IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人 東京大学の特許一覧 ▶ サヴィッド・セラピューティックス株式会社の特許一覧

特開2024-178483ウイルス阻害分子とストレプトアビジン変異体との融合タンパク質
<>
  • 特開-ウイルス阻害分子とストレプトアビジン変異体との融合タンパク質 図1
  • 特開-ウイルス阻害分子とストレプトアビジン変異体との融合タンパク質 図2
  • 特開-ウイルス阻害分子とストレプトアビジン変異体との融合タンパク質 図3
  • 特開-ウイルス阻害分子とストレプトアビジン変異体との融合タンパク質 図4
  • 特開-ウイルス阻害分子とストレプトアビジン変異体との融合タンパク質 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024178483
(43)【公開日】2024-12-25
(54)【発明の名称】ウイルス阻害分子とストレプトアビジン変異体との融合タンパク質
(51)【国際特許分類】
   C07K 19/00 20060101AFI20241218BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20241218BHJP
   C12N 15/31 20060101ALI20241218BHJP
   C07K 14/195 20060101ALI20241218BHJP
   C07K 14/36 20060101ALI20241218BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20241218BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20241218BHJP
   A61K 47/65 20170101ALI20241218BHJP
   A61K 38/16 20060101ALI20241218BHJP
【FI】
C07K19/00
C12N15/62 Z ZNA
C12N15/31
C07K14/195
C07K14/36
A61P31/12
A61P31/14
A61K47/65
A61K38/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021185397
(22)【出願日】2021-11-15
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(71)【出願人】
【識別番号】514207197
【氏名又は名称】サヴィッド・セラピューティックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】田中 十志也
(72)【発明者】
【氏名】児玉 龍彦
(72)【発明者】
【氏名】山下 雄史
(72)【発明者】
【氏名】金子 雄大
(72)【発明者】
【氏名】川村 猛
(72)【発明者】
【氏名】杉山 暁
(72)【発明者】
【氏名】塚越 雅信
(72)【発明者】
【氏名】マイケル チャンスラー
(72)【発明者】
【氏名】中井 正矩
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4C076AA95
4C076CC35
4C076CC41
4C076EE59
4C084AA02
4C084AA03
4C084AA07
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA20
4C084BA23
4C084BA41
4C084BA42
4C084CA53
4C084DC50
4C084NA05
4C084NA13
4C084NA14
4C084ZB331
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045FA72
4H045FA74
(57)【要約】
【課題】ウイルス疾患の治療において使用するための、ウイルス阻害分子とストレプトアビジン変異体との融合タンパク質を提供すること。
【解決手段】配列番号1に記載のアミノ酸配列(但し、C末端のPro-Ser-Ala-Ala-Ser-His-His-His-His-His-Hisからなるアミノ酸配列は一部又は全部が欠失していてもよい)の、N末端側及び/又はC末端側に、リンカー配列を介して、分子量20,000以下のウイルス阻害分子が結合している、融合タンパク質。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1に記載のアミノ酸配列(但し、C末端のPro-Ser-Ala-Ala-Ser-His-His-His-His-His-Hisからなるアミノ酸配列は一部又は全部が欠失していてもよい)の、N末端側及び/又はC末端側に、リンカー配列を介して、分子量20,000以下のウイルス阻害分子が結合している、融合タンパク質。
【請求項2】
N末端側からC末端側に、分子量20,000以下の分子量20,000以下のウイルス阻害分子と、リンカー配列と、配列番号1に記載のアミノ酸配列(但し、C末端のPro-Ser-Ala-Ala-Ser-His-His-His-His-His-Hisからなるアミノ酸配列は一部又は全部が欠失していてもよい)とをこの順に有する、請求項1に記載の融合タンパク質。
【請求項3】
ウイルス阻害分子がペプチドである、請求項1又は2に記載の融合タンパク質。
【請求項4】
ウイルス阻害分子が、コロナウイルスを阻害する分子である、請求項1から3の何れか一項に記載の融合タンパク質。
【請求項5】
ウイルス阻害分子が、SARS-CoV-2 receptor binding domain に結合する分子である、請求項1から4の何れか一項に記載の融合タンパク質。
【請求項6】
ウイルス阻害分子が、配列番号2又は配列番号6に記載のアミノ酸配列を有する、請求項1から5の何れか一項に記載の融合タンパク質。
【請求項7】
リンカー配列が、グリシン残基及びセリン残基からなり、アミノ酸残基の数が5から25個である、請求項1から6の何れか一項に記載の融合タンパク質。
【請求項8】
