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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024179233
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】スピンドルユニット
(51)【国際特許分類】
   B24B 55/06 20060101AFI20241219BHJP
   B24B 41/04 20060101ALI20241219BHJP
   B23Q 11/10 20060101ALI20241219BHJP
   H01L 21/301 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
B24B55/06
B24B41/04
B23Q11/10 A
H01L21/78 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023097925
(22)【出願日】2023-06-14
(71)【出願人】
【識別番号】000134051
【氏名又は名称】株式会社ディスコ
(74)【代理人】
【識別番号】110001014
【氏名又は名称】弁理士法人東京アルパ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柿本 将
【テーマコード(参考)】
3C011
3C034
3C047
5F063
【Fターム(参考)】
3C011EE01
3C034AA13
3C034AA19
3C034BB01
3C034BB07
3C034BB73
3C034BB87
3C034DD10
3C047FF06
3C047HH15
3C047HH18
5F063AA50
5F063BA45
5F063BA47
5F063BA48
5F063DD06
5F063FF28
(57)【要約】
【課題】スピンドルの先端部への加工屑の付着によるスピンドルの回転ロックの発生を防ぐことができるスピンドルユニットを提供すること。
【解決手段】先端にマウント66によって切削ブレード(加工具)65を装着したスピンドル62と、該スピンドル62を回転駆動する電動モータ(駆動源)Mと、スピンドル62をベアリング63によって回転可能に支持するハウジング61を備えるスピンドルユニット60は、軸方向においてハウジング61とマウント66との間に配置されてスピンドル62の先端部外周を囲繞する円環状のフロントキャップ72と、該フロントキャップ72に水を供給する水供給部と、を備え、フロントキャップ72の少なくともマウント66に対向する外周面側をポーラス部材62Bで構成し、該ポーラス部材72Bに水供給源74から水を供給するよう構成する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端にマウントによって加工具を装着したスピンドルと、該スピンドルを回転駆動する駆動源と、該スピンドルを回転可能に支持するハウジングを備えるスピンドルユニットであって、
軸方向において該ハウジングと該マウントとの間に配置されて該スピンドルの先端部外周を囲繞する円環状のフロントキャップと、
該フロントキャップに水を供給する水供給部と、
を備え、
該フロントキャップの少なくとも該マウントに対向する外周面側をポーラス部材で構成し、該ポーラス部材に該水供給部から供給した水を該ポーラス部材の外周面から噴出させるようにしたことを特徴とするスピンドルユニット。
【請求項2】
前記フロントキャップの全体をポーラス部材で構成し、該フロントキャップの内周面と外周面から水を噴出させるようにしたことを特徴とする請求項1記載のスピンドルユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スピンドルの先端に装着された加工具を高速回転させるスピンドルユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、半導体チップの製造工程においては、円板状の半導体ウェーハ(以下、単に「ウェーハ」と称する)の表面が格子状に配列されたストリートと称される分割予定ラインによって多数の矩形領域に区画され、各矩形領域にICやLSIなどのデバイスがそれぞれ形成される。そして、このように多数のデバイスが形成されたウェーハをダイサーと称される切削装置の切削ブレードで分割予定ラインに沿って切削することによって、複数の半導体チップが得られる(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ところで、切削装置には、切削ブレードを高速回転させるスピンドルユニットが備えられており、このスピンドルユニットにおいては、先端に切削ブレードが取り付けられたスピンドルが電動モータによって高速回転し、該スピンドルと共に切削ブレードが高速回転することによってウェーハが分割予定ラインに沿って切削される。