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特開2024-179292無線通信システム、無線通信方法、無線通信装置及び無線通信プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024179292
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】無線通信システム、無線通信方法、無線通信装置及び無線通信プログラム
(51)【国際特許分類】
   H04W 74/02 20090101AFI20241219BHJP
   H04W 72/0457 20230101ALI20241219BHJP
   H04W 84/06 20090101ALI20241219BHJP
   H04W 72/0446 20230101ALI20241219BHJP
【FI】
H04W74/02
H04W72/0457
H04W84/06
H04W72/0446
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023098030
(22)【出願日】2023-06-14
(71)【出願人】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松井 宗大
(72)【発明者】
【氏名】山下 史洋
(72)【発明者】
【氏名】糸川 喜代彦
(72)【発明者】
【氏名】五藤 大介
(72)【発明者】
【氏名】立神 光洋
(72)【発明者】
【氏名】岡田 啓
(72)【発明者】
【氏名】熊澤 完介
【テーマコード(参考)】
5K067
【Fターム(参考)】
5K067AA21
5K067CC02
5K067CC04
5K067DD11
5K067EE02
5K067EE07
5K067EE10
(57)【要約】
【課題】本開示は、無線通信システム、無線通信方法、無線通信装置及び無線通信プログラムに関し、利用可能なチャネル数が異なる端末間におけるスループットの公平性を保つことができる無線通信システムを提供することを目的とする。
【解決手段】本開示の無線通信システムは、複数のIoT端末と送信トラヒック制御器を備える。IoT端末は、利用可能チャネルのリストを送付する処理を実施するよう構成される。送信トラヒック制御器は、IoT端末を利用可能チャネルのリストに基づきグループ化する処理と、公平性のポリシに基づく目的関数によって、IoT端末のグループ毎に各チャネルにおいて達成すべき送信率を算出する処理と、送信率をIoT端末にブロードキャストする処理と、を実施するよう構成される。IoT端末は、さらに、送信率に基づき、チャネル選択及び送信トラヒック量の制御を実施するよう構成されている。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のIoT端末と送信トラヒック制御器を備え、
前記IoT端末が、利用可能チャネルのリストを送付する処理を実施するよう構成され、
前記送信トラヒック制御器が、
前記IoT端末を前記利用可能チャネルのリストに基づきグループ化する処理と、
公平性のポリシに基づく目的関数によって、前記IoT端末のグループ毎に各チャネルにおいて達成すべき送信率を算出する処理と、
前記送信率を前記IoT端末にブロードキャストする処理と
を実施するよう構成され、
前記IoT端末が、前記送信率に基づき、チャネル選択及び送信トラヒック量の制御を実施するよう構成されている
無線通信システム。
【請求項2】
前記目的関数が公平性を数値化する数式を有し、前記数式から得られた公平性の数値が最大化するように前記送信率が計算される
請求項1に記載の無線通信システム。
【請求項3】
前記目的関数が公平性を数値化する数式を有し、前記数式から得られた公平性の数値が閾値を超えるように前記送信率が計算される
請求項1に記載の無線通信システム。
【請求項4】
前記公平性の数値が等しくなる送信率が複数得られた場合、トータルスループットが最大化する送信率が選択される
請求項2または3に記載の無線通信システム。
【請求項5】
前記送信トラヒック制御器が、
ポリシを確認する処理と、
前記ポリシに基づき目的関数を設定する設定処理と
をさらに実施するよう構成され、
前記ポリシが優先送信である場合、
前記設定処理が、
送信優先度が高いグループで利用可能な各チャネルにおいて達成すべき送信率を設定する処理と、
送信優先度が高いグループ以外のグループについて前記公平性のポリシに基づく目的関数を設定する処理と
を含む
請求項1に記載の無線通信システム。
【請求項6】
IoT端末における利用可能チャネルのリストを送付することと、
前記IoT端末を前記利用可能チャネルのリストに基づきグループ化することと、
公平性のポリシに基づく目的関数によって、前記IoT端末のグループ毎に各チャネルにおいて達成すべき送信率を算出することと、
