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特開2024-179191化合物、有機半導体材料、および有機電子デバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024179191
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】化合物、有機半導体材料、および有機電子デバイス
(51)【国際特許分類】
   C07D 519/00 20060101AFI20241219BHJP
   C08G 61/12 20060101ALI20241219BHJP
   H01L 29/786 20060101ALI20241219BHJP
   H10K 85/10 20230101ALI20241219BHJP
   H10K 50/16 20230101ALI20241219BHJP
   H10K 30/50 20230101ALI20241219BHJP
【FI】
C07D519/00 301
C07D519/00 CSP
C08G61/12
H01L29/78 618B
H10K85/10
H10K50/16
H10K30/50
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023097841
(22)【出願日】2023-06-14
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(71)【出願人】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】弁理士法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】家 裕隆
(72)【発明者】
【氏名】陣内 青萌
(72)【発明者】
【氏名】三枝 真理奈
(72)【発明者】
【氏名】田中 光
【テーマコード(参考)】
3K107
4C072
4J032
5F110
5F251
【Fターム(参考)】
3K107AA01
3K107CC45
3K107DD74
3K107DD79
4C072MM02
4C072UU03
4C072UU10
4J032BA20
4J032BB01
4J032BC03
4J032BD04
4J032BD05
4J032CG01
5F110CC03
5F110DD05
5F110EE08
5F110FF02
5F110GG05
5F110GG06
5F110GG28
5F110GG29
5F110GG42
5F110GG57
5F110GG58
5F110HK01
5F251AA11
5F251XA01
5F251XA43
(57)【要約】
【課題】有機半導体材料として好ましく用いることができる化合物であって、溶媒への溶解性が良好な化合物を提供する。
【解決手段】下記式(Do-A)で表されるユニットAと、縮環構造を有し、かつ環の少なくとも1つが芳香族環であり、環を構成する元素が炭素原子とヘテロ原子である、ヘテロ芳香族縮環型ユニットBとを、それぞれ1つ以上有し、前記ユニットAと前記ヘテロ芳香族縮環型ユニットBが互いに連結されている化合物。式(Do-A)中、Rは炭素数2~10のアルキレン基を表す。*は、結合手であるか、水素原子を表す。但し、2つの*が両方とも水素原子になることはない。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(Do-A)で表されるユニットAと、
縮環構造を有し、かつ環の少なくとも1つが芳香族環であり、環を構成する元素が炭素原子とヘテロ原子である、ヘテロ芳香族縮環型ユニットBとを、
それぞれ1つ以上有し、
前記ユニットAと前記ヘテロ芳香族縮環型ユニットBが互いに連結されている化合物。
【化1】
[式(Do-A)中、Rは炭素数2~10のアルキレン基を表す。
*は、結合手であるか、水素原子を表す。但し、2つの*が両方とも水素原子になることはない。]
【請求項2】
前記縮環構造がナフタレン環単位を含み、該ナフタレン環単位に含まれる2つの環を含め、合計で4つの環を有する構造である請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
前記ヘテロ芳香族縮環型ユニットBが、下記式(Ac-1)で表されるユニットである請求項1に記載の化合物。
【化2】
[式(Ac-1)中、TおよびTは、それぞれ独立に、単結合であるか、-CH=CH-であるか、-C≡C-であるか、炭化水素基で置換されていてもよいチオフェン環であるか、炭化水素基で置換されていてもよいチアゾール環であるか、炭化水素基で置換されていてもよいピリジン環であるか、炭化水素基で置換されていてもよいピラジン環である。
は、水素原子であるか、炭化水素基であるか、-(CH-ORであり、Rは、炭化水素基である。2つのRは、同一でもよく、互いに異なっていてもよい。
式(Ac-1)で表されるユニットを複数有する場合、T、T、およびRは各々、ユニット間で同一でもよく、互いに異なっていてもよい。
*は、結合手であるか、水素原子を表す。但し、2つの*が両方とも水素原子になることはない。]
【請求項4】
前記ユニットAおよび前記ヘテロ芳香族縮環型ユニットBを合計で2つまたは3つ有する請求項1に記載の化合物。
【請求項5】
1つの前記ユニットAに2つの前記ヘテロ芳香族縮環型ユニットBが連結されている請求項4に記載の化合物。
【請求項6】
前記ユニットAおよび前記ヘテロ芳香族縮環型ユニットBが交互に2回以上配置されている請求項1に記載の化合物。
【請求項7】
重量平均分子量(Mw)が1500以上である請求項6に記載の化合物。
【請求項8】
請求項1に記載の化合物を含む有機半導体材料。
【請求項9】
請求項8に記載の有機半導体材料を含む有機電子デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の単位を含むユニットAとヘテロ芳香族縮環型ユニットBが互いに連結されている化合物、該化合物を含む有機半導体材料、および該有機半導体材料を含む有機電子デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
有機半導体材料は、有機エレクトロニクス分野において重要な材料であり、低分子化合物や高分子化合物が有機半導体材料として用いられている。有機半導体材料は、電子供与性のp型有機半導体材料と電子受容性のn型有機半導体材料に分類でき、p型有機半導体材料およびn型有機半導体材料を適切に組合せることにより様々な有機電子デバイスを製造できる。有機電子デバイスとしては、例えば、電子と正孔が再結合して形成する励起子(エキシトン)の作用により発光する有機エレクトロルミネッセンス素子、電流量または電圧量を制御する有機薄膜トランジスタ素子、有機光電変換素子、光を電力に変換する有機薄膜太陽電池モジュールなどが挙げられる。こうした有機半導体材料の特性は、例えば、電子移動度、閾値電圧、オン/オフ比などで評価される。
【0003】
有機半導体材料の一例として、下記一般式(I)で表される含窒素縮合環化合物が特許文献1に提案されている。下記式(I)中、RおよびRは水素原子、ハロゲン原子または置換基で置換されていてもよい1価の基であり、ZおよびZとしてS(硫黄原子)が例示されている。
【0004】
【化1】
【0005】
また、特許文献1には、含窒素縮合環重合体も記載されており、この含窒素縮合環重合体は、下記一般式(II)で表される繰り返し単位を少なくとも1つと、下記一般式(III)で表される繰り返し単位を少なくとも1つ有するものである。下記式(II)中、ZおよびZとしてS(硫黄原子)が例示されており、下記式(III)中、Arとして2価の芳香族炭化水素基または2価の複素環基が例示されている。
【0006】
【化2】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009-215278号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
有機電子デバイスは、例えば、有機半導体材料を真空蒸着法によって有機薄膜にしたり、有機半導体材料を溶媒等に溶解したものを所定の製膜法によって有機薄膜にしたりすることにより、製造される。有機半導体材料が溶媒(特に、有機溶媒)に可溶であれば、例えば、印刷プロセスでの製膜が可能となるため、有機薄膜の大面積化および製造コストの削減ができる。そのため有機半導体材料には、溶媒への溶解性が良好であることが望まれる。一方、上記特許文献1の実施例では、有機半導体材料として含窒素縮合環化合物を用い、有機半導体素子を真空蒸着法により作製している。真空蒸着法が採用されているのは、含窒素縮合環化合物が溶媒へ溶解しにくいことが理由と考えられる。特許文献1においては含窒素縮合環化合物の溶媒への溶解性について検討されておらず、本発明者らが有機半導体材料の溶解性について検討したところ改善の余地があることが判明した。
