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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024177784
(43)【公開日】2024-12-24
(54)【発明の名称】棒状鋼材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20241217BHJP
   C21D 8/06 20060101ALI20241217BHJP
   B21B 1/16 20060101ALI20241217BHJP
   C22C 38/58 20060101ALN20241217BHJP
【FI】
C22C38/00 301Y
C21D8/06 A
B21B1/16 B
C22C38/58
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023096117
(22)【出願日】2023-06-12
(71)【出願人】
【識別番号】000180070
【氏名又は名称】山陽特殊製鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 真
(74)【代理人】
【識別番号】100128473
【弁理士】
【氏名又は名称】須澤 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100160886
【弁理士】
【氏名又は名称】久松 洋輔
(74)【代理人】
【識別番号】100180699
【弁理士】
【氏名又は名称】成瀬 渓
(72)【発明者】
【氏名】栗田 俊
【テーマコード(参考)】
4E002
4K032
【Fターム(参考)】
4E002AC12
4E002BC07
4E002CA19
4E002CB01
4K032AA05
4K032AA11
4K032AA12
4K032AA14
4K032AA16
4K032AA22
4K032AA23
4K032AA27
4K032AA29
4K032AA31
4K032BA02
4K032CC04
(57)【要約】
【課題】圧縮加工での変形異方性に優れた棒状鋼材の提供。
【解決手段】棒形状の鋼材の長手方向に直交する任意の断面の中心を通過する直線上において、前記中心から一方の方向に鋼材の表面まで伸びる第1の直線上における硬さの最大値である最大硬さA(HRB)と、前記中心から前記第1の直線とは反対の方向に鋼材の表面まで伸びる第2の直線上における硬さの最大値である最大硬さB(HRB)と、前記中心における硬さC(HRB)が、以下の式(1)の関係を満たし、前記任意の断面における平均硬さが93HRB以下であることを特徴とする棒状鋼材。
|(C-A)―(C-B)|≦4.0HRB (1)
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
棒形状の鋼材の長手方向に直交する任意の断面の中心を通過する直線上において、前記中心から一方の方向に鋼材の表面まで伸びる第1の直線上における硬さの最大値である最大硬さA(HRB)と、前記中心から前記第1の直線とは反対の方向に鋼材の表面まで伸びる第2の直線上における硬さの最大値である最大硬さB(HRB)と、前記中心における硬さC(HRB)が、以下の式(1)の関係を満たし、前記任意の断面における平均硬さが93HRB以下であることを特徴とする棒状鋼材。
|(C-A)―(C-B)|≦4.0HRB (1)
【請求項2】
前記任意の断面の金属組織におけるフェライトの結晶粒度が、JIS G 0551に準拠して測定された平均粒度番号で8.0以上であることを特徴とする請求項1に記載の棒状鋼材。
【請求項3】
前記任意の断面の形状が、円形または矩形であることを特徴とする請求項1に記載の棒状鋼材。
【請求項4】
鋼材の材質が、SCr、SCM、Nbが添加された焼入れ性向上合金鋼、のいずれかであることを特徴とする請求項1に記載の棒状鋼材。
【請求項5】
前記任意の断面における金属組織は、フェライト及びパーライト組織の占有率が80%以上であることを特徴とする請求項1に記載の棒状鋼材。
【請求項6】
請求項1に記載の棒状鋼材の製造方法であって、
