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特開2024-180322水油捕持材、該水油捕持材の製造方法、前記水油捕持材を用いた食品、並びに該食品の製造方法、及びジューシー感向上方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024180322
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】水油捕持材、該水油捕持材の製造方法、前記水油捕持材を用いた食品、並びに該食品の製造方法、及びジューシー感向上方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 7/10 20160101AFI20241219BHJP
   A23L 29/00 20160101ALI20241219BHJP
   A23L 5/00 20160101ALI20241219BHJP
   A23L 13/00 20160101ALN20241219BHJP
   A23L 13/40 20230101ALN20241219BHJP
   A23L 17/00 20160101ALN20241219BHJP
   A23L 19/00 20160101ALN20241219BHJP
   A23L 11/00 20210101ALN20241219BHJP
【FI】
A23L7/10 H
A23L29/00
A23L5/00 N
A23L13/00 A
A23L13/40
A23L17/00 A
A23L19/00 Z
A23L11/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024093804
(22)【出願日】2024-06-10
(31)【優先権主張番号】P 2023099685
(32)【優先日】2023-06-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000187079
【氏名又は名称】昭和産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112874
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 薫
(72)【発明者】
【氏名】樋口 創
(72)【発明者】
【氏名】川村 悠貴
(72)【発明者】
【氏名】守谷 悠月
【テーマコード(参考)】
4B016
4B020
4B023
4B035
4B042
【Fターム(参考)】
4B016LC02
4B016LG05
4B016LG10
4B016LK12
4B016LK20
4B016LP05
4B020LG04
4B020LK05
4B020LK09
4B020LP03
4B020LP06
4B020LP19
4B023LE26
4B023LK08
4B023LP07
4B023LP20
4B035LC16
4B035LE01
4B035LG12
4B035LG35
4B035LP01
4B035LP59
4B042AC03
4B042AD18
4B042AG03
4B042AG07
4B042AG12
4B042AH01
4B042AK08
4B042AK12
4B042AK17
4B042AK20
4B042AP03
4B042AP04
4B042AP05
4B042AP18
4B042AP19
4B042AP21
4B042AT01
(57)【要約】
【課題】食品中や種々の製品中の水分や油分を良好な状態で維持する新規な技術を提案すること。
【解決手段】少なくとも小麦粉を原料とする加工小麦粉を含む水油捕持材であって、
前記小麦粉のたん白質の少なくとも一部が変性されており、
前記加工小麦粉は、以下の(a)及び(b)の特徴を有する、水油捕持材を提供する。
(a)酢酸可溶たん白質含量が25質量%以下
(b)損傷澱粉含量が20質量%以下
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも小麦粉を原料とする加工小麦粉を含む水油捕持材であって、
前記小麦粉のたん白質の少なくとも一部が変性されており、
前記加工小麦粉は、以下の(a)及び(b)の特徴を有する、水油捕持材。
(a)酢酸可溶たん白質含量が25質量%以下
(b)損傷澱粉含量が20質量%以下
【請求項2】
前記小麦粉はデュラム小麦粉を含む、請求項1に記載の水油捕持材。
【請求項3】
澱粉類及び/または増粘多糖類を含有する、請求項1に記載の水油捕持材。
【請求項4】
前記澱粉類は、ワキシー種の澱粉を含む穀粉、ワキシー種の澱粉、ワキシー種の澱粉を原料に用いた加工澱粉、並びに、リン酸架橋、エーテル化及びエステル化から選択される1以上の加工が施された加工澱粉から選択される1以上含有する、請求項3に記載の水油捕持材。
【請求項5】
対象物100質量部に対しての添加量が0.1~20質量部である、請求項1に記載の水油捕持材。
【請求項6】
付着用、または練りこみ用である、請求項1に記載の水油捕持材。
【請求項7】
少なくとも小麦粉を原料とする加工小麦粉を含む水油捕持材の製造方法であって、
少なくとも前記小麦粉と水とを混合して組成物を調製する組成物調製工程、
前記組成物を加熱することにより、前記小麦粉のたん白質の少なくとも一部を変性させる加熱工程、
前記加熱工程後または前記加熱工程途中の前記組成物を粉砕する粉砕工程を含んでなる加工小麦粉調製工程を含み、
前記加工小麦粉は、以下の(a)及び(b)の特徴を有する、水油捕持材の製造方法。
(a)酢酸可溶たん白質含量が25質量%以下
(b)損傷澱粉含量が20質量%以下
【請求項8】
前記加熱工程では、50℃以上100℃以下で前記組成物を加熱する、請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
請求項1から6のいずれか一項に記載の水油捕持材が用いられた食品。
【請求項10】
請求項1から6のいずれか一項に記載の水油捕持材を用いて調理する調理工程を有し、
前記調理工程では、前記水油捕持材を、対象物100質量部に対して0.1~20質量部添加し、
前記調理工程は、前記水油捕持材を対象物に付着させる工程、及び/または、前記水油捕持材を対象物に練りこむ工程、を含む、食品の製造方法。
【請求項11】
請求項1から6のいずれか一項に記載の水油捕持材を用いて調理する調理工程を有する、食品のジューシー感向上方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、水油捕持材に関する。より詳細には、本技術は、水油捕持材、該水油捕持材の製造方法、前記水油捕持材を用いた食品、並びに該食品の製造方法、及びジューシー感向上方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食品分野において、歩留まりの低下、食品の外観や食味・食感等の低下等がしばしば課題となっている。例えば、畜肉・水産加工品や包餡食品等の中具において、加熱後の歩留まりの低下、具材の収縮、ジューシー感の欠如等の課題がある。このような食品分野での課題を解決するために、種々の技術が開発されつつある。
【0003】
例えば、特許文献1には、ソルビトールおよび/または還元水飴を、挽肉成形加工食品に用いることにより、挽肉成形加工食品の美味しさを構成する要素として重要な食感(例えば、柔らかさ、しっとり感、ジューシー感、弾力、肉粒感など)を改良あるいは維持することができる技術が提案されている。
【0004】
