(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024018309
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】設計支援装置、設計支援方法及び設計支援プログラム
(51)【国際特許分類】
G06F 30/20 20200101AFI20240201BHJP
G06F 111/08 20200101ALN20240201BHJP
【FI】
G06F30/20
G06F111:08
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022121561
(22)【出願日】2022-07-29
(71)【出願人】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【弁理士】
【氏名又は名称】平野 裕之
(74)【代理人】
【識別番号】100153040
【弁理士】
【氏名又は名称】川井 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】花岡 恭平
【テーマコード(参考)】
5B146
【Fターム(参考)】
5B146DC04
5B146DC05
5B146DE11
5B146DG02
5B146DL08
(57)【要約】
【課題】製品等の作製プロセスにおいて、目的変数を構成する特性項目の目標値を容易に設定する。
【解決手段】設計支援装置10は、製品等の設計パラメータ群と複数の特性項目の観測値とからなる実績データを複数取得するデータ取得部11と、設計パラメータ群に基づいて特性項目の観測値を予測する予測モデルを、実績データに基づいて構築するモデル構築部12と、各特性項目の観測値に関する目標値を取得する目標値取得部13と、予測モデルに基づいて設計パラメータ群を変数として算出され、全ての特性項目の目標値が達成される確率である全体達成確率を表す目標達成確率項を少なくとも含むスコア関数を構築するスコア関数構築部15と、スコア関数の最適化により全体達成確率を取得する目標達成確率取得部16と、全体達成確率を出力する出力部17とを備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の設計パラメータからなる設計パラメータ群に基づいて作製される製品、仕掛品、半製品、部品又は試作品の特性を示す複数の特性項目の観測値に関する目標値の設定を支援する設計支援装置であって、
作製済みの前記製品、前記仕掛品、前記半製品、前記部品又は前記試作品に関しての、前記設計パラメータ群と前記複数の特性項目のそれぞれの観測値とからなる実績データを複数取得するデータ取得部と、
前記設計パラメータ群に基づいて前記特性項目の観測値を確率分布若しくはその近似又は代替指標として予測する予測モデルを、前記実績データに基づいて構築するモデル構築部と、
各特性項目の観測値に関する目標値を取得する目標値取得部と、
前記予測モデルに基づいて前記設計パラメータ群を変数として算出され、全ての特性項目の前記目標値が達成される確率である全体達成確率を表す目標達成確率項を少なくとも含むスコア関数を構築するスコア関数構築部と、
前記スコア関数の最適化により前記全体達成確率を取得する目標達成確率取得部と、
前記全体達成確率を出力する出力部と、
を備える設計支援装置。
【請求項2】
前記目標値取得部は、前記複数の特性項目のうちの少なくとも一つの特性項目に関する前記目標値を、ユーザによる入力に基づいて取得する、
請求項1に記載の設計支援装置。
【請求項3】
前記目標値取得部は、前記複数の特性項目のうちの少なくとも一つの特性項目に関する目標値を、前記特性項目の目標値を予め記憶している所定のデータベースから取得する、
請求項1に記載の設計支援装置。
【請求項4】
前記出力部は、前記目標値取得部により取得された前記目標値を前記全体達成確率と共に出力する、
請求項1に記載の設計支援装置。
【請求項5】
前記目標値取得部は、前記複数の特性項目のうちの少なくとも一つの特性項目の観測値に関する前記目標値の範囲を取得し、
前記スコア関数構築部は、前記目標値の範囲内の各目標値に対応する前記スコア関数を構築し、
前記目標達成確率取得部は、各スコア関数の最適化を実施することにより、取得された前記目標値の範囲内の各目標値に対応する前記全体達成確率を取得し、
前記出力部は、設定された前記目標値の範囲内における、各目標値と対応する前記全体達成確率とを関連付けて出力する、
請求項4に記載の設計支援装置。
【請求項6】
前記目標達成確率取得部は、各特性項目の目標値の達成確率を取得し、
前記出力部は、各特性項目の目標値の前記達成確率を前記全体達成確率と共に出力する、
請求項1に記載の設計支援装置。
【請求項7】
前記設計パラメータ群に含まれる各設計パラメータのうちの少なくとも一つの設計パラメータの、前記スコア関数の最適化における探索の範囲である最適化範囲を取得する最適化範囲取得部であって、前記設計パラメータの最適化範囲は、該設計パラメータの値の上限値、下限値、上下限値及び固定値の少なくともいずれか一つにより規定される、最適化範囲取得部、を更に備え、
前記目標達成確率取得部は、取得された前記最適化範囲に基づいて前記スコア関数の最適化を実施する、
請求項1に記載の設計支援装置。
【請求項8】
前記モデル構築部は、複数の特性項目のうちの少なくとも一つの特性項目の前記予測モデルを、当該予測モデルを構成するパラメータの入力に基づいて構築する、
請求項1に記載の設計支援装置。
【請求項9】
前記目標達成確率取得部は、前記スコア関数の最適化により、前記全体達成確率を最大化する前記設計パラメータ群を取得し、
前記出力部は、前記全体達成確率を最大化する前記設計パラメータ群を出力する、
請求項1に記載の設計支援装置。
【請求項10】
複数の設計パラメータからなる設計パラメータ群に基づいて作製される製品、仕掛品、半製品、部品又は試作品の特性を示す複数の特性項目の観測値に関する目標値の設定を支援する設計支援装置における設計支援方法であって、