【0009】
本発明の目的は、有機半導体材料として好ましく用いることができる化合物であって、溶媒への溶解性が良好な化合物を提供することにある。また、本発明の他の目的は、こうした化合物を含む有機半導体材料を提供することにある。また、本発明の他の目的は、こうした有機半導体材料を含む有機電子デバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、以下の発明を含む。
[1] 下記式(Do-A)で表されるユニットAと、縮環構造を有し、かつ環の少なくとも1つが芳香族環であり、環を構成する元素が炭素原子とヘテロ原子である、ヘテロ芳香族縮環型ユニットBとを、それぞれ1つ以上有し、前記ユニットAと前記ヘテロ芳香族縮環型ユニットBが互いに連結されている化合物。
【化3】

[式(Do-A)中、Rは炭素数2~10のアルキレン基を表す。*は、結合手であるか、水素原子を表す。但し、2つの*が両方とも水素原子になることはない。]
[2] 前記縮環構造がナフタレン環単位を含み、該ナフタレン環単位に含まれる2つの環を含め、合計で4つの環を有する構造である[1]に記載の化合物。
[3] 前記ヘテロ芳香族縮環型ユニットBが、下記式(Ac-1)で表されるユニットである[1]または[2]に記載の化合物。
【化4】

[式(Ac-1)中、TおよびTは、それぞれ独立に、単結合であるか、-CH=CH-であるか、-C≡C-であるか、炭化水素基で置換されていてもよいチオフェン環であるか、炭化水素基で置換されていてもよいチアゾール環であるか、炭化水素基で置換されていてもよいピリジン環であるか、炭化水素基で置換されていてもよいピラジン環である。Rは、水素原子であるか、炭化水素基であるか、-(CH-ORであり、Rは、炭化水素基である。2つのRは、同一でもよく、互いに異なっていてもよい。式(Ac-1)で表されるユニットを複数有する場合、T、T、およびRは各々、ユニット間で同一でもよく、互いに異なっていてもよい。*は、結合手であるか、水素原子を表す。但し、2つの*が両方とも水素原子になることはない。]
[4] 前記ユニットAおよび前記ヘテロ芳香族縮環型ユニットBを合計で2つまたは3つ有する[1]~[3]のいずれかに記載の化合物。
[5] 1つの前記ユニットAに2つの前記ヘテロ芳香族縮環型ユニットBが連結されている[4]に記載の化合物。
[6] 前記ユニットAおよび前記ヘテロ芳香族縮環型ユニットBが交互に2回以上配置されている[1]~[3]のいずれかに記載の化合物。
[7] 重量平均分子量(Mw)が1500以上である[6]に記載の化合物。
[8] [1]~[7]のいずれかに記載の化合物を含む有機半導体材料。
[9] [8]に記載の有機半導体材料を含む有機電子デバイス。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、有機半導体材料として好ましく用いることができ、しかも溶媒への溶解性が良好な化合物を提供できる。また、本発明によれば、こうした化合物を含む有機半導体材料、およびこうした有機半導体材料を含む有機電子デバイスを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、化合物1の紫外可視吸収スペクトルを示す。
図2図2は、化合物2の紫外可視吸収スペクトルを示す。
図3図3は、化合物3の紫外可視吸収スペクトルを示す。
図4図4は、化合物4の紫外可視吸収スペクトルを示す。
図5図5は、化合物5の紫外可視吸収スペクトルを示す。
図6図6は、化合物6の紫外可視吸収スペクトルを示す。
図7図7は、化合物7の紫外可視吸収スペクトルを示す。
図8図8は、化合物8の紫外可視吸収スペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の化合物は、下記式(Do-A)で表されるユニットAと、縮環構造を有し、かつ環の少なくとも1つが芳香族環であり、環を構成する元素が炭素原子とヘテロ原子である、ヘテロ芳香族縮環型ユニットBとを、それぞれ1つ以上有し、前記ユニットAと前記ヘテロ芳香族縮環型ユニットBが互いに連結されている。下記式(Do-A)中、Rは炭素数2~10のアルキレン基を表す。*は、結合手であるか、水素原子を表す。但し、2つの*が両方とも水素原子になることはない。
【0014】
【化5】
【0015】
式(Do-A)で表されるユニットAは、電子供与性を示し、ドナー性ユニットとして作用する。一方、ヘテロ芳香族縮環型ユニットBは、縮環構造を有し、かつ環の少なくとも1つが芳香族環であり、環を構成する元素が炭素原子とヘテロ原子であるユニットであり、電子受容性を示し、アクセプター性ユニットとして作用する。
【0016】
本発明の化合物は、式(Do-A)で表されるユニットAとヘテロ芳香族縮環型ユニットBが互いに連結されており、式(Do-A)で表されるユニットAとヘテロ芳香族縮環型ユニットBをそれぞれ1つ以上有する。即ち、本発明の化合物は、少なくとも1つの式(Do-A)で表されるユニットAと少なくとも1つのヘテロ芳香族縮環型ユニットBが互いに連結している。
【0017】
式(Do-A)で表されるユニットAは、チオアセタール構造を含むスピロ骨格を有しているため、溶媒への溶解性が良好である。そのため、式(Do-A)で表されるユニットAとヘテロ芳香族縮環型ユニットBとを組み合わせた化合物は、溶媒への溶解性が良好となる。ゆえに、当該化合物を基板に塗布した膜の膜質が良好となり、当該膜の電子移動度が良好となる。また、式(Do-A)で表されるユニットAとヘテロ芳香族縮環型ユニットBとを組み合わせた化合物は、イオン化エネルギーの値(HOMOの値)とLUMOの値のバンドギャップが小さいため、電子が移動しやすくなる。さらに、分子間で静電相互作用が働くことで配向性も良好となり、電子移動度の向上が期待出来る。また、LUMOの値が、例えば、-3.5eV以下となり、大気安定性を有するものとなる。従って式(Do-A)で表されるユニットAとヘテロ芳香族縮環型ユニットBとを、それぞれ1つ以上有し、ユニットAとヘテロ芳香族縮環型ユニットBが互いに連結されている化合物は、例えば、有機半導体材料として好適に用いることができる。
【0018】
本発明の化合物は、式(Do-A)で表されるユニットAとヘテロ芳香族縮環型ユニットBとを、それぞれ1つ以上有し、ユニットAとヘテロ芳香族縮環型ユニットBが互いに連結されているものである。このような化合物のうち、ユニットAおよびヘテロ芳香族縮環型ユニットBを合計で2つまたは3つ有する化合物を、以下、低分子化合物とよぶことがある。一方、ユニットAおよびヘテロ芳香族縮環型ユニットBが交互に2回以上配置されている化合物を、以下、高分子化合物とよぶことがある。高分子化合物は、換言すると、ユニットAおよびヘテロ芳香族縮環型ユニットBを繰り返し単位として含む化合物であり、式(Do-A)で表されるユニットAとヘテロ芳香族縮環型ユニットBとを、それぞれ2つ以上有し、ユニットAとヘテロ芳香族縮環型ユニットBが互いに連結されている化合物である。即ち、ユニットAとヘテロ芳香族縮環型ユニットBが連結したものを1つのユニットとしたとき、このユニットを繰り返し単位として2つ以上含む化合物である。低分子化合物と高分子化合物を比較すると、低分子化合物の方が高分子化合物よりも溶媒への溶解性が良好となる。その結果、低分子型化合物を用いることにより、例えば、スピンコートにより均質な薄膜を製造できるため、電子移動度が良好となる。低分子化合物が、ユニットAおよびヘテロ芳香族縮環型ユニットBを合計で3つ有し、ユニットAとヘテロ芳香族縮環型ユニットBが互いに連結されている化合物である場合、1つのヘテロ芳香族縮環型ユニットBに2つのユニットAが連結されている化合物であってもよいが、1つのユニットAに2つのヘテロ芳香族縮環型ユニットBが連結されている化合物であることが好ましい。
【0019】
式(Do-A)中、Rは炭素数2~10のアルキレン基を表す。Rの炭素数は2~8が好ましく、2~6がより好ましく、2~4がさらに好ましい。アルキレン基は、直鎖アルキレン基でもよく、分岐を有するアルキレン基でもよいが、直鎖アルキレン基が好ましい。Rとしては、例えば、エチレン基、n-プロピレン基、1-メチル-エタン-1,2-イル基、1,2-ジメチル-エタン-1,2-イル基、1-メチル-プロパン-1,3-イル基などが挙げられ、これらのなかでも、エチレン基、n-プロピレン基が好ましい。
