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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024178433
(43)【公開日】2024-12-24
(54)【発明の名称】基地局及び端末
(51)【国際特許分類】
   H04W 56/00 20090101AFI20241217BHJP
   H04W 72/0446 20230101ALI20241217BHJP
   H04W 72/0457 20230101ALI20241217BHJP
   H04W 84/12 20090101ALN20241217BHJP
【FI】
H04W56/00 130
H04W72/0446
H04W72/0457 110
H04W84/12
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024167770
(22)【出願日】2024-09-26
(62)【分割の表示】P 2022539790の分割
【原出願日】2020-07-27
(71)【出願人】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】岸田 朗
(72)【発明者】
【氏名】永田 健悟
(72)【発明者】
【氏名】井上 保彦
(72)【発明者】
【氏名】淺井 裕介
(72)【発明者】
【氏名】鷹取 泰司
(57)【要約】      (修正有)
【課題】無線端末の消費電力を抑制させる基地局及び端末を提供する。
【解決手段】無線システムにおいて、基地局は、第1、第2の無線信号処理部を含み、夫々第1、第2のチャネルを用いて無線信号を送受信し、第1、第2の無線信号処理部を用いて端末とのマルチリンクを確立する。第1、第2の無線信号処理部は夫々、第1、第2の時刻情報を保持し、第1の時刻情報と第2の時刻情報とは同期する。第1、第2の無線信号処理部は夫々、第1、第2のトラヒックを蓄積する。第1の無線信号処理部は、第1の時刻情報、第1のトラヒックが蓄積されていることを示す情報及び第2のトラヒックが蓄積されていることを示す情報を示すビーコン信号を送信する。第2の無線信号処理部は、ビーコン信号に基づいて端末から第2のトラヒックの送信を要求するフレームを受信し、受信したフレームに基づいて第2のトラヒックを端末に送信する。
【選択図】図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のチャネルを用いて無線信号を送受信可能に構成された第1の無線信号処理部と、
前記第1のチャネルと異なる第2のチャネルを用いて無線信号を送受信可能に構成された第2の無線信号処理部と、を備え、
前記第1の無線信号処理部と前記第2の無線信号処理部とを用いて端末とのマルチリンクが確立され、
前記第1の無線信号処理部は第1の時刻情報を保持し、前記第2の無線信号処理は第2の時刻情報を保持し、前記第1の時刻情報と前記第2の時刻情報とは同期され、
前記第1の無線信号処理部は第1のトラヒックを蓄積し、前記第2の無線信号処理部は第2のトラヒックを蓄積し、
前記第1の無線信号処理部は、前記第1の時刻情報と、前記第1のトラヒックが蓄積されていることを示す情報と、前記第2のトラヒックが蓄積されていることを示す情報とを示すことが可能なビーコン信号を送信し、
前記第2の無線信号処理部は、前記ビーコン信号に基づいて前記端末から前記第2のトラヒックの送信を要求するフレームを受信し、受信した前記フレームに基づいて前記第2のトラヒックを前記端末に送信する、
基地局。
【請求項2】
前記第1の無線信号処理部と前記第2の無線信号処理部とを含む複数の無線信号処理部をさらに備え、
前記ビーコン信号は、前記複数の無線信号処理部のうち前記第1の無線信号処理部から送信され、前記第2の無線信号処理部からは送信されない
請求項1に記載の基地局。
【請求項3】
前記第1の時刻情報と前記第2の時刻情報が同一の時刻情報である
請求項1に記載の基地局。
【請求項4】
第1のチャネルを用いて無線信号を送受信可能に構成された第1の無線信号処理部と、
前記第1のチャネルと異なる第2のチャネルを用いて無線信号を送受信可能に構成された第2の無線信号処理部と、を備え、
前記第1の無線信号処理部と前記第2の無線信号処理部とを用いて基地局とのマルチリンクが確立され、
前記第1の無線信号処理部は第1の時刻情報を保持し、前記第2の無線信号処理は第2の時刻情報を保持し、前記第1の時刻情報と前記第2の時刻情報とは同期され、
前記基地局において、前記第1の無線信号処理部に関連付けられた第1のトラヒックと、前記第2の無線信号処理部に関連付けられた第2のトラヒックが蓄積され、
前記第1の無線信号処理部は、前記第1の時刻情報と、前記第1のトラヒックが蓄積されているか否かを示す情報と、前記第2のトラヒックが蓄積されているか否かを示す情報と、を含むビーコン信号を受信し、
前記第2の無線信号処理部は、前記ビーコン信号に基づいて、前記第2のトラヒックの送信を要求するフレームを前記基地局へ送信し、前記フレームに基づいて前記基地局から送信された前記第2のトラヒックを受信する、
端末。
【請求項5】
前記第1の無線信号処理部と前記第2の無線信号処理部とを含む複数の無線信号処理部をさらに備え、
前記ビーコン信号は、前記複数の無線信号処理部のうち、前記第1の無線信号処理部により受信され、前記第2の無線信号処理部により受信されない
請求項4に記載の端末。
【請求項6】
前記第1の時刻情報と前記第2の時刻情報が同一の時刻情報である
請求項4に記載の端末。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
実施形態は、基地局及び端末に関する。
【背景技術】
【0002】
基地局と端末との間を無線で接続する無線システムとして、無線LAN(Local Area Network)が知られている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】IEEE Std 802.11-2016,“9.3.3.3 Beacon frame format”and“11.1 Synchronization”, 7 December 2016
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
課題は、無線端末の消費電力を抑制すること。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態の基地局は、第1の無線信号処理部と、第2の無線信号処理部とを含む。第1の無線信号処理部は、第1のチャネルを用いて無線信号を送受信可能に構成される。第2の無線信号処理部は、第1のチャネルと異なる第2のチャネルを用いて無線信号を送受信可能に構成される。第1の無線信号処理部と第2の無線信号処理部とを用いて端末とのマルチリンクが確立される。第1の無線信号処理部は第1の時刻情報を保持し、第2の無線信号処理は第2の時刻情報を保持する。第1の時刻情報と前記第2の時刻情報とは同期される。第1の無線信号処理部は第1のトラヒックを蓄積し、第2の無線信号処理部は第2のトラヒックを蓄積する。第1の無線信号処理部は、第1の時刻情報と、第1のトラヒックが蓄積されていることを示す情報と、第2のトラヒックが蓄積されていることを示す情報とを示すことが可能なビーコン信号を送信する。第2の無線信号処理部は、ビーコン信号に基づいて端末から第2のトラヒックの送信を要求するフレームを受信し、受信したフレームに基づいて第2のトラヒックを端末に送信する。
【発明の効果】
【0006】
実施形態の基地局は、無線端末の消費電力を抑制させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、実施形態に係る無線システムの全体構成の一例を示す概念図である。
図2図2は、実施形態に係る無線システムにおける無線フレームのフォーマットの具体例を示す概念図である。
図3図3は、実施形態に係る無線システムの備える基地局の構成の一例を示すブロック図である。
図4図4は、実施形態に係る無線システムの備える基地局の機能の一例を示すブロック図である。
図5図5は、実施形態に係る無線システムの備える端末の構成の一例を示すブロック図である。
図6図6は、実施形態に係る無線システムの備える端末の機能の一例を示すブロック図である。
図7図7は、実施形態に係る無線システムの備える基地局のリンクマネジメント部の詳細な機能の一例を示すブロック図である。
図8図8は、実施形態に係る無線システムにおけるリンク管理情報の一例を示すテーブルである。
図9図9は、実施形態に係る無線システムにおけるマルチリンク時のデータ送信方法の一例を示すフローチャートである。
図10図10は、実施形態に係る無線システムにおける時刻同期方法の一例を示すフローチャートである。
図11図11は、実施形態に係る無線システムの備える基地局におけるビーコン信号の出力方法の一例を示す概念図である。
図12図12は、実施形態に係る無線システムにおけるリンク管理情報の一例を示すテーブルである。
図13図13は、実施形態に係る無線システムの備える基地局におけるバッファ通知方法の一例を示すフローチャートである。
図14図14は、実施形態に係る無線システムの備える基地局におけるビーコン信号の出力方法の一例を示す概念図である。
図15図15は、実施形態に係る無線システムにおけるTIMを含むビーコン信号の具体例を示す概念図である。
図16図16は、実施形態に係る無線システムにおけるマルチリンクパワーセーブの開始方法の一例を示すフローチャートである。
図17図17は、実施形態に係る無線システムにおけるマルチリンクパワーセーブの終了方法の一例を示すフローチャートである。
図18図18は、実施形態に係る無線システムにおけるマルチリンクパワーセーブ時の通信方法の一例を示すフローチャートである。
図19図19は、実施形態に係る無線システムにおけるマルチリンクパワーセーブ時の通信方法の一例を示すフローチャートである。
図20図20は、実施形態の第1変形例に係る無線システムの備える基地局の機能の一例を示すブロック図である。
