(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024179230
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】超音波診断装置及び計測支援方法
(51)【国際特許分類】
A61B 8/08 20060101AFI20241219BHJP
【FI】
A61B8/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023097918
(22)【出願日】2023-06-14
(71)【出願人】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤井 信彦
【テーマコード(参考)】
4C601
【Fターム(参考)】
4C601DD19
4C601DD23
4C601EE09
4C601EE11
4C601JC16
4C601JC37
4C601KK02
4C601KK31
(57)【要約】
【課題】せん断波計測の信頼性を向上させる。
【解決手段】ベクトル演算器28は、ビーム走査面上に設定された複数の代表点の運動を表す複数のベクトルを演算する。ベクトルアレイ解析器30は、複数のベクトルからなるベクトルアレイを解析する。その解析結果に基づいて、参照情報生成器32が参照情報を生成する。参照情報は、せん断波計測に適する状況であるか否かを示す情報である。参照情報が表示される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
注目組織を横切るように形成されたビーム走査面から得られるフレームデータ列に基づいて、前記ビーム走査面内において二次元に広がる複数の代表点の運動を表す複数のベクトルを演算する演算器と、
前記複数のベクトルに基づいて、前記注目組織内で生じたせん断波の速度の計測に適する状況にあるか否かを表す参照情報を生成する生成器と、
前記参照情報を表示する表示器と、
を含むことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項2】
請求項1記載の超音波診断装置において、
前記せん断波の速度を計測する計測部位が前記ビーム走査面内に定められ、
前記複数の代表点は前記計測部位を含んだ運動観測領域の全体にわたって分散している、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項3】
請求項1記載の超音波診断装置において、
前記複数のベクトルは複数の二次元ベクトルである、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項4】
請求項1記載の超音波診断装置において、
前記生成器は、
前記複数のベクトルに基づいて、前記複数の代表点の運動方向及び運動量を表す散布図を生成し、
前記散布図を解析し、
前記散布図の解析結果に基づいて前記参照情報を生成する、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項5】
請求項4記載の超音波診断装置において、
前記生成器は、前記散布図の解析により、前記せん断波の速度の計測を妨げる要因を特定し、
前記参照情報には、前記要因を表す情報が含まれる、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項6】
請求項1記載の超音波診断装置において、
前記生成器は、前記複数のベクトルに基づいて、前記参照情報として、前記複数の代表点の運動を表現した複数の図形を含む参照画像を生成する、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項7】
請求項6記載の超音波診断装置において、
前記生成器は、前記各ベクトルの大きさに基づいて、前記各図形の色を決定する、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項8】
注目組織を横切るように形成されたビーム走査面から得られるフレームデータ列に基づいて、前記ビーム走査面内において二次元に広がる複数の代表点の運動を表す複数のベクトルを演算する工程と、
前記複数のベクトルに基づいて、前記注目組織内で生じたせん断波の速度の計測に適する状況にあるか否かを表す参照情報を生成する工程と、
前記参照情報を表示する工程と、
