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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024179632
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】有価金属の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 7/00 20060101AFI20241219BHJP
   C22B 5/02 20060101ALI20241219BHJP
   C22B 7/04 20060101ALI20241219BHJP
   H01M 10/54 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
C22B7/00 C
C22B5/02
C22B7/04 A
H01M10/54
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023098623
(22)【出願日】2023-06-15
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】前場 和也
【テーマコード(参考)】
4K001
5H031
【Fターム(参考)】
4K001AA07
4K001AA09
4K001AA19
4K001BA12
4K001BA22
4K001CA01
4K001CA02
4K001DA05
4K001GA16
4K001HA01
4K001HA09
4K001KA06
5H031RR02
(57)【要約】
【課題】廃リチウムイオン電池を含む原料から乾式製錬プロセスにより有価金属を回収して製造する方法において、スラグに含まれるようになったメタルを効率よく分離回収する技術を提供すること。
【解決手段】本発明は、廃リチウムイオン電池を含む原料からの有価金属の製造方法であって、原料を熔融炉内に装入しその原料に対して還元熔融処理を施してスラグと有価金属を含むメタルとを含む還元物を得る還元熔融工程と、還元物からスラグを分離するスラグ分離工程と、分離されたスラグを粉砕するスラグ粉砕工程と、粉砕後のスラグを所定の目開きの篩を用いて篩別する篩別工程と、を有し、篩別工程では、側面にマグネットシートが設けられた篩を用いてスラグを篩別する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃リチウムイオン電池を含む原料からの有価金属の製造方法であって、
前記原料を熔融炉内に装入し、該原料に対して還元熔融処理を施して、スラグと前記有価金属を含むメタルとを含む還元物を得る還元熔融工程と、
前記還元物からスラグを分離するスラグ分離工程と、
分離されたスラグを粉砕するスラグ粉砕工程と、
粉砕後のスラグを所定の目開きの篩を用いて篩別する篩別工程と、を有し、
前記篩別工程では、側面にマグネットシートが設けられた篩を用いてスラグを篩別する、
有価金属の製造方法。
【請求項2】
前記還元熔融工程では、前記還元熔融処理を施すことによって前記原料に誘導電流を生じさせ、前記有価金属を含むメタル粒を生成させる、
請求項1に記載の有価金属の製造方法。
【請求項3】
前記篩別工程では、生成する前記メタル粒の粒径よりも小さい目開きの篩を用いてスラグを篩別する、
請求項2に記載の有価金属の製造方法。
【請求項4】
前記マグネットシートは、ネオジウムマグネットシートである、
請求項1乃至3のいずれかに記載の有価金属の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃リチウムイオン電池からの有価金属の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、軽量で大出力の二次電池としてリチウムイオン電池が普及している。よく知られているリチウムイオン電池は、外装缶内に、負極材と、正極材と、セパレータと、電解液とを封入した構造を有している。例えば、外装缶は、アルミニウム(Al)や鉄(Fe)等の金属から構成される。また、負極材は、負極集電体(銅箔等)に固着させた負極活物質(黒鉛等)から構成され、正極材は、正極集電体(アルミニウム箔等)に固着させた正極活物質(ニッケル酸リチウム、コバルト酸リチウム等)から構成される。また、セパレータは、ポリプロピレンの多孔質樹脂フィルム等から構成され、電解液は、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)等の電解質を含んで構成される。
