(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024180318
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】全固体リチウムイオン二次電池の負極活物質用原料
(51)【国際特許分類】
H01M 4/38 20060101AFI20241219BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20241219BHJP
H01M 4/134 20100101ALI20241219BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20241219BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20241219BHJP
【FI】
H01M4/38 Z
H01M4/36 E
H01M4/134
H01M10/0562
H01M10/052
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024092751
(22)【出願日】2024-06-07
(31)【優先権主張番号】P 2023098538
(32)【優先日】2023-06-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(72)【発明者】
【氏名】河野 芳輝
(72)【発明者】
【氏名】石田 晴之
(72)【発明者】
【氏名】堀永 万実
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ02
5H029AJ03
5H029AJ06
5H029AK11
5H029AL11
5H029AL18
5H029AM12
5H029DJ16
5H029HJ01
5H029HJ05
5H050AA02
5H050AA08
5H050AA12
5H050BA16
5H050CB11
5H050CB29
5H050FA10
5H050FA17
5H050HA01
5H050HA05
(57)【要約】
【課題】 シリコンを負極材として使用した全固体リチウムイオン二次電池の容量をより増大せしめることが可能な負極活物質用原料を提供する。
【解決手段】 シリコン粉末とゲルマニウム粉末の合計量を100質量%としたとき、ゲルマニウム粉末が1.0~60.0質量%の割合で含まれている全固体リチウムイオン二次電池の負極活物質用原料であり、正極集電体5と正極活物質層4により構成される正極と、負極集電体1と上記負極活物質用原料よりなる負極活物質層2より構成される全固体リチウムイオン二次電池負極形成用材料よりなる負極と、固体電解質層3により、全固体リチウムイオン二次電池20が構成される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン粉末とゲルマニウム粉末とを含む全固体リチウムイオン二次電池の負極活物質用原料であって、
シリコン粉末とゲルマニウム粉末の合計量を100質量%としたとき、ゲルマニウム粉末が1.0~60.0質量%の割合で含まれていることを特徴とする全固体リチウムイオン二次電池の負極活物質用原料。
【請求項2】
前記シリコン粉末の平均粒子径が、0.3~10.0μm、前記ゲルマニウム粉末の平均粒子径が0.5~5.0μmである請求項1記載の全固体リチウムイオン二次電池の負極活物質用原料。
【請求項3】
請求項1記載の全固体リチウムイオン二次電池の負極活物質用原料よりなる層が集電体上に形成された全固体リチウムイオン二次電池負極形成用材料。
【請求項4】
前記全固体リチウムイオン二次電池の負極活物質用原料よりなる層が、集電体上に、谷部で連続した島状凸部となるようにパターン形成された、請求項3記載の全固体リチウムイオン二次電池負極形成用材料。
【請求項5】
正極と、負極と、固体電解質層とを有する全固体リチウムイオン二次電池であって、前記負極として請求項3又は4に記載の全固体リチウムイオン二次電池負極形成用材料を配置したことを特徴とする全固体リチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全固体リチウムイオン二次電池の新規な負極活物質用原料に関する。また、本発明は上記負極活物質用原料を含む、全固体リチウムイオン二次電池負極形成用材料、さらに上記全固体リチウムイオン二次電池負極形成用材料を用いた、全固体リチウムイオン二次電池用負極を含む、全固体リチウムイオン二次電池を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
