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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024180197
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】スラグ除滓装置
(51)【国際特許分類】
   F27D 25/00 20100101AFI20241219BHJP
【FI】
F27D25/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023099697
(22)【出願日】2023-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(72)【発明者】
【氏名】増渕 浩太
(72)【発明者】
【氏名】三家本 司
【テーマコード(参考)】
4K056
【Fターム(参考)】
4K056AA05
4K056BA02
4K056BB08
4K056EA02
(57)【要約】
【課題】掻き板および除滓口の破損を防ぐスラグ除滓装置を提供する。
【解決手段】ベース部材と、前記ベース部材に一端側が接続されたアームと、前記アームの他端側に取り付けられた掻き板と、を備えるスラグ除滓装置であって、前記掻き板の前記ベース部材側に、底部の前記ベース側の端部に前記ベース部材側に向かった傾斜部を有するガイド部材を備えるスラグ除滓装置。ガイド部材は、掻き板を溶融金属の湯面に浸漬させて引き戻した際に、掻き板よりも先に除滓口の傾斜部に当接する位置に配される。
【選択図】図2

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベース部材と、
前記ベース部材に一端側が接続されたアームと、
前記アームの他端側に取り付けられた掻き板と、
を備えるスラグ除滓装置であって、
前記掻き板の前記ベース部材側に、
底部の前記ベース側の端部に前記ベース部材側に向かった傾斜部を有するガイド部材を備えるスラグ除滓装置。
【請求項2】
さらに、前記アームの一端側を支点とし他端側を上下に傾動させるアクチュエータを備えることを特徴とする請求項1に記載のスラグ除滓装置。
【請求項3】
前記アクチュエータおよび前記アームのうち一方に長孔を有し、
前記アクチュエータおよび前記アームのうち他方に係止ピンを有し、
前記長孔に前記係止ピンが遊挿されていることを特徴とする請求項2に記載のスラグ除滓装置。
【請求項4】
請求項2または3に記載のスラグ除滓装置は、
さらに、前記アームの引き上げを補助するための弾性部材を備えることを特徴とするスラグ除滓装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融金属の浴面に浮遊するスラグを除滓する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、鋼の製鋼は転炉や電気炉で行われる。代表的な電気炉であるアーク炉は、上から見ると円筒形をしており、黒鉛の電極と鉄スクラップの間で大電流のアーク放電を起こして熱を供給し、金属を溶融させる。
【0003】
アーク炉で製錬する時は、不純物の少ない鋼を製造するために、溶融した金属の表面に浮遊するスラグを除去する(この作業をスラグ除滓作業と呼ぶ)。スラグ除滓作業は、先端に掻き板を備えた掻き棒を排出口(以下、除滓口という。)から挿入し、掻き板を浴面に浸漬させて引き出すことで浴面に浮遊するスラグを掻き出す。
【0004】
特許文献1には、プレート状のスクレーパを備えた管を円筒形の溶解炉の開口から炉内へ差し込み、溶解物質上のスラグを掻き出す方法が開示されている。かかる発明によれば、管と連結されている2つの旋回アームの動作により、管が溶融物質の全表面を放射線状に覆うように移動でき、比較的狭幅の炉開口に干渉せずにスラグを掻き出すことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭52-12607号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