また、例えば、特許文献2には、原粒のまま加熱処理した小麦から得た小麦粉を、二軸エクストルーダーで加熱押出し処理し、粉砕、篩分けにより所定の粒度として、カレー、ホワイトソース等の製造に用いることにより、変色が少なく、食感が良好なカレー、ホワイトソース等が得られる技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2022-151868号公報
【特許文献2】特開平5-268888号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
食品分野において、歩留まりの低下、食品の外観や食味・食感等の低下を防止するには、食品中の水分や油分を良好な状態で維持することが有効手段の一つである。また、食品分野以外の分野においても、様々な用途において、製品中の水分や油分を良好な状態で維持することを求められる場合がある。
【0007】
そこで、本技術では、食品中や種々の製品中の水分や油分を良好な状態で維持する新規な技術を提案することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明者らは、食品中や種々の製品中の水分や油分を良好な状態で維持する技術について鋭意研究を行った結果、所定の特徴を有する加工小麦粉を用いることで食品中や種々の製品中の水分や油分を良好な状態に捕持することに成功し、本技術を完成させるに至った。
【0009】
即ち、本技術では、まず、少なくとも小麦粉を原料とする加工小麦粉を含む水油捕持材であって、
前記小麦粉のたん白質の少なくとも一部が変性されており、
前記加工小麦粉は、以下の(a)及び(b)の特徴を有する、水油捕持材を提供する。
(a)酢酸可溶たん白質含量が25質量%以下
(b)損傷澱粉含量が20質量%以下
本技術に係る水油捕持材に用いる前記小麦粉は、デュラム小麦粉を含むことができる。
本技術に係る水油捕持材には、澱粉類及び/または増粘多糖類を含有させることができる。
この場合、前記澱粉類としては、ワキシー種の澱粉を含む穀粉、ワキシー種の澱粉、ワキシー種の澱粉を原料に用いた加工澱粉、並びに、リン酸架橋、エーテル化、及びエステル化から選択される1以上の加工が施された加工澱粉のいずれかを1以上含有することができる。
本技術に係る水油捕持材は、対象物100質量部に対しての添加量を0.1~20質量部に設定することができる。
本技術に係る水油捕持材は、付着用、または練りこみ用として用いることができる。
【0010】
本技術では、次に、少なくとも小麦粉を原料とする加工小麦粉を含む水油捕持材の製造方法であって、
少なくとも前記小麦粉及び水とを混合して組成物を調製する組成物調製工程、
前記組成物を加熱することにより、前記小麦粉のたん白質の少なくとも一部を変性させる加熱工程、
前記加熱工程後または前記加熱工程途中の前記組成物を粉砕する粉砕工程を含んでなる加工小麦粉調製工程を含み、
前記加工小麦粉は、以下の(a)及び(b)の特徴を有する、水油捕持材の製造方法を提供する。
(a)酢酸可溶たん白質含量が25質量%以下
(b)損傷澱粉含量が20質量%以下
本技術に係る製造方法において、前記加熱工程では、50℃以上100℃以下で前記組成物を加熱することができる。
【0011】
本技術では、さらに、本技術に係る水油捕持材を用いた食品を提供する。
本技術では、また、本技術に係る水油捕持材を用いて調理する調理工程を有し、
前記調理工程では、前記水油捕持材を、対象物100質量部に対して0.1~20質量部添加し、
前記調理工程は、前記水油捕持材を対象物に付着させる工程、及び/または、前記水油捕持材を対象物に練りこむ工程、を含む、食品の製造方法を提供する。
【0012】
本技術では、加えて、本技術に係る水油捕持材を用いて調理する調理工程を有する、食品のジューシー感向上方法を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本技術を実施するための好適な形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本技術の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本技術の範囲が狭く解釈されることはない。
【0014】
<水油捕持材>
本技術に係る水油捕持材は、少なくとも小麦粉を原料とする加工小麦粉を含む。加工小麦粉において、原料となる小麦粉のたん白質の少なくとも一部は変性されている。また、加工小麦粉は、下記の(a)及び(b)の特徴を有する。
(a)酢酸可溶たん白質含量が25質量%以下
(b)損傷澱粉含量が20質量%以下
【0015】
本技術において、「水油捕持」とは、対象物中の水分や油分を保持することに加え、対象物の外部にある水分や油分を必要に応じて取り込んで、対象物中の水分や油分を良好な状態で維持することをいう。また、「対象物」とは、水油捕持材を付着させる、錬りこむ、及び混合する、から選択される1以上を行う相手であり、例えば、後述するような、水油捕持材を付着させる前の鶏むね肉、豚ロース肉、魚貝、野菜、疑似肉等、水油捕持材を錬りこむ前の餃子等の餡、ハンバーグ等のタネ等、水油捕持材を混合する前の培地等である。
【0016】
本技術に係る水油捕持材を用いることにより、食品や種々の製品中の水油捕持力が向上する。例えば、畜肉・水産加工品や包餡食品の皮・中具の製造時や調理時に、本技術に係る水油捕持材を用いることにより、これらの食品の水油捕持力を高め、その結果、歩留まりの低下の防止、食品の外観や食味・食感等の向上、特にジューシー感の向上等を実現することができる。また、例えば、培地等の食品以外の種々の製品に、本技術に係る水油捕持材を用いることにより、これらの製品の水油捕持力を高めることができる。以下、本技術に係る水油捕持材について、詳細に説明する。
【0017】
(1)加工小麦粉
本技術に係る水油捕持材に含有する加工小麦粉は、少なくとも小麦粉を原料とする。例えば、小麦粉の加熱等を行って、前記の(a)及び(b)の条件を満たすように加工して、加工小麦粉とすることができる。また、本技術の作用や効果を損なわない限り、他の原料を含んでも良いが、好ましくは、少なくとも小麦粉と水とを原料とし、より好ましくは、小麦粉と水のみを原料とする。本技術に係る水油捕持材中の加工小麦粉の含有量は、本技術の作用や効果を損なわない限り、自由に設定することができる。例えば、対象物100質量部に対して、加工小麦粉が0.1質量部以上、好ましくは0.2質量部以上、より好ましくは0.3質量部以上添加されるように設定される。また、例えば、対象物100質量部に対して、加工小麦粉が20質量部以下、好ましくは15質量部以下、より好ましくは10質量部以下添加されるように設定される。
【0018】
また、本技術に係る水油捕持材中の加工小麦粉の含有量は、例えば、20質量%以上、好ましくは30質量%以上、より好ましくは35質量%以上である。本技術に係る水油捕持材のすべてが加工小麦粉であってもよい。
【0019】
(1-1)小麦粉
本技術に用いる加工小麦粉の原料となる小麦粉としては、本技術の作用や効果を損なわない限り、食品や対象となる製品に用いることができる小麦粉を1種または2種以上、自由に選択して用いることができる。例えば、強力粉、準強力粉、中力粉、薄力粉、全粒粉、デュラム小麦粉等が挙げられる。また、これらに加熱処理等を施したものも含む。本技術に用いる加工小麦粉の原料となる小麦粉のたん白質含量は、特に限定されないが、下限値は、11質量%以上が好ましく、11.5質量%以上がより好ましい。また、上限値は、17質量%以下が好ましく、16質量%以下がより好ましく、15質量%以下がさらに好ましい。
【0020】