【0003】
リチウムイオン電池の主要な用途の一つにハイブリッド自動車や電気自動車があり、自動車のライフサイクルと共に、搭載されたリチウムイオン電池も将来大量に廃棄される見込みとなっている。また、製造中に不良品として廃棄されるリチウムイオン電池もある。このような使用済み電池や製造中に生じた不良品の電池(以下、「廃リチウムイオン電池」ともいう)を資源として再利用することが求められている。
【0004】
再利用の手法として、従来、廃リチウムイオン電池を高温炉(熔融炉)で全量熔解する乾式製錬プロセスが提案されている。具体的に、乾式製錬プロセスは、破砕した廃リチウムイオン電池を熔融処理し、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)及び銅(Cu)に代表される回収対象である有価金属と、鉄(Fe)やアルミニウム(Al)に代表される付加価値の低い金属とを、それらの間の酸素親和力の差を利用して分離回収する手法である。この手法は、付加価値の低い金属を極力酸化してスラグにする一方で、有価金属はその酸化を極力抑制し合金として回収するというものである。
【0005】
しかしながら、熔融処理により生成するスラグ中には、若干ではあるが、メタルの形態で有価金属が含まれることがある。スラグに含まれるメタルは、そのスラグから分離しなければ回収ロスとなる。したがって、乾式製錬プロセスにより廃リチウムイオン電池を熔融処理した際に得られるスラグに含まれるようになったメタルを、効率よく分離して回収し、メタルの回収率をより向上させる技術が求められている。
【0006】
例えば特許文献1には、酸化鉄含有物質及び炭材を含む塊成物を加熱して金属鉄含有焼結体を製造し、得られた金属鉄含有焼結体を粉砕し、スラグを除去して金属鉄を製造するにあたり、金属鉄とスラグに分離するときの分離性を高め、効率よく金属鉄とスラグに分離できる金属鉄の製造方法が開示されている。ところが、特許文献1には、廃リチウムイオン電池を熔融処理した際に得られるメタルとスラグからスラグを分離し、分離したスラグに若干含まれるメタル粒を回収する技術については、開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2014-214330号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような実情に鑑みて提案されたものであり、廃リチウムイオン電池を含む原料から乾式製錬プロセスにより有価金属を回収して製造する方法において、スラグに含まれるようになったメタルを効率よく分離回収する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上述した課題を解決するために鋭意検討を重ねた。その結果、廃リチウムイオン電池を含む原料を還元熔融して得られる、僅かにメタルを含むスラグを粉砕し、その後、マグネットシートが側面に設けられた所定の目開きの篩を用いて篩別処理することで、スラグに含まれていたメタルを効率よく分離回収できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
(1)本発明における第1の発明は、廃リチウムイオン電池を含む原料からの有価金属の製造方法であって、前記原料を熔融炉内に装入し、該原料に対して還元熔融処理を施して、スラグと前記有価金属を含むメタルとを含む還元物を得る還元熔融工程と、前記還元物からスラグを分離するスラグ分離工程と、分離されたスラグを粉砕するスラグ粉砕工程と、粉砕後のスラグを所定の目開きの篩を用いて篩別する篩別工程と、を有し、前記篩別工程では、側面にマグネットシートが設けられた篩を用いてスラグを篩別する、有価金属の製造方法である。
【0011】