前記送信率を前記IoT端末にブロードキャストすることと、
前記IoT端末が、前記送信率に基づき、チャネル選択及び送信トラヒック量の制御を実施することと
を備える無線通信方法。
【請求項7】
IoT端末が送付した利用可能チャネルのリストを受信する処理と、
前記IoT端末を前記利用可能チャネルのリストに基づきグループ化する処理と、
公平性のポリシに基づく目的関数によって、前記IoT端末のグループ毎に各チャネルにおいて達成すべき送信率を算出する処理と、
前記送信率を前記IoT端末にブロードキャストする処理と
を実施するよう構成されている無線通信装置。
【請求項8】
無線通信装置に実施させる無線通信プログラムであって、
IoT端末が送付した利用可能チャネルのリストを受信する処理と、
前記IoT端末を前記利用可能チャネルのリストに基づきグループ化する処理と、
公平性のポリシに基づく目的関数によって、前記IoT端末のグループ毎に各チャネルにおいて達成すべき送信率を算出する処理と、
前記送信率を前記IoT端末にブロードキャストする処理と
をコンピュータに実施させるためのプログラムを含む無線通信プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は無線通信システム、無線通信方法、無線通信装置及び無線通信プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、モノとの通信を行うIoTサービスが発展している。IoT端末は、無線通信を用いてインターネットに接続することができる。そのためIoT端末は、遠隔監視またはテレメタリングなど様々なサービスへの応用が期待されている。
【0003】
IoT端末が自律的に制御を行うアクセス方式として、CRDSA(Contention Resolution Diversity Slotted ALOHA)方式が知られている。CRDSA方式は、端末数がある値に達すると、パケットの衝突が増加することで干渉キャンセル処理が働かなくなる。その結果、急激に通信容量が低下し、IoTサービスに支障が生じる課題があった。
【0004】
上述したCRDSA方式の特性を改善する方法として、非特許文献1には、利用するチャネル及び送信するトラヒック量の制御を行う技術が開示されている。この技術では、端末が利用可能なチャネルに基づいて、端末群をグループ化する。そして、各チャネルにおける送信率をグループごとに算出し、その送信率に基づいてトラヒック制御を実施することで、CRDSA方式の特性を改善している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献1】熊澤他, “衛星IoTシステムにおけるチャネル利用偏りによる性能劣化を防ぐCRDSA方式の送信制御の一検討”, 電子情報通信学会ソサイエティ大会, 2022年3月1日, 第2022巻, B-3-8
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし上述の方法は、システムのトータルスループットを最大化することを目的としている。そのため、利用可能なチャネルが多いグループ、すなわち送信の自由度が大きいグループほど、トラヒックの送信機会が大きくなる。すなわち、利用可能なチャネル数によって端末間のスループットが大きく異なることとなり、端末間のスループットの公平性が損なわれる課題がある。
【0007】
本開示は上述の問題を解決するため、利用可能なチャネル数が異なる端末間におけるスループットの公平性を保つことができる無線通信システムを提供することを第一の目的とする。
【0008】
また本開示は、利用可能なチャネル数が異なる端末間におけるスループットの公平性を保つことができる無線通信方法を提供することを第二の目的とする。
【0009】
また本開示は、利用可能なチャネル数が異なる端末間におけるスループットの公平性を保つことができる無線通信装置を提供することを第三の目的とする。
【0010】
また本開示は、利用可能なチャネル数が異なる端末間におけるスループットの公平性を保つことができる無線通信プログラムを提供することを第四の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示の第一の態様は、複数のIoT端末と送信トラヒック制御器を備え、IoT端末が、利用可能チャネルのリストを送付する処理を実施するよう構成され、送信トラヒック制御器が、IoT端末を利用可能チャネルのリストに基づきグループ化する処理と、公平性のポリシに基づく目的関数によって、IoT端末のグループ毎に各チャネルにおいて達成すべき送信率を算出する処理と、送信率をIoT端末にブロードキャストする処理と、を実施するよう構成され、IoT端末が、送信率に基づき、チャネル選択及び送信トラヒック量の制御を実施するよう構成されている無線通信システムであることが好ましい。
