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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024179022
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】内視鏡補助装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 1/00 20060101AFI20241219BHJP
   A61B 1/01 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
A61B1/00 650
A61B1/01 513
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023097505
(22)【出願日】2023-06-14
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和4年度 国立研究開発法人科学技術振興機構、ムーンショット型研究開発事業、「(1)生体内サイバネティック・アバターによる時空間体内環境情報の構造化 (2)分散・協調遠隔操作による生体内CAの駆動技術」及び「協調遠隔操作による生体内CAの機能デバイス技術」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受けるもの
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】山中 俊郎
(72)【発明者】
【氏名】新井 史人
(72)【発明者】
【氏名】藤城 光弘
(72)【発明者】
【氏名】辻 陽介
(72)【発明者】
【氏名】芳賀 洋一
(72)【発明者】
【氏名】棚田 永遠
(72)【発明者】
【氏名】鶴岡 典子
【テーマコード(参考)】
4C161
【Fターム(参考)】
4C161AA01
4C161AA04
4C161FF35
4C161FF36
4C161JJ02
4C161JJ11
4C161PP19
4C161QQ07
(57)【要約】
【課題】内視鏡と共に用いることにより医師や被検者の負担を軽減して安全な処置を可能とする内視鏡補助装置を提供する。
【解決手段】内視鏡の先端部に付随させて用いられる内視鏡補助装置であって、内視鏡の観察空間において先端部から内視鏡補助装置を離脱させる離脱機構と、先端部から離脱した後に展開して観察空間の内壁面を押圧することにより観察空間に定置する定置機構と、定置機構に支持された支持部と、支持部に設置されたデバイスと、デバイスへエネルギーを供給する供給機構とを備える。このような内視鏡補助装置を内視鏡と共に用いれば、内視鏡に設けられた撮像ユニットによる撮像や処置ツールによる処置とは別に、観察空間において異なる方向から安定的に撮像ユニットによる撮像や処置ツールによる処置を実行することができる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内視鏡の先端部に付随させて用いられる内視鏡補助装置であって、
前記内視鏡の観察空間において前記先端部から前記内視鏡補助装置を離脱させる離脱機構と、
前記先端部から離脱した後に展開して前記観察空間の内壁面を押圧することにより前記観察空間に定置する定置機構と、
前記定置機構に支持された支持部と、
前記支持部に設置されたデバイスと、
前記デバイスへエネルギーを供給する供給機構と
を備える内視鏡補助装置。
【請求項2】
前記支持部は、前記定置機構が展開した場合において前記内壁面に接触しないように前記定置機構に支持される請求項1に記載の内視鏡補助装置。
【請求項3】
前記デバイスは、前記内壁面に向けて複数設置されている請求項2に記載の内視鏡補助装置。
【請求項4】
前記支持部は、前記内視鏡の先端部に設けられたツールにより向きを調整できる請求項2に記載の内視鏡補助装置。
【請求項5】
前記支持部に設置された牽引機構を備え、
前記デバイスは、前記牽引機構を駆動するアクチュエータを含む請求項1に記載の内視鏡補助装置。
【請求項6】
前記先端部に接続された可撓性のある接続部材を有し、
前記供給機構は、前記接続部材と一体的に設けられた、前記内視鏡から電力が供給される電力供給ワイヤを含む請求項1に記載の内視鏡補助装置。
【請求項7】
前記定置機構は、前記観察空間の内部で螺旋状に展開する請求項1に記載の内視鏡補助装置。
【請求項8】
前記定置機構は、形状記憶素材を用いて形成されている請求項7に記載の内視鏡補助装置。
【請求項9】
前記形状記憶素材は、展開後に前記先端部が所定量以上変位されると破断する請求項8に記載の内視鏡補助装置。
【請求項10】
前記定置機構は、流体が流入されることにより螺旋状に展開する請求項7に記載の内視鏡補助装置。
【請求項11】
前記定置機構を複数有する請求項1に記載の内視鏡補助装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内視鏡補助装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内視鏡を被検者の体腔に挿入することにより、対象部位をカメラユニットで撮像した画像に基づいて検査を行ったり、発見された病変を先端部に設けられた電気メスや鉗子を用いて切除したりする内視鏡システムが知られている。
【0003】