【0020】
式(Do-A)で表される単位において、Rが炭素数2のエチレン基である場合は、式(Do-A)で表される単位は下記式(Do-a)で表される。
【0021】
【化6】
【0022】
ヘテロ芳香族縮環型ユニットBは、複数の環が縮合した縮環構造を有している。縮環構造を構成する複数の環のうち、少なくとも1つの環は芳香族環である。芳香族環は、芳香族炭化水素環であってもよいし、複素芳香族環(芳香族複素環と呼ばれることもある)であってもよい。芳香族環の数は、例えば、2以上でもよいし、4以下が好ましく、より好ましくは3以下である。
【0023】
縮環構造を構成する複数の環を構成する元素は、炭素原子およびヘテロ原子であり、環は、ヘテロ原子を少なくとも1個含み、残部は炭素原子である。ヘテロ原子とは、炭素原子以外の原子のことであり、ヘテロ原子は各々、例えば窒素原子、硫黄原子、または酸素原子である。ヘテロ原子の数は、2個以上であってもよいし、3個以上であってもよい。ヘテロ原子の数の上限は縮環構造を構成する原子の数によるが、例えば、10個以下が好ましく、より好ましくは8個以下、更に好ましくは6個以下である。
【0024】
環には、置換基が結合していてもよい。置換基としては、例えば、ハロゲン原子、炭化水素基、アルコキシ基、アシル基、エステル基、ハロゲン化アルキル基、シアノ基などが挙げられる。
【0025】
ハロゲン原子としては、例えば、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素などが挙げられ、なかでもフッ素が好ましい。
【0026】
炭化水素基(以下、炭化水素基Rと呼ぶことがある。)としては、例えば、脂肪族炭化水素基、アラルキル基などが挙げられ、脂肪族炭化水素基は、直鎖状の脂肪族炭化水素基であってもよいが、分岐を有する脂肪族炭化水素基であることが好ましい。炭化水素基Rの炭素数は特に限定されず、例えば、1~30が好ましい。炭化水素基Rの炭素数は、より好ましくは3以上、更に好ましくは6以上であり、より好ましくは28以下、更に好ましくは26以下である。但し、炭化水素基Rがアラルキル基の場合、炭素数の下限は7以上が好ましい。
【0027】
本発明の化合物が低分子化合物の場合、炭化水素基Rの炭素数は小さい方が好ましく、炭素数が小さくなるほど配向性がよくなり、電子が分子間を移動しやすくなり、電子移動度が向上する。低分子化合物の場合における炭化水素基Rの炭素数は、24以下が好ましく、より好ましくは20以下、更に好ましくは14以下である。
【0028】
本発明の化合物が高分子化合物の場合、炭化水素基Rの炭素数は大きい方が好ましく、炭素数が大きくなるほど溶媒への溶解性が良好となる。高分子化合物の場合における炭化水素基Rの炭素数は、8以上が好ましく、より好ましくは10以上、更に好ましくは12以上である。
【0029】
炭化水素基Rとしては、例えば、メチル基等の炭素数1のアルキル基;エチル基等の炭素数2のアルキル基;n-プロピル基、イソプロピル基等の炭素数3のアルキル基;n-ブチル基等の炭素数4のアルキル基;n-ペンチル基等の炭素数5のアルキル基;n-ヘキシル基等の炭素数6のアルキル基;n-ヘプチル基等の炭素数7のアルキル基;n-オクチル基、1-n-ブチルブチル基、1-n-プロピルペンチル基、1-エチルヘキシル基、2-エチルヘキシル基、3-エチルヘキシル基、4-エチルヘキシル基、1-メチルヘプチル基、2-メチルヘプチル基、6-メチルヘプチル基、2,4,4-トリメチルペンチル基、2,5-ジメチルヘキシル基等の炭素数8のアルキル基;n-ノニル基、1-n-プロピルヘキシル基、2-n-プロピルヘキシル基、1-エチルヘプチル基、2-エチルヘプチル基、1-メチルオクチル基、2-メチルオクチル基、6-メチルオクチル基、2,3,3,4-テトラメチルペンチル基、3,5,5-トリメチルヘキシル基等の炭素数9のアルキル基;n-デシル基、1-n-ペンチルペンチル基、1-n-ブチルヘキシル基、2-n-ブチルヘキシル基、1-n-プロピルヘプチル基、1-エチルオクチル基、2-エチルオクチル基、1-メチルノニル基、2-メチルノニル基、3,7-ジメチルオクチル基等の炭素数10のアルキル基;n-ウンデシル基、1-n-ブチルヘプチル基、2-n-ブチルヘプチル基、1-n-プロピルオクチル基、2-n-プロピルオクチル基、1-エチルノニル基、2-エチルノニル基等の炭素数11のアルキル基;n-ドデシル基、1-n-ペンチルヘプチル基、2-n-ペンチルヘプチル基、1-n-ブチルオクチル基、2-n-ブチルオクチル基、1-n-プロピルノニル基、2-n-プロピルノニル基等の炭素数12のアルキル基;n-トリデシル基、1-n-ペンチルオクチル基、2-n-ペンチルオクチル基、1-n-ブチルノニル基、2-n-ブチルノニル基、1-メチルドデシル基、2-メチルドデシル基等の炭素数13のアルキル基;n-テトラデシル基、1-n-ヘプチルヘプチル基、1-n-ヘキシルオクチル基、2-n-ヘキシルオクチル基、1-n-ペンチルノニル基、2-n-ペンチルノニル基等の炭素数14のアルキル基;n-ペンタデシル基、1-n-ヘプチルオクチル基、1-n-ヘキシルノニル基、2-n-ヘキシルノニル基等の炭素数15のアルキル基;n-ヘキサデシル基、2-n-ヘキシルデシル基、1-n-オクチルオクチル基、1-n-ヘプチルノニル基、2-n-ヘプチルノニル基等の炭素数16のアルキル基;n-ヘプタデシル基、1-n-オクチルノニル基等の炭素数17のアルキル基;n-オクタデシル基、1-n-ノニルノニル基等の炭素数18のアルキル基;n-ノナデシル基等の炭素数19のアルキル基;n-エイコシル基、2-n-オクチルドデシル基等の炭素数20のアルキル基;n-ヘンエイコシル基等の炭素数21のアルキル基;n-ドコシル基等の炭素数22のアルキル基;n-トリコシル基等の炭素数23のアルキル基;n-テトラコシル基、2-n-デシルテトラデシル基等の炭素数24のアルキル基;n-ペンタコシル等の炭素数25のアルキル基;n-ヘキサコシル等の炭素数26のアルキル基;n-ヘプタコシル等の炭素数27のアルキル基;n-オクタコシル等の炭素数28のアルキル基;n-ノナコシル等の炭素数29のアルキル基;n-トリアコンチル等の炭素数30のアルキル基;フェニルメチル基、フェニルエチル基などのアラルキル基;等が挙げられる。
【0030】
アルコキシ基は、-ORで表され、Rは炭化水素基である。Rで表される炭化水素基としては、上記で説明した炭化水素基Rと同様のものが挙げられる。Rで表される炭化水素基の炭素数は、1~30が好ましく、より好ましくは3以上、更に好ましくは6以上であり、より好ましくは28以下、更に好ましくは26以下である。
【0031】
アシル基としては、例えば、アセチル基、プロピオニル基、イソプロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、ヘプタノイル基、オクタノイル基、ノナノイル基、デカノイル基、ラウロイル基、ミリストイル基、パルミトイル基、ステアロイル基、オレオイル基、リノレオイル基、リノレノイル基等が挙げられる。
【0032】
エステル基としては、例えば、アセトキシ基、アシルオキシ基、アルコキシカルボニル基、リン酸エステル基等が挙げられる。
【0033】
ハロゲン化アルキル基は、上記で説明した炭化水素基Rの一部の水素がハロゲン原子に置換した置換基を意味する。
【0034】
ヘテロ芳香族縮環型ユニットBは、ナフタレン環単位を含むことが好ましい。
【0035】
ヘテロ芳香族縮環型ユニットBが有する縮環構造を構成する環の数は特に限定されないが、例えば、2以上、10以下が好ましく、より好ましくは3以上であり、より好ましくは8以下であり、特に好ましくは4である。
【0036】
ヘテロ芳香族縮環型ユニットBが有する縮環構造がナフタレン環単位を含む場合、ヘテロ芳香族縮環型ユニットBは、該ナフタレン環単位に含まれる2つの環を含め、合計で4つの環を有する構造であることが好ましい。
【0037】
ヘテロ芳香族縮環型ユニットBとしては、例えば、下記式(Ac-1)で表されるユニットが挙げられる。
【0038】
【化7】
【0039】
式(Ac-1)中、TおよびTは、それぞれ独立に、単結合であるか、-CH=CH-であるか、-C≡C-であるか、炭化水素基で置換されていてもよいチオフェン環であるか、炭化水素基で置換されていてもよいチアゾール環であるか、炭化水素基で置換されていてもよいピリジン環であるか、炭化水素基で置換されていてもよいピラジン環である。Rは、水素原子であるか、炭化水素基であるか、-(CH-ORであり、Rは、炭化水素基である。2つのRは、同一でもよく、互いに異なっていてもよい。式(Ac-1)で表されるユニットを2つ有する場合、T、T、およびRは各々、ユニット間で同一でもよく、互いに異なっていてもよい。*は、結合手であるか、水素原子を表す。但し、2つの*が両方とも水素原子になることはない。ナフタレン環単位には、上述した置換基が結合していてもよい。
