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特開2024-18130微生物増殖検出方法、微生物取得方法、微生物増殖検出用キット、微生物取得用キット及び色素の微生物増殖レポーターとしての使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024018130
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】微生物増殖検出方法、微生物取得方法、微生物増殖検出用キット、微生物取得用キット及び色素の微生物増殖レポーターとしての使用
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/06 20060101AFI20240201BHJP
   C12N 1/00 20060101ALI20240201BHJP
【FI】
C12Q1/06
C12N1/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022121246
(22)【出願日】2022-07-29
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「カーボンリサイクル実現を加速するバイオ由来製品生産技術の開発/カーボンリサイクル実現を加速するバイオ由来製品生産技術の開発/データ駆動型統合バイオ生産マネジメントシステム(Data-driven iBMS)」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100168114
【弁理士】
【氏名又は名称】山中 生太
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100177149
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 浩義
(74)【代理人】
【識別番号】100197701
【弁理士】
【氏名又は名称】長野 正
(74)【代理人】
【識別番号】100222922
【弁理士】
【氏名又は名称】和田 朋子
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 章
(72)【発明者】
【氏名】大田 悠里
(72)【発明者】
【氏名】野田 尚宏
(72)【発明者】
【氏名】横田 亜紀子
(72)【発明者】
【氏名】陶山 哲志
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QQ05
4B063QR58
4B063QS02
4B063QS36
4B063QX02
4B065AA01X
4B065AA57X
4B065AA87X
4B065CA60
(57)【要約】
【課題】微生物が増殖したドロップレットを精度良く検出することができる微生物増殖検出方法、微生物取得方法、微生物増殖検出用キット、微生物取得用キット及び色素の微生物増殖レポーターとしての使用を提供する。
【解決手段】微生物増殖検出方法は、W/Oエマルションにおいて、微生物及び当該微生物が有する膜成分と相互作用することで蛍光強度が変化する色素を含むドロップレットを作製することと、ドロップレット内で微生物を培養することと、色素の蛍光強度に基づいて微生物の増殖を検出することと、を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
W/Oエマルションにおいて、微生物及び前記微生物が有する膜成分と相互作用することで蛍光強度が変化する色素を含むドロップレットを作製することと、
前記ドロップレット内で前記微生物を培養することと、
前記色素の蛍光強度に基づいて前記微生物の増殖を検出することと、
を含む、微生物増殖検出方法。
【請求項2】
前記色素は、
前記微生物が有する細胞の外膜に挿入されることで蛍光強度が大きくなる色素である、
請求項1に記載の微生物増殖検出方法。
【請求項3】
前記色素は、
N-(3-トリエチルアンモニウムプロピル)-4-(4-(ジブチルアミノ)スチリル)ピリジニウムジブロミド又は4-[6-[4-(ジエチルアミノ)フェニル]-1,3,5-ヘキサトリエン-1-イル]-1-[3-(トリエチルアンモニオ)プロピル]-ピリジニウムジブロミドである、