内視鏡は、一般的にその先端部が被検者の体腔に挿入され、対象部位を含む観察空間に到達するまで押し込められる。このように体腔に押し込められた内視鏡の先端部は、到達した観察空間において体腔表面に接触したり近接したりするために十分な視界を確保できず、カメラユニットが対象部位を適切に撮像できないなどの課題が生じていた。このような課題に対し、到達した観察空間において内視鏡の先端部の前後にそれぞれ配置されたバルーンを膨張させることにより、観察空間に一定ボリュームの空隙空間を生じさせる技術が開発されている(例えば、特許文献1参照)。このように確保された空隙空間においては、例えば先端部に設けられたカメラユニットは対象部位を俯瞰して撮像することができるので、医師はこのように適切に撮像された画像を見て病変の有無等を判断することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2017-506132号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、内視鏡の先端部に設けられたカメラユニットや処置ツールは、当然ながら当該先端部側から一方向へ向かって作用するという制約を受ける。すなわち、カメラユニットは内視鏡の先端部から対象部位へ向けて撮像できるに過ぎず、また、例えば処置ツールとして電気メスが設けられている場合であれば、当該電気メスは内視鏡の先端部から繰り出て対象部位を切除できるに過ぎない。このように視野が限られた状態で医師が処置ツールを操作することは、安全性の確保、熟練手技の要求、処置時間の短縮といった観点から、決して望ましいとは言えない。すなわち、観察空間において、内視鏡の先端部の動作によって影響を受けない視点を確保したり、処置の方向と視点の方向を異ならせたり、複数の方向からの処置を可能としたりする技術が求められている。
【0006】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、内視鏡と共に用いることにより医師や被検者の負担を軽減して安全な処置を可能とする内視鏡補助装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様における内視鏡補助装置は、内視鏡の先端部に付随させて用いられる内視鏡補助装置であって、内視鏡の観察空間において先端部から内視鏡補助装置を離脱させる離脱機構と、先端部から離脱した後に展開して観察空間の内壁面を押圧することにより観察空間に定置する定置機構と、定置機構に支持された支持部と、支持部に設置されたデバイスと、デバイスへエネルギーを供給する供給機構とを備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、内視鏡と共に用いることにより医師や被検者の負担を軽減して安全な処置を可能とする内視鏡補助装置を提供することができる。具体的には、このような内視鏡補助装置を内視鏡と共に用いることにより、内視鏡に設けられた撮像ユニットによる撮像や処置ツールによる処置とは別に、観察空間において異なる方向から安定的に撮像ユニットによる撮像や処置ツールによる処置を実行することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本実施形態に係る内視鏡と内視鏡補助装置の全体を示す図である。
図2】大腸に挿入された内視鏡先端部と第1の定置機構を備える内視鏡補助装置の様子を示す模式図である。
図3】内視鏡補助装置が展開されるまでの様子を説明する模式図である。
図4】観察対象物に対する協調処置と、処置後の抜出の様子を説明する模式図である。
図5】内視鏡先端部と内視鏡補助装置の他の例の構成と、その協調処置の様子を説明する模式図である。
図6】内視鏡先端部と内視鏡補助装置のさらに他の例の構成と、その協調処置の様子を説明する模式図である。
図7】支持部の回転機構について説明する模式図である。
図8】大腸に挿入された内視鏡先端部と第2の定置機構を備える内視鏡補助装置の様子を示す模式図である。
図9】内視鏡補助装置が展開されるまでの様子を説明する模式図である。
図10】観察対象物に対する協調処置と、処置後の抜出の様子を説明する模式図である。
図11】定置機構を複数備える場合における観察対象物に対する協調処置の様子を説明する模式図である。
図12】大腸に挿入された内視鏡先端部と第3の定置機構を備える内視鏡補助装置の様子を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
添付図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。なお、各図において、同一の符号を付したものは、同一又は同様の構成を有する。また、各図において、同一又は同様の構成を有する構造物が複数存在する場合には、煩雑となることを回避するため、一部に符号を付し、他に同一符号を付すことを省く場合がある。また、実施形態で説明する構成の全てが課題を解決するための手段として必須であるとは限らない。
【0011】
図1は、本実施形態に係る内視鏡200と内視鏡補助装置100の全体を示す図である。本実施形態に係る内視鏡補助装置100は、内視鏡200の挿入チューブ210の先端部211に付随されて用いられる。内視鏡補助装置100は、使用開始の段階において先端部211に装着され、被検者の体腔に挿入されるときには最先端に位置する。
【0012】
内視鏡200は、挿入チューブ210、ハンドル220、操作ダイヤル231、操作ボタン232、ケーブル240、エアポート250を備える。挿入チューブ210は、可撓性を有し、医師の取り廻しによって被検者の体腔に挿入されて、内視鏡補助装置100および先端部211を体腔内の観察空間に到達させる機能を担う。ハンドル220は、医師が把持する把持部であり、ハンドル220の近傍には操作部材としての操作ダイヤル231や操作ボタン232が設けられている。医師は、これらの操作部材を操作することにより、先端部211に設けられた処置ツールやカメラユニットを動作させたり、先端部211の向きを調整したり、また、内視鏡補助装置100に対する制御指示を与えたりする。
【0013】
ケーブル240は、制御ユニットに接続されており、先端部211に装備されたカメラユニットおよび内視鏡補助装置100に装備されたカメラユニットで撮像されたそれぞれの画像データを制御ユニットへ送信する信号線を含む。制御ユニットは、内視鏡200および内視鏡補助装置100から受信した画像データを処理して、接続されている表示パネルへ視認可能に表示する。ケーブル240は、内視鏡200および内視鏡補助装置100が必要とする電力を供給する電力供給線を含む。エアポート250は、エアチューブを介してコンプレッサに接続されており、医師による操作部材の操作に応じて、コンプレッサから取り込んだエアを先端部211へ向けて送り込んだり、先端部211側からエアを吸い出したりする。
【0014】
内視鏡200の先端部211に装着された内視鏡補助装置100は、被検者の体腔内において目標とする観察空間に到達すると、展開されて、内視鏡200による観察や処置の補助動作を実行する。観察空間は、各種内視鏡の用途ごとに定められ、例えば、食道、胃、十二指腸、小腸、大腸、気管支、腹腔、血管などの内部空間が対象となり得る。本実施形態における内視鏡200は、その一例として大腸の内部空間の対象部位を観察および処置し得るものであり、内視鏡補助装置100は、内視鏡200に対応して製作されたものとして説明する。他の種類の内視鏡に装着される内視鏡補助装置は、それぞれの要素や構成が、観察空間や対象部位の性質等に応じて適宜変更され得る。