作製済みの前記製品、前記仕掛品、前記半製品、前記部品又は前記試作品に関しての、前記設計パラメータ群と前記複数の特性項目のそれぞれの観測値とからなる実績データを複数取得するデータ取得ステップと、
前記設計パラメータ群に基づいて前記特性項目の観測値を確率分布若しくはその近似又は代替指標として予測する予測モデルを、前記実績データに基づいて構築するモデル構築ステップと、
各特性項目の観測値に関する目標値を取得する目標値取得ステップと、
前記予測モデルに基づいて前記設計パラメータ群を変数として算出され全ての特性項目の前記目標値が達成される確率である全体達成確率を表す目標達成確率項を少なくとも含むスコア関数を構築するスコア関数構築ステップと、
前記スコア関数の最適化により前記全体達成確率を取得する目標達成確率取得ステップと、
前記全体達成確率を出力する出力ステップと、
を有する設計支援方法。
【請求項11】
コンピュータを、複数の設計パラメータからなる設計パラメータ群に基づいて作製される製品、仕掛品、半製品、部品又は試作品の特性を示す複数の特性項目の観測値に関する目標値の設定を支援する設計支援装置として機能させるための設計支援プログラムであって、
前記コンピュータに、
作製済みの前記製品、前記仕掛品、前記半製品、前記部品又は前記試作品に関しての、前記設計パラメータ群と前記複数の特性項目のそれぞれの観測値とからなる実績データを複数取得するデータ取得機能と、
前記設計パラメータ群に基づいて前記特性項目の観測値を確率分布若しくはその近似又は代替指標として予測する予測モデルを、前記実績データに基づいて構築するモデル構築機能と、
各特性項目の観測値に関する目標値を取得する目標値取得機能と、
前記予測モデルに基づいて前記設計パラメータ群を変数として算出され全ての特性項目の前記目標値が達成される確率である全体達成確率を表す目標達成確率項を少なくとも含むスコア関数を構築するスコア関数構築機能と、
前記スコア関数の最適化により前記全体達成確率を取得する目標達成確率取得機能と、
前記全体達成確率を出力する出力機能と、
を実現させる設計支援プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示の一側面は、設計支援装置、設計支援方法及び設計支援プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
機械学習を活用した製品設計が研究されている。製品設計の一分野として、例えば、機能性材料の設計においては、例えば、実験及び作製済みの材料に関する原材料配合比と特性とのペアからなる学習データとを用いた機械学習により材料の特性を推定するモデルを構築し、未実験の原材料配合比に対する特性の予測が行われている。このような特性の予測により実験計画を立てることにより、効率的に材料の特性及び原材料配合比等のパラメータを最適化することが可能となり、開発効率の向上が図られている。また、このような最適化の手法として、ベイズ最適化が有効であることが知られており、ベイズ最適化を用いて設計値を出力する設計装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、材料等の製品開発において、製品等の特性を示す特性項目の観測値に対して目標値が設定される。製品開発において、適切な目標値を設定することは、効率的に製品開発を進めたり、開発継続または中止を判断したり、開発方針変更等の意思決定をしたりする上で重要である。しかしながら、製品等が多くの特性項目を有し、設定すべき特性項目の目標値の数が多い場合には、適切な目標値を設定することは容易ではなかった。
【0005】
そこで、本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、製品、仕掛品、半製品、部品又は試作品の作製プロセスにおいて、目的変数を構成する特性項目の目標値を容易に設定することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の第1の一側面に係る設計支援装置は、複数の設計パラメータからなる設計パラメータ群に基づいて作製される製品、仕掛品、半製品、部品又は試作品の特性を示す複数の特性項目の観測値に関する目標値の設定を支援する設計支援装置であって、作製済みの製品、仕掛品、半製品、部品又は試作品に関しての、設計パラメータ群と複数の特性項目のそれぞれの観測値とからなる実績データを複数取得するデータ取得部と、設計パラメータ群に基づいて特性項目の観測値を確率分布若しくはその近似又は代替指標として予測する予測モデルを、実績データに基づいて構築するモデル構築部と、各特性項目の観測値に関する目標値を取得する目標値取得部と、予測モデルに基づいて設計パラメータ群を変数として算出され、全ての特性項目の目標値が達成される確率である全体達成確率を表す目標達成確率項を少なくとも含むスコア関数を構築するスコア関数構築部と、スコア関数の最適化により全体達成確率を取得する目標達成確率取得部と、全体達成確率を出力する出力部と、を備える。
【0007】
本開示の第1の一側面に係る設計支援方法は、複数の設計パラメータからなる設計パラメータ群に基づいて作製される製品、仕掛品、半製品、部品又は試作品の特性を示す複数の特性項目の観測値に関する目標値の設定を支援する設計支援装置における設計支援方法であって、作製済みの製品、仕掛品、半製品、部品又は試作品に関しての、設計パラメータ群と複数の特性項目のそれぞれの観測値とからなる実績データを複数取得するデータ取得ステップと、設計パラメータ群に基づいて特性項目の観測値を確率分布若しくはその近似又は代替指標として予測する予測モデルを、実績データに基づいて構築するモデル構築ステップと、各特性項目の観測値に関する目標値を取得する目標値取得ステップと、予測モデルに基づいて設計パラメータ群を変数として算出され全ての特性項目の目標値が達成される確率である全体達成確率を表す目標達成確率項を少なくとも含むスコア関数を構築するスコア関数構築ステップと、スコア関数の最適化により全体達成確率を取得する目標達成確率取得ステップと、全体達成確率を出力する出力ステップと、を有する。