【0040】
、Tがチオフェン環である場合、チオフェン環が置換されて有していてもよい炭化水素基としては、上記で説明した炭化水素基Rと同様のものが挙げられる。炭化水素基の炭素数は、1~30が好ましく、より好ましくは3以上、更に好ましくは6以上であり、より好ましくは28以下、更に好ましくは26以下である。
【0041】
、Tがチアゾール環である場合、チアゾール環が置換されて有していてもよい炭化水素基としては、上記で説明した炭化水素基Rと同様のものが挙げられる。炭化水素基の炭素数は、1~30が好ましく、より好ましくは3以上、更に好ましくは6以上であり、より好ましくは28以下、更に好ましくは26以下である。
【0042】
、Tがピリジン環である場合、ピリジン環が置換されて有していてもよい炭化水素基としては、上記で説明した炭化水素基Rと同様のものが挙げられる。炭化水素基の炭素数は、1~30が好ましく、より好ましくは3以上、更に好ましくは6以上であり、より好ましくは28以下、更に好ましくは26以下である。
【0043】
、Tがピラジン環である場合、ピラジン環が置換されて有していてもよい炭化水素基としては、上記で説明した炭化水素基Rと同様のものが挙げられる。炭化水素基の炭素数は、1~30が好ましく、より好ましくは3以上、更に好ましくは6以上であり、より好ましくは28以下、更に好ましくは26以下である。
【0044】
式(Ac-1)中、TおよびTは、それぞれ独立に、単結合であるか、炭化水素基で置換されていてもよいチオフェン環であるか、炭化水素基で置換されていてもよいチアゾール環であることが好ましく、より好ましくは単結合である。
【0045】
が炭化水素基である場合、炭化水素基としては、上記で説明した炭化水素基Rと同様のものが挙げられる。Rで表される炭化水素基の炭素数は、1~30が好ましく、より好ましくは2以上、更に好ましくは3以上、特に好ましくは4以上であり、より好ましくは25以下、更に好ましくは20以下、特に好ましくは15以下である。Rで表される炭化水素基は、直鎖状の炭化水素基であってもよいし、分岐を有する炭化水素基であってもよい。本発明の化合物が低分子化合物の場合は、直鎖状の脂肪族炭化水素基が好ましい。これにより配向性の向上が見込まれるため、電子移動度が向上すると考えられる。本発明の化合物が高分子化合物の場合は、分岐を有する脂肪族炭化水素基が好ましい。これにより溶媒への溶解性を担保できる。
【0046】
が-(CH-ORである場合、Rで表される炭化水素基としては、上記で説明した炭化水素基Rと同様のものが挙げられる。Rで表される炭化水素基の炭素数は、1~30が好ましく、より好ましくは2以上、更に好ましくは3以上であり、より好ましくは25以下、更に好ましくは20以下である。pは、例えば1~5の整数である。
【0047】
式(Ac-1)中、Rは、炭化水素基であることが好ましい。2つのRは、同一であることが好ましい。
【0048】
本発明の化合物が式(Ac-1)で表されるユニットを複数有する場合、T、T、およびRは各々、ユニット間で同一であることが好ましい。
【0049】
式(Ac-1)で表されるユニットは、下記式(Ac-1-1)~式(Ac-1-3)のいずれかで表されるユニットであることが好ましく、より好ましくは下記式(Ac-1-1)で表されるユニットである。*は、結合手であるか、水素原子を表す。但し、2つの*が両方とも水素原子になることはない。
【0050】
【化8】
【0051】
本発明の化合物が高分子化合物である場合、ユニットAとヘテロ芳香族縮環型ユニットBは、ランダムに配置されていてもよいが、交互に2回以上配置されていることが好ましい。
【0052】
化合物の分子量は、該化合物を構成するユニットAおよびヘテロ芳香族縮環型ユニットBの分子量によるため、ユニットAおよびヘテロ芳香族縮環型ユニットBの分子量によっては、低分子化合物の分子量の方が、高分子化合物の分子量よりも大きくなることがある。
【0053】
高分子化合物の重量平均分子量(Mw)は、例えば、1500以上が好ましく、より好ましくは10000以上、更に好ましくは100000以上である。高分子化合物の重量平均分子量(Mw)の上限は特に限定されないが、例えば、500000以下であればよく、480000以下であってもよい。
【0054】
高分子化合物の数平均分子量(Mn)は、例えば、1000以上が好ましく、より好ましくは5000以上であり、更に好ましくは10000以上である。高分子型化合物の数平均分子量(Mn)の上限は特に限定されないが、例えば、300000以下であればよく、200000以下であってもよい。
【0055】
高分子化合物の重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)は、ゲル浸透クロマトグラフィを用い、ポリスチレンを標準試料として作成した較正曲線に基づいて算出することができる。
【0056】
本発明の化合物のイオン化エネルギーは、-4eV以下であることが好ましく、より好ましくは-4.5eV以下、さらに好ましくは-5eV以下、特に好ましくは-5.1eV以下である。イオン化エネルギーの下限は、特に限定されないが、例えば、-7eV以上が好ましく、より好ましくは-6.5eV以上、更に好ましくは-6.2eV以上である。
【0057】
本発明の低分子化合物のLUMOの値は、-4eV以下であることが好ましく、より好ましくは-4.1eV以下、さらに好ましくは-4.2eV以下である。LUMOの値の下限は、特に限定されないが、例えば、-7eV以上が好ましく、より好ましくは-6.5eV以上、更に好ましくは-6eV以上である。
【0058】
本発明には、上記化合物を含む有機半導体材料も含まれる。上記式(Do-A)で表されるユニットAは、電子供与性に優れているため、当該ユニットAとヘテロ芳香族縮環型ユニットBとを、それぞれ1つ以上有し、ユニットAとヘテロ芳香族縮環型ユニットBが互いに連結している化合物は、有機半導体材料として有用である。上記化合物を含む有機半導体材料は、n型有機半導体材料として好ましく用いることができる。
【0059】
また、上記式(Do-A)で表されるユニットAは、チオアセタール構造を含むスピロ骨格を有しているため、本発明の化合物は溶媒への溶解性が良好となる。そのため、本発明の化合物を含む有機半導体材料は、溶媒への溶解性が良好となり、基板に塗布した膜の膜質が良好となり、電子移動度が良好となる。上記溶媒は、ハロゲン系有機溶媒およびノンハロゲン系有機溶媒が挙げられる。本発明の化合物は、溶媒、特にハロゲン系有機溶媒および/またはノンハロゲン系有機溶媒への溶解性が良好である。ハロゲン系有機溶媒としては、例えば、クロロホルム、テトラクロロエタン、クロロベンゼン等が挙げられる。ノンハロゲン系有機溶媒としては、例えば、トルエン、1-メチルナフタレン、2-メチルナフタレン等が挙げられる。本発明の化合物は、少なくともハロゲン系有機溶媒に溶解することが好ましい。
【0060】
本発明には、上記有機半導体材料を含む有機電子デバイスも含まれる。即ち、上記有機半導体材料は、有機電子デバイスの素材として好適に用いることができ、例えば、有機エレクトロルミネッセンス素子、有機薄膜トランジスタ素子、有機光電変換素子、有機薄膜太陽電池モジュール等の有機電子デバイスの材料として用いることができる。
【0061】
次に、本発明の化合物を製造できる方法について説明する。
【0062】
本発明の化合物は、例えば、ドナー原料と、縮環構造を有し、かつ環の少なくとも1つが芳香族環であり、環を構成する元素が炭素原子とヘテロ原子である、ヘテロ芳香族縮環型ユニットBの結合手にハロゲン原子が結合した化合物(以下、アクセプター原料と呼ぶ場合がある)とをカップリング反応(以下、カップリング工程と呼ぶ場合がある)させた後、得られた化合物を、水の存在下で、酸性条件で、加熱撹拌することにより、アセタール構造をケトン構造に変化させ、得られた化合物のケトン構造を、ジチオールとルイス酸触媒を用いることによりチオアセタール構造に変化させることにより製造できる。ドナー原料としては、上記式(Do-A)で表されるユニットAの前駆体であって、上記式(Do-A)で表されるユニットAにおけるチオアセタール構造がアセタール構造である下記式(Do-A-1)で表されるユニットを有し、下記式(Do-A-1)で表されるユニットの結合手の少なくとも一方に有機置換基を有するスズが結合した化合物を用いることができる。結合手のうち有機置換基を有するスズが結合していない結合手には水素が結合している。下記式(Do-A-1)で表されるユニットの結合手の両方に有機置換基を有するスズが結合した化合物としては下記式(do-A-1)で表される化合物を用いることができる。
