(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024177826
(43)【公開日】2024-12-24
(54)【発明の名称】チラーユニット
(51)【国際特許分類】
B23Q 11/12 20060101AFI20241217BHJP
B24B 55/00 20060101ALI20241217BHJP
H01L 21/301 20060101ALI20241217BHJP
【FI】
B23Q11/12 A
B24B55/00
H01L21/78 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023096176
(22)【出願日】2023-06-12
(71)【出願人】
【識別番号】000134051
【氏名又は名称】株式会社ディスコ
(74)【代理人】
【識別番号】110003524
【氏名又は名称】弁理士法人愛宕綜合特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 智章
【テーマコード(参考)】
3C047
5F063
【Fターム(参考)】
3C047FF06
3C047FF17
5F063AA24
5F063DD01
5F063FF21
(57)【要約】 (修正有)
【課題】チラーユニットが配設された装置のオペレータが、紫外線照射手段を使用して該チラーユニットを循環する液体の漏れを早期に発見することが可能となるチラーユニットを提供する。
【解決手段】チラーユニット30は、液体を循環させる循環経路31と、循環経路に配設され液体を所定の温度に調整する温度調整手段34と、を含み、液体には、紫外線吸光剤が混入されオペレータは、加工領域に向けて紫外線を照射することができ、スピンドルユニット80のスピンドルハウジング81や、チラーユニット30の循環経路31から冷却用の液体の漏れを感知することができる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の温度に調整された液体を循環させるチラーユニットであって、
液体を循環させる循環経路と、該循環経路に配設され該液体を所定の温度に調整する温度調整手段と、を含み、
該液体には、紫外線吸光剤が混入されているチラーユニット。
【請求項2】
該液体は水である請求項1に記載のチラーユニット。
【請求項3】
該水には不凍液が混入されている請求項2に記載のチラーユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の温度に調整された液体を循環させるチラーユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
IC、LSI等の複数のデバイスが分割予定ラインによって区画され表面に形成されたウエーハは、研削装置によって裏面が研削されて所定の厚みに加工された後、切削装置によって分割予定ラインが切削されて、個々のデバイスチップに分割され、携帯電話、パソコン等の電気機器に利用される。
【0003】
また、研削装置を構成する研削手段は、研削砥石が配設された研削ホイールを回転可能に装着したスピンドルと、該スピンドルをエアーベアリングで支持するスピンドルハウジングとから概ね構成されたスピンドルユニットを備えていて、該スピンドルが熱によって伸縮しないように、スピンドルハウジング内に配設された配管に所定の温度に保たれた液体(恒温水)を循環液として流し、スピンドルユニットを一定の温度に保つチラーユニット(冷却機構)が配設される。
【0004】
上記したのと同様に、切削装置を構成する切削手段は、切削ブレードが装着されたスピンドルと、該スピンドルをエアーベアリングで支持するスピンドルハウジングとから概ね構成されたスピンドルユニットを備えていて、上記した研削装置と同様に、該スピンドルユニットを一定の温度に保つチラーユニットが配設される(例えば特許文献1、2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007-38329号公報
【特許文献2】特開2009-202295号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記したチラーユニットにおいては、経年変化や搭載される装置の振動等に起因して、チラーユニット内を循環する液体が漏れる場合があり、該液体の漏れにオペレータが気付かずに装置の運転を継続した場合、スピンドルの冷却が不十分となって、加工精度が維持されず、被加工物の品質が低下するという問題が生じる。また、該液体の漏れに気付かずにさらに運転を継続した場合には、最終的に、スピンドルの熱膨張によってスピンドルユニットが損傷するという問題も生じ得る。このような冷却機能の不全に起因する様々な問題は、上記した研削装置や切削装置に限定されず、一定の温度に保つ必要がある機器を冷却する全てのチラーユニットに生じ得る問題である。