スラグ除滓作業は、溶湯の温度が下がらない内に速やかに終える必要がある。しかし、掻き出す際に、掻き板がアーク炉の除滓口に当たると、除滓口の底面に固着したスラグに引っかかったり、衝突の衝撃により掻き板または除滓口が破損する恐れがある。また、特許文献1に示すようなスクレーパ(掻き棒)を放射線状に移動させると、スクレーパ(掻き棒)が除滓口に斜めに当たるため、局所的に衝撃が加わり、さらに破損しやすくなる。
【0007】
本発明は、以上のような課題に鑑み、掻き板および除滓口の破損を防ぐスラグ除滓装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ベース部材と、前記ベース部材に一端側が接続されたアームと、前記アームの他端側に取り付けられた掻き板とを備えるスラグ除滓装置であって、前記掻き板の前記ベース部材側に、底部の前記ベース側の端部に前記ベース部材側に向かった傾斜部を有するガイド部材を備えるスラグ除滓装置である。
【0009】
また、前記アームの一端側を支点とし他端側を上下に傾動させるアクチュエータを備えることが好ましい。
また、前記アクチュエータおよび前記アームのうち一方に長孔を有し、前記アクチュエータおよび前記アームのうち他方に係止ピンを有し、前記長孔に前記係止ピンが遊挿されていることが好ましい。
また、前記アームの引き上げを補助するための弾性部材を備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、掻き板および除滓口の破損を防ぐことができる。これにより、掻き板や除滓口の寿命を延ばし、交換頻度を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】スラグ除滓装置をスラグ除滓作業に適用するときの実施形態である。
図2】スラグ除滓装置の一例を示す模式図である。
図3】除滓口の傾斜面にガイド部材が乗り上げた状態を示す模式図である。
図4】ガイド部材の形状の変形例である。
図5】アクチュエータを備えたスラグ除滓装置の模式図である。
図6】アクチュエータとアームの接続部の詳細を示す図である。
図7】弾性部材を備えたスラグ除滓装置の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のスラグ除滓装置は、例えば車両の上部に備え、アーク炉内の溶融金属の湯面を浮遊するスラグを除滓する作業(以下、スラグ除滓作業と呼ぶ)に使用する。図1は、本発明のスラグ除滓装置を車両の上部に備え、スラグ除滓作業に適用するときの実施形態である。(a)は正面図、(b)は上面図である。
【0013】
車両100は、少なくとも前後方向に移動できる車両である。アーク炉201は、正面に除滓口202と、除滓口202の対向する位置に出鋼口203を備えており、除滓口202の下にスラグポット206が設置されている。また、アーク炉201の内部に溶融金属204があり、その湯面に酸化したスラグ205が浮遊している。本実施形態におけるスラグ除滓装置10は、車両100によってアーク炉201に接近し、除滓口202から挿入して溶融金属204の表面に浮遊するスラグ205を掻き出して、スラグポット206に落下させる装置である。
【0014】
図1(b)では、以下の段落で説明しやすいように、溶融金属がある領域を便宜的に9つに区切る。すなわち、除滓口から炉内を見たとき(紙面左から右を見たとき)中央の領域を領域a、b、c、それ以外を領域d、e、fとする。さらに除滓口202に近い側を領域a、d、中央を領域b、e、出鋼口203に近い側を領域c、fと表す。
除滓作業時、スラグが除滓口から掻き出されると溶融金属の流れが生じ、スラグはその流れにのって移動する。例えば、図1の構成では、手前(領域a)のスラグを掻き出すと、周囲の領域b,d,eのスラグが領域aに寄ってくる。これを繰り返すことで、炉内全域のスラグを除滓することができる。
