(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024179102
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】成膜装置、成膜方法、及び電子デバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 14/54 20060101AFI20241219BHJP
C23C 14/24 20060101ALI20241219BHJP
H10K 50/10 20230101ALI20241219BHJP
H10K 71/16 20230101ALI20241219BHJP
【FI】
C23C14/54 C
C23C14/54 F
C23C14/24 U
H10K50/10
H10K71/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023097650
(22)【出願日】2023-06-14
(71)【出願人】
【識別番号】591065413
【氏名又は名称】キヤノントッキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】菅原 由季
【テーマコード(参考)】
3K107
4K029
【Fターム(参考)】
3K107AA01
3K107BB01
3K107BB08
3K107CC33
3K107CC45
3K107GG04
3K107GG34
3K107GG56
4K029AA02
4K029AA06
4K029AA09
4K029AA11
4K029AA24
4K029BA62
4K029BB03
4K029CA01
4K029DA03
4K029DB14
4K029DB23
4K029EA01
4K029EA02
4K029HA01
4K029HA04
4K029KA01
4K029KA09
(57)【要約】
【課題】蒸着材料を基板に付着させて成膜を行う成膜装置において、基板の面内における膜厚分布の測定結果に基づいて、蒸着材料の放出量の測定結果を補正するための技術を提供する。
【解決手段】基板に材料を蒸着して成膜を行う成膜装置であって、材料を放出する蒸発源と、成膜中に、蒸発源から放出される材料の量を測定するモニタ手段と、モニタ手段の出力値に基づいて、成膜装置を制御する制御手段と、成膜後に、基板に蒸着された膜の面内の膜厚分布を測定する測定手段と、面内の膜厚分布に基づいて、モニタ手段の出力値を補正する補正手段を備えることを特徴とする成膜装置。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板に材料を蒸着して成膜を行う成膜装置であって、
前記材料を放出する蒸発源と、
成膜中に、前記蒸発源から放出される前記材料の量を測定するモニタ手段と、
前記モニタ手段の出力値に基づいて、前記成膜装置を制御する制御手段と、
成膜後に、前記基板に蒸着された膜の面内の膜厚分布を測定する測定手段と、
前記面内の膜厚分布に基づいて、前記モニタ手段の出力値を補正する補正手段と、
を備えることを特徴とする成膜装置。
【請求項2】
前記制御手段による制御は、前記モニタ手段による測定の対象となっている基板自身に対して適用され、
前記補正手段による補正は、前記測定手段により前記面内の膜厚分布を測定された前記基板よりも後に成膜される基板に対して適用される
ことを特徴とする請求項1に記載の成膜装置。
【請求項3】
前記膜厚分布は、前記基板における平面状または直線状の所定範囲における膜厚値の集合である
ことを特徴とする請求項1または2に記載の成膜装置。
【請求項4】
前記蒸発源は、放出される前記材料の量を独立して制御可能な複数の部分を有し、前記複数の部分は第1方向に並んで配置されており、
前記蒸発源は、前記第1方向と交差する第2方向に、前記基板に対して相対的に移動しながら、前記基板に前記材料を蒸着させる
ことを特徴とする請求項1または2に記載の成膜装置。
【請求項5】
前記測定手段は、前記第1方向における前記面内の膜厚分布を測定する
ことを特徴とする請求項4に記載の成膜装置。
【請求項6】
前記モニタ手段は、前記蒸発源が有する前記複数の部分それぞれに対応する複数の水晶モニタを含む
ことを特徴とする請求項4に記載の成膜装置。
【請求項7】
前記補正手段は、前記面内の膜厚分布に基づいて、前記複数の水晶モニタの出力値をそれぞれ補正する
ことを特徴とする請求項6に記載の成膜装置。
【請求項8】
前記補正手段は、前記面内の膜厚分布の目標値と測定値を比較し、前記測定値が前記目標値に近づくように、前記モニタ手段の前記出力値に適用される係数を補正する
ことを特徴とする請求項1または2に記載の成膜装置。
【請求項9】
請求項1または2に記載の成膜装置を用いて電子デバイスを製造する
ことを特徴とする電子デバイスの製造装置。
【請求項10】
基板に材料を蒸着して成膜を行う成膜装置を用いた成膜方法であって、
蒸発源を用いて前記材料を放出するステップと、
モニタ手段を用いて、成膜中に、前記蒸発源から放出される前記材料の量を測定するステップと、
制御手段を用いて、前記モニタ手段の出力値に基づいて、前記成膜装置を制御するステップと、
測定手段を用いて、成膜後に、前記基板に蒸着された膜の面内の膜厚分布を測定するステップと、
補正手段を用いて、前記面内の膜厚分布に基づいて、前記モニタ手段の出力値を補正するステップと、
を有することを特徴とする成膜方法。
【請求項11】
請求項10に記載の成膜方法を用いて電子デバイスを製造する
ことを特徴とする電子デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜装置、成膜方法、及び電子デバイスの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機EL表示装置(有機ELディスプレイ)は、スマートフォン、テレビ、自動車用ディスプレイだけでなく、VR-HMD(Virtual Reality-HeadMount Display)などにその応用分野が広がっている。
【0003】
有機ELディスプレイ等を製造する際に用いられる成膜装置においては、基板に対する蒸着材料の成膜の精度を向上させることが求められ、とりわけ膜厚を測定および管理することが重要である。例えば、成膜室内に設けた水晶振動子モニタを用いて蒸着材料の膜厚及び成膜レートを算出する方法や、光学的な膜厚測定装置によって基板に成膜された蒸着材料の膜厚を測定する方法が知られている。測定した膜厚が不足していた場合には、基板に対し追加の成膜を行うことにより膜厚を補うことが可能である。また、測定した膜厚を目標値と比較して、次回の成膜の制御条件を変更することも可能である。
【0004】
特許文献1には、成膜室内で水晶振動子モニタを用いる膜厚計に蒸着材料が堆積することによる影響を低減するために、成膜完了後に測定した膜厚に基づいて、水晶振動子モニタのツーリングファクター(TF)と呼ばれる係数を補正することを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、成膜室内における基板や蒸発源の構成や配置によっては、基板の面内で膜厚が不均一になる場合があり、有機ELディスプレイ等の品質や精度に影響を及ぼす場合がある。しかしながら、特許文献1においては、基板の面内における膜厚の均一性について十分な検討がなされていなかった。