【0015】
図2は、大腸910の内部空間に挿入された挿入チューブ210の先端部211と、第1の定置機構であるバルーン111を備える内視鏡補助装置100の様子を示す模式図である。具体的には、大腸910の延伸方向に沿ってその一部を切り取って俯瞰する図であり、内壁面911に生じている病変920を対象部位として観察する様子を示す。
【0016】
図2において、内視鏡補助装置100は、挿入チューブ210の先端部211から離脱して分離された状態にある。内視鏡補助装置100は、主に、バルーン111、支持部120、カメラユニット130、LED140、接続部材160を備える。
【0017】
バルーン111は、展開して観察空間の内壁面911を押圧することにより観察空間に内視鏡補助装置100を定置する定置機構としての機能を担う。すなわち、バルーン111は、到達した観察空間において膨張することにより、大腸910の特定位置に内視鏡補助装置100を据え付ける。バルーン111は、例えばシリコーンゴムによって形成されている。
【0018】
支持部120は、先端部211と同じ程度の径を有する円筒形状をなし、バルーン111に対向する一端側には装着筒150を備え、先端部211に対向する他端側には嵌合リング121を備える。支持部120は、容易に変形しない程度に硬質であり、その素材として例えばPEEK(Poly Ether Ether Ketone)樹脂、硬質ポリウレタン、ポリサルフォン(Poly arylether-aryl sulfone)が用いられる。装着筒150は、支持部120の円筒径より小径の円筒形状をなし、その外径をバルーン111の開口部が覆って弾接するようにバルーン111を装着させる。内視鏡補助装置100が被検者の体腔から抜出された後には、バルーン111は装着筒150から取り外され、内視鏡補助装置100が再度利用される場合には、新たなバルーン111が装着筒150に装着される。また、装着筒150は、内部に通気孔151を有し、観察空間において通気孔151からエアが供給されるとバルーン111は膨張し、通気孔151からエアが吸引されるとバルーン111は収縮する。なお、本実施形態においては、バルーン111を膨張させる流体としてエアを利用するが、エアでなくてもよく、他の気体や、液体を利用してもよい。
【0019】
嵌合リング121は、観察空間において先端部211から内視鏡補助装置100を離脱させる離脱機構として機能する。具体的には、嵌合リング121は、支持部120の円筒径より小径の円筒形状をなし、その外周面が挿入チューブ210の先端部211に設けられた先端リング212の内周面と嵌合することによって、内視鏡補助装置100は先端部211に装着される。そして、観察空間においてバルーン111が膨張され、特定位置に内視鏡補助装置100が据え付けられた状態で挿入チューブ210が抜出方向へ変位されると、嵌合の摩擦力を超えることにより先端リング212が嵌合リング121から離脱する。すなわち、内視鏡補助装置100は、内視鏡200の先端部211から離脱する。
【0020】
なお、本実施形態においては離脱機構として嵌合リング121を採用したが、内視鏡補助装置100を先端部211から離脱させる機構は、これに限らない。例えば、押し方向へは係止されるが、引き方向へは離脱するスナップフィットを採用してもよいし、電磁力を用いてロック状態を保ち、オフにすればロック状態が解除される電子ロックを採用してもよい。いずれにしても、観察空間において内視鏡補助装置100を内視鏡200の先端部211から離脱させられる機構であればよい。
【0021】
内視鏡補助装置100が先端部211から離脱しても、接続部材160は先端部211との接続が維持される。接続部材160は、定置された内視鏡補助装置100に対して挿入チューブ210の先端部211が位置や向きを変えられるように移動の自由を与えつつ、内視鏡補助装置100が先端部211から離脱したまま観察空間に取り残されてしまうことを防ぐ機能を担う。したがって、接続部材160は、少なくとも可撓性を有する素材が採用される。接続部材160は、先端部211に設けられた不図示のコネクタに、着脱可能に装着されている。接続部材160は、観察空間に内視鏡補助装置100が据え付けられた状態で挿入チューブ210が抜出方向へ変位されても解除されない程度に強固に接続されている。
【0022】
本実施形態においては、バルーン111がエアの供給および吸引を要し、カメラユニット130が電力の供給と画像信号や制御信号の送受信を要し、LED140が電力の供給を要する。そこで、接続部材160は、エアチューブ161と通信ケーブル162を一体的に含むように構成されている。エアチューブ161は、可撓性のある例えばビニールチューブによって形成されている。その一端は、流通させるエアが通気孔151に通じるように、支持部120の内部を通過して装着筒150に接続され、他端は、先端部211に設けられたコネクタを介して、後述する挿入チューブ210内のエアチューブに接続されている。通信ケーブル162は、通信のための信号ワイヤと電力供給のための電力供給ワイヤを含み、それぞれが可撓性のある例えば金属撚線によって形成されている。信号ワイヤの一端は、それぞれのカメラユニット130に接続され、他端は、不図示のコネクタ、挿入チューブ210の内部を介してケーブル240に接続されている。同様に、電力供給ワイヤの一端は、それぞれのカメラユニット130、LED140に接続され、他端は、不図示のコネクタおよび挿入チューブ210の内部を介してケーブル240に接続されている。
【0023】
なお、接続部材160は、可撓性に加えて伸縮性を有してもよい。例えば、エアチューブ161が蛇腹状の節部を有し、通信ケーブル162が平バネやコイルバネによって構成されていれば、接続部材160は可撓性に加えて伸縮性も有する。伸縮性も有するのであれば、医師は、定置された内視鏡補助装置100に対して挿入チューブ210の先端部211をより自由に移動させることができる。
【0024】
