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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024178581
(43)【公開日】2024-12-25
(54)【発明の名称】分離材および分離材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/285 20060101AFI20241218BHJP
   B01J 20/281 20060101ALI20241218BHJP
   G01N 30/88 20060101ALI20241218BHJP
   C07K 16/00 20060101ALI20241218BHJP
   B01D 15/36 20060101ALI20241218BHJP
   B01J 20/26 20060101ALI20241218BHJP
   B01J 20/30 20060101ALI20241218BHJP
   C08F 2/44 20060101ALI20241218BHJP
   C08F 265/06 20060101ALI20241218BHJP
   C08F 220/58 20060101ALI20241218BHJP
【FI】
B01J20/285 S
B01J20/281 X
G01N30/88 J
C07K16/00
B01D15/36
B01J20/26 H
B01J20/26 L
B01J20/30
C08F2/44 C
C08F265/06
C08F220/58
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023096823
(22)【出願日】2023-06-13
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(72)【発明者】
【氏名】土屋 智誠
(72)【発明者】
【氏名】小原 祥平
【テーマコード(参考)】
4D017
4G066
4H045
4J011
4J026
4J100
【Fターム(参考)】
4D017AA09
4D017BA07
4D017CA13
4D017CA14
4D017CA17
4D017CB01
4D017DA03
4D017EA05
4G066AC17B
4G066AC17C
4G066BA38
4G066CA54
4G066DA07
4G066EA01
4G066FA07
4G066FA37
4H045AA10
4H045AA20
4H045CA40
4H045DA75
4H045DA76
4H045GA21
4J011AA05
4J011BA04
4J011PA69
4J011PC02
4J011PC06
4J011PC07
4J026AA48
4J026BA28
4J026BA32
4J026DA03
4J026DA07
4J026DA12
4J026DB04
4J026DB08
4J026DB12
4J026FA08
4J026GA06
4J100AM21P
4J100AM21Q
4J100BA03P
4J100BA56Q
4J100CA04
4J100DA36
4J100FA03
4J100FA06
4J100FA20
4J100JA15
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、タンパク質のような大きい分子の分離精製においても、近年要
求されている高度な分離精製能を満たす、水に不溶の多孔性粒子である担体に共重合体を
共有結合させたイオン交換分離材及びその応用技術を提供することにある。
【解決手段】共重合体が担体に結合してなる分離材であって、前記共重合体が特定の式(
1)で表される単量体に由来する構造単位、及び、特定の式(2)で表される単量体に由
来する構造単位を含み、前記共重合体の数平均分子量が10,000以上1,000,0
00以下である、分離材。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
共重合体が担体に結合してなる分離材であって、
前記共重合体が下記式(1)で表される単量体に由来する構造単位、及び、下記式(2
)で表される単量体に由来する構造単位を含み、
前記共重合体の数平均分子量が10,000以上1,000,000以下である、分離
材。
【化1】
【化2】
(式(1)中、Rは-NR-R-R又は-O-R-Rを表す。Rは水素原
子又は炭素数1以上4以下のアルキル基を表す。Rは水素原子又は炭素数1以上4以下
のアルキル基を表す。Rは脂肪族環を含む炭素数1以上6以下のアルキレン基、又は、
