(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024178524
(43)【公開日】2024-12-25
(54)【発明の名称】セラミックス成形用成形型及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B28B 7/34 20060101AFI20241218BHJP
B28B 3/02 20060101ALI20241218BHJP
【FI】
B28B7/34 D
B28B3/02 A
B28B3/02 T
B28B7/34 A
B28B7/34 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023096709
(22)【出願日】2023-06-13
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100121784
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 稔
(72)【発明者】
【氏名】嶋村 彰紘
(72)【発明者】
【氏名】近藤 直樹
(72)【発明者】
【氏名】堀田 幹則
【テーマコード(参考)】
4G053
4G054
【Fターム(参考)】
4G053CA16
4G053CA17
4G054AA06
4G054AA09
4G054BA01
4G054DA02
(57)【要約】
【課題】吸水性に優れ、従来の石こう型や親水性樹脂を使用した複合型のような溶出成分が無く、ファインセラミックスの成形が可能で、且つ、製造コストが高くなることのないセラミックス成形用成形型及びその製造方法を提供する。
【解決手段】無機質粉末と熱硬化性樹脂又は熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂との混合樹脂から構成された樹脂成分とからなり、当該成形型の質量Aを測定し、当該成形型をその体積の1/3の高さまで水中に浸漬した後、10分経過後に吸水した成形型の質量Bを測定したときに、下記の式(1)
C=〔(B-A)/A〕×100・・・・・(1)
で示す、成形型の吸水率Cの値が、30.0%以上である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機質粉末と樹脂成分とからなるセラミックス成形用成形型であって、
前記樹脂成分は、熱硬化性樹脂又は熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂との混合樹脂からなり、当該樹脂成分の一部又は全部が炭化した成分で構成されており、
前記セラミックス成形用成形型の質量Aを測定し、当該成形型をその体積の1/3の高さまで水中に浸漬した後、10分経過後に吸水した成形型の質量Bを測定したときに、下記の式(1)
C=〔(B-A)/A〕×100・・・・・(1)
で示す、成形型の吸水率Cの値が、30.0%以上であることを特徴とするセラミックス成形用成形型。
【請求項2】
前記無機質粉末は、セラミックス、金属、カーボンから選ばれた少なくとも1つ以上で構成されていることを特徴とする請求項1に記載のセラミックス成形用成形型。
【請求項3】
前記吸水率Cの値は、52.0%以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載のセラミックス成形用成形型。
【請求項4】
無機質粉末と樹脂成分とを混合して混合材料を調整する工程と、前記混合材料をプレス成形用金型で成形してプレス成形体を作製する工程と、前記プレス成形体を加熱処理して工程と成形型を作製する工程とからなり、
前記樹脂成分は、熱硬化性樹脂又は熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂との混合樹脂から構成され、
前記加熱処理は、前記熱硬化性樹脂の硬化温度以上、且つ、熱分解温度以下の温度で加熱されることにより、
作製した成形型において、当該成形型の質量Aを測定し、当該成形型をその体積の1/3の高さまで水中に浸漬した後、10分経過後に吸水した成形型の質量Bを測定したときに、下記の式(1)
C=〔(B-A)/A〕×100・・・・・(1)
で示す、成形型の吸水率Cの値が、30.0%以上であることを特徴とするセラミックス成形用成形型の製造方法。
【請求項5】