カメラユニット130とLED140は、支持部120に設置されるデバイスであり、それぞれが内壁面911に向けて複数設置されている。本実施形態においては、上述のように支持部120は円筒形状をなすので、カメラユニット130とLED140は、円筒の中心軸に対して放射方向へ向くように、90°間隔で4つずつ設置されている。設置されるカメラユニット130の個数およびLED140の個数は、それぞれの撮像視野角や照射角に応じて決定され、好ましくは全周方向を観察できるように、また、全周方向を照明できるように決定されるとよい。なお、複数のLED140の設置に代えて、単独のLEDが導光リングを用いて全周方向を照明する構成を採用してもよい。それぞれのカメラユニット130で撮像された画像の画像信号は、通信ケーブル162を介して内視鏡200に接続された制御ユニットへ送信される。なお、制御ユニットへ送信される画像信号は、指定されたカメラユニット130によって撮像された画像信号のみであってもよい。
【0025】
図示するように、バルーン111が膨張され展開されると、支持部120は、大腸910の内壁面911に接触したり近接しすぎたりすることなく観察空間の中空に浮いたように、バルーン111に支持された態様となる。支持部120がこのようにバルーン111に支持されると、放射方向へ向けて支持部120に設置されたそれぞれのカメラユニット130は内壁面911と適度に離間し、いずれのカメラユニット130も対向する内壁面911を適切に撮像することができる。すなわち、支持部120を取り囲む内壁面911を全周に亘って適切に撮像することができるので、少なくとも1つのカメラユニット130は、病変920を捉えることができる。医師は、いずれのカメラユニット130が病変920を捉えているかを確認することにより、病変920の位置を推定することができる。
【0026】
内視鏡200の先端部211は、先端リング212の内側に凸状の基材213を有し、本実施形態においては、基材213にカメラユニット260とLED270を備える。カメラユニット260で撮像された画像の画像信号は、通信ケーブル162を介して内視鏡200に接続された制御ユニットへ送信される。LED270は、カメラユニット260の撮像範囲を照明する。
【0027】
先端部211は、不図示の駆動機構により、挿入チューブ210の伸延方向に対して湾曲し、カメラユニット260の向きを変えることができる。医師は、接続部材160が延びきらない範囲において、手動により挿入チューブ210を進退方向へ変位させ、駆動機構により先端部211の向きを調整することにより、カメラユニット260を病変920に対して適切な距離および向きに配置することができる。この作業においては、内視鏡補助装置100のカメラユニット130が撮像した画像から推定された病変920の位置が有力な参考情報となる。
【0028】
医師は、病変920を支持部120に設置されたカメラユニット130からの画像と、先端部211の基材213に設置されたカメラユニット260からの画像により確認することができる。すなわち、2つ以上の異なる視点で病変920を確認することができる。しがたって、医師は、病変920をより詳細に観察することができ、病変920に対してより正しい判断を下すことができる。
【0029】
次に、内視鏡補助装置100を用いて病変920を観察し撤収するまでの手順について説明する。図3は、内視鏡補助装置100が展開されるまでの様子を説明する模式図である。
【0030】
図3(A)は、挿入チューブ210を大腸910内に押し込んで、病変920を探索する様子を示す。内視鏡補助装置100は、挿入チューブ210の先端部211に装着されており、挿入チューブ210の先頭に位置して大腸910内を前進する。このとき、バルーン111は縮んだ状態で装着筒150に装着されている。また、LED140は内壁面911を照明し、それぞれのカメラユニット130は撮像を実行してその画像信号を逐次制御ユニットへ送信している。
【0031】
図3(B)は、観察対象である病変920を発見した後にバルーン111を膨張させる様子を示す。図3(A)によって病変920を発見したら、少なくとも一つのカメラユニット130が病変920を捉えられる範囲で挿入チューブ210の前進を停止して、バルーン111を膨らませる。
【0032】
バルーン111の内部空間は、連続的に接続された通気孔151、エアチューブ161、エアチューブ251と連通しており、上述のエアポート250から供給されるエアがこれらの流路を通じて送り込まれることにより、バルーン111は膨張する。
【0033】
バルーン111が膨張すると、やがてその表面は周方向の全体に亘って大腸910の内壁面911と密着し、さらに膨張すると内壁面911を押圧するに至る。バルーン111が内壁面911を押圧するに至ると、エアの供給を停止し、その膨張状態を維持する。このような膨張状態が維持されている期間において、バルーン111、ひいては内視鏡補助装置100の全体が観察空間に定置される。すなわち、内視鏡補助装置100が大腸910内の定位置から容易に動かないようにすることができる。
【0034】
また、バルーン111の膨張に伴い、上述のように、支持部120は、観察空間の中空に浮いたようにバルーン111に支持された態様となる。したがって、支持部120に設置されたデバイスは、定置機構としてのバルーン111をいわば足場として利用することにより、観察空間の内壁面911に対して安定的に作用(カメラユニット130であれば内壁面911の撮像)を及ぼすことができる。
【0035】
図3(C)は、内視鏡補助装置100を先端部211から離脱させる様子を示す。上述のように、バルーン111が膨張されて観察空間に定置されると、内視鏡補助装置100は、多少の外力では動かなくなる。この状態で医師が挿入チューブ210を若干引き戻すと、嵌合リング121と先端リング212の嵌合が外れ、先端部211が内視鏡補助装置100から離間する。このとき、先端部211内または嵌合リング121内に撓めて押し込まれていた接続部材160が展開する。
【0036】
先端部211が内視鏡補助装置100から離間するとカメラユニット260が観察空間に露出するので、カメラユニット260による撮像を開始することができる。医師は、カメラユニット260からの画像により、内視鏡補助装置100の離間の様子を観察することができる。
【0037】
なお、オーバーチューブを用いる構成の内視鏡においては、内視鏡の先端部の前部に内視鏡補助装置を配置してオーバーチューブ内を内視鏡の先端部と共に移動させ、オーバーチューブの端から押し出すことにより、内視鏡補助装置を内視鏡から離脱させる。このとき、オーバーチューブは離脱機構の一部として機能する。
