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特開2024-179064開花制御遺伝子を欠損した植物の開花を促進させる方法、種子形成時期を早期化させる方法、および植物体
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  • 特開-開花制御遺伝子を欠損した植物の開花を促進させる方法、種子形成時期を早期化させる方法、および植物体 図1
  • 特開-開花制御遺伝子を欠損した植物の開花を促進させる方法、種子形成時期を早期化させる方法、および植物体 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024179064
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】開花制御遺伝子を欠損した植物の開花を促進させる方法、種子形成時期を早期化させる方法、および植物体
(51)【国際特許分類】
   A01H 3/00 20060101AFI20241219BHJP
   A01G 2/30 20180101ALI20241219BHJP
   A01H 1/00 20060101ALN20241219BHJP
【FI】
A01H3/00
A01G2/30
A01H1/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023097572
(22)【出願日】2023-06-14
(71)【出願人】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304021831
【氏名又は名称】国立大学法人千葉大学
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100129230
【弁理士】
【氏名又は名称】工藤 理恵
(72)【発明者】
【氏名】迫田 和馬
(72)【発明者】
【氏名】今村 壮輔
(72)【発明者】
【氏名】高谷 和宏
(72)【発明者】
【氏名】チン ドンポー
(72)【発明者】
【氏名】三位 正洋
【テーマコード(参考)】
2B030
【Fターム(参考)】
2B030AB04
2B030AD20
2B030CA11
2B030CA28
2B030CG05
(57)【要約】
【課題】開花制御遺伝子を欠損した植物の開花を促進させる方法、種子形成時期を早期化させる方法、および植物体を提供する。
【解決手段】開花制御遺伝子を過剰発現する植物を台木とし、該開花制御遺伝子が欠損した植物を穂木として、接ぎ木をすることを含む、開花制御遺伝子を欠損した植物の開花を促進させる方法、種子形成時期を早期化させる方法、および植物体が提供される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
開花制御遺伝子を欠損した植物の開花を促進させる方法であって、
前記開花制御遺伝子を過剰発現する植物を台木とし、前記開花制御遺伝子が欠損した植物を穂木として、接ぎ木をすること
を含む方法。
【請求項2】
前記開花制御遺伝子を過剰発現する植物が、前記開花制御遺伝子が導入された組換え植物である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記開花制御遺伝子が、FT遺伝子である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
開花制御遺伝子を欠損した植物の種子形成時期を早期化させる方法であって、
前記開花制御遺伝子を過剰発現する植物を台木とし、前記開花制御遺伝子が欠損した植物を穂木として、接ぎ木をすること
を含む方法。
【請求項5】
前記開花制御遺伝子を過剰発現する植物が、前記開花制御遺伝子が導入された組換え植物である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記開花制御遺伝子が、FT遺伝子である、請求項4または5に記載の方法。
【請求項7】
前記接ぎ木をすることの後にさらに、前記穂木の部分から種子を収穫することを含む、請求項4または5に記載の方法。
【請求項8】
開花制御遺伝子を過剰発現する植物を台木とし、前記開花制御遺伝子が欠損した植物を穂木として含む、接ぎ木された植物体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、開花制御遺伝子を欠損した植物の開花を促進させる方法、種子形成時期を早期化させる方法、および植物体に関する。
【背景技術】
【0002】
作物栽培において、開花時期は生長量と密接に関連しており、また収穫期を決定する主要因といえる。安定した生産量の確保および収穫期の適正化の観点から、開花時期の適切な制御が重要課題となっている。
【0003】