リンカー配列が、[(Gly)-Ser](式中、mは1~10の整数を示し、nは1~5の整数を示す)で示されるアミノ酸配列である、請求項1から7の何れか一項に記載の融合タンパク質。
【請求項9】
配列番号3又は配列番号8に記載のアミノ酸配列(但し、C末端のPro-Ser-Ala-Ala-Ser-His-His-His-His-His-Hisからなるアミノ酸配列は一部又は全部が欠失していてもよい)を有する、請求項1から8の何れか一項に記載の融合タンパク質。
【請求項10】
配列番号3又は配列番号8に記載のアミノ酸配列(但し、C末端のPro-Ser-Ala-Ala-Ser-His-His-His-His-His-Hisからなるアミノ酸配列は一部又は全部が欠失していてもよい)を有する融合タンパク質をコードする核酸。
【請求項11】
請求項1から9の何れか1項に記載の融合タンパク質を含む、抗ウイルス剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウイルス阻害分子とストレプトアビジン変異体との融合タンパク質、並びにその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
アビジンとビオチン、あるいはストレプトアビジンとビオチンの間の親和性は非常に高く(Kd=10-15 から10-14M)、生体二分子間の相互作用としては、最も強い相互作用の一つである。現在、アビジン/ストレプトアビジン-ビオチン相互作用は、生化学、分子生物学、あるいは医学の分野で広く応用されている。アビジン/ストレプトアビジンとビオチンの高い結合能と抗体分子とを組み合わせたドラッグデリバリーの方法およびプレターゲティング法が考案されている。これらの研究に関連し、特許文献1には、天然ビオチンに対する親和性を低減させたストレプトアビジン変異体、並びにこの天然ビオチンに対する低親和性のストレプトアビジン変異体に対して高い親和性を有するビオチン改変二量体が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開WO2015/125820
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、ウイルス疾患の治療において使用するための、ウイルス阻害分子とストレプトアビジン変異体との融合タンパク質を提供することを解決すべき課題とした。さらに本発明は、上記した融合タンパク質を含む抗ウイルス剤を提供することを解決すべき課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意検討した結果、ウイルス阻害分子として分子量が抗体より小さい分子を選択し、上記分子と、ストレプトアビジン変異体との融合タンパク質を調製した。そして、上記の融合タンパク質により、ウイルス活性を中和できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
即ち、本発明によれば、以下の発明が提供される。
<1> 配列番号1に記載のアミノ酸配列(但し、C末端のPro-Ser-Ala-Ala-Ser-His-His-His-His-His-Hisからなるアミノ酸配列は一部又は全部が欠失していてもよい)の、N末端側及び/又はC末端側に、リンカー配列を介して、分子量20,000以下のウイルス阻害分子が結合している、融合タンパク質。
<2> N末端側からC末端側に、分子量20,000以下の分子量20,000以下のウイルス阻害分子と、リンカー配列と、配列番号1に記載のアミノ酸配列(但し、C末端のPro-Ser-Ala-Ala-Ser-His-His-His-His-His-Hisからなるアミノ酸配列は一部又は全部が欠失していてもよい)とをこの順に有する、<1>に記載の融合タンパク質。
<3> ウイルス阻害分子がペプチドである、<1>又は<2>に記載の融合タンパク質。
<4> ウイルス阻害分子が、コロナウイルスを阻害する分子である、<1>から<3>の何れか一に記載の融合タンパク質。
<5> ウイルス阻害分子が、SARS-CoV-2 receptor binding domain に結合する分子である、<1>から<4>の何れか一に記載の融合タンパク質。
<6> ウイルス阻害分子が、配列番号2又は配列番号6に記載のアミノ酸配列を有する、<1>から<5>の何れか一に記載の融合タンパク質。
<7> リンカー配列が、グリシン残基及びセリン残基からなり、アミノ酸残基の数が5から25個である、<1>から<6>の何れか一に記載の融合タンパク質。
<8> リンカー配列が、[(Gly)-Ser](式中、mは1~10の整数を示し、nは1~5の整数を示す)で示されるアミノ酸配列である、<1>から<7>の何れか一に記載の融合タンパク質。
<9> 配列番号3又は配列番号8に記載のアミノ酸配列(但し、C末端のPro-Ser-Ala-Ala-Ser-His-His-His-His-His-Hisからなるアミノ酸配列は一部又は全部が欠失していてもよい)を有する、<1>から<8>の何れか一に記載の融合タンパク質。
<10> 配列番号3又は配列番号8に記載のアミノ酸配列(但し、C末端のPro-Ser-Ala-Ala-Ser-His-His-His-His-His-Hisからなるアミノ酸配列は一部又は全部が欠失していてもよい)を有する融合タンパク質をコードする核酸。
<11> <1>から<9>の何れか一に記載の融合タンパク質を含む、抗ウイルス剤。
【発明の効果】
【0007】
本発明によるウイルス阻害分子とストレプトアビジン変異体との融合タンパク質を用いることにより抗ウイルス活性を発揮することができ、これによりウイルス疾患を治療することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、pHの値を4.0, 5.0, 5.5, 6.0 に調製した0.4Mのアルギニンを含むリフォールディングバッファー 1mLを1.5 mL チューブに分注し、25 μLの変性意識状態のLCB1-Cupidを添加し24時間4℃にてインキュベーションしたのちの4量体形成をSDS-PAGEで解析した結果を示す。75 kDaマーカ付近に現れる4量体分子と25 kDaマーカ付近に現れる単量体分子のバンドを比較するとpH 5.5において4量体分子のバンドの比率が最も高い。
