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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024179789
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】溶接検査方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/24 20060101AFI20241219BHJP
   G01N 29/11 20060101ALI20241219BHJP
   G01N 29/48 20060101ALI20241219BHJP
   B23K 31/00 20060101ALI20241219BHJP
   B23K 26/36 20140101ALI20241219BHJP
   B23K 9/167 20060101ALI20241219BHJP
   B23K 9/173 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
G01N29/24
G01N29/11
G01N29/48
B23K31/00 L
B23K26/36
B23K9/167 A
B23K9/173 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023098925
(22)【出願日】2023-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】新田 誠也
(72)【発明者】
【氏名】門田 圭二
(72)【発明者】
【氏名】田中 利幸
(72)【発明者】
【氏名】浅井 知
(72)【発明者】
【氏名】野村 和史
【テーマコード(参考)】
2G047
4E001
4E168
【Fターム(参考)】
2G047AA06
2G047AB07
2G047AD03
2G047BA03
2G047BC03
2G047BC09
2G047CA04
2G047DB03
2G047GD01
2G047GG20
2G047GG28
2G047GG33
4E001AA03
4E001BB07
4E001BB08
4E001CA01
4E001CC02
4E001DD02
4E001DD04
4E001DG04
4E001QA03
4E168AD18
4E168CA03
4E168CA07
4E168CB04
4E168DA24
4E168DA43
4E168EA15
4E168EA17
4E168JA02
(57)【要約】
【課題】溶接部の表面に溶接時に発生した不純物が付着している場合であっても、溶接部の内部欠陥を適切に検出する。
【解決手段】溶接検査方法は、表面処理装置を用いて溶接部の表面の不純物を除去するステップS102と、不純物が除去された後の溶接部の表面に送信用レーザ光を照射するステップS110と、母材の下面で反射した反射超音波を検出するステップS120と、反射超音波の検出結果により溶接部の内部欠陥の有無を判定するステップS150とを含む。
【選択図】図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接部を検査する溶接検査方法であって、
前記溶接部の表面の不純物を除去するステップと、
不純物が除去された後の前記溶接部の表面に、検査対象の内部に超音波を励起するための送信用レーザ光を照射するステップと、
前記送信用レーザ光によって励起された超音波を検出するステップと、
前記超音波の検出結果により前記溶接部の内部欠陥の有無を判定するステップとを含む、溶接検査方法。
【請求項2】
前記不純物を除去するステップは、前記送信用レーザ光を前記溶接部の表面に照射することによって前記不純物を除去するステップを含む、請求項1に記載の溶接検査方法。
【請求項3】
前記超音波を検出するステップは、前記検査対象の母材下面で反射した反射超音波を検出可能な前記検査対象上の所定位置に、前記反射超音波を検出するための受信用レーザ光を照射するステップを含む、請求項1に記載の溶接検査方法。
【請求項4】