を含むことを特徴とする計測支援方法。
【請求項9】
情報処理装置において計測支援方法を実施するためのプログラムであって、
注目組織を横切るように形成されたビーム走査面から得られるフレームデータ列に基づいて、前記ビーム走査面内において二次元に広がる複数の代表点の運動を表す複数のベクトルを演算する機能と、
前記複数のベクトルに基づいて、前記注目組織内で生じたせん断波の速度の計測に適する状況にあるか否かを表す参照情報を生成する機能と、
を含むことを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、超音波診断装置及び計測支援方法に関し、特に、組織内を伝搬するせん断波(Shear wave)の計測を支援する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波診断装置を用いたせん断波計測が広く普及している。せん断波計測は、生体組織(一般には肝臓)を伝搬するせん断波の速度を計測するものである(特許文献1及び特許文献2を参照)。
【0003】
せん断波計測の一例について具体的に説明する。検査者(医師、検査技師等)により、被検者内のビーム走査面(実際には断層画像)上に関心領域が設定される。関心領域内には、せん断波を生じさせる発生点が定められ、また、発生点の近傍にせん断波観測用の2つの観測点が定められる。発生点が送信焦点となるように、その発生点に向けて超音波パルスが繰り返し送信される。その超音波パルスはプッシュパルスとも呼ばれる。
【0004】
発生点への超音波パルスの繰り返し送信に起因して、発生点からその周囲へ伝搬するせん断波が生じる。せん断波は横波である。組織内を伝搬するせん断波が上記2つの観測点で観測される。各観測点でのせん断波の通過タイミングを特定するために、一方の観測点に対する超音波の送受信と他方の観測点に対する超音波の送受信とが交互に繰り返される。各観測点に対して送信される超音波パルスはトラッキングパルスとも呼ばれる。
【0005】
観測点ごとに得られる一連の受信信号に基づいて時間的に変化する変位が演算される。2つの観測点で観測された2つの変位ピークの時間差から、せん断波の速度が演算される。せん断波の速度に基づいて組織の弾性情報が演算され、それが表示される。
【0006】
関心領域内の計測部位に対して心臓の周期的運動に由来する周期的な応力が及ぶと、せん断波速度を正しく計測できなくなる。計測部位に対してその近くにある血管からその拍動により生じた周期的な応力が及ぶ場合も同様である。プローブの動きや被検者の呼吸によりプローブと生体との間の空間的関係が変化する場合にも、せん断波速度を正しく計測できなくなる。
【0007】
従来、検査者は、断層画像を見ながら、上記で挙げたいずれかの問題ができる限り生じないように、プローブを操作し、また関心領域を設定している。しかしながら、断層画像に基づく主観的な判断により、プローブの位置及び姿勢を最適化したり、関心領域の位置を最適化したりすることは難しい。せん断波計測の信頼性を向上させるため、せん断波計測を支援することが望まれる。
【0008】
なお、特許文献1には、せん断波計測において体動信号に基づいて適切な計測開始タイミングを決定する技術が記載されている。特許文献2には、せん断波計測において妨害要因を特定する技術が記載されている。しかし、特許文献1及び特許文献2には、二次元に広がる複数の観測点の二次元運動を計測する技術は記載されていない。また、特許文献1及び特許文献2には、せん断波計測の前に、検査者に対して、プローブ操作や関心領域設定を支援する情報を提供することは記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2015-205033号公報
【特許文献2】特許第6169707号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本開示の目的は、せん断波計測の信頼性を高めることにある。あるいは、本開示の目的は、せん断波計測において検査者を支援することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示に係る超音波診断装置は、注目組織を横切るように形成されたビーム走査面から得られるフレームデータ列に基づいて、前記ビーム走査面内において二次元に広がる複数の代表点の運動を表す複数のベクトルを演算する演算器と、前記複数のベクトルに基づいて、前記注目組織内で生じたせん断波の速度の計測に適する状況にあるか否かを表す参照情報を生成する生成器と、前記参照情報を表示する表示器と、を含むことを特徴とする。
