(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024180105
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】アントラセン誘導体、有機エレクトロルミネッセンス素子、表示装置、及び照明装置
(51)【国際特許分類】
C07D 251/24 20060101AFI20241219BHJP
C09K 11/06 20060101ALI20241219BHJP
H10K 50/11 20230101ALI20241219BHJP
H10K 50/15 20230101ALI20241219BHJP
H10K 59/00 20230101ALI20241219BHJP
H10K 59/10 20230101ALI20241219BHJP
H10K 85/60 20230101ALI20241219BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20241219BHJP
【FI】
C07D251/24 CSP
C09K11/06 640
H10K50/11
H10K50/15
H10K59/00
H10K59/10
H10K85/60
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023099559
(22)【出願日】2023-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】000004352
【氏名又は名称】日本放送協会
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100164471
【弁理士】
【氏名又は名称】岡野 大和
(74)【代理人】
【識別番号】100119530
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 和幸
(72)【発明者】
【氏名】大野 拓
(72)【発明者】
【氏名】深川 弘彦
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 翼
(72)【発明者】
【氏名】岡田 拓也
【テーマコード(参考)】
3K107
4H039
【Fターム(参考)】
3K107AA01
3K107BB01
3K107BB02
3K107CC07
3K107CC12
3K107DD53
3K107DD59
3K107DD71
3K107FF13
3K107FF19
4H039CA41
4H039CD20
4H039CD90
(57)【要約】 (修正有)
【課題】電子親和力が大きく、発光特性に優れたアントラセン誘導体を提供する。
【解決手段】下記一般式(1):
[式(1)中、Xは、水素、シアノ基等であり、但し、Xの少なくとも2つはシアノ基であり、Rは、水素、又は炭素数1~10のアルキル基等である。]で表されることを特徴とする、アントラセン誘導体である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1):
【化1】
[一般式(1)中、Xは、それぞれ独立して水素、又はシアノ基、炭素数1~10のアルキル基、炭素数1~10のアルコキシ基、炭素数1~10のアルキルチオ基、炭素数1~10のアルキルアミノ基、炭素数2~10のアシル基、炭素数7~20のアラルキル基、置換若しくは未置換の炭素数6~30の芳香族炭化水素基、及び置換若しくは未置換の炭素数3~30の芳香族6員複素環基からなる群から選択される1価の置換基であり、隣接する置換基が一体となって環を形成してもよく、但し、Xの少なくとも2つはシアノ基であり、
Rは、それぞれ独立して水素、又は炭素数1~10のアルキル基、炭素数1~10のアルコキシ基、炭素数1~10のアルキルチオ基、炭素数1~10のアルキルアミノ基、炭素数2~10のアシル基、炭素数7~20のアラルキル基、置換若しくは未置換の炭素数6~30の芳香族炭化水素基、及び置換若しくは未置換の炭素数3~30の芳香族6員複素環基からなる群から選択される1価の置換基であり、隣接する置換基が一体となって環を形成してもよい。]で表されることを特徴とする、アントラセン誘導体。
【請求項2】
陽極と、発光層と、陰極と、をこの順に具える有機エレクトロルミネッセンス素子であって、
前記発光層が、請求項1に記載のアントラセン誘導体を含むことを特徴とする、有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項3】
前記発光層が、更に、前記アントラセン誘導体よりもイオン化エネルギーが小さい材料を含む、請求項2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項4】
前記陽極と前記発光層との間に、更に正孔輸送層を具え、
前記正孔輸送層が、前記アントラセン誘導体よりもイオン化エネルギーが小さい材料を含む、請求項2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項5】
請求項2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を具えることを特徴とする、表示装置。
【請求項6】
請求項2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を具えることを特徴とする、照明装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アントラセン誘導体、有機エレクトロルミネッセンス(以下、エレクトロルミネッセンス(電界発光)を「EL」と記す場合がある。)素子、表示装置、及び照明装置に関する。
【背景技術】
【0002】
アントラセン誘導体、テトラセン誘導体等の縮合環化合物は、その電子的特性から機能性電子素子素材として注目されている。該縮合環化合物は、高い発光の量子収率を示すため、有機エレクトロルミネッセンス素子の発光層材料として広く使われている(例えば、非特許文献1~3参照)。
【0003】
また、上記の縮合環化合物は、三重項-三重項消滅を利用することで、電流励起により生成する三重項励起状態も、一重項励起状態からの発光として取り出すことができる(例えば、非特許文献3及び4参照)。
【0004】
この特長を利用して、近年、有機エレクトロルミネッセンス素子を低い印加電圧で発光させる取り組みが精力的に行われている。例えば、テトラセン誘導体であるルブレンをドナーに用い、アクセプターとして電子親和力が大きいフラーレンを用いて、その界面で形成される励起錯体(エキサイプレックス)のエネルギーを、三重項-三重項消滅を経て、有機エレクトロルミネッセンス素子において、ルブレンの一重項励起状態の発光として取り出せることが報告されている(例えば、非特許文献3及び5参照)。
【0005】
このルブレンとアクセプターを組み合わせた有機エレクトロルミネッセンス素子においては、ルブレンの最高占有軌道(HOMO)のエネルギーであるイオン化ポテンシャルと、アクセプターであるフラーレンの最低非占有軌道(LUMO)のエネルギー差が小さく、その小さいエネルギー差で励起状態を形成できるため、低い印加電圧で発光に寄与する励起状態を生成させることができる。一般的な有機エレクトロルミネッセンス素子では、一つの分子で電荷を再結合させるため、発光に寄与する励起状態を生成させるためにはバンドギャップのエネルギーに相当する印加電圧が必要であるが、ルブレンとアクセプターの励起錯体を利用した有機エレクトロルミネッセンス素子では、より低電圧で発光が得られる(例えば、非特許文献1~3及び5参照)。
【0006】
しかしながら、三重項-三重項消滅が起こる材料として、ルブレン等のテトラセン誘導体を用いた場合、材料のピーク波長が550nm以上となるため、橙色や赤色の発光しか得ることができない。青色や緑色の発光を得るためには、アントラセン誘導体など、より発光波長が短い縮合環化合物が必要となる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Xiangyang Tang, Qing Bai, Tong Shan, Jinyu Li, Yu Gao, Futong Liu, Hui Liu, Qiming Peng, Bing Yang, Feng Li, and Ping Lu,Advanced Functional Materials,28:1705813,DOI:10.1002/adfm.201705813
【非特許文献2】Futong Liu,外8名,「Journal of Materials Chemistry C」,第7巻,2019年,p14881,DOI:10.1039/c9tc05040j
【非特許文献3】Sebastian Engmann,外5名,「Nature Communications」,第10巻,2019年,p227,doi.org/10.1038/s41467-018-08075-z
【非特許文献4】Youn Jue Bae,外9名,「Journal of the American chemical society」,2018年,第140巻,p15140,DOI:10.1021/jacs.8b07498