炭素数1以上6以下の直鎖もしくは分岐のアルキレン基を表す。Rは-SOMを表す
。Mは水素原子、Na又はKを表す。
式(2)中、Rは-NR-R又は-O-Rを表す。Rは水素原子又は炭素数
1以上4以下のアルキル基を表す。Rは水素原子又は炭素数1以上4以下のアルキル基
を表す。Rは炭素数1以上4以下の直鎖もしくは分岐のアルキル基、アルコキシメチル
基又はヒドロキシアルキル基を表す。)
【請求項2】
前記共重合体が上記式(1)で表される単量体に由来する構造単位を、構造単位全体の
35mol%以上65mol%以下の範囲で含む、請求項1に記載の分離材。
【請求項3】
上記式(1)で表される単量体が、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン
酸、アクリル酸-3-スルホプロピル酸、メタクリル酸-3-スルホプロピル酸、及び、
その塩から選ばれる1種以上である、請求項1に記載の分離材。
【請求項4】
上記式(2)で表される単量体が、N-ヒドロキシエチルアクリルアミドである、請求
項1に記載の分離材。
【請求項5】
前記担体に結合したイオン交換基の交換容量が2.5×10-2mmol/mL-R以
上1.2×10-1mmol/mL-R以下である、請求項1に記載の分離材。
【請求項6】
前記担体が下記式(3)で表される単量体に由来する構造単位、及び、下記式(4)で
表される単量体に由来する構造単位を含む、請求項1に記載の分離材。
【化3】
【化4】
(式(3)中、R11は水素原子又は炭素数1以上4以下のアルキル基を表す。R10
-O-R12-R13を表す。R12は脂肪族環を含む炭素数1以上6以下の直鎖もしく
は分岐のアルキレン基、又は、炭素数1以上6以下の直鎖もくしは分岐のアルキレン基を
表す。R13はアルキル基、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アミノ基、グリシジル基又は
エポキシ基を表す。
式(4)中、R14は炭素数1以上6以下の直鎖もしくは分岐のアルキレン基を表す。
15は水素原子又は炭素数1以上4以下のアルキル基を表す。)
【請求項7】
共重合体が担体に結合してなる分離材の製造方法であって、
前記担体の存在下で、上記式(1)で表される単量体、上記式(2)で表される単量体
、及び、連鎖移動剤を含み、上記式(1)で表される単量体と上記式(2)で表される単
量体の合計(100mol%)に対して、上記式(1)で表される単量体を35mol%
以上65mol%以下の範囲で含む単量体組成物を重合する、分離材の製造方法。
【請求項8】
前記連鎖移動剤の単量体組成物中の含有率が、上記式(1)で表される単量体と上記式
(2)で表される単量体の合計(100mol%)に対して、0.4mol%以上2.0
mol%以下である、請求項7に記載の分離材の製造方法。
【請求項9】
上記式(1)で表される単量体が、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン
酸、アクリル酸-3-スルホプロピル酸、メタクリル酸-3-スルホプロピル酸、及び、
その塩から選ばれる1種以上である、請求項7に記載の分離材の製造方法。
【請求項10】
上記式(2)で表される単量体が、N-ヒドロキシエチルアクリルアミドである、請求
項7に記載の分離材の製造方法。
【請求項11】
前記連鎖移動剤がチオール基を有する、請求項7に記載の分離材の製造方法。
【請求項12】
請求項1に記載の分離材を用いる精製工程を含む、抗体製造方法。
【請求項13】
以下の工程(a)及び(b)を含むことを特徴とする、標的分子の分離方法;
工程(a):標的分子を含む溶液を請求項1に記載の分離材に接触させ、標的分子を分離
材に吸着させる工程、
工程(b):工程(a)で処理した分離材から標的分子を溶離する工程。
【請求項14】
標的分子が、モノクローナル抗体又はポリクローナル抗体、あるいはこれらの化学変性
物である、請求項13に記載の標的分子の分離方法。
【請求項15】
請求項1に記載の分離材を含み、少なくとも1つの容器を備えるクロマトグラフィー用
カラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水に不溶の多孔性粒子である担体に共重合体を共有結合させた分離材、及び
、その製造方法、当該分離材を用いたタンパク質等の生体高分子の分離方法、並びにクロ
マトグラフィー用カラムに関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質等の生体高分子の研究・開発において、それらの吸着・分離・精製にはクロ
マトグラフィーが多く用いられている。
