20分間解繊処理した。その後、遠心分離によって粗大繊維の除去を行い、透明のセルロースナノファイバー水分散物を得た。得られたセルロースナノファイバー水分散物は、固形分濃度が0.40%となるまでロータリーエバポレーターで濃縮し、以降の工程で用いた。
以下、固形分濃度が0.40%のセルロースナノファイバー水分散物を「セルロースナノファイバー水分散物A」ともいう。
【0060】
上記セルロースナノファイバー水分散物Aに対して、セルロースナノファイバー水分散物Aの全質量に対して、0.08%となるよう高度精製魚類由来I型不凍タンパク質(ニチレイ製、不凍剤に該当)を加え、マグネットスターラーで攪拌した。
【0061】
[工程A]
不凍タンパク質を添加したセルロースナノファイバー水分散物Aを、直径10cmの円形のシャーレに注ぎ入れた。
このシャーレ内に、1.0Mの塩酸100gを静かに壁面流下させて1時間静置した。分散物は物理ゲル化してゲル化物となり、ゲル化物の厚さは1cmであった。なお、下記表1中、塩酸を用いたゲル化を「方法1」と略す。
次いで、ゲル化物を1cm角にカットし、工程Bに供した。
【0062】
[工程B]
t-ブチルアルコールと水の混合比率が、質量比で70:30である特定混合溶媒を用いて溶媒置換を行った。
溶媒置換は、ゲル化物(1cm角)を十分量の特定混合溶媒中に浸漬し、ゆっくりと振とうしながら複数回行った。具体的には、4時間の溶媒置換を4回以上行った。
【0063】
[工程C]
溶媒置換工程で得られたゲル化物を、液体窒素(-196℃)に浸漬し、凍結させて凍結ゲル化物を得た。
【0064】
[工程D]
凍結ゲル化物を、真空乾燥機(東京理化器械株式会社製)を用いて、溶媒成分を昇華乾燥させてエアロゲル(多孔質体)を得た。なお、昇華乾燥は、真空乾燥機内を10℃、圧力10Paに保持し、8時間行った。
【0065】
<実施例2>
工程Aで使用した「1.0Mの塩酸100g」に代えて、0.1Mの塩化アルミニウム100gを用いた以外は、実施例1と同様の手順で多孔質体を得た。
【0066】
<実施例3~5>
TBAと水との質量比率(TBA:水)を下記表1に記載した特定混合溶媒を用いた以外は、実施例1と同様の手順で多孔質体を得た。
【0067】
<実施例6>
工程Cに関して、液体窒素(-196℃)への浸漬に代えて、-18℃の冷凍庫で凍結させた以外は、実施例1と同様の手順で多孔質体を得た。
【0068】
<実施例7>
工程Dに関して、昇華乾燥で保持する圧力を100Paに変更した以外は、実施例1と同様にして実施例7の多孔質体を得た。
【0069】
<比較例1>
工程Aおよび工程Bを実施しない以外は、実施例1と同様にして実施例7の多孔質体を得た。
【0070】
<比較例2~3>
TBAと水との質量比率(TBA:水)を下記表1に記載した特定混合溶媒を用いた以外は、実施例1と同様の手順で多孔質体を得た。
【0071】
<比較例4>
工程Cを実施せず、昇華乾燥に代えて常圧乾燥させた以外は、実施例1と同様にして実施例7の多孔質体を得た。
【0072】
<比較例5>
昇華乾燥に代えて常圧乾燥させた以外は、実施例1と同様にして実施例7の多孔質体を得た。
【0073】
<比較例6>
特許第6212622号の段落[0067]に記載された実施例7を追試した。
【0074】
<測定および評価>
[繊維径の測定]
上述した方法で、実施例および比較例の多孔質体の繊維径を測定した。結果を下記表1に示す。
【0075】
[透過率評価]
実施例および比較例の多孔質体の透過率は、日本分光株式会社(JASCO)製の自動絶対反射率測定ユニットARMN-735を備えた紫外可視近赤外分光光度計V-660を用いて測定した。なお、測定の際は、サンプルを積分球に近接させて全光透過率を測定し、550nmでの透過率で透過率を評価した。結果を下記表1に示す。
【0076】
【表1】
【0077】
上記表1に示す結果から、工程AおよびBを実施しない場合は、多孔質体の透過率は0%となり、透明性に劣ることが分かった(比較例1)。
また、ゲル化物に含まれる水を置換する混合溶媒が、TBAと水との質量比率(TBA:水)が39:61であると、多孔質体の透過率が30%未満となり、透明性に劣ることが分かった(比較例1)。
また、ゲル化物に含まれる水を置換する混合溶媒が、TBAと水との質量比率(TBA:水)が100:0であると、多孔質体の透過率が5%となり、透明性に劣ることが分かった(比較例3)。
また、工程Dに関して、昇華乾燥に代えて常圧乾燥を採用すると、工程Cの有無を問わず、多孔質体の透過率は0%となり、透明性に劣ることが分かった(比較例4および5)。
また、特許第6212622号の段落[0067]に記載された実施例7は、多孔質体の透過率は0%となり、透明性に劣ることが分かった(比較例6)。
【0078】
これに対し、工程A~Dを実施した実施例1~7は、いずれも、多孔質体の繊維径は3~40nmとなり、透過率も30%以上となり、透明性に優れることが分かった。
特に、実施例1と実施例3との対比から、ゲル化物に含まれる水を置換する混合溶媒が、TBAと水との質量比率(TBA:水)が60:40~99:1であると、多孔質体の透明性がより高くなることが分かった。
また、実施例1、4および5の対比から、ゲル化物に含まれる水を置換する混合溶媒が、TBAと水との質量比率(TBA:水)が85:15~95:5であると、多孔質体の透明性がさらに高くなることが分かった。