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特開2024-179722ナノ粒子、DDS用担体、経皮吸収製剤、及び化粧品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024179722
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】ナノ粒子、DDS用担体、経皮吸収製剤、及び化粧品
(51)【国際特許分類】
   C08F 22/38 20060101AFI20241219BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20241219BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20241219BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20241219BHJP
   A61K 8/19 20060101ALI20241219BHJP
   A61K 8/81 20060101ALI20241219BHJP
   A61K 9/10 20060101ALI20241219BHJP
   A61K 9/51 20060101ALI20241219BHJP
   C08F 2/44 20060101ALI20241219BHJP
   B82Y 5/00 20110101ALI20241219BHJP
【FI】
C08F22/38
A61K9/14 ZNM
A61K47/02
A61Q19/00
A61K8/19
A61K8/81
A61K9/10
A61K9/51
C08F2/44 C
B82Y5/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023098779
(22)【出願日】2023-06-15
(71)【出願人】
【識別番号】519135633
【氏名又は名称】公立大学法人大阪
(74)【代理人】
【識別番号】110002239
【氏名又は名称】弁理士法人G-chemical
(72)【発明者】
【氏名】椎木 弘
(72)【発明者】
【氏名】板垣 賢広
(72)【発明者】
【氏名】山本 陽二郎
【テーマコード(参考)】
4C076
4C083
4J011
4J100
【Fターム(参考)】
4C076AA22
4C076AA30
4C076AA65
4C076BB31
4C076DD21A
4C076EE13H
4C076FF34
4C076FF43
4C083AB211
4C083AB212
4C083AB332
4C083AD071
4C083AD072
4C083BB23
4C083BB25
4C083CC04
4C083CC05
4C083DD16
4C083DD31
4C083FF01
4J011AA05
4J011KA04
4J011PA53
4J011PB35
4J011PC02
4J011PC06
4J100AM17P
4J100AM21Q
4J100AM24R
4J100BA28Q
4J100BA29Q
4J100BC43Q
4J100CA05
4J100DA28
4J100DA39
4J100EA07
4J100EA09
4J100FA03
4J100FA20
4J100GC07
4J100GC35
4J100JA50
4J100JA53
(57)【要約】
【課題】短時間で表皮、角質層、真皮層からなる積層構造を透過可能であり、親水性成分であっても、疎水性成分であっても経皮透過させることが可能なナノ粒子を提供する。
【解決手段】本発明のナノ粒子は親水性基及び疎水性基を表面に備えるポリマー部を有し、n-オクタノール/水分配係数が1以下の少なくとも1つの溶媒に分散可能であることを特徴とする。また、前記親水性基としてアミド基を有し、前記疎水性基としてメチル基を有し、下記式(1)で表される疎水性度(R)が1.80~3.00であることが好ましい。
疎水性度(R)=前記ポリマー部を形成するポリマー中のメチル基の数/前記ポリマー部を形成するポリマー中のアミド基の数 (1)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
親水性基及び疎水性基を表面に備えるポリマー部を有し、
n-オクタノール/水分配係数が1以下の少なくとも1つの溶媒に分散可能なナノ粒子。
【請求項2】
前記親水性基としてアミド基を有し、前記疎水性基としてメチル基を有し、
下記式(1)で表される疎水性度(R)が1.80~3.00である請求項1に記載のナノ粒子。
疎水性度(R)=前記ポリマー部を形成するポリマー中のメチル基の数/前記ポリマー部を形成するポリマー中のアミド基の数 (1)
【請求項3】
前記ポリマー部を形成するポリマーが親水性基と疎水性基の両方を有する重合性モノマー由来の構造部を含む請求項1又は2に記載のナノ粒子。
【請求項4】
さらに前記ポリマー部を形成するポリマーがN-(4-(アミノイミノメチル)フェニル)-2-プロペンアミド由来の構造部を有する請求項1又は2に記載のナノ粒子。
【請求項5】
外部刺激により構造変化することができる請求項1又は2に記載のナノ粒子。
【請求項6】
基材と前記基材を覆う前記ポリマー部とを備え、
前記基材として金ナノ粒子を含む請求項1又は2に記載のナノ粒子。
【請求項7】
平均粒子径が1~500nmである請求項1又は2に記載のナノ粒子。
【請求項8】
前記親水性基に親水性成分を吸着する請求項1又は2に記載のナノ粒子。