溶接の実行中にインプロセスで行なわれる、請求項1に記載の溶接検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、溶接検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許第5651533号公報(特許文献1)には、溶接部に発生したブローホール等の内部欠陥を非破壊で検出する溶接検査方法が開示されている。この溶接検査方法では、溶接ビードの上方からビード表面に送信用レーザ光を照射し、欠陥で反射する超音波(散乱波)を検出することにより、溶接部の内部欠陥を検出するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5651533号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許第5651533号公報に開示された溶接検査方法において、溶接ビードにおける送信用レーザ光の照射面にスラグ等の不純物があると、超音波の発生の妨げになり、検査不良の要因となることが懸念される。
【0005】
それゆえに、本開示の目的は、溶接部の表面に不純物が付着している場合であっても、溶接部の内部欠陥を適切に検出することができる溶接検査方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(第1項) 本開示による溶接検査方法は、溶接部を検査する溶接検査方法であって、溶接部の表面の不純物を除去するステップと、不純物が除去された後の溶接部の表面に、検査対象の内部に超音波を励起するための送信用レーザ光を照射するステップと、送信用レーザ光によって励起された超音波を検出するステップと、超音波の検出結果により溶接部の内部欠陥の有無を判定するステップとを含む。
【0007】
この溶接検査方法によれば、溶接部の表面に送信用レーザ光が照射される前に、溶接部の表面に付着している不純物が除去される。そのため、溶接部の表面に不純物が付着している場合であっても、溶接部の内部欠陥を適切に検出することができる。
【0008】
(第2項) 第1項に記載の溶接検査方法において、不純物を除去するステップは、送信用レーザ光を溶接部の表面に照射することによって不純物を除去するステップを含む。
【0009】
(第3項) 第1項に記載の溶接検査方法において、超音波を検出するステップは、検査対象の母材下面で反射した反射超音波を検出可能な検査対象上の所定位置に、反射超音波を検出するための受信用レーザ光を照射するステップを含む。
【0010】
(第4項) 第1項に記載の溶接検査方法は、溶接の実行中にインプロセスで行なわれる。
【発明の効果】
【0011】
上記の溶接検査方法によれば、溶接部の表面に不純物が付着している場合であっても、溶接部の内部欠陥を適切に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】溶接検査方法が適用される溶接システムの全体構成図(その1)である。
図2】溶接部の内部欠陥の検出原理を説明する図(その1)である。
図3】溶接部の内部欠陥の検出原理を説明する図(その2)である。
図4】送信用レーザ光の照射位置と、超音波受信点における超音波の到達時間との関係を示した図である。
図5】超音波送信点の位置と、超音波受信点における超音波の強度との関係を示した図である。
図6】溶接部における内部欠陥の有無の判定方法を説明する図である。
図7】溶接部の表面に不純物(スラグ)が膜状に付着している状態を示す図である。
図8】制御装置の処理手順の一例を示すフローチャート(その1)である。
図9】溶接検査方法が適用される溶接システムの全体構成図(その2)である。
図10】制御装置の処理手順の一例を示すフローチャート(その2)である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一又は相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0014】
図1は、本実施の形態による溶接検査方法が適用される溶接システム100の全体構成図である。この溶接システム100は、たとえば薄板(母材102,104)の重ね隅肉溶接における溶接部(溶接ビード)106の検査に用いられる。母材102,104は、例えば、板厚が1~2mm程度の亜鉛メッキ鋼板である。なお、図中、Y方向は、溶接進行方向を示し、Z方向は母材102,104の法線方向を示し、X方向はY方向およびZ方向に直交する方向を示す。
【0015】
溶接システム100は、ロボットアーム110と、溶接トーチ112と、ワイヤ118と、溶接電源120と、コントローラ122とを備える。
【0016】
