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特開2024-178052電子ビーム描画方法、電子ビーム描画装置、及びプログラム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024178052
(43)【公開日】2024-12-24
(54)【発明の名称】電子ビーム描画方法、電子ビーム描画装置、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/027 20060101AFI20241217BHJP
   H01J 37/305 20060101ALI20241217BHJP
   G01B 15/00 20060101ALI20241217BHJP
【FI】
H01L21/30 541D
H01L21/30 541W
H01J37/305 B
G01B15/00 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023096551
(22)【出願日】2023-06-12
(71)【出願人】
【識別番号】504162958
【氏名又は名称】株式会社ニューフレアテクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100119035
【弁理士】
【氏名又は名称】池上 徹真
(74)【代理人】
【識別番号】100141036
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 章
(74)【代理人】
【識別番号】100178984
【弁理士】
【氏名又は名称】高下 雅弘
(72)【発明者】
【氏名】野村 春之
(72)【発明者】
【氏名】中山田 憲昭
【テーマコード(参考)】
2F067
5C101
5F056
【Fターム(参考)】
2F067AA03
2F067AA07
2F067AA54
2F067BB04
2F067BB21
2F067CC17
2F067EE04
2F067GG01
2F067HH06
2F067JJ05
2F067KK04
2F067NN06
5C101AA27
5C101EE03
5C101EE22
5C101EE23
5C101EE43
5C101EE48
5C101EE69
5C101FF02
5C101FF56
5C101GG19
5C101HH03
5C101HH52
5C101HH61
5F056AA07
5F056BA08
5F056CC03
5F056CC08
5F056CD15
(57)【要約】
【目的】電子ビームの照射による不可逆的な試料の変形による、ビーム照射位置やパターン形成位置の位置ずれを補正可能な方法を提供する。
【構成】本発明の一態様の電子ビーム描画方法は、電子ビームの照射量分布に依存して不可逆に変形する試料に、電子ビームを照射してパターンを描画した場合の、描画処理の終了後における試料の不可逆変形により生じたパターンの設計上の位置からの第1位置ずれ量を算出する工程と、第1位置ずれ量に基づき、試料に電子ビームを照射してパターンを形成する際のパターンの位置若しくは電子ビームの照射位置を補正する補正量を算出する工程と、補正量に基づいて、試料に前記パターンを描画する描画処理を行う工程と、
を備えたことを特徴とする。
【選択図】図12
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子ビームの照射量分布に依存して不可逆に変形する試料に、前記電子ビームを照射してパターンを描画した場合の、描画処理の終了後における前記試料の不可逆変形により生じた前記パターンの設計上の位置からの第1位置ずれ量を算出する工程と、
前記第1位置ずれ量に基づき、前記試料に前記電子ビームを照射して前記パターンを形成する際の前記パターンの位置若しくは前記電子ビームの照射位置を補正する補正量を算出する工程と、
前記補正量に基づいて、前記試料に前記パターンを描画する描画処理を行う工程と、
を備えたことを特徴とする電子ビーム描画方法。
【請求項2】
前記描画処理において、前記電子ビームの照射時点における、前記照射時点よりも前に前記試料に照射された前記電子ビームによる前記試料の不可逆変形により生じた前記パターンの設計上の位置からの第2位置ずれ量を算出する工程をさらに備え、
前記第2位置ずれ量と前記第1位置ずれ量との差分に基づき、前記補正を行うことを特徴とする請求項1記載の電子ビーム描画方法。
【請求項3】
前記描画処理は、第1チップパターンを描画する第1描画処理と、前記第1描画処理の後に行われ、第2チップパターンを前記第1チップパターンに重ねるように描画する第2描画処理と、を含み、
前記第1位置ずれ量は、前記第2描画処理の終了後における前記試料の不可逆変形による前記パターンの設計上の位置からの位置ずれ量であることを特徴とする請求項1記載の電子ビーム描画方法。
【請求項4】
前記第1描画処理において、前記電子ビームの照射時点における、前記照射時点よりも前に前記試料に照射された前記電子ビームによる、前記試料の不可逆変形により生じた前記設計上の位置からの第2位置ずれ量を算出する工程と、
前記第2描画処理において、前記電子ビームの照射時点における、前記照射時点よりも前に前記試料に照射された前記電子ビームによる、前記試料の不可逆変形により生じた前記設計上の位置からの第3位置ずれ量を算出する工程と、
をさらに備え,
前記補正量を算出する工程は、
前記第2位置ずれ量と前記第1の位置ずれ量との差分に基づき、前記第1描画処理における第1補正量を算出する工程と、
前記第3位置ずれ量と前記第1の位置ずれ量との差分に基づき、前記第2描画処理における第2補正量を算出する工程と、
を有することを特徴とする請求項3記載の電子ビーム描画方法。
【請求項5】
前記試料には、予め、アライメント用のマークが形成され、
前記試料は、移動可能なステージに載置され、
前記第1描画処理の前に前記マークの第1マーク位置を測定する工程と、
前記第1描画処理の終了後の前記試料の不可逆変形による、前記第1マーク位置からのマーク位置の位置ずれ量を算出する工程と、
前記ステージから一旦搬出され、前記第2描画処理のために改めて前記試料が前記ステージに載置された状態で、前記第2描画処理の開始前に、前記マークの第2マーク位置を測定する工程と、
前記第2の描画処理の開始前に、前記第2マーク位置から前記マーク位置の位置ずれ量分を補正した第3マーク位置を算出する工程と、
を備え、
前記第1描画処理の際の前記試料に描画される前記第1チップパターンの位置は、前記第1マーク位置を基準に定義され、
前記第2描画処理の際の前記試料に描画される前記第2チップパターンの位置は、前記第3マーク位置を基準に定義される、
ことを特徴とする請求項3記載の電子ビーム描画方法。
【請求項6】
電子ビームの照射量分布に依存して不可逆に変形する試料を載置するステージと、
前記試料に対して電子ビームを用いてパターンを描画した場合の、描画終了後の前記試料の不可逆変形により生じた前記パターンの設計上の位置からの第1位置ずれ量を算出する第1位置ずれ量算出部と、
前記第1位置ずれ量に基づき、前記試料に電子ビームを照射する際の場合における前記パターンの位置若しくは前記電子ビームの照射位置の補正を行うための補正量を算出する補正量算出部と、
前記補正量に基づいて、前記試料に前記パターンを描画する描画機構と、
を備えたことを特徴とする電子ビーム描画装置。
【請求項7】
電子ビームの照射量分布に依存して不可逆に変形する試料に、前記電子ビームを照射してパターンを描画した場合の、描画処理の終了後における前記試料の不可逆変形により生じた前記パターンの設計上の位置からの第1位置ずれ量を算出する機能と、
前記第1位置ずれ量を記憶装置に記憶する機能と、
前記記憶装置から前記第1位置ずれ量を読み出し、前記第1位置ずれ量に基づき、前記試料に前記電子ビームを照射して前記パターンを形成する際の前記パターンの位置若しくは前記電子ビームの照射位置を補正する補正量を算出する機能と、
をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【請求項8】
電子ビームの照射量分布に依存して不可逆に変形する試料に、前記電子ビームを照射してパターンを描画した場合の、第1チップパターンを描画する第1描画処理において、前記電子ビームの照射時点における、前記照射時点よりも前に前記試料に照射された前記電子ビームによる、前記試料の不可逆変形により生じた前記第1チップパターンの設計上の位置からの第1位置ずれ量を算出する工程と、
前記第1チップパターンに重ねるように第2チップパターンを描画する第2描画処理において、前記電子ビームの照射時点における、前記照射時点よりも前に前記試料に照射された前記電子ビームによる、前記試料の不可逆変形により生じた前記第2チップパターンの設計上の位置からの第2位置ずれ量を算出する工程と、
前記第2位置ずれ量と前記第1位置ずれ量との差分に基づき、前記第2描画処理において、前記試料に前記電子ビームを照射して前記パターンを形成する際の前記パターンの位置若しくは前記電子ビームの照射位置を補正する工程と、
前記試料に前記第1チップパターンを描画する前記第1描画処理と前記補正量に基づいて前記試料に前記第2チップパターンを描画する前記第2描画処理とを行う工程と、
を備えたことを特徴とする電子ビーム描画方法。
【請求項9】
電子ビームの照射量分布に依存して不可逆に変形する試料を載置するステージと、
前記試料に前記電子ビームを照射してパターンを描画した場合の、第1チップパターンを描画する第1描画処理において、前記電子ビームの照射時点における、前記照射時点よりも前に前記試料に照射された前記電子ビームによる、前記試料の不可逆変形により生じた前記第1チップパターンの設計上の位置からの第1位置ずれ量を算出し、前記第1チップパターンに重ねるように第2チップパターンを描画する第2描画処理において、前記電子ビームの照射時点における、前記照射時点よりも前に前記試料に照射された前記電子ビームによる、前記試料の不可逆変形により生じた前記第2チップパターンの設計上の位置からの第2位置ずれ量を算出する位置ずれ量算出部と、
前記第2位置ずれ量と前記第1位置ずれ量との差分に基づき、前記第2描画処理において、前記試料に前記電子ビームを照射して前記パターンを形成する際の前記パターンの位置若しくは前記電子ビームの照射位置を補正する補正量を算出する補正量算出部と、
前記試料に前記第1チップパターンを描画する前記第1描画処理と前記補正量に基づいて前記試料に前記第2チップパターンを描画する前記第2描画処理とを行う描画機構と、
を備えたことを特徴とする電子ビーム描画装置。
【請求項10】
電子ビームの照射量分布に依存して不可逆に変形する試料に、前記電子ビームを照射してパターンを描画した場合の、第1チップパターンを描画する第1描画処理において、前記電子ビームの照射時点における、前記照射時点よりも前に前記試料に照射された前記電子ビームによる、前記試料の不可逆変形により生じた前記第1チップパターンの設計上の位置からの第1位置ずれ量を算出する機能と、
前記第1チップパターンに重ねるように第2チップパターンを描画する第2描画処理において、前記電子ビームの照射時点における、前記照射時点よりも前に前記試料に照射された前記電子ビームによる、前記試料の不可逆変形により生じた前記第2チップパターンの設計上の位置からの第2位置ずれ量を算出する機能と、
前記第1位置ずれ量及び前記第2位置ずれ量を記憶装置に記憶する機能と、
前記記憶装置から前記第1位置ずれ量及び前記第2位置ずれ量を読み出し、前記第2位置ずれ量と前記第1位置ずれ量との差分に基づき、前記第2描画処理において、前記試料に前記電子ビームを照射して前記パターンを形成する際の前記パターンの位置若しくは前記電子ビームの照射位置を補正する補正量を算出する機能と、
をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一態様は、電子ビーム描画方法、電子ビーム描画装置、及びプログラムに係り、例えば、電子ビームの照射により不可逆に変形する基板に対して位置ずれを補正しながら描画する手法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの微細化の進展を担うリソグラフィ技術は半導体製造プロセスのなかでも唯一パターンを生成する極めて重要なプロセスである。近年、LSIの高集積化に伴い、半導体デバイスに要求される回路線幅は年々微細化されてきている。ここで、電子線(電子ビーム)描画技術は本質的に優れた解像性を有しており、ウェハ等へ電子線を使って描画することが行われている。
【0003】
例えば、マルチビームを使った描画装置がある。1本の電子ビームで描画する場合に比べて、マルチビームを用いることで一度に多くのビームを照射できるのでスループットを大幅に向上させることができる。かかるマルチビーム方式の描画装置では、例えば、電子銃から放出された電子ビームを複数の穴を持ったマスクに通してマルチビームを形成し、各々、ブランキング制御され、遮蔽されなかった各ビームが光学系で縮小され、偏向器で偏向され試料上の所望の位置へと照射される。
【0004】
ここで、マルチパターニング、PSMマスク、或いはEUVマスク等の普及に伴い、マスク内のグローバルなパターン位置精度の要求は年々厳しくなっている。
【0005】
グローバルなパターン位置精度を劣化させる要因の1つとして、試料に用いられるガラス基板が、電子ビームの照射に伴うガラス基板の加熱による熱膨張とその後の収縮との可逆変形が生じることが挙げられる。ガラス基板の変形により、ビーム照射位置或いはパターン形成位置が位置ずれを生じてしまういった問題があった。かかる問題に対して、バルク加熱に伴う熱膨張による基板の変形による歪を計算してパターン位置をオフセットする技術が開示されている(特許文献1参照)。
【0006】
一方で、かかる問題に対して、ガラス基板を製造するブランクスメーカーによって、基板自体の熱膨張を抑えた低熱膨張基板(LTEM:low-thermal expansion material基板)の開発が行われた。かかるLTEM基板では、電子ビームの照射に伴う温度上昇による熱膨張が小さく、これに起因した基板の変形を抑えることができる。これにより、熱膨張に伴う可逆変形による位置ずれ等の問題を解決してきた。しかしながら、電子ビームの照射によりガラス基板の不可逆的な収縮現象が生じることがわかってきた。これには、ローカルな寸法精度を改善するためにレジスト感度を低くすることによってビーム照射量が増加してきたことや、LTEM基板の普及により熱膨張は無視できるようになり相対的にガラス基板の収縮現象が顕在化してきたことが背景にある。かかるガラス基板の不可逆的な収縮現象による変形が、ビーム照射位置やパターン形成位置のグローバルな位置精度を悪化させるといった問題が生じてきた。かかる問題は、マルチビーム描画及びシングルビーム描画の両方において問題となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004-312030号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の一態様は、電子ビームの照射による不可逆的な試料の変形による、ビーム照射位置やパターン形成位置の位置ずれを補正可能な方法及び装置等を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様の電子ビーム描画方法は、
電子ビームの照射量分布に依存して不可逆に変形する試料に、電子ビームを照射してパターンを描画した場合の、描画処理の終了後における試料の不可逆変形により生じたパターンの設計上の位置からの第1位置ずれ量を算出する工程と、
第1位置ずれ量に基づき、試料に電子ビームを照射してパターンを形成する際のパターンの位置若しくは電子ビームの照射位置を補正する補正量を算出する工程と、
補正量に基づいて、試料に前記パターンを描画する描画処理を行う工程と、
を備えたことを特徴とする。
【0010】
また、上述した描画処理において、前記電子ビームの照射時点における、照射時点よりも前に試料に照射された前記電子ビームによる試料の不可逆変形により生じたパターンの設計上の位置からの第2位置ずれ量を算出する工程をさらに備え、
第2位置ずれ量と第1位置ずれ量との差分に基づき、前記補正を行うと好適である。
【0011】
また、描画処理は、第1チップパターンを描画する第1描画処理と、第1描画処理の後に行われ、第2チップパターンを第1チップパターンに重ねるように描画する第2描画処理と、を含み、
第1位置ずれ量は、第2描画処理の終了後における試料の不可逆変形による前記パターンの設計上の位置からの位置ずれ量であると好適。
【0012】
また、第1描画処理において、前記電子ビームの照射時点における、照射時点よりも前に試料に照射された前記電子ビームによる、試料の不可逆変形により生じた設計上の位置からの第2位置ずれ量を算出する工程と、
第2描画処理において、前記電子ビームの照射時点における、照射時点よりも前に試料に照射された前記電子ビームによる、試料の不可逆変形により生じた設計上の位置からの第3位置ずれ量を算出する工程と、
をさらに備え,
前記補正量を算出する工程は、
第2位置ずれ量と第1の位置ずれ量との差分に基づき、第1描画処理における第1補正量を算出する工程と、
第3位置ずれ量と第1の位置ずれ量との差分に基づき、第2描画処理における第2補正量を算出する工程と、
を有すると好適である。
【0013】
また、試料には、予め、アライメント用のマークが形成され、
試料は、移動可能なステージに載置され、
第1描画処理の前にマークの第1マーク位置を測定する工程と、
第1描画処理の終了後の試料の不可逆変形による、第1マーク位置からのマーク位置の位置ずれ量を算出する工程と、
ステージから一旦搬出され、第2描画処理のために改めて試料がステージに載置された状態で、第2描画処理の開始前に、マークの第2マーク位置を測定する工程と、
第2の描画処理の開始前に、第2マーク位置からマーク位置の位置ずれ量分を補正した第3マーク位置を算出する工程と、
を備え、
第1描画処理の際の試料に描画される第1チップパターンの位置は、第1マーク位置を基準に定義され、
第2描画処理の際の試料に描画される第2チップパターンの位置は、第3マーク位置を基準に定義される、と好適である。
【0014】
本発明の一態様の電子ビーム描画装置は、
電子ビームの照射量分布に依存して不可逆に変形する試料を載置するステージと、
試料に対して電子ビームを用いてパターンを描画した場合の、描画終了後の試料の不可逆変形により生じた前記パターンの設計上の位置からの第1位置ずれ量を算出する第1位置ずれ量算出部と、
第1位置ずれ量に基づき、試料に電子ビームを照射する際の場合における前記パターンの位置若しくは電子ビームの照射位置の補正を行うための補正量を算出する補正量算出部と、
補正量に基づいて、試料に前記パターンを描画する描画機構と、
を備えたことを特徴とする。
【0015】
本発明の一態様のプログラムは、
電子ビームの照射量分布に依存して不可逆に変形する試料に、前記電子ビームを照射してパターンを描画した場合の、描画処理の終了後における試料の不可逆変形により生じたパターンの設計上の位置からの第1位置ずれ量を算出する機能と、
第1位置ずれ量を記憶装置に記憶する機能と、
記憶装置から第1位置ずれ量を読み出し、第1位置ずれ量に基づき、試料に前記電子ビームを照射して前記パターンを形成する際の前記パターンの位置若しくは電子ビームの照射位置を補正する補正量を算出する機能と、
をコンピュータに実行させる。
【0016】
本発明の他の態様の電子ビーム描画方法は、
電子ビームの照射量分布に依存して不可逆に変形する試料に、前記電子ビームを照射してパターンを描画した場合の、第1チップパターンを描画する第1描画処理において、前記電子ビームの照射時点における、照射時点よりも前に試料に照射された前記電子ビームによる、試料の不可逆変形により生じた第1チップパターンの設計上の位置からの第1位置ずれ量を算出する工程と、
第1チップパターンに重ねるように第2チップパターンを描画する第2描画処理において、電子ビームの照射時点における、照射時点よりも前に試料に照射された前記電子ビームによる、試料の不可逆変形により生じた第2チップパターンの設計上の位置からの第2位置ずれ量を算出する工程と、