これまで、開花時期の遺伝子工学的な制御を目的として、花芽形成に関わる遺伝子の探索および同定が行われており、そのように同定された遺伝子の一例としてFT(Flowering Locus T)遺伝子が挙げられる(非特許文献1)。植物が、開花に適した日長条件であることを感知すると、葉においてFT遺伝子の発現が誘導または増強され、FTタンパク質が維管束師部で合成される。篩管を通して茎頂に輸送されたFTタンパク質の作用により、花芽形成が誘導される。モデル植物であるシロイヌナズナにおいて、FT遺伝子を過剰発現した株では、長日、短日のどちらの条件下であるかに関わらず開花に要する期間が野生株より大幅に短縮される。一方、FT遺伝子を機能欠損した株では、適切な日長条件においても開花が遅延することが報告されている。
【0004】
以上のことから、作物において開花制御遺伝子の機能を人為的に欠損させることで、花芽形成が遅延し、栄養成長の長期化による生長量増加が期待でき、生長量増加はひいては作物の収穫量増加に繋がり得る。
【0005】
植物の花芽形成を制御するためには、光照射または遮光による日長制御のほか、温度制御が有効になり得ると考えられている(非特許文献2、3)。
【0006】
異なる植物体同士を合体させる接ぎ木技術が知られている。接ぎ木は、土台となる植物(台木)に、異なる植物体の一部(穂木)を接合する技術である(非特許文献4)。接ぎ木によって、台木と穂木の維管束が接続された一キメラ個体である植物体を得ることができる。接ぎ木は例えば、穂木にとっての土壌病害の回避、低温伸長性の付与、養液長期栽培への適応、およびクローン繁殖等を目的として行われる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】FD, a bZIP protein mediating signals from the floral pathway integrator FT at the shoot apex. Science 309, 1052-1056 (2005)
【非特許文献2】キク電照栽培用 光源選定・導入のてびき、2014年3月、農林水産省委託プロジェクト「国産農産物の革新的低コスト実現プロジェクト」「光花きコンソーシアム」編(https://www.naro.go.jp/publicity_report/publication/files/light_source_guidance_201403.pdf)
【非特許文献3】春化処理によるナバナ「はるの輝」の早春どり作型、東北農業研究センター 平成8年度研究成果情報(https://www.naro.affrc.go.jp/org/tarc/seika/jyouhou/H08/tnaes96085.html)
【非特許文献4】野菜の接ぎ木栽培の現状と課題、野菜茶業研究所 研究資料第7号、2011年2月(https://www.naro.go.jp/publicity_report/publication/archive/files/naro-se/yacha_siryou7.pdf)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
開花制御遺伝子を欠損した植物では、日長および温度条件を適切に制御した場合にも花芽形成の阻害や大幅な遅延が生じ、種子が形成されない場合もありうるため、採種には長期間を要する結果となる。これは、遺伝子型の固定や種子増殖の効率を著しく低下させ、作出した植物の品種化の遅延を招くため、これらの観点では問題となる。
本開示は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、開花制御遺伝子を欠損した植物における開花を促進させる方法、種子形成時期を早期化させる方法、および植物体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の一態様は、開花制御遺伝子を欠損した植物の開花を促進させる方法であって、前記開花制御遺伝子を過剰発現する植物を台木とし、前記開花制御遺伝子が欠損した植物を穂木として、接ぎ木をすることを含む方法である。
【0010】
本開示の一態様は、開花制御遺伝子を欠損した植物の種子形成時期を早期化させる方法であって、前記開花制御遺伝子を過剰発現する植物を台木とし、前記開花制御遺伝子が欠損した植物を穂木として、接ぎ木をすることを含む方法である。
【0011】
本開示の一態様は、開花制御遺伝子を過剰発現する植物を台木とし、前記開花制御遺伝子が欠損した植物を穂木として含む、接ぎ木された植物体である。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、開花制御遺伝子を欠損した植物の開花を促進させる方法、種子形成時期を早期化させる方法、および植物体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、実施形態の開花制御遺伝子を欠損した植物の開花を促進させる方法および種子形成時期を早期化させる方法における接ぎ木の手順を示す図である。
