(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024018237
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】バイオセンサおよびバイオセンサの製造方法
(51)【国際特許分類】
C12M 1/34 20060101AFI20240201BHJP
C01B 32/182 20170101ALI20240201BHJP
B81B 1/00 20060101ALI20240201BHJP
B81C 1/00 20060101ALI20240201BHJP
C07K 2/00 20060101ALN20240201BHJP
【FI】
C12M1/34 Z
C01B32/182
B81B1/00
B81C1/00
C07K2/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022121437
(22)【出願日】2022-07-29
(71)【出願人】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】599011687
【氏名又は名称】学校法人 中央大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大嶋 梓
(72)【発明者】
【氏名】山口 真澄
(72)【発明者】
【氏名】上野 祐子
【テーマコード(参考)】
3C081
4B029
4G146
4H045
【Fターム(参考)】
3C081AA01
3C081AA11
3C081BA21
3C081CA02
3C081CA23
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3C081DA05
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3C081EA01
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4B029AA07
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4G146AA01
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4H045AA10
4H045AA40
4H045BA60
4H045BA62
4H045EA50
(57)【要約】
【課題】脂質二分子膜内の分子を流れるイオンの高感度検出が可能であり、脂質二分子膜を任意の位置にパターニングおよび集積化することができるバイオセンサを提供する。
【解決手段】固体基板、前記固体基板上に設けられたグラフェン膜、前記グラフェン膜上に設けられたリンカー分子、前記リンカー分子に結合した親水性ポリマー、および、前記親水性ポリマーに結合した脂質二重膜分子、を備えたバイオセンサおよびその製造方法である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体基板、
前記固体基板上に設けられたグラフェン膜、
前記グラフェン膜上に設けられたリンカー分子、
前記リンカー分子に結合した親水性ポリマー、および、
前記親水性ポリマーに結合した脂質二分子膜、
を備えたバイオセンサ。
【請求項2】
前記リンカー分子はピレン骨格を有する分子である、請求項1に記載のバイオセンサ。
【請求項3】
前記親水性ポリマーはポリエチレンイミン、ポリエチレングリコール、タンパク質またはタンパク質由来のポリペプチドである、請求項1または2に記載のバイオセンサ。
【請求項4】
固体基板上にグラフェン膜を設けるグラフェン形成工程、
前記グラフェン膜上にリンカー分子を設けるリンカー形成工程、
前記リンカー分子に親水性ポリマーを結合させる親水性ポリマー形成工程、および
前記親水性ポリマーに脂質二分子膜を結合させる脂質二分子膜形成工程、
を備えたバイオセンサの製造方法。
【請求項5】
前記グラフェン形成工程についで、
前記グラフェン層上にレジスト層を形成するレジスト層形成工程、
前記レジスト層にパターンを形成するパターン形成工程、および、
前記親水性ポリマー形成工程についで、
前記レジスト層を除去するレジスト層除去工程、
を備えた、請求項4に記載のバイオセンサの製造方法。
【請求項6】
前記パターン形成工程は、リソグラフィ法により行う、請求項5に記載のバイオセンサの製造方法。
【請求項7】
前記脂質二分子膜形成工程は、電解形成法により行う、請求項4または5に記載のバイオセンサの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体膜中における分子の挙動を調べるバイオセンサおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微小なマイクロチップの表面で、人工生体膜中における膜タンパク質の動作を調べるセンサデバイスや、膜タンパク質の機能を利用するためのバイオデバイスの研究が精力的に行われている。
【0003】
このようなマイクロデバイスとしては、例えば、非特許文献1には、マイクロチップの固体表面に、膜タンパク質の機能を維持するために必要である生体膜を模した流動性のある人工脂質二分子膜を形成したものが開示されている。
【0004】
一方、二次元層状物質のグラフェンは、機能性炭素材料として電子デバイス分野などで注目されている。グラフェンの特徴として、物理的に大変強固であり、熱伝導度、電子移動度が極めて高い材料であること、また、化学的にも熱的な安定性が非常に高いこと等が知られている。これらの特徴から、グラフェンは、次世代の電子材料として、電極、化学センサ、バイオセンサを初めとする、様々なデバイスの技術分野への応用が期待されている。
【0005】
グラフェンの製造方法として、例えば特許文献1は、固体基板の一方または両方の主面に、芳香族低分子からなる接着層を形成する接着層形成工程と、金属基板に成長させたグラフェン膜を、前記接着層上に転写するグラフェン膜転写工程と、を有するグラフェン膜の保持方法を開示している。この技術は、製造過程における損傷の少ない状態で、効率的かつ容易にグラフェンを保持することを可能とする、グラフェン膜の保持方法を提供し、また、製造過程における損傷の少ない状態のグラフェン膜を備えた、構造体を提供しようとするものである。
また、例えば、非特許文献2~4では、酸化グラフェンを親水化処理する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Groves et al., Acc. Chem. Res. 2002, 35, 149-157.