(2)本発明における第2の発明は、第1の発明において、前記還元熔融工程では、前記還元熔融処理を施すことによって前記原料に誘導電流を生じさせ、前記有価金属を含むメタル粒を生成させる、有価金属の製造方法である。
【0012】
(3)本発明における第3の発明は、第2の発明において、前記篩別工程では、生成する前記メタル粒の粒径よりも小さい目開きの篩を用いてスラグを篩別する、有価金属の製造方法である。
【0013】
(4)本発明における第4の発明は、第1乃至第3のいずれかの発明において、前記マグネットシートは、ネオジウムマグネットシートである、有価金属の製造方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、還元熔融して生成したスラグに含まれるようになったメタルを効率よく分離して回収することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施の形態」という)について説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において種々の変更が可能である。
【0016】
本実施の形態に係る方法は、廃リチウムイオン電池を含む原料から有価金属を分離回収して製造する方法である。したがって、有価金属の回収方法とも言い換えることができる。本実施の形態に係る方法は、主として乾式製錬プロセスによる方法であるが、乾式製錬プロセスと湿式製錬プロセスとから構成されていてもよい。
【0017】
具体的に、本実施の形態に係る方法は、廃リチウムイオン電池を含む原料を熔融炉内に装入しその原料に対して還元熔融処理を施してスラグとメタルとを含む還元物を得る還元熔融工程と、得られた還元物からスラグを分離するスラグ分離工程と、分離されたスラグを粉砕するスラグ粉砕工程と、粉砕後のスラグを所定の目開きの篩を用いて篩別する篩別工程と、を有する。
【0018】
そして、この方法では、篩別工程において、側面にマグネットシートが設けられた篩を用いてスラグを篩別する、ことを特徴としている。
【0019】
ここで、有価金属は回収対象となるものであり、例えば、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)及びこれらの組み合わせからなり、銅、ニッケル、コバルト及びこれらの組み合わせからなる群から選ばれる少なくとも一種の金属又は合金である。
【0020】
[準備工程]
準備工程では、処理対象である原料を準備する。原料は、有価金属を製造する処理対象となるものであり、例えば銅、ニッケル、及びコバルトからなる群から構成される少なくとも1種の有価金属と、リチウム(Li)やアルミニウム(Al)等の不純物元素を含有する廃リチウムイオン電池を含む。なお、原料は、これらの成分を金属の形態で含んでもよく、あるいは酸化物等の化合物の形態で含んでいてもよく、また、これらの成分以外の無機成分や有機成分を含んでいてもよい。
【0021】
なお、原料としては、準備工程において粉砕等の処理を施すことで粉砕物の形態となったものでもよい。また、準備工程において、原料に対して熱処理や分別処理等を施して水分や有機物等の不要成分を除去してもよい。
【0022】
[還元熔融工程]
還元熔融工程では、廃リチウムイオン電池を含む原料を熔融炉(還元熔融炉)内に装入し、その原料を加熱して還元熔融処理を施すことによって還元物を得る。この還元物は、スラグと有価金属を含むメタルとを分離して含む。
【0023】
還元熔融処理は、熔融炉内において原料を加熱して還元熔融することにより還元物とする処理である。この処理の目的は、原料中に含まれる付加価値の低い金属(Al等)を酸化物にしてスラグとする一方で、有価金属(Cu、Ni、Co等)を還元及び熔融して一体化したメタル(合金)として回収することである。還元熔融処理後には、熔融した状態のスラグとメタルとが得られる。
【0024】