デュラム小麦粉は、デュラム小麦から得られた小麦粉(セモリナを含む。)である。原料となるデュラム小麦としては、産地は特に限定されず、例えば北米産デュラム小麦であってもよい。北米産デュラム小麦とは、北米を産地とするデュラム小麦を意味する。また、種子の硬さ(硬軟質性)も特に限定されず、硬質のデュラム小麦であっても、軟質のデュラム小麦であってもよい。本技術に用いる加工小麦粉の原料となる小麦粉としては、デュラム小麦から得られた小麦粉(セモリナ、ファリナを含む。)を含む小麦粉を用いることが好ましく、デュラム小麦から得られた小麦粉がセモリナであることがより好ましい。
【0021】
デュラム小麦から得られた小麦粉の含有量も特に限定されないが、加工小麦粉の原料に含まれる小麦粉100質量%のうちデュラム小麦粉の含有量は、例えば20質量%以上、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上である。加工小麦粉の原料に含まれる小麦粉におけるデュラム小麦粉の割合が増えるほど、水油捕持材を用いた食品の食感を向上させることができる。
【0022】
なお、デュラム小麦から小麦粉を製造する方法としては、常法に従って実施することができる、例えば、精選した小麦粒を加水・調質(テンパリング)した後、ブレーキング工程、リダクション工程等を行ってもよい。また、ピーリング工程や一般的な粉砕機(例えば、石臼、ハンマーミル、ピンミル、ジェットミル等)を用いた粉砕工程、分級工程を必要に応じて組み合わせてもよい。
【0023】
(1-2)水
本技術に用いる加工小麦粉は、前述した小麦粉に加えて、水も原料とすることが好ましい。加工小麦粉の原料として水を用いる場合、本技術に用いる加工小麦粉の原料中の水の量は、本技術の作用や効果を損なわない限り自由に設定することができる。本技術に用いる加工小麦粉の原料中の水の量の下限値は、小麦粉100質量部に対して、例えば20質量部以上、好ましくは23質量部以上、より好ましくは25質量部以上である。本技術に用いる加工小麦粉の原料中の水の量の上限値は、小麦粉100質量部に対して、例えば60質量部以下、好ましくは50質量部以下、より好ましくは40質量部以下、さらに好ましくは35質量部以下である。当該質量比において、小麦粉に含まれる水分は、「水」ではなく「小麦粉」を構成するものとする。
【0024】
(1-3)酢酸可溶たん白質含量
本技術に用いる加工小麦粉の酢酸可溶たん白質含量は、25質量%以下であることを特徴とする。加工小麦粉の酢酸可溶たん白質含量が25質量%を超えると、水油捕持効果が低下する場合がある。本技術に用いる加工小麦粉の酢酸可溶たん白質含量の下限値としては、好ましくは3質量%以上、より好ましくは8質量%以上、さらに好ましくは12質量%以上、よりさらに好ましくは14質量%以上、15質量%以上であってもよい。本技術に用いる加工小麦粉の酢酸可溶たん白質含量の上限値としては、好ましくは23質量%以下、より好ましくは22.5質量%以下、さらに好ましくは22質量%以下、よりさらに好ましくは21質量%以下、20質量%以下であってもよい。
【0025】
なお本明細書において、「酢酸可溶たん白質含量(質量%)」とは、本技術に係る水油捕持材に用いる加工小麦粉中の酢酸に溶解するたん白質の含有量を下記の操作工程により測定し、算出された値である。
(i)試料2gを、100mL容量の三角フラスコに入れる。
(ii)上記(i)に0.05N酢酸を40mL加えて、振盪する(25℃、130rpm、60分間)。
(iii)三角フラスコの内容物を遠沈管に移して遠心分離(5000rpm、5分間)し、上層の液相と下層の残渣とに分離する。
(iv)上記で分離した上層を濾紙(Whatman、No.42)で吸引濾過して濾液を回収する。
(v)上記(ii)の三角フラスコに、0.05N酢酸40mLを入れてフラスコ壁面についた残渣を洗い流すように軽く撹拌し、内容物を遠沈管に移して遠心分離(5000rpm、5分間)し、上層の液相と下層の残渣とに分離する。
(vi)分離した上層の液相を濾紙(Whatman、No.42)で吸引濾過して回収した濾液を上記(iv)で回収した濾液と混合する。
(vii)濾液をイオン交換水にて100mLにメスアップする。
(viii)上記の操作で回収した濾液(小麦粉酢酸抽出液)は25mLを、試料は0.5gを、それぞれ分解に供する。分解は、ケルダール分析用分解促進剤(KJELTABS:フォス社製)1錠及び濃硫酸15mLを加えて、ケルダール分解器(ダイジェスター)にセットして行う。具体的には、小麦粉の酢酸抽出液の分解は250℃から加温し、30分毎に50℃ずつ420℃になるまで加温し、420℃になってから90分間加温して分解する。また、小麦粉の分解は420℃で150分加温し分解する。
(ix)分解により得られた試料それぞれに、イオン交換水を30mL加え、ケルダール蒸留滴定装置(スーパーケル1500/1550、アクタック社製)にセットして蒸留及び滴定を行う。
(x)下式に基づき、小麦粉酢酸抽出液と小麦粉の窒素量をそれぞれ求めた後、酢酸可溶たん白質含量(%)を算出する。
【0026】
【数1】
【0027】
(1-4)損傷澱粉含量
本技術に用いる加工小麦粉の損傷澱粉含量は、20質量%以下であることを特徴とする。加工小麦粉の損傷澱粉含量が20質量%を超えると、水油捕持効果が低下する場合や、対象物の硬さが過度に柔らかくなる場合がある。加工小麦粉の損傷澱粉含量の上限値は、好ましくは15質量%以下、より好ましくは13質量%以下、さらに好ましくは12質量%以下、よりさらに好ましくは11質量%以下である。加工小麦粉の損傷澱粉含量の下限値は特に限定されないが、例えば3質量%以上、好ましくは4質量%以上、より好ましくは5質量%以上、さらに好ましくは5.5質量%以上、よりさらに好ましくは5.7質量%以上である。
【0028】
なお、本明細書において、「損傷澱粉含量(質量%)」とは、本技術に係る水油捕持材に用いる加工小麦粉中のα-アミラーゼによって分解される澱粉の含有量をAACC Method 76-31に従って測定し、算出された値である。具体的には、Starch Damage Assay Kit(MegaZyme製)を用いて、各試料100mgに、予め40℃で10分間プレインキュベートしたα-アミラーゼ溶液(Aspergillus oryzae由来、50unit/mL)を1mL添加して、撹拌した後、40℃で10分間処理する。次いで、クエン酸-リン酸水溶液(pH2.5)を5mL添加して反応を停止させ、遠心分離(1000g、5分間)して上清を得る。この上清0.1mLにアミログルコシダーゼ溶液(Aspergillus niger由来、2unit/0.1mL)を添加して40℃で20分間処理した後、510nmで吸光度を測定し、得られた吸光度から生成したグルコース量を算出し、試料中に含まれる損傷澱粉含量を算出する。
【0029】
(1-5)粒子径
本技術に用いる加工小麦粉の粒子径は、本技術の作用や効果を損なわない限り、自由に設定することができる。本技術に用いる加工小麦粉における粒子径735μm以上の粒子の割合は、5%以下にすることが好ましく、より好ましくは2%以下、さらに好ましくは1%以下、よりさらに好ましくは0.5%以下であり、0%であってもよい。加工小麦粉中の粒子径735μm以上の粒子の割合をこの範囲とすることにより、水油捕持材を用いた食品や種々の製品の外観を向上させることができ、また、加工時の作業性、歩留まりの低下を防止することができる。
【0030】
また、本技術に用いる加工小麦粉の平均粒子径は、下限値が例えば40μm以上、好ましくは50μm以上、より好ましくは60μm以上、さらに好ましくは100μm以上、よりさらに好ましくは120μm以上である。本技術に用いる加工小麦粉の平均粒子径の下限値をこの範囲とすることにより、食感の低下(例えば、ぬめりの発生等)を抑制することができる。
【0031】
