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特開2024-179810材料分析支援装置、材料分析支援方法、及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024179810
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】材料分析支援装置、材料分析支援方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G06T 7/00 20170101AFI20241219BHJP
【FI】
G06T7/00 350C
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023098957
(22)【出願日】2023-06-16
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.PYTHON
(71)【出願人】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】100096091
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 誠一
(72)【発明者】
【氏名】小野 眞
(72)【発明者】
【氏名】石田 俊樹
(72)【発明者】
【氏名】新井 達也
【テーマコード(参考)】
5L096
【Fターム(参考)】
5L096BA08
5L096BA18
5L096DA02
5L096GA19
5L096HA09
5L096HA11
5L096JA11
5L096KA04
(57)【要約】
【課題】 複数のグループ間で品質上の違いが生じた要因を即座に分析するための材料分析支援装置等を提供する。
【解決手段】 材料分析支援装置10は、複数の材料画像1とそれぞれに割り当てられたグループ情報2を用いて、材料画像1を分類するための分類モデル3を作成する分類モデル作成部21と、分類モデル3による材料画像1の分類根拠を説明するための説明モデル4を作成する説明モデル作成部31と、説明モデル4を用いて、1つ以上の材料画像1について、当該材料画像1の分類根拠を定量化した説明画像5を作成する説明画像作成部33と、説明画像5を可視化する説明画像出力部35と、を備える。また、材料分析支援装置10は、分類モデル3により材料画像1を分類した分類結果を、カイ二乗検定を用いて検証する分類モデル検証部23を備える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の材料画像とそれぞれに割り当てられたグループ情報を用いて、前記材料画像を分類するための分類モデルを作成する分類モデル作成部と、
前記分類モデルによる前記材料画像の分類根拠を説明するための説明モデルを作成する説明モデル作成部と、
前記説明モデルを用いて、1つ以上の前記材料画像について、当該材料画像の分類根拠を定量化した説明画像を作成する説明画像作成部と、
前記説明画像を可視化する説明画像出力部と、
を備えることを特徴とする材料分析支援装置。
【請求項2】
前記説明画像作成部は、グループ毎に前記材料画像の分類根拠を定量化した説明画像を作成し、
前記説明画像出力部は、作成された各グループの前記説明画像を可視化する
ことを特徴とする請求項1に記載の材料分析支援装置。
【請求項3】
前記材料画像を領域毎に分割する領域分割部と、
前記材料画像に対応する前記説明画像を用いて、分割した領域毎に分類根拠を定量化した指標を集計する集計部と、
前記集計部の集計結果に基づいて、分割した領域を表示する領域分割画像の可視化を行う分割画像出力部と、を更に備える
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の材料分析支援装置。
【請求項4】
前記分割画像出力部は、前記集計結果に基づいて各領域の前記領域分割画像を整列して表示する、または、前記集計結果に基づいて特定の領域の前記領域分割画像を選択して表示する
ことを特徴とする請求項3に記載の材料分析支援装置。
【請求項5】
前記説明画像は、SHAP値に基づく画像である
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の材料分析支援装置。
【請求項6】
複数の材料画像とそれぞれに割り当てられたグループ情報を用いて、前記材料画像を分類するための分類モデルを作成する分類モデル作成部と、
前記分類モデルにより前記材料画像を分類した分類結果を、カイ二乗検定を用いて検証する分類モデル検証部と、
を備えることを特徴とする材料分析支援装置。
【請求項7】
コンピュータが、
複数の材料画像とそれぞれに割り当てられたグループ情報を用いて、前記材料画像を分類するための分類モデルを作成するステップと、
前記分類モデルによる前記材料画像の分類根拠を説明するための説明モデルを作成するステップと、
前記説明モデルを用いて、1つ以上の前記材料画像について、当該材料画像の分類根拠を定量化した説明画像を作成するステップと、
前記説明画像を可視化するステップと、
を実行することを特徴とする材料分析支援方法。
【請求項8】
コンピュータが、
複数の材料画像とそれぞれに割り当てられたグループ情報を用いて、前記材料画像を分類するための分類モデルを作成するステップと、
前記分類モデルにより前記材料画像を分類した分類結果を、カイ二乗検定を用いて検証するステップと、
を実行することを特徴とする材料分析支援方法。
【請求項9】
コンピュータを、
複数の材料画像とそれぞれに割り当てられたグループ情報を用いて、前記材料画像を分類するための分類モデルを作成する分類モデル作成部、
前記分類モデルによる前記材料画像の分類根拠を説明するための説明モデルを作成する説明モデル作成部、
前記説明モデルを用いて、1つ以上の前記材料画像について、当該材料画像の分類根拠を定量化した説明画像を作成する説明画像作成部、
前記説明画像を可視化する説明画像出力部、
として機能させるためのプログラム。
【請求項10】
コンピュータを、
複数の材料画像とそれぞれに割り当てられたグループ情報を用いて、前記材料画像を分類するための分類モデルを作成する分類モデル作成部、
前記分類モデルにより前記材料画像を分類した分類結果を、カイ二乗検定を用いて検証する分類モデル検証部、
として機能させることを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、材料分析支援装置、材料分析支援方法、及びプログラムに関し、詳細には、材料の品質管理における分析を支援する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
