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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024001790
(43)【公開日】2024-01-10
(54)【発明の名称】エステル化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 67/38 20060101AFI20231227BHJP
   C07C 69/24 20060101ALI20231227BHJP
   B01J 31/24 20060101ALI20231227BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20231227BHJP
【FI】
C07C67/38
C07C69/24
B01J31/24 Z
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022100675
(22)【出願日】2022-06-22
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り ウェブサイトのアドレス https://godo-kyushu58.com/ 掲載日:令和3年6月28日 [刊行物等] 第58回化学関連支部合同九州大会 開催日:令和3年7月3日
(71)【出願人】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 正俊
(74)【代理人】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100202418
【弁理士】
【氏名又は名称】河原 肇
(74)【代理人】
【識別番号】100210697
【弁理士】
【氏名又は名称】日浅 里美
(71)【出願人】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 正俊
(74)【代理人】
【識別番号】100202418
【弁理士】
【氏名又は名称】河原 肇
(72)【発明者】
【氏名】徳永 信
(72)【発明者】
【氏名】村山 美乃
(72)【発明者】
【氏名】山本 英治
(72)【発明者】
【氏名】シム ジュヨン
(72)【発明者】
【氏名】白倉 那桜
(72)【発明者】
【氏名】高橋 勇太
(72)【発明者】
【氏名】井上 玄
(72)【発明者】
【氏名】太田 啓介
【テーマコード(参考)】
4G169
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4G169BA27A
4G169BA27B
4G169BC67A
4G169BC68A
4G169BC71A
4G169BC72A
4G169BC72B
4G169BC74A
4G169BC75A
4G169BD01A
4G169BD01B
4G169BD02A
4G169BD02B
4G169BD04A
4G169BD04B
4G169BD07A
4G169BD07B
4G169BE27A
4G169BE27B
4G169CB25
4G169CB75
4G169DA02
4H006AA02
4H006AC48
4H006BA25
4H006BA48
4H006BB11
4H006BE40
4H006KA34
4H006KC12
4H039CA66
4H039CF10
4H039CL25
(57)【要約】      (修正有)
【課題】α-オレフィンのアルコキシカルボニル化反応による、高収率及び高選択率のエステル化合物の製造方法を提供する。
【解決手段】α-オレフィンと、アルコールと、一酸化炭素とを、周期表第9又は第10族元素から選ばれる少なくとも1種の元素を有する化合物と、式(4)で示される有機ホスフィン配位子とを含む触媒の存在下で反応させる工程を有する、製造方法。

(R及びRは、アルキル基、シクロアルキル基、又はアリール基を表し、R~Rは、水素原子又はアルコキシ基を表す。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で示されるエステル化合物の製造方法であって、
一般式(2)で示されるα-オレフィンと、一般式(3)で示される1級又は2級アルコールと、一酸化炭素とを、触媒の存在下で反応させる反応工程を有し、
前記触媒が周期表第9族元素及び第10族元素からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を有する化合物と、一般式(4)で示される有機ホスフィン配位子とを含む、エステル化合物の製造方法。
【化1】
(Rは、水素原子、炭素原子数1~8の、直鎖若しくは分岐のアルキル基、シクロヘキシル基又はフェニル基を表し、Rは、炭素原子数1~10の炭化水素基を表す。)
【化2】
(Rは前記一般式(1)におけるRと同一である。)
【化3】
(Rは前記一般式(1)におけるRと同一である。)
【化4】
(R及びRは、それぞれ独立に、炭素原子数1~6の、直鎖若しくは分岐のアルキル基、炭素原子数6~9のシクロアルキル基、又は炭素原子数6~9のアリール基を表し、R~Rは、それぞれ独立に、水素原子又は炭素原子数1~4のアルコキシ基を表す。ただし、R~Rの少なくとも1つは炭素原子数1~4のアルコキシ基である。)
【請求項2】
前記一般式(4)におけるR及びRの少なくとも一方が、炭素原子数1~4のアルコキシ基である請求項1に記載のエステル化合物の製造方法。
【請求項3】
前記一般式(4)におけるR、R及びRが、水素原子である請求項1又は2に記載のエステル化合物の製造方法。
