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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024179276
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】シリコンウェーハ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 33/02 20060101AFI20241219BHJP
   H01L 21/26 20060101ALI20241219BHJP
   H01L 21/324 20060101ALI20241219BHJP
   C30B 29/06 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
C30B33/02
H01L21/26 F
H01L21/324 X
C30B29/06 A
C30B29/06 501A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023097992
(22)【出願日】2023-06-14
(71)【出願人】
【識別番号】302006854
【氏名又は名称】株式会社SUMCO
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【弁理士】
【氏名又は名称】川原 敬祐
(74)【代理人】
【識別番号】100179903
【弁理士】
【氏名又は名称】福井 敏夫
(72)【発明者】
【氏名】藤瀬 淳
【テーマコード(参考)】
4G077
【Fターム(参考)】
4G077AA02
4G077AB01
4G077AB06
4G077BA04
4G077CE03
4G077EB01
4G077EB06
4G077FC05
4G077FE02
4G077GA01
4G077GA02
4G077GA07
4G077HA12
4G077NA00
(57)【要約】      (修正有)
【課題】IGBTの用途に適したシリコンウェーハであって、高抵抗で抵抗変動が小さく、かつスリップの発生を抑制できるシリコンウェーハ及び当該シリコンウェーハの製造方法を提供する。
【解決手段】シリコンウェーハの厚さ方向における窒素濃度プロファイルにおいて、窒素濃度の最大値が2×1015atom/cm-3以上1×1016atom/cm-3以下の高窒素濃度領域が、前記シリコンウェーハの裏面の最表面から厚さ方向20μmまでの範囲に存在し、前記シリコンウェーハのオモテ面の最表面から厚さ方向20μmまでの範囲における窒素濃度が1×1014atom/cm-3以上1×1015atom/cm-3以下であり、前記シリコンウェーハの酸素濃度(ASTM F121,1979)が1×1017atom/cm-3以下であるシリコンウェーハとする。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコンウェーハの厚さ方向における窒素濃度プロファイルにおいて、
窒素濃度の最大値が2×1015atom/cm-3以上1×1016atom/cm-3以下の高窒素濃度領域が、前記シリコンウェーハの裏面の最表面から厚さ方向20μmまでの範囲に存在し、
前記シリコンウェーハのオモテ面の最表面から厚さ方向20μmまでの範囲における窒素濃度が1×1014atom/cm-3以上1×1015atom/cm-3以下であり、
前記シリコンウェーハの酸素濃度(ASTM F121,1979)が1×1017atom/cm-3以下であるシリコンウェーハ。
【請求項2】
前記高窒素濃度領域が、前記シリコンウェーハの裏面の最表面から厚さ方向15μmまでの範囲に存在する、請求項1に記載のシリコンウェーハ。
【請求項3】
前記シリコンウェーハの抵抗率が30Ω・cm以上10000Ω・cm以下である、請求項1に記載のシリコンウェーハ。
【請求項4】
前記シリコンウェーハが転位クラスター及びCOPを含まない、請求項1に記載のシリコンウェーハ。
【請求項5】
酸素濃度(ASTM F121,1979)が1×1017atom/cm-3以下である研磨前シリコンウェーハを窒素雰囲気で熱処理することにより前記研磨前シリコンウェーハのオモテ面及び裏面のそれぞれの表層部に高窒素濃度層を形成する高窒素濃度層形成工程と、
前記高窒素濃度層形成工程の後、前記研磨前シリコンウェーハの前記オモテ面及び裏面の表層部の高窒素濃度層の少なくとも一部をそれぞれ除去する高窒素濃度層除去工程と、を含み、