【0012】
また本開示の第二の態様は、IoT端末における利用可能チャネルのリストを送付することと、IoT端末を利用可能チャネルのリストに基づきグループ化することと、公平性のポリシに基づく目的関数によって、IoT端末のグループ毎に各チャネルにおける送信率を算出することと、送信率をIoT端末にブロードキャストすることと、IoT端末が、送信率に基づき、チャネル選択及び送信トラヒック量の制御を実施することとを備える無線通信方法であることが好ましい。
【0013】
また本開示の第三の態様は、IoT端末が送付した利用可能チャネルのリストを受信する処理と、IoT端末を利用可能チャネルのリストに基づきグループ化する処理と、公平性のポリシに基づく目的関数によって、IoT端末のグループ毎に各チャネルにおける送信率を算出する処理と、送信率をIoT端末にブロードキャストする処理と、を実施するよう構成されている無線通信装置であることが好ましい。
【0014】
また本開示の第四の態様は、無線通信装置に実施させる無線通信プログラムであって、IoT端末が送付した利用可能チャネルのリストを受信する処理と、IoT端末を利用可能チャネルのリストに基づきグループ化する処理と、公平性のポリシに基づく目的関数によって、IoT端末のグループ毎に各チャネルにおける送信率を算出する処理と、送信率をIoT端末にブロードキャストする処理と、をコンピュータに実施させるためのプログラムを含む無線通信プログラムであることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本開示の第一から第四の態様によれば、利用可能なチャネル数が異なる端末間におけるスループットの公平性を保つことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】比較例における無線通信システムを示す図である。
図2】CRDSA方式を示す図である。
図3】CRDSA方式における干渉を示す図である。
図4】FHを導入したCRDSA方式を示す図である。
図5】本開示の実施の形態1に係る無線通信システムの構成を示す図である。
図6】本開示の実施の形態1に係る送信トラヒック制御器のハードウェア構成を示す図である。
図7】本開示の実施の形態1に係る無線通信システムのパケット送信処理を示すフローチャートである。
図8】本開示の実施の形態1に係るグループ化されたIoT端末を示す図である。
図9】本開示の実施の形態1に係る目的関数の設定処理を示すフローチャートである。
図10】自由度に対するトラヒック送信負荷の算出結果を示すグラフである。
図11】本開示の実施の形態1に係るスループット特性を示すグラフである。
図12】本開示の実施の形態2に係る目的関数の設定処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
実施の形態1
[比較例における無線通信システム]
本開示の実施の形態1に係る無線通信システムの説明に先立ち、比較例における無線通信規格及び無線通信システムについて説明する。近年、モノとの通信を行うIoTサービスが発展している。IoT端末は、無線通信を用いてインターネットに接続することができる。そのためIoT端末は、遠隔監視またはテレメタリングなど様々なサービスへの応用が期待されている。
【0018】
無線通信規格には、例えば無線LAN(IEEE 802.11ah)またはLTEなどの既存モバイル通信システムの他、低消費電力を特徴とするLPWA(Low Power Wide Area)などがある。LPWAには、アンライセンスバンドを使う規格として、Sigfox、LoRaWANまたはELTRESなどが策定されている。またLPWAには、ライセンスバンドを使う規格として、LTE-MまたはNB-IoTがある。
【0019】
一方、無線通信装置として低軌道衛星を使った衛星通信サービスが注目されている。衛星通信サービスでは、複数の通信衛星が高度数百km~2000kmの軌道に投入される。地上の無線端末は、これらの通信衛星に接続することにより、高速な通信を行うことができる。例えば、Oneweb社及びSpaceX社は、多数の通信衛星を打ち上げ、通信サービスを開始している。
【0020】
また、これらの通信衛星を組み合わせて行う、低軌道衛星を用いたIoTサービスが検討されている。例えば、IoT端末を低軌道衛星に接続し、その低軌道衛星を介してインターネットに接続するサービスである。このようなIoTサービスは、地上ネットワークが整備されていない山間部などの僻地、または地上ネットワークの電波が届かない海上または空中エリアにおいても、IoTサービスを提供できるシステムとして有望である。例えば、Globalstar社は、低軌道衛星を用いた衛星IoTサービスを提供している。
【0021】