鋼片を圧延機で圧延して中間品を形成し、表面温度が1000℃以下の前記中間品を仕上圧延機に導入して仕上圧延を行うことを特徴とする棒状鋼材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車などの輸送機器や建設機械などの産業用機械などにおいて、歯車、シャフト類などの機械部品等の素材として使用される棒形状の機械構造用合金鋼材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
輸送機器や産業用機械に用いられる機械部品は、強度や耐摩耗性などを付与するため、棒状鋼材を塑性加工などの所望形状に加工した後に、浸炭や窒化、浸炭窒化などの表面を硬化させる熱処理が施される。これらの機械部品には、クロム鋼(SCr)やクロムモリブデン鋼(SCM)、ニッケルクロムモリブデン鋼(SNCM)などの機械構造用合金鋼材が、通常、用いられている。また、前記熱処理の前工程である成形では、鍛造や切削などの機械加工が適用されている。特に鍛造加工では、素材の圧縮変形性を向上させるために、加工前に素材を焼鈍して変形抵抗を低下させる工程が追加されている。
【0003】
しかしながら、近年においては、カーボンニュートラルの実現や製造原価を低減させる活動の中で前記の加工前焼鈍の省略が試みられている。また、素材を所望の形状に成形する方法としては、前記のように素材に圧縮応力を加える鍛造加工と切削加工が主となるが、この成形工程においても、さらなるカーボンニュートラルの実現や製造原価を低減させるために省工程化が望まれている。特に切削加工は、鍛造加工では所要寸法精度とならなかった加工領域に施すことになるが、鍛造工程での寸法精度を高めることができれば切削工程を省略することができる。このため、鍛造加工での主体となる圧縮応力を加えた場合に、素材の変形異方性が低いことも鋼材の特性として望まれている。
【0004】
前記の要望に対応するため、素材の組織、平均硬さ、硬さ分布の標準偏差、硬さの最大値と最小値との差を規定した素材が特許文献1から4に提案されている。このうち、特許文献4の特許第4500246号公報では、フェライトとパーライトの混合組織であり、硬さの平均値と硬さの最大値と最小値の差を規定した鋼管状の素材が提案されている。また、特許文献1から3である特許第4448047公報、特許第4464862号公報、特許第4464864号公報では、全組織内における80%以上がフェライトとパーライトの混合組織であり、硬さの平均値と硬さ分布での標準偏差が規定される鋼材が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4448047号公報
【特許文献2】特許第4464862号公報
【特許文献3】特許第4464864号公報
【特許文献4】特許第4500246号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1から4の素材では、金属組織をフェライトとパーライトの混合組織とし、硬さの平均値を低くしていることから、鍛造加工前の焼鈍を省略することは可能である。しかしながら、鍛造加工における圧縮応力を付与した際の素材の変形異方性の低減については、実現することはできない。特許文献4は、硬さの最大値と最小値を規定しているだけであり、硬さ分布の方向性は規定されていない。また、特許文献1から3は、硬さ分布のバラツキである標準偏差は規定されているが、バラツキの方向性については定まっておらず、圧縮応力を付与した際の変形異方性を制御することはできない。
【0007】
そこで、本発明は、圧縮応力を付与した際における変形異方性をより低減した棒状鋼材を提供することを特徴とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、前記の課題を解決するために種々の検討を重ねて完成した棒形状の鋼材であり、その詳細は以下のとおりである。
【0009】
(1) 棒形状の鋼材の長手方向に直交する任意の断面の中心を通過する直線上において、前記中心から一方の方向に鋼材の表面まで伸びる第1の直線上における硬さの最大値である最大硬さA(HRB)と、前記中心から前記第1の直線とは反対の方向に鋼材の表面まで伸びる第2の直線上における硬さの最大値である最大硬さB(HRB)と、前記中心における硬さC(HRB)が、以下の式(1)の関係を満たし、前記任意の断面における平均硬さが93HRB以下であることを特徴とする棒状鋼材。
|(C-A)―(C-B)|≦4.0HRB (1)
【0010】
(2) 前記任意の断面の金属組織におけるフェライトの結晶粒度が、JIS G 0551に準拠して測定された平均粒度番号で8.0以上であることを特徴とする上記(1)に記載の棒状鋼材。