【請求項9】
前記疎水性基に疎水性成分を吸着する請求項1又は2に記載のナノ粒子。
【請求項10】
表皮、角質層、及び真皮層を透過可能である請求項1又は2に記載のナノ粒子。
【請求項11】
請求項1又は2に記載のナノ粒子を親水性成分及び/又は疎水性成分の経皮透過に使用する経皮DDS用担体。
【請求項12】
請求項11に記載のDDS用担体を含む経皮吸収製剤。
【請求項13】
請求項11に記載のDDS用担体を含む化粧品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノ粒子、DDS用担体、経皮吸収製剤、及び化粧品に関する。
【背景技術】
【0002】
医薬品や化粧品の機能を効果的に発揮するために,体内の薬物分布を量的・空間的・時間的に制御する薬物伝達システム(DDS)が広く研究開発されている。従来検討されてきたDDSの多くはカプセル型キャリアに薬物や有効成分を内包させ注射や経口によって体内に取り入れている形態のものであった。
【0003】
近年では注射や経口ではなく、皮膚を通過させて薬物や有効成分を体内に取り入れる経皮DDSが注目を浴びている。経皮DDSは非侵襲(皮膚に塗る、貼る)であるため、注射に比べ安全かつ簡便、消化管・肝臓を通過しない等のメリットがある。
【0004】
一方で、経皮DDSでは、親水性の表皮及び真皮層、疎水性の角質層の積層構造を透過する必要があった。このような積層構造を透過可能な経皮DDSとしては、例えば特許文献1が知られていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2005/097182号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1のような従来の経皮DDSでは角質層を透過させるために、細胞と同じ分子構造を有するリン脂質を有するリポソームを形成する必要があった。
【0007】
しかしながら、このようなリポソームを使用した場合、カプセル構造を維持したまま薬物や有効成分を配合することが困難であった。また、カプセル内に親水性の成分を閉じ込めることが困難であるという問題や、皮膚浸透するのにも時間がかかってしまうため、カプセル内で内包した成分が変質してしまうという問題もあった。
【0008】
本発明は上記の課題を解決するものであり、短時間で表皮、角質層、真皮層からなる積層構造を透過可能であり、親水性成分であっても、疎水性成分であっても経皮透過させることが可能なナノ粒子を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意努力した結果、親水性基及び疎水性基を表面に備えるポリマー部を有し、特定の溶媒に分散可能なナノ粒子であれば、短時間で表皮、角質層、真皮層からなる積層構造を透過可能であり、親水性成分であっても、疎水性成分であっても経皮透過させることが可能となることを見出した。本発明はこれらの知見に基づいて完成されたものである。
【0010】
すなわち、本発明は親水性基及び疎水性基を表面に備えるポリマー部を有し、n-オクタノール/水分配係数が1以下の少なくとも1つの溶媒に分散可能なナノ粒子を提供するものである。
【0011】
上記ナノ粒子は親水性基及び疎水性基を表面に備えるポリマー部を有することで、疎水性成分であっても親水性成分であっても吸着することができる。また、n-オクタノール/水分配係数が1以下の少なくとも1つの溶媒に分散可能であることにより、親水性と疎水性のバランスが適度となり、親水性の表皮及び真皮層と疎水性の角質層を透過することが容易となる。
【0012】
上記ナノ粒子は上記親水性基としてアミド基を有し、上記疎水性基としてメチル基を有し、下記式(1)で表される疎水性度(R)が1.80~3.00であることが好ましい。Rが上記範囲内であることにより、親水性と疎水性のバランスを適度とすることができる。
疎水性度(R)=上記ポリマー部を形成するポリマー中の疎水性基(メチル基)の数/上記ポリマー部を形成するポリマー中の親水性基(アミド基)の数 (1)
【0013】
上記ナノ粒子は上記ポリマー部を形成するポリマーが親水性基と疎水性基の両方を有する重合性モノマー由来の構造部を含むことが好ましい。
【0014】
上記ナノ粒子はさらに上記ポリマー部を形成するポリマーがN-(4-(アミノイミノメチル)フェニル)-2-プロペンアミド由来の構造部を有することが好ましい。上記構成を有することで親水性成分及び/又は疎水性成分と結合することが容易となる。
【0015】
また、上記ナノ粒子は外部刺激により構造変化することができることが好ましい。上記ナノ粒子が構造変化することにより、徐放制御することが可能となる。
【0016】
また、上記ナノ粒子は基材と上記基材を覆う上記ポリマー部とを備え、上記基材として金ナノ粒子を含むことが好ましい。
【0017】
上記ナノ粒子は平均粒子径(メディアン径)が1~500nmであることが好ましい。
【0018】
上記ナノ粒子は上記親水性基に親水性成分を吸着することが好ましい。
【0019】
上記ナノ粒子は上記疎水性基に疎水性成分を吸着することが好ましい。
【0020】
上記ナノ粒子は表皮、角質層、及び真皮層を透過可能であることが好ましい。
【0021】
また、本発明は上記ナノ粒子を親水性成分及び/又は疎水性成分の経皮透過に使用する経皮DDS用担体を提供する。
【0022】
また、本発明は上記経皮DDS用担体を含む経皮吸収製剤を提供する。
【0023】
また、本発明は上記経皮DDS用担体を含む化粧品を提供する。
【発明の効果】
【0024】
