(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024180252
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】低分子化合物、有機半導体材料、および有機電子デバイス
(51)【国際特許分類】
C07D 519/00 20060101AFI20241219BHJP
H10K 85/60 20230101ALI20241219BHJP
H10K 50/11 20230101ALI20241219BHJP
H10K 50/16 20230101ALI20241219BHJP
H10K 50/17 20230101ALI20241219BHJP
H10K 50/18 20230101ALI20241219BHJP
H10K 59/125 20230101ALI20241219BHJP
【FI】
C07D519/00 301
C07D519/00 CSP
H10K85/60
H10K50/11
H10K50/16
H10K50/17 171
H10K50/18
H10K59/125
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023209537
(22)【出願日】2023-12-12
(31)【優先権主張番号】P 2023097840
(32)【優先日】2023-06-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(71)【出願人】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】弁理士法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】家 裕隆
(72)【発明者】
【氏名】陣内 青萌
(72)【発明者】
【氏名】三枝 真理奈
(72)【発明者】
【氏名】田中 光
【テーマコード(参考)】
3K107
4C072
【Fターム(参考)】
3K107AA01
3K107AA03
3K107BB01
3K107CC04
3K107CC22
3K107CC33
3K107DD59
3K107DD68
3K107DD74
3K107DD78
3K107EE04
4C072MM10
4C072UU10
(57)【要約】 (修正有)
【課題】有機電子デバイスの材料として用いたときに有機電子デバイスに要求される電子移動度を担保しつつオン/オフ比を大きくでき、しかも加熱条件下でも有機電子デバイスとして駆動し、耐久性にも優れる有機電子デバイスを実現できる低分子化合物を提供する。また、前記低分子化合物を含む有機半導体材料及び有機電子デバイスを提供する。
【解決手段】下記式(Do-K)で表されるユニットAと、ヘテロ芳香族縮環型ユニットBとを、合計で2つまたは3つ有し、前記ユニットAと前記ヘテロ芳香族縮環型ユニットBが互いに連結されている低分子化合物。下記式(Do-K)中、*は、結合手であるか、水素原子を表す。但し、2つの*が両方とも水素原子になることはない。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(Do-K)で表されるユニットAと、
縮環構造を有し、かつ環の少なくとも1つが芳香族環であり、環を構成する元素が炭素原子とヘテロ原子である、ヘテロ芳香族縮環型ユニットBとを、
合計で2つまたは3つ有し、
前記ユニットAと前記ヘテロ芳香族縮環型ユニットBが互いに連結されている低分子化合物。
【化1】
[式(Do-K)中、*は、結合手であるか、水素原子を表す。但し、2つの*が両方とも水素原子になることはない。]
【請求項2】
前記縮環構造がナフタレン環単位を含み、該ナフタレン環単位に含まれる2つの環を含め、合計で4つの環を有する構造である請求項1に記載の低分子化合物。
【請求項3】
前記ヘテロ芳香族縮環型ユニットBが、下記式(Ac-1)で表されるユニットである請求項2に記載の低分子化合物。
【化2】
[式(Ac-1)中、T
1およびT
2は、それぞれ独立に、単結合であるか、-CH=CH-であるか、-C≡C-であるか、炭化水素基で置換されていてもよいチオフェン環であるか、炭化水素基で置換されていてもよいチアゾール環であるか、炭化水素基で置換されていてもよいピリジン環であるか、炭化水素基で置換されていてもよいピラジン環である。
R
1は、水素原子であるか、炭化水素基であるか、-(CH
2)
p-OR
2であり、R
2は、炭化水素基である。2つのR
1は、同一でもよく、互いに異なっていてもよい。
式(Ac-1)で表されるユニットを2つ有する場合、T
1、T
2、およびR
1は各々、ユニット間で同一でもよく、互いに異なっていてもよい。
*は、結合手であるか、水素原子を表す。但し、2つの*が両方とも水素原子になることはない。]
【請求項4】
1つの前記ユニットAに2つの前記ヘテロ芳香族縮環型ユニットBが連結されている請求項1に記載の低分子化合物。
【請求項5】
請求項1に記載の低分子化合物を含む有機半導体材料。
【請求項6】
請求項5に記載の有機半導体材料を含む有機電子デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の単位を含むユニットAとヘテロ芳香族縮環型ユニットBが互いに連結されている低分子化合物、該低分子化合物を含む有機半導体材料、および該有機半導体材料を含む有機電子デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
有機半導体材料は、有機エレクトロニクス分野において重要な材料であり、低分子化合物や高分子化合物が有機半導体材料として用いられている。有機半導体材料は、電子供与性のp型有機半導体材料と電子受容性のn型有機半導体材料に分類でき、p型有機半導体材料およびn型有機半導体材料を適切に組合せることにより様々な有機電子デバイスを製造できる。有機電子デバイスとしては、例えば、電子と正孔が再結合して形成する励起子(エキシトン)の作用により発光する有機エレクトロルミネッセンス素子、電流量または電圧量を制御する有機薄膜トランジスタ素子、有機光電変換素子、光を電力に変換する有機薄膜太陽電池モジュールなどが挙げられる。こうした有機半導体材料の特性は、例えば、電子移動度、閾値電圧、オン/オフ比などで評価される。
【0003】
有機半導体材料の一例として、n型有機半導体材料として用いられる下記一般式(I)で表される含窒素縮合環化合物が特許文献1に提案されている。式(I)中、R1およびR2は水素原子、ハロゲン原子または置換基で置換されていてもよい1価の基であり、Z1およびZ2としてS(硫黄原子)が例示されている。
【0004】
【0005】
また、特許文献2には、下記式(1)で表される、含窒素縮環化合物が記載されている。式(1)中、R11およびR12は、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子または置換基を有していてもよい1価の基を示し、R11およびR12の少なくとも一方は、下記式(2)で表される基であり、Ar11およびAr12は、各々独立に、炭素数6以上の芳香族炭化水素基または炭素数4以上の複素環基を示す。
【0006】
【0007】
【0008】
また、特許文献3には、電気絶縁性非晶質有機ポリマーを少なくとも1つと、下記式(I)で表され、分子量が2500未満の有機半導体化合物を少なくとも1つ含む半導体混合物が記載されている。
【0009】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2009-215278号公報
【特許文献2】特開2011-184324号公報
【特許文献3】国際公開第2013/052153号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
