(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024179778
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】イオンビーム照射装置
(51)【国際特許分類】
H01J 27/16 20060101AFI20241219BHJP
H01J 37/08 20060101ALI20241219BHJP
G21K 5/04 20060101ALI20241219BHJP
H05H 1/24 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
H01J27/16
H01J37/08
G21K5/04 A
H05H1/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023098912
(22)【出願日】2023-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】504261077
【氏名又は名称】大学共同利用機関法人自然科学研究機構
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100165663
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 光宏
(72)【発明者】
【氏名】津守 克嘉
(72)【発明者】
【氏名】永岡 賢一
(72)【発明者】
【氏名】中野 治久
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 和貴
【テーマコード(参考)】
2G084
5C101
【Fターム(参考)】
2G084AA02
2G084AA08
2G084AA12
2G084CC13
2G084CC23
2G084DD03
2G084DD13
2G084DD39
2G084HH07
2G084HH22
2G084HH44
2G084HH52
5C101DD03
5C101DD11
5C101DD25
5C101DD30
5C101DD38
(57)【要約】 (修正有)
【課題】プラズマを生成させ、イオンビームを照射する際に、イオンビームの発散角を制御する。
【解決手段】イオンビーム照射装置10は、高周波アンテナ13でプラズマ12を生成するプラズマ生成部11を有し、その開口部には照射孔Hからイオンビームを照射するための境界電極15、引出電極16を有する。また、境界電極15よりプラズマ生成部11の内側には制御用電極14が設けられ、境界電極15と引出電極16との間にプラズマ界面近傍の電場を検出する空間電位プローブ18が設けられている。空間電位プローブ18の検出結果が増幅器30で増幅され、位相調整回路31で位相を調整され、この信号に応じて高周波発信器32が制御用電極14に通電する。制御用電極14に通電して生じる高周波電場RF2が、プラズマ生成電場RF1と干渉することで、プラズマ界面の振動が変化し、イオンビームの発散角を変化させることができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオンビームを照射するイオンビーム照射装置であって、
所定のガスからプラズマを生成するプラズマ生成部と、
前記プラズマ生成部の開口部に、前記イオンビームの極性と逆の極性の電極として設けられた境界電極と、
前記境界電極の外側に、前記イオンビームの極性と同じ極性の電極として設けられ、前記イオンビームを照射するための引出電極と、
所定の周波数で変化する電界を生じさせるための制御用電極を前記プラズマ生成部の開口部に備えるイオンビーム照射装置。
【請求項2】
請求項1記載のイオンビーム照射装置であって、
前記プラズマ生成部は、高周波(RF)方式によりプラズマを生成するイオンビーム照射装置。
【請求項3】
請求項2記載のイオンビーム照射装置であって、
前記プラズマ生成部における前記高周波による電場を検出する検出部と、
前記検出された電場に応じて、前記制御用電極に通電する制御部とを備えるイオンビーム照射装置。
【請求項4】
請求項3記載のイオンビーム照射装置であって、
前記制御部は、前記検出した電場を相殺するように通電するイオンビーム照射装置。
【請求項5】
請求項3記載のイオンビーム照射装置であって、
前記制御部は、前記検出した電場に同期するように通電するイオンビーム照射装置。
【請求項6】
請求項3記載のイオンビーム照射装置であって、
前記検出部は、前記境界電極と前記引出電極との間に設置されているイオンビーム照射装置。
【請求項7】
請求項1記載のイオンビーム照射装置であって、
前記境界電極および前記引出電極は、前記イオンビームの照射孔となる複数の孔が配列された形状であるイオンビーム照射装置。