このウェーハの切削加工時には、切削ブレードがウェーハに切り込んだ切削部に発生する摩擦熱を除去するなどの目的で、噴射ノズルから切削水が切削ブレードに向かって噴射される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-212319号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のように、ウェーハの切削加工中に高速回転する切削ブレードに向けて切削水を噴射すると、切削屑を含んだ切削水の噴霧がスピンドルの先端部に付着し、その状態でスピンドルの回転を停止させ、切削水が乾燥するとスピンドルに付着した切削水に含まれる切削屑がスピンドルの先端部に固着することで、スピンドルの回転がロックしてしまうという問題が発生する可能性がある。
【0006】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたもので、その目的は、スピンドルの先端部への加工屑の付着によるスピンドルの回転ロックの発生を防ぐことができるスピンドルユニットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための本発明は、先端にマウントによって加工具を装着したスピンドルと、該スピンドルを回転駆動する駆動源と、該スピンドルを回転可能に支持するハウジングを備えるスピンドルユニットであって、軸方向において該ハウジングと該マウントとの間に配置されて該スピンドルの先端部外周を囲繞する円環状のフロントキャップと、該フロントキャップに水を供給する水供給部と、を備え、該フロントキャップの少なくとも該マウントに対向する外周面側をポーラス部材で構成し、該ポーラス部材に該水供給部から供給した水を該ポーラス部材の外周面から噴出させるようにしたことを特徴とする。
この場合、前記フロントキャップの全体をポーラス部材で構成し、該フロントキャップの内周面と外周面から水を噴出させるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、切削加工時に水供給部からフロントキャップのポーラス部材に供給される水がポーラス材の外周面から噴出されるため、加工具の高速回転によって発生する加工水の噴霧に含まれる加工屑のスピンドルの先端部への付着が防がれ、加工屑の固着によるスピンドルの回転ロックが確実に防がれる。そして、フロントキャップの全体をポーラス部材で構成すると、該ポーラス部材の内周面とスピンドルの外周面との間の環状隙間に水が浸入して該環状隙間に水シールを形成するため、加工屑を含んだ加工水のスピンドルの外周面の軸方向に沿う浸入が防がれ、加工屑のスピンドルの外周面への固着も防がれて該スピンドルの回転ロックが一層確実に防がれる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明に係るスピンドルユニットを備える切削装置の斜視図である。
図2】ウェーハとリングフレームの斜視図である。
図3】本発明の第1実施形態に係るスピンドルユニットの側断面図である。
図4図3のA部拡大詳細図である。
図5図4のB-B線断面図である。
図6】本発明の第2実施形態に係るスピンドルユニット要部の側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0011】
[切削装置の全体構成]
まず、発明に係るスピンドルユニットを備える切削装置の全体構成を図1に基づいて以下に説明する。なお、以下の説明では、図1における前後方向をX軸方向、左右方向をY軸方向、上下方向をZ軸方向とする。
【0012】
図1は切削装置の斜視図であり、図示の切削装置1は、所謂デュアルダイサーと称されるものであって、各構成要素を支持する基台2を備えており、この基台2上の奥側端部(-X軸方向端部)には、門型のコラム3が垂直に起立している。
【0013】
而して、切削装置1は、被切削物であるウェーハWをリングフレームFと共に保持して回転するチャックテーブル10と、該チャックテーブル10をウェーハWと共にX軸方向(切削送り方向)に沿って往復動させる切削送り機構20と、チャックテーブル10の保持面上に保持されたウェーハWを切削する左右一対の切削ユニット30と、各切削ユニット30をZ軸方向(切り込み方向)に沿ってそれぞれ昇降動させる切り込み送り機構40と、各切削ユニット30をY軸方向(割り出し方向)に沿ってそれぞれ往復動させる左右一対の割り出し送り機構50を主要な構成要素として備えている。以下、切削装置1の主要な構成要素であるチャックテーブル10、切削送り機構20、各切削ユニット30、各切り込み送り機構40及び割り出し送り機構50の構成についてそれぞれ説明する。