図2図2は、野生株、FT過剰発現株、実施形態の接木株、およびFT欠損株における開花と種子形成に関する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本開示の非限定的な実施形態を説明する。本開示は以下の実施形態における例示に限定されない。
【0015】
<開花を促進させる方法>
【0016】
一態様において、開花制御遺伝子を欠損した植物の開花を促進させる方法が提供される。この方法は、開花制御遺伝子を過剰発現する植物を台木とし、開花制御遺伝子が欠損した植物を穂木として、接ぎ木をすることを含む。
【0017】
実施形態において、開花制御遺伝子は植物の開花を制御する遺伝子であり、より具体的には、開花制御タンパク質をコードする遺伝子であり得る。実施形態の開花制御遺伝子は、非細胞自律的(non-cell autonomously)に開花を制御するタンパク質、特に、葉で合成される開花制御タンパク質をコードするものであり得る。また、実施形態の開花制御遺伝子は、非細胞自律的に開花を制御するあるいは葉で合成される開花制御タンパク質をコードする遺伝子の発現を制御する遺伝子であり得る。開花制御遺伝子による開花の制御は通常は開花抑制的制御ではなく開花促進的制御である。
【0018】
開花制御遺伝子の例には、FLOWERING LOCUS T (FT)、CONSTANTS (CO)、FLOWERING LOCUS D(FD)、APETALA1 (AP1)、およびSUPPRESSOR OF OVEREXPRESSION OF CONSTANS 1 ( SOC1)遺伝子が含まれるがこれらに限定されない。本開示においてこれらはモデル植物シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)における慣用的な遺伝子名またはタンパク質名で記載されているが、例えば他の植物で構造的および機能的に対応する遺伝子またはタンパク質が別の呼称を有することもあり得ることが当業者に理解される。別の呼称を有するが構造的および機能的にシロイヌナズナの既知遺伝子またはタンパク質に対応する遺伝子またはタンパク質を当業者は認識することができる。例えばFT遺伝子はイネではHd3aと呼ばれている。従って、特定の遺伝子名またはタンパク質名の使用により、当業者が知る具体的な遺伝子またはタンパク質が特定されるものの、それは植物を特定の種(例えばシロイヌナズナ)に限定することは意味しないし、その遺伝子またはタンパク質をシロイヌナズナ由来のものに限定することも意味しない。実施形態の開花制御遺伝子は、好ましくはFT遺伝子である。FT遺伝子という用語は、シロイヌナズナで同定されたFT遺伝子の、他の植物における対応遺伝子(例えばオーソログ)を包含する。
【0019】
実施形態において、植物の種類は、接ぎ木の実行可能性が当業者に知られたものである限り特に限定されず、陸上植物、水中植物、着生植物、および岩生植物を含み得る。実施形態の植物は例えば、アオイ科、アカザ科、アカネ科、アブラナ科、イネ科、ウリ科、キク科、クワ科、ゴマ科、サトイモ科、ナス科、パパイア科、バラ科、マメ科、ミカン科、モクセイ科、およびユリ科のうちのいずれかであり得るが、これらに限定されない。異なる種間で接ぎ木が可能なことも知られており、当業者は、通常の知識に基づいて台木および接ぎ木の組合せを適宜選択することができる。
【0020】
実施形態の開花制御遺伝子を欠損した植物は、内在性の開花制御遺伝子の機能的発現が、当該植物の開花表現型を変化させる程度に低下または消失している植物である。開花制御遺伝子を欠損した植物は例えば、ゲノム上で当該開花制御遺伝子が削除されている植物、その正常な転写を妨げる変異を有する植物、またはそのコードする全長正常タンパク質の翻訳を妨げる変異を有する植物であり得る。このように、「開花制御遺伝子を欠損する」という用語は、その遺伝子の存在を欠く場合だけでなく、遺伝子自体は存在するがその機能の発現を欠く場合も包含する。開花制御遺伝子を欠損した植物は、転写レベル、翻訳レベル、またはその両方において発現の低下または消失を示し得る。
【0021】
実施形態の開花制御遺伝子を欠損した植物が作出された方法は特に限定されない。具体的には、例えば、相同組換え、突然変異導入、またはクリスパー・キャス9(CRISPR/CAS9)法を含む当業者に知られたゲノム編集技術のいずれかによって開花制御遺伝子を欠損させてもよいし、siRNA、dsRNA等を植物に発現あるいは導入することによって開花制御遺伝子の発現を転写後抑制してもよい。また、トランスポゾンまたはノックイン技術によって、ゲノム上の開花制御遺伝子中に外来核酸配列を挿入することによって当該遺伝子を破壊してもよい。
【0022】
実施形態の接ぎ木は、開花制御遺伝子を過剰発現する植物を台木として行われる。ここで台木とは、当業者に理解されるように、接ぎ木によって接着面で接着される2つの植物の個体のうち下部(すなわち根を含む方の部分)に位置するものをいう。