【請求項8】
請求項7記載のイオンビーム照射装置であって、
前記制御用電極は、前記孔と孔の間に配置されているイオンビーム照射装置。
【請求項9】
請求項6記載のイオンビーム照射装置であって、
前記プラズマ生成部は、前記孔に対向する位置にアンテナが設置されており、該アンテナに前記高周波を通電することによりプラズマを生成するイオンビーム照射装置。
【請求項10】
プラズマ生成部および前記プラズマ生成部の開口部に設けられた境界電極、引出電極を備えるイオンビーム照射装置によってイオンビームを照射するイオンビーム照射方法であって、
前記プラズマ生成部で所定のガスからプラズマを生成するステップと、
前記境界電極および前記引出電極を所定の電位にすることによって、イオンビームを照射するステップと、
前記イオンビームを照射する際に、前記境界電極および引出電極とは別に設けた高周波電極に通電することにより、所定の周波数で変化する電界を生じさせるステップを備えるイオンビーム照射方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマを生成させ、イオンビームを照射するイオンビーム照射装置に関し、詳しくは、イオンビームの発散角を制御する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
プラズマを生成させて照射されるイオンビームは、核融合や加速器の分野、半導体プロセス、エッチング、成膜、金属材料の表面改質など、種々の分野で利用されている。
例えば、特許文献1は、高周波電源によりプラズマを生成させ、3枚または4枚のイオンビーム引出電極でイオンビームを引き出す際に、プラズマ成膜とイオンビーム照射を併用した場合に生じる異常放電を回避する技術を開示している。特許文献2は、液晶の製造工程で大きな面積の大型平行イオンビームを照射する際に、引出電極の径や密度をビームの中心部と外縁部で変えることにより拡散するイオンビームを基板全面に均一に照射する技術を開示している。
イオンビーム照射に利用するプラズマを生成させる方法としては、フィラメントアーク方式と高周波(RF)方式が知られている。高周波(RF)方式は、フィラメントアーク方式に比べて、フィラメントの損耗による連続運転時間の制約などがない点、フィラメント材料を不純物としてプラズマ中に持ち込まない点、で利点があると言われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11-286781号公報
【特許文献2】特開平11-329335号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
イオンビームは、半導体製造、エッチング、成膜などに利用する場合には、発散角を大きくし、ビームが拡散するように広く照射し、均一性を得ることが好ましい。また、加速器などの分野で利用する場合には、逆に発散角を小さくし、ビームを収束させることで、ビーム損失を抑えることが好ましい。しかし、高周波(RF)方式のイオン源からのビームでは、一般にフィラメントアーク方式の場合と比較して、発散角が大きくなる傾向にあり、発散角を小さく、ビームを収束させる技術が望まれていた。このように発散角を制御する技術は、高周波(RF)方式に限ったものではなく、フィラメントアーク方式においても同様であった。
本発明は、かかる課題に鑑み、プラズマを利用して照射されるイオンビームの発散角を調整可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、
イオンビームを照射するイオンビーム照射装置であって、
所定のガスからプラズマを生成するプラズマ生成部と、
前記プラズマ生成部の開口部に、前記イオンビームの極性と逆の極性の電極として設けられた境界電極と、
前記境界電極の外側に、前記イオンビームの極性と同じ極性の電極として設けられ、前記イオンビームを照射するための引出電極と、
所定の周波数で変化する電界を生じさせるための制御用電極を前記プラズマ生成部の開口部に備えるイオンビーム照射装置とすることができる。
【0006】
本発明は、プラズマを境界電極、引出電極で引き出すことによりイオンビームを照射する際に、境界電極近傍のプラズマ中に設置した制御用電極へ所定周波数の電界(以下、「制御用電界」という)を生じさせ、境界電極開口部付近のプラズマ・ビーム界面を電界で振動させることにより、発散角を変動させるものである。従って、本発明によれば、イオンビームの発散角を調整することが可能となる。
制御用電界の位相、周波数および強さは、要求される発散角に応じて調整すればよい。予め設定した所定の位相、周波数、強さで電界を生じさせる構成としてもよいし、これらの一部または全部を適宜、調整可能としたり、動的に変化させてもよい。
