(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024180172
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】温調部材、温調部材の製造方法、及び電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/6556 20140101AFI20241219BHJP
H01M 10/613 20140101ALI20241219BHJP
H01M 10/625 20140101ALI20241219BHJP
H01M 10/6567 20140101ALI20241219BHJP
【FI】
H01M10/6556
H01M10/613
H01M10/625
H01M10/6567
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023099655
(22)【出願日】2023-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤澤 和武
(72)【発明者】
【氏名】山下 孝宏
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 誠一
(72)【発明者】
【氏名】庄田 広明
(72)【発明者】
【氏名】福川 裕二
(72)【発明者】
【氏名】山口 悠衣
【テーマコード(参考)】
5H031
【Fターム(参考)】
5H031AA09
5H031HH06
(57)【要約】
【課題】強度の低下を抑制し、製造時のエネルギー消費を抑制可能な温調部材を提供する。
【解決手段】温調部材は、温調媒体を流す溝が一方の面側に形成された溝形成板と、溝形成板の一方の面に重ね合わされ溝との間に閉断面の流路を形成する蓋板と、少なくとも溝の両側に沿って設けられ溝形成板の一方の面と蓋板とを接着するフィルム型接着剤と、溝形成板と蓋板とをカシメ固定するカシメ固定部と、を有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
温調媒体を流す溝が一方の面側に形成された溝形成板と、
前記溝形成板の前記一方の面に重ね合わされ前記溝との間に閉断面の流路を形成する蓋板と、
少なくとも溝の両側に沿って設けられ前記溝形成板の前記一方の面と前記蓋板とを接着するフィルム型接着剤と、
前記溝形成板と前記蓋板とをカシメ固定するカシメ固定部と、
を有する温調部材。
【請求項2】
前記溝形成板の前記一方の面には、周囲が前記溝で囲まれた長尺状の島状部分を有し、
前記カシメ固定部が、前記島状部分の長手方向両側に設けられている、
請求項1に記載の温調部材。
【請求項3】
前記蓋板は、前記溝形成板よりも熱伝導率が高い金属材料で形成されている、
請求項1または請求項2に記載の温調部材。
【請求項4】
前記溝形成板は、前記蓋板よりも曲げ剛性の高い金属材料で形成されている、
請求項3に記載の温調部材。
【請求項5】
前記フィルム型接着剤は、熱可塑性樹脂を含んで構成されている、
請求項1に記載の温調部材。
【請求項6】
温調媒体を流す溝が一方の面側に形成された溝形成板と、前記溝形成板の前記一方の面に重ね合わされることで前記溝との間に閉断面の流路を形成する蓋板とをフィルム型接着剤で接着して溝回りをシールする接着工程と、
前記溝形成板と前記蓋板との重ね合わせ部分において、複数個所をカシメ固定するカシメ工程と、
を有する温調部材の製造方法。
【請求項7】
前記フィルム型接着剤は熱可塑性樹脂を含んで構成され、
前記接着工程では、前記フィルム型接着剤を前記溝形成板と前記蓋板との間に挟持した状態で溶着する、
請求項6に記載の温調部材の製造方法。
【請求項8】
請求項1~請求項5の何れか1項に記載の前記温調部材を備えた電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、温調部材、温調部材の製造方法、及び電池に関する。
