(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024179757
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】研削砥石
(51)【国際特許分類】
B24D 7/14 20060101AFI20241219BHJP
B24D 7/06 20060101ALI20241219BHJP
B24D 7/00 20060101ALI20241219BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
B24D7/14
B24D7/06
B24D7/00 P
H01L21/304 621C
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023098877
(22)【出願日】2023-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】000134051
【氏名又は名称】株式会社ディスコ
(74)【代理人】
【識別番号】100075384
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 昂
(74)【代理人】
【識別番号】100172281
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100206553
【弁理士】
【氏名又は名称】笠原 崇廣
(74)【代理人】
【識別番号】100189773
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 英哲
(74)【代理人】
【識別番号】100184055
【弁理士】
【氏名又は名称】岡野 貴之
(74)【代理人】
【識別番号】100185959
【弁理士】
【氏名又は名称】今藤 敏和
(72)【発明者】
【氏名】寺本 政由志
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 良一
【テーマコード(参考)】
3C063
5F057
【Fターム(参考)】
3C063AA02
3C063AB05
3C063BA05
3C063BA24
3C063BA26
3C063BA33
3C063BA35
3C063BG10
3C063EE10
3C063FF30
5F057AA05
5F057AA21
5F057BA15
5F057BB06
5F057BB07
5F057BB08
5F057BB09
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5F057BC06
5F057BC10
5F057CA14
5F057DA11
5F057EB17
5F057EB19
5F057EB20
5F057FA13
(57)【要約】
【課題】加工不良の発生を抑制することが可能な研削砥石を提供する。
【解決手段】被加工物を研削面で研削する研削砥石であって、研削面で露出する第1砥石部と、研削面で露出し第1砥石部よりも破壊靱性が低い第2砥石部と、を備え、研削面における第2砥石部の面積は、研削面の面積の65%以上85%以下である。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工物を研削面で研削する研削砥石であって、
該研削面で露出する第1砥石部と、該研削面で露出し該第1砥石部よりも破壊靱性が低い第2砥石部と、を備え、
該研削面における該第2砥石部の面積は、該研削面の面積の65%以上85%以下であることを特徴とする研削砥石。
【請求項2】
該第1砥石部は、第1砥粒を含み、
該第2砥石部は、第2砥粒を含み、
該第2砥粒の平均粒径は、該第1砥粒の平均粒径よりも小さいことを特徴とする請求項1に記載の研削砥石。
【請求項3】
該第1砥石部は、第1砥粒を含み、
該第2砥石部は、第2砥粒を含み、
該第2砥粒の集中度は、該第1砥粒の集中度よりも低いことを特徴とする請求項1に記載の研削砥石。
【請求項4】
該第1砥石部は砥粒を含み、
該第2砥石部は砥粒を含まないことを特徴とする請求項1に記載の研削砥石。
【請求項5】
被加工物を研削する研削面を備える研削砥石であって、
該研削面で露出する砥石部と、該研削面で露出する凹部と、を備え、
該研削面における該凹部の面積は、該研削面の面積の65%以上85%以下であることを特徴とする研削砥石。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被加工物を研削する研削砥石に関する。
【背景技術】
【0002】
複数のデバイスが形成されたウェーハを分割して個片化することにより、デバイスを備えるデバイスチップが製造される。また、所定の基板上に複数のデバイスチップを実装し、デバイスチップを樹脂層(モールド樹脂)で被覆して封止することにより、パッケージ基板が形成される。このパッケージ基板を分割して個片化することにより、パッケージ化された複数のデバイスチップを備えるパッケージデバイスが製造される。デバイスチップやパッケージデバイスは、携帯電話、パーソナルコンピュータ等の様々な電子機器に組み込まれる。
【0003】
近年では、電子機器の小型化に伴い、デバイスチップやパッケージデバイスの薄型化が求められている。そこで、分割前のウェーハやパッケージ基板を研削装置で研削して薄化する処理が実施されることがある。研削装置は、被加工物を保持するチャックテーブルと、被加工物に研削加工を施す研削ユニットとを備える。研削ユニットはスピンドルを備えており、スピンドルの先端部には複数の研削砥石を有する環状の研削ホイールが装着される。被加工物をチャックテーブルで保持し、チャックテーブル及び研削ホイールを回転させつつ研削砥石の研削面を被加工物に接触させることにより、被加工物が研削される(特許文献1参照)。
【0004】
研削砥石で被加工物を研削すると、研削によって発生した屑(研削屑)が被加工物と研削砥石との間に入り込み、研削砥石による被加工物の研削が阻害されることがある。そこで、研削加工中は、被加工物及び研削砥石に純水等の液体(研削液)が供給され、研削液によって研削屑が洗い流される。また、研削砥石による被加工物の研削を継続すると、研削砥石が摩耗し、研削砥石の研削面側にチップポケットと称される凹部(窪み)が形成される。このチップポケットが研削屑の排出路として機能し、被加工物と研削砥石との間に入り込んだ研削屑がチップポケットを介して排出される。
