(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024017958
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法
(51)【国際特許分類】
C22B 23/00 20060101AFI20240201BHJP
C22B 3/08 20060101ALI20240201BHJP
C22B 3/22 20060101ALI20240201BHJP
C22B 3/44 20060101ALI20240201BHJP
【FI】
C22B23/00 102
C22B3/08
C22B3/22
C22B3/44 101A
C22B3/44 101B
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022120949
(22)【出願日】2022-07-28
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-05-15
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】小原 剛
(72)【発明者】
【氏名】樋口 浩隆
(72)【発明者】
【氏名】榎本 学
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA19
4K001BA02
4K001DB03
4K001DB14
4K001DB16
4K001DB23
4K001DB24
(57)【要約】
【課題】ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスにおいて、ニッケルの実収率を低下させずに中和剤の使用量を低減させること。
【解決手段】浸出工程S4と、予備中和工程S5と、予備中和工程S5を経た浸出スラリーを、固液分離工程S6と、浸出液のpHを調整して不純物元素を含む中和澱物を分離してニッケルを含む中和終液を得る中和工程S7と、硫化工程S8と、最終中和工程S9と、を含んでなり、予備中和工程S5においては、pH調整剤として、固形分中のマグネシウム含有量が3重量%以上であり、固形分中のニッケル含有量が0.7%以上である、予備中和処理用スラリーを用いる、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケル酸化鉱石スラリーに硫酸を添加して高温高圧下で浸出処理を施すことによって浸出スラリーを得る浸出工程と、
前記浸出スラリーにpH調整剤を添加して遊離硫酸を中和する予備中和工程と、
前記予備中和工程を経た前記浸出スラリーを、浸出液と浸出残渣とに分離する固液分離工程と、
前記浸出液のpHを調整して不純物元素を含む中和澱物を分離してニッケルを含む中和終液を得る中和工程と、
前記中和終液に硫化剤を添加することでニッケルを含む硫化物を生成させる硫化工程と、
前記硫化工程から排出された貧液を回収して無害化する最終中和工程と、
を含んでなる、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法であって、
前記予備中和工程においては、前記pH調整剤として、固形分中のマグネシウム含有量が3重量%以上であり、固形分中のニッケル含有量が0.7%以上である、予備中和処理用スラリーを用いる、
ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法。
【請求項2】
ハイドロサイクロン及び/又はデンシティセパレーターを利用して、水分を加えてスラリー化した前記ニッケル酸化鉱石から、粒径が45μm以下の粒子の割合が40重量%以下である粗粒部を分離回収する第1の分離工程と、前記粗粒部をスパイラルコンセントレーターによって比重分離する第2の分離工程と、を含んでなる前処理工程が、前記浸出工程に先行して行われ、
前記予備中和処理用スラリーは、
前記前処理工程において、前記スパイラルコンセントレーターの外周部から分離回収されたスラリーである、
請求項1に記載のニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法として、硫酸を用いた高温加圧酸浸出法(High Pressure Acid Leach(以下、「HPALプロセス」とも言う))が注目されている。この方法は、従来の一般的なニッケル酸化鉱石の製錬方法である乾式製錬方法とは異なり、還元及び乾燥工程等の乾式工程を含まず、一貫した湿式工程からなるプロセスであるため、エネルギー的及びコスト的に有利となる。又、ニッケル品位を50質量%程度まで向上させたニッケルを含む硫化物を得ることができるという利点も有している。
