(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024178768
(43)【公開日】2024-12-25
(54)【発明の名称】基板保持装置、及び成膜装置
(51)【国際特許分類】
C23C 14/50 20060101AFI20241218BHJP
H01L 21/683 20060101ALI20241218BHJP
【FI】
C23C14/50 A
H01L21/68 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023097158
(22)【出願日】2023-06-13
(71)【出願人】
【識別番号】591065413
【氏名又は名称】キヤノントッキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】河合 慈
(72)【発明者】
【氏名】滝沢 毅
【テーマコード(参考)】
4K029
5F131
【Fターム(参考)】
4K029AA09
4K029AA24
4K029BA62
4K029BD01
4K029CA01
4K029DA03
4K029DB06
4K029EA08
4K029HA01
4K029JA01
4K029JA06
4K029KA01
4K029KA09
5F131AA03
5F131AA10
5F131AA33
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5F131CA05
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5F131JA16
5F131JA20
5F131JA26
5F131KA23
(57)【要約】
【課題】成膜装置において安定して温度制御を行うことができる技術を提供する。
【解決手段】基板に成膜を行う成膜装置に用いられる基板保持装置であって、基板を吸着する静電チャックC1と、前記静電チャックの温度調整を行うための温調媒体が内部を流れる温調管TPと、を備え、静電チャックC1は、温調管TPの少なくとも一部が静電チャックC1の内部に埋没されるように温調管TPが設置される温調管設置部253を有する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板に成膜を行う成膜装置に用いられる基板保持装置であって、
基板を吸着する静電チャックと、
前記静電チャックの温度調整を行うための温調媒体が内部を流れる温調管と、
を備え、
前記静電チャックは、前記温調管の少なくとも一部が前記静電チャックの内部に埋没されるように前記温調管が設置される温調管設置部を有することを特徴とする基板保持装置。
【請求項2】
前記静電チャックは、基材と、前記基材に埋め込まれた電極と、を有し、
前記温調管設置部は、前記基材に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の基板保持装置。
【請求項3】
前記温調管設置部は、前記静電チャックの基板を吸着する吸着面と反対側の面上に形成されている凹部であることを特徴とする請求項2に記載の基板保持装置。
【請求項4】
前記温調管設置部は、前記静電チャックの内部に形成されている中空部であることを特徴とする請求項2に記載の基板保持装置。
【請求項5】
前記温調管の熱伝導率は、前記基材の熱伝導率より高いことを特徴とする請求項2に記載の基板保持装置。
【請求項6】
前記温調管と前記温調管設置部との間には、熱伝導材が充填されていることを特徴とする請求項1に記載の基板保持装置。
【請求項7】
基板に成膜を行う成膜装置に用いられる基板保持装置であって、
基板を吸着する静電チャックと、
前記静電チャックの温度調整を行うための温調媒体が内部を流れる温調管と、
前記静電チャックの基板を吸着する吸着面と反対側の面に固定され、前記温調管の少なくとも一部が内部に埋没される温調管設置部材と、
を備えることを特徴とする基板保持装置。
【請求項8】
前記静電チャックと前記温調管設置部材との間に設けられる熱伝導シートを備えることを特徴とする請求項7に記載の基板保持装置。
【請求項9】
前記温調管は、複数の固定ネジによって前記静電チャックに固定されていることを特徴とする請求項7に記載の基板保持装置。
【請求項10】
前記温調管は、前記温調管設置部材の表面に形成されている凹部に設置されることを特徴とする請求項7に記載の基板保持装置。
【請求項11】
前記温調管は、前記温調管設置部材の内部に形成されている中空部に設置されることを特徴とする請求項7に記載の基板保持装置。
【請求項12】
前記温調管と前記温調管設置部材との間には、熱伝導材が充填されていることを特徴とする請求項7に記載の基板保持装置。
【請求項13】
前記熱伝導材は、接着剤又はグリスであることを特徴とする請求項6又は12に記載の基板保持装置。
【請求項14】
前記温調媒体は、冷却液であることを特徴とする請求項1又は7に記載の基板保持装置。
【請求項15】
前記温調管に前記温調媒体を循環させる循環機構を備えることを特徴とする請求項1又は7に記載の基板保持装置。
【請求項16】
前記温調管に流す前記温調媒体の温度及び循環速度の少なくとも一方を調整する媒体調整手段を備えることを特徴とする請求項15に記載の基板保持装置。
【請求項17】
前記静電チャックに吸着された基板に向かってマスクを引き付ける磁力を発生させる磁力発生手段を備え、
前記温調管は、非磁性体であることを特徴とする請求項1又は7に記載の基板保持装置。
【請求項18】
前記静電チャックの温度を制御するためのペルチェ素子を備えた温調部材を備えることを特徴とする請求項1又は7に記載の基板保持装置。
【請求項19】
チャンバと、
前記チャンバ内に設けられる蒸発源と、
請求項1~12のいずれか1項に記載の基板保持装置と、
前記基板保持装置の前記静電チャックに吸着された基板の被成膜面に接合されるマスクと、
を備えることを特徴とする成膜装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜装置に用いられる基板保持装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、モニタ、テレビ、スマートフォンなどの表示画面として、有機EL表示装置などのフラットパネル表示装置が用いられている。有機EL表示装置のパネルは、2つの向かい合う電極(カソード電極、アノード電極)の間に発光を起こす有機物層が形成された構造を持つ。成膜装置を用いて有機EL表示パネルを形成する際は、成膜装置のチャンバに配置された基板ホルダによって基板の周縁部を保持し、チャンバ下部に設けられた蒸発源を加熱して金属又は有機物の蒸着材料を放出し、マスクを介して基板の下面に蒸着させる。
【0003】
ここで、周縁部を保持される基板は、その中央部が自重により撓みを生じることがある。基板サイズの大型化が進むと、上記中央部の撓みもより大きくなり、蒸着精度に対する影響も大きくなる。そのような基板の撓みを軽減するための手法として、特許文献1では、静電チャック(ESC:Electrostatic chuck)を用いて基板を保持する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
成膜室内において蒸発源は非常に高温であり、成膜室内の他の部材と蒸発源との間には大きな温度差がある。そのため、静電チャックや基板、マスクの温度を制御することが困難であり、これらには、熱膨張による変形、サイズ変化が生じることがある。このサイズ変化の影響により、アライメント精度の低下や、膜質の低下が生じる可能性がある。
【0006】