前記高窒素濃度層除去工程後のシリコンウェーハの裏面の最表面から厚さ方向20μmの範囲における窒素濃度の最大値が2×1015atom/cm-3以上1×1016atom/cm-3以下であり、
前記高窒素濃度層除去工程後のシリコンウェーハのオモテ面の最表面から厚さ方向20μmまでの範囲における窒素濃度が1×1014atom/cm-3以上1×1015atom/cm-3以下である、シリコンウェーハの製造方法。
【請求項6】
前記高窒素濃度層除去工程後のシリコンウェーハの裏面の最表面から厚さ方向15μmまでの範囲における窒素濃度の最大値が2×1015atom/cm-3以上1×1016atom/cm-3以下である、請求項5に記載のシリコンウェーハの製造方法。
【請求項7】
前記高窒素濃度層形成工程において、急速熱窒化処理により前記高窒素濃度層を形成する、請求項5に記載のシリコンウェーハの製造方法。
【請求項8】
前記高窒素濃度層除去工程が、両面研磨装置を用いて前記研磨前シリコンウェーハのオモテ面及び裏面を同時に研磨する両面研磨工程を含む、請求項5に記載のシリコンウェーハの製造方法。
【請求項9】
前記高窒素濃度層除去工程において、
前記オモテ面の研磨量が10μm以上12μm以下であって、
前記裏面の研磨量が4μm以上8μm以下である、請求項5に記載のシリコンウェーハの製造方法。
【請求項10】
前記研磨前シリコンウェーハは、FZ法によって製造されたシリコンウェーハである、請求項5に記載のシリコンウェーハの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコンウェーハ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電力用途向けのスイッチングデバイスとして、サイリスタやバイポーラトランジスタ、MOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT:Insulated Gate Bipolar Transistor)などが盛んに開発されている。中でも、IGBTは、MOSFETの高速性とバイポーラトランジスタの低飽和電圧特性とを兼ね備えたデバイスであり、ハイブリッド車や電気自動車の動力モータ用電源のように、大容量、高耐圧、高速スイッチングが求められる用途において注目を集めている。
【0003】
IGBTは、シリコンウェーハの表面側に形成されたゲート電極及びエミッタ電極と、裏面側に形成されたコレクタ電極とを有するゲート電圧駆動型のスイッチングデバイス(「縦型IGBT」とも言う。)であり、スイッチング電流は、表面側のエミッタと裏面側のコレクタとの間のシリコンウェーハ全体を流れる。従って、シリコンウェーハ内部に結晶欠陥が存在すると、デバイス特性が悪化するため、シリコンウェーハには、ウェーハ表面から裏面に至るまで結晶欠陥が存在しないことが重要である。
【0004】
また、シリコンウェーハの抵抗率は、ウェーハ全体に亘って高抵抗でばらつきがないことも重要である。この点について、シリコンウェーハの酸素濃度が高い場合、酸素原子が酸素ドナーとなりシリコンウェーハの抵抗率が変動する。従って、シリコンウェーハの酸素濃度が低いことも重要である。
【0005】
こうしたことから、特許文献1に記載のように、チョクラルスキー法により形成した格子間酸素濃度の低いシリコンインゴットに中性子線を照射してリンをドープしてからウェーハを切り出し、さらに酸化雰囲気アニールをすることで、抵抗率が均一なシリコンウェーハを得ることが提案されている。
【0006】
また、特許文献2には、シリコン単結晶インゴットの製造方法において、シリコン単結晶インゴットの引上げの際に、シリコン融液からのn型ドーパントの蒸発量を制御することで、引上げ長さ方向に抵抗率が均一なn型の高抵抗のシリコン単結晶インゴットを製造する方法が提案されている。
【0007】
ところで、抵抗変動を少なくするために低酸素シリコンウェーハを用いた場合では、スリップ(Slip)が発生しやすいことが知られている。シリコンウェーハの裏面にスリップが発生すると、電流のリーク及びフォトリソグラフィプロセスにおける位置ずれの問題によってデバイス歩留まりに大きな影響を与えてしまう。なお、シリコンウェーハの酸素濃度が低いほど、シリコンウェーハの臨界分解剪断応力が小さくなり、スリップが発生しやすいと考えられている。
【0008】
このような観点から、特許文献3に記載のように、シリコンウェーハの酸素濃度ではなく窒素濃度を上げる試みもなされてきたが、スリップの発生を抑制できるほどの高い窒素濃度は実現できていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2012-134517号公報