液体クロマトグラフィー用分離材に用いられる担体としては、シリカゲル、ヒドロキシ
アパタイト等の無機系担体、アガロース、デキストラン、セルロース、キトサン等の天然
高分子系担体、及び、ポリスチレン、ポリ(メタ)アクリル酸エステル等の合成高分子系
担体が知られている。これらの担体はそのままで、又は多様な分離モードでの使用を可能
とするために必要に応じて各種官能基を付与して用いられる。
また、近年ではタンパク質の分離精製において、分離精製能の更なる向上が望まれてい
る。
【0003】
例えば、特許文献1には、多孔質架橋粒子に高分子を共有結合にて固定化した分離材が
開示されており、本技術に拠れば特定の比表面積を有することで、吸着量が大きく強度面
で優れ、動的吸着容量の向上したイオン交換分離材が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-155745号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1で開示されている分離材は、吸着量及び強度は十分であった。しかしながら
近年要求されている分離精製能としては不十分であった。
【0006】
本発明は、このような課題を鑑みてなされたものであり、タンパク質のような大きい分
子においても分離精製能が向上したイオン交換分離材及びその応用技術に関するものであ
る。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意研究を行なった結果、担体に固定化する共重合体の分子量を調整する
ことにより、分離材の分離精製能が向上することを見出し、本発明に至った。
【0008】
即ち、本発明の要旨は以下のとおりである。
[1] 共重合体が担体に結合してなる分離材であって、
前記共重合体が下記式(1)で表される単量体に由来する構造単位、及び、下記式(2
)で表される単量体に由来する構造単位を含み、
前記共重合体の数平均分子量が10,000以上1,000,000以下である、分離
材。
【化1】
【化2】
(式(1)中、Rは-NR-R-R又は-O-R-Rを表す。Rは水素原
子又は炭素数1以上4以下のアルキル基を表す。Rは水素原子又は炭素数1以上4以下
のアルキル基を表す。Rは脂肪族環を含む炭素数1以上6以下のアルキレン基、又は、
炭素数1以上6以下の直鎖もしくは分岐のアルキレン基を表す。Rは-SOMを表す
。Mは水素原子、Na又はKを表す。
式(2)中、Rは-NR-R又は-O-Rを表す。Rは水素原子又は炭素数
1以上4以下のアルキル基を表す。Rは水素原子又は炭素数1以上4以下のアルキル基
を表す。Rは炭素数1以上4以下の直鎖もしくは分岐のアルキル基、アルコキシメチル
基又はヒドロキシアルキル基を表す。)
[2] 前記共重合体が上記式(1)で表される単量体に由来する構造単位を、構造単位
全体の35mol%以上65mol%以下の範囲で含む、[1]に記載の分離材。
[3] 上記式(1)で表される単量体が、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンス
ルホン酸、アクリル酸-3-スルホプロピル酸、メタクリル酸-3-スルホプロピル酸、
及び、その塩から選ばれる1種以上である、[1]又は[2]に記載の分離材。
[4] 上記式(2)で表される単量体が、N-ヒドロキシエチルアクリルアミドである
、[1]~[3]のいずれかに記載の分離材。
[5] 前記担体に結合したイオン交換基の交換容量が2.5×10-2mmol/mL
-R以上1.2×10-1mmol/mL-R以下である、[1]~[4]のいずれかに
記載の分離材。
[6] 前記担体が下記式(3)で表される単量体に由来する構造単位、及び、下記式(
4)で表される単量体に由来する構造単位を含む、[1]~[5]のいずれかに記載の分
離材。
【化3】
【化4】
(式(3)中、R11は水素原子又は炭素数1以上4以下のアルキル基を表す。R10
-O-R12-R13を表す。R12は脂肪族環を含む炭素数1以上6以下の直鎖もしく
は分岐のアルキレン基、又は、炭素数1以上6以下の直鎖もくしは分岐のアルキレン基を
表す。R13はアルキル基、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アミノ基、グリシジル基又は
エポキシ基を表す。
式(4)中、R14は炭素数1以上6以下の直鎖もしくは分岐のアルキレン基を表す。
15は水素原子又は炭素数1以上4以下のアルキル基を表す。)
【0009】
[7] 共重合体が担体に結合してなる分離材の製造方法であって、
前記担体の存在下で、上記式(1)で表される単量体、上記式(2)で表される単量体
