(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024179613
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】マーキングヘッド
(51)【国際特許分類】
C25F 3/02 20060101AFI20241219BHJP
C25F 3/14 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
C25F3/02 B
C25F3/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023098596
(22)【出願日】2023-06-15
(71)【出願人】
【識別番号】000134051
【氏名又は名称】株式会社ディスコ
(74)【代理人】
【識別番号】110001014
【氏名又は名称】弁理士法人東京アルパ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大頭 邦彦
(57)【要約】
【課題】過剰なエッチングによる不鮮明な印字や印字むらを防いで鮮明な印字を行うことができるマーキングヘッドを提供すること。
【解決手段】電解液を含浸する含浸部12と、該含浸部12を金属製の被印字物Wに配置されたステンシル2に押し付けるスタンプ部13Aと、電解液を介して含浸部12と被印字物Wに通電する電解エッチングによって被印字物Wの表面に印字するマーキングヘッド10は、収容部Sに収容されたスタンプ部13Aを昇降可能に支持するガイド部11と、該スタンプ部11を上昇方向に付勢する圧縮コイルスプリング16と、スタンプ部13Aを押し下げて含浸部12をステンシル2に押し付ける押し下げ部14を備え、スタンプ部13Aを電源3に接続し、含浸部12がステンシル2に押し付けられると含浸部12と被印字物Wに通電され、含浸部12が該ステンシル2から離間すると含浸部12と被印字物Wへの通電が遮断されるよう構成される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解液を含浸させた含浸部と、該含浸部を金属製の被印字物に配置されたステンシルに押し付けるスタンプ部と、該電解液を介して該含浸部と該被印字物に通電する電解エッチングによって該被印字物の表面に印字するマーキングヘッドであって、
下端面が開口する収容部に収容された該スタンプ部を昇降可能に支持するガイド部と、
該スタンプ部を上昇方向に付勢する付勢手段と、
該スタンプ部を該付勢手段の付勢力に抗して押し下げて該含浸部を該ステンシルに押し付ける押し下げ部と、
を備え、該スタンプ部を電源に接続し、該含浸部が該ステンシルに押し付けられると該含浸部と該被印字物に通電され、該含浸部が該ステンシルから離間し、または該スタンプ部が該含浸部から離間すると該含浸部と該被印字物への通電が遮断されるよう構成したことを特徴とするマーキングヘッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解液の電気化学反応によるエッチングによって被印字物の表面に文字や図形などを印字する電解マーキング装置に備えられるマーキングヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
製造工程及び検査工程を経て製品化される金属製品などには、品種ごとにロット番号や品番などが表面に印字された後に出荷されることが多い。このような金属製品などへの印字は、一般的には、ポンチや刻印装置などによる打刻によって行われていた。
【0003】
しかしながら、ポンチや刻印装置による打刻によって金属製品の表面に印字を行うと、金属製品の表面に打痕が生じるため、種々の不具合が発生する可能性がある。例えば、金属製品に大きな衝撃荷重が繰り返し作用した場合などには、該金属製品の表面に僅かでも打痕が生じていると、その打痕が生じている部分に応力が集中して当該金属製品が破損する可能性がある。
【0004】