図2図2は、リフォールディングを行ったLCB1-Cupidの濃縮を行い、溶媒をPBSに置換した後の純度をSDS-PAGEで解析した結果を示す。図1で見えていた25 kDaマーカ付近に現れる単量体分子のバンドが消失して、高純度化されている。
図3図3は、LCB1-CupidのSARS-CoV-2 RBD (receptor binding domain)への結合による ACE 2 タンパク質との結合阻害を解析した結果を示す。PBSで希釈したAnti-RBD miniproteinは、濃度依存的にSARS-CoV-2 RBD (receptor binding domain)への結合が増加し、ACE 2 タンパク質とSARS-CoV-2 RBDとの結合を阻害している一方で、SARS-CoV-2 RBDへの結合能を有しないz HER2は、濃度依存的な中和活性を示さなかった。
図4図4は、巻き戻しを検討した3回の結果を示している。レーン1は、濃縮物(4.4 mg/mL)を10μLとサンプルバッファーを10μL混合し他ものを10μLレーンにアプライした。レーン2は、濃縮物を1mg/mL になるようにPBSで希釈したものを10μLとサンプルバッファーを10μL混合したものを10μLレーンにアプライした。
図5図5は、LCB3-CupidのSARS-CoV-2 RBD (receptor binding domain)への結合による ACE 2 タンパク質との結合阻害を解析した結果を示す。PBSで希釈したLCB3-Cupid (Anti-RBD miniproteinと表記)は、濃度依存的にSARS-CoV-2 RBD (receptor binding domain)への結合が増加し、ACE 2 タンパク質とSARS-CoV-2 RBDとの結合を阻害している一方で、SARS-CoV-2 RBDへの結合能を有しないz HER2は、濃度依存的な中和活性を示さなかった。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について更に詳細に説明する。
本発明の融合タンパク質は、配列番号1に記載のアミノ酸配列(但し、C末端のPro-Ser-Ala-Ala-Ser-His-His-His-His-His-His(配列番号5)からなるアミノ酸配列は一部又は全部が欠失していてもよい)の、N末端側及び/又はC末端側に、リンカー配列を介して、分子量20,000以下のウイルス阻害分子が結合している、融合タンパク質である。配列番号1に記載のアミノ酸配列(但し、C末端のPro-Ser-Ala-Ala-Ser-His-His-His-His-His-Hisからなるアミノ酸配列は一部又は全部が欠失していてもよい)の、N末端側及びC末端側に、リンカー配列を介して、分子量20,000以下のウイルス阻害分子が結合している場合、当該ウイルス阻害分子は同一でも異なるものでもよい。
【0010】
好ましくは、本発明の融合タンパク質は、N末端側からC末端側に、分子量20,000以下の分子量20,000以下のウイルス阻害分子と、リンカー配列と、配列番号1に記載のアミノ酸配列(但し、C末端のPro-Ser-Ala-Ala-Ser-His-His-His-His-His-Hisからなるアミノ酸配列は一部又は全部が欠失していてもよい)とをこの順に有する融合タンパク質である。
【0011】
配列番号1に記載のアミノ酸配列は、ステレプトアビジン変異体のアミノ酸配列であり、具体的には、国際公開WO2015/125820の実施例3(国際公開WO2015/125820の配列番号4)(本願明細書の配列番号1)に記載されているストレプトアビジン変異体LISA314-V2122である。
【0012】
上記の通り、本発明の融合タンパク質は、分子量20,000以下のウイルス阻害分子とストレプトアビジン変異体との融合タンパク質である。本発明の融合タンパク質は、配列番号1に記載のアミノ酸配列同士の親和性によりテトラマーを形成する。ウイルス阻害分子として、例えば、配列番号2又は配列番号6に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質を使用した場合において、本発明の融合タンパク質のテトラマーの理論分子量は約87kDaである。本発明のような融合タンパク質を生体に投与してウイルス疾患の治療を行う場合には、ウイルスへの結合が良好であること、クリアランス速度(clearance rate)が良好であることなどを同時に達成することが重要である。本発明における上記したテトラマーの分子量(約87kDa)は、上記のパラメーターを同時に達成することができる分子量であることが想定されている。
【0013】
ウイルス阻害分子は好ましくはペプチドである。
ウイルス阻害分子の分子量は20,000以下であればよいが、ウイルス阻害分子の分子量は一般的には、4,000以上20,000以下であり、好ましくは4,000以上10,000以下であり、より好ましくは4,000以上8,000以下である。本発明におけるウイルス阻害分子は、抗体とは異なる概念の分子である。
【0014】
ウイルス阻害分子が阻害するウイルスとしては、RNAウイルスでもDNAウイルスでもよく、例えば、コロナウイルス(SARSコロナウイルス、MERSコロナウイルス、ヒトコロナウイルスなど)、カリシウイルス(ネコカリシウイルス、ノーウォークウイルスなど)、インフルエンザウイルス(A型インフルエンザウイルス、B型インフルエンザウイルス、C型インフルエンザウイルスなど)、ヒト免疫不全ウイルス、ヘルペスウイルス、アデノウイルス、パピローマウイルス、ライノウイルス、エンテロウイルス、風疹ウイルス、エボラウイルス、麻疹ウイルス、水痘・帯状疱疹ウイルス、ムンプスウイルス、アルボウイルス、RSウイルス、肝炎ウイルス(例えば、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス等)、黄熱ウイルス、狂犬病ウイルス、ハンタウイルス、デングウイルス、ニパウイルス、リッサウイルス、ノロウイルス、ロタウイルス、ポリオウイルス、コクサッキーウイルス、パルボウイルス、脳心筋炎ウイルス、ポリオウイルス、ジカウイルスなどを挙げることができるが、特に限定されない。
【0015】