有機電子デバイスの特性のうち、オン/オフ比が大きいことが望まれている。
【0012】
本発明は、このような事情に鑑みて成されたものであり、その目的は、有機電子デバイスの材料として用いたときに有機電子デバイスに要求される電子移動度を担保しつつオン/オフ比を大きくでき、しかも加熱条件下でも有機電子デバイスとして駆動し、耐久性にも優れる有機電子デバイスを実現できる低分子化合物を提供することにある。また、本発明の他の目的は、こうした低分子化合物を含む有機半導体材料を提供することにある。また、本発明の他の目的は、こうした有機半導体材料を含む有機電子デバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、以下の発明を含む。
[1] 下記式(Do-K)で表されるユニットAと、縮環構造を有し、かつ環の少なくとも1つが芳香族環であり、環を構成する元素が炭素原子とヘテロ原子である、ヘテロ芳香族縮環型ユニットBとを、合計で2つまたは3つ有し、前記ユニットAと前記ヘテロ芳香族縮環型ユニットBが互いに連結されている低分子化合物。
【化5】
[式(Do-K)中、*は、結合手であるか、水素原子を表す。但し、2つの*が両方とも水素原子になることはない。]
[2] 前記縮環構造がナフタレン環単位を含み、該ナフタレン環単位に含まれる2つの環を含め、合計で4つの環を有する構造である[1]に記載の低分子化合物。
[3] 前記ヘテロ芳香族縮環型ユニットBが、下記式(Ac-1)で表されるユニットである[2]に記載の低分子化合物。
【化6】
[式(Ac-1)中、T
1およびT
2は、それぞれ独立に、単結合であるか、-CH=CH-であるか、-C≡C-であるか、炭化水素基で置換されていてもよいチオフェン環であるか、炭化水素基で置換されていてもよいチアゾール環であるか、炭化水素基で置換されていてもよいピリジン環であるか、炭化水素基で置換されていてもよいピラジン環である。
R
1は、水素原子であるか、炭化水素基であるか、-(CH
2)
p-OR
2であり、R
2は、炭化水素基である。2つのR
1は、同一でもよく、互いに異なっていてもよい。
式(Ac-1)で表されるユニットを2つ有する場合、T
1、T
2、およびR
1は各々、ユニット間で同一でもよく、互いに異なっていてもよい。
*は、結合手であるか、水素原子を表す。但し、2つの*が両方とも水素原子になることはない。]
[4] 1つの前記ユニットAに2つの前記ヘテロ芳香族縮環型ユニットBが連結されている[1]~[3]のいずれかに記載の低分子化合物。
[5] [1]~[4]のいずれかに記載の低分子化合物を含む有機半導体材料。
[6] [5]に記載の有機半導体材料を含む有機電子デバイス。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、有機電子デバイスの材料として用いたときに有機電子デバイスに要求される電子移動度を担保しつつオン/オフ比を大きくでき、しかも加熱条件下でも有機電子デバイスとして駆動し、耐久性にも優れる有機電子デバイスを実現できる低分子化合物を提供できる。また、本発明によれば、こうした低分子化合物を含む有機半導体材料、およびこうした有機半導体材料を含む有機電子デバイスを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、低分子化合物1の紫外可視吸収スペクトルを示す。
【
図2】
図2は、低分子化合物2の紫外可視吸収スペクトルを示す。
【
図3】
図3は、低分子化合物3の紫外可視吸収スペクトルを示す。
【
図4】
図4は、低分子化合物4の紫外可視吸収スペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の低分子化合物は、下記式(Do-K)で表されるユニットAと、縮環構造を有し、かつ環の少なくとも1つが芳香族環であり、環を構成する元素が炭素原子とヘテロ原子である、ヘテロ芳香族縮環型ユニットBとを、合計で2つまたは3つ有し、前記ユニットAと前記ヘテロ芳香族縮環型ユニットBが互いに連結されている点に要旨を有する。下記式(Do-K)中、*は、結合手であるか、水素原子を表す。但し、2つの*が両方とも水素原子になることはない。
【0017】
【0018】
式(Do-K)で表されるユニットAは、電子供与性を示し、ドナー性ユニットとして作用する。
【0019】
ヘテロ芳香族縮環型ユニットBは、縮環構造を有し、かつ環の少なくとも1つが芳香族環であり、環を構成する元素が炭素原子とヘテロ原子であるユニットであり、電子受容性を示し、アクセプター性ユニットとして作用する。
【0020】
本発明の低分子化合物は、式(Do-K)で表されるユニットAとヘテロ芳香族縮環型ユニットBが互いに連結されており、式(Do-K)で表されるユニットAとヘテロ芳香族縮環型ユニットBを合計で2つまたは3つ有するものである。即ち、本発明の低分子化合物は、1つの式(Do-K)で表されるユニットAと1つのヘテロ芳香族縮環型ユニットBが互いに連結しているか、1つの式(Do-K)で表されるユニットAに2つのヘテロ芳香族縮環型ユニットBが連結しているか、1つのヘテロ芳香族縮環型ユニットBに2つの式(Do-K)で表されるユニットAが連結しているものである。本明細書において低分子化合物とは、式(Do-K)で表されるユニットAとヘテロ芳香族縮環型ユニットBを合計で2つまたは3つ有する化合物を意味する。
【0021】
式(Do-K)で表されるユニットAは、電子供与性に優れている。そのため、式(Do-K)で表されるユニットAと、電子受容性を示すヘテロ芳香族縮環型ユニットBとを組み合わせた低分子化合物では、イオン化エネルギーの値(HOMOの値)とLUMOの値のバンドギャップが小さくなり、電子が移動しやすくなる。また、分子間で静電相互作用が働くことで配向性も良好となることからも、上記低分子化合物を用いた有機電子デバイスの電子移動度の向上が期待できる。また、上記低分子化合物のLUMOの値が、例えば、-3.5eV以下となるため、大気安定性を有することが期待できる。また、本発明の低分子化合物を用いれば、有機電子デバイスのオン/オフ比を大きくでき、60℃~100℃程度の加熱条件下であっても電子移動度を担保しつつオン/オフ比が大きい有機電子デバイスを製造できる。また、本発明の低分子化合物を用いれば、耐久性に優れた有機電子デバイスを製造できる。有機電子デバイスの耐久性が向上する理由は明確にはなっていないが、本発明の低分子化合物はケトン基を有しているため、このケトン基の箇所で分子間において水素結合を作り、分子の振動が抑えられるからと考えられる。従って当該式(Do-K)で表されるユニットAとヘテロ芳香族縮環型ユニットBが互いに結合されている低分子化合物は、例えば、有機半導体材料として好適に用いることができる。
【0022】
ヘテロ芳香族縮環型ユニットBは、複数の環が縮合した縮環構造を有している。縮環構造を構成する複数の環のうち、少なくとも1つの環は芳香族環である。芳香族環は、芳香族炭化水素環であってもよいし、複素芳香族環(芳香族複素環と呼ばれることもある)であってもよい。芳香族環の数は、例えば、2以上でもよいし、4以下が好ましく、より好ましくは3以下である。
【0023】
縮環構造を構成する複数の環を構成する元素は、炭素原子およびヘテロ原子であり、環は、ヘテロ原子を少なくとも1個含み、残部は炭素原子である。ヘテロ原子とは、炭素原子以外の原子のことであり、ヘテロ原子は各々、例えば窒素原子、硫黄原子、または酸素原子である。ヘテロ原子の数は、2個以上であってもよいし、3個以上であってもよい。ヘテロ原子の数の上限は縮環構造を構成する原子の数によるが、例えば、10個以下が好ましく、より好ましくは8個以下、更に好ましくは6個以下である。
【0024】
環には、置換基が結合していてもよい。置換基としては、例えば、ハロゲン原子、炭化水素基、アルコキシ基、アシル基、エステル基、ハロゲン化アルキル基、シアノ基などが挙げられる。
【0025】