【0005】
しかしながら、被加工物の材質、研削砥石の材質、研削条件等によっては、研削砥石にチップポケットが形成されにくく、研削屑の排出が滞ることがある。そこで、2種類の板状の砥石部材を積層することによって研削砥石を形成する手法が提案されている(特許文献2参照)。この研削砥石を用いると、砥石部材の積層構造に対応する凹部(チップポケット)が研削砥石の研削面側に形成されやすくなり、研削屑の排出が促進される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000-288881号公報
【特許文献2】特開2016-168660号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように、2種類の砥石部材が積層された研削砥石を用いることにより、凹部(チップポケット)の形成が促進される。しかしながら、砥石部材の積層構造(層数、厚さ等)によっては、チップポケットが所望の範囲及び頻度で形成されるに至らず、研削屑の排出が不十分になることがある。そして、研削屑の排出が滞ると、被加工物と研削砥石との間に入り込んだ研削屑によって研削砥石の研削能力が低下し、研削中に被加工物及び研削砥石にかかる荷重(研削荷重)が増大する。これにより、被加工物に面焼けやチッピング等の加工不良が生じやすくなる。
【0008】
本発明は、かかる問題に鑑みてなされたものであり、加工不良の発生を抑制することが可能な研削砥石の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様によれば、被加工物を研削面で研削する研削砥石であって、該研削面で露出する第1砥石部と、該研削面で露出し該第1砥石部よりも破壊靱性が低い第2砥石部と、を備え、該研削面における該第2砥石部の面積は、該研削面の面積の65%以上85%以下である研削砥石が提供される。
【0010】
なお、好ましくは、該第1砥石部は、第1砥粒を含み、該第2砥石部は、第2砥粒を含み、該第2砥粒の平均粒径は、該第1砥粒の平均粒径よりも小さい。また、好ましくは、該第1砥石部は、第1砥粒を含み、該第2砥石部は、第2砥粒を含み、該第2砥粒の集中度は、該第1砥粒の集中度よりも低い。また、好ましくは、該第1砥石部は砥粒を含み、該第2砥石部は砥粒を含まない。
【0011】
また、本発明の他の一態様によれば、被加工物を研削する研削面を備える研削砥石であって、該研削面で露出する砥石部と、該研削面で露出する凹部と、を備え、該研削面における該凹部の面積は、該研削面の面積の65%以上85%以下である研削砥石が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一態様に係る研削砥石は、研削面で露出する第1砥石部と、研削面で露出し第1砥石部よりも破壊靱性が低い第2砥石部とを備えており、研削面における第2砥石部の面積が研削面における第1砥石部の面積よりも所定量大きく設定されている。これにより、被加工物の研削中において、チップポケットとして機能する凹部の形成が研削砥石の研削面側の広範囲で促進され、加工不良の発生が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図3】実施形態1に係る研削砥石を示す斜視図である。
【
図4】被加工物の研削中における研削砥石の一部を示す断面図である。
【
図5】実施形態1に係る研削砥石の変形例を示す斜視図である。
【
図6】実施形態2に係る研削砥石を示す斜視図である。
【
図7】実施形態2に係る研削砥石の変形例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(実施形態1)
以下、添付図面を参照して本発明の一態様に係る実施形態を説明する。まず、本実施形態に係る研削砥石を用いて被加工物を研削することが可能な研削装置の構成例について説明する。
図1は、被加工物11を研削する研削装置2を示す斜視図である。なお、
図1において、X軸方向(第1水平方向、前後方向)とY軸方向(第2水平方向、左右方向)とは、互いに垂直な方向である。また、Z軸方向(高さ方向、上下方向、鉛直方向)は、X軸方向及びY軸方向と垂直な方向である。
【0015】
例えば被加工物11は、単結晶シリコン等の半導体材料でなる円盤状のウェーハであり、互いに概ね平行な表面(第1面)11a及び裏面(第2面)11bを備える。被加工物11は、互いに交差するように格子状に配列された複数のストリート(分割予定ライン)によって、複数の矩形状の領域に区画されている。また、ストリートによって区画された複数の領域の表面11a側にはそれぞれ、IC(Integrated Circuit)、LSI(Large Scale Integration)、LED(Light Emitting Diode)、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)デバイス等のデバイス(不図示)が形成されている。
【0016】
被加工物11をストリートに沿って分割することにより、デバイスをそれぞれ備える複数のデバイスチップが製造される。被加工物11の分割には、環状の切削ブレードで被加工物11を切削する切削装置や、レーザービームの照射によって被加工物11を加工するレーザー加工装置等の加工装置が用いられる。また、被加工物11の分割前に、研削装置2で被加工物11の裏面11b側を研削して被加工物11を薄化しておくことにより、薄型化されたデバイスチップが得られる。
【0017】
ただし、被加工物11の種類、材質、大きさ、形状、構造等に制限はない。例えば被加工物11は、シリコン以外の半導体(GaAs、InP、GaN、SiC等)、サファイア、ガラス、セラミックス、樹脂、金属等でなるウェーハ(基板)であってもよい。また、デバイスの種類、数量、形状、構造、大きさ、配置等にも制限はなく、被加工物11にはデバイスが形成されていなくてもよい。
【0018】
さらに、被加工物11は、CSP(Chip Size Package)基板、QFN(Quad Flat Non-leaded package)基板等のパッケージ基板であってもよい。例えばパッケージ基板は、所定の基板上に複数のデバイスチップを実装し、実装されたデバイスチップを樹脂層(モールド樹脂)で被覆して封止することによって形成される。パッケージ基板を分割することにより、パッケージ化された複数のデバイスチップをそれぞれ備える複数のパッケージデバイスが製造される。また、パッケージ基板の分割前に、研削装置2でパッケージ基板の樹脂層を研削してパッケージ基板を薄化しておくことにより、薄型化されたパッケージデバイスが得られる。
