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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024180625
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】回路基板
(51)【国際特許分類】
   H05K 1/09 20060101AFI20241219BHJP
   C04B 37/02 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
H05K1/09 C
C04B37/02 Z
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024181958
(22)【出願日】2024-10-17
(62)【分割の表示】P 2023527529の分割
【原出願日】2022-03-25
(31)【優先権主張番号】P 2021097967
(32)【優先日】2021-06-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】391039896
【氏名又は名称】NGKエレクトロデバイス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088672
【弁理士】
【氏名又は名称】吉竹 英俊
(74)【代理人】
【識別番号】100088845
【弁理士】
【氏名又は名称】有田 貴弘
(74)【代理人】
【識別番号】100134991
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 和樹
(74)【代理人】
【識別番号】100148507
【弁理士】
【氏名又は名称】喜多 弘行
(72)【発明者】
【氏名】北島 晃太
(72)【発明者】
【氏名】本田 貴彦
(72)【発明者】
【氏名】中尾 一貴
(72)【発明者】
【氏名】植谷 政之
(72)【発明者】
【氏名】増田 いづみ
(72)【発明者】
【氏名】浦野 晃弘
(57)【要約】
【課題】加圧加熱接合法にて接合基板を作製する場合において、銅板に形成される離型層を接合後に好適に除去する技術を提供する。
【解決手段】回路基板が、セラミックス基板と、セラミックス基板の2つの主面のそれぞれに接合された銅板と、銅板の表面に形成された銀めっき膜と、を備え、銅板と銀めっき膜との界面において銅板の表面に存在するファセットの個数が1mmあたり3000個以下である、ようにした。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回路基板であって、
セラミックス基板と、
前記セラミックス基板の2つの主面のそれぞれに接合された銅板と、
前記銅板の表面に形成された銀めっき膜と、
を備え、
前記銅板と前記銀めっき膜との界面において前記銅板の表面に存在するファセットの個数が1mmあたり3000個以下である、
ことを特徴とする、回路基板。
【請求項2】
請求項1に記載の回路基板であって、
直径が2.5μm以上である前記ファセットの個数が1mmあたり1200個以下であり、直径が2.5μm未満である前記ファセットの個数が1mmあたり1800個以下である、
ことを特徴とする、回路基板。
【請求項3】
請求項2に記載の回路基板であって、
直径が1.5μm未満である前記ファセットの個数が1mmあたり1200個以下である、
ことを特徴とする、回路基板。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の回路基板であって、
前記ファセットの直径が9.5μm未満である、
ことを特徴とする、回路基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックス製接合基板の作製に関し、特に、接合後の処理に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体チップ等の電子部品が搭載されるセラミックス製絶縁放熱回路基板として、窒化ケイ素絶縁放熱回路基板やアルミナ系絶縁放熱回路基板などが広く知られている。セラミックス製絶縁放熱回路基板は、搭載された電子部品が発する熱を外部へと逃がす役割を有するとともに、当該電子部品と外部との電気的接続も担っている。
【0003】
セラミックス製絶縁放熱回路基板は、セラミックス基板の両面に、金属銅を主成分とする銅板(銅箔、銅回路板、銅放熱板など称されることもある)を活性金属を含むろう材などを用いて接合してなる接合基板である。接合手法としては加圧加熱接合法が例示される。通常、一方の銅板には半導体チップが銀焼結接合により接合(搭載)され、他方の銅板には、例えば金属製の放熱板(ヒートシンク)がはんだ接合される。
【0004】
なかでも、窒化ケイ素絶縁放熱回路基板は、アルミナ系セラミックス基板を用いたアルミナ系絶縁放熱回路基板に比較して、放熱性と信頼性に優れているため、車載用途に適用されることが多い。その場合、半導体チップと窒化ケイ素絶縁放熱回路基板との銀焼結接合の接合信頼性を向上させる目的で、窒化ケイ素絶縁放熱回路基板をなす銅箔の表面に銀めっきが付与されることが多い。例えば、窒化ケイ素絶縁放熱回路基板の一方面に備わる銅回路板の表面に無電解めっきにて銀めっきを施す態様が、すでに公知である(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