【請求項4】
前記一般式(1)及び前記一般式(2)におけるRが、炭素原子数1~8の、直鎖若しくは分岐のアルキル基である請求項1又は2に記載のエステル化合物の製造方法。
【請求項5】
前記一般式(2)で示されるα-オレフィンが、1-オクテンである請求項1又は2に記載のエステル化合物の製造方法。
【請求項6】
前記一般式(3)で示される1級又は2級アルコールが、メタノール、エタノール、及び1-ブタノールから選ばれる少なくとも1種である請求項1又は2に記載のエステル化合物の製造方法。
【請求項7】
前記周期表第9族元素がCo、Rh、及びIrから選ばれる少なくとも1種であり、前記周期表第10族元素がNi、Pd、及びPtから選ばれる少なくとも1種である請求項1又は2に記載のエステル化合物の製造方法。
【請求項8】
前記周期表第10族元素がPdである請求項1又は2に記載のエステル化合物の製造方法。
【請求項9】
前記一般式(4)において、R及びRがシクロヘキシル基であり、R及びRがメトキシ基であり、R~Rが水素原子である、請求項1又は2に記載のエステル化合物の製造方法。
【請求項10】
前記反応工程において、酸性化合物を共存させない請求項1又は2に記載のエステル化合物の製造方法。
【請求項11】
一般式(2)で示されるα-オレフィンと、一般式(3)で示される1級又は2級アルコールと、触媒と、溶媒とを仕込んで、一酸化炭素雰囲気とされた反応容器内で、前記一般式(2)で示されるα-オレフィンと、前記一般式(3)で示される1級又は2級アルコールと、一酸化炭素とを反応させる反応工程を有する一般式(1)で示されるエステル化合物の製造方法であって、
前記触媒が周期表第9族元素及び第10族元素からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を有する化合物と、一般式(4)で示される有機ホスフィン配位子とを含む、エステル化合物の製造方法。
【化5】
(Rは、水素原子、炭素原子数1~8の、直鎖若しくは分岐のアルキル基、シクロヘキシル基又はフェニル基を表し、Rは、炭素原子数1~10の炭化水素基を表す。)
【化6】
(Rは前記一般式(1)におけるRと同一である。)
【化7】
(Rは前記一般式(1)におけるRと同一である。)
【化8】
(R及びRは、それぞれ独立に、炭素原子数1~6の、直鎖若しくは分岐のアルキル基、炭素原子数6~9のシクロアルキル基、又は炭素原子数6~9のアリール基を表し、R~Rは、それぞれ独立に、水素原子又は炭素原子数1~4のアルコキシ基を表す。ただし、R~Rの少なくとも1つは炭素原子数1~4のアルコキシ基である。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エステル化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エステル化合物は、溶剤、香料、乳化剤、保湿剤、医薬品などの中間原料などとして用いられている。従来、炭素鎖部分が直鎖であるエステルの合成方法が注目されてきたが、近年では新たな機能を有する界面活性剤を開発するため、炭素鎖部分が分岐構造を有するエステルの合成方法が注目されている。
【0003】
特許文献1には、水又は第一若しくは第二アルコール及び単座ホスフィン配位子を2つ有する二価のパラジウム化合物の存在下で、ジオキサン溶媒下、α-オレフィンを一酸化炭素と反応させるα-オレフィンのカルボニル化方法が開示されている。
【0004】
特許文献2及び特許文献3には、パラジウムと二座配位子である1,1’-ビス(ホスフィノ)フェロセン又は1,2-ビス(ジ-tert-ブチルホスフィノメチル)ベンゼンを含む錯体を用いたα-オレフィンの直鎖選択的なアルコキシカルボニル化反応が開示されている。
【0005】
特許文献4には、第9族又は第10族金属及びビアリール骨格を有する単座ホスフィン配位子を含む触媒の存在下で、カルボン酸ビニルと一酸化炭素とアルコールとを反応させて、分岐エステルを得るカルボン酸ビニルのアルコキシカルボニル化方法が開示されている。
【0006】
非特許文献1には、パラジウム触媒と2位に置換基を有するトリアリールホスフィン等の単座配位子を用いたα-オレフィンのメトキシカルボニル化反応が開示されている。非特許文献2には、パラジウム触媒とビアリール骨格を有するホスフィン等の単座配位子を用いたα-オレフィンのメトキシカルボニル化反応が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭62-226944号公報
【特許文献2】特許第6467005号公報
【特許文献3】国際公開第2004/014834号
【特許文献4】特開2021-183589号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】ChemCatChem、2016年、8巻、1084-1093頁
【非特許文献2】nature chemistry、2016年12月、8巻、1159-1166頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、α-オレフィンのアルコキシカルボニル化反応により、高収率及び高選択率でエステル化合物を製造できる製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために、α-オレフィンとアルコールと一酸化炭素とを反応させてエステル化合物を製造する際に使用する触媒に着目し、鋭意検討した。その結果、周期表第9族元素及び第10族元素からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を有する化合物と、ビフェニル基を有する特定の有機ホスフィン配位子とを含む触媒を用いればよいことを見出した。さらに、本発明者らは、上記の触媒の存在下で、特定のα-オレフィンと特定のアルコールと一酸化炭素とを反応させることにより、高収率及び高選択率でエステル化合物を製造できることを見出し、本発明に想到した。