【0007】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、蒸着材料を基板に付着させて成膜を行う成膜装置において、基板の面内における膜厚分布の測定結果に基づいて、蒸着材料の放出量の測定結果を補正するための技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の構成を採用する。すなわち、
基板に材料を蒸着して成膜を行う成膜装置であって、
前記材料を放出する蒸発源と、
成膜中に、前記蒸発源から放出される前記材料の量を測定するモニタ手段と、
前記モニタ手段の出力値に基づいて、前記成膜装置を制御する制御手段と、
成膜後に、前記基板に蒸着された膜の面内の膜厚分布を測定する測定手段と、
前記面内の膜厚分布に基づいて、前記モニタ手段の出力値を補正する補正手段と、
を備えることを特徴とする成膜装置である。
本発明は、また、以下の構成を採用する。すなわち、
基板に材料を蒸着して成膜を行う成膜装置を用いた成膜方法であって、
蒸発源を用いて前記材料を放出するステップと、
モニタ手段を用いて、成膜中に、前記蒸発源から放出される前記材料の量を測定するステップと、
制御手段を用いて、前記モニタ手段の出力値に基づいて、前記成膜装置を制御するステップと、
測定手段を用いて、成膜後に、前記基板に蒸着された膜の面内の膜厚分布を測定するステップと、
補正手段を用いて、前記面内の膜厚分布に基づいて、前記モニタ手段の出力値を補正するステップと、
を有することを特徴とする成膜方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、蒸着材料を基板に付着させて成膜を行う成膜装置において、基板の面内における膜厚分布の測定結果に基づいて、蒸着材料の放出量の測定結果を補正するための技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図12】実施例2の電子デバイスの製造装置の平面図
【
図15】従来技術の基板の被成膜面側の構成を示す平面図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、この発明の実施の形態について、図面に基づいて説明する。尚、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。実施形態には複数の特徴が記載されているが、これらの複数の特徴の全てが発明に必須のものとは限らず、また、複数の特徴は任意に組み合わせられてもよい。さらに、添付図面においては、同一若しくは同様の構成に同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。すなわち、以下の実施形態は本発明の好ましい構成を例示的に示すものにすぎず、本発明の範囲をそれらの構成に限定されない。また、以下の説明における、装置のハードウェア構成およびソフトウェア構成、処理フロー、製造条件、寸法、材質、形状などは、特に特定的な記載がない限りは、本発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0012】
本発明は、基板に成膜を行う成膜装置又は成膜方法として捉えられる。本発明はまた、かかる成膜装置又は成膜方法を用いた電子デバイスの製造装置又は電子デバイスの製造方法としても捉えられる。本発明はまた、上記の各装置の制御方法としても捉えられる。
【0013】
本発明における基板の材料としては、ガラス、樹脂、金属、シリコンなど任意のものを利用できる。成膜材料としては、有機材料、無機材料(金属、金属酸化物)など任意のものを利用できる。本発明は特に有機材料により形成された有機膜の検査および評価に好適
である。以下の説明における「基板」とは、基板材料の表面に既に1つ以上の成膜が行われたものを含む。本発明の技術は、典型的には、電子デバイスや光学部材の製造装置に適用される。特に、有機EL素子を備える有機ELディスプレイ、それを用いた有機EL表示装置などの有機電子デバイスに好適である。本発明はまた、薄膜太陽電池、有機CMOSイメージセンサにも利用できる。さらに本発明は、上述したようなパネル生産用の基板であってもよいし、パネル生産用ではない基板(典型的にはアライメントマーク付きのガラス基板)であってもよい。
【0014】
[実施例1]
実施例1では、本発明の基本的な実施例として装置の全体構成及び膜厚測定及び制御の基本原理について説明する。
【0015】
<電子デバイス製造装置>
図1は、電子デバイス製造装置1000の一部の構成を模式的に示す平面図である。
図1の電子デバイス製造装置1000は、例えば、スマートフォン用の有機EL表示装置に用いる有機ELパネルの製造に用いられる。
【0016】
電子デバイス製造装置1000は、複数のクラスタ型ユニット(以下単に「ユニット」とも称す)CU1~CU3が連結室を介して連結された製造ラインを構成する装置である。各ユニットは、基板搬送ロボットの周囲に複数の成膜室が配置された構成である。なお、ユニットの数は3つに限られない。また、各クラスタに属するチャンバの数は、以下に記載のものに限られない。また、クラスタ毎にチャンバの種類や数が異なっていてもよい。以下、全てのユニットに共通する説明及びユニットを特定しない説明では、「CUx」のように数字の代わりに「x」で表記した参照符号を用い、個別のユニットについての説明では、「CU1」のように数字を表記した参照符号を用いる(ユニット以外の構成に付した参照符号についても同様に、「x」または数字を用いる)。
【0017】
図1は、電子デバイス製造装置全体において、基板に蒸着材料を蒸着して成膜を行う成膜装置の一部を示している。成膜装置の上流には、例えば、基板のストッカ、加熱装置、洗浄等の前処理装置等が設けられてもよく、成膜装置の下流には、例えば、封止装置、加工装置、処理済み基板のストッカ等が設けられてもよく、それら全体を合わせて電子デバイス製造装置が構成されている。基板は、上流側から下流側に、矢印Fの方向に沿う流れで搬送される。
【0018】
クラスタ型ユニットCUxは、中央の搬送室TRxと、搬送室TRxの周囲に配置された複数の成膜室EVx1~EVx4及びマスク室MSx1~MSx2を有する。隣接する2つのユニットCUxとCUx+1の間は連結室CNxで接続されている。クラスタ型ユニットCUx内の各室TRx、EVx1~EVx4、MSx1~MSx2、及び、連結室CNxは空間的につながっており、その内部は真空又は窒素ガス等の不活性ガス雰囲気に維持されている。本実施例においては、ユニットCUx及び連結室CNxを構成する各室は不図示の真空ポンプに接続されており、それぞれ独立に真空排気が可能となっている。それぞれの室は「真空チャンバ」又は単に「チャンバ」とも呼ばれる。なお、本明細書において「真空」とは、大気圧より低い圧力の気体で満たされた状態をいう。
【0019】
搬送室TRxには、基板S及びマスクMを搬送する搬送手段としての搬送ロボットRRxが設けられている。搬送ロボットRRxは、例えば、多関節アームに、基板S及びマスクMを保持するロボットハンドが取り付けられた構造を有する多関節ロボットである。クラスタ型ユニットCUx内において、基板Sはその被成膜面が重力方向下方を向いた水平状態を保ったまま、搬送ロボットRRxや後述する搬送ロボットRCx等の搬送手段によって搬送される。搬送ロボットRRxは、上流側のパス室PSx-1、成膜室EVx1~
EVx4、下流側のバッファ室BCxの間の基板Sの搬送を行う。また、搬送ロボットRRxは、マスク室MSx1~2と成膜室EVx1~4の間のマスクMの搬送を行う。