【非特許文献2】Huang et al., Adv. Funct. Mater. 2015, 25, 5809-5815.
【非特許文献3】Wang et al., Polymer 205 (2020), 122851.
【非特許文献4】Mao et al., RSC Adv., 2016, 6, 111632-111639.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは、グラフェンと脂質二分子膜の性質に着目した。すなわち、二次元層状物質のグラフェンは電気特性に優れ、バイオセンサの電極として幅広い応用が見込まれる。このグラフェン上に脂質二分子膜を形成し膜タンパク質を導入すると、膜タンパク質を流れるイオンの高感度検出が可能となり、定量評価が期待できる。また脂質二分子膜を任意の位置にパターニング・集積化することができれば多チャンネル同時測定系の構築が可能となることが期待される。
【0009】
しかしながら、グラフェンの表面は疎水性であるため、親水表面で二重膜構造を形成し流動性を維持する脂質膜を配置することが困難であった。例えば、非特許文献2-4に示されているように、酸化グラフェンでは親水化処理の報告例があるが、単層グラフェンでは表面への化学修飾というwetな化学反応プロセス(種々の薬品や溶媒への暴露、洗浄または乾燥など)に耐えるようにグラフェンを固体基板に担持しておく技術が欠けていた。またグラフェンは疎水性の膜であるため、親水性ポリマーの修飾に用いる水を含んだ環境では、このようなダメージが特に大きく固体基板からはがれやすい。酸化グラフェンは官能基があるため水溶液中に安定に分散するが、グラフェン膜はそのような官能基をもたないため、溶液分散法を使用することができない。
【0010】
上記事情に鑑み、本発明は、脂質二分子膜内の分子を流れるイオンの高感度検出が可能であり、脂質二分子膜を任意の位置にパターニングおよび集積化することができるバイオセンサを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様は、固体基板、前記固体基板上に設けられたグラフェン膜、前記グラフェン膜上に設けられたリンカー分子、前記リンカー分子に結合した親水性ポリマー、および、前記親水性ポリマーに結合した脂質二分子膜、を備えたバイオセンサである。
【0012】
本発明の一態様は、固体基板上にグラフェン膜を設けるグラフェン形成工程、前記グラフェン膜上にリンカー分子を設けるリンカー形成工程、前記リンカー分子に親水性ポリマーを結合させる親水性ポリマー形成工程、および前記親水性ポリマーに脂質二分子膜を結合させる脂質二分子膜形成工程、を備えたバイオセンサの製造方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、脂質二分子膜内の分子を流れるイオンの高感度検出が可能であり、脂質二分子膜を任意の位置にパターニングおよび集積化することができるバイオセンサを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】第1の本実施形態に係るバイオセンサの側面概略図である。
【
図2】第2の本実施形態に係るバイオセンサの側面概略図である。
【
図3】第2の実施形態のバイオセンサの製造方法を示す側面概略図である。
【
図4】ポリエチレンイミン修飾グラフェン基板上に形成した脂質二分子膜のローダミン由来の蛍光回復曲線を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係るバイオセンサ及びその製造方法について、実施形態を示して説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0016】
<第1の実施形態>
(本実施形態のバイオセンサの構成)
図1は、本実施形態に係るバイオセンサ1の側面概略図である。バイオセンサ1は、固体基板2、グラフェン膜3、リンカー分子4、親水性ポリマー5、および脂質二分子膜6を備える。
【0017】