図1は、比較例における無線通信システムを示す図である。地上に存在する衛星IoT端末2は、IoTデータを格納したパケットを、サービスリンク3を介して衛星4に送信する。パケットはフィーダリンク5を介して地上基地局6へ送信され、更にネットワーク9を介してIoTアプリケーションサーバ10へ送信される。IoTアプリケーションサーバ10では、各種IoTサービスに必要なデータ加工、解析またはデータクレンジングなどの処理が行われる。
【0022】
これらの衛星IoT端末2は、無線チャネルを使って衛星にパケットを送信する。この際、複数の端末が無線チャネルを使ってデータを送信するために、TDMA(Time Division Multiple Access)またはFDMA(Frequency Division Multiple Access)などのアクセス方式が用いられる。
【0023】
TDMAまたはFDMAのアクセス方式では、システム側の制御装置が制御を行い、各IoT端末に対してパケットを送信するための時間または周波数などのリソースを割り当てる。また、IoT端末が自律的に制御を行うアクセス方式として、Slotted ALOHA方式を発展させたCRDSA方式がある。この方式では、IoT端末が送信するパケットを複製し、複製したパケットを異なるタイムスロットで送信する。
【0024】
図2は、CRDSA方式を示す図である。ここでは、IoT端末#1が1chを用いたパケット送信を、タイムスロット12を用いて行う例を示している。まずIoT端末#1は、パケット14を、t2~t3のタイムスロットで送信する。またIoT端末#1は、パケット14を複製し、その複製パケット16を、t4~t5のタイムスロットで送信する。
【0025】
図3は、CRDSA方式における干渉を示す図である。ここでは、IoT端末からの送信タイミングが、他のIoT端末からの送信タイミングと重なる例を示している。このとき、送信パケット同士が衝突して干渉するため、パケットが正しく受信されなくなる。この場合でも、続けて送信する複製パケットが正しく受信されれば、受信側でそのパケットを使って干渉キャンセル処理を行うことで、全パケットが正しく受信される可能性がある。
【0026】
図3では、IoT端末#1、#2、#3が、8つのタイムスロットを用いてCRDSA方式のパケット送信を行う例を示す。IoT端末#1は、パケット14及び複製パケット16を、異なるタイムスロットで送信する。IoT端末#2は、パケット18及び複製パケット20を、異なるタイムスロットで送信する。IoT端末#3は、パケット22及び複製パケット24を、異なるタイムスロットで送信する。
【0027】
この場合、IoT端末#2が送信するパケット18及び複製パケット20は、それぞれパケット14及び複製パケット24と衝突するため、いずれも正しく受信されない。つまり、IoT端末#2の情報は正しく伝達されない。しかし、複製パケット16及びパケット22は、他のタイムスロットで正しく受信されている。つまり、IoT端末#1及びIoT端末#3の情報は正しく伝達されている。
【0028】
そのため、複製パケット16またはパケット22を用いて、干渉キャンセル処理を行うことにより、IoT端末#2の送信パケットを正しく受信することが可能になる。例えば、t2~t3のタイムスロットで受信した情報から、複製パケット16の情報を差し引く処理を行う。複製パケット16はパケット14の複製であるため、この処理により、パケット18の正しい内容を認識できるようになる。つまり、CRDSA方式では、複数のパケット送信と干渉キャンセル処理を併用することで、情報伝達の精度を高めることができる。
【0029】
図4は、FHを導入したCRDSA方式を示す図である。複数のチャネルが利用可能な場合は、CRDSA方式の拡張として、FH(Frequency Hopping)を導入できる。これは、任意の異なるチャネル及びタイムスロットでパケットを送信する方式である。図4では、IoT端末#1が、2つの複製パケットを生成し、送信する例を示している。ここで、パケット14、複製パケット16及び複製パケット26は、それぞれ異なるチャネル及び異なるタイムスロットを用いている。このように、複数チャネルを用いることで、端末間で送信パケットが衝突する可能性が低下するため、スループット特性が向上する。
【0030】
また、CRDSA方式のパケット複製数を確率的に選択するIRSA(Irregular-Repetition Slotted ALOHA)方式がある。表1は、IRSA方式における複製数の分布例である。表1の例では、最大複製数が4の場合、0.5102の確率でパケットの複製数を2とし、0.4898の確率でパケットの複製数を4とする制御を行う。
【0031】
【表1】
【0032】
低軌道衛星を使ったIoTサービスでは、衛星1台当たりが地表においてカバーするエリアが広大となる。そのため、1台の衛星に対して多数の端末が接続する。接続する端末数が多くなると、端末間の干渉によって通信に障害が発生し、通信システムの通信容量が低下する課題が生じる。