【0038】
図4は、観察対象物に対する協調処置と、処置後の抜出の様子を説明する模式図である。図4(A)は、観察対象物に対する協調処置の一例として、複数の視点により病変920を観察する様子を示す。実質的には図2に示す様子と同様である。図示するように、支持部120に設置された複数のカメラユニット130のうち、上方に向けられたカメラユニット130が病変920を捉えている。また、挿入チューブ210の先端部211は上方へ向けて若干湾曲され、その結果カメラユニット260はおよそ正面に病変920を捉えている。すなわち、病変920は、複数のカメラユニットにより異なる方向から捉えられている。
【0039】
図4(B)は、病変920の観察を終え、挿入チューブ210および内視鏡補助装置100を引き抜く様子を示す。病変920の観察を終えたら、医師は、エアチューブ161を介してバルーン111内のエアを吸引する。吸引が完了するとバルーン111は縮小し、ほぼ図3(A)の状態に戻る。内視鏡補助装置100は、接続部材160を介して先端部211に接続されているので、医師によって挿入チューブ210が引き出されると、内視鏡補助装置100も共に引き摺られて体外へ排出される。
【0040】
次に、先端部211に設置される処置ツールと支持部120に設置されるデバイスの組み合わせが異なる他の実施例についていくつか説明する。図5は、そのような他の実施例(第1変形例)の構成と、その協調処置の様子を説明する模式図である。
【0041】
第1変形例に係る支持部120には、複数のカメラユニット130に加えて切除機構170が設置されている。切除機構170は、病変920の少なくとも一部を切除する電気メス171と、電気メス171を病変920へ近づけるための可動アーム172を含む。可動アーム172は、不図示のアクチュエータによって駆動され、先端に設けられた電気メス171を支持部120に対して変位させることができる。電気メス171も可動アーム172を駆動するアクチュエータも、通信ケーブル162の電力供給ワイヤを介して電力の供給を受ける。
【0042】
このような構成によれば、電気メス171はバルーン111に支持された支持部120に安定的に支えられて病変920を切除することができる。また、複数の視点から、特に電気メス171が差し伸べられる方向とは異なる視点(カメラユニット260からの視点)から、病変920を観察することができるので、医師は、電気メス171による処置を適切に行うことができる。
【0043】
図6は、さらに他の実施例(第2変形例)の構成と、その協調処置の様子を説明する模式図である。第2変形例に係る支持部120には、第1変形例の切除機構170に代えて牽引機構180が設置されている。牽引機構180は、病変920をつまむためのクリップ181と、クリップ181を引張するための牽引アーム182を含む。牽引アーム182は、不図示のアクチュエータによって駆動され、先端に設けられたクリップ181を支持部120の方向へ引き寄せることができる。クリップ181も牽引アーム182を駆動するアクチュエータも、通信ケーブル162の電力供給ワイヤを介して電力の供給を受ける。なお、牽引アーム182の牽引力を計測する、例えば歪みセンサによって構成される牽引センサを併せて配置してもよい。
【0044】
先端部211には、カメラユニット260に加えて鉗子280が設置されている。このような構成によれば、クリップ181はバルーン111に支持された支持部120に安定的に支えられて病変920を引張することができる。特に、鉗子280が差し伸べられる方向とは異なる方向へ病変920を引張することができるので、鉗子280による切開処置を格段に容易かつ正確に行うことができる。
【0045】
図7は、図6を用いて説明した第2変形例の付加構成である支持部120の回転機構について説明する模式図である。上述のようにカメラユニット130については、放射方向へ向けて複数設置することにより、全周方向を撮像できるようにした。しかし、牽引機構180(図5を用いて説明した第1変形例の切除機構170も同様)については、支持部120に対して多く設置することが難しい。一方で、一つの牽引機構180を設置した場合には、クリップ181および牽引アーム182を展開できる方向が限られる。
【0046】
バルーン111を膨張させる場合に支持部120の向きまで事前に調整することは難しい。すなわち、バルーン111を膨張させた場合に牽引機構180が支持部120に対してどの方向を向いているかについては、実際にバルーン111を膨張させてみなければわからない。したがって、バルーン111を膨張させてみたらクリップ181および牽引アーム182を病変920の方向へ展開できないということも発生し得る。そこで、付加構成として支持部120に回転機構を付与する。
【0047】
回転機構は、支持部120に回転リング152を設け、バルーン111を装着する装着筒150と回転リング152を遊嵌させることにより、バルーン111に対して支持部120を回転可能にする機構である。このような回転機構を備えていれば、図示するように、先端部211に設置された鉗子280に支持部120の端に設けられた嵌合リング121を掴ませて回動させると、支持部120をその中心軸周りに回転させることができる。すなわち、鉗子280の動作を制御することにより、支持部120を所定量回転させ、クリップ181および牽引アーム182を病変920の方向へ展開できる位置に調整することができる。なお、ここでは鉗子280を用いて支持部120を回転させる構成について説明したが、支持部を回転させるツールは鉗子280に限らず、支持部を回転させられるものであれば、いかなるツールであっても構わない。また、回転機構の構成も上記の構成に限らず、支持部が観察空間に定置された定置機構に対して回転できるものであれば、いかなる構成であっても構わない。
【0048】
また、以上説明した変形例を含む本実施形態においては、支持部120に設置されるデバイスとして、カメラユニット130、LED140、切除機構170、牽引機構180といったセンサやアクチュエータ等の電子デバイスを説明した。このような電子デバイスを支持部120に設置する場合には、上述のように電力供給ワイヤを介して電力を供給する構成か、支持部120に設置した二次電池が電力を供給する構成、あるいは被検者の体外から無線で電力を供給する構成を採用する。