固体基板2は、デバイスを形成する基板である。また、グラフェン膜3を形成する対象となる部材である。固体基板2の構成素材は、プラスチック、ガラス、石英またはシリコンなどから選択することができる。また、固体基板2は、表面が平坦な形状とするのが好ましい。具体的には、グラフェン膜3との接着部が形成される側にSiO2等の酸化膜が形成された、酸化膜付シリコン基板などを用いることができる。図に示した形態では、固体基板2としてほぼ表面が平坦なガラス板を使用している。
【0018】
グラフェン膜3は、グラフェンからなる層である。グラフェンは二次元に配列したSP2結合の炭素が単原子膜状となった物質であり、膜1枚のグラフェンの厚みは原子1層分で、およそ1nmである。グラフェン膜3の1層を構成するグラフェンは、連続した1枚膜でも複数の膜をパッチワーク状に貼り合わせた形態でもよい。グラフェン膜3を構成するグラフェンの層数については、特に限定されないが、1~5層程度であることが好ましい。
【0019】
グラフェン膜3は、固体基板2上に従来知られた手段を用いて設けることができる。本実施形態では、別の金属基板上に化学気相成長法(CVD法)等を用いて成長させたグラフェン膜3を転写している。グラフェン膜3は、例えば特許文献1に記載の構成で設けられていてもよい。
【0020】
リンカー分子4は、グラフェン膜3と親水性ポリマー5を接着するための分子である。接着は、化学的な結合であっても、物理的な付着であってもよい。リンカー分子4は、疎水性のグラフェン膜3と親水性の親水性ポリマー5のいずれとも接着可能な構造を有することが好ましい。このような化合物には、例えば疎水的な骨格と、親水的な基の両方を備える化合物を用いることができる。
【0021】
リンカー分子4は、グラフェン膜3上の少なくとも一部に設けられている。リンカー分子4を設ける部位は、後述する親水性ポリマー5を設ける部位、すなわち脂質二分子膜6を設ける状態によって適宜選択できる。図に示した例では、リンカー分子4は親水性ポリマー5が設けられた部位のみ図示されているが、リンカー分子4はより広くグラフェン膜3上を覆うように設けてもよい。
【0022】
リンカー分子4には、ピレン骨格を有する分子を用いてもよい。ピレン骨格を有する分子とは、ピレン構造を一部に備える分子である。
リンカー分子4にピレン骨格を有する分子を用いることで、複数の六員環からなるピレン構造が、炭素がSP2結合しいわゆる六角形格子構造をとったグラフェンの構造と親和性が高く、グラフェンと接着しやすい効果がある。
本実施形態では、ピレン骨格を有する分子として、ピレンブタン酸を用いている。
【0023】
グラフェン膜3上にリンカー分子4を設ける構造、すなわち、グラフェン膜3とリンカー分子4とが接着する構造としては、リンカー分子4の構造に応じて適宜選択できる。例えば、リンカー分子4にピレンブタン酸を用いる場合、ピレンブタン酸のブタン酸構造側を後述するように活性化した後、有機溶媒で溶液とし、グラフェン膜3上に滴下することでリンカー分子4を接着させてもよい。
【0024】
親水性ポリマー5は、親水性を有する高分子である。親水性ポリマー5を構成する化合物は適宜選択でき、例えば炭化水素重合高分子、またペプチド重合高分子などであってもよく、単独重合体でも共重合体でもよい。これらの例としては、炭化水素重合高分子としてはポリエチレンイミン、ポリエチレングリコールなどを用いることができる。ペプチド重合高分子としては、タンパク質またはタンパク質由来のポリペプチドを用いることができる。タンパク質由来の高分子としてさらに具体的には、アビジンやビオチン、またはその断片でもよい。
【0025】
親水性ポリマー5を備えることで、グラフェン膜3と脂質二分子膜6とが、親水性ポリマー5の分子量に相当する距離を隔てて接着する。すなわち、本実施形態のバイオセンサでは、グラフェン膜3と脂質二分子膜6とが親水性ポリマー5の大きさに相当する分子間距離を備えている。したがって、疎水性のグラフェン膜3と親水性の脂質二分子膜6との性質の異なる分子が分子間距離を隔てずに密着しているよりも、安定してグラフェン膜3と脂質二分子膜6を備える構造を保つことができる。
【0026】
親水性ポリマー5の分子量は、例えば、600~750000などから選択することができる。親水性ポリマー5がこの範囲であると、疎水性のグラフェン膜3と親水性の脂質二分子膜6との分子間距離が適切なものとなる。