また、ろう材を用いた銅板と窒化ケイ素セラミックス基板との接合を加圧加熱接合にて行う手法であって、複数の接合基板を同時に得ることが出来る手法もすでに公知である(例えば、特許文献2参照)。これは概略、複数の中間体(窒化ケイ素セラミックス基板の表裏面にろう材層を形成し、該ろう材層の上に銅板を配置したもの)を用意し、それぞれの銅板の表面に離型剤を含む被覆(離型層)を施したうえでそれら複数の中間体を積層し、これにより得られた積層体全体に対し加圧しながら加熱して接合を行い、最後に、離型層を除去することで複数の接合基板を得るという手法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2020/218193号
【特許文献2】国際公開第2020/105160号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2に開示された手法にて複数の接合基板を得る場合、得られた接合基板の銅板の表面に離型層が残存しないようにすることが求められる。
【0008】
しかしながら、離型剤がセラミックス粒子である場合、接合温度によっては、軟化した銅板の銅粒子が離型剤粒子の隙間に入り込むことで両者の混合物たる皮膜が形成され、係る皮膜が銅板上に残留することがある。
【0009】
従来は、ブラシ研磨(ブラシ洗浄)やバフ研磨等の機械的な研磨処理によって当該被膜を除去していたが、離型剤粒子が銅板にめり込んだり、銅板の延性によって巻き込まれたりするためなどにより、完全に除去することは困難であった。
【0010】
残留した離型剤等は、後工程において行われる種々の処理、例えば、パターニングや表面処理等のために行う銅のエッチングや、パターニングされた接合基板が個片化されることで得られる回路基板に対し特許文献1に開示されているような銀めっき処理などを行う際に、反応状態のばらつき要因となる。特に後者は、銀めっき膜に対するはんだ接合強度を低下させる要因となる。
【0011】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、加圧加熱接合法にて接合基板を作製する場合において、銅板に形成される離型層を接合後に好適に除去する技術を提供することを、目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本発明の第1の態様は、回路基板であって、セラミックス基板と、前記セラミックス基板の2つの主面のそれぞれに接合された銅板と、前記銅板の表面に形成された銀めっき膜と、を備え、前記銅板と前記銀めっき膜との界面において前記銅板の表面に存在するファセットの個数が1mmあたり3000個以下である、ことを特徴とする。
【0013】
本発明の第2の態様は、第1の態様に係る回路基板であって、直径が2.5μm以上である前記ファセットの個数が1mmあたり1200個以下であり、直径が2.5μm未満である前記ファセットの個数が1mmあたり1800個以下である、ことを特徴とする。
【0014】
本発明の第3の態様は、第2の態様に係る回路基板であって、直径が1.5μm未満である前記ファセットの個数が1mmあたり1200個以下である、ことを特徴とする。
【0015】
本発明の第4の態様は、第1ないし第3の態様のいずれかに係る回路基板であって、前記ファセットの直径が9.5μm未満である、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の第1ないし第4の態様によれば、銀めっき膜との界面において銅板表面に生じるファセットの個数が従来よりも低減されるので、銀めっき膜が施された銅板に対するはんだ接合の接合強度が十分に確保される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】接合基板100を模式的に図示する断面図である。
図2】接合基板100の作製の手順を、後工程を含め示す図である。
図3】中間品150に対する加圧加熱接合の様子を、模式的に示す図である。
図4】エッチング液における過酸化水素濃度を違えたときの、離型層165の除去の様子を示す図である。
図5】エッチング時間を違えたときの、離型層165の除去の様子を示す図である。
図6】エッチング液として塩化鉄系エッチング液を用いたときの、エッチング時間による離型層165の様子の違いを示す図である。
図7】比較例の回路基板から銀めっき膜を除去した後の銅板表面のSEM像である。
図8】実施例の回路基板から銀めっき膜を除去した後の銅板表面のSEM像である。
図9】比較例における1mmあたりのファセット数についての、ヒストグラムと、積算値の区間毎の変化とを示すグラフである。
図10】実施例における1mmあたりのファセット数についての、ヒストグラムと、積算値の区間毎の変化とを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<接合基板>
図1は、本実施形態に係る接合基板100を模式的に図示する断面図である。
【0019】
本実施形態に係る接合基板100は、セラミックス基板110と、銅板111と、接合層112と、銅板113と、接合層114とを備える。接合基板100がこれらの要素以外の要素を備えてもよい。
【0020】
接合基板100の用途は特に限定されないが、以下においては、接合基板100が、パワー半導体モジュールにおいてパワー半導体素子が実装される絶縁放熱基板として用いられる場合を想定して、説明を行う。係る場合においては、銅板111の露出する一方の主面111Bがパワー半導体素子の接合面として用いられ、銅板113の露出する一方の主面113Bが、金属製の放熱板(ヒートシンク)の接合面として用いられるものとする。なお、以降においては、主面111Bおよび主面113Bを銅板表面と総称することがある。