【0008】
本開示の第1の一側面に係る設計支援プログラムは、コンピュータを、複数の設計パラメータからなる設計パラメータ群に基づいて作製される製品、仕掛品、半製品、部品又は試作品の特性を示す複数の特性項目の観測値に関する目標値の設定を支援する設計支援装置として機能させるための設計支援プログラムであって、コンピュータに、作製済みの製品、仕掛品、半製品、部品又は試作品に関しての、設計パラメータ群と複数の特性項目のそれぞれの観測値とからなる実績データを複数取得するデータ取得機能と、設計パラメータ群に基づいて特性項目の観測値を確率分布若しくはその近似又は代替指標として予測する予測モデルを、実績データに基づいて構築するモデル構築機能と、各特性項目の観測値に関する目標値を取得する目標値取得機能と、予測モデルに基づいて設計パラメータ群を変数として算出され全ての特性項目の目標値が達成される確率である全体達成確率を表す目標達成確率項を少なくとも含むスコア関数を構築するスコア関数構築機能と、スコア関数の最適化により全体達成確率を取得する目標達成確率取得機能と、全体達成確率を出力する出力機能と、を実現させる。
【0009】
このような側面によれば、実績データに基づいて予測モデルが構築され、各特性項目に関する目標値が取得され、取得された目標値及び予測モデルに基づいて、全体達成確率項を含むスコア関数が構築される。そして、スコア関数の最適化により、全体達成確率が取得及び出力される。従って、出力された全体達成確率の参照により、目標値が適切であるか否かを判断できるので、適切な目標値の設定が容易となる。
【0010】
第2の側面に係る設計支援装置では、第1の側面に係る設計支援装置において、目標値取得部は、複数の特性項目のうちの少なくとも一つの特性項目に関する目標値を、ユーザによる入力に基づいて取得することとしてもよい。
【0011】
このような側面によれば、ユーザは、各特性項目の目標値を容易に設定できる。従って、目標値の入力及び全体達成確率の出力を、入力する目標値を変えながら繰り返し行うことにより、容易に適切な目標値を設定することが可能となる。
【0012】
第3の側面に係る設計支援装置では、第1又は第2の側面に係る設計支援装置において、目標値取得部は、複数の特性項目のうちの少なくとも一つの特性項目に関する目標値を、特性項目の目標値を予め記憶している所定のデータベースから取得することとしてもよい。
【0013】
このような側面によれば、予め記憶された各特性項目の目標値を用いて、全体達成確率を出力できる。これにより、例えば、特性項目の数が多く且つ目標値の取得がユーザによる入力に基づく場合にはその入力に係る手間が煩雑になるところ、その手間の省力化が可能となる。また、例えば、適切な目標値としての実績がある目標値群が予めデータベースに記憶されている場合には、その目標値群を初期の目標値として取得して、一部の目標値を修正することにより、適切な目標値の設定が容易となる。また、各特性項目の観測値として実績のある実績値を、予めデータベースに記憶させておき、その実績値を初期の目標値として用いることにより、適切な目標設定が容易となる。
【0014】
第4の側面に係る設計支援装置では、第1~3の側面のいずれか一つに係る設計支援装置において、出力部は、目標値取得部により取得された目標値を全体達成確率と共に出力することとしてもよい。
【0015】
このような側面によれば、スコア関数の最適化における特性項目の目標値と、最適化により取得された全体達成確率とが、例えば表示といった態様により併せて出力されるので、目標値群と全体達成確率との対応関係を容易に認識できる。
【0016】
第5の側面に係る設計支援装置では、第4の側面に係る設計支援装置において、目標値取得部は、複数の特性項目のうちの少なくとも一つの特性項目の観測値に関する目標値の範囲を取得し、スコア関数構築部は、目標値の範囲内の各目標値に対応するスコア関数を構築し、目標達成確率取得部は、各スコア関数の最適化を実施することにより、取得された目標値の範囲内の各目標値に対応する全体達成確率を取得し、出力部は、設定された目標値の範囲内における、各目標値と対応する全体達成確率とを関連付けて出力することとしてもよい。
【0017】
このような側面によれば、各目標値と全体達成確率との関連付けの参照により、特性項目の目標値の変化に応じた全体達成確率の変化を認識できる。従って、適切な目標値を設定することが容易となる。
【0018】
第6の側面に係る設計支援装置では、第1~5の側面のいずれか一つに係る設計支援装置において、目標達成確率取得部は、各特性項目の目標値の達成確率を取得し、出力部は、各特性項目の目標値の達成確率を全体達成確率と共に出力することとしてもよい。
【0019】
このような側面によれば、各特性項目の目標値の達成確率が例えば表示といった態様により出力されることにより、高い全体達成確率を達成することに対するボトルネックとなっている特性項目の目標値を認識できる。従って、その目標値の調整により全体達成確率の改善が容易となる。
【0020】
第7の側面に係る設計支援装置では、第1~6の側面のいずれか一つに係る設計支援装置において、設計パラメータ群に含まれる各設計パラメータのうちの少なくとも一つの設計パラメータの、スコア関数の最適化における探索の範囲である最適化範囲を取得する最適化範囲取得部であって、設計パラメータの最適化範囲は、該設計パラメータの値の上限値、下限値、上下限値及び固定値の少なくともいずれか一つにより規定される、最適化範囲取得部、を更に備え、目標達成確率取得部は、取得された最適化範囲に基づいてスコア関数の最適化を実施することとしてもよい。
【0021】