様々な二次電池が開発されている中、高いエネルギー密度が得られ易いリチウムイオン二次電池(LIB)が有望視されている。一方、LIBの用途が拡大するに伴って、自動車用電池や据え置き型電池など、大容量化のための大型電池が注目されている。大型電池では、小型電池に比べて安全性の確保がさらに重要になる。そのため、無機系の固体電解質を用いる全固体電池である、全固体リチウムイオン二次電池(全固体LIB)は、電解液を用いるLIBに比べて、大型化しても安全性を確保し易く、活物質の容量を有効利用し易いと期待されている。
【0003】
一方、全固体LIBの大容量化を目的とし、エネルギー密度を高める1つの手段として、負極を高容量化することが挙げられる。高容量化ができる負極活物質として、シリコンが検討されている。シリコンは、負極活物質としての理論容量密度が4200mAh/g(体積容量密度で2370mAh/cm3)と、カーボンと比較すると容量/重量の比で約11倍、容量/体積の比で約3倍であり、また、Li基準の電圧が0.2Vと低いという、優れた特性を有している(特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、シリコンを負極活物質として使用した全固体LIBは、電池の容量密度において、実用的レベルまでには十分達しておらず、改善の余地があった、
また、前記シリコンは絶縁性を有することより、一般的に電子伝導性を付与するための電子伝導性付与剤としてアセチレンブラック等の微細カーボン粒子が添加されているが、かかるカーボン粒子の添加は、安全性の面のみならず、カーボンの存在によりシリコンの相対的体積を減少せしめ、LIB全体の容量を低下させるという問題を有していた。
【0005】
上記のように、シリコンを負極活物質とした全固体LiBへの期待は高いものの、安全性および容量向上の観点からも、未だ多くの技術的課題が残っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明は、シリコンを負極材として使用した全固体リチウムイオン二次電池の容量をより増大せしめることが可能な負極活物質用原料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を解決すべく、鋭意検討したところ、全固体リチウムイオン二次電池の負極活物質用原料として使用するシリコンに特定量のゲルマニウムを添加することにより、電池の容量密度を飛躍的に向上させることができ、また、電子伝導性付与剤の使用量も低減、場合によっては不要とすることができる全固体LIBを得ることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、シリコン粉末とゲルマニウム粉末の合計量を100質量%としたとき、ゲルマニウム粉末が1.0~60.0質量%の割合で含まれていることを特徴とする全固体リチウムイオン二次電池の負極活物質用原料を提供するものである。
【0010】
前記シリコン粉末の平均粒子径は、0.3~10.0μm、前記ゲルマニウム粉末の平均粒子径が0.5~5.0μmであることが好ましい。
【0011】
また、本発明は、前記全固体リチウムイオン二次電池の負極活物質用原料よりなる層が集電体上に形成された全固体リチウムイオン二次電池負極形成用材料を提供する。
【0012】
上記全固体リチウムイオン二次電池負極形成用材料において、全固体リチウムイオン二次電池の負極活物質用原料よりなる層は、谷部で連続した島状凸部となるようにパターン形成されることが好ましい。
【0013】
更に、本発明は、正極と、負極と、固体電解質層とを有する全固体リチウムイオン二次電池であって、前記全固体リチウムイオン二次電池負極形成用材料を負極として配置したことを特徴とする全固体リチウムイオン二次電池をも提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明では、全固体LiBの負極形成用材料として、特定量のゲルマニウム粉末を含むシリコン粉末を使用することにより、これを使用した全固体LiB電池の負極において、リチウムの吸蔵・放出速度が向上し、且つ、電池の容量密度を飛躍的に向上することが可能となる。また、高い電子及びイオン伝導性を有し、充放電時の電流密度を高くすることが可能となる。
【0015】
前記効果の発現機構として、本発明者らは以下のように推定している。即ち、ゲルマニウムのリチウムイオン挿入反応の電位(vs Li/Li+)は、それぞれ0.3Vと0.4Vであり、反応電位が低い元素がリチウムとの反応が起こり易いため、前記ゲルマニウムを含むシリコンより構成される負極形成用材料を用いて全固体リチウムイオン二次電池を組み立て、充放電を行うと、反応性の高いゲルマニウムがシリコンを含む負極層全体へのリチウムのゲートとなり、負極層全体へのリチウムの吸蔵・放出が容易となる。しかも、ゲルマニウムがリチウムと合金化することで高容量化し、高い容量密度達成できる。