【0021】
銅板111の他方の主面(接合面)111Aは、接合層112により、セラミックス基板110の第1の主面1101の略全面に接合されている。一方、銅板113の他方の主面(接合面)113Aは、接合層114によりセラミックス基板110の第2の主面1102の略全面に接合されている。第1の主面1101と第2の主面1102とは互いに対向している。
【0022】
セラミックス基板110には、後述する加圧加熱接合が可能なセラミックス製の基板が、広く適用可能である。具体的には、窒化ケイ素(Si)基板、窒化アルミ(AlN)基板、アルミナ基板、アルミナにジルコニア粒子を分散させた基板などが、セラミックス基板110として例示される。なかでも、窒化ケイ素セラミックス基板は、高い熱伝導性および高い絶縁性を有するとともに、機械的強度が高いため、加圧加熱接合の際に割れにくい点で有利である。セラミックス基板110の平面形状やサイズに特段の制限はないが、パワー半導体モジュールの小型化を図るという観点からは、一辺の長さが100mm~250mm程度で厚みが0.20mm~0.40mmの平面視矩形状のセラミックス基板110が例示される。
【0023】
銅板111および113の厚さは、300μm~2500μm程度であるのが好適である。ただし、両者が同じ値である必要はない。
【0024】
接合層112および114によるセラミックス基板110と銅板111および113との接合は、後述する活性金属法により実現されてなる。活性金属としては、チタン(Ti)およびジルコニウム(Zr)からなる群より選択される少なくとも1種の金属が用いられる。セラミックス基板110が窒化ケイ素セラミックス基板である場合、接合層112および114は、活性金属として用いたチタンおよびジルコニウムの少なくとも一方の窒化物を主に含む。接合層112および114の厚みは、0.1μm以上5μm以下程度であればよい。ただし両層の厚みが同じである必要はない。
【0025】
銅板111は、接合層112ともども、接合されるパワー半導体素子に応じた所定の形状(回路パターン)にパターニングされている。それゆえ、セラミックス基板110の第1の主面1101は、銅板111の接合範囲において一部露出している。これに加え、銅板113および接合層114がパターニングされてなる態様であってもよい。ただし、以降の説明においては便宜上、パターニングが施されていないものも含め、接合基板100と称する。
【0026】
なお、図1においては詳細な図示を省略するが、より具体的には、接合基板100は個片化によって複数の基板(回路基板)に分割される母基板であって、第1の主面1101上に備わる銅板111および接合層112には、同一の形状を有する多数の回路パターンが二次元的に繰り返し設けられてなる。そして、それぞれの回路基板が、パワー半導体素子の実装に供される。
【0027】
<接合基板の作製>
図2は、接合基板100の作製の手順を、後工程を含め示す図である。本実施の形態においては、接合基板100を得るためのセラミックス基板110と銅板111よび113との接合を、活性金属ろう材を用いた活性金属法により行う。図3は、係る活性金属法にて接合基板100を作製する過程において行う、中間品(接合対象品)150に対する加圧加熱接合の様子を、模式的に示す図である。
【0028】
(中間品)
接合基板100の作製にあたってはまず、複数の中間品150が用意される(ステップS1)。本実施の形態においては、用意された中間品150に対し加圧加熱接合その他の処理が施されることで、接合基板100が得られる。
【0029】
中間品150は、図3に示すように、セラミックス基板110の第1の主面1101にろう材層162と銅板111とがこの順に積層され、かつ、第2の主面1102にろう材層164と銅板113とがこの順に積層された構成を有する。なお、中間品150の状態では銅板111(あるいはさらに銅板113)はパターニングされていない。
【0030】
ろう材層162および164は、活性金属ろう材および溶剤を含むペースト(ろう材ペースト)を塗布することにより形成されてなる。ろう材ペーストがバインダ、分散剤、消泡剤等をさらに含んでもよい。
【0031】
活性金属ろう材は、粉末からなる。活性金属ろう材は、例えば、銀(Ag)および銅(Cu)からなる群より選択される少なくとも1種の金属元素と、チタン(Ti)およびジルコニウム(Zr)からなる群より選択される少なくとも1種の活性金属元素とを含む。活性金属ろう材は、望ましくは、銀を含む金属粉末と、水素化チタン(TiH)粉末および水素化ジルコニウム(ZrH)粉末からなる群より選択される少なくとも1種からなる。係る場合、活性金属ろう材が低コストで微粒化することが困難な合金粉末を含まないため、活性金属ろう材を低コストで微粒化することが容易になる。
【0032】
活性金属ろう材は、望ましくは、0.1μm以上10μm以下の平均粒子径を有する粉末からなる。平均粒子径は、市販のレーザ回折式の粒度分布測定装置により粒度分布を測定し、測定した粒度分布からD50を算出することにより得ることができる。活性金属ろう材がこのように小さい平均粒子径を有する場合、ろう材層162および164を薄くすることができる。
【0033】
ろう材層162および164は、ろう材ペーストをセラミックス基板110の第1の主面1101および第2の主面1102に塗布することにより形成されてなる。より詳細には、係る態様にて形成された塗布膜から、溶剤が揮発することで、ろう材層162および164が形成される。そして、これらろう材層162および164の上にそれぞれ、銅板111および113が積層されることで、中間品150が形成されてなる。より詳細には、銅板111は主面111Aにおいてろう材層162と接触し、銅板113は主面113Aにおいてろう材層164と接触している。