ロボットアーム110は、多関節のアームであり、例えば6軸多関節アームである。ロボットアーム110は、設定された溶接速度で溶接トーチ112により母材102,104の溶接を行なうように、コントローラ122により制御される。
【0017】
溶接トーチ112は、母材102,104の接合部に向けて、溶接ワイヤ及び図示しないシールドガス(アルゴンガスや炭酸ガス等)を供給する。溶接トーチ112は、溶接電源120からワイヤ118を通じて溶接電流の供給を受け、溶接ワイヤの先端と母材102,104の接合部との間にアーク114を発生させる。
【0018】
なお、溶接ワイヤに代えて、溶接金属を形成するためのフィラー(溶加材)を添加しつつ非消耗材の電極(タングステン等)を用いてもよい。すなわち、溶接トーチ112によるアーク溶接は、溶接ワイヤを用いる溶極式(マグ溶接やミグ溶接等)であってもよいし、フィラーの添加を伴う非溶極式(ティグ溶接等)であってもよい。
【0019】
溶接電源120は、アーク溶接を行なうための溶接電圧及び溶接電流を生成し、生成された溶接電圧及び溶接電流を溶接トーチ112へ出力する。
【0020】
コントローラ122は、CPU(Central Processing Unit)と、メモリ(RAM(Random Access Memory)及びROM(Read Only Memory))と、各種信号を入出力するための入出力ポートとを含んで構成される(いずれも図示せず)。CPUは、ROMに格納されているプログラムをRAMに展開して実行する。ROMに格納されているプログラムには、コントローラ122により実行される各種処理が記述されている。
【0021】
コントローラ122は、設定された溶接速度で溶接トーチ112により母材102,104の溶接を行なうように、ロボットアーム110の動作及び溶接電源120の出力を制御する。その際、コントローラ122は、溶接検査ヘッド130(後述)の位置が溶接トーチ112の溶接進行方向後方となるように、ロボットアーム110を制御する。
【0022】
また、コントローラ122は、溶接検査ヘッド130を制御する制御装置164と連係し、制御装置164と各種信号をやり取りする。例えば、コントローラ122は、溶接トーチ112による溶接の開始、停止、継続、および溶接速度を制御装置164へ通知する。また、コントローラ122は、溶接部の内部欠陥が検出されたことを示す欠陥検出信号を制御装置164から受けると、溶接トーチ112による溶接を停止したり、溶接条件を変更したりすることもできる。
【0023】
溶接システム100は、溶接検査ヘッド130と、光ファイバ142,148と、リンク150と、送信用レーザ源160と、受信用レーザ源162と、制御装置164とをさらに備える。
【0024】
溶接検査ヘッド130は、送信用レーザ光照射装置134と、受信用レーザ光プローブ144とを備える。送信用レーザ光照射装置134及び受信用レーザ光プローブ144は、取付部材132に取り付けられる。取付部材132は、リンク150によってロボットアーム110に連結されている。
【0025】
送信用レーザ光照射装置134は、マイクロチップレーザ136と、走査機構138と、フォトディテクタ140とを含んで構成される。マイクロチップレーザ136は、例えばYAG結晶を用いた小型の固体レーザであり、送信用レーザ源160から光ファイバ142を通じて励起光を受け、高出力のパルスレーザ光を発生する。
【0026】
走査機構138は、マイクロチップレーザ136が発生したパルスレーザ光の照射位置を、溶接方向(Y方向)および溶接幅方向(X方向)の2軸に走査するための機構を含む。走査機構138は、例えば、角度を調整可能なガルバノミラーと、ガルバノミラーを駆動する駆動機構とを含んで構成される。溶接検査中において、走査機構138の駆動機構は、送信用レーザ光152(パルスレーザ光)が照射される超音波送信点群154が溶接ビード106の幅方向(X方向)全域を含むように、制御装置164によって制御される。
【0027】
フォトディテクタ140は、送信用レーザ光152(パルスレーザ光)の発振を検出し、パルスレーザ光が発振される毎にトリガ信号Trを制御装置164へ出力する。
【0028】
受信用レーザ光プローブ144は、受信用レーザ源162から光ファイバ148を通じて受ける受信用レーザ光156(参照光)を、母材104上においてX方向の所定位置である超音波受信点158に照射する。また、受信用レーザ光プローブ144は、母材104に照射した受信用レーザ光156の、母材104からの反射光を受光し、光ファイバ148を通じて受信用レーザ源162へ出力する。