【0015】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0016】
本実施形態は、ベース部材と、前記ベース部材に一端側が接続されたアームと、前記アームの他端側に取り付けられた掻き板と、を備えるスラグ除滓装置であって、前記掻き板の前記ベース部材側に、底部の前記ベース側の端部に前記ベース部材側に向かった傾斜部を有するガイド部材を備えるスラグ除滓装置である。
【0017】
図2はスラグ除滓装置の一例を示す模式図である。(a)はスラグ除滓装置の全体概略図であり、(b)は(a)の点線部の拡大図であり、(c)は(b)の左側面図である。図2(a)に示すように、スラグ除滓装置10は、ベース部材11と、ベース部材11に一端が接続されたアーム12と、アーム12の他端側に取り付けられた掻き板13と、掻き板13のベース部材11側に取り付けられたガイド部材14を有している。
【0018】
(ベース部材)
ベース部材11は、図1で示した車両100とアーム12を連結する部材である。また、ベース部材11は、スラグ除滓装置10を略水平に一端で支えるときの支点になる。スラグ除滓装置10は、ベース部材11の中心Pを軸として、ベース部材11に時計回りの回転モーメントを与えることになる。そのため、ベース部材11は前記回転モーメントに耐えうるだけの剛性を有することが好ましい。
【0019】
スラグ除滓装置は、アーム12を水平方向に移動させる機構や、上下方向に傾動させる機構を備えても良い。水平方向に移動させる機構は、例えば、リニアガイドやスカラロボット等が使用できる。上下方向に傾動させる機構は、例えば、長尺部材であるアームの一端を支点とし、支点以外の一端をアクチュエータで上下方向に動かして傾動させても良い。
【0020】
ベース部材11は、溶融金属に接近するため輻射熱や粉塵、火の粉を浴びやすい。また、アーム12からの熱伝導により、温度が上昇しやすい。そのため、上述の剛性の観点に加えて、耐熱性を十分有する材質が好ましく、ベース部材11は鉄系合金が好ましい。
【0021】
(アーム)
アーム12は任意の断面形状の長尺部材であり、例えば、丸棒、丸パイプ、角棒、角パイプ、H形鋼、I形鋼等が使用できる。アーム12の一端がベース部材11によって支持される際、アーム12は、アーム自体の自重と、他端に備える掻き板13およびガイド部材14の自重による撓みを減らすために、ベース部材11に近い方を肉厚にし、ベース部材から遠くなるにつれて徐々に肉薄にするなどして、アーム12の重心をベース部材11に寄せても良い。
【0022】
アーム12は一端に掻き板13およびガイド部材14を取り付けた状態で保持され、炉内の高温環境に長時間晒されても自重による変形が起こりにくい材質あるいは構造であることが好ましい。
【0023】
アーム12は溶融金属に接近するため、輻射熱を浴びやすく、掻き板からの熱伝導もあるため、温度が上昇しやすい。そのため、耐熱性を十分有する鉄系合金が好ましい。すなわち、アーム12は高温環境下において形状維持するために肉厚で、剛性が高くなるような断面形状であることが好ましい。例えば中空パイプなどが好ましい。また、アームの周囲に断熱材を巻き付けて、輻射による温度上昇を抑えることが好ましい。
【0024】
また、丸パイプや角パイプのように、中空の部材にして軽量化することもできる。さらに、内部にエアーや水を流すことで冷却機能を持たせても良い。例えば、中空部を有する基材の内部に螺旋状の突起部が配された冷却部材を適用することで過度な温度上昇を抑制できる。
【0025】
また、アーム12は下面(図1における溶融金属204と対向する面)の方が上面よりも多くの熱輻射を受けて変形しやすいため、長手方向に反る可能性がある。このような反りを抑制するため、アームの上下面にリブを入れることや、アーム上面よりも下面を肉厚にすることが好ましい。
【0026】