【0020】
マスク室MSx1~MSx2は、成膜に用いられるマスクMと使用済みのマスクMがそれぞれ収容されるマスクストッカが設けられた室である。蒸着成膜の場合、マスクMとしては、多数の開口が形成されたメタルマスクが好ましく利用される。成膜室EVx1~EVx4は、基板Sの表面(被成膜面)に膜を形成するための室である。
【0021】
連結室CNxは、ユニットCUxとユニットCUx+1とを接続し、ユニットCUxで成膜された基板Sを後段のユニットCUx+1に受け渡す機能を有している。本実施例の連結室CNxは、上流側から順に、バッファ室BCx、旋回室TCx、及びパス室PSxから構成される。ただし、連結室CNxの構成はこれに限られず、バッファ室BCx又はパス室PSxのみで構成されていてもよい。
【0022】
バッファ室BCxは、ユニットCUx内の搬送ロボットRRxと、連結室CNx内の搬送ロボットRCxとの間で、基板Sの受け渡しを行うための室である。バッファ室BCxは、複数の基板Sを一時的に収容することで、基板Sの搬入速度や搬入タイミングを調整する機能をもつ。
【0023】
旋回室TCxは、基板Sの向きを180度回転させるための室である。旋回室TCx内には、バッファ室BCxからパス室PSxへと基板Sを受け渡す搬送ロボットRCxが設けられている。搬送ロボットRCxは、バッファ室BCxで受け取った基板Sを支持した状態で180度旋回しパス室PSxに引き渡す。これにより、成膜室に基板Sを搬入する際の向きが、上流側のユニットCUxと下流側のユニットCUx+1とで同じ向きになるため、基板Sに対する成膜のスキャン方向やマスクMの向きを各ユニットCUxにおいて一致させることができる。
【0024】
パス室PSxは、連結室CNx内の搬送ロボットRCxと、下流側のユニットCUx+1内の搬送ロボットRRx+1との間で、基板Sの受け渡しを行うための室である。本実施例では、パス室PSx内に膜厚測定部が配置されている。
【0025】
成膜室EVx1~EVx4、マスク室MSx1~MSx2、搬送室TRx、バッファ室BCx、旋回室TCx、パス室PSxの間には、開閉可能な扉(例えば、ドアバルブ又はゲートバルブ)が設けられていてもよいし、常に開放された構造であってもよい。
【0026】
<真空蒸着装置>
図2は、成膜室EVx1~EVx4に設けられる真空蒸着装置200の構成を模式的に示している。真空蒸着装置200は、マスクMを保持するマスクホルダ201、基板Sを保持する基板ホルダ202、蒸発源ユニット203、移動機構204、成膜レートモニタ205、成膜制御部206を有する。マスクホルダ201、基板ホルダ202、蒸発源ユニット203、移動機構204、及び成膜レートモニタ205は、真空チャンバ207内に設けられる。成膜制御部206は、制御手段および補正手段として機能し、基板Sに形成される膜厚が目標値になるように、成膜レートモニタ205の出力値に基づき蒸発源ユニット203や移動機構204を制御することにより真空蒸着装置200による成膜を制御する。
【0027】
真空蒸着装置200はさらに、アライメント機構としての、位置調整機構350および撮像装置としてのカメラ370をさらに有する。位置調整機構350は、マスクホルダ201及び基板ホルダ202の少なくとも一方を移動させる機能を持つ。位置調整機構350は、基板Sの被成膜面と略平行な面内で基板ホルダ202をXY移動及びθ回転させる
ことで、基板SのマスクMに対する相対位置を調整する。ここでXY方向は基板Sの被成膜面と平行な面内での平行でない2方向であり、θ方向はXY平面に垂直なZ方向周りの回転方向である。成膜制御部206は、カメラ370により撮像された画像から、基板Sに形成された基板アライメントマークと、マスクMに形成されたマスクアライメントマークを検出する。そして、基板アライメントマークとマスクアライメントマークの距離が所定範囲内に収まるように、位置調整機構350を用いて基板Sを位置調整する。これにより、マスクホルダ201に保持されたマスクMと基板ホルダ202に保持された基板Sの位置合わせ(アライメント)が行われる。
【0028】
基板Sは、水平状態に保持されているマスクMの上面に、被成膜面を下にして載置される。マスクMの下方には、蒸着材料を放出する蒸発源ユニット203が設けられている。蒸発源ユニット203は、概略、蒸着材料を収容する容器(坩堝)、容器内の蒸着材料を加熱するヒータ等を備える。また、必要に応じて、蒸発源ユニット203に、加熱効率を高めるためのリフレクタや伝熱部材、シャッタ等を設けてもよい。この例の真空蒸着装置200は、蒸発源ユニット203が備える坩堝内に有機材料等の蒸着材料を収容している。
【0029】
移動機構204は、蒸発源ユニット203を基板Sの被成膜面と平行な方向(矢印のスキャン方向N)に移動(スキャン)させる手段である。本実施例では1軸の移動機構204を用いた往復スキャン方式を例示したが、蒸発源ユニット203の形状や基板Sのサイズによっては2軸以上の移動機構を用いたラスタスキャン方式でもよい。また、成膜レートは基板Sと蒸発源ユニット203の相対速度に応じて変化するため、基板Sに対して蒸発源ユニット203を相対的に移動させる代わりに、基板Sを平面内で蒸発源ユニット203に対して相対的に移動させる構成としてもよい。
【0030】
図3は、真空蒸着装置200の内部の上側から、蒸発源ユニット203と移動機構204を見た様子を示す透過平面図である。蒸発源ユニット203は、移動機構204のレール上を往復可能に構成されている。本実施例の蒸発源ユニット203は、複数の加熱ユニット209a~209cを備えることで、成膜速度を向上させることができ、また、坩堝ユニットごとに異なる材料を収容して蒸発させるようにすることができ、混合膜や積層膜を形成することができる。それぞれの加熱ユニット209は複数のノズル212を備えており、基板Sの被成膜面に対して広範囲に蒸着材料を放出可能となっている。ノズル212から放出された蒸着材料により成膜が可能な基板上の範囲を、成膜領域SAとして破線で示す。本実施例における成膜領域SAは、蒸発源ユニット203から放出された蒸着材料が、複数の加熱ユニット209a~209cとの位置関係によらず均一な膜を形成可能な領域であり、製品として利用されるパネルを切り出す対象となる領域となる。本実施例では、基板Sの成膜領域SAにおける膜厚分布を考慮した膜厚測定が行われる。
【0031】
図4は、蒸発源ユニット203に含まれる1つの加熱ユニット209のY方向における断面図であり、
図3のB-B断面を示す。加熱ユニット209は、成膜レートを独立して制御可能な2つの坩堝210a、210bを含む。筐体216に内蔵されたワイヤヒータ等の加熱手段が坩堝を加熱することで、坩堝内の蒸着材料が蒸発し、ノズル212により制御された方向に材料が飛翔して基板Sに付着することで、成膜が実施される。坩堝210aと坩堝210bが並ぶ方向を第1方向とすると、蒸発源ユニット203の移動方向は、第1方向に交差する第2方向である。
【0032】
蒸発源ユニット203には、モニタ手段として、坩堝210aに対応する水晶モニタである成膜レートモニタ205aと、坩堝210bに対応する水晶モニタである成膜レートモニタ205bが含まれている。成膜レートモニタ205は加熱ユニット209と共に移動しながら、飛翔した蒸着材料の付着を受ける。成膜レートモニタ205の機能について