【0023】
実施形態の接ぎ木において台木として用いられる、開花制御遺伝子を過剰発現する植物は、内在性の開花制御遺伝子を過剰発現するものであり得、あるいは外在性の開花制御遺伝子を過剰発現する組換え植物であり得る。外在性の遺伝子は、植物の個体に人為的に導入されたものであり得、例えば形質転換によって導入されたものでもよい。内在性の開花制御遺伝子の追加コピーが導入されることによって過剰発現が達成された組換え植物でもあり得る。
【0024】
本開示における形質転換とは、外部から遺伝子を導入することにより、対応する非形質転換の個体と比べて当該遺伝子の発現を増加させることを含む。形質転換は、アグロバクテリウム法、遺伝子銃(パーティクルガン)法、電気穿孔(エレクトロポレーション)法、PEG法、相同組換え、およびCRISPR/CAS9法等の種々のゲノム編集技術を含む、当業者に知られた様々な手法によって行うことができる。
【0025】
実施形態の台木において、開花制御遺伝子は機能性のプロモーターと作動可能に連結した遺伝子でありうる。機能性のプロモーターは、植物の個体において開花制御遺伝子の発現を誘導しうるものであれば特に限定されず、好適な例として、カリフラワーモザイクウイルス(CaMV)の35Sプロモーターおよびその改変体を含む。機能性のプロモーターに連結された開花制御遺伝子は、形質転換に好適な任意のベクターの中に含まれ得る。また開花制御遺伝子は、コーディング領域に加えて、非翻訳領域(UTR)を含みうる。過剰発現とは、対応する野生型の植物と比べて当該開花制御遺伝子の発現が有意に増加するように改変または変異された植物における、増加された発現を表す。例えば、開花制御遺伝子を過剰発現する植物は、同条件下の対応する野生型植物と比べて、葉の乾燥重量あたりの当該開花制御遺伝子産物(すなわち開花制御タンパク質)の量が1.5倍以上、2倍以上、5倍以上、または10倍以上であり得る。
【0026】
実施形態の接ぎ木は、開花制御遺伝子が欠損した植物を穂木として行われる。ここで穂木とは、当業者に理解されるように、接ぎ木によって接着面で接着される2つの植物の個体のうち上部(すなわち、根を含まない方の部分)に位置するものをいう。
【0027】
実施形態の接ぎ木において穂木として用いられる、開花制御遺伝子が欠損した植物は、開花を促進させたい(あるいは、後述するように種子形成時期を早期化させたい)対象の開花制御遺伝子が欠損した植物を用いる。
【0028】
実施形態の接ぎ木は、例えば、図1を参照して以下に説明するような手順によって行い得る。
【0029】
任意の植物について、例えばゲノム編集技術、突然変異原処理、または遺伝子組み換え等の遺伝子操作により得られた開花制御遺伝子機能欠損株1(例えばFT欠損株)および開花制御遺伝子過剰発現株2(例えばFT過剰発現株)を用意する。
【0030】
両株について、複数枚の葉が展開した生育段階にある株を選定する。接ぎ木技術自体は当業者に知られており、接ぎ木に適した特定の個体を選定することは当業者の通常の技量の範囲内である。例えば、茎の太さが互いに同程度である個体を選ぶことが好ましいことが当業者に知られている。
【0031】
開花制御遺伝子過剰発現株2について、茎頂の生長点を含む植物体の一部(根を含まない方の部分)を、例えば剃刀等の鋭利な刃物による切断を介して切り取り、残存する植物体(根を含む方の部分)を台木2’として利用する。
【0032】
開花制御遺伝子機能欠損株1について、茎頂の生長点を含む植物体の一部(根を含まない方の部分)を、例えば剃刀等の鋭利な刃物による切断を介して切り取り、切り取られたこの部分を穂木1’として利用する。
【0033】
台木および穂木の切断面同士を接着させ、接ぎ木クリップ3等を利用して接着状態を維持する。接ぎ木クリップおよび接ぎ木テープその他同目的の器具は当業者に知られており、植物体を実質的に損傷させず台木2’と穂木1’の接着状態を維持できる器具であればその具体的種類は限定されない。
【0034】
接合部分がカルス化して台木2’および穂木1’が活着するまでは、キメラである植物体4を保湿性に優れる袋5等で覆い、高湿度な雰囲気を維持することが好ましい。
【0035】
台木2’および穂木1’が活着した後にクリップ3を外し、対象とする植物の開花に適した日長および温度条件において植物体4を栽培することができる。
【0036】
実施形態の、開花を促進させる方法によって、接ぎ木を行わない通常の場合は開花しないまたは開花が遅れる開花制御遺伝子機能欠損株の開花を、促進させることができる(図2)。開花を促進させるという用語は、開花を加速させることのほか、本来なら所定期間内に開花しない植物を、その所定期間内に開花させることも包含し得る。上述した手法によって得られた接ぎ木の植物体では、台木の葉において生合成された多量の開花制御タンパク質が、接合した篩管を通して穂木の茎頂へと輸送されることができる。これにより、開花制御遺伝子を機能欠損する植物においても、花芽形成から開花を含む過程を、接ぎ木していない当該機能欠損植物と比べてはもとより、野生株と比べても短期間に完結させ得る。(図2)
