(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024178406
(43)【公開日】2024-12-24
(54)【発明の名称】熱電変換素子及び熱電変換装置
(51)【国際特許分類】
H10N 15/20 20230101AFI20241217BHJP
【FI】
H10N15/20
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024166625
(22)【出願日】2024-09-25
(62)【分割の表示】P 2021516328の分割
【原出願日】2020-04-27
(31)【優先権主張番号】62/931,892
(32)【優先日】2019-11-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】P 2019086716
(32)【優先日】2019-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度 国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業、研究タイプ「チーム型研究(CREST)」、研究領域「トポロジカル材料科学に基づく革新的機能を有する材料・デバイスの創出」、研究課題「電子構造のトポロジーを利用した機能性磁性材料の開発とデバイス創成」、研究題目「電子構造のトポロジーを利用した機能性磁性材料の開発とデバイス創成」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002675
【氏名又は名称】弁理士法人ドライト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中▲辻▼ 知
(72)【発明者】
【氏名】酒井 明人
(72)【発明者】
【氏名】肥後 友也
(57)【要約】
【課題】安価で無毒な材料からなる熱電変換素子及び熱電変換装置を提供する。
【解決手段】熱電変換素子は、組成式がFe
3Xで表され、Xが典型元素若しくは遷移元素であるストイキオメトリックな組成の第1物質(Fe
3Alなど)、第1物質からFeとXとの組成比がずれたオフ・ストイキオメトリックな組成の第2物質、第1物質のFeサイトの一部若しくは第2物質のFeサイトの一部をX以外の典型金属元素若しくは遷移元素で置換した第3物質、組成式がFe
3M1
1-xM2
x(0<x<1)で表され、M1及びM2が互いに異なる典型元素である第4物質、又は第1物質のFeサイトの一部をX以外の遷移元素で置換し、Xのサイトの一部をX以外の典型金属元素で置換した第5物質からなる。第1物質、第2物質、第3物質、第4物質及び第5物質は異常ネルンスト効果を示す。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成式がFe3Xで表され、前記Xが典型元素若しくは遷移元素であるストイキオメトリックな組成の第1物質、
前記第1物質からFeと前記Xとの組成比がずれたオフ・ストイキオメトリックな組成の第2物質、
前記第1物質のFeサイトの一部若しくは前記第2物質のFeサイトの一部を前記X以外の典型金属元素若しくは遷移元素で置換した第3物質、
組成式がFe3M11-xM2x(0<x<1)で表され、前記M1及び前記M2が互いに異なる典型元素である第4物質、又は
前記第1物質のFeサイトの一部を前記X以外の遷移元素で置換し、前記Xのサイトの一部を前記X以外の典型金属元素で置換した第5物質からなり、
前記第1物質、前記第2物質、前記第3物質、前記第4物質及び前記第5物質は、異常ネルンスト効果を示す、熱電変換素子。
【請求項2】
前記第1物質、前記第2物質、前記第3物質、前記第4物質又は前記第5物質は、ネルンスト係数が、室温を含む所定の温度範囲において一定である、請求項1に記載の熱電変換素子。
【請求項3】
前記第1物質、前記第2物質、前記第3物質、前記第4物質又は前記第5物質は単結晶体である、請求項1又は2に記載の熱電変換素子。
【請求項4】
前記第1物質、前記第2物質、前記第3物質、前記第4物質又は前記第5物質は多結晶体である、請求項1又は2に記載の熱電変換素子。
【請求項5】
前記第1物質、前記第2物質、前記第3物質、前記第4物質又は前記第5物質はアモルファスである、請求項1又は2に記載の熱電変換素子。
【請求項6】