上記の中でもコロナウイルス(SARSコロナウイルス、MERSコロナウイルス、ヒトコロナウイルスなど)が特に好ましい。ヒトに感染するコロナウイルスとしては、風邪の原因ウイルスとしてヒトコロナウイルス229E、OC43、NL63、HKU-1の4種類、並びに2002年に発生した重症急性呼吸器症候群(SARS)コロナウイルス、2012年に発生した中東呼吸器症候群(MERS)コロナウイルス、および2019年に発生した新型コロナウイルス(2019-nCoV、SARS-CoV-2)の3種類が知られている。本発明においては、ウイルスとしてはSARS-CoV-2が特に好ましい。SARS-CoV-2は、SARSコロナウイルスと同じベータコロナウイルス属に分類され、新型コロナウイルスの遺伝子はSARSコロナウイルスの遺伝子と相同性が高く(約80%程度)、さらに、SARSコロナウイルスと類似する受容体(ACE1またはACE2)を使ってヒトの細胞に吸着・侵入する。
【0016】
ウイルス阻害分子の一例としては、SARS-CoV-2 receptor binding domain に結合することができる配列番号2又は配列番号6に記載のアミン酸配列を有するペプチドを挙げることができる。
【0017】
リンカー配列は、本発明の効果を達成できる限り特に限定されないが、アミノ酸数は5から25アミノ酸が好ましく、10から25アミノ酸がより好ましく、15から20アミノ酸はさらに好ましい。
リンカー配列の具体例としては、グリシン残基及びセリン残基からなる配列を挙げることができる。リンカー配列としては、例えば、[(Gly)-Ser](式中、mは1~10の整数を示し、nは1~5の整数を示す)で示されるアミノ酸配列を使用することができる。リンカー配列の具体例としては、Gly-Gly-Gly-Gly-Ser-Gly-Gly-Gly-Gly-Ser-Gly-Gly-Gly-Gly-Serを挙げることができるが特に限定されない。
【0018】
本発明の融合タンパク質の具体例としては、配列番号3又は配列番号8に記載のアミノ酸配列(但し、C末端のPro-Ser-Ala-Ala-Ser-His-His-His-His-His-Hisからなるアミノ酸配列は一部又は全部が欠失していてもよい)を有する、融合タンパク質を挙げることができる。
【0019】
本発明によればさらに、上記した本発明の融合タンパク質をコードする核酸(例えば、DNA)が提供される。本発明の核酸の具体例としては、配列番号3又は配列番号8に記載のアミノ酸配列(但し、C末端のPro-Ser-Ala-Ala-Ser-His-His-His-His-His-Hisからなるアミノ酸配列は一部又は全部が欠失していてもよい)を有する融合タンパク質をコードする核酸を挙げることができる。本発明の核酸の一例としては、配列番号4又は配列番号9に記載の塩基配列を有する核酸を挙げることができる。
【0020】
本発明の融合タンパク質をコードする核酸(例えば、DNA)は、ベクターに組み込んで使用することができる。本発明の融合タンパク質を製造するためには、本発明の融合タンパク質をコードする核酸を発現ベクターに組み込み、この発現ベクターを宿主に形質転換することによって、本発明の融合タンパク質を発現させることができる。即ち、本発明によれば、本発明の融合タンパク質をコードする核酸を宿主で発現させる工程を含む、本発明の融合タンパク質の製造方法が提供される。融合タンパク質は、好ましくは、細菌の封入体において発現させて回収することができる。
【0021】
大腸菌を宿主とする場合には、ベクターとしては、複製起点(ori)を有し、さらに形質転換された宿主を選択するための遺伝子(例えば、アンピシリン、テトラサイクリン、カナマイシン又はクロラムフェニコールなどの薬剤に対する薬剤耐性遺伝子など)を有していることが好ましい。また、発現ベクターの場合には、宿主において本発明のストレプトアビジン変異体を効率よく発現させることができるようなプロモーター、例えば、lacZプロモーターまたはT7プロモーターなどを持っていることが好ましい。このようなベクターとしては、ベクターの例としては、M13系ベクター、pUC系ベクター、pBR322、pBluescript、pCR-Script、pGEX-5X-1(ファルマシア)、「QIAexpress system」(キアゲン)、pEGFP、またはpET(この場合、宿主はT7 RNAポリメラーゼを発現しているBL21を使用することが好ましい)などが挙げられる。
【0022】
宿主細胞へのベクターの導入は、例えば塩化カルシウム法、エレクトロポレーション法を用いて行うことができる。また、可溶性を向上させるためのタグ、例えばグルタチオンーS-トランスフェラーゼやチオレドキシン、マルトース結合蛋白質をコードする配列が付加されていてもよい。また、精製を容易にすることを目的にした設計されたタグ、例えばポリヒスチジンタグ、Mycエピトープ、ヘマグルチニン(HA)エピトープ、T7エピトープ、XpressタグやFLAGペプチドタグ、その他の既知のタグ配列をコードする配列が付加されていてもよい。
【0023】
大腸菌以外にも、哺乳動物由来の発現ベクター(例えば、pcDNA3(インビトロゲン社製)や、pEGF-BOS(Nucleic Acids. Res.1990, 18(17),p5322)、pEF、pCDM8)、昆虫細胞由来の発現ベクター(例えば「Bac-to-BAC baculovairus expression system」(ギブコBRL社製)、pBacPAK8)、植物由来の発現ベクター(例えばpMH1、pMH2)、動物ウィルス由来の発現ベクター(例えば、pHSV、pMV、pAdexLcw)、レトロウィルス由来の発現ベクター(例えば、pZIPneo)、酵母由来の発現ベクター(例えば、「Pichia Expression Kit」(インビトロゲン社製)、pNV11 、SP-Q01)、枯草菌由来の発現ベクター(例えば、pPL608、pKTH50)が挙げられる。
【0024】
CHO細胞、COS細胞、NIH3T3細胞等の動物細胞での発現を目的とした場合には、細胞内で発現させるために必要なプロモーター、例えばSV40プロモーター(Mulliganら, Nature (1979) 277, 108)、MMLV-LTRプロモーター、EF1αプロモーター(Mizushimaら, Nucleic Acids Res. (1990) 18, 5322)、CMVプロモーターなどを持っていることが不可欠であり、細胞への形質転換を選抜するための遺伝子(例えば、薬剤(ネオマイシン、G418など)により判別できるような薬剤耐性遺伝子)を有すればさらに好ましい。このような特性を有するベクターとしては、例えば、pMAM、pDR2、pBK-RSV、pBK-CMV、pOPRSV、pOP13などが挙げられる。