【0011】
すなわち、本発明は以下の[1]~[11]に関する。
[1]
一般式(1)で示されるエステル化合物の製造方法であって、
一般式(2)で示されるα-オレフィンと、一般式(3)で示される1級又は2級アルコールと、一酸化炭素とを、触媒の存在下で反応させる反応工程を有し、
前記触媒が周期表第9族元素及び第10族元素からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を有する化合物と、一般式(4)で示される有機ホスフィン配位子とを含む、エステル化合物の製造方法。
【化1】
(Rは、水素原子、炭素原子数1~8の、直鎖若しくは分岐のアルキル基、シクロヘキシル基又はフェニル基を表し、Rは、炭素原子数1~10の炭化水素基を表す。)
【化2】
(Rは前記一般式(1)におけるRと同一である。)
【化3】
(Rは前記一般式(1)におけるRと同一である。)
【化4】
(R及びRは、それぞれ独立に、炭素原子数1~6の、直鎖若しくは分岐のアルキル基、炭素原子数6~9のシクロアルキル基、又は炭素原子数6~9のアリール基を表し、R~Rは、それぞれ独立に、水素原子又は炭素原子数1~4のアルコキシ基を表す。ただし、R~Rの少なくとも1つは炭素原子数1~4のアルコキシ基である。)
[2]
前記一般式(4)におけるR及びRの少なくとも一方が、炭素原子数1~4のアルコキシ基である[1]に記載のエステル化合物の製造方法。
[3]
前記一般式(4)におけるR、R及びRが、水素原子である[1]又は[2]に記載のエステル化合物の製造方法。
[4]
前記一般式(1)及び前記一般式(2)におけるRが、炭素原子数1~8の、直鎖若しくは分岐のアルキル基である[1]~[3]のいずれかに記載のエステル化合物の製造方法。
[5]
前記一般式(2)で示されるα-オレフィンが、1-オクテンである[1]~[4]のいずれかに記載のエステル化合物の製造方法。
[6]
前記一般式(3)で示される1級又は2級アルコールが、メタノール、エタノール、及び1-ブタノールから選ばれる少なくとも1種である[1]~[5]のいずれかに記載のエステル化合物の製造方法。
[7]
前記周期表第9族元素がCo、Rh、及びIrから選ばれる少なくとも1種であり、前記周期表第10族元素がNi、Pd、及びPtから選ばれる少なくとも1種である[1]~[6]のいずれかに記載のエステル化合物の製造方法。
[8]
前記周期表第10族元素がPdである[1]~[6]のいずれかに記載のエステル化合物の製造方法。
[9]
前記一般式(4)において、R及びRがシクロヘキシル基であり、R及びRがメトキシ基であり、R~Rが水素原子である、[1]~[8]のいずれかに記載のエステル化合物の製造方法。
[10]
前記反応工程において、酸性化合物を共存させない[1]~[9]のいずれかに記載のエステル化合物の製造方法。
[11]
一般式(2)で示されるα-オレフィンと、一般式(3)で示される1級又は2級アルコールと、触媒と、溶媒とを仕込んで、一酸化炭素雰囲気とされた反応容器内で、前記一般式(2)で示されるα-オレフィンと、前記一般式(3)で示される1級又は2級アルコールと、一酸化炭素とを反応させる反応工程を有する一般式(1)で示されるエステル化合物の製造方法であって、
前記触媒が周期表第9族元素及び第10族元素からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を有する化合物と、一般式(4)で示される有機ホスフィン配位子とを含む、エステル化合物の製造方法。
【化5】
(Rは、水素原子、炭素原子数1~8の、直鎖若しくは分岐のアルキル基、シクロヘキシル基又はフェニル基を表し、Rは、炭素原子数1~10の炭化水素基を表す。)
【化6】
(Rは前記一般式(1)におけるRと同一である。)
【化7】
(Rは前記一般式(1)におけるRと同一である。)
【化8】
(R及びRは、それぞれ独立に、炭素原子数1~6の、直鎖若しくは分岐のアルキル基、炭素原子数6~9のシクロアルキル基、又は炭素原子数6~9のアリール基を表し、R~Rは、それぞれ独立に、水素原子又は炭素原子数1~4のアルコキシ基を表す。ただし、R~Rの少なくとも1つは炭素原子数1~4のアルコキシ基である。)
【発明の効果】
【0012】
本発明のエステル化合物の製造方法によれば、α-オレフィンのアルコキシカルボニル化反応により、高収率及び高選択率でエステル化合物を製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明のエステル化合物の製造方法について詳細に説明する。なお、本発明は、以下に示す実施形態のみに限定されるものではない。
【0014】
[エステル化合物の製造方法]
一実施形態のエステル化合物の製造方法は、下記一般式(1)で示されるエステル化合物の製造方法である。
【0015】
【化9】
(Rは、水素原子、炭素原子数1~8の、直鎖若しくは分岐のアルキル基、シクロヘキシル基又はフェニル基を表し、Rは、炭素原子数1~10の炭化水素基を表す。)
【0016】