【0016】
また、充放電の際、負極形成用材料である結晶性シリコン粉末及びゲルマニウム粉末の一部または全部がアモルファス化するとともに、集電体および固体電解質に密着する。その際、負極形成用材料はゲルマニウムを含むため、それによる高い電子及びイオン伝導性が付与され、電子伝導性付与剤やイオン伝導性付与剤を特に用いなくても、高い電子及びイオン伝導性が達成でき、充放電時の電流密度を高くできる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明に係る全固体LiBの概略断面図である。
【
図2】負極活物質層へパターン付与した実施形態を示す断面図である。
【
図4】負極活物質層にパターン付与した他の実施形態を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本明細書において全固体電池とは、電解質として非水電解液やイオン液体などの液状物を含まない電池をいう。
【0019】
(全固体リチウムイオン二次電池の負極活物質用原料)
本発明に係る全固体LiBの負極活物質用原料は、シリコン粉末とゲルマニウム粉末とを含む。
【0020】
シリコン粉末としては、平均粒子径が0.3~10.0μmのシリコン粉末が使用される。上記シリコンは、結晶性シリコンであってもよい。
【0021】
ここで、結晶性シリコンとは、多結晶、単結晶の両者を意味する。したがって、本発明の負極活物質粒子は、多結晶シリコン粉末であってもよく、単結晶シリコン粉末であってもよく、またこれらの混合物であってもよい。多結晶シリコン粒子は、いわゆるジーメンス法により得られる多結晶シリコンロッドを破砕、分級して得てもよい。単結晶シリコン粉末は、いわゆるチョクラルスキー法により得られる単結晶シリコンを粉砕、分級して得てもよい。また、珪石の還元法により得られる金属シリコンを粉砕、分級して得てもよい。結晶性シリコンは、X線回折により明確なピークを示す。
【0022】
シリコン粉末の平均粒子径は、通電後の負極活物質層のサイクル特性を向上させる観点から、好ましくは0.5~4.5μm、好ましくは0.5~2.0μm、さらに好ましくは1.0~1.5μmである。なお、平均粒子径は、レーザー散乱法による粒度分布測定結
また、前記シリコン粉末において、平均結晶子径は、30~110nm、特に、50~90nmの範囲のものがより好ましい。平均結晶子径は、X線回折パターンからScherrer法、Willamson-Hall法、Halder-Wagner法などの方法で解析できる。
【0023】
更に、前記シリコン粉末の粒子形状は、前記粉砕によって得られる場合は不定形を成すが、球状などの他の形状も特に制限なく採用される。
【0024】
更にまた、前記シリコン粉末と後述するバインダ成分との密着性を向上させるために、シリコン粉末は表面処理を施されたものであってよい。
【0025】
本発明に使用する前記シリコン粉末の純度は特に制限されないが、90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上、更には98質量%以上であることが好ましい。
【0026】
尚、本発明のシリコン粉末として、硫化物系固体電解質に対する化学的安定性の向上、リチウムの拡散性を向上させる目的で、ドープされたシリコン粉末を用いることができる。この場合、ドープする元素としては、カドミウム、鉛、スズ、銀、ビスマス、リン、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、砒素、インジウム及びこれら元素からなる化合物が挙げられ、ドープ量は、前記純度を維持できる範囲が好ましく、特に2質量%未満とすることが好ましい。
【0027】
本発明において、負極活物質原料として、ゲルマニウム粉末が使用される。ゲルマニウム粉末は結晶性ゲルマニウムであってよい。結晶性ゲルマニウムは、3種類の結晶構造を持つが特に限定はなく、例えば常温・常圧で安定なダイヤモンド構造のα型を使用すること好ましい。
ゲルマニウム粉末の平均粒子径は、0.5~5.0μmが好ましく、負極活物質層のブロック化および緻密化を促進する観点から、より好ましくは0.5~2.5μm、特に、1.0~1.6μmである。尚、平均粒子径は、レーザー散乱法による粒度分布測定結果における50%累積径(D50)を意味する。
【0028】
また、前記ゲルマニウム粉末において、平均結晶子径は、30~110nm、特に、50~90nmのものがより好ましい。平均結晶子径は、前記シリコン粉末において記載した方法で解析できる。
【0029】
更に、前記ゲルマニウム粉末の粒子形状は、前記粉砕によって得られる場合は不定形を成すが、球状などの他の形状も特に制限なく採用される。