図21図21は、実施形態の第1変形例に係る無線システムの備える端末の機能の一例を示すブロック図である。
図22図22は、実施形態の第2変形例に係る無線システムにおけるリンク管理情報の一例を示すテーブルである。
図23図23は、実施形態の第2変形例に係る無線システムの備える基地局におけるビーコン信号の出力方法の一例を示す概念図である。
図24図24は、実施形態の第3変形例に係る無線システムにおける無線通信に使用される周波数帯の一例を示す概念図である。
図25図25は、実施形態の第3変形例に係る無線システムにおけるリンク管理情報の一例を示すテーブルである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に、実施形態に係る無線システム1について、図面を参照して説明する。実施形態は、発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示している。図面は模式的又は、概念的なものである。各図面の寸法及び比率等は、必ずしも現実のものと同一とは限らない。本発明の技術的思想は、構成要素の形状、構造、配置等によって特定されるものではない。また、以下の説明では、略同一の機能及び構成を有する構成要素に、同一の符号が付されている。
【0009】
<1>無線システム1の構成
<1-1>無線システム1の全体構成について
図1は、実施形態に係る無線システム1の構成の一例を示している。図1に示すように、無線システム1は、例えば基地局10、端末20、及びサーバ30を備えている。
【0010】
基地局10は、ネットワークNWに接続され、無線LANのアクセスポイントとして使用される。例えば、基地局10は、ネットワークNWから受信したデータを、無線で端末20に配信することができる。また、基地局10は、一種類の帯域又は複数種類の帯域を用いて、端末20に接続され得る。本明細書では、基地局10と端末20との間における複数種類の帯域を用いた無線接続のことを、“マルチリンク”と呼ぶ。基地局10と端末20との間の通信は、例えばIEEE802.11規格に基づいている。
【0011】
端末20は、例えばスマートフォンやタブレットPC等の無線端末である。端末20は、無線で接続された基地局10を介して、ネットワークNW上のサーバ30との間でデータを送受信することができる。尚、端末20は、デスクトップコンピュータやラップトップコンピュータ等、その他の電子機器であってもよい。端末20は、少なくとも基地局10と通信可能であり、且つ後述する動作を実行可能な機器であればよい。
【0012】
サーバ30は、様々な情報を保持することが可能であり、例えば端末20を対象としたコンテンツのデータを保持している。サーバ30は、例えばネットワークNWに有線で接続され、ネットワークNWを介して基地局10と通信可能に構成される。尚、サーバ30は、少なくとも基地局10と通信可能であればよい。つまり、基地局10とサーバ30との間の通信は、有線であっても無線であってもよい。
【0013】
実施形態に係る無線システム1において、基地局10及び端末20間のデータ通信は、OSI(Open Systems Interconnection)参照モデルに基づいている。OSI参照モデルでは、通信機能が7階層(第1層:物理層、第2層:データリンク層、第3層:ネットワーク層、第4層:トランスポート層、第5層:セッション層、第6層:プレゼンテーション層、第7層:アプリケーション層)に分割される。
【0014】
データリンク層は、例えばLLC(Logical Link Control)層と、MAC(Media Access Control)層とを含んでいる。LLC層は、例えば上位のアプリケーションから入力されたデータに、DSAP(Destination Service Access Point)ヘッダやSSAP(Source Service Access Point)ヘッダ等を付加し、LLCパケットを形成する。MAC層は、例えばLLCパケットにMACヘッダを付加し、MACフレームを形成する。
【0015】
図2は、実施形態に係る無線システム1において、基地局10及び端末20間の通信で使用される無線フレームのフォーマットの具体例を示している。図2に示すように、無線フレームは、例えばFrame Controlフィールド、Durationフィールド、Address1フィールド、Address2フィールド、Address3フィールド、Sequence Controlフィールド、その他の制御情報フィールド、Frame Bodyフィールド、及びFCS(Frame Check Sequence)フィールドを含んでいる。
【0016】
Frame Controlフィールド~その他の制御情報フィールドは、例えばMACフレームに含まれたMACヘッダに対応している。Frame Bodyフィールドは、例えばMACフレームに含まれたMACペイロードに対応している。FCSフィールドは、MACヘッダとFrame Bodyフィールドとの誤り検出符号を格納し、当該無線フレームにおけるエラーの有無の判定に使用される。
【0017】
Frame Controlフィールドは、様々な制御情報を示し、例えばType値、Subtype値、To DS(To Distribution System)値、及びFrom DS値を含んでいる。Type値は、当該無線フレームのフレームタイプを示している。例えば、Type値“00”は、当該無線フレームがマネージメントフレームであることを示している。Type値“01”は、当該無線フレームが制御フレームであることを示している。Type値“10”は、当該無線フレームがデータフレームであることを示している。
【0018】
無線フレームの内容は、Type値及びSubtype値の組み合わせによって変化する。例えば、“00/1000(Type値/Subtype値)”は、当該無線フレームがビーコン信号であることを示している。To DS値及びFrom DS値の意味は、その組み合わせにより異なっている。例えば、“00(To DS/From DS)”は、同じIBSS(Independent Basic Service Set)内の端末間におけるデータであることを示している。“10”は、データフレームが外部から当該DS(Distribution System)に向けられたものであることを示している。“01”は、データフレームが当該DSの外へ向かうことを示している。“11”は、メッシュネットワークを構成する場合に使用される。
【0019】
Durationフィールドは、無線回線を使用する予定期間を示している。複数のAddressフィールドは、BSSID、送信元アドレス、あて先アドレス、送信者端末のアドレス、受信者端末のアドレス等を示している。Sequence Controlフィールドは、MACフレームのシーケンス番号と、フラグメントのためのフラグメント番号とを示している。その他の制御情報フィールドは、例えばトラヒック種別(TID)情報を含んでいる。TID情報は、無線フレーム内のその他の位置に挿入されてもよい。Frame Bodyフィールドは、フレームの種類に応じた情報を含んでいる。例えば、Frame Bodyフィールドは、データフレームに対応する場合に、データを格納する。
【0020】
<1-2>基地局10の構成について
図3は、実施形態に係る無線システム1の備える基地局10の構成の一例を示している。図3に示すように、基地局10は、例えばCPU(Central Processing Unit)11、ROM(Read Only Memory)12、RAM(Random Access Memory)13、無線通信モジュール14、及び有線通信モジュール15を備えている。
【0021】
CPU11は、様々なプログラムを実行することが可能な回路であり、基地局10の全体の動作を制御する。ROM12は、不揮発性の半導体メモリであり、基地局10を制御するためのプログラムや制御データ等を保持している。RAM13は、例えば揮発性の半導体メモリであり、CPU11の作業領域として使用される。無線通信モジュール14は、無線信号によるデータの送受信に使用される回路であり、アンテナに接続される。また、無線通信モジュール14は、例えば複数の周波数帯にそれぞれ対応する複数の通信モジュールを含んでいる。有線通信モジュール15は、有線信号によるデータの送受信に使用される回路であり、ネットワークNWに接続される。
【0022】
図4は、実施形態に係る無線システム1の備える基地局10の機能構成の一例を示している。図4に示すように、基地局10は、例えばデータ処理部110、リンクマネジメント部120、並びに無線信号処理部130、140及び150を備える。データ処理部110、リンクマネジメント部120、並びに無線信号処理部130、140及び150の処理は、例えばCPU11及び無線通信モジュール14によって実現される。
【0023】
データ処理部110は、入力されたデータに対して、LLC層の処理と上位層(第3層~第7層)の処理とを実行し得る。例えば、データ処理部110は、ネットワークNWを介してサーバ30から入力されたデータを、リンクマネジメント部120に出力する。また、データ処理部110は、リンクマネジメント部120から入力されたデータを、ネットワークNWを介してサーバ30に送信する。
【0024】
リンクマネジメント部120は、入力されたデータに対して、MAC層の処理の一部を実行する。また、リンクマネジメント部120は、無線信号処理部130、140及び150からの通知に基づいて、端末20とのリンクを管理する。リンクマネジメント部120は、リンク管理情報121、及び共有時刻情報122を保持している。リンク管理情報121は、例えばRAM13に格納され、当該基地局10に無線接続されている端末20の情報を含んでいる。共有時刻情報122は、基地局10内で共有される時刻情報を保持し、無線信号処理部130、140及び150のそれぞれによって参照され得る。共有時刻情報122は、マルチリンクを同期するための時刻情報に対応している。
【0025】