【0037】
<種子形成時期を早期化させる方法>
【0038】
一態様において、開花制御遺伝子を欠損した植物の種子形成時期を早期化させる方法が提供される。この方法は、開花制御遺伝子を過剰発現する植物を台木とし、開花制御遺伝子が欠損した植物を穂木として、接ぎ木をすることを含む。
【0039】
種子形成は開花の後に起こることであり、植物の開花を促進させることは種子形成時期を早期化させることと直接的に関連している。従って、開花を促進させる方法の実施形態に関して提供された説明は、この種子形成時期を早期化させる方法の実施形態にも適用され得、その逆も然りであることが理解されるべきである。実施形態の開花制御遺伝子を欠損した植物の種子形成時期を早期化させる方法は、<開花を促進させる方法>のセクションにおいて記載したものと同様の植物株、台木、穂木および手順を用いて接ぎ木をすることを含むことができる。実施形態における開花制御遺伝子は好ましくはFT遺伝子である。
【0040】
実施形態の開花制御遺伝子を欠損した植物の種子形成時期を早期化させる方法は、さらに、穂木の部分から種子を収穫することを含んでもよい。種子の収穫は、当業者によって知られた標準的な方法によって行われ得る。接ぎ木をするステップから、種子を収穫するステップまでの時間は、接ぎ木をしない対応欠損植物と比べて例えば少なくとも1日、少なくとも2日、少なくとも1週間、または少なくとも1ヶ月間短縮され得る。あるいは、植物の種子形成時期を早期化させる方法は、所定期間内で種子形成または種子収穫が不可能だった欠損植物を用いて、その所定期間内に種子を形成させることまたは種子を収穫することを含み得る。
【0041】
実施形態の、種子形成時期を早期化させる方法によって、接ぎ木を行わない通常の場合は種子を形成しない、または種子形成が遅れる開花制御遺伝子欠損株の種子形成を促進することができる(図2)。上述した手法によって得られた接ぎ木の植物体では、台木の葉において生合成された多量の開花制御タンパク質が、接合した篩管を通して穂木の茎頂へと輸送されることができる。これにより、開花制御遺伝子を機能欠損する植物においても、花芽形成から開花、種子形成までを含む生殖生長の過程を、接ぎ木していない当該機能欠損植物と比べてはもとより、野生株と比べても短期間に完結させ得る。(図2)
【0042】
<植物体>
【0043】
一態様において、開花制御遺伝子を過剰発現する植物を台木とし、前記開花制御遺伝子が欠損した植物を穂木として含む、接ぎ木された植物体が提供される。
【0044】
本実施形態の植物体は、上述した方法の実施形態に関して説明された接ぎ木の操作により作製され得るものであることが理解されるはずである。従って、上記方法の実施形態に関して提供された説明は、当該植物体の実施形態にも適用され得る。実施形態の植物体は、<開花を促進させる方法>および<種子形成時期を早期化させる方法>のセクションにおいて記載したものと同様の植物株、台木、穂木、および手順を用いて接ぎ木をすることで作出され得る。実施形態における開花制御遺伝子は好ましくはFT遺伝子である。
【0045】
上記いくつかの実施形態を参照して本開示を説明したが、本開示は上記いくつかの実施形態によって限定されるものではない。本発明の構成や詳細には、本開示の範囲内で様々な変更をすることができる。
【0046】
<付記>
(付記1)
開花制御遺伝子を欠損した植物の開花を促進させる方法であって、
前記開花制御遺伝子を過剰発現する植物を台木とし、前記開花制御遺伝子が欠損した植物を穂木として、接ぎ木をすること
を含む方法。
(付記2)
前記開花制御遺伝子を過剰発現する植物が、前記開花制御遺伝子が導入された組換え植物である、付記1に記載の方法。
(付記3)
前記開花制御遺伝子が、FT遺伝子である、付記1または2に記載の方法。
(付記4)
開花制御遺伝子を欠損した植物の種子形成時期を早期化させる方法であって、
前記開花制御遺伝子を過剰発現する植物を台木とし、前記開花制御遺伝子が欠損した植物を穂木として、接ぎ木をすること
を含む方法。
(付記5)
前記開花制御遺伝子を過剰発現する植物が、前記開花制御遺伝子が導入された組換え植物である、付記4に記載の方法。
(付記6)
前記開花制御遺伝子が、FT遺伝子である、付記4または5に記載の方法。
(付記7)
前記接ぎ木をすることの後にさらに、前記穂木の部分から種子を収穫することを含む、付記4~6のいずれか一項に記載の方法。
(付記8)
開花制御遺伝子を過剰発現する植物を台木とし、前記開花制御遺伝子が欠損した植物を穂木として含む、接ぎ木された植物体。
【符号の説明】
【0047】
1 開花制御遺伝子欠損株
1’ 穂木
2 開花制御遺伝子過剰発現株
2’ 台木
3 クリップ
4 接ぎ木された植物体
5 袋
図1
図2