各種製造物の品質管理において、QC七つ道具という統計学を基礎とした分析手法が広く普及している。複数の製造設備、複数の製造ロット、複数の作業員、複数のベンダーなどのように何らかのグループの間で品質に違いがある場合、QC七つ道具のうち、層別とヒストグラムがよく使用される。層別は、品質管理のために取得されたデータをグループ毎に分類して、それぞれを比較することである。一方、ヒストグラムは、データのばらつきを可視化する手法である。さらに、層別とヒストグラムを組み合わせて、複数のグループの間のデータの差を統計的に分析するためには、統計的な仮説検定が使用される。2つのグループの差を分析する場合、平均値の差の検定や中央値の差の検定がよく使用される。また、3つ以上のグループの間の差を分析する場合には、分散分析(ANOVA)がよく使用される。
【0003】
金属、樹脂、磁石、セラミックなどの材料の新規開発や量産における品質管理では、電子顕微鏡、光学顕微鏡、電子マイクロアナライザなどを使用して、ミクロ組織を撮像し観察することが一般的である。撮像された材料画像に対して、グループ間の差を分析するためには、例えば、特許文献1に記載されているように、画像処理技術を駆使して、数種類の特徴量を抽出し、それらのデータを分析する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第7147974号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の方法は、材料画像から画像処理技術を駆使して、特徴量を抽出する。しかし、分析対象の材料によって抽出すべき特徴量は異なるため、材料毎に専用の画像処理技術を開発する必要があり、品質管理における分析のような即効性が重要な課題には適していない。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、複数のグループ間で品質上の違いが生じた要因を即座に分析するための材料分析支援装置等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前述した課題を解決するための第1の発明は、複数の材料画像とそれぞれに割り当てられたグループ情報を用いて、前記材料画像を分類するための分類モデルを作成する分類モデル作成部と、前記分類モデルによる前記材料画像の分類根拠を説明するための説明モデルを作成する説明モデル作成部と、前記説明モデルを用いて、1つ以上の前記材料画像について、当該材料画像の分類根拠を定量化した説明画像を作成する説明画像作成部と、前記説明画像を可視化する説明画像出力部と、を備えることを特徴とする材料分析支援装置である。
【0008】
第1の発明によれば、複数の材料画像とそれぞれに割り当てられたグループ情報を用いて、材料画像を分類するための分類モデルを作成する。この分類モデルによって材料画像を分類することで、複数のグループ間で品質上の違いが生じた要因を即座に分析することが可能となる。また、説明モデルを用いて、材料画像の分類根拠を定量化した説明画像を作成し、視覚化することで、材料画像の分類根拠を容易に把握することができる。本発明では、材料毎に専用の画像処理技術を開発する必要がないため、迅速な品質管理の分析が実現され、品質管理プロセスが大幅に向上する。
【0009】
また第1の発明において、前記説明画像作成部は、グループ毎に前記材料画像の分類根拠を定量化した説明画像を作成し、前記説明画像出力部は、作成された各グループの前記説明画像を可視化するようにしてもよい。グループ毎に分類根拠を定量化した説明画像を作成し、視覚化することで、グループ間で品質上の違いが生じた要因を容易に把握することができる。
【0010】
また、前記材料画像を領域毎に分割する領域分割部と、前記材料画像に対応する前記説明画像を用いて、分割した領域毎に分類根拠を定量化した指標を集計する集計部と、前記集計部の集計結果に基づいて、分割した領域を表示する領域分割画像の可視化を行う分割画像出力部と、を更に備えるようにしてもよい。また、前記分割画像出力部は、前記集計結果に基づいて各領域の前記領域分割画像を整列して表示する、または、前記集計結果に基づいて特定の領域の前記領域分割画像を選択して表示するようにしてもよい。材料画像を領域毎に分割し、領域毎に分類根拠を定量化した指標を集計することで、各領域がグループへの分類にどの程度寄与しているかが分かる。これにより、領域毎の重要度や特徴の相違を把握することができる。また、集計結果に基づいて分割した領域を可視化することで、特定の領域を優先的に観察したり、品質上の違いをより詳細に評価したりすることができる。
【0011】
また、前記説明画像は、例えば、SHAP値に基づく画像である。これにより、画素毎に分類根拠を可視化することが可能となる。
【0012】
第2の発明は、複数の材料画像とそれぞれに割り当てられたグループ情報を用いて、前記材料画像を分類するための分類モデルを作成する分類モデル作成部と、前記分類モデルにより前記材料画像を分類した分類結果を、カイ二乗検定を用いて検証する分類モデル検証部と、を備えることを特徴とする材料分析支援装置である。
【0013】
第2の発明によれば、複数の材料画像とそれぞれに割り当てられたグループ情報を用いて、材料画像を分類するための分類モデルを作成する。この分類モデルによって材料画像を分類することで、複数のグループ間で品質上の違いが生じた要因を即座に分析することが可能となる。また、分類モデルの分類結果をカイ二乗検定により検証することで、グループ間の材料に何らかの違いがあるかどうかを客観的に評価することができる。本発明では、材料毎に専用の画像処理技術を開発する必要がないため、迅速な品質管理の分析が実現され、品質管理プロセスが大幅に向上する。
【0014】
第3の発明は、コンピュータが、複数の材料画像とそれぞれに割り当てられたグループ情報を用いて、前記材料画像を分類するための分類モデルを作成するステップと、前記分類モデルによる前記材料画像の分類根拠を説明するための説明モデルを作成するステップと、前記説明モデルを用いて、1つ以上の前記材料画像について、当該材料画像の分類根拠を定量化した説明画像を作成するステップと、前記説明画像を可視化するステップと、を実行することを特徴とする材料分析支援方法である。
【0015】
第4の発明は、コンピュータが、複数の材料画像とそれぞれに割り当てられたグループ情報を用いて、前記材料画像を分類するための分類モデルを作成するステップと、前記分類モデルにより前記材料画像を分類した分類結果を、カイ二乗検定を用いて検証するステップと、を実行することを特徴とする材料分析支援方法である。
【0016】
第5の発明は、コンピュータを、複数の材料画像とそれぞれに割り当てられたグループ情報を用いて、前記材料画像を分類するための分類モデルを作成する分類モデル作成部、前記分類モデルによる前記材料画像の分類根拠を説明するための説明モデルを作成する説明モデル作成部、前記説明モデルを用いて、1つ以上の前記材料画像について、当該材料画像の分類根拠を定量化した説明画像を作成する説明画像作成部、前記説明画像を可視化する説明画像出力部、として機能させるためのプログラムである。
