IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 住友金属鉱山株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-有価金属の回収方法 図1
  • 特開-有価金属の回収方法 図2
  • 特開-有価金属の回収方法 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024018166
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】有価金属の回収方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 3/44 20060101AFI20240201BHJP
   C22B 11/00 20060101ALI20240201BHJP
   C22B 30/02 20060101ALI20240201BHJP
   C22B 25/00 20060101ALI20240201BHJP
【FI】
C22B3/44
C22B11/00 101
C22B30/02
C22B25/00 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022121328
(22)【出願日】2022-07-29
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】永井 秀昌
(72)【発明者】
【氏名】栗本 広大
(72)【発明者】
【氏名】土岐 典久
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA21
4K001AA24
4K001AA26
4K001AA41
4K001BA21
4K001DB17
4K001HA10
(57)【要約】
【課題】少なくとも、白金、テルル、アンチモン、及びスズを含有する排水から有価金属を回収する方法において、排水中の白金を、アンチモンやスズと効率的にかつ効果的に分離して回収することができる方法を提供する。
【解決手段】本発明は、少なくとも、白金、テルル、アンチモン、及びスズを含有する排水から有価金属を回収する方法であって、その排水に対して、ヒドラジンを含む還元剤を添加して還元処理する工程を含み、排水100Lに対するヒドラジン純分の添加量を、1.10×60/100L以下とする。処理対象の排水は、銅電解スライムに含まれる白金族元素を濃縮して得られる白金族元素濃縮物を精製して白金族元素を回収する精製工程と、精製工程を経て得られる残液中に残存する白金族元素を濃縮して白金族澱物を得る排水処理工程と、を経て、白金族澱物を分離した後の排水を含む。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、白金、テルル、アンチモン、及びスズを含有する排水から有価金属を回収する方法であって、
前記排水に対して、ヒドラジンを含む還元剤を添加して還元処理する工程を含み、
前記排水100Lに対する前記ヒドラジン純分の添加量を、1.10×60/100L以下とする、
有価金属の回収方法。
【請求項2】
前記排水は、銅電解スライムに含まれる白金族元素を濃縮して得られる白金族元素濃縮物を精製して該白金族元素を回収する精製工程と、該精製工程を経て得られる残液中に残存する白金族元素を濃縮して白金族澱物を得る排水処理工程と、を経て、該白金族澱物を分離した後の排水を含む、
請求項1に記載の有価金属の回収方法。
【請求項3】
前記排水100Lに対する前記ヒドラジン純分の添加量を、0.90×60/100L以上とする、
請求項1又は2に記載の有価金属の回収方法。
【請求項4】
前記ヒドラジンは、濃度60%の溶液である、
請求項1又は2に記載の有価金属の回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅電解スライム等を処理して得られる排水から有価金属を回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
銅製錬プロセスにおける銅電解工程では、主要産物として電気銅が、また中間産物として銅電解スライムが得られる。
【0003】
中間産物の銅電解スライムには、銅精鉱中に含まれる金(Au)、銀(Ag)、白金族(PGM)、セレン(Se)、テルル(Te)等の有価金属が濃縮されており、塩素浸出、溶媒抽出等の処理を組み合わせた工程(以下、「有価金属回収工程」ともいう)で処理することにより、それら有価金属を分離回収することができる。
【0004】
有価金属回収工程では、初期に貴金属を回収することで、系内に貴金属が滞留する期間を短くして金利負担を軽減するように設計することが一般的である。
【0005】
例えば、特許文献1には、銅電解スライムから貴金属を回収する際に、銅電解スライムを塩素浸出して、金、白金族元素、セレン、テルルを浸出した浸出液を得て、次に、その浸出液から金を抽出し、還元することで金を単体として回収し、その後、金を抽出した後の抽残液から白金族元素を抽出して濃縮した中間生成物(以下、「白金族元素濃縮物(PGM濃縮物、PGMconc.)」ともいう)を得て、残部から更にセレン、テルル等を順次回収する技術が開示されている。
【0006】
なお、図1は、銅電解スライムから有価金属を回収する全体フローを示す図である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001-207223号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した特許文献1に開示の技術は、銅電解スライムから簡単な湿式処理の操作のみによって、金、白金族元素、セレン、テルルを、選択的にかつ高収率で回収することができる有用な技術である。