本発明のナノ粒子によれば、短時間で表皮、角質層、真皮層からなる積層構造を透過可能であり、親水性成分であっても、疎水性成分であっても経皮透過させることが可能となる。したがって、本発明のナノ粒子は経皮DDS担体として経皮吸収製剤や化粧品に好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明のナノ粒子の一実施形態を示す模式図である。
図2】実施例1~4のナノ粒子を37%ホルムアルデヒド水溶液に分散させた際の吸光スペクトルを示すグラフである。
図3】実施例1~4のナノ粒子をエチレンジアミンに分散させた際の吸光スペクトルを示すグラフである。
図4】実施例1~4のナノ粒子をアセトンに分散させた際の吸光スペクトルを示すグラフである。
図5】実施例5のナノ粒子を各溶媒に分散させた際の吸光スペクトルを示すグラフである。
図6】実施例2~4で得られた、蛍光分子標識したヒアルロン酸(FLHA)を吸着したナノ粒子を豚皮に経皮吸収させた際の切片の明視野顕微鏡写真と蛍光発光の様子を示す顕微鏡写真である。
図7】実施例5で得られたFLHAを吸着したナノ粒子を豚皮に経皮吸収させた際の切片の明視野顕微鏡写真と蛍光発光の様子を示す顕微鏡写真である。
図8】実施例4で得られたFLHAを吸着したナノ粒子を豚皮に経皮吸収させた際の切片の明視野顕微鏡写真と蛍光発光の様子を示す顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
[ナノ粒子]
本発明の一実施形態として、親水性基及び疎水性基を表面に備えるポリマー部を有し、n-オクタノール/水分配係数が1以下の少なくとも1つの溶媒に分散可能なナノ粒子を挙げることができる。上記親水性基及び疎水性基を表面に備えるポリマー部を有することで、疎水性成分であっても親水性成分であっても吸着することができる。また、n-オクタノール/水分配係数が1以下の少なくとも1つの溶媒に分散可能であることにより、親水性と疎水性のバランスが適度となり、親水性の領域である表皮及び真皮層と疎水性の領域である角質層とを容易に透過することができる。上記親水性基及び上記疎水性基はそれぞれ1種のみを使用してもよいし、2種以上を使用してもよい。
【0027】
上記ナノ粒子の形状としては、球状、フレーク状、樹枝状、繊維状、多面体状や、これらを組み合わせた形状等が挙げられ、特に限定されないが、経皮透過のしやすさから球状であることが好ましい。
【0028】
上記ナノ粒子の平均粒子径は500Da以下の分子を十分量内包できる大きさとして、1~500nmであることが好ましく、より好ましくは10~100nmである。ナノ粒子の平均粒子径が500nm以下であると皮膚透過することが容易となる。また、10nm以上であると遠心分離器等の装置を必要とせず、ろ過や重力沈降等により容易に回収することができる。なお、上記ナノ粒子の平均粒子径は粒度分布計(商品名「ELSZ-2Plus」、大塚電子社製)で測定したものである。
【0029】
上記ナノ粒子はn-オクタノール/水分配係数が1以下の少なくとも1つの溶媒に分散可能であり、好ましくは0.7以下、より好ましくは0.4以下の溶媒に分散可能である。上記溶媒に分散可能であることにより、親水性と疎水性のバランスを適度とすることができ、親水性の表皮及び真皮層と疎水性の角質層との両方を透過することが容易となる。また、下限としては特に限定されないが、疎水性領域での透過性を維持するため-0.3以上の溶媒に分散可能であることが好ましい。
【0030】
上記溶媒としては、例えば、酢酸エチル、ホルムアルデヒド、エチレンジアミン、及びアセトン等が挙げられる。
【0031】
上記ナノ粒子は表皮、角質層、及び真皮層に存在する細胞膜を透過するものであってもよく、細胞膜間を透過するものであってもよい。
【0032】
上記ナノ粒子は、外部刺激により構造変化可能であることが好ましい。上記外部刺激としては、電場、温度、pH、光、化学反応等の変動が挙げられる。上記ナノ粒子の外部刺激による変動性は、ナノ粒子のポリマー部を形成するポリマーの種類に依存する。このような変動性を有するポリマーとしては公知乃至慣用の外部刺激性のポリマーを用いることができる。
【0033】
また、上記ナノ粒子は親水性基及び疎水性基を表面に備えるポリマー部を有することから、上記ポリマー部を形成するための重合性モノマーとしては、親水性基を有する重合性モノマー及び疎水性基を有する重合性モノマーの異なる重合性モノマー成分を2種以上含んでいてもよく、1つの重合性モノマー中に親水性基及び疎水性基の両方を含む重合性モノマー成分を含んでいてもよい。上記ポリマー部を形成するポリマーは親水性基を有する重合性モノマーと疎水性基を有する重合性モノマーからなるものであってもよく、親水性基と疎水性基の両方を有する重合性モノマーからなるものであってもよく、親水性基を有する重合性モノマーと、疎水性基を有する重合性モノマーと、親水性基と疎水性基の両方を有する重合性モノマーとを組み合わせてなるものであってもよい。すなわち、上記ナノ粒子は親水性基及び/又は疎水性基を有する重合性モノマーに由来する構造部を含むことが好ましい。また、上記親水性基及び疎水性基はポリマーを形成した際の側鎖に存在していてもよく、主鎖に存在していてもよい。
【0034】
また、上記重合性モノマーとしては、ラジカル重合性モノマーや酸化重合性モノマーが好ましい。ラジカル重合性モノマーが重合する際に生じるラジカルにより、又は酸化重合性モノマーが重合する際に生じる電子により、後述の重合工程において金属塩又は金属錯体に由来する金属イオンが還元されるものと推測され、金属ナノ粒子の成長がより進行しやすい。また、上記重合性モノマーのラジカルや電子を金属イオンが還元するため、ポリマーを過大に重合することを抑制することが容易となる。