ハロゲン原子としては、例えば、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素などが挙げられ、なかでもフッ素が好ましい。
【0026】
炭化水素基(以下、炭化水素基Rと呼ぶことがある。)としては、例えば、脂肪族炭化水素基、アラルキル基などが挙げられ、脂肪族炭化水素基は、分岐を有する脂肪族炭化水素基であってもよいが、直鎖状の脂肪族炭化水素基であることが好ましい。
【0027】
炭化水素基Rの炭素数は特に限定されず、例えば、1~30が好ましい。炭化水素基Rの炭素数は、より好ましくは3以上、更に好ましくは6以上であり、より好ましくは28以下、更に好ましくは26以下である。但し、炭化水素基Rがアラルキル基の場合、炭素数の下限は7以上が好ましい。
【0028】
炭化水素基Rとしては、例えば、メチル基等の炭素数1のアルキル基;エチル基等の炭素数2のアルキル基;n-プロピル基、イソプロピル基等の炭素数3のアルキル基;n-ブチル基等の炭素数4のアルキル基;n-ペンチル基等の炭素数5のアルキル基;n-ヘキシル基等の炭素数6のアルキル基;n-ヘプチル基等の炭素数7のアルキル基;n-オクチル基、1-n-ブチルブチル基、1-n-プロピルペンチル基、1-エチルヘキシル基、2-エチルヘキシル基、3-エチルヘキシル基、4-エチルヘキシル基、1-メチルヘプチル基、2-メチルヘプチル基、6-メチルヘプチル基、2,4,4-トリメチルペンチル基、2,5-ジメチルヘキシル基等の炭素数8のアルキル基;n-ノニル基、1-n-プロピルヘキシル基、2-n-プロピルヘキシル基、1-エチルヘプチル基、2-エチルヘプチル基、1-メチルオクチル基、2-メチルオクチル基、6-メチルオクチル基、2,3,3,4-テトラメチルペンチル基、3,5,5-トリメチルヘキシル基等の炭素数9のアルキル基;n-デシル基、1-n-ペンチルペンチル基、1-n-ブチルヘキシル基、2-n-ブチルヘキシル基、1-n-プロピルヘプチル基、1-エチルオクチル基、2-エチルオクチル基、1-メチルノニル基、2-メチルノニル基、3,7-ジメチルオクチル基等の炭素数10のアルキル基;n-ウンデシル基、1-n-ブチルヘプチル基、2-n-ブチルヘプチル基、1-n-プロピルオクチル基、2-n-プロピルオクチル基、1-エチルノニル基、2-エチルノニル基等の炭素数11のアルキル基;n-ドデシル基、1-n-ペンチルヘプチル基、2-n-ペンチルヘプチル基、1-n-ブチルオクチル基、2-n-ブチルオクチル基、1-n-プロピルノニル基、2-n-プロピルノニル基等の炭素数12のアルキル基;n-トリデシル基、1-n-ペンチルオクチル基、2-n-ペンチルオクチル基、1-n-ブチルノニル基、2-n-ブチルノニル基、1-メチルドデシル基、2-メチルドデシル基等の炭素数13のアルキル基;n-テトラデシル基、1-n-ヘプチルヘプチル基、1-n-ヘキシルオクチル基、2-n-ヘキシルオクチル基、1-n-ペンチルノニル基、2-n-ペンチルノニル基等の炭素数14のアルキル基;n-ペンタデシル基、1-n-ヘプチルオクチル基、1-n-ヘキシルノニル基、2-n-ヘキシルノニル基等の炭素数15のアルキル基;n-ヘキサデシル基、2-n-ヘキシルデシル基、1-n-オクチルオクチル基、1-n-ヘプチルノニル基、2-n-ヘプチルノニル基等の炭素数16のアルキル基;n-ヘプタデシル基、1-n-オクチルノニル基等の炭素数17のアルキル基;n-オクタデシル基、1-n-ノニルノニル基等の炭素数18のアルキル基;n-ノナデシル基等の炭素数19のアルキル基;n-エイコシル基、2-n-オクチルドデシル基等の炭素数20のアルキル基;n-ヘンエイコシル基等の炭素数21のアルキル基;n-ドコシル基等の炭素数22のアルキル基;n-トリコシル基等の炭素数23のアルキル基;n-テトラコシル基、2-n-デシルテトラデシル基等の炭素数24のアルキル基;n-ペンタコシル等の炭素数25のアルキル基;n-ヘキサコシル等の炭素数26のアルキル基;n-ヘプタコシル等の炭素数27のアルキル基;n-オクタコシル等の炭素数28のアルキル基;n-ノナコシル等の炭素数29のアルキル基;n-トリアコンチル等の炭素数30のアルキル基;フェニルメチル基、フェニルエチル基などのアラルキル基;等が挙げられる。
【0029】
アルコキシ基は、-OR5で表され、R5は炭化水素基である。R5で表される炭化水素基としては、上記で説明した炭化水素基Rと同様のものが挙げられる。R5で表される炭化水素基の炭素数は、1~30が好ましく、より好ましくは3以上、更に好ましくは6以上であり、より好ましくは28以下、更に好ましくは26以下である。
【0030】
アシル基としては、例えば、アセチル基、プロピオニル基、イソプロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、ヘプタノイル基、オクタノイル基、ノナノイル基、デカノイル基、ラウロイル基、ミリストイル基、パルミトイル基、ステアロイル基、オレオイル基、リノレオイル基、リノレノイル基等が挙げられる。
【0031】
エステル基としては、例えば、アセトキシ基、アシルオキシ基、アルコキシカルボニル基、リン酸エステル基等が挙げられる。
【0032】
ハロゲン化アルキル基は、上記で説明した炭化水素基Rの一部の水素がハロゲン原子に置換した置換基を意味する。
【0033】
ヘテロ芳香族縮環型ユニットBは、ナフタレン環単位を含むことが好ましい。
【0034】
ヘテロ芳香族縮環型ユニットBが有する縮環構造を構成する環の数は特に限定されないが、例えば、2以上、10以下が好ましく、より好ましくは3以上であり、より好ましくは8以下であり、特に好ましくは4である。
【0035】
ヘテロ芳香族縮環型ユニットBが有する縮環構造がナフタレン環単位を含む場合、ヘテロ芳香族縮環型ユニットBは、該ナフタレン環単位に含まれる2つの環を含め、合計で4つの環を有する構造であることが好ましい。
【0036】
ヘテロ芳香族縮環型ユニットBとしては、例えば、下記式(Ac-1)で表されるユニットが挙げられる。
【0037】
【0038】
式(Ac-1)中、T1およびT2は、それぞれ独立に、単結合であるか、-CH=CH-であるか、-C≡C-であるか、炭化水素基で置換されていてもよいチオフェン環であるか、炭化水素基で置換されていてもよいチアゾール環であるか、炭化水素基で置換されていてもよいピリジン環であるか、炭化水素基で置換されていてもよいピラジン環である。R1は、水素原子であるか、炭化水素基であるか、-(CH2)p-OR2であり、R2は、炭化水素基である。2つのR1は、同一でもよく、互いに異なっていてもよい。式(Ac-1)で表されるユニットを2つ有する場合、T1、T2、およびR1は各々、ユニット間で同一でもよく、互いに異なっていてもよい。*は、結合手であるか、水素原子を表す。但し、2つの*が両方とも水素原子になることはない。ナフタレン環単位には、上述した置換基が結合していてもよい。
【0039】
T1、T2がチオフェン環である場合、チオフェン環が置換されて有していてもよい炭化水素基としては、上記で説明した炭化水素基Rと同様のものが挙げられる。炭化水素基の炭素数は、1~30が好ましく、より好ましくは3以上、更に好ましくは6以上であり、より好ましくは28以下、更に好ましくは26以下である。
【0040】
T1、T2がチアゾール環である場合、チアゾール環が置換されて有していてもよい炭化水素基としては、上記で説明した炭化水素基Rと同様のものが挙げられる。炭化水素基の炭素数は、1~30が好ましく、より好ましくは3以上、更に好ましくは6以上であり、より好ましくは28以下、更に好ましくは26以下である。
【0041】
T1、T2がピリジン環である場合、ピリジン環が置換されて有していてもよい炭化水素基としては、上記で説明した炭化水素基Rと同様のものが挙げられる。炭化水素基の炭素数は、1~30が好ましく、より好ましくは3以上、更に好ましくは6以上であり、より好ましくは28以下、更に好ましくは26以下である。