【0027】
親水性ポリマー5をリンカー分子4に結合する手段は、これらの分子の構造に応じて適宜選択することができる。本実施形態では、リンカー分子4のピレンブタン酸のCOOH基をスクシンイミドで活性化して親水性ポリマー5と結合させている。
【0028】
脂質二分子膜6は、脂質分子62の2分子を構成単位とし、この構成単位が配列して形成された膜である。具体的には、図に示すように、親水性および疎水性部位を有する脂質分子62が2分子、疎水性部位を向かい合わせとして構成単位を形成し、この構成単位が略平行に配列して膜となっている構造である。換言すれば、脂質分子62が配列した膜が2膜、疎水性部位を対向するように重ね合わさっている。この構造のため、脂質二分子膜6の表面は膜の表裏とも親水性である。
脂質二分子膜6は、前記脂質分子の他の成分を含んでいることがある。例えば、重ね合わさった2膜の片方または両方を貫通するように膜タンパク質61を備えていることがある。図に示した例では、膜タンパク質61は2膜の両方を貫通している。
【0029】
脂質二分子膜6は、脂質分子62の種類に応じて適宜選択できる。例えば、ジオレオイルホスファチジルコリン(DOPC)などの不飽和脂質分子や、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)やなどの飽和脂質分子とコレステロールを構成材料とすることが好ましい。また、脂質分子62の種類は、1種類でも多種類が混合されていても構わない。
【0030】
脂質二分子膜6は、後述するように、例えば、脂質分子62から構成される脂質膜ベシクルを親水性ポリマー修飾グラフェン上に展開することで形成されている。
【0031】
(本実施形態のバイオセンサの効果)
本実施形態のバイオセンサ1は、グラフェン膜3と脂質二分子膜6を備えているので、脂質二分子膜内の分子を流れるイオンの高感度検出が可能である。
【0032】
本実施形態のバイオセンサ1は、リンカー分子4および親水性ポリマー5を介してグラフェン膜3と脂質二分子膜6が保持されているので、製造時にこの構成を好適に形成することができ、また、製造後もこの構成を維持しやすい。従来、グラフェン膜3と脂質二分子膜6を備えた構成を形成または維持するのは、グラフェン膜3が疎水性で脂質二分子膜6が親水性であるという性質上困難であった。本実施形態では、リンカー分子4および親水性ポリマー5を備えることで、グラフェン膜3と脂質二分子膜6を保持する構造を形成可能であり、また流動性を維持する脂質二分子膜6を配置することができる。
【0033】
本実施形態は、グラフェン膜3と脂質二分子膜6の2種類の二次元材料を合体した、新たなバイオ分析用電子デバイスを実現するための要素技術であり、バイオ・医療関連の研究ツールとしての応用や、同分野における産業応用が期待される。
【0034】
<第2の実施形態>
図2は、本実施形態に係るバイオセンサ1Aの側面概略図である。バイオセンサ1Aは、グラフェン膜3が、脂質二分子膜6が設けられておらず疎水性の部位3aと、脂質二分子膜6が設けられ親水性の部位3bとを有している。第1の実施形態と同じ構成については、同符号を付して説明を省略する。
【0035】
本実施形態では、バイオセンサ1Aのグラフェン層3上に後述の製造方法で説明するレジスト層を設け、レジスト層にリソグラフィ法等によって一定のパターンを形成した上で、リンカー分子4がパターンの部位に設けられてなる。その後、レジスト層は除去されている。
【0036】
すなわち、リンカー分子4の設けられた箇所に親水性ポリマー5および脂質二分子膜6が形成されているので、前記パターンの設けられた箇所が親水性の部位3b、設けられなかった箇所が疎水性の部位3aとなっている。
【0037】
本実施形態では、第1の実施形態の備えた効果に加えて、リンカー分子4はグラフェン膜3上にパターンを形成するように形成されることもでき、これにより親水性ポリマー5および脂質二分子膜6をグラフェン膜3上の任意の箇所に設けるようにすることができる。これにより、疎水性の部位3aと親水性の部位3bをともに有するグラフェン膜3を備えたバイオセンサ1Aとすることができ、その性質に応じた分析に応用することができる。脂質二分子膜6を任意のパターンで配置することができ、脂質二分子膜6の形態に応じた分析が可能である。