【0025】
ベクターが導入される宿主細胞としては特に制限はなく、原核生物および真核生物のいずれでもよい。例えば、大腸菌や種々の動物細胞などを用いることが可能である。
【0026】
真核細胞を使用する場合、例えば、動物細胞、植物細胞、真菌細胞を宿主に用いることができる。動物細胞としては、哺乳類細胞、例えば、CHO細胞、COS細胞、3T3細胞、HeLa細胞、Vero細胞、あるいは昆虫細胞、例えば、Sf9、Sf21、Tn5などを用いることができる。動物細胞において、大量発現を目的とする場合には特にCHO細胞が好ましい。宿主細胞へのベクターの導入は、例えば、リン酸カルシウム法、DEAEデキストラン法、カチオニックリボソームDOTAP(ベーリンガーマンハイム社製)を用いた方法、エレクトロポーレーション法、リポフェクションなどの方法で行うことが可能である。
【0027】
植物細胞としては、例えば、ニコチアナ・タバカム(Nicotiana tabacum)由来の細胞が蛋白質生産系として知られており、これをカルス培養すればよい。真菌細胞としては、酵母、例えば、サッカロミセス(Saccharomyces)属、例えば、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、糸状菌、例えば、アスペルギルス(Aspergillus)属、例えば、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)が知られている。
【0028】
原核細胞を使用する場合は、大腸菌(E. coli)、例えば、JM109、DH5α、HB101等が挙げられ、その他、枯草菌が知られている。
【0029】
これらの細胞を、本発明の核酸により形質転換し、形質転換された細胞をin vitroで培養することにより本発明の融合タンパク質が得られる。培養は、公知の方法に従い行うことができる。例えば、動物細胞の培養液として、例えば、DMEM、MEM、RPMI1640、IMDMを使用することができる。その際、牛胎児血清(FCS)等の血清補液を併用することもできるし、無血清培養してもよい。培養時のpHは、約6~8であるのが好ましい。培養は、通常、約30~40℃で約15~200時間行い、必要に応じて培地の交換、通気、攪拌を加える。また、細胞の増殖を促進するための成長因子の添加を行ってもよい。
【0030】
<抗ウイルス剤>
本発明の融合タンパク質は、抗ウイルス剤として有用である。
【0031】
ウイルス阻害分子として、ウイルスに関連する分子に結合する分子を使用する場合には、本発明の融合タンパク質を患者に投与することで、ウイルス活性を中和することができる。
【0032】
患者への投与方法としては、局所経路、注射(皮下注射、筋肉内注射、皮内注射、腹腔内注射、および静脈内注射など)、経口経路、眼経路、舌下経路、直腸経路、経皮経路、鼻腔内経路、膣経路、および吸入経路などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0033】
本発明の融合タンパク質は、治療有効量で投与することが好ましい。
治療有効量は、60キログラム当たり少なくとも0.5ミリグラム(mg/60kg)、少なくとも5mg/60kg、少なくとも10mg/60kg、少なくとも20mg/60kg、少なくとも30mg/60kg、少なくとも50mg/60kgである。例えば、静脈内投与される場合、1mg/60kg、2mg/60kg、5mg/60kg、20mg/60kg、または50mg/60kgの用量など、例えば、0.5~50mg/60kgである。別の例では、治療有効量は、少なくとも100μg/kg、少なくとも500μg/kgまたは少なくとも500μg/kgなど、少なくとも10μg/kg、例えば100μg/kg、250μg/kg、約500μg/kg、750μg/kg、または1000μg/kgの用量など、例えば、10μg/kg~1000μg/kgである。一例では、治療有効量は、局所用溶液で投与される10μg/ml、20μg/ml、30μg/ml、40μg/ml、50μg/ml、60μg/ml、70μg/ml、80μg/ml、90μg/ml、または100μg/mlなど、20μg/ml~100μg/mlの間など、少なくとも500μg/mlなど、少なくとも1μg/mlである。
【0034】
上記した投与量を、1回もしくは複数回にわたる分割用量(2、3、または4回の用量など)または単一の製剤で投与することができる。
【0035】
本発明の融合タンパク質はそれぞれ、単独で投与することもでき、薬学的に許容されるキャリアの存在下で投与することもでき、他の治療剤(他の抗ウイルス剤など)の存在下で投与することもできる。
【0036】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【実施例0037】
実施例1:LCB1-Cupidタンパク質の調製
国際公開WO2015/125820に表記されている低免疫原性かつ、ビオチンとの結合性がないストレプトアビジン改変体Cupid(配列番号1)と、De novo design of picomolar SARS-CoV-2 miniprotein inhibitors, L. Cao, I. Goreshnik, B. Coventry, J. B. Case, L. Miller, L. Kozodoy, et al. Science 2020 Vol. 370 Issue 6515 Pages 426-431のサプリメントデータに表記されているSARS-CoV-2 receptor binding domain に結合する miniprotein inhibitor(配列番号2)とをリンカーを介して結合した結合体を設計した(配列番号3)。設計した配列番号3に記載のアミノ酸配列をもとに人工遺伝子合成により遺伝子の合成を行った。人工合成した遺伝子は、人工遺伝子合成受託会社(ユーロフィンジェノミクス株式会社)のアルゴリズムにより大腸菌のコドンに最適化をおこなった(配列番号4)。人工合成した遺伝子配列は、常法に従い大腸菌発現ベクターpET45b(+)へ組み込みを行い、ライゲーション産物にてECOSTM SONIC Competent E. coli BL21(DE3) Derived(ニッポン・ジーン社)を形質転換しクローニングした。培養した大腸菌をミニプレップし、プラスミドDNAの精製を行い、目的の遺伝子が正しく組み込まれているかをシーケンスにより確認を行い、そのプラスミドDNAをpET45-LCB1-Cupidとした。