一般式(1)で示されるエステル化合物におけるRは、水素原子、炭素原子数1~8の、直鎖若しくは分岐のアルキル基、シクロヘキシル基又はフェニル基である。Rは、より高収率及びより高選択率で製造できるため、炭素原子数1~8の、直鎖若しくは分岐のアルキル基であることが好ましく、炭素原子数3~8の直鎖若しくは分岐のアルキル基であることがより好ましい。Rは、より高収率及びより高選択率で製造できるため、直鎖アルキル基であることが好ましい。炭素原子数1~8の、直鎖若しくは分岐のアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、tert-ブチル基、n-ヘキシル基、及びn-オクチル基が挙げられる。Rは、n-ヘキシル基であることが最も好ましい。
【0017】
一般式(1)で示されるエステル化合物におけるRは、炭素原子数1~10の炭化水素基であり、一部に脂環又は芳香環を有していてもよく、全体が脂環又は芳香環を構成していてもよい。炭素原子数1~10の炭化水素基の具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、n-ヘキシル基、n-オクチル基、及び2-エチルヘキシル基などの直鎖又は分岐のアルキル基;シクロヘキシル基などのシクロアルキル基;並びにベンジル基などの芳香族基が挙げられる。Rは、より高収率及びより高選択率で製造できるため、炭素原子数1~10の、直鎖又は分岐のアルキル基であることが好ましく、メチル基、エチル基、又はn-ブチル基であることがより好ましく、メチル基又はエチル基であることがさらに好ましい。
【0018】
一実施形態のエステル化合物の製造方法は、一般式(2)で示されるα-オレフィンと、一般式(3)で示される1級又は2級アルコールと、一酸化炭素とを、特定の触媒の存在下で反応させる反応工程を有する。一実施形態のエステル化合物の製造方法では、一般式(2)で示されるα-オレフィンと、一般式(3)で示される1級又は2級アルコールと、特定の触媒と、溶媒とを仕込んで、一酸化炭素雰囲気とされた反応容器内で、一般式(2)で示されるα-オレフィンと、一般式(3)で示される1級又は2級アルコールと、一酸化炭素との反応(アルコキシカルボニル化反応)を行うことが好ましい。
【0019】
<α-オレフィン>
一実施形態では、α-オレフィンとして、下記一般式(2)で示されるα-オレフィンを用いる。
【0020】
【化10】
(Rは一般式(1)におけるRと同一である。)
【0021】
一般式(2)で示されるα-オレフィンにおけるRは、一般式(1)におけるRと同じである。好ましいRは一般式(1)について記載したものと同一である。具体的には、一般式(2)で示されるα-オレフィンとして、n-オクテン、イソペンテン、及びネオヘキセン、ビニルシクロヘキサン、及びスチレンなどが挙げられる。より高収率及びより高選択率で製造できるため、n-オクテンが好ましい。
【0022】
<1級又は2級アルコール>
一実施形態では、1級又は2級アルコールとして、下記一般式(3)で示される1級
又は2級アルコールを用いる。
【化11】
(Rは一般式(1)におけるRと同一である。)
【0023】
一般式(3)で示される1級又は2級アルコールにおけるRは、一般式(1)におけるRと同一である。好ましいRは一般式(1)について記載したものと同一である。一般式(3)で示される1級又は2級アルコールの具体例として、メタノール、エタノール、1-プロパノール、イソプロピルアルコール、1-ブタノール、イソブチルアルコール、sec-ブチルアルコール、1-ヘキサノール、1-オクタノール、2-エチルヘキサノール、シクロヘキサンメタノール、及びベンジルアルコールなどが挙げられる。これらの中では、一般式(2)で示されるα-オレフィンとの反応性が高いため、メタノール、エタノール、及び1-ブタノールが好ましく、メタノール、及びエタノールがより好ましい。
【0024】
一実施形態のエステル化合物の製造方法を用いて、Rがメチル基、エチル基、又はn-ブチル基である一般式(1)で示されるエステル化合物を製造する場合、一般式(3)で示される1級又は2級アルコールとして、それぞれ、Rがメチル基であるメタノール、Rがエチル基であるエタノール、又はRがn-ブチル基である1-ブタノールを用いる。
【0025】
一実施形態のエステル化合物の製造方法において、1級又は2級アルコールの使用量(仕込み量)に対するα-オレフィンの使用量(仕込み量)は、エステル化合物をより高収率及びより高選択率で製造できるため、モル比(α-オレフィン:1級又は2級アルコール)で1:0.5~1:100であることが好ましく、1:1~1:10であることがより好ましく、1:1.2~1:5であることがさらに好ましい。
【0026】
<一酸化炭素>
一実施形態では、一酸化炭素として、一酸化炭素を含むガスを用いることが好ましい。一酸化炭素を含むガスは、一酸化炭素のみを含むガスであってもよいし、混合ガスであってもよい。具体的には、窒素、アルゴンなどの不活性ガス、及び水素などを使用することができる。酸素などの酸化性ガスは、触媒として使用する有機ホスフィン配位子を酸化する場合があるため、一酸化炭素を含むガスは、酸化性ガスを含まないことが好ましい。
【0027】
反応時における一酸化炭素の使用量は、例えば、α-オレフィンと1級又は2級アルコールとを含む反応液を仕込んで、一酸化炭素を含むガス雰囲気とされた反応容器内の一酸化炭素の分圧が、0.05~50MPaとなる範囲内であることが好ましく、0.1~30MPaとなる範囲内であることがより好ましく、1~6MPaとなる範囲内であることがさらに好ましい。
【0028】
<触媒>