【非特許文献5】Seiichiro Izawa,外3名,DOI:10.26434/chemrxiv.14685417.v1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記非特許文献1及び2においては、シアノ基やトリフェニルトリアジン基といった、アクセプター性の置換基をアントラセン誘導体に導入することで、電子親和力が比較的大きいアントラセン誘導体が実現できている。これらアントラセン誘導体とドナー性材料との間で形成される励起錯体を利用することで、低電圧で駆動する青色や緑色の有機エレクトロルミネッセンス素子を実現できる可能性がある。しかしながら、さらなる低電圧化に向けては、電子親和力がより大きいアントラセン誘導体が必要である。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、電子親和力が大きく、発光特性に優れたアントラセン誘導体を提供することを課題とする。
また、本発明は、かかるアントラセン誘導体を用いた、駆動電圧が低い有機EL素子、表示装置及び照明装置を提供することを更なる課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、電子親和力が大きく、発光特性に優れたアントラセン誘導体について種々検討したところ、フタロニトリル部位(2つ以上のシアノ基を有する)と、ジフェニルトリアジン部位と、をアントラセン環に繋げることにより、上記課題をみごとに解決できることに想到し、本発明に到達したものである。
即ち、上記課題を解決する本発明のアントラセン誘導体、有機エレクトロルミネッセンス素子、表示装置、及び照明装置の要旨構成は、以下の通りである。
【0011】
[1] 下記一般式(1):
【化1】
[一般式(1)中、Xは、それぞれ独立して水素、又はシアノ基、炭素数1~10のアルキル基、炭素数1~10のアルコキシ基、炭素数1~10のアルキルチオ基、炭素数1~10のアルキルアミノ基、炭素数2~10のアシル基、炭素数7~20のアラルキル基、置換若しくは未置換の炭素数6~30の芳香族炭化水素基、及び置換若しくは未置換の炭素数3~30の芳香族6員複素環基からなる群から選択される1価の置換基であり、隣接する置換基が一体となって環を形成してもよく、但し、Xの少なくとも2つはシアノ基であり、
Rは、それぞれ独立して水素、又は炭素数1~10のアルキル基、炭素数1~10のアルコキシ基、炭素数1~10のアルキルチオ基、炭素数1~10のアルキルアミノ基、炭素数2~10のアシル基、炭素数7~20のアラルキル基、置換若しくは未置換の炭素数6~30の芳香族炭化水素基、及び置換若しくは未置換の炭素数3~30の芳香族6員複素環基からなる群から選択される1価の置換基であり、隣接する置換基が一体となって環を形成してもよい。]で表されることを特徴とする、アントラセン誘導体。
上記[1]に記載の本発明のアントラセン誘導体は、電子親和力が大きく(例えば、電子親和力の計算値が2eV以上)、発光特性に優れる。
【0012】
[2] 陽極と、発光層と、陰極と、をこの順に具える有機エレクトロルミネッセンス素子であって、
前記発光層が、[1]に記載のアントラセン誘導体を含むことを特徴とする、有機エレクトロルミネッセンス素子。
上記[2]に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子は、駆動電圧が低い。
【0013】
[3] 前記発光層が、更に、前記アントラセン誘導体よりもイオン化エネルギーが小さい材料を含む、[2]に記載有機エレクトロルミネッセンス素子。
上記[3]に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子は、駆動電圧が更に低い。
【0014】
[4] 前記陽極と前記発光層との間に、更に正孔輸送層を具え、
前記正孔輸送層が、前記アントラセン誘導体よりもイオン化エネルギーが小さい材料を含む、[2]又は[3]に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
上記[4]に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子は、駆動電圧が更に低い。
【0015】
[5] [2]~[4]のいずれか一つに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を具えることを特徴とする、表示装置。
上記[5]に記載の本発明の表示装置は、低い印加電圧で発光する。
【0016】
[6] [2]~[4]のいずれか一つに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を具えることを特徴とする、照明装置。
上記[6]に記載の本発明の照明装置は、低い印加電圧で発光する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、電子親和力が大きく、発光特性に優れたアントラセン誘導体を提供することができる。
また、本発明によれば、かかるアントラセン誘導体を用いた、駆動電圧が低い有機EL素子、表示装置及び照明装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の有機EL素子の構造の一例を示した概略図である。
【
図2】本発明の有機EL素子の一例内のエネルギー準位を示した概略図である。
【
図3】本発明のアントラセン誘導体の発光機構の一例である、励起錯体からのエネルギー移動と、三重項-三重項消滅と、を活用した一重項励起状態からの発光を示した概略図である。
【
図4】一般的な有機EL素子の構造の一例と、その中のエネルギー準位を示した概略図である。
【
図5】本発明の有機EL素子の構造の他の一例を示した概略図である。
【
図6】本発明のアントラセン誘導体の発光機構の他の一例である、励起錯体からのエネルギー移動と、三重項-三重項消滅と、一重項励起状態からのエネルギー移動と、を利用した発光を示した概略図である。
【
図7】式(1-1)で表わされるアントラセン誘導体のNMRスペクトルである。
【
図8】実施例1及び比較例1で製造した、各種有機EL素子の(a)電流密度-電圧特性、(b)輝度-電圧特性、及び(c)ELスペクトルを測定した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明のアントラセン誘導体、有機エレクトロルミネッセンス素子、表示装置、及び照明装置を、その実施形態に基づき、詳細に例示説明する。
なお、以下において記載する本発明の個々の好ましい形態を2つ以上組み合わせたものもまた、本発明の好ましい形態である。
【0020】
<アントラセン誘導体>
本発明のアントラセン誘導体は、下記一般式(1):
【化2】
[一般式(1)中、Xは、それぞれ独立して水素、又はシアノ基、炭素数1~10のアルキル基、炭素数1~10のアルコキシ基、炭素数1~10のアルキルチオ基、炭素数1~10のアルキルアミノ基、炭素数2~10のアシル基、炭素数7~20のアラルキル基、置換若しくは未置換の炭素数6~30の芳香族炭化水素基、及び置換若しくは未置換の炭素数3~30の芳香族6員複素環基からなる群から選択される1価の置換基であり、隣接する置換基が一体となって環を形成してもよく、但し、Xの少なくとも2つはシアノ基であり、
Rは、それぞれ独立して水素、又は炭素数1~10のアルキル基、炭素数1~10のアルコキシ基、炭素数1~10のアルキルチオ基、炭素数1~10のアルキルアミノ基、炭素数2~10のアシル基、炭素数7~20のアラルキル基、置換若しくは未置換の炭素数6~30の芳香族炭化水素基、及び置換若しくは未置換の炭素数3~30の芳香族6員複素環基からなる群から選択される1価の置換基であり、隣接する置換基が一体となって環を形成してもよい。]で表されることを特徴とする。
【0021】
上記一般式(1)で表わされるアントラセン誘導体は、フタロニトリル部位(2つ以上のシアノ基を有する)と、ジフェニルトリアジン部位と、をアントラセン環に繋げた構造を有し、電子親和力が大きく(例えば、電子親和力の計算値が2eV以上)、発光特性に優れる。
【0022】
上記一般式(1)中のXは、それぞれ独立して水素、又はシアノ基、炭素数1~10のアルキル基、炭素数1~10のアルコキシ基、炭素数1~10のアルキルチオ基、炭素数1~10のアルキルアミノ基、炭素数2~10のアシル基、炭素数7~20のアラルキル基、置換若しくは未置換の炭素数6~30の芳香族炭化水素基、及び置換若しくは未置換の炭素数3~30の芳香族6員複素環基からなる群から選択される1価の置換基であり、隣接する置換基が一体となって環を形成してもよく、但し、Xの少なくとも2つはシアノ基(-CN)である。
アクセプター性の置換基であるシアノ基を2つ以上有するフタロニトリル部位をアントラセン環に繋げることにより、電子親和力が大きくなり、発光特性に優れたアントラセン誘導体が得られる。
【0023】
なお、5つのXの内のシアノ基の数は、2つ以上であり、また、3つ以下が好ましく、2つが特に好ましい。5つのXの内のシアノ基の数が、3つ以下の場合、発光波長が短波長化し、また、2つの場合、発光波長が更に短波長化する。