は後述する。成膜制御部206は、坩堝210aと坩堝210bを、独立にレート制御することができる。すなわち成膜制御部206は、坩堝210aに設けられたヒータと坩堝210bに設けられたヒータに通電する電流を独立に制御可能である。そのため、成膜レートモニタ205aの測定レートに基づく坩堝210aの温度調整と、成膜レートモニタ205bの測定レートに基づく坩堝210bの温度調整を独立に行うことができる。
【0033】
なお、蒸発源ユニット203の構成によっては、成膜レートモニタ205のクロストーク対策を行うことも好ましい。例えば、坩堝210aから放出された蒸発材料が逆サイドの成膜レートモニタ205bに付着することによる測定への影響を低減させたい場合、成膜レートモニタ205bの周囲に、所定の方向以外からの蒸発材料の入射を規制するようなカバーを設けてもよい。これにより、成膜レートモニタ205bに対応する坩堝210bに由来する成膜レートを精度良く測定できる。
【0034】
なお、本実施例では基板SをマスクMの上面に載置するものとしたが、基板SとマスクMとが十分に密着する構成であれば、基板SをマスクMの上面に載置しなくてもよい。例えば基板SをマスクMの下面に密着させ、上方から蒸着材料を飛翔させる構成や、密着させた基板SとマスクMを縦向き(Z方向に平行)に配置する構成でもよい。また、不図示の磁石ユニットを基板Sの被成膜面とは反対側の面に接近させて、マスクMのマスク箔を磁力によって吸引し、基板SへのマスクMの密着性を高めてもよい。また、基板Sを冷却する冷却ユニットを設けてもよく、磁石ユニットがその冷却ユニットを兼ねていてもよい。また、蒸発源ユニット203は、複数の蒸発源ユニット又は容器を並べて配置し、それらを一体として移動する構成とすることもできる。このような構成によれば、蒸発源ユニット又は容器ごとに異なる材料を収容して蒸発させるようにすることができ、混合膜や積層膜を形成することができる。
【0035】
成膜レートモニタ205は蒸発源ユニット203からの蒸着材料の放出量を測定するモニタ手段である。本実施例の成膜レートモニタ205は、水晶発振式成膜レートモニタであり、蒸発源ユニット203と共に移動し、蒸発源ユニット203から放出される蒸着材料が蒸着(堆積)し、かつ蒸着材料が基板Sに到達して薄膜を形成することを妨げない位置に配置される水晶振動子を有する。水晶振動子に蒸着した材料の量に応じて、水晶振動子の共振周波数が変化する。成膜レートモニタ205は、水晶振動子の電極上の蒸着材料の蒸着量(膜厚又は堆積した蒸着材料の質量)と水晶振動子の共振周波数(固有振動数)の変化との関係に基づき、単位時間あたりの蒸着材料の付着量である成膜レート(蒸着レート)[Å/s]を算出する。すなわち、成膜レートモニタ205は、単位時間当たりの水晶振動子の共振周波数の変化を測定し、それに対応した蒸着材料の蒸着量を成膜レートとして出力する。成膜レートは、蒸発源ユニット203からの蒸着材料の単位時間の放出量(放出速度)を間接的に示す量であり、その意味で成膜レートモニタ205は蒸発源ユニット203からの蒸着材料の放出量の測定値を取得するモニタ手段の一例である。
【0036】
図5は成膜レートモニタ205の概略構成を示す図である。成膜レートモニタ205は、モニタヘッド11、遮蔽部材12、水晶振動子13(13a、13b)、水晶ホルダ14を備える。
【0037】
モニタヘッド11は、その内部に、円周方向に等間隔で配置された複数の水晶振動子13(13a、13b)を支持する水晶ホルダ14が組み込まれている。モニタヘッド11には、水晶振動子13よりも僅かに大きいモニタ開口11aが一つ設けられており、水晶ホルダ14に設けられた複数の水晶振動子のうちの1つ(水晶振動子13a)が、モニタ開口11aを介して外部(蒸発源ユニット203)に暴露され、他の水晶振動子13bは、使用済み又は交換用の水晶振動子として、モニタヘッド11の内部に隠れる。水晶ホルダ14は、不図示のサーボモータのモータ軸16aに連結され、回転駆動される。これに
より、モニタ開口11aを介して外部に暴露される水晶振動子13を順次切り替えることができる。モニタ開口11aを介して外部に暴露されている水晶振動子13が、蒸着材料400の蒸着量が所定量を超えて寿命に到達すると、水晶ホルダ14が回転して、新しい水晶振動子13を、モニタ開口11aと重なる位置に移動させる。これにより、水晶振動子13は交換可能に構成されている。
【0038】
遮蔽部材12は、略円盤状の部材であり、その中心が不図示のサーボモータのモータ軸15aに連結されており、サーボモータによって回転駆動される。遮蔽部材12には扇型の開口スリット12aが設けられており、遮蔽部材12が回転することで、モニタヘッド11のモニタ開口11aと遮蔽部材12の開口スリット12aとが重なる状態と重ならない状態とが交互に変化する。モニタ開口11aと開口スリット12aとが重なる状態では、水晶振動子13aへの蒸着材料の蒸着が許容され、重ならない状態では、遮蔽部材12において開口スリット12aを除いた部分である遮蔽部12bによって水晶振動子13aへの蒸着材料400の蒸着が妨げられる。
【0039】
<膜厚測定部>
図6は、パス室PSxの構成を模式的に示す断面図であり、
図1のA-A線による断面を示す。パス室PSxは、ユニットCUxの下流に配置され、ユニットCUxの成膜室で成膜が完了した基板Sが搬入されるチャンバである。パス室PSxの成膜装置300の真空チャンバ内部には、搬送ロボットRCxにより搬送されてきた基板Sを保持する基板トレー301と、基板Sにおける蒸着材料の膜厚を測定する測定手段としての膜厚測定部310が配置されている。すなわち膜厚測定部310は、成膜室EVx1~EVx4での成膜が完了した基板Sが搬送ロボットRCxにより搬送された先のパス室PSxに配置されている。
【0040】
なお、パス室PSxに膜厚測定部310を配置するのではなく、膜厚測定のための検査室を設けてもよい。また、パス室PSxに膜厚測定部310を配置するかどうかを、上流側のクラスタ型ユニットCUxでの処理の内容に応じて決めてもよい。例えば、ユニットCUxで発光層が成膜される場合に膜厚測定部310を配置する、ユニットCUxで電極間層が成膜される場合に膜厚測定部310を配置する、ユニットCUxで画素ごとのファインマスクを使う場合に膜厚測定部310を配置する、等である。
【0041】
膜厚測定部310は、膜厚を光学的に測定するセンサであり、本実施例では反射分光式の光学センサを有する膜厚計を用いる。膜厚測定部310は、概略、膜厚評価ユニット311、センサヘッド312、センサヘッド312と膜厚評価ユニット311を接続する光ファイバ313から構成される。センサヘッド312は、真空チャンバ内の基板トレー301の下方に配置されており、光ファイバ313を介して膜厚評価ユニットに接続されている。センサヘッド312は光ファイバ313を経由して導かれた光の照射エリアを所定のエリアに設定する機能を有しており、光ファイバ及びピンホールやレンズ等の光学部品を用いることができる。
【0042】
膜厚測定部310のセンサヘッド312は、設置台314とレール316を含む移動機構に搭載されて、基板Sと平行な面内の様々な位置に移動することが可能である。これにより、基板Sの面内における膜厚分布を測定することを可能としている。しかし、1つの膜厚測定部310が移動する方法には限定されず、どのような方法であっても、面内での複数箇所において膜厚を測定して膜厚分布を出力できればよい。例えば、1台で広範囲を測定可能な膜厚測定部を用いてもよいし、複数の膜厚測定部を配置して膜厚分布を測定してもよい。