一実施形態のエステル化合物の製造方法において使用する触媒は、周期表第9族元素及び第10族元素からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を有する化合物と、下記一般式(4)で示される有機ホスフィン配位子とを含む。一般式(4)で示される有機ホスフィン配位子は、周期表第9族元素及び第10族元素からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素に配位する。
【0029】
【化12】
(R及びRは、それぞれ独立に、炭素原子数1~6の、直鎖若しくは分岐のアルキル基、炭素原子数6~9のシクロアルキル基、又は炭素原子数6~9のアリール基を表し、R~Rは、それぞれ独立に、水素原子又は炭素原子数1~4のアルコキシ基を表す。ただし、R~Rの少なくとも1つは炭素原子数1~4のアルコキシ基である。)
【0030】
周期表第9族元素から選ばれる少なくとも1種の元素としては、Co、Rh、及びIrが挙げられ、特にRhが好ましい。コバルトを有する化合物としては、例えば、塩化コバルト(II)(CoCl)、及び硝酸コバルト(II)(Co(NO)から選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。ロジウムを有する化合物としては、例えば、塩化ロジウム(III)(RhCl)、及び硝酸ロジウム(III)(Rh(NO)から選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。イリジウムを有する化合物としては、例えば、塩化イリジウム(III)(IrCl)、及びシクロオクタジエンイリジウム塩化物二量体(I)([IrCl(cоd)])から選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0031】
周期表第10族元素から選ばれる少なくとも1種の元素としては、Ni、Pd、及びPtが挙げられ、特にPdが好ましい。
【0032】
パラジウムを有する化合物としては、例えば、塩化パラジウム(II)(PdCl)、硝酸パラジウム(II)(Pd(NO)、硫酸パラジウム(II)(PdSO)、酢酸パラジウム(II)(Pd(CHCOO))、ビス(アセチルアセトナト)パラジウム(II)(Pd(acac))、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)(Pd(dba))、及びジパラジウム(0)トリス(ジベンジリデンアセトン)クロロホルム(Pd(dba)・CHCl)から選ばれる少なくとも1種の0価又は2価のパラジウム化合物が挙げられる。これらの化合物の中では、触媒への配位によって反応の阻害を引き起こす成分が生じないという観点から、塩化パラジウム(II)が好ましい。
【0033】
ニッケルを有する化合物としては、例えば、塩化ニッケル(II)(NiCl)、硝酸ニッケル(II)(Ni(NO)、硫酸ニッケル(II)(NiSO)、酢酸ニッケル(II)(Ni(CHCOO))、ビス(アセチルアセトナト)ニッケル(II)(Ni(acac))、及びビス(1,5-シクロオクタジエン)ニッケル(0)(Ni(cоd))から選ばれる少なくとも1種の0価又は2価のニッケル化合物が挙げられる。これらの化合物の中では、触媒への配位によって反応の阻害を引き起こす成分が生じないという観点から、塩化ニッケル(II)が好ましい。
【0034】
プラチナを有する化合物としては、例えば、塩化プラチナ(II)(PtCl)、硝酸プラチナ(II)(Pt(NO)、硫酸プラチナ(II)(PtSO)、酢酸プラチナ(II)(Pt(CHCOO))、ビス(アセチルアセトナト)プラチナ(II)(Pt(acac))、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジプラチナ(0)(Pt(dba))、及びビス(1,5-シクロオクタジエン)プラチナ(0)(Pt(cоd))から選ばれる少なくとも1種の0価又は2価のプラチナ化合物が挙げられる。これらの化合物の中では、触媒への配位によって反応の阻害を引き起こす成分が生じないという観点から、塩化プラチナ(II)が好ましい。
【0035】
これらの周期表第9族元素及び第10族元素からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を有する化合物の中でも、反応速度と選択性の点でパラジウムを有する化合物を用いることが好ましく、特に、塩化パラジウム(II)、又はビス(アセチルアセトナト)パラジウム(II)(Pd(acac))を用いることが好ましい。
【0036】
触媒中に含まれる周期表第9族元素及び第10族元素からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を有する化合物は、1種のみであってもよいし2種以上であってもよい。
【0037】
周期表第9族元素及び第10族元素からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を有する化合物の使用量は、一般式(2)で示されるα-オレフィン1モルに対して、0.00001~0.2モルであることが好ましく、0.0001~0.1モルであることがより好ましく、0.0005~0.05モルであることがさらに好ましい。周期表第9族元素及び第10族元素からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を有する化合物の使用量が、一般式(2)で示されるα-オレフィン1モルに対して0.00001モル以上であると、触媒の反応活性種(ヒドリド錯体等)の濃度を確保できる。このため、一般式(1)で示されるエステル化合物を生成させるアルコキシカルボニル化反応が効果的に促進される。一方で、周期表第9族元素及び第10族元素からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を有する化合物の使用量が、一般式(2)で示されるα-オレフィン1モルに対して0.2モル以下であると、経済的に好ましい。