なお、電池は、単体の電池、複数の電池からなる電池モジュールや電池パックを含む。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1に記載の電池モジュール用温調部材が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の電池モジュール用温調部材は、金属製の下部プレートと上部プレートとの間に複数の温調媒体流路を含む支持体を配置して、下部プレートと上部プレートとを接合している。
しかしながら、下部プレートと上部プレートとをろう付けで接合すると、ろう付けの熱処理工程で材料が鈍り、強度が低下する場合がある。また、ろう付けは、ろうを高温で溶かす必要があるためエネルギーを多く要し、改善の余地があった。
【0005】
本開示は上記事実を考慮し、強度の低下を抑制し、製造時のエネルギー消費を抑制可能な温調部材、温調部材の製造方法、及び電池の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の態に係る温調部材は、温調媒体を流す溝が一方の面側に形成された溝形成板と、前記溝形成板の前記一方の面に重ね合わされ前記溝との間に閉断面の流路を形成する蓋板と、少なくとも溝の両側に沿って設けられ前記溝形成板の前記一方の面と前記蓋板とを接着するフィルム型接着剤と、前記溝形成板と前記蓋板とをカシメ固定するカシメ固定部と、を有する。
【0007】
第1の態様に係る温調部材では、温調媒体を流す溝が一方の面側に形成された溝形成板の一方の面に蓋板に重ね合わされることで溝との間に閉断面の流路が形成されている。したがって、例えば、この流路に冷却対象物よりも低温の温調媒体を流すことで、温調部材を冷却することができ、温調部材を冷却対象物に接触させることで、冷却対象物を冷却することができる。
【0008】
第1の態様に係る温調部材では、少なくとも溝の両側に沿ってフィルム型接着剤が設けられ、溝形成板の一方の面と蓋板とがフィルム型接着剤で接着されているので、流路に流される温調媒体が、流路から漏れ出ることがない。
【0009】
また、第1の態様に係る温調部材では、溝形成板と蓋板とがカシメ固定部でカシメ固定されることで溝形成板と蓋板とが一体化し、フィルム型接着剤での接着部分の剥離が抑制される。
【0010】
なお、ろう付けよる接合はエネルギーを多く要するが、フィルム型接着剤、及びカシメ固定による接合は、ろう付けよりもエネルギーを必要とせず、製造時のエネルギー消費を抑制することができ、省エネとなる。
【0011】
さらに、フィルム型接着剤、及びカシメ固定による接合は、ろう付けのように材料を高温に加熱しないので、材料の鈍りを抑制することができる。
【0012】
第2の態様に係る温調部材は、第1の態様に係る温調部材において、前記溝形成板の前記一方の面には、周囲が前記溝で囲まれた長尺状の島状部分を有し、前記カシメ固定部が、前記島状部分の長手方向両側に設けられている。
【0013】
溝形成板に周囲が溝で囲まれた長尺状の島状部分が設けられていると、流路に圧力が作用した際に、島状部分の長手方向両側部分には、長手方向中央部分よりも大きな応力が作用し易い。このため、前記応力によって溝形成板と蓋板とが分離しないように、島状部分の長手方向両側にカシメ固定部を設けることが好ましい。
【0014】
第3の態様に係る温調部材は、第1の態様または第2の態様に係る温調部材において、前記蓋板は、前記溝形成板よりも熱伝導率が高い金属材料で形成されている。
【0015】
第3の態様に係る温調部材では、蓋板が、溝形成板よりも熱伝導率が高い金属材料で形成されているため、蓋板に、例えば冷却対象物を接触させることで、溝形成板に冷却対象物を接触させた場合に比較して、冷却対象物を効率的に冷却することができる。
【0016】
第4の態様に係る温調部材は、第3の態様に係る温調部材において、前記溝形成板は、前記蓋板よりも曲げ剛性の高い金属材料で形成されている。
【0017】