【0033】
また、各端末が衛星にパケットを送信する際、地上ネットワークに干渉を与えないようにする必要がある。このため、端末によって利用可能なチャネルが異なる。
【0034】
古くから用いられているSlotted ALOHA方式と同様に、FHを導入したCRDSA方式(以下、この方式を「CRDSA+FH方式」と称する。)においても、接続する端末数の増加に伴い、通信容量が増加する。しかし、端末数がある値に達すると、通信容量が急激に低下する。これは、複数の端末が同一のスロットを選択してパケットを送信する確率が上がり、パケットの衝突が増加するためである。一定数以上のパケット衝突が発生すると、干渉キャンセル処理が働かなくなり、急激に通信容量が低下する。通信容量が低下すると、IoTサービスに支障をきたす。
【0035】
上述したCRDSA方式の特性を改善する方法として、非特許文献1には、利用するチャネル及び送信するトラヒック量の制御を行う技術が開示されている。この技術では、端末が利用可能なチャネルに基づいて、端末群をグループ化する。そして、各チャネルにおける送信率をグループごとに算出し、その送信率に基づいてトラヒック制御を実施することで、CRDSA方式の特性を改善している。
【0036】
しかし上述の方法は、システムのトータルスループットを最大化することを目的としている。そのため、利用可能なチャネルが多いグループ、すなわち送信の自由度が大きいグループほど、トラヒックの送信機会が大きくなる。そのため、利用可能なチャネル数によって端末間のスループットが大きく異なることとなり、端末間の公平性が損なわれる課題がある。本開示は、この課題を解決する。
【0037】
[本開示の実施の形態1に係る無線通信システム]
図5は、本開示の実施の形態1に係る無線通信システムの構成を示す図である。無線通信システム100は、送信トラヒック制御器8を備える点が、比較例における無線通信システム500と異なる。
【0038】
衛星IoT端末2は、利用可能チャネルのリスト及び送信予定のトラヒック量の情報をパケットに変換し、サービスリンク3を介して衛星4に伝送する。
【0039】
衛星4は、衛星IoT端末2から伝送された情報パケットを、フィーダリンク5を介して地上基地局6に中継する。地上基地局6は、中継された情報パケットを、ネットワーク9を介して送信トラヒック制御器8に伝送する。
【0040】
送信トラヒック制御器8は、伝送された情報に基づき、衛星IoT端末2をグループ化した上で、グループ毎に各チャネルにおいて達成すべき送信率を算出する。そしてその各チャネルにおいて達成すべき送信率の情報を、地上基地局6を介して衛星4に通知する。
【0041】
各チャネルにおいて達成すべき送信率は、無線通信システム100が設定する目的関数に基づいて算出される。この目的関数は、ポリシに基づいて定期的に設定される。送信率を算出するフローは図7で、ポリシに基づいて目的関数を設定するフローは図9で、それぞれ後述する。
【0042】
衛星4は、各チャネルにおいて達成すべき送信率の情報を、ブロードキャストにより全ての衛星IoT端末2へ通知する。衛星IoT端末2は、その情報に基づき、パケットを送信するチャネルを選択し、送信トラヒック量を決定した上で、パケット送信処理を行う。
【0043】
また衛星IoT端末2は、IoTサービスとして観測やセンシングなどを行い、IoT情報を得る。そして、得られたIoT情報をパケットに変換し、サービスリンク3を介して衛星4に伝送する。衛星4は、伝送された情報パケットを、フィーダリンク5を介して地上基地局6に中継する。
【0044】
地上基地局6は、中継された情報パケットを、ネットワーク9を介してIoTアプリケーションサーバ10に伝送する。IoTアプリケーションサーバ10は、伝送されたIoT情報に基づき、データ加工や解析、データクレンジングなどの処理を行う。
【0045】
なお、ここでは無線通信システム100が備える端末が衛星IoT端末2である例を示したが、無線通信システム100が衛星4による中継以外の方法で無線通信を実施する場合、この端末がIoT端末であっても良い。
【0046】
[実施の形態1に係る送信トラヒック制御器のハードウェア構成]
図6は、本開示の実施の形態1に係る送信トラヒック制御器のハードウェア構成を示す図である。送信トラヒック制御器8は、CPU118を備える。CPU118は、バスライン120に接続されている。バスライン120には、ROM122、RAM124及びストレージ126のようなメモリ装置が接続されている。メモリ装置には、CPU118により実行される無線通信プログラムが格納されている。送信トラヒック制御器8は、CPU118が、その無線通信プログラムを実行することにより、本実施形態に特有な機能を実現できる。
【0047】