【特許文献2】国際公開第2018/159108号
【特許文献3】特開2017-122033号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このように、種々の手法でIGBTの用途に適した、高抵抗で抵抗変動の少ないシリコンウェーハを製造する取り組みがなされてきたが、低酸素濃度のシリコンウェーハを用いる従来技術においては高抵抗で抵抗変動を抑制しつつ、スリップ発生を防止することはこれまで困難であった。
【0011】
そこで本発明は、IGBTの用途に適したシリコンウェーハであって、高抵抗で抵抗変動が小さく、かつスリップの発生を抑制できるシリコンウェーハ及び当該シリコンウェーハの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決すべく本発明者らは鋭意検討した。まず、シリコンウェーハ中の窒素原子はスリップ耐性を高められる効果がある。シリコンウェーハ中の窒素濃度を高める方法としては、シリコンウェーハを窒素雰囲気で熱処理することでシリコンウェーハの表面に窒化膜を形成し、その窒化膜から窒素原子がシリコンウェーハに向かって拡散することでシリコンウェーハの表面に窒素濃度の高い領域を形成する方法が知られている。
【0013】
一方で、シリコンウェーハのオモテ面側にはデバイスパターンが作られることになるため、窒素雰囲気での熱処理によって形成された窒化膜を除去する必要がある。もっとも、IGBTデバイス製造時にスリップ発生が問題となるのはシリコンウェーハが支持される裏面側である。そこで、裏面の表層部のみに高窒素濃度領域を形成することを本発明者は着想した。この着想に基づき、本発明者は、低酸素濃度のシリコンウェーハに対して窒素雰囲気中で熱処理することにより、シリコンウェーハのオモテ面及び裏面の表層部の窒素濃度のみを一旦高くした後、オモテ面側の高窒素濃度領域のみを除去して裏面側に高窒素濃度領域を残したシリコンウェーハを得ることを想起した。
【0014】
すなわち、本発明の要旨構成は以下のとおりである。
【0015】
<1> シリコンウェーハの厚さ方向における窒素濃度プロファイルにおいて、
窒素濃度の最大値が2×1015atom/cm-3以上1×1016atom/cm-3以下の高窒素濃度領域が、前記シリコンウェーハの裏面の最表面から厚さ方向20μmまでの範囲に存在し、
前記シリコンウェーハのオモテ面の最表面から厚さ方向20μmまでの範囲における窒素濃度が1×1014atom/cm-3以上1×1015atom/cm-3以下であり、
前記シリコンウェーハの酸素濃度(ASTM F121,1979)が1×1017atom/cm-3以下であるシリコンウェーハ。
【0016】
<2> 前記高窒素濃度領域が、前記シリコンウェーハの裏面の最表面から厚さ方向15μmまでの範囲に存在する、<1>に記載のシリコンウェーハ。
【0017】
<3> 前記シリコンウェーハの抵抗率が30Ω・cm以上10000Ω・cm以下である、<1>又は<2>に記載のシリコンウェーハ。
【0018】
<4> 前記シリコンウェーハが転位クラスター及びCOPを含まない、<1>~<3>のいずれかに記載のシリコンウェーハ。
【0019】
<5> 酸素濃度(ASTM F121,1979)が1×1017atom/cm-3以下である研磨前シリコンウェーハを窒素雰囲気で熱処理することにより前記研磨前シリコンウェーハのオモテ面及び裏面のそれぞれの表層部に高窒素濃度層を形成する高窒素濃度層形成工程と、
前記高窒素濃度層形成工程の後、前記研磨前シリコンウェーハの前記オモテ面及び裏面の表層部の高窒素濃度層の少なくとも一部をそれぞれ除去する高窒素濃度層除去工程と、を含み、
前記高窒素濃度層除去工程後のシリコンウェーハの裏面の最表面から厚さ方向20μmの範囲における窒素濃度の最大値が2×1015atom/cm-3以上1×1016atom/cm-3以下であり、
前記高窒素濃度層除去工程後のシリコンウェーハのオモテ面の最表面から厚さ方向20μmまでの範囲における窒素濃度が1×1014atom/cm-3以上1×1015atom/cm-3以下である、シリコンウェーハの製造方法。
【0020】
<6> 前記高窒素濃度層除去工程後のシリコンウェーハの裏面の最表面から厚さ方向15μmまでの範囲における窒素濃度の最大値が2×1015atom/cm-3以上1×1016atom/cm-3以下である、<5>に記載のシリコンウェーハの製造方法。
【0021】
<7> 前記高窒素濃度層形成工程において、急速熱窒化処理により前記高窒素濃度層を形成する、<5>又は<6>に記載のシリコンウェーハの製造方法。