【0043】
図7は膜厚測定部310のブロック図である。膜厚評価ユニット311は、光源320
、分光器321、測定制御部322を有する。光源320は測定光を出力するデバイスであり、例えば重水素ランプやキセノンランプやハロゲンランプ等が用いられる。光の波長としては、200nmから1μmの範囲を用いることができる。分光器321はセンサヘッド312から入力された反射光を分光しスペクトル(波長毎の強度)の測定を行うデバイスであり、例えば、分光素子(グレーティング、プリズム等)と光電変換を行うディテクタ等で構成される。測定制御部322は光源320の制御及び反射スペクトルに基づく膜厚の算出等を行うデバイスである。
【0044】
光源320から出力された測定光は、光ファイバ313を経由してセンサヘッド312に導かれ、センサヘッド312から基板Sに投射される。基板Sで反射した光はセンサヘッド312から光ファイバ313を経由して分光器321に入力される。このとき、基板S上の薄膜の表面で反射した光と、薄膜とその下地層との界面で反射した光とが互いに干渉する。このようにして薄膜による干渉や吸収の影響を受けることで、反射スペクトルは、光路長差、すなわち膜厚の影響を受ける。測定制御部322によってこの反射スペクトルを解析することによって、薄膜の膜厚を算出することができる。
【0045】
上記の反射分光方式の膜厚評価は、数nmら数100nmの厚さの有機膜を、短時間かつ高精度で評価可能であることから、有機EL素子の有機層の評価として好ましい手法である。ここで、有機層の材料としては、αNPD:α-ナフチルフェニルビフェニルジアミン等の正孔輸送材料、Ir(ppy)3:イリジウム-フェニルピリミジン錯体等の発光材料、Alq3:トリス(8-キノリノラト)アルミニウムやLiq:8-ヒドロキシキノリノラト-リチウム)等の電子輸送材料等が挙げられる。さらには、上述の有機材料の混合膜にも適用してよい。分光干渉計はモータを必要としないため、高い真空度が求められる蒸着装置内でも利用しやすく、基板の近くで測定できるという利点がある。しかし、膜厚測定部310はこれに限定されず、エリプソメータ等でもよい。
【0046】
ここで、
図15を参照して、従来技術における膜厚測定部310による測定に関する課題について説明する。
図15は、従来の基板Sの被成膜面側の構成例を示している。基板Sの中央部には、蒸着材料の付着によって均一な成膜が行われる必要がある成膜領域SAが設けられている。一方、基板Sにおいて、成膜時の蒸発源ユニットのスキャン方向Nの前方には、膜厚測定エリア330が設けられている。各成膜室における成膜処理時に、膜厚測定エリア330にも成膜を行うことで、膜厚測定エリア330内に膜厚測定用の薄膜(測定用パッチ331(331a~331f))が形成される。これは、各成膜室で用いられるマスクMに、予め測定用パッチ331のための開孔を形成しておくことにより実現できる。このような従来の方法においては、測定用パッチ331における膜厚が測定される。しかし、実際に有機ELパネル製造に用いられる成膜領域SAの内部でも膜厚のばらつきが発生する場合があり、特に近年の大型化した基板においては、測定用パッチ331の膜厚のみを元にツーリングファクターを補正しても正確さに欠ける場合がある。そのため、基板面内の膜厚分布を測定し、ツーリングファクター補正に反映することが必要となる。
【0047】
そこで本発明では、
図6を参照して述べたように、膜厚測定部310が基板Sの面内における膜厚分布を測定可能な構成としている。これにより測定用パッチ等、基板Sの一部の領域だけではなく、実際に有機ELパネル製造に用いられる成膜領域SAでの膜厚を測定し、ツーリングファクターの補正に用いることが可能となる。なお、本実施例では実際のパネル製造に用いられる成膜領域における測定を行ったが、マスク開口形状等によっては、この方式を用いる場合に工夫が必要である。例えば、ファインメタルマスク(FMM)方式のような場合は、実際のパネル製造用のマスクを用いて成膜した基板のパネル製造に用いられる成膜領域において、材料の付着箇所と付着していない箇所が短い距離で入れ替わり、パネル範囲の膜厚を測定できないことがある。この場合、実際の製造用のマスク
の代わりに、開口が大きく開いたオープンマスクを用いて成膜を行った基板を、膜厚分布の測定対象としてもよい。
【0048】
なお「膜厚分布」とは、基板Sにおいて一定の面積を持つ平面状の所定範囲、または一定の長さや距離をもつ直線状の所定範囲における、膜厚値の集合を指す。すなわち、必ずしも基板Sまたは成膜領域SA全てにおいて膜厚を取得しなくても、ツーリングファクター補正を行うことはできる。また、膜厚値を求める際の座標間隔は任意であり、補正を行うために必要な間隔で膜厚値を取得できればよい。
図8は、膜厚分布の取得対象領域の例を示す平面図であり、本実施例の基板Sの被成膜面側の構成例を示している。膜厚分布を取得する際には、基板S全体(または成膜領域SA全体)において膜厚値を取得してもよいし、一部の領域(例えば、1枚のパネルを切り出すエリアに相当する領域340)を対象としてもよい。また、直線上の領域を対象としてもよく、
図8では成膜時に基板に対して蒸発源ユニットが移動する方向(スキャン方向N)と直交する方向(直交方向C)に延在する領域341において、所定の間隔で膜厚値を取得し、膜厚分布としている。
【0049】
なお、
図15のような測定用パッチ331a~331fを用いる場合でも、成膜室ごとの膜厚分布を求めることも可能である。その場合、それぞれの測定用パッチを成膜室の数に対応する数の小領域にさらに分割し、成膜室ごとに、対応する小領域のみに成膜を行う。これにより、各成膜室についてY方向に並ぶように6点の膜厚データを測定できるので、補間処理を行うことで膜厚分布を取得することが可能となる。
【0050】
図9は、膜厚分布の一例である。
図9は、
図3~
図4に示した構成を持つ蒸発源ユニット203を用いて成膜が行われた基板Sの膜厚分布を、
図8の領域341の範囲において測定した結果を示す。横軸は測定範囲における基板上の位置を、装置固有の単位(arbitrary unit)で示し、領域の中心Cの座標を0、Y方向+を正値、Y方向-を負値、としている。また縦軸は膜厚(オングストローム)を示している。図中の実線が、測定された膜厚値に相当する。また点線は、加熱ユニット209の坩堝210aに由来する厚みを示し、一点鎖線は、坩堝210bに由来する厚みを示している。このように本実施例のパス室PSxにおいては、基板Sの膜厚を一箇所のみではなく、分布として測定することができる。
【0051】
<成膜制御>
つづいて、前述した水晶モニタのツーリングファクター補正について述べる。成膜レートモニタ205により出力される成膜レートの測定値(測定レート)は、成膜中の基板Sにおける実際の成膜レート(実レート)と一致しない場合がある。その主な原因は、蒸発源ユニット203に対する成膜レートモニタ205の水晶振動子の位置と基板Sの位置とが同じではないことによる。このずれを解消するために、ツーリングファクター(TF)と呼ばれる係数を用いて、成膜レートモニタ205により出力される測定レートを補正することが一般に行われている。
【0052】