【0029】
受信用レーザ源162は、レーザ干渉計を含んで構成され、母材104へ照射される受信用レーザ光156(参照光)を、光ファイバ148を通じて受信用レーザ光プローブ144へ出力する。そして、受信用レーザ源162は、受信用レーザ光プローブ144により受光された母材104からの受信用レーザ光156の反射光を受信用レーザ光プローブ144から受け、受信用レーザ光156の参照光と反射光とを含む干渉光の検出信号ISを制御装置164へ出力する。
【0030】
なお、送信用レーザ光152及び受信用レーザ光156の照射位置は、溶接中のインプロセスでの欠陥検出を考慮すると、溶接位置(溶融池116)に近いことが望ましく、例えば、溶融池116の溶接進行方向後方20~30mmとすることができる。
【0031】
制御装置164は、コントローラ122と同様、CPUと、メモリ(RAM及びROM)と、各種信号を入出力するための入出力ポートとを含んで構成される(いずれも図示せず)。CPUは、ROMに格納されているプログラムをRAMに展開して実行する。ROMに格納されているプログラムには、制御装置164により実行される各種処理が記述されている。
【0032】
制御装置164は、送信用レーザ光152(パルスレーザ光)が発振されるタイミングを示す、フォトディテクタ140からのトリガ信号Trを基準に、受信用レーザ光156の参照光と反射光との干渉光の検出信号ISを所定時間(例えば10μs)計測する。そして、制御装置164は、計測された干渉光の検出信号ISから、トリガ信号Trに対応する超音波受信点158での超音波の強度を計測する。
【0033】
制御装置164は、上記のような超音波受信点158での超音波の強度測定を、送信用レーザ光152の照射位置(超音波送信点)を溶接部106の幅方向(X方向)に走査しながら実施する。そして、制御装置164は、1走査分の測定が終了すると、下板(母材104)の下面で反射し超音波受信点158に到達した超音波(反射超音波)の減衰度に基づいて、溶接部106に内部欠陥が生じているか否かを判定する。
【0034】
この溶接システム100では、レーザ超音波法を用いて溶接部106の内部欠陥の検出を行なう。すなわち、検査対象の溶接部106に送信用レーザ光152を照射して検査対象の内部に超音波を発生させ、受信用レーザ光156が照射される超音波受信点158における超音波の強度に応じた表面振動を、受信用レーザ光156の参照光と反射光との干渉光により検出する。そして、溶接部106に内部欠陥が存在しない場合と存在する場合との検出差に基づいて、溶接部106の内部欠陥の有無が判定される。
【0035】
図2及び図3は、溶接システム100による溶接部の内部欠陥の検出原理を説明する図である。図2は、溶接部106に欠陥が無いときの状態を示し、図3は、溶接部106に内部欠陥(ブローホール等)が生じているときの状態を示す。
【0036】
図2を参照して、この溶接システム100では、溶接部106を含む領域に上方(Z方向)から送信用レーザ光152が照射され、レーザ光の照射位置に超音波を励起させる。発生した超音波は、溶接部106を通過し、下側の母材104の下面105で反射した後、母材104の上面に到達する。この到達した超音波により母材104の表面に生じた微細振動を、受信用レーザ光156を用いて計測することにより(レーザ干渉計を用いた干渉計測)、受信用レーザ光156の照射位置(超音波受信点158)における超音波の強度を測定する。
【0037】
送信用レーザ光152の照射位置は、走査機構138を用いてX方向に走査される。×印で示される超音波送信点群154は、パルスレーザ光である送信用レーザ光152の照射位置を示す。ある照射位置における測定が終了した後、次の位置へ送信用レーザ光152の照射位置が走査され、その照射位置における測定が行なわれる。
【0038】
受信用レーザ光156の照射位置は、母材104のX方向において固定される。○印で示される超音波受信点158は、受信用レーザ光156の照射位置を示す。超音波送信点群154の各々と超音波受信点158とのX方向の距離が大きいほど、超音波送信点群154の各々から超音波受信点158までの超音波の伝播時間が長くなり、拡散減衰によって超音波受信点158での超音波の強度(表面の微細振動)も減少する。
【0039】