【0022】
<8> 前記高窒素濃度層除去工程が、両面研磨装置を用いて前記研磨前シリコンウェーハのオモテ面及び裏面を同時に研磨する両面研磨工程を含む、<5>~<7>のいずれかに記載のシリコンウェーハの製造方法。
【0023】
<9> 前記高窒素濃度層除去工程において、
前記オモテ面の研磨量が10μm以上12μm以下であって、
前記裏面の研磨量が4μm以上8μm以下である、<5>~<8>のいずれかに記載のシリコンウェーハの製造方法。
【0024】
<10> 前記研磨前シリコンウェーハは、FZ法によって製造されたシリコンウェーハである、<5>~<9>のいずれかに記載のシリコンウェーハの製造方法。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、IGBTの用途に適したシリコンウェーハであって、高抵抗で抵抗変動が小さく、かつスリップの発生を抑制できるシリコンウェーハ及び当該シリコンウェーハの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】予備実験1~6のシリコンウェーハの厚さ方向における窒素濃度プロファイルを示すグラフである。
図2】X線トポグラフィ観察による予備実験1のシリコンウェーハ表面におけるスリップ長の観察図を示す図である。
図3】予備実験1~6のシリコンウェーハのスリップ長を示すグラフである。
図4】予備実験4~6のシリコンウェーハの厚さ方向における窒素濃度プロファイルの計算値を示すグラフである。
図5】本発明の一実施形態に従うシリコンウェーハの製造方法を説明する模式断面図である。
図6】熱処理後のシリコンウェーハの模式断面図と、厚さ方向における窒素濃度プロファイルを示す模式図である。
図7】SMP処理後のシリコンウェーハの模式断面図と、厚さ方向における窒素濃度プロファイルを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本実施形態の説明に先立ち、シリコンウェーハの厚み方向における窒素濃度プロファイルとスリップ発生との関係について確認すべく、以下の予備実験を実施した。
【0028】
<予備実験>
シリコンウェーハ中の窒素濃度プロファイルとスリップ発生との関係について確認すべく、直径が200mmで、シリコンウェーハの酸素濃度(ASTM F121,1979)が1.0×1016atoms/cm以下のFZ法で作製したシリコンウェーハを準備した。ここで「シリコンウェーハの酸素濃度」とは、ASTM F121-1979に準拠し、フーリエ変換赤外分光法(FTIR:Fourier Transform Infrared Spectroscopy)を用いて測定された値である。これらのシリコンウェーハの表層部の窒素濃度を変化させるために、熱処理を実施しない予備実験1と、熱処理条件を変更して予備実験2~6を実施した。また、シリコンウェーハの表層部において降温時のシリコンウェーハ中の窒素の外方への拡散を抑えるため急速熱窒化(RTN:Rapid Thermal Nitridation)処理により熱処理を行った。
【0029】
[予備実験1]
予備実験1では、用意したシリコンウェーハをそのまま用い、熱処理は実施しなかった。
【0030】
[予備実験2]
予備実験2では、用意したシリコンウェーハに対して、急速熱窒化処理を行うRTN炉を用いて20秒で1050度まで昇温し、その温度で30秒熱処理を行い、13秒で室温まで降温させる熱処理を実施した。
【0031】
[予備実験3]
予備実験3では、用意したシリコンウェーハに対して、RTN炉を用いて20秒で1050度まで昇温し、その温度で120秒熱処理を行い、13秒で室温まで降温させる熱処理を実施した。
【0032】
[予備実験4]
予備実験4では、用意したシリコンウェーハに対して、RTN炉を用いて22秒で1150度まで昇温し、その温度で30秒熱処理を行い、15秒で室温まで降温させる熱処理を実施した。
【0033】
[予備実験5]
予備実験5では、用意したシリコンウェーハに対して、RTN炉を用いて22秒で1150度まで昇温し、その温度で60秒熱処理を行い、15秒で室温まで降温させる熱処理を実施した。
【0034】
[予備実験6]
予備実験6では、用意したシリコンウェーハに対して、RTN炉を用いて24秒で1250度まで昇温し、その温度で30秒熱処理を行い、16秒で室温まで降温させる熱処理を実施した。
【0035】