【0011】
(3) 前記任意の断面の形状が、円形または矩形であることを特徴とする上記(1)に記載の棒状鋼材。
【0012】
(4) 鋼材の材質が、SCr、SCM、Nbが添加された焼入れ性向上合金鋼、のいずれかであることを特徴とする上記(1)に記載の棒状鋼材。
【0013】
(5) 前記任意の断面における金属組織は、フェライト及びパーライト組織の占有率が80%以上であることを特徴とする上記(1)に記載の棒状鋼材。
【0014】
(6) 上記(1)に記載の棒状鋼材の製造方法であって、
鋼片を圧延機で圧延して中間品を形成し、表面温度が1000℃以下の前記中間品を仕上圧延機に導入して仕上圧延を行うことを特徴とする棒状鋼材の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、圧縮応力を付与した際における変形異方性をより低減した棒状鋼材を提供することができる。そして、本発明の棒状鋼材は、圧縮応力を付与した際の変形異方性に優れることから、鍛造加工後の切削加工を省略することができる。また、鍛造加工前の焼鈍工程も省略することができることから、CO排出量を抑制して製造原価が低い機械部品を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施形態に係る棒状鋼材を示す図である。
図2図1のa-a線に沿った断面を示す図である。
図3】棒状鋼材を切断した試験サンプルの圧縮応力加工前後の形状を示す図である。
図4】他の実施形態に係る棒状鋼材を示す図である。
図5図4のb-b線に沿った断面を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図面を参照しつつ本実施形態を説明する。図1に、棒形状の鋼材である棒状鋼材1の一実施形態を示す。棒状鋼材1は長尺形状であり、長手方向の任意の位置におけるa-a線に沿った断面2が図2である。図2は、a-a断面図であり、本実施形態における断面の硬さの測定位置を説明する図である。断面2は、棒状鋼材1の長手方向に直交する断面である。図2の断面2に示す第1の直線である直線ALと、第2の直線である直線BLは、円形の断面2の中心3を通る任意の直線上にあり、中心3から棒状鋼材1の表面4に向かって互いに反対方向へ伸びる。
【0018】
本実施形態の棒状鋼材1は、棒状鋼材1の長手方向に直交する任意の断面2における中心3と、直線AL上と直線BL上の任意の位置でそれぞれ硬さ測定を行い、その測定値に基づき所定の計算を行って求められる値が、以下の式(1)の条件を満たすものである。
|(C-A)―(C-B)|≦4.0HRB (1)
【0019】
ここで、Aは直線AL上での最大硬さ、Bは直線BL上での最大硬さ、Cは中心3における硬さである。硬さA、B、Cは、いずれもロックウェル硬さ(HRB)(JIS Z2245)である。ALの最大硬さAと、BLの最大硬さBは、それぞれの直線部分(中心3の位置を除く)の任意の複数個所で硬さを測定し、その測定値の中から最大硬さをそれぞれ選択すればよい。本実施形態では4か所で硬さを測定して、そのうちの最大硬さを抽出する。上記式(1)により、最大硬さAと硬さCの差(C-A)と、最大硬さBと硬さCの差(C-B)を求め、それらの差同士の差分の絶対値を求めることで、棒状鋼材1の圧縮変形における変形異方性を評価することができる。
【0020】
図3に、図1の棒状鋼材1を任意の長さに切断したサンプルであって、棒状鋼材1の長手方向に沿って圧縮応力6を応力付与面7に加える前の試験サンプル5と、試験サンプル5が圧縮応力6により圧縮変形した後の圧縮加工後サンプル9の形状を示す。圧縮加工後サンプル9は、圧縮応力6が加えられたため表面4が太鼓状に変形した形状となる。圧縮加工後サンプル9で、圧縮応力6が付与された加工後応力付与面10と、圧縮応力6を受けた加工後応力受け面11は、式(1)が指標となる変形異方性によって加工後の形状が異なってくる。
【0021】
鋼材の変形異方性がより小さいほど、圧縮応力6が付与された加工後応力付与面10と加工後応力受け面11の形状が、それぞれ加工前の試験サンプル5の応力付与面7と応力受け面8の形状と相似的に近くなる。これに対して鋼材の変形異方性がより大きいほど、圧縮加工後サンプル9の加工後応力付与面10と加工後応力受け面11の形状が、それぞれ試験サンプル5の応力付与面7と応力受け面8と比較して部分的により非相似的な形状になる。つまり、変形異方性がより大きいと、試験サンプル5の断面形状が円形な場合は、圧縮加工後サンプル9の加工後応力付与面10と加工後応力受け面11は、円形と非相似的な形状(例えば、楕円形)となる。