上述したように、アーム12の一端はベース部材11によって支えられているため、ベース部材11にかかる負荷をなるべく軽減することが好ましい。また、図1に示したベース部材11を支える車両100が走行する場合、車両100の加減速時の負荷を低減し、素早い動作をするためには、アーム12はなるべく軽い方が好ましい。
【0027】
アーム12の好ましい長さは、図1に示した除滓口202からベース部材11までの距離によって変わる。すなわち、図1から分かるように、車両100はスラグポット206の上部にあたる床面の開口部より除滓口202に近づくことができないため、この車両100が除滓口202に最も近づいたときのベース部材11の位置を基準とし、そこから掻き板13が図1(b)に示す領域aに届くように、アーム12の長さを決定すれば良い。換言すると、アーム12の長さは、ベース部材の基準位置から溶融金属の手前側(図1(b)における領域a)に届く長さとすることが好ましい。また、領域aに届くだけでは一度に掻き寄せられる量が少ないので、領域bまたは領域cに届く長さ、すなわち溶融金属(アーク炉炉内)の中央よりも出鋼口側まで届く長さであると、さらに好ましい。
【0028】
(掻き板)
図2(b)(c)を用いて掻き板13について説明する。掻き板13に付した符号は、それぞれ、掻き板の高さHg(アーム12の中心から掻き板13の下端までの距離)、掻き板13のベース部材側の側面131、底面132である。
【0029】
掻き板13は、溶融金属の湯面に浮遊するスラグを掻き出す際に、スラグに直接接する板である。具体的には、除去したいスラグの位置よりも奥側(図1に示す出鋼口203側)に掻き板13を降ろし、掻き板13の底面132を溶融金属の湯面に浸漬させて、手前側(図1に示す除滓口202側)に掻き板を移動させることで、スラグを除滓口に引き寄せる板である。
【0030】
掻き板13の最も単純な形状は、図2に示すような断面一様な矩形の平板である。しかし、断面一様でなくても良いし、平板でなくても良いし、矩形でなくても良い。すなわち、側面131は平面でも良いが、好ましくは、側面131がガイド部材14を向くように、すなわち側面131の両端側がベース部材側に湾曲していると良い。
【0031】
掻き板の面積は、除滓口から容易に出し入れできる大きさであることが好ましい。特にアームが長尺の場合、アームが上下左右に揺れて除滓口の内壁に衝突しないよう、除滓口の上面、また両側面との余裕が十分に確保できる程度の大きさが好ましい。例えば、掻き板の高さは、除滓口の高さ(縦寸法)の30~60%、掻き板の幅は、除滓口の幅(横寸法)の30~60%が好ましい。また、掻き板の厚さは例えば30~80mmが好ましい。
【0032】
掻き板の材質は、掻き板が溶湯に直接接触するため、溶湯に長時間浸漬しても変形や溶解が発生しないような材質であることが好ましい。例えば溶湯よりも高融点な金属、セラミックスなどである。
【0033】
アーム12と掻き板13の締結方法は、高温環境下に曝されてアームや掻き棒が熱変形しても、容易に外れない締結方法が良い。例えば、ボルトを使用する場合はゆるみ止めナットを使用することが好ましい。材質は耐熱性が高い材質(例えば、ステンレス)が好ましい。
【0034】
(ガイド部材)
図2(b)(c)を用いてガイド部材14について説明する。ガイド部材14に付した符号は、底部141とベース部材側の側面142、傾斜面143、傾斜面143の傾斜の開始点144、終了点145、ガイド部材の高さHgである。ガイド部材14は、掻き板13のベース部材11側に配置され、アーム12に固定される。
【0035】
ガイド部材14は、掻き板を溶融金属の湯面に浸漬させて引き戻した際に、掻き板よりも先に除滓口の傾斜部に当接する位置に配される。ガイド部材14は底面(底部141)からベース部材11に向うような傾斜面143を有する。この傾斜面143により、図1に示したアーク炉の除滓口の傾斜部(斜面207)を掻き板13が滑らかに乗り上げることができる。仮に、掻き板13の側面131が除滓口の斜面207に直接当たった場合、固着したスラグに引っかかるなどして、破損しやすいが、ガイド部材14を備えると、掻き板の側面は除滓口の傾斜部に直接衝突することを防ぐことができるので破損し難い。