図1は、こうして得られた予備実験1~6の各熱処理後の各シリコンウェーハ表層部の厚さ方向の窒素濃度プロファイルを二次イオン質量分析法(SIMS:Secondary Ion Mass Spectrometry)を用いて測定した結果を示すグラフである。熱処理していない予備実験1のシリコンウェーハは、結晶育成時の窒素ガスドープによって6×1014(atoms/cm)がバルク中に存在している。1050℃処理では表層の濃度が外方拡散によって低下している。1150℃以上では温度が高いほど内方拡散によって窒素濃度が高くなることがわかった。
【0036】
そして、この予備実験1~6の各熱処理後シリコンウェーハに対し、IGBTデバイス製造時の一般的な熱処理を模擬的に実施するため、縦型炉で1150℃の熱処理と450℃の2段階の熱処理を行い、シリコンウェーハを支持するボートとの接触傷からのスリップ長を調べた。ここで、スリップ長はX線トポグラフィ像から測定した。図2は、予備実験1で用意したシリコンウェーハのスリップ長を測定した際の観察像であり、ボート接触部の3点からスリップ長を確認することができる。
【0037】
予備実験1~6についても同様の観察を実施した。図3は、このボート接触部の3点で観察されるスリップ長を比較したグラフであり、スリップ長が短いほどスリップ耐性が高いことを示す。
【0038】
この結果から、シリコンウェーハの表層部近傍のある程度の深さまでの領域の窒素濃度を上昇させることで、シリコンウェーハのスリップ耐性を向上させることができることが分かった。特に、1150℃から1250℃でRTNすることでシリコンウェーハの厚さ方向において最表面から15μmまでの領域の窒素濃度を2×1015atom/cm-3以上1×1016atom/cm-3とすることにより当該シリコンウェーハのスリップ耐性を十分に高くできることが分かった。
【0039】
<シリコンウェーハ中窒素濃度の予測>
また、窒素雰囲気下の熱処理により、シリコンウェーハ中の窒素濃度プロファイルは表面から深くなるにつれて窒素濃度が下がっていくことが予想される。しかしながら、SIMSによって測定できる窒素濃度プロファイルは、シリコンウェーハ表面部近傍の範囲に限られる。そこで、窒素の内方拡散について一般的な方法で計算することにより、シリコンウェーハ表面部から厚さ方向のより深い位置の窒素濃度について予想した。図4に、予備実験4~6のシリコンウェーハのウェーハの内部の窒素濃度プロファイルの計算値によるプロファイルを示した。表面近傍に折れ線で示したプロファイルが実際の実測値であり、深さ方向全体に渡って曲線で示したプロファイルが、各確認実験の熱処理条件から導かれる計算値である。この結果から分かるとおり、拡散の計算を解くことでシリコンウェーハの厚さ方向全体に渡って窒素濃度を概ね予想することができる。この予想値を用いることで、所望の窒素濃度の面を露出させるために必要な研磨量を見積もることができる。したがって、例えば窒素濃度の高い領域が不要なオモテ面においては、窒素濃度の高い領域がなくなるまで研削、研磨することができ、高窒素濃度領域が露出していることが好ましいシリコンウェーハ裏面においては、高窒素濃度領域が露出する程度に研削、研磨することができる。したがって、低酸素濃度のシリコンウェーハに対して窒素雰囲気中で熱処理することにより、シリコンウェーハのオモテ面及び裏面の表層部の窒素濃度のみを一旦高くした後、オモテ面側の高窒素濃度領域のみを除去して裏面側に高窒素濃度領域を残せば、ウェーハ全体では高抵抗で抵抗変動を抑制でき、さらにIGBTデバイス製造プロセスにおいて懸念点となるウェーハ裏面側でのスリップ発生を抑制できる。
【0040】
(シリコンウェーハの製造方法)
以上の予備実験結果を踏まえ、以下では図面を参照しつつ、本実施形態に係るシリコンウェーハを製造する方法の実施形態を詳細に説明する。なお、同一の構成要素には原則として数字下二桁で同一の参照番号を付して、重複する説明を省略する。また、図5図7では図面の簡略化のため、各構成の厚さについて、実際の厚さの割合と異なり誇張して示す。本発明に従うシリコンウェーハの製造方法は、酸素濃度(ASTM F121,1979)が1×1017atom/cm-3以下である研磨前シリコンウェーハを窒素雰囲気で熱処理することにより研磨前シリコンウェーハのオモテ面及び裏面のそれぞれの表層部に高窒素濃度層を形成する高窒素濃度層形成工程と、高窒素濃度層形成工程の後、研磨前シリコンウェーハのオモテ面及び裏面の表層部の高窒素濃度層の少なくとも一部をそれぞれ除去する高窒素濃度層除去工程と、を含み、高窒素濃度層除去工程後のシリコンウェーハの裏面の最表面から厚さ方向20μmの範囲における窒素濃度の最大値が2×1015atom/cm-3以上1×1016atom/cm-3以下であり、高窒素濃度層除去工程後のシリコンウェーハのオモテ面の最表面から厚さ方向20μmまでの範囲における窒素濃度が1×1014atom/cm-3以上1×1015atom/cm-3以下であることを特徴とする。以下、本発明の各構成及び各工程の詳細を説明する。