【0038】
次に、LCB1-Cupidの融合タンパク質の発現を行うために、上述のpET45-LCB1-Cupidで形質した大腸菌、BL21(DE3)-pET45-LCB1-Cupidの培養を行った。2 mL のLB培地で一晩培養された培養液を100 mLの培養液に食菌し37℃にて培養を行い、600 nm のOD値が0.5から0.8になった時点で最終濃度0.5 mM になるようにIPTGを添加し、37℃にて4時間の培養を行った。その後、菌体を遠心(7500 x g, 20 min at 4℃)にて回収した。
【0039】
回収した菌体をLysis buffer (20 mM Tris-HCl pH8.0, 2 mM MgCl2, 10 μg/mL 卵白リゾチーム, 2 unit/mL Benzonase)にて懸濁し室温にて30分間インキュベーションしたのち、超音波破砕装置(ソニケーター)にて、さらなるDNAの切断処理をおこなった。処理溶液を遠心(12,000 x g, 20 min at 4℃)にて不溶性画分(inclusion bodyを以下IBと表記する)と可溶性画分を分離しIBを回収した。次に回収したIBをwash buffer (20 mM Tris-HCl pH8.0)で再懸濁し、遠心後、上清を廃棄した。次に超純水IBの洗浄を3回繰り返し、3回の洗浄後、遠心にて回収されたIBを超純水にて再懸濁し、1.5 mL チューブに分注し、遠心し上清を廃棄した後、-80℃で冷凍保存した。
【0040】
IBにdenature buffer (6 M guanidium HCl, 200 mM NaCl, 50 mM Tris-HCl, 1 mM EDTA; pH 8.5) を添加しピペッティングにて溶解させ、攪拌しながら25℃にて1時間インキュベートし、遠心(15,000 x g, 20 min at 4℃)して上清を回収し、不溶解物を除去した。
【0041】
次に、リフォールディングの効率を確認するために、リフォールディングバッファーは、マッキルベイン緩衝液に0.4 Mアルギニン塩酸塩を添加し、pH4.0、pH5.0、pH5.5、pH6.0となるようにpHを調製した。各pHのリフォールディングバッファー 1mLに対し、25 μLの変性溶液上清を添加し巻戻しを行った。サンプルは、4℃にてインキュベートし、SDS-PAGE電気泳動にて4量体の形成の確認を行なった。図1左側に示すようにpH5.5付近のリフォールディングバッファーでの巻き戻しで効果的に4量体が形成していることが確認された。
【0042】
リフォールディングのスケールアップとして、pH5.5のリフォールディングバッファー 40 mL に対し0.5 mLの変性溶液を添加しリフォールディングし、48時間後に回収、濃縮を行い電気泳動にて純度の確認を行った(図2)。
【0043】
実施例2:LCB1-Cupidの中和活性測定
精製されたLCB1-CupidのSARS-CoV-2 RBD (receptor binding domain) への中和活性はiFrash-2019-nCov Nab キット(株式会社 医学生物学研究所)を用い測定した。iFlash-2019-nCoV中和抗体(Nab)アッセイは、自動化されたiFlash Immunoassay Analyzerを用いて、ヒト血清および血漿中の2019-nCoV中和抗体を定量的に測定する常磁性粒子化学発光免疫測定法(CLIA)である。COVID-19の評価やCOVID-19のワクチン接種を受けた人の中和抗体のモニタリングに使用することを目的とするものである。今回は、精製されたLCB1-Cupidの希釈系列を調製し、ヒト血清および血漿中の2019-nCoV中和抗体(Nab)と見立て、濃度依存的な活性を解析した。iFlash-2019-nCoV中和抗体(Nab)アッセイは、ダイレクトケミルミネッセンス免疫測定法を用いたワンステップ競合免疫測定法であり、測定はキットに添付されているマニュアルに従って行った。
【0044】
具体的なアッセイ法を簡単に書くと下記のようになる。最初のインキュベーションで、サンプル(LCB1-Cupidの希釈系列:PBSを使用し希釈系列を調製)は、2019-nCoV Receptor Binding Domain(RBD)抗原をコートした常磁性微粒子と反応し、複合体を形成する。 次にアクリジニウム・エステル標識アンジオテンシン変換酵素2(ACE2)コンジュゲートを加えてインキュベーションを行った。この際、アクリジニウム・エステル標識ACE2は、サンプル中のLCB1-Cupidで中和されていないRBDコーティング粒子と競合的に結合し、別の反応混合物を形成する。磁界下では、磁性粒子が反応管の壁に吸着し、結合していない物質は洗浄バッファーによって洗い流される。
【0045】
化学発光信号のトリガーと測定はプレトリガーとトリガーの溶液を反応混合物に加えることで行われる。得られた化学発光反応は、相対光単位(RLU)として測定される。そして、サンプル中の2019-nCoV中和抗体の量と、iFlash光学系で検出されるRLUとの間には逆の関係が存在する。計算の結果、測定値はAU/mLという形で出力される。カットオフ値は10.00 AU/mLと設定されており、すなわち出力結果が <10.00 AU/mL は中和活性が陰性となる。一方、≧10.00 AU/mL は中和活性が陽性という判定になる。
【0046】
解析結果を図3に示す。特許文献1に示されているHER2を認識する分子で同濃度の希釈系列を作製しネガティブコントロールとして用いた。LCB1-Cupidは、濃度依存的に中和活性が上がっていく様子が確認された。
【0047】
実施例3:LCB3-Cupidタンパク質の調製