【0038】
一般式(4)で示される有機ホスフィン配位子におけるR及びRは、それぞれ独立に、炭素原子数1~6の、直鎖若しくは分岐のアルキル基、炭素原子数6~9のシクロアルキル基、又は炭素原子数6~9のアリール基である。R及びRは、同一であってもよいし、異なっていてもよい。炭素原子数1~6の、直鎖若しくは分岐のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-ヘキシル基、及びtert-ブチル基が挙げられる。炭素原子数6~9のシクロアルキル基としては、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、及びシクロオクチル基が挙げられる。炭素原子数6~9のアリール基としては、フェニル基、トリル基、及び2,4,6-トリメチルフェニル基が挙げられる。
【0039】
及びRは、エステル化合物をより高収率及びより高選択率で製造できるため、炭素原子数6~9のシクロアルキル基であることが好ましく、シクロヘキシル基であることがより好ましい。RとRの両方が、炭素原子数6~9のシクロアルキル基であることが好ましく、特に、RとRの両方が、シクロヘキシル基であることが好ましい。
【0040】
一般式(4)で示される有機ホスフィン配位子におけるR~Rは、それぞれ独立に、水素原子又は炭素原子数1~4のアルコキシ基である。R~Rは、全て同一であってもよいし、一部又は全部が異なっていてもよい。ただし、R~Rの少なくとも1つは炭素原子数1~4のアルコキシ基である。炭素原子数1~4のアルコキシ基は有機ホスフィン配位子の電子供与性を向上させ、なおかつ反応溶液中の各成分とアルコキシ基の相互作用は弱く、反応を阻害しないため好ましい。炭素原子数1~4のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、及びイソプロピル基が挙げられる。中でも、メトキシ基、及びイソプロピル基が好ましく、メトキシ基がより好ましい。エステル化合物をより高収率で製造できるため、R及びRの少なくとも一方が炭素原子数1~4のアルコキシ基であることが好ましく、R及びRの両方が炭素原子数1~4のアルコキシ基であることがより好ましい。R~Rは水素原子であることが好ましい。より具体的にはR及びRがメトキシ基であり、R~Rが水素原子であることが好ましい。
【0041】
一般式(4)で示される有機ホスフィン配位子として、具体的には、下記式(4-1)及び(4-2)で示される有機ホスフィン配位子を用いることができる。特に、エステル化合物をより高収率及び高選択率で製造できるため、式(4-1)で示される有機ホスフィン配位子が好ましい。
【0042】
【化13】
(Cyはシクロヘキシル基であり、Meはメチル基である。)
【0043】
【化14】
(Cyはシクロヘキシル基であり、iPrはイソプロピル基である。)
【0044】
触媒中に含まれる一般式(4)で示される有機ホスフィン配位子は、1種のみであってもよいし2種以上であってもよい。
【0045】
一般式(4)で示される有機ホスフィン配位子は、例えば、式(4-1)の有機ホスフィン配位子は、「Journal of the American Chemical Society、2005年、127巻、13号、4685-4696頁」、式(4-2)の有機ホスフィン配位子は、「Journal of the American Chemical Society、2004年、126巻、40号、13028-13032頁」を参照することにより製造できる。
【0046】
一般式(4)で示される有機ホスフィン配位子は市販品としても入手可能であり、例えば、式(4-1)で示される有機ホスフィン配位子(SPhos、2-ジシクロヘキシルホスフィノ-2’,6’-ジメトキシビフェニル)は、関東化学株式会社、SIGMA-ALDRICH社、東京化成工業株式会社、及び富士フイルム和光純薬株式会社から、式(4-2)で示される有機ホスフィン配位子(RuPhos、2-ジシクロヘキシルホスフィノ-2’,6’-ジイソプロピルビフェニル)は、富士フイルム和光純薬株式会社、関東化学株式会社、SIGMA-ALDRICH社、及び東京化成工業株式会社から入手可能である。
【0047】
一般式(4)で示される有機ホスフィン配位子の使用量は、周期表第9族元素及び第10族元素からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を有する化合物1モルに対して0.5~5.0モルであることが好ましく、1.0~4.0モルであることがより好ましく、1.5~3.0モルであることがさらに好ましい。一般式(4)で示される有機ホスフィン配位子の使用量が、周期表第9族元素及び第10族元素からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を有する化合物1モルに対して0.5モル以上であると、有機ホスフィンが有効に配位した触媒の反応活性種が効率的に生成する。その結果、アルコキシカルボニル化反応が促進され、一般式(1)で示されるエステル化合物がより高選択率で生成する。一般式(4)で示される有機ホスフィン配位子の使用量が、周期表第9族元素及び第10族元素からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を有する化合物1モルに対して5.0モル以下であると、一般式(1)で示されるエステル化合物を生成させる反応を効果的に促進できる。これは、一般式(1)で示されるエステル化合物を生成させるアルコキシカルボニル化反応において、過剰な一般式(4)で示される有機ホスフィン配位子によって一酸化炭素が配位しにくくなり、アルコキシカルボニル化反応の反応速度が遅くなることを防止できるためである。