、及び、連鎖移動剤を含み、上記式(1)で表される単量体と上記式(2)で表される単
量体の合計(100mol%)に対して、上記式(1)で表される単量体を35mol%
以上65mol%以下の範囲で含む単量体組成物を重合する、分離材の製造方法。
[8] 前記連鎖移動剤の単量体組成物中の含有率が、上記式(1)で表される単量体と
上記式(2)で表される単量体の合計(100mol%)に対して、0.4mol%以上
2.0mol%以下である、[7]に記載の分離材の製造方法。
[9] 上記式(1)で表される単量体が、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンス
ルホン酸、アクリル酸-3-スルホプロピル酸、メタクリル酸-3-スルホプロピル酸、
及び、その塩から選ばれる1種以上である、[7]又は[8]に記載の分離材の製造方法

[10] 上記式(2)で表される単量体が、N-ヒドロキシエチルアクリルアミドであ
る、[7]~[9]のいずれかに記載の分離材の製造方法。
[11] 前記連鎖移動剤がチオール基を有する、[7]~[10]のいずれかに記載の
分離材の製造方法。
【0010】
[12] [1]1に記載の分離材を用いる精製工程を含む、抗体製造方法。
[13] 以下の工程(a)及び(b)を含むことを特徴とする、標的分子の分離方法;
工程(a):標的分子を含む溶液を[1]に記載の分離材に接触させ、標的分子を分離材
に吸着させる工程、
工程(b):工程(a)で処理した分離材から標的分子を溶離する工程。
[14] 標的分子が、モノクローナル抗体又はポリクローナル抗体、あるいはこれらの
化学変性物である、[13]に記載の標的分子の分離方法。
[15] [1]に記載の分離材を含み、少なくとも1つの容器を備えるクロマトグラフ
ィー用カラム。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、合成高分子をベースとするクロマトグラフィー用充填材として好適な
担体の細孔内に水溶性の単量体を十分に拡散し、重合させることで、共重合体を担体に固
定化した分離材を製造することができる。連鎖移動剤によりこの共重合体の分子鎖長を調
整することで標的分子の分離性能が向上し、クロマトグラフィー用充填材として有用であ
る。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明について詳述するが、以下に記載する例示は、本発明の実施態様の一例(
代表例)であり、本発明はその要旨を逸脱しない限り、これらの内容に限定されるもので
はない。
【0013】
なお、本明細書において、「(メタ)アクリル」とは、「アクリル」と「メタクリル」
の一方又は双方をさし、「(メタ)アクリレート」についても同様である。
【0014】
〔分離材〕
本発明の分離材は共重合体が担体に結合してなる分離材であって、前記共重合体が上記
式(1)で表される単量体に由来する構造単位、及び、上記式(2)で表される単量体に
由来する構造単位を含み、前記共重合体の数平均分子量が10,000以上1,000,
000以下である。
前記共重合体は上記式(1)で表される単量体に由来する構造単位を、構造単位全体の
35mol%以上65mol%以下の範囲で含むことが好ましい。
【0015】
〔共重合体〕
本発明の共重合体は、上記式(1)で表される単量体に由来する構造単位、及び、上記
式(2)で表される単量体に由来する構造単位を含む。
上記式(1)で表される単量体は、重合反応性が良好、共重合性が良好、重合完結度が
良好、後処理・後反応のバリエーションが豊富、また、工業的に入手が容易である。この
ような観点から、本発明の共重合体は上記式(1)で表される単量体に由来する構造単位
を含む。
【0016】
上記式(1)中、Rは-NR-R-R又は-O-R-Rを表す。Rは水
素原子又は炭素数1以上4以下のアルキル基を表す。Rは水素原子又は炭素数1以上4
以下のアルキル基を表す。Rは脂肪族環を含む炭素数3以上6以下のアルキレン基、又
は、炭素数1以上6以下の直鎖もしくは分岐のアルキレン基を表す。Rは-SOMを
表す。Mは水素原子、Na又はKを表す。
【0017】
上記式(1)で表される単量体としては、例えば、2-アクリルアミド-2-メチルプ
ロパンスルホン酸、アクリル酸-3-スルホプロピル酸、メタクリル酸-3-スルホプロ
ピル酸、及び、その塩が挙げられる。
これらの中では、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸が好ましい。
上記式(1)で表される単量体に由来する構造単位は、1種を単独で含んでもよく、2