しかしながら、ツーリングファクターを用いて補正してもなお、測定レートと実レートとがずれることがある。これは、蒸着材料の蒸着量と共振周波数の変化量との関係は一定ではなく、共振周波数又は蒸着量に依存して変化することによる。一般に、水晶振動子における蒸着量が増加するにつれて水晶振動子の共振周波数は減少していく。そして、一定の蒸着量に対する水晶振動子の共振周波数の変化量は変化する。換言すると、水晶振動子の共振周波数の変化量が一定であっても、それまでに水晶振動子に堆積した蒸着材料の総量に応じて、当該変化量を生じさせるための成膜量が変わってくる。そのため、水晶振動子の交換直後には測定レートと実レートが一致していても、経時的に測定レートと実レートのずれが大きくなっていく。
【0053】
また、水晶振動子の共振周波数の変化量と蒸着材料の蒸着量との関係には水晶振動子の個体差によるばらつきが存在するため、ある水晶振動子では測定レートと実レートとが一致していても、別の水晶振動子に交換すると測定レートと実レートとがずれることもある。ツーリングファクターとして成膜装置の構成に応じて設定される定数を用いた場合、このような水晶振動子モニタの経時変化や個体差によるばらつきに対応することができないため、測定レートに基づく成膜制御によって所望の精度で成膜を行えない可能性がある。
【0054】
そこで本実施例の成膜装置では、
図10の制御ブロック図に示す制御を行っている。ここで、成膜室EVにおいては基板S2の成膜レート測定および成膜が行われており、パス室PSにおいては、基板S2より以前に成膜が行われ、成膜が完了した後にパス室PSに搬入された基板S1の、膜厚測定が行われている。成膜制御部206は制御手段として機能することが可能であり、制御Aとして、成膜レートモニタ205による測定レートに基づいて、基板S2の成膜を制御している。成膜制御部206はまた補正手段として機能することが可能であり、制御Bとして、膜厚測定部310から基板S1の膜厚の測定値を取得し、基板S2の成膜制御を基板S1の膜厚の測定値に基づいて補正する。
【0055】
成膜レートモニタ205は成膜室EV内に設けられているため、基板S2に対する制御Aは、レートの測定対象となっている基板自身の成膜中にリアルタイムで実施できる。これに対し、膜厚測定部310は成膜室EVの後段のパス室PSに設けられ、成膜が完了した基板S1がパス室PSに搬入された後でなければ膜厚の測定値を取得することができない。従って、基板S2に対する制御Bは、それ以前に行われた基板S1の膜厚測定結果に基づいて実施される。
【0056】
また一般に、膜厚測定部310が新たな測定値を出力するために要する時間と比較して、成膜レートモニタ205は短時間で新たな測定値を出力可能である。そのため、成膜レートモニタ205による測定レートに基づくフィードバック制御(制御A)と膜厚測定部310による膜厚の測定値に基づくフィードバック制御(制御B)とでは新たな測定値がフィードバックされる頻度が大きく異なる。成膜レートモニタ205による測定レートは、水晶振動子の特性の経時変化によって、実レートに対しずれが生じることがあるが、制御Bでは、このずれを膜厚測定部310による膜厚の測定値に基づいて補正する。
【0057】
成膜レートモニタ205の測定レートに基づく制御Aは、測定レートが目標値に近づくように、真空蒸着装置200の種々の動作パラメータを制御することにより行われる。制御対象となる真空蒸着装置200の動作パラメータとしては、例えば、蒸発源ユニット203のヒータ温度(ヒータ電流)やシャッタ開度、移動機構204による蒸発源ユニット203のスキャン速度、成膜時間、スキャン回数等がある。例えば、スキャン速度を上げると成膜レートは小さくなり、スキャン速度を下げると成膜レートは大きくなる。ヒータに流れる電流を増加させると発熱量が増大して蒸着材料の放出量が増えるため成膜レートは大きくなり、電流を減少させると成膜レートは小さくなる。
【0058】
膜厚測定部310による膜厚値に基づくフィードバック補正(制御B)は、膜厚値に基づいて測定レートを補正することにより行われる。この補正は、水晶振動子の共振周波数の変化量の所定単位量に対して、出力する成膜量の測定値を変更することにより行われる。具体的に、補正後のツーリングファクターをTF2、補正前のツーリングファクターをTF1、膜厚測定値をTHm、膜厚目標値をTHtとすると、TF2=TF1×(THm/THt)、となる。また、補正後の測定レートをR2、補正前の測定レートをR1とすると、R2=RF2×R1、となる。成膜制御部206が、この補正後の測定レートR2を用いて蒸発源ユニット203や移動機構204をフィードバック制御することにより、水晶振動子の共振周波数と蒸着材料の蒸着量との関係の経時変化を加味した成膜制御を行うことができる。
【0059】
例えば、目標膜厚100Å、目標レート1.000Å/s、設定蒸着時間を100秒間とする。この場合、成膜制御部206は、成膜レートモニタ205による測定レートが1.000Å/sに近づくように、蒸発源ユニット203や移動機構204をフィードバック制御する。補正前のツーリングファクターTF1を100%とし、成膜が完了した基板S1の蒸着材料の膜厚を膜厚測定部310で測定した結果、測定膜厚が98Åであったとする。この場合、成膜レートモニタ205による測定レートは1.000Å/sであったが実レートは0.98Å/sであったことを意味する。すなわち、水晶振動子の周波数変化から算出した測定レートは過大であったことになる。上記の式によれば、補正後のツーリングファクターTFcalは98%となり、水晶振動子の周波数変化から算出される補正後の成膜レートは0.98Å/sのように実レート通りの値が出力されるようになる。この測定レートが目標レート1.000Å/sに近づくように蒸発源ユニット203や移動機構204のフィードバック制御が行われれば、例えば蒸発源ユニット203のヒータ温度を上昇させる制御が行われることになり、結果として蒸発量が増加し、実レートを目標レート1.000Å/sに近づけることができる。
【0060】
ツーリングファクターは水晶振動子の共振周波数と水晶振動子における蒸着材料の蒸着量との関係を示す値であるので、ツーリングファクターの補正は水晶振動子の共振周波数と水晶振動子における蒸着材料の蒸着量との関係の補正の一例である。なお、膜厚測定部310による膜厚の測定値に基づく成膜制御の補正は、測定レートに基づいて行われる真空蒸着装置200の動作パラメータの調整量(制御量)を膜厚の測定値に基づいて補正することにより行ってもよい。さらに、成膜レートモニタ205による測定レートを膜厚の測定値に基づいて補正することと、真空蒸着装置200の動作パラメータ(例えばヒータ電流値)の調整量を膜厚の測定値に基づいて補正することとを組み合わせてよい。
【0061】
なお、蒸発源ユニット203が加熱ユニット209a~209cのように複数の加熱ユニットを備えている場合に、各加熱ユニットを同時に稼働させて膜厚分布測定を行ってもよいし、加熱ユニットごとに膜厚分布測定を行っても良い。加熱ユニットごとに測定する方法として、例えば各加熱ユニットを個別に温度制御可能な場合は、対象となる加熱ユニットのみ昇温させてもよい。また、各加熱ユニットを個別にシャッタにより閉鎖可能な場合は、測定対象以外の加熱ユニットのシャッタを閉じることにより蒸着材料が飛翔しないようにしてもよい。また、測定対象は単一の材料で成膜された単層膜であってもよいし、複数の材料により成膜された混合膜や積層膜について材料毎の膜厚を測定してもよい。
【0062】