【0030】
更にまた、前記ゲルマニウム粉末と後述するバインダ成分との密着性を向上させるために、ゲルマニウム粉末は表面処理を施されたものであってよい。
【0031】
本発明に使用する前記ゲルマニウム粉末の純度は特に制限されないが、90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上、更には98質量%以上であることが好ましい。
【0032】
本発明の全固体LiBの負極活物質用原料は、前記シリコン粉末とゲルマニウム粉末の合計量を100質量%としたとき、ゲルマニウム粉末が1.0~60.0質量%、好ましくは、1.0~40.0質量%、更に好ましくは、1.0~20.0質量%の割合で含まれている。ゲルマニウム粉末の存在量が、前記範囲より少ない場合は、これを使用した全固体LiB電池の負極において、リチウムの吸蔵・放出速度の向上を十分達成することが困難となり、しかも、電子及びイオン伝導性も十分向上させることが出来ず、本発明の目的を達成することが困難となり、また、前記範囲より多い場合は、理論容量がシリコンよりも低いゲルマニウムの影響が大きくなり、電池全体の容量が低くなる。また、高価なゲルマニウムの使用により、経済的にも不利となる。
【0033】
前記シリコン粉末とゲルマニウム粉末とは、予め、公知の混合装置により混合してもよいし、後述する負極を形成する材料と共に混合してもよい。
【0034】
(全固体リチウムイオン二次電池負極形成用材料)
上記負極活物質用原料は、負極を構成する他の成分、具体的には、後述する電子伝導性付与剤、イオン伝導性付与剤、バインダ、可塑剤等と混合し、全固体LiB負極形成用組成物とし、集電体上に配置して負極活物質層を形成することで、全固体LiB負極形成用材料が得られる。上記全固体LiB負極形成用材料を用いて電池を組み立て、充放電を行うと、結晶性シリコン粉末及びゲルマニウム粉末の一部または全部がアモルファス化して緻密化し、且つ、集電体に密着し、負極として機能する。そして、アモルファス化して緻密化し、且つ、集電体に密着した負極活物質層は、優れた電子伝導性を示すため、電子伝導性付与剤の使用量を低減でき、また場合によっては省略することもできる。従って、本発明に係る全固体LiB負極形成用組成物は、電子伝導性付与剤の含有量が、負極活物質用原料であるシリコン粉末、ゲルマニウム粉末の合計量100質量部に対し、5質量部以下であることが好ましい。そして、本発明によれば、電子伝導性付与剤の割合が低減することができるため、活物質粒子の相対量を増加でき、容量向上に寄与できる。それ故、前記電子伝導性付与剤の含有量は、3質量%以下、特に、1質量%以下とすることが可能であり、電子伝導性付与剤を実質的に使用しない態様を採ることも可能とする。
【0035】
前記全固体LiB負極形成用組成物は、イオン伝導性を向上するため、イオン伝導性付与剤を含有することができる。かかるイオン伝導性付与剤としては、後述する固体電解質を用いることができる。イオン伝導性付与剤の配合量が多すぎると、活物質粒子の相対量が低下し、サイクル特性も低下するため、全固体LiB負極形成用組成物におけるイオン伝導性付与剤の含有量は好ましくは30質量%以下であり、さらに好ましくは20質量%以下であり、より好ましくは実質的に含まない。
【0036】
前記全固体LiB負極形成用組成物は、成形性を付与するため、バインダ、可塑剤等を含むことができる。これらの成分は合計で、負極活物質粒子100質量部に対し、好ましくは20質量部以下であり、さらに好ましくは15質量部以下である。即ち、バインダや可塑剤の配合量が多すぎると、負極活物質層における活物質量が相対的に低下するため、電池容量を増加する上では好ましくない。また、本発明に係る全固体LiB負極形成用組成物は、塗料化のために分散媒を含むことができる。
【0037】
バインダとしては、たとえば熱硬化性ポリイミド、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン等の熱硬化性樹脂;カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース等のセルロース誘導体またはポリビニルアルコール等の水溶性高分子;ポリプロピレンカーボネート等のポリカーボネート系樹脂;ポリフッ化ビニリデン等;スチレン-ブタジエン共重合体(いわゆるSBRゴム系)やスチレン-プロピレン共重合体、スチレン-エチレン-プロピレン共重合体(いわゆるSES系やSEPS系)が挙げられる。
【0038】