【0014】
(チャックテーブル)
チャックテーブル10は、基台2上の略中央部に回転可能に配置された円板状の部材であって、その上面は、ウェーハWをリングフレームFと共に保持する保持面を構成している。そして、このチャックテーブル10の周囲には、リングフレームFを四方から固定するための4つのクランプ11が周方向に等角度ピッチ(90°ピッチ)で配設されている。
【0015】
また、チャックテーブル10は、その下方に配された回転機構12を介して切削送り機構20の後述のスライダ22上に回転可能に支持されており、回転機構12によって垂直な軸中心回りに回転駆動されるとともに、その下方に配置された切削送り機構20によってX軸方向(切削送り方向)に沿って往復移動することができる。
【0016】
ここで、被切削物であるウェーハWは、例えば、単結晶のシリコン(Si)で構成された薄い円板状の部材であって、図2に示すように、その表面(図2においては、上面)が互いに直交する格子状の分割予定ライン(ストリート)L1,L2によって複数の矩形領域に区画されており、各矩形領域には、ICやLSIなどのデバイスDがそれぞれ形成されている。そして、このように表面に多数のデバイスDが形成されたウェーハWは、その裏面(図2においては、下面)とリングフレームFの下面に貼着されたダイシングテープTを介してリングフレームFに支持されている。なお、ウェーハWの材質としては、シリコン(Si)以外に、シリコンカーバイド(SiC)、ガラス、セラミックス、サファイアなどが用いられる。
【0017】
(切削送り機構)
切削送り機構20は、チャックテーブル10をウェーハWと共にX軸方向(切削送り方向)に沿って往復動させる機構であって、基台2上の中央部に配置されている左右一対のX軸ガイドレール21と、これらのX軸ガイドレール21に沿ってX軸方向に摺動可能に設置された矩形プレート状のスライダ22と、左右のX軸ガイドレール21の間にX軸方向に沿って配置された正逆転可能なX軸ボールネジ23と、該X軸ボールネジ23を正逆転させる回転駆動源であるX軸サーボモータ24を含んで構成されている。そして、スライダ22上には、回転機構12を介してチャックテーブル10が垂直な中心軸回りに回転可能に支持されている。なお、図示しないが、スライダ22の下面の幅方向中央部には、ナット部材が下方に向かって突設されており、このナット部材には、X軸ボールネジ23が螺合挿通している。
【0018】
したがって、X軸サーボモータ24を起動してX軸ボールネジ23を正逆転させれば、該X軸ボールネジ23に螺合する不図示のナット部材が突設されたスライダ22が左右一対のX軸ガイドレール21に沿ってX軸方向に摺動するため、該スライダ22と共にチャックテーブル10が回転機構12と共にX軸方向(切削送り方向)に沿って往復移動する。
【0019】
(切削ユニット)
左右一対の切削ユニット30は、チャックテーブル10を挟んでこれの左右に対向するように配置されており、これらは左右一対の各切り込み送り機構40の後述の昇降板42の下部にそれぞれ取り付けられたスピンドルユニット60と撮像ユニット31をそれぞれ備えている。ここで、各撮像ユニット31は、チャックテーブル10の保持面上に保持されたウェーハWを撮像して分割予定ラインL1,L2(図2参照)の位置を検出するものである。なお、本発明に係るスピンドルユニット60は、加工具である円板状の切削ブレード65(図3参照)を備えているが、その構成の詳細については後述する。
【0020】
(切り込み送り機構)
左右一対の各切り込み送り機構40は、各切削ユニット30をZ軸方向(切り込み方向)に沿って昇降動させる機構であって、矩形プレート状の各スライダ51の左右に互いに平行に垂直に配置された一対のZ軸ガイドレール41と、これらのZ軸ガイドレール41に沿って上下に移動可能な昇降板42と、一対のZ軸ガイドレール41の間に垂直に配置された回転可能なZ軸ボールネジ軸43と、該Z軸ボールネジ軸43を回転駆動する正逆転可能なZ軸サーボモータ44をそれぞれ含んで構成されている。そして、切削ユニット30は、各昇降板42の下部にそれぞれ取り付けられている。なお、各昇降板42の裏面には不図示のナット部材がそれぞれ突設されており、各ナット部材にZ軸ボールネジ軸43がそれぞれ螺合挿通している。
【0021】