【0003】
「HPALプロセス」等のニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法においては、ニッケル酸化鉱石から金属を浸出させる浸出工程において、回収対象であるニッケルやコバルト以外にも、鉄、マグネシウム、マンガン、アルミニウム等の不純物元素も硫酸によって浸出されるため、浸出処理においては過剰の硫酸が必要であった。
【0004】
又、ニッケルやコバルトを回収する硫化工程では、ニッケルとコバルトが選択的に硫化物として回収されるが、浸出工程における浸出処理で浸出された鉄、マグネシウム、マンガン、アルミニウム等の不純物元素の大部分は硫化物を形成せず、硫化物を分離した後の貧液中に残留することとなる。この貧液を排出するためには、最終中和工程において、貧液中に残留した金属イオンを中和処理により沈殿除去する必要がある。
【0005】
特許文献1には、ニッケル酸化鉱石からニッケルを回収する高温加圧浸出に基づく湿式製錬方法において、浸出工程と固液分離工程の簡素化、中和工程での中和剤消費量及び澱物量の削減等によって、プロセス全体として簡素で且つ高効率な製錬方法を提供する技術が開示されている。しかしながら、特許文献1には、浸出工程における浸出処理に用いる硫酸の使用量の低減についての技術思想は開示されていない。又、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬において、中和剤の使用量を低減させるにあたっては、当然に、ニッケルの実収率をほとんど低下させずに行うことが求められるが、この点についても具体的な解決手段は開示されていない。
【0006】
尚、特許文献2には、浸出スラリーにpH調整剤を添加してpHを所定範囲内に調整する予備中和工程を行うことが開示されている。これにより、固液分離工程よりも下流側で行われる中和工程での中和剤の使用量をある程度低減することは可能と考えられる。しかしながら、特許文献2には、そのような予備中和工程を行う場合において、ニッケルの実収率を低下させずに中和剤の使用量を低減させることが可能となる具体的な中和剤の種類や組成等については、何ら言及されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005-350766号公報
【特許文献2】特開2020-180317号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような実情に鑑みて提案されたものであり、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスにおいて、ニッケルの実収率を低下させずに中和剤の使用量を低減させることができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスにおいて、浸出工程で得た浸出スラリーにpH調整剤を添加してpHを所定範囲内に調整する予備中和工程を行うこととし、その際に用いる中和剤として、ニッケル品位及びマグネシウム品位が所定品位以上とされている「予備中和処理用スラリー」を用いることによって、上記課題を解決することができることを見出し、本発明を完成するに至った。即ち、本発明は以下のものを提供する。
【0010】
(1) ニッケル酸化鉱石スラリーに硫酸を添加して高温高圧下で浸出処理を施すことによって浸出スラリーを得る浸出工程と、前記浸出スラリーにpH調整剤を添加して遊離硫酸を中和する予備中和工程と、前記予備中和工程を経た前記浸出スラリーを、浸出液と浸出残渣とに分離する固液分離工程と、前記浸出液のpHを調整して不純物元素を含む中和澱物を分離してニッケルを含む中和終液を得る中和工程と、前記中和終液に硫化剤を添加することでニッケルを含む硫化物を生成させる硫化工程と、前記硫化工程から排出された貧液を回収して無害化する最終中和工程と、を含んでなる、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法であって、前記予備中和工程においては、前記pH調整剤として、固形分中のマグネシウム含有量が3重量%以上であり、固形分中のニッケル含有量が0.7%以上である、予備中和処理用スラリーを用いる、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法。
【0011】
(1)の発明によれば、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスにおいて、ニッケルの実収率を低下させずに中和剤の使用量を低減させることができる。
【0012】