還元熔融処理においては、還元剤を導入することが好ましい。また、還元剤としては、炭素及び/又は一酸化炭素を用いることが好ましい。炭素は、回収対象である有価金属(Cu、Ni、Co等)を容易に還元する能力がある。例えば1モルの炭素で、2モルの有価金属酸化物(銅酸化物、ニッケル酸化物等)を還元することができる。また、炭素又は一酸化炭素を用いる還元手法は、金属還元剤を用いる手法(例えば、アルミニウムを用いたテルミット反応法)に比べて安全性が極めて高い。炭素としては、人工黒鉛及び/又は天然黒鉛を使用することができる。また、不純物コンタミネーションのおそれが無ければ、石炭やコークスを使用することができる。
【0025】
また、還元熔融処理においては、原料にカルシウム(Ca)を含有するフラックスを添加することができる。フラックスの添加は、上述した準備工程及び還元熔融工程のいずれか一方又は両方の工程において行うことができる。フラックスは、カルシウム(Ca)を主成分とするものであり、例えば酸化カルシウム(CaO)や炭酸カルシウム(CaCO)が挙げられる。
【0026】
また、還元熔融処理においては、加熱温度(スラグ加熱温度)を1400℃以上1600℃以下とすることが好ましい。また、スラグ加熱温度を1500℃以上1600℃以下とすることがより好ましい。スラグ加熱温度が1600℃を超えると、熱エネルギーが無駄に消費されるとともに、熔融炉を構成する坩堝や煉瓦、キャスター等の耐火物の損耗も激しくなり、生産性が低下するおそれがある。一方で、スラグ加熱温度が1400℃未満になると、生成するスラグとメタルとの分離性が悪化し、有価金属の回収率が低下する可能性がある。
【0027】
なお、還元熔融処理に先立ち酸化焙焼の処理を行ってもよく、その場合には酸化焙焼により得られる酸化焙焼物を熔融炉内に装入して還元熔融する。これにより、酸化焙焼処理により酸化した付加価値の低い金属(Al等)を酸化物のままに維持する一方で、有価金属(Cu、Ni、Co等)を還元及び熔融して一体化したメタルとして回収する。
【0028】
ここで、上述したように、還元熔融処理により生成するメタル(合金)は、有価金属を含有する。そのため、有価金属を含む成分(合金)とその他の成分(不純物成分)とを還元物中において分離することが可能となる。具体的に、還元熔融処理では、熔融炉内においてスラグとメタルとが混じり合った熔体として得られた後、比重分離によって、熔融炉内の上層にスラグが分離され、下層にメタルが分離される。比重分離の過程において、上層であるスラグ層には、還元熔融により生成するメタル粒が熔体として存在するが、そのメタル粒が下層であるメタル層に十分に沈降して移行できるように一定の滞留時間を保った後、スラグは熔融炉から抜き出される。
【0029】
熔融炉(還元熔融炉)としては、特に限定されないが、サブマージドアーク炉が好ましく用いられる。サブマージドアーク炉では、熔融炉内の熔体に誘導電流を生じさせることができるため、スラグ層内に流れが形成されて、その流れによって微細なメタルが接触する機会が増え、メタル粒を効率的に成長させることができる。成長したメタル粒は順次、スラグ層から下層のメタル層に沈降していくことになる。
【0030】
また、熔融炉として好ましくはサブマージドアーク炉を用いて誘導電流を生じさせてメタル粒を成長させることによって、スラグ中に残留したメタルも比較的大きな粒状の形態とすることができ、詳しくは後述する篩別工程での処理を経て、スラグからメタル粒をより効率よく分離回収することができる。これにより、より効果的に、メタルの回収ロスを防ぐことが可能となる。
【0031】
還元熔融処理により生成したスラグとメタルは、例えば、熔融炉に設けられたスラグホールやメタルホールから抜き出され、それぞれ回収される。回収されたメタルは、不純物成分を含むスラグを分離したものであり、有価金属を含むものである。以上のような処理を経ることで、高い回収率で廃リチウムイオン電池を含む原料から有価金属を製造回収することができる。
【0032】
さて、上述したように、還元熔融処理により生成する有価金属を含むメタル(メタル粒)は、比重差によりスラグ層を通って沈降してメタル層に移行することになるが、分離回収されたスラグ中には下層にあるメタル層まで沈降できなかったメタル粒が存在することがある。スラグ中に残留したメタルも有価金属を含むものであることから、スラグからそのメタルを分離回収しなければ、有価金属の回収ロスとなる。
【0033】