【0034】
(離型層)
次に、用意された全ての中間品150に備わる銅板111の主面111Bに、または、用意された全ての中間品150に備わる銅板113の主面113Bに、離型層165が形成される(ステップS2)。
【0035】
ただし、後述する積層体140において最上部に位置する中間品150と最下部に位置する中間品150については、主面111Bおよび主面113Bの双方に離型層165が形成される。あるいは、全ての中間品150の主面111Bと主面113Bとのそれぞれに離型層165が形成される態様であってもよい。
【0036】
離型層165は、離型剤および溶剤を含む塗布液を、その被形成面たる主面111Bと主面113Bの一方または両方にスプレー塗布することにより形成されてなる。より詳細には、係るスプレー塗布にて形成された塗布膜から、溶剤が揮発することで、離型層165が形成される。塗布液が、バインダ、分散剤、消泡剤等をさらに含んでもよい。溶剤は、イソプロピルアルコール等を含む。
【0037】
望ましくは、塗布液は被形成面に静電塗布される。これにより、塗布液が被形成面以外に回り込むことが抑制されるので、塗布液のロスが低減される。
【0038】
離型層165が上述の方法とは異なる方法により形成されてもよい。例えば、離型剤を含むペーストを被形成面にスクリーン印刷することにより、離型層165が設けられてもよい。
【0039】
離型層165の厚さは任意であるが、望ましくは5μm以上30μm以下である。離型層165の厚さが5μmよりも薄い場合、離型層165による被形成面の被覆が不十分となり、銅板111または銅板113が露出しやすくなる傾向が現れる。このように離型層165による被形成面の被覆が不十分な中間品150を対象に加圧加熱接合が行われた場合、その後の中間品150同士の分離、および、中間品150を挟持する一対の挟持部材である上パンチ180および下パンチ181と中間品150との分離が困難となる場合がある。一方、離型層165の厚さが30μmよりも厚い場合、加圧加熱接合後に中間品150から離型層165を除去するのに要する時間が長くなる傾向が現れる。
【0040】
離型剤は、粉末からなる。離型剤は、望ましくは、窒化ホウ素(BN)粉末、黒鉛粉末、二硫化モリブデン(MoS)粉末、および、二酸化モリブデン(MoO)粉末からなる群より選択される少なくとも1種を含み、特に望ましくは、高い耐熱性を有する窒化ホウ素粉末からなる。離型剤はアルミナを含んでいてもよい。
【0041】
離型剤は、望ましくは0.1μm以上10μm以下の平均粒子径を有する。平均粒子径は、市販のレーザ回折式の粒度分布測定装置により粒度分布を測定し、測定した粒度分布からD50を算出することにより得ることができる。平均粒子径がこの範囲より大きい場合は、加圧加熱接合によって銅板111および113がセラミックス基板110に接合される際に、離型層165と接触する銅板表面(主面111Bおよび主面113B)に離型剤の粉末の形状が転写され、銅板表面の表面粗さが悪化する傾向が現れるため、好ましくない。
【0042】
(加圧加熱接合)
それぞれに離型層165が形成された複数の中間品150は、加圧加熱接合用装置170内の所定位置に積層配置され、これにより得られた積層体140を対象に、加圧加熱接合が行われる(ステップS3)。図3には、3つの中間品150(150a~150c)が積層された積層体140に対し加圧加熱接合が行われる様子が示されている。
【0043】
図3に示すように、加圧加熱接合に際しては、積層体140は加圧加熱接合用装置170の上パンチ180と下パンチ181との間に配置される。そして、積層体140が上パンチ180と下パンチ181とによって上下から挟み込まれることで、それぞれの中間品150が加圧される。さらには、係る加圧と並行して、同じく加圧加熱接合用装置170に備わるヒータ182により、当該積層体140は加熱される。
【0044】
望ましくは、加圧加熱接合の際の上パンチ180および下パンチ181による積層体140の積層方向における加圧は、最高面圧が5MPa以上25MPa以下となる面圧プロファイルに従って行われる。また、ヒータ182による中間品150の加熱は、最高温度が800℃以上1000℃以下となる温度プロファイルに従って行われる。望ましくは、最高温度が800℃以上900℃以下となる温度プロファイルに従って行われる。
【0045】
以上の態様にて加圧加熱接合が行われることにより、接合基板100が得られる。本実施の形態においては、積層体140を構成する複数の中間品150に対し一度に加圧加熱を行うので、複数の接合基板100を同時に得ることができる。
【0046】
例えば、セラミックス基板110が窒化ケイ素セラミックス製である場合であれば、積層体140を構成するそれぞれの中間品150において、ろう材層162および164に存在していた活性金属(例えばチタン)がセラミックス基板110の窒素と反応する一方で、同じくろう材層162および164に存在する銀は銅板111および113へと拡散する。その際には、活性金属ペーストに含まれる他の金属成分の銅板111および113への拡散や、セラミックス基板110に含まれるケイ素のろう材層162および164への拡散なども起こり得る。
【0047】
結果として、ろう材層162および164がそれぞれ、活性金属の窒化物を主成分とする接合層112および114に変化し、銅板111および113が接合層112および114にてセラミックス基板110に接合される。これにより、接合基板100が得られる。