(2) ハイドロサイクロン及び/又はデンシティセパレーターを利用して、水分を加えてスラリー化した前記ニッケル酸化鉱石から、粒径が45μm以下の粒子の割合が40重量%以下である粗粒部を分離回収する第1の分離工程と、前記粗粒部をスパイラルコンセントレーターによって比重分離する第2の分離工程と、を含んでなる前処理工程が、前記浸出工程に先行して行われ、前記予備中和処理用スラリーは、前記前処理工程において、前記スパイラルコンセントレーターの外周部から分離回収されたスラリーである、(1)に記載のニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法。
【0013】
(2)の発明によれば、従来、原料鉱石の一部であり、微量のニッケルも含む部分でありながら、脈石成分の割合が高い部分として、浸出工程に投入されずに最終製品の生産ラインから除外されている部分を、予備中和工程で有効活用することができ、しかも、その際に、予備中和工程に適応させるための特段の追加の加工処理を要しないので、(1)の発明を、より経済的に実施することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスにおいて、ニッケルの実収率を低下させずに中和剤の使用量を低減させることができる。そして、これにより、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスの生産性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明のニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法を用いて実施することができる湿式製錬プロセスの全体工程図である。
【
図2】本発明のニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法に用いることができるスパイラルコンセントレーターの基本構成を示す模式図である。
【
図3】
図2のスパイラルコンセントレーターのスラリー流路末端部に設けられるスラリー分離柵の基本構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の「ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法」について、具体的な実施形態を詳細に説明する。尚、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更が可能である。
【0017】
<ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法>
本発明の「ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法」を用いて行うことができるニッケル酸化鉱石の製錬プロセスの全体工程としての流れは、一例として、
図1に示す通りである。この湿式製錬プロセスは、ニッケル酸化鉱石をスラリー化してニッケル酸化鉱石スラリーを得るスラリー化工程S1、スラリー化工程S1で得たニッケル酸化鉱石スラリーから、脈石成分を分離除去する前処理を行う前処理工程S2、ニッケル酸化鉱石スラリーに含まれる水分を除去して鉱石成分を濃縮する濃縮工程S3、前処理工程S2及び濃縮工程S3を経たニッケル酸化鉱石スラリーに硫酸を添加して高温高圧下で浸出処理を施すことによって浸出スラリーを得る浸出工程S4、浸出工程S4で得た浸出スラリーにpH調整剤を添加して遊離硫酸を中和する予備中和工程S5、予備中和工程S5を経た浸出スラリーを、浸出液と浸出残渣とに分離する固液分離工程S6、固液分離工程S6で得た浸出液のpHを調整して不純物元素を含む中和澱物を分離してニッケルを含む中和終液を得る中和工程S7、中和工程S7で得た中和終液に硫化剤を添加することでニッケルを含む硫化物を生成させる硫化工程S8、及び、最終中和工程S9が順次行われるプロセスである。
【0018】
本発明の「ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法」は、上記のニッケル酸化鉱石の製錬プロセスを構成する各工程(S1~S9)のうち、少なくとも、浸出工程S4、予備中和工程S5、固液分離工程S6中和工程S7、硫化工程S8、及び、最終中和工程S9を行うことを必須とする方法であって、尚且つ、予備中和工程S5において、独自の知見に基づいてマグネシウム品位とニッケル品位とを特定した「予備中和処理用スラリー」を、pH調整剤として用いるようにしたことを主たる特徴とするプロセスである。
【0019】