図3を参照して、溶接部106にブローホール等の欠陥107が存在する場合、拡散減衰に加えて欠陥107での散乱減衰も生じるため、超音波受信点158に到達する超音波155の強度は、欠陥107が存在しない場合に比べて小さくなる(減衰が大きくなる)。したがって、超音波受信点158に到達する超音波の減衰度を捉えることにより、溶接部106の欠陥107の有無を判定することができる。
【0040】
図4は、送信用レーザ光152の照射位置と、超音波受信点158における超音波の到達時間との関係を示した図である。図4において、横軸は、送信用レーザ光152のX方向の照射位置(超音波送信点の位置)を示し、値が大きいほど超音波受信点158から離れていることを示す。縦軸は、送信用レーザ光152が照射されてから(超音波送信点において超音波が発生してから)超音波受信点158に超音波が到達するまでの時間を示す。
【0041】
図4において、線L1は、溶接部106及び母材104の表面を伝わった超音波(表面波)の到達時間を示す。線L2は、超音波送信点から溶接部106を通過して母材104の下面105で反射した超音波(反射波)の到達時間を示す。
【0042】
上記表面波の到達時間は、欠陥107の有無の影響を受けないため、超音波送信点の位置と到達時間との関係から、超音波受信点で検出された超音波が、表面波であるのか、それとも母材104の下面105で反射した超音波(反射波)であるのかを区別することができる。
【0043】
図5は、超音波送信点の位置と、超音波受信点における超音波の強度との関係を示した図である。図5において、横軸は、図4と同様に、超音波送信点の位置を示す。縦軸は、超音波受信点における、図4の反射波(線L2)の強度を示す。
【0044】
図5において、線L3は、溶接部106に内部欠陥が無い場合の、超音波受信点における反射波(図4の線L2)の強度を示す。超音波送信点の位置の値が大きいほど(超音波受信点から離れるほど)、拡散減衰によって信号強度が減衰する。
【0045】
線L4は、溶接部106に内部欠陥(ブローホール等)が存在する場合の、超音波受信点における反射波(図4の線L2)の強度を示す。超音波送信点の位置が図5に示す位置X1よりも大きい範囲では、超音波受信点に到達する反射波は、溶接部106に生じた内部欠陥を通過する。その際、拡散減衰に加えて内部欠陥での散乱減衰も生じるため、超音波受信点における反射波強度(線L4)は、内部欠陥が無い場合の反射波強度(線L3)に比べて小さくなる。すなわち、超音波受信点において、内部欠陥が生じているときの反射波の減衰度は、内部欠陥が無い場合に比べて大きくなる。
【0046】
図6は、溶接部106における内部欠陥の有無の判定方法を説明する図である。超音波受信点における反射波の強度について、超音波送信点の位置に応じた減衰度の大きさによって、溶接部106における内部欠陥の有無が判定される。すなわち、超音波送信点の位置に応じた上記減衰度が所定のしきい値よりも小さければ、内部欠陥は無いものと判定され、上記減衰度がしきい値よりも大きければ、検査対象の溶接部106に内部欠陥が生じているものと判定される。なお、しきい値は、事前の評価試験等により、内部欠陥の有無を区別可能な値に適宜設定される。
【0047】
<溶接部の表面の不純物除去>
溶接部106の表面には、溶接時に発生したスラグ等の不純物が付着している場合がある。スラグは、シリコン(Si)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)等の酸化物が、溶接部の表面に表出したものである。
【0048】
図7は、溶接部106の表面に不純物(スラグ)108が膜状に付着している状態を示す図である。溶接部106の表面に不純物108が付着していると、溶接検査において送信用レーザ光が不純物108に照射されることになり、超音波の発生の妨げになり得る。その結果、溶接検査不良の要因となることが懸念される。
【0049】
そこで、本実施の形態による溶接システム100は、図1に示されるように、表面処理装置200をさらに備える。表面処理装置200は、溶接部106の表面に付着している不純物108を除去するためのツールである。表面処理装置200は、溶接検査ヘッド130に連結されている。図1に示す例では、表面処理装置200は、リンク210によって溶接検査ヘッド130に連結されている。
【0050】