【0022】
このように、圧縮応力6の付与前後で断面形状が非相似的な形状に変化する場合、鍛造加工で機械部品を成形した際に寸法精度の悪化を招き、鍛造加工後の切削加工が必要になるため、切削加工工程を省略することは難しい。これに対して、変形異方性の指標となる式(1)の値が4.0HRB以下であり、式(1)の条件を満たす本実施形態の鋼材は、実施例で後述するように圧縮応力の付与後も所望の寸法精度に保つことができる。そのため、鍛造加工後の切削加工を省略することが可能になる。
【0023】
また、本実施形態の棒状鋼材1の断面2における平均硬さは、ロックウェル硬さで93HRB以下である。断面2の平均硬さを93HRB以下とすることで、鍛造加工前の焼鈍工程を省略することができる。平均硬さは断面2における任意の位置での硬さ測定によって算出する。具体的には、無作為に決定された、棒状鋼材1の長手方向に直交する任意の断面2(例えば、式(1)による評価を行った断面2と同じ面でもよいし、別の面でもよい)において、直径をDとした場合に、表面4の位置からD/4の位置の4点で硬さ(HRB)を測定する。4点は、中心3を通る直交した2直線上での4か所のD/4の位置である。その4か所の測定値の算術平均が本実施形態の断面の平均硬さである。なお、断面2の平均硬さの下限値は特に限定されないが、80HRB以上であればよい。
【0024】
以上の本実施形態では、長手方向と直交する断面が円形の棒状鋼材1の場合について記載したが、他の断面形状の鋼材としてもよい。図4には、他の実施形態の棒状鋼材12を示す。棒状鋼材12の、図4に示すb-b線に沿った断面13を図5に示す。断面13は棒状鋼材12の長手方向に直交する断面であり、断面13の形状は四角形である。このような矩形状の断面13における中心3の位置は、対角線14が交差する点とすることができる。
【0025】
断面13が矩形の棒状鋼材12の場合は、式(1)の硬さを求めるための直線は、上記対角線14が交差する中心3を通り鋼材の表面に延びる任意の直線とすればよい。任意の直線は、例えば、中心3を通る対角線でもよいし、中心3を通る対角線以外の線でもよい。図5では一例として、任意の直線が対角線14である場合を示している。その直線について、断面が円形の鋼材の場合と同様にして硬さ測定を行う。すなわち、中心3と、中心3から表面にのびる直線AL上と、直線ALと反対方向に表面にのびる直線BL上で硬さを測定する。直線ALとBLの部分については、それぞれ任意の複数個所で硬さを測定し、AL上の最大硬さAとBL上の最大硬さBを求めればよい。また、断面13の平均硬さも、円形の断面2の場合と同様にして求めればよい。具体的には、図5の対角線の長さをDとした場合に、2つの対角線上における、各頂点からD/4位置の4点で硬さを測定してその平均値を求めればよい。なお、棒状鋼材の断面形状は、矩形以外の多角形形状であってもよい。
【0026】
棒状鋼材1や12の材質は、炭素鋼又は合金鋼であり、好ましい材質は、機械構造用合金鋼である。機械構造用合金鋼としては、SCr、SCMが例示される。また、焼入れ性を向上させた材質として、Nbなども添加した焼入れ性向上合金鋼も好ましい材質である。
【0027】
SCrは、0.12質量%以上0.48質量%以下のC、0.15質量%以上0.35質量%以下のSi、0.55質量%以上0.95質量%以下のMn、0.030質量%以下のP、0.030質量%以下のS、0.25質量%以下のNi、0.85質量%以上1.25質量%以下のCrを含有し、残部がFeおよび不可避的不純物である。
【0028】
SCMは、0.12質量%以上0.49質量%以下のC、0.15質量%以上0.35質量%以下のSi、0.30質量%以上1.00質量%以下のMn、0.030質量%以下のP、0.030質量%以下のS、0.25質量%以下のNi、0.85質量%以上1.50質量%以下のCrを含有し、残部がFeおよび不可避的不純物である。
【0029】
焼入れ性向上合金鋼は、0.14質量%以上0.25質量%以下のC、0.25質量%以上0.55質量%以下のSi、0.25質量%以上1.55質量%以下のMn、0.020質量%以下(0.00質量%を含む)のP、0.020質量%以下のS、0.20質量%以下(0.00質量%を含む)のNi、1.50質量%以上3.00質量%以下のCr、0.070質量%以下(0.00質量%を含む)のNbを含有し、残部がFeおよび不可避的不純物である。