【0048】
また、セラミックス基板110として、アルミナ基板、あるいはアルミナにジルコニア粒子を分散させた基板などの酸化物基板を用いた場合も同様に、加圧加熱接合の結果、ろう材層162および164が接合層112および114に変化することで、接合基板100が得られる。
【0049】
(離型層除去)
ただし、加圧加熱接合が終了した段階では、複数の接合基板100と上パンチ180および下パンチ181とは、離型層165を介して積層された状態にある。それらは離型層165のところで互いに剥離させられることによって分離することが可能であるが、分離されたそれぞれの接合基板100の銅板表面には、離型層165が残存する。係る離型層165の残存は、後工程におけるパターニングやめっき処理などの際に不具合を生じさせる要因となる。そのため、分離後の接合基板100に残存した離型層165を除去する処理を行う(ステップS4)。
【0050】
本実施の形態においては、係る離型層165の除去を、ウェットエッチングにより行う。ただし、係るウェットエッチングは、残存した離型層165そのものを直接に溶解除去するのではなく、銅板表面すなわち主面111Bおよび主面113Bにおいて当該離型層165と接触する箇所をエッチング対象とする。離型層165が残存している箇所において銅をエッチングすることで、離型層165をより確実に除去することができる。
【0051】
エッチング液としては、銅をエッチング可能であり、かつ、銅板表面を覆っている離型層165内を浸透して銅板表面に到達することが好適に実現される程度の浸透性を有するものが望ましい。なお、浸透性は、エッチング液の表面張力の大きさにて評価することが可能であり、表面張力の大きさが小さいほど、浸透性に優れているということが出来る。
【0052】
具体的には、離型層165を除去するためのエッチング液としては、表面張力が70mN/m以下のものが好適である。そのようなエッチング液としては、過酸化水素水(H)を1.5%~30%含み、硫酸(HSO)を1%~20%含む水溶液(硫酸-過酸化水素系エッチング液)が例示される。そのようなエッチング液としては、過酸化水素(H)と硫酸(HSO)が水に溶けており、水溶液の質量に対する過酸化水素の質量比が1.5%~30%、硫酸の質量比が1%~20%、である水溶液が例示される。係る硫酸-過酸化水素系エッチング液の表面張力は60mN/m程度である。なお、表面張力が70mN/mを上回り粘性が高い塩化銅系や塩化鉄系のエッチング液やDI水は、離型層165の除去には適さない。
【0053】
エッチング時間については、45秒以上に設定すれば、離型層165を概ね好適に除去することが可能である。上限については、離型層165の完全な除去という点からは特段の制限はないが、過度のエッチングは、銅板111および113を過度に薄肉化させることになるので、実用上は1000秒以下で十分である。また、エッチング液の温度は、20℃~60℃程度であればよい。
【0054】
ウェットエッチング処理が終了すると、続いて、露出した銅板に対し、バフ研磨を行う(ステップS5)。バフ研磨は、銅板表面の状態を調整し、かつ、次に行うDFRラミネート処理に際してDFR(ドライフィルムレジスト)の密着性を高めるべく、銅板表面を粗化するために行う。
【0055】
好ましくは、バフ研磨は、メカニカルバフとケミカルバフの2段階に行われる。前者は主に銅板表面の状態を調整する目的で行われ、後者は主に銅板表面を粗化する目的で行われる。ケミカルバフには例えば、過酸化水素水溶液が用いられる。
【0056】
なお、特許文献2に開示されているような従来の技術においては、上述した離型層除去のためのウェットエッチングは行われず、加圧加熱接合の後、互いに分離されたそれぞれの接合基板に対し、ブラシ研磨(ブラシ洗浄)を行ったうえでバフ研磨を行う、という処理手順が採用されていた。これは、バフ研磨の段階で離型層を完全に除去することを意図したものであったが、実際には、離型層はバフ研磨によって必ずしも完全には除去されず、銅との混合物などの形態にて銅板表面に残存する傾向があった。
【0057】
しかしながら、本実施の形態においては上述のように、加圧加熱接合の後、互いに分離されたそれぞれの接合基板100に対しウェットエッチングを行い、この時点で離型層165を完全に除去したうえでバフ研磨を行う、という処理手順を採用しているので、残存した離型層165が後工程において不具合の要因となることがない。また、バフ研磨に先立って離型層165が好適に除去されているため、バフ研磨を、DFRの密着性を高めるという目的に特化して行うことができる。
【0058】
バフ研磨が施されることで、パターニング前の状態の接合基板100が得られる。
【0059】
(パターニング)
バフ研磨を経た接合基板100は、通常、銅板111(および接合層112)を所定の回路パターンにてパターニングするための処理に供される。上述のように、接合基板100は、個片化によって多数の基板に分割される母基板として作製されるので、パターニングに際しては、同一の形状を有する多数の回路パターンが二次元的に繰り返し設けられる。
【0060】
まず、バフ研磨にて粗化された主面111Bの略全面に対し、DFR(ドライフィルムレジスト)を貼付するDFRラミネート処理(ステップS6)が行われる。続いて、公知のフォトリソグラフィー処理により、パターニング(ステップS7)が行われる。
【0061】
パターニングは、公知の露光処理および現像処理にて、DFRを部分的に溶解除去することにより、形成を所望する回路パターンに応じて銅板111の主面111Bを部分的に露出させたうえで、露出した部分に対するエッチング(銅エッチング)を行うことで実現される。銅エッチングのエッチング液としては塩化鉄系エッチング液が例示される。