前記Xは、Al、Ga、Ge、Sn、Si、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Sc、Ni、Mn、又はCoである、請求項1~5の何れか1項に記載の熱電変換素子。
【請求項7】
厚さが10μm以下の薄膜である、請求項1~6の何れか1項に記載の熱電変換素子。
【請求項8】
基板と、
前記基板の上に設けられ、複数の熱電変換素子を有する発電体と、を備え、
前記複数の熱電変換素子の各々は、一方向に延在した形状をなし、且つ請求項1~7のいずれか1項に記載の熱電変換素子と同一の物質からなり、
前記複数の熱電変換素子は、前記一方向と垂直な方向に並列に配置され、電気的に直列に接続されている、熱電変換装置。
【請求項9】
前記複数の熱電変換素子は、蛇行状に配列されている、請求項8に記載の熱電変換装置。
【請求項10】
請求項1~7のいずれか1項に記載の熱電変換素子と、
中空部材と、を備え、
前記熱電変換素子は、シート状の構造又は線材であり、前記中空部材の外表面を覆うように設けられている、熱電変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱電変換素子、及び熱電変換素子を備えた熱電変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
物質に温度勾配を与えると電圧が発生する熱電機構として、ゼーベック効果(Seebeck effect)が知られている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、ゼーベック効果を用いた熱電機構において、室温以上で使用可能な材料は、ビスマス、テルル又は鉛等を主原料とするものであり、毒性が高いため、実用には向かない上に、機械的に脆弱で振動に弱く耐久性がない。また、ゼーベック効果では、温度勾配と同じ方向に電圧が生じることから、熱源表面から垂直方向にp型モジュールとn型モジュールとを交互に設けた立体的で複雑な構造に作製する必要があるため、製造コストが高い。また、このような立体的な素子を大面積に展開することは困難である。
【0003】
同じく、温度勾配によって電圧を発生させる熱電機構として、異常ネルンスト効果(Anomalous Nernst effect)が知られている。異常ネルンスト効果とは、磁性体に熱流を流して温度差が生じたときに、磁化方向と温度勾配の双方に直交する方向に電圧が生じる現象である。近年になって、電子構造のトポロジーを利用することにより、ネルンスト係数がこれまで知られていた値(0.1μV/K)よりもはるかに増大することがわかってきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、これまで、異常ネルンスト効果を示す様々な磁性材料が開発されてきたものの、比較的高価な金属が使われているため、コスト高になるという課題があった。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、安価で無毒な材料からなる熱電変換素子及び熱電変換装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施形態に係る熱電変換素子は、組成式がFe3Xで表され、Xが典型元素若しくは遷移元素であるストイキオメトリックな組成の第1物質、第1物質からFeと前記Xとの組成比がずれたオフ・ストイキオメトリックな組成の第2物質、第1物質のFeサイトの一部若しくは第2物質のFeサイトの一部を前記X以外の典型金属元素若しくは遷移元素で置換した第3物質、組成式がFe3M11-xM2x(0<x<1)で表され、M1及びM2が互いに異なる典型元素である第4物質、又は第1物質のFeサイトの一部をX以外の遷移元素で置換し、Xのサイトの一部をX以外の典型金属元素で置換した第5物質からなる。第1物質、第2物質、第3物質、第4物質及び第5物質は、異常ネルンスト効果を示す。
【0008】
本発明の一実施形態に係る熱電変換装置は、基板と、前記基板の上に設けられ、複数の熱電変換素子を有する発電体と、を備える。複数の熱電変換素子の各々は、一方向に延在した形状をなし、且つ上記の第1物質、第2物質、第3物質、第4物質又は第5物質からなる。複数の熱電変換素子は、前記一方向と垂直な方向に並列に配置され、電気的に直列に接続されている。
【0009】