分散媒としては、アルコール類、アルデヒド類、ケトン類、エーテル類、エステル類、アミド類、イミド類、脂肪族炭化水素類、脂環族炭化水素類、芳香族炭化水素類、複素環類などから適宜選択され、たとえば、有機溶媒の例としては、メタノール、エタノール、ノルマルプロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ノルマルブチルアルコール、イソブチルアルコール、ペンチルアルコール、ヘキシルアルコール、ヘプチルアルコール、オクチルアルコール、2-エチルヘキシルアルコール、ベンジルアルコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、トリエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、エチルアセテート、ノルマルプロピルアセテート、イソプロピルアセテート、ノルマルブチルアセテート、イソブチルアセテート、ヘキシルアセテート、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、トリエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノイソプロピルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテルアセテート、トリエチレングリコールモノイソプロピルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、トリエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ヘキサン、ノナン、デカン、イソデカン、ドデカン、イソドデカン、ターペン、ナフテン系溶剤、イソパラフィン系溶剤、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、アルキルシクロヘキサン、トルエン、キシレン、芳香族系高沸点溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、メチルペンチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、ターピネオール、ジヒドロターピネオール、及びジヒドロターピネオールアセテート、NMP(N-メチルピロリドン)、メトキシベンゼン、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジブチルエーテル等を挙げる事ができる。これらは単独で用いて良いし、組み合わせて用いても良い。分散媒の使用量は、全固体LiB負極形成用組成物の粘度が、厚塗りが可能となる量であれば良い。かかる分散媒は、全固体LiB負極形成用組成物を塗工後、乾燥することで除去可能される。
【0039】
全固体LiB負極形成用組成物からなる負極活物質層を集電体上に形成するには、全固体LiB負極形成用組成物を集電体上に塗布、乾燥すれば良い。塗布法は特に限定はされず、たとえばドクターブレードを用いた塗工であってもよく、グラビアコート、スクリーンコート、ダイコート、バーコート、スピンコート、ニップコート等の一般的な塗工であってもよい。乾燥は使用した分散媒が十分に揮発する程度の温度で行えばよい。
【0040】
前記負極活物質層の厚みに特に制限はないが、薄すぎると電池容量が低くなり、また厚すぎると電子伝導性やイオン伝導性が低下することがある。したがって、負極活物質層の厚みは、通常5~40μm厚、好ましくは10~20μm厚とする。
【0041】
本発明の全固体LiB負極形成用材料の集電体としては、一般に銅箔、ニッケル箔あるいはSUS箔が用いられるが、他の導電性金属箔を用いてもよい。集電体は、表面が防錆処理をされた電解銅であってもよい。集電体の厚さは、特に制限されないが、電池の小型化やハンドリング性などの観点から、通常3μm~100μm厚、ロール・トゥー・ロール製法を行う場合、好ましくは5μm厚~50μm厚のものが用いられる。集電体の形状は、孔の開いていないシート状でもよいし、二次元状のメッシュ、三次元状の網状やパンチングメタルなど、孔の開いているシート状でもよい。集電体の表面は公知の表面処理が施されていてもよく、例えば、機械的表面加工、エッチング、化成処理、陽極酸化、ウォッシュプライマー、コロナ放電、グロー放電などの処理が挙げられる。
【0042】
本発明の全固体LiB負極形成用材料において、負極活物質層は、集電体上に均一な厚みで連続して形成されていてもよい。しかし、集電体上に均一な厚みで連続して形成した負極活物質層は、充放電時に自発的にブロック化する。即ち、電池を充電する事により、負極活物質層中の負極活物質用原料の粒子がリチウムを吸蔵する事で体積膨張するが、粒子同士は融合し、粒子間に存在する微小な空隙は押し出され、融合したブロックの端部には溝が形成される。これにより、充電による負極活物質層の膨張率が300%程度であっても層自体の厚み増加は1.5倍程度に抑制される。また、放電時にはリチウム放出によってシリコンは元の体積に戻ろうとするが、ブロックの周りの空隙にシリコンブロックよりも相対的に柔らかい固体電解質が引き込まれ、負極層自体の厚みの減少は殆ど生じない。このように前記細分化されたブロック状の塊は、全固体LiBの使用範囲における充放電時の体積変化率が少なく、良好なサイクル特性を発揮することが期待される。