本発明は、成膜装置において安定して温度制御を行うことができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の基板保持装置は、
基板に成膜を行う成膜装置に用いられる基板保持装置であって、
基板を吸着する静電チャックと、
前記静電チャックの温度調整を行うための温調媒体が内部を流れる温調管と、
を備え、
前記静電チャックは、前記温調管の少なくとも一部が前記静電チャックの内部に埋没されるように前記温調管が設置される温調管設置部を有することを特徴とする。
また、上記課題を解決するために、本発明の基板保持装置は、
基板に成膜を行う成膜装置に用いられる基板保持装置であって、
基板を吸着する静電チャックと、
前記静電チャックの温度調整を行うための温調媒体が内部を流れる温調管と、
前記静電チャックの基板を吸着する吸着面と反対側の面に固定され、前記温調管の少なくとも一部が内部に埋没される温調管設置部材と、
を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、成膜装置において安定して温度制御を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】成膜装置の構成を示す模式的な平面図である。
【
図3】有機EL表示装置の製造ラインの一例を示す模式図である。
【
図4】本発明の実施例1に係る温調機構の構成を説明する模式的断面図である。
【
図5】比較例に係る温調機構の構成を説明する模式的断面図である。
【
図6】有機EL製造ラインにおける温調制御の一例を示す模式図である。
【
図7】本発明の実施例2に係る温調機構の構成を説明する模式的断面図である。
【
図8】本発明の実施例3に係る温調機構の構成を説明する模式的断面図である。
【
図9】電子デバイスの製造方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の実施形態について詳細に説明する。ただし、以下の実施形態は本発明の好ましい構成を例示的に示すものにすぎず、本発明の範囲をそれらの構成に限定されない。また、以下の説明における、装置のハードウェア構成及びソフトウェア構成、処理フロー、製造条件、寸法、材質、形状、その相対配置などは、特に特定的な記載がない限りは、本発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0011】
本発明は、基板等の成膜対象物の表面に蒸着やスパッタリングにより成膜材料の薄膜を形成する成膜装置に好適である。本発明は、温調機構、基板保持装置及び成膜装置、ならびに、これらの装置を用いた温調方法又は制御方法として捉えられる。本発明はまた、電子デバイスの製造装置やその制御方法、電子デバイスの製造方法としても捉えられる。本発明はまた、温調方法や制御方法をコンピュータに実行させるプログラムや、当該プログラムを格納した記憶媒体としても捉えられる。記憶媒体は、コンピュータにより読み取り可能な非一時的な記憶媒体であってもよい。
【0012】
本発明における基板の材料としては、ガラス、樹脂、金属、シリコンなど任意のものを利用できる。成膜材料としては、有機材料、無機材料(金属、金属酸化物)など任意のものを利用できる。以下の説明における「基板」とは、基板材料の表面に既に1つ以上の成膜が行われたものを含む。本発明の技術は、典型的には、電子デバイスや光学部材の製造装置に適用される。特に、有機EL素子を備える有機ELディスプレイ、それを用いた有機EL表示装置などの有機電子デバイスに好適である。本発明はまた、薄膜太陽電池、有機CMOSイメージセンサにも利用できる。
【0013】
<実施形態>
(装置構成)
図1は、成膜装置1の構成を模式的に示す平面図である。ここでは、有機ELディスプレイの製造ラインについて説明する。有機ELディスプレイを製造する場合、製造ラインに所定のサイズの基板を搬入し、有機ELや金属層の成膜を行った後、基板のカットなどの後処理工程を実施する。
【0014】
成膜装置1は、中央に配置される搬送室130と、搬送室130の周囲に配置される複数の成膜室110(110a~110d)及びマスクストック室120(120a、120b)を含む。成膜室110は、基板Sに対する成膜処理が行われるチャンバを備える。マスクストック室120は使用前後のマスクを収納する。搬送室130内に設置された搬送ロボット140は、基板SやマスクMを搬送室130に搬入及び搬出する。搬送ロボッ
ト140は、例えば、多関節アームに基板SやマスクMを保持するロボットハンドが取り付けられたロボットである。
【0015】
パス室150は、基板搬送方向において上流側から流れてくる基板Sを搬送室130に搬送する。バッファ室160は、搬送室130での成膜処理が完了した基板Sを下流側の他の成膜クラスタに搬送する。搬送ロボット140は、パス室150から基板Sを受け取ると、複数の成膜室110のうちの一つに搬送する。搬送ロボット140はまた、成膜処理が完了した基板Sを成膜室110から受け取り、バッファ室160に搬送する。
【0016】
図1に示す成膜装置1は、1つの成膜クラスタを構成しており、上流側や下流側に別の成膜クラスタを接続することができる。パス室150のさらに上流側や、バッファ室160のさらに下流側には、基板Sの方向を変える旋回室170が設けられる。成膜室110、マスクストック室120、搬送室130、バッファ室160、旋回室170などの各チャンバは、製造過程で高真空状態に維持される。
【0017】
成膜装置1の複数の成膜室110a~110dにおける成膜材料は、同じであってもよく、異なっていてもよい。例えば、成膜室110a~110dそれぞれに異なる成膜材料の成膜源を配置し、基板Sが成膜室110a~110dを順に移動しながら積層構造を形成されるようにしてもよい。また、成膜室110a~110dに同じ成膜材料の成膜源を配置することで、複数の基板Sに並行して成膜を行ってもよい。また、成膜室110aと110cに第1の成膜材料を、成膜室110bと110dに第2の成膜材料を配置しておき、成膜室110a又は110cで第1の層を成膜したのち、成膜室110b又は110で第2の層を成膜するように制御してもよい。
【0018】
静電チャックの種類によっては、基板に導電体が付着している場合に基板の吸着力を高めることができる。そのような場合、基板のうち有機EL素子が形成される領域(典型的には基板の中央部)に、電極層となる金属材料の薄膜が既に形成されているときに効果的に吸着できる。例えば、成膜室110aで電極層が成膜された基板上に、成膜室110b~110dで有機層が順次成膜される場合、成膜室110b~110dに静電チャックを配置すると効果的である。
【0019】
(成膜室)
図2は、成膜室110の内部構成を示す断面図である。成膜室110では、一連の成膜プロセスが行われる。一連の成膜プロセスとは例えば、搬送ロボット140からの基板SやマスクMの受け取り、搬送ロボット140への基板SやマスクMの受け渡し、基板SとマスクMの相対的な位置関係を調整するアライメント、マスクMへの基板Sの固定、成膜である。以下の説明においては、鉛直方向をZ方向とするXYZ直交座標系を用い、Z軸まわりの回転をθで表す。
【0020】
成膜室110は、チャンバ200を有する。チャンバ200の内部は、成膜の間、真空雰囲気、又は、窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気に維持される。チャンバ200の内部には、静電チャックC、マグネット板MP、温調部材TM、温調管TP、基板支持部210、マスク台221、蒸発源240(成膜源)などが設けられる。
【0021】