尚、浸出工程S4に投入する「ニッケル酸化鉱石スラリー」を製造するための上流側の工程として、通常、上記の通り、スラリー化工程S1、前処理工程S2、及び、濃縮工程S3が順次行われるが、これらの各工程は、本発明の「ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法」においては必ずしも必須の工程ではない。これらの各上流工程(S1~S3)の実施の有無、或いは、これらの各上流工程(S1~S3)の実施態様に関わらず、「ニッケル酸化鉱石スラリー」が投入される浸出工程S4以降の工程を、本願発明の要件を充足する態様で行う製錬プロセスであれば、全て、本発明の技術的範囲となる。
【0020】
[スラリー化工程]
スラリー化工程S1は、ニッケル酸化鉱石を水と混合して、流動性の高いニッケル酸化鉱石スラリーとする工程である。尚、本明細書においては、ニッケル酸化鉱石と水との混合物である鉱石スラリーのことを、「ニッケル酸化鉱石スラリー」と称するが、「ニッケル酸化鉱石スラリー」には、本発明の効果を阻害しない限りにおいて、ニッケル酸化鉱石及び水以外の成分が含有されていてもよい。
【0021】
スラリー化工程S1において原料鉱石として用いられるニッケル酸化鉱石は、ニッケルやコバルトを含有する鉱石であり、主としてリモナイト鉱及びサプロライト鉱等の所謂ラテライト鉱が用いられる。ラテライト鉱のニッケル含有量は、一般的には0.8重量%以上2.5重量%以下であり、水酸化物又はケイ苦土(ケイ酸マグネシウム)鉱物として含有される。又、鉄の含有量は、10重量%以上50重量%以下であり、主として3価の水酸化物(ゲーサイト)の形態であるが、一部2価の鉄がケイ苦土鉱物に含有される。又、このようなラテライト鉱の他に、ニッケル、コバルト、マンガン、銅等の有価金属を含有する酸化鉱石、例えば深海底に賦存するマンガン瘤等が用いられる。
【0022】
[前処理工程]
前処理工程S2は、スラリー化工程S1で得た「ニッケル酸化鉱石スラリー」から脈石成分を分離除去することによって、当該ニッケル酸化鉱石スラリーのニッケル品位を高める前処理を行う工程である。前処理工程S2において、上記の前処理をニッケル酸化鉱石スラリーに施すことによって、当該処理前のニッケル酸化鉱石スラリーから、鉄、マグネシウム、マンガン、アルミニウム等の脈石成分を分離することができる。
【0023】
前処理工程S2は、具体的には、スラリー化工程S1で得た「ニッケル酸化鉱石スラリー」を、45μm未満の粒径を有する粒子の割合が固形分中の40質量%以下である粗粒部(本明細書において、以下、単に「粗粒部」とも言う)と、細粒部とに分離する第1の分離工程と、この第1の分離工程で分離した「粗粒部」に対して更に比重分離処理を行う第2の分離工程とを、順次行う処理方法によることが好ましい。このように段階的に分離処理を行う処理方法においては、第1の分離工程で得た細粒部と、第2の分離工程において重比重部側に回収した重比重部とを、浸出工程S4に供給する。そして、第2の分離工程において、重比重部側に回収されなかった、マグネシウム等の脈石成分を多く含む部分(軽比重部)は、浸出工程S4に供給する「ニッケル酸化鉱石スラリー」からは分離除去される。
【0024】
(第1の分離工程)
ニッケル酸化鉱石の鉱石スラリーを、上述したように「粗粒部」と、「細粒部」とに分離する「第1の分離工程」は、ハイドロサイクロン、デンシティセパレーターの少なくとも1つを使用して行うことができる。
【0025】
(第2の分離工程)
第1の分離工程で分離した「粗粒部」から、ニッケルに対してマグネシウムの比率が大きく、比重の軽い脈石成分を選択的に除去する比重分離処理を更に行う「第2の分離工程」は、「スパイラルコンセントレーター」を用いて行うことができる。「スパイラルコンセントレーター」とは、
図2に示すスパイラルコンセントレーター1のように、螺旋状の傾斜滑り台であるスラリー流路11を備える分離装置である。スラリー流路11の末端近傍域であるスラリー流路末端部12には、
図3に示すようにスラリー分離柵121、122が設置されていて、これらの2つの柵により、螺旋状のスラリー流路11の内側から順に、濃縮物(Conc)流域帯123、中間物(Mids)流域帯124、テーリング(Tail)流域帯125の3つのスラリーの回収路が形成されている。尚、スラリー分離柵121、122はスラリーの流れ方向に直交する方向に沿ってその設置位置を可変的に調整することが可能な構造で設置されている。ニッケル酸化鉱石スラリーの重比重部は、第1のスラリー分離柵と第2のスラリー分離柵の内側に回収される。マグネシウム等の脈石成分を多く含むそれ以外の部分(軽比重部)は、は第2のスラリー分離柵の外側(Tail部分。以下「Tail」)に回収される。
【0026】