このような側面によれば、取得された設計パラメータの最適化範囲内における全体達成確率を得ることができる。従って、例えば、全体達成確率を確認しながら複数回最適化範囲を設定しなおすことにより、製品等の開発における好適な設計パラメータの範囲を得ることが可能となる。
【0022】
第8の側面に係る設計支援装置では、第1~7の側面のいずれか一つに係る設計支援装置において、モデル構築部は、複数の特性項目のうちの少なくとも一つの特性項目の予測モデルを、当該予測モデルを構成するパラメータの入力に基づいて構築することとしてもよい。
【0023】
このような側面によれば、特性項目の目標値が達成される確率の算出の一部が実績データに依存しないこととなる。従って、例えば、十分な実績データがない場合等において、予測モデルにおける特性項目の観測値の分布の推定精度の悪化に起因する全体達成確率の精度の低下を防止できる。
【0024】
第9の側面に係る設計支援装置では、第1~8の側面のいずれか一つに係る設計支援装置において、目標達成確率取得部は、スコア関数の最適化により、全体達成確率を最大化する設計パラメータ群を取得し、出力部は、全体達成確率を最大化する設計パラメータ群を出力することとしてもよい。
【0025】
このような側面によれば、出力された設計パラメータ群の参照により、出力された全体達成確率を達成しうる設計パラメータ群が適切であるか否かを確認できる。また、出力された設計パラメータ群の参照により、製品等の作製及び実験を実施できる。
【発明の効果】
【0026】
本開示の一側面によれば、製品、仕掛品、半製品、部品又は試作品の作製プロセスにおいて、目的変数を構成する特性項目の目標値を容易に設定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】実施形態に係る設計支援装置が適用される材料設計のプロセスの概要を示す図である。
【
図2】実施形態に係る設計支援装置の機能構成の一例を示すブロック図である。
【
図3】実施形態に係る設計支援装置のハードブロック図である。
【
図4】作製済みの材料に関する設計パラメータ群の例を示す図である。
【
図5】作製済みの材料に関する特性項目の観測値の例を示す図である。
【
図6】取得された特性項目の目標値の例を示す図である。
【
図7】目標値の入力及び全体達成確率の出力のための表示画面例(ユーザインターフェース)の例を模式的に示す図である。
【
図8】取得された設計パラメータの最適化範囲の例を示す図である。
【
図9】実施形態に係る設計支援装置における設計支援方法の内容の一例を示すフローチャートである。
【
図10】目標値と全体達成確率とを関連付けて表示する表示画面例(ユーザインターフェース)の例を模式的に示す図である。
【
図11】設計支援プログラムの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一又は同等の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0029】
図1は、実施形態に係る設計支援装置が適用される製品、仕掛品、半製品、部品又は試作品の設計開発のプロセスの一例として、材料の設計開発のプロセスの概要を示す図である。なお、以下において、「製品、仕掛品、半製品、部品又は試作品」を「製品等」と記載する。本実施形態の設計支援装置10は、当該製品等の特性を示す複数の特性項目及び各特性項目の目標値を有するあらゆる製品等の設計開発のプロセスに適用できる。具体的には、設計支援装置10は、設計パラメータ(説明変数)の決定、決定された設計パラメータに基づく製品等の作製、及び、製品等の特性項目の観測値(目的変数)の取得からなるフローにおいて、特性項目の好適な目標値の設定に適用できる。設計支援装置10は、材料の開発・設計の他に、例えば、自動車及び薬品等の製品の設計、薬品の分子構造の最適化等に適用できる。また、本実施形態の設計支援装置10は、コミュニケーションツールとしての用途に適用できる。具体的には、製品等の作製者と製品等の作製の依頼者(顧客)との間において、設計支援装置10により出力される特性項目の目標値及び目標値が達成される確率等を参照しながら、当該製品等において達成されるべき目標値の設定等に関する合意形成に供することができる。本実施形態では、上述のとおり、製品等の設計開発の一例としての材料の設計開発の例により、設計支援装置10による設計支援処理を説明する。
【0030】
図1に示されるように、設計支援装置10による設計支援処理は、一例として、プラント及び実験室A等における材料の作製及び実験に適用される。即ち、設定された設計パラメータ群xにより、プラント及び実験室A等において材料が作製され、作製された材料に基づいて、材料の特性を示す複数の特性項目の観測値yが取得される。なお、プラント及び実験室Aにおける材料作製及び実験は、シミュレーションであってもよい。
【0031】
設計支援装置10は、設計パラメータ群x及び設計パラメータ群xに基づいて作製された材料の複数の特性項目の観測値yからなる実績データに基づいて、目標値の設定を支援する。具体的には、設計支援装置10は、設計パラメータ群x及び観測値yからなる実績データに基づいて、特性項目の観測値を予測する予測モデルを構築し、予測モデルに基づいて算出され全ての特性項目の目標値が達成される全体達成確率を表す全体達成確率項を含むスコア関数を構築し、スコア関数の最適化により全体達成確率を取得及び出力する。
【0032】
例えば、材料製品の設計開発の一例として、ある材料を複数のポリマー及び添加剤を混ぜて作製する場合において、設計支援装置10は、各ポリマー及び添加剤の配合量等の設計パラメータ群を設計変数とし、特性項目である弾性率、熱膨張率の観測値を目的変数として、複数の特性項目の目標値の設定に用いられる。
【0033】
図2は、実施形態に係る設計支援装置の機能構成の一例を示すブロック図である。本実施形態の設計支援装置10は、複数の設計パラメータからなる設計パラメータ群に基づいて作製される材料の特性を示す複数の特性項目の観測値に関する目標値の設定を支援する装置である。