そこで、本実施の形態に係る方法では、後述するように、分離されたスラグを粉砕する工程(スラグ粉砕工程)と、粉砕後のスラグを篩により篩別する工程(篩別工程)とを設けて、スラグに含まれるメタルを有効に分離回収するようにしている。
【0034】
[スラグ粉砕工程]
本実施の形態に係る方法では、熔融炉から分離回収されたスラグを粉砕するスラグ粉砕工程を有する。スラグ粉砕工程では、例えば、スラグホールから分離回収した熔融状態のスラグを鋳型等に入れ、冷却して固化した後、粉砕処理を施す。
【0035】
粉砕方法は、特に限定されず、ジョークラッシャーやコーンクラッシャー、ボールミル等の公知の粉砕機を使用して粉砕することができる。
【0036】
スラグ粉砕工程における粉砕処理では、メタル粒を含むスラグが粉砕されることになるが、スラグ中のメタル粒はほとんど粉砕されず粒状の形態で残存し、主としてスラグが微細な状態に粉砕される。したがって、粉砕処理によって、所定の大きさのメタル粒と、微細な粒径となったスラグとを含む粉砕物が得られる。また、この粉砕処理によって、メタル粒の周囲に付着したスラグが剥離されて、表面が露出したメタル粒が得られる。
【0037】
[篩別工程]
本実施の形態に係る方法では、スラグ粉砕工程での粉砕後のスラグを篩別する篩別工程を有する。篩別工程では、粉砕後のスラグを、所定の目開き(篩目の大きさ)の篩に装入して篩別処理を行う。このような篩別処理により、篩目よりも大きな粒径のスラグは篩上物として、篩目よりも小さな粒径のスラグは篩下物として、それぞれ篩別され、篩上物についてはスラグ粉砕工程に戻して繰り返し、篩下物についてはスラグ粉として回収する。
【0038】
上述したように、スラグ粉砕工程では、スラグ中のメタル粒はほとんど粉砕されず所定の大きさの粒状の形態で残存し、主としてスラグが微細な状態に粉砕される。そのため、粉砕後のスラグ(粉砕物)は、所定の大きさのメタル粒と、微細な粒径となったスラグとで構成される。したがって、このような粉砕物に対して篩別処理を施すことで、主として、メタル粒と比較的粒径の大きなスラグとが篩上に残り、粉砕され微細となったスラグ粉が篩目を通過して篩下に移行する。
【0039】
特に、還元熔融工程において熔融炉としてサブマージドアーク炉等を使用して誘導電流を生じさせ還元熔融処理を行った場合では、生成するメタル粒は成長しやすく比較的大きな粒径のメタルとなるため、スラグに僅かに残留したメタル粒も大きなものとなる。そのため、このような篩別工程での篩別処理によって、より効率的にメタル粒を分離回収することが可能となる。
【0040】
そして、本実施の形態に係る方法では、篩別処理に用いる篩として、その側面にマグネットシートが設けられた篩を用いる。マグネットシートが設けられた篩を用いて篩別処理することで、篩別処理での篩の振動や左右方向(水平方向)への揺動に伴って、篩上物に含まれるメタル粒が篩の側面に設けられたマグネットシートに衝突する。これにより、メタル粒が磁力を有するマグネットシートに付着するようになり、効率よくメタル粒をスラグから分離して捕集することができる。
【0041】
また、本実施の形態に係る方法では、篩別工程に先立ちスラグ粉砕工程を設けて粉砕処理を行っていることから、メタル粒の周囲に付着したスラグが剥離されてメタル粒の表面を露出させることができる。表面が露出したメタル粒は、篩別処理での篩の振動等によって効果的にマグネットシートに付着するようになり、効率よくスラグと分離される。
【0042】
篩別処理に用いられる篩としては、例えばその篩の底面の形状(篩を上面視したときの形状)が四角形のものを用いることができる。四角形の形状の篩においては一般的に、篩別対象の粉状物の落下を防ぐために、四方の面が立ち上がって箱型となっている。本実施の形態に係る方法では、立ち上がり構成する側面の内側にマグネットシートを設けた篩を用いる。なお、底面が四角形の篩を用いる場合、「四角形の短辺の長さ÷篩の側面の高さ」の値が5以下である篩を用いることが好ましい。この値が5以下であることで、篩の面(篩目の面)から飛散してくるスラグ粉を漏れなくマグネットシートの面に衝突させることができ、メタル粒をより一層に効率的に分離して回収することができる。
【0043】