【0036】
ガイド部材14の取付位置は、アーム12にかかる負荷を左右均等にすることを考慮し、アームの軸に対して左右対称な位置にすると良い。例えば、図2(c)のように中央(対称軸上)に1つ備える構成、対称軸から一定の距離離れた位置に左右対称に1対以上備える構成の少なくとも一方を備えることが好ましい。軽量化の観点からは、図2(c)のように中央(対称軸上)に1つ備える構成がより好ましい。
【0037】
ガイド部材14は、その底部のベース側端部に向かった傾斜部を有している。傾斜部はガイド部材の底面(底部141)からベース部材側の側面142まで連続的に続いている。図2(a)の構成では、アームの長手方向(軸方向)の垂直な左右方向から見たとき、ガイド部材14はベース部材側の角に面取りを有する矩形の形状である。
【0038】
図3に除滓口の斜面207にガイド部材が乗り上げた場合の模式図を示す。(a)、(b)は掻き板の高さHsよりもガイド部材の高さHgが高い場合(ガイド部材の高さHg>掻き板の高さHs)の除滓口の斜面207との位置関係、(c)、(d)は掻き板とガイド部材の隙間Wが大きい場合の除滓口の斜面との位置関係、(e)、(f)はガイド部材の高さHgと掻き板の高さHsとが等しく、かつ掻き板とガイド部材の隙間Wが(c)(d)よりも小さい場合の除滓口の斜面との位置関係、である。また(a)(c)(e)は、ガイド部材が除滓口の斜面を乗り上げている途中の状態(掻き板およびガイド部材が湯面に浸漬している状態)であり、(b)(d)(f)は掻き板が除滓口の斜面を乗り上げた後(掻き板およびガイド部材が湯面から出た状態)である。いずれの場合も、ガイド部材が配置されることによって、掻き板が直接除滓口に衝突することが回避される。
【0039】
図3(a)(b)の例について説明する。ガイド部材の高さHg>掻き板の高さHsの場合、スラグ掻き出し時に、除滓口底面に接触した際に掻き板の底面が浮き上がり、スラグの逃げが多くなる傾向になる。スラグが逃げないためには、スラグ除滓装置が(b)の位置にあるときに、ガイド部材の底面と掻き板の底面が同じ高さであることが好ましい。すなわち、掻き棒であるアーム12の中心からガイド部材の底部141までの距離(ガイド部材の高さHg)と、アーム12の中心から掻き板の底面132までの距離(掻き板の高さHs)が等しいことが好ましい。
【0040】
図3(c)(d)の例について説明する。ガイド部材の傾斜の終了点145と掻き板13の距離が離れすぎている場合、掻き板が炉の斜面207に沿う前に持ち上がってしまうため、除滓口まで運べるスラグの量が少なる傾向になる。そのため、スラグを効率よく除去する観点からは、ガイド部材の傾斜の終了点145は掻き板13の近傍に配置するのが好ましい。ガイド部材と掻き板は接した状態で配置しても良い。但し、ガイド部材と掻き板が直接接触するような配置にした場合、アーム取付時やスラグ除滓作業時の衝撃により互いに破損する可能性がある。そのため、掻き板とガイド部材は離間させ、それぞれをアームに固定することが好ましい。この場合、例えば掻き板とガイド部材の隙間Wは2~10mm程度である。
【0041】
図3(e)(f)の例について説明する。ガイド部材と掻き板の位置関係を好ましい形態にした場合、掻き板13はスラグをより多く掻き集めたまま、除滓口の斜面207に接近し、ガイド部材14が除滓口の斜面に衝突することで斜面に沿って持ち上がり、スラグを炉外まで掻き出すことができる。
【0042】