【0035】
上記親水性基としては、たとえば、アニオン性基、カチオン性基、グリシジル基、加水分解性シリル基、アセトアセチル基、ヒドロキシ基、(メタ)アクリロイル基等挙げられる。上記アニオン性基としてはカルボキシ基、リン酸基、及びスルホン酸基等が挙げられる。また、上記カチオン性基としてはアミド基、アミノ基、及びイミド基等が挙げられ、中でもアミド基が好ましい。
【0036】
上記疎水性基としては、たとえば、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基、及びこれらが2以上結合した基等が挙げられる。
【0037】
上記脂肪族炭化水素基としては、例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基等が挙げられる。アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、ヘキシル基、オクチル基、イソオクチル基、デシル基、ドデシル基、ステアリル基等の直鎖又は分岐鎖状アルキル基が挙げられる。アルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、メタリル基、1-プロペニル基、イソプロペニル基、1-ブテニル基、2-ブテニル基、3-ブテニル基、1-ペンテニル基、2-ペンテニル基、3-ペンテニル基、4-ペンテニル基、5-ヘキセニル基等の直鎖状又は分岐鎖状アルケニル基が挙げられる。アルキニル基としては、例えば、エチニル基、プロピニル基等の直鎖状又は分岐鎖状アルキニル基が挙げられる。
【0038】
上記脂環式炭化水素基としては、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロドデシル基等の炭素数3~12のシクロアルキル基;シクロヘキセニル基等の炭素数3~12のシクロアルケニル基;ビシクロヘプタニル基、ビシクロヘプテニル基等の炭素数4~15の架橋環式炭化水素基等が挙げられる。
【0039】
上記芳香族炭化水素基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基等の炭素数6~14のアリル基(特に、炭素数の6~10アリル基)等が挙げられる。
【0040】
中でも、上記疎水性基としては脂肪族炭化水素基を含むことが好ましく、上記脂肪族炭化水素基として上記アルキル基を含むことがより好ましく、上記アルキル基としてメチル基を有することが特に好ましい。
【0041】
また、本発明では親水性成分及び/又は疎水性成分を吸着しつつ、角質層及び表皮、真皮層を透過するため、親水性基と疎水性基の両方を有する重合性モノマーに由来する構造部を有することが好ましい。上記親水性基と疎水性基の両方を有する重合性モノマーとしては例えば、アニリン、ピロール、アルキル(メタ)アクリルアミド、ビニルアルキルアミド、ビスアクリルアミド、N-(4-(アミノイミノメチル)フェニル)-2-プロペンアミド等が挙げられる。中でも、温度感応性及びpH感応性を有するナノ粒子を形成可能である観点から、アルキル(メタ)アクリルアミド、ビニルアルキルアミドが好ましく、アルキル(メタ)アクリルアミドが特に好ましい。アルキル(メタ)アクリルアミドは、親水性基であるアミド基と、疎水性基であるアルキル基を有するため、低温環境下ではポリマーの水への分散性に優れ、加温下では疎水性相互作用によりポリマーの収縮・凝集・ゲル化等を起こし、温度感応性等を発揮し、また、pH感応性も発揮する。このため、温度変動やpH変動により上記ポリマーは相転移可能となり、構造変化することができる。また、上記親水性成分及び/又は上記疎水性成分との吸着性を向上させる観点から、N-(4-(アミノイミノメチル)フェニル)-2-プロペンアミドを含むことが好ましい。なお、本明細書において、「(メタ)アクリル」とは、アクリル又はメタクリルをいうものとする。
【0042】
また、上記アルキル(メタ)アクリルアミドにおけるアルキル基の炭素数は、親水性基であるアミド基とのバランスを考慮し、6以下が好ましく、より好ましくは4以下である。また、上記アルキル基は、樹脂内の立体障害により樹脂の収縮・凝集等をより起こしやすい観点や、親水性成分及び/又は疎水性成分と相互作用しやすくする観点から、分岐鎖状の炭化水素基であることが好ましい。このため、上記アルキル基含有(メタ)アクリルアミドとしては、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N-t-ブチル(メタ)アクリルアミドが好ましい。上記アルキル(メタ)アクリルアミドは、一種のみであってもよいし、二種以上であってもよい。
【0043】
上記N-(4-(アミノイミノメチル)フェニル)-2-プロペンアミドを含む場合、その含有量としては、上記ポリマーを構成する重合性モノマーの全量中の10モル%以下であることが好ましく、より好ましくは5モル%以下である。また、下限値としては特に限定されないが、0モル%であってもよい。
【0044】
上記ポリマー部は、上記重合性モノマー以外に重合開始剤、架橋剤、連鎖移動剤等に由来する構造部を有していてもよい。上記架橋剤としては、多官能性化合物が挙げられ、上記重合性モノマーとして使用される上記親水性基含有モノマーの種類に応じて適宜選択される。中でも、水への分散性に優れる観点から、多官能イミド系化合物が好ましい。
【0045】