【0043】
ところが、各ブロックの大きさ、形状や、各ブロック間の隙間が不均一になり易い。各ブロックの大きさ、形状や、各ブロック間の隙間が不均一であると、充放電時の膨張、収縮により隣接するブロック同士が接触し、相互に圧縮する力が発生し、ブロックが小さく割れることがある。また、ブロック間に形成される谷部が集電体まで達することがあり、その場合、固体電解質がブロックと集電体との界面に侵入しブロックと集電体との密着性が低下する現象も生じる。この結果、負極活物質の微粒化、孤立化が起き、容量低下が経時的に低下し、期待通りのサイクル特性が発揮されない場合がある。
【0044】
本発明者らは、自発的に生成するブロックの大きさ、形状、間隔を制御する手段を鋭意検討したところ、充放電を行う前の全固体LiB負極形成用材料の負極活物質層にブロックを予めパターン状に形成することを着想した。
【0045】
本発明の全固体LiB負極形成用材料として好適な態様である、全固体LiB負極形成用材料の負極活物質層にブロックを予めパターン状に形成した態様を
図1~4に示す。
【0046】
図1、
図2に示すように、好ましい実施形態に係る全固体LiB負極形成用材料は、負極集電体1上に、負極活物質用原料からなる負極活物質層2を有し、該負極活物質層2が、パターン形成された島状凸部11を有することを特徴としている。
【0047】
島状凸部11の間には、溝12が形成され、各島状凸部11の距離を一定に保つ。島状凸部11の高さは、前記負極活物質層の厚みと同様である。
【0048】
島状凸部11の水平方向の長さは、5~100μmであり、溝12の幅は、5~30μmであり、前記島状凸部の水平方向の長さよりも小さいことが好ましい。また、島状凸部の厚みは、集電体の表面から5μmを超え、50μm以下、好ましくは、7~30μmとすることが、全固体LiB電池の容量を確保するために好ましい。
【0049】
溝12は、谷部で連続した島状凸部となるように、溝12の底部に負極活物質層が存在するように形成される。溝の底部に存在させる負極活物質層の厚みは、好ましくは0.5~10.0μm、さらに好ましくは1.0~5.0μm程度であればよい。
【0050】
なお、島状凸部11が前記充放電によって自然に形成されるブロックの大きさより大きい場合は、島状凸部内に更にブロックが形成されることがあるが、その場合においても負極活物質層のブロックをより均一に形成し、しかも、亀裂が集電体まで達することを防止する効果が得られる。
【0051】
島状凸部11の形状は特に限定はされない。
図2では島状凸部11が四角(菱形)柱の場合を示しているが、円(楕円を含む)柱でもよく、三角柱、五角柱、六角柱等の多角柱であってもよく、これらの組み合わせであってもよい。
【0052】
島状凸部11の形成方法は特に限定はされない。たとえば、集電体上に、所定のパターンで全固体LiB負極形成用組成物を印刷(たとえばスクリーン印刷、グラビア印刷)してもよいし、集電体上に全固体LiB負極形成用組成物を均一に塗工、乾燥した後に、負極活物質層にメッシュを押し付けることで、
図4に示すようなメッシュパターン状の島状凸部11を形成できる。
【0053】
上記のように、負極集電体上に全固体LiB負極形成用組成物を所定パターンで形成した島状凸部11を有する全固体LiB負極形成用材料を用いてLiBを組み立て、充放電を行うと、完全な制御は困難ではあるが、
図5のように、概ね島状凸部11の形状を保って、負極活物質層がブロック化する。このため、各ブロックの大きさ、形状や、各ブロック間の隙間が均一化されるため、充放電による膨張、収縮が繰り返されても、隣接するブロック同士の接触を抑制できる。この結果、負極活物質の微粒化、孤立化が起き難くなり、容量低下を防止でき、高いサイクル特性を発揮することができる。
【0054】
(全固体リチウムイオン二次電池)
図1に示すように、本発明の全固体LiB20は、正極集電体5と正極活物質層4により構成される正極と、負極集電体1と負極活物質層2より構成される全固体LiB負極形成用材料よりなる負極と、固体電解質層3とを有する。
【0055】
本発明の全固体LiBにおいて、負極以外の構成は、公知の全固体LiBと同様の材料、構成を採用することができ、特に限定はされない。
【0056】