種以上を含んでもよい。
【0018】
上記式(2)で表される単量体は、重合反応性が良好、共重合性が良好、重合完結度が
良好、後処理・後反応のバリエーションが豊富、また、工業的に入手が容易である。この
ような観点から、本発明の共重合体は上記式(2)で表される単量体に由来する構造単位
を含む。
上記式(2)中、Rは-NR-R又は-O-Rを表す。Rは水素原子又は炭
素数1以上4以下のアルキル基を表す。Rは水素原子又は炭素数1以上4以下のアルキ
ル基を表す。Rは炭素数1以上4以下の直鎖もしくは分岐のアルキル基、アルコキシメ
チル基又はヒドロキシアルキル基を表す。
【0019】
上記式(2)で表される単量体としてはN-メチル(メタ)アクリルアミド、N-エチ
ル(メタ)アクリルアミド等のアルキル(メタ)アクリルアミド類;N-ヒドロキシメチ
ルアクリルアミド、N-ヒドロキシエチルアクリルアミド等のヒドロキシアルキル(メタ
)アクリルアミド類;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル等の(メタ
)アクリル酸アルキル類;(メタ)アクリル酸ヒドロキシメチル、(メタ)アクリル酸ヒ
ドロキシエチル等の(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキル類が挙げられる。
これらの中では、N-ヒドロキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-ヒドロキシエチ
ル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸ヒドロキシメチル、(メタ)アクリル酸
ヒドロキシエチルが好ましく、N-ヒドロキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-ヒド
ロキシエチル(メタ)アクリルアミドがより好ましく、N-ヒドロキシエチルアクリルア
ミドが更に好ましい。
上記式(2)で表される単量体に由来する構造単位は、1種を単独で含んでもよく、2
種以上を含んでもよい。
【0020】
本発明の共重合体は、上記式(1)で表される単量体に由来する構造単位、及び、上記
式(2)で表される単量体に由来する構造単位以外に、他の単量体に由来する構造単位を
含んでもよい。他の単量体としては、例えば、スチレン等の芳香族ビニル単量体、(メタ
)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸が挙げられる。
【0021】
本発明の共重合体は、上記式(1)で表される単量体に由来する構造単位を、構造単位
全体の35mol%以上65mol%以下の範囲で含むことが好ましく、42mol%以
上58mol%以下の範囲で含むことがより好ましい。
【0022】
他の単量体に由来する構造単位は、構造単位全体の5mol%以下、含むことができる
【0023】
本発明の共重合体の数平均分子量は10,000以上1,000,000以下であり、
50,000以上120,000以下がより好ましい。
数平均分子量が上記範囲内であれば、抗体の分離に用いたときの分離度が高い。
【0024】
〔担体〕
本発明の担体は、上記式(3)で表される単量体に由来する構造単位、及び、上記式(
4)で表される単量体に由来する構造単位を含む。
【0025】
上記式(3)中、R11は水素原子又は炭素数1以上4以下のアルキル基を表す。R
は-O-R12-R13を表す。R12は脂肪族環を含む炭素数1以上6以下の直鎖も
しくは分岐のアルキレン基、又は、炭素数1以上6以下の直鎖もくしは分岐のアルキレン
基を表す。R13はアルキル基、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アミノ基、グリシジル基
又はエポキシ基を表す。
【0026】
上記式(3)で表される単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ
)アクリル酸エチル、2-ヒドロキシメチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチ
ル(メタ)アクリレート、2-アミノエチル(メタ)アクリレート、2-(ジメチルアミ
ノ)メチル(メタ)アクリレート、2-(ジメチルアミノ)エチル(メタ)アクリレート
、グリシジル(メタ)アクリレート、4,5-エポキシブチル(メタ)アクリレート、9
,10-エポキシステアリル(メタ)アクリレートが挙げられる。
上記式(3)で表される単量体に由来する構造単位は、1種を単独で含んでもよく、2
種以上を含んでもよい。
【0027】