図2に示すように、設計支援装置10は、プロセッサ101に構成された機能部、設計パラメータ記憶部21、観測値記憶部22、目標値記憶部23及び最適化範囲記憶部24を含み得る。各機能部については後述する。
【0034】
図3は、実施形態に係る設計支援装置10を構成するコンピュータ100のハードウェア構成の一例を示す図である。なお、コンピュータ100は、設計支援装置10を構成しうる。
【0035】
一例として、コンピュータ100はハードウェア構成要素として、プロセッサ101、主記憶装置102、補助記憶装置103、および通信制御装置104を備える。設計支援装置10を構成するコンピュータ100は、入力デバイスであるキーボード、タッチパネル、マウス等の入力装置105及びディスプレイ等の出力装置106をさらに含むこととしてもよい。
【0036】
プロセッサ101は、オペレーティングシステムおよびアプリケーションプログラムを実行する演算装置である。プロセッサの例としてCPU(Central Processing Unit)およびGPU(Graphics Processing Unit)が挙げられるが、プロセッサ101の種類はこれらに限定されない。例えば、プロセッサ101はセンサおよび専用回路の組合せでもよい。専用回路はFPGA(Field-Programmable Gate Array)のようなプログラム可能な回路でもよいし、他の種類の回路でもよい。
【0037】
主記憶装置102は、設計支援装置10等を実現するためのプログラム、プロセッサ101から出力された演算結果などを記憶する装置である。主記憶装置102は例えばROM(Read Only Memory)およびRAM(Random Access Memory)のうちの少なくとも一つにより構成される。
【0038】
補助記憶装置103は、一般に主記憶装置102よりも大量のデータを記憶することが可能な装置である。補助記憶装置103は例えばハードディスク、フラッシュメモリなどの不揮発性記憶媒体によって構成される。補助記憶装置103は、コンピュータ100を設計支援装置10等として機能させるための設計支援プログラムP1と各種のデータとを記憶する。
【0039】
通信制御装置104は、通信ネットワークを介して他のコンピュータとの間でデータ通信を実行する装置である。通信制御装置104は例えばネットワークカードまたは無線通信モジュールにより構成される。
【0040】
設計支援装置10の各機能要素は、プロセッサ101または主記憶装置102の上に、対応するプログラムP1を読み込ませてプロセッサ101にそのプログラムを実行させることで実現される。プログラムP1は、対応するサーバの各機能要素を実現するためのコードを含む。プロセッサ101はプログラムP1に従って通信制御装置104を動作させ、主記憶装置102または補助記憶装置103におけるデータの読み出しおよび書き込みを実行する。このような処理により、対応するサーバの各機能要素が実現される。
【0041】
プログラムP1は、CD-ROM、DVD-ROM、半導体メモリなどの有形の記録媒体に固定的に記録された上で提供されてもよい。あるいは、これらのプログラムの少なくとも一つは、搬送波に重畳されたデータ信号として通信ネットワークを介して提供されてもよい。
【0042】
再び
図2を参照して、設計支援装置10は、データ取得部11、モデル構築部12、目標値取得部13、最適化範囲取得部14、スコア関数構築部15、目標達成確率取得部16、出力部17を備える。設計パラメータ記憶部21、観測値記憶部22、目標値記憶部23及び最適化範囲記憶部24は、
図2に示されるように、設計支援装置10に構成されてもよいし、設計支援装置10からアクセス可能な他の装置として構成されてもよい。
【0043】
データ取得部11は、作製済みの材料に関しての実績データを複数取得する。実績データは、設計パラメータ群と複数の特性項目のそれぞれの観測値とのペアからなる。設計パラメータ記憶部21は、実績データにおける設計パラメータ群を記憶している記憶手段であって、例えば主記憶装置102及び補助記憶装置103等に構成されてもよい。観測値記憶部22は、実績データにおける観測値を記憶している記憶手段である。
【0044】
図4は、設計パラメータ記憶部21に記憶されている設計パラメータ群の例を示す図である。
図4に示されるように、設計パラメータ記憶部21は、第tの材料作製(t=1~T)における設計パラメータ群x
tを記憶している。設計パラメータ群xは、例えば、1~PのP個の設計パラメータv
p(p=1~P)からなる。設計パラメータ群xは、一例として、原材料Aの配合量v
1、原材料Bの配合量v
2・・・設計パラメータv
Pを含んでもよく、設計パラメータの数に応じた次元数Pのベクトルデータを構成しうる。設計パラメータは、例示したものの他、例えば、分子構造及び画像等の非ベクトルデータ等であってもよい。また、設計パラメータは、複数の分子のうちの選択肢を示すデータであってもよい。
【0045】
図5は、観測値記憶部22に記憶されている観測値yの例を示す図である。
図5に示されるように、観測値記憶部22は、第tの材料作製(t=1~T)における材料の特性を示す複数の特性項目m(m=1~M)の観測値y
m,tを記憶している。特性項目mは、一例として、ガラス転移温度y
1,t、接着力y
2,t及び特性項目M(y
M,t)を含んでもよい。設計パラメータ群x
tと観測値y
m,tとのペアが実績データを構成する。
【0046】
モデル構築部12は、実績データに基づいて予測モデルを構築する。予測モデルは、設計パラメータ群xに基づいて、特性項目mの観測値ymを確率分布若しくはその近似又は代替指標として予測するモデルである。予測モデルを構成するモデルは、観測値ymを確率分布若しくはその近似又は代替指標として予測可能なモデルであればよく、その種類は限定されない。観測値ymを確率分布の代替指標として予測する予測モデルは、例えば、アンサンブルを構成する予測器の予測値の分布(ランダムフォレスト)、モンテカルロドロップアウトにより得られる分布(ニューラルネットワーク)、異なる条件で複数個構築した予測器の予測の分布(任意の機械学習手法)等を代替指標として、観測値の確率分布を予測する。