請求項2に記載の微生物増殖検出方法。
【請求項4】
前記微生物は、
複数種である、
請求項1から3のいずれか一項に記載の微生物増殖検出方法。
【請求項5】
W/Oエマルションにおいて、微生物及び前記微生物が有する膜成分と相互作用することで蛍光強度が変化する色素を含むドロップレットを作製することと、
前記ドロップレット内で前記微生物を培養することと、
前記色素の蛍光強度に基づいて前記微生物の増殖を検出することと、
前記微生物の増殖を検出したドロップレットを回収することと、
を含む、微生物取得方法。
【請求項6】
微生物が有する膜成分と相互作用することで蛍光強度が変化する色素を備える、
W/Oエマルションにおけるドロップレット内の微生物増殖検出用キット。
【請求項7】
微生物が有する膜成分と相互作用することで蛍光強度が変化する色素を備える、
W/Oエマルションにおけるドロップレット内の微生物取得用キット。
【請求項8】
微生物が有する膜成分と相互作用することで蛍光強度が変化する色素の、W/Oエマルションにおけるドロップレット内の微生物増殖レポーターとしての使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物増殖検出方法、微生物取得方法、微生物増殖検出用キット、微生物取得用キット及び色素の微生物増殖レポーターとしての使用に関する。
【背景技術】
【0002】
微生物の分離又は培養法として、Water-in-Oil(W/O)エマルションを用いた方法が知られている。この方法では、油相中にドロップレット(培養培地)を分散させ、各ドロップレットを1つの培養場として微生物を培養する。当該ドロップレットの形成方法にマイクロ流路を用いることで、数分で数十万~数百万単位のドロップレットを形成することができ、ハイスループット化が可能となる。また、水相中に存在する微生物数とドロップレット数の調整により、微生物1細胞が封入されたドロップレットを形成すれば、1細胞からの培養が可能となる。
【0003】
ドロップレットを使用して微生物を培養する場合、1個のドロップレットあたりの細胞数はポアソン分布に従う。細胞が封入されたドロップレットのうち1細胞のみが封入されるドロップレットの割合を高くするに従って、微生物が存在しないドロップレットが生じる確率も高くなる。この場合、微生物の増殖が見られるドロップレットを選択的に回収することができれば各微生物の解析及びスケールアップ等に活用できる。
【0004】
微生物が存在するドロップレットの検出には、微生物細胞の自家蛍光を検出する方法及び細胞外分泌物と反応する試薬を介して検出する方法がとられている。例えば、特許文献1には、微生物が存在するドロップレットの検出に蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)型蛍光修飾核酸プローブを使用することが開示されている。当該蛍光修飾核酸プローブは、5’末端及び3’末端それぞれに蛍光基及び消光基を有する。微生物が存在するドロップレット内では、微生物から分泌されたRNaseによって当該蛍光修飾核酸プローブが切断されるとFRETが解消され、蛍光強度が上昇する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2019/073902号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
細胞の自家蛍光を検出する方法では、感度が低いため、微生物が増殖したドロップレットを精度良く検出することが困難であった。上記特許文献1に開示された蛍光修飾核酸プローブを使用する方法では、環境試料の微生物を検出しようとした場合に環境中の夾雑物に含まれるRNase及び培養培地中に含まれる僅かなRNase等がバックグラウンドの蛍光値を増加させて偽陽性となり、ドロップレット内での微生物の増殖を正確に検出できない場合があった。また、実際の増殖とRNaseによる分解にタイムラグが生じることに加え、ドロップレットに存在する細胞数と蛍光強度とが直接相関しないといった不都合があった。
【0007】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、微生物が増殖したドロップレットを精度良く検出することができる微生物増殖検出方法、微生物取得方法、微生物増殖検出用キット、微生物取得用キット及び色素の微生物増殖レポーターとしての使用を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の観点に係る微生物増殖検出方法は、