【0048】
<溶媒>
一実施形態のエステル化合物の製造方法における反応工程では溶媒を用いてもよい。使用する溶媒としては、α-オレフィンと、1級又は2級アルコールと、一酸化炭素との反応に関与しない化学種を用いることが好ましい。このような溶媒としては、例えば、テトラヒドロフラン、ジオキサン、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、へプタン、アセトニトリル、トルエン、キシレン、N-メチルピロリドン、γ-ブチロラクトン、N,N-ジメチルホルムアミド、及びN,N-ジメチルアセトアミドなどが挙げられる。溶媒は、1種のみであってもよいし2種以上であってもよい。
【0049】
これらの溶媒の中でも特に、一般式(1)で示されるエステル化合物をより高収率及びより高選択率で製造できるため、テトラヒドロフラン、アセトン、酢酸エチル、トルエン、及びキシレンから選ばれる1種又は2種以上を用いることが好ましく、触媒の溶解性及び生成物との分離の容易性から、トルエンを用いることが特に好ましい。
【0050】
溶媒の使用量は、一般式(2)で示されるα-オレフィンの反応液中の濃度が、0.05~20モル/リットルとなる範囲であることが好ましく、0.1~10モル/リットルとなる範囲であることがより好ましく、0.5~5モル/リットルとなる範囲であることがさらに好ましい。一般式(2)で示されるα-オレフィンの反応液中の濃度が、0.05モル/リットル以上であると、反応液中のα-オレフィンの濃度が、アルコキシカルボニル化反応の促進される範囲内になりやすい。一般式(2)で示されるα-オレフィンの反応液中の濃度が、20モル/リットル以下であると、反応をスムーズに進行できる基質濃度が確保されやすく、好ましい。
【0051】
一実施形態のエステル化合物の製造方法において、一般式(3)で示される1級又は2級アルコールとして、一般式(1)で示されるエステル化合物を生成させるアルコキシカルボニル化反応の反応温度において液体であって、アルコキシカルボニル化反応により生成した一般式(1)で示されるエステル化合物を溶解可能であるアルコールを用いる場合には、他の溶媒を使用しなくてもよい。このような1級又は2級アルコールとしては、例えば、エタノール、1-プロパノール、イソプロピルアルコール、1-ブタノール、イソブチルアルコール、sec-ブチルアルコール、1-ヘキサノール、2-エチルヘキサノール、及びベンジルアルコール等が挙げられる。
【0052】
「酸性化合物」
一実施形態のエステル化合物の製造方法の反応工程においては、酸性化合物を共存させないことが好ましい。本明細書において「酸性化合物」とは、ブレンステッド酸、ブレンステッド酸の塩、又はルイス酸を意味する。「酸性化合物を共存させない」とは、反応液中の酸性化合物量(モル)が、触媒中の周期表第9族元素及び第10族元素の合計量(モル)以下であることを意味する。酸性化合物を使用しないことで、酸性化合物と有機ホスフィン配位子との塩の形成による触媒形成の阻害が抑制される。酸性化合物としては、塩酸、硝酸、及び硫酸などの無機酸;炭素原子数2~12のアルカン酸;メタンスルホン酸、クロロスルホン酸、フルオロスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、o-トルエンスルホン酸、m-トルエンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、tert-ブチルスルホン酸及び2-ヒドロキシプロパンスルホン酸などのスルホン酸及びこれらの塩;スルホン化イオン交換樹脂;過塩素酸などの過ハロゲン酸;トリクロロ酢酸及びトリフルオロ酢酸などの過フルオロ化カルボン酸;オルトリン酸;ベンゼンホスホン酸などのホスホン酸;硫酸ジメチル;メタンスルホン酸メチル、及びトリフルオロメタンスルホン酸メチル等のスルホン酸のエステル等が挙げられる。
【0053】
[反応工程]
一実施形態のエステル化合物の製造方法にける反応工程の反応条件は、α-オレフィンと、1級又は2級アルコールと、一酸化炭素とのアルコキシカルボニル化反応が進行する範囲内で、製造する一般式(1)で示されるエステル化合物の種類などに応じて適宜決定できる。反応形式は、バッチ式、連続式のいずれであってもよい。
【0054】
反応条件は、例えば、以下に示す(a)反応圧力、(b)反応温度、及び(c)反応時間のうち、いずれか1つ以上の条件を満たすことが好ましい。
【0055】
(a)反応圧力
反応圧力については、例えば、反応容器内の一酸化炭素の分圧を0.05~50MPaとすることが好ましく、0.1~30MPaとすることがより好ましく、1~6MPaとすることがさらに好ましい。反応容器内の一酸化炭素の分圧を0.05~50MPaとすることにより、一般式(1)で示されるエステル化合物をより高収率及びより高選択率で製造できる。反応時における反応容器内の一酸化炭素の分圧が、1~6MPaの範囲内で維持されるように、反応により消費された一酸化炭素を補いながら反応を行うことが特に好ましい。反応時における反応容器内の一酸化炭素の分圧が0.05MPa以上であると、反応がスムーズに進行する。反応時における反応容器内の一酸化炭素の分圧は、反応を促進させる観点からは、高いことが好ましい。しかし、反応時の一酸化炭素の分圧を50MPa超とするには、高価な装置を使用する必要がある。したがって、反応時の一酸化炭素の分圧を50MPa以下とすることにより、工業的に適した装置及び方法を用いてエステル化合物を製造できる。