【0030】
なお、化学組成における不純物は、鋼材を工業的に製造する際に、原料に含まれる成分や製造環境などから混入される成分であって、本実施形態による鋼材に悪影響を与えない範囲で許容される成分である。
【0031】
棒状鋼材1や12の金属組織は、フェライト+パーライト組織を含んでおり、鋼材の任意の断面の断面積におけるフェライト+パーライト組織の占有率が80%以上であることが好ましい。80%以上であると、金属組織の硬化組織を低減し、棒状鋼材1、12の硬さを低減できるためである。例えば、フェライト+パーライト組織の占有率が80%以上であり、鋼材断面の硬さが93HRB以下であれば、鍛造加工前の焼鈍工程を省略することができる。
【0032】
また、前記組織のフェライトの結晶粒度は、JIS G 0551に準拠して測定された結果において、平均粒度番号が8.0以上であることが好ましい。平均粒度番号は、棒状鋼材1や12の断面を研磨した後にナイタル腐食を施して、光学顕微鏡による観察で結晶粒径が測定され、この測定結果に基づき、平均粒度番号が算出される。金属組織のフェライトの結晶粒度が、平均粒度番号8.0以上で粒径がより小さければ、棒状鋼材1、12の変形異方性がより小さくなるため好ましい。平均粒度番号が大きいほど、ミクロ組織の硬化組織の影響を小さくでき、変形異方性もより小さくなり、好ましいため、上記金属組織のフェライトの結晶粒度は平均粒度番号が9.0以上であるのがより好ましい。
【0033】
棒状鋼材1や12は、圧延によって製造され、典型的には、熱間圧延により製造される。この製造方法では、精錬、造塊、分塊圧延等の工程を経て、鋼片が得られる。この鋼片は、加熱炉によって加熱され、粗列圧延機による連続圧延が施される。この圧延によって鋼片は長尺化及び細径化し、中間品が得られる。この中間品にさらに、連続で、中間列圧延機及び仕上列圧延機(仕上圧延機)による圧延が施される。この中間品が空冷されて、棒状鋼材1や12が得られる。
【0034】
棒状鋼材1や12の金属組織は、粗圧延機等の圧延機による圧延後の、仕上列圧延機における中間品の温度に、大きく依存する。この温度が比較的低く設定されることで、平均粒度番号が大きく、かつ硬さ分布での異方性が小さい棒状鋼材1や12が得られうる。そのため、仕上列圧延機に導入される際(直前)の中間品の表面温度は、1000℃以下が好ましく、980℃以下がより好ましく、960℃以下が特に好ましい。
【0035】
以上の本実施形態によれば、棒状鋼材の断面の硬さについて、上記式(1)の条件を満たし、断面の平均硬さが上記所定の硬さ以下であることにより、圧縮応力を付与した際の変形異方性がより小さい棒状鋼材を提供することができる。そのため、本実施形態の棒状鋼材を用いることで、鍛造加工後の切削加工を省略することが可能である。
【実施例0036】
以下、実施例によって実施形態をより詳細に説明する。この実施例の記載に基づいて本明細書で開示された範囲が限定的に解釈されるべきではない。
【0037】
まず実施例として、表1に示す成分のSCr420、SCM420、焼入れ性向上合金鋼A(鋼材A)を溶製して、各鋼種につき2つずつ鋼片を得た。この鋼片に、粗列圧延機、中間列圧延機及び仕上列圧延機による連続圧延を施して、中間品を得た。仕上列圧延機に導入される直前の中間品の表面温度は、各鋼種の一方の鋼片(表2の各鋼種の(a))が1000℃、もう一方の鋼片(下記表2の各鋼種の(b))が960℃であった。この中間品を空冷し、断面形状が円形の直径Diが30mmである棒状鋼材1をそれぞれの鋼材について得た。
【0038】
比較例として、実施例と同様に各鋼種につき2つずつ鋼片を作成し、仕上列圧延機に導入される直前の中間品の表面温度を一方の鋼片(表2の各鋼種の(a))は1100℃、もう一方の鋼片(表2の各鋼種の(b))は1150℃として仕上げ圧延を行い、他は実施例1と同様にして、棒状鋼材1を得た。
【0039】
【表1】
【0040】