本実施の形態による表面処理装置200は、溶接部106の表面に接触して溶接部106の表面を機械的に除去する除去機構(ブラシ等)を有しており、この除去機構を用いて溶接部106の表面に付着している不純物108を除去する。なお、不純物を除去する手法は、溶接部106の表面を機械的に除去する手法に限定されない。たとえば、溶接部106の表面に付着している不純物108を除去するように出力が調整されたレーザ光照射装置によって表面処理装置200を構成するようにしてもよい。この場合、表面処理装置200から溶接部106の表面にレーザを照射することで、溶接部106の表面に付着している不純物108をレーザによるアブレーションで生じる衝撃で非接触で除去することができる。
【0051】
制御装置164は、溶接検査を行なう際、以下の第1工程~第4工程の処理をこの順で行なう。
【0052】
(第1工程)表面処理装置200を用いて溶接部106の表面の不純物を除去する。
【0053】
(第2工程)不純物が除去された後の溶接部106の表面に送信用レーザ光を照射する。
【0054】
(第3工程)母材104の下面105で反射した超音波(反射波)を検出する。
【0055】
(第4工程)反射波の検出結果により溶接部106の内部欠陥の有無を判定する。
【0056】
なお、本実施の形態による表面処理装置200の位置は、図1に示されるように、表面処理装置200による除去位置が溶融池116(溶接トーチ112による溶接位置)よりも溶接進行方向後方であって、かつ超音波送信点群154(送信用レーザ光152の照射位置)よりも溶接進行方向前方となるように、予め調整されている。これにより、溶接中にインプロセスで溶接検査を行なう場合において、送信用レーザ光152が溶接部106の表面に照射される前に、溶接部106の表面の不純物を表面処理装置200によって除去しておくことができる。
【0057】
図8は、本実施の形態による制御装置164が溶接中にインプロセスで溶接検査を行なう場合の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【0058】
制御装置164は、表面処理装置200を作動させて溶接部106の表面の不純物を除去する(ステップS102)。なお、溶接中は溶接トーチ112とともに溶接検査ヘッド130も溶接進行方向(Y方向)に移動するところ、表面処理装置200は溶接検査ヘッド130に連結されており、さらに、表面処理装置200による除去位置は、上述のように、溶融池116よりも溶接進行方向後方であって、かつ、超音波送信点群154よりも溶接進行方向前方となるように調整されている。そのため、以降のステップで送信用レーザ光152が照射される位置においては、既に不純物が除去された状態となる。なお、ステップS102の処理は、上述の「第1工程」に対応する。
【0059】
次いで、制御装置164は、送信用レーザ光152を溶接部106のX方向所定位置に照射するように、走査機構138を制御する(ステップS110)。1回の走査における送信用レーザ光152の各照射点のX方向の位置は予め定められており、溶接部106を含む領域において所定数(たとえば20点)の照射位置が定められている。なお、ステップS110の処理は、上述の「第2工程」に対応する。
【0060】
次いで、フォトディテクタ140により送信用レーザ光152(パルスレーザ光)の発振(照射)が検出され、このパルス照射に対応する超音波の検出の開始を示すトリガ信号Trがフォトディテクタ140から制御装置164へ送信される(ステップS115)。
【0061】
制御装置164は、トリガ信号Trを基準に、レーザ干渉計により取得される受信用レーザ光156の干渉光に基づく超音波受信点158での超音波の強度を所定時間(例えば10μs)計測する(ステップS120)。なお、ステップS115,S120の処理は、上述の「第3工程」に対応する。
【0062】
次いで、制御装置164は、送信用レーザ光152の1走査分の計測が完了したか否かを判定する(ステップS125)。具体的には、X方向において予め定められた照射位置の全てにおいて計測が完了したか否かが判定される。1走査分の計測が完了していない場合には(ステップS125においてNO)、制御装置164は、送信用レーザ光152の照射位置を次の位置に更新する(ステップS130)。そして、ステップS110へ処理が戻される。
【0063】
ステップS125において送信用レーザ光152の1走査分の計測が完了したと判定されると(ステップS125においてYES)、制御装置164は、1走査分の計測結果に基づいて、1走査分の溶接部106中に内部欠陥があるか否かを判定する(ステップS150)。
【0064】