【0047】
例えば、予測モデルは、設計パラメータ群xを入力とし、観測値ymの確率分布を出力とする回帰モデルであってもよい。予測モデルが回帰モデルである場合には、予測モデルは、例えば、ガウス過程回帰、ランダムフォレスト及びニューラルネットワークといった回帰モデルのうちのいずれか一つにより構成されてもよい。モデル構築部12は、実績データを用いた周知の機械学習の手法により、予測モデルを構築してもよい。モデル構築部12は、実績データを予測モデルに適用して当該予測モデルのパラメータを更新する機械学習の手法により、予測モデルを構築してもよい。
【0048】
また、予測モデルは、ベイズ理論に基づく予測値の事後分布、アンサンブルを構成する予測器の予測値の分布、回帰モデルの予測区間及び信頼区間の理論式、モンテカルロドロップアウト、及び、異なる条件で複数個構築した予測器の予測の分布のうちのいずれか一つを用いて観測値の確率分布若しくはその近似又は代替指標を予測する機械学習モデルであってもよい。観測値の確率分布、又はその代替指標の予測は、モデル固有の手法によって得ることができる。観測値の確率分布若しくはその近似又は代替指標は、ガウス過程回帰及びベイジアンニューラルネットワークであれば予測値の事後分布に基づいて、ランダムフォレストであれば、アンサンブルを構成する予測器の予測の分布に基づいて、線形回帰であれば予測区間及び信頼区間に基づいて、及び、ニューラルネットワークであればモンテカルロドロップアウトに基づいて得ることができる。但し、各機械学習モデルに対する観測値の分布またはその代替指標の算出方法は上記手法に限定されない。
【0049】
また、任意のモデルは、観測値の確率分布またはその代替指標を予測できるモデルに拡張されてもよい。例えば、ブートストラップ法等で複数個のデータセットを構築し、それぞれに対して予測モデルを構築することで得られる、各モデルの予測値の分布を、観測値の確率分布の代替指標として用いるモデルが、その例として挙げられる。但し、機械学習モデルを観測値の確率分布またはその代替指標を予測できるモデルに拡張する方法は、上記手法に限定されない。
【0050】
また、予測モデルは、線形回帰、PLS回帰、ガウス過程回帰、ランダムフォレストなどのバギングアンサンブル学習、勾配ブースティングなどのブースティングアンサンブル学習、サポートベクターマシーン、及びニューラルネットワーク等により構築されてもよい。
【0051】
ガウス過程回帰として構築される予測モデルでは、教師データの説明変数を構成する実績データにおける設計パラメータ群x及び目的変数を構成する観測値y並びに予測対象の設計パラメータxをモデルに入力することにより、観測値の確率分布が予測される。
【0052】
また、モデル構築部12は、予測モデルのハイパーパラメータを周知のハイパーパラメータチューニングの手法により、チューニングしてもよい。即ち、モデル構築部12は、実績データにおける説明変数である設計パラメータ群xを表すベクトルと、目的変数である観測値yを用いた最尤推定により、ガウス過程回帰により構築される予測モデルのハイパーパラメータを更新してもよい。
【0053】
また、予測モデルは、分類モデルにより構築されてもよい。予測モデルが分類モデルである場合には、モデル構築部12は、実績データを用いた周知の確率分布の評価が可能な機械学習の手法により予測モデルを構築できる。
【0054】
このように、モデル構築部12が所定の回帰モデルまたは分類モデルにより予測モデルを構築することにより、任意の設計パラメータ群xに基づいて、特性項目の観測値の確率分布の取得が可能となる。
【0055】
また、予測モデルは、一の特性項目の観測値を確率分布若しくはその近似又は代替指標として予測するシングルタスクモデル、または、複数の特性項目の観測値を確率分布若しくはその近似又は代替指標として予測するマルチタスクモデルであってもよい。このように、特性項目の性質に応じて適宜に構成されたマルチタスクモデルまたはシングルタスクモデルにより予測モデルを構築することにより、予測モデルによる観測値の予測の精度を向上できる。
【0056】
モデル構築部12は、複数の特性項目のうちの少なくとも一つの特性項目の予測モデルを、当該予測モデルを構成するパラメータの入力に基づいて構築してもよい。具体的には、モデル構築部12は、予測モデルを構成し確率計算に寄与するパラメータの入力に基づいて,当該予測モデルを構築してもよい。
【0057】
例えば、予測モデルが、ガウス分布に従う特性項目の観測値を予測するモデルとして構成される場合には、モデル構築部12は、観測値の分布を表すパラメータであるガウス分布の標準偏差または分散を、ユーザによる入力等に基づいて取得し、取得した標準偏差または分散に基づいて、当該特性項目の予測モデルを構築してもよい。
【0058】
このように、予測モデルを構成し確率の計算に寄与するパラメータが入力されることにより、確率計算の一部が実績データに依存しないこととなる。従って、例えば、十分な量及び精度を有する実績データがない場合等において、予測モデルにおける特性項目の観測値の推定精度の悪化に起因する全体達成確率の精度の低下を防止できる。
【0059】
目標値取得部13は、各特性項目の観測値に関する目標値を取得する。
図6は、目標値記憶部23に記憶されている各特性項目の目標値y
m(target)の例を示す図である。目標値記憶部23は、所定のユーザインターフェースを介してユーザにより入力された目標値、又は、予め設定された目標値を記憶する記憶手段である。
【0060】
目標値記憶部23は、
図6に示されるように、特性項目m(m=1~M)の目標値y
m(target)を記憶している。目標値y