また、Xの内のいずれがシアノ基であってもよいが、アントラセン環への結合位置に対して、メタ位のXの少なくとも一方がシアノ基であることが好ましく、メタ位のXの両方がシアノ基であること更に好ましい。
【0024】
また、上記一般式(1)中のRは、それぞれ独立して水素、又は炭素数1~10のアルキル基、炭素数1~10のアルコキシ基、炭素数1~10のアルキルチオ基、炭素数1~10のアルキルアミノ基、炭素数2~10のアシル基、炭素数7~20のアラルキル基、置換若しくは未置換の炭素数6~30の芳香族炭化水素基、及び置換若しくは未置換の炭素数3~30の芳香族6員複素環基からなる群から選択される1価の置換基であり、隣接する置換基が一体となって環を形成してもよい。
ジフェニルトリアジン部位をアントラセン環に繋げることにより、電子親和力が更に大きくなる。
【0025】
上記一般式(1)中のX及びRに関して、炭素数1~10のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基等が挙げられ、炭素数1~10のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、tert-ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、ヘプチルオキシ基、オクチルオキシ基等が挙げられ、炭素数1~10のアルキルチオ基としては、メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基、ブチルチオ基、ペンチルチオ基、ヘキシルチオ基、ヘプチルチオ基、オクチルチオ基、ノニルチオ基等が挙げられ、炭素数1~10のアルキルアミノ基としては、メチルアミノ基、エチルアミノ基、プロピルアミノ基、ブチルアミノ基、ペンチルアミノ基、ヘキシルアミノ基、ヘプチルアミノ基、オクチルアミノ基、ノニルアミノ基等が挙げられ、炭素数2~10のアシル基としては、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基等が挙げられ、炭素数7~20のアラルキル基としては、ベンジル基、フェネチル基、フェニルプロピル基、ナフチルメチル基等が挙げられ、置換若しくは未置換の炭素数6~30の芳香族炭化水素基としては、フェニル基、2,6-キシリル基、メシチル基、デュリル基、ビフェニル基、ターフェニル基、ナフチル基、アントリル基、ピレニル基、トルイル基、アニシル基、フルオロフェニル基、ジフェニルアミノフェニル基、ジメチルアミノフェニル基、ジエチルアミノフェニル基、ピリジルフェニル基、フェナンスレニル基等が挙げられ、置換若しくは未置換の炭素数3~30の芳香族6員複素環基としては、ピリジル基、ピラジニル基、ピリミジニル基、ピリダジニル基、トリアジニル基等が挙げられる。
【0026】
上記一般式(1)で表わされるアントラセン誘導体として、具体的には、以下の構造式(1-1)~(1-5)の化合物が挙げられる。
【化3】
【0027】
上記一般式(1)で表わされるアントラセン誘導体は、公知の方法で合成して得ることができる。一般式(1)で表わされるアントラセン誘導体の合成方法は、特に限定されるものではないが、その一例を以下に示す。
【0028】
まず、ハロゲン基(「ハロゲノ基」とも呼ぶ。)と複数のカルボキシル基を有するベンゼン誘導体を準備する。該ベンゼン誘導体としては、5-ブロモイソフタル酸、4-ブロモイソフタル酸、2-ブロモイソフタル酸、2-ブロモテレフタル酸等が挙げられる。前記ハロゲン基と複数のカルボキシル基を有するベンゼン誘導体のカルボキシル基を塩素化し、カルボン酸塩化物(酸クロリド)を得る。ここで、カルボキシル基の塩素化には、塩化オキサリル[(COCl)2]、塩化チオニル(SOCl2)等を使用できる。
次に、前記カルボン酸塩化物をアミド化し、アミド化合物を得る。ここで、カルボン酸塩化物のアミド化には、t-ブチルアミン等のアミン化合物を使用できる。
次に、前記アミド化合物をニトリル化して、ハロゲン基と複数のシアノ基を有するベンゼン誘導体を得る。ここで、アミド化合物のニトリル化には、塩化チオニル(SOCl2)等を使用できる。
次に、前記ハロゲン基と複数のシアノ基を有するベンゼン誘導体に、ピナコラートボリル基等のボリル基を導入して、複数のシアノ基を有する有機ホウ素化合物を得る。ここで、ボリル基の導入には、ビス(ピナコラート)ジボロン等を使用できる。
【0029】
一方、ハロゲン基と2つのフェニル基を有するトリアジン化合物を準備する。該トリアジン化合物としては、2-クロロ-4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン等が挙げられる。前記トリアジン化合物と、9-アントラセンボロン酸等のアントラセン環を有するホウ素化合物と、をSuzukiカップリングさせることで、ジフェニルトリアジン部位を有するアントラセン誘導体を得る。
次に、前記ジフェニルトリアジン部位を有するアントラセン誘導体を、N-ブロモスクシンイミド(NBS)等でブロモ化し、ジフェニルトリアジン部位とブロモ基を有するアントラセン誘導体を得る。
【0030】
上記のようにして得た複数のシアノ基を有する有機ホウ素化合物と、ジフェニルトリアジン部位とブロモ基を有するアントラセン誘導体と、をSuzukiカップリングさせることで、上記一般式(1)で表わされるアントラセン誘導体を製造することができる。ここで、複数のシアノ基を有する有機ホウ素化合物と、ジフェニルトリアジン部位とブロモ基を有するアントラセン誘導体と、のSuzukiカップリングは、例えば、S-Phos{ジシクロヘキシル(2’,6’-ジメトキシ-[1,1’-ビフェニル]-2-イル)ホスフィン}等の配位子と、パラジウム触媒と、塩基の存在下で、実施できる。
【0031】
また、前記Suzukiカップリングは、例えば、酢酸パラジウム[Pd(OAc)2]、Pd2(dba)3、Pd(Ph3P)4、Pd(dppf)Cl2等のパラジウム触媒と、リン酸三カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等の塩基の存在下で、実施できる。
【0032】
<有機エレクトロルミネッセンス素子>
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、陽極と、発光層と、陰極と、をこの順に具える有機エレクトロルミネッセンス素子であって、発光層が、上記一般式(1)で表されるアントラセン誘導体を含むことを特徴とする。
【0033】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子においては、上記一般式(1)で表わされるアントラセン誘導体が大きな電子親和力を有するため、発光層が一般式(1)で表わされるアントラセン誘導体を含むことで、低い印加電圧で発光を得ることが可能である。
【0034】
また、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子においては、上記一般式(1)で表わされるアントラセン誘導体が大きな電子親和力を有するため、該アントラセン誘導体よりもイオン化エネルギーが小さい材料と前記アントラセン誘導体とが励起錯体を形成するように、隣接させたり(即ち、発光層が一般式(1)で表わされるアントラセン誘導体を含み、正孔輸送層等の発光層に隣接する層が、該アントラセン誘導体よりもイオン化エネルギーが小さい材料を含む)、又は混合する(即ち、発光層が一般式(1)で表わされるアントラセン誘導体と、該アントラセン誘導体よりもイオン化エネルギーが小さい材料を含む)ことで、より低い印加電圧で発光を得ることが可能である。
ここで、一般式(1)で表わされるアントラセン誘導体と、該アントラセン誘導体よりもイオン化エネルギーが小さい材料のイオン化エネルギー(「イオン化ポテンシャル(IP)」とも呼ぶ。)は、計算値であり、主にGaussian 09プログラムを用いて密度汎関数法により計算し、以下の条件[B3LYP/6-31G (d,p)]で計算した値である。
【0035】
次に、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子の一態様を、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明の有機EL素子の構造の一例を示した概略図である。
図1に示す有機EL素子1は、基板2上に、陽極3と、正孔注入層4と、正孔輸送層5と、発光層6と、電子注入層7と、陰極8とがこの順に形成された積層構造を有する。
【0036】
また、
図1に示す有機エレクトロルミネッセンス素子1内のエネルギー準位を
図2に示す。有機EL素子1においては、アントラセン誘導体(発光層6)中に注入されてきた電子と、アントラセン誘導体よりもイオン化ポテンシャルが小さい正孔輸送層5に注入された正孔とが、励起錯体を形成することで、電流が流れて発光する。このとき、発光に必要な電圧は、アントラセン誘導体の電子親和力(EA)と正孔輸送層5の材料のイオン化ポテンシャル(IP)のエネルギー差で決まるが、発光層6であるアントラセン誘導体の電子親和力が大きいため、このエネルギー差が小さくなり、発光に必要な外部印加電圧が低下する。