第4の態様に係る温調部材では、溝形成板が、蓋板よりも曲げ剛性の高い金属材料で形成されているため、溝形成板を蓋板よりも曲げ剛性を低い材料で形成した場合と比較して、温調部材の曲げ剛性を高くすることができる。言い換えれば、溝形成板を蓋板よりも曲げ剛性の高い金属材料で形成し、蓋板を溝形成板よりも熱伝導率が高い金属材料で形成することで、温調部材において、曲げ剛性と冷却性能を両立することができる。
【0018】
第5の態様に係る温調部材は、第1の態様に係る温調部材において、前記フィルム型接着剤は、熱可塑性樹脂を含んで構成されている。
【0019】
第5の態様に係る温調部材では、フィルム型接着剤が熱可塑性樹脂を含んで構成されているため、ろう付けよりも低い温度でフィルム型接着剤を溶融して溝形成板と蓋板との接合作業を行うことができる。即ち、フィルム型接着剤で溝形成板と蓋板とをろう付けよりも短時間で接合(溶着)することができる。
【0020】
第6の態様に係る温調部材の製造方法は、温調媒体を流す溝が一方の面側に形成された溝形成板と、前記溝形成板の前記一方の面に重ね合わされることで前記溝との間に閉断面の流路を形成する蓋板とをフィルム型接着剤で接着して溝回りをシールする接着工程と、前記溝形成板と前記蓋板との重ね合わせ部分において、複数個所をカシメ固定するカシメ工程と、を有する。
【0021】
第6の態様に係る温調部材の製造方法では、接着工程で、温調媒体を流す溝が一方の面側に形成された溝形成板と、溝形成板の一方の面に重ね合わされることで溝との間に閉断面の流路を形成する蓋板とをフィルム型接着剤で接着して溝回りをシールすることができる。
また、カシメ工程において、溝形成板と蓋板との重ね合わせ部分において、複数個所がカシメ固定されているので、フィルム型接着剤の接着のみで溝形成板と蓋板とを接合した比較して、高い接合強度を得ることができる。
なお、接着工程は、カシメ工程の後に行ってもよく、カシメ工程の前におこなってもよい。
【0022】
第7の態様に係る温調部材の製造方法は、第6の態様に係る温調部材において、前記フィルム型接着剤は熱可塑性樹脂を含んで構成され、前記接着工程では、前記フィルム型接着剤を前記溝形成板と前記蓋板との間に挟持した状態で溶着する。
【0023】
第7の態様に係る温調部材の製造方法では、フィルム型接着剤が熱可塑性樹脂を含んで構成されているので、接着工程では、フィルム型接着剤を溝形成板と蓋板との間に挟持した状態で溶着することができる。
【0024】
第8の態様に係る電池は、第1の態様~第5の態様の何れか一つの態様に係る温調部材を備えている。
【0025】
第8の態様に係る電池では、例えば、温調部材に、電池よりも低温の温調媒体を流すことで、電池を冷却することができる。
【発明の効果】
【0026】
以上説明したように本開示の温調部材によれば、製造時にろう付けよりもエネルギーを必要とせず、製造時のエネルギー消費を抑制することができ、また、ろう付けのように材料を高温に加熱しないので、材料の鈍りを抑制することができる。
【0027】
本開示の温調部材の製造方法によれば、ろう付けよりもエネルギーを必要とせず、製造時のエネルギー消費を抑制することができ、材料の鈍りが抑制された温調部材を製造できる。
また、本開示の電池によれば、例えば、温調部材に、電池よりも低温の温調媒体を流すことで、電池を冷却することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本開示の一実施形態に係る温調部材を示す斜視図である。
【
図2】本開示の一実施形態に係る温調部材を示す分解斜視図である。
【
図6】(A)~(D)は、温調部材の製造工程の一例を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
図1~
図6を用いて、本開示の一実施形態に係る温調部材10について説明する。
なお、図面における矢印F方向、及び矢印B方向を長手方向、矢印L方向、及び矢印R方向を幅方向と称する。また、図面における矢印U方向は上方向、矢印D方向は下方向を示している。
図1、及び
図2に示すように、本実施形態の温調部材10は、一面側に、溝16が形成された溝形成板12と、溝形成板12の一面側を覆う蓋板14を有している。