上記ポリマー部を構成するポリマーが共重合体である場合、ランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体等いずれであってもよい。
【0046】
また、上記ポリマー部を形成するポリマーの親水性基がアミド基であり、疎水性基がメチル基である場合、下記式(1)で表される疎水性度(R)が1.80~3.00であることが好ましく、より好ましくは1.90~2.90であり、さらに好ましくは2.00~2.60である。疎水性度(R)が1.80~3.00の範囲内であることにより、親水性と疎水性のバランスを適度とすることができ、疎水性である角質層、親水性である表皮、真皮層を透過することが容易となる。なお、本発明において下記式のメチル基とは疎水性基に含まれる一級炭素であるメチル基の個数を記載したものである。すなわち、上記重合性モノマーとしてN-イソプロピル(メタ)アクリルアミドを含む場合、メチル基の個数は2個と計算され、N-t-ブチル(メタ)アクリルアミドの場合、メチル基の個数は3個と計算される。
疎水性度(R)=上記ポリマー部を形成するポリマー中の疎水性基(メチル基)の数/上記ポリマー部を形成するポリマー中の親水性基(アミド基)の数 (1)
【0047】
上記ナノ粒子はさらに基材と、上記基材を覆う上記ポリマー部を備えることが好ましい。上記基材は上記ポリマーを形成するための土台として機能する。上記基材としては1種のみを使用してもよいし、2種以上を使用してもよい。
【0048】
図1は上記ナノ粒子を模式的に表したものである。ナノ粒子1は基材2と基材2を覆うポリマー部3とを備える。
【0049】
上記基材としては、特に限定されないが、例えば、合成高分子や天然高分子等の樹脂ナノ粒子、金属ナノ粒子、金属化合物ナノ粒子、セラミックナノ粒子、ガラスナノ粒子等が挙げられる。
【0050】
中でも、上記基材としては金属ナノ粒子であることが好ましく、上記金属ナノ粒子に使用される金属としては、例えば、金、銀、白金、パラジウム、銅、ニッケル、鉄、チタン、亜鉛、アルミニウム、タングステン、ジルコニア、錫、コバルト、ストロンチウム、バリウム、及びマンガン等が挙げられる。上記金属は、一種のみを使用してもよいし、二種以上を使用してもよい。特に、温度感応性である上記ポリマーを使用する場合、上記ポリマーの重合度を適度としつつ、遠赤外線等で遠隔的に加熱し、温度感応性ポリマーの構造変化を引き起こすことができ、また化学安定性の観点から生体における金属アレルギーを抑制できるため、上記金属として金を使用することが好ましい。
【0051】
なお、本明細書において、金属ナノ粒子とは、ナノメートルのオーダーのサイズを有する金属粒子をいうものとする。ナノメートルのオーダーとは1~数百ナノメートルの範囲を含み、典型的には粒径が1~100nmの範囲である。
【0052】
<ナノ粒子の製造方法>
上記ナノ粒子の製造方法は特に限定されないが、金属ナノ粒子を構成する金属の塩もしくは錯体、及び吸着する親水性成分及び/又は疎水性成分の存在下で、重合性モノマーを重合させて基材上にポリマー部を形成する重合工程を備えることが好ましい。すなわち、上記ナノ粒子の製造方法では、上記ポリマー部は、上記金属ナノ粒子を構成する金属の塩もしくは錯体の存在下で、重合性モノマーを重合させるものであることが好ましい。
【0053】
上記金属塩又は上記金属錯体が存在しない系では、重合性モノマーの重合は、モノマー成分の分散した分散液中の離れた箇所で起こる傾向にある。また、上記金属塩又は上記金属錯体の存在下で重合性モノマーを重合する場合、上記金属塩又は上記金属錯体から形成される金属ナノ粒子を核とし、上記金属ナノ粒子表面にポリマーが形成された粒子が形成される。また、上記ナノ粒子の製造方法によれば、金属塩又は金属錯体から形成される金属ナノ粒子の存在下でポリマーを重合させることで、迅速かつ簡便に作製することができる。
【0054】
上記金属塩又は上記金属錯体は、一方のみを使用してもよいし、両方を使用してもよい。また、上記金属塩又は上記金属錯体は、それぞれ、一種のみを使用してもよいし、二種以上を使用してもよい。
【0055】
上記金属塩又は上記金属錯体における金属(金属元素)は、上記金属ナノ粒子を構成する金属(金属元素)と同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0056】
また、上記金属塩としては上記例示した金属の塩が挙げられる。具体的に、銀塩としては、硝酸銀、硫酸銀、塩化銀、酸化銀、酢酸銀、亜硝酸銀、塩素酸銀、硫化銀等が挙げられる。金塩としては、塩化金酸、塩化金カリウム、塩化金ナトリウム等が挙げられる。白金塩としては、塩化白金酸、塩化白金、酸化白金、塩化白金酸カリウム等が挙げられる。パラジウム塩としては、硝酸パラジウム、酢酸パラジウム、塩化パラジウム、酸化パラジウム、硫酸パラジウム等が挙げられる。銅塩としては、硝酸銅、酢酸銅、硫酸銅、ギ酸銅、フマル酸銅、塩化銅、臭化銅等が挙げられる。鉄塩としては、酸化鉄、塩化鉄、臭化鉄、ヨウ化鉄、酢酸鉄、ステアリン酸鉄等が挙げられる。チタン塩としては、酸化チタン、硫酸チタン、硝酸チタン、塩化チタン、フッ化チタン、チタン酸リチウム等が挙げられる。アルミニウム塩としては、硝酸アルミニウム、塩化アルミニウム等が挙げられる。亜鉛塩としては、塩化亜鉛、硫酸亜鉛等が挙げられる。錫塩としては、硫酸錫、塩化第二錫等が挙げられる。タングステン塩としては、タングステン酸ナトリウム、タングステン酸カリウム、タングステン酸カルシウム、タングステン酸リチウム、タングステン酸マグネシウム、タングステン酸銀、タングステン酸セリウム、タングステン酸コバルト、タングステン酸、タングステン酸アンモニウム、タングステンカルボニル等が挙げられる。ジルコニウム塩としては、酢酸ジルコニウム、硝酸ジルコニウム、硫酸化ジルコニウム、酸化ジルコニウム等が挙げられる。