【0037】
次に、
図3に励起錯体の形成から発光に至るまでのエネルギー移動の過程を示す。励起錯体の形成に必要な外部電圧が小さいということは、得られる励起錯体の光のエネルギーは大きくない。しかしながら、励起錯体の形成に関わるアントラセン誘導体の三重項エネルギーがこの励起錯体の励起状態のエネルギーよりも小さければ、励起錯体のエネルギーは、アントラセン誘導体の三重項励起状態にエネルギー移動する。アントラセン誘導体は三重項-三重項消滅を利用することで、一重項励起状態を生成することが良く知られているため、この特性を利用することで、一重項励起状態を生成させ、そこからの発光を得ることができる。ここで、一重項励起状態からの発光は、励起錯体の光に比べて、エネルギーが大きい。
【0038】
次に、励起錯体の形成を利用しない、一般的な有機エレクトロルミネッセンス素子の構成とエネルギー準位を
図4に示す。
図4に示す有機エレクトロルミネッセンス素子は、基板の上に、陽極と、正孔注入層と、正孔輸送層と、電子阻止層と、発光層と、正孔阻止層と、電子輸送層と、電子注入層と、陰極と、がこの順に形成された積層構造を有する。一般的な有機エレクトロルミネッセンス素子においては、発光層材料で直接電子と正孔を再結合させて励起状態を形成するため、発光層材料のバンドギャップに近い外部電圧を印加することが必要である。この外部電圧は、
図1~
図3に示す有機EL素子よりも、発光に必要な電圧が高い。また、有機EL素子内にエネルギー準位が異なる多数の材料を用いると、デバイス内にエネルギー差が生じ、電圧の上昇につながる。従って、低電圧化のためには、
図1~
図3に示すようなアントラセン誘導体と他の材料との励起錯体を利用することが有効である。但し、本発明のアントラセン誘導体は、高い発光効率を示すことが期待されるため、
図4に示すような形で発光層等に用いることも可能である。
【0039】
なお、
図1~
図3に示す有機EL素子においても、エネルギーの障壁が生じないような形で、発光層6と電子注入層7との間に、別の電子輸送層材料を挿入することは可能である。
【0040】
また、本実施形態の有機EL素子1は、
図5に示すように、基板2上に陰極8を有する逆構造の有機EL素子としてもよい。
図5に示す有機EL素子1は、基板2上に、陰極8と、電子注入層7と、発光層6と、正孔輸送層5と、正孔注入層4と、陽極3とがこの順に形成された積層構造を有する。
【0041】
また、本実施形態の有機EL素子1は、有機EL素子を構成する層の一部を、無機化合物を用いて形成した有機無機ハイブリッド型の有機電界発光素子(HOILED素子)であってもよい。
【0042】
「基板」
基板2の材料としては、樹脂材料、ガラス材料等が挙げられる。
基板2に用いられる樹脂材料としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレン、シクロオレフィンポリマー、ポリアミド、ポリエーテルサルフォン、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリアリレート等が挙げられる。基板2の材料として、樹脂材料を用いた場合、柔軟性に優れた有機EL素子1が得られるため好ましい。
基板2に用いられるガラス材料としては、石英ガラス、ソーダガラス等が挙げられる。
【0043】
有機EL素子1がボトムエミッション型のものである場合には、基板2の材料として、透明基板を用いる。
有機EL素子1がトップエミッション型のものである場合には、基板2の材料として、透明基板だけでなく、不透明基板を用いてもよい。不透明基板としては、例えば、アルミナのようなセラミックス材料からなる基板、ステンレス鋼のような金属板の表面に酸化膜(絶縁膜)を形成した基板、樹脂材料で構成された基板等が挙げられる。
【0044】
基板2の平均厚さは、基板2の材料等に応じて決定でき、0.1~30mmであることが好ましく、0.1~10mmであることがより好ましい。基板2の平均厚さは、デジタルマルチメーター、ノギスにより測定できる。
【0045】
「陽極」
図1に示す陽極3は、基板2上に直接接触して形成されているが、
図5に示すような逆構造の有機EL素子の場合は、基板2上に直接接触して形成されていなくてもよい。
陽極3の材料としては、ITO(インジウム酸化錫)、IZO(インジウム酸化亜鉛)、FTO(フッ素酸化錫)、In
3O
3、SnO
2、Sb含有SnO
2、Al含有ZnO等の酸化物の導電材料が挙げられる。この中でも、陽極3の材料として、ITO、IZO、FTOを用いることが好ましい。
陽極3の平均厚さは、特に制限されないが、10~500nmであることが好ましく、100~200nmであることがより好ましい。
陽極3の平均厚さは、触針式段差計、分光エリプソメトリーにより測定できる。
【0046】
「正孔注入層」
正孔注入層4は、無機材料からなるものであってもよいし、有機材料からなるものであってもよい。無機材料は、有機材料と比較して安定であるため、有機材料を用いた場合と比較して、酸素や水に対する高い耐性が得られ易い。
無機材料としては、特に制限されないが、例えば、酸化バナジウム(V2O5)、酸化モリブテン(MoO3)、酸化ルテニウム(RuO2)等の金属酸化物を1種又は2種以上を用いることができる。
有機材料としては、ジピラジノ[2,3-f:2’,3’-h]キノキサリン-2,3,6,7,10,11-ヘキサカルボニトリル(HAT-CN)や2,3,5,6-テトラフルオロ-7,7,8,8-テトラシアノ-キノジメタン(F4-TCNQ)等を用いることができる。また、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)等の高分子材料も用いることができる。
正孔注入層4の平均厚さは、特に限定されないが、1~1000nmであることが好ましく、5~50nmであることがより好ましい。
正孔注入層4の平均厚さは、水晶振動子膜厚計により成膜時に測定することができる。
【0047】
「正孔輸送層」
正孔輸送層5は、上述の通り、アントラセン誘導体と励起錯体を形成する有機化合物を含むことが好ましく、上記一般式(1)で表わされるアントラセン誘導体よりもイオン化エネルギーが小さい材料を含むことが更に好ましい。後述するように、発光層6は、上記一般式(1)で表わされるアントラセン誘導体を含むため、正孔輸送層5が、該アントラセン誘導体よりもイオン化エネルギーが小さい材料を含む場合、発光層6と正孔輸送層5の界面で励起錯体が形成され、有機EL素子1の駆動電圧を更に低くできる。
【0048】
正孔輸送層5に用いる正孔輸送性有機材料としては、励起錯体を形成する材料のうち、IP及びEAが小さい材料(ドナー性の高い材料)を用いることが好ましい。具体的には、トリアリールアミン、カルバゾール、フェノキサジン、フェナジン、アクリジン、アザジベンゾピレン、ジュロリジン骨格等、ドナー性が高い分子構造を含む材料が好ましい。より具体的には、以下に示す、m-MTDATA、TPT-1、TAPC、TPDI、HN-D1、HN-D2、N-TPA、EH44、PHZ-2Naph、TBDI、HT-01、N-DPA、spiro-MeO-TAD、Tris-PCz、α-NPD、TcTa、2-SF-DMAC、2-SF-PHX、SF-BCz、FATPA等が好ましい。
【化4-1】
【化4-2】
【化4-3】
【0049】
上記ドナー性の高い材料のIP/EAの計算値を表1に示す。
【0050】
【0051】
上記IP/EAの計算値は、主にGaussian 09プログラムを用いて密度汎関数法により計算し、以下の条件[B3LYP/6-31G (d,p)]で計算した。
また、幾つかの材料について、紫外光電子分光法(UPS)により求めたIPの実測値を示す。このように、IPの実測値と計算値には強い相関関係が見られる。
【0052】
正孔輸送層5に含まれる有機化合物は、密度汎関数法を用いて算出したイオン化ポテンシャル(IP)の計算値が3.74~5.08eVであるか、イオン化ポテンシャル(IP)の実測値が4.4~5.8eVであることが好ましい。
正孔輸送層5の平均厚さは、特に限定されないが、10~150nmであることが好ましく、20~100nmであることがより好ましい。
正孔輸送層5の平均厚さは、例えば、触針式段差計、分光エリプソメトリーにより測定することができる。
【0053】
「発光層」
発光層6は、上述の通り、本発明のアントラセン誘導体を含む。また、発光層6は、更に、前記アントラセン誘導体よりもイオン化エネルギーが小さい材料を含んでもよい。発光層6が、上記一般式(1)で表わされるアントラセン誘導体と、該アントラセン誘導体よりもイオン化エネルギーが小さい材料を含む場合、励起錯体が形成される。
【0054】
前記アントラセン誘導体よりもイオン化エネルギーが小さい材料としては、「正孔輸送層5」の項で挙げたIP及びEAが小さい材料(ドナー性の高い材料)が好ましく、m-MTDATA、TPT-1、TAPC、TPDI、HN-D1、HN-D2、N-TPA、EH44、PHZ-2Naph、TBDI、HT-01、N-DPA、spiro-MeO-TAD、Tris-PCz、α-NPD、TcTa、2-SF-DMAC、2-SF-PHX、SF-BCz、FATPA等が更に好ましい。