【0019】
研削装置2は、研削装置2を構成する各構成要素を支持又は収容する基台4を備える。基台4の上面側には、長手方向がX軸方向に沿うように形成された矩形状の開口4aが設けられている。また、基台4の後端部の上面上には、直方体状の支持構造6がZ軸方向に沿って設けられている。
【0020】
開口4aの内側には、被加工物11を保持するチャックテーブル(保持テーブル)8が設けられている。チャックテーブル8の上面は、水平面(XY平面)と概ね平行な平坦面であり、被加工物11を保持する保持面8aを構成している。保持面8aは、チャックテーブル8の内部に設けられた流路(不図示)、バルブ(不図示)等を介して、エジェクタ等の吸引源(不図示)に接続されている。
【0021】
チャックテーブル8には、チャックテーブル8をX軸方向に沿って移動させるX軸移動ユニット10が連結されている。X軸移動ユニット10は、例えばボールねじ式の移動機構であり、開口4aの内側に設けられている。具体的には、X軸移動ユニット10は、X軸方向に沿って配置されたX軸ボールねじ(不図示)と、X軸ボールねじを回転させるX軸パルスモータ(不図示)とを備える。
【0022】
また、X軸移動ユニット10は、チャックテーブル8を囲むように設けられた平板状のテーブルカバー12を備える。テーブルカバー12の前方及び後方には、X軸方向に沿って伸縮可能な蛇腹状の防塵防滴カバー14が設けられている。テーブルカバー12及び防塵防滴カバー14は、開口4aの内側に収容されているX軸移動ユニット10の構成要素(X軸ボールねじ、X軸パルスモータ等)を覆うように設置される。
【0023】
X軸移動ユニット10を作動させると、チャックテーブル8がテーブルカバー12とともにX軸方向に沿って移動し、開口4aの前端部(搬送位置)又は後端部(研削位置)に位置付けられる。また、チャックテーブル8には、チャックテーブル8をZ軸方向と概ね平行な回転軸の周りで回転させるモータ等の回転駆動源(不図示)が連結されている。
【0024】
支持構造6の前面側には、Z軸移動ユニット16が設けられている。Z軸移動ユニット16は、例えばボールねじ式の移動機構が用いられる。具体的には、Z軸移動ユニット16は、Z軸方向に沿って配置された一対のZ軸ガイドレール18を備える。一対のZ軸ガイドレール18には、平板状のZ軸移動プレート20がZ軸ガイドレール18に沿ってスライド可能に装着されている。
【0025】
Z軸移動プレート20の裏面側(後面側)には、ナット部(不図示)が設けられている。このナット部には、一対のZ軸ガイドレール18の間にZ軸方向に沿って配置されたZ軸ボールねじ22が螺合されている。また、Z軸ボールねじ22の端部には、Z軸ボールねじ22を回転させるZ軸パルスモータ24が連結されている。Z軸パルスモータ24でZ軸ボールねじ22を回転させると、Z軸移動プレート20がZ軸ガイドレール18に沿ってZ軸方向に移動(昇降)する。
【0026】
Z軸移動プレート20の表面(前面)側には、支持部材26が固定されている。支持部材26は、被加工物11に研削加工を施す研削ユニット28を支持している。
【0027】
研削ユニット28は、支持部材26によって支持された円柱状のハウジング30を備える。ハウジング30には、Z軸方向に沿って配置された円柱状のスピンドル32が収容されている。スピンドル32の先端部(下端部)は、ハウジング30の下面から下方に突出している。また、スピンドル32の基端部(上端部)には、スピンドル32を回転させるモータ等の回転駆動源(不図示)が連結されている。
【0028】
スピンドル32の先端部には、金属等でなる円盤状のホイールマウント34が固定されている。ホイールマウント34の下面側には、被加工物11を研削する環状の研削ホイール36が着脱可能に装着される。例えば研削ホイール36は、締結ボルト等の固定具(不図示)によってホイールマウント34に固定される。そして、研削ホイール36は、回転駆動源からスピンドル32及びホイールマウント34を介して伝達される動力により、Z軸方向と概ね平行な回転軸の周りを回転する。なお、研削ホイール36の構成及び機能の詳細については後述する(
図2参照)。
【0029】
また、研削装置2は、研削装置2を制御するコントローラ(制御ユニット、制御部、制御装置)38を備える。コントローラ38は、研削装置2の各構成要素(チャックテーブル8、X軸移動ユニット10、Z軸移動ユニット16、研削ユニット28等)に接続されている。コントローラ38は、研削装置2の各構成要素に制御信号を出力することにより、研削装置2の動作を制御する。
【0030】
例えばコントローラ38は、研削装置2に備え付けられたコンピュータによって構成される。具体的には、コントローラ38は、研削装置2を稼働させるための演算等を行う処理部と、研削装置2の稼働に用いられる各種の情報(データ、プログラム等)を記憶する記憶部とを備える。処理部は、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサを含んで構成される。記憶部は、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等のメモリを含んで構成される。
【0031】
次に、研削ユニット28に装着される研削ホイール36の構成例について説明する。
図2は、研削ホイール36を示す斜視図である。研削ホイール36は、環状のホイール基台40と、ホイール基台40に固定された複数の研削砥石50とを備える。なお、
図2では研削砥石50の構造を簡略化して図示している。
【0032】
ホイール基台40は、金属(アルミニウム合金等)、樹脂等でなる環状の部材であり、ホイールマウント34(
図1参照)と概ね同径に形成される。また、ホイール基台40は、互いに概ね平行な第1面40a及び第2面40bを備える。第1面40aはホイールマウント34に固定される固定端面に相当し、第2面40bはホイールマウント34に固定されない自由端面に相当する。
【0033】
ホイール基台40の中央部には、第1面40aから第2面40bに至りホイール基台40を厚さ方向に貫通する開口40cが設けられている。例えば開口40cは、第1面40aから第2面40bに向かって径が拡大する円錐台状に形成される。また、ホイール基台40の第2面40b側には、ホイール基台40の外周縁に沿って開口40cと同心円状に形成された環状の溝40dが設けられている。