具体的には、制御装置164は、1走査分の計測結果から、X方向に走査される送信用レーザ光152の照射位置(超音波送信点)毎に、受信用レーザ光156の照射位置(超音波受信点)における反射波(母材104の下面で反射して超音波受信点158に到達した超音波)の信号を抽出する。そして、制御装置164は、その抽出された反射波信号について、送信用レーザ光152の照射位置(送信位置)に応じた超音波の減衰度を算出し、算出された減衰度がしきい値よりも大きいか否かを判定する。このしきい値は、事前の評価試験により、内部欠陥の有無を区別可能な値に適宜設定される。そして、減衰度がしきい値よりも大きい場合に、制御装置164は、1走査分の溶接ビード106中に内部欠陥があると判定する。なお、ステップS150の処理は、上述の「第4工程」に対応する。
【0065】
ステップS150にて内部欠陥があると判定された場合(ステップS150においてYES)、制御装置164は、溶接部106において欠陥が検出されたことを示す欠陥検出信号をロボットアーム側のコントローラ122へ出力する(ステップS152)。その後、制御装置164は、ステップS160へ処理を移行する。
【0066】
他方、ステップS150にて内部欠陥があると判定されない場合(ステップS150においてNO)、制御装置164は、ステップS152の処理を実行することなくステップS160へ処理を移行する。
【0067】
次いで、制御装置164は、溶接の継続要否を示すコントローラ122からの信号に基づいて、溶接が継続されるか否かを判定する(ステップS160)。そして、溶接が継続される場合には(ステップS160においてYES)、制御装置164は、次の計測ラインでの計測に移行し(ステップS165)、ステップS110へ処理を戻す。
【0068】
他方、ステップS160において、コントローラ122からの信号に基づいて溶接の停止が判定された場合には(ステップS160においてNO)、制御装置164は、溶接検査の処理を終了する。
【0069】
以上のように、本実施の形態による溶接検査方法は、表面処理装置200を用いて溶接部106の表面の不純物を除去するステップ(第1工程)と、不純物が除去された後の溶接部106の表面に送信用レーザ光を照射するステップ(第2工程)と、母材104の下面105で反射した反射超音波を検出するステップ(第3工程)と、反射超音波の検出結果により溶接部106の内部欠陥の有無を判定するステップ(第4工程)とを含む。
【0070】
このような溶接検査方法によれば、溶接部106の表面に溶接時に発生した不純物が付着している場合であっても、溶接部106の表面に送信用レーザ光を照射する前に、当該不純物が除去される。そのため、溶接部106の表面に溶接時に発生した不純物が付着している場合であっても、溶接部106の内部欠陥を適切に検出することができる。
【0071】
[変形例1]
上述の実施の形態においては、溶接部106の表面に付着している不純物108を除去するための専用の表面処理装置200を備える例について説明した。しかしながら、専用の表面処理装置200を設けることなく、送信用レーザ光を用いて、溶接部106の表面に付着している不純物108を除去するようにしてもよい。
【0072】
図9は、本変形例2による溶接検査方法が適用される溶接システム100Aの全体構成図である。この溶接システム100Aは、上述の溶接システム100から、表面処理装置200およびリンク210を取り除いたものである。
【0073】
この溶接システム100Aにおいては、送信用レーザ光照射装置134に送信用レーザ光を走査する走査機構138(ガルバノミラー等)が備えられることに鑑み、送信用レーザ光152aを溶接部106の表面に照射して溶接部106の表面に付着している不純物を除去するように走査機構138を制御するようにし、不純物が除去された後の溶接部106の表面に送信用レーザ光152を照射するように走査機構138を制御する。これにより、送信用レーザ光を不純物除去用として用いることができる。その結果、専用の表面処理装置200を設けることなく、溶接部106の内部欠陥を適切に検出することができる。
【0074】
図10は、本変形例1による制御装置164が溶接中にインプロセスで溶接検査を行なう場合の処理手順の一例を示すフローチャートである。図10のフローチャートは、上述の図8のステップS102をステップS102Aに変更したものである。
【0075】
まず、制御装置164は、溶接部106の次の1走査予定分の表面に送信用レーザ光152aを照射して次の1走査予定分の表面に付着している不純物を除去するように、走査機構138を制御する(ステップS102A)。