マスクMは、基板上に形成される薄膜パターンに対応する開口パターンを持つ。マスクMとして例えば、パターンが形成された金属箔の周囲をフレームで支持するメタルマスクを利用できる。マスクMは、マスク台221の上に設置されている。本実施例の構成では、マスクM上に基板Sが位置決めされて載置されたのち、成膜が行われる。
【0022】
基板支持部210は、成膜室内部に搬送されてきた基板Sを受け取るための、複数の受
け爪状の支持具210aを有する。静電チャックCは、成膜室内部における基板保持手段であり、基板支持部210に支持された基板Sを静電気力により吸着保持する。静電チャックCは、基板Sの、マスクMと接触する面(被成膜面)とは反対側の面に当接する。
【0023】
静電チャックCは、セラミック等で構成された板状の基材に、金属電極などの電気回路が埋設された構造を有する。一般に静電チャックには、基板を吸着する原理に応じて、グラディエント力タイプ、クーロン力タイプ、ジョンソン・ラーベック力タイプなどの種類があるが、いずれにおいても印加する吸着電圧を高めるほど吸着力を高くすることができる。
【0024】
なお、基板支持部210は、支持具210aに対応する押圧具を有していてもよい。支持具210aと押圧具が基板Sの端部を挟持することで、静電チャックCに加えて基板支持部210でも基板Sを保持できるので、基板Sがより安定する。
【0025】
マグネット板MPは、マスクMを引きつけ基板Sの被成膜面に密着、吸着させるために設けられている。静電チャックCに吸着され相対的位置が調整(アライメント)された基板SをマスクMの上面に載置した(基板Sの被成膜面をマスクMに接合した)状態で、マグネット板MPを静電チャックCの上方から下降させて静電チャックCの上面に当接させる。このとき、マグネット板MPと静電チャックCとの間に伝熱部材を設けて、伝熱部材を介してマグネット板MPを静電チャックCの上面に当接させてもよい。マグネット板MPは、静電チャックC及び基板Sを挟んでマスクMに磁力を印加する(磁気吸引力を作用させて上方(基板S側)に引き付ける)ことにより、マスクMを基板Sに密着させる。
【0026】
本実施例に係る成膜装置1は、温調機構(温度制御手段)として、成膜時の基板Sの温度上昇を抑えて有機材料の変質や劣化を防ぐための温調ユニットTを備える。温調ユニットTは、一例として、温調部材TM、温調管TPなどから構成されるが、具体構成については後述する。
【0027】
蒸発源240は、蒸着材料を収容するルツボ等の容器、ヒータ、シャッタ、駆動機構、蒸発レートモニタなどを含む成膜手段である。なお、成膜源は蒸発源には限られず、スパッタリング装置を用いてもよい。
【0028】
チャンバ200の外側上部には、アライメントステージ280、静電チャック昇降機構291、マグネット板昇降機構292などが設けられる。アライメントステージ280は、静電チャックC及びマグネット板MPを水平方向(XYθ方向)に移動させるための機構である。静電チャック昇降機構291は、静電チャックCをZ軸方向に昇降させるための機構である。マグネット板昇降機構292は、マグネット板MPをZ軸方向に昇降させるための機構である。これらにより、基板Sの被成膜面に沿った平面に交差する方向における、静電チャックCの基板Sに対する位置調整(相対距離の調整)、マグネット板MPのマスクMに対する位置調整が可能となる。
【0029】
アライメントステージ280は、後述する制御部270から送信される制御信号に従ったモータ281の駆動により静電チャックCを移動させることで、静電チャックCで吸着保持する基板SをX方向及びY方向に移動させ、θ方向に回転させる。なお、アライメントステージ280の駆動機構としては、例えばUVW方式のアクチュエータ等の既知の構成を用いることができる。
【0030】
静電チャック昇降機構291は、静電チャック昇降駆動用のモータ(不図示)や、静電チャック昇降駆動用のアクチュエータ(不図示)などを備え、静電チャックCをZ軸方向に昇降させる。マグネット板昇降機構292は、マグネット板昇降駆動用のモータ(不図
示)や、マグネット板昇降駆動用のアクチュエータ(不図示)などを備え、マグネット板MPをZ軸方向に昇降させる。アクチュエータは、モータの駆動力を受けて、静電チャックCを支持するシャフトを昇降可能に構成されている。アクチュエータの具体例としては、例えば、リニアガイドや、ボールねじなどが挙げられる。
【0031】
静電チャック昇降機構291及びマグネット板昇降機構292は、アライメントステージ280に搭載されている。したがって、アライメントステージ280が水平方向(XYθ方向)に移動することで、静電チャック昇降機構291及びマグネット板昇降機構292も(したがって、静電チャックCとマグネット板MPも)水平方向(XYθ方向)に移動する。その結果、例えば、基板Sと静電チャックCとの間に位置ずれが生じたような場合にも、これらの間の相対位置を調整することができる。同様に、例えば、マスクMとマグネット板MPとの間に位置ずれが生じたような場合にも、これらの間の相対位置を調整することができる。
【0032】
また、本実施例では、基板支持部210及びマスク台221は、チャンバ200に対して、水平方向(XYθ方向)には固定されているが、鉛直方向(Z軸方向)には昇降可能に構成されている。基板支持部210及びマスク台221を鉛直方向に昇降させるための昇降機構は、チャンバ200の外部上面上にアライメントステージと分離、独立されるように設けられている。
【0033】
基板支持部210及びマスク台221の昇降機構(不図示)は、チャンバ200の外部上面に固定された、ベース板282とは別のベース板(不図示)に設置されており、アライメントステージ280とは分離、独立されている。したがって、アライメントステージ280が水平(XYθ)方向に移動しても、基板支持部210及びマスク台221は水平(XYθ)方向には移動しない。
【0034】
なお、本実施例では、(静電チャックCの位置を調整することで)基板Sの位置を調整する構成としたが、基板SとマスクMを相対的に位置合わせできるのであれば、マスクMの位置を調整する構成や、基板SとマスクMの両方を調整する構成でもよい。
【0035】
静電チャックCが基板支持部210に支持された基板Sを保持する際には、まず静電チャック昇降機構291が静電チャックCを下降させ、静電チャックCを基板Sに当接又は十分に接近させる。そして、制御部270が電源290を制御して、静電チャックCに埋設された電極に所定の吸着電圧を印加する。これにより静電チャックCにより基板Sが保持される。
【0036】
続いてアライメントの際には、静電チャック昇降機構291が静電チャックCをさらに下降させて、基板SをマスクMに接近させる。そして、アライメントステージ280がアライメントを行う。
【0037】
ここで、本実施例における静電チャックCは、本発明の基板保持装置を構成する要素となる。本発明の基板保持装置を構成する要素には、電源290や制御部270、静電チャック昇降機構291などが含まれる場合がある。後述する種々の形態の温調ユニットTあるいは温調ユニットTの構成要素は、本発明における温度制御手段等として、本発明の基板保持装置や成膜装置を構成する要素に含まれる。
【0038】
続いて成膜の際には、蒸発源240が成膜材料を放出する。成膜が完了すると、マグネット板昇降機構292がマグネット板MPを上昇させるとともに、静電チャック昇降機構291が静電チャックCを上昇させて、成膜済みの基板Sを搬送ロボット140に受け渡す。そして、静電チャックCへの印加電圧を所定の剥離電圧(例えば0V)とすることで
、基板Sの保持を解除する。
【0039】