W/Oエマルションにおいて、微生物及び前記微生物が有する膜成分と相互作用することで蛍光強度が変化する色素を含むドロップレットを作製することと、
前記ドロップレット内で前記微生物を培養することと、
前記色素の蛍光強度に基づいて前記微生物の増殖を検出することと、
を含む。
【0009】
前記色素は、
前記微生物が有する細胞の外膜に挿入されることで蛍光強度が大きくなる色素である、
こととしてもよい。
【0010】
前記色素は、
N-(3-トリエチルアンモニウムプロピル)-4-(4-(ジブチルアミノ)スチリル)ピリジニウムジブロミド又は4-[6-[4-(ジエチルアミノ)フェニル]-1,3,5-ヘキサトリエン-1-イル]-1-[3-(トリエチルアンモニオ)プロピル]-ピリジニウムジブロミドである、
こととしてもよい。
【0011】
前記微生物は、
複数種である、
こととしてもよい。
【0012】
本発明の第2の観点に係る微生物取得方法は、
W/Oエマルションにおいて、微生物及び前記微生物が有する膜成分と相互作用することで蛍光強度が変化する色素を含むドロップレットを作製することと、
前記ドロップレット内で前記微生物を培養することと、
前記色素の蛍光強度に基づいて前記微生物の増殖を検出することと、
前記微生物の増殖を検出したドロップレットを回収することと、
を含む。
【0013】
本発明の第3の観点に係るW/Oエマルションにおけるドロップレット内の微生物増殖検出用キットは、
微生物が有する膜成分と相互作用することで蛍光強度が変化する色素を備える。
【0014】
本発明の第4の観点に係るW/Oエマルションにおけるドロップレット内の微生物取得用キットは、
微生物が有する膜成分と相互作用することで蛍光強度が変化する色素を備える。
【0015】
本発明の第5の観点に係る色素のW/Oエマルションにおけるドロップレット内の微生物増殖レポーターとしての使用は、
微生物が有する膜成分と相互作用することで蛍光強度が変化する色素の、W/Oエマルションにおけるドロップレット内の微生物増殖レポーターとしての使用である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、微生物が増殖したドロップレットを精度良く検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】試験例1における培養後のドロップレットの顕微鏡画像を示す図である。図中のバーは100μmに相当する。
図2】試験例2におけるドロップレットの蛍光強度を示す図である。(A)は細胞膜染色試薬を含まないドロップレットの蛍光強度を示す。(B)及び(C)は細胞膜染色試薬を含むドロップレットの蛍光強度を示す。
図3】試験例3における培養後のドロップレットの顕微鏡画像を示す図である。図中のバーは100μmに相当する。
図4】試験例4における緑色蛍光を発色する色素を含むドロップレットの蛍光強度を示す図である。
図5】試験例4における赤色蛍光を発色する色素を含むドロップレットの蛍光強度を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に係る実施の形態について図面を参照しながら説明する。なお、本発明は下記の実施の形態によって限定されるものではない。
【0019】
(微生物増殖検出方法)
本実施の形態に係る微生物増殖検出方法は、W/Oエマルションにおいて、微生物及び当該微生物が有する膜成分と相互作用することで蛍光強度が変化する色素を含むドロップレットを作製すること(ステップ1)と、当該ドロップレット内で微生物を培養すること(ステップ2)と、色素の蛍光強度に基づいて微生物の増殖を検出すること(ステップ3)と、を含む。
【0020】
W/Oエマルションは、連続相である油相中に分散相として微粒子状のドロップレット(水滴)が存在している状態をいう。“ドロップレット”とは、エマルション中の区画化された水滴をいう。W/Oエマルションを構成する水相は、油相と混和しない親水性の液体であれば特に限定されない。水相に使用できる液体は、例えば水、湖沼水及び海水等であるが、ドロップレット内で微生物を培養するため、好ましくは、油相と混和しない培地、例えば、LB培地及びR2A培地等である。