【0049】
電子デバイスではなく、例えば流体によって駆動されるデバイスを支持部120に設置してもよい。例えば、流体の流動により変形する流体アクチュエータ等が想定され得る。そのようなデバイスを採用する場合には、接続部材160の少なくとも一部として流体をデバイスに流動させるためのチューブを含むように構成すればよい。
【0050】
以上の本実施形態においては、第1の定置機構としてバルーン111を説明したが、定置機構はバルーン111に限らない。図8は、大腸910の内部空間に挿入された挿入チューブ210の先端部211と、第2の定置機構である展開索条112を備える内視鏡補助装置101の様子を示す模式図である。具体的には、図2と同様の図であり、内壁面911に生じている病変920を対象部位として観察する様子を示す。図2に示す内視鏡補助装置100と同様の構成については同一の符番を付すことにより、その説明を省略する。
【0051】
内視鏡補助装置101は、展開索条112を備える。展開索条112は、温度応答性形状記憶ポリマー(SMP:Shape Memory Polymer)を素材とする、螺旋状に巻回されたワイヤ形状の部材である。温度応答性形状記憶ポリマーは、調整されたガラス転移温度(例えば35℃)より小さな温度ではプラスチック状に硬質であり,ガラス転移温度以上に温められるとゴム状に軟化しつつ、記憶されている形状に変化する。そして再びガラス転移温度より小さな温度に戻ると記憶されている形状を維持しつつプラスチック状に硬質となる。展開索条112は、ガラス転移温度以上に温められると螺旋の外形が拡張するように記憶されており、図8に示すように、外形が拡張して展開された状態では、大腸910の内壁面911を押圧する程度の大きさになるように調整されている。
【0052】
本実施形態においては、展開索条112は、芯材として後述する発熱線を内蔵し、発熱線に通電されるとSMPがガラス転移温度以上に昇温し、大腸910内で展開される。すなわち、展開索条112は、バルーン111と同様に、観察空間の内壁面911を押圧することにより観察空間に内視鏡補助装置101を定置する定置機構としての機能を担う。
【0053】
展開索条112の一端は、装着筒150’に装着されている。装着筒150’は、支持部120の円筒径より小径の円筒形状をなし、中心に設けられた嵌合孔に展開索条112の一端を圧入させることにより、展開索条112を装着させる。被検者の体腔から抜出された後には、展開索条112は装着筒150’から取り外され、内視鏡補助装置100が再度利用される場合には、新たな展開索条112が装着筒150’に装着される。また、装着筒150’の嵌合孔にはコネクタが設けられており、展開索条112が嵌合孔に圧入されると、その発熱線は高電力供給ケーブル163に接続される。
【0054】
接続部材160’は、上述の実施形態における接続部材160に対して、エアチューブ161の代わりに高電力供給ケーブル163を一体的に含むように構成されている。高電力供給ケーブル163は、一端がコネクタを介して展開索条112の発熱線に接続され、発熱する程度の電力を当該発熱線へ供給する。他端は、不図示のコネクタ、挿入チューブ210の内部を介してケーブル240に接続されている。また、接続部材160’は、接続部材160と同様に可撓性を有する。
【0055】
このような構成により、バルーン111を採用する内視鏡補助装置100と同様に、医師は、定置された内視鏡補助装置101に対して挿入チューブ210の先端部211を自由に移動させることができる。また、定置機構を螺旋状に構成したことにより、大腸910内の通気性を遮断することがなく、被検者の負担を軽減することが期待できる。なお、内視鏡補助装置100のバルーン111も、大腸910の伸延方向に沿って貫通する通気穴を設けてドーナツ形状に形成してもよい。
【0056】
次に、内視鏡補助装置101を用いて病変920を観察し撤収するまでの手順について説明する。図9は、内視鏡補助装置101が展開されるまでの様子を説明する模式図である。
【0057】
図9(A)は、挿入チューブ210を大腸910内に押し込んで、病変920を探索する様子を示す。内視鏡補助装置101は、挿入チューブ210の先端部211に装着されており、挿入チューブ210の先頭に位置して大腸910内を前進する。このとき、展開索条112は収縮した状態で装着筒150’に装着されている。また、LED140は内壁面911を照明し、それぞれのカメラユニット130は撮像を実行してその画像信号を逐次制御ユニットへ送信している。
【0058】
図9(B)は、観察対象である病変920を発見した後に展開索条112を展開させる様子を示す。図9(A)によって病変920を発見したら、少なくとも一つのカメラユニット130が病変920を捉えられる範囲で挿入チューブ210の前進を停止して、展開索条112を展開させる。
【0059】
展開索条112は芯材として発熱線113を備える。発熱線113は、例えばニクロム線や白金線が用いられ、SMPの伸延方向に沿って埋め込まれている。発熱線113は、接続部材の一部である高電力供給ケーブル163、挿入チューブ210内に配置された高電力供給ケーブル252と連通しており、これらを通じて外部から電力が供給されることにより発熱する。
【0060】
展開索条112は、発熱線113の発熱によりガラス転移温度以上に昇温されるとゴム状に軟化しつつ螺旋の外形が拡張し、やがてその表面は外周面の全体に亘って大腸910の内壁面911と密着し、さらに拡張すると内壁面911を押圧するに至る。展開索条112が内壁面911を押圧するに至ると、電力の供給を停止し、自然冷却によりガラス転移温度より低い温度に戻ると,プラスチック状態に戻り一定の弾性を維持しつつその展開状態を維持する。このような展開状態が維持されている期間において、展開索条112、ひいては内視鏡補助装置101の全体が観察空間に定置される。すなわち、内視鏡補助装置101が大腸910内の定位置から容易に動かないようにすることができる。
【0061】
また、展開索条112の展開に伴い、支持部120は、観察空間の中空に浮いたように展開索条112に支持された態様となる。したがって、支持部120に設置されたデバイスは、定置機構としての展開索条112をいわば足場として利用することにより、観察空間の内壁面911に対して安定的に作用を及ぼすことができる。