本発明の他の実施形態に係る熱電変換装置は、上記の熱電変換素子と中空部材とを備える。熱電変換素子は、シート状の構造又は線材であり、中空部材の外表面を覆うように設けられている。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、安価で無毒な物質から熱電変換素子によって、異常ネルンスト効果を発現させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】D0
3型のFe
3Xの結晶構造及びL1
2型のFe
3Xの結晶構造を示す模式図である。
【
図2】本実施形態の熱電変換素子による熱電機構を説明するための模式図である。
【
図3】各種金属材料におけるネルンスト係数の温度依存性を表すグラフである。
【
図4】
図3に示すネルンスト係数をT=300Kでのネルンスト係数で規格化したグラフである。
【
図5】Fe-Al合金の単結晶体及び多結晶体、並びにFe-Al―V合金の多結晶体のT=300Kでのネルンスト係数の磁場依存性を表すグラフである。
【
図6】Fe-Al合金の単結晶体及び多結晶体、並びにFe-Al―V合金の多結晶体のネルンスト係数の温度依存性を表すグラフである。
【
図7】本実施形態の熱電変換素子を備えた実施例1に係る熱電変換装置の構成を示す斜視図である。
【
図8】本実施形態の熱電変換素子を備えた実施例2に係る熱電変換装置の構成を示す平面図である。
【
図9】本実施形態の熱電変換素子を備えた実施例3に係る熱電変換装置の構成を示す外観図である。
【
図10】Fe
3PtとFe
3GeとFe
3AlとFe
3Ga
0.5Al
0.5とFe
3GaとCo
2MnGaのT=300Kでのネルンスト係数の磁場依存性を表すグラフである。
【
図11】Fe
3PtとFe
3GeとFe
3AlとFe
3GaとCo
2MnGaのネルンスト係数の温度依存性を表すグラフである。
【
図12A】Fe
3Snのネルンスト係数の温度依存性を表すグラフである。
【
図12B】Fe
3Snの横熱電伝導度の温度依存性を表すグラフである。
【
図13A】Fe
3SiとFe
3Alとの混晶系のT=300Kでのネルンスト係数を示す表である。
【
図13B】Fe
3SiとFe
3Alとの混晶系のT=300Kでのネルンスト係数を表すグラフである。
【
図14A】Fe
3AlとFe
3Gaとの混晶系のT=300Kでのネルンスト係数を示す表である。
【
図14B】Fe
3AlとFe
3Gaとの混晶系のT=300Kでのネルンスト係数を表すグラフである。
【
図15】Fe
3GaのGaサイトの一部をCuで置換して得られたFe
3Cu
1-xGa
x単結晶体及び多結晶体のT=300Kでのネルンスト係数を表すグラフである。
【
図16A】Nd
0.1Fe
2.9Ga及びFe
3GaのX線回折パターンを表すグラフである。
【
図16B】Nd
0.1Fe
2.9GaのT=300Kでの磁化の磁場依存性を表すグラフである。
【
図16C】Fe
3Ga単結晶体及びNd
0.1Fe
2.9Ga多結晶体のT=300Kでのネルンスト係数の磁場依存性を表すグラフである。
【
図16D】Fe
3Ga単結晶体及びNd
0.1Fe
2.9Ga多結晶体のT=300Kでのホール抵抗率の磁場依存性を表すグラフである。
【
図17A】Ho
0.05Fe
2.95Ga及びFe
3GaのX線回折パターンを表すグラフである。
【
図17B】Ho
0.05Fe
2.95GaのT=300Kでの磁化の磁場依存性を表すグラフである。
【
図18A】Y
0.05Fe
2.95Ga及びFe
3GaのX線回折パターンを表すグラフである。
【
図18B】Y
0.05Fe
2.95Gaの磁化の磁場依存性を表すグラフである。
【
図19A】Tb
0.05Fe
2.95Gaの磁化の磁場依存性を表すグラフである。
【
図20A】Tb
0.03Fe
2.97Ga及びFe
3GaのX線回折パターンを表すグラフである。
【
図20B】Tb
0.03Fe
2.97GaのT=300Kでの磁化の磁場依存性を表すグラフである。
【
図21A】Fe
3Ga
0.8B
0.2、Fe
3Ga
0.9B
0.1及びFe
3GaのX線回折パターンを表すグラフである。
【
図21B】Fe
3Ga
0.8B
0.2からなる針状試料及び板状試料のそれぞれについて、T=300Kでの磁化の磁場依存性を表すグラフである。
【
図21C】針状試料のFe
3Ga
0.8B
0.2及びFe
3Gaの磁化の磁場依存性を表すグラフである。
【
図21D】板状試料のFe
3Ga