【0056】
(b)反応温度
反応温度については、例えば、反応容器内の温度を60~140℃とすることが好ましく、80~120℃とすることがより好ましい。反応容器内の温度が60℃以上であると、一般式(1)で示されるエステル化合物を生成させるアルコキシカルボニル化反応がより一層促進される。反応容器内の温度が140℃以下であると、アルコキシカルボニル化反応における副反応を抑制できるため、好ましい。
【0057】
(c)反応時間
反応時間は、例えば、1~40時間とすることが好ましく、20~30時間とすることがより好ましい。反応時間が1時間以上であると、一般式(1)で示されるエステル化合物をより高収率及びより高選択率で製造できる。反応時間が40時間以下であると、一般式(1)で示されるエステル化合物の生成に伴う副反応を抑制できる。
【実施例0058】
以下、実施例及び比較例により本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は、以下の実施例のみに限定されない。
【0059】
(実施例1及び実施例2)
ステンレス鋼からなる容量40mLの反応容器内に、撹拌子と、周期表第9族元素及び第10族元素からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を有する化合物としてPdCl(塩化パラジウム;田中貴金属社製;14.4mg、81μmol)と、式(4-1)及び(4-2)で示される有機ホスフィン配位子(162μmol)とを、それぞれ表1に示す割合で入れた。
【0060】
これらの触媒が仕込まれた反応容器内に、窒素ガス気流下で、α-オレフィンとしての1-オクテン(関東化学株式会社製;1.26mL、8.1mmol)と、1級又は2級アルコールとしてのエタノール(EtOH(エタノール(超脱水));富士フイルム和光純薬株式会社製;1.2mL、20.4mmol)と、溶媒としてのトルエン(トルエン(超脱水);富士フイルム和光純薬株式会社製;6.75mL)とを入れ、反応溶液を得た。
【0061】
実施例1及び2における塩化パラジウムの使用量は、1-オクテン1モルに対して0.01モルである。有機ホスフィン配位子の使用量は、塩化パラジウム1モルに対して2.0モルである。トルエンの使用量は、1級又は2級アルコール1モルに対して0.34リットル(反応液中の1-オクテンの濃度が0.88モル/リットルとなる量)である。
【0062】
次いで、反応容器を密閉し、一酸化炭素ガスを用いて、大気圧から1MPaの間で反応容器内の加圧-脱圧を3回繰り返し、反応容器内の気体を一酸化炭素で置換した。その後、一酸化炭素を用いて反応容器内の圧力を表2に示す圧力とし、反応溶液を攪拌しながら、表2に示す反応温度で表2に示す反応時間反応させて、エステル化合物を生成させた。
【0063】
(比較例1~4)
有機ホスフィン配位子として、一般式(4)で示される有機ホスフィン配位子の代わりに、式(5-1)~式(5-3)で示される有機ホスフィン配位子及びPPh(トリフェニルホスフィン)をそれぞれ用いたこと以外は、実施例1と同様にしてエステル化合物を生成させた。
【0064】
【化15】
(Cyはシクロヘキシル基であり、iPrはイソプロピル基である。)
【0065】
【化16】
(Cyはシクロヘキシル基である。)
【0066】
【化17】
(Cyはシクロヘキシル基であり、Meはメチル基である。)
【0067】
【表1】
【0068】
表1に示す有機ホスフィン配位子として、以下に示すものを用いた。
式(4-1):SIGMA-ALDRICH社製
式(4-2):富士フイルム和光純薬株式会社製
式(5-1):SIGMA-ALDRICH社製
式(5-2):STREM CHEMICALS社製
式(5-3):富士フイルム和光純薬株式会社製
PPh(トリフェニルホスフィン:富士フイルム和光純薬株式会社製)
【0069】
【表2】
【0070】
実施例1及び実施例2、並びに比較例1~比較例4それぞれについて、反応後の反応液をガスクロマトグラフィー(装置名:6850GC、アジレント・テクノロジー株式会社製)を用いて分析した。原料、目的物であるエステル化合物及び副反応物の定量分析は、内部標準物質としてジエチレングリコールジメチルエーテル(東京化成工業株式会社製)を用いて作成した検量線を用いて行った。
【0071】
その結果、1級又は2級アルコールとしてエタノールを使用した実施例1及び実施例2、並びに比較例1~比較例4では、目的物である式(1)におけるRがn-ヘキシル基であり、Rがエチル基であるエステル化合物である2-メチルオクタン酸エチルが生成したことが確認できた。α-オレフィンの転化率、目的物の収率、及びこれらの数値から算出した選択率を表2に示す。
【0072】
表2に示すように、実施例1及び実施例2では、30%以上の高い収率、かつ60%以上の高い選択率で目的物を製造できた。特に、実施例1は、選択率が高かった。
【0073】
一方、有機ホスフィン配位子として式(5-1)~式(5-3)で示される化合物をそれぞれ用いた比較例1~比較例3では、目的物の収率が実施例1及び実施例2と比較して低かった。有機ホスフィン配位子としてPPh(トリフェニルホスフィン)を用いた比較例4では、目的物の異性体(ノルマル体であるノナン酸エチル)である副反応物量が多く、目的物の選択率が低かった。