図4にガイド部材14の形状(板状のガイド部材の、アームの長手方向に平行な主面形状)の変形例を示す。図3(a)(b)(c)(d)は、傾斜部が直線で、(e)は傾斜部が曲線である。具体的には、図4(a)は傾斜面143がc面取り(θ=45°)のとき、(b)は傾斜面143の角度が急(45°<θ<90°)なとき、(c)は傾斜面143の角度が緩やか(0°<θ<45°)のとき、(d)は傾斜面が二段階(0°<θ1、θ2<90°、θ1<θ2)のとき、(e)は円弧上(0°<θ<90°)のときである。これらの形状は、アームの長手方向に垂直な左右方向から見たとき、底部のベース部材側に面取り又はアールを有する形状である。本実施形態のガイドはいずれの形状でも良い。
【0043】
ガイド部材の傾斜面143が除滓口の斜面207に当たってガイド部材が乗り上げやすくするため、ガイド部材は、図4(a)に示す側面142が短い(傾斜の開始点144の位置が高い、換言すると傾斜の開始点144はアーム12に近い)方が好ましい。また、ガイド部材が、除滓口の斜面207に当接した後、滑らかに持ち上がりやすくするため、ガイド部材の傾斜面143の角度θは45°以下が好ましく、さらに30°以下が好ましい。すなわち、図4(a)の形状より(b)の形状の方が好ましく、さらに(c)の形状の方が好ましい。
【0044】
ガイド部材14の材質は溶湯、またはスラグと直接接触するため、溶湯に長時間浸漬しても変形や溶解が発生しないような材質であることが好ましい。すなわち、掻き板13と同じ材質が好ましい。また、剛性と軽量化のバランスの観点から、ガイド部材の厚さは例えば、掻き板の厚さの20~80%が好ましい。ガイド部材の具体的な大きさは、例えば、幅100~400mm、厚さ10~50mm、高さ100~500mmである。
【0045】
アーム12とガイド板14の締結方法は、高温環境下に曝されてアームや掻き棒が熱変形しても、容易に外れない締結方法が良い。例えば、ボルトを使用する場合はゆるみ止めナットを使用することが好ましい。材質は耐熱性が高い材質(例えば、ステンレス)が好ましい。
【0046】
本実施形態は、さらに、アームの一端側(ベ―ス部材側)を支点とし他端側を上下に傾動させるアクチュエータを備えることが好ましい。
【0047】
図5にアクチュエータ15を備えたスラグ除滓装置の実施形態の一例の模式図を示す。図5(a)はアーム12を水平とした状態の模式図、図5(b)はアクチュエータを縮め、アームを上側に傾斜させた状態の模式図、図5(c)はアクチュエータを伸ばし、アームを下側に傾斜させた状態の模式図である。
【0048】
図5に示すアクチュエータ15は、ロッドが一方向に伸縮するタイプのアクチュエータであり、サーボモータの出力軸にボールねじを結合し、ボールねじにてロッドを前後移動させる。かかる構造は所謂電動シリンダーの仕組みであるが、アクチュエータの構造はこれに限らない。アクチュエータの駆動源はエアー式でも良いし電動式でも良く、種々選択できる。
【0049】
図5の場合、アクチュエータ15の本体をベース部材11に固定し、ロッドの先端をアーム12の途中(支点となるベース部材との接続点から離間した位置)に連結しており、ロッドの伸縮によって、アームの一端側を支点とし、アームの他端側を上下に傾動させることができる。すなわち図5(a)では、アームは水平に静止しており、(b)ではロッドが伸びることで、アームが下向きに傾動し、(c)ではロッドが縮むことで、アームが上向きに傾動する。
【0050】
アクチュエータを伸縮させたときにアーム12をスムーズに傾動させるため、アクチュエータ15は一部をベース部材11に回転自由な形で固定され、先端部はアーム12に回転自由な形で固定されていることが好ましい。アームの傾動角度は都度変わる溶融金属面の高さに対して微調整する必要があるため、アクチュエータ15は直線上の任意の位置で停止する機能を有するものが好ましい。
【0051】
傾動の上限は除滓口にぶつからずに掻き板を炉内に挿入できる程度にアームを持上げられる角度であり、傾斜の下限は炉が最も傾動した状態で掻き板が溶湯面に浸漬する角度としている。傾斜角の範囲は、水平を0°とし、上方向を+(プラス)、下方向を-(マイナス)とした場合、例えば-12°~+5°などが有りうる。
【0052】