チャンバ200の外側上部には、光学撮像を行って画像データを生成するカメラ262が設けられている。カメラ262は、チャンバ200に設けられた真空用の封止窓を通して撮像を行う。本実施例では基板Sの四隅に対応する複数のカメラ262が設けられている。それぞれのカメラ262は、撮像範囲に、基板Sの隅部に設けられた基板アライメントマークと、マスクMの隅部に設けられたマスクアライメントマークが含まれるように配置される。
【0040】
アライメント時には、カメラ262は、基板S及びマスクMを撮像して画像データを制御部270に出力する。制御部270は撮像画像データを解析し、パターンマッチング処理などの手法により、基板アライメントマークとマスクアライメントマークの位置情報を取得する。そして、基板アライメントマークとマスクアライメントマークの位置ずれ量に基づき、基板Sを移動させるXY方向、移動距離、回転角度θを算出する。そして、算出された移動量を、アライメントステージ280の各アクチュエータが備えるステッピングモータやサーボモータ等の駆動量に変換し、制御信号を生成する。なお、低解像だが広視野のラフアライメント用のカメラと、狭視野だが高解像のファインアライメント用のカメラを用いて、二段階アライメントを行ってもよい。
【0041】
制御部270は、不図示の制御線や無線通信を介して成膜装置1の各構成要素との間で通信を行い、各構成要素からデータを受信したり、各構成要素に信号を送って動作を制御したりする、情報処理装置である。制御部270は、例えば、プロセッサ、メモリ、ストレージ、I/Oなどを有するコンピュータにより構成可能である。この場合、制御部270の機能は、メモリ又はストレージに記憶されたプログラムをプロセッサが実行することにより実現される。コンピュータとしては、汎用のパーソナルコンピュータを用いてもよいし、組込型のコンピュータ又はPLC(programmable logic controller)を用いてもよい。あるいは、制御部270の機能の一部又は全部をASICやFPGAのような回路で構成してもよい。なお、成膜室ごとに制御部270が設けられていてもよいし、1つの制御部270が複数の成膜室を制御してもよい。
【0042】
電源290は、不図示の導電線を介して成膜装置1の各構成要素に電圧を供給することが可能な高圧電源装置である。電源290は、制御部270からの指令に従って印加電圧の極性や大きさを制御する。電源290は、電圧供給手段と言える。静電チャックCの電極に対する印加電圧(吸着電圧)の極性や大きさを制御することで、基板Sに対する吸着力を制御することができる。なお、電源290と制御部270を合わせて、成膜装置1の電源を構成すると考えてもよい。
【0043】
なお、本発明の適用対象は、上述のようなクラスタ型の成膜装置に限定されない。本発明は、複数のチャンバが真空一貫に連結され、基板キャリアに保持された基板がチャンバ間を移動しながら成膜されるようなインライン型の成膜装置にも適用できる。
【0044】
(有機EL表示装置の製造ライン)
図3に、有機EL表示装置の製造ラインの一例を示す。
図3に示す製造ラインは、
図1に示す4つの成膜室110を備えた成膜クラスタ(成膜装置)1が5つ(成膜クラスタ1-1~1~5)、2つの成膜室110を備えた成膜クラスタ1が1つ(成膜クラスタ1-6)、直列的に接続されたラインとなっている。
【0045】
5つの成膜クラスタ1-1~1-5のうち、ライン上流の4つの成膜クラスタ1-1~1-4は、製造ラインにおいて、計8層の有機層を形成する第1の有機蒸着部102を構成し、各成膜クラスタにおいて2層ずつ有機層が基板Sに成膜される。第1の有機蒸着部
102のライン下流の成膜クラスタ1-5は、製造ラインにおける金属蒸着部103を構成し、2層の金属層が基板Sに成膜される。そのライン下流の成膜クラスタ1-6は、製造ラインにける第2の有機蒸着部104を構成し、1層の有機層が基板Sに成膜される。
【0046】
有機EL表示装置の製造ラインにおいて、基板Sは、先ず前処理部101に投入され、必要な前処理工程を施された後、第1の有機蒸着部102、金属蒸着部103、第2の有機蒸着部104を経て、後処理工程に運ばれる。
図3に示す製造ラインにおいては、基板Sは、例えば、図中矢印で示すAルート、もしくはBルートを通り、後工程に流れる。
【0047】
基板Sは、各蒸着部102~104において加熱される。すなわち、基板Sは、製造ラインを通過する過程で繰り返し加熱されることになる。一般的に、蒸着源を蒸発させるためには、有機膜の成膜では450℃近辺まで、金属膜の成膜では1300℃近辺まで蒸着源が加熱される。
【0048】
仮に、上記ラインにおいて、有機蒸着室で0.1℃、金属蒸着室で0.3℃、基板Sが温度上昇すると仮定すると、真空環境下ではほとんど放熱しないため、前処理部101に23℃で投入された基板Sは、11回蒸着されて24.5℃に上昇する。一般的なガラス基板の熱膨張率を3.8×10^-6/m/℃とすると、1mあたり3.8×10^-6×24.5℃=93.1μm伸びることになる。また、有機蒸着室から次の有機蒸着室に移動する際も、3.8×0.1=0.38μm/m伸びることになる。大型サイズに分類されるG8Hサイズのガラス基板では、長辺が2.5mあり、0.1℃の温度変化でも0.38×2.5=0.95μmも伸びることになる。
【0049】
上記のようなサイズ変化が生じてしまうと、例えば、基板SとマスクMとを±2.0μmでアライメントしていたとしても、基板Sの伸びによるズレが生じ、アライメント精度が低下する可能性がある。さらに、アライメント精度の低下により、膜質が低下し、良好な蒸着結果が得られなくなる可能性がある。また、蒸着時の高温によるサイズ変化は、静電チャックCにも生じ得るため、静電チャックCのサイズ変化も重なることで、アライメント精度の低下がより増長される可能性がある。
【0050】
(温調機構)
本実施形態における成膜装置1は、上述した有機EL製造ラインにおける基板Sの伸びの影響を抑制すべく基板Sの温度を制御する手段として、基板Sを貼着する静電チャックCの温度を制御する温調機構(温度調整手段)を備える。静電チャックCを温調することで、蒸着により基板Sに付与される熱を、静電チャックCを介して吸収し、基板Sの温度上昇を抑制する。さらには、次工程に投入される前の基板Sの温度を、次工程において好適な投入温度まで温度を下げてから、基板Sを次工程に流すことができるように制御する。なお、ここでは基板の温度が上昇する例を示しているが、搬送過程で基板の温度が低下していくこともある。その場合には、次工程において好適な投入温度まで温度を上げてから、基板Sを次工程に流すことができるように制御する。基板の温度を一定に保つことに限らず、各チャンバで異なる目標の基板温度に制御してもよい。目的に応じて、温度調整手段は、加熱及び冷却の両方を行うもの、加熱のみを行うもの、並びに、冷却のみを行うものが適宜採用される。
【0051】
以下に、温調機構の具体的構成例として、実施例1、2に係る温調ユニットT1、T2と静電チャックC1、C2を示す。また、本実施形態の効果を説明するため、比較例に係る温調ユニットT0と静電チャックC0を示す。
【0052】
<実施例1>
図4(a)は、本発明の実施例1に係る温調機構の構成を説明する模式的断面図である
。
図4(b)は、静電チャックC1に設置される温調管TPの温調管設置部の詳細を示す模式的断面図である。
【0053】
図4(a)に示すように、本実施例の成膜装置1における温度調整手段は、温調ユニットT1を備える。温調ユニットT1は、温調部材TM、非磁性体金属部材MM、温調管TPなどを備える。温度調整手段を構成する要素としては、温調ユニットT1の他、温度センサTS1、温度センサTS2(
図2参照)、第1の伝熱部材としてのマグネット板MP、第2の伝熱部材としての静電チャックC1などが含まれる。