【0063】
【化9】
【0064】
式(Do-A-1)中、Ra1は炭素数2~10のアルキレン基を表す。Ra1の炭素数は2~8が好ましく、2~6がより好ましく、2~4がさらに好ましい。アルキレン基は、直鎖アルキレン基でもよく、分岐を有するアルキレン基でもよいが、直鎖アルキレン基が好ましい。Ra1としては、例えば、エチレン基、n-プロピレン基、1-メチル-エタン-1,2-イル基、1,2-ジメチル-エタン-1,2-イル基、1-メチル-プロパン-1,3-イル基などが挙げられ、これらのなかでも、エチレン基、n-プロピレン基が好ましい。
【0065】
【化10】
【0066】
式(do-A-1)中、Ra1は前記と同じである。R11およびR12は、有機置換基を表し、それぞれ独立に、炭化水素基である。複数のR11のうちに、互いに同一のR11があってもよいし互いに異なるR11があってもよく、複数のR12のうちに、互いに同一のR12があってもよいし互いに異なるR12があってもよい。R11およびR12で表される炭化水素基としては、上記で説明した炭化水素基Rと同様のものが挙げられる。R11およびR12で表される炭化水素基の炭素数は各々、1~10が好ましく、より好ましくは2以上、更に好ましくは3以上であり、より好ましくは5以下、更に好ましくは4以下である。R11とR12は、互いに異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。
【0067】
式(do-A-1)で表される化合物は、例えば、特開2009-215278号公報に記載の方法に基づいて製造できる。
【0068】
式(do-A-1)で表される化合物において、Ra1が炭素数2のエチレン基である場合は、式(do-A-1)で表される化合物は下記式(do-a-1)で表される。
【0069】
【化11】
【0070】
アクセプター原料としては、例えば、上述したヘテロ芳香族縮環型ユニットBの結合手の少なくとも一方にハロゲン原子が結合している化合物を用いることができる。結合手のうちハロゲン原子が結合していない結合手には水素が結合している。ヘテロ芳香族縮環型ユニットBの結合手の両方にハロゲン原子が結合している化合物は、例えば、下記式(ac-1)で表される化合物が挙げられる。
【0071】
【化12】
【0072】
式(ac-1)中、T、T、およびRは、式(Ac-1)について説明したのと同じである。Yは、ハロゲン原子を表す。ハロゲン原子Yとしては、例えば、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素などが挙げられ、なかでも臭素が好ましい。環には、上述した置換基が結合していてもよい。
【0073】
式(do-A-1)で表される有機スズ化合物と、ヘテロ芳香族縮環型ユニットBのハロゲン化物は、金属触媒の存在下でカップリング反応させることが好ましい。
【0074】
カップリング反応に用いる金属触媒としては、例えば、パラジウム系触媒、ニッケル系触媒、鉄系触媒、銅系触媒、ロジウム系触媒、ルテニウム系触媒などの遷移金属触媒が挙げられる。これらのなかでも、パラジウム系触媒が好ましい。パラジウム系触媒に含まれるパラジウムの価数は特に限定されず、0価でも2価でもよい。
【0075】
パラジウム系触媒としては、例えば、塩化パラジウム(II)、臭化パラジウム(II)、ヨウ化パラジウム(II)、酸化パラジウム(II)、硫化パラジウム(II)、テルル化パラジウム(II)、水酸化パラジウム(II)、セレン化パラジウム(II)、パラジウムシアニド(II)、パラジウムアセテート(II)、パラジウムトリフルオロアセテート(II)、パラジウムアセチルアセトナート(II)、ジアセテートビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)、ジクロロビス(アセトニトリル)パラジウム(II)、ジクロロビス(ベンゾニトリル)パラジウム(II)、ジクロロ[1,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン]パラジウム(II)、ジクロロ[1,3-ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン]パラジウム(II)、ジクロロ[1,4-ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン]パラジウム(II)、ジクロロ[1,1-ビス(ジフェニルホスフィノフェロセン)]パラジウム(II)、ジクロロ[1,1-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン]パラジウム(II)ジクロロメタン付加体、ビス(ジベンジリデンアセトン)パラジウム(0)、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)クロロホルム付加体、ジクロロ[1,3-ビス(2,6-ジイソプロピルフェニル)イミダゾール-2-イリデン](3-クロロピリジル)パラジウム(II)、ビス(トリ-tert-ブチルホスフィン)パラジウム(0)、ジクロロ[2,5-ノルボルナジエン]パラジウム(II)、ジクロロビス(エチレンジアミン)パラジウム(II)、ジクロロ(1,5-シクロオクタジエン)パラジウム(II)、ジクロロビス(メチルジフェニルホスフィン)パラジウム(II)が挙げられる。これらのなかでも、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)クロロホルム付加体を用いることが好ましい。
【0076】
銅系触媒としては、例えば、銅、フッ化銅(I)、塩化銅(I)、臭化銅(I)、ヨウ化銅(I)、フッ化銅(II)、塩化銅(II)、臭化銅(II)、ヨウ化銅(II)等のハロゲン化銅化合物;酸化銅(I)、硫化銅(I)、酸化銅(II)、硫化銅(II)、酢酸銅(I)、酢酸銅(II)、硫酸銅(II)等が挙げられる。
【0077】
金属触媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0078】
カップリング工程において、式(do-A-1)で表される有機スズ化合物と金属触媒とのモル比[式(do-A-1)で表される有機スズ化合物:金属触媒]は、例えば、1:0.0001~1:0.5程度であり、1:0.001~1:0.4が好ましく、1:0.005~1:0.3がより好ましく、1:0.01~1:0.2がさらに好ましい。
【0079】
カップリング工程では、金属触媒に配位子を配位させてもよい。配位子としては、例えば、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリ(n-ブチル)ホスフィン、トリ(イソプロピル)ホスフィン、トリ(tert-ブチル)ホスフィン、ビス(tert-ブチル)メチルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、ジフェニル(メチル)ホスフィン、トリフェニスホスフィン、トリス(o-トリル)ホスフィン、トリス(m-トリル)ホスフィン、トリス(p-トリル)ホスフィン、トリス(2-フリル)ホスフィン、トリス(2-メトキシフェニル)ホスフィン、トリス(3-メトキシフェニル)ホスフィン、トリス(4-メトキシフェニル)ホスフィン、トリ-tert-ブチルホスホニウムテトラフルオロボラート、2-ジシクロヘキシルホスフィノビフェニル、2-ジシクロヘキシルホスフィノ-2’-メチルビフェニル、2-ジシクロヘキシルホスフィノ-2’,4’,6’-トリイソプロピル-1,1’-ビフェニル、2-ジシクロヘキシルホスフィノ-2’,6’-ジメトキシ-1,1’-ビフェニル、2-ジシクロヘキシルホスフィノ-2’-(N,N’-ジメチルアミノ)ビフェニル、2-ジフェニルホスフィノ-2’-(N,N’-ジメチルアミノ)ビフェニル、2-(ジ-tert-ブチル)ホスフィノ-2’-(N,N’-ジメチルアミノ)ビフェニル、2-(ジ-tert-ブチル)ホスフィノビフェニル、2-(ジ-tert-ブチル)ホスフィノ-2’-メチルビフェニル、1,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン、1,3-ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン、1,4-ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン、1,2-ビス(ジシクロヘキシルホスフィノ)エタン、1,3-ビス(ジシクロヘキシルホスフィノ)プロパン、1,4-ビス(ジシクロヘキシルホスフィノ)ブタン、1,2-ビスジフェニルホスフィノエチレン、1,1’-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン、1,2-エチレンジアミン、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン、2,2’-ビピリジル、1,3-ジフェニルジヒドロイミダゾリリデン、1,3-ジメチルジヒドロイミダゾリリデン、ジエチルジヒドロイミダゾリリデン、1,3-ビス(2,4,6-トリメチルフェニル)ジヒドロイミダゾリリデン、1,3-ビス(2,6-ジイソプロピルフェニル)ジヒドロイミダゾリリデン、1,10-フェナントロリン、5,6-ジメチル-1,10-フェナントロリン、バトフェナントロリンが挙げられる。