無機質粉末と樹脂成分とを混合して混合材料を調整する工程と、前記混合材料をプレス成形用金型で成形してプレス成形体を作製する工程と、前記プレス成形体を加熱処理して工程と成形型を作製する工程とからなり、
前記樹脂成分は、熱硬化性樹脂又は熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂との混合樹脂から構成され、
前記加熱処理は、前記樹脂成分の一部又は全部を炭化させる温度で加熱されることにより、
作製した成形型において、当該成形型の質量Aを測定し、当該成形型をその体積の1/3の高さまで水中に浸漬した後、10分経過後に吸水した成形型の質量Bを測定したときに、下記の式(1)
C=〔(B-A)/A〕×100・・・・・(1)
で示す、成形型の吸水率Cの値が、30.0%以上であることを特徴とするセラミックス成形用成形型の製造方法。
【請求項6】
前記混合材料における前記樹脂成分の比率は、前記無機質粉末の体積に対して4体積%~40体積%の範囲内であることを特徴とする請求項4又は5に記載のセラミックス成形用成形型の製造方法。
【請求項7】
前記吸水率Cの値は、52.0%以上であることを特徴とする請求項4又は5に記載のセラミックス成形用成形型の製造方法。
【請求項8】
前記混合材料における前記樹脂成分の比率は、前記無機質粉末の体積に対して4体積%~40体積%の範囲内であることを特徴とする請求項7に記載のセラミックス成形用成形型の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックス焼成体を製造する際に使用するセラミックス成形用成形型及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
セラミックス焼成体を製造する方法において、セラミックス材料を所定の形状に成形する際に成形型を使用することが多い。成形型で焼成前のセラミックス成形体を成形するセラミックス成形法には種々の方法があり、例えば、鋳込み成形法、シート成形法、プレス成形法などがある。
【0003】
例えば、鋳込み成形法を例にすれば、セラミックス原料粉末とバインダーを分散媒に分散させた泥漿(以下「セラミックススラリー」という)を所定の形状を持った吸水性多孔質型(以下「成形型」という)の内部に流し込む。次に、セラミックススラリーに含まれる分散媒(水)の大部分を成形型に吸収させて、セラミックス原料粉末とバインダーから分散媒を分離する。分散媒を十分に分離させた後に、セラミックス原料粉末とバインダーからなるセラミックス成形体を成形型から離型する。
【0004】
一般的なセラミックス成形法である鋳込み成形法には、石こう製成形型(以下「石こう型」という)が用いられる。しかし、石こう型を用いた鋳込み成形法では、石こう(主に硫酸カルシウム2水和物)の成分であるカルシウムイオンや硫酸イオンが不純物として成形体に溶出するため高純度が求められるファインセラミックスの成形には適用できない。
【0005】
そこで、溶出成分の無いセラミックス製多孔質型を用いることにより、高純度な鋳込み成形体を作製することができる。しかし、セラミックス製の鋳込み型は、成形型の作製時にセラミックスの焼結温度で高温焼成する必要があるため成形型の製造コストが高くなるという問題があった。
【0006】
一方、セラミックス粉末を樹脂でつないだセラミックス樹脂複合型が使用される場合もある。この成形型は、樹脂を用いてセラミックス粉末を成形することで、溶出成分をなくして生産コストを抑えることができる。しかし、水の吸水性が石こう型よりも大幅に劣るため、石こう型のような吸水性を確保するには、成形型自体の大型化によるコスト高に加え、成形型の重量増加によるハンドリングの難しさという問題があった。
【0007】
セラミックス樹脂複合型の吸水性の低下は、複合化に用いる樹脂が疎水性樹脂であることによる。そこで、複合化に用いる樹脂を親水性樹脂に置き換えることで、吸水性の向上が得られると考えられる。しかし、鋳込み成形のような主に水系のスラリーを用いる成形法においては、樹脂の親水性が高いと樹脂成分の一部が水分中に溶出し、成形体が純度低下を起こすことがある。また、親水性樹脂が水を含んで膨潤し、成形体の寸法精度が低下することがある。このように、高純度な成形体を作製する鋳込み成形においては、成形体の純度と寸法精度の観点から疎水性樹脂を用いることが有効であると考えられている。
【0008】