本実施形態は、アクチュエータ15およびアーム12のうち一方に長孔を有し、アクチュエータ15およびアーム12のうち他方に係止ピンを有し、長孔に係止ピンが遊挿されていることが好ましい。
【0053】
図6にアクチュエータ15とアーム12の接続部16の詳細を示す。接続部16はアクチュエータの伸縮方向に伸びた長孔161を有し、係止ピン17を通してアーム12に接続している。
【0054】
長孔161は、アクチュエータの伸縮方向に伸びた、かかる伸縮方向を長手方向とする孔であり、開口形状は例えばレーストラック状である。図6の実施形態では、長孔161は、アームの側面方向(図6中のX方向及びZ方向に垂直なY方向)より空いている。アーム12に荷重がかかっていない状態のとき、アーム12の自重により係止ピン17は接続部16の長孔161の最下の状態であるため、アクチュエータ15の駆動によりアーム12を傾動させることが出来る。具体的には、サーボモータを正転すると、アーム12は上方向に傾動動作を行い、サーボモータを逆転すると、アーム12は下方向に傾動動作を行う。
【0055】
係止ピンが遊びがある状態で挿入された、接続部16の長孔構造により、アーム12を後退時(掻き出し時)、ガイド部材14が除滓の斜面207に衝突した際は、ガイド部材14が除滓口の斜面に倣うようにアーム12を自動的に上方向へ逃げる動きとなり、掻き集めたスラグを逃がすことなく除滓口の外へ掻き出すことができる。さらには、ガイド部材14と除滓口の底面207との衝突による強い衝撃を回避することができるので、掻き板13の破損等を防ぐ事ができる。
【0056】
本実施形態は、スラグ除滓装置に、さらに、アームの引き上げを補助するための弾性部材を備えることが好ましい。
【0057】
図7に弾性部材18を備えたスラグ除滓装置を示す。弾性部材18はベース部材11とアーム12の双方に、例えば係止ピンで固定されており、アーム引き上げを補助する役割を持つ。弾性部材とは、例えば引張ばねやエアシリンダなどである。
【0058】
弾性部材18は端部をベース部材11、他端部をアーム12と接続されている。この時のアーム12と弾性部材18の接続方法、およびベース部材11と弾性部材18の接続方法は、支点は不動で回転自由な構造が好ましい。例えば弾性部材18の両端をフック形状とし、アーム上面に係止ピンを通す箇所を作り、フックを係止ピンにかけて接続するなどである。
【0059】
アーム12は片持ち構造となるが、先端部分に掻き板13やガイド部材14などを取り付ける関係から重量が増加し、アームを持上げる機能を持つアクチュエータ15に大きな負荷がかかる。このとき弾性部材はアームを上方向に引き上げるように張力が働き、アクチュエータ15の負荷を軽減する。
【0060】
弾性部材18の張力がアーム12を上方向に持上げるほど強い場合、接続部16の長孔構造によりアーム12が浮き上がり、アーム先端に位置する掻き板13の位置が不安定になる。そのため、弾性部材18の張力はアーム12の自重により持ち上げない程度のものが好ましい。
【0061】
ここまで実施形態について述べてきたが、本発明は上記の実施形態に限定されない。以上、本発明のスラグ除滓装置によれば、掻き板および除滓口の破損を防ぐことができる。
【符号の説明】
【0062】
10:スラグ除滓装置
11:ベース部材
12:アーム
13:掻き板
131:掻き板の側面
132:掻き板の底面
14:ガイド部材
141:底部(ガイド部材の底面)
142:側面(ガイド部材のベース部材側の側面)
143:傾斜面
144:傾斜の開始点
145:傾斜の終了点
15:アクチュエータ
16:接続部
161:長孔
17:係止ピン
18:弾性部材
100:車両
201:アーク炉
202:除滓口
203:出鋼口
204:溶融金属
205:スラグ
206:スラグポット
207:除滓口の斜面
Hs:掻き板の高さ
Hg:ガイド部材の高さ
W:掻き板のガイド部材の隙間

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7