【0042】
T1、T2がピラジン環である場合、ピラジン環が置換されて有していてもよい炭化水素基としては、上記で説明した炭化水素基Rと同様のものが挙げられる。炭化水素基の炭素数は、1~30が好ましく、より好ましくは3以上、更に好ましくは6以上であり、より好ましくは28以下、更に好ましくは26以下である。
【0043】
式(Ac-1)中、T1およびT2は、それぞれ独立に、単結合であるか、炭化水素基で置換されていてもよいチオフェン環であるか、炭化水素基で置換されていてもよいチアゾール環であることが好ましく、より好ましくは単結合である。
【0044】
R1が炭化水素基である場合、炭化水素基としては、上記で説明した炭化水素基Rと同様のものが挙げられる。R1で表される炭化水素基の炭素数は、1~30が好ましく、より好ましくは2以上、更に好ましくは3以上、特に好ましくは4以上であり、より好ましくは25以下、更に好ましくは20以下、特に好ましくは15以下である。R1で表される炭化水素基は、直鎖状の炭化水素基であってもよいし、分岐を有する炭化水素基であってもよいが、直鎖状の炭化水素基であることが好ましい。
【0045】
R1が-(CH2)p-OR2である場合、R2で表される炭化水素基としては、上記で説明した炭化水素基Rと同様のものが挙げられる。R2で表される炭化水素基の炭素数は、1~30が好ましく、より好ましくは2以上、更に好ましくは3以上であり、より好ましくは25以下、更に好ましくは20以下である。pは、例えば1~5の整数である。
【0046】
式(Ac-1)中、R1は、炭化水素基であることが好ましい。2つのR1は、同一であることが好ましい。
【0047】
式(Ac-1)で表されるユニットは、下記式(Ac-1-1)~式(Ac-1-3)のいずれかで表されるユニットであることが好ましく、より好ましくは下記式(Ac-1-1)で表されるユニットである。*は、結合手であるか、水素原子を表す。但し、2つの*が両方とも水素原子になることはない。
【0048】
【0049】
本発明の低分子化合物のイオン化エネルギーは、-4eV以下であることが好ましく、より好ましくは-4.5eV以下、さらに好ましくは-5eV以下、特に好ましくは-5.5eV以下である。イオン化エネルギーの下限は、特に限定されないが、例えば、-7eV以上が好ましく、より好ましくは-6.9eV以上、更に好ましくは-6.8eV以上である。
【0050】
本発明の低分子化合物のLUMOの値は、-4eV以下であることが好ましく、より好ましくは-4.2eV以下、さらに好ましくは-4.4eV以下である。LUMOの値の下限は、特に限定されないが、例えば、-7eV以上が好ましく、より好ましくは-6.5eV以上、更に好ましくは-6eV以上である。
【0051】
本発明には、上記低分子化合物を含む有機半導体材料も含まれる。上記式(Do-K)で表されるユニットAは、電子供与性に優れているため、当該ユニットAとヘテロ芳香族縮環型ユニットBが互いに連結している低分子化合物は、有機半導体材料として有用である。上記低分子化合物を含む有機半導体材料は、n型有機半導体材料として好ましく用いることができる。
【0052】
本発明には、上記有機半導体材料を含む有機電子デバイスも含まれる。即ち、上記有機半導体材料は、有機電子デバイスの素材として好適に用いることができ、例えば、有機エレクトロルミネッセンス素子、有機薄膜トランジスタ素子、有機光電変換素子、有機薄膜太陽電池モジュール等の有機電子デバイスの材料として用いることができる。
【0053】
次に、本発明の低分子化合物を製造できる方法について説明する。
【0054】
本発明の低分子化合物は、ドナー原料と、縮環構造を有し、かつ環の少なくとも1つが芳香族環であり、環を構成する元素が炭素原子とヘテロ原子である、ヘテロ芳香族縮環型ユニットBの結合手にハロゲン原子が結合した化合物(以下、アクセプター原料と呼ぶ場合がある)とをカップリング反応させた後(以下、カップリング工程と呼ぶ場合がある)、アセタール構造をケトン構造に変化させることによって製造できる。
【0055】
ドナー原料としては、上記式(Do-K)で表されるユニットAの前駆体となる下記式(Do-A)で表されるユニットの結合手の少なくとも一方に有機置換基を有するスズが結合した化合物を用いることができ、下記式(Do-A)で表されるユニットの結合手の両方に有機置換基を有するスズが結合した化合物としては下記式(do-A)で表される化合物を用いることができる。なお、下記式(Do-A)で表されるユニットの結合手の一方のみに有機置換基を有するスズが結合している場合、他方の結合手には水素が結合している。
【0056】
【0057】
式(Do-A)中、Raは炭素数2~10のアルキレン基を表す。Raの炭素数は2~8が好ましく、2~6がより好ましく、2~4がさらに好ましい。アルキレン基は、直鎖アルキレン基でもよく、分岐を有するアルキレン基でもよいが、直鎖アルキレン基が好ましい。Raとしては、例えば、エチレン基、n-プロピレン基、1-メチル-エタン-1,2-イル基、1,2-ジメチル-エタン-1,2-イル基、1-メチル-プロパン-1,3-イル基などが挙げられ、これらのなかでも、エチレン基、n-プロピレン基が好ましい。
【0058】
【0059】
式(do-A)中、Raは前記と同じである。R11およびR12は、有機置換基を表し、それぞれ独立に、炭化水素基である。複数のR11のうちに、互いに同一のR11があってもよいし互いに異なるR11があってもよく、複数のR12のうちに、互いに同一のR12があってもよいし互いに異なるR12があってもよい。R11およびR12で表される炭化水素基としては、上記で説明した炭化水素基Rと同様のものが挙げられる。R11およびR12で表される炭化水素基の炭素数は各々、1~10が好ましく、より好ましくは2以上、更に好ましくは3以上であり、より好ましくは5以下、更に好ましくは4以下である。R11とR12は、互いに異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。
【0060】
式(do-A)で表される化合物は、例えば、特開2009-215278号公報に記載の方法に基づいて製造できる。
【0061】
式(do-A)で表される化合物において、Raが炭素数2のエチレン基である場合は、式(do-A)で表される化合物は下記式(do-a)で表される。
【0062】
【0063】
アクセプター原料としては、例えば、上述したヘテロ芳香族縮環型ユニットBの結合手の少なくとも一方にハロゲン原子が結合している化合物を用いることができる。ヘテロ芳香族縮環型ユニットBの結合手の両方にハロゲン原子が結合している化合物は、例えば、下記式(ac-1)で表される化合物が挙げられる。なお、ヘテロ芳香族縮環型ユニットBの結合手の一方のみにハロゲン原子Yが結合している場合、他方の結合手には水素が結合している。
【0064】
【0065】
式(ac-1)中、T1、T2、およびR1は、式(Ac-1)について説明したのと同じである。Yは、ハロゲン原子を表す。ハロゲン原子Yとしては、例えば、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素などが挙げられ、なかでも臭素が好ましい。環には、上述した置換基が結合していてもよい。
【0066】
式(do-A)で表される有機スズ化合物と、ヘテロ芳香族縮環型ユニットBのハロゲン化物は、金属触媒の存在下でカップリング反応させることが好ましい。
【0067】
カップリング反応に用いる金属触媒としては、例えば、パラジウム系触媒、ニッケル系触媒、鉄系触媒、銅系触媒、ロジウム系触媒、ルテニウム系触媒などの遷移金属触媒が挙げられる。これらのなかでも、パラジウム系触媒が好ましい。パラジウム系触媒に含まれるパラジウムの価数は特に限定されず、0価でも2価でもよい。
【0068】