これらのなかでも、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリ(n-ブチル)ホスフィン、トリ(イソプロピル)ホスフィン、トリ(tert-ブチル)ホスフィン、ビス(tert-ブチル)メチルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、ジフェニル(メチル)ホスフィン、トリフェニスホスフィン、トリス(o-トリル)ホスフィン、トリス(m-トリル)ホスフィン、トリス(p-トリル)ホスフィン、トリス(2-フリル)ホスフィン、トリス(2-メトキシフェニル)ホスフィン、トリス(3-メトキシフェニル)ホスフィン、トリス(4-メトキシフェニル)ホスフィンが好ましく、より好ましくはトリス(2-メトキシフェニル)ホスフィンである。配位子は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0080】
金属触媒に配位子を配位させる場合、金属触媒と配位子とのモル比(金属触媒:配位子)は、例えば、1:0.5~1:10程度であり、1:1~1:8が好ましく、1:1~1:7がより好ましく、1:1~1:5がさらに好ましい。
【0081】
カップリング工程では、溶媒を用いることが好ましく、溶媒は、反応に影響を及ぼさない限り特に限定されることはなく、例えば、エーテル系溶媒、芳香族系溶媒、エステル系溶媒、炭化水素系溶媒、ハロゲン系溶媒、ケトン系溶媒、アミド系溶媒、ニトリル系溶媒、スルホキシド系溶媒、スルホン系溶媒等を用いることができる。
【0082】
エーテル系溶媒としては、例えば、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、メチルテトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、シクロペンチルメチルエーテル、tert-ブチルメチルエーテル、ジオキサンなどが挙げられる。芳香族系溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、テトラリンなどが挙げられる。エステル系溶媒としては、例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチルなどが挙げられる。炭化水素系溶媒としては、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカリンなどが挙げられる。ハロゲン系溶媒としては、例えば、ジクロロメタン、クロロホルム、ジクロロエタン、ジクロロプロパンなどが挙げられる。ケトン系溶媒としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどが挙げられる。アミド系溶媒としては、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、1,3-ジメチル-3,4,5,6-テトラヒドロ-(1H)-ピリミジンなどが挙げられる。ニトリル系溶媒としては、例えば、アセトニトリル等が挙げられる。スルホキシド系溶媒としては、例えば、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。スルホン系溶媒としては、例えば、スルホラン等が挙げられる。これらのなかでも、芳香族系溶媒が好ましく、より好ましくはクロロベンゼンである。溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0083】
カップリング工程で用いる溶媒の量は、式(do-A-1)で表される有機スズ化合物とヘテロ芳香族縮環型ユニットBのハロゲン化物の合計1gに対して、例えば、1mL以上、150mL以下程度であり、好ましくは5mL以上、より好ましくは8mL以上であり、好ましくは100mL以下、より好ましくは80mL以下である。
【0084】
カップリング工程における反応温度は特に限定されないが、反応収率を高める観点から0℃以上、200℃以下が好ましく、より好ましくは30℃以上、更に好ましくは40℃以上であり、より好ましくは180℃以下、更に好ましくは150℃以下である。
【0085】
カップリング反応後は、常法に従って固液分離し、回収した固体を洗浄することによって式(Do-A-1)で表されるユニットとヘテロ芳香族縮環型ユニットBが互いに連結されている化合物を製造できる。化合物が、低分子化合物の場合は、例えば、セライトろ過によって触媒を除去した後、濃縮して得られた固体を分散洗浄することが好ましい。化合物が、高分子化合物の場合は、例えば、固液分離し、回収した固体をソックスレー洗浄および抽出することが好ましい。
【0086】
次に、得られた化合物を、水の存在下で、酸性条件で、加熱撹拌することにより、アセタール構造をケトン構造に変化させれば、下記式(Do-K)で表されるユニットとヘテロ芳香族縮環型ユニットBが互いに連結されている化合物を製造できる。
【0087】
【化13】
【0088】
次に、得られた化合物のケトン構造を、ポリチオールとルイス酸触媒を用いてチオアセタール構造に変化させることにより、本発明の化合物を製造できる。ポリチオールとしては、例えば、炭素数1~24のポリチオール(例えば、メタンジチオール、エタンジチオール、1,4-ブタンジチオール、1,6-ヘキサンジチオール、1,2,3-プロパントリチオール等)などが用いられる。ルイス酸触媒としては、例えば、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体、三フッ化ホウ素ブチルエチルエーテル錯体、三フッ化ホウ素メタノール錯体、三フッ化ホウ素エチルアミン錯体、三フッ化ホウ素ピペリジン錯体、ホウフッ化亜鉛、ホウフッ化銅、二塩化スズ、四塩化スズ、塩化アルミニウムなどが用いられる。
【実施例0089】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記実施例によって制限を受けるものではなく、前記および後記の趣旨に適合し得る範囲で変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。なお、以下においては、特に断りのない限り、「%」は「質量%」を意味する。
【0090】
実施例で用いた測定方法は、下記の通りである。
【0091】
[測定方法]
(NMRスペクトル測定)
NMRスペクトルは、NMRスペクトル測定装置としてVarian社製の「400-MR」、およびBruker社製の「AVANCE NEO 600」を用いて測定した。
【0092】
(赤外吸収スペクトル測定)
赤外吸収スペクトルは、JASCO社製のフーリエ変換赤外分光光度計「FT/IR-4X」を用いて測定した。
【0093】
(溶液状態での紫外可視吸収スペクトル測定)
溶液状態での紫外可視吸収スペクトルは、化合物の濃度が0.03g/Lとなるようにクロロホルムに溶解した溶液を準備し、紫外・可視分光装置(島津製作所社製、「UV-3600i Plus」)、および光路長1cmのセルを用いて測定した。測定結果は実線で示した。
【0094】
(薄膜状態での紫外可視吸収スペクトル測定)
化合物の濃度が8mg/mLとなるようにクロロベンゼンに溶解し、得られた溶液をガラス基板(2.5cm×2.5cm四方、厚み0.8~1.0mm)上にスピンコートして薄膜を成膜した。この薄膜の紫外可視吸収スペクトルを、常温常圧下で、紫外・可視分光装置(島津製作所社製、「UV-3600i Plus」)を用いて測定した。測定結果は点線で示した。
【0095】