【0041】
本実施形態に係るシリコンウェーハの製造方法は、シリコンウェーハに熱処理を施し、最終的にシリコンウェーハの裏面にのみ、高窒素濃度領域を形成する。一例として図5に示す一実施形態では、まず研磨前シリコンウェーハ110のオモテ面及び裏面の各表層部に、熱処理によりオモテ面側高窒素濃度層112及び裏面側高窒素濃度層113を形成する。その後、研削装置を用いて研磨前シリコンウェーハ110のオモテ面は高窒素濃度層を除去し、裏面は高窒素濃度層を残すように研削量を設定して研削する。その後、低窒素濃度領域のオモテ面最表面110aの表面粗さを調整するために両面研磨、および、片面研磨処理を行う。以下、第1の実施形態における各工程の詳細を順次説明する。なお、研削はウェーハ表面に形成された窒化膜の除去、ウェーハの厚みの調整を目的として、硬質の砥石を用いてウェーハを削る工程である。また、研磨はウェーハの平坦度の調整を目的として軟質の研磨布を用いてウェーハを磨く工程である。
【0042】
<研磨前シリコンウェーハ>
本発明に従うシリコンウェーハの製造に用いる研磨前シリコンウェーハ110としては、シリコン単結晶から切り出した単結晶シリコンウェーハを用いることができる。単結晶シリコンウェーハは、チョクラルスキー法(CZ法)や浮遊帯域溶融法(FZ法)により育成された単結晶シリコンインゴットをワイヤーソー等でスライスしたものを使用することができ、低酸素シリコンウェーハとして用いる観点から、FZ法によって製造されたシリコンウェーハを用いることが好ましい。シリコンウェーハの酸素濃度(ASTM F121,1979)は1×1017atom/cm-3以下であり、2×1016atom/cm-3以下であることが好ましく、1×1016atom/cm-3以下であることがより好ましい。ここで、シリコンウェーハを縦型デバイスに用いる場合、デバイス形成領域の縦方向のいずれかの領域において欠陥が存在していると、この欠陥を介してリーク電流が発生してしまうので、デバイス特性に影響を及ぼす。従って、より良好なデバイス特性を得る観点からは、研磨前シリコンウェーハ110は転位クラスター及び空孔凝集欠陥(COP:Crystal Originated Particle)を含まないシリコンウェーハとすることが好ましい。
【0043】
ここで、本明細書における「COPを含まないシリコンウェーハ」とは、以下に説明する観察評価により、COPが検出されないシリコンウェーハを意味するものとする。すなわち、まず、CZ法により育成された単結晶シリコンインゴットから切り出し加工されたシリコンウェーハに対して、SC-1洗浄(すなわち、アンモニア水と過酸化水素水と超純水とを1:1:15で混合した混合液による洗浄)を行い、洗浄後のシリコンウェーハ表面を、表面欠陥検査装置としてKLA-Tencor社製:Surfscan SP-2を用いて観察評価し、表面ピットと推定される輝点欠陥(LPD:Light Point Defect)を特定する。その際、観察モードはObliqueモード(斜め入射モード)とし、表面ピットの推定は、Wide Narrowチャンネルの検出サイズ比に基づいて行うものとする。こうして特定されたLPDに対して、原子間力顕微鏡(AFM:Atomic Force Microscope)を用いて、COPか否かを評価する。この観察評価により、COPが観察されないシリコンウェーハを「COPを含まないシリコンウェーハ」とする。
【0044】
一方、転位クラスターは、過剰な格子間シリコンの凝集体として形成されるサイズの大きな(10μm程度)の欠陥(転位ループ)であり、セコエッチングなどのエッチング処理を施したり、Cuデコレーションして顕在化させることにより、目視レベルで転位クラスターの有無を簡単に確認することができる。
【0045】
<高窒素濃度層形成工程>
高窒素濃度層形成工程は、窒素雰囲気下で研磨前シリコンウェーハ110を熱処理して、研磨前シリコンウェーハ110のオモテ面及び裏面のそれぞれの表層部に高窒素濃度層を形成する工程である。本工程による熱処理は、バッチ式熱処理装置(縦型熱処理装置、横型熱処理装置)などを適用することもできるが、窒素雰囲気でウェーハを加熱する急速熱窒化処理(RTN)が可能な急速昇降温熱処理装置(RTA(Rapid Thermal Annealing)炉)を用いて行うことが好ましい。炉内には、窒素ガスの他に不活性ガスが含まれていても良く、熱処理温度は、1100℃以上であることが好ましく、1150℃以上であることがより好ましい。