無線信号処理部130、140及び150のそれぞれは、無線通信を用いて基地局10と端末20との間のデータの送受信を行う。例えば、無線信号処理部130、140及び150のそれぞれは、リンクマネジメント部120から入力されたデータにプリアンブルやPHYヘッダ等を付加して、無線フレームを作成する。そして、無線信号処理部130、140及び150のそれぞれは、当該無線フレームを無線信号に変換して、基地局10のアンテナを介して当該無線信号を配信する。また、無線信号処理部130、140及び150のそれぞれは、基地局10のアンテナを介して受信した無線信号を無線フレームに変換する。そして、無線信号処理部130、140及び150のそれぞれは、当該無線フレームに含まれたデータを、リンクマネジメント部120に出力する。
【0026】
このように、無線信号処理部130、140及び150のそれぞれは、入力されたデータ又は無線信号に対して、例えばMAC層の処理の一部と第1層の処理とを実行し得る。例えば、無線信号処理部130は、2.4GHz帯の無線信号を取り扱う。無線信号処理部140は、5GHz帯の無線信号を取り扱う。無線信号処理部150は、6GHz帯の無線信号を取り扱う。無線信号処理部130、140及び150は、基地局10のアンテナを共有していてもよいし、共有していなくてもよい。
【0027】
また、無線信号処理部130は、時刻情報131を保持している。時刻情報131は、無線信号処理部130を用いた通信の基準の時刻として使用される。無線信号処理部140は、時刻情報141を保持している。時刻情報141は、無線信号処理部140を用いた通信の基準の時刻として使用される。無線信号処理部150は、時刻情報151を保持している。時刻情報151は、無線信号処理部150を用いた通信の基準の時刻として使用される。リンクマネジメント部120は、共有時刻情報122と、時刻情報131、141及び151のそれぞれとを適宜同期させる。
【0028】
<1-3>端末20の構成について
図5は、実施形態に係る無線システム1の備える端末20の構成の一例を示している。図5に示すように、端末20は、例えばCPU21、ROM22、RAM23、無線通信モジュール24、ディスプレイ25、及びストレージ26を備えている。
【0029】
CPU21は、様々なプログラムを実行することが可能な回路であり、端末20の全体の動作を制御する。ROM22は、不揮発性の半導体メモリであり、端末20を制御するためのプログラムや制御データ等を保持している。RAM23は、例えば揮発性の半導体メモリであり、CPU21の作業領域として使用される。無線通信モジュール24は、無線信号によるデータの送受信に使用される回路であり、アンテナに接続される。また、無線通信モジュール24は、例えば複数の周波数帯にそれぞれ対応する複数の通信モジュールを含んでいる。ディスプレイ25は、例えばアプリケーションソフトに対応するGUI(Graphical User Interface)等を表示する。ディスプレイ25は、端末20の入力インタフェースとしての機能を有していてもよい。ストレージ26は、不揮発性の記憶装置であり、例えば端末20のシステムソフトウェア等を保持する。尚、端末20は、ディスプレイを備えていなくてもよい。例えば、IoT端末では、ディスプレイ25が省略され得る。
【0030】
図6は、実施形態に係る無線システム1の備える端末20の機能構成の一例を示している。図6に示すように、端末20は、例えばデータ処理部210、リンクマネジメント部220、無線信号処理部230、240及び250、並びにアプリケーション実行部260を備える。データ処理部210、リンクマネジメント部220、並びに無線信号処理部230、240及び250の処理は、例えばCPU21及び無線通信モジュール24によって実現される。
【0031】
データ処理部210は、入力されたデータに対して、LLC層の処理と上位層(第3層~第7層)の処理とを実行し得る。例えば、データ処理部210は、アプリケーション実行部260から入力されたデータを、リンクマネジメント部220に出力する。また、データ処理部210は、リンクマネジメント部220から入力されたデータを、アプリケーション実行部260に出力する。
【0032】
リンクマネジメント部220は、入力されたデータに対して、MAC層の処理の一部を実行し得る。また、リンクマネジメント部220は、無線信号処理部230、240及び250からの通知に基づいて、基地局10とのリンクを管理する。リンクマネジメント部220は、リンク管理情報221及び共有時刻情報222を含んでいる。リンク管理情報221は、例えばRAM23に格納され、当該端末20が接続している基地局10の情報を含んでいる。共有時刻情報222は、端末20内で共有される時刻情報を有し、無線信号処理部230、240及び250のそれぞれによって参照され得る。共有時刻情報222は、マルチリンクを同期するための時刻情報に対応している。
【0033】
無線信号処理部230、240及び250のそれぞれは、無線通信を用いて基地局10と端末20との間のデータの送受信を行う。例えば、無線信号処理部230、240及び250のそれぞれは、リンクマネジメント部220から入力されたデータにプリアンブルやPHYヘッダ等を付加して、無線フレームを作成する。そして、無線信号処理部230、240及び250のそれぞれは、当該無線フレームを無線信号に変換して、端末20のアンテナを介して当該無線信号を配信する。また、無線信号処理部230、240及び250のそれぞれは、端末20のアンテナを介して受信した無線信号を無線フレームに変換する。そして、無線信号処理部230、240及び250のそれぞれは、当該無線フレームに含まれたデータを、リンクマネジメント部220に出力する。
【0034】
このように、無線信号処理部230、240及び250のそれぞれは、入力されたデータ又は無線信号に対して、例えばMAC層の処理の一部と第1層の処理とを実行し得る。例えば、無線信号処理部230は、2.4GHz帯の無線信号を取り扱う。無線信号処理部240は、5GHz帯の無線信号を取り扱う。無線信号処理部250は、6GHz帯の無線信号を取り扱う。無線信号処理部230、240及び250は、端末20のアンテナを共有していてもよいし、共有していなくてもよい。
【0035】
また、無線信号処理部230は、時刻情報231を保持している。時刻情報231は、無線信号処理部230を用いた通信の基準の時刻として使用される。無線信号処理部240は、時刻情報241を保持している。時刻情報241は、無線信号処理部240を用いた通信の基準の時刻として使用される。無線信号処理部250は、時刻情報251を保持している。時刻情報251は、無線信号処理部250を用いた通信の基準の時刻として使用される。リンクマネジメント部220は、共有時刻情報222と、時刻情報231、241及び251のそれぞれとを適宜同期させる。
【0036】
アプリケーション実行部260は、データ処理部210から入力されたデータを利用することが可能なアプリケーションを実行する。例えば、アプリケーション実行部260は、アプリケーションの情報をディスプレイ25に表示することができる。また、アプリケーション実行部260は、入力インタフェースの操作に基づいて動作し得る。
【0037】
以上で説明された実施形態に係る無線システム1では、基地局10の無線信号処理部130、140及び150が、それぞれ端末20の無線信号処理部230、240及び250と接続可能に構成される。つまり、無線信号処理部130及び230間は、2.4GHz帯を用いて無線接続され得る。無線信号処理部140及び240間は、5GHz帯を用いて無線接続され得る。無線信号処理部150及び250間は、6GHz帯を用いて無線接続され得る。本明細書において、各無線信号処理部は、“STA機能”と呼ばれてもよい。すなわち、実施形態に係る無線システム1は、複数のSTA機能を備えている。
【0038】
<1-4>リンクマネジメント部の詳細な構成について
図7は、実施形態に係る無線システム1の備える基地局10のリンクマネジメント部120におけるチャネルアクセス機能の詳細を示している。尚、端末20のリンクマネジメント部220の機能は、例えば基地局10のリンクマネジメント部120と同様のため、説明を省略する。図7に示すように、リンクマネジメント部120は、例えばデータカテゴライズ部123、送信キュー124A、124B、124C、124D及び124E、CSMA/CA(Carrier Sense Multiple Access with Collision Avoidance)実行部125A、125B、125C、125D及び125E、及びデータ衝突管理部126を含んでいる。
【0039】
データカテゴライズ部123は、データ処理部110から入力されたデータをカテゴライズする。データのカテゴリとしては、例えば“LL(Low Latency)”、“VO(Voice)”、“VI(Video)”、“BE(Best Effort)”、及び“BK(Background)”が設定される。LLは、低遅延が求められるデータに適用される。このため、LLのデータは、VO、VI、BE及びBKのいずれのデータよりも優先して処理されることが好ましい。
【0040】
そして、データカテゴライズ部123は、カテゴライズしたデータを、送信キュー124A、124B、124C、124D及び124Eのいずれかに入力する。具体的には、LLのデータが、送信キュー124Aに入力される。VOのデータが、送信キュー124Bに入力される。VIのデータが、送信キュー124Cに入力される。BEのデータが、送信キュー124Dに入力される。BKのデータが、送信キュー124Eに入力される。そして、入力された各カテゴリのデータは、対応する送信キュー124A~Eのいずれかに蓄積される。
【0041】
CSMA/CA実行部125A、125B、125C、125D及び125Eのそれぞれは、CSMA/CAにおいて、キャリアセンスにより他の端末等による無線信号の送信がないことを確認しつつ、予め設定されたアクセスパラメータにより規定された時間だけ送信を待つ。そして、CSMA/CA実行部125A、125B、125C、125D及び125Eは、それぞれ送信キュー124A、124B、124C、124D及び124Eからデータを取り出し、取り出したデータをデータ衝突管理部126を介して無線信号処理部130、140及び150の少なくともいずれかに出力する。すると、当該データを含む無線信号が、CSMA/CAによって送信権が獲得された無線信号処理部(STA機能)によって送信される。