特開2009-215278号公報の実施例2に基づいて化合物Hを調製した。化合物Hは、2,5-Bis(tributylstannyl)spiro[7H-cyclopenta[1,2-d:4,3-d’]bisthiazole-7,2’-[1,3]dioxolane]であり、以下、Ac-CBTZ-SBと表記することがある。
【0096】
(合成例1)
20mLフラスコに、Ac-CBTZ-SB(250.5mg、0.3068mmol)、4-bromo-2,7-dioctyl-benzo[lmn][3,8]phenanthroline-1,3,6,8(2H,7H)-tetrone(n-o-NDI-MB、348.6mg、0.610mmol)、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)クロロホルム付加体(25mg、0.0245mmol)、トリス(2-メトキシフェニル)ホスフィン(36.8mg、0.104mmol)およびクロロベンゼン(10mL)を添加し、130℃で16時間反応した。反応終了後、セライトろ過し、濃縮した。次に、メタノール(7mL)を加え、析出した固体をろ取した結果、紺色固体が404.1mg(収率100%)得られた。NMRスペクトル測定の結果、得られた紺色固体は、Ac-CBTZ-2(n-o-NDI)(以下、化合物1ということがある)であった。得られた化合物1の溶液状態での紫外可視吸収スペクトル測定を行ない、測定結果を図1に示した。
化合物1のH NMR(400MHz,CDCl):9.355(s,2H),8.814(d,2H),8.778(d,2H),4.599(s,4H),4.214(quin,8H),1.505-1.123(m,48H),1.008(t,24H),0.849(t,12H)
【0097】
【化14】
【0098】
(合成例2)
20mLフラスコに、Ac-CBTZ-SB(60mg、0.0735mmol)、4-bromo-2,7-didecylbenzo[lmn][3,8]phenanthroline-1,3,6,8(2H,7H)-tetrone(DE-NDI-MB、92.5mg、0.147mmol)、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)クロロホルム付加体(6.0mg、5.8μmol)、トリス(2-メトキシフェニル)ホスフィン(8.8mg、0.026mmol)およびクロロベンゼン(2.4mL)を添加し、130℃で16時間反応した。反応終了後、セライトろ過し、濃縮した。次に、メタノール(7mL)を加え、析出した固体をろ取した結果、紺色固体が57.5mg(収率71.0%)で得られた。NMRスペクトル測定の結果、得られた紺色固体は、Ac-CBTZ-2(DE-NDI)(以下、化合物2ということがある)であった。得られた化合物2の溶液状態での紫外可視吸収スペクトル測定を行ない、測定結果を図2に示した。
化合物2のH NMR(400MHz,CDCl):9.341(s,2H),8.820(d,2H),8.785(d,2H),4.596(s,4H),4.180(quin,8H),1.719(bs,8H),1.423-1.340(m,56H),0.859(t,12H)
【0099】
【化15】
【0100】
(合成例3)
20mLフラスコに、合成例1で得られたAc-CBTZ-2(n-o-NDI)(80mg、0.066mmol)をクロロベンゼン(40mL)中で溶解した。そこへ酢酸8ml、12mol/Lの濃塩酸2mlを加えて100℃で15時間攪拌した。反応終了後、水および重曹水で洗浄して得られた有機層を硫酸マグネシウムで乾燥した。固形分をろ過後、濃縮した粗品をメタノールおよびクロロホルムに分散、ろ取し、紺色固体を59.5mg(収率76.9%)得た。NMRスペクトル測定および赤外吸収スペクトル測定(IR測定)の結果、得られた紺色固体は、CBTZ-2(n-o-NDI)(以下、化合物3ということがある)であった。得られた化合物3の溶液状態での紫外可視吸収スペクトル測定を行ない、測定結果を図3に示した。
化合物3のH NMR(400MHz,CDCl):9.076(s,2H),8.845(d,2H),8.824(d,2H),4.217-4.117(dt,8H),1.758-1.593(m,8H),1.416-1.254(m,40H),0.881-0.833(t,12H)
【0101】
【化16】
【0102】
(合成例4)
20mLフラスコに、合成例2で得られたAc-CBTZ-2(DE-NDI)(40mg、0.031mmol)をクロロベンゼン(20mL)中で溶解した。そこへ酢酸4ml、12mol/Lの濃塩酸1mlを加えて100℃で15時間攪拌した。反応終了後、水および重曹水で洗浄して得られた有機層を硫酸マグネシウムで乾燥した。固形分をろ過後、濃縮した粗品をメタノールおよびクロロホルムに分散、ろ取し、紺色固体を31.8mg(収率82.2%)得た。NMRスペクトル測定および赤外吸収スペクトル測定(IR測定)の結果、得られた紺色固体は、CBTZ-2(DE-NDI)(以下、化合物4ということがある)であった。得られた化合物4の溶液状態での紫外可視吸収スペクトル測定を行ない、測定結果を図4に示した。
化合物4のH NMR(400MHz,CDCl):9.078(s,2H),8.845(d,2H),8.824(d,2H),4.218-4.116(dt,8H),1.721-1.685(m,8H),1.395-1.184(m,56H),0.875-0.826(q,12H)
【0103】
【化17】
【0104】
(実施例1)
20mLフラスコに、合成例3で得られたCBTZ-2(n-o-NDI)(18.7mg、0.0160mmol)をクロロホルム(2mL)中で溶解した。そこへ1,2-Ethanedithiol(0.01ml,0.10mmol)、Boron Trifluoride-Ethyl Ether Complex(0.01ml,0.060mmol)、酢酸1滴を添加して60℃で15時間攪拌した。反応終了後、水でクエンチし、重曹水で洗浄して得られた有機層を硫酸マグネシウムで乾燥した。固形分をろ過後、濃縮した粗品をメタノールおよびヘキサンに分散、ろ取し、紺色固体を6.0mg(収率30.1%)得た。NMRスペクトル測定および赤外吸収スペクトル測定(IR測定)の結果、得られた紺色固体は、DTh-CBTZ-2(n-o-NDI)(以下、化合物5ということがある)であった。得られた化合物5の溶液状態での紫外可視吸収スペクトル測定を行ない、測定結果を図5に示した。
化合物5のH NMR(400MHz,CDCl):9.258(s,2H),8.820(d,2H),8.791(d,2H),4.221-4.131(dt,8H),1.785-1.655(m,8H),1.497-1.202(m,40H),1.187-0.834(q,12H)
【0105】
【化18】
【0106】
(実施例2)
20mLフラスコに、合成例4で得られたCBTZ-2(DE-NDI)(17.6mg、0.0137mmol)をクロロホルム(2mL)中で溶解した。そこへ1,2-Ethanedithiol(0.01ml,0.11mmol)、Boron Trifluoride-Ethyl Ether Complex(0.01ml,0.70mmol)、酢酸1滴を添加して60℃で15時間攪拌した。反応終了後、水でクエンチし、重曹水で洗浄して得られた有機層を硫酸マグネシウムで乾燥した。固形分をろ過後、濃縮した粗品をメタノールおよびヘキサンに分散、ろ取し、紺色固体を6.0mg(収率30.1%)得た。NMRスペクトル測定および赤外吸収スペクトル測定(IR測定)の結果、得られた紺色固体は、DTh-CBTZ-2(DE-NDI)(以下、化合物6ということがある)であった。得られた化合物6の溶液状態での紫外可視吸収スペクトル測定を行ない、測定結果を図6に示した。
化合物6のH NMR(400MHz,CDCl):9.256(s,2H),8.820(d,2H),8.792(d,2H),4.199-4.124(dt,8H),1.724(m,84H),1.238(m,56H),0.855-0.820(q,12H)
【0107】
【化19】
【0108】
(合成例5)