0.8B
0.2及びFe
3Gaの磁化の磁場依存性を表すグラフである。
【
図21E】板状試料のFe
3Ga
0.8B
0.2のネルンスト係数の磁場依存性を表すグラフである。
【
図21F】板状試料のFe
3Ga
0.8B
0.2のホール抵抗率の磁場依存性を表すグラフである。
【
図22A】Fe
2.9Mn
0.1Ga、Fe
2.5Mn
0.5Ga、Fe
2MnGa及びFe
3GaのX線回折パターンを表すグラフである。
【
図22B】針状試料のFe
2.9Mn
0.1Ga及びFe
2.5Mn
0.5GaのT=300Kでの磁化の磁場依存性を表すグラフである。
【
図23A】Fe
2.9Pt
0.1Ga、Fe
2.9Pt
0.1Ga
0.9Ge
0.1及びFe
3GaのX線回折パターンを表すグラフである。
【
図23B】針状試料のFe
2.9Pt
0.1Ga及びFe
2.9Pt
0.1Ga
0.9Ge
0.1のT=300Kでの磁化の磁場依存性を表すグラフである。
【
図24】熱電変換素子としての薄膜試料の面内方向に温度勾配をかけるときの異常ネルンスト効果を説明するための模式図である。
【
図25】薄膜試料(Fe
3Ga)に対して面内方向に温度勾配をかけたときのT=300Kでの異常ネルンスト効果の測定結果を表すグラフである。
【
図26】熱電変換素子としての薄膜試料に対して面直方向に温度勾配をかけるときの異常ネルンスト効果を説明するための模式図である。
【
図27A】薄膜試料に対して面直方向に温度勾配をかけるときの異常ネルンスト効果の測定方法を説明するための模式図である。
【
図27B】薄膜試料に対して面直方向に温度勾配をかけるときの異常ネルンスト効果の測定方法を説明するための模式図である。
【
図28】薄膜試料(Fe
3Ga)に対して面直方向に温度勾配をかけたときの異常ネルンスト効果の測定結果を表すグラフである。
【
図29A】室温成膜後にアニールを行わずに得られたFe
3Gaの薄膜試料に対して面直方向に温度勾配をかけたときの異常ネルンスト効果の測定結果を表すグラフである。
【
図30】室温成膜後にアニールを行って得られたFe
3Gaのエピタキシャル膜と、室温成膜後にアニールを行わずに得られたFe
3Gaのアモルファス膜のそれぞれについて、面直方向に温度勾配をかけたときの異常ネルンスト効果の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付の図面を参照して、本発明の例示の実施形態について説明する。
【0013】
異常ネルンスト効果を示す物質のうち、ネルンスト係数の室温でのこれまでの最高値は、本願発明者らがCo2MnGaで実現した6μV/Kである(Nature Physics 14, 1119-1124 (2018)及び国際公開第2019/009308号参照)。
【0014】
本願発明者らは、後述のように、これまでの最高値に迫るネルンスト係数を二元系のFe3Alで実現することができた。地球の地表付近に存在する元素の重量の割合を表すクラーク数は、大きい順に、酸素(O)、ケイ素(Si)、アルミニウム(Al)、鉄(Fe)、…であることが知られている。このように、FeとAlはクラーク数が相対的に大きいことから、非常に安価な材料であり、且つ無毒である。また、Fe3Alは、化学的にも安定であり、強磁性転移温度も約700Kと高い。
【0015】
図1に、異常ネルンスト効果が発現可能なFe
3X(Xは典型元素又は遷移元素)の結晶構造を示す。
図1に示すように、Fe
3Xは、D0
3型の構造(a)とL1
2型の構造(b)をとり得る。
【0016】
D03構造(a)の単位格子は、8個の体心立方(bcc)型のサブセルを有する。各サブセルでは、隅点をFe原子(Fe(II))が占め、各Fe(II)は、隣接する8個のサブセルによって共有される。8個のサブセルのうちの4個の体心点をそれぞれ4個のFe原子(Fe(I))が占めており、残りの4個のサブセルの体心点をそれぞれ4個のX原子が占めている。例えば、D03構造のFe3Alの格子定数aは、5.64Åである(Physical Review B 66, 205203 (2002)参照)。
【0017】
L12構造(b)は、Fe原子が面心点に位置し、X原子が隅点に位置する面心立方(fcc)型の結晶構造である。
【0018】