国際公開WO2015/125820に表記されている低免疫原性かつ、ビオチンとの結合性がないストレプトアビジン改変体Cupid(配列番号1)と、De novo design of picomolar SARS-CoV-2 miniprotein inhibitors, L. Cao, I. Goreshnik, B. Coventry, J. B. Case, L. Miller, L. Kozodoy, et al. Science 2020 Vol. 370 Issue 6515 Pages 426-431のサプリメントデータに表記されているSARS-CoV-2 receptor binding domain に結合する miniprotein inhibitor: LCB3(配列番号6)をもとに人工遺伝子合成により遺伝子の合成を行った。人工合成した遺伝子は、人工遺伝子合成受託会社(ユーロフィンジェノミクス株式会社)のアルゴリズムにより大腸菌のコドンに最適化をおこなった(配列番号7)。実施例1で調製したpET45-LCB1-Cupidを利用し、LCB3-Cupid融合タンパク質(配列番号8)を発現するプラスミドベクターを次のように調製した。pET45-LCB1-Cupidをテンプレートとしプライマーセット(21-020:CATGGTATATCTCCTTCTTAAAGTTAAAC(配列番号10), 21-021:GGAGGCGGAGGGTCTGGAGGTGGCGGTTC(配列番号11))でPCR反応し、LCB1遺伝子部位を取り除き、直鎖化されたpET45-Cupidカセットを調製した。人工遺伝子合成したLCB3配列をテンプレートにし、プライマーセット(21-024: AGGAGATATACCATGAATGACGATGAACTGCACATGCTTATG(配列番号12), 21-025: AGACCCTCCGCCTCCGCTCAGTAAGCGTTCTAACAGCTCTTTC(配列番号13))でPCRを行いインサートLCB3配列の増幅を行なった。全てのPCR反応はPrimeSTAR GXL (タカラバイオ)を用いて行なった。2つのPCR産物はゲル電気泳動、ゲル切り出し精製を行い、In-Fusion HD Cloning Kit(タカラバイオ)を用いて直鎖化したpET45-CupidベクターにインサートLCB3配列をディレクショナルライゲーションを行なった。ライゲーション産物にてECOSTM SONIC Competent E. coli BL21(DE3) Derived(ニッポン・ジーン社)を形質転換しクローニングした。培養した大腸菌をミニプレップし、プラスミドDNAの精製を行い、目的の遺伝子(配列番号9)が正しく組み込まれているかをシーケンスにより確認を行い、そのプラスミドDNAをpET45-LCB3-Cupidとした。
【0048】
次に、LCB1-Cupidの融合タンパク質の発現を行うために、上述のpET45-LCB3-Cupidで形質した大腸菌、BL21(DE3)-pET45-LCB1-Cupidの培養を行った。LB培地で一晩培養された培養液を培養液に食菌し37℃にて培養を行い、600 nm のOD値が0.5から0.8になった時点で最終濃度0.5 mM になるようにIPTGを添加し、37℃にて4時間の培養を行った。その後、菌体を遠心(7500 x g, 20 min at 4℃)にて回収した。
【0049】
回収した菌体をLysis buffer (20 mM Tris-HCl pH8.0, 2 mM MgCl2, 10 μg/mL 卵白リゾチーム, 2 unit/mL Benzonase)にて懸濁し室温にて30分間インキュベーションしたのち、超音波破砕装置(ソニケーター)にて、さらなるDNAの切断処理をおこなった。処理溶液を遠心(12,000 x g, 20 min at 4℃)にて不溶性画分(inclusion bodyを以下IBと表記する)と可溶性画分を分離しIBを回収した。次に回収したIBをwash buffer (20 mM Tris-HCl pH8.0)で再懸濁し、遠心後、上清を廃棄した。次に超純水IBの洗浄を3回繰り返し、3回の洗浄後、遠心にて回収されたIBを超純水にて再懸濁し、1.5 mL チューブに分注し、遠心し上清を廃棄した後、-80℃で冷凍保存した。
【0050】
遠心にて沈澱した約250 mLのIBに対し、0.5 mLのdenature buffer (6 M guanidium HCl, 200 mM NaCl, 50 mM Tris-HCl, 1 mM EDTA; pH 8.5)を添加しピペッティングにて溶解させ、攪拌しながら25℃にて1時間インキュベートし、遠心(15,000 x g, 20 min at 4℃)して上清を回収し、不溶解物を除去した。
【0051】
LCB3-Cupidの理論的な等電点(pI; isoelectric point)をウエッブサイト Expasy ProtParam (web.expasy.org/protparam/)で調べたところ、pIは5.77であった。このことからリフォールディングは、0.1 M sodium phosphate、0.2 M arginine-HCl、pH5.5のリフォールディングバッファー 40 mL に対し0.5 mLの変性溶液を添加し希釈リフォールディングし、48時間後に回収、濃縮を行い電気泳動にて良好な4量体形成が確認された(図4)。濃縮後の濃度は4.4 mg/mL、容量は1.32 mLとなり総タンパク質収量は5.8 mgとなった。
【0052】
実施例4:LCB3-Cupidの中和活性測定
精製されたLCB3-CupidのSARS-CoV-2 RBD (receptor binding domain) への中和活性はiFrash-2019-nCov Nab キット(株式会社 医学生物学研究所)を用い測定した。iFlash-2019-nCoV中和抗体(Nab)アッセイは、自動化されたiFlash Immunoassay Analyzerを用いて、ヒト血清および血漿中の2019-nCoV中和抗体を定量的に測定する常磁性粒子化学発光免疫測定法(CLIA)である。COVID-19の評価やCOVID-19のワクチン接種を受けた人の中和抗体のモニタリングに使用することを目的とするものである。今回は、精製されたLCB1-Cupidの希釈系列を調製し、ヒト血清および血漿中の2019-nCoV中和抗体(Nab)と見立て、濃度依存的な活性を解析した。iFlash-2019-nCoV中和抗体(Nab)アッセイは、ダイレクトケミルミネッセンス免疫測定法を用いたワンステップ競合免疫測定法であり、測定はキットに添付されているマニュアルに従って行った。