例えば、固体電解質は特に限定はされないが、汎用されている硫化物系固体電解質および酸化物系固体電解質を例示できる。硫化物系固体電解質は、リチウムイオン伝導度が高い点から有利である。酸化物系固体電解質は、化学的に比較的安定であり、高電圧耐性の観点から有利である。固体電解質層に酸化物系固体電解質を用いる場合には、必要に応じて汎用のイオン伝導材を併用し、リチウムイオン伝導度を向上させてもよい。
【0057】
硫化物系固体電解質は、例えば、リチウム、リン、および硫黄を含有し、さらに、O、Al、B、Si、Ge、Iなどの元素を含有しても良い。具体的には、非晶質Li3PS4、非晶質40LiI・60Li3PS4(mol%)、β-Li3PS4、α-Li3PS4、Li7P3S11結晶などが用いられる。アルジロダイト系固体電解質を用いても良い。
【0058】
このような硫化物系固体電解質は、公知の方法により得ることができる。例えば、出発原料として硫化リチウム(Li2S)及び五硫化二リン(P2S5)を用意し、Li2SとP2S5とをモル比で50:50~80:20程度の割合で混合し、これを熔融して急冷する方法(熔融急冷法)や、これをメカニカルミリングする方法(メカニカルミリング法)または、いわゆる湿式法であるサスペンジョン法、溶液法、ゾルゲル法などの公知の方法で作製することもできる。
【0059】
上記方法により得られる硫化物系固体電解質は、非晶質である。この非晶質の状態のまま利用することもできるが、これを加熱処理して結晶性の硫化物系固体電解質としてもよ い。結晶化することで、リチウムイオン伝導度の向上が期待できる。
【0060】
酸化物系固体電解質は、例えば、Li5+XLa3(ZrX,A2-X)O12(式中、AはSc,Ti,C,Y,Nb,Hf,Ta,Al,Si,Ga,Ge,Snからなる群より選ばれた1種類以上の元素、Xは1.4≦X≦2)、Li1+XAlXTi2-X(PO4)3(Xは0≦X≦1)、Li3XLa2/3-XTiO3(Xは0≦X≦2/3)などが挙げられる。これらは、室温におけるイオン伝導度が高く、電気化学的安定性が高い。
【0061】
酸化物系固体電解質は、電気化学的安定性の観点から、シリカ(SiO2)粒子、γ-アルミナ(Al2O3)粒子、セリア(CeO2)粒子、ジルコニア(ZrO2)粒子等の絶縁性粒子を追加してもよい。また、他の公知の金属酸化物粒子を用いてもよい。
【0062】
上記固体電解質は、ヤング率(25℃)が好ましくは10~70GPa、さらに好ましくは15~30GPaであるものが、負極活物質がブロック状に緻密化した際に、各ブロック間に生じる隙間に固体電解質が嵌入し易く、イオン伝導性をより高く維持することができるために好ましい。ヤング率(25℃)が10~70GPaの固体電解質としては、非晶質Li3PS4、LiX-Li3PS4(X=I,Br,Cl)系ガラス、β-Li3PS4、α-Li3PS4、LI7P3S11結晶、Li10GeP2S12に代表されるLGPS結晶系固体電解質、Li6PS5X(X=I,Br,Cl)に代表されるアルジロダイト系結晶などが挙げられる。
【0063】
固体電解質層の膜厚は、500nm~1000μmであることが好ましく、1μm~500μmであることがより好ましい。膜厚が500nm以上であれば、欠けや割れが発生することなく、性能が安定した固体電池を作製できる。膜厚が1000μm以下であれば、十分に低抵抗な固体電池を作製できる。
【0064】
また、正極を構成する正極集電体、正極活物質層は、LiCoO2、LiMnO2、Li(NixCoyMnz)O2、Li(NixCoyAlz)O2、LiFePO4、 その他の通常のあるいは現在提案されている各種の材料を使用することができる。上記式中、X、Y、Zは、X+Y+Z=1.0molの値を取る。
【0065】
本発明において、前記全固体LiBに充放電を行うと、全固体LiB負極形成用材料に含まれる結晶性シリコン及びゲルマニウム粉末の一部または全部がアモルファス化する。また、充放電の結果として、シリコン又はゲルマニウムの一部または全部がリチウムとの合金を構成していてもよい。
【0066】
上記本発明の全固体LiBにおいて、負極活物質用原料よりなる層が、集電体上に、谷部で連続した島状凸部となるようにパターン形成された態様においては、前記したように、負極活物質用原料よりなる層が、集電体上に、谷部で連続した島状凸部となるようにパターン形成されているため、充放電を行うことにより結晶性シリコン及びゲルマニウム粉末の一部または全部がアモルファス化しても、概ね島状凸部の形状を保って、負極活物質層がブロック化し、このため、各ブロックの大きさ、形状や、各ブロック間の隙間が均一化され、また、ブロック間の谷部においても負極活物質が存在し、集電体が露出することはない。従って、放電後においても、上記状態を観察することにより、本発明の全固体LiBの前記態様の実施を確認することができる。