本技術に用いる加工小麦粉の平均粒子径の上限値としては、例えば500μm以下、好ましくは450μm以下、より好ましくは420μm以下、さらに好ましくは400μm以下、よりさらに好ましくは360μm以下である。本技術に用いる加工小麦粉の平均粒子径の上限値をこの範囲とすることにより、水油捕持材を用いた食品や種々の製品の外観を向上させることができ、また、加工時の作業性、歩留まりの低下を防止することができる。
【0032】
なお、本明細書において、粒子径735μm以上の粒子の割合、平均粒子径は、体積基準の粒子径累積分布から決定することができ、レーザー回折式の粒度分布測定装置を用いて測定することができる。具体的には、レーザー回折式粒度分布測定装置HELOS&RODOS(日本レーザー製)を用いて、フラウンホーファー回折によって体積基準の粒子径分布を得て、735μm以上の粒子径を有する粒子の体積基準の割合、平均粒子径を算出する。
【0033】
(2)澱粉類
本技術に係る水油捕持材には、澱粉類を用いることができる。本技術に係る水油捕持材に澱粉類を用いることで、水油捕持効果をさらに向上させることができる。本発明における澱粉類とは、澱粉だけでなく、澱粉を含む穀粉、加工澱粉も包含する。
【0034】
本技術に係る水油捕持材に、澱粉類を用いる場合の含有量は、本技術の作用や効果を損なわない限り、自由に設定することができる。本技術に係る水油捕持材中の澱粉類の含有量の下限値は、例えば1質量%以上、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、さらに好ましくは15質量%以上である。また、本技術に係る水油捕持材中の澱粉類の含有量の上限値は、例えば75質量%以下、好ましくは60質量%以下、より好ましくは65質量%以下、さらに好ましくは62質量%以下である。水油捕持材中の澱粉類の含有量をこの範囲とすることにより、水油捕持効果をさらに向上させることができる。
【0035】
澱粉を含む穀粉としては、本技術の作用や効果を損なわない限り、食品や対象となる製品に用いることができる澱粉を含む穀粉を1種または2種以上自由に選択して用いることができる。例えば、小麦粉(前述の加工小麦粉の原料として用いる小麦粉の説明を参照)、米粉、そば粉、大麦粉、ライ麦粉、オーツ麦粉、トウモロコシ粉、ひえ粉、あわ粉、大豆粉、及びホワイトソルガム粉等の穀粉(これらの穀粉に加熱処理等を施したものも含む。)が挙げられる。前記穀粉は、ワキシー種(糯種)、ハイアミロース種の澱粉を含む穀粉でもよく、好ましくは、ワキシー種の澱粉を含む穀粉である。
【0036】
澱粉としては、本技術の作用や効果を損なわない限り、食品や対象となる製品に用いることができる澱粉を1種または2種以上自由に選択して用いることができる。例えば、小麦澱粉、大麦澱粉、ライ麦澱粉、エンバク澱粉等の麦類澱粉、トウモロコシ澱粉、米澱粉、豆類澱粉、馬鈴薯澱粉、甘藷澱粉、タピオカ澱粉、ヒシ澱粉、クリ澱粉、サゴ澱粉、ナガイモ澱粉、レンコン澱粉、クワイ澱粉、ワラビ澱粉、ユリネ澱粉等が挙げられる。前記澱粉は、ワキシー種、ハイアミロース種でもよく、好ましくは、ワキシー種の澱粉である。
【0037】
加工澱粉としては、本技術の作用や効果を損なわない限り、食品や対象となる製品に用いることができる澱粉を1種または2種以上自由に選択して用いることができる。例えば、前述の澱粉にリン酸架橋、アジピン酸架橋澱粉等の架橋;ヒドロキシプロピル化等のエーテル化;アセチル化等のエステル化;α化;酵素処理;湿熱処理;酸化;酸処理;漂白;湿熱処理;乾熱処理等の加工方法を単独または複数組み合わせて施した加工澱粉が挙げられる。好ましくは、ワキシー種の澱粉を原料に用いた加工澱粉であり、より好ましくは、リン酸架橋、湿熱処理、乾熱処理から選択される澱粉の膨潤を抑制する加工が1種または2種以上施されたワキシー種の澱粉を原料に用いた加工澱粉である。また別の好ましい態様では、リン酸架橋、エーテル化及びエステル化から選択される1以上の加工が施された加工澱粉であり、より好ましくは、エーテル化及び/またはエステル化の加工が施された加工澱粉であり、さらに好ましくは、リン酸架橋とエーテル化またはエステル化とを組み合わせた加工が施された加工澱粉である。リン酸架橋とエーテル化またはエステル化とを組み合わせた加工が施された加工澱粉として、具体的には、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉やアセチル化リン酸架橋澱粉が挙げられる。
【0038】
(3)増粘多糖類
本技術に係る水油捕持材には、増粘多糖類を用いることができる。本技術に係る水油捕持材に増粘多糖類を用いることで、水油捕持効果をさらに向上させることができる。増粘多糖類としては、グルコマンナン、キサンタンガム、グアガム、ローカストビーンガム、タラガム、タマリンドガム、カラギーナン、アラビアガム、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸エステル(アルギン酸プロピレングリコール)、サイリウムシードガム、ジェランガム、ペクチン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等が挙げられる。好ましくは、グルコマンナンである。
【0039】
本技術に係る水油捕持材に、増粘多糖類を用いる場合の含有量は、本技術の作用や効果を損なわない限り、自由に設定することができる。本技術に係る水油捕持材中の増粘多糖類の含有量の下限値は、例えば1質量%以上、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、さらに好ましくは15質量%以上である。本技術に係る水油捕持材中の増粘多糖類の含有量の上限値は、75質量%以下、好ましくは60質量%以下、より好ましくは65質量%以下、さらに好ましくは62質量%以下である。水油捕持材中の増粘多糖類の含有量をこの範囲とすることにより、水油捕持効果をさらに向上させることができる。
【0040】
(4)その他の成分
本技術に係る水油捕持材には、以上説明した各成分以外に、本技術の作用や効果を損なわない限り、食品や対象となる製品に用いることができる様々な成分を用いることができる。例えば、食塩やその他の塩(例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム等);油脂類(例えば、ショートニング、ラード、マーガリン、バター、液状油(例えば、オリーブオイル、菜種油、大豆油、紅花油等)、粉末油脂等);糖類(例えば、トレハロース、グルコース、フルクトース、ラクトース、砂糖、マルトース、イソマルトース等の糖類;ソルビト-ル、マルチトール、パラチニット、還元水飴等の糖アルコール;デキストリン;オリゴ糖等);乳化剤(例えば、レシチン、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル等);酵素類;調味料;保存料;アミノ酸(例えば、グリシン、グルタミン酸等);着色料、または香料等が挙げられる。
【0041】
(5)水油捕持材の添加量
本技術に係る水油捕持材の添加量は、対象物の種類や水油捕持目的に応じて、自由に設定することができる。本技術に係る水油捕持材の添加量の下限値としては、対象物100質量部に対して、例えば0.1質量部以上、好ましくは0.3質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上である。水油捕持材の添加量の下限値をこの範囲とすることにより、水油捕持効果をさらに向上させることができる。
【0042】
本技術に係る水油捕持材の添加量の上限値としては、対象物100質量部に対して、例えば20質量部以下、好ましくは15質量部以下、より好ましくは10質量部以下である。水油捕持材の添加量の上限値をこの範囲とすることにより、水油捕持材を用いた食品の食感が過度に硬くなったり、柔らかくなることを防止することができる。