所定周波数は、400kHz以上の高周波、これより低い周波数など任意に選択することができる。
くわえて、本発明において、プラズマの生成は、フィラメントアーク方式、高周波(RF)方式のいずれであってもよい。
【0007】
本発明においては、
前記プラズマ生成部は、高周波(RF)方式によりプラズマを生成してもよい。
【0008】
一般に、高周波(RF)方式は、フィラメントアーク方式よりもイオンビームが拡散する傾向にあるため、特に本発明の有用性が高い。RF方式でプラズマ生成のために用いる周波数も任意に決めることができるが、一般的に400kHz以上とされることが多い。
高周波(RF)方式において、イオンビームが拡散するのは、プラズマを生成するための高周波電場(以下、「プラズマ生成電場」という)の伝播によって、プラズマ・ビーム界面が振動することが原因であろうと推測される。本発明では、プラズマ・ビーム界面付近に、高周波電極により制御用電場を生じさせるため、プラズマ生成電場による影響を調整することができ、イオンビームの発散角を制御することが可能となるのである。
上記態様において制御用電場の位相、周波数および強さは、プラズマ生成電場よりも低い周波数も含めて任意に決めることができるが、プラズマ生成電場の高周波を基準として設定することが好ましい。かかる観点から、制御用電極の周波数は、400kHz以上の高周波とすることが好ましく、さらにはプラズマ生成電場と同程度の周波数とすることが好ましい。
また、発散角は、プラズマ生成電場と、制御用電場の干渉により制御されるため、両者の位相を相対的に調整可能とすることが好ましい。
【0009】
高周波(RF)方式によりプラズマを生成する場合、
前記プラズマ生成部における前記高周波による電場を検出する検出部と、
前記検出された電場に応じて、前記制御用電極に通電する制御部とを備えてもよい。
【0010】
こうすることにより、プラズマ生成電場の変動などに応じて、制御用電極に通電することができ、効果的に発散角を制御することが可能となる。
制御部の制御対象は、制御用電場の周波数、電流、位相の全部とすることが好ましいが、いずれか一部であってもよい。
なお、検出結果に応じた制御は、例えば、フィードバック制御とすることができるが、種々の制御則を適用することができる。制御部は、コンピュータを用いてソフトウェア的に構成してもよいし、制御回路としてハードウェア的に構成してもよい。
【0011】
上記態様においては、
前記制御部は、前記検出した電場を相殺するように通電してもよい。
こうすることにより、プラズマ界面の振動を抑制することができ、イオンビームの発散角を抑制することができる。
【0012】
上記態様においては、
前記制御部は、前記検出した電場に同期するように通電してもよい。
こうすることにより、プラズマ界面の振動を増幅することができ、イオンビームの発散角を拡大することができる。
【0013】
上記態様においては、
前記検出部は、前記境界電極と前記引出電極との間に設置してもよい。
検出部は、種々の部位に設置可能であるが、上記態様によれば、プラズマ・ビーム界面に影響を与える電場を効果的に検出することができる。
【0014】
本発明においては、
前記境界電極および前記引出電極は、前記イオンビームの照射孔となる複数の孔が配列された形状としてもよい。
【0015】
こうすることにより、複数のイオンビームを並列的に照射することができる。
かかる状態で、イオンビームを拡散させるようにすれば、広い面積に対してイオンビームを照射すること、あるいは大ビーム電流を得ることができる利点もある。
【0016】
上記形状の場合、
前記制御用電極は、前記孔と孔の間に配置されていてもよい。
【0017】
こうすることにより、孔からのイオンビームの照射に干渉することなく制御用電極を配置することができる。制御用電極は、孔と孔の間に分割して配置してもよいし、全体を一体化した状態で配置してもよい。
【0018】
上記態様においては、
前記プラズマ生成部は、前記孔に対向する位置にアンテナが設置されており、該アンテナに前記高周波を通電することによりプラズマを生成してもよい。
【0019】
かかる態様では、プラズマを生成するためのアンテナが、孔に対向して配置されているため、プラズマ生成電場がプラズマ・ビーム界面に影響を与えやすい。従って、本発明の有用性が非常に高い。
また、孔に対向して配置されているため、その電場は孔に直交するように伝播してくると考えられる。従って、制御用電場を均一に干渉させやすくなる利点もある。
【0020】
本発明は、上述した種々の特徴を全て備えている必要はなく、適宜、その一部を省略したり組み合わせたりして構成してもよい。