20mLフラスコに、Ac-CBTZ-SB(100mg、0.122mmol)、4,9-Dibromo-2,7-bis(2-decyltetradecyl)benzo[lmn][3,8]phenanthroline-1,3,6,8(2H,7H)-tetrone(TD-NDI-DB、134mg、0.122mmol)、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)クロロホルム付加体(5mg、4.8μmol)、トリス(2-メトキシフェニル)ホスフィン(7.5mg、21μmol)およびクロロベンゼン(4mL)を添加し、溶解性を確認しながら50℃から100℃まで段階的に昇温し、100℃で15時間反応した。50℃から100℃までの昇温は、溶解性を確認しながら50℃で1時間保持、70℃に昇温して1時間保持した後、100℃に昇温した。反応終了後、メタノール(30mL)に反応液を加え、析出した固体をろ取し、得られた固体をソックスレー洗浄(メタノール、アセトン、ヘキサン)した。次に、ソックスレー抽出(クロロホルム)した結果、紺色固体が125mg(収率91%)得られた。得られた紺色固体の一部(10mg、8.5μmol)をクロロベンゼンに溶かし、酢酸および12mol/Lの濃塩酸を大過剰に加えて100℃で15時間攪拌した。反応終了後、濃縮し、メタノールを加えてろ取した結果、紺色固体が9.3mg(収率80%)得られた。NMRスペクトル測定の結果、得られた紺色固体は、P-CBTZ-TD-NDI(以下、化合物7ということがある)であった。この際に、得られた化合物7の溶液状態での紫外可視吸収スペクトル測定を行い、その測定結果も考慮に入れた。紫外可視吸収スペクトルの測定結果を図7に実線で示した。
【0109】
【化20】
【0110】
(実施例3)
20mLフラスコに、合成例5で得られたP-CBTZ-TD-NDI(17.1mg、0.0151mmol)をクロロホルム(3mL)中で溶解した。そこへ1,2-Ethanedithiol(0.01ml,0.16mmol)、Boron Trifluoride-Ethyl Ether Complex(0.02ml,0.19mmol)、酢酸(0.09mL,0.20mmol)を添加して60℃で16時間攪拌した。反応終了後、水でクエンチし、重曹水で洗浄して得られた有機層を硫酸マグネシウムで乾燥した。固形分をろ過後、濃縮した粗品をメタノールに分散、ろ取し、紺色固体を13mg(収率71.2%)得た。NMRスペクトル測定および赤外吸収スペクトル測定(IR測定)の結果、得られた紺色固体は、P-DTh-CBTZ-TD-NDI(以下、化合物8ということがある)であった。得られた化合物8の溶液状態での紫外可視吸収スペクトル測定を行ない、測定結果を図8に示した。図8から明らかなように、本発明の化合物8は、長波長領域の光を吸収できることが分かる。なお、化合物8に関しては、NMRスペクトルのピークがブロードで、エタンジチオールによる保護反応の進行を判断するのが困難であったため、化合物7と化合物8の赤外吸収スペクトル測定も行った。化合物7と化合物8の赤外吸収スペクトルを比較したところ、化合物8ではケトン基由来と考えられる1700cm-1付近のピークが消失していたため、エタンジチオールによる保護反応が進行していることが確認された。
【0111】
【化21】
【0112】
次に、得られた化合物7、8の分子量を測定した。分子量の測定には、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いた。測定に際しては、化合物を2mg/4mLの濃度となるように移動相溶媒(クロロホルム)に溶解し、下記条件で測定を行い、ポリスチレンを標準試料として作成した較正曲線に基づいて換算することによって、化合物の重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)を算出した。測定におけるGPC条件は、下記の通りである。分子量の測定結果を下記表1に示した。
装置:HLC-8320GPC(TOSOH製)
カラム:TSKgel SuperHM-H×2+TSKgel SuperH2000 (TOSOH製)
移動相溶媒の流速:0.6ml/min
【0113】
【表1】
【0114】
次に、得られた化合物4、6、7、8の溶媒への溶解性について評価した。溶媒としては、クロロホルム、クロロベンゼン、トルエン、1-メチルナフタレン、シクロヘキサン、およびテトラヒドロフラン(THF)を用いた。化合物の濃度が1mg/mLとなるように各溶媒を添加し、室温で30分間撹拌した。30分間撹拌後、化合物が溶解しているか目視で観察し、下記基準に基づいて評価した。評価結果を下記表2に示した。なお、化合物7、8については、シクロヘキサンに対する溶解性の評価は行わなかった。
<評価基準>
○:溶媒に溶解した。
△:溶媒にわずかに溶解した(一部が溶解せずに残っていた)。
×:溶媒に溶解しなかった。
【表2】
【0115】
表2から明らかなように、化合物4と化合物6の結果を対比すると、化合物4は、1-メチルナフタレンやTHFに対する溶解性は低かったが、式(Do-A)で表されるユニットAを有する化合物6は、1-メチルナフタレンやTHFに溶解した。また、化合物4は、シクロヘキサンに不溶であったが、式(Do-A)で表されるユニットAを有する化合物6は、シクロヘキサンに溶解するようになった。化合物7と化合物8の結果を対比すると、化合物7は、トルエン、1-メチルナフタレン、およびTHFに対する溶解性は低かったが、式(Do-A)で表されるユニットAを有する化合物8は、これらの溶媒に溶解した。
【0116】
次に、得られた化合物1~8を用い、イオン化エネルギー、およびバンドギャップを測定した。また、イオン化エネルギーの値およびバンドギャップの値からLUMOの値を求めた。
【0117】
(イオン化エネルギーの測定)
化合物の濃度が8mg/mLとなるようにクロロベンゼンに溶解し、得られた溶液をガラス基板上にドロップキャストして薄膜を成膜した。薄膜の厚みは50~100nmとした。この薄膜のイオン化エネルギー(eV)を、常温常圧下で、イオン化エネルギー測定装置(分光計器株式会社製、「BIP-KV202GD」)を用いて測定した。測定したイオン化エネルギーの値(eV)を表1に示した。
【0118】
(バンドギャップ)
化合物のバンドギャップは、化合物を含む薄膜の紫外可視吸収スペクトル測定(UV測定)を行い、紫外可視吸収スペクトルの立ち上がり波長λに基づいて算出した。立ち上がり波長λは、最大吸収を示すピークの曲線における高波長側から低波長側に向かって吸収が大きくなる領域の曲線に対して補助線として接線を引き、この接線と吸光度が0を示す横軸との交点における波長を読み取り、この波長をUVの立ち上がり波長λとして求めた。薄膜状態で測定したUV測定の結果を図1図8に点線で示した。また、紫外可視吸収スペクトルの立ち上がり波長λに基づいてバンドギャップ(eV)を算出した。算出したバンドギャップの値(eV)を表1に示した。また、イオン化エネルギーの値とバンドギャップの値に基づいてLUMOの値(eV)を算出し、結果を表1に示した。
【0119】
次に、得られた化合物1、2、5、6、8を用い、電子移動度μe、閾値電圧、オン/オフ比を測定した。
【0120】
(電子移動度、閾値電圧、オン/オフ比の測定)
ゲート電極となるようなシリコン基板の表面に、シリコン酸化膜および電極を形成させた基板について溶剤洗浄およびオゾン処理を実施した。その後、基板表面を、オクタデシルトリクロロシラン(ODTS)またはヘキサメチルジシラザン(HMDS)を用いて処理した。処理後の基板表面に、化合物を溶解させた溶液をスピンコートすることで、有機電界効果型トランジスタ(OFET)素子を作製した。スピンコートに用いた溶液における化合物1、2、5、6の濃度は1質量%とし、化合物8の濃度は0.5質量%とした。スピンコートに用いた溶媒を表1に示した。作製したOFET素子につき、100℃で1時間のアニールを実施、放冷、150℃で1時間のアニールを実施、放冷後、Id-Vg特性を測定した。Id-Vg特性は、窒素雰囲気下または真空下で測定した。測定雰囲気を表1に示した。Id-Vg特性の測定には、ケースレーインスツルメンツ(KEITHLEY)製の「4200-SCS」を用い、有機半導体素子のチャネル長さは25μm、チャネル幅は294mmとした。Id-Vg特性の測定を行い、電子移動度μe(cm/Vs)、閾値電圧Vth(V)、オン/オフ比(Ion/Ioff)を求めた。150℃で1時間のアニールを実施した後に測定したId-Vg特性の結果を表1に示した。なお、表1に示した電子移動度μe、閾値電圧、オン/オフ比の欄に記載した「-」は未実施を示している。
【0121】
表1に示した化合物5、6、8の結果から明らかなように、チオアセタール構造を有する化合物を用いて得られた有機電子デバイスは、良好なId-Vg特性を示し、チオアセタール構造を有する化合物は、有機半導体材料として有用であることが分かる。また、化合物1と化合物5、化合物2と化合物6の結果をそれぞれ比較すると、アセタール構造をチオアセタール構造にすることにより、アセタール構造の場合と同等以上のId-Vg特性が得られることが分かる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8