【0034】
溝40dには、複数の研削砥石50が挿入、固定されている。複数の研削砥石50は、例えば直方体状に形成され、溝40dに沿って概ね等間隔で環状に配列されている。なお、研削砥石50の幅と溝40dの幅とは概ね等しい。そして、研削砥石50はそれぞれ、長さ方向(長手方向)がホイール基台40及び溝40dの周方向(接線方向、回転方向)に沿うように配置される。また、研削砥石50は、ホイール基台40とは反対側に向かって露出する矩形状の研削面(接触面)50aを備える。研削加工時は、研削面50aが被加工物11に接触して被加工物11を研削する。
【0035】
また、ホイール基台40は、第1面40aから第2面40bに至りホイール基台40を貫通する複数の研削液供給路40eを備える。複数の研削液供給路40eは、ホイール基台40の周方向に沿って概ね等間隔で環状に配列されている。研削液供給路40eの一端側は第1面40aで開口し、研削液供給路40eの他端側は第2面40bの開口40cと溝40dとの間の領域で開口している。
【0036】
図1に示す研削装置2で被加工物11を研削する際は、まず、被加工物11がチャックテーブル8によって保持される。例えば被加工物11は、表面11a側が保持面8aに対面して裏面11b(被研削面)側が上方に露出するように、チャックテーブル8上に配置される。この状態で、保持面8aに吸引源の吸引力(負圧)を作用させると、被加工物11がチャックテーブル8によって吸引保持される。その後、チャックテーブル8をX軸移動ユニット10で移動させ、研削ホイール36の下方(研削位置)に位置付ける。
【0037】
次に、チャックテーブル8とスピンドル32とをそれぞれ所定の方向に所定の回転数で回転させる。スピンドル32を回転させると、研削ホイール36がZ軸方向と概ね平行な回転軸の周りを回転し、複数の研削砥石50(
図2参照)がそれぞれ研削ホイール36の回転軸を中心とする環状の回転経路(旋回経路)に沿って回転(旋回)する。
【0038】
そして、チャックテーブル8及び研削ホイール36を回転させた状態で、研削ホイール36をZ軸移動ユニット16によって所定の速度で下降させる。これにより、被加工物11と研削ホイール36とがZ軸方向に沿って所定の速度(研削送り速度)で相対的に移動し(研削送り)、研削ホイール36が被加工物11に接近する。そして、研削砥石50の研削面50a(
図2参照)が被加工物11の裏面11b側に接触すると、被加工物11の裏面11b側が削り取られ、被加工物11が研削、薄化される。
【0039】
被加工物11の研削中は、研削液供給路40e(
図2参照)に純水等の液体(研削液)が流入し、研削液供給路40eから被加工物11及び研削砥石50に研削液が供給される。これにより、被加工物11及び研削砥石50が冷却されるとともに、被加工物11の研削によって発生した屑(研削屑)が洗い流される。
【0040】
また、研削砥石50による被加工物11の研削を継続すると、研削砥石50が摩耗し、研削砥石50の研削面50a側にチップポケットと称される凹部(窪み)が形成される。そして、チップポケットが研削屑の排出路として機能し、被加工物11と研削砥石50との間に入り込んだ研削屑がチップポケットを介して排出される。そこで、本実施形態においては、チップポケットの形成が促進されるように研削砥石50を構成する。
【0041】
図3は、本実施形態に係る研削砥石50を示す斜視図である。研削砥石50は、複数の第1砥石部(第1砥石層)52及び複数の第2砥石部(第2砥石層)54を備える。第1砥石部52及び第2砥石部54はそれぞれ、長方形状に形成された板状の部材であり、被加工物11(
図1参照)を研削する砥石として機能する。ただし、第2砥石部54は砥石として機能せず、被加工物11の研削に寄与しなくてもよい。第1砥石部52の長辺の長さと第2砥石部54の長辺の長さとは概ね等しく、第1砥石部52の短辺の長さと第2砥石部54の短辺の長さとは概ね等しい。
【0042】
第1砥石部52と第2砥石部54とを交互に積層することにより、直方体状の研削砥石50が形成される。
図3には、第1砥石部52が第2砥石部54よりも1層多く、研削砥石50の両端の層が第1砥石部52である例を図示している。この場合には、第2砥石部54がそれぞれ一対の第1砥石部52に挟まれるように、第1砥石部52及び第2砥石部54が積層される。ただし、第1砥石部52及び第2砥石部54の層数に制限はない。例えば、第1砥石部52の層数と第2砥石部54の層数とは同一であってもよい。
【0043】
第1砥石部52及び第2砥石部54は、研削砥石50の長さ方向に順に積層される。そのため、第1砥石部52及び第2砥石部54の厚さの合計が研削砥石50の長さLに相当する。また、第1砥石部52及び第2砥石部54の長辺の長さが研削砥石50の高さHに相当し、第1砥石部52及び第2砥石部54の短辺の長さが研削砥石50の幅Wに相当する。
【0044】
第1砥石部52及び第2砥石部54はそれぞれ、研削砥石50の研削面50aで露出している。具体的には、第1砥石部52の短辺に接続された一の側面が、被加工物11に接触する帯状の第1接触面52aを構成している。同様に、第2砥石部54の短辺に接続された一の側面が、被加工物11に接触する帯状の第2接触面54aを構成している。第1接触面52a及び第2接触面54aは、概ね同一平面上に配置されている。
【0045】
複数の第1接触面52a及び複数の第2接触面54aによって、研削砥石50の研削面50aが構成される。そして、研削面50aでは、交互に配置された第1接触面52a及び第2接触面54aによってストライプ状のパターンが形成される。なお、本実施形態では直方体状の研削砥石50を例示しているが、研削面50aで2種類の接触面(第1接触面52a及び第2接触面54a)が露出していれば、研削砥石50の形状に制限はない。
【0046】
第1砥石部52は、第1砥粒と、第1砥粒を固定する第1結合材(第1ボンド材)とを含んで構成される。同様に、第2砥石部54は、第2砥粒と、第2砥粒を固定する第2結合材(第2ボンド材)とを含んで構成される。第1砥粒及び第2砥粒としては、ダイヤモンド、cBN(cubic Boron Nitride)等を用いることができる。また、第1結合材及び第2結合材としては、SiO2等を主成分とするガラス質のビトリファイドボンド、樹脂を主成分とするレジンボンド等を用いることができる。