【0062】
図9(C)は、内視鏡補助装置101を先端部211から離脱させる様子を示す。上述のように、展開索条112が展開されて観察空間に定置されると、内視鏡補助装置101は、多少の外力では動かなくなる。この状態で医師が挿入チューブ210を若干引き戻すと、嵌合リング121と先端リング212の嵌合が外れ、先端部211が内視鏡補助装置101から離間する。このとき、先端部211内または嵌合リング121内に撓めて押し込まれていた接続部材160’が展開する。
【0063】
図10は、観察対象物に対する協調処置と、処置後の抜出の様子を説明する模式図である。図10(A)は、観察対象物に対する協調処置の一例として、複数の視点により病変920を観察する様子を示す。実質的には図8に示す様子と同様である。図示するように、支持部120に設置された複数のカメラユニット130のうち、上方に向けられたカメラユニット130が病変920を捉えている。また、挿入チューブ210の先端部211は上方へ向けて若干湾曲され、その結果カメラユニット260はおよそ正面に病変920を捉えている。すなわち、病変920は、複数のカメラユニットにより異なる方向から捉えられている。
【0064】
図10(B)は、病変920の観察を終え、挿入チューブ210および内視鏡補助装置101を引き抜く様子を示す。病変920の観察を終えたら、医師は、挿入チューブ210を、接続部材160’の長さよりも大きい所定量を超えて変位するように引っ張る。展開されている展開索条112は、内壁面911との間に生じている摩擦力のために挿入チューブ210と共には変位できず、挿入チューブ210からの引張力が増してSMPが破断する。SMPが破断すると、破断により生じた小片は内壁面911から剥がれ落ちる。これらの小片は発熱線113によって互いに接続されているので、医師によって挿入チューブ210を引き出されると、接続部材160’に連なる支持部120と共に展開索条112も引き摺られて体外へ排出される。あるいは、展開索条112を破断させずに再度ガラス転移温度以上に昇温し、ゴム状に軟化させた状態で体外へ引き出してもよい。
【0065】
なお、展開索条112の素材はSMPに限らず、温度応答性形状記憶合金を採用してもよい。また、形状記憶ポリマーや形状記憶合金を温める素子は発熱線に限らない。例えば、内部に配管を設けて温湯を流通させるように構成してもよい。
【0066】
また、内視鏡補助装置100において先端部211に設置される処置ツールと支持部120に設置されるデバイスの組み合わせが異なる実施例をいくつか説明したが、これらの組み合わせのバリエーションは、内視鏡補助装置101においても同様に採用し得る。また、大腸910内の通気性を遮断することがない展開索条112を用いた定置機構を採用する場合には、定置機構を複数備える内視鏡補助装置も想定し得る。
【0067】
図11は、定置機構を複数備える内視鏡補助装置102が観察対象物に対する協調処置を行う様子を説明する模式図である。内視鏡補助装置102は、第1の定置機構を構成する支持部120aおよび展開索条112aと、第2の定置機構を構成する支持部120bおよび展開索条112bを備える。第1の定置機構と第2の定置機構は、大腸910内の観察空間の異なる位置にそれぞれ定置される。例えば図示するように、第1の定置機構は、病変920よりも前方に定置され、第2の定置機構は、病変920よりも後方に定置される。第1の定置機構の支持部120aと第2の定置機構の支持部120bは、大腸910の伸延方向に沿って互いに向かい合い、第1の定置機構の展開索条112aは支持部120aよりも前方に、第2の定置機構の展開索条112bは支持部120bよりも後方にそれぞれ展開されることが好ましい。
【0068】
このように2つの定置機構が定置されると、支持部120aに設置されたカメラユニット130と支持部120bに設置されたカメラユニット130のそれぞれで病変920を捉えることができる。すなわち、病変920は、複数のカメラユニットにより異なる方向から捉えられている。定期機構の数を増やせば、観察空間に対してより任意の位置にカメラユニットや処置デバイスを配置することができる。
【0069】
挿入チューブ210の先端部211は、展開された展開索条112aの螺旋内部にも、展開された展開索条112bの螺旋内部にも、入り込むことができる。例えば図示するように、展開された展開索条112bの螺旋内部に入り込んで上方へ向けて若干湾曲されると、およそ正面に病変920を捉えることができる。医師は、この状態で先端部211に設けられた鉗子280を操作すれば、良好な視界を確保した状態で適切に病変920を処置することができる。
【0070】
なお、複数の定置機構を備える場合には、接続部材による相互接続が複雑になることから、接続部材を備えない構成にしてもよい。その場合は、それぞれの定置機構は、必要とする電力に対応する二次電池を備えると共に、制御信号や画像信号を送受信する無線ユニットを備えればよい。
【0071】
以上の本実施形態においては、第1の定置機構としてバルーン111を説明し、第2の定置機構として展開索条112を説明したが、これらの特徴を組み合わせた、螺旋状に展開するバルーンを定置機構として用いてもよい。図12は、大腸910の内部空間に挿入された挿入チューブ210の先端部211と、第3の定置機構である螺旋バルーン114を備える内視鏡補助装置103の様子を示す模式図である。具体的には、図2および図8と同様の図であり、内壁面911に生じている病変920を対象部位として観察する様子を示す。図2に示す内視鏡補助装置100および図8に示す内視鏡補助装置101と同様の構成については同一の符番を付すことにより、その説明を省略する。
【0072】
内視鏡補助装置103は、螺旋バルーン114を備える。螺旋バルーン114は、例えばシリコーンゴムによってチューブ状に形成され、エアが注入された膨張時に螺旋を描くように癖付けされている。螺旋バルーン114の一端には、エアを注入するためのエアポート153が設けられており、接続部材160のうちのエアチューブ161の端が接続されている。したがって、第1の定置機構として用いたバルーン111と同様に、螺旋バルーン114は、エアチューブ161を介してエアが供給されると膨張して螺旋状に展開し、螺旋の外形が拡張して内壁面911を押圧するに至る。螺旋バルーン114が内壁面911を押圧するに至ると、エアの供給を停止し、その膨張状態を維持する。このような膨張状態が維持されている期間において、螺旋バルーン114、ひいては内視鏡補助装置103の全体が観察空間に定置される。すなわち、内視鏡補助装置103が大腸910内の定位置から容易に動かないようにすることができる。なお、本実施形態においては、螺旋バルーン114を膨張させる流体としてエアを利用するが、エアでなくてもよく、他の気体や、液体を利用してもよい。