また、この熱処理温度は1350℃以下であることが好ましく、1300℃以下であることがより好ましい。熱処理時間は、使用する炉に応じて適切な時間を設定すればよく、例えばRTN炉における熱処理時間は10秒以上であることが好ましく、30秒以上であることがより好ましい。また、同様に、150秒以下であることが好ましく、120秒以下であることがより好ましい。また、このとき、急速熱窒化処理を実施するためには、最高温度までの昇温時間は24秒以下であることが好ましく、20秒以下であることがより好ましい。また、同様に急速熱窒化処理を実施するためには、最高温度から室温までの降温時間は、16秒以下であることが好ましく、13秒以下であることがより好ましい。バッチ式熱処理装置を用いた熱処理では熱処理時間は10分以上、3時間以下の熱処理とすることが好ましい。また、高窒素濃度層形成工程で形成する各面の高窒素濃度層は、シリコンウェーハのオモテ面及び裏面の最表面から厚さ方向20μmまでの各領域に形成することが好ましい。
【0046】
高窒素濃度層形成工程では、図6に示すように、炉内の窒素が、研磨前シリコンウェーハ110のオモテ面及び裏面の表層部に内方拡散することにより、オモテ面側高窒素濃度層112及び裏面側高窒素濃度層113を各面の表層部に形成する。熱処理温度が高いほど、研磨前シリコンウェーハ110の表層部の窒素濃度は高くなり、研磨前シリコンウェーハ110の最表面へ窒素が拡散される。研磨前シリコンウェーハを熱処理することにより、研磨前シリコンウェーハ110の厚さ方向の窒素濃度プロファイルにおいて、窒素濃度が2×1015atom/cm-3以上である高窒素濃度層を形成する。図6にオモテ面側高窒素濃度層112及び裏面側高窒素濃度層113が形成されたシリコンウェーハの模式図と、各高窒素濃度層が形成されたシリコンウェーハの厚さ方向における窒素濃度のプロファイルの模式概念図を併せて示す。図6に示されるように、シリコンウェーハ中に内方拡散された窒素の濃度プロファイルには、表裏面それぞれの表層部にピークが存在する。
【0047】
<高窒素濃度層除去工程>
高窒素濃度層除去工程では、図7に示すように、高窒素濃度層形成工程の後、研磨前シリコンウェーハのオモテ面及び裏面の表層部の高窒素濃度層の少なくとも一部をそれぞれ除去する。シリコンウェーハ表面の研削研磨においては、シリコンウェーハのオモテ面及び裏面に対して両面研磨(DSP)を行った後、さらにそのシリコンウェーハのオモテ面側の表面を片面研磨(SMP)することが一般的である。両面研磨を行うことで、シリコンウェーハ表裏面の窒化膜を除去し、同時に加工歪を除去することで所定の平坦度を確保することができ、さらにオモテ面側のみ片面研磨を行うことで、シリコンウェーハのオモテ面側の表面を所定の表面粗さにすることができる。しかしながら、表裏面の研磨除去量が同じとなるような両面研磨を行うと、デバイス活性層として使用されるシリコンウェーハのオモテ面側にも高窒素濃度層が残存することとなり、高窒素濃度層の窒素原子がウェーハの抵抗率の変動、および、析出物などの表面欠陥出現の原因となるため、製品として使用できない。そこで本実施形態では、高窒素濃度層除去工程において、高窒素濃度層形成工程で形成したオモテ面側高窒素濃度層112及び裏面側高窒素濃度層113のうち、オモテ面側高窒素濃度層112のみを除去するために熱処理後のウェーハを片面ずつ研削したあと、平坦度を調整するために両面研磨工程を行っているが、両面研磨工程では、シリコンウェーハ裏面側の研磨量よりもシリコンウェーハオモテ面側の研磨速度が速い条件を設定してもよい。このためには、例えば上側の研磨定盤と下側の研磨定盤とで使用条件を変更することができる。具体的には、研磨パッドの種類を、上側のみ研磨パッドを砥粒が埋め込まれた固定砥粒パッドを採用したり、上下でウレタンパッドと不織布・スエードの組合せを適宜用いたりすることができる。他にも上下の研磨定盤の圧力あるいは回転数に差をもたせることでもこのような目的を達成することが可能である。これらの条件で処理することにより、シリコンウェーハオモテ面側の高窒素濃度層112を全て除去し、かつ裏面側に高窒素濃度領域114を残存させるために高窒素濃度層を除去する度合いを微調整することができる。なお、高窒素濃度層除去工程におけるオモテ面側の高窒素濃度層112の除去には、エッチング等任意の研磨以外の手法を用いてもよく、研磨のみに限定されない。
【0048】