【0042】
CSMA/CA実行部125Aは、送信キュー124Aに保持されたLLのデータに対するCSMA/CAを実行する。CSMA/CA実行部125Bは、送信キュー124Bに保持されたVOのデータに対するCSMA/CAを実行する。CSMA/CA実行部125Cは、送信キュー124Cに保持されたVIのデータに対するCSMA/CAを実行する。CSMA/CA実行部125Dは、送信キュー124Dに保持されたBEのデータに対するCSMA/CAを実行する。CSMA/CA実行部125Dは、送信キュー124Eに保持されたBKのデータに対するCSMA/CAを実行する。
【0043】
尚、アクセスパラメータは、例えばLL、VO、VI、BE、BKの順に無線信号の送信が優先されるように割り当てられる。アクセスパラメータは、例えばCWmin、CWmax、AIFS、TXOPLimitを含んでいる。CWmin及びCWmaxは、競合回避のための送信待ちの時間であるコンテンションウインドウ(Contention Window)の最小値及び最大値をそれぞれ示している。AIFS(Arbitration Inter Frame Space)は、優先制御機能を備える衝突回避制御のためにアクセスカテゴリごとに設定された固定の送信待ちの時間を示している。TXOPLimitは、チャネルの占有時間に対応するTXOP(Transmission Opportunity)の上限値を示している。例えば、送信キュー124は、CWmin及びCWmaxが短いほど、送信権を得やすくなる。送信キュー124の優先度は、AIFSが小さいほど高くなる。一度の送信権で送信されるデータの量は、TXOPLimitの値が大きいほど多くなる。
【0044】
データ衝突管理部126は、複数のCSMA/CA実行部125が同一のSTA機能で送信権を獲得した場合に、データの衝突を防止する。具体的には、データ衝突管理部126は、カテゴリが異なり且つ同一のSTA機能で送信権が獲得されたデータの送信タイミングを調整し、優先度の高いカテゴリのデータからSTA機能に送信する。例えば、LLの送信キュー124AのCSMA/CAによって送信権を獲得したSTA機能が、その他の送信キュー124B~124EのいずれかのCSMA/CAによって送信権を獲得したSTA機能と同一になる場合がある。この場合、データ衝突管理部126は、送信キュー124Aに格納されたデータを優先してSTA機能に送信する。その他の送信キュー124の組み合わせにおいても同様に、カテゴリに設定された優先度に基づいた順番でデータが送信される。これにより、同一のSTA機能に送信が割り当てられたデータ同士の衝突が防止される。
【0045】
本実施形態では、リンクマネジメント部がチャネルアクセス機能を実装する形態について記載しているが、各STA機能がチャネルアクセス機能を実装してもよい。リンクマネジメント部がチャネルアクセス機能を実装する場合、各STA機能が、対応するリンクにおける無線チャネルの状態(アイドル/ビジー)を検出して、リンクマネジメント部が、データの送信可否を判断する(どのリンクを使って送信する等)。一方で、各STA機能がチャネルアクセス機能を実装する場合、各STA機能が独立してキャリアセンスを実行して、データを送信すればよい。このとき、複数のリンクが同時に使用された場合のチャネルアクセスは、複数のSTA機能間のやりとりによってアクセスパラメータが共通化されることによって実行されてもよく、リンクマネジメント部によってアクセスパラメータが共通化されることによって実行されてもよい。基地局10及び端末20は、データを複数のSTA機能間で共通のアクセスパラメータに基づいて送信することによって、複数のリンクを同時に使うことができる。
【0046】
<2>無線システム1の動作
実施形態に係る無線システム1では、基地局10及び端末20間のマルチリンクが、基地局10又は端末20からのリクエストに応じて確立され得る。以下に、実施形態に係る無線システム1において、基地局10及び端末20がマルチリンクを確立している場合の動作の一例について説明する。
【0047】
図8は、実施形態に係る無線システム1におけるリンク管理情報121の一例を示している。尚、端末20のリンク管理情報221は、基地局10のリンク管理情報121と類似した情報を有するため、説明を省略する。図8に示すように、リンク管理情報121は、例えばSTA機能、周波数帯、動作モード、リンク先ID、マルチリンク有無、TIDのそれぞれの情報を含んでいる。
【0048】
本例において“STA1”は、6GHzの周波数帯を使用するSTA機能、すなわち無線信号処理部150又は250に対応している。“STA2”は、5GHzの周波数帯を使用するSTA機能、すなわち無線信号処理部140又は240に対応している。“STA3”は、2.4GHzの周波数帯を使用するSTA機能、すなわち無線信号処理部130又は230に対応している。
【0049】
動作モードは、STA機能の現在の動作モードを示している。STA機能の動作モードとしては、例えばアクティブモード、間欠動作モード、動作休止モードが挙げられる。アクティブモードは、端末20のSTA機能がAwake状態を維持することにより、無線信号を随時送受信可能である状態に対応している。間欠動作モードは、端末20のSTA機能がAwake状態とDoze状態を繰り返すことにより、間欠的に動作している状態に対応している。動作休止モードは、端末20のSTA機能がDoze状態を維持することにより、無線信号の送受信が不可能である状態に対応している。マルチリンクを構成する複数のSTA機能は、少なくとも1つのアクティブモード又は間欠動作モードのリンクを含んでいる。マルチリンクを構成するその他のリンクは、アクティブモード、間欠動作モード、及び動作休止モードのいずれかに設定され得る。
【0050】
尚、Awake状態は、無線信号を送受信可能な状態に対応している。Dose状態は、無線信号を送受信不可能な状態に対応している。Doze状態では、当該STA機能に関する回路への電源の供給が適宜遮断される。このため、STA機能の消費電力は、アクティブモード、間欠動作モード、動作休止モードの順に小さくなる。尚、基地局10又は端末20が通信に使うことができるが、これらの間のマルチリンクのリンクセットに含まれないリンクも存在し得る(Disabledリンク、図8の“オフ”に対応)。以下では、説明を簡潔にするために、アクティブモード又は間欠動作モードのリンク、すなわち通信可能なリンクのことを“Awake状態のSTA機能”と呼ぶ。動作休止モードのリンク、すなわち通信不可能な省電力状態のリンクのことを“Dose状態のSTA機能”と呼ぶ。
【0051】
リンク先IDは、例えば、リンク管理情報121では端末20の識別子に対応し、リンク管理情報221では、基地局10の識別子に対応している。本例では、STA1及びSTA2を用いたマルチリンクが確立されている。マルチリンクが確立されている場合、リンクマネジメント部120及び220のそれぞれは、上位層から入力されたデータを、マルチリンクに関連付けられた少なくとも1つのSTA機能のリンクを用いて送信する。
【0052】
リンク管理情報121内の“TID”は、STA機能とTID情報との関連付けを示している。各STA機能は、割り当てられたTID情報に対応するデータを送受信する。TID#1~3のそれぞれは、LL、VO、VI、BE、BKのいずれかに対応している。1つのトラヒック、すなわち1つのTIDに対して、1つのSTA機能が関連付けられてもよいし、複数のSTA機能が関連付けられてもよい。本例では、TID#1が、STA1及びSTA2の両方に割り当てられている。TID#2が、STA1に割り当てられている。TID#3が、STA2に割り当てられている。
【0053】
このようなトラヒックとSTA機能との関連付けに対応するトラヒックフローは、基地局10と端末20との間のマルチリンクのセットアップ時に予め設定される。例えば、端末20のリンクマネジメント部220が、トラヒックとSTA機能との対応付けを決定し、基地局10のリンクマネジメント部120にリクエストする。そして、基地局10が、当該リクエストに対してレスポンスすることによって、トラヒックとSTA機能との対応付けが確定する。
【0054】
以上で説明されたトラヒックは、例えば、マルチリンクを構成する複数のリンク間で均等になるように設定される。これに限定されず、互いに類似する種類(優先/非優先等)のトラヒックが、マルチリンクを構成する一方のリンクに集められてもよい。また、STA機能とトラヒックとの関連付けとしては、例えば音声が2.4GHzの周波数帯に関連付けられ、映像が5Gに関連付けられる。このように、取り扱う情報の種類やデータ容量に応じて、送受信に使用される周波数が割り当てられることが好ましい。
【0055】
以下に、基地局10及び端末20がマルチリンクを確立している際の様々な動作について、基地局10及び端末20のそれぞれに着目して順に説明する。
【0056】
<2-1>基地局10の動作について
(マルチリンク時のデータの送信方法について)
図9は、実施形態に係る無線システム1の備える基地局10におけるマルチリンク時のデータの送信方法の一例を示している。図9に示すように、基地局10は、上位層からデータを取得すると、ステップS10~S12の処理を順に実行する。
【0057】
具体的には、まずステップS10の処理において、リンクマネジメント部120が、当該データに対応するTID情報を取得する。言い換えると、リンクマネジメント部120が、例えば、上位層から取得した無線フレーム内のMACヘッダを参照して、MACヘッダ内に含まれたTID情報がLL、VO、VI、BE、BKのいずれであるかを確認する。これにより、リンクマネジメント部120は、当該データのトラヒックフローがどのTIDに対応するかを確認することができる。
【0058】
次に、ステップS11の処理において、リンクマネジメント部120が、確認されたTID情報に対応するSTA機能を取得する。この際に、リンクマネジメント部120は、リンク管理情報121を参照することによって、TID情報とSTA機能との関連付けを確認する。尚、ステップS11の処理において、リンクマネジメント部120により取得されるSTA機能の数は、1つであってもよいし、複数であってもよい。