【0007】
本発明は、上記事実に鑑みなされたものであり、その主たる技術課題は、チラーユニットが配設された装置のオペレータが、該チラーユニットを循環する液体の漏れを早期に発見することを可能にすることであり、チラーユニットによって冷却される被冷却物、例えばスピンドルの冷却が不十分となって加工精度が低下し個々に分割されるデバイスチップの品質が低下したり、スピンドルの熱膨張によってスピンドルユニットが損傷したりするという問題を解消することができるチラーユニットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記主たる技術課題を解決するため、本発明によれば、所定の温度に調整された液体を循環させるチラーユニットであって、液体を循環させる循環経路と、該循環経路に配設され該液体を所定の温度に調整する温度調整手段と、を含み、該液体には、紫外線吸光剤が混入されているチラーユニットが提供される。
【0009】
該液体は水であることが好ましい。また、該水には不凍液が混入されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明のチラーユニットは、液体を循環させる循環経路と、該循環経路に配設され該液体を所定の温度に調整する温度調整手段と、を含み、該液体には、紫外線吸光剤が混入されていることから、チラーユニットが配設された装置のオペレータが、紫外線照射手段を使用して該チラーユニットを循環する液体の漏れを早期に発見することが可能となり、チラーユニットによって冷却される被冷却物、例えばスピンドルの冷却が不十分となって加工精度が低下し個々に分割されるデバイスチップの品質が低下したりスピンドルの熱膨張によってスピンドルユニットが損傷したりするという問題を解消することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本実施形態のチラーユニットが装着される切削装置の全体斜視図である。
【
図2】
図1に示す切削装置に装着されるチラーユニットの回路図、及びスピンドルユニットの分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に基づいて構成されるチラーユニットに係る実施形態について、添付図面を参照しながら、詳細に説明する。
【0013】
図1には、後述するチラーユニット30によって冷却されるスピンドルを含む切削手段8を備えた切削装置1が示されている。切削装置1は、略直方体形状のハウジング2を備え、ハウジング2のカセットテーブル4aに載置されるカセット4(2点鎖線で示す)と、カセット4からフレームFに保護テープTを介して支持されたウエーハWを仮置きテーブル5に搬出する搬出入手段3と、仮置きテーブル5に搬出されたウエーハWを保持手段7のチャックテーブル7aに搬送する旋回アームを有する搬送手段6と、チャックテーブル7aに吸引保持されたウエーハWに切削加工を施す切削手段8と、上記したチャックテーブル7a上に保持されたウエーハWを撮像し、切削手段8よって切削すべき領域を検出するためのアライメント手段10と、
図1においてチャックテーブル7aが位置付けられた搬出入位置からウエーハWを洗浄装置12(詳細については省略されている)に搬送する洗浄搬出手段14と、図示を省略する制御手段、及び表示手段等を備えている。
【0014】
なお、
図1に示す切削装置1のハウジング2の上面において、搬出入手段3、カセット4、仮置テーブル5、搬送手段6、保持手段7、切削手段8等が配設された加工領域は、図示を省略するカバー部材及び扉によって覆われており、切削手段8の切削ブレードを交換したり、保持手段7のチャックテーブル7aを交換したりするメンテナンスは、切削手段8の近傍に配設される扉を開閉してオペレータによって実施される。
【0015】
図2には、上記した切削手段8を構成するスピンドルユニット80(一部のみを示す)と、スピンドルユニット80に連結され、所定の温度に調整された冷却用の液体Lを循環させて切削手段8を冷却するチラーユニット30の回路図が示されている。なお、チラーユニット30は、上記した切削装置1のハウジング2内に収容されている。
【0016】
図2では、スピンドルユニット80のスピンドルハウジング81を分解した斜視図を示している。図示のスピンドルハウジング81は、該液体Lが壁面の内部を循環する円筒状のハウジング本体81aと、スピンドルハウジング81の先端を構成する先端部82とを備えている。なお、スピンドルハウジング81の内部空間81bにエアーベアリングを介して回転自在に収容され先端部に切削ブレードが装着されるスピンドル、切削ブレードを覆うブレードカバー、該スピンドルを駆動する駆動モータ等は、説明の都合上、省略されている。