【0009】
ところで、このような従来の技術において、図2に示すように、白金族元素濃縮物を精製するPGM精製工程にて白金族元素を回収した残液であるPGM精製排液には、回収しきれなかった白金族元素が含まれている。そこで、この白金族元素を回収するために、PGM排水処理工程にて白金族元素を濃縮し、得られるPGM排水澱物を系内で繰り返し処理するようにしている。
【0010】
一方、塩素浸出、AuSb-SX、Pd-SX、Bi-SX等のステップが含まれるPGM精製前処理工程の中の「AuSb-SX工程」からの排水であるAuSb-SX逆抽液(以下、「PGM排水」とする)には、白金、テルルのほか、不要物元素であるアンチモンやスズが含まれている。
【0011】
例えば、PGM排水をPGM排水処理工程にて処理するとした場合、PGM排水澱物中のアンチモンやスズの品位が高くなり、このことがPGM排水澱物を繰り返し処理する際の不純物負荷の増加や浸出時の濾過性悪化の原因となる。そのため、PGM排水については、テルル回収工程にて処理するしかなく、その結果、PGM排水に含まれる白金をロスせざるを得ないのが実情であった。
【0012】
なお、テルル回収工程では、銅電解スライムから貴金属を回収した後のセレン回収後液中のテルルや残留したセレンを、亜硫酸ガスの還元力を利用して還元することで澱物として回収している。このとき、併せて工程内の貴金属やセレン、テルルを含有した排液を処理することで、貴金属やセレン、テルル等を回収している。
【0013】
本発明は、このような従来の実情に鑑みて提案されたものであり、銅電解スライム等を処理して得られる排水であって、少なくとも、白金、テルル、アンチモン、及びスズを含有する排水から有価金属を回収する方法において、排水中の白金を、アンチモンやスズと効率的にかつ効果的に分離して回収することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、白金、テルル、アンチモン、及びスズを含有する排水に対して、還元剤としてヒドラジンを使用し、そのヒドラジンを「特定の添加量」で添加して還元処理することで、白金を優先的にかつ高い還元率で還元でき、一方で、アンチモンやスズの還元を抑えることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
(1)本発明の第1の発明は、少なくとも、白金、テルル、アンチモン、及びスズを含有する排水から有価金属を回収する方法であって、前記排水に対して、ヒドラジンを含む還元剤を添加して還元処理する工程を含み、前記排水100Lに対する前記ヒドラジン純分の添加量を、1.10×60/100L以下とする、有価金属の回収方法である。
【0016】
(2)本発明の第2の発明は、第1の発明において、前記排水は、銅電解スライムに含まれる白金族元素を濃縮して得られる白金族元素濃縮物を精製して該白金族元素を回収する精製工程と、該精製工程を経て得られる残液中に残存する白金族元素を濃縮して白金族澱物を得る排水処理工程と、を経て、該白金族澱物を分離した後の排水を含む、有価金属の回収方法である。
【0017】
(3)本発明の第3の発明は、第1又は第2の発明において、前記排水100Lに対する前記ヒドラジン純分の添加量を、0.9×60/100L以上とする、有価金属の回収方法である。
【0018】
(4)本発明の第4の発明は、第1又は第2の発明において、前記ヒドラジンは、濃度60%の溶液である、有価金属の回収方法である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、排水中の白金を、アンチモンやスズと効率的にかつ効果的に分離して回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】銅電解スライムから有価金属を回収する全体フローを示す図である。
図2】白金族元素濃縮物を精製して白金族元素を回収する精製工程と、その精製工程から得られる残液中に残存する白金族元素を濃縮して白金族澱物を得る排水処理工程と、を経て排水(PGM排水)が回収される過程を示す工程図である。
図3】PGM排水100Lに濃度60%ヒドラジン溶液を徐々に添加することで還元処理を施したときの、PGM排水中の各元素の還元率をプロットしたグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施の形態」ともいう)について詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0022】
本実施の形態に係る方法は、少なくとも、白金(Pt)、テルル(Te)、アンチモン(Sb)、及びスズ(Sn)を含有する排水から有価金属を回収する方法である。例えば、処理対象の排水は、銅製錬プロセスにおける銅電解工程にて中間産物として得られる銅電解スライムに対して精製処理等を施して排出される排水が挙げられる。
【0023】
具体的に、本実施の形態に係る方法における処理対象の排水は、銅電解スライムに含まれる白金族元素を濃縮して得られる白金族元素濃縮物(PGM濃縮物)を精製して白金族元素を回収する精製工程と、精製工程を経て得られる残液中に残存する白金族元素を濃縮して白金族澱物を得る排水処理工程と、を経て回収され、その白金族澱物を分離した後の排水(PGM排水)を含むものとすることができる。
【0024】