【0059】
次に、ステップS12の処理において、リンクマネジメント部120が、取得したSTA機能にデータを出力する。出力されるデータ(トラヒック)に1つのSTA機能が関連付けられている場合、当該データは1つのSTA機能を用いてシリアルに送信される。一方で、トラヒックに複数のSTA機能が関連付けられている場合、当該データは複数のSTA機能を用いてパラレルに送信される。
【0060】
尚、1つのトラヒックがパラレルに送信される場合、基地局10のリンクマネジメント部120と端末20のリンクマネジメント部220との間で、データの振り分けと並び替えが実行される。データの振り分けは、送信側のリンクマネジメント部によって実行され、データの並び替えは、受信側のリンクマネジメント部によって実行される。例えば、送信側のリンクマネジメント部は、無線フレームにマルチリンクであることを示すフラグと識別番号とを付加する。受信側のリンクマネジメント部は、付加されたフラグと識別番号とに基づいて、データの並び替えを実行する。
【0061】
また、実施形態に係る無線システム1において、リンクマネジメント部は、上位層から複数のデータを受信した場合に、受信した複数のデータを結合することによりアグリゲーションを実行してもよい。マルチリンクにおけるアグリゲーションは、ユーザによって実行の有無が選択可能なオプション機能として使用されてもよい。
【0062】
(時刻の同期方法について)
実施形態に係る無線システム1では、CSMA/CA等を実行するために、BSS(Basic Service Set)内で時刻が同期される必要がある。そこで、基地局10は、リンクを形成する端末20との間で時刻同期をするためのビーコン信号を適宜送信する。以下に、マルチリンクが確立された端末20の各STA機能がAwake状態である場合に、基地局10が時刻情報を含むビーコン信号を送信する一例について説明する。
【0063】
図10は、実施形態に係る無線システム1の備える基地局10における時刻同期方法の一例を示している。図10に示すように、基地局10は、BSS内で時刻を同期させるために、ステップS20~S22の処理を順に実行する。
【0064】
具体的には、まずステップS20の処理において、マルチリンクを構成する各STA機能の時刻情報が、共有時刻情報122に同期される。言い換えると、リンクマネジメント部120が、例えば各STA機能(無線信号処理部130、140及び150)に対して、共有時刻情報122を送信する。すると、共有時刻情報122が、無線信号処理部130内の時刻情報131と、無線信号処理部140内の時刻情報141と、無線信号処理部150内の時刻情報151とのそれぞれに上書きされる。
【0065】
次に、ステップS21の処理において、マルチリンクを構成する各STA機能が、同一の時刻情報を含むビーコン信号を作成する。具体的には、無線信号処理部130、140及び150が、時刻情報131、141及び151を含むビーコン信号をそれぞれ作成する。これらの時刻情報131、141及び151は、ステップS20の処理により、同じ時刻情報を含んでいる。尚、リンクマネジメント部120が同一の時刻情報を含むビーコン信号を作成して、作成したビーコン信号を各STA機能に提供してもよい。
【0066】
次に、ステップS22の処理において、マルチリンクを構成する各STA機能が、ビーコン信号を同時に送信する。尚、各STA機能は、例えばアクティブモードのAwake状態である場合、又は間欠動作モードのAwake状態である場合に、ビーコン信号を送信することができる。一方で、各STA機能は、Disable状態である場合、又は間欠動作モードのDoze状態である場合に、ビーコン信号を送信することができない。尚、本実施形態では、同一の時刻情報を含むビーコン信号が各STA機能から同時に送信される形態を記載しているが、これに限定されない。例えば、各STA機能によって共有される時刻情報を含むビーコン信号が、互いに異なる時刻に送信されてもよい。つまり、マルチリンクを構成する複数のSTA機能間で扱われる時刻情報が同期しており、ビーコン信号の時刻情報が当該同期した時刻情報に基づいて生成されていればよい。
【0067】
以上のように基地局10によって送信された時刻情報を含むビーコン信号は、端末20によって受信され得る。端末20は、ビーコン信号の受信に、Awake状態のSTA機能を使用する。そして、端末20のリンクマネジメント部220は、受信されたビーコン信号に含まれた時刻情報を、共有時刻情報222に上書きする。つまり、ビーコン信号に含まれた時刻情報と端末20の共有時刻情報222とが同期される。また、この際にビーコン信号の受信に使用されたSTA機能の時刻情報も同様に、ビーコン信号に含まれた時刻情報と同期される。尚、基地局10と端末20との間の物理的な距離による時刻情報のオフセットについて補償する必要がある場合、端末20のAwake状態のSTA機能がFine Timing Managementを行い、受信したビーコン信号の時刻情報にオフセットを加味して共有時刻情報に上書きする。これにより、Doze状態からAwake状態に移行したSTA機能が、当該共有時刻情報を使用することによりオフセットが加味された時刻情報を使用することができる。ここで、Fine Timing Managementとは、IEEE 802.11-2016で規定される高精度なタイミング管理である。Fine Timing Managementによるオフセットが加味されることにより、STA機能が、Doze状態中に端末20が移動した場合にも、Awake状態に移行して速やかに高精度な同期を図ることができる。
【0068】
尚、マルチリンクは、Awake状態のSTA機能を少なくとも1つ含んでいるため、マルチリンクがDoze状態のSTA機能を含んでいる場合においても、上述された時刻情報の同期が実行され得る。また、端末20は、時刻情報を含むビーコンをマルチリンクを構成する複数のSTA機能で受信する場合がある。この場合、ビーコン信号を受信したSTA機能の時刻情報が同期されるとともに、いずれかのSTA機能が受信したビーコン信号に基づいて共有時刻情報222が更新される。この際に共有時刻情報222の更新に使用されるSTA機能は、例えばSTA機能毎に設定された優先度に基づいて選択される。
【0069】
図11は、実施形態に係る無線システム1の備える基地局10におけるビーコン信号の出力方法の一例を示し、図10で説明された動作に対応している。本例では、STA1及びSTA2がマルチリンクを確立している。そして、STA1及びSTA2のそれぞれがAwake状態に設定され、STA3がDisable状態(“オフ”)に設定されている。
【0070】
図11に示すように、マルチリンクを構成するSTA1及びSTA2のそれぞれは、ビーコン信号を間欠的に送信している。一方で、Disable状態のSTA3によるビーコン信号の送信は、省略される。また、STA1及びSTA2のそれぞれによって同時刻に送信されるビーコン信号は、同一の時刻情報(基準時刻情報)を含んでいる。具体的には、STA1によって送信されるビーコン信号に含まれた時刻情報131と、STA2によって送信されるビーコン信号に含まれた時刻情報141とは、共有時刻情報122に同期した同一の時刻情報を含んでいる。
【0071】
(バッファ状況の通知方法について)
実施形態における基地局10は、マルチリンクが動作休止モードのリンク(Dose状態のSTA機能)を含む場合に、データのバッファ状況を通知するビーコン信号を端末20に適宜送信する。図12は、実施形態に係る無線システム1におけるリンク管理情報121の一例を示している。図12に示されたリンク管理情報121は、図8に示されたリンク管理情報121において、STA1の動作モードが間欠動作モード(Awake状態)に変更され、STA2の動作モードが動作休止モード(Doze状態)に変更された情報を有している。以下に、図12に示されたマルチリンクを構成する基地局10がバッファ状況の通知に関するビーコン信号を送信する一例について説明する。
【0072】
図13は、実施形態に係る無線システム1の備える基地局10におけるバッファ状況の通知方法の一例を示している。図13に示すように、基地局10は、端末20にバッファ状況を通知するために、ステップS30~S32の処理を順に実行する。
【0073】
具体的には、まずステップS30の処理において、リンクマネジメント部120が、マルチリンクを構成するSTA機能に対応するデータのバッファ状況を確認する。言い換えると、リンクマネジメント部120が、例えばTID#1~3にそれぞれ対応する複数の送信キュー124にデータが蓄積されているか否かを確認する。
【0074】
次に、ステップS31の処理において、データのバッファ状況に基づいて、TIM(Traffic Indication Map)を含むビーコン信号が作成される。TIMは、パワーセーブ中の端末20にデータの着信を通知するための情報要素である。当該ビーコン信号の作成は、リンクマネジメント部120によって実行されてもよいし、各STA機能によって実行されてもよい。TIMを含むビーコン信号のフォーマットの具体例については後述する。
【0075】
次に、ステップS32の処理において、マルチリンクを構成し且つAwake状態のSTA機能を用いてビーコン信号を送信する。言い換えると、基地局10は、マルチリンクがDoze状態のSTA機能を含む場合に、マルチリンクを確立しているSTA機能のうちAwake状態である少なくとも1つのSTA機能を用いて、ステップS31で作成したビーコン信号を送信する。本例において基地局10は、当該ビーコン信号の送信に、STA1を使用する。
【0076】
図14は、実施形態に係る無線システム1の備える基地局10におけるビーコン信号の出力方法の一例を示し、図13で説明された動作に対応している。つまり、本例では、STA1及びSTA2がマルチリンクを確立し、STA1及びSTA2がそれぞれがAwake状態及びDoze状態に設定されている。また、STA3は、Disable状態に設定されている。
【0077】