【0047】
ここで、本実施形態においては、第2砥石部54の破壊靱性が第1砥石部52の破壊靱性よりも低くなるように、第1砥石部52及び第2砥石部54の材質、組成等が設定される。すなわち、第2砥石部54は第1砥石部52よりも摩耗しやすい。このように構成された研削砥石50で被加工物11を研削すると、第2砥石部54が第1砥石部52よりも早く摩耗し、第2砥石部54の第2接触面54aが第1砥石部52の第1接触面52aよりも研削砥石50の内側に入り込んだ状態になりやすい。これにより、研削砥石50の研削面50a側にチップポケットとして機能する凹部がされやすくなる。
【0048】
例えば、第1砥石部52に含まれる第1結合材と第2砥石部54に含まれる第2結合材とは、同一の材質によって構成される。そして、第2砥石部54に含まれる第2砥粒の平均粒径が第1砥石部52に含まれる第1砥粒の平均粒径よりも小さくなるように、第1砥粒及び第2砥粒の粒径が設定される。これにより、第2砥石部54の破壊靱性を第1砥石部52よりも低くすることができる。例えば、第1砥粒及び第2砥粒の平均粒径は、1μm以上10μm以下の範囲で、上記の関係を満たすように設定される。
【0049】
なお、第1砥石部52の破壊靱性と第2砥石部54の破壊靱性との大小関係は、両者を同一の測定方法で測定し、測定結果を比較することによって確認できる。同様に、第1砥粒の平均粒径と第2砥粒の平均粒径との大小関係も、両者を同一の測定方法で測定し、測定結果を比較することによって確認できる。第1砥粒及び第2砥粒の平均粒径の値としては、例えばレーザー回折・散乱法によって測定される粒子径分布の積算50%における粒径(メディアン径、d50、50%径)を用いることができる。
【0050】
ただし、第1砥石部52及び第2砥石部54の破壊靱性の調節方法に制限はない。例えば、第2砥石部54に含まれる第2砥粒の集中度が第1砥石部52に含まれる第1砥粒の集中度よりも小さくなるように、第1砥石部52及び第2砥石部54の組成を設定してもよい。例えば、第1砥粒及び第2砥粒の集中度は、50以上100以下の範囲で、上記の関係を満たすように設定される。また、砥粒を含む第1砥石部52と、砥粒を含まない第2砥石部54とを用いることもできる。この場合にも、第2砥石部54の破壊靱性を第1砥石部52よりも低くすることができる。
【0051】
さらに、砥粒の材質や、結合材の材質、結合度、気孔率等を第1砥石部52と第2砥石部54とで異ならせることにより、第2砥石部54の破壊靱性を第1砥石部52よりも低くなるように調節してもよい。例えば、第1砥石部52と第2砥石部54とで結合材の材質を異ならせることにより、第2砥石部54の破壊靱性を第1砥石部52の破壊靱性より低くしてもよい。この場合には、第1砥石部52の結合材としてビトリファイドボンドを用い、第2砥石部54の結合材としてレジンボンドを用いることができる。
【0052】
また、本実施形態においては、研削面50aにおける第2砥石部54の面積(第2接触面54aの面積)が研削面50aにおける第1砥石部52の面積(第1接触面52aの面積)よりも大きくなるように、第1砥石部52及び第2砥石部54の寸法が設定される。これにより、第1接触面52aの面積と第2接触面54aの面積とが同等の場合と比較して、被加工物11と第2砥石部54との接触面積が増大し、研削砥石50の研削面50a側にチップポケットとして機能する凹部が形成されやすくなる。
【0053】
具体的には、研削面50aにおける第1砥石部52の面積(第1接触面52aの面積)は、研削面50aの面積の35%以下、好ましくは30%以下に設定される。また、研削面50aにおける第2砥石部54の面積(第2接触面54aの面積)は、研削面50aの面積の65%以上、好ましくは70%以上に設定される。これにより、研削砥石50の研削面50aの広範囲にチップポケットが形成されやすくなり、研削屑の排出が促進される。
【0054】
一方、研削面50aにおける第1砥石部52の面積(第1接触面52aの面積)は、研削面50aの面積の15%以上、好ましくは20%以上に設定される。また、研削面50aにおける第2砥石部54の面積(第2接触面54aの面積)は、研削面50aの面積の85%以下、好ましくは80%以下に設定される。これにより、被加工物11の研削に必要な研削砥石50の全体の強度が確保され、被加工物11の研削中における研削砥石50の破損が防止される。
【0055】
第1砥石部52及び第2砥石部54の層数、第1砥石部52の厚さT1、第2砥石部54の厚さT2は、上記の面積比率が実現されるように適宜設定される。例えば、第2砥石部54の厚さT2は、第1砥石部52の厚さT1の2倍以上、好ましくは3倍以上に設定される。この場合には、第2砥石部54の1層あたりの第2接触面54aの面積が、第1砥石部52の1層あたりの第1接触面52aの面積の2倍以上、好ましくは3倍以上となる。
【0056】
図4は、被加工物11の研削中における研削砥石50の一部を示す断面図である。
図4に示すように、研削砥石50の研削面50aが被加工物11の被研削面(裏面11b)に接触することにより、被加工物11が研削される。そして、被加工物11の研削中に研削屑が被加工物11と研削砥石50との間に入り込むと、研削砥石50の研削能力が低下し、被加工物11及び研削砥石にかかる荷重(研削荷重)が上昇する。これにより、被加工物11に面焼けやチッピング等の加工不良が生じやすくなる。
【0057】
しかしながら、本実施形態に係る研削砥石50は、前述の通り第2砥石部54の破壊靱性が第1砥石部52よりも低くなるように形成されている。そのため、研削砥石50で被加工物11を研削すると、第2砥石部54の第2接触面54a側が第1砥石部52の第1接触面52a側よりも早く摩耗する。その結果、第2砥石部54の第2接触面54a側にチップポケットとして機能する凹部(窪み)56が形成される。
【0058】
凹部56は、被加工物11の研削によって発生した研削屑の排出路になるとともに、被加工物11及び研削砥石50に供給される研削液の流路になる。これにより、被加工物11の研削中において、被加工物11と研削砥石50との間に入り込んだ研削屑が凹部56を介して排出されやすくなる。
【0059】
さらに、本実施形態に係る研削砥石50は、前述の通り第2接触面54aの面積が第1接触面52aの面積よりも大きくなるように形成されている。そのため、被加工物11の研削中において、研削砥石50の研削面50a側に凹部56が広範囲にわたって形成される。これにより、研削屑の排出がさらに促進され、研削屑に起因する加工不良が効果的に抑制される。