そこで、電解液の電気化学反応によるエッチングによって金属製品の表面に品番などを印字する電解マーキング装置が例えば特許文献1~4などにおいて提案されている。この電解マーキング装置は、電解液を含浸した含浸部を備えるマーキングヘッドの含浸部を、金属製の被印字物の表面に配置されたステンシルに押し付け、該含浸部と被印字物に電解液を介して通電する電解エッチングによって被印字物の表面に印字する装置である。すなわち、この電解マーキング装置において、含浸部と被印字物に通電することによって、金属製品のステンシルの型抜き部分に接触している表面部分が電解液の電気化学反応によってごく僅かに腐蝕して光沢が変化するため、ステンシルの型抜きされた文字や図形が陰影として浮き上がり、肉眼でも識別することができる文字や図形が金属製品の表面に印字されることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開平06-042172号公報
【特許文献2】特開2014-202545号公報
【特許文献3】特開2002-356800号公報
【特許文献4】特開2002-167700号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、マーキングヘッドを金属製品に置いたままにしておくと、該マーキングヘッドの含浸部と金属製品との間で通電され続けるために金属製品の表面でのエッチングが進行し、金属製品の表面に印字される文字などが太くなり、エッチングがさらに進行すると文字などが潰れて読み取ることができないという問題が発生する。
【0007】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたもので、その目的は、過剰なエッチングによる不鮮明な印字や印字むらを防いで鮮明な印字を行うことができるマーキングヘッドを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための本発明は、電解液を含浸させた含浸部と、該含浸部を金属製の被印字物に配置されたステンシルに押し付けるスタンプ部と、該電解液を介して該含浸部と該被印字物に通電する電解エッチングによって該被印字物の表面に印字するマーキングヘッドであって、下端面が開口する収容部に収容された該スタンプ部を昇降可能に支持するガイド部と、該スタンプ部を上昇方向に付勢する付勢手段と、該スタンプ部を該付勢手段の付勢力に抗して押し下げて該含浸部を該ステンシルに押し付ける押し下げ部と、を備え、該スタンプ部を電源に接続し、該含浸部が該ステンシルに押し付けられると該含浸部と該被印字物に通電され、該含浸部が該ステンシルから離間し、または該スタンプ部が該含浸部から離間すると該含浸部と該被印字物への通電が遮断されるよう構成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、マーキングヘッドのスタンプ部を付勢手段の付勢力に抗して押し下げて含浸部をステンシルに所定時間だけ押し当てると、該含浸部と被印字物に通電されて被印字物の表面に電解液のエッチングによる印字がなされ、被印字物への印字がなされてスタンプ部の押し下げを止めると、該スタンプ部が付勢手段の付勢力によって上昇して含浸部またはスパンプ部がステンシルから離間するとともに、含浸部と被印字物への通電が遮断されて被印字物への印字が停止される。このため、マーキングヘッドを被印字物に置いたままにしておくことによる過剰なエッチングが防がれ、被印字物の表面に鮮明な印字がなされる。
【0010】
また、マーキングヘッドのスタンプ部の押し下げに際しては、該スタンプ部がガイド部によってガイドされながら傾くことなくスムーズに押し下げられ、該スタンプ部によって含浸部の下面全面がステンシルの表面に均一に押し当てられるため、印字むらの発生が防がれる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の第1実施形態に係るマーキングヘッドを備える電解マーキング装置の非通電時の状態を示す断面構成図である。
【
図2】本発明の第1実施形態に係るマーキングヘッドを備える電解マーキング装置の通電時の状態を示す断面構成図である。
【
図5】本発明の第1及び第2実施形態に係るマーキングヘッドの作用を示すタイミングチャートである。
【
図6】本発明の第2実施形態に係るマーキングヘッドを備える電解マーキング装置のマーキングヘッドをセットする前の状態を示す断面構成図である。
【
図7】本発明の第2実施形態に係るマーキングヘッドを備える電解マーキング装置のマーキングヘッドをセットした状態を示す断面構成図である。