図14に示すように、マルチリンクを構成するSTA1及びSTA2のうち、Awake状態のSTA1が、ビーコン信号を間欠的に送信している。一方で、Doze状態のSTA2と、Disable状態のSTA3とのそれぞれによるビーコン信号の送信は、省略される。
【0078】
図15は、実施形態に係る無線システム1における、図12に示されたマルチリンクに対応するTIMを含むビーコン信号の具体例を示している。図15に示すように、ビーコン信号は、例えば、端末識別子と、リンク識別子#1と、バッファ情報#1と、リンク識別子#2と、バッファ情報#2とを、この順番に含んでいる。
【0079】
端末識別子は、例えば基地局10及び端末20間のアソシエーション識別子AID(Association Identifier)を含んでいる。リンク識別子#1及び2は、マルチリンクを構成する一方及び他方のリンク識別子をそれぞれ含んでいる。バッファ状況#1及び2は、それぞれリンク識別子#1及び2に対応するトラヒックのバッファ状況を示している。例えば、バッファ状況が“0”である場合、関連付けられたリンク識別子に対するトラヒックが蓄積されていないことを示している。バッファ状況が“1”である場合、関連付けられたリンク識別子に対するトラヒックが蓄積されていることを示している。尚、バッファ状況を示すビットとトラヒックの蓄積の有無の割り当ては、任意に変更され得る。
【0080】
以上のように、実施形態に係る無線システム1において、基地局10は、マルチリンクを確立しているリンク毎にトラヒックが蓄積されているか否かを示す情報を含むビーコン信号を、端末20に向けて送信することができる。そして、バッファ状況を通知するビーコン信号は、STA機能がAwake状態であるかDoze状態であるかに依らずに、リンクを形成しているSTA機能に対応するSTA機能のバッファ状況を含んでいる。
【0081】
尚、ビーコン信号のヘッダは、当該ビーコン信号に何個のSTA機能のバッファ状況の情報が含まれているのかを示す情報を含んでいる。マルチリンクが3つ以上のSTA機能によって確立されている場合、ビーコン信号は、リンク識別子と当該リンク識別子に対応するバッファ状況との組を3つ以上含み得る。また、ビーコン信号は、確立されていないリンクに関する情報を含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。
【0082】
<2-2>端末20の動作について
実施形態における端末20は、通信状況に応じて、マルチリンクを構成する一部のリンクに動作休止モードを適用する。以下では、動作休止モード(Doze状態)のリンクを含むマルチリンクの状態のことを“マルチリンクパワーセーブ”と呼び、端末20のマルチリンクパワーセーブに関連する様々な動作の一例について説明する。尚、以下の説明では、基地局10及び端末20間でSTA1及びSTA2を用いたマルチリンクが確立されているものと仮定する。また、説明を簡潔にするために、基地局10のSTA1及びSTA2のことを“アクセスポイントAP”とも呼ぶ。端末20のSTA1及びSA2がアクセスポイントAPに無線信号を送信することは、それぞれ基地局10のSTA1及びSTA2に無線信号を送信することに対応している。STA1及びSTA2がそれぞれ単独で記載された場合に、これらは端末20のSTA機能のことを示している。
【0083】
(マルチリンクパワーセーブの開始方法について)
図16は、実施形態に係る無線システム1におけるマルチリンクパワーセーブの開始方法の一例を示すフローチャートである。尚、本動作の開始時において、STA1及びSTA2のそれぞれは、Awake状態である。図16に示すように、アクセスポイントAPは、端末20のSTA1及びSTA2のそれぞれに対してビーコン信号を送信する(ステップS40)。このビーコン信号は、例えばSTA1及びSTA2のそれぞれのトラヒックが空であることを示す情報を含み、STA1及びSTA2のそれぞれにより受信される。
【0084】
端末20のSTA1は、例えばトラヒックが空であることに応じて、マルチリンクパワーセーブの開始を通知する無線信号をアクセスポイントAPに送信する(ステップS41)。マルチリンクパワーセーブの開始を通知する無線信号のデータフレーム(Data Frame)は、例えば“1”が格納されたPM(Power Management)ビットを含んでいる。“PM=1”の信号を受信したアクセスポイントAPは、当該信号を受信したことを端末20に通知する無線信号(Data ACK)を端末20のSTA1に送信する(ステップS42)。
【0085】
端末20のSTA1が、“PM=1”を含むデータフレームを送信したことに対するData ACKを受信すると、端末20のリンクマネジメント部220は、例えばSTA2をアクティブモード又は間欠動作モード(Awake状態)から動作休止モード(Doze状態)に遷移させる(ステップS43)。これにより、マルチリンクを構成するSTA1及びSTA2の合計の消費電力が、動作休止モードの利用前よりも低くなる。尚、ステップS43の処理では、マルチリンクを構成する複数のSTA機能内で、Doze状態に設定されるSTA機能が少なくとも1つ存在していればよい。
【0086】
“PM=1”を受信したことに対するData ACKを送信した後に、アクセスポイントAPは、TIMを含むビーコン信号を端末20のSTA1に対して送信する(ステップS44)。このとき、Awake状態のSTA1は、当該ビーコン信号を受信することができる。一方で、Doze状態のSTA2は、ビーコン信号を受信せずに、STA1よりも低消費電力な状態を保っている。
【0087】
以上のように、実施形態に係る無線システム1における端末20は、トラヒックの状態に応じてマルチリンクパワーセーブに遷移し、マルチリンクの消費電力を抑制することができる。そして、基地局10が、端末20がマルチリンクパワーセーブに遷移したことに基づいて、データのバッファ状況を通知するためのTIMを含むビーコン信号を、Awake状態である端末20のSTA機能に対して間欠的に送信する。マルチリンクパワーセーブ中の基地局10及び端末20間の通信方法の詳細については後述する。
【0088】
(マルチリンクパワーセーブの終了方法について)
図17は、実施形態に係る無線システム1におけるマルチリンクパワーセーブの終了方法の流れの一例を示している。尚、本動作の開始時において、STA1及びSTA2は、それぞれAwake状態及びDoze状態である。図17に示すように、アクセスポイントAPは、端末20のSTA1及びSTA2のそれぞれに対してビーコン信号を送信する(ステップS50)。このビーコン信号は、例えば端末20にマルチリンクパワーセーブの終了を要求する情報を含み、Awake状態のSTA1により受信される。
【0089】
端末20のSTA1は、当該ビーコン信号を受信したことに応じて、マルチリンクパワーセーブの終了を通知する無線信号をアクセスポイントAPに送信する(ステップS51)。マルチリンクパワーセーブの終了を通知する無線信号のデータフレームは、例えば“0”が格納されたPMビットを含んでいる。“PM=0”の信号を受信したアクセスポイントAPは、当該信号を受信したことを端末20に通知する無線信号(Data ACK)を端末20のSTA1に送信する(ステップS52)。
【0090】
端末20のSTA1が、“PM=0”を含むデータフレームを送信したことに対するData ACKを受信すると、端末20のリンクマネジメント部220は、STA2を動作休止モード(Doze状態)からアクティブモード又は間欠動作モード(Awake状態)に遷移させる(ステップS53)。これにより、マルチリンクを構成するSTA1及びSTA2のそれぞれが、基地局10からの無線信号を受信可能な状態になる。
【0091】
“PM=0”を受信したことに対するData ACKを送信した後に、アクセスポイントAPは、ビーコン信号を端末20のSTA1及びSTA2のそれぞれに対して送信する(ステップS54)。このビーコン信号は、通信に必要な様々な情報要素を含んでいる。
【0092】
以上のように、実施形態に係る無線システム1における基地局10は、マルチリンク内で動作休止モードに設定されたSTA機能を、必要に応じてアクティブモード又は間欠動作モードに遷移させ、マルチリンクを構成する複数のSTA機能を通信可能な状態に設定することができる。尚、以上の説明では、Doze状態のSTA機能が基地局10のビーコン信号に基づいてAwake状態に遷移する場合について例示したが、これに限定されない。端末20は、ユーザの操作やアプリケーションの制御に基づいて、Doze状態のSTA機能をAwake状態に遷移させてもよい。
【0093】
(マルチリンクパワーセーブ中の動作について)
図18及び図19は、実施形態に係る無線システム1におけるマルチリンクパワーセーブ中の動作の流れの一例を示している。図18は、Awake状態であるSTA1向けのデータをアクセスポイントAPが受信した場合の動作に対応している。図19は、Doze状態であるSTA2向けのデータをアクセスポイントAPが受信した場合の動作に対応している。
【0094】
まず、Awake状態であるSTA1向けのデータをアクセスポイントAPが受信した場合の無線システム1の動作の一例について説明する。図18に示すように、アクセスポイントAPが、端末20のSTA1向けのデータを受信すると、例えば当該データをリンクマネジメント部120の送信キュー124に蓄積する。すると、アクセスポイントAPが、STA1向けのデータのバッファ状況が“1”であることを示すTIMを含むビーコン信号を、Awake状態のSTA1に送信する(ステップS60)。
【0095】
そして、端末20のSTA1によって受信されたビーコン信号は、リンクマネジメント部220に転送される。すると、リンクマネジメント部220は、当該ビーコン信号に基づいて、STA1向けのデータの送信を要求するPS-Poll(Power Save-Poll)フレームを、STA1を介してアクセスポイントAPに送信する(ステップS61)。アクセスポイントAPは、端末20のSTA1からPS-Pollフレームを受信すると、当該STA1向けに蓄積されたデータを含むData ACKを、端末20のSTA1に送信する(ステップS62)。これにより、端末20のSTA1は、アクセスポイントAPに蓄積された自局向けのデータを受信することができる。