上記式(4)中、R14は炭素数1以上6以下の直鎖もしくは分岐のアルキレン基を表
す。R15は水素原子又は炭素数1以上4以下のアルキル基を表す。
【0028】
上記(4)で表される単量体としては、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリ
レート、1,3-プロパンジオールジ(メタ)アクリレート、テトラメチレングルコール
ジ(メタ)アクリレートが挙げられる。
上記式(4)で表される単量体に由来する構造単位は、1種を単独で含んでもよく、2
種以上を含んでもよい。
【0029】
〔分離材〕
本発明の分離材は共重合体が担体に結合してなるものであって、共重合体と担体の結合
方法は、予め作成した共重合体を担体と結合させる、又は、担体と単量体組成物を反応溶
媒に加え、担体の存在下で単量体組成物を重合することで結合させてもよい。
【0030】
本発明の分離材は、担体に結合したイオン交換基の交換容量が2.5×10-2mmo
l/mL-R以上1.2×10-1mmol/mL-R以下が好ましく、3.0×10
mmol/mL-R以上5.0×10-2mmol/mL-R以下がより好ましい。
イオン交換基の交換容量が上記下限以上であれば抗体のピーク形状が潰れにくく、上記
上限以下であれば抗体とその不純物の選択性が増加する。
【0031】
〔分離材の製造方法〕
本発明の分離材の製造方法は、共重合体が担体に結合してなる分離材の製造方法であっ
て、上記担体の存在下で、上記式(1)で表される単量体、上記式(2)で表される単量
体、及び、連鎖移動剤を含み、上記式(1)で表される単量体と上記式(2)で表される
単量体の合計(100mol%)に対して、上記式(1)で表される単量体を35mol
%以上65mol%以下の範囲で含む単量体組成物を重合する、製造方法である。
【0032】
担体については、分離材の項目で説明したものと同様である。
担体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0033】
上記式(1)で表される単量体、及び、上記式(2)で表される単量体については、分
離材の項目で説明したものと同様である。
上記式(1)で表される単量体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用しても
よい。
上記式(2)で表される単量体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用しても
よい。
【0034】
本発明で用いる連鎖移動剤は一般的に用いられているものであればよく、特に限定され
るものではない。
連鎖移動剤は、チオール基を有することが好ましく、例えば、1-ブタンチオール、シ
クロヘキサンチオール、1-デカンチオール、メルカプト酢酸2-エチルヘキシル、メル
カプト酢酸エチル、1-ヘキサンデカンチオール、2-メルカプトエタノール、3-メル
カプト-1,2-プロパンジオール、メルカプト酢酸、2-メルカプトプロパンスルホン
酸Na、3-メルカプトプロピオン酸、メルカプト酢酸メチル、メルカプトコハク酸、α
-チオグリセロール、1-オクタンチオール、チオフェノールが挙げられる。
【0035】
これらの中でも、反応溶媒に水を用いることから、2-メルカプトエタノール、3-メ
ルカプト-1,2-プロパンジオール、メルカプト酢酸、2-メルカプトプロパンスルホ
ン酸Na、3-メルカプトプロピオン酸、メルカプトコハク酸、α-チオグリセロールが
好ましい。
連鎖移動剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0036】
前記単量体組成物中の上記式(1)で表される単量体の含有率は、上記式(1)で表さ
れる単量体と上記式(2)で表される単量体の合計(100mol%)に対して、35m
ol%以上65mol%以下であり、42mol%以上58mol%以下が好ましい。
前記単量体組成物中の連鎖移動剤の含有率は、上記式(1)で表される単量体と上記式
(2)で表される単量体の合計(100mol%)に対して、0.4mol%以上2.0
mol%以下が好ましく、0.4mol%以上1.0mol%以下がより好ましい。上記
範囲内であれば、抗体の分離に用いたときの分離度が高い。
【0037】
〔抗体製造方法〕
本発明の抗体製造方法は、本発明の分離材を用いる精製工程を含むものであればよく、
一般的は抗体精製方法に準ずるものである。
【0038】
〔標的分子の分離方法〕
本発明の標的分子の分離方法は、以下の工程(a)及び(b)を含むことを特徴とする

工程(a):標的分子を含む溶液を本発明の分離材に接触させ、標的分子を分離材に吸着