ここで、発光層6における、前記アントラセン誘導体よりもイオン化エネルギーが小さい材料の含有量は、前記アントラセン誘導体に対して、10~50質量%の範囲が好ましい。
【0055】
発光層6においては、
図3に示すようにアントラセン誘導体の発光を取り出すこともできる一方、
図6に示す通り、アントラセン誘導体(又は励起錯体)を発光層6のホストとして用いて、別の発光ドーパントの発光を取り出すことも可能である。この場合、ホストに対するドーパントとして、イリジウム錯体や白金錯体等の燐光発光材料、蛍光発光材料、熱活性化遅延蛍光材料等を、前記発光層6に混合してもよい。ドーパントの混合比は、アントラセン誘導体(又は励起錯体)に対して20質量%以下が好ましく、より好ましくは10質量%以下である。
【0056】
前記蛍光発光材料としては、8-ヒドロキシキノリンアルミニウム(Alq3)、トリス(4-メチル-8-キノリノレート)アルミニウム(III)(Almq3)、8-ヒドロキシキノリン亜鉛(Znq2)等の各種金属錯体;ジスチリルベンゼン(DSB)、ジアミノジスチリルベンゼン(DADSB)等のベンゼン系化合物;ナフタレン、ナイルレッド等のナフタレン系化合物;フェナントレン等のフェナントレン系化合物;クリセン、6-ニトロクリセン等のクリセン系化合物;ペリレン、N,N’-ビス(2,5-ジ-t-ブチルフェニル)-3,4,9,10-ペリレン-ジ-カルボキシイミド(BPPC)等のペリレン系化合物;コロネン等のコロネン系化合物;アントラセン、ビススチリルアントラセン等のアントラセン系化合物;ピレン、BD-1等のピレン系化合物;4-(ジ-シアノメチレン)-2-メチル-6-(パラ-ジメチルアミノスチリル)-4H-ピラン(DCM)等のピラン系化合物;アクリジン等のアクリジン系化合物;スチルベン等のスチルベン系化合物;2,5-ジベンゾオキサゾールチオフェン等のチオフェン系化合物;ベンゾオキサゾール等のベンゾオキサゾール系化合物;ベンゾイミダゾール等のベンゾイミダゾール系化合物;2,2’-(パラ-フェニレンジビニレン)-ビスベンゾチアゾール等のベンゾチアゾール系化合物;ビスチリル(1,4-ジフェニル-1,3-ブタジエン)、テトラフェニルブタジエン等のブタジエン系化合物;ナフタルイミド等のナフタルイミド系化合物;クマリン等のクマリン系化合物;ペリノン等のペリノン系化合物;オキサジアゾール等のオキサジアゾール系化合物;アルダジン系化合物;1,2,3,4,5-ペンタフェニル-1,3-シクロペンタジエン(PPCP)等のシクロペンタジエン系化合物;キナクリドン、キナクリドンレッド等のキナクリドン系化合物;ピロロピリジン、チアジアゾロピリジン等のピリジン系化合物;2,2’,7,7’-テトラフェニル-9,9’-スピロビフルオレン等のスピロ化合物等が挙げられる。
【0057】
前記熱活性化遅延蛍光材料としては、2,4,5,6-テトラ(9-カルバゾール)-イソフタロニトリル(4CzIPN)、4,5-ジ(9-カルバゾール)-フタロニトリル(2CzPN)、3,4,5,6-テトラ(9-カルバゾール)-フタロニトリル(4CzPN)、2,3,5,6-テトラ(9-カルバゾール)-テレフタロニトリル(4CzTPN)、2,3,5,6-テトラ(3,6-ジメチル-9-カルバゾール)-テレフタロニトリル(4CzTPN-Me)、2,3,5,6-テトラ(3,6-ジフェニル-9-カルバゾール)-テレフタロニトリル(4CzTPN-Ph)等が挙げられ、更には、特開2012-193352号公報、国際公開第2011/070963号に記載の化合物等が挙げられる。
【0058】
発光層6の平均厚さは、特に限定されないが、10~150nmであることが好ましく、20~100nmであることがより好ましい。
発光層6の平均厚さは、触針式段差計により測定してもよいし、水晶振動子膜厚計により発光層6の成膜時に測定してもよい。
【0059】
「電子注入層」
電子注入層7は、アルカリ金属やアルカリ土類金属全般等の仕事関数が小さい材料全般、リチウムキノリン、フッ素化リチウム、炭酸セシウム、炭酸カルシウム等の仕事関数が小さい金属を含む化合物、下記一般式(2)で表される構造を有するヘキサヒドロピリミドピリミジン化合物、又は下記一般式(3)で表される構造を有する化合物などを用いることができる。
【0060】
【化5】
(一般式(2)中、R
1は、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、芳香族複素環基、アリールアルキレン基、2~4価の鎖状または環状炭化水素基、又は、これらの基を2つ以上組み合わせてできる基、これらの基の1つ若しくは2つ以上と窒素原子とを組み合わせてできる基を表す。n
1は、1~4の整数である。)
【0061】
【化6】
(一般式(3)中、X
1、X
2は、同一又は異なって、置換基を有していてもよい窒素原子、酸素原子、硫黄原子又は2価の連結基を表す。Lは直接結合またはp価の連結基を表す。n
2は、0又は1の数を表し、pは、1~4の数を表す。qは、0又は1の数を表し、pが1のとき、qは0である。R
2~R
4は、同一又は異なって、1価の置換基を表す。m
1~m
3は、同一又は異なって、0~3の数を表す。R
2~R
4は、X
1、X
2と結合して環構造を形成してもよい、R
2が複数ある場合、複数のR
2が結合して環構造を形成していてもよい。また、R
3が複数ある場合、複数のR
3が結合して環構造を形成していてもよい。また、R
4が複数ある場合、複数のR
4が結合して環構造を形成していてもよい。)
【0062】
上記一般式(2)におけるR1は、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、芳香族複素環基、アリールアルキレン基、2~4価の鎖状または環状炭化水素基、又は、これらの基を2つ以上組み合わせてできる基、これらの基の1つ若しくは2つ以上と窒素原子とを組み合わせてできる基を表す。
芳香族炭化水素基、芳香族複素環基としては、炭素数3~30のものが好ましく、炭素数4~24のものがより好ましく、炭素数5~20のものがさらに好ましい。
芳香族炭化水素基としては、ベンゼン等の1つの芳香環のみからなる化合物;ビフェニル、ジフェニルベンゼン等の複数の芳香環が1つの炭素原子同士で直接結合した化合物;ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、ピレン等の縮合環式芳香族炭化水素化合物のいずれかの芳香環から水素原子を1~4個除いてできる基が挙げられる。
芳香族複素環基としては、チオフェン、フラン、ピロール、オキサゾール、オキサジアゾール、チアゾール、チアジアゾール、イミダゾール、ピリジン、ピリミジン、ピラジン、トリアジン等の1つの芳香族複素環のみからなる化合物;これらの1つの芳香族複素環のみからなる化合物が1つの炭素原子同士で複数直接結合した化合物(ビピリジン等);キノリン、キノキサリン、ベンゾチオフェン、ベンゾチアゾール、ベンゾイミダゾール、ベンゾオキサゾール、インドール、カルバゾール、ジベンゾフラン、ジベンゾチオフェン、アクリジン、フェナントロリン等の縮合環式複素芳香族炭化水素化合物のいずれかの芳香族複素環から水素原子を1~4個除いてできる基が挙げられる。
アリールアルキレン基としては、上記芳香族炭化水素基と炭素数1~3のアルキレン基とを組み合わせた基が挙げられる。
2~4価の鎖状または環状炭化水素基としては、炭素数1~12のものが好ましく、炭素数1~6のものがより好ましく、炭素数1~4のものがさらに好ましい。鎖状炭化水素基は直鎖状のものであってもよく、分岐鎖状のものであってもよい。
また、R1は上記芳香族炭化水素基、芳香族複素環基、アリールアルキレン基、2~4価の鎖状炭化水素基を2つ以上組み合わせてできる基でもよい。
更に、R1は上記芳香族炭化水素基、芳香族複素環基、アリールアルキレン基、2~4価の鎖状炭化水素基の1つ若しくは2つ以上と窒素原子とを組み合わせてできる基であってもよい。そのような基としては、例えば、トリメチルアミン等のトリアルキルアミンやトリフェニルアミンから水素原子を1~4個除いてできる基等が挙げられる。
【0063】
上記芳香族炭化水素基、芳香族複素環基、又は、アリールアルキレン基は、1価の置換基を1つ又は2つ以上有していてもよい。