【0012】
本発明に係る計測支援方法は、注目組織を横切るように形成されたビーム走査面から得られるフレームデータ列に基づいて、前記ビーム走査面内において二次元に広がる複数の代表点の運動を表す複数のベクトルを演算する工程と、前記複数のベクトルに基づいて、前記注目組織内で生じたせん断波の速度の計測に適する状況にあるか否かを表す参照情報を生成する工程と、前記参照情報を表示する工程と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本開示によれば、せん断波計測の信頼性を高められる。あるいは、本開示によれば、せん断波計測において検査者を支援できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施形態に係る超音波診断装置の構成例を示すブロック図である。
【
図3】表示フレームデータ間でのパターンマッチングを示す図である。
【
図9】変形例としての重み付け処理を示す図である。
【
図10】せん断波計測前の表示の一例を示す図である。
【
図11】せん断波計測後の表示の一例を示す図である。
【
図12】実施形態に係る計測支援方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、実施形態を図面に基づいて説明する。
【0016】
(1)実施形態の概要
実施形態に係る超音波診断装置は、演算器、生成器及び表示器を有する。演算器は、注目組織を横切るように形成されたビーム走査面から得られるフレームデータ列に基づいて、ビーム走査面内において二次元に広がる複数の代表点の運動を表す複数のベクトルを演算する。生成器は、複数のベクトルに基づいて、注目組織内で生じたせん断波の速度の計測に適する状況にあるか否かを表す参照情報を生成する。その参照情報が表示器に表示される。
【0017】
上記構成によれば、せん断波計測(より正確にはせん断波速度計測)に先立って、検査者に対して参照情報が提供されるので、検査者は参照情報に基づいてせん断波計測の実行の可否を判断できる。例えば、せん断波計測に先立って、検査者により参照情報が参照され、これにより検査者において超音波プローブの運動や組織の拍動による影響が計測部位に及んでいることを認識することが可能となる。すなわち、参照情報の観察を通じてせん断波計測に適する状況にあるか否かを判断できる。注目組織は被検者内の検査対象組織であり、それは例えば肝臓である。フレームデータ列は、表示フレームデータ列又は受信フレームデータ列である。
【0018】
実施形態においては、せん断波の速度を計測する計測部位がビーム走査面内に定められる。複数の代表点は、計測部位を含んだ運動観測領域の全体にわたって分散している。この構成によれば、計測部位の周囲から計測部位へ及ぶ運動(変位)を観測及び評価することが可能となる。また、その運動が全体的な運動であるか局所的な運動であるかを識別することが可能となる。ここで、複数のベクトルは複数の二次元ベクトルである。複数のベクトルによりベクトルアレイが構成される。パターンマッチング法をはじめとする様々な方法を用いて、ベクトルアレイを求められる。
【0019】
実施形態において、生成器は、複数のベクトルに基づいて、複数の代表点の運動方向及び運動量を表す散布図を生成する。また、生成器は、散布図を解析し、散布図の解析結果に基づいて参照情報を生成する。散布図によれば、ベクトルアレイを構成する複数のベクトルを評価し易くなる。散布図が有する第1軸はベクトルの方位を示す軸であり、散布図が有する第2軸はベクトルの大きさ(運動量)を示す軸である。
【0020】
実施形態において、生成器は、散布図の解析により、せん断波の速度の計測を妨げる要因を特定する。参照情報には、要因を表す情報が含まれる。その要因として、プローブ運動及び組織の拍動が挙げられる。
【0021】
実施形態において、生成器は、複数のベクトルに基づいて、参照情報として、複数の代表点の運動を表現した複数の図形を含む参照画像を生成する。この構成によれば、計測部位に対してどの方向からどの程度の応力が伝搬しているのかを視覚的に直感的に認識することが可能となる。それ故、せん断波計測に適する状況を生じさせるために必要な対処方法を特定することが可能となる。