第2位置ずれ量と第1位置ずれ量との差分に基づき、第2描画処理において、試料に前記電子ビームを照射して前記パターンを形成する際のパターンの位置若しくは電子ビームの照射位置を補正する補正量を算出する工程と、
試料に第1チップパターンを描画する第1描画処理と補正量に基づいて試料に第2チップパターンを描画する前記第2描画処理とを行う工程と、
を備えたことを特徴とする。
【0017】
本発明の他の態様の電子ビーム描画装置は、
電子ビームの照射量分布に依存して不可逆に変形する試料を載置するステージと、
試料に前記電子ビームを照射してパターンを描画した場合の、第1チップパターンを描画する第1描画処理において、前記電子ビームの照射時点における、照射時点よりも前に試料に照射された電子ビームによる、試料の不可逆変形により生じた第1チップパターンの設計上の位置からの第1位置ずれ量を算出し、第1チップパターンに重ねるように第2チップパターンを描画する第2描画処理において、前記電子ビームの照射時点における、照射時点よりも前に試料に照射された前記電子ビームによる、試料の不可逆変形により生じた第2チップパターンの設計上の位置からの第2位置ずれ量を算出する位置ずれ量算出部と、
第2位置ずれ量と第1位置ずれ量との差分に基づき、第2描画処理において、試料に前記電子ビームを照射して前記パターンを形成する際のパターンの位置若しくは電子ビームの照射位置を補正する補正量を算出する補正量算出部と、
試料に第1チップパターンを描画する第1描画処理と補正量に基づいて試料に第2チップパターンを描画する前記第2描画処理とを行う描画機構と、
を備えたことを特徴とする。
【0018】
本発明の他の態様のプログラムは、
電子ビームの照射量分布に依存して不可逆に変形する試料に、前記電子ビームを照射してパターンを描画した場合の、第1チップパターンを描画する第1描画処理において、前記電子ビームの照射時点における、照射時点よりも前に試料に照射された前記電子ビームによる、試料の不可逆変形により生じた第1チップパターンの設計上の位置からの第1位置ずれ量を算出する機能と、
第1チップパターンに重ねるように第2チップパターンを描画する第2描画処理において、電子ビームの照射時点における、照射時点よりも前に試料に照射された前記電子ビームによる、試料の不可逆変形により生じた第2チップパターンの設計上の位置からの第2位置ずれ量を算出する機能と、
第1位置ずれ量及び第2位置ずれ量を記憶装置に記憶する機能と、
記憶装置から第1位置ずれ量及び第2位置ずれ量を読み出し、第2位置ずれ量と第1位置ずれ量との差分に基づき、第2描画処理において、試料に前記電子ビームを照射して前記パターンを形成する際のパターンの位置若しくは電子ビームの照射位置を補正する補正量を算出する機能と、
をコンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の一態様によれば、電子ビームの照射による不可逆的な試料の変形による、ビーム照射位置やパターン形成位置の位置ずれを補正できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】実施の形態1における描画装置の構成を示す概念図である。
図2】実施の形態1における成形アパーチャアレイ基板の構成を示す概念図である。
図3】実施の形態1におけるブランキングアパーチャアレイ機構の構成を示す断面図である。
図4】実施の形態1における評価基板の一例を示す図である。
図5】実施の形態1における評価基板の位置ずれ量の関係の一例と基板の変形の一例とを示す図である。
図6】実施の形態1における評価基板へのビーム照射時の状態の一例を示す図である。
図7】実施の形態1における評価基板へのビーム照射に起因した応力状態の一例を示す図である。
図8】実施の形態1の比較例1における基板表面の位置ずれの状態の一例を示す図である。
図9】実施の形態1の比較例1における基板表面の変形の一例を示す図である。
図10】実施の形態1における基板表面の位置ずれの状態の一例を示す図である。
図11】実施の形態1における描画方法の要部工程の一例を示すフローチャート図である。
図12】実施の形態1における描画方法の要部工程の他の一例を示すフローチャート図である。
図13】実施の形態1における基板の縮小率とドーズ量との関係の一例を示す図である。
図14】実施の形態1における有限要素法によるモデルの一例を示す図である。
図15】実施の形態1における描画動作の一例を説明するための概念図である。
図16】実施の形態1におけるマルチビームの照射領域と描画対象画素との一例を示す図である。
図17】実施の形態1におけるマルチビーム描画動作の一例を説明するための図である。
図18】実施の形態2における描画装置の構成を示す概念図である。
図19】実施の形態2における2ストローク描画の仕方を説明するための図である。
図20】実施の形態2の比較例における基板表面の位置ずれの状態の一例を示す図である。
図21】実施の形態2における基板表面の位置ずれの状態の一例を示す図である。
図22】実施の形態2における描画方法の要部工程の一例を示すフローチャート図である。
図23】実施の形態3における基板表面の位置ずれの状態の一例を示す図である。
図24】実施の形態4における描画装置の構成を示す概念図である。
図25】実施の形態4の比較例における基板表面の位置ずれの状態の一例を示す図である。
図26】実施の形態4における基板表面の位置ずれの状態の一例を示す図である。
図27】実施の形態4における描画方法の要部工程の一例の一部を示すフローチャート図である。
図28】実施の形態4における描画方法の要部工程の一例の残部を示すフローチャート図である。
図29】実施の形態4におけるアライメントマークが形成された試料面の一例を示す図である。
図30】実施の形態4における第1の描画処理後のマーク位置の一例を示す図である。
図31】実施の形態4における第2の描画処理後のマーク位置の一例を示す図である。
図32】実施の形態5における基板表面の位置ずれの状態の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、実施の形態では、荷電粒子ビームの一例として、電子ビームを用いた構成について説明する。但し、荷電粒子ビームは、電子ビームに限るものではなく、イオンビーム等の荷電粒子を用いたビームでも構わない。また、実施の形態では、複数の電子ビームで構成されるマルチビームを用いる場合を説明する。但し、以下に説明する補正手法は、マルチビームに限るものではなく、シングルビームを用いる場合も適用できる。
【0022】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1における描画装置の構成を示す概念図である。図1において、描画装置100は、描画機構150と制御系回路160を備えている。描画装置100は、マルチ荷電粒子ビーム描画装置の一例であると共に、マルチ荷電粒子ビーム露光装置の一例である。描画機構150は、電子鏡筒102(電子ビームカラム)と描画室103を備えている。電子鏡筒102内には、電子銃201、照明レンズ202、成形アパーチャアレイ基板203、ブランキングアパーチャアレイ機構204、縮小レンズ205、制限アパーチャ基板206、対物レンズ207、偏向器208、及び偏向器209が配置されている。
【0023】
描画室103内には、XYステージ105が配置される。XYステージ105上には、描画時(露光時)には描画対象基板となるマスク等の試料101が配置される。試料101には、半導体装置を製造する際の露光用マスク、或いは、半導体装置が製造される半導体基板(シリコンウェハ)等が含まれる。また、試料101には、レジストが塗布された、まだ何も描画されていないマスクブランクスが含まれる。試料101のガラス基板には、低熱膨張(LTEM)基板が用いられる。
【0024】
また、XYステージ105上には、さらに、XYステージ105の位置測定用のミラー210が配置される。
【0025】
制御系回路160は、制御計算機110、メモリ112、偏向制御回路130、デジタル・アナログ変換(DAC)アンプユニット132,134、レンズ制御回路136、ステージ制御機構138、ステージ位置測定器139及び磁気ディスク装置等の記憶装置140,142を有している。制御計算機110、メモリ112、偏向制御回路130、レンズ制御回路136、ステージ制御機構138、ステージ位置測定器139及び記憶装置140,142は、図示しないバスを介して互いに接続されている。偏向制御回路130には、DACアンプユニット132,134及びブランキングアパーチャアレイ機構204が接続されている。偏向器209は、4極以上の電極により構成され、電極毎にDACアンプ132を介して偏向制御回路130により制御される。偏向器208は、4極以上の電極により構成され、電極毎にDACアンプ134を介して偏向制御回路130により制御される。照明レンズ202、縮小レンズ205、及び対物レンズ207といった例えば電磁レンズ群は、レンズ制御回路136により制御される。
【0026】
XYステージ105の位置はステージ制御機構138によって制御される図示しない各軸のモータの駆動によって制御される。ステージ位置測定器139は、ミラー210からの反射光を受光することによって、レーザ干渉法の原理でXYステージ105の位置を測長する。
【0027】
制御計算機110内には、ドーズマップ作成部50、最終位置ずれ量算出部52、描画時位置ずれ量算出部54、補正量算出部56、補正量マップ作成部58、ショットデータ生成部70、データ加工部72、転送処理部74、及び描画制御部76が配置される。ドーズマップ作成部50、最終位置ずれ量算出部52、描画時位置ずれ量算出部54、補正量算出部56、補正量マップ作成部58、ショットデータ生成部70、データ加工部72、転送処理部74、及び描画制御部76といった各「~部」は、処理回路を有する。かかる処理回路は、例えば、電気回路、コンピュータ、プロセッサ、回路基板、量子回路、或いは、半導体装置を含む。各「~部」は、共通する処理回路(同じ処理回路)を用いても良いし、或いは異なる処理回路(別々の処理回路)を用いても良い。ドーズマップ作成部50、最終位置ずれ量算出部52、描画時位置ずれ量算出部54、補正量算出部56、補正量マップ作成部58、ショットデータ生成部70、データ加工部72、転送処理部74、及び描画制御部76に入出力される情報および演算中の情報はメモリ112にその都度格納される。
【0028】
描画装置100の描画動作は、描画制御部76によって制御される。また、各ショットの照射時間データの偏向制御回路130への転送処理は、転送処理部74によって制御される。
【0029】
また、描画装置100の外部から描画データ(チップデータ)が入力され、記憶装置140に格納される。チップデータには、チップパターンを構成する複数の図形パターンの情報が定義される。具体的には、図形パターン毎に、例えば、各頂点座標の座標列が定義される。その他、図形コード等が定義されても好適である。或いは、図形コード、座標、及びサイズが定義されても構わない。
【0030】
ここで、図1では、実施の形態1を説明する上で必要な構成を記載している。描画装置100にとって、通常、必要なその他の構成を備えていても構わない。
【0031】
図2は、実施の形態1における成形アパーチャアレイ基板の構成を示す概念図である。図2において、成形アパーチャアレイ基板203には、縦(y方向)p列×横(x方向)q列(p,q≧2)の穴(開口部)22が所定の配列ピッチでマトリクス状に形成されている。図2の例では、例えば、縦横(x,y方向)に512×512列の穴22が形成される場合を示している。穴22の数は、これに限るものではない。例えば、32×32列の穴22が形成される場合であっても構わない。各穴22は、共に同じ寸法形状の矩形で形成される。或いは、同じ直径の円形であっても構わない。これらの複数の穴22を電子ビーム200の一部がそれぞれ通過することで、マルチビーム20が形成されることになる。言い換えれば、成形アパーチャアレイ基板203は、マルチビーム20を形成し、放出する。成形アパーチャアレイ基板203は、マルチビーム20の放出源の一例となる。
【0032】
図3は、実施の形態1におけるブランキングアパーチャアレイ機構の構成を示す断面図である。ブランキングアパーチャアレイ機構204は、図3に示すように、支持基板33上にシリコン等からなる半導体基板を用いたブランキングアパーチャアレイ基板31が配置される。ブランキングアパーチャアレイ基板31の中央部のメンブレン領域330には、図2に示した成形アパーチャアレイ基板203の各穴22に対応する位置にマルチビーム20のそれぞれのビームの通過用の通過孔25(開口部)が開口される。そして、複数の通過孔25のうち対応する通過孔25を挟んで対向する位置に制御電極24と対向電極26の組(ブランカー:ブランキング偏向器)がそれぞれ配置される。また、各通過孔25の近傍のブランキングアパーチャアレイ基板31内部には、各通過孔25用の制御電極24に偏向電圧を印加する制御回路41(ロジック回路)が配置される。各ビーム用の対向電極26は、グランド接続される。
【0033】
制御回路41内には、図示しないアンプ(スイッチング回路の一例)が配置される。アンプの一例として、スイッチング回路となるCMOS(Complementary MOS)インバータ回路が配置される。CMOSインバータ回路の入力(IN)には、閾値電圧よりも低くなるL(low)電位(例えばグランド電位)と、閾値電圧以上となるH(high)電位(例えば、1.5V)とのいずれかが制御信号として印加される。実施の形態1では、CMOSインバータ回路の入力(IN)にL電位が印加される状態では、制御回路41に印加されるCMOSインバータ回路の出力(OUT)は正電位(Vdd)となり、対向電極26のグランド電位との電位差による電界により対応ビームを偏向し、制限アパーチャ基板206で遮蔽することでビームOFFになるように制御する。一方、CMOSインバータ回路の入力(IN)にH電位が印加される状態(アクティブ状態)では、CMOSインバータ回路の出力(OUT)はグランド電位となり、対向電極26のグランド電位との電位差が無くなり対応ビームを偏向しないので制限アパーチャ基板206を通過することでビームONになるように制御する。かかる偏向によってブランキング制御される。
【0034】
次に、描画機構150の動作の具体例について説明する。電子銃201(放出源)から放出された電子ビーム200は、照明レンズ202によりほぼ垂直に成形アパーチャアレイ基板203全体を照明する。成形アパーチャアレイ基板203には、矩形の複数の穴22(開口部)が形成され、電子ビーム200は、すべての複数の穴22が含まれる領域を照明する。複数の穴22の位置に照射された電子ビーム200の各一部が、かかる成形アパーチャアレイ基板203の複数の穴22をそれぞれ通過することによって、例えば矩形形状のマルチビーム(複数の電子ビーム)20が形成される。かかるマルチビーム20は、ブランキングアパーチャアレイ機構204のそれぞれ対応するブランカー内を通過する。かかるブランカーは、それぞれ、設定された描画時間(照射時間)の間、ビームがON状態になるように個別に通過するビームをブランキング制御する。
【0035】
ブランキングアパーチャアレイ機構204を通過したマルチビーム20は、縮小レンズ205によって、縮小され、制限アパーチャ基板206に形成された中心の穴に向かって進む。ここで、ブランキングアパーチャアレイ機構204のブランカーによって偏向された電子ビームは、制限アパーチャ基板206の中心の穴から位置がはずれ、制限アパーチャ基板206によって遮蔽される。一方、ブランキングアパーチャアレイ機構204のブランカーによって偏向されなかった電子ビームは、図1に示すように制限アパーチャ基板206の中心の穴を通過する。このように、制限アパーチャ基板206は、ブランキングアパーチャアレイ機構204のブランカーによってビームOFFの状態になるように偏向された各ビームを遮蔽する。そして、ビームONになってからビームOFFになるまでに形成された、制限アパーチャ基板206を通過したビームにより、1回分のショットの各ビームが形成される。制限アパーチャ基板206を通過したマルチビーム20は、対物レンズ207により焦点が合わされ、所望の縮小率のパターン像となり、偏向器208及び偏向器209によって、制限アパーチャ基板206を通過したマルチビーム20全体が同方向にまとめて偏向され、各ビームの試料101上のそれぞれの照射位置に照射される。また、例えばXYステージ105が連続移動している時、ビームの照射位置がXYステージ105の移動に追従するように偏向器208によってトラッキング制御が行われる。一度に照射されるマルチビーム20は、理想的には成形アパーチャアレイ基板203の複数の穴22の配列ピッチに上述した所望の縮小率を乗じたピッチで並ぶことになる。
【0036】
ここで、描画対象試料としてLTEM基板を用いることによって、シングルビーム或いはマルチビームといった電子ビームの照射による熱膨張はほとんど発生しない。よって熱膨張による描画位置の位置ずれの問題は無視できる程度に大きく改善されている。しかしながら、複数回の電子ビームの照射に伴うドーズ量の蓄積によって、試料101となるガラス基板に不可逆な収縮現象が生じることがわかってきた。
【0037】
図4は、実施の形態1における評価基板の一例を示す図である。評価基板にはLTEM基板を用いる。具体的には、LTEM基板上に例えばクロム(Cr)膜が形成され、Cr膜上にレジスト膜が形成されたマスクブランクスが用いられる。図4では、3回の描画処理を行った状態のパターンの一例が示されている。各描画処理は、評価基板の下側から上側に向かうy方向に進められる。1回目の描画処理(1S)では、評価基板全体に格子状に複数の十字パターンを描画する。2回目の描画処理(2S)では、各十字パターンの近傍、例えば右上と左下にL字パターンを描画すると共に、評価基板の下半分と上半分でパターン密度を変えた矩形パターンを複数の十字パターンの背景として描画する。例えば、前半に描画される下半分の背景を例えば3%のパターン密度にする。後半に描画される上半分の背景を例えば75%のパターン密度にする。3回目の描画処理(3S)では、各十字パターンの近傍、例えば左上と右下にL字パターンを描画する。各描画処理後は、描画された各パターンについてそれぞれ位置を測定する。パターンの位置は、図示しない位置測定器で測定される。
【0038】
図5は、実施の形態1における評価基板の位置ずれ量の関係の一例と基板の変形の一例とを示す図である。図5では、描画処理2S後の各パターンの位置から描画処理1S後の各パターンの位置を差し引いた(2S-1S)の状態でのx方向の位置ずれ量Δxのグラフの一例を示す。(2S-1S)のグラフに示されるように、背景が3%のパターン密度では、位置ずれ量Δxが小さいのに対して、背景が75%のパターン密度では、位置ずれ量Δxが描画処理された領域の増加に伴って大きくなることがわかる。これは、ガラス基板の収縮による変形が照射量に依存して大きくなることがわかる。
また、図5では、描画処理3S後の各パターンの位置から描画処理1S後の各パターンの位置を差し引いた(3S-1S)の状態でのx方向の位置ずれ量Δxのグラフの一例とy方向の位置ずれ量Δyのグラフの一例とを示す。(3S-1S)のグラフに示されるように、2Sでの位置ずれ量Δxが3S後も引き続き残っていることを示す。また、基板の下半分についても上半分の基板の収縮に応じて変形し、3S時の段階では基板の位置にずれが生じ位置ずれ量Δxが大きくなることがわかる。また、基板の上半分ではy方向についても位置ずれ量ΔYが徐々に大きくなっていることがわかる。これは、図5の右下側の図に示すように、基板の上半分に比較的大きな照射量のビームが照射されたことにより、上半分に大きな収縮による変形が生じていることに起因する。
かかる図が示すように、2Sによって、基板の上半分が大きな収縮による変形が生じている。
【0039】
図6は、実施の形態1における評価基板へのビーム照射時の状態の一例を示す図である。
図7は、実施の形態1における評価基板へのビーム照射に起因した応力状態の一例を示す図である。