【0017】
第6の発明は、コンピュータを、複数の材料画像とそれぞれに割り当てられたグループ情報を用いて、前記材料画像を分類するための分類モデルを作成する分類モデル作成部、前記分類モデルにより前記材料画像を分類した分類結果を、カイ二乗検定を用いて検証する分類モデル検証部、として機能させることを特徴とするプログラムである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、複数のグループ間で品質上の違いが生じた要因を即座に分析するための材料分析支援装置等が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】材料分析支援装置として利用するコンピュータのハードウェア構成の例を示す図である。
図2】材料分析支援装置の機能構成の例を示すブロック図である。
図3】グループ情報が割り当てられた材料画像のデータ例を示す図である。
図4】材料分析支援装置が実行する処理の流れの例を示すフローチャートである。
図5】2つのグループに分類する分類モデルを作成するプログラムの例である。
図6】分類モデルの検証結果を可視化した検証画面の例である。
図7】説明モデルを作成するプログラムの例である。
図8】説明画像の可視化例を示す図である。
図9】説明画像の可視化例を示す図である。
図10】材料分析支援装置の機能構成の例を示すブロック図である。
図11】領域分割データのデータ例を示す図である。
図12】集計データのデータ例を示す図である。
図13】材料分析支援装置が実行する処理の流れの例を示すフローチャートである。
図14】領域分割画像の可視化例を示す図である。
図15図14の領域分割画像の元となった材料画像を示す図である。
図16】3つのグループに分類する分類モデルを作成するプログラムの例である。
図17】分類モデルの検証結果を可視化した検証画面の例である。
図18】説明画像の可視化例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0021】
[第1の実施形態]
図1は本発明の実施形態に係る材料分析支援装置10のハードウェア構成の一例を示す図である。例えば、一般的なパーソナルコンピュータを材料分析支援装置10として利用する場合、材料分析支援装置10は、図1に示すように、制御部11、記憶部12、通信部13、入力部14、表示部15、周辺機器I/F部16等がバス17を介して接続される。なお、図1に示す構成は一例であり、材料分析支援装置10は用途、目的に応じて様々な構成を採ることが可能である。
【0022】
制御部11は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等を有する。CPUは、記憶部12やROM等の記録媒体に格納されるプログラムをRAM上のワークメモリ領域に呼び出して実行し、バス17を介して接続された各部を駆動制御して材料分析支援装置10の後述する各処理を実現する。
【0023】
ROMは不揮発性メモリであり、コンピュータのブートプログラムやBIOS等のプログラム、データ等を恒久的に保持している。RAMは揮発性メモリであり、記憶部12やROM等の記録媒体からロードしたプログラムやデータを一時的に保持するとともに、制御部11が各種処理を行うために使用するワークエリアを備える。
【0024】
記憶部12は、HDD(Hard
Disc Drive)、SSD(Solid State Drive)、フラッシュメモリ等であり、制御部11が実行するプログラム、プログラム実行に必要なデータ(材料画像1等のデータ)、OS(Operation System)等が格納される。なお、プログラム実行に必要なデータはクラウドサーバ等のネットワーク上に格納されてもよい。その場合、制御部11は、プログラムの実行前や実行時に、クラウドサーバ等からデータをダウンロードする。
【0025】
通信部13は、材料分析支援装置10の通信を媒介する通信インタフェース及び通信制御回路を含み、ネットワークを介した通信の制御を行う。ネットワークは、LAN(Local Area Network)、WAN(Wide Area Network)、インターネット等を含み、有線、無線を問わない。
【0026】
入力部14は、キーボード、マウス、またはタッチパネル等の入力装置、及び各種操作ボタン等を含む。入力部14は、入力されたデータや操作指示を制御部11に送信する。
【0027】
表示部15は、液晶パネル等のディスプレイ等を備え、制御部11の指示に従って画像やテキスト等のデータをディスプレイに表示する。
【0028】
周辺機器I/F部16は、周辺機器を接続するためのポートであり、USB、Bluetooth(登録商標)等の近距離無線通信等を含む。制御部11は周辺機器I/F部16を介して周辺機器とのデータの送受信を行う。周辺機器I/F部16には、例えばプリンタ等が接続される。
【0029】
次に、材料分析支援装置10の機能構成を説明する。
図2は、本実施形態に係る材料分析支援装置10の機能構成を示すブロック図である。図2に示すように、材料分析支援装置10は、分類部20(分類モデル作成部21、分類モデル検証部23)、説明部30(説明モデル作成部31、説明画像作成部33、説明画像出力部35)を備える。材料分析支援装置10の制御部11が、記憶部12またはROMに記憶されたプログラムを読み出して実行することで、これらの機能を実現する。
材料分析支援装置10は、これら機能によって材料の品質管理における迅速な分析を支援する。以下、各機能について説明する。
【0030】
分類部20は、材料画像1を分類するための分類モデル3の作成および検証を行う機能部である。図2に示すように、分類部20は、分類モデル作成部21および分類モデル検証部23から構成される。
【0031】
分類モデル作成部21は、複数の材料画像1とそれぞれに割り当てられたグループ情報2を用いて、材料画像1を各グループに分類するための分類モデル3を作成する。
【0032】
材料画像1は、電子顕微鏡、光学顕微鏡、電子マイクロアナライザなどで材料を撮像した画像である。本実施形態では、材料画像1は、ベンダーから納品された炭化ケイ素の粉末を電子顕微鏡で撮像し、それを複数の小さなサイズにトリミングした画像である。また、本実施形態では、材料画像1は、各画素が輝度値を持つグレースケール画像(輝度画像)である。但し、材料画像1はグレースケール画像(輝度画像)に限定されない。なお、粉末を電子顕微鏡で撮像するときに、故意に粉末を散在させて撮像することが望ましい。これにより、粉末同士がほとんど重ならないような材料画像1を撮像することができる。
【0033】
各材料画像1にはグループ情報2が割り当てられる。グループ情報2は、例えば、製造ロット、製造設備、作業員、ベンダーなど、材料に関する属性情報を指す。本実施形態では、グループ情報2が製造ロット(「ロットA」「ロットB」)の場合を説明する。「ロットA」「ロットB」は、例えば、異なるベンダーから納品された炭化ケイ素の粉末のロットである。