【0021】
ステップ1で作製するドロップレットのための水相は、微生物と、上記色素と、を含む。微生物は、ドロップレット内で増殖可能な微生物であれば特に限定されない。微生物は、原核生物でも真核生物でもよい。微生物として、例えば、大腸菌、枯草菌、放線菌及び酵母等が例示される。
【0022】
本実施の形態に係る微生物増殖検出方法は、大気、湖沼水、海水及び土壌等の環境試料に適用され得る。このため、ドロップレットに含まれる微生物は環境試料に含まれる微生物、すなわち複数種の微生物であってもよい。また、微生物は、遺伝子が導入された組換え微生物等、人工的に作製された微生物であってもよい。
【0023】
色素は、ドロップレット内の微生物が有する膜成分と相互作用することで蛍光強度が変化、好ましくは増大する色素である。好適には、色素は、微生物が有する細胞の外膜に挿入されることで蛍光強度が大きくなる色素である。このような色素としてスチリル色素が挙げられる。スチリル色素はFei Mao色素とも言われ、例えば、N-(3-トリエチルアンモニウムプロピル)-4-(4-(ジブチルアミノ)スチリル)ピリジニウムジブロミド(N-(3-triethylammoniumpropyl)-4-(4-(dibutylamino) styryl) pyridinium dibromide;FM(商標、以下同じ)1-43)、4-[2-[4-(ジペンチルアミノ)フェニル]エテニル]-1-[3-(トリエチルアミニオ)プロピル]ピリジニウムブロミド(4-[2-[4-(Dipentylamino)phenyl]ethenyl]-1-[3-(triethylaminio)propyl]pyridinium bromide;FM1-84)、N-(3-トリエチルアンモニウムプロピル)-4-(4-(ジエチルアミノ)スチリル)ピリジニウムジブロミド(N-(3-triethylammoniumpropyl)-4-(4-(diethylamino)styryl)pyridinium dibromide;FM2-10)、4-[6-[4-(ジエチルアミノ)フェニル]-1,3,5-ヘキサトリエン-1-イル]-1-[3-(トリエチルアンモニオ)プロピル]-ピリジニウムジブロミド(4-[6-[4-(diethylamino)phenyl]-1,3,5-hexatrien-1-yl]-1-[3-(triethylammonio)propyl]-pyridinium dibromide、FM4-64)及びN-(3-トリメチルアンモニウムプロピル)-4-(6-(4-(ジエチルアミノ)フェニル)ヘキサトリエニル)ピリジニウムジブロミド(N-(3-trimethylammoniumpropyl)-4-(6-(4-(diethylamino)phenyl)hexatrienyl)pyridinium dibromide、FM5-95)等が挙げられる。特に、色素として、N-(3-トリエチルアンモニウムプロピル)-4-(4-(ジブチルアミノ)スチリル)ピリジニウムジブロミド及び4-[6-[4-(ジエチルアミノ)フェニル]-1,3,5-ヘキサトリエン-1-イル]-1-[3-(トリエチルアンモニオ)プロピル]-ピリジニウムジブロミドが好ましい。
【0024】
W/Oエマルションを構成する油相は、水相と混和しない疎水性の液体であれば特に限定されない。このような油相としては、例えば、FC40、Novec(商標、以下同じ)7500、ミネラルオイル及びこれらの組み合わせ等が挙げられる。
【0025】
W/Oエマルションを安定化させるために、界面活性剤を水相及び油相の少なくとも一方に添加する。用いられる界面活性剤には、例えば、水相用の界面活性剤としてはSpan(商標)80及びTween(商標)20等がある。油相用の界面活性剤としては008-FluoroSurfactant、Pico-surf(商標)1及びKrytox(商標)等が挙げられる。水相又は油相に添加される界面活性剤の濃度は、用いる界面活性剤の種類及びドロップレットの大きさ等の条件により適宜調整することができる。
【0026】
W/Oエマルションは、ドロップレット内で微生物が増殖でき、かつ、微生物の増殖を検出可能であれば任意のW/Oエマルションであってよい。ドロップレットの大きさは、微生物が増殖でき、かつ、微生物の増殖を検出可能である限り特に制限されない。ドロップレットの直径は、例えば、5~500μm、10~300μm、15~200μm又は20~150μmである。