【
図8】本発明の第2実施形態に係るマーキングヘッドを備える電解マーキング装置の通電時の状態を示す断面構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0013】
<第1実施形態>
[電解マーキング装置の構成]
まず、発明の第1実施形態に係るマーキングヘッドを備える電解マーキング装置の構成を
図1及び
図2に基づいて説明する。
【0014】
図1及び
図2に示す電解マーキング装置1は、金属製の被印字物Wの表面での電解液の電気化学反応によるエッチングによって該被印字物Wの表面に文字や図形などを印字する装置であって、被印字物Wの表面に載置されたプレート状のステンシル2と、電解液を含侵した含浸部12を備える本発明に係るマーキングヘッド10と、
図2に示すようにマーキングヘッド10の含浸部12がステンシル2に押し付けられた状態で該含浸部12と被印字物Wに電解液を介して通電する電源3を主要な構成要素として備えている。
【0015】
上記ステンシル2は、不透水性の樹脂シート、特殊布製シートなどによって構成されており、これには、例えば、
図3に示すような被印字物Wの表面に印字すべき文字「AIR IN」が型抜きされている。なお、
図1~
図3に示すステンシル2において、2aは「AIR IN」なる英文字が型抜きされた部分である。
【0016】
ここで、本発明に係るマーキングヘッド10の構成について説明すると、該マーキングヘッド10は、大小異径の二重円筒状(シリンダ状)のガイド部11を備えている。このガイド部11の大径の下半部11Aの内部は、下端面が開口する収容部Sを構成しており、この収容部Sには、電解液を含侵した含浸部12が昇降可能に収容されている。なお、電解液には、リン酸、硫酸、過塩素酸などの電解質を水、酢酸、アルコールなどのイオン化用液体に溶解した溶液、アルカリ溶液、シアン化カリウム溶液などが用いられる。また、含浸部12は、硬質スポンジやフェルトなどによって構成されている。
【0017】
また、ガイド部11の小径の上半部11Bの軸中心部には、円孔11aが垂直方向に貫設されており、この円孔11aには、ピストンロッド状のシャフト13が上下摺動可能に挿通している。そして、このシャフト13の下端部には、円板状のスタンプ部(ピストン部)13Aが一体に形成されており、このスタンプ部13Aの下面に含浸部12が取り付けられている。したがって、スタンプ部13Aと含浸部12は、ガイド部11の収容部Sにおいて上下に昇降可能である。
【0018】
ここで、シャフト13は、ガイド部11から上方に突出しており、その突出した上端には、フランジ状の押し下げ部14が取り付けられており、この押し下げ部14の上面には、コネクタ15が取り付けられている。そして、シャフト13のガイド部11から上方に突出する部分の外周であって、上下方向においてガイド部11と押し下げ部14との間には、付勢手段である圧縮コイルスプリング16が縮装されている。したがって、シャフト13とこれの下端のスタンプ部13Aに取り付けられた含浸部12は、圧縮コイルスプリング16によって常時上方に付勢されており、作業者が押し下げ部14を押し下げていない
図1に示す状態では、シャフト13と含浸部12は、スタンプ部13Aの上面がストッパとしてのガイド部11の段部(収容部Sの上壁)11bに当接した位置にある。この状態では、含浸部12は、ステンシル2から離間してこれの上方に位置しており、該含浸部12の下面とステンシル2の上面との間には図示の上下方向の隙間δが形成されている。
【0019】
そして、含浸部12の上面には電極17が取り付けられており、この電極17には、電源3から延びてコネクタ15から押し下げ部14とシャフト13の軸中心を通って配策された電気配線4が電気的に接続されている。また、被印字物Wの上面には電極5が取り付けられており、この電極5には、電源3から延びる電気配線6が電気的に接続されている。
【0020】
[電解マーキング装置の作用]
次に、以上のように構成された電解マーキング装置1の作用について
図5を参照しながら以下に説明する。
【0021】
被印字物Wの表面(
図1及び
図2の上面)に電解エッチングによって文字などを印字する場合には、