また、上述のとおりRTN炉を用いて急速熱窒化することにより、シリコンウェーハの表面近傍に高窒素濃度層を局在させることができるため、高窒素濃度層形成工程後のシリコンウェーハのオモテ面及び裏面の研磨量を少なくすることができる。高窒素濃度層除去工程における研磨前シリコンウェーハのオモテ面の研磨量は15μm以下とすることができ、10μm以上12μm以下とすることが好ましい。同様に、高窒素濃度層除去工程における研磨前シリコンウェーハの裏面の研磨量は10μm以下とすることができ、4μm以上8μm以下とすることが好ましい。
【0049】
そして、高窒素濃度層除去工程後のシリコンウェーハの裏面の最表面から厚さ方向20μmの範囲における窒素濃度の最大値は2×1015atom/cm-3以上1×1016atom/cm-3以下であり、窒素濃度の最大値は3×1015atom/cm-3以上とすることが好ましく、4×1015atom/cm-3以上とすることがより好ましく、9×1015atom/cm-3以下とすることが好ましく、8×1015atom/cm-3以下とすることがより好ましい。また、高窒素濃度層除去工程後の当該窒素濃度とする範囲は、シリコンウェーハの裏面の最表面から厚さ方向18μmの範囲とすることが好ましく、最表面から厚さ方向15μmの範囲とすることがより好ましい。
【0050】
一方、高窒素濃度層除去工程後のシリコンウェーハのオモテ面の最表面から厚さ方向20μmまでの範囲における窒素濃度は1×1014atom/cm-3以上1×1015atom/cm-3以下であり、2×1014atom/cm-3以上とすることが好ましく、3×1014atom/cm-3以上とすることがより好ましく、9×1014atom/cm-3以下とすることが好ましく、8×1014atom/cm-3以下とすることがより好ましい。
【0051】
このようにして、オモテ面の高窒素濃度層のみを除去しつつ、裏面側に高窒素濃度領域を残すことで、IGBTの用途に適したシリコンウェーハであって、高抵抗で抵抗変動が小さく、かつスリップの発生を抑制できるシリコンウェーハを製造することができる。
【0052】
次に、上記製造方法の実施形態により得ることのできるシリコンウェーハについて、具体的に説明する。
【0053】
(シリコンウェーハ)
本発明に従うシリコンウェーハは、シリコンウェーハの厚さ方向における窒素濃度プロファイルにおいて、窒素濃度の最大値が2×1015atom/cm-3以上1×1016atom/cm-3以下の高窒素濃度領域が、シリコンウェーハの裏面の最表面から厚さ方向20μmまでの範囲に存在し、シリコンウェーハのオモテ面の最表面から厚さ方向20μmまでの範囲における窒素濃度が1×1014atom/cm-3以上1×1015atom/cm-3以下であり、シリコンウェーハの酸素濃度(ASTM F121,1979)が1×1017atom/cm-3以下であるシリコンウェーハである。以下、各構成の詳細を順次説明する。ここで、裏面表層部の高窒素濃度領域の占める割合はシリコンウェーハ全体に対して僅かであるため、シリコンウェーハのウェーハ全体としての酸素濃度は、熱処理等を施す前のシリコンウェーハの酸素濃度と実質的に同一であるとみなしてよい。
【0054】
<シリコンウェーハの酸素濃度>
シリコンウェーハの酸素濃度は、シリコンウェーハの製造において、高窒素濃度層形成工程及び研磨工程の前後を通じてほとんど変わらないため、シリコンウェーハの酸素濃度は、高窒素濃度層形成前のシリコンウェーハの酸素濃度として測定された値を用いることができる。ここで酸素濃度とは、FT-IRで測定した酸素濃度を指す。
【0055】
<シリコンウェーハの抵抗率>
シリコンウェーハの抵抗率は、30Ω・cm以上10000Ω・cm以下であることが好ましい。ここで、抵抗率の測定は、四探針法で測定した値である。具体的には、シリコンウェーハのオモテ面の中心部位を四探針法により測定することにより行うことができる。
【0056】
本発明に係るウェーハであれば、低酸素シリコンウェーハにおいては、スリップ発生が懸念されるところ、裏面側に高窒素濃度領域があるためスリップ発生を抑制しつつ、ウェーハの裏面表層部以外は抵抗変動がないため、IGBTデバイス用途に供して好適である。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明によれば、抵抗変動が少なく、かつスリップの発生を抑制することができる、IGBTの用途に適したシリコンウェーハ及びその製造方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0058】
110 研磨前シリコンウェーハ
110a オモテ面最表面
112 オモテ面側高窒素濃度層
113 裏面側高窒素濃度層
114 裏面側高窒素濃度領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7