【0054】
(温調部材TM)
本実施例の温調部材TMは、ペルチェ素子が組み込まれた板状の温調部材である。温調部材TMは、マグネット板MPと一体的に設けられており、マグネット板MPとともに昇降する。具体的には、マグネット板MPのベース板BPの上面(静電チャックC1に対向する側の面とは反対側の面)に接触配置されている。
【0055】
また、本実施例では、温調部材TMを複数分割配置している。すなわち、マグネット板MPのベース板BPの上面に複数の温調部材TMを等間隔に配置している。なお、温調部材TMがベース板BP上面の略全域に渡って接触するように、温調部材TMを一枚の部材で構成してもよい。すなわち、温調部材TMの構成は、
図4(a)に示す構成に限定されない。
【0056】
ここで、ペルチェ素子は、P型半導体、N型半導体を交互に配列した板状の素子である。ペルチェ素子に直流電流を流すと、素子の両面間で熱が移動し、一方の面は発熱して温度が上がり、反対側の他方の面は吸熱して温度が下がる現象が起こる。このペルチェ素子に入力する電流の方向を切り替えることで、加熱・冷却を行うことができる。一般的に、ペルチェ素子は、温調素子の中でも応答が速く、高速でスイッチングが可能なため、高精度な温度制御が可能である。
【0057】
(非磁性体金属部材MM)
本実施例の非磁性体金属部材MMは、静電チャックC1やマグネット板MPよりも熱伝導率が高い伝熱部材である。非磁性体金属部材MMは、マグネット板MPのベース板BPの下面に取り付けられており、静電チャックC1に向かって突出している。非磁性体金属部材MMは、ベース板BPの下面に取り付けられているマグネットMGよりも下方に突出しており、マグネット板MPが下降すると、非磁性体金属部材MMの先端面が静電チャックC1の上面261に接触した状態となる。マグネットMGと静電チャックC1の上面261との間には隙間が形成されるが、マグネットMGの高さは、マスクMの磁力吸引力が十分確保されるように構成される。
【0058】
マグネット板MPが備える複数のマグネットMGは、静電チャックC1の上面261に対してその全域に満遍なく配置されず、偏った配置とされる場合が有り得る。また、温度伝達の観点からは、十分な接触面積を確保できないような配置構成となることもあり得る。すなわち、マグネット板MPにおいて、少なくともマグネットMGは、マスクMの磁力吸引効果の確保を第一として配置される部材である。そこで、マグネットMGとは別に、伝熱性確保を第一とした非磁性体金属部材MMを配置することが温調の観点では好適である。
【0059】
(静電チャックC1)
静電チャックC1は、温調対象である基板Sと接触する部材であり、基板Sの温調の観点からは、基板Sと温調部材TMとの間において熱の伝達を担う伝熱部材と捉えることができる。静電チャックC1は、セラミック等からなる基材250中に正電極251と負電
極252が埋め込まれた構成となっている。正電極251及び負電極252は、電源290に接続されており、制御部270の制御により所望の大きさの電圧を印加され、電圧の大きさに対応する吸着力を発生させて、基板Sを引き付ける。
【0060】
(温調管TP)
本実施例の静電チャックC1は、温調管TPの一部が内部に埋没されるように温調管TPが設置される温調管設置部として凹部253を有する。凹部253は、静電チャックC1の基材250の上面261(静電チャックCの基板Sを吸着する吸着面260とは反対側の面)に複数設けられ、それぞれの凹部253に冷却手段としての温調管TPが設置されている。温調管TPに冷媒としての冷却液が循環することによって、静電チャックC1を介して基板Sは冷却される。すなわち、本実施例の温調管TPは、基板Sの温調を行うための温調部材(温度制御手段)であり、温調ユニットT1を構成する要素である。
【0061】
なお、温調管TPを流れる温度調整用の媒体(温調媒体)は、液体に限定されず気体であってもよい。また、冷却水の代わりに高温の流体を流して加熱手段として温調管TPを用いることもできる。すなわち、温調管TPに流す温調媒体としては、その目的に応じて様々な液体や気体を用いることができる。温調管TPに温調媒体を循環させる構成としては、供給路や排出路が内部に設けられた中空回転軸を有するロータリージョイント等の既知の循環機構を用いることができる。
【0062】
図4(b)は、温調管TPと凹部253の構成を示す詳細図である。凹部253は、温調管TPの外周面に沿って形成された溝状の設置部であり、静電チャックC1の上面261から下方に凹んでいる。上面261には、Y方向に延伸した複数の凹部253が、上面261の非磁性体金属部材MMとの接触面を避けるように、X方向に等間隔に設けられている。凹部253により、温調管TPは外周面のおおよそ下半分が静電チャックC1の基材250に埋没する。
【0063】
温調管TPは、熱伝導性接着剤やグリスを介して凹部253に配設される。実施例1では、熱伝導性の接着剤231により温調管TPは凹部253に固定されている。温調管TPと凹部253との間に接着剤231等の熱伝導材を設けることで、効率よく静電チャックC1を温調できる。また、温調管TPの形状や材質等は特に制限されないが、冷却の観点から熱伝導率が高い材質が用いられる方が好ましい。また、実施例1のように、マグネット板MPを用いてマスクMを基板Sに引き付ける構成の場合、温調管TPはチタン合金やアルミ合金などの非磁性体により構成されることが好ましい。
【0064】
上述のように温調管TPを静電チャックC1に設置することにより得られる作用効果を説明するために、まずは比較例の構成について説明する。
図5は、比較例の温調機構の構成を説明する模式的断面図である。比較例は、静電チャックC1に温調管TPが設けられておらず、温調管TPの代わりの温調部材として冷却板CPが設けられている点で実施例1と異なる。冷却板CPは、温調部材TMの上面(マグネット板MPに接する面とは反対側の面)に接触配置されている。すなわち、温調部材TMは、マグネット板MPと冷却板CPとの間にZ軸方向に挟まれた配置となっており、直接的には、マグネット板MPと冷却板CPとの間で熱交換を行うように構成されている。
【0065】
冷却板CPは、例えば、ステンレスからなる板状の冷却部材であり、その内部に、冷媒を流す冷却管である水路WPを備えている。水路WPは、チャンバ200の外部との間で冷媒としての冷却水を循環可能に構成されており、冷却板CPに付与された熱を、冷却水で吸収して外部へ排出することが可能である。水路WPは、冷却板CPに設けた貫通孔により形成してもよいし、冷却板CPの内部に管を埋没させて形成してもよい。
【0066】
比較例の構成においては、マグネット板MPのベース板BPや非磁性体金属部材MMを介して冷却板CPと静電チャックC0との間で熱伝達が行われる。一方、実施例1の構成においては、温調管TPと静電チャックC1との間で直接的に熱伝達が行われるため、より効率よく静電チャックC1の温調を行うことができる。
【0067】
また、比較例のように部材の内部に中空部を設ける構成の場合、ベース部材に溝を形成した上で、ベース部材の上に蓋部材をかぶせるようにロウ付けや溶接により接続する製造方法が一般的である。一方、実施例1の構成では、静電チャックC1の基材250に溝を形成すればよいため、簡易な構成で効率的に温度調整可能であり、製造難易度や製造コストに利点がある。さらに、静電チャックCに管を設けずに中空部自体を流路として使用する構成の場合、ベース部材と蓋部材の接合状態が悪いと、温調媒体が漏れる(リーク)するおそれがある。一方、実施例1は、温調媒体が温調管TPの内部を通る構成のため、真空にされるチャンバ200内で温調媒体が漏れる可能性を大幅に下げることができ、安定して成膜動作や温度制御を実行できる。