【0022】
実施形態において、生成器は、各ベクトルの大きさに基づいて、各図形の色を決定する。この構成によれば、検査者において、生体内で生じている妨害運動の大小を直感的に認識できる。
【0023】
実施形態に係る計測支援方法は、演算工程、生成工程及び表示工程を有する。演算工程では、注目組織を横切るように形成されたビーム走査面から得られるフレームデータ列に基づいて、ビーム走査面内において二次元に広がる複数の代表点の運動を表す複数のベクトルが演算される。生成工程では、複数のベクトルに基づいて、注目組織内で生じたせん断波の速度の計測に適する状況にあるか否かを表す参照情報が生成される。表示工程では、参照情報が表示される。
【0024】
上記計測支援方法を実施するためのプログラムが、ネットワークを介して、又は、可搬型記憶媒体を介して、情報処理装置へインストールされる。情報処理装置は、そのプログラムを非一時的に格納する記憶媒体を有する。情報処理装置は、例えば、超音波診断装置である。
【0025】
(2)実施形態の詳細
図1には、実施形態に係る超音波診断装置が示されている。この超音波診断装置は、被検者の超音波検査、特に被検者内の肝臓の超音波検査で用いられるものである。
【0026】
超音波プローブ10は、複数の振動子からなる振動子アレイを有する。断層画像を形成及び表示するBモードの実行時には、振動子アレイにより、超音波ビームが形成され、その超音波ビームが電子走査される。これにより被検者内にビーム走査面が形成される。実施形態においては、肝臓を横切るようにビーム走査面が形成される。
【0027】
電子走査方式として、電子リニア走査方式、電子セクタ走査方式等が知られている。超音波プローブ10に二次元振動子アレイを設け、生体内からボリュームデータを取得してもよい。せん断波計測モードの実行時における送受信動作については後述する。
【0028】
送信回路12は、送信ビームフォーマーとして機能する電子回路である。送信時において、送信回路12は、振動子アレイに対して複数の送信信号を並列的に供給する。これにより送信ビームが形成される。
【0029】
受信回路14は、受信ビームフォーマーとして機能する電子回路である。受信時において、受信回路14は、振動子アレイから並列的に出力された複数の受信信号に対して整相加算を適用し、これによって受信ビームデータを生成する。Bモードの実行時には、電子走査方向に並ぶ複数の受信ビームデータが順次生成される。それらにより受信フレームデータが構成される。
【0030】
ビームデータ処理器16は、受信回路14から順次出力される複数の受信ビームデータを処理する電子回路である。ビームデータ処理器16には、検波回路、対数変換回路等が含まれる。
【0031】
画像形成器18は、Bモードの実行時において、複数の受信ビームデータに基づいて断層画像(Bモード断層画像)を形成する。画像形成器18は、デジタルスキャンコンバータを有する。デジタルスキャンコンバータは、座標変換機能、画素補間機能等を有する。断層画像データが画像形成器18から情報処理部20へ送られている。具体的には、時間軸上において並ぶ複数の表示フレームデータ(表示フレームデータ列)が画像形成器18から情報処理部20へ送られている。
【0032】
Bモードの動作中に計測実行ボタンが操作されると、Bモードが終了し、せん断波計測モードが始動する。具体的には、関心領域内の発生点が送信焦点とされつつ発生点を通過する送信ビームが繰り返し形成される。換言すれば、発生点に対して複数のプッシュパルスが順次送信される。これによりせん断波が生じる。第1観測点を通過する第1送信ビーム及び第1受信ビームの形成、並びに、第2観測点を通過する第2送信ビーム及び第2受信ビームの形成、が交互に実行される。これにより複数の第1受信ビームデータ及び複数の第2受信ビームデータが生成される。それらの受信ビームデータはビームデータ処理器16を経由して情報処理部20へ送られる。
【0033】
情報処理部20は、プログラムを実行するプロッサ(具体的にはCPU)により構成される。情報処理部20は、超音波診断装置を構成する各要素の動作を制御するものである。
図1においては、情報処理部20により発揮される複数の機能が複数のブロックにより表現されている。
【0034】
せん断波計測モードの実行時には、送受信制御器22、速度演算器24、レポート生成器26、ベクトル演算器28、ベクトルアレイ解析器30、及び、参照情報生成器32が機能する。但し、送受信制御器22は、Bモードの実行時にも機能する。以下、具体的に説明する。