させる工程、
工程(b):工程(a)で処理した分離材から標的分子を溶離する工程。
【0039】
標的分子は、モノクローナル抗体又はポリクローナル抗体、あるいはこれらの化学変性
物であることが好ましい。
【0040】
〔クロマトグラフィー用カラム〕
本発明のクロマトグラフィー用カラムは、本発明の分離材を充填材として含み、少なく
とも1つの容器を備えるものであればよく、特に限定されるものではない。
【実施例0041】
以下、実施例を用いて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を逸脱しな
い限り、以下の実施例の記載に限定されるものではない。
なお、以下の記載において、「部」及び「%」は、特記あるものを除き、それぞれ「質
量部」及び「質量%」を示す。
【0042】
[評価・評価方法]
【0043】
<共重合体の数平均分子量(Mn)の測定>
(1)使用機器及び試薬
デキストラン:富士フイルム和光純薬
LCシステム:Shimadzu CBM-20A
移動相:酢酸バッファーpH5.0
カラム:TSKgel G4000PWXL
【0044】
(2)測定方法
カラムをLCシステムに接続し移動相で平衡化した。実施例の重合反応溶液を濾過して
分離材を取り除いた後、反応溶液を希釈して2.5mg/mLとした。
このサンプルをカラムへアプライし、ゲル濾過クロマトグラフィーを行なった。その後
、異なる分子量をもつデキストランから作成した検量線を用いて、共重合体の数平均分子
量(Mn)を算出した。
【0045】
<交換容量の測定>
分離材を含むスラリー水溶液を10mLメスシリンダーに入れ、タップしながら分離材
を沈降させ、分離材5.0mLを量り取った。この分離材を濾別し、カラムに入れて1M
塩酸100mLを流して再生し、水で十分水洗し、流出水のpHが中性になったことを確
認した。
得られた分離材を濾別し、それを5%塩化ナトリウム水溶液50mLと混合し、遊離し
た酸を滴定し、滴定値を分離材体積で割って、分離材1mLあたりの交換容量とした。
【0046】
<不純物を含むモノクローナル抗体の調整方法>
(1)使用機器及び試薬
LCシステム:ACTA avant 150
Aバッファー:酢酸バッファーpH3.0
Bバッファー:0.1M NaOH
Cバッファー:PBSバッファー
カラム:Mabspeed rP202
【0047】
(2)調整方法
カラムをLCシステムに接続し、Cバッファーで平衡化した。続いてmAb生産CHO
細胞上清PrAアフィニティ精製した抗体培養液をアプライした。アプライ終了後、Aバ
ッファーを0容量%から100容量%まで増加させて通液し、最後にBバッファーを通液
することで生成したモノクローナル抗体溶液を得た。流速はすべて4.0mL/minで
実施した。
このモノクローナル抗体溶液を5倍希釈し、1M塩酸でpH=2.5に調整後、90分
静置した。その後、1M Tris水溶液でpH=5.0とし、10%の不純物を含むモ
ノクローナル抗体溶液を調整した。
【0048】
<不純物を含むモノクローナル抗体の分取>
(1)使用機器及び試薬
LCシステム:ACTA avant 150
Aバッファー:酢酸バッファーpH5.0
Bバッファー:酢酸バッファーpH5.0、0.5mol/LのNaCl
カラム:直径7mm、長さ26mm
【0049】
(2)分取方法
分離材を充填したカラムをLCシステムに接続し、Aバッファーで平衡化した。10%
の不純物を含むモノクローナル抗体溶液 13.5mLをカラムへアプライした。アプラ
イ終了後、Aバッファーをカラムへ通液させた。Bバッファーの割合を0容量%から10
0容量%まで増加させ、吸着したモノクローナル抗体を溶出させ、1mL間隔で分取した
。流速はすべて1.0mL/minで実施した。
【0050】
<分離度の算出方法>
(1)使用機器及び試薬
LCシステム:Shimadzu CBM-20A
バッファー:PBSバッファーpH6.7
カラム:TSKgel SuperSW mAb HR(7.8mmI.D.×30c
m)
【0051】
(2)モノクローナル抗体溶液の分析
カラムをLCシステムに接続し、PBSバッファーで平衡化した。分取したモノクロー
ナル抗体溶液を10μLアプライし、流速0.8mL/minで分析を行なった。これを
分取したサンプル数の分、繰り返し行なった。
【0052】
(3)分離度(Rs)の計算方法
(2)の分析によってモノクローナル抗体及び不純物のピークが得られた。各ピークの
面積値を分取時間でプロットしクロマトグラムを描画した。
モノクローナル抗体のピークトップとなる時間をt(min)、ピークの半値幅をW