図6の評価基板として、上述したように、LTEM基板12上に例えばクロム(Cr)膜13が形成され、Cr膜13上にレジスト膜16が形成されたマスクブランクスが用いられる。かかる評価基板に電子ビームが照射されると、電子ビームは、LTEM基板12に到達し、LTEM基板12の表面から数10μm程度侵入する。これによりLTEM基板12の照射位置では不可逆な局所的な収縮が生じる。複数の箇所でビーム照射が行われることで、ビーム照射された領域全体では各局所的な収縮により基板表面付近にひっぱり応力が発生する。これにより、LTEM基板12表面付近には収縮現象により不可逆な変形が生じる。なお、LTEM基板12の厚さ寸法(例えば6.35mm)に対して例えば20μmの深さの変形は体積としては小さいため、基板全体での熱変形の性質は変化しない。よって、熱膨張に起因する可逆的な変形は無視できる。
【0040】
図8は、実施の形態1の比較例1における基板表面の位置ずれの状態の一例を示す図である。
図9は、実施の形態1の比較例1における基板表面の変形の一例を示す図である。
図8及び図9では、描画処理の開始前の状態と、所望の位置での描画時の状態と、描画処理の完了後の状態とをそれぞれ示す。
図8において、設計上のビーム照射位置をベクトルAで示す。対象のLTEM基板に対して描画処理が進むことで、ベクトルAの位置を描画する時点には、描画処理開始前のベクトルAの位置は、図9に示すように基板の収縮による変形によりベクトルBの位置に物理的に移動している。そして、さらに描画処理が進み、基板全体の描画処理の完了後には、図9に示すようにさらなる変形により、描画処理開始前のベクトルAの位置は、ベクトルCの位置に物理的に移動している。よって、描画処理開始前のベクトルAの位置をそのまま描画すると、基板全体の描画処理の完了後には、描画されたビーム照射位置は、描画処理開始前のベクトルAの位置から(ベクトルC-ベクトルB)で示すベクトルだけ移動した位置(ベクトルA+(ベクトルC-ベクトルB))に位置ずれを生じてしまうことになる。そこで、実施の形態1では、かかる不可逆な変形が基板に生じる場合であっても、描画処理の完了後にビーム照射位置が描画処理開始前のベクトルAの位置になるように描画時の照射位置(パターン形成位置)を補正する。
【0041】
図10は、実施の形態1における基板表面の位置ずれの状態の一例を示す図である。実施の形態1における基板表面の変形の一例は、図9と同様である。図10において、設計上のビーム照射位置をベクトルAで示す。対象のLTEM基板に対して描画処理が進むことで、ベクトルAの位置を描画する時点には、描画処理開始前のベクトルAの位置は、図9に示すように基板の収縮による変形によりベクトルBの位置に物理的に移動している。そして、さらに描画処理が進み、基板全体の描画処理の完了後には、図9に示すようにさらなる変形により、描画処理開始前のベクトルAの位置は、ベクトルCの位置に物理的に移動している。よって、描画時には、処理開始前のベクトルAの位置から(ベクトルB-ベクトルC)で示すベクトルだけ補正した位置(ベクトルA+(ベクトルB-ベクトルC))をビーム照射位置(或いはパターン形成位置)として描画する。これにより、基板全体の描画処理の完了後には、描画されたビーム照射位置(或いはパターン形成位置)は、位置(ベクトルA+(ベクトルB-ベクトルC))から(ベクトルC-ベクトルB)で示すベクトルだけ移動した位置であるベクトルAの位置にできる。
【0042】
図11は、実施の形態1における描画方法の要部工程の一例を示すフローチャート図である。図11では、描画動作をしながら次の領域のビーム照射位置(或いはパターン形成位置)を補正する計算処理を行うリアルタイムモードで描画処理を行う場合のフローチャート図を示している。図11において、実施の形態1における描画方法は、ドーズマップ作成工程(S102)と、最終位置ずれ量(ベクトルC)算出工程(S104)と、描画スケジュール作成工程(S106)と、描画時位置ずれ量(ベクトルB)算出工程(S108)と、補正量算出工程(S110)と、描画工程(S170)と、判定工程(S172)と、いう一連の各工程を実施する。
【0043】
図12は、実施の形態1における描画方法の要部工程の他の一例を示すフローチャート図である。図12では、すべての領域のビーム照射位置(或いはパターン形成位置)を補正する計算処理を前処理として行った後に描画動作を開始する前処理モードで描画処理を行う場合のフローチャート図を示している。図12において、実施の形態1における描画方法は、ドーズマップ作成工程(S102)と、最終位置ずれ量(ベクトルC)算出工程(S104)と、描画スケジュール作成工程(S106)と、描画時位置ずれ量(ベクトルB)算出工程(S108)と、補正量算出工程(S110)と、判定工程(S112)と、補正量マップ作成工程(S114)と、描画工程(S170)と、いう一連の各工程を実施する。
【0044】
描画処理は、試料101の描画領域を例えばy方向に分割した後述するストライプ領域毎に進めていく。リアルタイムモードでは、k番目のストライプ領域の描画動作とk+m番目のストライプ領域の補正計算処理とを同時期に実施する。前処理モードでは、すべてのストライプ領域の補正計算処理を完了後に描画動作を開始する。
【0045】
ドーズマップ作成工程(S102)として、ドーズマップ作成部50は、後述する画素毎にドーズ量が定義されたドーズマップを作成する。具体的には以下のように動作する。ドーズマップ作成部50は、まず、描画領域(例えばストライプ領域)を所定のサイズでメッシュ状に複数の近接メッシュ領域(近接効果補正計算用メッシュ領域)に仮想分割する。近接メッシュ領域のサイズは、近接効果の影響範囲の1/10程度、例えば、1μm程度に設定すると好適である。ドーズマップ作成部50は、記憶装置140から描画データを読み出し、近接メッシュ領域毎に、当該近接メッシュ領域内に配置されるパターンのパターン面積密度ρ″を演算する。
【0046】
次に、ドーズマップ作成部50は、近接メッシュ領域毎に、近接効果を補正するための近接効果補正照射係数Dp(x)を演算する。未知の近接効果補正照射係数Dp(x)は、後方散乱係数η、しきい値モデルの照射量閾値Dth、パターン面積密度ρ″、及び分布関数g(x)を用いた、従来手法と同様の近接効果補正用のしきい値モデルによって定義できる。
【0047】
次に、ドーズマップ作成部50は、画素毎に、当該画素に照射するための入射照射量D(x)(ドーズ量)を演算する。入射照射量D(x)は、例えば、基準照射量Dbaseに近接効果補正照射係数Dpとパターン面積密度ρ’とを乗じた値として演算すればよい。基準照射量Dbaseは、例えば、Dth/(1/2+η)で定義できる。以上により、描画データに定義される複数の図形パターンのレイアウトに基づいた、近接効果が補正された画素毎の入射照射量D(x)を得ることができる。或いは、ドーズマップ作成部50は、画素毎に、当該画素に照射するための照射係数を演算する。照射係数d(x)は、例えば、近接効果補正照射係数Dpとパターン面積密度ρ’とを乗じた値として演算すればよい。言い換えれば、基準照射量Dbaseの変調率として算出すればよい。これにより照射量の絶対値ではなく、基準照射量Dbaseを1として規格化された相対値として照射量(照射係数)d(x)を得ることができる。
【0048】
次に、ドーズマップ作成部50は、各画素の照射量を要素とするドーズマップを作成する。言い換えれば、各画素(位置)(x,y)とその画素の照射量D(或いはd)とが関連付けされて定義される。作成されたドーズマップは、記憶装置142に格納される。ドーズマップ作成部50は、描画データ(チップデータ)に沿って描画処理が行われる描画全体についてドーズマップを作成する。
【0049】
最終位置ずれ量(ベクトルC)算出工程(S104)として、最終位置ずれ量算出部52は、電子ビームの照射量分布に依存して不可逆に変形する試料101に、電子ビームを照射してパターンを描画した場合の、描画処理の終了後における試料101の不可逆変形により生じたパターンの設計上の位置からの最終位置ずれ量(第1位置ずれ量)を算出する。言い換えれば、最終位置ずれ量算出部52は、電子ビームの照射による不可逆に変形する試料101に対して電子ビームを用いてパターンを描画した場合の描画終了後の試料101の不可逆変形による、設計上の位置からのパターンの形成位置若しくはビーム照射位置の最終位置ずれ量(第1の位置ずれ量)を算出する。具体的には、最終位置ずれ量算出部52は、試料101への描画処理が完了後の各位置の位置ずれ量(ベクトルC)を算出する。
【0050】
グローバルな位置ずれ量の影響範囲は、数100μm~数mm程度の範囲となる。よって、グローバルな位置ずれ量の影響範囲は、例えば、数10μmといったマルチビーム20のビームアレイサイズ(x方向及びy方向)よりも大きい。そこで、最終位置ずれ量算出部52は、まず、図15に示すように、試料101面の領域を所定のサイズでメッシュ状に複数のグローバルメッシュ領域11に仮想分割する。グローバルメッシュ領域11のサイズは、グローバルな位置ずれ量の影響範囲の1/10程度、数10μm~数100μ程度に設定すると好適である。例えば、ビームアレイサイズが80μm程度とした場合、その約半分の40μm程度に設定すると好適である。但し、ビームアレイサイズよりも小さい場合に限るものではない。ビームアレイサイズ以上のサイズであっても構わない。
【0051】
そして、最終位置ずれ量算出部52は、各グローバルメッシュ領域11(位置)内の代表点(例えば中心位置)におけるベクトルCを算出する。各ベクトルCは、最終位置ずれ量(dxfinal-i,dyfinal-i)として算出される。iは各グローバルメッシュ領域11のインデックスを示す。パターンの形成位置若しくはビーム照射位置が含まれるグローバルメッシュ領域11の最終位置ずれ量が、当該パターンの形成位置若しくはビーム照射位置の最終位置ずれ量に相当する。
各グローバルメッシュ領域11の最終位置ずれ量(dxfinal-i,dyfinal-i)は、ドーズマップに定義された照射量(照射係数)に依存し、例えば、有限要素法を用いて算出することができる。
【0052】
図13は、実施の形態1における基板の縮小率とドーズ量との関係の一例を示す図である。図13において、縦軸に縮小率を示し、横軸にドーズ量を示す。図13の例では、パターン面積密度ρ、照射ドーズ量Dを可変に振ったダイa~ダイdを描画した。そして、各ダイにおける歪(縮小率:ΔL/L)を算出し、歪(縮小率)とρD(単位面積あたりの総ドーズ量)との関係を算出した。Lは基板のサイズ、ΔLは位置ずれ量を示す。図13の例に示すように、歪(縮小率)は、ρDに比例して大きくなることがわかる。よって、歪(縮小率)は、ドーズマップに定義された照射量(照射係数)を用いて求めることができる。
【0053】
図14は、実施の形態1における有限要素法によるモデルの一例を示す図である。図14の例では、試料101の一例となる6インチマスクを三角錐要素で分割した状態を示す。
ひとつの三角錐要素には頂点が4つあり、それぞれの頂点は変位ベクトルu=(u,u,u)の3次元の変位情報をもつ。つまり、ひとつの単位要素には合計4×3=12の変数が存在する。この変位ベクトルu(12×1)と、ひずみベクトルε(6×1)とのの関係式ε=Buにおいて、単位要素のひずみ-変位マトリクスM(6×12)は、一例として以下の式(1)で表される。
【0054】
【数1】
【0055】
一方、応力ベクトルσ(6×1)とひずみベクトルε(6×1)の関係式σ=Dεにおいて、単位要素の材料物性マトリクスM(6×6)は、石英基板のヤング率Eとポアソン比νを用いて次の式(2)のように表される。
【0056】
【数2】
【0057】
ここで、荷電粒子ビーム照射量Q(=ρD)により生じる基板表面のひずみeを係数c,cを使って次の式(3)で定義する。
【0058】
【数3】
【0059】
そして、荷電粒子ビーム照射により生じるせん断ひずみをゼロと仮定とすれば、単位要素のひずみベクトルεは次の式(4)で定義できる。
【0060】
【数4】
【0061】
そして、単位要素あたりの剛性マトリクスは次の式(5)で記述される。
【0062】
【数5】
【0063】
ただしtは転置行列を意味する。
上式を全要素について結合し、全頂点の変位ベクトルU、全体剛性マトリクスK、および等価節点力fを以下の式(6-1),(6-2),(6-3)のように定義する。
【0064】
【数6】
【0065】
その結果、次の式(7)と表される。
【0066】
【数7】
【0067】
そして、最終的に全変位ベクトルUは、次の式(8)で求めることができる。
【0068】
【数8】
【0069】
各位置の最終位置ずれ量(dxfinal-i,dyfinal-i)を算出するにはまず、レイアウトから作成されたドーズマップの要素の値を式(3)のQに代入することで各要素の歪eおよび式(4)の歪ベクトルεを求める。そして、得られた各要素の歪ベクトルεの下で式(6-3)のfを求め式(8)を解くことで、描画のドーズ照射がすべて完了したときの各要素の変位ベクトルuを含む全変位ベクトルUが求まり、各要素の変位ベクトルuから各要素の変位量(u,u)を最終位置ずれ量(dxfinal-i,dyfinal-i)として求めることができる。
算出された各位置の最終位置ずれ量は、記憶装置142に格納される。
【0070】
描画スケジュール作成工程(S106)として、描画制御部76は、ドーズマップに定義された各画素のショット順を定義する描画スケジュールを作成する。これにより、ショット毎に、当該ショットを行う時(描画時)までに照射された位置と照射量がわかる。
【0071】
描画時位置ずれ量(ベクトルB)算出工程(S108)として、描画時位置ずれ量算出部54は、描画処理において、電子ビームの照射時点における、照射時点よりも前に試料101に照射された電子ビームによる試料101の不可逆変形により生じたパターンの設計上の位置からの描画時位置ずれ量(第2位置ずれ量)を算出する。言い換えれば、描画時位置ずれ量算出部54は、対象の電子ビームの照射よりも前に試料101が照射された電子ビームによる試料101の不可逆変形による、対象の電子ビームの照射時における設計上の位置からのパターンの形成位置若しくはビーム照射位置の描画時位置ずれ量(第2の位置ずれ量)を算出する。具体的には、描画時位置ずれ量算出部54は、各グローバルメッシュ領域11内の代表位置の描画時の位置ずれ量(ベクトルB)を算出する。各グローバルメッシュ領域11のベクトルBは、描画時位置ずれ量(dxwrite-n,dywrite-n)として算出される。nは各グローバルメッシュ領域11のインデックスを示す。パターンの形成位置若しくはビーム照射位置が含まれるグローバルメッシュ領域11の描画時位置ずれ量が、当該パターンの形成位置若しくはビーム照射位置の描画時位置ずれ量に相当する。各グローバルメッシュ領域11の描画時位置ずれ量(dxwrite-n,dywrite-n)は、ドーズマップに定義された照射量(照射係数)に依存し、上述したように、例えば、有限要素法を用いて同様に算出することができる。具体的には、ドーズマップに定義された照射量のうちnまでの照射が完了したときの各要素の照射量を式(3)のQに代入し各要素の歪eおよび式(4)の歪ベクトルεを求める。そして、得られた各要素の歪ベクトルεの下で式(6-3)のfを求め式(8)を解くことで、nまでの照射が完了したときの各要素の変位ベクトルuを含む全変位ベクトルUが求まり、各要素の変位ベクトルuから各要素の変位量(u,u)を描画時位置ずれ量(dxwrite-n,dywrite-n)として求めることができる。
【0072】
なお、上述した例では、グローバルメッシュ領域11毎に、描画時位置ずれ量を算出する場合を説明したが、これに限るものではない。実際のショット時におけるビームアレイの代表位置(例えば、中心位置、或いは中心ビームの位置)毎に、描画時位置ずれ量を算出しても好適である。
【0073】
補正量算出工程(S110)として、補正量算出部56は、最終位置ずれ量に基づき、試料101に電子ビームを照射してパターンを形成する際のパターンの位置若しくは電子ビームの照射位置を補正するための補正量(ベクトルB-ベクトルC)(第1補正量)を算出する。言い換えれば、補正量算出部56は、描画終了後の試料101の不可逆変形による最終位置ずれ量を基準にして、マルチビーム20(電子ビーム)で試料101を照射する場合におけるパターンの形成位置若しくはビーム照射位置を補正するための補正量(ベクトルB-ベクトルC)(第1の補正量)を算出する。描画時位置ずれ量(ベクトルB)と最終時位置ずれ量(ベクトルC)との差分により補正量(ベクトルB-ベクトルC)(第1の補正量)が算出される。言い換えれば、n番目にビーム照射(描画)されるグローバルメッシュ領域11内の各位置の補正量(dxn,dyn)は、描画時位置ずれ量(dxwrite-n,dywrite-n)-最終位置ずれ量(dxfinal-n,dyfinal-n)で算出できる。
【0074】
補正量マップ作成部58は、グローバルメッシュ領域(xn,yn)毎の補正量(dxn,dyn)が定義された補正量マップを作成する。補正量マップは記憶装置142に格納される。
【0075】
ストライプ領域単位で補正量の算出までの処理が完了した場合に、リアルタイムモードでは描画工程(S170)に進む。
【0076】
図15は、実施の形態1における描画動作の一例を説明するための概念図である。図15に示すように、試料101の描画領域30(太線)は、アライメントマーク14の位置を基準に位置が定義される。
描画領域30(太線)は、例えば、y方向に向かって所定の幅で短冊状の複数のストライプ領域32に仮想分割される。図15の例では、試料101の描画領域30が、例えばy方向に、1回のマルチビーム20の照射で照射可能な設計上の照射領域34(ビームアレイ領域)のサイズと実質同じ幅サイズで複数のストライプ領域32に分割された場合を示している。設計上のマルチビーム20の照射領域34のx方向のサイズは、x方向のビーム数×x方向のビーム間ピッチで定義できる。矩形の照射領域34のy方向のサイズは、y方向のビーム数×y方向のビーム間ピッチで定義できる。
【0077】
まず、XYステージ105を移動させて、第1番目のストライプ領域32の左端、或いはさらに左側の位置にマルチビーム20の照射領域34が位置するように調整し、第1番目のストライプ領域32の描画が行われる。第1番目のストライプ領域32を描画する際には、XYステージ105を例えば-x方向に移動させることにより、相対的にx方向へと描画を進めていく。XYステージ105は例えば等速で連続移動させる。第1番目のストライプ領域32の描画終了後、ステージ位置を-y方向にストライプ領域32の幅のサイズだけ移動させる。
【0078】
そして、次に、第2番目のストライプ領域32の左端、或いはさらに左側の位置にマルチビーム20の照射領域34が位置するように調整し、XYステージ105を例えば-x方向に移動させることにより、相対的にx方向へと描画を進めていくことにより、第2番目のストライプ領域32の描画が行われる。以降、同様に、下側のストライプ領域32から上側(y方向)に向かって順に描画が行われる。
【0079】
また、図15の例では、同じ方向に向かって各ストライプ領域32の描画を進める場合を示したが、これに限るものではない。例えば、x方向へと描画を進めたストライプ領域32の次に描画するストライプ領域32については、XYステージ105を例えばx方向に移動させることにより、-x方向に向かって描画を行う場合であっても構わない。このように交互に向きを変えながら描画することでステージ移動時間を短くでき、ひいては描画時間を短縮できる。1回のショットでは、成形アパーチャアレイ基板203の各穴22を通過することによって形成されたマルチビーム20によって、最大で各穴22と同数の複数のショットパターンが一度に形成される。
【0080】
図16は、実施の形態1におけるマルチビームの照射領域と描画対象画素との一例を示す図である。図16において、ストライプ領域32は、例えば、マルチビーム20のビームサイズでメッシュ状の複数のメッシュ領域に分割される。かかる各メッシュ領域が、描画対象の画素36(単位照射領域、照射位置、或いは描画位置)となる。描画対象画素36のサイズは、ビームサイズに限定されるものではなく、ビームサイズとは関係なく任意の大きさで構成されるものでも構わない。例えば、ビームサイズの1/n(nは1以上の整数)のサイズで構成されても構わない。図16の例では、試料101の描画領域が、例えばy方向に、1回のマルチビーム20の照射で照射可能な照射領域34(描画フィールド)のサイズと実質同じ幅サイズで複数のストライプ領域32に分割された場合を示している。矩形の照射領域34のx方向のサイズは、x方向のビーム数×x方向のビーム間ピッチで定義できる。矩形の照射領域34のy方向のサイズは、y方向のビーム数×y方向のビーム間ピッチで定義できる。図32の例では、例えば512×512列のマルチビームの図示を8×8列のマルチビームに省略して示している。そして、照射領域34内に、1回のマルチビーム20のショットで照射可能な複数の画素28(ビームの描画位置)が示されている。隣り合う画素28間のピッチがマルチビームの各ビーム間のピッチとなる。x,y方向にビームピッチのサイズで囲まれた矩形の領域で1つのサブ照射領域29(ピッチセル)を構成する。図32の例では、各サブ照射領域29は、例えば4×4画素で構成される場合を示している。