【0043】
(6)水油捕持材の用法
本技術に係る水油捕持材の用法は、本技術の作用や効果を損なわない限り特に限定されない。例えば、水油捕持材を対象物に付着させたり、水油捕持材を対象物に練りこんだりする方法が挙げられる。「水油捕持材を対象物に付着させる」とは、対象物に水油捕持材をまぶしたり、水油捕持材を対象物に揉みこんだり、水油捕持材を含む液体等に対象物を浸漬したりする方法等、水油捕持材が対象物に付着可能な方法であれば、食品や対象となる製品の製造や食品の調理に用いることができる方法を自由に組み合わせて用いることができる。また、「水油捕持材を対象物に練りこむ」とは、対象物の製造原料の一つとして製造時に水油捕持材を添加して対象物を製造する方法等、水油捕持材が対象物内に練りこまれる方法であれば、食品の製造や調理に用いることができる方法を自由に組み合わせて用いることができる。
【0044】
また、本技術に係る水油捕持材は、対象物の製造原料の全部または一部と共に、対象物の製造用組成物(製造用ミックス)として、流通させることも可能である。
【0045】
<水油捕持材の製造方法>
本技術に係る水油捕持材の製造方法は、少なくとも小麦粉と水とを混合する組成物調製工程、前記組成物を加熱することにより、前記小麦粉のたん白質の少なくとも一部を変性させる加熱工程、さらに粉砕工程を含んでなる、加工小麦粉調製工程を行う方法である。また、加工小麦粉調製工程では、必要に応じて、乾燥工程、整粒工程等を行うこともできる。以下、各工程について詳細に説明する。本技術に係る水油捕持材の製造方法は、さらに前述の工程で得られた加工小麦粉に、澱粉類、増粘多糖類、その他の成分を適宜混合する工程を行うことができる。なお、本技術に係る製造方法で用いる水油捕持材の原材料は、前述した本技術に係る水油捕持材と同一であるため、ここでは説明を割愛する。
【0046】
(1)組成物調製工程
組成物調製工程は、少なくとも小麦粉と水を混合、必要に応じて混捏して、組成物を調製する工程である。好ましくは、組成物は小麦粉と水のみを含む。小麦粉と水の比率の好ましい範囲は、前述の通りである。本技術に係る製造方法で用いる前記組成物の状態は、後述する加熱工程での加熱が可能な状態であれば特に限定されないが、好ましくは生地状の組成物である。組成物中の小麦粉に水分が十分にいきわたるように熟成させてもよく、後述の加熱工程で組成物が均一に加熱できるように成形してもよい。
【0047】
(2)加熱工程
加熱工程は、前述の組成物を加熱することにより、小麦粉のたん白質の少なくとも一部を変性させる工程である。
【0048】
加熱工程における温度条件は、小麦粉のたん白質の少なくとも一部を変性させることができる範囲で自由に設定することができる。加熱方法は、特に限定されず、乾熱加熱でも湿熱加熱でも、またはこれらを組み合わせてもよい。好ましくは乾熱加熱である。加熱工程における温度の下限としては、例えば50℃以上、好ましくは55℃以上、より好ましくは60℃以上である。加熱工程における温度の上限としては、例えば110℃以下、好ましくは100℃以下、より好ましくは90℃以下である。加熱工程における温度条件をこの範囲とすることにより、前述した特徴を有する加工小麦粉を製造することができる。
【0049】
加熱工程では、前述の組成物の水分量を調整することもできる。加熱工程における調整水分量も、本技術の作用や効果を損なわない限り自由に設定することができる。加熱工程において調整される組成物の水分量の下限としては、例えば8質量%以上、好ましくは9質量%以上、より好ましくは10質量%以上である。加熱工程において調整される組成物の水分量の上限としては、例えば17質量%以下、好ましくは15質量%以下、より好ましくは14質量%以下である。
【0050】
(3)加工小麦粉調製工程
加工小麦粉調製工程は、加熱工程後または加熱工程途中に、加工小麦粉とするための調製を行う工程である。具体的には、後述する乾燥工程、粉砕工程、整粒工程等を行うことで、加工小麦粉を調製することができる。なお、後述する乾燥工程、粉砕工程、整粒工程の順番や組み合わせに特に制限はなく、また1つの工程の途中で他の工程を実施してもよい。
【0051】
(3-1)乾燥工程
本技術に係る水油捕持材の製造方法では、乾燥工程を行うこともできる。乾燥工程は本技術においては必須の工程ではなく、前述した加熱工程において組成物の水分量の調整まで十分に行うことができる場合には、乾燥工程は行わなくてもよいし、前述した加熱工程において組成物の水分量の調整を行わない場合や、前述した加熱工程において組成物の水分量の調整を行う場合でも、さらに乾燥工程を行って、組成物中の水分量を減らすことも可能である。
【0052】
乾燥工程は、加熱工程後の前述の組成物を乾燥させる工程である。乾燥工程における乾燥方法や乾燥条件も、本技術の作用や効果を損なわない限り、食品分野や対象となる製品の分野における乾燥で用いられる方法や条件を自由に組み合わせて用いることができる。
【0053】
(3-2)粉砕工程
粉砕工程は、加熱工程後または加熱工程途中の前述の組成物を、粉砕する工程である。粉砕工程で、所望の粒子径になるように粉砕してもよいし、後述の整粒工程と組み合わせて所望の粒子径にしてもよい。粉砕工程における粉砕方法や粉砕条件も、本技術の作用や効果を損なわない限り、食品分野や対象となる製品の分野における粉砕で用いられる方法や条件を自由に組み合わせて用いることができる。例えば、ロールミル、ピンミル、気流式粉砕機等を用いた粉砕方法が挙げられる。
【0054】
(3-3)整粒工程
整粒工程は、粉砕工程と組み合わせて、所望の粒子径になるように整粒する工程である。整粒工程における整粒方法や整粒条件も、本技術の作用や効果を損なわない限り、食品分野や対象となる製品の分野における整粒で用いられる方法や条件を自由に組み合わせて用いることができる。例えば、篩や分級機等を用いた整粒方法が挙げられる。
【0055】
<食品>
本技術に係る食品は、前述した本技術に係る水油捕持材を用いることを特徴とする。本技術に係る水油捕持材を用いることができる食品としては、水油捕持によって品質が向上し得る食品であれば、あらゆる食品に用いることができる。例えば、水分及び/または油分の多い食材(例えば、野菜、特用林産物(キノコ類、樹実類、山菜類等)、肉、代替肉等)を用いた食品が挙げられる。本技術における肉とは、ウシ、ブタ、トリ等の肉だけでなく、魚介類の肉をも包含する。すなわち、本技術における肉は、ウシ、ブタ、ヒツジ、ウマ等の哺乳類;ニワトリ、カモ等の鳥類;アジ、イワシ、マグロ、サケ、エビ、カニ、ホタテ、イカ、タコ等の魚介類などの可食性部分を含む概念である。また、代替肉とは、前記肉を代替するために製造されるものであり、植物性たん白を用いた代替肉、細胞培養により人工的に製造した代替肉、コオロギ等の虫や藻類等によるたん白質を用いた代替肉等が挙げられる。好ましくは、ジューシー感の向上効果が得られる、肉、代替肉を用いた食品であり、より好ましくは加熱調理(例えば、焼成調理、炒め調理、蒸し調理、茹で調理、揚げ調理、マイクロ波調理、過熱水蒸気調理等)されて得られる前記の食品である。例えば、肉、代替肉の焼き物(例えば、ステーキ等)、炒め物、蒸し物、茹で物、揚げ物、マイクロ波調理した物、過熱水蒸気調理した物;肉、代替肉を用いたハンバーグ、つくね等の加工品;肉、代替肉を用いた餃子、焼売、春巻き、肉まん、小籠包、ワンタン、ラビオリ、カレーパン等の包餡食品が挙げられる。
【0056】
本技術に係る水油捕持材を包餡食品に用いる場合、本技術に係る水油捕持材は、皮部分に用いてもよいし、餡部分に用いてもよいし、皮部分及び餡部分の両方に用いることもできる。
【0057】
なお、本技術において、「食品」とは、ヒト用の食品に限らず、ヒト以外の動物用の食品(例えば、ペットフード等)としても用いることができる。