【0068】
また、実施例1の構成では、比較例のようにベース部材と蓋部材の接着面を確保する必要がないため、比較例と比較して温調管TPの配置間隔を狭めることができる。ひいては、流路の数を増やして温調効率の向上を図ることができる。
【0069】
なお、実施例1では、上述の通り温調ユニットT1が温調部材TMと温調管TPの両方を有する構成としているが、必ずしも両方の部材が設けられる必要はない。例えば、高い応答性や微調整の可否が求められないような成膜環境や成膜装置構成においては、温調部材TMを排して温調管TPのみを設けた水冷式の温調構成としてもよい。温調部材TM(及び、これを制御する電源回路部)を排することにより、コストメリットが得られる。
【0070】
(温度センサTS1)
温度センサTS1(第1温度検知手段)は、静電チャックC1の温度を検知する温度センサであり、静電チャックC1の基材250に組み込まれており、検知温度を制御部270に送ることができるように構成されている。温度センサTS1としては、例えば、サーミスタやダイオード等を用いることができる。
【0071】
本実施例では、基板Sを貼着している静電チャックC1の温度を、常に、温度センサTS1でモニタする。基板Sは蒸着の熱エネルギーを受けることで温度上昇し、その熱エネルギーが静電チャックC1に伝わる。このときの静電チャックC1の温度を温度センサTS1で検知し、温調ユニットT1による冷却動作にフィードバックする。
【0072】
(温度センサTS2)
温度センサTS2(第2温度検知手段)は、マスクMの温度を検知する温度センサであり、
図2に示すようにチャンバ200の側壁に設けられており、検知温度を制御部270に送ることができるように構成されている。温度センサTS2としては、例えば、マスクMから放出される電磁波(光)からマスクMの温度を測定する放射温度計を用いることができる。
【0073】
(温度制御部)
制御部270は、電源290から供給される電力をもとに温調部材TMのペルチェ素子へ電流を流す電流供給部を備える。制御部270は、温度制御手段における制御部として、電流供給部が温調部材TMのペルチェ素子に流す電流を制御することで、温調部材TMの温度(熱交換状態)を制御する。制御部270は、電源290とともに、本発明の温度制御手段の構成(温度制御部)に含まれると考えてよい。
【0074】
制御部270は、温度センサTS1の検知温度や温度センサTS2の検知温度に基づいて、温調部材TMを制御する。具体的には、例えば、基板Sが複数の成膜室に渡って成膜される場合において、現在の成膜室(第1成膜室)に備えられた静電チャックC1の温度が、次の成膜室(第2成膜室)に備えられたマスクMの温度に近づくように制御する。この際に、次の成膜室(第2成膜室)に備えられたマスクMの温度を、次の成膜室のチャンバ200に備えられた温度センサTS2を用いて検知する。
【0075】
すなわち、現在の成膜室(第1成膜室)の静電チャックC1(第1静電チャック)の温度を、現在の成膜室(第1成膜室)の静電チャックC1(第1静電チャック)に備えられた温度センサTS1(第1温度センサ)によりモニタする。それとともに、次の成膜室(第2成膜室)のマスクM(第2マスク)の温度を、次の成膜室(第2成膜室)に備えられた温度センサTS2(第2温度センサ)により検知する。そして、温度センサTS1(第1温度センサ)の検知温度が、温度センサTS2(第2温度センサ)の検知温度に近づくように、現在の成膜室(第1成膜室)の温調部材TM(第1温調部材)の電流印加を制御する。
【0076】
また、静電チャックC1の温度制御のため、制御部270によって温調管TPに流れる温調媒体の温度や循環速度等を調節可能な媒体調整手段を設けてもよい。例えば、現在の成膜室(第1成膜室)に備えられた静電チャックC1の温度と、次の成膜室(第2成膜室)に備えられたマスクMの温度との差が大きい場合に、温調媒体の温度を下げたり、循環速度を上げたりしてもよい。このような構成により、より効率的な温調が可能となる。
【0077】
図6は、有機EL製造ラインにおける温調制御の一例を示す模式図である。有機EL製造ラインにおいて、基板Sの温度を、各工程におけるチャンバ200内の温度や各工程におけるマスクMの温度に合わせることが要求される場合がある。
図6に示すように、各成膜クラスタ1-1~1-6において、成膜条件の違い等によりマスクMの温度が異なる場合がある。また、
図3に示す本実施例の温調制御を行わない場合の基板Sの温度上昇との対比で理解されるように、特に、ライン後半において、基板SとマスクMの温度差はより顕著なものとなる。
【0078】
本実施例によれば、静電チャックC1の温度、すなわち、基板Sの温度を、各チャンバ200内の温度やマスクMの温度に合わせることが可能となる。すなわち、本実施例によれば、基板Sの温度を、
図6に示す各成膜クラスタ1-1~1-6のマスクMの温度に合せるように制御することが可能である。
【0079】
(その他の伝熱部材)
マグネット板MPは、静電チャックC1と接触する部材であり、温調ユニットTの具体態様によっては、静電チャックC1とともに、基板Sと温調部材TMとの間において熱の伝達を担う伝熱部材と捉えることができる。すなわち、本発明の温度制御手段の構成に含まれると考えてよい。
【0080】
マグネット板MPは、ベース板BPと、複数のマグネットMGと、から構成される磁力発生手段である。複数のマグネットMGは、ベース板BPの下面(ベース板BPにおいて静電チャックC1と対向する側の面)に等間隔配置で貼り付けられている。個々のマグネットMGは、ベース板BPの下面から静電チャックC1が配置される側に向かってZ軸方向に突出する突起状に構成されており、その先端面が静電チャックC1の上面261と接触する。
【0081】
複数のマグネットMGは、その磁力によってマスクMを基板Sに向かって(Z軸方向に)引き付けるものであり、その配置は特に限定されるものではないが、例えば、マスクM
のフレーム形状に対応した配置が採用される場合がある。すなわち、静電チャックC1の上面261の全域に対応して満遍なく散らばった配置ではなく、偏った配置となる場合がある。
【0082】
(温調ユニットT1の構成的特徴)
本実施例の温調ユニットT1は、ペルチェ素子などから構成される温調部材や静電チャックC1に直接設置された温調管を用い、静電チャックC1の温度やマスクMの温度をモニタしながら、静電チャックC1の温度を制御するように構成した。また、静電チャックC1に熱伝導部材である非磁性体金属部材MMを接触させる構成とし、該金属部材を介して(該金属部材の温度を制御することで)静電チャックC1の温度を制御するように構成した。
【0083】
(温調制御)
温調ユニットT1を用いた静電チャックC1の温調は、マグネット板MPが静電チャックC1から離間した位置(第1の位置)から下降し(非磁性体金属部材MMを介して)静電チャックC1と接触する位置(第2の位置)にあるときに、最大の効果が得られる。マグネット板MPを静電チャックC1に接触させる(下降させる)のは、成膜工程の流れの中では、アライメントされた基板SがマスクMに載置された状態となった後、すなわち、マグネット板MPの磁力によってマスクMを基板Sに密着させる際が典型的である。
【0084】
温調ユニットT1において、特に、温調部材TM(ペルチェ素子)の制御を行うタイミングや期間としては、蒸発源240が成膜材料を放出するとき、すなわち、基板Sが最も高温に曝されるときが典型的である。また、成膜終了後も、マグネット板MPを静電チャックC1に接触させたまま、すなわち、マスクMに基板Sを密着させたままとして、例えば、シャッタを備える成膜装置であればシャッタを閉じた状態として、温調を継続してもよい。あるいは、成膜中は温調せず、成膜終了後に、マグネット板MPを静電チャックC1に接触させたままにして、初めて温調を開始するようにしてもよい。