図1に示すように、被印字物Wの表面(上面)にステンシル2を載置し、その上にマーキングヘッド10をセットする。
図1に示す状態は、作業者がマーキングヘッド10の押し下げ部14を押し下げていない状態であって、この状態では、圧縮コイルスプリング16によって上方に付勢されている含浸部12とシャフト13は、シャフト13のスタンプ部13Aの上面がストッパとしてのガイド部11の段部11bに当接した位置にあり、含浸部12は、ステンシル2から離間している。この状態では、含浸部12とステンシル2との間には、上下方向の隙間δが形成されている。
【0022】
上述のように、含浸部12がステンシル2から離間して両者の間に上下方向の隙間δが形成されている
図1に示す状態では、含浸部12と被印字物Wとは電気的に非導通状態にあるため、電源3から含浸部12と被印字物Wに通電がなされない。つまり、
図5に示すように、含浸部12とステンシル2との間に上下方向の隙間δが形成されている時間0~時間t1の間においては、電源3から含浸部12と被印字物Wに通電がなされない通電OFF状態にある。
【0023】
而して、上記状態から、
図5に示す時間t1において作業者がマーキングヘッド10の押し下げ部14を下方へと押し下げたために、
図2に示すように、含浸部12がガイド部11の収容部S内を下降してステンシル2の上面に押し付けられると、該含浸部12とステンシル2との間の上下方向の隙間δが0(δ=0)となる。このように、含浸部12がステンシル2の上面に押し付けられると、該含浸部12が圧縮されるために該含浸部12に含侵されている電解液が染み出てステンシル2の型抜き部2aが該電解液で満たされる。このため、含浸部12と被印字物Wとが導電性の電解液を介して電気的に導通状態となり、
図5に示すように、時間t1において、電源3から含浸部12と被印字物Wに通電がなされる通電ON状態となる。このように、含浸部12がステンシル2に押し付けられてステンシル2の型抜き部2aに電解液が満たされたために、電源3から含浸部12と被印字物Wに通電されると、被印字物Wの表面のステンシル2の
図3に示す例えば「AIR IN」と型抜きされた型抜き部2aに対応する部分か電解液の電気化学反応によってエッチングされる。
【0024】
マーキングヘッド10の押し下げ部14の作業者による押し付けが
図5に示す時間t2まで所定の時間T(=t2-t1)だけ行われ、時間t2において作業者が押し下げ部14から手を離すと、含浸部12が圧縮コイルスプリング16の上方への付勢力によって上昇してステンシル2から離間し、シャフト13のスタンプ部13Aの上面が
図1に示すようにガイド部11の段部11bに当接すると含浸部12の移動が停止し、
図1に示すように、該含浸部12とステンシル2との間に上下方向の隙間δが形成される。このように、
図5に示す時間t2において含浸部12がステンシル2から離間すると、電解液を介しての含浸部12と被印字物Wとの電気的な導通が遮断されるため、
図5に示す時間t2において、電源3から含浸部12と被印字物Wへの通電が遮断され、通電OFF状態となる。
【0025】
したがって、作業者がマーキングヘッド10の押し下げ部14を
図5に示す時間t1~t2の間(時間間隔T)だけ押し付けたために含浸部12とステンシル2との上下方向の隙間δが0(δ=0)となり、同じ時間t1~t2の間(時間間隔T)だけ電源3から含浸部12と被印字物Wに通電されると(通電ON)、電解液の電気化学反応による被印字物Wの表面のエッチングによって、該被印字物Wの表面には、
図3に示すステンシル2に型抜きされた文字「AIR IN」と同じ文字「AIR IN」が
図4に示すように被印字物Wの表面に陰影として印字される。
【0026】
その後、別の被印字物Wの表面に
図1に示すようにステンシル2を載置し、該ステンシル2の上にマーキングヘッド10をセットした状態で、
図5に示す時間t3において作業者がマーキングヘッド10の押し下げ部14を再び押し下げると、前記と同様に、含浸部12が下降してステンシル2に押し付けられるため、
図2及び
図5に示すように、該含浸部12とステンシル2の上下方向の隙間δが0(δ=0)となる。この結果、ステンシル2の型抜き部2aに満たされた電解液を介して含浸部12と被印字物Wとが電気的に導通状態となるため、電源3から含浸部12と被印字物Wへの通電がなされる通電ON状態となり、被印字物Wの表面に対して所要のエッチングがなされる。