【0058】
<食品の製造方法、食品のジューシー感向上方法>
本技術に係る食品の製造方法、及び本技術に係る食品のジューシー感向上方法は、本技術に係る水油捕持材を用いて調理する調理工程を行う方法である。
【0059】
調理工程では、本技術に係る水油捕持材を、対象物100質量部に対して0.1~20質量部添加することができる。また、調理工程では、水油捕持材を対象物に付着させる工程、及び/または、前記水油捕持材を対象物に練りこむ工程を行うことができる。また、調理工程では、製造する食品の種類に応じて、一般的な調理工程を自由に組み合わせて行うことができる。なお、調理工程で用いる水油捕持材の詳細や、水油捕持材の用法については、前述した本技術に係る水油捕持材と同一であるため、ここでは説明を割愛する。
【0060】
<水油捕持材のその他の用途>
本技術に係る水油捕持材は、微生物の培養に用いる培地等にも用いることができる。本技術に係る水油捕持材を培地等に用いることで、製品中の水分や油分を良好な状態で維持することができる。
【0061】
より具体的には、例えば、本技術に係る水油捕持材が用いられた培地は、製品中の水分や油分を良好な状態で維持することができるため、水や油を捕持する目的で配合している他の素材の量を削減、置き換えすることができる。本技術に係る水油捕持材を用いた培地で培養することができる微生物としては、細菌、菌類、微細藻類、原生動物等が挙げられる。この中でも、本技術に係る水油捕持材を用いた培地は、好ましくは菌類、より好ましくはキノコ類の培養(菌床栽培用培地)に好適に用いることができる。
【0062】
なお、本技術では、以下の構成をとることもできる。
[1]
少なくとも小麦粉を原料とする加工小麦粉を含む水油捕持材であって、
前記小麦粉のたん白質の少なくとも一部が変性されており、
前記加工小麦粉は、以下の(a)及び(b)の特徴を有する、水油捕持材。
(a)酢酸可溶たん白質含量が25質量%以下
(b)損傷澱粉含量が20質量%以下
[2]
前記小麦粉はデュラム小麦粉を含む、[1]に記載の水油捕持材。
[3]
澱粉類及び/または増粘多糖類を含有する、[1]または[2]に記載の水油捕持材。
[4]
前記澱粉類は、ワキシー種の澱粉を含む穀粉、ワキシー種の澱粉、ワキシー種の澱粉を原料に用いた加工澱粉、並びに、リン酸架橋、エーテル化、及びエステル化から選択される1以上の加工が施された加工澱粉から選択される1以上を含有する、[3]に記載の水油捕持材。
[5]
対象物100質量部に対しての添加量が0.1~20質量部である、[1]から[4]のいずれかに記載の水油捕持材。
[6]
付着用、または練りこみ用である、[1]から[5]のいずれかに記載の水油捕持材。
[7]
少なくとも小麦粉を原料とする加工小麦粉を含む水油捕持材の製造方法であって、
少なくとも前記小麦粉及び水とを混合して組成物を調製する組成物調製工程、
前記組成物を加熱することにより、前記小麦粉のたん白質の少なくとも一部を変性させる加熱工程、
前記加熱工程後または前記加熱工程途中の前記組成物を粉砕する粉砕工程を含んでなる加工小麦粉調製工程を含み、
前記加工小麦粉は、以下の(a)及び(b)の特徴を有する、水油捕持材の製造方法。
(a)酢酸可溶たん白質含量が25質量%以下
(b)損傷澱粉含量が20質量%以下
[8]
前記加熱工程では、50℃以上100℃以下で前記組成物を加熱する、[7]に記載の製造方法。
[9]
[1]から[6]のいずれか一項に記載の水油捕持材が用いられた食品。
[10]
[1]から[6]のいずれか一項に記載の水油捕持材を用いて調理する調理工程を有し、
前記調理工程では、前記水油捕持材を、対象物100質量部に対して0.1~20質量部添加し、
前記調理工程は、前記水油捕持材を対象物に付着させる工程、及び/または、前記水油捕持材を対象物に練りこむ工程、を含む、食品の製造方法。
[11]
[1]から[6]のいずれか一項に記載の水油捕持材を用いて調理する調理工程を有する、食品のジューシー感向上方法。
【実施例0063】
以下、実施例に基づいて本技術をさらに詳細に説明する。なお、以下に説明する実施例は、本技術の代表的な実施例の一例を示したものであり、これにより本技術の範囲が狭く解釈されることはない。
【0064】
<実験例1>
実験例1では、本技術に係る水油捕持材に用いる加工小麦粉の製造を行った。
【0065】
(1)加工小麦粉の製造
下記の表1に示す各原料粉100質量部に水32質量部を加えて混捏し、生地状の組成物を調製した。調製した組成物を、85℃の環境下で組成物の水分含量が14質量%になるまで加熱した。その後、加熱した組成物を、ピンミルを用いて条件を変更して粉砕し、加工小麦粉1~8を得た。なお、北米産デュラム小麦のセモリナを、そのまま乾熱加熱、湿熱加熱したものを加工小麦粉9及び10とした。
【0066】
(2)物性の測定
製造した加工小麦粉の酢酸可溶たん白質含量、損傷澱粉量、及び粒子径について、前述した方法を用いて測定した。
【0067】
(3)結果
結果を下記の表1に示す。
【0068】
【表1】
【0069】
<実験例2>
実験例2では、水油捕持材を用いて餃子を製造した。
【0070】
(1)餃子の製造
豚挽き肉200g、ラード30gを混合し、ごま油25g、醤油25g、酒15g、おろしニンニク2g、おろしショウガ2g、及びコショウ少々を加えてさらに混合し、キャベツ400g、及び刻んだニラ40gを加えて軽く混合した。混合したものを対象物とし、対象物100質量部に下記の表2に示す水油捕持材の種類、量を添加して、具(餡)を調製した。
【0071】
900mm径の餃子の皮を用いて、調製した具(15g)を包み、各例10個の生餃子を調製した。次いで、200℃に加熱したフライパンに10gの油を引き、得られた生餃子を置き、水100mL添加し、蓋をして約5分間加熱した。その後、蓋をはずして1分間加熱して焼き餃子を製造した。
【0072】
(2)評価
製造した餃子を、1日間冷蔵保存後、500Wで1分間レンジアップした後に、10人の専門パネルが喫食し、下記の基準に基づいて、皮と具の隙間、皮の弾力、具の硬さ、及び具のジューシー感について評価し、その平均点を算出した。
【0073】
[皮と具の隙間]
3:参考例と比べ、皮と具の隙間がなく、非常に良好
2:参考例と比べ、皮と具の隙間が狭く、良好
1:参考例と比べ、皮と具の間の隙間が同等である
【0074】
[皮の弾力]
3:参考例と比べ、皮の弾力があり、非常に良好
2:参考例と比べ、皮の弾力がややあり、良好
1:参考例と比べ、皮の弾力と同等である
【0075】
[具の硬さ]
3:参考例と同程度の硬さであり、非常に良好
2:やや硬さがあり、良好
1:過度に硬い、もしくは過度に軟らかい
【0076】
[具のジューシー感]
3:参考例と比べ、ジューシー感があり、非常に良好
2:参考例と比べ、ややジューシー感があり、良好
1:参考例と比べ、ジューシー感が同等である
【0077】
(3)結果
結果を下記の表2に示す。
【0078】
【表2】
【0079】
(4)考察
表2に示す通り、小麦粉のたん白質の少なくとも一部が変性されており、酢酸可溶たん白質含量が25質量%以下、かつ、損傷澱粉含量が20質量%以下である加工小麦粉1~8を含む水油捕持材を0.4または1.0質量部用いた実施例1-1~1-9は、皮と具の隙間、皮の弾力、具の硬さ及び具のジューシー感の評価が良好であった。一方、酢酸可溶たん白質含量が25質量%を超える加工小麦粉9を含む水油捕持材を用いた比較例1-1では、皮と具の隙間及び皮の弾力は良好であったが、具の硬さ及び具のジューシー感の評価が低かった。また、損傷澱粉含量が20質量%を超える加工小麦粉10を用いた比較例1-2では、皮と具の隙間、皮の弾力、具の硬さ及び具のジューシー感のすべての評価が低かった。