【0027】
W/Oエマルションの作製方法は公知であり、例えば、On-chip Droplet Generator(オンチップバイオテクノロジーズ社製)、Droplet Generator(Bio-Rad社製)及びQX100(Bio-RAD社製)等の市販の装置を用いて作成することができる。
【0028】
ステップ2において、W/Oエマルション中のドロップレット内で微生物を培養する方法は公知であり、マイクロ流路上等、培養に必要な装置を適宜選択して微生物を培養することができる。培養条件は、ドロップレットに含まれる微生物が増殖できる条件であればよく、培養の目的又は培養の対象となる微生物に応じて適宜好ましい培養条件が設定できる。培養の温度条件は、例えば、4~95℃である。培養時間は、例えば数時間、数日又は数か月でもよいし、数日~数か月以上にわたってでもよい。
【0029】
ステップ3では、上述の色素の蛍光強度に基づいて微生物の増殖を検出する。色素の蛍光強度は、市販の装置で測定することができる。当該色素は微生物が有する膜成分と相互作用することで蛍光強度が変化するため、培養開始前のドロップレット、又は微生物を含まないドロップレットの蛍光強度と比較することで、蛍光強度の変化を検出することができる。微生物が有する膜成分と相互作用することで蛍光強度が増大する色素を用いる場合、増殖による微生物の増加に伴い、膜成分に暴露される色素が増え、膜成分と相互作用する色素が増える。このため、ドロップレット内の微生物の細胞数に比例して蛍光強度が増大する。
【0030】
本実施の形態に係る微生物増殖検出方法は、微生物が有する膜成分と相互作用することで蛍光強度が変化する色素の蛍光強度に基づいて微生物の増殖を検出する。この蛍光強度の変化は、当該色素を作用させていない細胞に比べて高感度で測定できるため、微生物が増殖したドロップレットを精度良く検出することができる。また、本実施の形態に係る微生物増殖検出方法は、膜成分と相互作用する色素の増加による蛍光強度の変化を検出するため、環境試料及び培養培地中に含まれる微生物以外の成分の影響を受けにくく、バックグラウンドの測定値の増大を避けることができる。これにより、微生物の増殖を正確に検出することができる。また、膜成分と相互作用する色素の増加による蛍光強度の変化は、微生物の実際の増殖と直接相関するため、微生物の増殖をタイムラグなしで検出することができる。
【0031】
本実施の形態に係る微生物増殖検出方法によれば、1個のドロップレット内に複数種の微生物を封入して培養することで、当該ドロップレット内に封入された微生物間の相互作用が増殖能に及ぼす影響について検証することが可能となる。
【0032】
また、ドロップレット1個あたりに1細胞の微生物を封入することで、異なる増殖能を示す微生物を含むドロップレットが得られる。特に、複数種の微生物を含む環境試料からの特定の微生物の単離を目的とする場合、ドロップレット内には1細胞ずつ微生物が含まれることが好ましい。なお、1個のドロップレット内に微生物が1細胞ずつ含まれるように、W/Oエマルションを作製する方法は公知である。例えば、ポアソン分布に従い、水相中に存在する微生物数とドロップレット数とを調整をすることで、微生物が1細胞ずつ封入されたドロップレットを作製することができる。
【0033】
また、各ドロップレットに複数個の細胞を封入した場合、検出可能な細胞数までの増殖に必要な培養時間を抑えることができる点で好ましい。また、共生関係を有する微生物同士が同一のドロップレットに封入された場合、微生物相互間作用等によって増殖が促進されるという効果も期待される。
【0034】
なお、ステップ3は、マイクロ流路上で行ってもよい。マイクロ流路と市販のセルソーター等とを組み合わせることで、ハイスループットに蛍光強度を測定できる。
【0035】
(微生物取得方法)
本実施の形態に係る微生物取得方法は、上述のステップ1、ステップ2及びステップ3に加えて、微生物の増殖を検出したドロップレットを回収すること(ステップ4)を含む。微生物の増殖が検出された、すなわち培養前後で色素の蛍光強度が変化したドロップレットを回収又は分取する方法は公知である。例えば、市販のチップ式セルソーターを利用して、蛍光強度が変化したドロップレットをソーティングすることができる。ステップ4をマイクロ流路上で行った場合は、マイクロ流路と市販のセルソーターとを組み合わせることで、ハイスループットに蛍光強度を測定し、検出結果に応じてドロップレットを分取することができる。