【0034】
図3は、グループ情報2が割り当てられた材料画像1のデータ例を示す図である。図3の例では、「Image001」「Image002」「Image003」・・・の材料画像1には「ロットA」のグループ情報2が割り当てられており、「Image051」「Image052」「Image053」・・・の材料画像1には「ロットB」のグループ情報2が割り当てられている。グループ情報2が割り当てられた材料画像1を学習用データとして、分類モデル3が学習される。
【0035】
分類モデル作成部21は、グループ情報2が割り当てられた複数の材料画像1を学習データとして、材料画像1を各グループ(「ロットA」「ロットB」)に分類するための分類モデル3を学習する。分類モデル3は、一般的な教師あり機械学習の分類モデルであり、本実施形態では、機械学習としてニューラルネットワークを用いる例を示す。但し、必ずしもニューラルネットワークを用いる必要はなく、他の機械学習を用いてもよい。
【0036】
ニューラルネットワークに基づく分類モデル3をゼロから作成するためには、大量の材料画像が必要となるが、本実施形態のように品質管理における迅速な分析を目的とする場合、転移学習を用いることが望ましい。転移学習とは、事前に他の画像分類タスク(例えば、犬、猫、自動車、ビルなど)に対して学習されたニューラルネットワーク(事前学習済みモデル)を部分的に利用する技術であり、広く普及している。転移学習を用いることで、材料画像が少なくても分類モデル3を作成することができる。
【0037】
分類モデル検証部23は、作成した分類モデル3により材料画像1を分類した分類結果を、カイ二乗検定を用いて検証する。分類モデル3の分類性能は、混同行列を作成し、正解率、適合率、再現率、F値などを指標にすることが一般的である。しかし、本実施形態は、品質管理における分析を目的としているため、必ずしも分類性能を向上することが目的ではない。そのため、本実施形態では、品質管理における分析という観点から、仮説検定の一つであるカイ二乗検定を用いて分類モデル3を検証する。
【0038】
具体的には、分類モデル検証部23は、分類モデル3を用いて材料画像1を分類し、その分類結果をもとに分割表を作成し、分割表に対してカイ二乗検定を実行して有意確率を求める(図6参照)。これにより、異なるロット間の材料に何らかの違いがあるかどうかを客観的に評価することができる。
【0039】
説明部30は、分類モデル3による材料画像1の分類根拠を説明するための機能部である。図2に示すように、説明部30は、説明モデル作成部31、説明画像作成部33、および説明画像出力部35から構成される。
【0040】
説明モデル作成部31は、分類モデル3の分類根拠(グループ分けの根拠)を説明するための説明モデル4を作成する。具体的には、説明モデル作成部31は、分類モデル3と複数の材料画像1を用いて、説明モデル4を作成する。説明モデル4の目的は、分類モデル3の分類結果(予測結果)を説明することである。そのため、説明モデル4の作成時(学習時)には、分類モデル3の作成時(学習時)に用いた材料画像1と同一の画像を用いることが望ましい。ただし、分類モデル3の分類結果(予測結果)を適切に説明することができればよく、必ずしも分類モデル3の作成時に使用された材料画像1と完全に同一である必要はない。
【0041】
説明モデル4は、説明可能AI(Explainable Artificial Intelligence)の技術を活用して作成する。説明可能AIは、主に、機械学習モデルを単純化する技術と、機械学習モデルを可視化する技術の2つがある。本実施形態では、そのうちの可視化技術を活用する。可視化技術としては、例えばLIME(Local Interpretable Model-agnostic Explanations)、GradCam(Gradient-weighted Class Activation Mapping)、SHAP(SHapley Additive exPlanations)が知られている。これらの技術は、機械学習モデルが画像内のどの部分に着目して分類を行ったかといった分類の根拠を可視化することができる。特に、SHAPは優れた説明可能AIとして広く知られており、画素毎に分類根拠を定量化することが可能である。具体的には、画像内の特定の部分を隠した場合の分類結果への影響度を定量化する。これにより、画像内のどの部分が分類結果に寄与しているかを把握することができる。
【0042】
説明画像作成部33は、説明モデル4を用いて、1つ以上の材料画像1について、その分類根拠を定量化した画像である説明画像5を作成する。本実施形態では、説明画像作成部33は、説明モデル4を用いて、材料画像1の画素毎にSHAP値を計算し、それに基づいて説明画像5を作成する。説明画像5は、各画素の色や輝度をSHAP値に応じて変化させた画像である。
【0043】
また本実施形態では、説明画像作成部33は、2つのグループ(「ロットA」「ロットB」)毎に説明画像5を作成する。これにより、各グループ(「ロットA」「ロットB」)への分類根拠が可視化され、2つのロット間の分類根拠の違いを視覚的に容易に把握することができる。「ロットA」への分類根拠を定量化した画像を説明画像51、「ロットB」への分類根拠を定量化した画像を説明画像52と表記する。なお、目的に応じてどちらか片方の説明画像5(51または52)を作成するのでもよい。
【0044】
説明画像出力部35は、説明画像作成部33によって作成された説明画像5を可視化する。本実施形態では、説明画像出力部35は、材料画像1とともに、「ロットA」への分類根拠を可視化した説明画像51と、「ロットB」への分類根拠を可視化した説明画像52を表示部15に表示する。なお、目的に応じてどちらか片方の説明画像5(51または52)を表示するのでもよい。
【0045】
次に、図4のフローチャートを参照して、材料分析支援装置10が実行する処理(材料分析支援方法)の流れを説明する。図4の各ステップの処理を材料分析支援装置10の制御部11が実行することで、材料分析支援装置10の各機能を実現する。
【0046】
まず、材料分析支援装置10の制御部11は、複数の材料画像1とそれぞれに割り当てられたグループ情報2を用いて(図3参照)、材料画像1を各グループに分類するための分類モデル3を作成する(ステップS1)。本実施形態では、材料画像1は、ベンダーから納品された炭化ケイ素の粉末を電子顕微鏡で撮像し、それを複数の小さなサイズにトリミングした画像である。またグループ情報2は、製造ロット(「ロットA」「ロットB」)である。分類モデル3は、転移学習に基づくニューラルネットワークを利用する。
【0047】