【0035】
送受信制御器22は、Bモードにおいて送受信を制御し、また、せん断波計測モードにおいて送受信を制御するものである。
【0036】
速度演算器24は、上記の複数の第1受信ビームデータ及び複数の第2受信ビームデータに基づいてせん断波の速度を演算するものである。具体的には、複数の第1受信ビームデータに基づいて第1変位波形を生成し、また、複数の第2受信ビームデータに基づいて第2変位波形を生成する。第1観測点と第2観測点の間の距離、及び、第1変位波形に含まれる第1変位ピークと第2変位波形に含まれる第2変位ピークの間の時間差、に基づいて、せん断波の速度を演算する。速度演算器24は、せん断波の速度に基づいて生体組織の弾性情報も演算する。
【0037】
レポート生成器26は、せん断波計測結果(せん断波速度、弾性情報等)を含むレポートを生成する。そのレポートは表示器34に表示される。表示器34は、例えば、液晶表示器、有機EL表示器等により構成される。
【0038】
ベクトル演算器28は、表示フレームデータ列に基づいて、各時刻でベクトルアレイを演算する。具体的には、隣接する2つの表示フレームデータ間でパターンマッチングを実行することにより、複数の代表点の運動を表す複数のベクトル(複数の運動ベクトル、複数の変位ベクトル)を演算する。各ベクトルは二次元ベクトルである。複数の代表点に対応する複数の二次元ベクトルにより、ベクトルアレイが構成される。個々の時刻でベクトルアレイが求められる。受信フレームデータ列に基づいて複数のベクトルアレイが順次演算されてもよい。
【0039】
ベクトルアレイ解析器30は、各時刻で生成されたベクトルアレイを解析する。具体的には、現時点で演算されたベクトルアレイに基づいて、せん断波計測に適する状況にあるか否かを判定する。ベクトルアレイは、せん断波計測を妨害する要因が反映された情報である。ベクトルアレイ解析器30は、必要に応じて、ベクトルアレイに基づいて、せん断波計測を妨害する要因を識別する。
【0040】
参照情報生成器32は、現状がせん断波計測に適する状況であるか否かを判断するための参照情報を生成する。参照情報は、例えば、ベクトルアレイ解析器30の解析結果を表す情報である。あるいは、参照情報は、複数のベクトルを示す複数の図形を含む参照画像である。
【0041】
参照情報は、表示器34に表示される。参照情報の観察により、検査者は、せん断波計測の適正な開始タイミングを容易に判断することが可能となる。あるいは、検査者は、せん断波計測を正確に行うためにプローブの位置や姿勢を調整できる。そのような調整は、計測部位の位置の調整とも言い得る。例えば、特定の血管の拍動による影響が計測部位に及ばないように、計測部位の位置が変更されてもよい。
【0042】
操作パネル36は、トラックボール、キーボード等を有する入力デバイスである。操作パネル36を利用してせん断波計測の実行開始が検査者により指示される。ベクトル解析条件が操作パネル36を通じて検査者により指定されてもよい。
【0043】
図2には、せん断波計測方法が模式的に示されている。
図2の左側にはビーム走査面38が示されている。ビーム走査面38上に関心領域40が設定される。rは深さ方向を示し、θは電子走査方向を示している。θ1は中央ビームアドレスを示している。中央ビームアドレス上に関心領域40が設定されている。ビーム走査面38上の任意の位置に関心領域40が設定されてもよい。関心領域40は、せん断波計測を行う部位(計測部位)を含む領域である。
【0044】
図2の右側には、拡大された関心領域40Aが示されている。発生点42が送信焦点となるように、送信ビーム44が繰り返し形成される。これにより、発生点42においてせん断波が生じ、それが肝臓内を伝搬する。
図2においては、右方向(+x方向)に伝搬するせん断波46が示されている。第1観測点P1に対する送受信48及び第2観測点P2に対する送受信48が繰り返し実行され、これにより複数の第1受信ビームデータ及び複数の第2受信ビームデータが取得される。それらの受信ビームデータに基づいてせん断波速度が演算される。上記の計測部位は、発生点42、第1観測点P1及び第2観測点P2を含む局所部位である。
【0045】