【0038】
(本実施形態のバイオセンサの製造方法)
ついで、第2の実施形態のバイオセンサの製造方法について説明する。
図2は、本実施形態のバイオセンサの製造方法を示す側面概略図である。
本実施形態のバイオセンサの製造工程は、固体基板上にグラフェン膜を設けるグラフェン形成工程、グラフェン膜上にリンカー分子を設けるリンカー形成工程、リンカー分子に親水性ポリマーを結合させる親水性ポリマー形成工程、および親水性ポリマーに脂質二分子膜を結合させる脂質二分子膜形成工程を備える。
また、本実施形態では、グラフェン形成工程についで、グラフェン層上にレジスト層を形成するレジスト層形成工程、レジスト層にパターンを形成するパターン形成工程、および、親水性ポリマー形成工程についで、レジスト層を除去するレジスト層除去工程を備える。
【0039】
グラフェン形成工程(図示せず)では、固体基板2や構成するグラフェン膜3の構成に応じて、従来知られた方法で行うことができる。前述したように、本実施形態では、別の金属基板上に化学気相成長法(CVD法)等を用いて成長させたグラフェン膜3を転写する。
【0040】
特に、グラフェン膜3は、例えば特許文献1に記載の構成で設けられていてもよい。この手段では、グラフェン膜3について表面処理プロセスを行う際に、例えば親水性ポリマー5で処理するなどの、水に含んだ処理に対してグラフェン膜3が剥がれる等が起こりづらい、グラフェン固体基板が得られる。このため、電極などのデバイスとして実用可能なサイズ(数mm四方以上)の固体基板2およびグラフェン膜3を生成することができる。
【0041】
ついで、本実施形態では、本実施形態では、グラフェン膜3上にリンカー分子4を設けない箇所であるレジスト層31を形成するレジスト層形成工程を行う。
図2(a)に示すように、本実施形態では、レジスト層31はグラフェン膜3の略全表面を覆うように形成する。レジスト層31の形成法は、従来知られた電子線レジストの形成法などを用いてもよい。
【0042】
ついで、
図2(b)に示すように、レジスト層31にパターン32を形成するパターン形成工程を行う。パターン32の形成は、例えばリソグラフィ法により行うことができる。具体的には、リソグラフィ法としては、フォトリソグラフィ法、または電子ビームリソグラフィ法を用いることができる。リソグラフィ法により、パターン32の形状を描画し、現像液により描画した箇所を除去することで、レジスト層31が除去された箇所としてパターン32を形成してもよい。
【0043】
ついで、
図3(c)に示すように、グラフェン膜3上にリンカー分子4を設けるリンカー形成工程、およびリンカー分子4に親水性ポリマー5を結合させる親水性ポリマー形成工程を行う。図は、リンカー形成工程および親水性ポリマー形成工程(疎水性のグラフェン膜3上に親水性ポリマー5が設けられるため、水化処理ともいう)を行った後である。
【0044】
リンカー形成工程において、グラフェン膜3上にリンカー分子4を設ける手段は、リンカー分子4の構造に応じて適宜行ってよい。例えば、リンカー分子4としてピレンブタン酸を用いた場合、リンカー分子4を有機溶媒、例えばジメチルホルムアミド等に溶解し、グラフェン膜3に滴下して、静置して反応を行わせた後、有機溶媒を除去してもよい。
また、親水性ポリマー形成工程に親水性ポリマー5をリンカー分子4に結合できるよう、リンカー分子4を活性化させてからグラフェン膜3上に設けてもよい。この操作は、ピレンブタン酸のCOOH基をスクシンイミドで活性化したピレンブタン酸スクシンイミドエステルとする等で行うことができる。
【0045】
親水性ポリマー形成工程において、親水性ポリマー5をリンカー分子4に結合する手段は、これらの分子の構造に応じて適宜選択することができる。本実施形態では、リンカー分子4の設けられた固体基板2に対して、親水性ポリマー5の水溶液を添加することで、親水性ポリマー5を前述の活性化したリンカー分子4に結合させてもよい。
【0046】
ついで、