このようにして、スパイラルコンセントレーターによって軽比重の脈石成分を優先的に分離して除去するようにすることで、鉱石スラリー中の脈石成分、特にマグネシウムを含む粒子をより効率的に分離除去することができる。この時、スパイラルコンセントレーターの排出口のスラリー分離柵の位置によって、「Tail」に回収されるスラリー(軽比重部)のマグネシウム品位が変化する。具体的には、テーリング(Tail)流域帯125の幅が、スラリー流路の全幅に対して30%以上の幅となる位置に、と第2のスラリー分離柵122を設置することで「Tail」に回収されるスラリー(軽比重部)中のマグネシウム品位が3%以上になる。この「Tail」に回収されるスラリー(軽比重部)を、浸出工程S4に払出さないことで浸出工程S4における硫酸使用量や最終中和工程S9における中和剤の使用量を効果的に低減させることができる。
【0027】
[濃縮工程]
濃縮工程S3は、前処理工程S2を経た「ニッケル酸化鉱石スラリー」を、シックナー(沈降分離装置)等の固液分離手段によって濃縮する工程である。この工程において、「ニッケル酸化鉱石スラリー」は、固形分40質量%以上に濃縮される。これにより、浸出工程S4での鉱石処理能力を更に向上させることができる。
【0028】
[浸出工程]
浸出工程S4は、前処理工程S2及び濃縮工程S3を経た、「ニッケル酸化鉱石スラリー」に硫酸を添加し、220℃~280℃の高い温度条件下で加圧しながら鉱石スラリーを攪拌し、浸出液と浸出残渣とからなる浸出スラリーを生成させる浸出処理を行う工程である。この浸出処理は、具体的は、上記の「酸化鉱石スラリー」を、オートクレーブ等の加圧浸出反応容器に投入することによって行うことができる。
【0029】
ここで、浸出工程S4における硫酸の添加量としては、従来、一般的には、過剰量が用いられていた。ニッケル酸化鉱石には、ニッケルやコバルト以外にも、鉄、マグネシウム、マンガン、アルミニウム等の不純物も含まれ、これら不純物も硫酸により浸出されるため、ニッケルやコバルト等の回収対象の実収率を高めるために過剰量の硫酸を添加して浸出処理を行う必要がある。特にマグネシウム品位が高い鉱石が投入されると必要な硫酸量が多くなり供給が追い付かずニッケル浸出率が低下してしまう。これに対して、前処理工程S2において、浸出工程S4に供給する「ニッケル酸化鉱石スラリー」から脈石成分を十分に分離除去しておくことによって、上記の硫酸の過剰使用を抑えることができる。
【0030】
[予備中和工程]
予備中和工程S5は、浸出工程S4で得た浸出スラリーにpH調整剤を添加して遊離硫酸を中和する工程である。浸出工程S4では、通常、有価金属の浸出に必要な硫酸の化学量論量よりも過剰の硫酸をオートクレーブに導入しているので、浸出スラリーには、浸出反応に関与しなかった余剰の硫酸が残留遊離酸の形態で含まれている。そこで、従来においては、この予備中和工程S5では、pH調整剤として炭酸カルシウムスラリー等を添加することによって浸出スラリーのpHを2.5~3.4に調整していた。
【0031】
これに対して、本発明の「ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法」においては、pH調整剤として、独自の知見に基づいてマグネシウム品位とニッケル品位とを所定範囲に特定した「予備中和処理用スラリー」を、pH調整剤として用いるようにした。この「予備中和処理用スラリー」は、具体的には、固形分中のマグネシウム含有量が3重量%以上であり、固形分中のニッケル含有量が0.7%以上であればよい。例えば、このような組成に係る要件を満たすものであり、本発明の「ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法」において、「予備中和処理用スラリー」の材料として用いることできる鉱石の一例として、蛇紋石((Mg,Fe)3Si2O5(OH)4)を挙げることができる。蛇紋岩は、マグネシウムや鉄以外の金属元素も含有するものが一般に安価に入手可能であり、鉄と性質の似通ったニッケルやコバルトも含有する。ニッケルやコバルトは、後述するニッケル(及びコバルト)を含む硫化物を得る原料としても好都合である。又、蛇紋岩は、マグネシウムの含有量が大きいもの、ニッケルの含有量が大きいものが存在するが、必要に応じてその他のマグネシウム源、ニッケル源と調合して用いることもできる。調合後の予備中和処理用スラリーは固形分中のマグネシウム含有量を3重量%以上、固形分中のニッケル含有量を0.7%以上となるようにすることで、廃滓を少なく抑えながら、中和剤の節約やニッケルの回収量の増加といった利点を享受することができる。
【0032】