【0036】
本実施の形態に係る微生物取得方法によれば、微生物が増殖したドロップレットを精度良く検出することができるので、より確実に所望の微生物を取得することができる。また、複数種の微生物を含む環境試料について、ドロップレット1個あたりに1細胞の微生物を封入することで、各ドロップレットに含まれる微生物ごとの性質に応じた増殖を検出でき、異なる増殖能を示すドロップレットごとに単離又は分取することができる。異なる増殖能を示すドロップレットごとに選択的に分取することで、各微生物の解析及び培養のスケールアップが可能となる。
【0037】
(微生物増殖検出用キット及び微生物取得用キット)
別の実施の形態では、W/Oエマルションにおけるドロップレット内の微生物増殖検出用キットが提供される。当該微生物増殖検出用キットは、上述の色素を備える。さらに、微生物増殖検出用キットは、培地等のW/Oエマルションの水相と、W/Oエマルションの油相と、W/Oエマルションの安定化のための界面活性剤とを備えてもよい。なお、微生物増殖検出用キットは、培養等に用いるマイクロ流路及び培養皿等を備えてもよい。他の実施の形態では、当該微生物増殖検出用キットは、W/Oエマルションにおけるドロップレット内の微生物取得用キットとして使用される。
【0038】
(微生物増殖レポーター)
別の実施の形態では、上記色素のW/Oエマルションにおけるドロップレット内の微生物増殖レポーターとしての使用が提供される。微生物増殖レポーターは、ドロップレット内の微生物の増殖の指標である。色素として、微生物が有する細胞の外膜に挿入されることで蛍光強度が大きくなる色素を使用する場合、ドロップレット内の色素の蛍光強度が当該ドロップレット内の微生物の細胞数と相関する。
【実施例0039】
以下の実施例により、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【0040】
(試験例1:W/Oドロップレット内の大腸菌の検出)
細胞膜染色試薬の蛍光を測定することでW/Oドロップレット内の大腸菌(E.coli)の増殖を検出できるか検討した。水相として次の試料1~3を使用した。
試料1:大腸菌を含むLB培地
試料2:細胞膜染色試薬FM1-43(ThermoFisher Scientific社製) 10μMと大腸菌とを含むLB培地
試料3:細胞膜染色試薬FM4-64(ThermoFisher Scientific社製) 10μMと大腸菌とを含むLB培地
【0041】
油相として2% 008-FluoroSurfactantを含むNovec7500(オンチップバイオテクノロジーズ社製)を使用した。W/Oドロップレット作製装置としてOn-chip Droplet Generatorを用いて直径30μm程度のドロップレットを作製した。水相における大腸菌の濃度を、1ドロップレットあたりに含まれる平均細胞数が0.1細胞(0.1細胞/ドロップレット)となるように調整した。作製したドロップレット内で大腸菌を37℃で一晩静置培養した。
【0042】
(結果)
培養後のドロップレットを顕微鏡で観察すると、図1に示すように細胞膜染色試薬を含む試料2及び試料3では、大腸菌が増殖したドロップレットが強く蛍光を示す様子が観察された。細胞膜染色試薬の蛍光を測定することでW/Oドロップレット内の大腸菌の増殖を検出できることが示された。
【0043】
(試験例2:細胞膜染色試薬によって検出できる大腸菌細胞数の検討)
細胞膜染色試薬の強度と自家蛍光の強度とを比較し、細胞膜染色試薬を用いることにより検出感度が向上するかを検討した。水相として次の試料4~9を使用した。
試料4:LB培地
試料5:大腸菌を含むLB培地
試料6:FM1-43 10μMを含むLB培地
試料7:FM1-43 10μMと大腸菌とを含むLB培地
試料8:FM4-64 10μMを含むLB培地
試料9:FM4-64 10μMと大腸菌とを含むLB培地
【0044】