バスライン120には、また、通信インターフェース128が接続されている。送信トラヒック制御器8は、通信インターフェース128を介して、ネットワークとの通信を実現する。バスライン120には、更に、操作部130及び表示部132が接続されている。操作部130及び表示部132は、送信トラヒック制御器8を取り扱うためのユーザインターフェースとして機能する。
【0048】
上述の通り、送信トラヒック制御器8は、CPU118が、無線通信プログラムを実行することにより、本実施形態に特有な機能を実現できる。すなわち、送信トラヒック制御器8は、コンピュータと当該プログラムによっても実現できる。また、当該プログラムを記録媒体に記録することも、ネットワークを通して提供することも可能である。
【0049】
[本開示の実施の形態1に係る無線通信システムが実施する処理]
図7は、本開示の実施の形態1に係る無線通信システムのパケット送信処理を示すフローチャートである。これは、各チャネルにおいて達成すべき送信率の算出のため、無線通信システム100で定期的に行う処理を示している。
【0050】
まずステップ100で、衛星IoT端末2が、利用可能チャネルのリストを送付する。この情報は、前述した通り、衛星4及び地上基地局6を介して送信トラヒック制御器8へ伝達される。
【0051】
次にステップ102で、送信トラヒック制御器8が、ポリシに基づき目的関数を設定する。すなわち、送信トラヒック制御器8がポリシを確認する処理と、確認したポリシに基づき目的関数を設定する処理を実施する。目的関数の設定の詳細については図9で後述する。なお送信トラヒック制御器8は、この目的関数の設定に先立ち、無線通信システム100が有する衛星IoT端末2をグループ化する。このグループ化は、ステップ100で送付された利用可能チャネルのリストに基づいて行われる。
【0052】
次にステップ104で、送信トラヒック制御器8が、各チャネルにおいて達成すべき送信率を算出する。送信トラヒック制御器8は、予め設定したグループ毎に各チャネルにおいて達成すべき送信率を、目的関数に基づいて算出する。
【0053】
次にステップ106で、送信トラヒック制御器8が、必要な情報を衛星IoT端末2にブロードキャストする。必要な情報とは、衛星IoT端末2のグループ、グループ毎に算出された各チャネルにおいて達成すべき送信率を含む。この情報は、前述した通り、地上基地局6及び衛星4を介して衛星IoT端末2へ報知される。
【0054】
最後にステップ108で、衛星IoT端末2が、チャネル選択及び送信トラヒック制御量の制御を行う。すなわち、報知された各チャネルにおいて達成すべき送信率に基づいて、パケット送信処理を行う。
【0055】
目的関数の設定について説明する。図8は、本開示の実施の形態1に係るグループ化されたIoT端末を示す図である。ここでは、最大で10チャネルが利用可能な10台の衛星IoT端末2を、6つのグループに分ける場合の例を示している。なお、通信方式としてはCRDSA+FH方式が用いられている。
【0056】
ここで、衛星IoT端末2は、周辺の地上IoT端末が利用しているチャネルを使用しないものとする。従って、衛星IoT端末2が存在している場所及びその周辺の地上IoT端末の存在状況により、該当する衛星IoT端末2が利用可能であるチャネルは異なる。
【0057】
送信トラヒック制御器8は、衛星IoT端末2から受信した利用可能チャネルの情報に基づき、衛星IoT端末2を6つのグループに分ける。ここでは、利用可能なチャネルが同じである端末同士が、同じグループになるようにグループ化する。例えば、グループ28-1はチャネル1のみを利用可能な端末のグループである。同様に、グループ28-2、28-3、28-4及び28-5は、チャネル2、3、4及び5のみを利用可能な端末のグループである。またグループ28-6は、チャネル1から10の全てを利用可能な端末のグループである。なお、本実施例では、グループ28-1から28-5の生成トラヒック量の合計が、グループ28-6の生成トラヒック量と等しい状況を想定する。
【0058】
図8でグループ化した衛星IoT端末2について行う、目的関数の設定処理について説明する。図9は、本開示の実施の形態1に係る目的関数の設定処理を示すフローチャートである。この設定処理は、送信トラヒック制御器8で行われる。
【0059】
まずステップ110で、無線通信システムのポリシが何かを確認する。ポリシが公平性である場合はステップ112に進む。ポリシがトータルスループットである場合はステップ114に進む。ポリシが優先送信である場合はステップ116に進む。
【0060】
ステップ112では、ポリシが公平性である場合の目的関数を設定し、設定処理を終了する。ここでは、第一の目的関数が公平性の数値を最大化するための数式1、第二の目的関数がトータルスループットの数値を最大化するための数式2である。また、第一の制約条件がトラヒック送信負荷に関する数式3、第二の制約条件が送信率の偏りに関する数式4である。