【0057】
上記金属錯体における配位子としては、例えば、NH3、RNH2、ハロゲン原子(Cl、F、Br、I、At)、カルボキシ基、カルボキシレート基(-CO-O-)、ピリジル基、H2O、CO3 2-、OH-、NO2 -、NO3 -、NO3 2-、SO3 2-、ROH、N24、PO4 3-、R2O、RO-、ROP3 2-、(RO)2PO2 -、R2S、R3P、RS-、CN-、RSH、RNC、(RS)2PO2 -、(RO)2P(O)S-、SCN-、CO、H-、N3 -、イミダゾール環、不飽和環状有機基、R-(ただし、上記「R」はいずれも、飽和又は不飽和有機基を示す)等が挙げられる。なお、上記金属塩と上記金属錯体には、いずれにも該当する化合物が存在する。
【0058】
上記重合工程における重合性モノマーの重合方法は、特に限定されないが、例えば、溶液重合方法、乳化重合方法、塊状重合方法、活性エネルギー線照射による重合方法(活性エネルギー線重合方法)等が挙げられる。
【0059】
重合性モノマーの重合に際しては、各種の一般的な溶剤が用いられてもよい。上記溶剤としては、例えば、水や、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類;酢酸エチル、酢酸n-ブチル等のエステル類;トルエン、ベンゼン等の芳香族炭化水素類;n-ヘキサン、n-ヘプタン等の脂肪族炭化水素類;シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;アセトニトリル等のニトリル等の有機溶剤が挙げられる。中でも、水であることが好ましい。上記溶剤は、一種のみを使用してもよいし、二種以上を使用してもよい。
【0060】
重合性モノマーの重合に用いられる重合開始剤、架橋剤、連鎖移動剤、乳化剤等は特に限定されず適宜選択して使用することができる。
【0061】
上記ナノ粒子を合成する際に、吸着させる親水性成分及び/又は疎水性成分の存在下で合成することが好ましい。上記親水性成分及び/又は上記疎水性成分をあらかじめ含有することで上記ナノ粒子が上記親水性成分及び/又は上記疎水性成分を吸着した状態で合成することができる。また、上記親水性成分及び/又は上記疎水性成分の性質によってはあらかじめ作製した上記ナノ粒子に後で添加することで吸着させてもよい。
【0062】
[DDS用担体]
本発明の一実施形態として上記ナノ粒子を親水性成分及び/又は疎水性成分の経皮透過に使用する経皮DDS用担体として使用することができる。上記ナノ粒子は親水性基及び疎水性基を含むため、上記親水性基に上記親水性成分を吸着することができ、上記疎水性基に上記疎水性成分を吸着することができる。また、上記ナノ粒子は上記親水性及び疎水性部分を併せ持つ両親媒性成分であっても吸着することができる。上記経皮DDS担体は上記親水性成分及び/又は上記疎水性成分を吸着したまま、表皮、角質層、真皮層の構造を透過することができる。さらに、上記ナノ粒子中のポリマー部に温度感応性、pH感応性を有する場合、透過後、吸着された上記親水性成分及び/又は上記疎水性成分を構造変化することにより徐放することができる。
【0063】
上記親水性成分としては、例えば、親水性タンパク質、親水性ペプチド、アミノ酸、核酸、多糖、水溶性ビタミン、等が挙げられる。上記親水性タンパク質及び親水性ペプチドとしては、例えば、インスリン、GLP-1、抗体タンパク質、GABA、エクセンジン-4、カルシトニン、副腎皮質刺激ホルモン、副甲状腺ホルモン(PTH)、セクレチン、アンジオテンシン、β-エンドルフィン、グルカゴン、バソプレシン、ソマトスタチン、ガストリン、黄体形成ホルモン放出ホルモン、エンケファリン、ニューロテンシン、心房性ナトリウム利尿ペプチド、成長ホルモン、成長ホルモン放出ホルモン、ブラジキニン、サブスタンスP、ダイノルフィン、甲状腺刺激ホルモン、プロラクチン、インターフェロン、インターロイキン、G-CSF、グルタチオンパーオキシダーゼ、スーパーオキシドディスムターゼ、デスモプレシン、ソマトメジン、エンドセリン、及びこれらの塩等が挙げられる。上記核酸としては、RNA、DNA等が挙げられる。上記多糖としては、ヒアルロン酸、キチン、キトサン、コンドロイチン硫酸、ヘパラン硫酸、ケラタン硫酸、デルマタン硫酸、ヒアルロン酸、グリコーゲン等が挙げられる。上記水溶性ビタミンとしてはビタミンB群、ビタミンC、及び上記ビタミンの誘導体等が挙げられる。
【0064】
上記疎水性成分としては、例えば、疎水性タンパク質、疎水性ペプチド、低分子薬物、脂溶性ビタミン、カロテノイド、キサントフィル類等が挙げられる。上記疎水性タンパク質及び疎水性ペプチドとしては例えば、コラーゲン、各種の膜たんぱく質、GnRHのアンタゴニスト等が挙げられる。上記低分子薬物としては、例えば、イブプロフェン、フルルピプロフェン、ケトプロフェン等の解熱鎮痛消炎剤、ヒドロコルチゾン、トリアムシノロン、プレドニゾロン等のステロイド系抗炎症剤、塩酸ジルチアゼム、硝酸イソソルビド等の血管拡張剤、塩酸プロカインアミド、塩酸メキシレチン等の不整脈用剤、塩酸クロニジン、塩酸ブニトロロール、カプトプリル等の血圧降下剤、塩酸テトラカイン、塩酸プロピトカイン等の局所麻酔剤等が挙げられる。上記脂溶性ビタミンとしては、ビタミンA、ビタミンD、ビタミンE群、ビタミンK及び上記ビタミンの誘導体が挙げられる。上記カロテノイドとしては、各種のカロテン、リコピン等が挙げられる。上記キサントフィル類としてはルテイン、フコキサンチン、アスタキサンチン、ゼアキサンチン等が挙げられる。