【0081】
描画工程(S170)として、まず、ショットデータ生成部70は、画素36毎に、当該画素36に照射するための入射照射量D(x)(ドーズ量)を演算する。入射照射量D(x)は、例えば、基準照射量Dbaseに近接効果補正照射係数Dpとパターン面積密度ρ’とを乗じた値として演算すればよい。基準照射量Dbaseは、例えば、Dth/(1/2+η)で定義できる。以上により、描画データに定義される複数の図形パターンのレイアウトに基づいた、近接効果が補正された画素36毎の入射照射量D(x)を得ることができる。言い換えれば、ドーズマップに定義された照射量に基準照射量Dbaseを乗じることにより入射照射量D(x)(ドーズ量)を演算する。ドーズマップに入射照射量D(x)(ドーズ量)が定義されている場合には、そのまま使用すればよい。
【0082】
次に、ショットデータ生成部70は、画素36毎の照射時間を算出する。画素36毎の照射時間は、当該画素の入射照射量D(x)を電流密度Jで割ることで算出できる。
【0083】
そして、データ加工部72は、得られた画素36毎の照射時間データをショット順に並び変えて、記憶装置142に格納する。転送処理部74は、ショット順に照射時間データを偏向制御回路130に転送する。
【0084】
描画制御部76による制御のもと、描画機構150は、補正量で補正されたビーム照射位置に基づいて、マルチビーム20(電子ビーム)を用いて試料101にパターンを描画する。言い換えれば、描画機構150は、最終位置ずれ量に基づき、試料101に電子ビームを照射してパターンを形成する際のパターンの位置若しくは電子ビームの照射位置を補正すると共に、試料101にパターンを描画する描画処理を行う。描画機構150は、描画時位置ずれ量と最終位置ずれ量との差分に基づき、かかる補正を行う。描画機構150は、XYステージ105を移動しながら描画する。具体的には、偏向制御回路130(補正部の一例)による制御のもと、偏向器208は、後述するマルチビーム20のトラッキングサイクル毎に、ビームアレイの代表位置(例えば、中心位置、或いは中心ビームの位置)が含まれるグローバルメッシュ領域11の補正量(dxn,dyn)だけ補正された位置にビームアレイ(照射領域)を偏向する。ビームアレイ(照射領域34)の偏向位置は、上述したビームアレイの代表位置(例えば、中心位置、或いは中心ビームの位置)を基準に設定される。
【0085】
図17は、実施の形態1におけるマルチビーム描画動作の一例を説明するための図である。図17の例では、マルチビーム20のそれぞれ1つのビーム照射位置を含みビーム間ピッチで囲まれた各サブ照射領域29内を4つの異なるビームで描画する場合を示している。また、図17の例では、各サブ照射領域29内の1/4(照射に用いられるビーム本数分の1)の領域を描画する間に、XYステージ105が、例えば2ビームピッチ分の距離だけ移動する速度で、連続移動する描画動作を示している。図17の例では、各サブ照射領域29が例えば4×4画素で構成される場合を示している。
【0086】
図17の例に示す描画動作では、例えば、XYステージ105がx方向に2ビームピッチ分の距離を移動する間に偏向器209によって順に照射位置(画素36)をシフトさせながらショットサイクルTでマルチビーム20を4ショットすることにより同じサブ照射領域29内の異なる4つの画素36を描画(露光)する。かかる4つの画素36を描画(露光)する間、照射領域34がXYステージ105の移動によって試料101との相対位置がずれないように、偏向器208によってマルチビーム20全体を一括偏向することによって、照射領域34をXYステージ105の移動に追従させる。言い換えれば、トラッキング制御が行われる。図17の例では、トラッキングサイクルとして、XYステージ105がx方向に2ビームピッチ分の距離を移動する時間を一例として挙げているが、これに限るものではない。2ビームピッチ分の距離よりも大きい距離、例えば、8ビームピッチ分の距離、或いは16ビームピッチ分の距離等を移動する時間であっても良い。
【0087】
1回のトラッキングサイクルが終了するとトラッキングリセットして、前回のトラッキング開始位置に戻る。なお、各サブ照射領域29の左から1番目の画素列の描画は終了しているので、トラッキングリセットした後に、次回のトラッキングサイクルにおいてまず偏向器209は、各サブ照射領域29のまだ描画されていない例えば左から2番目の画素列を描画するように1番目の画素列とは異なるビームの描画位置を合わせる(シフトする)ように偏向する。ストライプ領域32の描画中、かかる動作を繰り返すことで、図15の下図に示すように、順次マルチビーム20の照射領域34(34a~34o)の位置が移動していき、描画を行っていく。
【0088】
よって、偏向制御回路130による制御の下、偏向器208は、トラッキングサイクル毎に、ビームアレイの代表位置(例えば、中心位置、或いは中心ビームの位置)が含まれるグローバルメッシュ領域11の補正量(dxn,dyn)だけ補正された位置にビームアレイを偏向し、トラッキングサイクル中、その位置で、各ビームがそれぞれ例えば4つの画素36を描画(露光)する間、ビームアレイ(照射領域34)がXYステージ105の移動によって試料101との相対位置がずれないように、偏向器208によってマルチビーム20全体を一括偏向することによって、ビームアレイ(照射領域34)をXYステージ105の移動に追従させる。
【0089】
なお、図15の下図に示すように、マルチビーム20の照射領域34(34a~34o)の位置は、徐々に移動する。よって、隣接するグローバルメッシュ領域11同士間を照射領域34(ビームアレイ)が跨いだ状態でマルチビーム20のショットを行う場合が生じる。かかる場合も含めて、照射領域34(ビームアレイ)の代表位置(例えば、中心位置或いは中心ビームの位置)が含まれるグローバルメッシュ領域11の補正量(dxn,dyn)を用いれば良い。
【0090】
なお、図11に示すリアルタイムモードでは、描画処理を行いながら並行して後に描画処理を行うストライプ領域32のショットデータを生成する。例えば、k番目のストライプ領域32の描画を行いながら、k+2番目のストライプ領域32用のショットデータを並行して生成する。
【0091】
判定工程(S172)として、描画制御部76は、すべてのストライプ領域32の描画が完了したかどうかを判定する。まだ、完了していない場合には描画時位置ずれ量算出工程(S108)に戻り、次のストライプ領域32について描画時位置ずれ量算出工程(S108)から判定工程(S172)までを繰り返す。このように、すべてのストライプ領域32の描画が完了するまで、描画時位置ずれ量算出工程(S108)から判定工程(S172)までを繰り返す。
【0092】
図12に示す前処理モードでは、ストライプ領域32毎に、補正量算出工程(S110)を実施した後、判定工程(S112)として、描画制御部76は、すべてのストライプ領域32について補正量の算出が完了したかどうかを判定する。まだ、完了していない場合には描画時位置ずれ量算出工程(S108)に戻り、次のストライプ領域32について描画時位置ずれ量算出工程(S108)から判定工程(S112)までを繰り返す。このように、すべてのストライプ領域32の描画が完了するまで、描画時位置ずれ量算出工程(S108)から判定工程(S112)までを繰り返す。
【0093】
補正量マップ作成工程(S114)として、補正量マップ作成部58は、試料101面全体について、グローバルメッシュ領域11毎の補正量を要素値とする補正量マップを作成する。
【0094】
描画工程(S170)として、描画機構150は、補正量で補正されたビーム照射位置に基づいて、マルチビーム20(電子ビーム)を用いて試料101にパターンを描画する。描画工程(S170)の内容は、リアルタイムモードと同様である。但し、既に試料101の全域の補正量マップが作成されているので、描画しながら補正量を算出する必要はない。順次、各ストライプ領域20を描画していけばよい。
【0095】
上述した例では、ビームアレイの偏向位置(ビーム照射位置)を補正量で補正する場合について説明したが、補正の仕方はこれに限るものではない。以下、実施の形態1の変形例を説明する。
【0096】
実施の形態1の変形例において、ショットデータ生成部70は、まず、補正量マップに基づいて、描画データ上のパターンの形成位置を補正する。具体的には、以下のように動作する。ショットデータ生成部70は、グローバルメッシュ領域11毎に、当該グローバルメッシュ領域11内に含まれるパターンを当該グローバルメッシュ領域11に定義された補正量だけ位置を補正する。
【0097】
そして、ショットデータ生成部70は、補正されたパターンレイアウトを用いて、改めてドーズマップを作成する。ドーズマップの作成手法は上述した内容と同様である。
そして、ショットデータ生成部70は、画素36毎の照射時間を算出する。画素36毎の照射時間は、当該画素の入射照射量D(x)を電流密度Jで割ることで算出できる。
【0098】
そして、データ加工部72は、得られた画素36毎の照射時間データをショット順に並び変えて、記憶装置142に格納する。転送処理部74は、ショット順に照射時間データを偏向制御回路130に転送する。
【0099】
描画制御部76による制御のもと、描画機構150は、補正量で補正されたビーム照射位置に基づいて、マルチビーム20(電子ビーム)を用いて試料101にパターンを描画する。実施の形態1の変形例では、リアルタイムモード及び前処理モード共に、パターンデータ上でパターンの位置が既に補正量(dxn,dyn)で位置が補正されている。そのため、描画する際、偏向制御回路130による制御の下、偏向器208は、トラッキングサイクル毎に、ビームアレイの代表位置(例えば、中心位置、或いは中心ビームの位置)を設計上の位置にビームアレイを偏向し、トラッキングサイクル中、その位置で、各ビームがそれぞれ例えば4つの画素36を描画(露光)する間、ビームアレイ(照射領域34)がXYステージ105の移動によって試料101との相対位置がずれないように、偏向器208によってマルチビーム20全体を一括偏向することによって、ビームアレイ(照射領域34)をXYステージ105の移動に追従させればよい。
【0100】
上述した実施の形態1では、試料101に対して、1回の描画処理を実施する場合について説明した。なお、かかる1回の描画処理とは、描画開始から試料101の描画領域(チップ領域)全体の描画処理が完了するまでの処理を示す。よって、かかる処理内に行われ得る、例えば、ストライプ単位でy方向にストライプ領域同士の一部が重なるように位置をずらしながら重なった部分を多重に描画するように描画処理を繰り返す多重描画、或いは、例えば、各ストライプ領域20の1回のストライプ描画中にマルチビーム20のうちの描画方向に対して前側に配列されるビームで描画した同じ領域をマルチビーム20のうちの描画方向に対して後側に配列されるビームで繰り返し描画する多重描画が含まれる。
【0101】
以上のように、実施の形態1によれば、マルチビーム20(電子ビーム)の照射による不可逆的な試料101の変形による、ビーム照射位置やパターン形成位置の位置ずれを補正できる。
【0102】
実施の形態2.
実施の形態2では、試料101の描画領域(チップ領域)全体の描画処理が一通り終了した後に、再度、同じレイアウトパターンで試料101の描画領域(チップ領域)全体の描画処理を行う2ストローク描画を行う場合について説明する。
【0103】
図18は、実施の形態2における描画装置の構成を示す概念図である。図18において、制御計算機110内に、さらに、描画時位置ずれ量算出部62、補正量算出部64、及び補正量マップ作成部66が追加配置された点以外は、図1と同様である。ドーズマップ作成部50、最終位置ずれ量算出部52、描画時位置ずれ量算出部54、補正量算出部56、補正量マップ作成部58、描画時位置ずれ量算出部62、補正量算出部64、補正量マップ作成部66、ショットデータ生成部70、データ加工部72、転送処理部74、及び描画制御部76といった各「~部」は、処理回路を有する。かかる処理回路は、例えば、電気回路、コンピュータ、プロセッサ、回路基板、量子回路、或いは、半導体装置を含む。各「~部」は、共通する処理回路(同じ処理回路)を用いても良いし、或いは異なる処理回路(別々の処理回路)を用いても良い。ドーズマップ作成部50、最終位置ずれ量算出部52、描画時位置ずれ量算出部54、補正量算出部56、補正量マップ作成部58、描画時位置ずれ量算出部62、補正量算出部64、補正量マップ作成部66、ショットデータ生成部70、データ加工部72、転送処理部74、及び描画制御部76に入出力される情報および演算中の情報はメモリ112にその都度格納される。描画時位置ずれ量算出部54と描画時位置ずれ量算出部62のうち一方が両方の機能を有するように構成しても構わない。その場合、他方は省略できる。
【0104】
図19は、実施の形態2における2ストローク描画の仕方を説明するための図である。図19において、第1回目の描画処理(第1ストローク)において、試料101の下側のストライプ領域32から上側(y方向)に向かって順に描画を進める。図19の左側の図では、第1回目の描画処理の途中のある位置(×で示す)を描画する状態を示している。そして、試料101の描画領域(チップ領域)全体の第1回目の描画処理の終了後、試料101をステージ105に載置したままの状態で、同じパターンレイアウトの描画データを用いて繰り返し描画する第2回目の描画処理(第2ストローク)を実施する。図19の右側の図では、第2回目の描画処理の途中のある位置(×で示す:左側の図と同じ位置)を描画する状態を示している。
【0105】
図20は、実施の形態2の比較例における基板表面の位置ずれの状態の一例を示す図である。
図20では、第1回目の描画処理の開始前の状態と、第1回目の描画処理における所望の位置での描画時の状態と、第1回目の描画処理の完了後の状態と、第2回目の描画処理における所望の位置での描画時の状態と、第2回目の描画処理の完了後の状態と、をそれぞれ示す。
【0106】
図20において、設計上のビーム照射位置をベクトルAで示す。対象のLTEM基板に対して第1回目の描画処理が進むことで、第1回目の描画処理においてベクトルAの位置を描画する時点には、描画処理開始前のベクトルAの位置は、図20に示すように基板の収縮による変形によりベクトルB1の位置に物理的に移動している。そして、さらに描画処理が進み、第1回目の描画処理の終了後には、図20に示すようにさらなる変形により、描画処理開始前のベクトルAの位置は、ベクトルC1の位置に物理的に移動している。そして、第2回目の描画処理が開始され、描画処理が進み、第2回目の描画処理においてベクトルAの位置を描画する時点には、描画処理開始前のベクトルAの位置は、図20に示すように基板の収縮による変形によりベクトルB2の位置に物理的に移動している。そして、さらに描画処理が進み、第2回目の描画処理の終了後(基板全体の描画処理の完了後)には、図20に示すようにさらなる変形により、描画処理開始前のベクトルAの位置は、ベクトルC2の位置に物理的に移動している。
【0107】
よって、第1回目の描画処理において、描画処理開始前のベクトルAの位置をそのまま描画すると、基板全体の描画処理の完了後には、描画されたビーム照射位置は、描画処理開始前のベクトルAの位置から(ベクトルC2-ベクトルB1)で示すベクトルだけ移動した位置(ベクトルA+(ベクトルC2-ベクトルB1))に位置ずれを生じてしまうことになる。同様に、第2回目の描画処理において、描画処理開始前のベクトルAの位置をそのまま描画すると、基板全体の描画処理の完了後には、描画されたビーム照射位置は、描画処理開始前のベクトルAの位置から(ベクトルC2-ベクトルB2)で示すベクトルだけ移動した位置(ベクトルA+(ベクトルC2-ベクトルB2))に位置ずれを生じてしまうことになる。
そこで、実施の形態2では、かかる不可逆な変形が基板に生じる場合であっても、描画処理の完了後にビーム照射位置が描画処理開始前のベクトルAの位置になるように描画時の照射位置(パターン形成位置)を補正する。
【0108】
図21は、実施の形態2における基板表面の位置ずれの状態の一例を示す図である。実施の形態2における基板表面の変形の状態の図示は省略している。図21において、設計上のビーム照射位置をベクトルAで示す。対象のLTEM基板に対して第1回目の描画処理が進むことで、第1回目の描画処理においてベクトルAの位置を描画する時点には、描画処理開始前のベクトルAの位置は、図21に示すように基板の収縮による変形によりベクトルB1の位置に物理的に移動している。そして、第1回目の描画処理が終了し、さらに第2回目の描画処理が終了した、基板全体の描画処理の完了後には、図21に示すようにさらなる変形により、描画処理開始前のベクトルAの位置は、ベクトルC2の位置に物理的に移動している。
【0109】
よって、第1回目の描画処理での描画時には、その時点の位置(ベクトルB1)から基板全体の描画処理の完了後の位置(ベクトルC2)までの位置ずれ量(ベクトルC2-ベクトルB1)だけ補正すればよい。よって、第1回目の描画処理での描画時には、処理開始前のベクトルAの位置から(ベクトルB1-ベクトルC2)で示すベクトルだけ補正した位置(ベクトルA+(ベクトルB1-ベクトルC2))をビーム照射位置(或いはパターン形成位置)として描画する。これにより第2回目の描画処理後の基板全体の描画処理の完了後には、第1回目の描画処理で描画されたビーム照射位置(或いはパターン形成位置)は、位置(ベクトルA+(ベクトルB1-ベクトルC2))から(ベクトルC2-ベクトルB1)で示すベクトルだけ移動した位置であるベクトルAの位置にできる。
【0110】
そして、第2回目の描画処理においてベクトルAの位置を描画する時点には、描画処理開始前のベクトルAの位置は、図21に示すように基板の収縮による変形によりベクトルB2の位置に物理的に移動している。第2回目の描画処理が終了した、基板全体の描画処理の完了後には、上述したように描画処理開始前のベクトルAの位置は、ベクトルC2の位置に物理的に移動している。
【0111】
よって、第2回目の描画処理での描画時には、その時点の位置(ベクトルB2)から基板全体の描画処理の完了後の位置(ベクトルC2)までの位置ずれ量(ベクトルC2-ベクトルB2)だけ補正すればよい。よって、第2回目の描画処理での描画時には、処理開始前のベクトルAの位置から(ベクトルB2-ベクトルC2)で示すベクトルだけ補正した位置(ベクトルA+(ベクトルB2-ベクトルC2))をビーム照射位置(或いはパターン形成位置)として描画する。これにより第2回目の描画処理後の基板全体の描画処理の完了後には、第2回目の描画処理で描画されたビーム照射位置(或いはパターン形成位置)は、位置(ベクトルA+(ベクトルB2-ベクトルC2))から(ベクトルC2-ベクトルB2)で示すベクトルだけ移動した位置であるベクトルAの位置にできる。
【0112】
以上により、第1回目の描画処理で描画されたビーム照射位置と第2回目の描画処理で描画されたビーム照射位置とを、基板全体の描画処理の完了後に共に描画処理開始前のベクトルAの位置にできる。
【0113】
図22は、実施の形態2における描画方法の要部工程の一例を示すフローチャート図である。図22において、実施の形態2における描画方法は、ドーズマップ作成工程(S101)と、最終位置ずれ量(ベクトルC2)算出工程(S105)と、描画スケジュール作成工程(S107)と、描画時位置ずれ量(ベクトルB1)算出工程(S120)と、補正量算出工程(S122)と、判定工程(S124)と、第1の補正量マップ作成工程(S126)と、描画時位置ずれ量(ベクトルB2)算出工程(S130)と、補正量算出工程(S132)と、判定工程(S134)と、第2の補正量マップ作成工程(S136)と、第1回目の描画工程(S174)と、第2回目の描画工程(S176)と、いう一連の各工程を実施する。実施の形態2における描画処理は、第1チップパターンを描画する第1描画処理と、第1描画処理の後に行われ、第2チップパターンを第1チップパターンに重ねるように描画する第2描画処理と、を含む。実施の形態2では、第2チップパターンを第1チップパターンが同じチップパターンとなる。