1価の置換基としては、フッ素原子;フルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基等のハロアルキル基;メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基等の炭素数1~20の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等の炭素数5~7の環状アルキル基;メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、tert-ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、ヘプチルオキシ基、オクチルオキシ基等の炭素数1~20の直鎖状又は分岐鎖状アルコキシ基;ニトロ基;シアノ基;メチルアミノ基、エチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基等の炭素数1~10のアルキル基を有するアルキルアミノ基;ピロリジノ基、ピペリジノ基、モルホリノ基等の環状アミノ基;ジフェニルアミノ基、カルバゾリル基等のジアリールアミノ基;アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基等のアシル基;スチリル基等の炭素数2~30のアルケニル基;フッ素原子等のハロゲン原子や炭素数1~20のアルキル基、アルコキシ基、アミノ基等で置換されていてもよい炭素数5~20のアリール基(アリール基の具体例は、上記芳香族炭化水素基と同様);フッ素原子等のハロゲン原子や炭素数1~20のアルキル基、アルコキシ基、アミノ基等で置換されていてもよい炭素数4~40の窒素原子、硫黄原子、酸素原子のいずれか1つ以上を含む複素環基(複素環基は、1つの環のみからなるものであってもよく、1つの芳香族複素環のみからなる化合物が1つの炭素原子同士で複数直接結合した化合物であってもよく、縮合複素環基であってもよい。複素環基の具体例には、チオフェン環、フラン環、ピロール環、ベンゾチオフェン環、ベンゾフラン環、インドール環、ジベンゾチオフェン環、ジベンゾフラン環、カルバゾール環、チアゾール環、ベンゾチアゾール環、オキサゾール環、ベンゾオキサゾール環、イミダゾール環、ベンゾイミダゾール環、ピリジン環、ピリミジン環、ピラジン環、ピリダジン環、トリアジン環、キノリン環、イソキノリン環、キノキサリン環、ベンゾチアジアゾール環、フェナントリジン環等の芳香族複素環基の具体例が含まれる。);エステル基、チオエーテル基等が挙げられる。なお、これらの基は、ハロゲン原子やヘテロ元素、アルキル基、芳香環等で置換されていてもよい。
【0064】
上記一般式(2)におけるn1は、1~4の整数であるが、2又は3であることが好ましい。
【0065】
上記一般式(2)で表される化合物は、ヨウ素、臭素、塩素、フッ素を有するハロゲン化合物と、ヘキサヒドロピリミドピリミジンとを原料とし、Ullmannカップリング反応、Buchwald-Hartwigアミノ化反応又は求核置換反応等により合成することができる。
【0066】
上記一般式(3)におけるX1、X2は、同一又は異なって、置換基を有していてもよい窒素原子、酸素原子、硫黄原子又は2価の連結基を表す。
2価の連結基としては、2価の炭化水素基及び炭化水素基の炭素原子の一部が窒素原子、酸素原子、硫黄原子のいずれかのヘテロ原子で置換された基が挙げられる。
炭化水素基としては、炭素数1~6のものが好ましく、炭素数1、2、又は6のものがより好ましい。
炭化水素基は、直鎖状、分岐鎖状、環状及びこれらを組み合わせたもののいずれのものであってもよい。
2価の炭化水素基は、飽和炭化水素基であるアルキレン基でもよく、アルケニレン基、アルキニレン基等の不飽和炭化水素基でもよい。
【0067】
上記一般式(3)におけるLは、直接結合またはp価の連結基を表す。なお、Lが直接結合となるのは、pが2の場合のみである。
p価の連結基としては、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、炭素原子の他、炭化水素基や炭化水素基の炭素原子の一部が窒素原子、酸素原子、硫黄原子のいずれかのヘテロ原子で置換された基から水素原子をp個除いてできる基が挙げられる。
p価の連結基が炭素原子を有するものである場合、炭素数1~30のものが好ましい。より好ましくは、炭素数1~20のものである。
炭化水素基は、直鎖状、分岐鎖状、環状及びこれらを組み合わせたもののいずれのものであってもよい。
炭化水素基としては、飽和炭化水素基、不飽和炭化水素基、芳香族炭化水素基のいずれのものであってもよい。
芳香族炭化水素基としては、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、テトラセン環、ペンタセン環、トリフェニレン環、ピレン環、フルオレン環、インデン環等の芳香族化合物から水素原子を除いてできる基が挙げられる。
【0068】
上記一般式(3)におけるR2~R4は、同一又は異なって、1価の置換基を表す。また、m1~m3は、同一又は異なって、0~3の数を表す。
1価の置換基としては、フッ素原子;フルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基等のハロアルキル基;メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基等の炭素数1~20の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等の炭素数5~7の環状アルキル基;メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、tert-ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、ヘプチルオキシ基、オクチルオキシ基等の炭素数1~20の直鎖状又は分岐鎖状アルコキシ基;ニトロ基;シアノ基;メチルアミノ基、エチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基等の炭素数1~10のアルキル基を有するアルキルアミノ基;ピロリジノ基、ピペリジノ基、モルホリノ基等の環状アミノ基;ジフェニルアミノ基、カルバゾリル基等のジアリールアミノ基;アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基等のアシル基;スチリル基等の炭素数2~30のアルケニル基;フッ素原子等のハロゲン原子や炭素数1~20のアルキル基、アルコキシ基、アミノ基等で置換されていてもよい炭素数5~20のアリール基(アリール基の具体例は、上記芳香族炭化水素基と同様);フッ素原子等のハロゲン原子や炭素数1~20のアルキル基、アルコキシ基、アミノ基等で置換されていてもよい炭素数4~40の窒素原子、硫黄原子、酸素原子のいずれか1つ以上を含む複素環基(複素環基は、1つの環のみからなるものであってもよく、1つの芳香族複素環のみからなる化合物が1つの炭素原子同士で複数直接結合した化合物であってもよく、縮合複素環基であってもよい。複素環基の具体例には、チオフェン環、フラン環、ピロール環、ベンゾチオフェン環、ベンゾフラン環、インドール環、ジベンゾチオフェン環、ジベンゾフラン環、カルバゾール環、チアゾール環、ベンゾチアゾール環、オキサゾール環、ベンゾオキサゾール環、イミダゾール環、ベンゾイミダゾール環、ピリジン環、ピリミジン環、ピラジン環、ピリダジン環、トリアジン環、キノリン環、イソキノリン環、キノキサリン環、ベンゾチアジアゾール環、フェナントリジン環等の芳香族複素環基の具体例が含まれる。);エステル基、チオエーテル基等が挙げられる。なお、これらの基は、ハロゲン原子やヘテロ元素、アルキル基、芳香環等で置換されていてもよい。
【0069】
上記一般式(3)におけるpは、1~4の数を表すが、1~3の数であることが好ましい。
また、上記一般式(3)におけるn2は、0又は1の数を表すが、0であることが好ましい。
【0070】
電子注入層7の平均厚さは、0.5~100nmであることが好ましく、1~10nmであることがより好ましい。電子注入層7は塗料組成物を塗布する方法、もしくは、真空蒸着法を用いて共蒸着することにより形成可能である。
電子注入層7の平均厚さは、例えば、触針式段差計、分光エリプソメトリーにより測定できる。
【0071】
「陰極」
陰極8に用いられる材料としては、ITO、IZO、Au、Pt、Ag、Cu、Alまたはこれらを含む合金等が挙げられる。この中でも、陰極8の材料として、ITO、IZO、Au、Ag、Alを用いることが好ましい。
陰極8の平均厚さは、特に限定されないが、10~1000nmであることが好ましく、30~150nmであることがより好ましい。また、陰極8の材料として不透過な材料を用いる場合でも、例えば、平均厚さを10~30nm程度にすることで、トップエミッション型の有機EL素子における透明な陰極として使用できる。
陰極8の平均厚さは、水晶振動子膜厚計により陰極8の成膜時に測定できる。
【0072】
特に
図5に示す逆構造の有機EL素子においては、陰極8上に無機の酸化物からなる層を製膜したものも、陰極の一部として取り扱う。
この場合に用いる酸化物は、半導体もしくは絶縁体積層薄膜の層である。具体的には、単体の金属酸化物からなる層、二種類以上の金属酸化物を混合した層と単体の金属酸化物からなる層のいずれか一方または両方を積層した層、二種類以上の金属酸化物を混合した層のいずれであってもよい。
【0073】
無機の酸化物を形成する金属酸化物を構成する金属元素としては、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、インジウム、ガリウム、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、カドミウム、アルミニウム、ケイ素が挙げられる。
【0074】
無機の酸化物からなる層が、二種類以上の金属酸化物を混合した層を含む場合、金属酸化物を構成する金属元素の少なくとも一つが、マグネシウム、アルミニウム、カルシウム、ジルコニウム、ハフニウム、ケイ素、チタン、亜鉛からなる層であることが好ましい。