パラジウム系触媒としては、例えば、塩化パラジウム(II)、臭化パラジウム(II)、ヨウ化パラジウム(II)、酸化パラジウム(II)、硫化パラジウム(II)、テルル化パラジウム(II)、水酸化パラジウム(II)、セレン化パラジウム(II)、パラジウムシアニド(II)、パラジウムアセテート(II)、パラジウムトリフルオロアセテート(II)、パラジウムアセチルアセトナート(II)、ジアセテートビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)、ジクロロビス(アセトニトリル)パラジウム(II)、ジクロロビス(ベンゾニトリル)パラジウム(II)、ジクロロ[1,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン]パラジウム(II)、ジクロロ[1,3-ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン]パラジウム(II)、ジクロロ[1,4-ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン]パラジウム(II)、ジクロロ[1,1-ビス(ジフェニルホスフィノフェロセン)]パラジウム(II)、ジクロロ[1,1-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン]パラジウム(II)ジクロロメタン付加体、ビス(ジベンジリデンアセトン)パラジウム(0)、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)クロロホルム付加体、ジクロロ[1,3-ビス(2,6-ジイソプロピルフェニル)イミダゾール-2-イリデン](3-クロロピリジル)パラジウム(II)、ビス(トリ-tert-ブチルホスフィン)パラジウム(0)、ジクロロ[2,5-ノルボルナジエン]パラジウム(II)、ジクロロビス(エチレンジアミン)パラジウム(II)、ジクロロ(1,5-シクロオクタジエン)パラジウム(II)、ジクロロビス(メチルジフェニルホスフィン)パラジウム(II)が挙げられる。これらのなかでも、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)クロロホルム付加体を用いることが好ましい。
【0069】
銅系触媒としては、例えば、銅、フッ化銅(I)、塩化銅(I)、臭化銅(I)、ヨウ化銅(I)、フッ化銅(II)、塩化銅(II)、臭化銅(II)、ヨウ化銅(II)等のハロゲン化銅化合物;酸化銅(I)、硫化銅(I)、酸化銅(II)、硫化銅(II)、酢酸銅(I)、酢酸銅(II)、硫酸銅(II)等が挙げられる。
【0070】
金属触媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0071】
カップリング工程において、式(do-A)で表される有機スズ化合物と金属触媒とのモル比[式(do-A)で表される有機スズ化合物:金属触媒]は、例えば、1:0.0001~1:0.5程度であり、1:0.001~1:0.4が好ましく、1:0.005~1:0.3がより好ましく、1:0.01~1:0.2がさらに好ましい。
【0072】
カップリング工程では、金属触媒に配位子を配位させてもよい。配位子としては、例えば、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリ(n-ブチル)ホスフィン、トリ(イソプロピル)ホスフィン、トリ(tert-ブチル)ホスフィン、ビス(tert-ブチル)メチルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、ジフェニル(メチル)ホスフィン、トリフェニスホスフィン、トリス(o-トリル)ホスフィン、トリス(m-トリル)ホスフィン、トリス(p-トリル)ホスフィン、トリス(2-フリル)ホスフィン、トリス(2-メトキシフェニル)ホスフィン、トリス(3-メトキシフェニル)ホスフィン、トリス(4-メトキシフェニル)ホスフィン、トリ-tert-ブチルホスホニウムテトラフルオロボラート、2-ジシクロヘキシルホスフィノビフェニル、2-ジシクロヘキシルホスフィノ-2’-メチルビフェニル、2-ジシクロヘキシルホスフィノ-2’,4’,6’-トリイソプロピル-1,1’-ビフェニル、2-ジシクロヘキシルホスフィノ-2’,6’-ジメトキシ-1,1’-ビフェニル、2-ジシクロヘキシルホスフィノ-2’-(N,N’-ジメチルアミノ)ビフェニル、2-ジフェニルホスフィノ-2’-(N,N’-ジメチルアミノ)ビフェニル、2-(ジ-tert-ブチル)ホスフィノ-2’-(N,N’-ジメチルアミノ)ビフェニル、2-(ジ-tert-ブチル)ホスフィノビフェニル、2-(ジ-tert-ブチル)ホスフィノ-2’-メチルビフェニル、1,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン、1,3-ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン、1,4-ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン、1,2-ビス(ジシクロヘキシルホスフィノ)エタン、1,3-ビス(ジシクロヘキシルホスフィノ)プロパン、1,4-ビス(ジシクロヘキシルホスフィノ)ブタン、1,2-ビスジフェニルホスフィノエチレン、1,1’-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン、1,2-エチレンジアミン、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン、2,2’-ビピリジル、1,3-ジフェニルジヒドロイミダゾリリデン、1,3-ジメチルジヒドロイミダゾリリデン、ジエチルジヒドロイミダゾリリデン、1,3-ビス(2,4,6-トリメチルフェニル)ジヒドロイミダゾリリデン、1,3-ビス(2,6-ジイソプロピルフェニル)ジヒドロイミダゾリリデン、1,10-フェナントロリン、5,6-ジメチル-1,10-フェナントロリン、バトフェナントロリンが挙げられる。これらのなかでも、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリ(n-ブチル)ホスフィン、トリ(イソプロピル)ホスフィン、トリ(tert-ブチル)ホスフィン、ビス(tert-ブチル)メチルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、ジフェニル(メチル)ホスフィン、トリフェニスホスフィン、トリス(o-トリル)ホスフィン、トリス(m-トリル)ホスフィン、トリス(p-トリル)ホスフィン、トリス(2-フリル)ホスフィン、トリス(2-メトキシフェニル)ホスフィン、トリス(3-メトキシフェニル)ホスフィン、トリス(4-メトキシフェニル)ホスフィンが好ましく、より好ましくはトリス(2-メトキシフェニル)ホスフィンである。配位子は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0073】
金属触媒に配位子を配位させる場合、金属触媒と配位子とのモル比(金属触媒:配位子)は、例えば、1:0.5~1:10程度であり、1:1~1:8が好ましく、1:1~1:7がより好ましく、1:1~1:5がさらに好ましい。
【0074】
カップリング工程では、溶媒を用いることが好ましく、溶媒は、反応に影響を及ぼさない限り特に限定されることはなく、例えば、エーテル系溶媒、芳香族系溶媒、エステル系溶媒、炭化水素系溶媒、ハロゲン系溶媒、ケトン系溶媒、アミド系溶媒、ニトリル系溶媒、スルホキシド系溶媒、スルホン系溶媒等を用いることができる。
【0075】