【0030】
(冷却通路形成板)
図2に示すように、溝形成板12は、金属板で、平面視で矩形状(本実施形態では長方形)に形成されている。
図2、及び
図3に示すように、溝形成板12は、プレス成型されることで、上面側(一面側)に、後述する温調媒体流路18を構成する溝16が形成されている。この溝16は、溝形成板12の上面が蓋板14で覆われることで、温調媒体が流れる閉断面の温調媒体流路18を構成する。温調媒体としては、水、エチレングリコール(不凍液)、ロングライフクーラント(LLC)等の液体を用いることができる。
【0031】
温調媒体流路18は、溝形成板12の矢印F方向側の矢印R方向側に、矢印L方向に延びる第1通路18Aが形成されおり、第1通路18Aの矢印B方向の側部に、第1通路18Aから矢印B方向に向けて延びる第2通路18B、及び第3通路18Cが幅方向に間隔を開けて形成されている。
第2通路18B、及び第3通路18Cの矢印B方向側の端部は、溝形成板12の矢印B方向側において幅方向に沿って延びる第4通路18Dの側部に接続されている。
【0032】
本実施形態の溝形成板12において、第1通路18A、第2通路18B、第3通路18C、及び第4通路18Dで囲まれて長手方向に沿って延びる部分を、第1陸部20Aと呼ぶ。なお、本実施形態の溝形成板12において、周方向縁部において枠状に繋がる陸部分を第2陸部20Bと呼ぶ。
【0033】
第4通路18Dは、第3通路18Cよりも矢印L方向に延びている。第4通路18Dにおける、第3通路18Cよりも矢印L方向に延びた部分には、第4通路18Dから矢印F方向に延びる第5通路18E、及び第6通路18Fが幅方向に間隔を開けて形成されている。
【0034】
第3通路18Cと第5通路18Eとの間に設けられ、矢印F方向の第2陸部20Bから第4通路18Dに向けて延びる陸部分は、第3陸部20Cと呼ぶ。
【0035】
第5通路18E、及び第6通路18Fの矢印F方向側の端部は、溝形成板12の矢印F方向側において幅方向に沿って延びる第7通路18Gの側部に接続されている。
【0036】
第7通路18Gは、第6通路18Fを矢印L方向へ越えて延びている。第7通路18Gにおける、第6通路18Fよりも矢印L方向側へ延びた部分には、第7通路18Gから矢印B方向に延びる第8通路18H、及び第9通路18Iが幅方向に間隔を開けて形成されている。
【0037】
第8通路18H、及び第9通路18Iの矢印B方向側の端部は、溝形成板12の矢印B方向側において幅方向に沿って延びる第10通路18Jの側部に接続されている。
【0038】
本実施形態の溝形成板12において、第4通路18D、第5通路18E、第6通路18F、及び第7通路18Gで囲まれて長手方向に沿って延びる部分を、第4陸部20Dと呼ぶ。
【0039】
本実施形態の溝形成板12において、第4通路18Dと第10通路18Jとで挟まれる部分を、第5陸部20Eと呼ぶ。
【0040】
本実施形態の溝形成板12において、第6通路18Fと第7通路18Gと第8通路18Hとで囲まれて長手方向に沿って延びる部分を、第6陸部20Fと呼ぶ。
なお、第6陸部20Fの矢印B方向の端部は、第5陸部20Eの矢印L方向側の端部と一体的に連結している。
【0041】
本実施形態の溝形成板12において、第7通路18G、第8通路18H、第9通路18I、及び第10通路18Jで囲まれて長手方向に沿って延びる部分を、第7陸部20Gと呼ぶ。
【0042】
図3に示すように、第1通路18Aの溝底部には、矢印R方向側の端部に、温調媒体流路18に温調媒体を流入させる温調媒体流入口22が形成されており、第10通路18Jの溝底部には、矢印R方向側の端部に、温調媒体流路18の内を流れた温調媒体を流出させる温調媒体流出口24が形成されている。
【0043】
温調媒体流入口22には、温調媒体を流入させる配管(図示省略)を接続することができ、温調媒体流出口24には、温調媒体を流出させる配管(図示省略)を接続することができる。
【0044】
図2、及び