上述のように構成された切り込み送り機構40において、Z軸サーボモータ44が起動されてZ軸ボールネジ軸43が正逆転すると、該Z軸ボールネジ軸43に螺合する不図示のナット部材が突設された昇降板42が一対のZ軸ガイドレール41に沿って上下動するため、各昇降板42にそれぞれ取り付けられた切削ユニット30もZ軸方向(切り出し送り方向)に沿って上下移動する。
【0022】
(割り出し送り機構)
左右一対の割り出し送り機構50は、各切削ユニット30をY軸方向(割り出し方向)に沿って往復動させる機構であって、スライダ51をそれぞれ備えている。ここで、左右一対の各スライダ51は、基台2上に垂直に立設された門型のコラム3の正面にY軸方向に沿って互いに平行に配置された上下一対のY軸ガイドレール52に沿ってY軸方向に沿ってそれぞれ移動可能である。
【0023】
そして、割り出し送り機構50おいては、上下一対のY軸ガイドレール52の間に、Y軸方向に沿って配置された上下一対の正逆転可能なY軸ボールネジ軸53を備えており、これらのY軸ボールネジ軸53には、左右一対の各スライダ51の裏面に突設された不図示のナット部材がそれぞれ螺合している。また、各Y軸ボールネジ軸53の軸方向一端は、回転駆動源であるY軸サーボモータ54(図1には、一方のみ図示)にそれぞれ連結されている。
【0024】
したがって、割り出し送り機構50において、Y軸サーボモータ54を起動してY軸ボールネジ軸53を正逆転させると、これらのY軸ボールネジ軸53に螺合する不図示のナット部材が突設された左右一対のスライダ51が昇降板42と共にY軸ガイドレール52に沿ってY軸方向(割り出し送り方向)にそれぞれ移動することができる。このため、昇降板42にそれぞれ取り付けられた各切削ユニット30がY軸ガイドレール52に沿ってY軸方向(割り出し送り方向)にそれぞれ独立して移動することができる。
【0025】
したがって、図1に示す切削装置1においては、チャックテーブル10とこれに保持されたウェーハWがX軸方向(切削送り方向)に沿って移動可能であり、切削ユニット30がY軸方向(割り出し方向)とZ軸方向(切り出し方向)に沿ってそれぞれ移動可能である。
【0026】
[切削装置の作用]
【0027】
次に、以上のように構成された切削装置1の作用について説明する。
【0028】
被切削物であるウェーハWの切削装置1による切削に際して、ウェーハWがこれを保持するリングフレームFと共にチャックテーブル10の保持面上に載置されると、リングフレームFが4つのクランプ11によってウェーハWと共にチャックテーブル10の保持面上に固定される。この状態から、切削送り機構20によってチャックテーブル10がX軸方向に沿って移動して一対の切削ユニット30の下方に位置決めされると、各切削ユニット30の撮像ユニット31によってウェーハWの表面が撮像される。このウェーハWの表面の撮像ユニット31による撮像によって画像が得られると、その画像に基づくパターンマッチング処理によって切削すべき分割予定ラインL1が検出される。
【0029】
上述のように、ウェーハWの分割予定ラインL1が検出されると、各切削ユニット30の各切削ブレード65(図3参照)のY軸方向(割り出し方向)の位置が一対の各割り出し送り機構50によってそれぞれ割り出され、これらの切削ブレード65のY軸方向の位置が切削すべき分割予定ラインL1の位置に合わせられる。
【0030】
そして、上記状態から両切削ユニット30の各切削ブレード65がそれぞれ高速で回転駆動されながら、一対の各切り込み送り機構40によって所定の切込量分だけそれぞれ下降するとともに、切削送り機構20によってチャックテーブル10とこれに保持されたウェーハWがX軸方向(切り出し送り方向)に移動する。すると、ウェーハWは、一対の切削ユニット30の各切削ブレード65によって分割予定ラインL1に沿って切断され、このような作業が一方向の全ての分割予定ラインL1に対して行われると、回転機構12によってチャックテーブル10とこれに保持されたウェーハWが90°だけ回転され、ウェーハWに対して、切削が終了した分割予定ラインL1と直交する他方向の分割予定ラインL2に沿う切削が同様になされる。
【0031】
[スピンドルユニット]
次に、本発明に係るスピンドルユニット60の実施形態について説明する。
【0032】
<第1実施形態>
以下、本発明の第1実施形態に係るスピンドルユニット60の構成の詳細を図3図5に基づいて説明する。なお、左右一対のスピンドルユニット60の構成は同一であるため、以下、一方(右側(+Y軸側))のスピンドルユニット60の構成のみについて図示及び説明する。
【0033】