また、本発明は、上述したイオンビーム照射装置としての構成だけでなく、かかるイオンビーム照射装置を用いてイオンビームを照射するイオンビーム照射方法など、種々の態様をとることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】実施例としてのイオンビーム照射装置の全体構成を示す説明図である。
【
図2】境界電極、高周波電極の構成を示す説明図である。
【
図3】高周波電界による発散角への影響を示す説明図である。
【
図4】制御用電界による発散角の制御例を示す説明図である。
【
図5】変形例としてのイオンビーム照射装置の全体構成を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施例について説明する。
図1は、実施例としてのイオンビーム照射装置の全体構成を示す説明図である。
イオンビーム照射装置10は、いわゆる高周波(RF)方式でプラズマを生成する装置であり、プラズマ生成部11は、プラズマ12を生成させ、保持する容器である。プラズマ生成部11の上方には、プラズマを生成するためのコイル、即ち高周波アンテナ13が取り付けられている。高周波アンテナ13に高周波を通電し、高周波電場、即ちプラズマ生成電場を生じさせると、プラズマ生成部11の内部のガスがプラズマ12となる。
【0023】
プラズマ生成部11は、図の下方が開口部となっている。ここにはプラズマからイオンビームを照射するための境界電極15、引出電極16、接地電極17が設けられている。
プラスのイオンビームを照射する場合、境界電極15は正極となり、引出電極16は負極となるよう電源に接続される。マイナスのイオンビームを照射する場合には、逆に境界電極15を負極、引出電極16を正極とする。
境界電極15、引出電極16の作用によって、プラズマは、イオンビームとして照射孔Hから照射される。
【0024】
照射したイオンビームが拡散する角度(以下、「発散角」という)は、平行なビームが照射される状態(発散角0度)を基準として、イオンビームの半頂角で表す。拡散するときはプラスの値となり、収束するときはマイナスの値となる。
高周波アンテナ13で生じたプラズマ生成電場RF1は、図示するように開口部に向かって伝播し、プラズマ生成部11の境界のプラズマ12と外気の界面(以下、「プラズマ界面」という)を振動させる。この結果、実施例のような高周波(RF)方式のイオンビーム照射装置10では、イオンビームの発散角はプラスとなり、イオンビームが拡散する傾向にある。
【0025】
本実施例のイオンビーム照射装置10は、発散角を制御するための機構として、境界電極15の上方、即ちプラズマ生成部11の内側に制御用電極14が設けられている。制御用電極14の役割は次の通りである。
制御用電極14に通電すると、高周波電場、即ち制御用電場RF2が生じる。この制御用電場RF2は、プラズマ生成電場RF1と干渉し、プラズマ生成電場RF1によるプラズマ界面への影響を変化させる。この結果、プラズマ・ビーム界面の振動が変化し、イオンビームの発散角を変化させることができるのである。
【0026】
制御用電極14は、任意の位置に設けることができるが、本実施例では、境界電極15を基準として、高周波アンテナ13の中央までの高さh2を350mmとし、制御用電極14までの高さh1を10mmとした。高周波アンテナ13から遠方では、プラズマ生成電場RF1は減衰するため、このように制御用電極14を高周波アンテナ13から遠方、かつ境界電極15の近傍に設けることにより、制御用電場の強さを抑えながら効果的な制御を実現することができる。
これらの寸法は一例であり、図示したものに限定する趣旨ではない。
【0027】
発散角を制御するため、イオンビーム照射装置10は、以下の構成を備える。
空間電位プローブ18は、プラズマ界面近傍の電場を検出するセンサである。空間電位プローブ18は、任意の場所に設けることができるが、本実施例では、境界電極15と引出電極16との間に設けた。こうすることにより、プラズマ生成電場RF1に制御用電場RF2が干渉した結果を検知できるため、検出結果を発散角の制御に効果的に利用することができる。
空間電位プローブ18の検出結果は、電気信号として出力され、増幅器30で増幅され、位相調整回路31で位相を調整されて、高周波発信器32に入力される。高周波発信器32は、この信号に応じて制御用電極14に通電する。
こうすることで、空間電位プローブ18の検出結果に応じて制御用電場を発生させることができる。
【0028】
図2は、境界電極、高周波電極の構成を示す説明図である。
図2(a)に斜視図を示し、
図2(b)に側面図を示した。
境界電極15は、図示するように、複数の照射孔15hが2次元的に配列された形状となっている。図の例では、縦4×横4の16個の照射孔15hが示されているが、数および配列は任意に決めることができる。この一つ一つの照射孔15hに対向して、