例えば、Fe3Alの単結晶は、適切な比のFeとAlとをアーク溶解し、チョクラルスキー法による引き上げによって結晶成長させ、当該結晶を低温(例えば、500℃)でアニールし、数分から数十分かけて室温まで徐冷することで作製した。電子線回折によると、作製されたFe3Al単結晶は、秩序相(D03相(Fm-3m))であることがわかった。
【0019】
一方、Fe3Alの多結晶は、適切な比のFeとAlとをアーク溶解することで多結晶の試料を作製し、当該試料を高温(例えば、900℃)でアニールし、数秒で室温に急冷させることで作製した。相図より、作製されたFe3Al多結晶は、ディスオーダー相(B2相(Pm-3m)又はA2相(Im-3m))、あるいは、秩序相との混晶と考えられる。
【0020】
次に、
図2を参照して、本発明の実施形態に係る熱電変換素子及びその熱電機構について説明する。
【0021】
本実施形態に係る熱電変換素子1は、上述の方法で作製されたFe
3X単結晶又は多結晶からなる。熱電変換素子1は、
図2に示すように、一方向(y方向)に延在する直方体状をなし、所定の厚さ(z方向の長さ)を有し、+z方向に磁化しているものとする。熱電変換素子1に+x方向の熱流Q(∝-∇T)が流れると、+x方向に温度差が生じる。これにより、熱電変換素子1には、異常ネルンスト効果によって、熱流Qの方向(+x方向)及び磁化Mの方向(+z方向)の双方に直交する外積の方向(y方向)に起電力V(∝M×(-∇T))が発生する。
【0022】
図3に、Fe
3Al単結晶からなる熱電変換素子1のネルンスト係数(S
yx)を他の金属材料からなる熱電変換素子のネルンスト係数と比較した結果を示しており、ネルンスト係数の温度依存性を表している。
図4は、
図3に示す各金属材料のネルンスト係数をT=300Kでのネルンスト係数で規格化したグラフである。
【0023】
図3及び
図4において、Fe
3Al♯1は、FeとAlの組成比が3:1からずれたオフ・ストイキオメトリックな組成(Fe-rich、Al-poor)の単結晶からなる熱電変換素子1での観測結果を表し、Fe
3Al♯2は、FeとAlの組成が3:1のストイキオメトリックな組成の単結晶からなる熱電変換素子1での観測結果を表す。
【0024】
また、
図3及び
図4において、L1
0型のMnGa、D0
22型のMn
2Ga、Co/Ni、FePd、及びFePtのデータは、Appl. Phys. Lett. 106, 252405 (2015)に開示されたデータに基づくものであり、Fe
3O
4のデータは、Physical Review B 90, 054422 (2014)に開示されたデータに基づくものである。また、Co
2MnGaのデータは、本願発明者らによる研究(Nature Physics 14, 1119-1124 (2018); 国際公開第2019/009308号)に基づくものである。
【0025】
図3及び
図4より、Fe
3Al♯1とFe
3Al♯2のネルンスト係数の絶対値|S
yx|は、Co
2MnGaを除く他の金属材料よりも大きい。特に、ストイキオメトリックなFe
3Al♯2の|S
yx|は、オフ・ストイキオメトリックなFe
3Al♯1よりも大きく、室温(T=300K付近)で約4μV/Kとなっており、Co
2MnGaの|S
yx|≒6μV/Kに迫っていることがわかる。
【0026】
また、
図3及び
図4より、オフ・ストイキオメトリックなFe
3Al♯1のS
yxは、室温を含む200K~400Kの温度範囲で温度変化の影響をほとんど受けず、ほぼ一定値となっている。
【0027】
図5に、Fe-Al合金の単結晶体(S1,S2)及び多結晶体(P2)、並びにFe-Al―V合金の多結晶体(P1)におけるT=300Kでのネルンスト係数(S
yx)の磁場依存性を示し、
図6に、磁場B=2Tを印加したときのFe-Al合金の単結晶体(S1,S2)及び多結晶体(P2)、並びにFe-Al―V合金の多結晶体(P1)におけるネルンスト係数の温度依存性を示す。
【0028】
図5及び
図6において、S1及びS2は、それぞれ、
図3に示すFe
3Al♯2及びFe
3Al♯1に対応しており、S1は、熱電変換素子1に、[001]に平行な磁場Bを印加し、[010]に平行な熱流Qを流したときの観測結果を表し、S2は、熱電変換素子1に、[001]に平行な磁場Bを印加し、[210]に平行な熱流Qを流したときの観測結果を表している。
【0029】
また、
図5及び
図6において、P1は、Fe
3AlのFeサイトの一部をバナジウム(V)で置換したFe
2.8V