図3は本発明の第1実施形態に係るスピンドルユニットの側断面図、図4図3のA部拡大詳細図、図5図4のB-B線断面図であり、図示のスピンドルユニット60は、左右方向(Y軸方向)に沿って水平に配置されたハウジング61を備えており、このハウジング61の軸中心部には、円柱状のスピンドル62がエアベアリングのラジアルベアリング63とスラストベアリング64とによって非接触で回転可能に支持されて収容されている。なお、以下の説明においては、図2の左方(-Y軸方向)を前方、右方(+Y軸方向)を後方とする。
【0034】
ところで、スピンドル62の先端部(-Y軸方向端部)は、ハウジング61の前端面から前方に向かって突出しており、この突出部の先端に形成された小径のテーパ部62Aには、加工具である円板状の切削ブレード65を保持するマウント66が取り付けられている。ここで、マウント66の中心部には、スピンドル62の先端のテーパ部62Aに篏合するテーパ穴66aが形成されており、このテーパ穴66aをスピンドル62のテーパ部62Aに嵌合させ、該マウント66の中心部に挿通するボルト67をスピンドル62のテーパ部62Aの軸中心部にねじ込むことによって、マウント66がスピンドル62のテーパ部62Aに取り付けられる。
【0035】
また、マウント66の外周には、フランジ部66Aが径方向外方に向かって一体に突設されており、切削ブレード65は、マウント66のフランジ部66Aと該マウント66の円筒状のボス部66Bの外周部に嵌合する押さえフランジ68によって挟持されることによって、スピンドル62の先端部に固定される。ここで、押さえフランジ68は、マウント66のボス部66Bの先端部外周に螺合する固定ナット69を締め付けることによって、マウント66のフランジ部66Aとの間で切削ブレード65を挟持して該切削ブレード65をスピンドル62の先端部に固定する。なお、切削ブレード65は、円環状の基台の外周部に切れ刃を形成して構成されるが、切れ刃は、ダイヤモンド砥粒などをレジンボンド、メタルボンド、ビトリファイドボンドなどによって固定することによって形成される。また、切削ブレード65は、ブレードカバー70によって覆われており、このブレードカバー70には、切削ブレード65の両面に向かって切削水を噴射する噴射ノズル71が設けられている。
【0036】
而して、本実施形態においては、Y軸方向においてハウジング61の前端面とマウント66との間には、円環状のフロントキャップ72がスピンドル62の先端部外周を囲繞するように配置されている。このフロントキャップ72は、円環状の金属製のベース72Aと、該ベース72Aに固着された円環状のポーラス部材72Bによって構成されており、複数の不図示のボルトによってハウジング61の前端面に取り付けられている。ここで、ポーラス部材72Bは、マウント66に対向する外端面側に配置されており、多孔質のポーラスセラミックスなどによって構成されている。なお、ポーラス部材72Bの外周面には、斜めにカットされたテーパ面72bが形成されている。また、ポーラス部材72Bとベース72Aとの合わせ面は、Oリングなどの弾性シールリング73によってシールされている。
【0037】
そして、ウェーハWの切削加工中においては、ポーラス部材72Bには、図1に示す水供給源74から水が供給され、この水がポーラス部材72Bの外周面から噴出される。すなわち、ハウジング61には、L字状に屈曲する水供給路61aが形成されており、この水供給路61aの一端は、図3に詳細に示すように、フロントキャップ72のベース72Aの1箇所に形成された円孔状の連通孔72aに接続されている。ここで、ベース72Aのポーラス部材72Bとの合わせ面である垂直な端面には、図4に示すような円環状の溝72cが形成されており、この溝72cの上端中央の1箇所に前記連通孔72aが開口している。
【0038】
また、ハウジング61に形成された水供給路61aの他端は、ハウジング61の外周に結着されたプラグ75を介して配管76に接続されており、配管76は、水供給源74に接続されている。そして、配管76には、開閉弁V1が設けられている。ここで、水供給源74、配管76、開閉弁V1、水供給路61a、連通孔72a、溝72cなどは、フロントキャップ72のポーラス部材72Bに水を供給する水供給部を構成している。
【0039】
ところで、図3に示すように、ハウジング61の後端部には、モータハウジング77が取り付けられており、このモータハウジング77内には、スピンドル62の回転駆動源である電動モータMが収容されている。この電動モータMは、スピンドル62の後端部に一体に形成されたロータRと、該ロータRの周囲に配置された円環状のステータSによって構成されている。ここで、ステータSは、三相コイルを巻装して構成されており、この三相コイルに不図示の交流電源から通電されると、電磁誘導作用によってロータRがスピンドル62と共に所定の速度で回転し、スピンドル62の先端に取り付けられた切削ブレード65が高速で回転駆動される。