発生点42の右側でのせん断波計測と共に、発生点42の左側でのせん断波計測が実施されてもよい。その場合には、左方向(-x方向)に伝搬するせん断波52が第3観測点P3及び第4観測点P4で観測される。その場合、計測部位は、発生点42、第1観測点P1、第2観測点P2、第3観測点P3及び第4観測点P4を含む局所部位である。複数の深さでせん断波計測が実施されてもよい。二次元に広がる複数の計測部位において、それぞれ、せん断波計測が実施されてもよい。
【0046】
続いてベクトルアレイの演算について説明する。
図3には、時間的に隣接する2つの表示フレームデータFn,Fn+1が示されている。符号40は関心領域を示している。表示フレームデータFn上に運動観測領域58が定義されている。運動観測領域58はマトリックス構造を有し、すなわち、運動観測領域58は複数のセル60の集合体である。セル60ごとに、その中心点64が特定される。各中心点64は、ビーム走査面上の各代表点に相当する。複数の中心点64により中心点アレイ62が構成される。中心点64ごとにそれを含む局所範囲が定められ、その局所範囲内の画像部分がテンプレート66とされる。局所範囲として、より大きな又はより小さな範囲が定められてもよい。
【0047】
一方、表示フレームデータFn+1には、上記の中心点アレイ62に対応する中心点アレイが定められる。その中心点アレイに基づいて参照領域アレイ67が設定される。1つの中心点ごとに、それを含む1つの参照領域68が設定される。参照領域68として、より大きな又はより小さな範囲が定められてもよい。
【0048】
対応関係にあるテンプレート66及び参照領域68の組み合わせごとに、テンプレートマッチング70が実行される。具体的には、参照領域68内でのテンプレート66の重合位置を変化させながら、各重合位置において、テンプレート66とそれに対応する画像部分との間で相関演算が実施される。最良の相関値が得られた時点でのテンプレート66の重合位置に基づいて、中心点(つまり代表点)の運動ベクトル(変位ベクトル)が演算される。
【0049】
2つの表示フレームデータFn,Fn+1間において、複数の組み合わせに対応する複数の運動ベクトルが演算される。それらによりベクトルアレイが構成される。以上の処理が表示フレームデータペアごとに実行される。上述のように、受信フレームデータペアに基づいてベクトルアレイが演算されてもよい。
【0050】
図4には、ビーム走査面72上に設定された代表点アレイ78が示されている。符号74は、計測部位を含む関心領域を示している。代表点アレイ78は、関心領域を含みつつ、ビーム走査面72上に広がる複数の代表点80により構成される。
図4には、上述のように演算されたベクトルアレイ81も示されている。ベクトルアレイ81は、複数の代表点80の運動を示すものであり、具体的には、各代表点80の運動方向及び運動量(運動の大きさ)を示すものである。
【0051】
図5には、様々な状況下で演算される複数のベクトルアレイが示されている。それぞれのベクトルアレイは誇張表現されている。ベクトルアレイ(A)は、例えば、超音波プローブの横運動により生じたものである。ベクトルアレイ(A)を構成する複数のベクトルはほぼ同じ方向を向いており、それらの大きさもほぼ同じである。
【0052】
ベクトルアレイ(B)は、例えば、心臓の拍動に起因して伝搬してきた比較的に大きな運動を示すものである。ベクトルアレイ(C)は、例えば、心臓の拍動に起因して伝搬してきた比較的に小さな局所的な運動を示すものである。
【0053】
ベクトルアレイ(D)は、超音波プローブの運動に起因して生じたものである。グレー表現されているセル84は、ベクトルを演算できなかった代表点を示している。つまり、グレー表現はベクトル演算失敗を意味している。ベクトルアレイ(D)では、少なくない代表点において、ベクトル演算失敗が生じている。
【0054】
以上のようにベクトルアレイによれば、計測部位の周囲から計測部位へ及ぶ様々な運動(変位)を詳しく特定することが可能となる。よって、ベクトルアレイに基づいてせん断波計測に適する状況か否かを判断することが可能となる。
【0055】
実施形態では、ベクトルアレイを解析するためにベクトルアレイに基づいて散布図が生成されている。
図6~
図8には3つの散布図が示されている。各散布図において、横軸は運動方位を示す軸であり、縦軸は運動の大きさつまり運動量を示す軸である。各散布図は、複数のベクトルに対応した複数の要素(具体的には点)により構成される。ベクトルごとに、運動方位及び運動量の組み合わせに基づき、そのベクトルに対応する要素をプロットする座標が決定される。