図5は、2つのグループ(「ロットA」「ロットB」)に分類する分類モデル3を作成するプログラム81の例である。プログラム81はプログラミング言語Pythonの記述例である。1行目でVGG16と称される畳み込みニューラルネットワークの畳み込み層を転移学習として利用することを定義している。2行目以降が分類モデル3の定義で、材料画像1を入力後、はじめに前記のVGG16の畳み込み層を実行し、その結果をグローバルアベレージプーリング処理で特徴量を削減する。
【0048】
次に、変数NODE1に事前に入れておいた数のノードを通して、活性化関数ReLuの処理を行う。その後、ドロップアウトという過学習を防止する処理を行い、再度、変数NODE2に事前に入れておいた数のノードを通して、活性化関数ReLuの処理を行う。最後に出力ノードを一つにして、シグモイド関数で0から1の数値を出力する。出力結果が0から0.5未満であれば、分類結果は「ロットA」、0.5から1であれば、分類結果は「ロットB」となる。
【0049】
図4のフローチャートの説明に戻る。材料分析支援装置10の制御部11は、ステップS1において作成された分類モデル3により材料画像1を分類した分類結果を、カイ二乗検定を用いて検証し、検証結果を可視化する(ステップS2)。
【0050】
図6は、分類モデル3の検証結果を可視化した検証画面の一例である。検証画面91には、上側に分割表が表示され、下側にカイ二乗検定の結果が表示されている。この分割表は、実際には「ロットA」の材料画像1を50枚、「ロットB」の材料画像1を50枚、計100枚の材料画像1を入力して、分類モデル3を検証した結果である。分割表から、分類モデル3が「ロットA」の材料画像1を正しく「ロットA」と分類した枚数は44枚であり、誤って「ロットB」と分類した枚数は6枚であることが分かる。同様に、分類モデル3が「ロットB」の材料画像1を正しく「ロットB」と分類した枚数は14枚であり、誤って「ロットA」と分類した枚数は36枚であることが分かる。
【0051】
この分割表に対して、仮説検定の一つであるカイ二乗検定を実行した結果、有意確率はLikelihood Ratio法で、0.0431(すなわち4.31%)、Pearson法で、0.0455(すなわち4.55%)であることが分かる。分類モデル3としての性能は良くないが、「ロットA」と「ロットB」は有意に異なるものであることが分かる。すなわち、品質管理における分析の観点では、撮像された複数の材料画像1に「ロットA」と「ロットB」が違うものであるという情報が含まれており、機械学習がその違いを見つけ出したことになる。
【0052】
図4のフローチャートの説明に戻る。材料分析支援装置10の制御部11は、分類モデル3の分類根拠(グループ分けの根拠)を説明するための説明モデル4を作成する(ステップS3)。具体的には、制御部11は、分類モデル3と複数の材料画像1を用いて、説明モデル4を作成する。説明モデル4は、説明可能AIの技術を活用して作成する。
【0053】
図7は、説明モデル4を作成するプログラム82の例である。プログラム82はプログラミング言語Pythonの記述例である。プログラム82は、1行目で、複数の材料画像1のファイル名をリストとして読み込み、2行目で事前に変数N_DATAに入れておいた枚数をランダムにサンプリングする。3行目で、サンプリングされた複数の材料画像1を制御部11のRAM上に読み出し、4行目で、分類モデル3(プログラム上では、model)と前記の複数の材料画像1を入力して、SHAPに基づいた説明モデル4を作成する。プログラム82では、shap_explainerが説明モデル4に相当する。
【0054】
次に、制御部11は、説明モデル4を用いて、1つ以上の材料画像1について、その分類根拠を定量化した説明画像5を作成する(ステップS4)。本実施形態では、制御部11は、説明モデル4を用いて、材料画像1の画素毎にSHAP値を計算し、それに基づいて説明画像5を作成する。また、本実施形態では、制御部11は、グループ(「ロットA」「ロットB」)毎に、材料画像1の分類根拠を定量化した説明画像5(説明画像51、52)を作成する。
【0055】
そして、制御部11は、ステップS4において作成された説明画像5を可視化する(ステップS5)。本実施形態では、制御部11は、材料画像1とともに、「ロットA」への分類根拠を可視化した説明画像51と、「ロットB」への分類根拠を可視化した説明画像52を表示部15に表示する。
【0056】
図8、9は、説明画像5の可視化例を示す。図8、9の例では、材料画像1とともに2つの説明画像5(51、52)を表示している。
【0057】
図8の1aは、実際に「ロットA」の材料画像を分類モデル3が「ロットA」と分類した材料画像の例である。材料画像1aには、炭化ケイ素の粉末が散在した状態が写っている。淡い灰色のものが粉末、黒ないしは濃い灰色が背景である。材料画像1aを説明モデル4に入力して作成された「ロットA」の説明画像が51a、「ロットB」の説明画像が52aである。プログラム81で示したように、一つの出力ノードに対して、シグモイド関数で「ロットA」と「ロットB」を分類しているため、「ロットA」の説明画像51aと「ロットB」の説明画像52aは、濃淡を反転させたことが違うだけである。そのため、どちらか片方の説明画像を表示するだけでもよい。分類モデル3が材料画像1aを「ロットA」と判断した根拠が、51aの白い部分である。
【0058】
一方、図9の1bは、実際に「ロットB」の材料画像を分類モデル3が「ロットB」と分類した材料画像の一例である。また、材料画像1bを説明モデル4に入力して作成された「ロットA」の説明画像が51b、「ロットB」の説明画像が52bである。51a、52a、51b、52bの説明画像をよく観察して、SHAP値が大きい、すなわち白い部分を比較してみると、51aの白い部分は、粉末の輪郭が滑らかであることに気づく。逆に、52bの白い部分は、粉末の輪郭がとげとげしいことに気づく。この結果から、「ロットA」は滑らかな粉末が多く、「ロットB」はとげとげしい粉末が多く、2つのロットに特徴の違いがあることが分かる。
【0059】
以上説明したように、本実施形態に係る材料分析支援装置10は、複数の材料画像1とそれぞれに割り当てられたグループ情報2を用いて、材料画像1を分類するための分類モデル3を作成する。また、作成した分類モデル3により材料画像1を分類した分類結果を、カイ二乗検定を用いて検証する。さらに、分類モデル3の分類根拠を説明するための説明モデル4を用いて、材料画像1の分類根拠を定量化した説明画像5を可視化する。本実施形態によれば、分類モデル3によって複数の材料画像1を分類できるため、グループ間で品質上の違いが生じた要因を即座に分析することが可能となる。また、分類モデル3の分類結果をカイ二乗検定により検証することで、グループ間の材料に何らかの違いがあるかどうかを客観的に評価することができる。また、説明モデル4を用いて、材料画像1の分類根拠を定量化した説明画像5を作成し、視覚化することで、材料画像1の分類根拠を容易に把握することができる。