図1に示したように高周波アンテナ13が設けられている。かかる配置にすることで、プラズマ生成電場が照射孔15hに直交して入射することとなり、制御用電場と偏り無く干渉できる利点がある。もっとも、複数の照射孔15hに対して、高周波アンテナ13を設けたり、照射孔15hの位置に無関係に高周波アンテナ13を設ける態様を排除するものではない。
【0029】
制御用電極14は、図示するように、照射孔15hに対向する位置に貫通孔14hを設けた平板状の電極である。即ち、制御用電極14は、複数の照射孔15hの隙間に対向する位置に設置されていることになる。こうすることで、照射孔15hからのイオンビームの照射への干渉を回避することができる。
制御用電極14と境界電極15の間には絶縁体19が挟まれており、両者の絶縁を確保しながら一体化している。
図の例では、制御用電極14を1枚の板で構成しているが、複数の部材に分けてもよい。
【0030】
境界電極15と制御用電極14の間には、空間電位プローブ18が挿入されている。空間電位プローブ18も、照射孔15hの位置を回避して挿入することが好ましい。
【0031】
イオンビーム照射装置10は、以上の構造により、イオンビームの発散角を制御しながらイオンビームを照射することができる。以下、その作用について説明する。
【0032】
図3は、高周波電界による発散角への影響を示す説明図である。
図3(a)には実験に用いたイオンビーム照射装置の構造を示し、
図3(b)には実験結果を示した。
図3(a)に示すイオンビーム照射装置は、フィラメントアーク方式でプラズマを生成し、イオンビームを照射する装置である。プラズマ生成部11Aには、フィラメント13Aが取り付けられており、フィラメント13Aから放出される電子によってプラズマ12Aを生成する。プラズマ生成部11Aの下方は開口部となっており、境界電極15A、引出電極16A、接地電極17Aが取り付けられている。また、境界電極15Aよりプラズマ生成部11Aの内側には、制御用電極14Aが設けられている。
【0033】
フィラメントアーク方式でプラズマを生成する場合は、高周波(RF)方式とは異なり、プラズマ生成電界が存在しないから、プラズマ界面の変動はなく、イオンビームはさほど拡散せずに照射される(
図3(a)の破線で示したビームB2の状態)。
この状態で、制御用電極14Aに高周波を通電したところ、
図3(a)の実線で示したビームB1のように収束した状態(発散角がマイナスの状態)からビームB2を経て、一点鎖線で示したビームB3のように拡散した状態(発散角がプラスの状態)まで周期的に変動した。
【0034】
図3(b)に計測結果を示した。縦軸は、イオンビームの照射幅Wを、その平均値W0で正規化した値である。図示する通り、正規化した照射幅は、0.9~1.1の範囲で周期的に変動していることが分かる。この周期は、制御用電極14Aに通電した高周波の周期と同期していた。
このことから、制御用電極14Aへの通電によって生じる制御用電場が、プラズマ界面を
図3(a)中の面S1から面S2まで矢印Sのように変動させることによって、ビームB1~B3の変化が生じるということが確認された。従って、プラズマ界面に作用する電場を制御すれば、イオンビームの発散角が制御できることになる。
なお、上記実験は、同時に、高周波電極による発散角の制御は、高周波(RF)方式だけでなく、プラズマアーク方式でも適用可能であることを示している。
【0035】
図4は、制御用電界による発散角の制御例を示す説明図である。
図4(a)は、プラズマ生成電界RF1と、制御用電界RF2の位相が反転している状態を示している。こうすることにより、両者の干渉によって、プラズマ界面SSに作用する電界は抑制されることになる。従って、イオンビームBは、ほぼ平行または収束する状態となる。かかる状態では、イオンビームのエネルギーが集約されることになるから、核融合や加速器などエネルギーを効果的に与える分野で有用である。
【0036】
図4(b)は、プラズマ生成電界RF1と制御用電界RF2の位相が同期している状態を示している。こうすることにより、プラズマ界面SSは、両者の増幅作用によって電界の影響が増大し、図中の矢印で示すように大きく振動する。この結果、イオンビームBは、拡散するようになる。
かかる状態は、半導体基板への照射、成膜、エッチングなど広範囲にイオンビームを照射する場合に有用である。
【0037】
図4で示した状態は、一例に過ぎず、制御用電極14への通電を制御することにより、プラズマ生成電界と制御用電界の干渉状態を種々変化させることができるため、それに応じてイオンビームの発散角を制御することができる。
実際に使用する際には、空間電位プローブ18で検出された電場が目標の状態となるようにフィードバック制御によって制御用電場を制御してもよい。