図3に示すように、第1陸部20Aの上面の長手方向両端部、枠状の第2陸部20Bの上面の四隅、第4陸部20Dの長手方向両端部、第6陸部20Fの長手方向両端部、第7陸部20Gの長手方向両端部には、平面視で円形の凹部26がプレス成型されている。
【0045】
なお、本実施形態における第1陸部20A、第4陸部20D、第6陸部20F、及び第7陸部20Gは、本開示の島状部分である。
【0046】
(蓋板)
蓋板14は、平坦な金属板で、溝形成板12と同様に、平面視で矩形状に形成されている。
図2、及び
図5に示すように、蓋板14において、溝形成板12と対向する面(下面)には、溝形成板12の凹部26と対向する位置に、凹部26と嵌合する平面視で円形の突起28がプレス成型されている。即ち、突起28は、溝形成板12に向けて突出している。
なお、詳細は後述するが、凹部26と突起28とが嵌合してカシメ固定された部分を、カシメ固定部30と呼ぶ。
【0047】
(接着剤フィルム)
図1に示すように、溝形成板12と蓋板14とは、溝形成板12と蓋板14との間に配されるフィルム型接着剤40(
図1では図示省略)で接着されている。
【0048】
図2に示すように、フィルム型接着剤40は、第3陸部20C、第2陸部20B、第5陸部20E、及び第6陸部20Fと同形状の第1フィルム40A、第1陸部20Aと同形状の第2フィルム40B、第4陸部20Dと同形状の第3フィルム40C、及び第7陸部20Gと同形状の第4フィルム40Dを含んで構成されている。
【0049】
これら第1フィルム40A、第2フィルム40B、第3フィルム40C、及び第4フィルム40Dには、蓋板14の突起28が貫通する孔42が形成されている。
【0050】
本実施形態の温調部材10で用いる蓋板14は、一例として、溝形成板12よりも熱伝導性に優れた材料で形成することができ、溝形成板12は、蓋板14よりも機械的強度(一例として曲げ剛性)が高い材料で形成することができる。これにより、蓋板14よりも機械的強度が高い材料で形成した溝形成板12で温調部材10の機械的強度を担保し、溝形成板12よりも熱伝導性に優れた材料で形成した蓋板14を冷却対象物に接触させることで、温調媒体と冷却対象物との間の熱交換効率を高めることができる。
【0051】
本実施形態の溝形成板12、及び蓋板14は、一例として、アルミニウム合金板をプレス成型することで形成されている。
【0052】
フィルム型接着剤40は、一例として50μm程度の厚さを有している。本実施形態のフィルム型接着剤40は、熱可塑性樹脂を含んで構成されており、加熱することで溶融するものである。フィルム型接着剤40を構成する熱可塑性樹脂は、固体と液体との間の相変化を利用することで、フィルム型接着剤40で溶着するだけで瞬間的(一例として、溶着時間1~5秒)な接合を可能とするものである。
【0053】
本実施形態のフィルム型接着剤40は、揮発性有機化合物(VOC)を使用しないため、接着時の揮発性有機化合物の飛散がない。
【0054】
フィルム型接着剤40の溶着方法としては、加熱溶着、超音波溶着、高周波誘導溶着等を用いることができる。
【0055】
なお、フィルム型接着剤40は、加熱することで溝形成板12と蓋板14とを接着することができるものであればよく、熱硬化性樹脂を含んで構成されているものであってもよい。
【0056】
(温調部材の製造方法)
次に、本実施形態の温調部材10の製造方法の一例を説明する。
(工程1) 先ず、金属板をプレス成型することで
図2に示す溝形成板12、及び蓋板14を形成し、接着剤フィルム材料(原反)を打ち抜き加工等して
図2に示すフィルム型接着剤40を形成する。
【0057】
(工程2)
図6(A)に示すように、突起28が上向きとなるように蓋板14を配置し、蓋板14の突起28がフィルム型接着剤40の孔42に挿入されるように、蓋板14の上面にフィルム型接着剤40を載せる。
【0058】
(工程3)
図6(B)に示すように、フィルム型接着剤40の孔42から突出した蓋板14の突起28に、溝形成板12の凹部26が嵌合するように、フィルム型接着剤40の上面に、凹部26を下に向けた溝形成板12を載せてフィルム型接着剤40に密着させる。