また、成膜装置が複数のクラスタ型ユニットCUxを有する場合、膜厚測定部310は各クラスタ型ユニットCUxの後段に設けてもよいが、必ずしも全てのパス室PSxに膜厚測定部310を配置する必要はない。膜厚測定部310は、少なくとも製造ラインの最下流のクラスタ型ユニットCUxの後段にあるパス室PSxに設ければよい。一部のクラスタ型ユニットCUxの後段にのみ膜厚測定部310を設ける場合、ある膜厚測定部310による測定結果は、その膜厚測定部310より上流側に位置するクラスタ型ユニットCUxにおける成膜制御の補正に用いることができる。また、成膜室内で蒸発源ユニット203をスキャン方向Nに複数回スキャンして成膜を行う場合に、通常の成膜時とは異なるスキャン回数を用いてもよい。例えば、通常のスキャン回数が2往復の場合、スキャン回数を例えば10往復に増やすことで膜厚が厚くなるため、膜厚測定部310での測定精度を向上させることができる。
【0063】
<膜厚分布に基づく補正>
図11を参照して、膜厚測定部310が取得した膜厚分布をツーリングファクターの補正に反映する一例を説明する。ここで用いる膜厚分布は、
図8に示した領域341について膜厚測定部310が取得した膜厚値から近似したものとする。ここで本実施例では、図
4で示したように、互いに独立して成膜レートを制御可能な部分を持つ加熱ユニット209を用いて成膜を行うため、従来よりも基板Sの面内での膜厚ばらつきが発生する可能性が高くなる。
【0064】
補正前について、第1の成膜レートモニタ205aのツーリングファクターをTF1a、第2の成膜レートモニタ205bのツーリングファクターをTF1bとし、TF1と総称する。また、補正後について、第1の成膜レートモニタ205aのツーリングファクターをTF2a、第2の成膜レートモニタ205bのツーリングファクターをTF2bとし、TF2と総称する。また、本実施例の膜厚分布はY方向における膜厚値の1次元配列と考えられるので、膜厚分布の測定値および測定値に基づいて算出される値である膜厚分布値はTHm(y)、膜厚分布の目標値はTHt(y)と表される。
図9に示すように、yは、-60[a.u.]から+60[a.u.]の範囲の値を取る。したがって本実施例のツーリングファクター補正は、TF2=G(TF1)となるような関数Gを、THm(y)およびTHt(y)に基づいて求めることに相当する。
【0065】
本実施例の膜厚分布の目標値THt(y)は、
図9で例示したものを用いる。また膜厚分布値THm(y)は、
図11(a)に示したものを用いる。表1に、Y=-55[a.u.]、+55[a.u.]における膜厚と、膜厚に対する坩堝210aと坩堝210bの寄与度を示す。左列は目標値THt(y)を示す。中列には、-55[a.u.]と+55[a.u.]における測定値と測定値に基づいて算出された膜厚分布値THm(y)を示す。
【表1】
【0066】
表1に示すように、坩堝210aに由来する膜厚は目標値よりも薄く、坩堝210bに由来する膜厚は目標値よりも厚い傾向にある。これは、坩堝210aに対応する第1の成膜レートモニタ205aについては、成膜レートが過大に見積もられるようにツーリングファクターの誤差が発生しており、坩堝210bに対応する第2の成膜レートモニタ205bについては、成膜レートが過少に見積もられるようにツーリングファクターの誤差が発生していることを意味する。そこで、成膜制御部206は、第1の成膜レートモニタ205aおよび第2の成膜レートモニタ205b夫々について、ツーリングファクターを補正する。
【0067】
本実施例では、上述した補正方法に従って、y=-55[a.u.]における膜厚の目標値と膜厚分布値に基づいて、第1の成膜レートモニタ205aのツーリングファクターTF1aを補正し、y=+55[a.u.]における膜厚の目標値と膜厚分布値に基づいて、第2の成膜レートモニタ205bのツーリングファクターTF1bを補正する。なお、補正に用いる膜厚の位置はこれに限定されない。
【0068】
図11(b)および表1の右列は、ツーリングファクターを調整した後に成膜が行われた基板について、測定された膜厚値から近似した膜厚分布を示している。
図11(b)と
図9を比較すると略同様の膜厚分布を示しており、目標値THt(y)に近い膜厚分布を実現できたことが分かる。
【0069】
(変形例)
本発明は、基板Sに形成された膜の面内の膜厚分布に基づいて水晶モニタの出力値を補正することに特徴を有し、その方法は上記の例に限定されない。例えばツーリングファクターの調整の元となる膜厚分布の目標値と膜厚分布値を取得する際にも、種々の方法を採用し得る。
【0070】
一例として、加熱ユニット209のうち坩堝210aのみ(または坩堝210b)のみを稼働させて成膜を行い、より正確な実測値を取得することが考えられる。その際、1箇所のみで膜厚の目標値と実測値を比較するのではなく、複数箇所で比較を行うことで、補正の精度を高めることができる。その場合例えば、任意の所定の間隔で目標値と実測値の比を算出し、得られた複数の値の平均を算出してからツーリングファクターの補正に用いてもよい。このようなツーリングファクター補正を、坩堝210aと坩堝210bそれぞれについて行うことで、精度の高い補正が可能になる。
【0071】
また、坩堝210aと坩堝210bを同時に稼働させる場合であっても、複数箇所で膜厚を比較することで、補正の精度を高めることができる。さらに、特に電極膜を形成するために金属材料を用いた蒸着を行う場合、蒸発源ユニット内において独立にヒータを制御可能な数が多くなる傾向にある。例えば蒸発源ユニットが第1部分~第6部分まで6つの独立制御部分を有する場合、それぞれに成膜レートモニタが設けられる。このような場合であっても、目標値と実測値を比較し、成膜レートモニタごとにツーリングファクターを補正することが可能である。
【0072】
また、補正に用いる膜厚分布については直線上の膜厚値の集合には限定されず、平面形状の所定領域内の膜厚値の集合を用いてもよい。その場合、例えば、当該所定領域において所定の間隔で複数の膜厚測定位置を設定し、それら複数の膜厚測定位置における目標値と実測値の比の平均に基づいて、ツーリングファクター補正を行うようにしてもよい。
【0073】
[実施例2]
本実施例では、クラスタ型ではない電子デバイス製造装置に対する本発明の適用例を説明する。
図12は、本実施例の電子デバイス製造装置の一部であって、アライメントされ密着された基板SとマスクMを搬送しながら成膜するインライン型の成膜装置を示している。
【0074】
成膜装置300は、マスク搬入室90、アライメント室100(マスク取付室)、複数の成膜室110a及び110b、反転室111a及び111b、搬送室112、マスク分離室113、基板分離室114、キャリア搬送室115、マスク搬送室116、基板搬入室117(基板取付室)、並びに膜厚測定室118の各チャンバを有する。基板キャリア9に保持された基板Sは破線で示された経路に沿って、マスクMは点線で示された経路に沿って、各チャンバ内を搬送される。
【0075】
基板搬入室117で基板キャリア9に保持されて破線の経路に搬入された基板Sは、反転室111aで反転機構120aにより姿勢を反転し、マスク搬入室90でマスクMに搭載される。次いでアライメント室100において基板SとマスクMとのアライメント及び密着が行われた後、成膜室110a、110bを搬送されつつ、成膜室に設けられた蒸発源ユニット203から放出された蒸着材料による成膜を受ける。なお、基板キャリアには成膜レートモニタ205が取り付けられている。そのため放出された蒸着材料は、基板Sの被成膜面と同時に成膜レートモニタ205にも付着する。これにより成膜中の成膜レートが測定される。また、成膜室110aと110bの途中に設けられた膜厚測定室118には、光学的な膜厚測定を行う膜厚測定部310が配置されており、基板キャリア9を一