そこで、下記特許文献1において、吸水性を向上させたセラミックス成形用樹脂型が提案されている。下記特許文献1のセラミックス成形用樹脂型においては、従来の樹脂型を構成する無機質粉末の少なくとも一部を多孔質吸水性の粉末に代えることによって、吸水性が2.25倍に向上するという。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、上記特許文献1においては、従来の樹脂型よりも吸水性が2.25倍に向上する。この吸水性の向上は、樹脂成分と無機質粉末との組合せにおける多孔質吸水性の粉末によるものであり、樹脂成分は依然として通常の疎水性樹脂である。この複合化に用いる樹脂成分にも吸水性が望まれるが、親水性樹脂のような溶出成分のない樹脂成分でなければならない。
【0011】
そこで、本発明は、上記の諸問題に対処して、吸水性に優れ、従来の石こう型や親水性樹脂を使用した複合型のような溶出成分が無く、ファインセラミックスの成形が可能で、且つ、製造コストが高くなることのないセラミックス成形用成形型及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題の解決にあたり、本発明者らは、鋭意研究の結果、セラミックス原料に疎水性熱硬化性樹脂を複合化させて成形型を作製する際に、樹脂が熱分解するよりもある程度低い温度で熱処理することで樹脂の疎水性が弱まって親水性となるが溶出成分が生成しないことを確認して、上記目的を達成できることを見出し本発明の完成に至った。
【0013】
即ち、本発明に係るセラミックス成形用成形型は、請求項1の記載によれば、
無機質粉末と樹脂成分とからなるセラミックス成形用成形型であって、
前記樹脂成分は、熱硬化性樹脂又は熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂との混合樹脂からなり、当該樹脂成分の一部又は全部が炭化した成分で構成されており、
前記セラミックス成形用成形型の質量Aを測定し、当該成形型をその体積の1/3の高さまで水中に浸漬した後、10分経過後に吸水した成形型の質量Bを測定したときに、下記の式(1)
C=〔(B-A)/A〕×100・・・・・(1)
で示す、成形型の吸水率Cの値が、30.0%以上であることを特徴とする。
【0014】
また、本発明は、請求項2の記載によれば、請求項1に記載のセラミックス成形用成形型であって、
前記無機質粉末は、セラミックス、金属、カーボンから選ばれた少なくとも1つ以上で構成されていることを特徴とする。
【0015】
また、本発明は、請求項3の記載によれば、請求項1又は2に記載のセラミックス成形用成形型であって、
前記吸水率Cの値は、52.0%以上であることを特徴とする。
【0016】
また、本発明に係るセラミックス成形用成形型の製造方法は、請求項4の記載によれば、
無機質粉末と樹脂成分とを混合して混合材料を調整する工程と、前記混合材料をプレス成形用金型で成形してプレス成形体を作製する工程と、前記プレス成形体を加熱処理して工程と成形型を作製する工程とからなり、
前記樹脂成分は、熱硬化性樹脂又は熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂との混合樹脂から構成され、
前記加熱処理は、前記熱硬化性樹脂の硬化温度以上、且つ、熱分解温度以下の温度で加熱されることにより、
作製した成形型において、当該成形型の質量Aを測定し、当該成形型をその体積の1/3の高さまで水中に浸漬した後、10分経過後に吸水した成形型の質量Bを測定したときに、下記の式(1)
C=〔(B-A)/A〕×100・・・・・(1)
で示す、成形型の吸水率Cの値が、30.0%以上であることを特徴とする。
【0017】
また、本発明に係るセラミックス成形用成形型の製造方法は、請求項5の記載によれば、
無機質粉末と樹脂成分とを混合して混合材料を調整する工程と、前記混合材料をプレス成形用金型で成形してプレス成形体を作製する工程と、前記プレス成形体を加熱処理して工程と成形型を作製する工程とからなり、
前記樹脂成分は、熱硬化性樹脂又は熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂との混合樹脂から構成され、
前記加熱処理は、前記樹脂成分の一部又は全部を炭化させる温度で加熱されることにより、
作製した成形型において、当該成形型の質量Aを測定し、当該成形型をその体積の1/3の高さまで水中に浸漬した後、10分経過後に吸水した成形型の質量Bを測定したときに、下記の式(1)
C=〔(B-A)/A〕×100・・・・・(1)