【0114】
図22では、すべての領域のビーム照射位置(或いはパターン形成位置)を補正する計算処理を前処理として行った後に描画動作を開始する前処理モードで描画処理を行う場合のフローチャート図を示している。描画動作をしながら次の領域のビーム照射位置(或いはパターン形成位置)を補正する計算処理を行うリアルタイムモードで描画処理を行う場合のフローチャート図については図示を省略している。
【0115】
リアルタイムモードでは、第1回目の描画処理におけるk番目のストライプ領域の描画動作とk+m番目のストライプ領域の補正計算処理(描画時位置ずれ量(ベクトルB1)算出工程(S120)と、補正量算出工程(S122)と、判定工程(S124)と、第1の補正量マップ作成工程(S126))とを同時期に実施する。そして、補正計算処理が完了したストライプ領域32について順次、第1回目の描画工程(S174)を実施する。
同様に、第2回目の描画処理におけるk番目のストライプ領域の描画動作とk+m番目のストライプ領域の補正計算処理(描画時位置ずれ量(ベクトルB2)算出工程(S130)と、補正量算出工程(S132)と、判定工程(S134)と、第2の補正量マップ作成工程(S136))とを同時期に実施する。そして、補正計算処理が完了したストライプ領域32について順次、第2回目の描画工程(S176)を実施する。
【0116】
ドーズマップ作成工程(S101)として、ドーズマップ作成部50は、画素毎にドーズ量が定義されたドーズマップを作成する。ここでは、第1回目の描画処理用のドーズマップ(第1のドーズマップ)と、第2回目の描画処理用のドーズマップ(第2のドーズマップ)とを作成する。同じレイアウトパターンの描画処理を2ストローク行うので、例えば、各画素に入射するドーズ量を半分ずつに分ける。かかる場合、一般的には、第1のドーズマップと第2のドーズマップは、同じドーズマップになる。ドーズマップの作成の仕方は上述したドーズマップ作成工程(S102)の内容と同様で構わない。
【0117】
最終位置ずれ量(ベクトルC2)算出工程(S105)として、最終位置ずれ量算出部52は、電子ビームの照射による不可逆に変形する試料101に対して電子ビームを用いてパターンを描画した場合の描画終了後の試料101の不可逆変形による、設計上の位置からのパターンの形成位置若しくはビーム照射位置の最終位置ずれ量(第1の位置ずれ量)を算出する。具体的には、最終位置ずれ量算出部52は、第1の描画処理と第2の描画処理とが終了し、試料101への描画処理が完了後の各位置の位置ずれ量(ベクトルC2)を算出する。言い換えれば、最終位置ずれ量は、第2描画処理の終了後における試料101の不可逆変形によるパターンの設計上の位置からの位置ずれ量である。
【0118】
そして、最終位置ずれ量算出部52は、各グローバルメッシュ領域11(位置)内の代表点(例えば中心位置)におけるベクトルC2を算出する。各ベクトルC2は、最終位置ずれ量(dxfinal-i,dyfinal-i)として算出される。iは各グローバルメッシュ領域11のインデックスを示す。パターンの形成位置若しくはビーム照射位置が含まれるグローバルメッシュ領域11の最終位置ずれ量が、当該パターンの形成位置若しくはビーム照射位置の最終位置ずれ量に相当する。
各グローバルメッシュ領域11の最終位置ずれ量(dxfinal-i,dyfinal-i)は、ドーズマップに定義された照射量(照射係数)に依存し、上述したように、例えば、有限要素法を用いて算出することができる。
【0119】
描画スケジュール作成工程(S107)として、描画制御部76は、ドーズマップに定義された各画素のショット順を定義する描画スケジュールを作成する。ここでは、第1の描画処理と第2の描画処理とについてそれぞれ描画スケジュールを作成する。これにより、ショット毎に、当該ショットを行う時(描画時)までに照射された位置と照射量がわかる。
【0120】
描画時位置ずれ量(ベクトルB1)算出工程(S120)として、描画時位置ずれ量算出部54は、第1描画処理において、電子ビームの照射時点における、照射時点よりも前に試料101に照射された電子ビームによる、試料101の不可逆変形により生じた設計上の位置からの描画時位置ずれ量(第2位置ずれ量)を算出する。言い換えれば、描画時位置ずれ量算出部54は、第1の描画処理における対象の電子ビームの照射よりも前に試料101が照射された電子ビームによる試料101の不可逆変形による、第1の描画処理における対象の電子ビームの照射時における設計上の位置からのパターンの形成位置若しくはビーム照射位置の描画時位置ずれ量(第2の位置ずれ量)を算出する。具体的には、描画時位置ずれ量算出部54は、各グローバルメッシュ領域11内の代表位置の描画時の位置ずれ量(ベクトルB1)を算出する。各グローバルメッシュ領域11のベクトルB1は、描画時位置ずれ量(dx1stwrite-n,dy1stwrite-n)として算出される。nは各グローバルメッシュ領域11のインデックスを示す。パターンの形成位置若しくはビーム照射位置が含まれるグローバルメッシュ領域11の描画時位置ずれ量が、当該パターンの形成位置若しくはビーム照射位置の描画時位置ずれ量に相当する。各グローバルメッシュ領域11の描画時位置ずれ量(dx1stwrite-n,dy1stwrite-n)は、ドーズマップに定義された照射量(照射係数)に依存し、上述したように、例えば、有限要素法を用いて同様に算出することができる。
【0121】
なお、上述した例では、グローバルメッシュ領域11毎に、描画時位置ずれ量を算出する場合を説明したが、これに限るものではない。実際のショット時におけるビームアレイの代表位置(例えば、中心位置、或いは中心ビームの位置)毎に、描画時位置ずれ量を算出しても好適である。
【0122】
補正量算出工程(S122)として、補正量算出部56は、描画終了後の試料101の不可逆変形による最終位置ずれ量を基準にして、第1の描画処理における対象の電子ビーム(マルチビーム20)で試料101を照射する場合におけるパターンの形成位置若しくはビーム照射位置を補正するための補正量(ベクトルB1-ベクトルC2)(第1の補正量)を算出する。第1回目の描画処理の描画時位置ずれ量(ベクトルB1)と最終時位置ずれ量(ベクトルC2)との差分により補正量(ベクトルB1-ベクトルC2)(第1の補正量)が算出される。言い換えれば、補正量算出部56は、第1描画処理の描画時位置ずれ量と最終位置ずれ量との差分に基づき、第1描画処理における第1補正量を算出する。さらに言い換えれば、n番目にビーム照射(描画)されるグローバルメッシュ領域11内の各位置の補正量(dx1stn,dy1stn)は、描画時位置ずれ量(dx1stwrite-n,dy1stwrite-n)-最終位置ずれ量(dxfinal-n,dyfinal-n)で算出できる。
【0123】
判定工程(S124)として、描画制御部76は、すべてのストライプ領域32について第1回目の描画処理のための補正量の算出が完了したかどうかを判定する。まだ、完了していない場合には描画時位置ずれ量算出工程(S120)に戻り、次のストライプ領域32について描画時位置ずれ量算出工程(S120)から判定工程(S124)までを繰り返す。このように、すべてのストライプ領域32の描画が完了するまで、描画時位置ずれ量算出工程(S120)から判定工程(S124)までを繰り返す。
【0124】
第1の補正量マップ作成工程(S126)として、補正量マップ作成部58は、試料101面全体について、グローバルメッシュ領域11(xn,yn)毎の第1回目の描画処理のための補正量(dx1stn,dy1stn)を要素値とする第1の補正量マップを作成する。第1の補正量マップは記憶装置142に格納される。
【0125】
描画時位置ずれ量(ベクトルB2)算出工程(S130)として、描画時位置ずれ量算出部62は、第2描画処理において、電子ビームの照射時点における、照射時点よりも前に試料101に照射された電子ビームによる、試料101の不可逆変形により生じた設計上の位置からの描画時位置ずれ量(第3位置ずれ量)を算出する。言い換えれば、描画時位置ずれ量算出部62は、第1の描画処理での対象の電子ビームに対応する第2の描画処理での電子ビームの照射よりも前に試料101が照射された電子ビームによる試料101の不可逆変形による、第1の描画処理での対象の電子ビームに対応する第2の描画処理での電子ビームの照射時における設計上の位置からのパターンの形成位置若しくはビーム照射位置の描画時位置ずれ量(第3の位置ずれ量)を算出する。具体的には、描画時位置ずれ量算出部62は、各グローバルメッシュ領域11内の代表位置の描画時の位置ずれ量(ベクトルB2)を算出する。各グローバルメッシュ領域11のベクトルB2は、描画時位置ずれ量(dx2ndwrite-n,dy2ndwrite-n)として算出される。nは各グローバルメッシュ領域11のインデックスを示す。パターンの形成位置若しくはビーム照射位置が含まれるグローバルメッシュ領域11の描画時位置ずれ量が、当該パターンの形成位置若しくはビーム照射位置の描画時位置ずれ量に相当する。各グローバルメッシュ領域11の描画時位置ずれ量(dx2ndwrite-n,dy2ndwrite-n)は、ドーズマップに定義された照射量(照射係数)に依存し、上述したように、例えば、有限要素法を用いて同様に算出することができる。
【0126】
なお、上述したように、実際のショット時におけるビームアレイの代表位置(例えば、中心位置、或いは中心ビームの位置)毎に、描画時位置ずれ量を算出しても好適である。
【0127】
補正量算出工程(S132)として、補正量算出部64は、描画終了後の試料101の不可逆変形による最終位置ずれ量を基準にして、第1の描画処理での対象の電子ビームに対応する第2の描画処理での電子ビーム(マルチビーム20)で試料101を照射する場合におけるパターンの形成位置若しくはビーム照射位置を補正するための補正量(ベクトルB2-ベクトルC2)(第2の補正量)を算出する。第2回目の描画処理の描画時位置ずれ量(ベクトルB2)と最終時位置ずれ量(ベクトルC2)との差分により補正量(ベクトルB2-ベクトルC2)(第2の補正量)が算出される。言い換えれば、補正量算出部64は、第2描画処理の描画時位置ずれ量と最終位置ずれ量との差分に基づき、第2描画処理における第2補正量を算出する。さらに言い換えれば、n番目にビーム照射(描画)されるグローバルメッシュ領域11内の各位置の補正量(dx2ndn,dy2ndn)は、描画時位置ずれ量(dx2ndwrite-n,dy2ndwrite-n)-最終位置ずれ量(dxfinal-n,dyfinal-n)で算出できる。
【0128】
判定工程(S134)として、描画制御部76は、すべてのストライプ領域32について第2回目の描画処理のための補正量の算出が完了したかどうかを判定する。まだ、完了していない場合には描画時位置ずれ量算出工程(S130)に戻り、次のストライプ領域32について描画時位置ずれ量算出工程(S130)から判定工程(S134)までを繰り返す。このように、第2の描画処理のためのすべてのストライプ領域32の描画が完了するまで、描画時位置ずれ量算出工程(S130)から判定工程(S134)までを繰り返す。
【0129】
第2の補正量マップ作成工程(S136)として、補正量マップ作成部66は、試料101面全体について、グローバルメッシュ領域11(xn,yn)毎の第2回目の描画処理のための補正量(dx2ndn,dy2ndn)を要素値とする第2の補正量マップを作成する。第2の補正量マップは記憶装置142に格納される。
【0130】
第1回目の描画工程(S174)として、ショットデータ生成部70は、画素36毎に、第1回目の描画処理のための当該画素36に照射するための入射照射量D(x)(ドーズ量)を演算する。言い換えれば、ドーズマップに定義された照射量に基準照射量Dbaseを乗じることにより入射照射量D(x)(ドーズ量)を演算する。ドーズマップに入射照射量D(x)(ドーズ量)が定義されている場合には、そのまま使用すればよい。
【0131】
次に、ショットデータ生成部70は、画素36毎の第1回目の描画処理のための照射時間を算出する。画素36毎の照射時間は、当該画素の入射照射量D(x)を電流密度Jで割ることで算出できる。
【0132】
そして、データ加工部72は、得られた画素36毎の照射時間データを第1回目の描画処理のためのショット順に並び変えて、記憶装置142に格納する。転送処理部74は、ショット順に照射時間データを偏向制御回路130に転送する。
【0133】
描画制御部76による制御のもと、描画機構150は、補正量(dx1stn,dy1stn)で補正されたビーム照射位置に基づいて、マルチビーム20(電子ビーム)を用いて試料101にパターンを描画する。言い換えれば、描画機構150は、第1描画処理の描画時位置ずれ量と最終位置ずれ量との差分に基づき、第1描画処理における第1補正を行う。描画機構150は、XYステージ105を移動しながら描画する。具体的には、偏向制御回路130(補正部の一例)による制御のもと、偏向器208は、マルチビーム20のトラッキングサイクル毎に、ビームアレイの代表位置(例えば、中心位置、或いは中心ビームの位置)が含まれるグローバルメッシュ領域11の補正量(dx1stn,dy1stn)だけ補正された位置にビームアレイ(照射領域)を偏向する。ビームアレイ(照射領域34)の偏向位置は、上述したビームアレイの代表位置(例えば、中心位置、或いは中心ビームの位置)を基準に設定される。
【0134】
第2回目の描画工程(S176)として、ショットデータ生成部70は、画素36毎に、第2回目の描画処理のための当該画素36に照射するための入射照射量D(x)(ドーズ量)を演算する。言い換えれば、ドーズマップに定義された照射量に基準照射量Dbaseを乗じることにより入射照射量D(x)(ドーズ量)を演算する。ドーズマップに入射照射量D(x)(ドーズ量)が定義されている場合には、そのまま使用すればよい。
【0135】
次に、ショットデータ生成部70は、画素36毎の第2回目の描画処理のための照射時間を算出する。画素36毎の照射時間は、当該画素の入射照射量D(x)を電流密度Jで割ることで算出できる。
【0136】
そして、データ加工部72は、得られた画素36毎の照射時間データを第2回目の描画処理のためのショット順に並び変えて、記憶装置142に格納する。転送処理部74は、ショット順に照射時間データを偏向制御回路130に転送する。
【0137】
描画制御部76による制御のもと、描画機構150は、補正量(dx2ndn,dy2ndn)で補正されたビーム照射位置に基づいて、マルチビーム20(電子ビーム)を用いて試料101にパターンを描画する。言い換えれば、描画機構150は、第2描画処理の描画時位置ずれ量と最終位置ずれ量との差分に基づき、第2描画処理における第2補正を行う。描画機構150は、XYステージ105を移動しながら描画する。具体的には、偏向制御回路130(補正部の一例)による制御のもと、偏向器208は、マルチビーム20のトラッキングサイクル毎に、ビームアレイの代表位置(例えば、中心位置、或いは中心ビームの位置)が含まれるグローバルメッシュ領域11の補正量(dx2ndn,dy2ndn)だけ補正された位置にビームアレイ(照射領域)を偏向する。ビームアレイ(照射領域34)の偏向位置は、上述したビームアレイの代表位置(例えば、中心位置、或いは中心ビームの位置)を基準に設定される。
【0138】
実施の形態2の変形例において、実施の形態1の変形例と同様、パターンデータ上でパターンの形成位置を補正しても良い。
【0139】
実施の形態2の変形例において、第1回目の描画工程(S174)として、ショットデータ生成部70は、まず、グローバルメッシュ領域(xn,yn)毎の第1回目の描画処理のための補正量(dx1stn,dy1stn)を要素値とする第1の補正量マップに基づいて、描画データ上のパターンの形成位置を補正する。具体的には、以下のように動作する。ショットデータ生成部70は、グローバルメッシュ領域11毎に、当該グローバルメッシュ領域11内に含まれるパターンを当該グローバルメッシュ領域11に定義された補正量だけ位置を補正する。
【0140】
そして、ショットデータ生成部70は、補正されたパターンレイアウトを用いて、改めて第1回目の描画処理のためのドーズマップを作成する。ドーズマップの作成手法は上述した内容と同様である。
そして、ショットデータ生成部70は、画素36毎の照射時間を算出する。画素36毎の照射時間は、当該画素の入射照射量D(x)を電流密度Jで割ることで算出できる。
【0141】
そして、データ加工部72は、得られた画素36毎の照射時間データをショット順に並び変えて、記憶装置142に格納する。転送処理部74は、ショット順に照射時間データを偏向制御回路130に転送する。
【0142】
描画制御部76による制御のもと、描画機構150は、第1回目の描画処理として、補正量で補正されたビーム照射位置に基づいて、マルチビーム20(電子ビーム)を用いて試料101にパターンを描画する。実施の形態2の変形例では、リアルタイムモード及び前処理モード共に、パターンデータ上でパターンの位置が既に補正量(dx1stn,dy1stn)で位置が補正されている。そのため、描画する際、偏向制御回路130による制御の下、偏向器208は、トラッキングサイクル毎に、ビームアレイの代表位置(例えば、中心位置、或いは中心ビームの位置)を設計上の位置にビームアレイを偏向し、トラッキングサイクル中、その位置で、各ビームがそれぞれ例えば4つの画素36を描画(露光)する間、ビームアレイ(照射領域34)がXYステージ105の移動によって試料101との相対位置がずれないように、偏向器208によってマルチビーム20全体を一括偏向することによって、ビームアレイ(照射領域34)をXYステージ105の移動に追従させればよい。
【0143】
同様に、第2回目の描画工程(S176)として、ショットデータ生成部70は、まず、グローバルメッシュ領域(xn,yn)毎の第2回目の描画処理のための補正量(dx2ndn,dy2ndn)を要素値とする第2の補正量マップに基づいて、描画データ上のパターンの形成位置を補正する。具体的には、以下のように動作する。ショットデータ生成部70は、グローバルメッシュ領域11毎に、当該グローバルメッシュ領域11内に含まれるパターンを当該グローバルメッシュ領域11に定義された補正量だけ位置を補正する。
【0144】
そして、ショットデータ生成部70は、補正されたパターンレイアウトを用いて、改めて第1回目の描画処理のためのドーズマップを作成する。ドーズマップの作成手法は上述した内容と同様である。
そして、ショットデータ生成部70は、画素36毎の照射時間を算出する。画素36毎の照射時間は、当該画素の入射照射量D(x)を電流密度Jで割ることで算出できる。
【0145】
そして、データ加工部72は、得られた画素36毎の照射時間データをショット順に並び変えて、記憶装置142に格納する。転送処理部74は、ショット順に照射時間データを偏向制御回路130に転送する。
【0146】
描画制御部76による制御のもと、描画機構150は、第2回目の描画処理として、補正量で補正されたビーム照射位置に基づいて、マルチビーム20(電子ビーム)を用いて試料101にパターンを描画する。実施の形態2の変形例では、リアルタイムモード及び前処理モード共に、パターンデータ上でパターンの位置が既に補正量(dx2ndn,dy2ndn)で位置が補正されている。そのため、描画する際、偏向制御回路130による制御の下、偏向器208は、トラッキングサイクル毎に、ビームアレイの代表位置(例えば、中心位置、或いは中心ビームの位置)を設計上の位置にビームアレイを偏向し、トラッキングサイクル中、その位置で、各ビームがそれぞれ例えば4つの画素36を描画(露光)する間、ビームアレイ(照射領域34)がXYステージ105の移動によって試料101との相対位置がずれないように、偏向器208によってマルチビーム20全体を一括偏向することによって、ビームアレイ(照射領域34)をXYステージ105の移動に追従させればよい。
【0147】
以上のように、実施の形態2によれば、マルチビーム20(電子ビーム)の照射による不可逆的な試料101の変形による、2ストローク描画におけるビーム照射位置やパターン形成位置の位置ずれを補正できる。
【0148】
実施の形態3.