時的に停止させて、成膜室110aにおける成膜が完了した基板Sの蒸着材料の膜厚を測定する。
【0076】
続いて基板キャリアに保持された基板Sは、搬送室112に搬入される。搬送室112にも膜厚測定部310が配置されており、成膜室110bにおける成膜が完了した基板Sの蒸着材料の膜厚を測定する。次いで基板Sはマスク分離室113でマスクMを分離した後、反転室111bで反転機構120bにより姿勢を反転し、基板分離室114にて基板キャリア9から分離されて成膜装置300の外部に搬出される。一方、基板キャリア9はキャリア搬送室115を経て基板搬入室117に搬送され、次の基板Sを保持する。
【0077】
また、成膜装置300は成膜制御部206を備えている。本実施例の構成を持つ成膜装置300において、基板キャリア9に搭載された成膜レートモニタ205は成膜中の成膜レートを測定し、膜厚測定部310は成膜が完了した基板における蒸着材料の膜厚を光学的に測定する。成膜制御部206は、成膜レートの測定値に基づいて基板キャリア9の搬送速度を調整することにより成膜室内に配置された蒸発源ユニット203と基板Sの相対速度を制御するとともに、蒸発源ユニット203に投入される電流を制御することにより蒸着材料の蒸発量を制御する。成膜制御部206は、このような成膜制御を、膜厚測定部310による膜厚の測定値に基づいて補正する。したがって、上記実施例と同様の原理により、精度のよい成膜制御が可能になる。
【0078】
(変形例)
図14は、変形例における成膜室EVの構成を模式的に示す断面図であり、説明との関連性の低い部分は省略して示している。本変形例では、単一の真空蒸着装置200において、単一の蒸発源ユニット203がスキャンすることによって、2枚の基板S(S1、S2)を同時に成膜する構成となっている。
【0079】
このような構成において後段の膜厚測定部310は、一方の基板(例えば、基板ホルダ202aにより保持される基板S1)についてのみ膜厚分布を測定しても良く、また、基板ホルダ202aと202bの両方の基板で膜厚分布を測定してもよい。この場合でも、TFの補正を行うことができる。
【0080】
[実施例3]
(有機電子デバイスの製造方法)
本実施例では、成膜装置を用いた有機電子デバイスの製造方法の一例を説明する。以下、有機電子デバイスの例として有機EL表示装置の構成及び製造方法を例示する。まず、製造する有機EL表示装置について説明する。
図13(a)は有機EL表示装置50の全体図、
図13(b)は一つの画素の断面構造を表している。
【0081】
図13(a)に示すように、有機EL表示装置50の表示領域51には、発光素子を複数備える画素52がマトリクス状に複数配置されている。発光素子のそれぞれは、一対の電極に挟まれた有機層を備えた構造を有している。なお、ここでいう画素とは、表示領域51において所望の色の表示を可能とする最小単位を指している。本図の有機EL表示装置の場合、互いに異なる発光を示す第1発光素子52R、第2発光素子52G、第3発光素子52Bの組合せにより画素52が構成されている。画素52は、赤色発光素子と緑色発光素子と青色発光素子の組合せで構成されることが多いが、黄色発光素子とシアン発光素子と白色発光素子の組み合わせでもよく、少なくとも1色以上であれば特に制限されるものではない。
【0082】
図13(b)は、
図13(a)のA-B線における部分断面模式図である。画素52は、基板53上に、第1電極(陽極)54と、正孔輸送層55と、発光層56R、56G、
56Bのいずれかと、電子輸送層57と、第2電極(陰極)58と、を備える有機EL素子を有している。これらのうち、正孔輸送層55、発光層56R、56G、56B、電子輸送層57が有機層に当たる。また、本実施例では、発光層56Rは赤色を発する有機EL層、発光層56Gは緑色を発する有機EL層、発光層56Bは青色を発する有機EL層である。
【0083】
発光層56R、56G、56Bは、それぞれ赤色、緑色、青色を発する発光素子(有機EL素子と記述する場合もある)に対応するパターンに形成されている。また、第1電極54は、発光素子ごとに分離して形成されている。正孔輸送層55と電子輸送層57と第2電極58は、複数の発光素子52R、52G、52Bと共通で形成されていてもよいし、発光素子毎に形成されていてもよい。なお、第1電極54と第2電極58とが異物によってショートするのを防ぐために、第1電極54間に絶縁層59が設けられている。さらに、有機EL層は水分や酸素によって劣化するため、水分や酸素から有機EL素子を保護するための保護層60が設けられている。
【0084】
次に、電子デバイスとしての有機EL表示装置の製造方法の例について具体的に説明する。まず、有機EL表示装置を駆動するための回路(不図示)及び第1電極54が形成された基板53を準備する。
【0085】
次に、第1電極54が形成された基板53の上にアクリル樹脂をスピンコートで形成し、アクリル樹脂をリソグラフィ法により、第1電極54が形成された部分に開口が形成されるようにパターニングし絶縁層59を形成する。この開口部が、発光素子が実際に発光する発光領域に相当する。
【0086】
次に、絶縁層59がパターニングされた基板53を第1の成膜装置に搬入し、基板支持ユニットにて基板を支持し、正孔輸送層55を、表示領域の第1電極54の上に共通する層として成膜する。正孔輸送層55は真空蒸着により成膜される。実際には正孔輸送層55は表示領域51よりも大きなサイズに形成されるため、高精細なマスクは不要である。ここで、本ステップでの成膜や、以下の各レイヤーの成膜において用いられる成膜装置は、上記各実施例のいずれかに記載された成膜装置である。
【0087】
次に、正孔輸送層55までが形成された基板53を第2の成膜装置に搬入し、基板支持ユニットにて支持する。基板とマスクとのアライメントを行い、基板をマスクの上に載置し、基板53の赤色を発する素子を配置する部分に、赤色を発する発光層56Rを成膜する。本例によれば、マスクと基板とを良好に重ね合わせることができ、高精度な成膜を行うことができる。
【0088】
発光層56Rの成膜と同様に、第3の成膜装置により緑色を発する発光層56Gを成膜し、さらに第4の成膜装置により青色を発する発光層56Bを成膜する。発光層56R、56G、56Bの成膜が完了した後、第5の成膜装置により表示領域51の全体に電子輸送層57を成膜する。電子輸送層57は、3色の発光層56R、56G、56Bに共通の層として形成される。
【0089】
電子輸送層57までが形成された基板をスパッタリング装置に移動し、第2電極58を成膜し、その後プラズマCVD装置に移動して保護層60を成膜して、有機EL表示装置50が完成する。
【0090】
絶縁層59がパターニングされた基板53を成膜装置に搬入してから保護層60の成膜が完了するまでは、水分や酸素を含む雰囲気にさらしてしまうと、有機EL材料からなる発光層が水分や酸素によって劣化してしまうおそれがある。従って、本例において、成膜
装置間の基板の搬入搬出は、真空雰囲気又は不活性ガス雰囲気の下で行われる。
【0091】
本開示に係る成膜制御方法は、発光層を始めとした上記の各層の形成において好適に利用できる。その結果、基板への成膜プロセスにおける膜厚の測定及び制御の精度を向上させた、良好な成膜制御が可能となる。
【符号の説明】
【0092】
200:真空蒸着装置、203:蒸発源ユニット、205:成膜レートモニタ、206:成膜制御部、310:膜厚測定部、S:基板