篩としては、底面が四角形のものに限られず、例えば円形状のものであってもよい。底面が円形状である篩でも、円周の面が立ち上がって円筒状の箱型となっており、その立ち上がりを構成する側面の内側にマグネットシートを設ける。なお、底面が円形の篩を用いる場合、「円形の短径の長さ÷篩の側面の高さ」の値が5以下である篩を用いることが好ましい。この値が5以下であることで、篩の面(篩目の面)から飛散してくるスラグ粉を漏れなくマグネットシートの面に衝突させることができ、メタル粒をより一層に効率的に分離して回収することができる。
【0044】
なお、篩において、その側面にマグネットシートを、例えば、貼り付けて設けてもよく、ボルトにより固定して設けてもよく、その設置態様は特に限定されない。
【0045】
また、篩としては、スラグに含まれるメタル粒、すなわち還元熔融処理により生成するメタル粒の粒径よりも小さい目開きの篩を用いる。これにより、スラグに含まれるメタル粒を篩別処理によって篩上に分けることができ、スラグとメタル粒とを効率的に分離することができる。具体的に、篩の目開き(篩目の大きさ)としては、2mm以下であることが好ましく、1.5mm以下であることがより好ましく、1mm以下であることが特に好ましい。還元熔融処理を経て生成したメタル粒は、比較的大きく成長したものであり、例えば100μmを超える粒径を有する。スラグに含まれることになったメタル粒においても比較的大きな粒径を有しており、篩目の大きさが2mm以下の篩で篩別処理することで、メタル粒を篩上に残存させることができ、より効率的にスラグからメタル粒を分離して回収することができる。
【0046】
なお、篩の目開きとしては、0.5mm以上であることが好ましい。篩の目開きを0.5mm以上とすることで、粉砕コストを抑えることができる。
【0047】
また、篩の側面に設けられるマグネットシートは、その磁力が強い方が好ましく、例えばネオジウムマグネットシートであることが特に好ましい。このように磁力が強いマグネットシートを用いることで、篩別処理によって篩上に存在するメタル粒をより確実にマグネットシートに付着させて捕集でき、メタルの回収率を向上させることができる。
【実施例0048】
以下に、本発明の実施例を示してより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0049】
[実施例1]
廃リチウムイオン電池200kg、フラックスとしてのCaO25kg、還元剤としてのカーボン5kgを熔融炉に装入し、還元熔融処理を行った。なお、熔融炉としては、サブマージドアーク炉を使用した。そして、熔融炉内で、還元熔融処理により生成したスラグを上層に、メタルを下層に比重分離し、その後、スラグはスラグホールから、メタルはメタルホールから抜き出してそれぞれ回収した。
【0050】
次に、回収したスラグを鋳型に入れ、冷却して固化させた後、粉砕機を使用して粉砕処理を行った。
【0051】
次に、得られた粉砕物を、目開き1mmの篩を用いて篩別処理した。篩別処理に用いた篩としては、底面が四角形のものであり、その四方の側面にネオジウムマグネットシートを設けたものを用いた。なお、篩は、縦300mm×横400mm×高さ100mm、「篩面の短辺の長さ÷篩側面の高さ」で表される値は3であった。
【0052】
このような篩別処理により、篩上物は粉砕機に繰り返すとともに、ネオジウムマグネットシートには粉砕物からメタル(メタル粒)0.25kgが付着して回収された。なお、篩下物としては、スラグ粉100kgが回収された。このように、実施例1では、スラグの粉砕物からメタル(メタル粒)0.25kgを回収することができ、スラグ粉中のメタル品位を0.05%まで下げることができた。なお、メタル粒の80%以上は+1mmであることが分かる。
【0053】
[比較例1]
比較例1では、その側面にマグネットシートが設けられていない篩を用いて篩別処理を行ったこと以外は、実施例1と同様にして処理した。
【0054】
しかしながら、比較例1では、篩別処理により篩上に残ったメタル粒は、スラグを粉砕処理する工程に繰り返されて研磨される形となり、その結果、粒径が小さくなって再度の篩別処理時に篩下へと移行したことから、スラグの粉砕物からメタルを回収することはできず、スラグ中のメタル品位を0.3%までしか下げることができなかった。