また、フィードバック制御によらず、所望の発散角が得られるように位相調整回路31で位相を調整した状態で運用してもよい。
【0038】
以上で説明した実施例のイオンビーム照射装置によれば、制御用電極への通電を制御することによりイオンビームの発散角を制御することが可能となる。
実施例では、高周波(RF)方式によりプラズマを生成させるものを例示したが、本発明は、フィラメントアーク方式にも適用可能である。
【0039】
図5は、変形例としてのイオンビーム照射装置の全体構成を示す説明図である。フィラメントアーク方式によるイオンビーム照射装置に適用した例を示した。
図5(a)に装置の概要を示した。
変形例の装置では、図示しないフィラメント(
図3参照)から放出される電子によってプラズマ12Bを生成する。装置の下方は開口部となっており、境界電極15B、引出電極16B、接地電極17Bが取り付けられている。これらの電極には、引出電源20、加速電源21が接続されている。また、境界電極15Bより内側には、制御用電極14Bが設けられている。制御用電極14Bには、高周波発信器32が接続されている。
【0040】
変形例の装置において、高周波発信器32から高周波を通電すると、高周波電界によって、プラズマ12Bの界面が振動し、ビーム幅が狭いイオンビームBnから、広いイオンビームBwまで変化しながら照射される。変形例の装置では、実施例と異なり、プラズマを発生させるための高周波は存在しないから、収束幅は、制御用電極14による電界の影響をそのまま受けることになる。
【0041】
こうして照射されたイオンビームを、試料台22に載置した試料23に照射することで、イオンビームの分布を制御することが可能となる。
図5(b)は、試料23の平面図であり、イオンビームの分布を示している。イオンビームの収束幅が狭いスポットSnと、広いスポットSwが、それぞれのイオンビームの照射に対して生じることになる。この図では、広いスポットSwは、試料全面に対して照射されており、狭いスポットSnは分散した状態で照射されている。
【0042】
スポットの範囲は、試料台22を
図5(a)中の矢印Mvに示すように上下方向に移動することで調整することができる。また、試料台22を矢印Mhのように水平方向に1次元的または2次元的に移動可能としておけば、試料23に対して照射の偏りを緩和し、均一性を向上させることが可能となる。
なお、試料台22を移動可能とする構成は、フィラメントアーク方式に限られるものではなく、高周波によってプラズマを生成するタイプでも適用可能である。
【0043】
以上で説明した通り、高周波によるイオンビームの発散角の制御は、フィラメントアーク方式にも有用に適用することができる。
【0044】
以上で実施例および変形例の装置を説明したが、イオンビームの発散角の制御は、他にも種々の態様で調整または制御することができる。
例えば、位相調整回路31で制御用電極14の高周波の位相を種々に変化させることで、予め位相と発散角との相関を把握しておいても良い。こうすることで、所望の発散角に応じた位相を速やかに設定することができる。また、相関をデータ化し制御装置に記憶しておくことで、自動的に位相を決定するようにしてもよい。
制御用電極14の制御対象は位相だけではない。周波数および電流(電場の強さ)を制御対象としてもよい。
また、制御用電極14と高周波発信器32との間にダイオードを介在させるなどして、プラス側またはマイナス側の電流のみが流れるようにしてもよい。こうすることで、プラズマ生成電界のうちプラス側またはマイナス側のみを相殺または増幅させることができ、ビームを平行状態から拡散状態の間、または平衡状態から収束状態の間などで変化させることも可能となる。
制御用電極14には、高周波に限らず、低い周波数の電流を通電してもよい。
これらの制御は、コンピュータを用いた制御装置にプログラムを組み込むことで、ソフトウェア的に実現してもよいし、ハードウェア的に実現してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は、プラズマを生成させ、イオンビームを照射する際に、イオンビームの発散角を制御するために利用することができる。
【符号の説明】
【0046】
10 イオンビーム照射装置
11、11A プラズマ生成部
12、12A プラズマ
13 高周波アンテナ
13A フィラメント
14、14A、14B 高周波電極
14h 貫通孔
15、15A、15B 境界電極
15h 照射孔
16、16A、16B 引出電極
17、17A、17B 接地電極
18 空間電位プローブ
19 絶縁体
20 引出電源
21 加速電源
22 試料台
23 試料
30 増幅器
31 位相調整回路
32 高周波発信器