【0027】
そして、マーキングヘッド10の押し下げ部14の作業者による押し下げが
図5に示す時間t4まで所定の時間T(=t3-t2)だけ行われ、時間t4において作業者が押し下げ部14から手を離すと、含浸部12が圧縮コイルスプリング16の上方への付勢力によって上昇してステンシル2から離間し、シャフト13のスタンプ部13Aの上面が
図1に示すようにガイド部11の段部11bに当接すると含浸部12の移動が停止し、
図1に示すように、該含浸部12とステンシル2との間に上下方向の隙間δが形成される。このように、
図5に示す時間t4において含浸部12がステンシル2から離間すると、電解液を介しての含浸部12と被印字物Wとの電気的な導通が遮断されるため、
図5に示す時間t4において電源3から含浸部12と被印字物Wへの通電が遮断され、通電OFF状態となる。
【0028】
したがって、作業者がマーキングヘッド10の押し下げ部14を
図5に示す時間t3~t4の間(時間間隔T)だけ押し下げたために含浸部12とステンシル2との間の上下方向の隙間δが0(δ=0)となり、同じ時間t3~t4の間(時間間隔T)だけ電源3から含浸部12と被印字物Wに通電されると(通電ON)、電解液の電気化学反応による被印字物Wの表面のエッチングによって、被印字物Wの表面には、
図4に示すように、
図3に示すステンシル2に型抜きされた文字「AIR IN」と同じ文字「AIR IN」が陰影として印字される。以下、同様の作業が複数の被印字物Wに対して連続して行われることによってマーキングヘッド10が言わばスタンプとして作用し、各被印字物Wの表面に所要の印字が次々になされる。
【0029】
以上のように、本実施形態では、マーキングヘッド10の含浸部12を圧縮コイルスプリング16の付勢力に抗して押し下げてステンシル2に押し当てると、該含浸部12と被印字物Wに通電されて被印字物Wの表面にエッチングによる印字がなされ、被印字物Wへの印字がなされて含浸部12の押し下げを止めると、該含浸部12が圧縮コイルスプリング16の付勢力によって上昇してステンシル2から離間するとともに、含浸部12と被印字物Wへの通電が遮断されて被印字物Wへの印字が停止される。このため、マーキングヘッド10を被印字物Wに置いたままにしておくことによる過剰なエッチングが防がれ、被印字物Wの表面に鮮明な印字が安定的になされる。
【0030】
また、マーキングヘッド10の含浸部12の押し下げに際しては、該含浸部12がガイド部11によってガイドされながら傾くことなくスムーズに押し下げられ、含浸部12の下面全面がステンシル2の表面に均一に押し当てられるため、印字むらの発生が防がれるという効果も得られる。
【0031】
<第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態を
図6~
図8に基づいて以下に説明する。なお、
図6~
図8においては、
図1及び
図2において示したものと同一要素には同一符号を付しており、以下、それらについての再度の説明は省略する。
【0032】
本実施の形態に係るマーキングヘッド10Aにおいては、電解液が含浸された含浸部12がガイド部11の下端部に取り付けられている。具体的には、含浸部12は、その外周部がガイド部11の下端外周面に沿って直角上方へと折り曲げられ、その折り曲げ部が、複数のネジ18によってガイド部11の下端外周部に固定された円環状の締結部材19によってガイド部11の下端外周部に取り付けられている。この結果、含浸部12は、ガイド部11の下面開口部(収容部Sの下面開口部)を下方から覆うように該ガイド部11の下端外周部に取り付けられている。
【0033】
その他、本実施形態においては、電極17は、シャフト13のスタンプ部13Aに設けられており、この電極17が電気配線4を介して電源3に電気的に接続されている。なお、本実施形態に係るマーキングヘッド10Aの構成は、前記実施形態1に係るマーキングヘッド10のそれと同じである。
【0034】
而して、本実施形態に係るマーキングヘッド10Aを備える電解マーキング装置1において、被印字物Wの表面(
図6~
図8の上面)に電解エッチングによって文字などを印字する場合には、
図6に示すように、被印字物Wの表面(上面)にステンシル2を載置し、その上方にマーキングヘッド10Aをセットする。そして、