【0060】
[第2の実施形態]
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。第1の実施形態において、2つのロット間の違いがごくわずかな場合には、説明画像5を観察しただけでは違いを判断できないことがある。そこで、第2の実施形態では、材料画像1を領域分割して表示することで、ロット間の違いを詳細に分析できるようにする。
【0061】
図10は、第2の実施形態に係る材料分析支援装置10aの機能構成を示すブロック図である。材料分析支援装置10aは、材料分析支援装置10の機能構成(図2)に加え、分割部40を更に備える。分割部40は、図10に示すように、領域分割部41、集計部43、および分割画像出力部45から構成される。
【0062】
領域分割部41は、材料画像1に領域分割処理を適用し、材料画像1を領域(粉末)毎に分割する。材料画像1が、炭化ケイ素の粉末を散在させて電子顕微鏡で撮像された場合、粉末同士がほとんど重ならないような画像となる。その場合、材料画像1中、粉末は淡い灰色、背景は黒ないしは濃い灰色となる。
【0063】
次に、領域分割部41は、材料画像1に対して二値化処理を実行する。例えば、閾値処理を用いて、所定の閾値以上の輝度値を持つ画素を白とし、閾値未満の輝度値を持つ画素を黒とする。これにより、背景を黒、粉末を白に分離する。次に、領域分割部41は、得られた二値画像にラベリング処理を適用して、画像中の個々の粉末にラベルを付与する。ラベリング処理により、各領域(各粉末)に異なるラベルが割り当てられる。
【0064】
領域分割部41は、領域分割処理の結果として、領域分割データ6を出力する。図11に示すように、領域分割データ6には、例えば、領域分割処理を行った材料画像1の情報、材料画像1から分割された各領域(各粉末)のラベル61の情報、各領域(各粉末)の境界情報62、マスク画像63などが含まれる。境界情報62には、各領域(各粉末)の輪郭部の座標や各領域を囲む境界ボックス(各領域を囲う最小の矩形)などの情報が含まれる。マスク画像63は、領域分割された各領域を区別するための画像であり、各画素は、対応する領域に属する場合は「1」、属さない場合は「0」の値を持つ。
なお、領域分割処理は上記した方法に限定されず、インスタンスセグメンテーションのような他の技術を利用してもよい。
【0065】
集計部43は、分割した領域(粉末)毎に、分割元の材料画像1に対応する説明画像5(説明画像51、52)を用いて分類根拠を定量化した指標(SHAP値)を集計する。具体的には、集計部43は、領域(粉末)毎に、領域分割データ6(境界情報62、図11参照)から粉末の輪郭部の座標を取得する。そして、集計部43は、粉末の輪郭部の座標に対応するSHAP値を説明画像5(説明画像51、52)から求め、粉末の輪郭部におけるSHAP値の合計値を算出する。集計部43は、SHAP値の集計結果として、集計データ7を出力する。図12に示すように、集計データ7には、例えば、領域分割処理を行った材料画像1の情報、材料画像1から分割された各領域(各粉末)のラベル61の情報、「ロットA」の説明画像51に基づいて算出された各領域(各粉末)のSHAP値の合計値71、「ロットB」の説明画像52に基づいて算出された各領域(各粉末)のSHAP値の合計値72の情報が含まれる。
【0066】
分割画像出力部45は、分割した各領域を表示する領域分割画像9を可視化する。領域分割画像9は、例えば、マスク画像63を材料画像1と組み合わせることで作成される。具体的には、マスク画像63の「1」の値を持つ画素に対応する材料画像1の画素を残し、「0」の値を持つ画素に任意の背景値(黒など)を設定することで、領域分割画像9が作成される。
【0067】
本実施形態では、分割画像出力部45は、集計部43の集計結果(集計データ7)に基づいて、領域分割画像9の可視化を行う。例えば、分割画像出力部45は、集計データ7に基づいて特定の領域を可視化対象とし、その領域の領域分割画像9を選択して表示する。具体的には、集計データ7のSHAP値の合計値71または72を参照し、SHAP値の合計値71または72が最も大きい領域(粉末)の領域分割画像9を表示したり、SHAP値の合計値71または72が最も小さい領域(粉末)の領域分割画像9を表示したりする。
【0068】
また例えば、分割画像出力部45は、集計データ7に基づいて各領域の領域分割画像9を整列して表示する。具体的には、集計データ7のSHAP値の合計値71または72を参照し、SHAP値の合計値71または72が大きい順に各領域分割画像9を整列して表示したり、SHAP値の合計値71または72が小さい順に各領域分割画像9を整列して表示したりする。
【0069】
材料分析支援装置10aの他の機能構成(分類部20、説明部30)については、材料分析支援装置10の機能構成(図2)と同様であるため、説明を省略する。また、材料分析支援装置10aのハードウェア構成は、材料分析支援装置10のハードウェア構成(図1)と同様である。
【0070】
次に、図13のフローチャートを参照して、材料分析支援装置10aが実行する処理(材料分析支援方法)の流れを説明する。図13の各ステップの処理を材料分析支援装置10aの制御部11が実行することで、材料分析支援装置10aの各機能を実現する。
【0071】
図13のステップS1~S5の処理は、図4のステップS1~S5と同様である。すなわち、材料分析支援装置10aの制御部11は、複数の材料画像1とそれぞれに割り当てられたグループ情報2を用いて(図3参照)、材料画像1を各グループに分類するための分類モデル3を作成する(ステップS1)。また、制御部11は、作成した分類モデル3により材料画像1を分類した分類結果を、カイ二乗検定を用いて検証する(ステップS2)。次に、制御部11は、分類モデル3の分類根拠(グループ分けの根拠)を説明するための説明モデル4を作成し(ステップS3)、説明モデル4を用いて、1つ以上の材料画像1について、その分類根拠を定量化した説明画像5を作成する(ステップS4)。そして、制御部11は、ステップS4において作成した説明画像5を可視化する(ステップS5)。
【0072】
次にステップS6において、制御部11は、材料画像1に領域分割処理を適用し、材料画像1を領域(粉末)毎に分割する。例えば、制御部11は、まず、材料画像1に対して二値化処理を実行し、背景を黒、粉末を白に分離する。そして、制御部11は、二値画像にラベリング処理を適用して、画像中の個々の領域(粉末)にラベルを付与する。ラベリング処理により、各領域(各粉末)に異なるラベルが割り当てられる。制御部11は、領域分割処理の結果として、領域分割データ6(図11参照)を出力する。
【0073】