又、上述した実施態様で、第1の分離工程と、第2の分離工程と、を含んでなる前処理工程S2が、浸出工程S4に先行して行われる場合であれば、予備中和処理用スラリーとして、は、前処理工程S2の第2の分離工程において、スパイラルコンセントレーターの外周部から分離回収されたスラリー、即ち、「Tail」に回収されるスラリー(軽比重部)を、固形分中のマグネシウム含有量が3重量%以上であり、固形分中のニッケル含有量が0.7%以上である「予備中和処理用スラリー」として、そのまま、予備中和工程S5に投入することができる。
【0033】
ここで、前処理工程S2は、浸出工程S4に投入するニッケル酸化鉱石スラリーから、マグネシウムを含む各種の脈石成分を分離除去することを目的として行われる処理であるが、本発明者は、このように脈石成分として分離されたスラリーであっても、所定値以上のニッケルとマグネシウムを含有する物であれば、これを、予備中和工程に投入するpH調整剤として利用することで、プロセス全体での硫酸及び中和剤の使用量の削減効果が有効になることを見出した。マグネシウム品位の高いスラリーを浸出工程S4に投入しないことで、薬剤の削減が見込まれ、鉱石スラリーのニッケル浸出率は上昇する。一方で前処理工程S2の第2の分離工程において、「Tail」に回収されるスラリー(軽比重部)もニッケルを含むので、浸出工程S4に送液しない場合その分、ニッケル生産量は減ることになるが、上述の「Tail」に回収されるスラリー(軽比重部)中の酸化マグネシウムはpH調整剤(中和剤)として利用が可能で、その際にニッケルが浸出する。予備中和工程S5でのNi浸出率は浸出工程S4での浸出率よりも低いが、予備中和工程S5に、固形分中のニッケル含有量が0.7%以上であるスラリーを投入することで、前処理工程S2での脈石の分離回収に伴うニッケル生産量の減少はほとんど抑えられる。本発明による薬剤削減効果と既存鉱区におけるニッケル生産量の通常操業時とのそれぞれの差損益の合計は、pH調整剤として予備中和工程S5に投入する「予備中和処理用スラリー」のマグネシウム品位が3%以上であれば、経済的に好転することが、本発明者らの研究により明らかになっている。
【0034】
[固液分離工程]
固液分離工程S6は、予備中和工程S5を経た浸出スラリーを、多段で洗浄しながら、ニッケル及びコバルトのほか不純物元素を含む浸出液と、浸出残渣とを分離する工程である。固液分離工程S6は、例えば、浸出スラリーを洗浄液と混合した後、シックナー等の固液分離設備により固液分離処理を施すことによって行うことができる。又、洗浄液(洗浄水)としては、特に限定されないが、ニッケルを含まず、工程に影響を及ぼさないものを用いることが好ましい。例えば、洗浄液として、好ましくは、後工程の硫化工程S8で得られる貧液を繰り返して利用することができる。
【0035】
[中和工程]
中和工程S7は、固液分離工程S6にて分離された浸出液のpHを調整し、不純物元素を含む中和澱物を分離して、ニッケルやコバルトを含む中和終液を得る工程である。具体的に、中和工程S7では、分離された浸出液の酸化を抑制しながら、得られる中和終液のpHが4以下、好ましくは3.0~3.5、より好ましくは3.1~3.2になるように、その浸出液に炭酸カルシウム等の中和剤を添加して、中和終液と不純物元素として3価の鉄やアルミニウム等を含む中和澱物スラリーとを生成させる。中和工程S7では、このようにして不純物を中和澱物として除去し、ニッケル回収用の母液となる中和終液を生成させる。
【0036】
[硫化工程]
硫化工程S8は、上記のニッケル回収用の母液に硫化剤を添加して、ニッケル硫化物と貧液とに分離する工程である。硫化工程S8では、ニッケル回収用の母液である中和終液に対して、硫化水素ガス等の硫化剤を吹き込んで硫化反応を生じさせ、ニッケル(及びコバルト)を含む硫化物(以下、単に「ニッケル硫化物」ともいう)と貧液とを生成させる。
【0037】
ニッケル回収用の母液である中和終液は、浸出液から中和工程S7を経て不純物成分が低減された硫酸溶液である。尚、このニッケル回収用母液には、不純物成分として鉄、マグネシウム、マンガン等が数g/L程度含まれている可能性があるが、これら不純物成分は、硫化物としての安定性が低く(回収するニッケル及びコバルトに対して)、生成するニッケル硫化物に含有されることはない。
【0038】
硫化工程S8における硫化処理は、ニッケル回収設備にて実行される。ニッケル回収設備は、例えば、母液である中和終液に対して硫化水素ガス等を吹き込んで硫化反応を行う硫化反応槽と、硫化反応後液からニッケル硫化物を分離回収する固液分離槽とを備える。固液分離槽は、例えばシックナー等によって構成され、ニッケル硫化物を含んだ硫化反応後のスラリーに対して沈降分離処理を施すことで、沈殿物であるニッケル硫化物をシックナーの底部より分離回収する。一方で、水溶液成分はオーバーフローさせて貧液として回収する。尚、回収した貧液は、ニッケル等の有価金属濃度の極めて低い溶液であり、硫化されずに残留した鉄、マグネシウム、マンガン等の不純物元素を含む。この貧液は、後述する最終中和工程S9に移送されて無害化処理される。