【0017】
該ハウジング本体81aには、スピンドルハウジング81に冷却用の液体Lを供給し排出する基部83が連結され、基部83の循環液導入口83aから導入された液体Lは、基部83内の液体路(図示されていない)と、ハウジング本体81a内の液体路81cと、先端部82内の液体路82aとを通ることで、スピンドルユニット80全体を冷却し、基部83の液体排出口83bから排出されてチラーユニット30に戻される。
【0018】
チラーユニット30は、上記したスピンドルハウジング81内に液体Lを循環させる循環経路31と、循環経路31に配設され該液体Lを所定の温度に調整する温度調整手段34と、を含み構成される。
【0019】
温度調整手段34は、上記した循環経路31の液体Lを冷却する冷媒Qが循環する冷媒循環路341と、該冷媒循環路341に配設されモータ342aによって駆動されて冷媒Qを圧縮する圧縮機342と、該圧縮機342が冷媒Qを圧縮した際の圧縮熱を帯びた冷媒Qを冷却することにより該冷媒Qを液化する凝縮器343と、該凝縮器343において液化した冷媒Qを気化させて気化熱を生成する蒸発器344と、該凝縮器343を通過して液化され該蒸発器344に投入される冷媒Qの流量を調整する可変膨張弁345と、を備えている。可変膨張弁345には、図示を省略する駆動機構が配設されており、上記した制御手段によって開度が制御される。
【0020】
液体Lが循環する循環経路31には、該液体Lを循環させるためのポンプ311と、循環経路31において、蒸発器344を通過した後の液体Lの温度を検出する温度センサ312とが配設されている。該ポンプ311は、モータ311aによって駆動される。該温度センサ312によって検出された温度は、図示を省略する制御手段に送られて記憶される。
【0021】
凝縮器343には、該凝縮器343を通過する冷媒Qを冷却するための工業用水Sが流れる工業用水路36が接続されており、凝縮器343内に配設された図示を省略する熱交換器によって、冷媒循環路341を流れる冷媒Qと該水路を通る工業用水Sとの間で、熱交換が行われ、冷媒Qが冷却されて液化される。
【0022】
蒸発器344の内部には、冷媒循環路341を通る冷媒Qと循環経路31を通る液体Lとにおいて熱交換を行うための図示を省略する熱交換器が配設されており、スピンドルユニット80に導入されて温められた液体Lが、蒸発器344において冷却される。上記したように、循環経路31には、温度センサ312が配設されており、温度センサ312によって検出された温度に基づいて、上記した温度調整手段34の可変膨張弁345の開度や、圧縮機342による冷媒Qの圧縮量を調整することにより冷媒Qの流量や温度が調整されて、循環経路31によってスピンドルユニット80に投入される液体Lの温度が所定の温度(例えば20℃)に調整される。
【0023】
本実施形態における冷却用の液体Lは、液体Lを主に構成する水L0に対し紫外線吸光剤Pが混入されたものが採用される。本実施形態における紫外線吸光剤Pとしては、紫外線が照射されることで、そのエネルギーを吸収し発光する蛍光性能を有する蛍光剤を採用することができ、例えば、ビス(トリアジニルアミノ)スチルベンジスルホン酸誘導体や、ビススチリルビフェニル誘導体等、周知の蛍光剤から選択することができる。
【0024】
また、本実施形態の液体Lを構成する水L0及び紫外線吸光剤Pに対し不凍液Rが混入されている。液体Lに不凍液Rが混入されていることにより、温度調整手段34によって冷却される際の過冷却によって液体Lが凍結することが防止されると共に、不凍液Rに含まれる防錆剤、抗酸化剤によって、蒸発器344内の熱交換器を含む循環経路31の防錆や、腐食防止の効果を得ることができる。
【0025】
上記したチラーユニット30、及び該チラーユニット30が装着された切削装置1は、概ね上記したとおりの構成を備えており、本実施形態のチラーユニット30の作用効果について、以下に説明する。
【0026】
切削装置1において切削加工が実施される際には、まず、カセット4に収容されたウエーハWを搬出入手段3によって把持し、仮置きテーブル5に搬出する。該ウエーハWは、複数のデバイスが分割予定ラインによって区画され表面に形成されたウエーハであり、
図1に示すように、保護テープTを介して環状のフレームFに保持されている。仮置きテーブル5にウエーハWを搬出したならば、搬送手段6によってウエーハWを保持するフレームFを吸着して、保持手段7のチャックテーブル7aに搬送し、ウエーハWの表面を上方に向けて載置して、図示を省略する吸引手段を作動して吸引保持する。次いで、チャックテーブル7aを移動して、チャックテーブル7aに保持されたウエーハWをアライメント手段10によって撮像し、ウエーハWの所定の分割予定ラインをX軸方向に整合させると共に、切削手段8の切削ブレードとの位置合わせを実施する。次いで、X軸方向に整合させた分割予定ラインに高速回転させた切削ブレードを位置付けて、表面側から切り込ませると共に、チャックテーブル7aをX軸方向に加工送りして分割溝を形成する。