次に、制御部11は、分割した領域(粉末)毎に、分割元の材料画像1に対応する説明画像5(説明画像51、52)を用いて分類根拠を定量化した指標(SHAP値)を集計する(ステップS7)。具体的には、制御部11は、領域(粉末)毎に、領域分割データ6(境界情報62)から粉末の輪郭部の座標を取得する。そして、制御部11は、粉末の輪郭部の座標に対応するSHAP値を説明画像5(説明画像51、52)から求め、粉末の輪郭部におけるSHAP値の合計値を算出する。制御部11は、SHAP値の集計結果として、集計データ7(図12参照)を出力する。
【0074】
そして、制御部11は、集計部43の集計結果(集計データ7)に基づいて、領域分割画像9の可視化を行う(ステップS8)。例えば、制御部11は、集計データ7に基づいて可視化対象とする特定の領域を可視化対象とし、その領域の領域分割画像9を選択して表示する。具体的には、制御部11は、集計データ7のSHAP値の合計値71または72を参照し、SHAP値の合計値71または72が最も大きい領域(粉末)の領域分割画像9を表示したり、SHAP値の合計値71または72が最も小さい領域(粉末)の領域分割画像9を表示したりする。
【0075】
また例えば、制御部11は、集計データ7に基づいて各領域の領域分割画像9を整列して表示する。具体的には、制御部11は、集計データ7のSHAP値の合計値71または72を参照し、SHAP値の合計値71または72が大きい順に各領域分割画像9を整列して表示したり、SHAP値の合計値71または72が小さい順に各領域分割画像9を整列して表示したりする。
【0076】
図14は、領域分割画像9の可視化例を示す。
図14の9a、9bは、「ロットB」の説明画像52に基づくSHAP値の合計値72の大きい順に整列させた領域分割画像を示す。領域分割画像9aは、SHAP値の合計値72が最も大きい領域分割画像、すなわち、領域分割処理を行った全ての材料画像1から分割された領域(粉末)の中で、最も「ロットB」らしい領域(粉末)を表示した領域分割画像である。領域分割画像9bは、SHAP値の合計値72が2番目に大きい領域分割画像、すなわち、領域分割処理を行った全ての材料画像1から分割された領域(粉末)の中で、2番目に「ロットB」らしい領域(粉末)を表示した領域分割画像である。領域分割画像9a、9bを観察すると、「ロットB」の特徴であるとげとげしい粉末が混じっていることが分かる。図15では、図14の領域分割画像9a、9bが、それぞれ、材料画像1c、1dから分割抽出された画像であることを示している。ここで、材料画像1c、1dは、実際は「ロットB」であるが、分類モデル3が「ロットA」と誤って分類した材料画像である。つまり、分類モデル3によって誤ったロットに分類された場合でも、領域分割処理を適用して細部を観察することで、本来のロットの特徴を捉えることができる。例えば、異なるロット間の差異がわずかな場合、分類モデル3や説明モデル4がそれを正確に識別できない可能性があるが、領域分割によって領域(粉末)毎に詳細に観察することで、材料の特定の領域(粉末)の異常や欠陥などを判断することができる。
【0077】
以上説明したように、第2の実施形態に係る材料分析支援装置10aは、材料画像1に領域分割処理を適用し、材料画像1を領域(粉末)毎に分割し、分割した領域(粉末)毎に、説明画像5(51、52)を用いて分類根拠を定量化した指標(SHAP値)を集計する。そして、集計結果(集計データ7)に基づいて、領域分割画像9の可視化を行う。例えば、集計データ7に基づいて特定の領域の領域分割画像9を選択して表示したり、集計データ7に基づいて各領域の領域分割画像9を整列して表示したりする。第2の実施形態によれば、材料画像1を領域(粉末)毎に分割し、領域(粉末)毎に分類根拠を定量化した指標(SHAP値)を集計することで、各領域(各粉末)が各グループ(「ロットA」「ロットB」)への分類にどの程度寄与しているかが分かる。これにより、領域(粉末)毎の重要度や特徴の相違を把握することができる。また、集計結果(集計データ7)に基づいて領域分割画像9を可視化することで、特定の領域(粉末)を優先的に観察したり、品質上の違いをより詳細に評価したりすることができる。特に、説明画像5を観察しただけではロット間の違いが判断できない場合に有効である。
【0078】
[第3の実施形態]
第1、第2の実施形態では、材料画像1を2つのグループ(「ロットA」「ロットB」)に分類する例を説明したが、グループは3つ以上でもよい。第3の実施形態では、焼結磁石を対象にして、3つのグループ(「ロットA」「ロットB」「ロットC」)に分類する例を説明する。
【0079】
第3の実施形態に係る材料分析支援装置10bの機能構成は、第1の実施形態に係る材料分析支援装置10の機能構成(図2)、または第2の実施形態に係る材料分析支援装置10aの機能構成(図10)と略同様である。また、材料分析支援装置10bのハードウェア構成は、材料分析支援装置10、10aのハードウェア構成(図1)と同様である。
【0080】
第3の実施形態では、分類モデル作成部21は、焼結磁石を撮像した複数の材料画像1と、各材料画像1のそれぞれに割り当てられたグループ情報2(「ロットA」「ロットB」「ロットC」)を用いて、材料画像1を各グループ(「ロットA」「ロットB」「ロットC」)に分類するための分類モデル3を作成する。また、分類モデル検証部23は、分類モデル作成部21により作成された分類モデル3の分類結果を、カイ二乗検定を用いて検証する。
【0081】
説明モデル作成部31は、分類モデル3の分類根拠(3つのグループ分けの根拠)を説明するための説明モデル4を作成する。また、説明画像作成部33は、説明モデル4を用いて、1つ以上の材料画像1について、その分類根拠を定量化した説明画像5を作成する。第3の実施形態では、説明画像作成部33は、3つのグループ(「ロットA」「ロットB」「ロットC」)毎に、材料画像1の分類根拠を定量化した説明画像5を作成する。「ロットA」への分類根拠を定量化した画像を説明画像51c、「ロットB」への分類根拠を定量化した画像を説明画像52c、「ロットC」への分類根拠を定量化した画像を説明画像53cと表記する。また、説明画像出力部35は、説明画像作成部33によって作成された説明画像5(51c、52c、53c)を可視化する。
【0082】
次に、材料分析支援装置10bが実行する処理(材料分析支援方法)の流れを説明する。材料分析支援装置10bの処理の流れは、第1の実施形態の処理(図4)または第2の実施形態の処理(図13)の流れと同様であるため、図4図13を参照しながら説明する。
【0083】
まず、材料分析支援装置10bの制御部11は、焼結磁石を撮像した複数の材料画像1とそれぞれに割り当てられたグループ情報2(「ロットA」「ロットB」「ロットC」)を用いて、材料画像1を各グループに分類するための分類モデル3を作成する(図4図13のステップS1)。
【0084】