無機の酸化物からなる層が、単体の金属酸化物からなる層である場合、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化亜鉛からなる群から選ばれる金属酸化物からなる層であることが好ましい。
【0075】
無機の酸化物からなる層が、二種類以上の金属酸化物を混合した層と単体の金属酸化物からなる層のいずれか一方または両方を積層した層、または二種類以上の金属酸化物を混合した層である場合、酸化チタン/酸化亜鉛、酸化チタン/酸化マグネシウム、酸化チタン/酸化ジルコニウム、酸化チタン/酸化アルミニウム、酸化チタン/酸化ハフニウム、酸化チタン/酸化ケイ素、酸化亜鉛/酸化マグネシウム、酸化亜鉛/酸化ジルコニウム、酸化亜鉛/酸化ハフニウム、酸化亜鉛/酸化ケイ素、酸化カルシウム/酸化アルミニウム、から選ばれる二種の金属酸化物の組合せを積層及び/又は混合したもの、酸化チタン/酸化亜鉛/酸化マグネシウム、酸化チタン/酸化亜鉛/酸化ジルコニウム、酸化チタン/酸化亜鉛/酸化アルミニウム、酸化チタン/酸化亜鉛/酸化ハフニウム、酸化チタン/酸化亜鉛/酸化ケイ素、酸化インジウム/酸化ガリウム/酸化亜鉛、から選ばれる三種の金属酸化物の組合せを積層及び/又は混合したもの等が挙げられる。
【0076】
無機の酸化物は、特殊な組成として良好な特性を示す酸化物半導体であるIGZO(酸化インジウムガリウム亜鉛)及び/又はエレクトライドである12CaO・7Al2O3を含むものであってもよい。
無機の酸化物を成膜する場合の平均厚さは、特に限定されないが、1~1000nmであることが好ましく、2~100nmであることがより好ましい。
無機の酸化物からなる層の平均厚さは、触針式段差計、分光エリプソメトリーにより測定できる。
【0077】
「封止」
有機EL素子1は、必要に応じて、封止されていてもよい。
例えば、有機EL素子1は、有機EL素子1を収容する凹状の空間を有する封止容器(不図示)と、封止容器の縁部と基板2とを接着する接着剤とによって封止されていてもよい。また、封止容器に有機EL素子1を収容し、紫外線(UV)硬化樹脂などからなるシール材を充填することにより封止してもよい。
【0078】
封止容器又は封止部材を用いて有機EL素子1を封止する場合、封止容器内又は封止部材の内側に、水分を吸収する乾燥材を配置してもよい。また、封止容器又は封止部材として、水分を吸収する材料を用いてもよい。また、封止された封止容器内又は封止部材の内側には、空間が形成されていてもよい。
【0079】
有機EL素子1を封止する場合に用いる封止容器又は封止部材の材料としては、樹脂材料、ガラス材料等を用いることができる。封止容器又は封止部材に用いられる樹脂材料及びガラス材料としては、基板2に用いる材料と同様のものが挙げられる。
【0080】
「有機EL素子の製造方法」
次に、本発明の有機EL素子の製造方法の一例として、有機EL素子1の製造方法を説明する。
【0081】
有機EL素子1を製造するには、まず、基板2上に陽極3を形成する。
陽極3は、スパッタ法、真空蒸着法、ゾルゲル法、スプレー熱分解(SPD)法、原子層堆積(ALD)法、気相成膜法、液相成膜法等により形成することができる。陽極3の形成には、金属箔を接合する方法を用いてもよい。
【0082】
次に、陽極3上に、正孔注入層4、正孔輸送層5、発光層6、電子注入層7をこの順で形成する。
正孔注入層4、正孔輸送層5、発光層6、電子注入層7の形成方法は、特に限定されず、正孔注入層4、正孔輸送層5、発光層6、電子注入7のそれぞれに用いられる材料の特性に合わせて、従来公知の種々の形成方法を適宜用いることができる。
具体的には、正孔注入層4、正孔輸送層5、発光層6、電子注入層7の各層を形成する方法として、正孔注入層4、正孔輸送層5、発光層6、電子注入層7となる有機化合物を含む有機化合物溶液を塗布する塗布法、真空蒸着法、ESDUS(Evaporative Spray Deposition from Ultra-dilute Solution)法等が挙げられる。
【0083】
次に、電子注入層7上に、陰極8を形成する。陰極8は、例えば、陽極3と同様にして形成できる。
【0084】
図5に示す逆構造の有機EL素子を作製する場合、順序が逆となる。なお、
図5に示す逆構造の有機EL素子において、陰極8上に無機の酸化物からなる層を形成する場合、酸化物は、例えば、スプレー熱分解法、ゾルゲル法、スパッタ法、真空蒸着法等の方法を用いて形成する。
以上の工程により、有機EL素子1が得られる。
【0085】
「封止方法」
有機EL素子1を封止する場合には、有機EL素子の封止に用いられる通常の方法を使用して封止できる。
【0086】
<表示装置、照明装置>
本実施形態の有機EL素子1は、発光効率が高い上記一般式(1)で表されるアントラセン誘導体を利用して発光を得るため、好ましくは、電子親和力が大きいアントラセン誘導体と他のイオン化ポテンシャルが小さい有機材料との間で形成される励起錯体を利用して発光を得るため、小さなエネルギーで電荷の再結合が可能となる。従って、駆動電圧の低い有機EL素子1となる。
【0087】
本発明の有機EL素子は、発光層等の材料を適宜選択することによって発光色を変化させることができるし、カラーフィルター等を併用して所望の発光色を得ることもできる。そのため、本発明の有機EL素子は、表示装置の発光部位や照明装置として好適に用いることができる。
【0088】
本発明の表示装置は、その簡易な素子構造により生産性に優れ、駆動電圧が低い本発明の有機EL素子を具える。このため、表示装置として好ましいものである。
また、本発明の照明装置は、その単純な素子構造により生産性に優れ、駆動電圧が低い本発明の有機EL素子を具える。このため、照明装置として好ましいものである。
【実施例0089】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0090】
<アントラセン誘導体の合成>
以下の反応スキームに従って、式(1-1)で表されるアントラセン誘導体を合成した。
【化7-1】
【化7-2】
【0091】
「式(4-3)で表される化合物の合成工程」
アルゴン雰囲気下、300mL反応器に、式(4-1)で表される5-ブロモイソフタル酸(10.4g,42.4mmol,1.0eq.)、無水ジクロロメタン(100mL)を加え、この懸濁液にオキザリルクロリド(10.9mL,12.7mmol,3.0eq.)、DMF(3滴)を添加した。この懸濁液を、室温下、発泡が治まるまで18時間撹拌した後、濃縮し、残渣にトルエン(100mL×2)を加えて再度濃縮し、薄黄色の粘稠な液体である式(4-2)で表される化合物(12.4g,excess)を得た。この残渣にTHF(100mL)、iPr2NEt(17.8mL,127mmol,3.0eq.)を加え、氷冷した。内温5℃にてt-ブチルアミン(11.2mL,106mmol,2.5eq.)を15分かけて滴下し、冷却バスを付けたまま3時間かけて室温まで昇温させた。この懸濁液を0.5N塩酸水溶液(100mL)にてクエンチし、酢酸エチル(100mL×2)にて抽出し、有機層を合わせて飽和重曹水、飽和食塩水にて順次洗浄し、無水硫酸ナトリウムにて乾燥、濃縮し、無色の固体である式(4-3)で表される化合物(14.5g,40.8mmol,96%)を得た。
【0092】
「式(4-4)で表される化合物の合成工程」
アルゴン雰囲気下、300mL反応器に、式(4-3)で表される化合物(14.5g,6.41mmol,1.0eq.)、塩化チオニル(64mL,883mmol,21eq.)を加え、バス温85℃に昇温して、同温で3日間加熱還流した。これを濃縮し、残渣にトルエン(100mL×2)を加えて共沸させた。この薄褐色固体にヘプタン(60mL)を加え、70℃に加熱し、分散洗浄、放冷、濾過した。濾取物にTHF(20mL)を加え、70℃にて完溶後、IPE(20mL)をゆっくり加え、固体を析出させた後、放冷、濾過し、高真空下40℃で乾燥し、無色の固体である式(4-4)で表される化合物(7.0g,33.8mmol,82%)を得た。
【0093】
「式(4-5)で表される化合物の合成工程1」
アルゴン雰囲気下、100mL反応器に、式(4-4)で表される化合物(1.0g,4.83mmol,1.0eq.)、ビスピナコールジボラン(1.84g,7.24mmol,1.5eq.)、Pd(dppf)Cl2(40mg,0.0483mmol,0.01eq.)、酢酸カリウム(1.04g,10.6mmol,2.2eq.)、脱気した酢酸イソプロピル(25mL)を加え、バス温90℃で6時間加熱撹拌した。放冷後、この黒褐色懸濁液をセライト濾過し、濾床を酢酸エチルにて洗浄し、濾液を濃縮して、黒褐色の固体(2.69g)を得た。これをカラム精製(SiO2=65g,ヘキサン/酢酸エチル=2/1→1/1)し、粘稠な固体(1.11g)を得た。これをIPE(ca.8mL)にて加熱分散洗浄し、放冷後、析出した固体を濾過し、濾床をヘプタンで洗浄し、高真空下50℃で乾燥し、無色の固体である式(4-5)で表される化合物(0.79g,3.11mmol,64%)を得た。
【0094】
「式(4-5)で表される化合物の合成工程2」