棒状鋼材1に切削加工を施し、円柱状の試験片を得た。この試験片は、直径が14mmであり、高さが21mmであった。この試験片の断面について、図2に示した中心3でのロックウェル硬さ(HRB)を測定するとともに、中心3を通る任意の直線上における、直線AL上と直線BL上で、各々4箇所のロックウェル硬さ(HRB)を測定した。そして、測定値から直線AL上での最大硬さAおよび直線BL上での最大硬さBを抽出し、式(1)で示した中心3での硬さCとの差に基づく、前記各直線上での硬さ分布の絶対値を算出した。そして、その結果から異方性を検証した。また、試験片の断面2における直径をDとした場合に、中心3を通る直交する2直線上における、表面4からD/4の位置における4点で硬さ(HRB)を測定し、その算術平均の平均値を断面平均硬さ(HRB)としてそれぞれ求めた。その後、前記試験片を端面拘束状態で高さ方向に据込み率(=(加工前の高さ-加工後の高さ)/加工前の高さ)が60%で圧縮加工した。
【0041】
ロックウェル硬さを測定して式(1)の値を算出した結果を表2に示す。実施例においては、いずれの鋼材の試験片についても式(1)の値が4.0HRB以下で条件を満たしたが、比較例ではすべて4.0HRBを超える結果となった。
【0042】
また、応力付与による実際の変形異方性の確認として、前記試験片を圧縮加工した後の直線AL上での変形量と直線BL上での変形量を確認した。具体的には、圧縮加工後の試験片の断面中心位置から各直線の長さを測定して、差F(=|加工後の直線ALの長さ-加工後の直線BLの長さ|)を求めた。差Fを算出する際の直線AL、BLは、式(1)に用いた硬さを測定した直線AL、BLと同じ位置の直線である。その結果、表2に示したように実施例では、各々の長さの差Fが0.5mm以下とJIS B 0408の金属プレス品の普通寸法公差内であったが、比較例では前記寸法公差である1mmを超えるものや、1mmを超えなくても実施例より差Fが大きく1mmに近い結果となった。
【0043】
よって、実施例については、圧縮応力を付与した際における変形異方性が十分に低減され、鍛造加工後の切削加工を省略可能であることを確認できた。一方、比較例の場合は寸法公差が大きく、切削加工が必要である。また、フェライトの平均粒度番号は、実施例では8.0以上であったが、比較例では8.0未満であった。また、圧縮加工前の断面平均硬さについては、実施例はいずれも93HRB以下であり、鍛造加工前の焼鈍工程を省略できることを確認できた。比較例はいずれも断面平均硬さが93HRBより大きかった。
【0044】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の棒状鋼材は、カーボンニュートラル化や製造原価低減を実現する様々な機械部品に最適な鋼材である。
【符号の説明】
【0046】
1、12 棒状鋼材
2 断面
3 (棒状鋼材断面の)中心
4 (棒状鋼材の)表面
5 試験サンプル
6 圧縮応力
7 応力付与面
8 応力受け面
9 圧縮加工後サンプル
10 加工後応力付与面
11 加工後応力受け面
13 断面
14 対角線
AL、BL 棒状鋼材断面で中心を通る直線

図1
図2
図3
図4
図5
【手続補正書】
【提出日】2024-10-10
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロム鋼(SCr)、クロムモリブデン鋼(SCM)、及びNbが添加された焼入れ性向上合金鋼のいずれかからなる棒形状の鋼材の長手方向に直交する任意の断面の中心を通過する直線上において、前記中心から一方の方向に鋼材の表面まで伸びる第1の直線上における硬さの最大値である最大硬さA(HRB)と、前記中心から前記第1の直線とは反対の方向に鋼材の表面まで伸びる第2の直線上における硬さの最大値である最大硬さB(HRB)と、前記中心における硬さC(HRB)が、以下の式(1)の関係を満たし、前記任意の断面における平均硬さが93HRB以下であり、前記任意の断面における金属組織は、フェライト及びパーライト組織の占有率が80%以上であることを特徴とする鍛造加工用棒状鋼材。
|(C-A)―(C-B)|≦4.0HRB (1)
【請求項2】
前記任意の断面の金属組織におけるフェライトの結晶粒度が、JIS G 0551に準拠して測定された平均粒度番号で8.0以上であることを特徴とする請求項1に記載の鍛造加工用棒状鋼材。
【請求項3】
前記任意の断面の形状が、円形または矩形であることを特徴とする請求項1に記載の鍛造加工用棒状鋼材。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一つに記載の鍛造加工用棒状鋼材の製造方法であって、
鋼片を圧延機で圧延して中間品を形成し、表面温度が1000℃以下の前記中間品を仕上圧延機に導入して仕上圧延を行うことを特徴とする鍛造加工用棒状鋼材の製造方法。