エーテル系溶媒としては、例えば、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、メチルテトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、シクロペンチルメチルエーテル、tert-ブチルメチルエーテル、ジオキサンなどが挙げられる。芳香族系溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、テトラリンなどが挙げられる。エステル系溶媒としては、例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチルなどが挙げられる。炭化水素系溶媒としては、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカリンなどが挙げられる。ハロゲン系溶媒としては、例えば、ジクロロメタン、クロロホルム、ジクロロエタン、ジクロロプロパンなどが挙げられる。ケトン系溶媒としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどが挙げられる。アミド系溶媒としては、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、1,3-ジメチル-3,4,5,6-テトラヒドロ-(1H)-ピリミジンなどが挙げられる。ニトリル系溶媒としては、例えば、アセトニトリル等が挙げられる。スルホキシド系溶媒としては、例えば、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。スルホン系溶媒としては、例えば、スルホラン等が挙げられる。これらのなかでも、芳香族系溶媒が好ましく、より好ましくはクロロベンゼンである。溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0076】
カップリング工程で用いる溶媒の量は、式(do-A)で表される有機スズ化合物とヘテロ芳香族縮環型ユニットBのハロゲン化物の合計1gに対して、例えば、1mL以上、150mL以下程度であり、好ましくは5mL以上、より好ましくは8mL以上であり、好ましくは100mL以下、より好ましくは80mL以下である。
【0077】
カップリング工程における反応温度は特に限定されないが、反応収率を高める観点から0℃以上、200℃以下が好ましく、より好ましくは30℃以上、更に好ましくは40℃以上であり、より好ましくは180℃以下、更に好ましくは150℃以下である。
【0078】
カップリング反応後は、常法に従って固液分離し、回収した固体を洗浄することによって式(Do-A)で表されるユニットとヘテロ芳香族縮環型ユニットBが互いに連結されている低分子化合物を製造でき、この低分子化合物を、水の存在下で、酸性条件で、加熱撹拌することにより、アセタール構造をケトン構造に変化させることで、式(Do-K)で表されるユニットAとヘテロ芳香族縮環型ユニットBが互いに連結されている低分子化合物を製造できる。
【実施例0079】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記実施例によって制限を受けるものではなく、前記および後記の趣旨に適合し得る範囲で変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。なお、以下においては、特に断りのない限り、「%」は「質量%」を意味する。
【0080】
実施例で用いた測定方法は、下記の通りである。
【0081】
[測定方法]
(NMRスペクトル測定)
NMRスペクトルは、NMRスペクトル測定装置としてVarian社製の「400-MR」、およびBruker社製の「AVANCE NEO 600」を用いて測定した。
【0082】
(赤外吸収スペクトル測定)
赤外吸収スペクトルは、JASCO社製のフーリエ変換赤外分光光度計「FT/IR-4X」を用いて測定した。
【0083】
(溶液状態での紫外可視吸収スペクトル測定)
溶液状態での紫外可視吸収スペクトルは、低分子化合物の濃度が0.03g/Lとなるようにクロロホルムに溶解した溶液を準備し、紫外・可視分光装置(島津製作所社製、「UV-3600i Plus」)、および光路長1cmのセルを用いて測定した。測定結果は実線で示した。
【0084】
(薄膜状態での紫外可視吸収スペクトル測定)
低分子化合物の濃度が8mg/mLとなるようにクロロベンゼンに溶解し、得られた溶液をガラス基板(2.5cm×2.5cm四方、厚み0.8~1.0mm)上にスピンコートして薄膜を成膜した。この薄膜の紫外可視吸収スペクトルを、常温常圧下で、紫外・可視分光装置(島津製作所社製、「UV-3600i Plus」)を用いて測定した。測定結果は点線で示した。
【0085】
特開2009-215278号公報の実施例2に基づいて化合物Hを調製した。化合物Hは、2,5-Bis(tributylstannyl)spiro[7H-cyclopenta[1,2-d:4,3-d’]bisthiazole-7,2’-[1,3]dioxolane]であり、以下、Ac-CBTZ-SBと表記することがある。
【0086】
(実施例1)
20mLフラスコに、Ac-CBTZ-SB(60mg、0.0735mmol)、4-bromo-2,7-dibutyl-benzo[lmn][3,8]phenanthroline-1,3,6,8(2H,7H)-tetrone(Bu-NDI-MB、67.2mg、0.147mmol)、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)クロロホルム付加体(6mg、0.006mmol)、トリス(2-メトキシフェニル)ホスフィン(8.9mg、0.025mmol)およびクロロベンゼン(2.4mL)を添加し、130℃で19時間反応した。反応終了後、セライトろ過し、濃縮した。次に、メタノール(7mL)を加え、析出した固体をろ取した結果、紺色固体が52.7mg(収率72.3%)得られた。NMRスペクトル測定の結果、得られた紺色固体は、Ac-CBTZ-2(Bu-NDI)であった。
【0087】
次に、20mLフラスコに、得られたAc-CBTZ-2(Bu-NDI)(30mg、0.023mmol)を入れ、クロロベンゼン(20mL)中で溶解した。そこへ酢酸3ml、12mol/lの濃塩酸0.8mlを加えて100℃で15時間攪拌した。反応終了後、水および重曹水で洗浄して得られた有機層を硫酸マグネシウムで乾燥した。固形分をろ過後、濃縮した粗品をメタノールおよびクロロホルムに分散、ろ取し、紺色固体を19.7mg(収率67.9%)得た。NMRスペクトル測定の結果、得られた紺色固体は、CBTZ-2(Bu-NDI)(以下、低分子化合物1ということがある)であった。得られた低分子化合物1の溶液状態での紫外可視吸収スペクトル測定を行ない、測定結果を
図1に示した。
低分子化合物1の
1H NMR(400MHz,CDCl
3):9.075(s,2H),8.848(d,2H),8.828(d,2H),4.235-4.134(dt,8H),1.753-1.660(m,8H),1.462-1.403(m,8H),1.005-0.950(t,12H)
【0088】
【0089】
(実施例2)
20mLフラスコに、Ac-CBTZ-SB(61mg、0.075mmol)、4-bromo-2,7-2-ethylhexyl-benzo[lmn][3,8]phenanthroline-1,3,6,8(2H,7H)-tetrone(EH-NDI-MB、84.3mg、0.147mmol)、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)クロロホルム付加体(6mg、0.006mmol)、トリス(2-メトキシフェニル)ホスフィン(8.6mg、0.025mmol)およびクロロベンゼン(2.4mL)を添加し、130℃で19時間反応した。反応終了後、セライトろ過し、濃縮した。次に、メタノール(7mL)を加え、紺色固体が40.1mg(収率44.2%)得られた。得られた固体は、Ac-CBTZ-2(EH-NDI)であった。