0.15Al多結晶体からなる熱電変換素子1での観測結果を表し、P2は、FeとAlの組成が3:1のストイキオメトリックな組成の多結晶体からなる熱電変換素子1での観測結果を表す。
【0030】
図5及び
図6より、単結晶体(S1、S2)は多結晶体(P1、P2)よりもネルンスト係数の絶対値|S
yx|が大きいことがわかる。また、多結晶体P1及びP2を比較すると、ストイキオメトリックな二元系の多結晶体P2は、三元系の多結晶体P1よりも|S
yx|が大きいことがわかる。
【0031】
また、多結晶体(P1、P2)は単結晶体(S1、S2)よりも、ネルンスト係数が室温(T=300K付近)を含む200K~400Kの温度範囲で温度変化の影響をほとんど受けず、ほぼ一定値をとっている。多結晶体(P1、P2)は単結晶体(S1、S2)よりも|Syx|が小さいものの、室温での|Syx|が約1.5~2.0μV/Kであることから、熱流センサ等の実用レベルに達していると言える。また、上述のように、多結晶体(P1、P2)は単結晶体(S1、S2)よりも作製が容易である。
【0032】
次に、本実施形態の熱電変換素子をモジュール化した熱電変換装置について説明する。
【実施例0033】
図7に、本実施形態の実施例1に係る熱電変換装置20の外観構成を示す。熱電変換装置20は、基板22と、基板22上に載置された発電体23と、を備える。熱電変換装置20において、基板22側から発電体23に向けて熱流Qが流されると、発電体23に熱流方向の温度差が生じ、異常ネルンスト効果によって発電体23に電圧Vが生じる。
【0034】
基板22は、発電体23が載置される第1面22aと、第1面22aと反対側の第2面22bと、を有する。第2面22bには、熱源(図示せず)からの熱が当てられる。
【0035】
発電体23は、複数の熱電変換素子24と複数の熱電変換素子25とを有し、各々は、L字の立体的形状をなし、
図2に示す熱電変換素子1と同一の物質からなる。
図7に示すように、複数の熱電変換素子24と複数の熱電変換素子25は、基板22上に、各々の長手方向(x方向)と垂直な方向(y方向)に、交互に並列に配置されている。なお、発電体23を構成する熱電変換素子24及び熱電変換素子25の数は限定されない。
【0036】
また、複数の熱電変換素子24と複数の熱電変換素子25は、熱電変換素子24の磁化M1の方向と熱電変換素子25の磁化M2の方向が逆になるように配列される。また、複数の熱電変換素子24及び複数の熱電変換素子25は、同符号のネルンスト係数を有する。
【0037】
熱電変換素子24は、長手方向(x方向)に平行な第1端面24aと第2端面24bとを有している。熱電変換素子25は、長手方向(x方向)に平行な第1端面25aと第2端面25bとを有している。熱電変換素子25の第1端面25aと、隣接する熱電変換素子24の第2端面24bが接続され、当該熱電変換素子25の第2端面25bと、反対側に隣接する熱電変換素子24の第1端面24aが接続されている。これにより、複数の熱電変換素子24と複数の熱電変換素子25とが電気的に直列に接続される。すなわち、発電体23は、基板22の第1面22a上に蛇行状に設けられている。
【0038】
熱源から基板22の第2面22bに熱が当てられると、発電体23に向けて+z方向の熱流Qが流れる。熱流Qにより温度差が生じると、異常ネルンスト効果により、熱電変換素子24では、磁化M1の方向(-y方向)及び熱流Qの方向(+z方向)の双方に直交する方向(-x方向)に起電力E1が生じる。熱電変換素子25では、異常ネルンスト効果により、磁化M2の方向(+y方向)及び熱流Qの方向(+z方向)の双方に直交する方向(+x方向)に起電力E2が生じる。
【0039】
上述のように、並列に配置された熱電変換素子24と熱電変換素子25は、電気的に直列に接続されていることから、一の熱電変換素子24で発生した起電力E1が、隣接する熱電変換素子25に印加され得る。また、一の熱電変換素子24で発生する起電力E1と、隣接する熱電変換素子25で発生する起電力E2が逆方向であることから、隣接する熱電変換素子24及び熱電変換素子25のそれぞれで起電力が加算され、出力電圧Vを増大させることができる。
【0040】
なお、
図7の熱電変換装置20の変形例として、隣接する熱電変換素子24と熱電変換素子25が互いに逆符号のネルンスト係数を有し、且つ複数の熱電変換素子24及び複数の熱電変換素子25の磁化方向が同一となるように(すなわち、磁化M1の方向と磁化M2の方向が同一となるように)配置した構成を採用してもよい。