【0040】
而して、電動モータMにおいて、ステータSの三相コイルに交流電源から通電されると、該三相コイルが発熱して電動モータMの全体が高温となるため、該電動モータMが閉ループを循環する冷却水によって冷却され、その温度上昇が抑えられる。すなわち、モータハウジング77のステータSの周囲には、円環状の冷却水通路77aが形成されており、この冷却水通路77aの一端の入口は、プラグ78と配管79を経て冷却水供給源80の出口側に接続されている。なお、配管79には、開閉弁V2が設けられている。また、冷却水通路77aの他端の出口は、プラグ81と配管82を経て冷却水供給源80の入口側に接続されており、配管82には、クーラーやラジエータなどの冷却手段83が設けられている。
【0041】
したがって、電動モータMの起動中においては、開閉弁V2が開けられて冷却水供給源80から冷却水が配管79を通ってモータハウジング77の冷却水通路77aへと供給されると、この冷却水は、冷却水通路77aを図3の矢印方向に沿って流れ、冷却水通路77aを流れる過程でステータSを冷却してその温度上昇を抑える。そして、ステータSとの熱交換によって温度が上昇した冷却水は、冷却水通路77aの出口から配管82へと流れ、配管82を流れる過程で冷却手段83によって冷却された後に冷却水供給源80へと戻される。このような作用が連続的に繰り返されることによって、閉ループを循環する冷却水によって電動モータMが冷却され、該電動モータMの温度上昇が抑えられる。
【0042】
また、ハウジング61内に設けられたラジアルベアリング63とスラストベアリング64の円筒状の各ベアリングハウジング63A,64Aには、エア通路63a,64aがそれぞれ形成されており、これらのエア通路63a,64aは、ハウジング61に形成されたL字状のエア通路61bに連通している。そして、エア通路61bには、プラグ84と配管85を介してエア供給源86が接続されており、配管85には、開閉弁V3が設けられている。
【0043】
ここで、ラジアルベアリング63のベアリングハウジング63Aに形成されたエア通路63aの軸方向(Y軸方向)4箇所からは、周方向の複数箇所からスピンドル62の外周面に向かって開口する複数のエアノズル63bが分岐している。また、スラストベアリング64のベアリングハウジング64Aには、円環状のエア通路64aが形成されており、このエア通路64aは、ハウジング61に形成されたエア通路61bに連通している。そして、エア通路64aからは、スピンドル62の外周に一体に形成されたフランジ部62Bにその前後両側からエアを噴射する複数のエアノズル64bが分岐している。
【0044】
したがって、ウェーハWの切削加工中においてスピンドル62が高速で回転駆動されるときには、開閉弁V3が開けられてエア供給源86から圧縮エアが配管85を通ってハウジング61のエア通路61bへと供給される。そして、エア通路61bへと供給された圧縮エアは、その一部がラジアルベアリング63のベアリングハウジング63Aに形成されたエア通路63aを矢印方向に流れ、複数のエアノズル63bからスピンドル62の外周面に向かって噴出する。このため、スピンドル62は、エアノズル63bから噴射されるエアの圧力によってフローティングされ、ラジアル荷重は、スピンドル62に作用する圧縮エアの圧力によって受けられ、非接触状態で抵抗なく高速回転することができる。
【0045】
また、ハウジング61のエア通路61bを流れる圧縮エアの他の一部は、スラストベアリング64のベアリングハウジング64Aに形成されたエア通路64aへと流れ、複数のエアノズル64bからスピンドル62のフランジ部62Bの前後両面に向かって噴射される。このため、スピンドル62に作用する軸方向のスラスト力(アキシャル荷重)は、該スピンドル62のフランジ部62Bに作用する圧縮エアの圧力によって受けられる。なお、エア通路61bからラジアルベアリング63のエア通路63aとスラストベアリング64のエア通路64aに流入してスピンドル62のフローティング支持とスラスト力支持に供された圧縮エアは、フロントキャップ72に形成された不図示の排気口から大気中に排出される。
【0046】
而して、ウェーハWの切削加工中においてスピンドル62によって高速回転している切削ブレード65には、噴射ノズル71から切削水が噴射されるが、切削ブレード65に向けて噴射された切削水は、切削ブレード65の回転によって噴霧となって周囲に飛散する。そして、周囲に飛散する切削水の噴霧には切削屑が含まれるが、ウェーハWの切削時には、開閉弁V1が開けられて水供給源74から水が配管76を通ってスピンドルユニット60のハウジング61に形成された水供給路61aへと流入する。