【0039】
[最終中和工程]
最終中和工程S9は、硫化工程S8にて排出された鉄、マグネシウム、マンガン等の不純物元素を含む貧液に対して、排出基準を満たす所定のpH範囲に調整する中和処理(無害化処理)を施す工程である。この最終中和工程S9では、固液分離工程S6における固液分離処理から排出された浸出残渣も併せて処理することもできる。最終中和工程S9における無害化処理の方法、即ち、pHの調整方法としては、特に限定されないが、例えば炭酸カルシウム(石灰石)スラリーや水酸化カルシウム(消石灰)スラリー等の中和剤を添加することによって所定の範囲に調整することができる。
【0040】
本発明の「ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法」においては、上流側で行われる予備中和工程S5において、上述の通り、マグネシウム品位とニッケル品位とを所定範囲に特定した「予備中和処理用スラリー」を、pH調整剤として用いることにより、最終中和工程S9での用いる消石灰等の中和剤の使用量を削減することできる。
【0041】
又、浸出工程S4における浸出処理に供する鉱石スラリーに対して、上述した前処理工程S2において特定の前処理を施すことにより、その鉱石スラリーに含まれるマグネシウムやマンガン等の不純物元素を低減させることができる。これにより、貧液中に含まれるこれらの元素濃度を減少させることができ、これによっても、最終中和工程S9における中和処理に用いる中和剤使用量を低減させることができる。
【実施例0042】
以下、本発明の実施例を示してより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0043】
[実施例1]
以下に示すように、
図1に示す工程図からなるニッケル酸化鉱石の湿式製錬処理を行った。即ち、先ず、鉱石スラリーの前処理工程S2として、下記表1に示す組成を有するニッケル酸化鉱石をスラリー化して得られたニッケル酸化鉱石スラリーを、ハイドロサイクロン(ソルターサイクロン社製,SC1030-P型)へ供給して分級分離処理を施し、続いて、ハイドロサイクロンから排出されたアンダーフローを、デンシティセパレーター(シーエフエス社製,6×6型)へ供給して比重分離処理を施した。尚、これらの分離処理の工程を第1の分離工程とする。この第1の分離工程における分離処理により、デンシティセパレーターのアンダーフロー固形分中における粒径45μm未満の粒子の含有量が25質量%である鉱石スラリー(粗粒部)を得た。
【0044】
【0045】
次に、第1の分離工程を経て分離された粗粒部の鉱石スラリーを20%の固形分濃度で、排出口におけるテーリング(Tail)流域帯の幅が、スラリー流路の全幅に対して30%の幅となるように第2のスラリー分離柵(
図2、3におけるスラリー分離柵122)の位置を調整したスパイラルコンセントレーター(オートテック社製)に供給して比重分離を行い、スパイラルコンセントレーターの外周部(テーリング(Tail)流域帯)から分離回収されたスラリー(以下、「Tailスラリー」と言う)として、ニッケル品位が0.86%、マグネシウム品位が3.2%の固形分を含む鉱石スラリーを得た。尚、この分離処理の工程を第2の分離工程とする。
【0046】
上述した第1の分離工程で分離された細粒部の鉱石スラリー、及び、第2の分離工程で分離された重比重部の鉱石スラリーは、浸出工程に供給した。一方で、第2の分離工程で得た上記の「Tailスラリー」は、全て、予備中和処理用スラリーとして、予備中和工程での目標pH(約3.1)に対して必要なpH調整剤の一部として、予備中和工程に投入した。
【0047】
表2に示す通り、鉱石スラリーを供給した浸出工程における浸出処理での硫酸削減量、最終中和工程の消石灰の削減量は硫酸3.34t/Ni-t、消石灰0.20t/Ni-tとなった。既存鉱区のNi回収量は5%程度低下するものの経済的には利益が発生する。尚、表2におけるNi回収量は、既存鉱区において、「Tailスラリー」の分離回収を行わずに同様の操業を行った場合におけるNi回収量を100とした場合における、回収量の比率を示すものである。
【0048】
[実施例2]
実施例1と同様の操作を行い、第1の分離工程において、デンシティセパレーターのアンダーフロー固形分中における粒径45μm未満の粒子の含有量が30質量%である鉱石スラリー(粗粒部)を得た。
【0049】
次に、第1の分離工程を経て分離された粗粒部の鉱石スラリーを20%の固形分濃度で、排出口におけるテーリング(Tail)流域帯の幅が、スラリー流路の全幅に対して40%の幅となるように第2のスラリー分離柵(