【0062】
そして、銅エッチングに続き、銅エッチングにて銅が除去された位置の直下に存在する、接合層112の除去(残渣除去)が行われる(ステップS8)。係る接合層112の除去は、エッチング等により行うことができる。
【0063】
パターニングが終了すると、DFRが剥離される(ステップS9)。係る剥離には、例えばNaOH水溶液が用いられる。DFRが剥離された状態の接合基板100が、図1に示した接合基板100に相当する。
【0064】
なお、銅板113がパターニングされる場合も、その主面113Bを対象に、DFRラミネート、パターニング、残渣除去、およびDFR剥離という一連の処理が同様に行われる。
【0065】
(溝加工)
以降、接合基板100に対し行われる後工程について説明する。まず、同一の形状を有する多数の回路パターンが二次元的に繰り返し設けられた母基板たる接合基板100を、後段の工程においてそれぞれに単位回路パターンが備わる多数の回路基板に個片化するための、溝加工処理が行われる(ステップS10)。溝加工は例えば、レーザにて行われる。レーザ光源としては、Nレーザが例示される。
【0066】
(銀めっき)
続いて、溝加工後の母基板たる接合基板100の銅板表面(主面111Bおよび主面113B)に対し、銀めっき膜を形成する処理が行われる。銀めっき膜は主として、回路基板にパワー半導体素子および放熱板を接合する際の接合強度を高める目的で行われる。特に、主面113Bに金属製の放熱板をはんだ接合する際の接合強度を高める目的で行われる。
【0067】
まず、銀めっきの形成に先立ち、銅板表面の状態を調整する処理が行われる(ステップS11)。具体的には、銅板表面に残存している有機残渣を除去する脱脂処理と、銅板表面をわずかにエッチングするソフトエッチングとが行われる。脱脂処理には、例えばエチレングリコール水溶液が用いられる。ソフトエッチングには、過酸化水素水溶液がエッチング液として用いられる。
【0068】
そして、以上の処理にて表面状態が調整された銅板表面に対し、置換銀めっきによる無電解めっきが行われる(ステップS12)。めっき浴としては、10%程度のアルミノカルボン酸塩と1.0g/L程度の銀を含むものを、好適に用いることができる。
【0069】
銅板表面に銀めっきが施された接合基板100は、先に形成した溝の位置で破断されて個片化される。これにより、同一の形状を有する多数の回路パターンが二次元的に繰り返し設けられた母基板たる接合基板100から、それぞれに単位回路パターンが備わる多数の回路基板が得られる(ステップS13)。
【0070】
<離型層除去の効果>
上述のように、本実施の形態においては、加圧加熱接合により積層状態にて得られた複数の接合基板100を離型層165のところで互いに剥離した後、ウェットエッチングを行うことにより、接合基板100の銅板表面に残存する離型層165を確実に除去することができる。係る処理は、パターニングの際の銅エッチングのばらつきを低減させる効果を有する。また、後工程においてパターニングされた接合基板100に対し置換銀めっきにて銀めっき膜を形成する場合の、銅板表面と銀めっき膜との界面の状態を向上させる効果も有する。
【0071】
後者についてより詳細にいえば、従来技術のように、離型層を除去するための処理としてウェットエッチングが行われず、ブラシ研磨(ブラシ洗浄)やバフ研磨等の機械的な研磨処理が行われるのみであった場合、離型層は必ずしも十分には除去されず、離型剤粒子は銅との混合物などの形態にて、銀めっき膜の形成の段階まで銅板表面に残存したままとなりやすい。
【0072】
このように離型剤粒子が残存したままで置換銀めっきが行われると、銅の溶解速度と銀の析出速度とのバランスが崩れ、銀めっき膜直下の銅板表面に多数のファセットが形成され、銅板表面と銀めっき膜との間に多数の空隙が生じる。なお、本明細書においては、本来は面(結晶面)を意味する「ファセット」なる文言を、ファセットの形成が原因で銅板表面に形成される周囲より窪んだ「穴部」の意味で用いる。そして、係る穴部の個数をファセットの個数あるいはファセット数と称する。多数のファセットおよび空隙の存在は特に、銀めっき膜が施された銅板に対するはんだ接合の接合強度を低下させる要因となる。回路基板がパワー半導体モジュールに使用される場合であれば、主面113Bに対する放熱板のはんだ接合強度が低下する要因となる。
【0073】
これに対し、本実施の形態においては、ウェットエッチングにおいて離型層165を好適に除去したうえで後段の工程を行うので、銀めっき膜を形成する際に、銅板表面にファセットが形成されることに起因して銀めっきとの間に空隙が生じることが、好適に抑制される。それゆえ、銀めっき膜が施された銅板に対するはんだ接合の接合強度が十分に確保される。回路基板がパワー半導体モジュールに使用される場合であれば、主面113Bに対する放熱板のはんだ接合強度が十分に確保される。
【0074】
具体的には、ウェットエッチングを行わない従来の手順にて作製した接合基板あるいは回路基板においては、銅板表面の1mmあたりのファセット数が数万個にまで達するところ、上述した手順にて作製される、本実施の形態に係る手順にて作製された接合基板あるいは回路基板の銅板表面においては、1mmあたりのファセット数が3000個以下にまで低減される。これにより、はんだ接合の接合強度が良好に確保される。
【0075】
好ましくは、直径(ファセット径)が2.5μm以上であるファセットの個数が1mmあたり1200個以下であり、ファセット径が2.5μm未満であるファセットの個数が1mmあたり1800個以下である。より好ましくは、ファセット径が1.5μm未満であるファセットの個数が1mmあたり1200個以下である。係る場合に、はんだ接合の接合強度がより好適に確保される。