0.5h1、不純物のピークトップをt(min)、ピークの半値幅をW0.5h2
して、以下の式よりRsを算出した。
Rs=1.18×(t-t)/(W0.5h1+W0.5h2
【0053】
[担体の製造]
<製造例1>
ポリビニルアルコール(日本合成化学製)を溶解し2%とした水1000部中に、グリ
シジルメタクリレート(富士フイルム和光純薬製)40部、エチレングリコールジメタク
リレート(富士フイルム和光純薬製)60部、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバ
レロニトリル) (富士フイルム和光純薬製)1.3部、及び、4-メチル-2-ペンタ
ノン(富士フイルム和光純薬製)225部の混合物を室温下で加え、窒素流通雰囲気で攪
拌して懸濁状態とした。
このとき、攪拌速度を調整して液滴の平均直径が30μmになるようにした。
この懸濁液を70℃に昇温し、窒素流通雰囲気で3時間反応させた。冷却後、得られた
架橋高分子からなる多孔性粒子を水洗後、メタノール洗浄し、乾燥、分級して目的とする
担体を得た。
【0054】
[実施例1]
<分離材の製造>
上記製造例1で得られた担体100部、式(1)で表される単量体として、2-アクリ
ルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸(新菱製)166部(40mol%)、式(2
)で表される単量体として、N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド(東京化成製
)138部(60mol%)、連鎖移動剤として、3-メルカプト-1-プロパンスルホ
ン酸Na(富士フイルム和光純薬製)2部(0.5mol%)、水883部、及び、重合
開始剤として、2,2’-アゾビス[N-(2-カルボキシエチル)-2-メチルプロピ
オンアミジン]n水和物(富士フイルム和光純薬製)3部を混合し、溶解させた。この反
応液を50℃で5時間反応させた。
その後、47%硫酸(富士フイルム和光純薬製)180部を加え、50℃で6時間反応
させた。その後降温して粒子を濾過、水洗し分離材を得た。
ここで2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、N-(2-ヒドロキシエ
チル)アクリルアミドの比率(モル比)は40:60であった。
実施例1の分離材について、モノクローナル抗体とその凝集体を含んだサンプルを使用
し分離性能評価を行なった。
評価結果を表1に示す。
【0055】
[実施例2~4]
2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、N-(2-ヒドロキシエチル)
アクリルアミド、3-メルカプト-1-プロパンスルホン酸Na、及び、2,2’-アゾ
ビス[N-(2-カルボキシエチル)-2-メチルプロピオンアミジン]n水和物の配合
量を表2の通り変更したこと以外は、実施例1と同様にして分離材を得て、同様に分離性
能評価を行なった。
【0056】
[比較例1]
<共重合体の合成>
2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸 70部、N-(2-ヒドロキシ
エチル)アクリルアミド 50部、水460部、及び、重合開始剤として2,2-アゾビ
ス(2-メチルプロピオンアミジン)ジヒドロクロリド 1部を混合し、70℃で重合を
行ない、共重合体の水溶液を得た。
ここで、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸とN-(2-ヒドロキシ
エチル)アクリルアミドとの比率(モル比)は44:56であった。
【0057】
<共重合体の固定化>
担体5部、水20部、上記共重合体の水溶液25部、47%硫酸10部を加えて混合し
、50℃で6時間反応させた。その後降温して粒子を濾過、水洗し分離材を得た。
【0058】
【表1】
【0059】
【表2】
【0060】
表1より、本発明の範囲内となる実施例1~4の分離材は、モノクローナル抗体及びそ
の不純物の分離性が優れることがわかった。これより、本発明の分離材は、様々なタンパ
ク質とその不純物の分離性が優れることが期待される。
また本発明の範囲外となる比較例1の分離材は、担体に結合する共重合体の数平均分子
量が1,000,000を超えるため、モノクローナル抗体及びその不純物の分離性が劣
ることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明の分離材は特に抗体に対する高い選択率で分離・吸着性能を示しており、医薬・
診断分野における実用上の価値は高い。