【0059】
(工程4:カシメ工程)
図6(C)に示すように、蓋板14の突起28の突出側とは反対側にカシメ用雄型(ポンチ)44を配置し、溝形成板12の凹部26の反対側にカシメ用雌型(ダイ)46を配置し、カシメ用雄型44を突起28の反対側の凹部分内に強制的に進入させて、蓋板14の突起28の先端側を溝形成板12の凹部26の内部で拡径する方向に塑性変形させると共に、凹部26も塑性変形させてカシメ固定部30を形成する。これにより、溝形成板12と蓋板14との間にフィルム型接着剤40が挟持される。
【0060】
(工程5:接着工程)
図6(D)に示すように、溝形成板12と蓋板14とを加熱した熱板48で挟持し、蓋板14と溝形成板12とを加熱してフィルム型接着剤40を溶融させた後、温調部材10を冷却して溶融したフィルム型接着剤40を固化させる。これにより、蓋板14と溝形成板12とをフィルム型接着剤40で接着させることができ、温調媒体流路18から温調媒体が漏れないように、蓋板14と溝形成板12との間(通路以外の部分)をシールすることができる。
【0061】
本実施形態の温調部材10においては、フィルム型接着剤40を用いた接着で溝形成板12と蓋板14との間のシールを行い、カシメ固定により溝形成板12と蓋板14とを強固に固定している。即ち、本実施形態の温調部材10においては、フィルム型接着剤40とカシメ固定部30とを用い、シールと固定とを機能分離(役割分担)しており、高い固定(接合)強度と高いシール性とを両立することができる。
【0062】
なお、例えば、溝形成板12と蓋板14との固定をろう付けで行う場合、加熱釜の中にろう付け対象物を入れて金属のロウを溶かすため、多大なエネルギーを使用しなければならない。一方、本実施形態の温調部材10では、熱可塑性樹脂からなるフィルム型接着剤40を溶融するだけのエネルギーしか使用しないので、製造時に使用するエネルギーがろう付けよりも少なくて済み、省エネとなり、環境(カーボンニュートラルなど)に対して優しいものとなる。また、ろう付けに比較して、溝形成板12と蓋板14とを短時間で接合(溶着)することができる。
【0063】
また、ろう付けでは、ろう付け対象を加熱してロウを溶かすまでの時間を多く必要とするが、フィルム型接着剤40を用いた接着固定では、接着対象の加熱温度がろう付けよりも低くて済み(ロウよりも熱可塑性樹脂の溶融温度が低いため)、ろう付けよりも短時間で接着作業を終了させることができる。
【0064】
なお、ろう付けでは熱処理工程にて、材料が鈍るため、材料の強度低下を招くが、本実施形態では、材料(溝形成板12と蓋板14)を高温に加熱しないので、強度低下を抑制することができ、強度を上げるために、板厚を厚くして重量を増加する必要がない。
【0065】
ろう付けでは、材料が傾斜していた場合、溶融したろう材が鉛直方向下側へ流れてしまうが、本実施形態では、薄いフィルム型接着剤40が短時間で溶融固化するのでフィルム型接着剤40が鉛直方向下側へ流れてしまうことはなく、ろう付けのような不具合は生じない。したがって、フィルム型接着剤40の接合面が水平面に対して傾斜していても、問題なく接着を行うことができる。
【0066】
また、ろう付けでは、穴部や平面が必用な部位など、余剰ろう材の染み出しや、フラックス残渣が発生するが、本実施形態では、ろう材の染み出しやフラックス残渣の除去加工を必要としない。
【0067】
ろう付けは、面と線との接合が基本であり、面と面とのろう付けは不安定であり、未接合が発生しやすいが、本実施形態では、溝形成板12の面と蓋板14の面との間にフィルム型接着剤40を配置して密着させた状態で接合(溶着)するので、ろう付けのような未接合が発生は抑制される。
【0068】
異種金属同士を接合する場合、ろう付けができない場合があるが、本実施形態のようにフィルム型接着剤40とカシメ固定による接合では、異種金属同士であっても接合することができる。
【0069】