【0076】
次いで、制御装置164は、送信用レーザ光152を1走査分の表面に照射して溶接検査を行なう(ステップS110~S152)。
【0077】
そして、溶接が継続される場合には(ステップS160においてYES)、制御装置164は、次の計測ラインでの計測に移行し(ステップS165)、ステップS102Aへ処理を戻す。そして、溶接の停止が判定された場合には(ステップS160においてNO)、制御装置164は、溶接検査の処理を終了する。
【0078】
以上のように、送信用レーザ光152を溶接部106の表面に照射することによって、溶接部106の表面に付着している不純物108を除去するようにしてもよい。
【0079】
[変形例2]
上述の実施の形態による溶接検査方法では、溶接部106の表面に不純物108が付着しているか否かを検証することなく、常時、表面処理装置200による不純物除去を行なう。
【0080】
これに対し、溶接部106の表面に不純物108が付着しているか否かを事前に検証した上で、不純物108が付着しているとの検証結果が出た場合に限って、表面処理装置200による不純物除去を行なうようにしてもよい。具体的には、たとえば、まず表面処理装置200による不純物除去を行なうことなく1回目の溶接検査を行ない、1回目の溶接検査結果に基づいて溶接部106の表面に不純物が付着しているか否かを推測する。そして、1回目の溶接検査結果から不純物が付着していないと推測される場合には、溶接検査を終了する。一方、1回目の溶接検査結果から不純物が付着していると推測される場合には、表面処理装置200による不純物除去を行なって2回目の溶接検査を行なう。このように変形することによって、溶接部106の表面に不純物108が付着していない場合にまで表面処理装置200による不純物除去が行なわれることを回避し易くすることができる。その結果、溶接検査を効率的に行なうことができる。
【0081】
[変形例3]
上述の実施の形態による溶接検査方法においては受信用レーザ光プローブ144から超音波受信点158に受信用レーザ光を照射して反射波を非接触で検出するが、反射波を検出する手法は必ずしも非接触であることに限定されない。たとえば、超音波受信点158に接触して超音波受信点158の反射波を検出する装置(接触子)を配置し、当該装置で反射波を検出してもよい。
【0082】
[変形例4]
上述の実施の形態による溶接検査方法においては送信用レーザ光によって励起されて母材104の下面105で反射した超音波(反射波)を検出するが、検出対象となる超音波は、送信用レーザ光によって励起された超音波であればよく、必ずしも母材104の下面105で反射した超音波に限定されるものではない。
【0083】
[変形例5]
上述の実施の形態による溶接システム100においては表面処理装置200が溶接検査ヘッド130に連結されているが、表面処理装置200は、必ずしも溶接検査ヘッド130に連結されていることに限定されない。すなわち、溶接検査ヘッド130と表面処理装置200とは、互いに異なるロボットに搭載されていてもよい。
【0084】
上述の実施の形態およびその変形例1-5に示す形態は、技術的に矛盾が生じない範囲で適宜組合せることも可能である。
【0085】
今回開示された実施の形態は、全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示により示される技術的範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0086】
100,100A 溶接システム、102,104 母材、105 下面、106 溶接部、107 内部欠陥、108 不純物、110 ロボットアーム、112 溶接トーチ、114 アーク、116 溶融池、118 ワイヤ、120 溶接電源、122 コントローラ、130 溶接検査ヘッド、132 取付部材、134 送信用レーザ光照射装置、136 マイクロチップレーザ、138 走査機構、140 フォトディテクタ、142,148 光ファイバ、144 受信用レーザ光プローブ、150,210 リンク、152,152a 送信用レーザ光、154 超音波送信点群、155 超音波、156 受信用レーザ光、158 超音波受信点、160 送信用レーザ源、162 受信用レーザ源、164 制御装置、200 表面処理装置。
図1
図2
図3
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図5
図6
図7
図8
図9
図10