【0060】
以上の通り、本実施形態に係る研削砥石50は、研削面50aで露出する第1砥石部52と、研削面50aで露出し第1砥石部52よりも破壊靱性が低い第2砥石部54とを備えており、研削面50aにおける第2砥石部54の面積が研削面50aにおける第1砥石部52の面積よりも所定量大きく設定されている。これにより、被加工物11の研削中において、チップポケットとして機能する凹部の形成が研削砥石50の研削面50a側の広範囲で促進され、加工不良の発生が抑制される。
【0061】
なお、本実施形態に係る研削砥石の構成は、第2砥石部の破壊靱性が第1砥石部よりも低く、且つ、第2砥石部の第2研削面の面積が第1砥石部の第1研削面の面積よりも所定量大きく設定される範囲内で、適宜変更できる。以下、研削砥石50の変形例について説明する。
【0062】
図5は、研削砥石50の変形例に相当する研削砥石60を示す斜視図である。研削砥石60は、複数の第1砥石部(第1砥石層)62及び複数の第2砥石部(第2砥石層)64を備える。
【0063】
第1砥石部62及び第2砥石部64は、長方形状に形成された板状の部材である。第1砥石部62及び第2砥石部64の構成及び機能はそれぞれ、研削砥石50の第1砥石部52及び第2砥石部54(
図3参照)と同様である。また、第1砥石部62の長辺の長さと第2砥石部64の長辺の長さとは概ね等しく、第1砥石部62の短辺の長さと第2砥石部64の短辺の長さとは概ね等しい。
【0064】
研削砥石60においては、第1砥石部62及び第2砥石部64の積層方向が研削砥石50(
図3参照)と異なる。具体的には、第1砥石部62と第2砥石部64とを研削砥石50の幅W方向に交互に積層することにより、直方体状の研削砥石60が形成される。そのため、第1砥石部62及び第2砥石部64の厚さの合計が研削砥石60の幅Wに相当する。また、第1砥石部62及び第2砥石部64の長辺の長さが研削砥石50の長さLに相当し、第1砥石部62及び第2砥石部64の短辺の長さが研削砥石60の高さHに相当する。
【0065】
研削砥石60は、被加工物11と接触して被加工物11を研削する矩形状の研削面(接触面)60aを備える。そして、第1砥石部62及び第2砥石部64はそれぞれ、研削砥石60の研削面60aで露出している。具体的には、第1砥石部62の長辺に接続された一の側面が、被加工物11に接触する帯状の第1接触面62aを構成している。同様に、第2砥石部64の長辺に接続された一の側面が、被加工物11に接触する帯状の第2接触面64aを構成している。第1接触面62a及び第2接触面64aは、概ね同一平面上に配置され、研削砥石60の研削面60aを構成している。
【0066】
研削砥石60においても、研削砥石50(
図3参照)と同様、第2砥石部64の破壊靱性が第1砥石部62の破壊靱性よりも低くなるように、第1砥石部62及び第2砥石部64の材質、組成等が設定される。例えば、第1砥石部62に含まれる第1結合材と第2砥石部64に含まれる第2結合材とは、同一の材質によって構成される。そして、第2砥石部64に含まれる第2砥粒の平均粒径が第1砥石部62に含まれる第1砥粒の平均粒径よりも小さくなるように、第1砥粒及び第2砥粒の粒径が設定される。
【0067】
ただし、第1砥石部62及び第2砥石部64の破壊靱性の調節方法に制限はない。例えば、第2砥石部64に含まれる第2砥粒の集中度が第1砥石部62に含まれる第1砥粒の集中度よりも小さくなるように、第1砥石部62及び第2砥石部64の組成を設定してもよい。また、砥粒を含む第1砥石部62と、砥粒を含まない第2砥石部64とを用いることもできる。
【0068】
また、研削砥石60においても、研削面60aにおける第2砥石部64の面積(第2接触面64aの面積)が研削面50aにおける第1砥石部62の面積(第1接触面62aの面積)よりも大きくなるように、第1砥石部62及び第2砥石部64の寸法が設定される。具体的には、研削面60aにおける第1砥石部62の面積(第1接触面62aの面積)は、研削面60aの面積の15%以上35%以下、好ましくは20%以上30%以下に設定される。また、研削面60aにおける第2砥石部64の面積(第2接触面64aの面積)は、研削面60aの面積の65%以上85%以下、好ましくは70%以上80%以下に設定される。
【0069】
第1砥石部62及び第2砥石部64の層数、第1砥石部62の厚さT3、第2砥石部64の厚さT4は、上記の面積比率が実現されるように適宜設定される。例えば、第2砥石部64の厚さT4は、第1砥石部62の厚さT3の2倍以上、好ましくは3倍以上に設定される。
【0070】
その他、本実施形態に係る構造、方法等は、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施できる。
【0071】
(実施形態2)
上記の実施形態1では、板状の第1砥石部及び第2砥石部を積層することによって形成された研削砥石について説明した。ただし、本発明に係る研削砥石は他の方法によって形成することもできる。実施形態では、研削面側に溝が形成された研削砥石の構成例について説明する。
【0072】
図6は、本実施形態に係る研削砥石70を示す斜視図である。研削砥石70は、砥粒と、砥粒を固定する結合材とを含む研削用の砥石であり、例えば直方体状に形成される。研削砥石70の材質及び組成の例は、研削砥石50の第1砥石部52(
図3参照)と同様である。また、研削砥石70は、被加工物11と接触して被加工物11を研削する研削面(接触面)70aと、一対の側面70bとを含む。一対の側面70bは、研削面70aの長辺に接続された側面に相当し、互いに概ね平行に配置されている。
【0073】
研削砥石70の研削面70a側には、深さが研削砥石70の高さH未満である複数の凹部(溝)74が設けられている。例えば凹部74は、研削砥石70の幅W方向に沿って直線状(帯状)に形成され、研削面70a及び一対の側面70bで露出している。また、複数の凹部74は、互いに概ね平行であり、研削砥石70の長さL方向に沿って所定の間隔で配列されている。
【0074】
凹部74の形成には、例えば環状の切削ブレードで対象物を切削する切削装置が用いられる。切削ブレードを回転させつつ研削砥石70の研削面70a側に切り込ませることにより、凹部74が形成される。この場合、凹部74の幅は切削ブレードの幅と概ね同一となる。ただし、凹部74の形成方法に制限はない。