【0065】
また、上記両親媒性成分として、セラミドやプロスタグランジン、及びそれらの誘導体や、上記多糖とタンパク質の複合体であるプロテオグリカンなどが挙げられる。
【0066】
[経皮吸収製剤]
また、本発明の一実施形態として、上記経皮用DDS担体を含む経皮吸収製剤が挙げることができる。上記経皮吸収製剤の剤型としては例えば、軟膏剤、クリーム製剤、テープ製剤、パッチ製剤、パップ製剤等が含まれる。
【0067】
上記ナノ粒子を使用した経皮吸収製剤は親水性の表皮及び真皮と疎水性の角質層とを透過して上記親水性成分及び/又は上記疎水性成分を浸透させることができるため、より低用量で高い効果を発揮することができる。
【0068】
[化粧品]
また、本発明の一実施形態として、上記経皮DDS用担体を含む化粧品を挙げることができる。上記化粧品の剤型としては特に限定されないが、ローション、乳液、クリーム等の剤型が挙げられる。
【0069】
上記ナノ粒子を使用した化粧品は親水性の表皮及び真皮と疎水性の角質層とを透過して上記親水性成分及び/又は上記疎水性成分を浸透させることができるため、より低用量で高い効果を発揮することができる。
【実施例0070】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例にのみ限定されるものではない。
【0071】
実施例1
超純水50mLに、重合性モノマーとして、N-イソプロピルアクリルアミド19.5mg、N-t-ブチルアクリルアミド/エタノール溶液(16.5mg/mL、1mL)、N-(4-(アミノイミノメチル)フェニル)-2-プロペンアミド0.366mg、及びN,N’-メチレンビスアクリルアミド1.0mgを加えた。さらに、界面活性剤としてドデシル硫酸ナトリウム10mgと塩化金酸(1質量%、300μL)を加え、次いでフルオレセイン染色ヒアルロン酸(FLHA)0.10mgを添加し混合液を作製した。バキュームポンプで減圧しつつ超音波処理を10分間施し、続いて30分間の窒素バブリングを行い、上記混合液を脱気した。次に、脱気した上記混合液に、開始剤としてのペルオキソ二硫酸アンモニウム水溶液(30mg/500μL)とN,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン15μLを加え、25℃にて約18時間撹拌した。その後、溶液を透析バックに入れ、45℃の超純水中で透析した。透析は4日間行い、1日に2回超純水を交換し、実施例1に記載のナノ粒子を作製した。なお、実施例1のポリマーのアミド基の数は102個であり、ナノ粒子の平均粒子径は100nmであった。
【0072】
実施例2~4
N-イソプロピルアクリルアミドとN-t-ブチルアクリルアミドの配合比率を表1に記載の割合とした以外は実施例1と同様の方法で実施例2~4のナノ粒子を調製した。なお、実施例2~4のポリマーのアミド基の数はいずれも102個であり、ナノ粒子の平均粒子径は100nmであった。
【0073】
【表1】
【0074】
実施例5
超純水50mLに重合性モノマーとして、p-アミノジフェニルアミン/エタノール溶液(0.10M、1.0mL)と塩化金酸(1質量%、152μL)を加え、80℃で30分撹拌した。その後、5℃、8500rpmの条件下で30分間遠心分離して上清を除去し、新たに超純水50mLを加え、再分散させた。同様の洗浄操作を2回行った。次いでフルオレセイン染色ヒアルロン酸(FLHA)10μgを添加し、実施例5に記載のナノ粒子を作製した。なお、実施例5のナノ粒子の平均粒子径は100nmであった。
【0075】
[評価]
実施例で作製したナノ粒子に関して、以下の評価を実施した。なお、比較例としてはフルオレセイン染色ヒアルロン酸(FLHA)単体を使用した。
【0076】
(1)溶媒分散性
実施例1~4で作製したナノ粒子60μgに関して、n-オクタノール/水分配係数が2.69であるトルエン1mLを加えた場合及びn-オクタノール/水分配係数が2.13であるベンゼン1mLを加えた場合には混合液中のナノ粒子を分散することができなかった。
【0077】
また、実施例1~4で作製したナノ粒子60μgに関して、n-オクタノール/水分配係数が0.35である37%ホルムアルデヒド水溶液1mLを調製し、混合して分散させた。278~333Kの各温度に調整した後、分光光度計(商品名「V750」、JASCO社製)を用いて波長400~800nmの吸光度を測定し、その結果を図2に示した。
【0078】
37%ホルムアルデヒド水溶液中で分散させた場合、トルエンやベンゼン中で分散させた場合と比較して、ナノ粒子が分散することを確認した。また、図2に示す通り、比較的疎水性度の低い実施例1(R=2.02)の場合、ナノ粒子中の金ナノ粒子に由来する500~600nmの間のピークが確認され、より分散することが確認された。
【0079】
また、溶媒をn-オクタノール/水分配係数が0.05であるエチレンジアミン、n-オクタノール/水分配係数が-0.24であるアセトンに変更し、288~313Kの各温度に調整したこと以外は同様の条件で試験を実施し、その結果を図3図4に示した。
【0080】
図3及び図4に示す通り、実施例1~4の各ナノ粒子で288~313Kのいずれの温度であっても、500~600nm付近のピークが確認され、温度依存性やナノ粒子の疎水性の度合いに関係なく分散することが確認され、上記ナノ粒子は親水性の環境であっても疎水性の環境であっても分散性を発揮することが確認された。