PGM排水は、下記表1に組成の一例を示すように、Pt、Sb、Snが主成分として構成されるものであり、その他は不要物である鉄(Fe)を除いて、還元によって回収の可能性がある濃度であるTeが含まれている。PGM排水としては、特に限定されないが、Ptの含有量が0.1g/L以上のものであることが、詳しくは後述する還元処理の反応性の観点から好ましい。
【0025】
【表1】
【0026】
従来、PGM排水に残存したPtを還元して回収しようとした場合、回収対象であるPtだけでなく、SbやSn等の不純物元素も同時に還元されてしまい、Ptを濃縮して生成した沈澱物にはSbやSnが混入する可能性があった。そのことから、PGM排水についてはテルル(Te)回収工程にて処理され、Teだけが回収されることとなり、PGM排水中のPt等の有価金属は回収ロスとなっていた。
【0027】
そこで、このような実情に鑑みて本発明者らが鋭意検討した結果、還元剤としてヒドラジンを使用し、そのヒドラジンを特定の添加量で添加して還元処理することで、PGM排水中のPtを優先的に還元でき、次にTeが良好に還元されて、SbやSnの還元は進まないことを見出した。言い換えると、上記の表1に示したような組成液に、特定範囲の添加量のヒドラジンを添加することで、Ptが優先的に還元されて、SbとSnの還元は後回しになることを発見した。
【0028】
すなわち、本実施の形態に係る方法では、PGM排水に対してヒドラジンを含む還元剤を添加して還元処理する工程(還元工程)を含む。そして、その還元工程において、PGM排水100Lに対し、そのヒドラジンを含む還元剤を、ヒドラジン純分の添加量で、1.10×60/100L以下の割合で添加することを特徴としている。
【0029】
このように、PGM排水100Lに対して、ヒドラジン純分の添加量で、1.1×60/100L以下の割合で添加して還元処理することで、PGM排水に含まれるPtを優先的にかつ高い還元率で効果的に還元することができ、一方で、SbとSnの還元を抑えることができる。これにより、Ptが濃縮した沈澱物へのSbやSnの混入を防ぐことができる。そして、Ptの回収ロスを効果的に減らすことができる。
【0030】
還元工程におけるヒドラジンを含む還元剤の添加量は、上述したように、ヒドラジン純分の添加量で、1.10×60/100L以下の割合とする。例えば、濃度60%のヒドラジン溶液を用いた場合、PGM排水100Lに対するヒドラジン純分の添加量を1.10L以下とする。
【0031】
ここで、図3に、PGM排水100Lに、濃度60%のヒドラジン溶液を徐々に添加することで還元処理を施したときの、各元素の還元率をプロットしたグラフを示す。
【0032】
図3のグラフにおいて、まず、Pt、Sb、及びSnに注目する。すると、Ptは、還元剤であるヒドラジンを添加することで、95%以上の還元率で還元することが示され、ヒドラジンの添加量(PGM排水100Lに対する添加比率)が1.00を超えれば、ほぼ全量が還元されることがわかる。しかしながら一方で、ヒドラジンの添加量が1.10を超えると、SbやSnが還元され始めることがわかる。
【0033】
また、Teに注目すると、Teは、還元剤であるヒドラジンを添加すると、その添加比率が0.50以下の低い範囲ではその還元率が50%以下と不十分な還元となるが、添加比率が0.90を超えるとその還元率が95%以上となることがわかる。
【0034】
また、PGM排水100Lに対するヒドラジン純分の添加量の下限値としては、0.90×60/100L以上とすることが好ましい。例えば、濃度60%のヒドラジン溶液を用いた場合では、添加量の下限値は0.90L以上となる。図3のグラフに示されるように、PGM排水100Lに対するヒドラジン純分の添加量を0.90×60/100L以上とすることで、Ptの還元率を98%以上とすることができる。さらに、テルルの還元率についても95%以上の高い割合とすることができ、Teの市場価格等を勘案しながらヒドラジンによる還元処理後の残液を必ずしもテルル回収工程にて処理する必要がなくなる可能性があるため、その結果処理効率を向上させることができ、より好ましい。
【0035】
還元剤であるヒドラジン(溶液)としては、特に限定されない。例えば、入手が容易であるという点で、濃度60%のヒドラジン溶液を用いることができる。
【実施例0036】
以下、本発明の実施例を示してより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0037】
銅製錬プロセスにおける銅電解工程から得られた中間産物である銅電解スライムに対して、白金族元素濃縮物(PGM濃縮物)を精製して白金族元素を回収する精製工程と、その精製工程を経て得られる残液中に残存する白金族元素を濃縮して白金族澱物を得る排水処理工程と、を行い、白金族澱物を分離した後の排水(PGM排水)を回収した。下記表2に、PGM排水の組成を示す。
【0038】
【表2】
【0039】
回収したPGM排水を処理対象として、そのPGM排水に濃度60%のヒドラジン溶液を添加して還元処理を行った。各実施例、比較例における濃度60%ヒドラジン溶液(純分)の添加量(PGM排水100Lに対する添加比率)は、下記表3に示す通りとした。
【0040】
下記表3に、ヒドラジン溶液を用いた還元処理による、PGM排水中の各元素の還元率の結果を示す。
【0041】
【表3】
【0042】
表2の結果に示されるように、PGM排水100Lに対してヒドラジン純分の添加量を1.10L以下とすることで、不純物元素であるアンチモン(Sb)やスズ(Sn)の還元を抑えて、白金(Pt)及びテルル(Te)を優先的に還元できることがわかる。
【0043】
また、好ましくは、PGM排水100Lに対してヒドラジン純分の添加量を0.90L以上とすることで、Pt及びTeをより効果的に還元できることがわかる。
図1
図2
図3