図3(d)に示すように、レジスト層31を除去するレジスト層除去工程を行う。レジスト層31の除去は、例えば有機溶媒などの化学的な処理や、超音波などの物理的な処理、またはこれらの併用によって行うことができる。有機溶媒としては、例えばアセトンまたはメチルエチルケトン等を用いることができる。
【0047】
ついで、
図3(e)に示すように、親水性ポリマー5に脂質二分子膜を結合させる脂質二分子膜形成工程を行う。図に示した例では、脂質二分子膜は、パターンの形成によりグラフェン層3の全面を覆っておらず側面が途切れているので、脂質会合して袋状の二分子膜となった脂質膜ベシクルの形状となっている。
本実施形態では、脂質二分子膜として脂質膜ベシクルを別の電極基板上に作成し、ついで、固体基板2上に展開することで、脂質二分子膜6を結合させている。
【0048】
脂質膜ベシクルを作製する代表的な手法としては。静置水和法や電界形成法がある。ベシクルの作製手法は特に限定されないが,巨大なベシクルが作製しやすく,また反応時間や反応プロセスの簡易性から,電界形成法を採用することが好ましい。
電界形成法は,酸化インジウムスズ(ITO)などの電極上に,脂質分子を薄膜化した後,交流電場をかけて水溶液中に巨大脂質膜ベシクルを形成する手法である。サイズのそろったベシクルを得るためには、ITO基板上に厚さ数十nm~数μmの均一な脂質分子の薄膜を形成することが好ましく、また、交流電場は数百mV~2V程度の印加条件が好ましい。該電場範囲よりも低い電場強度では,ベシクルの収量が低く,該電場範囲よりも高い電場強度では、ベシクルの構造破壊や水の電気分解が生じ、ベシクルが製造できない可能性があるからである。
【0049】
脂質膜ベシクルを固体基板2上に展開するには、前記脂質膜ベシクルの分散液を固体基板2上に添加することで行うことができる。具体的には、固体基板2の略全面に中性の緩衝液を滴下し、さらに脂質膜ベシクル分散液を溶液中に滴下し、静置することで、脂質膜ベシクルを基板上に展開することができる。球状構造を有する脂質膜ベシクルは基板に衝突し、その球状構造が破壊されることで二分子膜を形成し、表面の親水基が親水性ポリマー5に結合する。
なお、このとき、球状構造の破壊を促進する試薬を用いても良い。例えばカルシウムなどの2価陽イオンや膜に穴を開けるペプチドなどを用いることができる。
【0050】
この実施形態の製造方法によれば、親水性ポリマー5がフォトリソグラフィ法や、電子ビームリソグラフィ法によって設けられていることによって、親水性ポリマー5はグラフェン膜3上の任意の位置に設けられている。すなわち、親水性ポリマー5上に後述する脂質二分子膜6が結合しているので、上記任意の位置に脂質二分子膜6が設けられている。グラフェン膜3上にレジスト層31およびパターン32を形成することで、リンカー分子4および親水性ポリマー5がグラフェン膜3上に疎水性を有する箇所を設けることができる。その結果、グラフェン膜3上に疎水面と親水面のそれぞれの領域ができ、グラフェン膜3上に脂質二分子膜のパターニングが行われている。その結果、任意のパターンの形状の脂質二分子膜6上の検査が可能となっている。
【0051】
他の実施形態として、例えば
図1では、複数の親水性ポリマー5に1つの脂質二分子膜6が結合し、その結果、図示では脂質二分子膜6がグラフェン膜3の略全面を覆うように構成されているが、この他に、脂質二分子膜6がグラフェン膜3の一部のみを覆うように形成されていてもよい。この構成は、親水性ポリマー5の相互の距離などの配置のパターンによって調整することができる。
【0052】
また、本実施形態の製造方法は第2の実施形態のバイオセンサ1Aの製造方法だが、レジスト層形成工程、パターン形成工程、および、レジスト層除去工程を省けば、第1の実施形態のバイオセンサ1の製造方法とすることもできる。
すなわち、親水性ポリマー5や脂質二分子膜6を設ける位置のパターニングを行う必要がない場合は、前記レジスト層形成、パターン形成工程またはレジスト層除去工程を省略し、グラフェン膜3に対して直接にリンカー形成工程、親水性ポリマー形成工程を行ってもよい。
【0053】
以上、この発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。
【実施例0054】