【実施例0067】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって制限されるものではない。
【0068】
実施例、比較例において、平均粒子径、得られた電池(半電池)の評価は以下の方法によって行った。
【0069】
(1)材料粉の平均粒子径
材料粉の平均粒子径は、LA-950S2(堀場製作所製)を使用し、レーザー回折/散乱光強度から求めた。
【0070】
(2)充放電特性
電池の充放電試験は、BTS-2004H(Nagano社製)を使用し、測定温度25℃として、電流密度0.1mAcm-2とした定電流密度試験を行った。充放電の打ち切り条件は、カットオフ電圧―0.62V~0.38Vで行った。初回放電容量効率は、初回の放電容量を、電池全体の理論容量で割ることで算出した。電池全体の理論容量は、シリコン及びゲルマニウムのそれぞれの理論容量と混合比率を掛け合わせて算出した。充放電を繰り返して行い、サイクル毎に充放電容量の推移を監視した。
【0071】
(3)サイクル特性
電池のサイクル特性は、(2)の充放電特性の条件で充放電を繰り返し行い、容量維持率が90%未満となった時点の回数によってサイクル性能を評価した。
【0072】
また、電池は、下記材料を用いて半電池(ハーフセル)を組み立てた。
【0073】
(4)電池材料
(対極)
・リチウム(Li)箔:膜厚0.1mm(本城金属株式会社製)
・インジウム(In)箔:膜厚0.127mm(アルドリッチ社製)
(負極)
・負極集電体:CF-T7F-35(福田金属箔粉工業株式会社製)
・負極活物質層:負極活物質用原料90質量部と熱硬化性ポリイミド樹脂(株式会社アイ・エス・テイ社製DreamBond(商品名))10質量部との混合物
(固体電解質)
a-40LiI・60Li3PS3(メカニカルミリング法により作製)
実施1~5、比較例1~3
負極活物質用原料として、結晶性シリコン粉末(株式会社トクヤマ製多結晶シリコン)、ゲルマニウム粉末(STREM Chemical製ゲルニウム)を表1に示す粒径及び混合割合に調整して使用した。
【0074】
上記のシリコン粉末とゲルマニウム粉末が合計で360mgと、ポリイミド溶液(27.2wt%のNMP溶液)を固形分40mgとなる量で混合し、さらにNMP(N-メチルピロリドン)を加え、全固体LiB負極形成用組成物を得た。該組成物を2時間撹拌(自転1056rpm、公転1600rpm)し、6分脱泡(自転290rpm、公転1360rpm)した。
【0075】
得られた塗布液を、負極集電体上にドクターブレードを用いて塗工した(送り速度1.0mm/秒)。室温で半日以上乾燥後、真空下でヒーター加熱(250℃、30分)し、ポリイミドを硬化して負極形成用材料を得た。活物質層の厚みは25μmとなるよう、ブレードのギャップを調整した。
【0076】
(5)ハーフセルの製造
負極形成用材料のシートを9mmφに打ち抜いたものを絶縁性のダイに入れ、負極シートの上から固体電解質粉末65mgを装填し、成型圧:560MPaで一軸プレスを行った。プレス後の固体電解質層の厚みは、300~400μmであった。上部のパンチを一旦外したのち、6mmφに打ち抜いたInとLiの金属箔をIn/Li/Inの順に重ねた対極を、固体電解質層の上側に載せ、50MPa程度の圧力で再度一軸プレスすることにより、全固体型ハーフセルを作製した。上記ハーフセルの組立は、全て酸素、窒素、水分等による影響を排除するため、外気を遮断したグローブボックス内アルゴン雰囲気下で実施した。
【0077】
得られたハーフセルについて、初回の放電容量、または理論容量に対する放電効率によって放電性能の優劣を評価した結果を表1に示す。尚、ハーフセルはそれぞれ5個作成し、表1には、その平均値を示した。
【0078】
【0079】
表1より理解されるように、シリコン粉末に対して、ゲルマニウム粉末を特定量併用した実施例は、ゲルマニウムを添加しないか、添加量が本発明の範囲を外れる比較例に対して、放電容量が高く、理論容量に対する放電容量の効率も高かった。
【0080】
実施例6
実施例4において、負極活物質層を室温で乾燥後、活物質層を80℃に加熱し、正方形のパターンを有するNiメッシュを30分押し付けて角柱状の島状凸部を有する負極形成用材料を得た。メッシュパターンは、一辺が60μmの正方形とした。活物質層には幅約30μm、深さ約20μm(活物質層の厚み5.0μm)の溝によるパターンが転写された(
図4参照)。
【0081】
上記負極形成用材料を用い、実施例4と同様にして評価用ハーフセルを得た。得られた電池について、放電容量、放電容量効率を評価すると共に、サイクル性能を評価した。
【0082】
その結果、実施例6において、放電容量は、2448mAhg-1、放電容量効率は、66%、サイクル特性は、500サイクル以上(500サイクル後の充放電容量劣化無)であった。