【0075】
研削砥石70の研削面70a側のうち凹部74が形成されていない領域は、被加工物11を研削する柱状の砥石部(突起部、凸部)72を構成している。すなわち、複数の凹部74はそれぞれ、隣接する一対の砥石部72に挟まれるように形成されている。
【0076】
砥石部72の先端面は、研削面70aで露出しており、被加工物11に接触して被加工物11を研削する帯状の接触面72aを構成している。また、凹部74は、研削面70aで露出する先端面(露出面)74aを含む。先端面74aは、砥石部72の接触面72aと同一平面上に配置されている仮想的な面に相当する。
【0077】
研削砥石70で被加工物11を研削する際には、研削砥石70の研削面70aが被加工物11に接触し、砥石部72の接触面72aによって被加工物11が研削される。このとき、砥石部72の間に設けられている凹部74がチップポケットとして機能し、研削屑の排出路及び研削液の流路となる。これにより、被加工物11と研削砥石70との間に入り込んだ研削液が凹部74を介して排出される。
【0078】
ここで、研削砥石70の寸法は、研削面70aにおける凹部74の面積(先端面74aの面積)が研削面70aにおける砥石部72の面積(接触面72aの面積)よりも大きくなるように設定される。具体的には、研削面70aにおける砥石部72の面積(接触面72aの面積)は、研削面70aの面積の15%以上35%以下、好ましくは20%以上30%以下に設定される。また、研削面70aにおける凹部74の面積(先端面74aの面積)は、研削面70aの面積の65%以上85%以下、好ましくは70%以上80%以下に設定される。
【0079】
上記のように砥石部72及び凹部74の面積比率を設定することにより、研削砥石70の研削面70a側の強度を維持しつつ、チップポケットとして機能する凹部74を広範囲に形成できる。なお、凹部74の本数及び寸法は、上記の面積比率が実現されるように適宜設定される。例えば、凹部74の幅W2は、砥石部72の幅W1の2倍以上、好ましくは3倍以上に設定される。この場合には、凹部74の1本あたりの先端面74aの面積が、砥石部72の1本あたりの接触面72aの面積の2倍以上、好ましくは3倍以上となる。
【0080】
なお、研削砥石70の研削面70a側は、交互に配列された砥石部72と凹部74とによって構成されているため、凹部74が形成されない場合と比較して強度が低い。そこで、凹部74には、研削砥石70の研削面70a側を補強する砥石部(補強部材)が設けられてもよい。
【0081】
図7は、研削砥石70の変形例に相当する研削砥石80を示す斜視図である。研削砥石80の構成は、第2砥石部(補強部材)84が設けられている点を除いて、研削砥石70(
図6参照)と同様である。
【0082】
具体的には、研削砥石80は、砥粒と、砥粒を固定する結合材とを含む研削用の砥石であり、例えば直方体状に形成される。また、研削砥石80は、被加工物11と接触して被加工物11を研削する研削面(接触面)80aと、一対の側面80bとを含む。研削砥石80の研削面80a側には、複数の凹部(溝)が設けられている。凹部の構成は、研削砥石70の凹部74(
図6参照)と同様である。また、研削砥石80の研削面80a側のうち凹部が形成されていない領域は、被加工物11を研削する柱状の第1砥石部(突起部、凸部)82を構成している。
【0083】
研削砥石80の凹部には、第2砥石部84が設けられている。第2砥石部84の形状は研削砥石80の凹部の形状と概ね同一であり、第2砥石部84は凹部を埋めるように固定される。これにより、研削砥石80の研削面80a側において、第1砥石部82と第2砥石部84とが研削砥石80の長さL方向に沿って交互に配列される。
【0084】
第1砥石部82及び第2砥石部84はそれぞれ、研削砥石80の研削面80aで露出している。具体的には、第1砥石部82の先端面は、被加工物11に接触する帯状の第1接触面82aを構成している。同様に、第2砥石部84の先端面は、被加工物11に接触する帯状の第2接触面84aを構成している。第1接触面82a及び第2接触面84aは、概ね同一平面上に配置され、研削砥石80の研削面80aを構成している。
【0085】
研削砥石80においても、研削砥石50(
図3参照)と同様、第2砥石部84の破壊靱性が第1砥石部82の破壊靱性よりも低くなるように、第1砥石部82及び第2砥石部84の材質、組成等が設定される。例えば、第1砥石部82に含まれる第1結合材と第2砥石部84に含まれる第2結合材とは、同一の材質によって構成される。そして、第2砥石部84に含まれる第2砥粒の平均粒径が第1砥石部82に含まれる第1砥粒の平均粒径よりも小さくなるように、第1砥粒及び第2砥粒の粒径が設定される。
【0086】
ただし、第1砥石部82及び第2砥石部84の破壊靱性の調節方法に制限はない。例えば、第2砥石部84に含まれる第2砥粒の集中度が第1砥石部82に含まれる第1砥粒の集中度よりも小さくなるように、第1砥石部82及び第2砥石部84の組成を設定してもよい。また、砥粒を含む第1砥石部82と、砥粒を含まない第2砥石部84とを用いることもできる。
【0087】
また、第1砥石部82と第2砥石部84とで結合材の材質を異ならせることにより、第2砥石部84の破壊靱性を第1砥石部82の破壊靱性より低くしてもよい。例えば、第1砥石部82の結合材としてビトリファイドボンドを用い、第2砥石部84の結合材としてレジンボンドを用いることもできる。
【0088】
さらに、研削砥石80においても、研削面80aにおける第2砥石部84の面積(第2接触面84aの面積)が研削面80aにおける第1砥石部82の面積(第1接触面82aの面積)よりも大きくなるように、第1砥石部82及び第2砥石部84の寸法が設定される。具体的には、研削面80aにおける第1砥石部82の面積(第1接触面82aの面積)は、研削面80aの面積の15%以上35%以下、好ましくは20%以上30%以下に設定される。また、研削面80aにおける第2砥石部84の面積(第2接触面84aの面積)は、研削面80aの面積の65%以上85%以下、好ましくは70%以上80%以下に設定される。
【0089】
第2砥石部84(凹部)の本数及び寸法は、上記の面積比率が実現されるように適宜設定される。例えば、第2砥石部84の幅W4は、第1砥石部82の幅W3の2倍以上、好ましくは3倍以上に設定される。
【0090】
上記のように、研削砥石80の研削面80a側を第1砥石部82及び第2砥石部84によって構成することにより、研削砥石50(