で示す、成形型の吸水率Cの値が、30.0%以上であることを特徴とする。
【0018】
また、本発明は、請求項6の記載によれば、請求項4又は5に記載のセラミックス成形用成形型の製造方法であって、
前記混合材料における前記樹脂成分の比率は、前記無機質粉末の体積に対して4体積%~40体積%の範囲内であることを特徴とする。
【0019】
また、本発明は、請求項7の記載によれば、請求項4又は5に記載のセラミックス成形用成形型の製造方法であって、
前記吸水率Cの値は、52.0%以上であることを特徴とする。
【0020】
また、本発明は、請求項8の記載によれば、請求項7に記載のセラミックス成形用成形型の製造方法であって、
前記混合材料における前記樹脂成分の比率は、前記無機質粉末の体積に対して4体積%~40体積%の範囲内であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
上記構成によれば、本発明に係るセラミックス成形用成形型は、無機質粉末と樹脂成分とからなるセラミックス成形用成形型であって、樹脂成分は、熱硬化性樹脂又は熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂との混合樹脂からなり、当該樹脂成分の一部又は全部が炭化した成分で構成されており、セラミックス成形用成形型の質量Aを測定し、当該成形型をその体積の1/3の高さまで水中に浸漬した後、10分経過後に吸水した成形型の質量Bを測定したときに、下記の式(1)
C=〔(B-A)/A〕×100・・・・・(1)
で示す、成形型の吸水率Cの値が、30.0%以上であることを特徴とする。
【0022】
このことにより、吸水性に優れ、従来の石こう型や親水性樹脂を使用した複合型のような溶出成分が無く、ファインセラミックスの成形が可能で、且つ、製造コストが高くなることのないセラミックス成形用成形型を提供することができる。
【0023】
また、上記構成によれば、無機質粉末は、セラミックス、金属、カーボンから選ばれた少なくとも1つ以上で構成されていることが好ましい。また、吸水率Cの値は、52.0%以上であることがより好ましい。これらのことにより、上記作用効果をより具体的且つ効果的に発揮することができる。
【0024】
また、上記構成によれば、本発明に係るセラミックス成形用成形型の製造方法は、無機質粉末と樹脂成分とを混合して混合材料を調整する工程と、混合材料をプレス成形用金型で成形してプレス成形体を作製する工程と、プレス成形体を加熱処理して工程と成形型を作製する工程とからなる。ここで、樹脂成分は、熱硬化性樹脂又は熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂との混合樹脂から構成され、加熱処理は、熱硬化性樹脂の硬化温度以上、且つ、熱分解温度以下の温度で加熱される。これにより、上記の式(1)で示す成形型の吸水率Cの値が、30.0%以上となる。
【0025】
なお、加熱処理は、樹脂成分の一部又は全部を炭化させる温度で加熱されてもよい。また、混合材料における樹脂成分の比率は、無機質粉末の体積に対して内掛けで4体積%~40体積%の範囲内であることが好ましい。また、吸水率Cの値は、52.0%以上であることがより好ましい。
【0026】
これらのことにより、吸水性に優れ、従来の石こう型や親水性樹脂を使用した複合型のような溶出成分が無く、ファインセラミックスの成形が可能で、且つ、製造コストが高くなることのないセラミックス成形用成形型の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】実施例1で使用したフェノール樹脂の熱重量分析の結果(TG-DSC曲線)を示すグラフである。
【
図2】実施例1で得られた成形体の表面を電子顕微鏡で観察した写真である。
【
図3】実施例1で得られた成形体の第2加熱処理後の表面を光学顕微鏡で観察した写真である。
【
図4】実施例1で得られた成形体の第1加熱処理後の表面を光学顕微鏡で観察した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明に係るセラミックス成形用成形型を製造方法により具体的に説明する。なお、本発明に係るセラミックス成形用成形型は、鋳込み成形法、シート成形法、プレス成形法などで成形することができる。
【0029】