【0027】
次いで、分割溝を形成した分割予定ラインにY軸方向で隣接し、分割溝が形成されていない分割予定ライン上に切削手段8の切削ブレードを割り出し送りして、上記と同様にして分割溝を形成する。これらを繰り返すことにより、X軸方向に沿うすべての分割予定ラインに沿って分割溝を形成する。次いで、チャックテーブル7aを90度回転し、先に分割溝を形成した方向と直交する方向をX軸方向に整合させ、上記した切削加工を新たにX軸方向に整合させたすべての分割予定ラインに対して実施し、ウエーハWに形成されたすべての分割予定ラインに沿って分割溝を形成する。このように切削加工を実施することで、ウエーハWが個々のデバイスチップに分割される。次いで、ウエーハWを洗浄搬送手段14によって洗浄装置12に搬送して、洗浄乾燥を行い、洗浄乾燥後のウエーハWを搬送手段6及び搬出入手段3によってカセット4の所定の位置に収容する。このような切削加工を、カセット4に収容された全てのウエーハWに対して実施する。
【0028】
上記した切削加工を実施する間、上記したチラーユニット30の循環経路31に対し、チラーユニット30によって所定の温度(例えば20℃)に調整された液体Lが供給され、スピンドルユニット80に回転自在に保持されたスピンドルを冷却する。これにより、該スピンドルの熱膨張が抑えられ、切削加工における加工精度が維持される。
【0029】
ここで、例えば、被加工物の変更や、切削ブレードの摩耗等による切削ブレードの交換、或いは、切削装置1内部の清掃を行う等のメンテナンスが必要になった際に、オペレータによって切削装置1の加工領域にアクセスするための図示を省略する扉が開かれる。該オペレータは、紫外線照射手段(ブラックライト)を用いて、扉の内部、すなわち切削手段8の近傍を含む加工領域に向けて紫外線を照射することができ、仮に、上記したスピンドルユニット80のスピンドルハウジング81や、チラーユニット30の循環経路31から冷却用の液体Lが漏れ出していた場合は、該紫外線が当たった液体Lに含まれる紫外線吸光剤Pが該紫外線に反応して発光する。これにより、オペレータは、即座に循環経路31を流れる液体Lの漏れを感知することができ、該漏れの原因を究明して、漏れ箇所の補修や、液体Lの補充等を行うことができる。この結果、スピンドルの冷却が不十分になって加工精度が維持されずデバイスチップの品質が低下するという問題を解消することができ、さらには、スピンドルの熱膨張によってスピンドルユニット80が損傷するという問題も解消される。
【0030】
なお、上記した実施形態では、オペレータが紫外線照射手段を用いて、加工領域に向けて紫外線を照射するように説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、切削装置1の加工領域が形成された内部に、紫外線を照射する紫外線照射手段を予め配設しておき、切削装置1の内部にオペレータがアクセスすべく該扉を開放した際に、該紫外線照射手段が一定時間作動して紫外線を該加工領域に照射するようにしてもよい。このような構成によっても、オペレータは、即座に液体Lの漏れを感知することができる。
【0031】
上記した実施形態では、本発明に基づき構成されたチラーユニット30を切削装置1に適用した例を示したが、本発明はこれに限定されず、研削装置や研磨装置に配設されるスピンドルユニットの冷却を行うチラーユニットにも適用可能であり、また、スピンドルユニットを冷却するチラーユニットに限定されず、一定の温度に保つ必要がある機器を液体によって冷却する全てのチラーユニットに適用することが可能である。
【符号の説明】
【0032】
1:切削装置
2:ハウジング
3:搬出入手段
4:カセット
5:仮置テーブル
6:搬送手段
7:保持手段
7a:チャックテーブル
8:切削手段
80:スピンドルユニット
81:スピンドルハウジング
81a:ハウジング本体
81b:内部空間
81c:液体路
82:先端部
82a:液体路
83:基部
83a:液体導入口
83b:液体排出口
10:アライメント手段
12:洗浄装置
14:洗浄搬送手段
30:チラーユニット
31:循環経路
311:ポンプ
312:温度センサ
34:温度調整手段
341:冷媒循環路
342:圧縮機
343:凝縮器
344:蒸発器
345:可変膨張弁
F:フレーム
L:液体
L0:水
P:紫外線吸光剤
Q:冷媒
R:不凍液
T:保護テープ
W:ウエーハ