m(target)は、一例として、ガラス転移温度の目標値y
1(target)、接着力の目標値y
2(target)及び特性項目Mの目標値y
M(target)を含んでもよい。
【0061】
目標値取得部13は、複数の特性項目のうちの少なくとも一つの特性項目に関する目標値を、ユーザによる入力に基づいて取得してもよい。
【0062】
図7は、目標値の入力及び全体達成確率の出力のための表示画面例(ユーザインターフェース)の例を模式的に示す図である。
図7に示されるように、設計支援装置10は、出力装置106の一態様であるディスプレイ等に、ユーザインターフェースGを表示させることができる。ユーザインターフェースGは、目標値y
m(target)の入力のための操作オブジェクトgtを含む。具体的には、ユーザインターフェースGは、特性項目1,2,3,・・・,Mのそれぞれの目標値y
1(target),y
2(target),y
3(target),・・・,y
M(target)を入力するための操作オブジェクトgt1,gt2,gt3,・・・gtmを含む。目標値取得部13は、操作オブジェクトgtのユーザによる操作入力に基づいて、特性項目の目標値を取得する。
【0063】
このような目標値の取得の態様によれば、ユーザは、各特性項目の目標値を容易に設定できる。従って、目標値の入力及び全体達成確率の出力を、入力する目標値を変えながら繰り返し行うことにより、容易に適切な目標値を設定することが可能となる。なお、ユーザインターフェースGに含まれるオブジェクトga,gbについては後述する。
【0064】
また、目標値取得部13は、複数の特性項目のうちの少なくとも一つの特性項目に関する目標値を、特性項目の目標値を予め記憶している所定のデータベースから取得してもよい。
【0065】
例えば、適切な目標値としての実績がある目標値群を予め目標値記憶部23に記憶させておき、目標値取得部13は、実績がある目標値群を目標値記憶部23から取得してもよい。このように、適切な目標値群を予め記憶させておくことにより、目標値の設定及び検討に際しての初期の目標値群を容易に取得できる。
【0066】
また、各特性項目の観測値として実績のある実績値を、予め目標値記憶部23に記憶させておき、目標値取得部13は、各特性項目の実績値を目標値記憶部23から取得してもよい。このように、実績値を初期の目標値に適用することにより、適切な目標設定が容易となる。
【0067】
また、予め記憶された各特性項目の目標値を、初期の目標値として用いることにより、例えば、特性項目の数が多い場合においては、目標値の取得がユーザによる入力に基づく場合にはその入力に係る手間が煩雑になるところ、その手間の省力化が可能となる。
【0068】
最適化範囲取得部14は、設計パラメータ群に含まれる各設計パラメータのうちの少なくとも一つの設計パラメータの最適化範囲を取得する。最適化範囲は、スコア関数の最適化における説明変数である各設計パラメータの探索の範囲である。
【0069】
最適化範囲記憶部24は、設計パラメータv
pの最適化範囲を記憶している記憶手段である。
図8は、最適化範囲記憶部24に記憶されている、各設計パラメータv
pの最適化範囲の例を示す図である。
図8に示されるように、最適化範囲記憶部24は、各設計パラメータv
pの最適化範囲を記憶している。設計パラメータv
pの最適化範囲は、説明変数としての設計パラメータの取り得る値が複数の有限の候補に限定される場合以外の場合において設定され得る。
【0070】
設計パラメータv
pの最適化範囲は、設計パラメータの値の上限値、下限値、上下限値及び固定値の少なくともいずれか一つにより規定され、それらの複数により規定されてもよい。
図8に示されるように、設計パラメータv
1の最適化範囲は、上下限値により規定され、「0-10」に設定されている。設計パラメータv
2の最適化範囲は、固定値により規定され、「5」に設定されている。設計パラメータv
3の最適化範囲は、2つの上下限値により規定され、「0-10,30-49」に設定されている。設計パラメータv
Pの最適化範囲は、2つの固定値により規定され、「2or3」に設定されている。
【0071】
設計パラメータの値として所望の値がある場合には、その設計パラメータvpの最適化範囲を固定値により規定することにより、当該設計パラメータvpが固定されて最適化が実施されるので、最適化の結果として固定された所望の設計パラメータの下における全体達成確率を得ることができる。
【0072】
さらに具体的な例として、高額な材料の量を表す設計パラメータvpの最適化範囲を「0」に設定することにより、その材料を用いないことを条件とした最適化を実施することが可能となる。また、ある設計パラメータvpの最適化範囲を固定値に設定して最適化を実施した結果として、低い目標達成確率が得られた場合には、その設計パラメータvpの最適化範囲を、例えば一定程度の幅を有する上下限値に変更して、再度の最適化を実施して目標達成確率を評価することにより、好適な最適化範囲の検討を容易に行うことができる。
【0073】
最適化範囲記憶部24は、入力装置105を介してユーザにより入力された各設計パラメータvpの最適化範囲を記憶してもよい。最適化範囲取得部14は、ユーザにより入力された各設計パラメータvpの最適化範囲を取得できる。この場合には、ユーザによる設計パラメータvpの最適化範囲の設定及び変更が容易である。
【0074】
このように、取得された設計パラメータの最適化範囲内においてスコア関数の最適化が実施され、指定した最適化範囲内での全体達成確率が得られる。従って、例えば、設計パラメータとして容易に採用しうるような範囲を最適化範囲として設定することにより、容易に採用できる設計パラメータの範囲での全体達成確率を得ることが可能となる。また、容易に採用できる設計パラメータの範囲における全体達成確率が低い場合には設計パラメータの範囲の変更と全体達成確率の確認を繰り返すことで、目標達成の見込みが高く、比較的容易に採用できる設計パラメータの範囲を得ることが可能となる。