【0085】
また、温調部材TM(ペルチェ素子)の制御による温調を、成膜動作中とは別のタイミングで行うようにしてもよい。例えば、成膜動作の前後の基板Sを搬送している最中に、マグネット板MPを静電チャックC1に接触させて静電チャックC1の温度を制御する構成としてもよい。すなわち、マスクMの基板Sへの吸着を伴わないマグネット板MPの静電チャックC1への接触(下降)を行い、温調部材TM(ペルチェ素子)の制御による温調を行うようにしてもよい。
【0086】
また、温調ユニットT1による温調制御は、典型的には、基板Sを冷却することである。しかしながら、例えば、
図5に示す成膜ラインにおいて基板Sの温度がマスクMの温度に対して低くなってしまったような場合には、温調部材TMのペルチェ素子の動作によって静電チャックC1を加熱する場合もあり得る。したがって、温調部材TMとしては、ペルチェ素子を用いたものに限られず、電熱線等から構成されるヒータを用いたものであってもよい。また、温調管TPに温度の高い媒体を流して静電チャックC1の加熱効率を向上させるように構成されていてもよい。
【0087】
また、温調ユニットT1による温調制御の目的の一つは、上述したように、
図5に示すような一連の成膜ライン(複数の成膜室を跨いでの複数回の成膜動作)での流れにおいて、次の成膜で使用されるマスクMの温度に合せて基板Sを温調することである。しかしながら、温調ユニットT1による温調制御の目的は、上記に限定されない。
【0088】
例えば、基板Sに蒸着させる膜の特性によっては、できるだけ基板Sの温度を下げたい、あるいは上げたい、といったことの要求がある場合がある。そのような場合には、一つ
の成膜室において、静電チャックC1の検知温度に基づいて静電チャックC1(すなわち基板S)の温度を温調ユニットT1により制御してよい。
【0089】
また、ペルチェ素子による冷却又は加熱は、温調部材TMが接している部材の温度を変化させ、さらに、当該部材に接する別の部材の温度も熱伝導により連鎖的に変化させていく。すなわち、温調部材TMがマグネット板MPを冷却することで、マグネット板MPに接した非磁性体金属部材MM、非磁性体金属部材MMに接した静電チャックC1、静電チャックC1に接した基板Sが、順次冷却されることになる。さらに、静電チャックC1に設置された温調管TPに冷却水が流されることによっても、温調管TP、温調管TPに接した静電チャックC1、静電チャックC1に接した基板Sが、順次冷却されることになる。そして、当然ながら、基板Sに接したマスクMも冷却されることになる(温調部材TMは、上記各部材の温度を制御する温度制御手段である)。
【0090】
成膜室での熱源は、気化した成膜材料と蒸発源からの輻射熱であり、これらは主にマスクMと基板Sを加熱する。基板SとマスクMの温度は、最終的には、加熱エネルギーの量と静電チャックC1を介した冷却能力の差で変化し、また、蒸発源に近い側の温度が高くなる温度勾配は生じ得る。しかし、本実施例の温調ユニットT1による冷却を行う場合、冷却を行わない場合と比べれば、基板SとともにマスクMの温度上昇も抑制されることになる。すなわち、本実施例の温調ユニットT1による温調制御は、基板Sの温調(冷却)が第一ではあるものの、間接的には、マスクMの昇温抑制するものと言うこともできる。
【0091】
したがって、例えば、
図5に示す成膜ラインと異なり、各成膜室内のマスクMの温度をそれぞれ同じ温度に制御したいような場合において、本実施例の温調ユニットT1による温調制御を利用することも可能である。
【0092】
<実施例2>
図7を参照して、本発明の実施例2に係る温調ユニットT2について説明する。
図7は、本発明の実施例2に係る温調機構の構成を説明する模式的断面図である。ここでは、実施例2の構成において、実施例1の構成とは異なる点についてのみ説明する。実施例2の構成において、実施例1の構成と同様のものについては、同じ符号を付し、説明を省略する。
【0093】
実施例2の静電チャックC2は、温調管TPが内部に埋没されている。静電チャックC2の基材250には、実施例1の凹部253の代わりに、温調管TPが設置される温調管設置部として、中空部254が複数設けられている。内部に温調管TPが設置される複数の中空部254は、それぞれ静電チャックC2の基材250の内部で水平方向に延びている。温調管TPと中空部254との間には、熱伝導性接着剤やグリスが充填されていてもよい。
【0094】
このような構成においても、温調媒体が温調管TPの内部を通るため、中空部自体を流路として使用する構成と比較して、温調媒体が漏れる(リーク)するおそれを大きく低減させることができ、安定して温度制御を実行できる。
【0095】
また、温調管TPが基材250の内部に完全に埋め込まれる構成とすることで、実施例1の構成と比較して、温調管TPと基材250との接触面積を大きくできる。したがって、実施例2の構成によれば、温調管TPと静電チャックC2との熱交換率が向上するため、温調効率を向上させることができる。すなわち、実施例2の構成は、実施例1の構成と比較して製造難度は上がるものの、温調管TPによる温調効率を向上させたい場合に好適である。
【0096】
(高熱伝導シートHT)
実施例2の温調ユニットT2は、静電チャックC2やマグネット板MPよりも熱伝導率が高い高熱伝導部材である高熱伝導シートHTをマグネット板MPのベース板BPに取り付けた構成としている。高熱伝導シートHTを設ける代わり、実施例2の温調ユニットT2は、実施例1の温調ユニットT1の非磁性体金属部材MMを排した構成となっている。
【0097】
高熱伝導シートHT(高熱伝導部材)は、静電チャックC2やマグネット板MPよりも熱伝導率が高い材料から構成されたシート状部材である。高熱伝導シートHTは、静電チャックC2の上面261(基板Sを吸着する吸着面260とは反対側の面)に接触配置されている。
【0098】
静電チャックC2よりも熱伝導率が高い高熱伝導シートHTが静電チャックC2に接触することで、静電チャックC2を効率良く冷却することが可能である。この冷却効果は、高熱伝導シートHTと静電チャックC2との接触面積の大小に関わらず得ることが可能であるが、接触面積が大きくなるほど、冷却効果は高くなる。
【0099】
<実施例3>
図8を参照して、本発明の実施例3に係る温調ユニットT3について説明する。
図8は、本発明の実施例3に係る温調機構の構成を説明する模式的断面図である。ここでは、実施例3の構成において、実施例2の構成とは異なる点についてのみ説明する。実施例3の構成において、実施例2の構成と同様のものについては、同じ符号を付し、説明を省略する。
【0100】
実施例3に係る温調ユニットT3には、高熱伝導シートHTの上部に均熱板EPが設けられている。均熱板EPは、内部に温調管TPが埋没される温調管設置部材である。均熱板EPの内部には、温調管TPが設置される温調管設置部として、中空部255が複数設けられている。内部に温調管TPが設置される複数の中空部255は、それぞれ均熱板EPの内部で水平方向に延びている。中空部255の形状は円筒に限られないが、熱伝導率の向上のため、均熱板EPと温調管TPの接触面積が多くなる形状であることが好ましい。温調管TPと中空部255との間には、熱伝導性接着剤やグリスが充填されていてもよい。
【0101】