図3)と同様の原理により、研削砥石80の研削面80a側にチップポケットとして機能する凹部が形成されやすくなる。また、研削砥石80の研削面80a側に形成された凹部に第2砥石部84を埋め込むことにより、研削面70a側で凹部74が露出している研削砥石70(
図6)と比較して、研削砥石80の研削面80a側の強度を高めることができる。
【0091】
なお、
図6では凹部74が研削砥石70の幅W方向に沿って形成された場合について説明したが、凹部74は研削砥石70の長さL方向に沿って形成されてもよい。また、
図7では第2砥石部84が研削砥石80の幅W方向に沿って形成された場合について説明したが、第2砥石部84は研削砥石80の長さL方向に沿って形成されてもよい。
【0092】
その他、本実施形態に係る構造、方法等は、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施できる。また、本実施形態は、実施形態1と適宜組み合わせることができる。
【0093】
(実施例)
次に、本発明に係る研削砥石を用いて被加工物を加工した結果について説明する。本実施例では、第1砥石部及び第2砥石部が研削面で露出する研削砥石で被加工物を研削し、研削中に被加工物及び研削砥石にかかる荷重(研削荷重)を測定した。
【0094】
被加工物としては、円盤状の単結晶シリコンウェーハ(直径200mm)を用いた。また、研削砥石としては、板状の第1砥石部(第1砥石層)と第2砥石部(第2砥石層)とを交互に積層することによって形成した直方体状の研削砥石を用いた(
図3参照)。
【0095】
第1砥石部及び第2砥石部はいずれも、ダイヤモンド砥粒をビトリファイドボンドで固定することによって長方形状に形成した。第1砥石部及び第2砥石部の長辺(研削砥石の高さ)は5mmとし、第1砥石部及び第2砥石部の短辺(研削砥石の幅)は3mmとした。また、第1砥石部及び第2砥石部の短辺に接続された面を、研削砥石の研削面に設定した(
図3参照)。
【0096】
なお、本実施例では、上記の研削砥石を3種類準備した(研削砥石A,B,C)。研削砥石A,B,Cの構成(積層構造)を表1に示す。なお、研削砥石A,B,Cのいずれにおいても、第1砥石部に含まれる砥粒の集中度は200とし、第2砥石部に含まれる砥粒の集中度は80とした。
【0097】
【0098】
また、研削砥石A,B,Cのそれぞれについて、研削砥石の研削面全体の面積に対する、第1砥石部の研削面における面積の割合(第1砥石部の面積比率)と第2砥石部の研削面における面積の割合(第2砥石部の面積比率)とを算出した。研削砥石A,B,Cにおける面積比率を表2に示す。
【0099】
【0100】
そして、研削装置(
図1参照)を用いて、研削砥石A,B,Cを有する研削ホイールでそれぞれ25枚の被加工物を研削した。なお、チャックテーブルの回転数は300rpm、スピンドルの回転数(研削ホイールの回転数)は3500rpm、加工送り速度は0.3μm/s、研削量(研削前後の被加工物の厚さの差)は20μmに設定した。また、被加工物の研削中に研削ホイールにかかる荷重(研削荷重)を、荷重測定器で測定した。
【0101】
図8は、研削荷重を示すグラフである。研削砥石Aで被加工物を研削すると、8枚目以降の被加工物の研削時に研削荷重が急増し、被加工物の正常な加工が困難になった。これは、第1研削砥石の面積比率と第2研削砥石の面積比率とが同程度の研削砥石Aでは、被加工物の研削中において研削屑の排出に十分なチップポケットが形成されず、研削屑による研削砥石Aの研削能力の低下が生じたことに起因すると推察される。
【0102】
一方、第2砥石部の面積比率(70.4%)が第1砥石部の面積比率(29.6%)の2倍以上の研削砥石Bを用いた場合には、被加工物を25枚研削しても研削荷重の急増は見られず、安定した研削が維持された。また、第2砥石部の面積比率(78.5%)が第1砥石部の面積比率(21.5%)の3倍以上の研削砥石Cを用いた場合には、研削荷重がさらに低減されることが確認された。これは、第1砥石部よりも破壊靱性が低い第2砥石部の面積比率が大きく設定されたことにより、研削砥石B,Cの研削面側の広範囲でチップポケットが形成され、研削中における研削屑の排出が促進されたことに起因していると推察される。また、研削砥石B,Cには、被加工物の研削に支障をきたすような破損は生じなかった。
【0103】
上記の結果より、研削砥石の研削面側にチップポケットを効率的に形成するためには、第2砥石部の面積比率が第1砥石部の面積比率の2倍以上であることが好ましく、3倍以上であることがより好ましいことが分かった。特に、第2研削砥石の面積比率を70.4%以上78.5%以下に設定することにより、研削砥石の破損を回避しつつ研削負荷を効果的に抑制できた。
【0104】
以上の通り、本発明に係る研削砥石を用いることにより、研削屑を排出するためのチップポケットが広範囲にわたって形成されて研削負荷が低減され、加工不良の発生が効果的に抑制されることが確認された。
【符号の説明】
【0105】
11 被加工物
11a 表面(第1面)
11b 裏面(第2面)
2 研削装置
4 基台
4a 開口
6 支持構造
8 チャックテーブル(保持テーブル)
8a 保持面
10 X軸移動ユニット
12 テーブルカバー
14 防塵防滴カバー
16 Z軸移動ユニット
18 Z軸ガイドレール
20 Z軸移動プレート
22 Z軸ボールねじ
24 Z軸パルスモータ
26 支持部材
28 研削ユニット
30 ハウジング
32 スピンドル
34 ホイールマウント
36 研削ホイール
38 コントローラ(制御ユニット、制御部、制御装置)
40 ホイール基台
40a 第1面
40b 第2面
40c 開口
40d 溝
40e 研削液供給路
50 研削砥石
50a 研削面(接触面)
52 第1砥石部(第1砥石層)
52a 第1接触面
54 第2砥石部(第2砥石層)
54a 第2接触面
56 凹部(窪み)
60 研削砥石
60a 研削面(接触面)
62 第1砥石部(第1砥石層)
62a 第1接触面
64 第2砥石部(第2砥石層)
64a 第2接触面
70 研削砥石
70a 研削面(接触面)
70b 側面
72 砥石部(突起部、凸部)
72a 接触面
74 凹部(溝)
74a 先端面(露出面)
80 研削砥石
80a 研削面(接触面)
80b 側面
82 第1砥石部(突起部、凸部)
82a 第1接触面
84 第2砥石部(補強部材)
84a 第2接触面