【0080】
<実験例3>
実験例3では、水油捕持材を用いてハンバーグを製造して、水油捕持材の添加量の違いについて検討した。
【0081】
(1)ハンバーグの製造
合いびき肉50gと食塩0.5gを混合し、よく練り、牛乳7g、全卵6g、砂糖0.5g、パン粉1g、ホワイトペッパー0.1g、ナツメグ0.1gを加えて混合し、最後に炒め玉ねぎ10gを加えて軽く混合した。混合したものを対象物とし、対象物100質量部に下記の表3に示す量の水油捕持材を加えて混合し、ハンバーグのタネを調製した。調製したハンバーグのタネを、150g/個で成形し、200℃のコンベクションオーブンで13分間焼成して、ハンバーグを製造した。
【0082】
(2)評価
製造したハンバーグを10人の専門パネルが喫食し、下記の基準に基づいて、ボリューム、硬さ、及びジューシー感について評価し、その平均点を算出した。
【0083】
[ボリューム]
3:参考例と比べ、ボリュームがあり、非常に良好
2:参考例と比べ、ボリュームがややあり、良好
1:参考例と比べ、ボリュームが同等である
【0084】
[硬さ]
3:参考例と同程度の硬さであり、非常に良好
2:やや硬さがあり、良好
1:過度に硬い、もしくは過度に軟らかい
【0085】
[ジューシー感]
3:参考例と比べ、ジューシー感があり、非常に良好
2:参考例と比べ、ややジューシー感があり、良好
1:参考例と比べ、ジューシー感が同等である
【0086】
(3)結果
結果を下記の表3に示す。
【0087】
【表3】
【0088】
(4)考察
表3に示す通り、本技術の水油捕持材を2~15質量部用いた場合でも、ボリューム、硬さ及びジューシー感の評価が良好であった。
【0089】
<実験例4>
実験例4では、水油捕持材を用いてハンバーグを製造して、澱粉類との併用について検討した。なお、実験例4で用いた澱粉類を、下記の表4に示す。
【0090】
【表4】
【0091】
(1)ハンバーグの製造
下記の表5に示す水油捕持材を用いたこと以外は、前記実験例3と同様の方法で、ハンバーグを製造した。
【0092】
(2)評価
前記実験例3と同様の方法で、ボリューム、硬さ、及びジューシー感について評価した。
【0093】
(3)結果
結果を下記の表5に示す。
【0094】
【表5】
【0095】
(4)考察
表5に示す通り、加工小麦粉に澱粉類を加えた水油捕持材を用いた場合でも、ボリューム、硬さ、及びジューシー感のすべての評価が良好であり、特にジューシー感の評価がさらに向上することがわかった。
【0096】
<実験例5>
実験例5では、水油捕持材を用いて春巻きを製造した。
【0097】
(1)春巻きの製造
鶏ひき肉100g、タケノコ水煮100g、ニンジン50g、シイタケ2枚、春雨20gを混合して炒め、おろししょうが5g、ごま油5g、醤油10g、酒15g、砂糖3g、水15g、塩少々を加えてさらに炒めた。これらを対象物とし、対象物100質量部に下記の表6に示す水油捕持材を水15mLと合わせて添加し、混合して具(餡)を調製した。
【0098】
水140質量部に食塩1質量部を混合して完全に溶解させた後、小麦粉100質量部を投入し分散液を調製した。ドラム型焼成機を用いて、分散液から厚さ0.5~0.55mmの麺帯を焼成し、20cm×20cmの大きさに切断して、春巻きの皮を調製した。なお、実施例4-2については、小麦粉100質量部のうち15質量部を水油捕持材に置き換えて春巻きの皮を製造した。
【0099】
調製した具20gを、春巻きの皮を用いて包み、冷凍し、冷凍生春巻きを得た。得られた冷凍生春巻きを175℃の油で5分30秒間油ちょうして春巻きを製造した。
【0100】
(2)評価
製造した春巻きをパック詰めして4時間常温保存した後、10人の専門パネルが喫食し、下記の基準に基づいて、皮のパリパリ感、及び具の食感について評価し、その平均点を算出した。また、実験例2と同様の方法で、具のジューシー感について評価した。
【0101】
[皮のパリパリ感]
3:参考例と比べ、皮のパリパリ感があり、非常に良好
2:参考例と比べ、皮のパリパリ感がややあり、良好
1:参考例と比べ、皮のパリパリ感が同等である
【0102】
[具の食感]
3:参考例と同程度にねちゃつきがない食感であり、非常に良好
2:ややねちゃつきが少ない食感であり、良好
1:過度にねちゃつきがある
【0103】
(3)結果
結果を下記の表6に示す。
【0104】
【表6】
【0105】
(4)考察
表6に示す通り、本技術の水油捕持材を用いることで、皮のパリパリ感、具の食感、及び具のジューシー感の評価が良好であった。また、春巻きの皮に水油捕持材を添加した実施例4-2では、添加していない実施例4-1と比べて、皮のパリパリ感がさらに向上することがわかった。さらに、澱粉類を用いなかった実施例4-1に比べて、澱粉類を用いた実施例4-3の方が、皮のパリパリ感、具のジューシー感の評価がさらに向上することがわかった。
【0106】
<実験例6>
実験例6では、水油捕持材を用いてサラダチキンを製造した。
【0107】
(1)サラダチキンの製造
下記の表7に示す水油捕持材を添加した溶液を対象物である鶏むね肉に添加し1分半揉みこみ、1時間冷蔵庫で静置した後、パウチに入れて密封した。100℃で20分間ボイルした後、取り出して水につけて冷却して、サラダチキンを製造した。
【0108】
(2)評価
製造したサラダチキンを1日間冷蔵保管した後、袋から取り出して10人の専門パネルが喫食し、下記の基準に基づいて、肉の硬さ、及び肉の表面のぬめりについて評価し、その平均点を算出した。また、実験例3と同様の方法で、ジューシー感について評価した。
【0109】
[硬さ]
3:参考例と比べ、硬さが低減されており、非常に良好
2:参考例と比べ、硬さがやや低減されており、良好
1:参考例と比べ、硬さが同等である
【0110】
[表面のぬめり]
3:参考例と比べ、同等に表面のぬめりが少なく、良好
2:参考例と比べ、表面のぬめりがややあるが、許容範囲内
1:参考例と比べ、過度に表面のぬめりがある
【0111】
(3)結果
結果を下記の表7に示す。
【0112】
【表7】
【0113】
(4)考察
表7に示す通り、小麦粉のたん白質の少なくとも一部が変性されており、酢酸可溶たん白質含量が25質量%以下、かつ、損傷澱粉含量が20質量%以下である加工小麦粉1~8を含む水油捕持材を用いた実施例5-1~5-8は、肉の硬さ、肉の表面のぬめり、及びジューシー感の評価が良好であった。一方、酢酸可溶たん白質含量が25質量%を超える加工小麦粉9を含む水油捕持材を用いた比較例5-1、損傷澱粉含量が20質量%を超える加工小麦粉10を用いた比較例5-2では、肉の硬さ、肉の表面のぬめり、及びジューシー感のすべての評価が低かった。
【0114】
<実験例7>
実験例7では、水油捕持材を用いてサラダチキンを製造して、澱粉類との併用について検討した。なお、実験例7で用いた澱粉類は、前記表4に示す前記実験例4で用いた澱粉類と同一である。
【0115】
(2)サラダチキンの製造
下記の表8に示す水油捕持材を用いたこと以外は、前記実験例6と同様の方法で、サラダチキンを製造した。
【0116】
(2)評価
前記実験例6と同様の方法で、肉の硬さ、肉の表面のぬめり、及びジューシー感について評価した。
【0117】
(3)結果
結果を下記の表8に示す。
【0118】
【表8】
【0119】
(4)考察
表8に示す通り、加工小麦粉に澱粉類またはグルコマンナンを加えた水油捕持材を用いた場合でも、肉の硬さ、肉の表面のぬめり、及びジューシー感の評価が良好であった。
【0120】
<実験例8>
実験例8では、水油捕持材を用いて豚カツを製造した。
【0121】
(1)豚カツの製造
厚さ13mm質量110g±5gにカットした豚ロース肉を対象物とし、対肉40%の水に下記の表9に示す水油捕持材を加えて調製した漬け込み液を揉みこみ、2時間静置した。