油相として2% 008-FluoroSurfactantを含むNovec7500を使用し、試験例1と同様に直径30μm程度のドロップレットを作製した。試料5、7及び9における大腸菌の濃度は、10細胞/ドロップレット、50細胞/ドロップレット及び100細胞/ドロップレットとなるようにした。作製したドロップレットを37℃で一晩静置培養した。ドロップレット作製直後にOn-chip Sort(オンチップバイオテクノロジーズ社製)を用いて蛍光強度を測定した。
【0045】
(結果)
図2(A)に示すように、細胞膜染色試薬を含まないドロップレットでは、大腸菌の細胞数の違いを自家蛍光による蛍光強度で区別できなかった。一方、図2(B)及び図2(C)にそれぞれ示すFM1-43及びFM4-64を含むドロップレットでは、大腸菌の細胞数に応じて蛍光強度が強くなっており、10細胞以上の大腸菌を含むドロップレットで、蛍光強度の細胞数に応じた上昇を検出できた。
【0046】
(試験例3:細胞膜染色試薬を用いた環境微生物の検出)
細胞膜染色試薬を用いて土壌に含まれる様々な種類の微生物を培養したときの細胞増殖を検出できるか検討した。水相としてFM1-43 10μMと土壌微生物とを含むLB培地及びFM4-64 10μMと土壌微生物とを含むLB培地を使用した。油相として2% 008-FluoroSurfactantを含むNovec7500を使用した。Water-in-oilドロップレット作製装置としてOn-chip Droplet Generatorを用いて直径100μm程度のドロップレットを作製した。作製したドロップレット内で土壌微生物を25℃で一晩静置培養した。
【0047】
(結果)
図3に顕微鏡で観察したドロップレットの画像を示す。両方の試料において、土壌微生物が増殖したドロップレットで蛍光が強くなった様子が顕微鏡下で観察された。
【0048】
(試験例4:細胞膜染色試薬を用いた油脂酵母の検出)
真核生物である油脂酵母(Lipomyces starkeyi)の細胞増殖を検出できるか検討した。水相として油脂酵母(100細胞/ドロップレット)と、各種染色試薬(FM1-43 10μM(色素#1とする)、Cell Navigator(商標、以下同じ) Green(AAT社製) 500倍希釈(色素#2とする)、PlasMem Bright Green(Dojindo社製) 200倍希釈(色素#3とする)、FM4-64 10μM(色素#4とする)、CellMask(商標、以下同じ) Orange(Invitrogen社製) 1000倍希釈(色素#5とする)、MemGlow(商標、以下同じ) 560(フナコシ社製) 20μM(色素#6とする))と、を含むPBS懸濁液を使用した。比較のために、油脂酵母を含まない試料を用いた。なお、色素#6は、脂質二重膜への結合前は自己消光ナノ粒子の形成により蛍光が最小限に抑制されているが、脂質二重膜との相互作用によって蛍光強度が増大する色素である。
【0049】
油相として2% 008-FluoroSurfactantを含むNovec7500を使用した。Water-in-oilドロップレット作製装置としてDroplet Generatorを用いて直径120μm程度のドロップレットを作製した。ドロップレット作製直後にOn-chip Sortを用いて個々のドロップレットについて蛍光強度を測定した。
【0050】
(結果)
図4及び図5に、それぞれ緑色蛍光を発色する色素及び赤色蛍光を発色する色素の結果を示す。FM1-43(色素#1)及びFM4-64(色素#4)を含むドロップレットにおいては、油脂酵母の存在に応じて蛍光強度が強くなっていた。一方、その他の色素#2、#3、#5及び#6ではドロップレット内における染色強度自体が十分でなかったり、バックグラウンドが高くなりすぎたりするなど、油脂酵母の存在を明瞭に判別することができなかった。
【0051】
上述した実施の形態は、本発明を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。すなわち、本発明の範囲は、実施の形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。そして、特許請求の範囲内及びそれと同等の発明の意義の範囲内で施される様々な変形が、本発明の範囲内とみなされる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、微生物の有無の検査及び微生物の分取並びに分析に好適である。
図1
図2
図3
図4
図5