【0061】
【数1】
【0062】
【数2】
【0063】
【数3】
【0064】
【数4】
【0065】
各数式について詳細を説明する。ここでは、各グループ28-iのチャネルjにおいて達成すべき送信率をpij、各グループ28-iにおける正規化した送信予定のトラヒック量、すなわち生成トラヒック量をgと定義する。送信トラヒック制御器8は、第一の目的関数として数式1を設定する。すなわち、公平性の数値が最大化するようにpijを算出する。
【0066】
なお、数式1で最大化を目的としている数式には、公平性を数値化する数式であり、アクセス制御等の公平性を示す指標として知られている「ジェインズ・フェアネス・インデックス(Jain’s fairness index)」を用いているが、公平性を示す指標であれば他の数式を使用しても良い。
【0067】
数式1を満たす、すなわち公平性の数値を最大化するpijが複数存在する場合は、第二の目的関数として数式2を設定し、公平性の数値を最大にするpijの中からスループットを最大にするpijを算出する。
【0068】
上述したpijを算出する際、2つの制約条件を設定する。第一の制約条件は数式3である。ここで数式3の右辺は、チャネルjにおける自由度f において性能低下が発生しないトラヒック送信負荷である。f は、数式5で示される。
【0069】
【数5】
【0070】
なお、f はグループ28-iにおける自由度、すなわち利用可能なスロット数と定義する。数式5に基づいて自由度f を算出した上で、後述する数式6を用いることで、数式3の右辺を導出できる。
【0071】
第二の制約条件は数式4である。dminは、自由度に影響しない送信率の偏りの最低値である。送信率の偏りは、各グループにおける、各チャネルへの最小送信率と最大送信率の比と定義する。
【0072】
minを変化させた場合のスループット特性は、図11で後述するグラフのようになる。そのため本実施例では、dmin=0.02と設定する。
【0073】
表2は、上記の処理に基づいて算出された送信率を示す。ここでは、CRDSA方式において、無線通信システム100のトラヒック発生負荷Gの合計が1及び2である場合の算出結果を示している。この場合、例えばグループ28-6は、チャネル6~10でほぼすべてのトラヒックを送信していることになる。
【0074】
【表2】
【0075】
上述の方法で算出された、グループ毎に各チャネルにおいて達成すべき送信率を用いてトラヒックの送信制御をすることで、衛星IoT端末2の送信トラヒック量がほぼ均等になるため、スループットの公平性を保つことができる。
【0076】
ステップ114では、ポリシがトータルスループットである場合の目的関数を設定し、設定処理を終了する。ここでは、第一の目的関数がトータルスループットの数値を最大化するための数式2である。また、第一の制約条件がトラヒック送信負荷に関する数式3、第二の制約条件が送信率の偏りに関する数式4である。
【0077】
上述の方法で算出された、グループ毎に各チャネルにおいて達成すべき送信率を用いてトラヒックの送信制御をすることで、トータルスループットを最大化することができる。
【0078】
ステップ116では、送信優先度が高いグループにおける送信率を設定し、ステップ118に進む。
【0079】
送信優先度が高いグループにおける送信率を予め設定する必要性について説明する。本開示の実施の形態1に係る無線通信システムは、様々なIoTサービスを収容する可能性がある。IoTサービスには要求されるQoS(Quality of Service)が存在する。例えば災害の発生状況を監視するIoTサービスには、QoSとして一定のスループットが要求される。この場合、該当するIoTサービスは他のIoTサービスと比較して送信優先度が高いため、送信率を予め設定する必要が生じる。
【0080】
ここで、グループ28-3に所属している衛星IoT端末2が、災害の発生状況を監視するIoTサービスを行っているとする。この場合、グループ28-3は他のグループと比較して送信優先度が高い。そのため、ステップ116では、グループ28-3の送信率を、災害の発生状況を監視するのに必要となるスループットに基づいて設定する。例えば、該当する送信率をP33=0.8と決定する。
【0081】
ステップ118では、ステップ116で送信率を設定したグループ以外のグループについて目的関数を設定し、設定処理を終了する。ここでは、第一の目的関数がトータルスループットの数値を最大化するための数式2である。また、第一の制約条件がトラヒック送信負荷に関する数式3、第二の制約条件が送信率の偏りに関する数式4である。すなわち、P33=0.8を第一の目的関数である数式2に入力し、第一及び第二の制約条件に基づいてその他の送信率を算出する。
【0082】