【0122】
揚げ物用バッターミックス100gに、粘度が2000~4000mPa・sになるように水を加え、撹拌機を用いて攪拌し、バッターを調製した。バッターの粘度は、B型粘度計(東機産業株式会社製)を用い、ローターNo.3 回転数12rpm、測定時間1分間で測定した。前記で調製したバッターに、漬け込み液から取り出した豚ロース肉を浸した後、10回左右に振って余分なバッターを振り落とした。バッターが付着した豚ロース肉に10mmの焙焼式生パン粉をまぶした後、170℃のフライ油で5分間油ちょうし、豚カツを製造した。
【0123】
(2)評価
製造した豚カツを4時間常温で保存後、10人の専門パネルが喫食し、前記実験例6と同様の方法で、肉の硬さ、肉の表面のぬめり、及びジューシー感について評価した。
【0124】
(3)結果
結果を下記の表9に示す。
【0125】
【表9】
【0126】
(4)考察
表9に示す通り、本技術の水油捕持材を用いることで、肉の硬さ、肉の表面のぬめり、及びジューシー感の評価が良好であった。また、澱粉類を用いなかった実施例7-1に比べて、澱粉類を用いた実施例7-2の方が、肉の硬さ、ジューシー感の評価がさらに向上することがわかった。
【0127】
<実験例9>
実験例9では、水油捕持材を用いてブリの照り焼きを製造した。
【0128】
(1)ブリの照り焼きの製造
醤油20g、酒15g、みりん15g、及び上白糖15gを混合し、調味液を調製した後、その調味液を、対象物であるブリの切り身に対して10質量%の重量となるようにボウルに入れ、下記の表10に示す水油捕持材を加えて混合した。そのボウルにブリの切り身を入れ、水油捕持材を混合した調味液を全体にまとわせた後、ラップをして冷蔵庫にて2時間静置した。
【0129】
油5gを入れ180℃に加熱したフライパンに、静置後のブリを入れ、片面を弱火で4分30秒間焼成した後、裏返して更に30秒間焼成した。その後、蓋をして1分間蒸し焼きにし、蓋を外してブリを裏返した後、更に30秒間焼成した。前記で調製した調味液をかけ、煮詰めながら1分間ブリにからめて、ブリの照り焼きを製造した。
【0130】
(2)評価
製造したブリの照り焼きを風冷にて10℃以下まで冷却した後、冷蔵庫にて24時間保存した。保存後のブリの照り焼きを、500Wの電子レンジにて30秒間マイクロ波加熱を行った後、10人の専門パネルが喫食し、前記実験例6と同様の方法で、魚の硬さ、魚の表面のぬめり、及びジューシー感について評価した。
【0131】
(3)結果
結果を下記の表10に示す。
【0132】
【表10】
【0133】
(4)考察
表10に示す通り、本技術の水油捕持材を用いることで、魚の硬さ、魚の表面のぬめり、及びジューシー感の評価が良好であった。また、澱粉類を用いなかった実施例8-1に比べて、澱粉類を用いた実施例8-2の方が、全ての評価がさらに向上することがわかった。
【0134】
<実験例10>
実験例10では、水油捕持材を用いて野菜炒めを製造した。
【0135】
(1)野菜炒めの製造
テンメンジャン15g、醤油6g、及び酒6gを混合して、調味液を調製した。キャベツ60g、もやし80g、及びピーマン60gを対象物とし、下記の表11に示す水油捕持材をまぶした。その後、ゴマ油5gを入れ180℃に加熱したフライパンで、2分30秒間炒め、前記で調製した調味液を投入し、更に30秒間炒めて野菜炒めを製造した。
【0136】
(2)評価
製造した野菜炒めを風冷にて10℃以下まで冷却し、冷蔵庫にて24時間保存した。保存後の野菜炒めを、500Wの電子レンジにて1分30秒間マイクロ波加熱を行った後、10人の専門パネルが喫食し、下記の基準に基づいて、野菜のシャキシャキ感、及び野菜からのドリップ量について評価し、その平均点を算出した。
【0137】
[野菜のシャキシャキ感]
3:参考例と比べ、野菜のシャキシャキ感が向上しており、野菜がみずみずしく、非常に良好
2:参考例と比べ、野菜のシャキシャキ感が向上しており、良好
1:参考例と比べ、野菜のシャキシャキ感が同等である
【0138】
[野菜からのドリップ量]
3:参考例と比べ、野菜からのドリップ量が低減されており、非常に良好
2:参考例と比べ、野菜からのドリップ量がやや低減されており、良好
1:参考例と比べ、野菜からのドリップ量が同等である
【0139】
(3)結果
結果を下記の表11に示す。
【0140】
【表11】
【0141】
(4)考察
表11に示す通り、本技術の水油捕持材を用いることで、野菜のシャキシャキ感、及び野菜からのドリップ量の評価が良好であった。また、澱粉類を用いなかった実施例9-1に比べて、澱粉類を用いた実施例9-2の方が、野菜からのドリップ量が更に低減することがわかった。
【0142】
<実験例11>
実験例11では、水油捕持材を用いて、大豆を原料とする粒状植物性たん白(TVP:Textured Vegetable Protein)のそぼろ(以下「TVPそぼろ」ともいう)を製造した。なお、TVPは、昭和ミーテックスK-6(昭和産業株式会社製)を用いた。
【0143】
(1)TVPそぼろの製造
醤油15g、酒15g、砂糖15g、及びみりん15gを混合して、調味液を調製した。TVP50gを2倍量の水(100g)で戻したものを対象物とし、表12に示す水油捕持材と混合し、油5gを入れ180℃に加熱したフライパンで、2分間炒めた。前記で調製した調味液を投入し、更に1分間炒めて、TVPそぼろを製造した。
【0144】
(2)評価
製造したTVPそぼろを風冷にて10℃以下まで冷却し、冷蔵庫にて24時間保存した。保存後のTVPそぼろを、500Wの電子レンジにて30秒間マイクロ波加熱を行った後、10人の専門パネルが喫食し、前記実験例6と同様の方法で、そぼろの硬さ、及びジューシー感について評価した。
【0145】
(3)結果
結果を下記の表12に示す。
【0146】
【表12】
【0147】
(4)考察
表12に示す通り、本技術の水油捕持材を用いることで、そぼろの硬さ、及びジューシー感の評価が良好であった。また、澱粉類を用いなかった実施例10-1に比べて、澱粉類を用いた実施例10-2の方が、どちらの評価も更に向上することがわかった。
【0148】
<実験例12>
実験例12では、水油捕持材を用いて、大豆を原料とする高水分疑似肉(HMMA:High Moisture Meat Analog)の生姜焼き(以下「HMMA生姜焼き」ともいう)を製造した。なお、HMMAは、HMSP カット S(昭和産業株式会社製)を用いた。
【0149】
(1)HMMA生姜焼きの製造
水150g、おろしにんにく16g、おろししょうが16g、醤油90g、酒45g、及び砂糖60gを混合して、調味液を調製した後、その調味液を、対象物であるHMMAに対して35質量%の重量をボウルに入れ、その下記の表13に示す水油捕持材を加えて混合した。そのボウルにHMMAを入れ全体にまとわせた。油5gを入れ180℃に加熱したフライパンに、前記HMMAを入れ、3分間炒めて、HMMA生姜焼きを製造した。
【0150】
(2)評価
製造したHMMA生姜焼きを風冷にて10℃以下まで冷却し、冷蔵庫にて24時間保存した。保存後のHMMA生姜焼きを、500Wの電子レンジにて30秒間マイクロ波加熱を行った後、10人の専門パネルが喫食し、前記実験例6と同様の方法で、HMMA生姜焼きの硬さ、及びジューシー感について評価した。
【0151】
(3)結果
結果を下記の表13に示す。
【0152】
【表13】
【0153】
(4)考察
表13に示す通り、本技術の水油捕持材を用いることで、HMMA生姜焼きの硬さ、及びジューシー感の評価が良好であった。また、澱粉類を用いなかった実施例11-1に比べて、澱粉類を用いた実施例11-2の方が、どちらの評価も更に向上することがわかった。