実施の形態3では、実施の形態2で説明した2ストローク描画について、第1回目の描画処理では補正せずに描画した場合に、第2回目の描画処理において、第1回目の描画処理で描画された位置に合わせて第2回目の描画処理を行う場合を説明する。
実施の形態3における描画装置100の構成は、最終位置ずれ量算出部52、補正量算出部56、及び補正量マップ作成部58を省略した点以外は、図18と同様である。
【0149】
図23は、実施の形態3における基板表面の位置ずれの状態の一例を示す図である。
図23では、第1回目の描画処理の開始前の状態と、第1回目の描画処理における所望の位置での描画時の状態と、第1回目の描画処理の完了後の状態と、第2回目の描画処理における所望の位置での描画時の状態と、第2回目の描画処理の完了後の状態と、をそれぞれ示す。
【0150】
図23において、設計上のビーム照射位置をベクトルAで示す。対象のLTEM基板に対して第1回目の描画処理において、補正せずに描画処理開始前のベクトルAの位置をそのまま描画すると、第2回目の描画処理においてベクトルAの位置を描画する時点には、描画処理開始前のベクトルAの位置は、図23に示すように基板の収縮による変形により描画処理開始前のベクトルAの位置から(ベクトルB2-ベクトルB1)で示すベクトルだけ移動した位置(ベクトルA+(ベクトルB2-ベクトルB1))に物理的に移動している。
【0151】
実施の形態3では、第1回目の描画処理と同じレイアウトパターンで第2回目の描画処理を行うので、第1回目の描画処理でビーム照射位置に第2回目の描画処理でも重ねて描画する。
よって、第2回目の描画処理での描画時には、処理開始前のベクトルAの位置から(ベクトルB2-ベクトルB1)で示すベクトルだけ補正した位置(ベクトルA+(ベクトルB2-ベクトルB1))をビーム照射位置(或いはパターン形成位置)として描画する。これにより第2回目の描画処理後の基板全体の描画処理の完了後には、第1回目の描画処理で描画されたビーム照射位置(或いはパターン形成位置)と第2回目の描画処理で描画されたビーム照射位置(或いはパターン形成位置)は、処理開始前のベクトルAの位置とは異なるが、同じ位置にできる。
【0152】
実施の形態3における描画方法の要部工程の一例を示すフローチャート図は、図22の各工程のうち、最終位置ずれ量(ベクトルC2)算出工程(S105)と、補正量算出工程(S122)と、判定工程(S124)と、第1の補正量マップ作成工程(S126)と、を省略した内容と同様である。実施の形態3では、第1回目の描画処理では補正しないので、第1回目の描画処理での補正量の算出は行わない。
【0153】
実施の形態3におけるドーズマップ作成工程(S103)と描画スケジュール作成工程(S107)と描画時位置ずれ量(ベクトルB1)算出工程(S120)との内容は、図22のドーズマップ作成工程(S103)と描画スケジュール作成工程(S107)と描画時位置ずれ量(ベクトルB1)算出工程(S120)とで説明した内容と同様である。
言い換えれば、描画時位置ずれ量(ベクトルB1)算出工程(S120)において、描画時位置ずれ量算出部54は、電子ビームの照射による不可逆に変形する試料101に対して電子ビームを用いて第1の描画処理と第1の描画処理の後に行われる第2の描画処理とを行う場合のうち、第1の描画処理におけるパターンの形成位置若しくはビーム照射位置に照射される対象の電子ビームの照射よりも前に試料101が照射された電子ビームによる試料101の不可逆変形による、対象の電子ビームの照射時における設計上の位置からのパターンの形成位置若しくはビーム照射位置の位置ずれ量(第1の位置ずれ量の他の一例)を算出する。具体的には、描画時位置ずれ量算出部54は、各グローバルメッシュ領域11内の代表位置の描画時の位置ずれ量(ベクトルB1)を算出する。各グローバルメッシュ領域11のベクトルB1は、描画時位置ずれ量(dx1stwrite-n,dy1stwrite-n)として算出される。nは各グローバルメッシュ領域11のインデックスを示す。パターンの形成位置若しくはビーム照射位置が含まれるグローバルメッシュ領域11の描画時位置ずれ量が、当該パターンの形成位置若しくはビーム照射位置の描画時位置ずれ量に相当する。各グローバルメッシュ領域11の描画時位置ずれ量(dx1stwrite-n,dy1stwrite-n)は、ドーズマップに定義された照射量(照射係数)に依存し、上述したように、例えば、有限要素法を用いて同様に算出することができる。
【0154】
なお、上述した例では、グローバルメッシュ領域11毎に、描画時位置ずれ量を算出する場合を説明したが、これに限るものではない。実際のショット時におけるビームアレイの代表位置(例えば、中心位置、或いは中心ビームの位置)毎に、描画時位置ずれ量を算出しても好適である。
【0155】
実施の形態3における描画時位置ずれ量(ベクトルB2)算出工程(S130)の内容は、図22の描画時位置ずれ量(ベクトルB2)算出工程(S130)で説明した内容と同様である。
【0156】
補正量算出工程(S132)として、補正量算出部64は、位置ずれ量(ベクトルB1)を基準にして、第1の描画処理での対象の電子ビームに対応する第2の描画処理での電子ビームの照射時におけるパターンの形成位置若しくはビーム照射位置を補正する補正量(ベクトルB2-ベクトルB1)(第1の補正量の他の一例)を算出する。第2回目の描画処理の描画時位置ずれ量(ベクトルB2)と第1回目の描画処理の描画時位置ずれ量(ベクトルB1)との差分により補正量(ベクトルB2-ベクトルB1)(第1の補正量の他の一例)が算出される。言い換えれば、n番目にビーム照射(描画)されるグローバルメッシュ領域11内の各位置の補正量(dx2ndn,dy2ndn)は、描画時位置ずれ量(dx2ndwrite-n,dy2ndwrite-n)-描画時位置ずれ量(dx1stwrite-n,dy1stwrite-n)で算出できる。
【0157】
実施の形態3における判定工程(S134)と、第2の補正量マップ作成工程(S136)との内容は、図22の判定工程(S134)と第2の補正量マップ作成工程(S136)とで説明した内容と同様である。
【0158】
第1回目の描画工程(S174)において、ショットデータ生成部70は、第1回目の描画処理のためのドーズマップを用いて、画素36毎の照射時間を算出する。画素36毎の照射時間は、当該画素の入射照射量D(x)を電流密度Jで割ることで算出できる。
【0159】
そして、データ加工部72は、得られた画素36毎の照射時間データをショット順に並び変えて、記憶装置142に格納する。転送処理部74は、ショット順に照射時間データを偏向制御回路130に転送する。
【0160】
描画制御部76による制御のもと、描画機構150は、第1回目の描画処理として、マルチビーム20(電子ビーム)を用いて試料101にパターンを描画する。実施の形態3では、リアルタイムモード及び前処理モード共に、描画する際、偏向制御回路130による制御の下、偏向器208は、トラッキングサイクル毎に、ビームアレイの代表位置(例えば、中心位置、或いは中心ビームの位置)を設計上の位置にビームアレイを偏向し、トラッキングサイクル中、その位置で、各ビームがそれぞれ例えば4つの画素36を描画(露光)する間、ビームアレイ(照射領域34)がXYステージ105の移動によって試料101との相対位置がずれないように、偏向器208によってマルチビーム20全体を一括偏向することによって、ビームアレイ(照射領域34)をXYステージ105の移動に追従させればよい。
【0161】
第2回目の描画工程(S176)において、ショットデータ生成部70は、画素36毎に、第2回目の描画処理のための当該画素36に照射するための入射照射量D(x)(ドーズ量)を演算する。言い換えれば、ドーズマップに定義された照射量に基準照射量Dbaseを乗じることにより入射照射量D(x)(ドーズ量)を演算する。ドーズマップに入射照射量D(x)(ドーズ量)が定義されている場合には、そのまま使用すればよい。
【0162】
次に、ショットデータ生成部70は、画素36毎の第2回目の描画処理のための照射時間を算出する。画素36毎の照射時間は、当該画素の入射照射量D(x)を電流密度Jで割ることで算出できる。
【0163】
そして、データ加工部72は、得られた画素36毎の照射時間データを第2回目の描画処理のためのショット順に並び変えて、記憶装置142に格納する。転送処理部74は、ショット順に照射時間データを偏向制御回路130に転送する。
【0164】
描画制御部76による制御のもと、描画機構150は、補正量(dx2ndn,dy2ndn)で補正されたビーム照射位置に基づいて、マルチビーム20(電子ビーム)を用いて試料101にパターンを描画する。描画機構150は、XYステージ105を移動しながら描画する。具体的には、偏向制御回路130(補正部の一例)による制御のもと、偏向器208は、マルチビーム20のトラッキングサイクル毎に、ビームアレイの代表位置(例えば、中心位置、或いは中心ビームの位置)が含まれるグローバルメッシュ領域11の補正量(dx2ndn,dy2ndn)だけ補正された位置にビームアレイ(照射領域)を偏向する。ビームアレイ(照射領域34)の偏向位置は、上述したビームアレイの代表位置(例えば、中心位置、或いは中心ビームの位置)を基準に設定される。
【0165】
実施の形態3の変形例において、実施の形態2の変形例と同様、パターンデータ上でパターンの形成位置を補正しても良い。
【0166】
実施の形態3の変形例における第1回目の描画工程(S174)の内容は、実施の形態3の第1回目の描画工程(S174)と同様である。
【0167】
実施の形態3の変形例における第2回目の描画工程(S176)として、ショットデータ生成部70は、まず、グローバルメッシュ領域(xn,yn)毎の第2回目の描画処理のための補正量(dx2ndn,dy2ndn)を要素値とする補正量マップに基づいて、描画データ上のパターンの形成位置を補正する。具体的には、以下のように動作する。ショットデータ生成部70は、グローバルメッシュ領域11毎に、当該グローバルメッシュ領域11内に含まれるパターンを当該グローバルメッシュ領域11に定義された補正量だけ位置を補正する。
【0168】
そして、ショットデータ生成部70は、補正されたパターンレイアウトを用いて、改めて第1回目の描画処理のためのドーズマップを作成する。ドーズマップの作成手法は上述した内容と同様である。
そして、ショットデータ生成部70は、画素36毎の照射時間を算出する。画素36毎の照射時間は、当該画素の入射照射量D(x)を電流密度Jで割ることで算出できる。
【0169】
そして、データ加工部72は、得られた画素36毎の照射時間データをショット順に並び変えて、記憶装置142に格納する。転送処理部74は、ショット順に照射時間データを偏向制御回路130に転送する。
【0170】
描画制御部76による制御のもと、描画機構150は、第2回目の描画処理として、補正量で補正されたビーム照射位置に基づいて、マルチビーム20(電子ビーム)を用いて試料101にパターンを描画する。実施の形態3の変形例では、リアルタイムモード及び前処理モード共に、パターンデータ上でパターンの位置が既に補正量(dx2ndn,dy2ndn)で位置が補正されている。そのため、描画する際、偏向制御回路130による制御の下、偏向器208は、トラッキングサイクル毎に、ビームアレイの代表位置(例えば、中心位置、或いは中心ビームの位置)を設計上の位置にビームアレイを偏向し、トラッキングサイクル中、その位置で、各ビームがそれぞれ例えば4つの画素36を描画(露光)する間、ビームアレイ(照射領域34)がXYステージ105の移動によって試料101との相対位置がずれないように、偏向器208によってマルチビーム20全体を一括偏向することによって、ビームアレイ(照射領域34)をXYステージ105の移動に追従させればよい。
【0171】
以上のように、実施の形態3によれば、2ストローク描画における1ストローク目でのビーム照射位置やパターン形成位置の位置ずれの補正を行わない場合でも、2ストローク目においてマルチビーム20(電子ビーム)の照射による不可逆的な試料101の変形による、ビーム照射位置やパターン形成位置の位置ずれを補正できる。
【0172】
実施の形態4.
実施の形態4では、試料101の描画領域(チップ領域)全体の第1回目の描画処理が一通り終了した後に、試料101を搬出し、現像、エッチング、及びレジスト塗布等を行った後、再度、試料101をステージ105上に載置し直し、異なるレイアウトパターンで試料101の描画領域(チップ領域)全体の第2回目の描画処理を行う重ね合わせ描画を行う場合について説明する。
【0173】
図24は、実施の形態4における描画装置の構成を示す概念図である。図24において、制御計算機110内に、さらに、マークずれ量算出部67、GMC(グリッド マッチング コレクション)補正部68、及びマーク位置補正部69が追加配置された点、検出回路137が追加配置された点、及び電子鏡筒102内にさらに検出器212が配置された点、以外は、図18と同様である。
【0174】
ドーズマップ作成部50、最終位置ずれ量算出部52、描画時位置ずれ量算出部54、補正量算出部56、補正量マップ作成部58、描画時位置ずれ量算出部62、補正量算出部64、補正量マップ作成部66、マークずれ量算出部67、GMC補正部68、マーク位置補正部69、ショットデータ生成部70、データ加工部72、転送処理部74、及び描画制御部76といった各「~部」は、処理回路を有する。かかる処理回路は、例えば、電気回路、コンピュータ、プロセッサ、回路基板、量子回路、或いは、半導体装置を含む。各「~部」は、共通する処理回路(同じ処理回路)を用いても良いし、或いは異なる処理回路(別々の処理回路)を用いても良い。ドーズマップ作成部50、最終位置ずれ量算出部52、描画時位置ずれ量算出部54、補正量算出部56、補正量マップ作成部58、描画時位置ずれ量算出部62、補正量算出部64、補正量マップ作成部66、マークずれ量算出部67、GMC補正部68、マーク位置補正部69、ショットデータ生成部70、データ加工部72、転送処理部74、及び描画制御部76に入出力される情報および演算中の情報はメモリ112にその都度格納される。描画時位置ずれ量算出部54と描画時位置ずれ量算出部62のうち一方が両方の機能を有するように構成しても構わない点は、実施の形態2と同様である。その場合、他方は省略できる。
【0175】
第1回目の描画処理において、図19と同様、試料101の下側のストライプ領域32から上側(y方向)に向かって順に描画を進める。そして、試料101の描画領域(チップ領域)全体の第1回目の描画処理の終了後、試料101を描画装置100から搬出し、現像、エッチング、及びレジスト塗布等を行った後、ステージ105に載置し直した状態で、図19の右側の図で示すように、別のパターンレイアウトの描画データを用いて、既に描画されたパターンレイアウトに重ね合わせて描画する第2回目の描画処理を実施する。図19の右側の図では、第2回目の描画処理の途中のある位置(×で示す:左側の図の×で示す位置と対となる位置)を描画する状態を示している。
【0176】
図25は、実施の形態4の比較例における基板表面の位置ずれの状態の一例を示す図である。
図25では、第1回目の描画処理の開始前の状態と、第1回目の描画処理における所望の位置での描画時の状態と、第1回目の描画処理の完了後の状態と、第2回目の描画処理における所望の位置での描画時の状態と、第2回目の描画処理の完了後の状態と、をそれぞれ示す。
【0177】
図25において、第1回目の描画処理における設計上のビーム照射位置をベクトルA11で示す。第2回目の描画処理における設計上のビーム照射位置をベクトルA21で示す。対象のLTEM基板に対して第1回目の描画処理が進むことで、第1回目の描画処理においてベクトルA11の位置を描画する時点には、描画処理開始前のベクトルA11の位置は、図25に示すように基板の収縮による変形によりベクトルB11の位置に物理的に移動している。同様に、描画処理開始前のベクトルA21の位置は、図25に示すように基板の収縮による変形によりベクトルB21の位置に物理的に移動している。
【0178】
そして、さらに描画処理が進み、第1回目の描画処理の終了後には、図25に示すようにさらなる変形により、描画処理開始前のベクトルA11の位置は、ベクトルC11の位置に物理的に移動している。同様に、描画処理開始前のベクトルA21の位置は、ベクトルC21の位置に物理的に移動している。
【0179】
そして、第2回目の描画処理が開始され、描画処理が進み、第2回目の描画処理においてベクトルA21の位置を描画する時点には、描画処理開始前のベクトルA11の位置は、図25に示すように基板の収縮による変形によりベクトルB12の位置に物理的に移動している。同様に、描画処理開始前のベクトルA21の位置は、ベクトルB22の位置に物理的に移動している。
【0180】
そして、さらに描画処理が進み、第2回目の描画処理の終了後(基板全体の描画処理の完了後)には、図25に示すようにさらなる変形により、描画処理開始前のベクトルA11の位置は、ベクトルC12の位置に物理的に移動している。同様に、描画処理開始前のベクトルA21の位置は、ベクトルC22の位置に物理的に移動している。
【0181】
よって、第1回目の描画処理において、描画処理開始前のベクトルA11の位置をそのまま描画すると、基板全体の描画処理の完了後には、描画されたビーム照射位置は、描画処理開始前のベクトルA11の位置から(ベクトルC12-ベクトルB11)で示すベクトルだけ移動した位置(ベクトルA+(ベクトルC12-ベクトルB11))に位置ずれを生じてしまうことになる。同様に、第2回目の描画処理において、描画処理開始前のベクトルA21の位置をそのまま描画すると、基板全体の描画処理の完了後には、描画されたビーム照射位置は、描画処理開始前のベクトルA21の位置から(ベクトルC12-ベクトルB12)で示すベクトルだけ移動した位置(ベクトルA21+(ベクトルC12-ベクトルB12))に位置ずれを生じてしまうことになる。
そこで、実施の形態4では、かかる不可逆な変形が基板に生じる場合であっても、描画処理の完了後に第1回目の描画処理のビーム照射位置が描画処理開始前のベクトルA11の位置になるように、そして第2回目の描画処理のビーム照射位置が描画処理開始前のベクトルA21の位置になるように描画時の照射位置(パターン形成位置)を補正する。
【0182】
図26は、実施の形態4における基板表面の位置ずれの状態の一例を示す図である。実施の形態4における基板表面の変形の状態の図示は省略している。図26において、第1回目の描画処理における設計上のビーム照射位置をベクトルA11で示す。第2回目の描画処理における設計上のビーム照射位置をベクトルA21で示す。
【0183】
対象のLTEM基板に対して第1回目の描画処理が進むことで、第1回目の描画処理においてベクトルA11の位置を描画する時点には、描画処理開始前のベクトルA11の位置は、図26に示すように基板の収縮による変形によりベクトルB11の位置に物理的に移動している。同様に、描画処理開始前のベクトルA21の位置は、図26に示すように基板の収縮による変形によりベクトルB21の位置に物理的に移動している。
【0184】
そして、第1回目の描画処理が終了し、さらに第2回目の描画処理が終了した、基板全体の描画処理の完了後には、図26に示すようにさらなる変形により、描画処理開始前のベクトルA11の位置は、ベクトルC12の位置に物理的に移動している。同様に、描画処理開始前のベクトルA21の位置は、ベクトルC22の位置に物理的に移動している。
【0185】
よって、第1回目の描画処理での描画時には、その時点の位置(ベクトルB11)から基板全体の描画処理の完了後の位置(ベクトルC12)までの位置ずれ量(ベクトルC12-ベクトルB11)だけ補正すればよい。よって、第1回目の描画処理での描画時には、処理開始前のベクトルA11の位置から(ベクトルB11-ベクトルC12)で示すベクトルだけ補正した位置(ベクトルA11+(ベクトルB11-ベクトルC12))をビーム照射位置(或いはパターン形成位置)として描画する。これにより第2回目の描画処理後の基板全体の描画処理の完了後には、第1回目の描画処理で描画されたビーム照射位置(或いはパターン形成位置)は、位置(ベクトルA11+(ベクトルB11-ベクトルC12))から(ベクトルC12-ベクトルB11)で示すベクトルだけ移動した位置であるベクトルA11の位置にできる。
【0186】
そして、第2回目の描画処理においてベクトルA21の位置を描画する時点には、描画処理開始前のベクトルA21の位置は、図26に示すように基板の収縮による変形によりベクトルB22の位置に物理的に移動している。これは、処理開始前のベクトルA11の位置がベクトルB12の位置に移動した位置ずれ量(ベクトルB12-ベクトルA11)と同じである。
第2回目の描画処理が終了した、基板全体の描画処理の完了後には、上述したように描画処理開始前のベクトルA21の位置は、ベクトルC22の位置に物理的に移動している。これは、処理開始前のベクトルA11の位置がベクトルC12の位置に移動した位置ずれ量(ベクトルC12-ベクトルA11)と同じである。
【0187】
よって、第2回目の描画処理での描画時には、その時点の位置(ベクトルB22)から基板全体の描画処理の完了後の位置(ベクトルC22)までの位置ずれ量(ベクトルC22-ベクトルB22)だけ補正すればよい。これは、位置(ベクトルB12)から基板全体の描画処理の完了後の位置(ベクトルC12)までの位置ずれ量(ベクトルC12-ベクトルB12)と同じである。よって、第2回目の描画処理での描画時には、処理開始前のベクトルA21の位置から(ベクトルB12-ベクトルC12)で示すベクトルだけ補正した位置(ベクトルA21+(ベクトルB12-ベクトルC12))をビーム照射位置(或いはパターン形成位置)として描画する。これにより第2回目の描画処理後の基板全体の描画処理の完了後には、第2回目の描画処理で描画されたビーム照射位置(或いはパターン形成位置)は、位置(ベクトルA21+(ベクトルB12-ベクトルC12))から(ベクトルC12-ベクトルB12)で示すベクトルだけ移動した位置であるベクトルA21の位置にできる。
【0188】
以上により、第1回目の描画処理で描画されたビーム照射位置と第2回目の描画処理で描画されたビーム照射位置とを、基板全体の描画処理の完了後に共に描画処理開始前のベクトルA11,A21の位置にできる。よって、両者の相対位置関係を維持できる。
【0189】
図27は、実施の形態4における描画方法の要部工程の一例の一部を示すフローチャート図である。
図28は、実施の形態4における描画方法の要部工程の一例の残部を示すフローチャート図である。
図27及び図28において、実施の形態4における描画方法は、ドーズマップ作成工程(S101)と、最終位置ずれ量(ベクトルC2)算出工程(S103)と、描画スケジュール作成工程(S107)と、描画時位置ずれ量(ベクトルB11)算出工程(S121)と、補正量算出工程(S123)と、判定工程(S124)と、第1の補正量マップ作成工程(S127)と、描画時位置ずれ量(ベクトルB12)算出工程(S131)と、補正量算出工程(S133)と、判定工程(S134)と、第2の補正量マップ作成工程(S137)と、第1のマーク測定工程(S180)と、第1のGMC補正工程(S182)と、第1回目の描画工程(S184)と、現像/エッチング/レジスト塗布工程(S186)と、マークずれ量算出工程(S188)と、第2のマーク測定工程(S190)と、マーク位置補正工程(S192)と、第2のGMC補正工程(S194)と、第2回目の描画工程(S196)と、いう一連の各工程を実施する。実施の形態4における描画処理は、第1チップパターンを描画する第1描画処理と、第1描画処理の後に行われ、第2チップパターンを第1チップパターンに重ねるように描画する第2描画処理と、を含む。実施の形態4における第2チップパターンは第1チップパターンとは異なる。
【0190】
図27及び図28では、すべての領域のビーム照射位置(或いはパターン形成位置)を補正する計算処理を前処理として行った後に描画動作を開始する前処理モードで描画処理を行う場合のフローチャート図を示している。描画動作をしながら次の領域のビーム照射位置(或いはパターン形成位置)を補正する計算処理を行うリアルタイムモードで描画処理を行う場合のフローチャート図については図示を省略している。
【0191】
リアルタイムモードでは、第1のマーク測定工程(S180)と、第1のGMC補正工程(S182)と、を実施した後、第1回目の描画処理におけるk番目のストライプ領域の描画動作とk+m番目のストライプ領域の補正計算処理(描画時位置ずれ量(ベクトルB11)算出工程(S121)と、補正量算出工程(S123)と、判定工程(S124)と、第1の補正量マップ作成工程(S127))とを同時期に実施する。そして、補正計算処理が完了したストライプ領域32について順次、第1回目の描画工程(S194)を実施する。
その後、現像/エッチング/レジスト塗布工程(S186)と、マークずれ量算出工程(S188)と、第2のマーク測定工程(S190)と、マーク位置補正工程(S192)と、第2のGMC補正工程(S194)と、を実施した後、第2回目の描画処理におけるk番目のストライプ領域の描画動作とk+m番目のストライプ領域の補正計算処理(描画時位置ずれ量(ベクトルB12)算出工程(S131)と、補正量算出工程(S133)と、判定工程(S134)と、第2の補正量マップ作成工程(S136))とを同時期に実施する。そして、補正計算処理が完了したストライプ領域32について順次、第2回目の描画工程(S196)を実施する。
【0192】
ドーズマップ作成工程(S101)として、ドーズマップ作成部50は、画素毎にドーズ量が定義されたドーズマップを作成する。ここでは、第1回目の描画処理用のドーズマップ(第1のドーズマップ)と、第2回目の描画処理用のドーズマップ(第2のドーズマップ)とを作成する。ドーズマップの作成の仕方は上述したドーズマップ作成工程(S102)の内容と同様で構わない。
【0193】
最終位置ずれ量(ベクトルC12)算出工程(S103)として、最終位置ずれ量算出部52は、電子ビームの照射による不可逆に変形する試料101に対して電子ビームを用いてパターンを描画した場合の描画終了後の試料101の不可逆変形による、設計上の位置からのパターンの形成位置若しくはビーム照射位置の最終位置ずれ量(第1の位置ずれ量)を算出する。具体的には、最終位置ずれ量算出部52は、第1の描画処理と第2の描画処理とが終了し、試料101への描画処理が完了後の各位置の位置ずれ量(ベクトルC12)を算出する。