【0096】
STA1向けのデータの送信が完了し、送信キュー124におけるSTA1向けのデータの蓄積が解消されると、アクセスポイントAPは、STA1向けのデータのバッファ状況が“0”であることを示すTIMを含むビーコン信号を、端末20のSTA1に送信する(ステップS63)。つまり、アクセスポイントAPは、STA1向けのデータの送信が完了したことをSTA1を介して端末20のリンクマネジメント部220に通知する。
【0097】
次に、Doze状態であるSTA2向けのデータをアクセスポイントAPが受信した場合の無線システム1の動作の一例について説明する。図19に示すように、アクセスポイントAPが、端末20のSTA2向けのデータを受信すると、例えば当該データをリンクマネジメント部120の送信キュー124に蓄積する。すると、アクセスポイントAPが、STA2向けのデータのバッファ状況が“1”であることを示すTIMを含むビーコン信号を、Awake状態のSTA1に送信する(ステップS70)。
【0098】
そして、端末20のSTA1によって受信されたビーコン信号は、リンクマネジメント部220に転送される。すると、リンクマネジメント部220は、当該ビーコン信号に基づいて、STA2をDoze状態からAwake状態に遷移させる(ステップS71)。それから、Awake状態に遷移したSTA2は、まず共有時刻情報222を参照して、STA2に対応する時刻情報241と共有時刻情報222とを同期させる。
【0099】
その後、リンクマネジメント部220は、STA2向けのデータの送信を要求するPS-Poll(Power Save-Poll)フレームを、STA2を介してアクセスポイントAPに送信する(ステップS72)。アクセスポイントAPは、端末20のSTA2からPS-Pollフレームを受信すると、当該STA2向けに蓄積されたデータを含むData ACKを、端末20のSTA2に送信する(ステップS73)。これにより、端末20のSTA2は、アクセスポイントAPに蓄積された自局向けのデータを受信することができる。
【0100】
STA2向けのデータの送信が完了し、送信キュー124におけるSTA2向けのデータの蓄積が解消されると、アクセスポイントAPは、STA2のバッファ状況が“0”であることを示すTIMを含むビーコン信号を、端末20のSTA1に送信する(ステップS74)。つまり、アクセスポイントAPは、STA2向けのデータの送信が完了したことをSTA1を介して端末20のリンクマネジメント部220に通知する。尚、このビーコン信号は、STA2によって受信されてもよい。すると、リンクマネジメント部220は、当該ビーコン信号に基づいて、STA2をAwake状態からDoze状態に遷移させる(ステップS75)。つまり、データの送信が完了したことに基づいて、マルチリンクを構成するSTA機能のうちビーコン信号の受信に使用されないSTA機能が、省電力なDoze状態に再び設定される。
【0101】
以上のように、実施形態に係る無線システム1における基地局10は、マルチリンクパワーセーブを利用した端末20に対してデータを送信することができる。尚、以上の説明では、STA機能毎にデータが送信される場合について例示したが、マルチリンクを構成する複数のSTA機能のそれぞれには、パラレルにデータが送信されてもよい。例えば、STA1及びSTA2のそれぞれのバッファ状況が“1”である場合に、端末20のリンクマネジメント部220は、STA1及びSTA2のそれぞれに、PS-PollフレームのアクセスポイントAPに対する送信を指示してもよい。
【0102】
<3>実施形態の効果
以上で説明された実施形態に係る無線システム1に依れば、マルチリンク時における端末20の消費電力を抑制することができる。以下に、実施形態に係る無線システム1の効果の詳細について説明する。
【0103】
無線LANを使用する基地局及び端末は、例えば2.4GHz、5GHz、6GHzのように、使用する帯域毎に設けられた複数のSTA機能を備える場合がある。このような無線システムでは、例えば複数のSTA機能のうち一つのSTA機能を選択することにより無線接続が確立され、基地局及び端末間のデータ通信が行われる。このとき、無線システムでは、選択されていないSTA機能が、当該STA機能の帯域に対応する基地局が存在したとしても、使用されない状態になる。
【0104】
これに対して、実施形態に係る無線システム1は、基地局10及び端末20の各々が備える複数のSTA機能を活用して、基地局10及び端末20間のマルチリンクを確立する。マルチリンクによるデータ通信は、複数の帯域を併用することができ、無線LAN装置の備える機能を十分に活用することができる。その結果、実施形態に係る無線システム1は、効率的な通信を実現することができ、通信速度を向上させることができる。その一方で、マルチリンクの消費電力は、基地局10と端末20とのそれぞれで複数のSTA機能が利用されるため、シングルリンクよりも高くなる。
【0105】
そこで、実施形態に係る無線システム1は、トラヒックが少ない場合等に、マルチリンクをマルチリンクパワーセーブに設定する。マルチリンクパワーセーブでは、例えばマルチリンクを構成する複数のSTA機能のうち、少なくとも一つのSTA機能が通常状態(Awake状態)に設定され、その他のSTA機能が省電力状態(Doze状態)に設定される。Awake状態のSTA機能は、例えば基地局10のビーコン信号を受信可能である。また、Doze状態のSTA機能は、例えばDisable状態と同様に停止している。このため、Doze状態のSTA機能の消費電力は、Awake状態のSTA機能よりも低くなる。
【0106】
そして、マルチリンクパワーセーブでは、Awake状態のSTA機能が、マルチリンクを構成する複数のSTA機能に対応する情報を含むビーコン信号を受信する。例えば、Doze状態のSTA機能に対するデータがネットワークNWから基地局10に入力された場合、基地局10は、Awake状態のSTA機能(リンク)を介して、データが蓄積されていることを端末20に通知する。それから、端末20のSTA機能が、リンクマネジメント部220に当該通知を転送し、リンクマネジメント部220が、Doze状態のSTA機能をウェイクアップさせる。これにより、ウェイクアップしたSTA機能が、PS-Pollフレームを送信することによって、基地局10からデータを取得することができる。
【0107】
尚、実施形態に係る無線システム1において、CSMA/CA等が実行されるためには、リンクを形成する基地局10のSTA機能と、端末20のSTA機能とのそれぞれの時刻情報が同期されている必要がある。例えば、シングルリンクが使用される場合、少なくともリンク毎に基地局10のSTA機能と端末20のSTA機能との時刻同期がされていればよく、異なるリンク間で時刻情報が異なっていてもよい。
【0108】
一方で、マルチリンクが使用される場合、マルチリンクを構成するSTA機能間で時刻同期されている必要がある。言い換えると、マルチリンクでは、異なる周波数で同期して動作させる必要がある。また、BSS内での時刻同期は、ビーコン信号の受信により行われる。例えば、マルチリンクでは、マルチリンクパワーセーブが適用された場合においても、アクティブモード又は間欠動作モード(Awake状態)に設定されたSTA機能がビーコンを受信し、時刻同期を行うことができる。
【0109】
しかしながら、マルチリンクパワーセーブにおいてDoze状態に設定されたSTA機能は、時間経過に伴い当該リンクの時刻同期がずれるおそれがある。具体的には、Doze状態のSTA機能では、ビーコン信号による時刻同期をすることができないため、STA機能が参照するクロックの精度のばらつきに応じた時刻情報のずれが生じ得る。このため、端末20は、Doze状態のSTA機能でデータの送受信を実行する場合に、ウェイクアップした後に当該STA機能の時刻同期を実行することが好ましい。
【0110】
そこで、実施形態に係る無線システム1では、基地局10及び端末20のそれぞれが、全てのSTA機能で共通なローカルクロック、すなわち共有時刻情報を備えている。そして、基地局10が、例えばマルチリンクを構成する全てのリンクにおいて、共有時刻情報を含むビーコン信号を同期して送信する。すると、Awake状態のSTA機能は、ビーコン信号を受信し、当該ビーコン信号とローカルクロックのタイムスタンプが異なっている場合に、共有時刻情報を更新する。
【0111】
このように、共有時刻情報の同期は、Awake状態のSTA機能を用いて逐次実行される。一方で、Doze状態のSTA機能は、ウェイクアップした際に、共通のローカルクロックを用いて当該リンクにおける時刻同期を実行する。つまり、Doze状態のSTA機能は、ウェイクアップした後に、ビーコン信号を受信することなくマルチリンク内の時刻同期を実行することができる。
【0112】
以上のように、実施形態に係る無線システム1では、マルチリンクで時刻同期をするためのクロックが基地局10及び端末20のそれぞれで共通化されている。これにより、端末20は、ビーコン信号を利用したSTA機能毎の時刻同期を省略しつつ、マルチリンクを構成する複数のSTA機能間の時刻を同期させることができる。その結果、実施形態に係る無線システム1は、端末20の消費電力を抑制しつつ、Doze状態のSTA機能をウェイクアップさせた後のデータの送受信を、速やかに実行することができる。
【0113】
<4>実施形態の変形例
実施形態で説明された無線システム1はあくまで一例であり、種々の変形が可能である。以下に、実施形態の第1変形例、第2変形例、及び第3変形例について順に説明する。
【0114】
<4-1>第1変形例
実施形態の第1変形例に係る無線システム1は、各STA機能が常に共通のローカルクロックを参照する構成を有する。図20及び図21は、実施形態の第1変形例に係る無線システム1の備える基地局10及び端末20の機能の一例をそれぞれ示している。
【0115】
図20に示すように、実施形態の第1変形例の基地局10では、実施形態の基地局10から無線信号処理部130内の時刻情報131と、無線信号処理部140内の時刻情報141と、無線信号処理部150内の時刻情報151とが省略された構成を有している。
【0116】