【0073】
螺旋バルーン114は、展開されたときに内周側に配置されるフレキシブル基板115を備える。フレキシブル基板115は、エアポート153の近傍において接続部材160のうちの通信ケーブル162の端が接続されている。フレキシブル基板115は、通信ケーブル162と同様に、通信のための信号ラインと電力供給のための電力供給ラインを含む。
【0074】
支持部120’は、フレキシブル基板115の所定位置に配置されている。支持部120’は、複数配置されていてもよく、本実施形態においては2つの支持部120’が離間して配置されている。支持部120’は、上述の支持部120と同様に、様々なデバイスが配置され得るベース部材としての機能を担う。支持部120’は、容易に変形しない程度に硬質であり、その素材として例えばPEEK(Poly Ether Ether Ketone)樹脂、硬質ポリウレタン、ポリサルフォン(Poly arylether-aryl sulfone)が用いられる。また、支持部120’は、フレキシブル基板115と接触する接触部位の一部で信号ラインおよび電力供給ラインと電気的に接続される。また、フレキシブル基板115は、その調整された形状と弾性力により、螺旋バルーン114のエア注入時の螺旋形状を規定するとともに、エア非注入時の収縮した丸まった状態を規定する。そのような形状規定のために、フレキシブル基板115は液晶ポリマー(LCP: Liquid Crystal Polymer)や銅箔を備えてもよい。
【0075】
図示するように本実施形態においては、それぞれの支持部120’は、カメラユニット130およびLED140を備える。このように螺旋の内側に配置された支持部120’により、内視鏡200の先端部211に設けられたカメラユニット230と併せて様々な方向からの病変920の観察が可能となる。なお、支持部120’に、図6を用いて説明したような牽引機構180を設置してもよい。牽引機構180を設置すれば、病変920を牽引する方向を様々に調整し得る。また、内視鏡補助装置103と内視鏡200の先端部211とは、可撓性のある接続部材160によって接続されているので、医師は、定置された内視鏡補助装置103に対して挿入チューブ210の先端部211をより自由に移動させることができる。なお、通信ケーブル162は、フレキシブル基板を採用してもよい。フレキシブル基板を採用する場合には、より可撓性を高めるために蛇腹状に折り畳んでもよい。
【0076】
内視鏡補助装置103は、螺旋バルーン114が収縮した状態で先端部211の前部に配され、観察空間近傍まで挿通されたオーバーチューブ290の内部を挿入チューブ210に押されて前進し、その端から押し出されて観察空間へ投入される。このとき、内視鏡補助装置103は、先端部211から離脱し、螺旋バルーン114が膨張可能な状態となる。なお、螺旋バルーン114を採用する場合であっても、内視鏡補助装置100と同様に嵌合リング121を用いた離脱機構や、他の離脱機構を備えるように構成してもよい。
【0077】
また、以上説明したいずれの実施形態においても、内視鏡補助装置は、内視鏡200が備える操作部材を通じて操作が可能であり、内視鏡システムを通じて受信した画像信号を視認可能な画像として表示パネルに表示する例を説明した。しかし、システム構成はこれに限らず、内視鏡補助装置に対して独自の操作ユニットを設けてもよいし、画像信号を含む制御信号の送受信も、独自の制御ユニットを介して実行するように構成してもよい。その場合、内視鏡補助装置のカメラユニットが捉えた画像は、制御ユニットに接続された表示パネルに表示してもよいし、内視鏡システムに画像信号として引き渡してもよい。
【0078】
また、内視鏡補助装置を観察空間へ配置する手法は、上記の手法以外にも様々に採用し得る。例えば、まず、先端にバルーンを備えるオーバーチューブに挿入チューブ210を挿し込み、オーバーチューブの先端部に設けられたカメラユニットからの画像を確認しながら、当該バルーンを観察空間の近傍まで到達させる。観察空間の近傍に到達したら、当該バルーンを膨張させ、観察空間に対してオーバーチューブを固定する。その後に一旦挿入チューブ210を抜出する。そして、内視鏡補助装置をオーバーチューブに詰め、その後端部を押すように、挿入チューブ210を再度オーバーチューブに挿し込む。やがて、内視鏡補助装置はオーバーチューブの観察空間側の端から押し出され、観察空間へ投入される。このような手順によっても、内視鏡補助装置を観察空間へ配置することができる。
【符号の説明】
【0079】
100、101、102、103…内視鏡補助装置、111…バルーン、112、112a、112b…展開索条、113…発熱線、114…螺旋バルーン、115…フレキシブル基板、120、120a、120b、120’…支持部、121…嵌合リング、130…カメラユニット、140…LED、150、150’…装着筒、151…通気孔、152…回転リング、153…エアポート、160、160’…接続部材、161…エアチューブ、162…通信ケーブル、163…高電力供給ケーブル、170…切除機構、171…電気メス、172…可動アーム、180…牽引機構、181…クリップ、182…牽引アーム、200…内視鏡、210…挿入チューブ、211…先端部、212…先端リング、213…基材、220…ハンドル、231…操作ダイヤル、232…操作ボタン、240…ケーブル、250…エアポート、251…エアチューブ、252…高電力供給ケーブル、260…カメラユニット、270…LED、280…鉗子、290…オーバーチューブ、910…大腸、911…内壁面、920…病変
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
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図10
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