【0090】
次に、20mLフラスコに、得られたAc-CBTZ-2(EH-NDI)(20.6mg、0.017mmol)を入れ、クロロベンゼン(5mL)中で溶解した。そこへ酢酸1ml、12mol/lの濃塩酸13滴を加えて100℃で15時間攪拌した。反応終了後、水および重曹水で洗浄して得られた有機層を硫酸マグネシウムで乾燥した。固形分をろ過後、濃縮した粗品をメタノールおよびクロロホルムに分散、ろ取し、紺色固体を22.5mg(収率100%)得た。NMRスペクトル測定の結果、得られた紺色固体は、CBTZ-2(EH-NDI)(以下、低分子化合物2ということがある)であった。得られた低分子化合物2の溶液状態での紫外可視吸収スペクトル測定を行ない、測定結果を
図2に示した。
低分子化合物2の
1H NMR(400MHz,CDCl
3):9.108(s,2H),8.832(d,2H),8.805(d,2H),4.204-4.100(dt,8H),1.948-1.903(m,4H),1.523-1.272(m,32H),0.950-0.844(t,12H)
【0091】
【0092】
(実施例3)
20mLフラスコに、Ac-CBTZ-SB(250.5mg、0.3068mmol)、4-bromo-2,7-dioctyl-benzo[lmn][3,8]phenanthroline-1,3,6,8(2H,7H)-tetrone(n-o-NDI-MB、348.6mg、0.610mmol)、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)クロロホルム付加体(25mg、0.0245mmol)、トリス(2-メトキシフェニル)ホスフィン(36.8mg、0.104mmol)およびクロロベンゼン(10mL)を添加し、130℃で19時間反応した。反応終了後、セライトろ過し、濃縮した。次に、メタノール(7mL)を加え、析出した固体をろ取した結果、紺色固体が404.1mg(収率100%)得られた。NMRスペクトル測定の結果、得られた紺色固体は、Ac-CBTZ-2(n-o-NDI)であった。
【0093】
次に、20mLフラスコに、得られたAc-CBTZ-2(n-o-NDI)(80mg、0.066mmol)を入れ、クロロベンゼン(40mL)中で溶解した。そこへ酢酸8ml、12mol/lの濃塩酸2mlを加えて100℃で15時間攪拌した。反応終了後、水および重曹水で洗浄して得られた有機層を硫酸マグネシウムで乾燥した。固形分をろ過後、濃縮した粗品をメタノールおよびクロロホルムに分散、ろ取し、紺色固体を59.5mg(収率76.9%)得た。NMRスペクトル測定および赤外吸収スペクトル測定(IR測定)の結果、得られた紺色固体は、CBTZ-2(n-o-NDI)(以下、低分子化合物3ということがある)であった。得られた低分子化合物3の溶液状態での紫外可視吸収スペクトル測定を行ない、測定結果を
図3に示した。
低分子化合物3の
1H NMR(400MHz,CDCl
3):9.076(s,2H),8.845(d,2H),8.824(d,2H),4.217-4.117(dt,8H),1.758-1.593(m,8H),1.416-1.254(m,40H),0.881-0.833(t,12H)
【0094】
【0095】
(実施例4)
20mLフラスコに、Ac-CBTZ-SB(60mg、0.0735mmol)、4-bromo-2,7-didecylbenzo[lmn][3,8]phenanthroline-1,3,6,8(2H,7H)-tetrone(DE-NDI-MB、92.5mg、0.147mmol)、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)クロロホルム付加体(6.0mg、5.8μmol)、トリス(2-メトキシフェニル)ホスフィン(8.8mg、0.026mmol)およびクロロベンゼン(2.4mL)を添加し、130℃で19時間反応した。反応終了後、セライトろ過し、濃縮した。次に、メタノール(7mL)を加え、析出した固体をろ取した結果、紺色固体が57.5mg(収率71.0%)得られた。NMRスペクトル測定の結果、得られた紺色固体は、Ac-CBTZ-2(DE-NDI)であった。
【0096】
次に、20mLフラスコに、得られたAc-CBTZ-2(DE-NDI)(40mg、0.031mmol)をクロロベンゼン(20mL)中で溶解した。そこへ酢酸4ml、12mol/lの濃塩酸1mlを加えて100℃で15時間攪拌した。反応終了後、水および重曹水で洗浄して得られた有機層を硫酸マグネシウムで乾燥した。固形分をろ過後、濃縮した粗品をメタノールおよびクロロホルムに分散、ろ取し、紺色固体を31.8mg(収率82.2%)得た。NMRスペクトル測定および赤外吸収スペクトル測定(IR測定)の結果、得られた紺色固体は、CBTZ-2(DE-NDI)(以下、低分子化合物4ということがある)であった。得られた低分子化合物4の溶液状態での紫外可視吸収スペクトル測定を行ない、測定結果を
図4に示した。
低分子化合物4の
1H NMR(400MHz,CDCl
3):9.078(s,2H),8.845(d,2H),8.824(d,2H),4.218-4.116(dt,8H),1.721-1.685(m,8H),1.395-1.184(m,56H),0.875-0.826(q,12H)
【0097】
【0098】
(比較例)
5mLフラスコに、2,6-Dibromo-4-(2-ethylhexyl)-4H-dithieno[3,2-b:2’,3’-d]pyrrole(EH―NCyDTh―Br2、49.6mg、0.110mmol)、およびTHF(1mL)を添加し、-80℃に降温した。そこへn-ブチルリチウム(0.15mL、0.24mmol)を添加し、-80℃で1時間反応した。反応後、トリブチルスズクロリド(0.1mL、0.37mmol)を添加してさらに室温で1時間反応した。反応終了後、水および重曹水で洗浄して得られた有機層を硫酸マグネシウムで乾燥した。固形分をろ過後、濃縮し、黄色のオイルを147mg(収率≧100%)得た。NMRスペクトル測定の結果、得られた黄色のオイルは、スズ化合物を含む4-(2-ethylhexyl)-2,6-bis(tributylstannyl)-4H-dithieno[3,2-b:2’,3’-d]pyrrole(EH―NCyDTh―Sn2)であった。
【0099】
次に、5mLフラスコに、得られたEH―NCyDTh―Sn2(147mg、0.0880mmol)、4-bromo-2,7-dioctyl-benzo[lmn][3,8]phenanthroline-1,3,6,8(2H,7H)-tetrone(n-o-NDI-MB、92.1mg、0.161mmol)、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)クロロホルム付加体(11mg、0.11mmol)、トリス(2-メトキシフェニル)ホスフィン(13.7mg、0.0387mmol)およびクロロベンゼン(2mL)を添加し、130℃で15時間反応した。反応終了後、セライトろ過し、濃縮した。次に、メタノール(4mL)を加え、析出した固体をろ取した結果、紺色固体が75.1mg(収率69.8%)得られた。NMRスペクトル測定の結果、得られた紺色固体は、EH-CyDTh-2(n-o-NDI)(以下、比較化合物ということがある)であった。
比較化合物の1H NMR(400MHz,CDCl3):8.846(s,2H),8.816(d,2H),8.758(d,2H),4.225-4.090(dt,10H),1.856-1.737(m,9H),1.678-1.632(m,48H),1.076-0.860(t,18H)
【0100】
【0101】