以下、実施例および比較例により、本発明の効果をより明らかなものとする。なお、本発明は、以下の実施例のみに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施できるものである。
【0055】
<親水性高分子ポリマー修飾グラフェン基板の作製>
固体基板として、18×18mm2のカバーガラス表面に、銅箔上に化学気相成長したグラフェンを転写した。
次に、グラフェン表面に親水性ポリマーを固定するためのリンカー分子(接着分子)として、ピレンブタン酸を導入した。ピレンブタン酸のCOOH基をスクシンイミドで活性化したピレンブタン酸スクシンイミドエステルの0.5mMジメチルホルムアミド溶液を、グラフェン表面に滴下して1時間静置した後、ジメチルホルムアミドで洗浄し、風乾した。
【0056】
次いで、親水性ポリマーであるポリエチレンイミンを0.3%溶解した水溶液をグラフェン上に滴下した。
ポリエチレンイミンの親水効果を評価するため、ポリエチレンイミン修飾あり・なしでグラフェン表面の接触角を評価したところ、修飾なしでは75-80°、修飾ありでは55-60°と接触角が変化した。この結果から、修飾による親水化が確認された。
【0057】
<巨大脂質膜ベシクルの作製および基板への展開>
脂質二分子膜は以下のように形成した。ジオレオイルホスファチジルコリン(DOPC)のクロロホルム溶液を調製した。その溶液内には,蛍光ラベル剤としてローダミン-ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン(Rhod-DOPE)を0.1モル%含有させた。続いて、ITO基板(ガラス上に膜厚100nmのITOが薄膜化された基板、サイズ40×40mm、50~100Λ)上に、前記クロロホルム溶液200μLを均一に塗布した。この基板を、室温で2時間、減圧乾燥して、クロロホルム溶媒を完全に除去することで、均一な脂質分子薄膜をITO基板上に形成した。その上に、窓部を有するシリコンゴム(外寸30×30mm、厚さ1mmのシリコンゴムを20×20mmのサイズでくり貫いた窓部を有する)を密着して配置し、窓部に200mMのスクロース水溶液500μLを滴下した。さらに,その上部にITO基板を気泡が入らないように配置し、シリコンゴム窓部にある溶液をITO基板で挟み込んだ。続いて、ITO基板にクリップ電極を接合し、室温で交流電場(正弦波、1V、10Hz)を2時間印加することで、電界形成法により巨大脂質膜ベシクルをスクロース溶液中に分散して形成させた。励起波長561nmを使用して蛍光観察を行った場合、脂質二分子膜内に一様に存在するローダミン分子の蛍光が観測されることで、脂質二分子膜の評価が可能である。
【0058】
ついで、ポリエチレンイミン修飾グラフェン基板にPBS緩衝液(pH7.4)を滴下した。さらに、前記巨大脂質膜ベシクル分散液を溶液中に滴下し、静置することで巨大脂質膜ベシクルを基板上に展開した。球状構造を有するベシクルは基板に衝突し、その球状構造が破壊されることで二分子膜を形成する。
【0059】
形成した脂質二分子膜が流動性を維持しているか、光褪色後蛍光回復法を用いて確認した。ある部分にレーザーを集光し、その部分を褪色(退色)させた後、その部分の蛍光の回復を観察する手法であり褪色した周りの分子が動ける箇所は膜が流動性を維持している。
図4は、ポリエチレンイミン修飾グラフェン基板上に形成した脂質二分子膜のローダミン由来の蛍光回復曲線である。褪色後、蛍光強度は回復しており、形成した脂質分子膜が流動性を維持していることが示された。以上の結果より、本手法でグラフェン表面に安定で流動性のある脂質二分子膜の保持が可能となることが示された。
本発明によれば、固体基板、前記固体基板上に設けられたグラフェン膜、前記グラフェン膜上に設けられたリンカー分子、前記リンカー分子に結合した親水性ポリマー、および、前記親水性ポリマーに結合した脂質二重膜分子、を備えたバイオセンサおよびその製造方法が得られる。
1,1A…バイオセンサ, 2…固体基板, 3…グラフェン膜, 3a…疎水性の部位, 3b…親水性の部位, 4…リンカー分子, 5…親水性ポリマー, 6…脂質二分子膜, 61…膜タンパク質, 31…レジスト層, 32…パターン, 62…脂質分子