【0056】
図6に示す散布図においては、すべての要素88が密集しており、それらが集団86を形成している。集団86は閾値α1よりも高い位置にある。例えば、プローブ運動に起因して
図5に示したベクトルアレイ(A)が生成された場合、それに基づいて
図6に示す散布図が生じる。
【0057】
図7に示す散布図には、2つの集団96,98が含まれる。集団96,98とも閾値α1よりも低い位置にある。例えば、心臓の拍動の影響が比較的に小さくしかもそれが局所的に及んでいる場合には、
図5に示したベクトルアレイ(C)が生成される。それに基づいて
図7に示す散布図が生じる。この場合、いずれの要素も閾値α1を超えておらず、せん断波計測に適する状況であることが判定される。
【0058】
要因分析のため、閾値α1よりも小さい閾値α2を設定し、集団98の存在を特定してもよい。あるいは、拍動の影響が及ぶ方向を特定できる場合、特定の方位範囲99を定め、そこに集団98が含まれか否かを判定してもよい。
【0059】
図8に示す散布図には、ベースライン付近に散在する複数の要素102が含まれる。このような散布図が得られた場合、せん断波計測に適する状況であることが判定される。散布図から計算される平均値、分散等の複数の特徴量(又は複数の統計情報)に基づいて、せん断波計測に適する状況であるか否かが判定されてもよいし、妨害要因が特定されてもよい。
【0060】
図9には、変形例が示されている。この変形例では、散布図の作成に先立ってベクトルアレイを構成する複数のベクトルに対して複数の重みが乗算される。例えば、
図9の左側に示されている重みアレイがベクトルアレイに対して乗算されてもよい。その重みアレイにおいては、計測部位からの距離に応じて、重みの大きさが変化している。
【0061】
例えば、特定の領域103内に属する複数のベクトルに対して、運動方位に応じた重み処理が適用されてもよい。例えば、ベクトルにより特定される運動方位がθ1とθ2で特定される方位範囲内に属する場合、そのベクトルの大きさに対して特定の重み(例えば2.0)が乗算されてもよい。一方、運動方位が特定方位内に属しない場合には、そのベクトルの大きさに対して別の特定の重み(例えば1.0)が乗算されてもよい。上記の特定の領域103は、例えば、心臓に近い領域である。
【0062】
図10には、せん断波計測前の表示の一例が示されている。表示器に表示された画像104には、リアルタイム動画像としてのBモード断層画像106が含まれる。Bモード断層画像106上には、計測部位を含む関心領域を示す矩形マーク108が表示されている。符号110は、ビーム走査面上に定められる代表点アレイを示している。代表点アレイ110は実際には表示されない。符号112は、複数の代表点の運動を示すベクトルアレイを示している。ベクトルアレイ112は実際には表示されない。
【0063】
画像104には、ウインドウ113が含まれる。ウインドウ113内には、現状がせん断波計測に適する状況か否かを示す参照情報が表示される。参照情報は、例えば、テキスト情報、又は、図形情報である。適を示すマーク、及び、不適を示すマークが表示されてもよいし、せん断波計測に適している度合いが数値で表示されてもよい。妨害要因の解析が実施される場合、その解析で特定された妨害要因を示す情報が表示されてもよいし、妨害要因を解消するための提案を示す情報が表示されてもよい。
【0064】
せん断波計測に先立って参照情報を参照することにより、適切な状況下でせん断波計測を始動させることが可能となる。これによりせん断波計測の信頼性を高められる。妨害要因を示す情報が表示されれば、妨害要因の影響を低減又は解消させることが容易となる。
【0065】
図11には、せん断波計測後に表示される画像の一例が示されている。表示器に表示された画像104Aには、フリーズ画像としてのBモード断層画像106Aが含まれる。Bモード断層画像106A上には、関心領域を示す矩形マーク108Aが表示されている。符号110Aは、せん断波計測を実行した時点での代表点アレイを示している。その代表点アレイは、上記同様に、Bモード断層画像106A上には表示されない。符号112は、せん断波計測を実行した時点でのベクトルアレイを示している。そのベクトルアレイ112は、上記同様に、Bモード断層画像106上には表示されない。
【0066】