【0076】
以上、説明したように、本実施の形態によれば、それぞれがセラミックス基板の両主面上にろう材層と銅板とを積層してなる複数の中間品を、離型層を介在させつつ積層し、これにより得られた積層体に対し加圧加熱接合を行うことにより複数の接合基板を一度に得る場合において、加圧加熱接合後の接合基板に残存する離型層の除去を、銅板の表面を溶解させるウェットエッチングにて行うことにより、離型層を確実に除去することができる。これにより、その後のパターニングに際して銅エッチングのばらつきが低減される。また、後工程において接合基板の銅板表面に対し置換銀めっきにて銀めっき膜を形成する場合の、銅板表面と銀めっき膜との界面の状態も向上する。
【0077】
特に、後者の場合、銅板表面にファセットが形成されることに起因して銀めっきとの間に空隙が生じることが、好適に抑制されるので、銀めっき膜が施された銅板に対するはんだ接合の接合強度が十分に確保される。
【0078】
<変形例>
上述の実施の形態においては、複数の中間品の積層体が加圧加熱接合の対象とされていたが、1つの中間品のみが加圧加熱接合の対象とされ、これにより得られた一の接合基板において銅板に付着した離型層が、ウェットエッチングによって除去される態様であってもよい。
【0079】
上述の実施の形態における溝加工(ステップS10)および個片化(ステップS13)の工程は省略してもよい。パワー半導体モジュールに使用される回路基板の寸法が大きい場合、このような工程をとってもよい。すなわち、一の接合基板100が全体としてそのまま、パワー半導体モジュールに使用されてもよい。
【実施例0080】
(離型層除去効果の確認)
接合基板100に残存する離型層165をウェットエッチングにて除去することの効果を確認する実験を行った。離型剤としては窒化ホウ素(BN)粉末を採用し、エッチング液としては、硫酸-過酸化水素系エッチング液を採用した。
【0081】
図4は、エッチング液における過酸化水素濃度を違えたときの、離型層165の除去の様子を、カメラによる実際の撮像画像(一部)と、該撮像画像を2値化した画像と、画像解析により特定された該2値化画像における白色部および黒色部の面積比率とにより示す図である。
【0082】
白色部と黒色部とを特定するための2値化処理は、撮像画像に基づいて、縦軸が出現画素数、横軸が0から255の256階調のグレーレベル(濃度値)となる濃度ヒストグラム図を作成し、グレーレベルの閾値を100に設定し、グレーレベルが100未満の画素を黒色、グレーレベルが100以上の画素を白色と判定することにより行った。グレーレベルの閾値を100としているのは、銅板表面が離型層165で完全に覆われて全く露出していない場合、グレーレベルが0~100の範囲における出現画素数はほぼ0であり、グレーレベルが100~255の範囲において出現画素数のピークが見られた一方で、離型層165がすべて除去されて銅板表面すべてが露出している場合、グレーレベルが100~255の範囲における出現画素数はほぼ0であり、グレーレベルが0~100の範囲において出現画素数のピークが見られたことによる。
【0083】
より具体的には、硫酸-過酸化水素系エッチング液の過酸化水素濃度は1%、1.5%、2%、および3%の4水準に違え、硫酸濃度は10%とし、温度は40℃とし、エッチング時間は160秒とした。
【0084】
また、図5は、エッチング時間を違えたときの、離型層165の除去の様子を、図4と同様の撮像画像、2値化画像、および、該2値化画像における白色部および黒色部の面積比率とにより示す図である。
【0085】
より具体的には、エッチング液の過酸化水素濃度は3%とし、硫酸濃度は10%とし、温度は40℃とし、エッチング時間は0秒(つまりは未処理)、15秒、30秒、45秒、160秒の5水準に違えた。
【0086】
図4および図5からは、過酸化水素が1.5%以上であり、エッチング時間については、45秒以上である場合に、離型層がほぼ全面的に除去されていることが確認される。
【0087】
一方、図6は、エッチング液として塩化鉄系エッチング液を用いたときの、エッチング時間による離型層165の様子の違いを、図4と同様の撮像画像にて示す図である。エッチング時間は、30秒、60秒、90秒、600秒の4水準に違えた。
【0088】
図6からは、90秒の時点までは離型層165にほとんど変化がないことが確認される。さらには、600秒の時点においても、白色に視認される離型層165が多く残存していることが確認される。係る結果は、塩化鉄系エッチング液が離型層165の除去には適していないことを示している。
【0089】
(表面張力評価)
硫酸-過酸化水素系エッチング液、塩化鉄系エッチング液、およびDI水について、浸透性の指標となる表面張力を測定した。
【0090】
硫酸-過酸化水素系エッチング液としては、過酸化水素濃度が3%で硫酸濃度が10%である水溶液を測定した。塩化鉄系エッチング液としては、塩化鉄濃度が40%で塩酸濃度が10%である水溶液を測定した。
【0091】
測定機器としては、協和界面科学製のCBVP-Zを用い、測定方法としてはプレート法を採用し、測定温度は20℃とした。
【0092】
測定結果は以下の通りであった:
硫酸-過酸化水素系:60.6mN/m;
塩化鉄系:77.8mN/m;
DI水:73.1mN/m。
【0093】
以上の結果を、図4図6に示した結果と併せ考えると、表面張力の小さく浸透性の点で優れている硫酸-過酸化水素系エッチング液が、離型層165の除去に適していることが示唆される。