なお、温調媒体流路18の内圧により、溝形成板12と蓋板14とを離間させる方向に力が作用し、その力(応力)が集中し易い個所として、細長い陸部の端部を挙げることができる。したがって、本実施形態のように、細長い第1陸部20A、第4陸部20D、第6陸部20F、第7陸部20Gの端部で溝形成板12と蓋板14とをカシメ固定することが好ましい。
【0070】
本実施形態の温調部材10では、蓋板14が、溝形成板12よりも熱伝導率が高い金属材料で形成されているため、温調部材10に低温の温調媒体を流して蓋板14を温調対象物に接触させることで、溝形成板12に温調対象物を接触させた場合に比較して、温調対象物を効率的に冷却することができる。なお、温調部材10は、溝形成板12を、蓋板14よりも曲げ剛性の高い金属材料で形成しているため、曲げ剛性と冷却性能とを両立することができる。
【0071】
[その他の実施形態]
以上、本開示の一実施形態について説明したが、本開示は、上記に限定されるものでなく、上記以外にも、その主旨を逸脱しない範囲内において種々変形して実施可能であることは勿論である。
【0072】
上記実施形態では、突起28、及び突起28が嵌合する凹部26の平面視形状が円形であったが、突起28、及び凹部26の平面視形状は、陸部の長手方向に沿って延びる直線形状等、円形以外の形状であってもよい。また、突起28、及び凹部26(カシメ固定部30)は、
図2に示す位置以外に形成してもよい。
【0073】
溝形成板12を構成する金属板と、蓋板14を構成する金属板は、同種の金属であっても、異種の金属であってもよい。該金属板は、アルミニウム合金板に限らず、ステンレススチール板、銅板、メッキ鋼板等であってもよい。
【0074】
上記実施形態では、溝形成板12と蓋板14とをフィルム型接着剤40で接着(溶着)した後にカシメ固定したが、本開示はこれに限らず、溝形成板12と蓋板14とをカシメ固定した後に、フィルム型接着剤40の溶着を行ってもよい。
【0075】
カシメ固定部30のカシメ方法は、上記実施形態のものに限らず、絞りカシメ等の他の種類のカシメ方法であってもよい。
【0076】
上記実施形態の温調部材10は、一例として、
図7に示すように、自動車等に用いられる電池50の側面に装着して用いることができる。この場合、温調部材10は、蓋板14を電池50の側面に密着するように取り付ける。本実施形態の温調部材10によれば、温調部材10の温調媒体流路18に、電池50よりも低温の温調媒体(冷媒)を流すことで、発熱した電池50を冷却することができる。
【0077】
なお、温調部材10は、単体の電池50に限らず、複数の電池50からなる電池パック、及び電池モジュールであってもよい。また、電池50は、一次電池であってもよく、二次電池であってもよく、燃料電池であってもよく、特に形式は問わない。
【0078】
また、電池50を冷却する場合、温調部材10は、電池50の少なくとも一面に設ける必要があるが、2面以上に設けてもよく、全面に設けてもよい。
【0079】
さらに、複数の電池50からなる電池パックまたは電池モジュールを温調部材10で冷却する場合、温調部材10は、電池50と電池50との間に挟むように設けてもよい。
【0080】
上記実施形態では、温調部材10に電池50よりも低温の温調媒体を流して電池50を冷却する例を示したが、本開示はこれに限らず、温調部材10に、電池50よりも高い温度の温調媒体(温水、温めたエチレングリコール(不凍液)、温めたロングライフクーラント(LLC)、温めた油であってもよい)を流して電池50を温めてもよい。これは、電池50の温度が適温未満に低下すると性能が低下するためであり、所定の性能を得るために電池50は適温とすることが好ましいからである。
なお、温調部材10に流す温調媒体の温度は、フィルム型接着剤40の耐熱温度未満とする。
【符号の説明】
【0081】
10 温調部材
12 溝形成板
14 蓋板
16 溝
18 温調媒体流路(流路)
20A 第1陸部(島状部分)
20D 第4陸部(島状部分)
20F 第6陸部(島状部分)
20G 第7陸部(島状部分)
30 カシメ固定部
40 フィルム型接着剤
50 電池