図21に示すように、実施形態の第1変形例の端末20では、実施形態の端末20から無線信号処理部230内の時刻情報231と、無線信号処理部240内の時刻情報241と、無線信号処理部250内の時刻情報251とが省略された構成を有している。第1実施形態の第1変形例に係る無線システム1のその他の構成は、実施形態と同様である。
【0117】
以上のように、実施形態の第1変形例では、基地局10及び端末20のそれぞれが、STA機能毎に時刻情報を保持していない。言い換えると、基地局10の各STA機能のクロックが、STA機能の外側の共有時刻情報122に共通化されている。端末20の各STA機能のクロックが、STA機能の外側の共有時刻情報222に共通化されている。このような場合においても、各STA機能は、常に共有時刻情報を参照して動作することによって、CSMA/CA等を実行することができる。
【0118】
また、実施形態の第1変形例では、共有時刻情報が常に参照されるため、実施形態で実行されたSTA機能毎の時刻同期が省略される。このため、実施形態の第1変形例では、基地局10の共有時刻情報122と、端末20の共有時刻情報222とが同期されていればよい。その結果、実施形態の第1変形例係る無線システム1は、時刻同期に関する動作を実施形態よりも簡略化することができる。
【0119】
<4-2>第2変形例
実施形態の第2変形例に係る無線システム1は、マルチリンクを構成する複数のリンクにプライマリリンクを設定する。図22は、実施形態の第2変形例に係る無線システム1におけるリンク管理情報121の一例を示している。図22に示されたリンク管理情報121は、図12に示されたリンク管理情報121に対して、STA1がプライマリリンクに設定されている点が異なっている。プライマリリンクに関する情報の表記方法としては、これに限定されず、その他の方法が適用されてもよい。
【0120】
プライマリリンクは、例えば基地局10及び端末20間のマルチリンクの確立時に予め設定される。プライマリリンクに使用されるSTA機能は、周波数帯に応じて優先度が設定されてもよいし、リンクの電波強度に応じて設定されてもよい。さらに、プライマリリンクの設定は、マルチリンクの確立後に適宜変更されてもよい。例えば、マルチリンクを構成する各リンクの電波強度がモニタされ、電波強度の高いリンクに適宜変更されてもよい。
【0121】
図23は、実施形態の第2変形例に係る無線システム1の備える基地局10におけるビーコン信号の出力方法の一例を示している。図23に示すように、基地局10と端末20間でプライマリリンクが設定される場合、当該プライマリリンクが時刻同期の基礎として使用される。
【0122】
具体的には、基地局10のSTA1及びSTA2がマルチリンクを構成し、マルチリンクパワーセーブが適用される場合、プライマリリンクは必ずAwake状態に設定され、例えばその他のリンクはDoze状態に設定される。そして、基地局10でプライマリリンクに対応するSTA1は、マルチリンクの基準時刻情報を含むビーコン信号を間欠的に送信する。端末20でプライマリリンクに対応するSTA1は、当該ビーコン信号に含まれた基準時刻情報を用いて、共有時刻情報222を更新する。実施形態の第2変形例に係る無線システム1のその他の構成及び動作は、実施形態と同様である。
【0123】
以上のようにプライマリリンクが設定されることによって、実施形態の第2変形例に係る無線システム1は、マルチリンクの時刻同期に関する処理を実施形態よりも簡易化させることができる。
【0124】
<4-3>第3変形例
実施形態の第3変形例に係る無線システム1は、同一の周波数帯に含まれた複数のチャネルCHを用いて、実施形態と同様のマルチリンクを確立する。実施形態の第3変形例におけるマルチリンク処理は、実施形態のマルチリンク処理に対して、マルチリンクに用いるチャネルを同じ周波数帯に含まれた複数のチャネルCHに変更したものと同様である。
【0125】
図24は、実施形態の第3変形例に係る無線システム1における無線通信に使用される周波数帯の一例を示している。図24に示すように、無線通信では、例えば2.4GHz帯、5GHz帯、6GHz帯が使用される。そして、各周波数帯は、それぞれ複数のチャネルを含んでいる。本例では、2.4GHz帯、5GHz帯、6GHz帯のそれぞれが、少なくとも3つのチャネルCH1、CH2及びCH3を含むものと仮定する。各チャネルCHを用いた通信は、関連付けられたSTA機能によって実現される。
【0126】
図25は、実施形態の第3変形例に係る無線システム1におけるリンク管理情報121の一例を示している。図25に示すように、実施形態の第3変形例におけるリンク管理情報121は、実施形態におけるリンク管理情報121に対して、周波数帯毎のチャネルIDに関する情報が追加された構成を有している。また、本例では、6GHzの周波数帯に対応する“STA1”のチャネルCH2と、6GHzの周波数帯に対応する“STA2”のチャネルCH3を用いて、実施形態と同様のマルチリンクが確立されている。
【0127】
以上のように、基地局10及び端末20の各STA機能は、同じ周波数帯を使用してもよい。そして、基地局10と端末20との間のマルチリンクは、同じ周波数帯を使用する複数のSTA機能によって確立されてもよい。具体的には、複数のSTA機能が、例えば5GHz帯の異なるチャネルCHを使用してマルチリンクを構成してもよい。このような場合においても、実施形態の第3変形例に係る無線システム1は、実施形態と同様に、効率的な通信を実現することができ、消費電力を抑制することができる。
【0128】
<5>その他
上記実施形態において、各STA機能は、端末20の移動等によってリンクの維持ができない場合に、対応するリンクマネジメント部に通知してもよい。また、端末20のリンクマネジメント部220は、STA機能からの通知に基づいて、基地局10のリンクマネジメント部120との間でマルチリンクの状態を変更してもよい。具体的には、例えば端末20のリンクマネジメント部220と基地局10のリンクマネジメント部120は、マルチリンクで使用するSTA機能を適宜変更してもよい。マルチリンクの状態が変更された場合、リンクマネジメント部120及び220は、リンク管理情報121及び221をそれぞれ更新する。また、リンクマネジメント部120及び220は、リンク数の増減に応じて、トラヒックとSTA機能との関連付けを更新してもよい。
【0129】
実施形態に係る無線システム1の構成はあくまで一例であり、その他の構成であってもよい。例えば、基地局10及び端末20のそれぞれが3つのSTA機能(無線信号処理部)を備える場合について例示したが、これに限定されない。基地局10は、少なくとも2つの無線信号処理部を備えていればよい。同様に、端末20は、少なくとも2つの無線信号処理部を備えていればよい。また、各STA機能が処理することが可能なチャネルの数は、使用される周波数帯に応じて適宜設定され得る。無線通信モジュール14及び24のそれぞれは、複数の通信モジュールによって複数の周波数帯の無線通信に対応してもよいし、1つの通信モジュールによって複数の周波数帯の無線通信に対応してもよい。
【0130】
また、実施形態に係る無線システム1における基地局10及び端末20の機能構成は、あくまで一例である。基地局10及び端末20の機能構成は、各実施形態で説明された動作を実行することが可能であれば、その他の名称及びグループ分けであってもよい。例えば、基地局10において、データ処理部110とリンクマネジメント部120とは、まとめてデータ処理部と呼ばれてもよい。同様に、端末20において、データ処理部210とリンクマネジメント部220とは、まとめてデータ処理部と呼ばれてもよい。
【0131】
また、実施形態に係る無線システム1において、基地局10及び端末20のそれぞれに含まれたCPUは、その他の回路であってもよい。例えば、CPUの替わりに、MPU(Micro Processing Unit)等が使用されてもよい。また、各実施形態において説明された処理のそれぞれは、専用のハードウェアによって実現されてもよい。各実施形態に係る無線システム1は、ソフトウェアにより実行される処理と、ハードウェアによって実行される処理とが混在していてもよいし、どちらか一方のみであってもよい。
【0132】
各実施形態において、動作の説明に用いたフローチャートは、あくまで一例である。実施形態で説明された各動作は、処理の順番が可能な範囲で入れ替えられてもよいし、その他の処理が追加されてもよい。また、上記実施形態で説明された無線フレームのフォーマットは、あくまで一例である。無線システム1は、各実施形態で説明された動作を実行することが可能であれば、その他の無線フレームのフォーマットを使用してもよい。
【0133】
尚、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で種々に変形することが可能である。また、各実施形態は、適宜組み合わせて実施してもよく、その場合組み合わせた効果が得られる。さらに、上記実施形態には種々の発明が含まれており、開示される複数の構成要件から選択された組み合わせにより種々の発明が抽出され得る。例えば、実施形態に示される全構成要件からいくつかの構成要件が削除されても、課題が解決でき、効果が得られる場合には、この構成要件が削除された構成が発明として抽出され得る。
【符号の説明】
【0134】
1…無線システム
10…基地局
20…端末
30…サーバ
11,21…CPU
12,22…ROM
13,23…RAM
14,24…無線通信モジュール
15…有線通信モジュール
25…ディスプレイ
26…ストレージ
110,210…データ処理部
120,220…リンクマネジメント部
121,221…リンク管理情報
122,222…共有時刻情報
123…データカテゴライズ部
124…送信キュー
125…CSMA/CA実行部
126…データ衝突管理部
130,140,150,230,240,250…無線信号処理部
131,141,151,231,241,251…時刻情報
図1
図2
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図20
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