【0094】
(ファセット数評価)
次に、離型層165の除去にウェットエッチングを適用することの有用性を確認するべく、銀めっき膜が形成された回路基板に存在するファセットの個数を評価した。実施例としては、過酸化水素濃度が3%で硫酸濃度が10%である硫酸-過酸化水素系エッチング液によるウェットエッチングにて離型層165の除去を行った後、図2に示した手順にて作製された回路基板を用意した。また、比較例として、ウェットエッチングに代えてブラシ洗浄を行うようにしたほかは、図2に示した手順にて作製された回路基板(5cm×5cm)を用意した。
【0095】
ファセット数の計数にあたってはまず、回路基板に形成されてなる銀めっき膜を過マンガン酸カリウムと水酸化ナトリウムを含む水溶液を用いて除去した後、銅板表面の任意の3箇所における180μm×240μmの範囲をそれぞれSEM(HITACHI製S-3000N)にて撮像した。図7は比較例の回路基板の撮像画像であり、図8は実施例の回路基板の撮像画像である。続いて、得られた撮像画像(倍率:500倍)をプリントアウトして、係るプリントされた撮像画像における全てのファセットを、直径(ファセット直径)について定めた区間毎にカウントすることにより行った。具体的には、撮像画像の一定方向(たとえば矩形の撮像画像の長辺方向)におけるファセットの最大径をファセットの直径とし、各ファセットの直径を物差しで測定した。また、ファセット直径はμm単位にて表すものとし、小数第2位を四捨五入して、以下の11の区間毎にカウントした。なお、同様の測定を画像解析で行ってもよい。
【0096】
区間1:0.5μm以上、1.4μm以下(1.5μm未満);
区間2:1.5μm以上、2.4μm以下(2.5μm未満);
区間3:2.5μm以上、3.4μm以下(3.5μm未満);
区間4:3.5μm以上、4.4μm以下(4.5μm未満);
区間5:4.5μm以上、5.4μm以下(5.5μm未満);
区間6:5.5μm以上、6.4μm以下(6.5μm未満);
区間7:6.5μm以上、7.4μm以下(7.5μm未満);
区間8:7.5μm以上、8.4μm以下(8.5μm未満);
区間9:8.5μm以上、9.4μm以下(9.5μm未満);
区間10:9.5μm以上、10.4μm以下(10.5μm未満);
区間11:10.5μm以上。
【0097】
なお、直径が0.5μm未満のファセットは、特定が困難であるため除外した。
【0098】
表1に、比較例と実施例のそれぞれについて、3箇所の計数対象範囲のそれぞれにおける区間毎のファセットの計数値と、それぞれの区間についての3箇所の計数対象範囲の合計ファセット数(表1の「Total」欄)と、それぞれの合計ファセット数を計数対象範囲の総面積(180μm×240μm×3=0.1296mm)で除した1mmあたりのファセット数(表1の「1mmあたり」欄)と、1mmあたりのファセット数をファセット直径の大きさが小さい方の区間から積算した積算値とを、一覧にして示す。
【0099】
【表1】
【0100】
また、図9は、比較例における1mmあたりのファセット数についての、ヒストグラムと、積算値の区間毎の変化とを示すグラフである。一方、図10は、実施例における1mmあたりのファセット数についての、ヒストグラムと、積算値の区間毎の変化とを示すグラフである。
【0101】
表1と図9および図10からわかるように、比較例の場合、トータルのファセット数が1mmあたりに26736個となっているのに対し、実施例の場合には、トータルのファセット数は1mmあたり3000個を下回る2707個に留まっていた。すなわち、実施例においては、比較例のおよそ1/10にまでファセット数が低減されていた。このことは、離型層除去のためにウェットエッチングを行うことが、ファセット低減のために有効であることを示している。
【0102】
より詳細には、比較例の場合、ファセット直径が2.5μm以上であるファセットの個数は1mmあたり26736-25031=1705個である一方、実施例の場合は、ファセット直径が2.5μm以上であるファセットの個数は1mmあたり2707-1566=1141個であり、1200個を下回ってはいるが、比較例との差異はやや小さいともいえる。
【0103】
しかしながら、比較例の場合、ファセット直径が1.5μm未満であるファセットの個数が1mmあたり22099個と非常に大きく、ファセット直径が2.5μm未満であるファセットの個数についても、1mmあたり25031個にまで達する。これに対し、実施例の場合、ファセット直径が1.5μm未満であるファセットの個数は1mmあたり1080個に留まっており、ファセット直径が2.5μm未満であるファセットの個数についても、1mmあたり1566個に留まっている。
【0104】
係る差異は、実施例の場合、直径の小さいファセットの形成がより効果的に抑制されており、このことが銀めっき膜が施された銅板に対するはんだ接合強度の確保に効果的であることを示唆している。
【符号の説明】
【0105】
100 接合基板
110 窒化ケイ素セラミックス基板
111、113 銅板
111A、113A (銅板の)主面(接合面)
111B、113B (銅板の)主面(銅板表面)
112、114 接合層
140 積層体
150 中間品
162、164 ろう材層
165 離型層
170 加圧加熱接合用装置
180 上パンチ
181 下パンチ
182 ヒータ
1101 (窒化ケイ素セラミックス基板の)第1の主面
1102 (窒化ケイ素セラミックス基板の)第2の主面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10