まず、本発明に係るセラミックス成形用成形型の構成要素について説明する。本発明において、セラミックス成形用成形型は、無機質粉末と樹脂成分とから構成されている。ここで、無機質粉末としては、従来のセラミックス樹脂複合型に使用するものであれば、特に限定するものではない。なお、これらのなかでも、金属酸化物・金属窒化物・金属炭化物などのセラミックス、金属、カーボンなどを単独又は混合して使用することが好ましい。また、粉末だけではなく、板状粒子、棒状粒子、球状粒子、多孔質粒子、繊維状粒子などの粒子をしようしてもよい。
【0030】
一方、樹脂成分としては、特に限定するものではなく、例えば、熱硬化性樹脂を単独で、又は、熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂との混合樹脂として使用することが好ましい。熱硬化性樹脂としては、例えば、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、シルコーン樹脂などが挙げられる。これらの中でも、本発明においては、フェノール樹脂又はエポキシ樹脂を使用することが好ましい。
【0031】
熱硬化性樹脂としてフェノール樹脂を使用するときには、ノボラック樹脂又はレゾール樹脂の状態で硬化させてもよく、或いは、熱溶融硬化型などの微粒子状フェノール樹脂などを使用してもよい。一方、エポキシ樹脂を使用するときには、架橋ネットワーク化前のプレポリマーと硬化剤を混合して熱硬化処理を行う2液型の樹脂を使用することが好ましい。また、エポキシ樹脂を構成する2成分の組み合わせは、特に限定するものではなく、代表的なビスフェノールAとエピクロロヒドリンとの組み合わせに限るものではない。
【0032】
熱硬化性樹脂に混合する熱可塑性樹脂としては、特に限定するものではなく、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリアクリレート、ポリアクリルアミド、ポリエーテル、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、ポリフルオロエチレン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、ポリスルホン、ポリビニルブチラールなどが挙げられる。これらの中でも、本発明においては、ポリアミド又はポリビニルブチラールを使用することが好ましい。なお、熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂との混合樹脂を使用する場合は、熱硬化性樹脂の比率が1体積%以上であることが好ましい。
【0033】
次に、セラミックス成形用成形型の製造方法について説明する。まず、無機質粉末と樹脂成分とを混合して混合材料としてから所定の形状に成形する。鋳込み成形の場合には、混合材料を水と混合して成形型に鋳込み、電気オーブンで乾燥して成形する。一方、プレス成型の場合には、混合材料をプレス成型用金型で加温・加圧して成形する。
【0034】
ここで、混合材料における樹脂成分の比率は、無機質粉末の体積に対して内掛けで4体積%~40体積%の範囲内であることが好ましい。樹脂成分の比率が4体積%より少ない場合には、作製されたセラミックス成形用成形型の吸水率が従来の石こう型よりも大幅に低くなる。一方、樹脂成分の比率が40体積%より多い場合には、作製されたセラミックス成形用成形型の強度が低くなり使用に支障をきたすことがある。
【0035】
次に、成形・乾燥した混合材料を熱硬化性樹脂の硬化温度で加熱処理(これを「第1加熱処理」という)して、熱硬化性樹脂を熱硬化させる。この第1加熱処理の加熱温度は、使用する熱硬化性樹脂の種類により適宜選定すればよい。ここまでの操作は、従来のセラミックス樹脂複合型の製造法と類似するものである。本発明においては、更に熱硬化させた混合材料を高温で加熱処理(これを「第2加熱処理」という)することを特徴とする。
【0036】
この第2加熱処理の加熱温度は、熱硬化性樹脂の硬化温度以上、且つ、熱分解温度以下の温度で行う。この加熱処理は、樹脂成分が熱硬化性樹脂を単独で使用する場合だけではなく、熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂との混合樹脂の場合であっても同様である。なお、本発明においては、第2加熱処理の昇温段階で第1加熱処理がなされるものとして、第1加熱処理と第2加熱処理とを連続した一連の加熱処理操作としてもよい。
【0037】