アルゴン雰囲気下、300mL反応器に、式(4-4)で表される化合物(3.6g,17.4mmol,1.0eq.)、ビスピナコールジボラン(6.62g,26.1mmol,1.5eq.)、Pd(dppf)Cl2(142mg,0.174mmol,0.01eq.)、酢酸カリウム(3.75g,38.2mmol,2.2eq.)、脱気した酢酸イソプロピル(90mL)を加え、バス温90℃で8時間加熱撹拌した。放冷後、この黒褐色懸濁液をセライト濾過し、濾床を酢酸エチルにて洗浄し、濾液を濃縮して、黒褐色の固体(9.61g)を得た。これをカラム精製(SiO2=150g,ヘキサン/酢酸エチル=2/1→1/1)し、粘稠な固体(4.86g)を得た。これをIPE(ca.30mL)にて加熱分散洗浄し、放冷後、析出した固体を濾過し、濾床をヘプタンで洗浄し、高真空下50℃で乾燥し無色の固体である式(4-5)で表される化合物(3.22g,12.6mmol,72%)を得た。
上記の「式(4-5)で表される化合物の合成工程1」と「式(4-5)で表される化合物の合成工程2」で得られた化合物を混合して、以下の「式(1-1)で表されるアントラセン誘導体の合成工程」に使用した。
【0095】
「式(5-2)で表される化合物の合成工程」
アルゴン雰囲気下、200mL反応器に、式(5-1)で表される2-クロロ-4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン(2.67g,10.0mmol,1.0eq.)、9-アントラセンボロン酸(2.44g,11.0mmol,1.1eq.)、Pd(Ph3P)4(0.231g,0.20mmol,0.02eq.)、炭酸水素ナトリウム(3.36g,40.0mmol,4.0eq.)、脱気トルエン(40mL)、脱気蒸留水(40mL)、脱気エタノール(15mL)を加えた。この懸濁液をバス温80℃に昇温して、8時間加熱撹拌した。放冷後、この褐色懸濁液にヘプタン(40mL)を加え撹拌し、不溶物を濾過し、濾床を市水、メタノールにてかけ洗いし、高真空下60℃で乾燥し、グレーの粉末(4.26g)を得た。これを加熱トルエン(300mL)にて溶解させた後、ガレオンアースVR-2(30g)を加え、15分間80℃にて撹拌し、これをセライト濾過し、濾床をトルエンにてかけ洗いし、濾液を濃縮して、薄黄色の粉末を得た。これをエタノールにて分散洗浄濾過し、メタノールにてかけ洗いし、高真空下60℃で乾燥して、薄黄色の固体である式(5-2)で表される化合物(3.2g,7.8mmol,78%,純度良くない)を得た。
【0096】
「式(5-3)で表される化合物の合成工程」
200mL反応器に、式(5-2)で表される化合物(3.2g,7.81mmol,1.0eq.)、NBS(1.67g,9.38mmol,1.2eq.)、クロロホルム(64mL)を加えた。この懸濁液をバス温70℃で8時間加熱撹拌した。この懸濁液を濃縮し、残渣にメタノール(50mL)を加え、50℃にて30分間撹拌し、放冷後、この懸濁液を濾過し、濾取した固体を再度エタノールにて超音波洗浄、濾過し、高真空下70℃で乾燥して、黄色固体(3.96g,wet.)を得た。1H-NMRにて分析したところ、不純物が多かったので、これに酢酸エチル(30mL)を加え、超音波分散洗浄、濾過し、高真空下60℃で乾燥して、黄色の固体である式(5-3)で表される化合物(3.35g,6.86mmol,87%)を得た。
【0097】
「式(1-1)で表されるアントラセン誘導体の合成工程」
100mL反応器に、式(5-3)で表される化合物(1.77g,3.63mmol,1.0eq.)、式(4-5)で表される化合物(1.2g,4.72mmol,1.3eq.)、リン酸三カリウム(2.3g,10.9mmol,3.0eq.)、脱気トルエン(35mL)を加えた。この懸濁液を減圧下で脱気した後、Pd
2(dba)
3(41mg,0.181mmol,0.05eq.)、S-Phos(0.179g,0.436mmol,0.12eq.)を加え、再度減圧下で脱気した。この懸濁液をバス温120℃で6時間加熱撹拌した。この懸濁液をトルエン(200mL)に加え、80℃に昇温し、析出した固体をセライト濾過した。濾床をトルエン(50mL)にてかけ洗いし、濾液にガレオンアースVR-2(5g)を加え、バス温約80℃に加熱し、熱いままセライト濾過した。濾液を濃縮し、残渣に酢酸エチル(20mL)を加え、加熱分散洗浄、濾過し、濾液を濃縮して、黄色粉末(1.76g)を得た。この残渣にトルエン(30mL)を加え、加熱放冷にて再結晶し、黄色固体を得た。これを高真空下80℃で乾燥して、黄色固体である式(1-1)で表されるアントラセン誘導体(1.19g,2.22mmol,61%)を得た。生成物の
1H-NMRスペクトルを
図7に示す。
【0098】
「実施例1」
(有機EL素子の作製)
以下に示す方法により、有機EL素子1を製造し、評価した。
【0099】
[工程1]
基板2として、ITOからなる幅3mmにパターニングされた電極(陽極3)を有する平均厚さ0.7mmの市販の透明ガラス基板を用意した。
そして、陽極3を有する基板2を、アセトン中、イソプロパノール中でそれぞれ10分間ずつ超音波洗浄し、イソプロパノール中で5分間煮沸した。その後、陽極3を有する基板2を、イソプロパノール中から取り出し、窒素ブローにより乾燥させ、UVオゾン洗浄を20分間行った。
【0100】
[工程2]
[工程1]において洗浄した陽極3の形成されている基板2を、スピンコーターにセットし、正孔注入層4として、へレウス社製正孔注入材料「Clevios HIL1.3N」をスピンコート、大気中で加熱処理を施し、10nmの正孔注入層4を成膜した。
【0101】
[工程3]
次に、正孔注入層4までの各層が形成された基板2を、真空蒸着装置の基板ホルダーに固定した。真空蒸着装置のチャンバー内を1×10
-5Paの圧力となるまで減圧した。
正孔注入層4上に正孔輸送層5として、まず、下記構造式:
【化8】
で表される2-SF-PHX(イオン化エネルギー(計算値)=4.55eV)と、ノバレッド社のp型ドーパントであるNDP-9を質量比9:1で30nm蒸着し、その後、2-SF-PHXを10nm蒸着した。更に、発光層6として、構造式(1-1)で表されるアントラセン誘導体(電子親和力(計算値)=2.30eV、イオン化エネルギー(計算値)=5.70eV)を30nm蒸着した膜を形成した。
【0102】
発光層6を製膜した後に、電子注入層7として、下記構造式(2-1)で表される化合物を3nm蒸着した。
【化9】
なお、上記構造式(2-1)で表される化合物は、T.Sasaki, M.Hasegawa, K.Inagaki, H.Ito, K.Suzuki, T.Oono, K.Morii, T.Shimizu and H.Fukagawa, Nature Communications,12,pp.2706.1,DOI:10.1038/s41467-021-23067-2に記載の方法に従って合成した。
【0103】
次に、電子注入層7まで形成した基板2上に、真空蒸着法によりアルミニウムからなる膜厚100nmの陰極8を成膜した。
なお、陰極8は、ステンレス製の蒸着マスクを用いて蒸着面が幅3mmの帯状になるように形成し、作製した有機EL素子の発光面積を9mm2とした。
【0104】
[工程4]
次に、陰極8までの各層を形成した基板2を、凹状の空間を有するガラスキャップ(封止容器)に収容し、紫外線(UV)硬化樹脂からなるシール材を充填することにより封止し、実施例1の有機EL素子を得た。
【0105】
「比較例1」
発光層6に用いる材料を、ベンゾニトリル含むことで、9-(1-ナフチル)-10-(2-ナフチル)アントラセン等の単純芳香族アントラセン誘導体よりも電子親和力が大きい、下記構造式(6-1)で表される化合物(非特許文献1記載)としたこと以外は、実施例1と同様にして、比較例1の有機EL素子を作製した。
【化10】
【0106】
(有機EL素子の特性評価)
このようにして得られた実施例及び比較例の素子に対して、ケースレー社製の「2400型ソースメーター」を用いて電圧を印加し、コニカミノルタ社製の「LS-100」を用いて輝度を測定し、印加電圧と輝度の関係を調べた。また、印加電圧と電流密度の関係、及び発光スペクトルを調べた。これらの結果を
図8に示す。
【0107】
図8(a)に、実施例1および比較例1の印加電圧-電流密度特性を示す。
実施例1の方が比較例1よりも低い印加電圧で電流の立ち上がりが観測できた。これは発光層6に用いた材料の電子親和力が、構造式(6-1)で表される化合物よりも、構造式(1-1)で表されるアントラセン誘導体の方が大きいことに起因する。
【0108】
また、
図8(b),(c)には、実施例1および比較例1の印加電圧-輝度特性、ELスペクトルを示す。
図8(b),(c)より、実施例1では、比較例1に比べ、低い印加電圧で青色の発光が得られている。特に実施例1においては、印加電圧2V以下で電流が立ち上がっているにも関わらず青色の発光が得られている。
図2,3に示す通り、構造式(1-1)で表されるアントラセン誘導体の大きな電子親和力により、低い印加電圧で励起錯体が形成され、その励起錯体のエネルギーを、三重項-三重項消滅を経て青色の発光として取り出すことができたと考えられる。