画像104Aには、ウインドウ114が含まれる。ウインドウ114内には、せん断波計測を実行した時点で生成された参照情報が表示される。参照情報を参照することにより、せん断波計測が適切な状況において実施されたことを事後的に確認できる。
【0067】
画像104Aには、2つのウインドウ116,118が含まれる。2つのウインドウ116、118には、せん断波計測のレポートすなわちせん断波計測により生成された情報が表示される。具体的には、ウインドウ116には、連続的に実施された複数回のせん断波計測で得られた複数の計測結果が表示される。各計測結果には、せん断波速度、弾性情報、等が含まれる。ウインドウ118には、平均せん断波速度、平均弾性情報、等が含まれる。
【0068】
図12には、実施形態に係るせん断波計測方法が示されている。S10では、現在取得された表示フレームデータペアに基づいて代表点ごとにパターンマッチングが実施され、これによりベクトルアレイが演算される。S12では、ベクトルアレイに基づいて散布図が生成され、その散布図が解析される。S14では、散布図の解析結果に基づいて参照情報が生成され、その参照情報が表示される。S15においては、検査者によるせん断波計測の実行指示が入力されたか否かが判断される。実行指示の入力があるまで、S10以降の工程が繰り返し実施される。検査者は、表示された参照情報を観察しながら、せん断波計測の適切な実行タイミングを判断し得る。
【0069】
実行指示の入力があった場合、S16において、Bモード用の送受信が停止し、せん断波計測モード用の送受信が実施される。すなわち、せん断波計測が実行される。S18においては、せん断波計測の結果が表示される。その場合には、せん断波計測時点での参照情報の表示が維持される。
【0070】
図13には、他の参照情報が示されている。画像120内には、リアルタイム動画像としてのBモード断層画像122が含まれる。符号124は、関心領域を示すマーク示している。符号126は、関心領域を含む運動観測領域を示している。
【0071】
Bモード断層画像122の近傍には参照画像128が表示されている。参照画像128は、上記の参照情報に相当する。参照画像128は、運動観測領域126内において演算されるベクトルアレイを模式的に表現した画像であり、具体的には、複数のベクトルを表す複数の図形132を有する画像である。各図形132は矢印である。矢印の向きがベクトルの向きを示し、矢印の大きさがベクトルの大きさを示している。複数のベクトルを表現する複数の図形132により図形アレイ130が構成される。
【0072】
参照画像128を参照することにより、運動観測領域126内で演算されるベクトルアレイを具体的にイメージすることが可能であり、つまり、運動観測領域126へ及んでいる又は運動観測領域126内で生じている様々な運動を視覚的に特定することが可能となる。
【0073】
図13においては、参照画像128と共にウインドウ133も表示されている。ウインドウ133内には、現状がせん断波計測に適する状況か否かを示すテキスト又は図形が表示される。そのような情報も参照情報である。
【0074】
図14には、図形アレイの色付け方法が示されている。カラーバー134は、ベクトルの大きさに対応付けられた3つの色C1,C2,C3を示すものである。各ベクトルを示す図形の色がカラーバー134に従って決定される。図形アレイに対して着色を施すことにより、せん断波計測に影響を与え得る各運動(変位)の大小を直感的に認識できる。
【0075】
図14には、ベクトルアレイ解析の具体例が示されている。散布
図136の解析により様々な特徴量が得られ得る。
図14には、複数の特徴量の例として、平均値(運動量の平均値)138、分散(運動量の分散)140、閾値超え要素の存在比142、閾値超え要素の密集度144、ベクトルアレイの時間変化率146、等が示されている。
【0076】
符号150が示すように、それらの特徴量の全部又は一部に基づいて、せん断波計測に適する状態か否かが判定され、また、妨害要因が識別される。その際には、マッチング失敗数148が考慮される。
【0077】
上記実施形態によれば、検査者において、参照情報に基づいてせん断波計測に適する状況か否かを容易に判断できる。また、参照情報に基づいてせん断波計測を妨げる要因を解消させることが可能となる。よって、せん断波計測の信頼性を向上できる。
【符号の説明】
【0078】
24 速度演算器、26 レポート生成器、28 ベクトル演算器、30 ベクトルアレイ解析器、32 参照情報生成器。