均熱板EPは、複数の固定ネジ256によって静電チャックC3の基材250に固定されて、静電チャックC3の基材250と一体化されている。なお、高熱伝導シートHTを介して均熱板EPを静電チャックC3に固定する方法はこれに限られず、接着剤等を用いて固定してもよい。均熱板EPの材料としては、温調管TPを設置するための溝や中空部の加工性がよく、かつ熱伝導率が高い材料であることが好ましい。
【0102】
実施例3においては温調管TPが静電チャックC3に対して常に固定されて一体化している。したがって、実施例3の構成によれば、比較例のように冷却板CPが温調部材TMの上面に接触配置されて適宜静電チャックC0から離間される構成と比較して、より効率よく静電チャックC3の温調を行うことができる。このように、温調管設置部が静電チャックC3の内部でなく、静電チャックC3に固定された部材の内部に設けられ、当該部材に温調管TPが埋没される構成としても、静電チャックC3を効率よく温調できる。
【0103】
また、実施例3の構成は、実施例1、2の構成と比較して温調管TPが静電チャックCの吸着面260から離れた位置に設置される。このような構成とすることで、温調管TPによって静電チャックC3の温調を行う際に、吸着面260における均熱性を向上できる。さらに、均熱板EPの材料を熱伝導率が高い材料とすることで、均熱板EPの中における均熱性を向上することができ、ひいては静電チャックC3の吸着面260における均熱
性を向上できる。また、均熱板EPの材料に、静電チャックCの基材250の材料と比較してより加工性に優れる材料を選択することで、加工コストの上昇を抑制しうる。
【0104】
なお、実施例3では、温調管TPが均熱板EPの内部の中空部255に設置されていたが、均熱板EPの表面に凹部を形成してその凹部に温調管TPが設置される構成としてもよい。また、温調用管設置部材は、必ずしも均熱板EPのように一枚の板部材で構成される必要はなく、例えば複数の部材に分割された構成や、板部材以外の部材により構成されてもよい。
【0105】
<電子デバイスの製造方法>
次に、本実施例に係る成膜装置を用いた電子デバイスの製造方法の一例を説明する。以下、電子デバイスの例として有機EL表示装置の構成を示し、有機EL表示装置の製造方法を例示する。
【0106】
まず、製造する有機EL表示装置について説明する。
図9(a)は有機EL表示装置700の全体図、
図9(b)は1画素の断面構造を表している。
【0107】
図9(a)に示すように、有機EL表示装置700の表示領域701には、発光素子を複数備える画素702がマトリクス状に複数配置されている。詳細は後で説明するが、発光素子のそれぞれは、一対の電極に挟まれた有機層を備えた構造を有している。なお、ここでいう画素とは、表示領域701において所望の色の表示を可能とする最小単位を指している。本実施例に係る有機EL表示装置の場合、互いに異なる発光を示す第1発光素子702R、第2発光素子702G、第3発光素子702Bの組み合わせにより画素702が構成されている。画素702は、赤色発光素子と緑色発光素子と青色発光素子の組み合わせで構成されることが多いが、黄色発光素子とシアン発光素子と白色発光素子の組み合わせでもよく、少なくとも1色以上であれば特に制限されるものではない。
【0108】
図9(b)は、
図9(a)のB-B線における部分断面模式図である。画素702は、複数の発光素子からなり、各発光素子は、基板703上に、第1電極(陽極)704と、正孔輸送層705と、発光層706R、706G、706Bのいずれかと、電子輸送層707と、第2電極(陰極)708と、を有している。これらのうち、正孔輸送層705、発光層706R、706G、706B、電子輸送層707が有機層に当たる。また、本実施例では、発光層706Rは赤色を発する有機EL層、発光層706Gは緑色を発する有機EL層、発光層706Bは青色を発する有機EL層である。発光層706R、706G、706Bは、それぞれ赤色、緑色、青色を発する発光素子(有機EL素子と記述する場合もある)に対応するパターンに形成されている。
【0109】
また、第1電極704は、発光素子毎に分離して形成されている。正孔輸送層705と電子輸送層707と第2電極708は、複数の発光素子702R、702G、702Bで共通に形成されていてもよいし、発光素子毎に形成されていてもよい。なお、第1電極704と第2電極708とが異物によってショートするのを防ぐために、第1電極704間に絶縁層709が設けられている。さらに、有機EL層は水分や酸素によって劣化するため、水分や酸素から有機EL素子を保護するための保護層710が設けられている。
【0110】
図9(b)では正孔輸送層705や電子輸送層707は一つの層で示されているが、有機EL表示素子の構造によっては、正孔ブロック層や電子ブロック層を備える複数の層で形成されてもよい。また、第1電極704と正孔輸送層705との間には第1電極704から正孔輸送層705への正孔の注入が円滑に行われるようにすることのできるエネルギーバンド構造を有する正孔注入層を形成することもできる。同様に、第2電極708と電子輸送層707の間にも電子注入層が形成することもできる。
【0111】
次に、有機EL表示装置の製造方法の例について具体的に説明する。
【0112】
まず、有機EL表示装置を駆動するための回路(不図示)及び第1電極704が形成された基板(マザーガラス)703を準備する。
【0113】
第1電極704が形成された基板703の上にアクリル樹脂をスピンコートで形成し、アクリル樹脂をリソグラフィ法により、第1電極704が形成された部分に開口が形成されるようにパターニングし絶縁層709を形成する。この開口部が、発光素子が実際に発光する発光領域に相当する。
【0114】
絶縁層709がパターニングされた基板703を粘着部材が配置された基板キャリアに載置する。粘着部材によって、基板703は保持される。第1の有機材料成膜装置に搬入し、反転後、正孔輸送層705を、表示領域の第1電極704の上に共通する層として成膜する。正孔輸送層705は真空蒸着により成膜される。実際には正孔輸送層705は表示領域701よりも大きなサイズに形成されるため、高精細なマスクは不要である。
【0115】
次に、正孔輸送層705までが形成された基板703を第2の有機材料成膜装置に搬入する。基板とマスクとのアライメントを行い、基板をマスクの上に載置し、基板703の赤色を発する素子を配置する部分に、赤色を発する発光層706Rを成膜する。
【0116】
発光層706Rの成膜と同様に、第3の有機材料成膜装置により緑色を発する発光層706Gを成膜し、さらに第4の有機材料成膜装置により青色を発する発光層706Bを成膜する。発光層706R、706G、706Bの成膜が完了した後、第5の成膜装置により表示領域701の全体に電子輸送層707を成膜する。電子輸送層707は、3色の発光層706R、706G、706Bに共通の層として形成される。
【0117】
電子輸送層707まで形成された基板を金属性蒸着材料成膜装置で移動させて第2電極708を成膜する。
【0118】
その後プラズマCVD装置に移動して保護層710を成膜して、基板703への成膜工程を完了する。反転後、粘着部材を基板703から剥離することで、基板キャリアから基板703を分離する。その後、裁断を経て有機EL表示装置700が完成する。
【0119】
絶縁層709がパターニングされた基板703を成膜装置に搬入してから保護層710の成膜が完了するまでは、水分や酸素を含む雰囲気にさらしてしまうと、有機EL材料からなる発光層が水分や酸素によって劣化してしまうおそれがある。したがって、本実施例において、成膜装置間の基板の搬入搬出は、真空雰囲気又は不活性ガス雰囲気の下で行われる。
【符号の説明】
【0120】
1…成膜装置、S…基板、C…静電チャック、TM…温調部材、MP…マグネット板、TP…温調管