【0194】
そして、最終位置ずれ量算出部52は、各グローバルメッシュ領域11(位置)内の代表点(例えば中心位置)におけるベクトルC12を算出する。各ベクトルC12は、最終位置ずれ量(dxfinal-i,dyfinal-i)として算出される。iは各グローバルメッシュ領域11のインデックスを示す。パターンの形成位置若しくはビーム照射位置が含まれるグローバルメッシュ領域11の最終位置ずれ量が、当該パターンの形成位置若しくはビーム照射位置の最終位置ずれ量に相当する。
各グローバルメッシュ領域11の最終位置ずれ量(dxfinal-i,dyfinal-i)は、ドーズマップに定義された照射量(照射係数)に依存し、上述したように、例えば、有限要素法を用いて算出することができる。
【0195】
描画スケジュール作成工程(S107)として、描画制御部76は、ドーズマップに定義された各画素のショット順を定義する描画スケジュールを作成する。ここでは、第1の描画処理と第2の描画処理とについてそれぞれ描画スケジュールを作成する。これにより、ショット毎に、当該ショットを行う時(描画時)までに照射された位置と照射量がわかる。
【0196】
描画時位置ずれ量(ベクトルB11)算出工程(S121)として、描画時位置ずれ量算出部54は、第1描画処理において、電子ビームの照射時点における、照射時点よりも前に試料101に照射された電子ビームによる、試料101の不可逆変形により生じた設計上の位置からの描画時位置ずれ量(第2位置ずれ量)を算出する。言い換えれば、描画時位置ずれ量算出部54は、第1の描画処理におけるパターンの形成位置若しくはビーム照射位置に照射される対象の電子ビームの照射よりも前に試料101が照射された電子ビームによる試料101の不可逆変形による、かかる対象の電子ビームの照射時における設計上の位置からのパターンの形成位置若しくはビーム照射位置の描画時位置ずれ量(第2の位置ずれ量)を算出する。具体的には、描画時位置ずれ量算出部54は、各グローバルメッシュ領域11内の代表位置の描画時の位置ずれ量(ベクトルB11)を算出する。各グローバルメッシュ領域11のベクトルB11は、描画時位置ずれ量(dx1stwrite-n,dy1stwrite-n)として算出される。nは各グローバルメッシュ領域11のインデックスを示す。パターンの形成位置若しくはビーム照射位置が含まれるグローバルメッシュ領域11の描画時位置ずれ量が、当該パターンの形成位置若しくはビーム照射位置の描画時位置ずれ量に相当する。各グローバルメッシュ領域11の描画時位置ずれ量(dx1stwrite-n,dy1stwrite-n)は、ドーズマップに定義された照射量(照射係数)に依存し、上述したように、例えば、有限要素法を用いて同様に算出することができる。
【0197】
なお、上述した例では、グローバルメッシュ領域11毎に、描画時位置ずれ量を算出する場合を説明したが、これに限るものではない。実際のショット時におけるビームアレイの代表位置(例えば、中心位置、或いは中心ビームの位置)毎に、描画時位置ずれ量を算出しても好適である。
【0198】
補正量算出工程(S123)として、補正量算出部56は、描画終了後の試料101の不可逆変形による最終位置ずれ量を基準にして、対象の電子ビーム(マルチビーム20)で試料101を照射する場合におけるパターンの形成位置若しくはビーム照射位置を補正するための補正量(ベクトルB11-ベクトルC12)(第1の補正量)を算出する。第1回目の描画処理の描画時位置ずれ量(ベクトルB11)と最終時位置ずれ量(ベクトルC12)との差分により補正量(ベクトルB11-ベクトルC12)(第1の補正量)が算出される。言い換えれば、補正量算出部56は、第1描画処理の描画時位置ずれ量と最終位置ずれ量との差分に基づき、第1描画処理における第1補正量を算出する。さらに言い換えれば、n番目にビーム照射(描画)されるグローバルメッシュ領域11内の各位置の補正量(dx1stn,dy1stn)は、描画時位置ずれ量(dx1stwrite-n,dy1stwrite-n)-最終位置ずれ量(dxfinal-n,dyfinal-n)で算出できる。
【0199】
判定工程(S124)として、描画制御部76は、すべてのストライプ領域32について第1回目の描画処理のための補正量の算出が完了したかどうかを判定する。まだ、完了していない場合には描画時位置ずれ量算出工程(S121)に戻り、次のストライプ領域32について描画時位置ずれ量算出工程(S121)から判定工程(S124)までを繰り返す。このように、すべてのストライプ領域32の描画が完了するまで、描画時位置ずれ量算出工程(S120)から判定工程(S124)までを繰り返す。
【0200】
第1の補正量マップ作成工程(S127)として、補正量マップ作成部58は、試料101面全体について、グローバルメッシュ領域(xn,yn)毎の第1回目の描画処理のための補正量(dx1stn,dy1stn)を要素値とする第1の補正量マップを作成する。第1の補正量マップは記憶装置142に格納される。
【0201】
描画時位置ずれ量(ベクトルB12)算出工程(S131)として、描画時位置ずれ量算出部62は、第2描画処理において、電子ビームの照射時点における、照射時点よりも前に試料101に照射された電子ビームによる、試料101の不可逆変形により生じた設計上の位置からの描画時位置ずれ量(第3位置ずれ量)を算出する。言い換えれば、描画時位置ずれ量算出部62は、第1の描画処理での対象の電子ビームに対応する(対となる)第2の描画処理での電子ビームの照射よりも前に試料101が照射された電子ビームによる試料101の不可逆変形による、第1の描画処理での対象の電子ビームに対応する第2の描画処理での電子ビームの照射時における設計上の位置からのパターンの形成位置若しくはビーム照射位置の描画時位置ずれ量(第3の位置ずれ量)を算出する。具体的には、描画時位置ずれ量算出部62は、各グローバルメッシュ領域11内の代表位置の描画時の位置ずれ量(ベクトルB12)を算出する。各グローバルメッシュ領域11のベクトルB12は、描画時位置ずれ量(dx2ndwrite-n,dy2ndwrite-n)として算出される。nは各グローバルメッシュ領域11のインデックスを示す。パターンの形成位置若しくはビーム照射位置が含まれるグローバルメッシュ領域11の描画時位置ずれ量が、当該パターンの形成位置若しくはビーム照射位置の描画時位置ずれ量に相当する。各グローバルメッシュ領域11の描画時位置ずれ量(dx2ndwrite-n,dy2ndwrite-n)は、ドーズマップに定義された照射量(照射係数)に依存し、上述したように、例えば、有限要素法を用いて同様に算出することができる。
【0202】
なお、上述したように、実際のショット時におけるビームアレイの代表位置(例えば、中心位置、或いは中心ビームの位置)毎に、描画時位置ずれ量を算出しても好適である。
【0203】
補正量算出工程(S133)として、補正量算出部64は、描画終了後の試料101の不可逆変形による最終位置ずれ量を基準にして、第1の描画処理での対象の電子ビームに対応する(対となる)第2の描画処理での電子ビーム(マルチビーム20)で試料101を照射する場合におけるパターンの形成位置若しくはビーム照射位置を補正するための補正量(ベクトルB12-ベクトルC12)(第2の補正量)を算出する。第2回目の描画処理の描画時位置ずれ量(ベクトルB12)と最終時位置ずれ量(ベクトルC12)との差分により補正量(ベクトルB12-ベクトルC12)(第2の補正量)が算出される。言い換えれば、補正量算出部64は、第2描画処理の描画時位置ずれ量と最終位置ずれ量との差分に基づき、第2描画処理における第2補正量を算出する。さらに言い換えれば、n番目にビーム照射(描画)されるグローバルメッシュ領域11内の各位置の補正量(dx2ndn,dy2ndn)は、描画時位置ずれ量(dx2ndwrite-n,dy2ndwrite-n)-最終位置ずれ量(dxfinal-n,dyfinal-n)で算出できる。
【0204】
判定工程(S134)として、描画制御部76は、すべてのストライプ領域32について第2回目の描画処理のための補正量の算出が完了したかどうかを判定する。まだ、完了していない場合には描画時位置ずれ量算出工程(S131)に戻り、次のストライプ領域32について描画時位置ずれ量算出工程(S131)から判定工程(S134)までを繰り返す。このように、第2の描画処理のためのすべてのストライプ領域32の描画が完了するまで、描画時位置ずれ量算出工程(S131)から判定工程(S134)までを繰り返す。
【0205】
第2の補正量マップ作成工程(S137)として、補正量マップ作成部66は、試料101面全体について、グローバルメッシュ領域(xn,yn)毎の第2回目の描画処理のための補正量(dx2ndn,dy2ndn)を要素値とする第2の補正量マップを作成する。第2の補正量マップは記憶装置142に格納される。
【0206】
第1のマーク測定工程(S180)として、第1の描画処理の前にアライメントマーク14のマーク位置(第1のマーク位置)を測定する。具体的には、試料101が描画装置100内に搬入され、ステージ103上に載置された状態で、試料101の例えば4隅に形成されたアライメントマーク14のマーク位置が測定される。
【0207】
図29は、実施の形態4におけるアライメントマークが形成された試料面の一例を示す図である。図29において、試料101には、予め、アライメント用のアライメントマーク14が形成される。例えば、複数のアライメントマーク14が形成される。各アライメントマーク14として、図29に示すように、例えば、十字パターンが形成されると好適である。図29の例では、試料101面上の中央部にパターンを形成するためのチップ領域がある。そして、試料101面上の例えば4隅にそれぞれアライメントマーク14が形成される。描画制御部76による制御の下、描画機構150は、電子ビームで各アライメントマーク14を走査し、アライメントマーク14を含む試料101面から放出された2次電子を検出器212で検出する。検出器212で検出された強度データは、検出回路137に出力される。検出回路137は、アナログデータをデジタルデータに変換の上、増幅して制御計算機110に出力する。
【0208】
第1のGMC補正工程(S182)として、GMC補正部68は、測定された各アライメントマーク14の位置を基準に、パターンデータをグリッドマッチング補正する。例えば、試料101の左下のマーク位置を原点として、原点と右下のマーク位置を結ぶx軸と、原点と左上のマーク位置を結ぶy軸を設定する。第1の描画処理の際の試料101に描画されるチップパターン(第1のチップパターン)の位置は、測定されたマーク位置(第1のマーク位置)を基準に定義される。そのため、GMC補正部68は、描画データに定義されるパターンデータの座標系をx軸とy軸に合わせるようにパターンデータを補正する。これにより、複数のアライメントマーク14から得られた原点を基準にして、各パターンデータは、平行移動、回転、縮小/拡大の処理が実施され得る。データ変換の仕方は、従来の手法と同様で構わないため記載を省略する。
【0209】
重ね合わせ描画では、第1回目の描画処理で描画されるパターンと、第2回目の描画処理で描画されるパターンとの相対位置関係が重要となる。一方、第1回目の描画処理と第2回目の描画処理との間で、ステージ103から試料101を搬出する。よって、第1回目の描画処理と第2回目の描画処理とでステージ103上の完全に同じ位置に試料101が配置されるとは限らない。そこで、マーク位置を基準にして、第1回目の描画処理でのパターン形成位置と第2回目の描画処理でのパターン形成位置とを合わせる。
【0210】
なお、上述した各実施の形態においても、マーク測定とGMC補正とを行うと好適である。これにより、試料101面上のマーク位置を基準にしてパターンを描画できる。
【0211】
第1回目の描画工程(S184)として、ショットデータ生成部70は、画素36毎に、第1回目の描画処理のための当該画素36に照射するための入射照射量D(x)(ドーズ量)を演算する。言い換えれば、ドーズマップに定義された照射量に基準照射量Dbaseを乗じることにより入射照射量D(x)(ドーズ量)を演算する。ドーズマップに入射照射量D(x)(ドーズ量)が定義されている場合には、そのまま使用すればよい。
【0212】
次に、ショットデータ生成部70は、画素36毎の第1回目の描画処理のための照射時間を算出する。画素36毎の照射時間は、当該画素の入射照射量D(x)を電流密度Jで割ることで算出できる。
【0213】
そして、データ加工部72は、得られた画素36毎の照射時間データを第1回目の描画処理のためのショット順に並び変えて、記憶装置142に格納する。転送処理部74は、ショット順に照射時間データを偏向制御回路130に転送する。
【0214】
描画制御部76による制御のもと、描画機構150は、補正量(dx1stn,dy1stn)で補正されたビーム照射位置に基づいて、マルチビーム20(電子ビーム)を用いて試料101にパターンを描画する。言い換えれば、描画機構150は、第1描画処理の描画時位置ずれ量と最終位置ずれ量との差分に基づき、第1描画処理における第2補正を行う。描画機構150は、XYステージ105を移動しながら描画する。具体的には、偏向制御回路130(補正部の一例)による制御のもと、偏向器208は、マルチビーム20のトラッキングサイクル毎に、ビームアレイの代表位置(例えば、中心位置、或いは中心ビームの位置)が含まれるグローバルメッシュ領域11の補正量(dx1stn,dy1stn)だけ補正された位置にビームアレイ(照射領域)を偏向する。ビームアレイ(照射領域34)の偏向位置は、上述したビームアレイの代表位置(例えば、中心位置、或いは中心ビームの位置)を基準に設定される。
【0215】
現像/エッチング/レジスト塗布工程(S186)として、描画装置100から試料101を搬出し、現像/エッチング/レジスト塗布を行う。これにより、第1回目の描画処理で描画されたパターンが試料101面上に形成される。試料101は、例えば、ガラス基板上にクロム(Cr)等の遮光膜が形成され、遮光膜の上にレジスト膜が塗布されている。第1の描画処理でレジスト膜上に第1の描画処理でのチップパターン(第1のチップパターン)が描画される。そして、現像によりかかるチップパターンに沿ったレジストパターンが形成され、エッチング及びその後のアッシングにより遮光膜にかかるチップパターンが形成される。続いて第2の描画処理を行うために、試料101に改めてレジスト膜が塗布され、描画装置100内に搬入され、ステージ103上に載置される。
【0216】
図30は、実施の形態4における第1の描画処理後のマーク位置の一例を示す図である。
図31は、実施の形態4における第2の描画処理後のマーク位置の一例を示す図である。試料101は、第1の描画処理によって、図30に示すように不可逆に変形する。そして、試料101は、第2の描画処理によって、図31に示すように不可逆にさらに変形する。よって、試料101上の各アライメントマーク14の物理的な位置は、第1の描画処理及び第2の描画処理によって、それぞれ位置ずれが生じる。
【0217】
マークずれ量算出工程(S188)として、マークずれ量算出部67は、第1の描画処理の終了後の試料101の不可逆変形による、第1の描画処理の開始前のマーク位置(第1のマーク位置)からのマーク位置の位置ずれ量を算出する。具体的には、マークずれ量算出部67は、第1の描画処理の終了後、第2の描画処理の開始前のタイミングで、各アライメントマーク14の1つずつが含まれるグローバルメッシュ領域11内の代表位置の位置ずれ量(マークずれ量)を算出する。各アライメントマーク14の1つずつが含まれる各グローバルメッシュ領域11の位置ずれ量は、マークずれ量(dxmark-n,dymark-n)として算出される。nは各グローバルメッシュ領域11のインデックスを示す。各アライメントマーク14の1つずつが含まれるグローバルメッシュ領域11の第1の描画処理の終了後のマークずれ量(dxmark-n,dymark-n)は、ドーズマップに定義された照射量(照射係数)に依存し、上述したように、例えば、有限要素法を用いて同様に算出することができる。算出されたマークずれ量(dxmark-n,dymark-n)のデータは、記憶装置142に格納される。
【0218】
現像/エッチング/レジスト塗布工程(S186)とマークずれ量算出工程(S188)は、どちらを先に実施してもよい。或いは、同時に実施しても良い。
【0219】
第2のマーク測定工程(S190)として、ステージ103から一旦搬出され、第2の描画処理のために改めて試料101がステージ103に載置された状態で、第2の描画処理の開始前に、アライメントマーク14のマーク位置(第2のマーク位置)を測定する。マーク位置の測定の仕方は、第1のマーク測定工程(S180)と同様で構わない。
【0220】
第1回目の描画処理で描画されるチップパターンのデータと、第2回目の描画処理で描画されるチップパターンのデータは、ビーム照射による試料101の不可逆変形が無い前提で作成されている。よって、第2のマーク測定工程(S190)で測定された各マーク位置を基準に第2回目の描画処理で描画されるチップパターンを描画すると、試料101の不可逆変形による位置ずれ分だけ第1回目の描画処理で描画されるパターンと、第2回目の描画処理で描画されるパターンとの相対位置がずれてしまう。そこで、実施の形態4では、第2回目の描画処理で基準になるマーク位置について、測定結果から試料101の不可逆変形による位置ずれ分を補正する。以下に説明する。
【0221】
マーク位置補正工程(S192)として、マーク位置補正部69は、第2の描画処理の開始前に、測定されたマーク位置(第2のマーク位置)からマーク位置の位置ずれ量分であるマークずれ量(dxmark-n,dymark-n)を補正したマーク位置(第3のマーク位置)を算出する。第1のマーク測定工程(S180)時の試料101のステージ103上の位置と、第2のマーク測定工程(S190)時の試料101のステージ103上の位置とは、一旦試料101を搬出しているので、第1の描画処理による試料101の不可逆変形による位置ずれとは異なる位置ずれがさらに生じている。よって、マーク位置補正工程(S192)によって、第2のマーク測定工程(S190)で測定されたマーク位置から第1の描画処理による試料101の不可逆変形によるアライメントマーク14の位置ずれ量分を補正できる。
【0222】
第2のGMC補正工程(S194)として、GMC補正部68は、補正された各アライメントマーク14の位置(第3のマーク位置)を基準に、パターンデータをグリッドマッチング補正する。例えば、試料101の左下のマーク位置を原点として、原点と右下のマーク位置を結ぶx軸と、原点と左上のマーク位置を結ぶy軸を設定する。第2の描画処理の際の試料101に描画されるチップパターン(第2のチップパターン)の位置は、補正されたマーク位置(第3のマーク位置)を基準に定義される。そのため、GMC補正部68は、描画データに定義されるパターンデータの座標系をx軸とy軸に合わせるようにパターンデータを補正する。これにより、補正された複数のアライメントマーク14から得られた原点を基準にして、各パターンデータは、平行移動、回転、縮小/拡大の処理が実施され得る。データ変換の仕方は、従来の手法と同様で構わないため記載を省略する。
【0223】
第2回目の描画工程(S196)として、ショットデータ生成部70は、画素36毎に、第2回目の描画処理のための当該画素36に照射するための入射照射量D(x)(ドーズ量)を演算する。言い換えれば、ドーズマップに定義された照射量に基準照射量Dbaseを乗じることにより入射照射量D(x)(ドーズ量)を演算する。ドーズマップに入射照射量D(x)(ドーズ量)が定義されている場合には、そのまま使用すればよい。
【0224】
次に、ショットデータ生成部70は、画素36毎の第2回目の描画処理のための照射時間を算出する。画素36毎の照射時間は、当該画素の入射照射量D(x)を電流密度Jで割ることで算出できる。
【0225】
そして、データ加工部72は、得られた画素36毎の照射時間データを第2回目の描画処理のためのショット順に並び変えて、記憶装置142に格納する。転送処理部74は、ショット順に照射時間データを偏向制御回路130に転送する。
【0226】
描画制御部76による制御のもと、描画機構150は、補正量(dx2ndn,dy2ndn)で補正されたビーム照射位置に基づいて、マルチビーム20(電子ビーム)を用いて試料101にパターンを描画する。言い換えれば、描画機構150は、第2描画処理の描画時位置ずれ量と最終位置ずれ量との差分に基づき、第2描画処理における第2補正を行う。描画機構150は、XYステージ105を移動しながら描画する。具体的には、偏向制御回路130(補正部の一例)による制御のもと、偏向器208は、マルチビーム20のトラッキングサイクル毎に、ビームアレイの代表位置(例えば、中心位置、或いは中心ビームの位置)が含まれるグローバルメッシュ領域11の補正量(dx2ndn,dy2ndn)だけ補正された位置にビームアレイ(照射領域)を偏向する。ビームアレイ(照射領域34)の偏向位置は、上述したビームアレイの代表位置(例えば、中心位置、或いは中心ビームの位置)を基準に設定される。
【0227】
実施の形態4の変形例において、実施の形態2の変形例と同様、パターンデータ上でパターンの形成位置を補正しても良い。
【0228】
実施の形態4の変形例において、第1回目の描画工程(S194)として、ショットデータ生成部70は、まず、グローバルメッシュ領域(xn,yn)毎の第1回目の描画処理のための補正量(dx1stn,dy1stn)を要素値とする第1の補正量マップに基づいて、描画データ上のパターンの形成位置を補正する。具体的には、以下のように動作する。ショットデータ生成部70は、グローバルメッシュ領域11毎に、当該グローバルメッシュ領域11内に含まれるパターンを当該グローバルメッシュ領域11に定義された補正量だけ位置を補正する。
【0229】
そして、ショットデータ生成部70は、補正されたパターンレイアウトを用いて、改めて第1回目の描画処理のためのドーズマップを作成する。ドーズマップの作成手法は上述した内容と同様である。
そして、ショットデータ生成部70は、画素36毎の照射時間を算出する。画素36毎の照射時間は、当該画素の入射照射量D(x)を電流密度Jで割ることで算出できる。
【0230】
そして、データ加工部72は、得られた画素36毎の照射時間データをショット順に並び変えて、記憶装置142に格納する。転送処理部74は、ショット順に照射時間データを偏向制御回路130に転送する。
【0231】
描画制御部76による制御のもと、描画機構150は、第1回目の描画処理として、補正量で補正されたビーム照射位置に基づいて、マルチビーム20(電子ビーム)を用いて試料101にパターンを描画する。実施の形態4の変形例では、リアルタイムモード及び前処理モード共に、パターンデータ上でパターンの位置が既に補正量(dx1stn,dy1stn)で位置が補正されている。そのため、描画する際、偏向制御回路130による制御の下、偏向器208は、トラッキングサイクル毎に、ビームアレイの代表位置(例えば、中心位置、或いは中心ビームの位置)を設計上の位置にビームアレイを偏向し、トラッキングサイクル中、その位置で、各ビームがそれぞれ例えば4つの画素36を描画(露光)する間、ビームアレイ(照射領域34)がXYステージ105の移動によって試料101との相対位置がずれないように、偏向器208によってマルチビーム20全体を一括偏向することによって、ビームアレイ(照射領域34)をXYステージ105の移動に追従させればよい。
【0232】
同様に、第2回目の描画工程(S196)として、ショットデータ生成部70は、まず、グローバルメッシュ領域(xn,yn)毎の第2回目の描画処理のための補正量(dx2ndn,dy2ndn)を要素値とする第2の補正量マップに基づいて、描画データ上のパターンの形成位置を補正する。具体的には、以下のように動作する。ショットデータ生成部70は、グローバルメッシュ領域11毎に、当該グローバルメッシュ領域11内に含まれるパターンを当該グローバルメッシュ領域11に定義された補正量だけ位置を補正する。
【0233】
そして、ショットデータ生成部70は、補正されたパターンレイアウトを用いて、改めて第1回目の描画処理のためのドーズマップを作成する。ドーズマップの作成手法は上述した内容と同様である。
そして、ショットデータ生成部70は、画素36毎の照射時間を算出する。画素36毎の照射時間は、当該画素の入射照射量D(x)を電流密度Jで割ることで算出できる。
【0234】
そして、データ加工部72は、得られた画素36毎の照射時間データをショット順に並び変えて、記憶装置142に格納する。転送処理部74は、ショット順に照射時間データを偏向制御回路130に転送する。
【0235】
描画制御部76による制御のもと、描画機構150は、第2回目の描画処理として、補正量で補正されたビーム照射位置に基づいて、マルチビーム20(電子ビーム)を用いて試料101にパターンを描画する。実施の形態4の変形例では、リアルタイムモード及び前処理モード共に、パターンデータ上でパターンの位置が既に補正量(dx2ndn,dy2ndn)で位置が補正されている。そのため、描画する際、偏向制御回路130による制御の下、偏向器208は、トラッキングサイクル毎に、ビームアレイの代表位置(例えば、中心位置、或いは中心ビームの位置)を設計上の位置にビームアレイを偏向し、トラッキングサイクル中、その位置で、各ビームがそれぞれ例えば4つの画素36を描画(露光)する間、ビームアレイ(照射領域34)がXYステージ105の移動によって試料101との相対位置がずれないように、偏向器208によってマルチビーム20全体を一括偏向することによって、ビームアレイ(照射領域34)をXYステージ105の移動に追従させればよい。
【0236】
以上のように、実施の形態4によれば、マルチビーム20(電子ビーム)の照射による不可逆的な試料101の変形による、重ね合わせ描画におけるビーム照射位置やパターン形成位置の位置ずれを補正できる。
【0237】
実施の形態5.