図16は、3つのグループ(「ロットA」「ロットB」「ロットC」)に分類する分類モデル3を作成するプログラム83の例である。プログラム83はプログラミング言語Pythonで記述されている。プログラム83は、1行目でプログラム81(図5参照)と同じように、VGG16と称される畳み込みニューラルネットワークの畳み込み層を転移学習として利用することを定義している。2行目以降が分類モデル3の定義で、材料画像1を入力後、はじめに前記のVGG16の畳み込み層を実行し、その結果をグローバルアベレージプーリング処理で特徴量を削減する。
【0085】
次に、変数NODE1に事前に入れておいた数のノードを通して、活性化関数ReLuの処理を行う。その後、ドロップアウトという過学習を防止する処理を行い、再度、変数NODE2に事前に入れておいた数のノードを通して、活性化関数ReLuの処理を行う。最後に出力ノードを3つにして、ソフトマックス関数で、3つのノードの出力の合計が1になるようにしている。3つの出力ノードをそれぞれ「ロットA」「ロットB」「ロットC」と対応付けて、3つのうち、最も出力値が大きいノードに対応したロットを分類結果とする。第1、第2の実施形態では、シグモイド関数を用いて2つのグループに分類したが(図5参照)、第3の実施形態では、ソフトマックス関数を用いて3つのグループに分類している。
【0086】
フローチャートの説明に戻る。材料分析支援装置10bの制御部11は、ステップS1において作成した分類モデル3により材料画像1を分類した分類結果を、カイ二乗検定を用いて検証し、検証結果を可視化する(図4図13のステップS2)。
【0087】
図17は、分類モデル3の検証結果を可視化した検証画面の一例である。検証画面92には、上側に分割表が表示され、下側にカイ二乗検定の結果が表示されている。この分割表は、実際には「ロットA」の材料画像1を80枚、「ロットB」の材料画像1を80枚、「ロットC」の材料画像1を80枚、計240枚の材料画像1を入力して、分類モデル3を検証した結果である。分割表から、分類モデル3が「ロットA」の材料画像1を正しく「ロットA」と分類した枚数は80枚であり、誤って「ロットB」ないしは「ロットC」と分類した材料画像1は1枚もないことが分かる。しかし、分類モデル3が「ロットB」の材料画像1を正しく「ロットB」と分類した枚数は1枚もなく、80枚すべてを「ロットA」と誤って分類してしまった。このことから、「ロットA」と「ロットB」の材料画像1は何ら違いがなく、教師あり機械学習が「ロットA」と「ロットB」の材料画像1を分類できなかったことが分かる。一方、分類モデル3が「ロットC」の材料画像1を正しく「ロットC」と分類した枚数は51枚であり、誤って「ロットA」と分類した枚数は29枚であった。
【0088】
この分割表に対して、カイ二乗検定を実行した結果、有意確率はLikelihood Ratio法でもPearson法でも、0.0001未満(すなわち0.01%未満)であることが分かる。すなわち、「ロットA」と「ロットB」は類似していて分類できないが、「ロットC」は有意に異なるものであることが分かる。
【0089】
次に、制御部11は、分類モデル3の分類根拠(3つのグループへの分類分けの根拠)を説明するための説明モデル4を作成する(図4図13のステップS3)。具体的には、制御部11は、分類モデル3と複数の材料画像1を用いて、説明モデル4を作成する。次に制御部11は、説明モデル4を用いて、1つ以上の材料画像1について、その分類根拠を定量化した説明画像5(51c、52c、53c)を作成する(図4図13のステップS4)。そして、制御部11は、ステップS4において作成した説明画像5(51c、52c、53c)を可視化する(図4図13のステップS5)。
【0090】
その後、必要に応じて領域分割処理を実行してもよい。すなわち、制御部11は、材料画像1に領域分割処理を適用し、材料画像1を領域(粉末)毎に分割する(図13のステップS6)。次に、制御部11は、領域(粉末)毎に、分割元の材料画像1に対応する説明画像5(51c、52c、53c)を用いて分類根拠を定量化した指標(SHAP値)を集計する(図13のステップS7)。そして、制御部11は、集計部43の集計結果(集計データ7)に基づいて、領域分割画像9の可視化を行う(図13のステップS8)。
【0091】
図18は、説明画像5の可視化例を示す。図18の例では、材料画像1とともに3つの説明画像5(51c、52c、53c)の例を表示している。1eは、実際に「ロットC」を分類モデル3が「ロットC」と分類した材料画像の一例である。製造された焼結磁石の断面を電子顕微鏡で撮像しており、複数の磁石の粒子が観察できる。材料画像1eを説明モデル4に入力して作成された説明画像が51c、52c、53cである。51cが「ロットA」の説明画像、52cが「ロットB」の説明画像、53cが「ロットC」の説明画像である。説明画像53cを観察すると、粒子の輪郭部分が白く描かれている様子が分かる。すなわち、分類モデル3が材料画像1eを「ロットC」と判断した根拠が、説明画像53cの白い部分である。白い部分は、SHAP値が大きいことを表している。各ロットを比較した結果、「ロットC」の説明画像53cだけ粒子の形状が若干異なっていた。材料分析支援装置10bの出力結果を基に、詳細な分析を行った結果、「ロットC」だけ焼結温度が変動していたことが確認された。
【0092】
以上のように、グループが3つの場合の本発明の適用例を説明した。第3の実施形態によれば、第1、第2の実施形態と同様の効果が得られる。当然ながら、グループが4つ以上の場合にも本発明を適用できる。
【0093】
以上、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されない。当業者であれば、本願で開示した技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0094】
1………………材料画像
1a~1e……材料画像
2………………グループ情報
3………………分類モデル
4………………説明モデル
5………………説明画像
51、51a、51b、51c……ロットAの説明画像
52、52a、52b、52c……ロットBの説明画像
53c………………ロットCの説明画像
6……………………領域分割データ
7……………………集計データ
9、9a、9b……領域分割画像
10、10a、10b……材料分析支援装置
20………………分類部
21………………分類モデル作成部
23………………分類モデル検証部
30………………説明部
31………………説明モデル作成部
33………………説明画像作成部
35………………説明画像出力部
40………………分割部
41………………領域分割部
43………………集計部
45………………分割画像出力部
61………………領域のラベル
62………………境界情報
63………………マスク画像
71………………ロットAの説明画像に基づくSHAP値の合計値
72………………ロットBの説明画像に基づくSHAP値の合計値
81、82、83………プログラム
91、92………分類モデルの検証画面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18