図7に示すように、マーキングヘッド10Aをステンシル2の上に載置する。
【0035】
ここで、
図6及び
図7に示す状態では、作業者がマーキングヘッド10Aの押し下げ部14を押し下げていない状態であって、この状態では、圧縮コイルスプリング16によって上方に付勢されているスタンプ部13Aは、該スタンプ部13Aの上面がストッパとしてのガイド部11の段部11bに当接した位置にあり、このスタンプ部13Aは、含浸部12から離間している。この状態では、スタンプ部13Aと含浸部12との間には、上下方向の隙間δが形成されている。
【0036】
上述のように、スタンプ部13Aが含浸部12から離間して両者の間に上下方向の隙間δが形成されている
図7に示す状態では、含浸部12と被印字物Wとは電気的に非導通状態にあるため、電源3から含浸部12と被印字物Wに通電がなされない。つまり、
図5に示すように、スタンプ部13Aと含浸部12との間に上下方向の隙間δが形成されている時間0~時間t1の間においては、電源3から含浸部12と被印字物Wに通電がなされない通電OFF状態にある。
【0037】
而して、上記状態から、
図5に示す時間t1において作業者がマーキングヘッド10の押し下げ部14を下方へと押し下げたために、
図8に示すように、スタンプ部13Aがガイド部11の収容部S内を下降して含浸部12をステンシル2の上面に押し付けると、該スタンプ部13Aと含浸部12との間の上下方向の隙間δが0(δ=0)となる。このように、含浸部12がステンシル2の上面に押し付けられると、該含浸部12が圧縮されるために該含浸部12に含侵されている電解液が染み出てステンシル2の型抜き部2aが該電解液で満たされる。このため、含浸部12と被印字物Wとが導電性の電解液を介して電気的に導通状態となり、
図5に示すように、時間t1において、電源3から含浸部12と被印字物Wに通電がなされる通電ON状態となる。このように、含浸部12がステンシル2に押し付けられてステンシル2の型抜き部2aに電解液が満たされたために、電源3から含浸部12と被印字物Wに通電されると、被印字物Wの表面のステンシル2の
図3に示す例えば「AIR IN」と型抜きされた型抜き部2aに対応する部分か電解液の電気化学反応によってエッチングされる。
【0038】
マーキングヘッド10Aの押し下げ部14の作業者による押し付けが
図5に示す時間t2まで所定の時間T(=t2-t1)だけ行われ、時間t2において作業者が押し下げ部14から手を離すと、スタンプ部13Aが圧縮コイルスプリング16の上方への付勢力によって上昇して
図7に示すように含浸部12から離間し、シャフト13のスタンプ部13Aの上面が
図7に示すようにガイド部11の段部11bに当接するとスタンプ部13Aの移動が停止し、該スタンプ部13Aと含浸部12との間に上下方向の隙間δが形成される。このように、
図5に示す時間t2においてスタンプ部13Aが含浸部12から離間すると、電解液を介しての含浸部12と被印字物Wとの電気的な導通が遮断されるため、
図5に示す時間t2において、電源3から含浸部12と被印字物Wへの通電が遮断され、通電OFF状態となる。
【0039】
したがって、作業者がマーキングヘッド10Aの押し下げ部14を
図5に示す時間t1~t2の間(時間間隔T)だけ押し付けたためにスタンプ部13Aと含浸部12との上下方向の隙間δが0(δ=0)となり、同じ時間t1~t2の間(時間間隔T)だけ電源3から含浸部12と被印字物Wに通電されると(通電ON)、電解液の電気化学反応による被印字物Wの表面のエッチングによって、該被印字物Wの表面には、
図3に示すステンシル2に型抜きされた文字「AIR IN」と同じ文字「AIR IN」が
図4に示すように被印字物Wの表面に陰影として印字される。
【0040】
その後、別の被印字物Wの表面に
図6に示すようにステンシル2を載置し、該ステンシル2の上に
図7に示すようにマーキングヘッド10Aをセットした状態で、
図5に示す時間t3において作業者がマーキングヘッド10Aの押し下げ部14を再び押し下げると、前記と同様に、スタンプ部13Aが下降して含浸部12がステンシル2に押し付けられるため、