上述の方法で算出された、グループ毎に各チャネルにおいて達成すべき送信率を用いてトラヒックの送信制御をすることで、送信優先度が高いサービスに必要なスループットを担保しつつ、トータルスループットを最大化することができる。
【0083】
なおステップ118では、送信優先度が高いグループ以外のグループが達成すべき送信率について、トータルスループットが最大化するよう目的関数を設定したが、公平性の数値が最大化するよう目的関数を設定しても良い。この場合、ステップ118における第一の目的関数を数式1に設定すれば良い。これにより、送信優先度が高いサービスに必要なスループットを担保しつつ、送信優先度が高くないサービスを扱う端末の公平性を最大化することができる。
【0084】
さらにステップ118では、送信優先度が高いグループ以外のグループが達成すべき送信率について、トータルスループットを最大にするよう目的関数を設定しておく例を示したが、改めてポリシの選択から始めることとしても良い。例えば、ステップ110で確認するポリシを第一のポリシとし、第一のポリシが優先送信であった場合に、送信優先度が高いグループ以外のグループが達成すべき送信率を算出するための第二のポリシを設定できるようにしても良い。
【0085】
本実施形態では、衛星IoT端末2が周辺の地上IoT端末が利用しているチャネルを使用しないものとしたが、この限りではない。例えば、衛星IoT端末2が対応しているチャネルあるいは各国の電波法によるチャネル使用制限等によっても、衛星IoT端末2毎に利用可能なチャネルが異なる場合がある。いずれの場合でも、本実施形態により、スループットの公平性を保つ効果を得ることができる。
【0086】
図10は、自由度に対するトラヒック送信負荷の算出結果を示すグラフである。図10のプロットは、スロット数に対する最大スループットのデータを示す。これらのデータを近似することで、数式6が導出される。従って、数式5に基づいて自由度f を算出した上で数式6を用いることで、数式3の右辺を導出できる。
【0087】
【数6】
【0088】
図11は、本開示の実施の形態1に係るスループット特性を示すグラフである。図11では、dminを変化させた場合のスループット特性を示している。このグラフから分かる通り、dminが0.02であればスループットの特性劣化はほとんど発生しない。そのため前述の通り、本実施形態ではdmin=0.02と設定している。
【0089】
実施の形態2
図12は、本開示の実施の形態2に係る目的関数の設定処理を示すフローチャートである。この設定処理は、送信トラヒック制御器8で行われる。本実施形態に係る無線通信システム及びパケット送信処理は、実施の形態1と同様である。本実施形態に係る目的関数の設定処理は、スループットの公平性の数値を閾値以上に担保できる範囲でトータルスループットを最大化する点が、公平性の数値の最大化を目的としていた実施の形態1と異なる。
【0090】
まずステップ110で、無線通信システムのポリシが何かを確認する。ポリシが公平性である場合はステップ120に進む。ポリシがトータルスループットである場合はステップ114に進む。ポリシが優先送信である場合はステップ116に進む。なお、ステップ114、116及び118については実施の形態1と同様のため、説明を割愛する。
【0091】
ステップ120では、ポリシが公平性である場合の目的関数を設定し、設定処理を終了する。ここでは、第一の目的関数が公平性の数値を閾値以上に担保するための数式7、第二の目的関数がトータルスループットの数値を最大化するための数式2である。また、第一の制約条件がトラヒック送信負荷に関する数式3、第二の制約条件が送信率の偏りに関する数式4である。
【0092】
【数7】
【0093】
Tは公平性の閾値であり、例えばT=0.9と設定する。この場合、送信トラヒック制御器8は、第一の目的関数として数式7を設定し、これを最大にするpijを算出する。
【0094】
数式7を最大にするpijが複数存在する場合は、第二の目的関数として数式2に示すスループットに関する目的関数を設定し、公平性を最大にするpijの中からスループットを最大にするpijを算出する。またpijを算出する際、第一及び第二の制約条件を設定する。
【0095】
上述の方法で算出された、グループ毎に各チャネルにおいて達成すべき送信率を用いてトラヒックの送信制御をすることで、スループットの公平性の数値を閾値以上に担保できる範囲でトータルスループットを最大化することができる。
【符号の説明】
【0096】
2 衛星IoT端末
8 送信トラヒック制御器
28-1 グループ
28-2 グループ
28-3 グループ
28-4 グループ
28-5 グループ
28-6 グループ
28-i グループ
100 無線通信システム
500 無線通信システム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12