本発明者らは、第2加熱処理の加熱温度が硬化温度以上、且つ、熱分解温度以下であることにより、本来は疎水性である熱硬化性樹脂で成形されたセラミックス成形用成形型が親水性を帯びることを見出した。セラミックス成形用成形型が第2加熱処理により親水性を帯びる理由は、明確ではないが、本発明者らは以下のように考えている。
【0038】
一般的に、熱硬化性樹脂は、複数のモノマー同士が縮合反応又は付加反応により連続して結合している。しかし、樹脂の末端部は、結合相手が存在しないため熱的安定性が低い状態にある。また、この末端部の多くは、樹脂の表面部に存在する。そのため、樹脂の表面部は、内部に比べて比較的低温で熱分解が起り易い。このことにより、樹脂の表面部は、樹脂の熱分解温度よりも低い温度(熱分解温度以下)で分解又は炭化が生じて親水性となる。しかし、このことで溶出成分が生成されることはない。なお、本発明者らは、第2加熱処理前後の成形体を光学顕微鏡で観察し、第2加熱処理により樹脂成分の表面が炭化していることを確認した(詳細は後述する)。
【実施例0039】
次に、各実施例に基づいて、本発明を具体的に説明する。また、下記の各実施例は、セラミックス焼成体を製造する際に使用するセラミックス成形用成形型の製造方法であるが、実施例と比較例との成形型の吸水性の評価を容易にするために、断面20mm×20mm、高さ30mmの角柱の成形体(試験片)として作製した。なお、各実施例においては、無機質粉末としてアルミナ粉末及びシリカ粉末を使用し、樹脂成分としてフェノール樹脂及びエポキシ樹脂を使用して説明する。しかし、本発明における無機質粉末と樹脂成分とは、これらに限定するものではない。また、本発明は、下記の各実施例にのみ限定されるものではない。
【0040】
《実施例1》
本実施例1においては、無機質粉末として多孔質アルミナ粉末と、樹脂成分として熱硬化性樹脂のフェノール樹脂とを使用して混合材料を調整した。また、セラミックス成形用成形型を製造する際の方法と同様にして、プレス成形法により吸水性を評価するための成形体(試験片)を作製した。
【0041】
まず、アルミナ粉末(住友化学株式会社製;A21、粒径51μm)と、機能性微粒子状フェノール樹脂(エアウォーターベルパール株式会社製;ベルパールS、品番S890)とを1Lのポリ容器内で混合して混合材料を調整した。フェノール樹脂の使用量は、アルミナ粉末の体積に対して内掛けで29体積%とした。次に、所定形状のプレス成形用金型に混合材料を投入し、90℃、50kN、1時間のプレス成形でプレス成形体を作製した。次に、プレス成形体を230℃のオーブンで加熱処理(第1及び第2加熱処理)して、親水化処理された成形体を作製した。本実施例1で作製した成形体の混合時樹脂比率・成形法・第1及び第2加熱処理温度・加熱後樹脂比率・吸水率の各値を表1に示す。
【0042】
なお、本実施例1においては、使用した機能性微粒子状フェノール樹脂の熱硬化温度が150℃であり、減量開始温度が350℃であることから、加熱処理の温度を230℃とした。具体的には、使用した機能性微粒子状フェノール樹脂の熱重量分析から判断した。
図1は、本実施例1で使用したフェノール樹脂の熱重量分析の結果(TG-DSC曲線)を示すグラフである。
図1において、フェノール樹脂のTG-DSC曲線には230℃に小さな重量減少を伴う発熱ピークが観測されている。これは樹脂表面が熱分解していることを示しており、これにより表面の疎水性が失われ表面が親水性に変化していることを示している。その後、350℃以降には樹脂の熱分解に伴う急激な重量減少が観測されている。
【0043】
なお、作製後の成形体の樹脂成分の含有量は、加熱処理により重量が数%低下する。そこで、同様にして作製した別の成形体を大気中1000℃で高熱処理して樹脂成分を消失させた。この高熱処理による重量減少分から、加熱処理後の成形体の樹脂成分の含有量を測定した。
【0044】
また、
図2は、本実施例1で得られた成形体の表面を電子顕微鏡で観察した写真である。
図2の電子顕微鏡写真では機能性微粒子状フェノール樹脂の状態が分かりにくいため、光学顕微鏡でも観察した。
図3は、本実施例1で得られた成形体の第2加熱処理後の表面を光学顕微鏡で観察した写真である。また、
図4は、本実施例1で得られた成形体の第1加熱処理後の表面を光学顕微鏡で観察した写真である。
図3及び
図4において、白い部分がアルミナ粉末であり、黒い部分が機能性微粒子状フェノール樹脂である。
【0045】