次に、得られた低分子化合物1~4を用い、イオン化エネルギー、およびバンドギャップを測定した。また、イオン化エネルギーの値およびバンドギャップの値からLUMOの値を求めた。
【0102】
(イオン化エネルギーの測定)
低分子化合物の濃度が8mg/mLとなるようにクロロベンゼンに溶解し、得られた溶液をガラス基板上にドロップキャストして薄膜を成膜した。この薄膜のイオン化エネルギー(eV)を、常温、減圧下(0.1Pa以下)で、イオン化エネルギー測定装置(分光計器株式会社製、「BIP-KV202GD」)を用いて測定した。測定したイオン化エネルギーの値(eV)を下記表1に示した。
【0103】
(バンドギャップ)
低分子化合物のバンドギャップは、低分子化合物を含む薄膜の紫外可視吸収スペクトル測定(UV測定)を行い、紫外可視吸収スペクトルの立ち上がり波長λに基づいて算出した。立ち上がり波長λは、最大吸収を示すピークの曲線における高波長側から低波長側に向かって吸収が大きくなる領域の曲線に対して補助線として接線を引き、この接線と吸光度が0を示す横軸との交点における波長を読み取り、この波長をUVの立ち上がり波長λとして求めた。薄膜状態で測定した紫外可視吸収スペクトルを
図2~
図4に点線で示した。また、紫外可視吸収スペクトルの立ち上がり波長λに基づいてバンドギャップ(eV)を算出した。算出したバンドギャップの値(eV)を下記表1に示した。なお、実施例1で得られた低分子化合物1は、クロロベンゼンに対する溶解性が悪く、薄膜状態での紫外可視吸収スペクトルを測定できなかったため、希薄溶液で薄膜を作成してイオン化エネルギーを測定し、また、バンドギャップは溶液状態での値を算出した。また、イオン化エネルギーの値とバンドギャップの値に基づいてLUMOの値(eV)を算出し、結果を下記表1に示した。
【0104】
次に、得られた低分子化合物1~4、および比較化合物を用いて有機電界効果型トランジスタ(OFET)素子を作製し、素子の電子移動度μe、閾値電圧、オン/オフ比を測定した。
【0105】
(電子移動度、閾値電圧、オン/オフ比の測定)
チャネル長が25μmで、チャネル幅が294mmの櫛形電極が蒸着されたシリコン基板を有機溶剤および精製水を用いて洗浄した後、オゾン処理を実施し、次いでオクタデシルトリクロロシラン(ODTS)またはヘキサメチルジシラザン(HMDS)を用いて表面処理を実施した。表面処理後も有機溶剤を用いて洗浄した。有機溶剤としては、トルエン、アセトン、イソプロパノールを用いた。表面処理後の基板表面に、低分子化合物または比較化合物の濃度が1質量%の溶液をスピンコートすることで、OFET素子を作製した。スピンコートに用いた溶媒を下記表1に示した。
【0106】
作製したOFET素子につき、100℃で30分間のアニールを実施、放冷、150℃で30分間のアニールを実施、放冷した後、25℃でId-Vg特性を測定した。Id-Vg特性は、窒素雰囲気下で測定した。Id-Vg特性の測定には、ケースレーインスツルメンツ(KEITHLEY)製の「4200-SCS」を用いた。Id-Vg特性の測定を行い、電子移動度μe(cm2/Vs)、閾値電圧Vth(V)、オン/オフ比(Ion/Ioff)を求めた。測定したId-Vg特性の結果を下記表1に示した。なお、下記表1に示したイオン化エネルギー、バンドギャップ、LUMOの値、電子移動度、閾値電圧の欄に記載した「-」は未実施を示している。
【0107】
【0108】
表1から次のように考察できる。本発明の低分子化合物1~4は、1つの式(Do-K)で表されるユニットAに、2つのヘテロ芳香族縮環型ユニットBが連結されており、低分子化合物1~4を用いて得られた有機電子デバイスは、有機電子デバイスに要求される電子移動度を担保しつつオン/オフ比が大きくなった。本発明の低分子化合物1~4は、有機半導体材料として好ましく用いることができる。
【0109】
次に、低分子化合物3を用いて作製したOFET素子について、加熱条件下における電子移動度μe、閾値電圧、オン/オフ比を測定した。
【0110】
(加熱条件下での電子移動度、閾値電圧、オン/オフ比の測定)
作製したOFET素子につき、100℃で30分間のアニールを実施、放冷、150℃で30分間のアニールを実施、放冷した後、加熱条件下でId-Vg特性を測定した。詳細には、150℃での上記アニールの実施後、放冷時の温度25℃で測定(測定1)し、続いて60℃で30分間加熱し、その60℃加熱条件下で測定(測定2)し、続いて100℃で30分間加熱し、その100℃加熱条件下で測定(測定3)した。放冷後、25℃で測定(測定4)した。Id-Vg特性は、真空で測定した。Id-Vg特性の測定には、ケースレーインスツルメンツ(KEITHLEY)製の「4200-SCS」を用いた。Id-Vg特性の測定を行い、電子移動度μe(cm2/Vs)、閾値電圧Vth(V)、オン/オフ比(Ion/Ioff)を求めた。測定したId-Vg特性の結果を下記表2に示した。
【0111】
【0112】
表2から次のように考察できる。本発明で規定する要件を満足する低分子化合物3を用いた場合、測定2、測定3のように加熱した状態でも電子移動度およびオン/オフ比の低下は殆ど見られず、閾値電圧の上昇も見られなかった。また、測定4のように、加熱後、25℃まで放冷して測定しても電子移動度とオン/オフ比の低下は殆ど見られず、閾値電圧の上昇も見られなかった。従って本発明で規定する要件を満足する低分子化合物を含む有機半導体材料を用いた有機電子デバイスは、加熱条件下でもデバイスとして問題無く駆動することが分かった。
【0113】
次に、低分子化合物3または比較化合物を用いて作製したOFET素子について、耐久性を評価した。
【0114】
(耐久性の評価)
OFET素子の耐久性は、次の手順で評価した。作製したOFET素子につき、100℃で30分間のアニールを実施、放冷、150℃で30分間のアニールを実施、放冷した後、Id-Vg特性を測定した。詳細には、150℃で30分間のアニールを実施してからの放冷後、25℃の条件下で、ゲート電圧を-20Vから100Vまで掃引し、次いで100Vから-20Vまで掃引するサイクルで、2V刻みでId-Vg特性を測定した。当該サイクルを100回連続で行い、各サイクルの間にId-Vg特性を測定した。1回目と100回目のサイクルでのId-Vg特性のそれぞれから求めた電子移動度μe、閾値電圧、オン/オフ比を比較することにより、素子の耐久性を評価した。Id-Vg特性は、窒素雰囲気で測定した。Id-Vg特性の測定には、ケースレーインスツルメンツ(KEITHLEY)製の「4200-SCS」を用いた。上記サイクルの1回目で測定したId-Vg特性に基づいて求めた電子移動度μe(cm2/Vs)、閾値電圧Vth(V)、オン/オフ比(Ion/Ioff)と、上記100回目のサイクルで測定したId-Vg特性に基づいて求めた電子移動度μe(cm2/Vs)、閾値電圧Vth(V)、オン/オフ比(Ion/Ioff)の結果を下記表3に示した。
【0115】
【0116】
表3から次のように考察できる。本発明で規定する要件を満足する低分子化合物3を用いた場合、上記サイクルを100回繰り返しても電子移動度μe、閾値電圧Vth、オン/オフ比は、1回目のサイクルの際と殆ど変化しなかった。このように上記サイクルを繰り返しても電子移動度μe、閾値電圧Vth、およびオン/オフ比の劣化が少なく、耐久性が向上した理由は、OFET素子の作製に用いた低分子化合物3が分子内にケトン基を有しているため、このケトン基と他の低分子化合物3の分子内の水素との間で水素結合が形成され、分子の振動が抑えられたからではないかと考えられる。従って本発明で規定する要件を満足する低分子化合物を含む有機半導体材料を用いた有機電子デバイスは、耐久性に優れることが分かった。一方、比較化合物を用いた場合、電子移動度は上記サイクルを100回繰り返しても殆ど変化しなかったが、閾値電圧は1回目のサイクルの際と比較して100回目では30V程度上昇した。以上の通り、比較化合物を用いた場合は、いずれも有機電子デバイスの耐久性が低かった。