【0047】
ハウジング61の水供給路61aに流入した水は、該水供給路61aを図示矢印方向に流れてフロントキャップ72に供給される。すなわち、水は、ハウジング61の水供給路61aからフロントキャップ72のベース72Aに形成された連通孔72aから円環状の溝72cへと流れ込み、図5に示すように、溝72cを全周に亘って流れる過程でフロントキャップ72のポーラス部材72Bに流れ込み、該ポーラス部材72Bの外周面から噴出する。このため、切削ブレード65の高速回転によって発生する切削水の噴霧に含まれる切削屑のスピンドル62の先端部への付着が防がれ、切削屑の固着によるスピンドル62の回転ロックが確実に防がれ、安定した切削加工が可能となる。
【0048】
<第2実施形態>
次に、本発明に係るスピンドルユニットの第2実施形態を図6に基づいて説明する。
【0049】
図6は本発明の第2実施形態に係るスピンドルユニット要部の側断面図であり、本実施形態に係るスピンドルユニットは、軸方向においてスピンドル62の前端面とマウント66との間に配置されたフロントキャップ72の全体をポーラス部材72Bで構成したことを特徴としており、他の構成は、前記第1実施形態に係るスピンドルユニット60のそれと同じである。したがって、図6においては、図4において示したものと同一要素には同一符号を付しており、以下、それらについての再度の説明は省略する。
【0050】
而して、本実施形態においても、切削加工中にフロントキャップ72のポーラス部材72Bに水を供給し、この水をポーラス部材72Bから噴出するようにしたため、ポーラス部材72Bの外周面から水を噴出させることにより前記第1実施形態と同様の効果が得られるが、本実施形態では、フロントキャップ72の全体をポーラス部材72Bで構成したため、該ポーラス部材72Bの内周面からも水を噴出させることにより該内周面とスピンドル62の外周面との間の環状隙間(図6にaにて示す部分)に水が浸入して該環状隙間に水シールが形成される。このため、切削屑を含んだ切削水のスピンドル62の外周面の軸方向に沿う浸入が防がれ、切削屑のスピンドル62の外周面への付着も防がれて該スピンドル62の回転ロックが一層確実に防がれるという効果が得られる。
【0051】
なお、以上は本発明を切削装置に設けられたスピンドルユニットに対して適用した形態について説明したが、本発明は、研削装置などの他の任意の加工装置に設けられるスピンドルユニットに対しても同様に適用可能である。
【0052】
その他、本発明は、以上説明した実施の形態に適用が限定されるものではなく、特許請求の範囲及び明細書と図面に記載された技術的思想の範囲内で種々の変形が可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0053】
1:切削装置、2:基台、3:コラム、10:チャックテーブル、11:クランプ、
12:回転機構、20:切削送り機構、21:X軸ガイドレール、22:スライダ、
23:X軸ボールネジ、24:X軸サーボモータ、30:切削ユニット、
31:撮像ユニット、40:切込み送り機構、41:Z軸ガイドレール、42:昇降板、43:Z軸ボールネジ、44:Z軸サーボモータ、50:割り出し送り機構、
51:スライダ、52:Y軸ガイドレール、53:Y軸ボールネジ、
54:Y軸サーボモータ、60:スピンドルユニット、61a:水供給路、
61b:エア通路、62:スピンドル、62A:スピンドルのテーパ部、
62B:スピンドルのフランジ部、63:ラジアルベアリング、
63A:ベアリングハウジング、63a:エア通路、63b:エアノズル、
64:スラストベアリング、64A:ベアリングハウジング、64a:エア通路、
64b:エアノズル、65:切削ブレード(加工具)、66:マウント、
66A:マウントのフランジ部、66B:マウントのボス部、66a:テーパ穴、
67:ボルト、68:押さえフランジ、69:固定ナット、70:ブレードカバー、
71:噴射ノズル、72:フロントキャップ、72A:ベース、72B:ポーラス部材、72a:連通孔、72b:テーパ面、72c:溝、73:弾性シールリング、
74:水供給源、75:プラグ、76:配管、77:モータハウジング、
77a:冷却水通路、78:プラグ、79:配管、80:冷却水供給源、81:プラグ、82:配管、83:冷却手段、84:プラグ、85:配管、86:エア供給源、
D:デバイス、F:リングフレーム、L1,L2:分割予定ライン、
M:電動モータ(駆動源)、R:ロータ、S:ステータ、V1~V3:開閉弁、
W:ウェーハ
図1
図2
図3
図4
図5
図6