なお、本実施例1では一段の加熱処理(第1及び第2加熱処理)を行った。そこで、第2加熱処理前の成形体の写真は、後述の比較例1(熱処理温度以外は、実施例1と同じ)の加熱処理後(第1加熱処理のみ)で観察した。また、本明細書に添付した
図3及び
図4のモノクロ写真では、機能性微粒子状フェノール樹脂の表面の熱処理温度の差が分かり辛い。しかし、実際に観察した
図3及び
図4のカラー写真(原本として保管)においては、
図3の機能性微粒子状フェノール樹脂の表面が炭化していることが明瞭に観察された。
【0046】
《実施例2》
本実施例2においては、フェノール樹脂の使用量をアルミナ粉末の体積に対して内掛けで21体積%とした以外は、上記実施例1と同様の工程により親水化処理された成形体を作製した。本実施例2で作製した成形体の混合時樹脂比率・成形法・第1及び第2加熱処理温度・加熱後樹脂比率・吸水率の各値を表1に示す。
【0047】
《実施例3》
本実施例3においては、フェノール樹脂の使用量をアルミナ粉末の体積に対して内掛けで33体積%とした以外は、上記実施例1と同様の工程により親水化処理された成形体を作製した。本実施例3で作製した成形体の混合時樹脂比率・成形法・第1及び第2加熱処理温度・加熱後樹脂比率・吸水率の各値を表1に示す。
【0048】
《実施例4》
本実施例4においては、無機質粉末として板状アルミナ粉末(フジミインコーポレーテッド社製、PWA3、粒径3μm)を使用し、フェノール樹脂の使用量をアルミナ粉末の体積に対して内掛けで11体積%とした以外は、上記実施例1と同様の工程により親水化処理された成形体を作製した。本実施例4で作製した成形体の混合時樹脂比率・成形法・第1及び第2加熱処理温度・加熱後樹脂比率・吸水率の各値を表1に示す。
【0049】
《実施例5》
本実施例5においては、無機質粉末として粉砕形状炭化ケイ素と、樹脂成分として熱硬化性樹脂のエポキシ樹脂とを使用して混合材料を調整した。まず、炭化ケイ素(フジミインコーポレーテッド社製;GC1000、粒径12.0μm)と、エポキシ樹脂(主剤:DIC社製、EPICRON855、硬化剤:三菱化学社製ST12)とを自転公転ミキサー(シンキ株式会社製、型式:ARE-310)で混合して混合材料を調整した。エポキシ樹脂の使用量は、炭化ケイ素の体積に対して内掛けで5体積%とした。
【0050】
次に、所定形状のプレス成形用金型に混合材料を投入し、150℃、50kN、1時間のプレス成形でプレス成形体を作製した。次に、プレス成形体を230℃のオーブンで加熱処理(第1及び第2加熱処理)して、親水化処理された成形体を作製した。本実施例5で作製した成形体の混合時樹脂比率・成形法・第1及び第2加熱処理温度・加熱後樹脂比率・吸水率の各値を表1に示す。
【0051】
《実施例6》
本実施例6においては、上記実施例1と同じ多孔質アルミナ粉末とフェノール樹脂とを使用し、鋳込み成形法によりセラミックス成形用成形型の吸水性を評価するための成形体を作製した。
【0052】
まず、上記実施例1と同じアルミナ粉末と、機能性微粒子状フェノール樹脂とを1Lのポリ容器内で混合して混合材料を調整した。フェノール樹脂の使用量は、アルミナ粉末の体積に対して内掛けで40体積%とした。次に、混合材料100gに対して水100gを加えて混合し、所定形状の鋳込み型に鋳込んで電器オーブン内において80℃で1時間乾燥させて鋳込み成形体を作製した。
【0053】
次に、鋳込み成形体を150℃のオーブンで加熱処理(第1加熱処理)して、鋳込み成形体を熱硬化させた。更に、熱硬化させた鋳込み成形体を230℃のオーブンで加熱処理(第2加熱処理)して、親水化処理された成形体を作製した。本実施例6で作製した成形体の混合時樹脂比率・成形法・第1及び第2加熱処理温度・加熱後樹脂比率・吸水率の各値を表1に示す。
【0054】
《実施例7》
本実施例7においては、無機質粉末として上記実施例1と同じ多孔質アルミナ粉末を使用し、樹脂成分として熱硬化性樹脂のフェノール樹脂と熱可塑性樹脂のナイロン樹脂との混合樹脂を使用して混合材料を調整した。また、セラミックス成形用成形型を製造する際の方法と同様にして、プレス成形法により吸水性を評価するための成形体(試験片)を作製した。
【0055】
まず、上記実施例1と同じアルミナ粉末と、機能性微粒子状フェノール樹脂に加え、ナイロン樹脂(ダイセル・エボニック社製:VESTOSINT2070)とを1Lのポリ容器内で混合して混合材料を調整した。フェノール樹脂の使用量は、アルミナ粉末の体積に対して内掛けで29体積%とし、ナイロン樹脂の使用量は、アルミナ粉末の体積に対して内掛けで1体積%とした。それ以外の条件は、上記実施例1と同様の工程により親水化処理された成形体を作製した。本実施例7で作製した成形体の混合時樹脂比率・成形法・第1及び第2加熱処理温度・加熱後樹脂比率・吸水率の各値を表1に示す。