【0081】
また、実施例5で作製したナノ粒子60μgに関して、実施例1~4と同様の溶媒を加え、同様の方法で分散性の試験を実施し、その結果を図5に示した。なお、温度は298Kで実施した。
【0082】
実施例5のナノ粒子ではn-オクタノール/水分配係数が2.69であるトルエン及びn-オクタノール/水分配係数が2.13であるベンゼンには分散しないことが確認された。また、図5に示す通り、実施例5のナノ粒子ではn-オクタノール/水分配係数が0.35である37%ホルムアルデヒド水溶液、n-オクタノール/水分配係数が0.05であるエチレンジアミン、n-オクタノール/水分配係数が-0.24であるアセトン、及び純水に分散させた場合、ナノ粒子中の金ナノ粒子に由来する500~600nmの間のピークが確認され、分散することが確認され、実施例5のナノ粒子も親水性の環境であっても疎水性の環境であっても分散性を発揮することが確認された。
【0083】
(2)皮膚透過性
実施例2~4で作製したナノ粒子60μgを、フルオレセイン染色ヒアルロン酸(FLHA)0.010mgを溶解させた水溶液に分散させ、25℃で2時間静置し、分散液を作製した。上記分散液を1cm×1cmの大きさに切りそろえた豚皮の表皮側に50μL滴下し、32℃、18時間の条件で静置した後、厚さ12μmの切片を作製し、蛍光顕微鏡(商品名「Ni-U」、Nikon社製)を用いて明視野(500ms)及び蛍光(5s)条件で切片を撮影し、図6に示す画像を得た。
【0084】
図6に示す通り、FLHA単体では角質層を透過しないのに対して(比較例1)、実施例2~4のナノ粒子を使用した際は、表皮及び角質層を透過し、真皮層にFLHAが拡散していることが確認された。
【0085】
実施例5で作製したナノ粒子に関して、1cm×1cmの大きさに切りそろえた豚皮の表皮側に50μL滴下し、25℃、1時間の条件で静置した後、厚さ12μmの切片を作製し、蛍光顕微鏡(「Ni-U」、Nikon社製)を用いて明視野(500ms)及び蛍光(5s)条件で切片を撮影し、図7に示す画像を得た。
【0086】
図7に示す通り、FLHA単体では角質層を透過しないのに対して(比較例1)、ポリアニリンを含む実施例5のナノ粒子を使用した際は、表皮及び角質層を透過し、真皮層にFLHAが拡散していることが確認された。
【0087】
また、実施例4で作製したナノ粒子に関して、1cm×1cmの大きさに切りそろえた豚皮の表皮側に50μL滴下し、32℃、2時間及び18時間の条件で静置した後、厚さ厚さ12μmの切片を作製し、蛍光顕微鏡(「Ni-U」、Nikon社製)を用いて明視野(500ms)及び蛍光(5s)条件で切片を撮影し、図8に示す画像を得た。
【0088】
図8に示す通り、実施例4のナノ粒子はFLHAが角質層を透過した真皮層に局在しており、2時間で表皮及び角質層を透過し、真皮層にFLHAが拡散していることが確認された。
【0089】
以上から、n-オクタノール/水分配係数が1以下であり、疎水性でも分散可能である実施例1~4のナノ粒子で表皮、角質層、真皮層の積層構造を透過することが確認され、2時間という短時間で経皮透過することが確認された。さらに、ポリアニリンを使用した実施例5でも同様に1時間という短時間で表皮、角質層、真皮層の積層構造を透過することが確認された。一方で、FLHA単体では表皮、角質層、真皮層の積層構造を透過することができなかった(比較例1)。
【0090】
以下に本発明のバリエーションを記載する。
[付記1]
親水性基及び疎水性基を表面に備えるポリマー部を有し、
n-オクタノール/水分配係数が1以下の少なくとも1つの溶媒に分散可能なナノ粒子。
[付記2]
前記親水性基としてアミド基を有し、前記疎水性基としてメチル基を有し、
下記式(1)で表される疎水性度(R)が1.80~3.00である付記1に記載のナノ粒子。
疎水性度(R)=前記ポリマー部を形成するポリマー中のメチル基の数/前記ポリマー部を形成するポリマー中のアミド基の数 (1)
[付記3]
前記ポリマー部を形成するポリマーが親水性基と疎水性基の両方を有する重合性モノマー由来の構造部を含む付記1又は2に記載のナノ粒子。
[付記4]
さらに前記ポリマー部を形成するポリマーがN-(4-(アミノイミノメチル)フェニル)-2-プロペンアミド由来の構造部を有する付記1~3のいずれか1つに記載のナノ粒子。
[付記5]
外部刺激により構造変化することができる付記1~4のいずれか1つに記載のナノ粒子。
[付記6]
基材と前記基材を覆う前記ポリマー部とを備え、
前記基材として金ナノ粒子を含む付記1~5のいずれか1つに記載のナノ粒子。
[付記7]
平均粒子径が1~500nmである付記1~6のいずれか1つに記載のナノ粒子。
[付記8]
前記親水性基に親水性成分を吸着する付記1~7のいずれか1つに記載のナノ粒子。
[付記9]
前記疎水性基に疎水性成分を吸着する付記1~8のいずれか1つに記載のナノ粒子。
[付記10]
表皮、角質層、及び真皮層を透過可能である付記1~9のいずれか1つに記載のナノ粒子。
[付記11]
付記1~10のいずれか1つに記載のナノ粒子を親水性成分及び/又は疎水性成分の経皮透過に使用する経皮DDS用担体。
[付記12]
付記11に記載のDDS用担体を含む経皮吸収製剤。
[付記13]
付記11に記載のDDS用担体を含む化粧品。
【符号の説明】
【0091】
1 ナノ粒子
2 基材
3 ポリマー部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8