実施の形態5では、実施の形態4で説明した重ね合わせ描画について、第1回目の描画処理では補正せずに描画した場合に、第2回目の描画処理において、第1回目の描画処理で描画された位置に対して相対位置を維持するように第2回目の描画処理を行う場合を説明する。
実施の形態5における描画装置100の構成は、最終位置ずれ量算出部52、補正量算出部56、及び補正量マップ作成部58を省略した点以外は、図24と同様である。
【0238】
図32は、実施の形態5における基板表面の位置ずれの状態の一例を示す図である。
図32では、第1回目の描画処理の開始前の状態と、第1回目の描画処理における所望の位置での描画時の状態と、第1回目の描画処理の完了後の状態と、第2回目の描画処理における所望の位置での描画時の状態と、第2回目の描画処理の完了後の状態と、をそれぞれ示す。
【0239】
図32において、第1回目の描画処理での設計上のビーム照射位置をベクトルA11で示す。第2回目の描画処理での設計上のビーム照射位置をベクトルA21で示す。対象のLTEM基板に対して第1回目の描画処理において、補正せずに描画処理開始前のベクトルA11の位置をそのまま描画すると、第2回目の描画処理においてベクトルA21の位置を描画する時点には、描画処理開始前のベクトルA11の位置は、図32に示すように基板の収縮による変形により描画処理開始前のベクトルA11の位置から(ベクトルB12-ベクトルB11)で示すベクトルだけ移動した位置(ベクトルA11+(ベクトルB12-ベクトルB11))に物理的に移動している。同様に、描画処理開始前のベクトルA21の位置は、図32に示すように基板の収縮による変形により描画処理開始前のベクトルA21の位置から(ベクトルB12-ベクトルB11)で示すベクトルだけ移動した位置(ベクトルA21+(ベクトルB12-ベクトルB11))に物理的に移動している。
【0240】
実施の形態5では、第1回目の描画処理とは、異なるレイアウトパターンで第2回目の描画処理を行うので、第1回目の描画処理でのビーム照射位置と相対位置関係を維持した状態で第2回目の描画処理にて重ねて描画する。
よって、第2回目の描画処理での描画時には、処理開始前のベクトルA21の位置から(ベクトルB12-ベクトルB11)で示すベクトルだけ補正した位置(ベクトルA21+(ベクトルB12-ベクトルB11))をビーム照射位置(或いはパターン形成位置)として描画する。これにより第2回目の描画処理後の基板全体の描画処理の完了後には、第1回目の描画処理で描画されたビーム照射位置(或いはパターン形成位置)と第2回目の描画処理で描画されたビーム照射位置(或いはパターン形成位置)とは、処理開始前のベクトルA11,A21の位置とは異なるが、同じ相対位置関係にできる。
【0241】
実施の形態5における描画方法の要部工程の一例の一部を示すフローチャート図は、図27の各工程のうち、最終位置ずれ量(ベクトルC12)算出工程(S103)と、補正量算出工程(S123)と、判定工程(S124)と、第1の補正量マップ作成工程(S127)と、を省略した内容と同様である。実施の形態5における描画方法の要部工程の一例の残部を示すフローチャート図は、図28と同様である。実施の形態5では、第1回目の描画処理では補正しないので、第1回目の描画処理での補正量の算出は行わない。
【0242】
実施の形態5におけるドーズマップ作成工程(S101)と描画スケジュール作成工程(S107)と描画時位置ずれ量(ベクトルB11)算出工程(S121)との内容は、実施の形態4で説明した図27のドーズマップ作成工程(S101)と描画スケジュール作成工程(S107)と描画時位置ずれ量(ベクトルB11)算出工程(S121)との内容と同様である。
言い換えれば、描画時位置ずれ量(ベクトルB11)算出工程(S121)において、描画時位置ずれ量算出部54は、電子ビームの照射量分布に依存して不可逆に変形する試料101に、電子ビームを照射してパターンを描画した場合の、第1チップパターンを描画する第1描画処理において、電子ビームの照射時点における、照射時点よりも前に試料101に照射された電子ビームによる、試料101の不可逆変形により生じた第1チップパターンの設計上の位置からの描画時位置ずれ量(第1位置ずれ量)を算出する。
【0243】
実施の形態5における描画時位置ずれ量(ベクトルB12)算出工程(S131)の内容は、実施の形態4で説明した図27の描画時位置ずれ量(ベクトルB12)算出工程(S131)の内容と同様である。
言い換えれば、描画時位置ずれ量(ベクトルB12)算出工程(S131)において、描画時位置ずれ量算出部62は、第1チップパターンに重ねるように第2チップパターンを描画する第2描画処理において、電子ビームの照射時点における、照射時点よりも前に試料101に照射された電子ビームによる、試料101の不可逆変形により生じた第2チップパターンの設計上の位置からの描画時位置ずれ量(第2位置ずれ量)を算出する。
【0244】
補正量算出工程(S133)として、補正量算出部64は、位置ずれ量(ベクトルB11)を基準にして、第1の描画処理での対象の電子ビームに対応する第2の描画処理での電子ビームの照射時におけるパターンの形成位置若しくはビーム照射位置を補正する補正量(ベクトルB12-ベクトルB11)(第1の補正量の他の一例)を算出する。第2描画処理での描画時位置ずれ量(ベクトルB12)と第1描画処理での描画時位置ずれ量(ベクトルB11)との差分に基づき、第2描画処理において、試料101に電子ビームを照射してパターンを形成する際のパターンの位置若しくは電子ビームの照射位置を補正する補正量(ベクトルB12-ベクトルB11)(第1の補正量の他の一例)が算出される。言い換えれば、n番目にビーム照射(描画)されるグローバルメッシュ領域11内の各位置の補正量(dx2ndn,dy2ndn)は、描画時位置ずれ量(dx2ndwrite-n,dy2ndwrite-n)-描画時位置ずれ量(dx1stwrite-n,dy1stwrite-n)で算出できる。
【0245】
実施の形態5における判定工程(S134)と、第2の補正量マップ作成工程(S137)との内容は、実施の形態4で説明した図27の判定工程(S134)と第2の補正量マップ作成工程(S137)の内容と同様である。
【0246】
実施の形態5における第1のマーク測定工程(S180)と、第1のGMC補正工程(S182)との内容は、図28の第1のマーク測定工程(S180)と、第1のGMC補正工程(S182)とで説明した内容と同様である。
【0247】
実施の形態5における描画機構150は、第2描画処理での描画時位置ずれ量と第1描画処理での描画時位置ずれ量との差分に基づき、第2描画処理において、試料101に電子ビームを照射してパターンを形成する際のパターンの位置若しくは電子ビームの照射位置を補正する。また、描画機構150は、試料101に第1チップパターンを描画する第1描画処理と上述した補正量に基づいて試料101に第2チップパターンを描画する第2描画処理とを行う。以下、具体的に説明する。
【0248】
第1回目の描画工程(S184)において、ショットデータ生成部70は、第1回目の描画処理のためのドーズマップを用いて、画素36毎の照射時間を算出する。画素36毎の照射時間は、当該画素の入射照射量D(x)を電流密度Jで割ることで算出できる。
【0249】
そして、データ加工部72は、得られた画素36毎の照射時間データをショット順に並び変えて、記憶装置142に格納する。転送処理部74は、ショット順に照射時間データを偏向制御回路130に転送する。
【0250】
描画制御部76による制御のもと、描画機構150は、第1回目の描画処理として、マルチビーム20(電子ビーム)を用いて試料101にパターンを描画する。実施の形態5では、リアルタイムモード及び前処理モード共に、描画する際、偏向制御回路130による制御の下、偏向器208は、トラッキングサイクル毎に、ビームアレイの代表位置(例えば、中心位置、或いは中心ビームの位置)を設計上の位置にビームアレイを偏向し、トラッキングサイクル中、その位置で、各ビームがそれぞれ例えば4つの画素36を描画(露光)する間、ビームアレイ(照射領域34)がXYステージ105の移動によって試料101との相対位置がずれないように、偏向器208によってマルチビーム20全体を一括偏向することによって、ビームアレイ(照射領域34)をXYステージ105の移動に追従させればよい。
【0251】
現像/エッチング/レジスト塗布工程(S186)~第2のGMC補正工程(S194)までの各工程の内容は、実施の形態4で説明した図28の現像/エッチング/レジスト塗布工程(S186)~第2のGMC補正工程(S194)までの各工程の内容と同様である。
【0252】
第2回目の描画工程(S196)において、ショットデータ生成部70は、画素36毎に、第2回目の描画処理のための当該画素36に照射するための入射照射量D(x)(ドーズ量)を演算する。言い換えれば、ドーズマップに定義された照射量に基準照射量Dbaseを乗じることにより入射照射量D(x)(ドーズ量)を演算する。ドーズマップに入射照射量D(x)(ドーズ量)が定義されている場合には、そのまま使用すればよい。
【0253】
次に、ショットデータ生成部70は、画素36毎の第2回目の描画処理のための照射時間を算出する。画素36毎の照射時間は、当該画素の入射照射量D(x)を電流密度Jで割ることで算出できる。
【0254】
そして、データ加工部72は、得られた画素36毎の照射時間データを第2回目の描画処理のためのショット順に並び変えて、記憶装置142に格納する。転送処理部74は、ショット順に照射時間データを偏向制御回路130に転送する。
【0255】
描画制御部76による制御のもと、描画機構150は、補正量(dx2ndn,dy2ndn)で補正されたビーム照射位置に基づいて、マルチビーム20(電子ビーム)を用いて試料101にパターンを描画する。描画機構150は、XYステージ105を移動しながら描画する。具体的には、偏向制御回路130(補正部の一例)による制御のもと、偏向器208は、マルチビーム20のトラッキングサイクル毎に、ビームアレイの代表位置(例えば、中心位置、或いは中心ビームの位置)が含まれるグローバルメッシュ領域11の補正量(dx2ndn,dy2ndn)だけ補正された位置にビームアレイ(照射領域)を偏向する。ビームアレイ(照射領域34)の偏向位置は、上述したビームアレイの代表位置(例えば、中心位置、或いは中心ビームの位置)を基準に設定される。
【0256】
実施の形態5の変形例において、実施の形態4の変形例と同様、パターンデータ上でパターンの形成位置を補正しても良い。
【0257】
実施の形態5の変形例における第1回目の描画工程(S194)の内容は、実施の形態5の第1回目の描画工程(S194)と同様である。
【0258】
実施の形態5の変形例における第2回目の描画工程(S196)として、ショットデータ生成部70は、まず、グローバルメッシュ領域(xn,yn)毎の第2回目の描画処理のための補正量(dx2ndn,dy2ndn)を要素値とする補正量マップに基づいて、描画データ上のパターンの形成位置を補正する。具体的には、以下のように動作する。ショットデータ生成部70は、グローバルメッシュ領域11毎に、当該グローバルメッシュ領域11内に含まれるパターンを当該グローバルメッシュ領域11に定義された補正量だけ位置を補正する。
【0259】
そして、ショットデータ生成部70は、補正されたパターンレイアウトを用いて、改めて第1回目の描画処理のためのドーズマップを作成する。ドーズマップの作成手法は上述した内容と同様である。
そして、ショットデータ生成部70は、画素36毎の照射時間を算出する。画素36毎の照射時間は、当該画素の入射照射量D(x)を電流密度Jで割ることで算出できる。
【0260】
そして、データ加工部72は、得られた画素36毎の照射時間データをショット順に並び変えて、記憶装置142に格納する。転送処理部74は、ショット順に照射時間データを偏向制御回路130に転送する。
【0261】
描画制御部76による制御のもと、描画機構150は、第2回目の描画処理として、補正量で補正されたビーム照射位置に基づいて、マルチビーム20(電子ビーム)を用いて試料101にパターンを描画する。実施の形態5の変形例では、リアルタイムモード及び前処理モード共に、パターンデータ上でパターンの位置が既に補正量(dx2ndn,dy2ndn)で位置が補正されている。そのため、描画する際、偏向制御回路130による制御の下、偏向器208は、トラッキングサイクル毎に、ビームアレイの代表位置(例えば、中心位置、或いは中心ビームの位置)を設計上の位置にビームアレイを偏向し、トラッキングサイクル中、その位置で、各ビームがそれぞれ例えば4つの画素36を描画(露光)する間、ビームアレイ(照射領域34)がXYステージ105の移動によって試料101との相対位置がずれないように、偏向器208によってマルチビーム20全体を一括偏向することによって、ビームアレイ(照射領域34)をXYステージ105の移動に追従させればよい。
【0262】
以上のように、実施の形態5によれば、重ね合わせ描画における第1回目の描画処理でのビーム照射位置やパターン形成位置の位置ずれの補正を行わない場合でも、第2回目の描画処理においてマルチビーム20(電子ビーム)の照射による不可逆的な試料101の変形による、ビーム照射位置やパターン形成位置の位置ずれを補正できる。
【0263】
以上、具体例を参照しつつ実施の形態について説明した。しかし、本発明は、これらの具体例に限定されるものではない。
また、各実施の形態で説明した処理の機能をコンピュータに実行させるようにしても構わない。そして、かかる処理の機能をコンピュータに実行させるためのプログラムが、例えば、磁気ディスク装置等の一時的でない有形の読み取り可能な記録媒体に格納されても良い。
【0264】
また、装置構成や制御手法等、本発明の説明に直接必要しない部分等については記載を省略したが、必要とされる装置構成や制御手法を適宜選択して用いることができる。例えば、描画装置100を制御する制御部構成については、記載を省略したが、必要とされる制御部構成を適宜選択して用いることは言うまでもない。
【0265】
その他、本発明の要素を具備し、当業者が適宜設計変更しうる全ての電子ビーム描画方法、電子ビーム描画装置、及びプログラムは、本発明の範囲に包含される。
【符号の説明】
【0266】
12 LTEM基板
13 Cr膜
14 アライメントマーク
16 レジスト膜
20 マルチビーム
22 穴
24 制御電極
25 通過孔
26 対向電極
29 サブ照射領域
30 描画領域
31 ブランキングアパーチャアレイ基板
32 ストライプ領域
33 支持基板
34 照射領域
36 画素
41 制御回路
50 ドーズマップ作成部
52 最終位置ずれ量算出部
54 描画時位置ずれ量算出部
56 補正量算出部
58 補正量マップ作成部
62 描画時位置ずれ量算出部
64 補正量算出部
66 補正量マップ作成部
67 マークずれ量算出部
68 GMC補正部
69 マーク位置補正部
70 ショットデータ生成部
72 データ加工部
74 転送処理部
76 描画制御部
100 描画装置
101 試料
102 電子鏡筒
103 描画室
105 XYステージ
110 制御計算機
112 メモリ
130 偏向制御回路
132,134 DACアンプユニット
136 レンズ制御回路
137 検出回路
138 ステージ制御機構
139 ステージ位置測定器
140,142 記憶装置
150 描画機構
160 制御系回路
200 電子ビーム
201 電子銃
202 照明レンズ
203 成形アパーチャアレイ基板
204 ブランキングアパーチャアレイ機構
205 縮小レンズ
206 制限アパーチャ基板
207 対物レンズ
208 偏向器
209 偏向器
210 ミラー
212 検出器
330 メンブレン領域
図1
図2
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