【0056】
《実施例8》
本実施例8においては、樹脂成分の全部が炭化した成分で構成されている成形体を作製した。なお、上記実施例1と同じ多孔質アルミナ粉末と熱硬化性樹脂のフェノール樹脂とを使用し、フェノール樹脂の使用量を上記実施例1と同じアルミナ粉末の体積に対して内掛けで29体積%としてプレス成形体を作製した。次に、プレス成形体を600℃の窒素雰囲気下で加熱処理(第1及び第2加熱処理)して、樹脂成分の全部が炭化して親水化処理された成形体を作製した。本実施例8で作製した成形体の混合時樹脂比率・成形法・第1及び第2加熱処理温度・加熱後樹脂比率・吸水率の各値を表1に示す。
【0057】
《比較例1》
本比較例1は、上記実施例1に対応するものであって、実施例1と同じアルミナ粉末とフェノール樹脂とを同じ比率で配合して混合材料を調整し、所定形状のプレス成形法により吸水性を評価するための成形体を作製した。なお、本比較例1においては、フェノール樹脂の熱硬化温度である150℃で加熱処理(第1加熱処理)を行い、実施例1で行った230℃の加熱処理(第2加熱処理)は行わなかった。
【0058】
《比較例2》
本比較例2は、各実施例を従来の石こう型と比較するために、鋳込み成形法により吸水性を評価するための石こう成形体を作製した。まず、石こう粉末(サンエス石膏株式会社)を水と混合し、所定形状の鋳込み型に流し込み1日間放置してから、40℃の電気オーブンで1日間乾燥させて鋳込み成形体を作製した。本比較例2においては、この鋳込み成形体で吸水性を評価した。
【0059】
《吸水性の評価方法》
次に、上記実施例1~8及び比較例1~2で作製した各成形体の吸水性を評価した。吸水性の評価は、上述のように、断面20mm×20mm、高さ30mmの角柱の成形体(試験片)を用いて行った。なお、試験片の作製は、上記実施例1~8及び比較例1~2で用いた成形体を試験片の大きさと同じにして、成形法から直接、試験片を作製してもよい。また、吸水性試験の試験片よりも大きな成形体から切り出して、試験片を作製してもよい。
【0060】
各成形体(試験片)の吸水性の評価は、次のようにして行った。まず、作製した成形体(試験片)の角柱の質量Aを測定する。次に、当該成形体(試験片)をその体積の1/3の高さまで水中(常温)に浸漬する。浸漬して10分経過後に吸水した成形体(試験片)の質量Bを測定する。これらの値を用いて、下記の式(1)
C=〔(B-A)/A〕×100・・・・・(1)
で示す、成形体(試験片)の吸水率Cの値を計算する。このCの値が、30.0%以上であることを本発明に係るセラミックス成形用成形型の条件とした。この値は、従来の石こう型と同じように使用することができ、セラミックス樹脂複合型の吸水性としては実用性能を十分に示すものとして設定した。実施例1~8及び比較例1~2の各成形体(試験片)に対する吸水性の評価結果を表1に示す。
【0061】
【0062】
表1から分かるように、実施例1~8の全ての成形体(試験片)において、吸水率の値が30.0%以上という良好な値を示した。なお、吸水率30%という値は、従来のセラミックス樹脂複合型よりも親水性と思われる多孔質アルミナを使用した比較例1の吸水率15%の2倍の値であり、非常に良好な値である。また、従来の石こう型(比較例2)の吸水率51%の約6割に近い値であり、セラミックス樹脂複合型の吸水性としては実用性能を十分に示すものである。また、実施例1,2,4,7,8においては、いずれの吸水率も52%以上で、従来の石こう型(比較例2)より吸水率が高く非常に良好な結果であった。
【0063】
また、実施例1~8の全てにおいて、従来の石こう型や親水性樹脂を使用した複合型のような溶出成分が無いことも確認した。これらのことにより、実施例1~8の全ての成形型は、ファインセラミックスの成形に使用することができる。更に、これらの実施例においては、製造コストが高くなることがない。
【0064】
これまで説明したように、上記実施形態によれば、吸水性に優れ、従来の石こう型や親水性樹脂を使用した複合型のような溶出成分が無く、ファインセラミックスの成形が可能で、且つ、製造コストが高くなることのないセラミックス成形用成形型及びその製造方法を提供することができる。