図8に示すように、該スタンプ部13Aと含浸部12の上下方向の隙間δが0(δ=0)となる。この結果、ステンシル2の型抜き部2aに満たされた電解液を介して含浸部12と被印字物Wとが電気的に導通状態となるため、電源3から含浸部12と被印字物Wへの通電がなされる通電ON状態となり、被印字物Wの表面に対して所要のエッチングがなされる。
【0041】
そして、マーキングヘッド10Aの押し下げ部14の作業者による押し下げが
図5に示す時間t4まで所定の時間T(=t3-t2)だけ行われ、時間t4において作業者が押し下げ部14から手を離すと、スタンプ部13Aが圧縮コイルスプリング16の上方への付勢力によって上昇して含浸部12から離間し、シャフト13のスタンプ部13Aの上面がガイド部11の段部11bに当接すると該スタンプ部13Aの移動が停止し、
図7に示すように、該スタンプ部13Aと含浸部12との間に上下方向の隙間δが形成される。このように、
図5に示す時間t4においてスタンプ部13Aが含浸部12から離間すると、電解液を介しての含浸部12と被印字物Wとの電気的な導通が遮断されるため、
図5に示す時間t4において電源3から含浸部12と被印字物Wへの通電が遮断され、通電OFF状態となる。
【0042】
したがって、作業者がマーキングヘッド10Aの押し下げ部14を
図5に示す時間t3~t4の間(時間間隔T)だけ押し下げたためにスタンプ部13Aと含浸部12との間の上下方向の隙間δが0(δ=0)となり、同じ時間t3~t4の間(時間間隔T)だけ電源3から含浸部12と被印字物Wに通電されると(通電ON)、電解液の電気化学反応による被印字物Wの表面のエッチングによって、被印字物Wの表面には、
図4に示すように、
図3に示すステンシル2に型抜きされた文字「AIR IN」と同じ文字「AIR IN」が陰影として印字される。以下、同様の作業が複数の被印字物Wに対して連続して行われることによってマーキングヘッド10が言わばスタンプとして作用し、各被印字物Wの表面に所要の印字が次々になされる。
【0043】
以上のように、本実施形態では、マーキングヘッド10Aのスタンプ部13Aを圧縮コイルスプリング16の付勢力に抗して押し下げて含浸部12に押し当てると、該含浸部12と被印字物Wに通電されて被印字物Wの表面にエッチングによる印字がなされ、被印字物Wへの印字がなされてスタンプ部13Aの押し下げを止めると、該スタンプ部13Aが圧縮コイルスプリング16の付勢力によって上昇して含浸部12から離間するとともに、含浸部12と被印字物Wへの通電が遮断されて被印字物Wへの印字が停止される。このため、マーキングヘッド10Aを被印字物Wに置いたままにしておくことによる過剰なエッチングが防がれ、前記第1実施形態と同様に、被印字物Wの表面に鮮明な印字が安定的になされる。
【0044】
また、マーキングヘッド10Aのスタンプ部13Aの押し下げに際しては、該スタンプ部13Aがガイド部11によってガイドされながら傾くことなくスムーズに押し下げられ、含浸部12の下面全面がステンシル2の表面に均一に押し当てられるため、印字むらの発生が防がれるという前記第1実施形態と同様の効果も得られる。
【0045】
なお、以上の実施形態では、マーキングヘッド10のガイド部11を大小異径の二重円筒状のものとしたが、角筒状のもの、或いは門型のもととしてもよい。
【0046】
また、被印字物Wの上面には、文字だけでなく、図形などの任意のものを印字することができる他、表面が平面ではない被印字物Wに対しても所要の印字を行うことができる。
【0047】
その他、本発明は、以上説明した実施の形態に適用が限定されるものではなく、特許請求の範囲及び明細書と図面に記載された技術的思想の範囲内で種々の変形が可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0048】
1:電解マーキング装置、2:ステンシル、2a:ステンシルの型抜き部、3:電源、
4:電気配線、5:電極、6:電気配線、10,10A:マーキングヘッド、
11:ガイド部、11A:ガイド部の下半部、11B:ガイド部の上半部、
11a:円孔、11b:段部、12:含浸部、13:シャフト、13A:スタンプ部、
14:押し下げ部、15:コネクタ、16:圧縮コイルスプリング(付勢手段)、
17:電極、18:ネジ、19:締結部材、S:収容部、W:被印字物、
δ:含浸部とステンシル(スタンプ部と含浸部)との上下方向の隙間