図2、3におけるスラリー分離柵122)の位置を調整したスパイラルコンセントレーター(オートテック社製)に供給して比重分離を行い、Tailスラリーとしてニッケル品位が0.88%、マグネシウム品位が4.1%の固形分を含む鉱石スラリーを得た。尚、この分離処理の工程を第2の分離工程とする。
【0050】
上述した第1の分離工程で分離された細粒部の鉱石スラリー、及び、第2の分離工程で分離された重比重部の鉱石スラリーは、鉱石に対する浸出処理を施す浸出工程に供給した。一方で、第2の分離工程で得た上記の「Tailスラリー」は、その全てを予備中和処理用スラリーとして、予備中和工程での目標pH(約3.1)に対して必要なpH調整剤の一部とする態様で、予備中和工程に投入した。
【0051】
表2に示す通り、鉱石スラリーを供給した浸出工程における浸出処理での硫酸削減量、最終中和工程の消石灰の削減量は硫酸5.40t/Ni-t、消石灰0.45t/Ni-tとなった。既存区のNi回収量は4%程度低下するものの経済的には利益が発生する。
【0052】
[実施例3]
実施例1と同様の操作を行い、第1の分離工程において、デンシティセパレーターのアンダーフロー固形分中における粒径45μm未満の粒子の含有量が35質量%である鉱石スラリー(粗粒部)を得た。
【0053】
次に、第1の分離工程を経て分離された粗粒部の鉱石スラリーを20%の固形分濃度で、排出口におけるテーリング(Tail)流域帯の幅が、スラリー流路の全幅に対して50%の幅となるように第2のスラリー分離柵(
図2、3におけるスラリー分離柵122)の位置を調整したスパイラルコンセントレーター(オートテック社製)に供給して比重分離を行い、Tailスラリーとしてニッケル品位が0.83%、マグネシウム品位が5.2%の固形分を含む鉱石スラリーを得た。尚、この分離処理の工程を第2の分離工程とする。
【0054】
上述した第1の分離工程で分離された細粒部の鉱石スラリー、及び、第2の分離工程で分離された重比重部の鉱石スラリーは、鉱石に対する浸出処理を施す浸出工程に供給した。一方で、第2の分離工程で得た上記の「Tailスラリー」は、その全てを予備中和処理用スラリーとして、予備中和工程での目標pH(約3.1)に対して必要なpH調整剤の一部とする態様で、予備中和工程に投入した。
【0055】
表2に示す通り、鉱石スラリーを供給した浸出工程における浸出処理での硫酸削減量、最終中和工程の消石灰の削減量は硫酸8.45t/Ni-t、消石灰0.82t/Ni-tとなった。既存鉱区のNi回収量は4%程度低下するものの経済的には利益が発生する。
【0056】
[比較例1]
表1に組成を示したニッケル酸化鉱石をスラリー化し、実施例1と同様の操作を行い、第1の分離工程においてデンシティセパレーターのアンダーフロー固形分中における粒径45μm未満の粒子の含有量が25質量%である鉱石スラリー(粗粒部)を得た。
【0057】
次に、第1の分離工程を経て分離された粗粒部の鉱石スラリーを20%の固形分濃度で、テーリング(Tail)流域帯の幅が、スラリー流路の全幅に対して25%の幅となるように第2のスラリー分離柵(
図2、3におけるスラリー分離柵122)の位置を調整したスパイラルコンセントレーター(オートテック社製)に供給して比重分離を行い、Tailスラリーとしてニッケル品位が0.83%、マグネシウム品位が2.5%の固形分を含む鉱石スラリーを得た。尚、この分離処理の工程を第2の分離工程とする。
【0058】
第1の分離工程で分離された細粒部の鉱石スラリー、及び、第2の分離工程で分離された重比重部の鉱石スラリーは、鉱石に対する浸出処理を施す浸出工程に供給した。一方で、第2の分離工程で得た上記の「Tailスラリー」は、その全てを予備中和処理用スラリーとして、予備中和工程での目標pH(約3.1)に対して必要なpH調整剤の一部とする態様で、予備中和工程に投入した。
【0059】
鉱石スラリーを供給した浸出工程における浸出処理での硫酸削減量、最終中和工程の消石灰の削減量は硫酸2.26t/Ni-t、消石灰0.08t/Ni-tとなった。既存鉱区のNi回収量は5%以上低下して経済的には損失が発生する。
【0060】
このように、比較例1では、浸出工程における硫酸使用量、及び、最終中和工程におけ
る消石灰使用量は低減できるものの、通常操業時との差損益が悪化した。
【0061】
【0062】
表2に示す結果から分かるように、ニッケル実収率は、スパイラルコンセントレーターで回収されるマグネシウム品位が多くなると高くなる。同時に通常操業時よりも薬剤削減効果が大きくなり、薬剤使用量を抑えることができた。最終的にニッケル生産量は減少するものの薬剤削減との合計差損益は利益が生じる。