【0053】
具体的なアッセイ方法は、実施例2に記載の通りである。
解析結果を図5に示す。特許文献1に示されているHER2を認識する分子で同濃度の希釈系列を作製しネガティブコントロールとして用いた。LCB3-Cupidは、濃度依存的に中和活性が上がっていく様子が確認された。
【0054】
配列番号1(Cupidアミノ酸配列)
AEAGITGTWSDQLGDTFIVTAGADGALTGTYENAVGGAESRYVLTGRYDSAPATDGSGTALGWTVAWKNNSKNAHSATTWSGQYVGGADAKINTQWLLTSGTTNANAWKSTLVGHDTFTKVKPSAASHHHHHH
【0055】
配列番号2(SARS-CoV-2 receptor binding domain に結合する miniprotein inhibitorのアミノ酸配列)
DKEWILQKIYEIMRLLDELGHAEASMRVSDLIYEFMKKGDERLLEEAERLLEEVER
【0056】
配列番号3(LCB1-Cupid アミノ酸配列)
MDKEWILQKIYEIMRLLDELGHAEASMRVSDLIYEFMKKGDERLLEEAERLLEEVERGGGGSGGGGSGGGGSAEAGITGTWSDQLGDTFIVTAGADGALTGTYENAVGGAESRYVLTGRYDSAPATDGSGTALGWTVAWKNNSKNAHSATTWSGQYVGGADAKINTQWLLTSGTTNANAWKSTLVGHDTFTKVKPSAASHHHHHH
【0057】
配列番号4(人工合成遺伝子配列)
ATGGACAAAGAGTGGATTCTCCAGAAAATCTACGAGATTATGCGCTTACTGGATGAACTGGGTCATGCCGAAGCAAGCATGCGTGTTTCGGATCTGATCTATGAGTTTATGAAGAAAGGCGATGAACGCCTTCTGGAAGAAGCGGAACGTTTGCTGGAAGAGGTGGAACGCGGAGGCGGAGGGTCTGGAGGTGGCGGTTCAGGTGGCGGTGGCAGTGCGGAAGCCGGTATTACCGGGACCTGGTCCGATCAACTCGGCGACACGTTTATCGTGACAGCAGGCGCGGATGGCGCGCTGACAGGGACGTACGAGAATGCGGTAGGCGGTGCGGAAAGCCGCTATGTGTTGACCGGTCGTTACGATTCGGCTCCGGCTACGGATGGTTCCGGTACAGCCTTAGGGTGGACCGTTGCGTGGAAGAACAACTCGAAGAATGCCCACAGTGCTACCACTTGGTCAGGCCAGTATGTTGGCGGGGCGGATGCGAAAATCAACACTCAGTGGCTTCTGACCAGCGGAACCACGAATGCCAATGCGTGGAAATCCACGCTGGTCGGTCATGACACCTTTACCAAAGTCAAACCGAGTGCAGCATCGCATCATCACCACCATCATTAA
【0058】
配列番号6(SARS-CoV-2 receptor binding domain に結合する miniprotein inhibitor:LCB3のアミノ酸配列)
NDDELHMLMTDLVYEALHFAKDEEIKKRVFQLFELADKAYKNNDRQKLEKVVEELKELLERLLS
【0059】
配列番号7(LCB3人工合成遺伝子配列)
AATGACGATGAACTGCACATGCTTATGACCGATTTGGTGTATGAAGCTCTGCATTTTGCCAAAGACGAAGAGATTAAGAAACGCGTATTTCAACTGTTCGAATTGGCAGATAAAGCGTACAAGAACAACGATCGTCAGAAACTCGAGAAAGTCGTTGAAGAACTGAAAGAGCTGTTAGAACGCTTACTGAGC
【0060】
配列番号8(LCB3-Cupid アミノ酸配列)
MNDDELHMLMTDLVYEALHFAKDEEIKKRVFQLFELADKAYKNNDRQKLEKVVEELKELLERLLSGGGGSGGGGSGGGGSAEAGITGTWSDQLGDTFIVTAGADGALTGTYENAVGGAESRYVLTGRYDSAPATDGSGTALGWTVAWKNNSKNAHSATTWSGQYVGGADAKINTQWLLTSGTTNANAWKSTLVGHDTFTKVKPSAASHHHHHH
【0061】
配列番号9(LCB3-Cupid 塩基配列)
ATGAATGACGATGAACTGCACATGCTTATGACCGATTTGGTGTATGAAGCTCTGCATTTTGCCAAAGACGAAGAGATTAAGAAACGCGTATTTCAACTGTTCGAATTGGCAGATAAAGCGTACAAGAACAACGATCGTCAGAAACTCGAGAAAGTCGTTGAAGAACTGAAAGAGCTGTTAGAACGCTTACTGAGCGGAGGCGGAGGGTCTGGAGGTGGCGGTTCAGGTGGCGGTGGCAGTGCGGAAGCCGGTATTACCGGGACCTGGTCCGATCAACTCGGCGACACGTTTATCGTGACAGCAGGCGCGGATGGCGCGCTGACAGGGACGTACGAGAATGCGGTAGGCGGTGCGGAAAGCCGCTATGTGTTGACCGGTCGTTACGATTCGGCTCCGGCTACGGATGGTTCCGGTACAGCCTTAGGGTGGACCGTTGCGTGGAAGAACAACTCGAAGAATGCCCACAGTGCTACCACTTGGTCAGGCCAGTATGTTGGCGGGGCGGATGCGAAAATCAACACTCAGTGGCTTCTGACCAGCGGAACCACGAATGCCAATGCGTGGAAATCCACGCTGGTCGGTCATGACACCTTTACCAAAGTCAAACCGAGTGCAGCATCGCATCATCACCACCATCATTAA
図1
図2
図3
図4
図5
【配列表】
2024178483000001.app