【0075】
スコア関数構築部15は、全体達成確率項を少なくとも含むスコア関数を構築する。全体達成確率項は、全ての特性項目の目標値が達成される確率である全体達成確率を表す。全体達成確率は、予測モデルに基づいて設計パラメータ群を変数として算出される。スコア関数は、全体達成確率項を含む関数であれば、その構成は限定されない。
【0076】
具体的には、スコア関数構築部15は、以下の式(1)に示すようなスコア関数A(x)を構築する。
A(x)=g(P(x)) ・・・(1)
式(1)において、g(P(x))は、目標達成確率項である。即ち、スコア関数A(x)は、少なくとも目標達成確率項g(P(x))を含む。なお、式(1)のスコア関数は一例であって、スコア関数は目標達成確率項以外の項を含んでもよい。
【0077】
目標達成確率項は、全体達成確率P(x)を含んで構成されることができる。例えば、全体達成確率P(x)は、各特性項目の目標達成事象が互いに独立であるとすると、以下の式(2)にように定義されてもよい。
P(x)=Π1<=m<=MPm(x) ・・・(2)
即ち、全体達成確率P(x)は、各特性項目m(m=1~M)の達成確率Pm(x)の総乗である。予測モデルが、設計パラメータ群xに基づいて特性項目の観測値の確率分布を予測できるので、各特性項目の達成確率Pm(x)は、各特性項目の予測モデルを用いた設計パラメータ群xを入力変数とする関数として表現できる。また、全体達成確率P(x)は、各特性項目の達成確率の算出を経ないで、全ての特性項目の予測モデルに基づいた設計パラメータ群xを入力変数とする関数として表現されてもよい。
【0078】
例えば、目標達成確率項g(P(x))は、式(3)に示されるように全体達成確率P(x)からなることとしてもよいし、式(4)に示されるように、全体達成確率P(x)の対数からなることとしてもよい。
g(P(x))=P(x) ・・・(3)
g(P(x))=log(P(x)) ・・・(4)
また、目標達成確率項は、全体達成確率P(x)または全体達成確率P(x)の対数にさらに係数が乗じられた項であってもよいし、さらに他の要素が加算されるための項を含んでもよい。このように構築されたスコア関数の一例では、その最適化は、最大化問題として扱われることができる。
【0079】
このように本実施形態の一例では、観測値の確率分布を出力するように予測モデルが構成されるので、設計パラメータ群xに応じた各特性項目mの目標値の達成確率Pm(x)を得ることができる。そして、各特性項目mの目標値の達成確率Pm(x)の総乗により算出される全体達成確率が、スコア関数の目標達成確率項に含まれるので、最適化の対象となるスコア関数に全体達成確率が適切に反映される。
【0080】
目標達成確率取得部16は、スコア関数の最適化により全体達成確率を取得する。本実施形態では、上記式(1)及び式(3)に基づいて、スコア関数A(x)を、式(4)のように構成する。
A(x)=P(x) ・・・(4)
そして、目標達成確率取得部16は、スコア関数A(x)の最適化(最大化)により、スコア関数A(x)の出力としての全体達成確率を取得できる。
【0081】
式(4)の例では、スコア関数が全体達成確率を出力するが、スコア関数の出力が、全体達成確率に他の要素が乗じられたり加えられたりした値である場合には、目標達成確率取得部16は、スコア関数の最適化により得られた設計パラメータ群x及び各特性項目の目標値に基づいて全体達成確率P(x)を取得してもよい。
【0082】
出力部17は、目標達成確率取得部16により取得された全体達成確率を出力する。出力の態様は限定されないが、出力部17は、出力装置106の一態様であるディスプレイに、全体達成確率を表示させてもよい。
図7に示されるように、出力部17は、ユーザインターフェースGの全体達成確率欄gaに、目標達成確率取得部16により取得された全体達成確率を表示させてもよい。
【0083】
また、出力部17は、目標値取得部13により取得された目標値を全体達成確率と共に出力してもよい。前述のとおり、
図7に示されるユーザインターフェースGは、目標値y
m(target)の入力のための操作オブジェクトgtを含むので、出力部17は、操作オブジェクトgtと全体達成確率欄gaをディスプレイに表示させることにより、設定された目標値と全体達成確率とを共に出力及び表示できる。
【0084】
このように、スコア関数の最適化における特性項目の目標値と、最適化により取得された全体達成確率とが、例えば表示といった態様により併せて出力されることにより、目標値群と全体達成確率との対応関係を容易に認識できる。
【0085】
また、出力部17は、目標達成確率取得部16により全体達成確率の取得の過程で取得可能な各特性項目mの目標値の達成確率(Pm(x))を、全体達成確率と共に出力してもよい。例えばディスプレイ等に各特性項目mの目標値の達成確率が表示されることにより、高い全体達成確率を達成することに対するボトルネックとなっている特性項目の目標値を認識できるので、その目標値を緩和等の調整をすることにより、全体達成確率の改善が容易となる。
【0086】
また、目標達成確率取得部16は、スコア関数の最適化により、全体達成確率を最大化する設計パラメータ群を更に取得してもよい。そして、出力部17は、目標達成確率取得部16により取得された、全体達成確率を最大化するような設計パラメータ群を更に出力してもよい。出力された設計パラメータ群の参照により、出力された全体達成確率を達成しうる設計パラメータ群が適切であるか否かを確認できる。また、出力された設計パラメータ群の参照により、製品等の作製及び実験を実施できる。
【0087】
また、
図7に示されるように、ユーザインターフェースGは、設定された目標値に基づく最適化のプロセスの実行の指示を受け付けるための指示ボタンgbを含んでもよい。指示ボタンgbに対するユーザによる指示入力が設計支援装置10において受け付けられると、設定された目標値に基づくスコア関数の構築及び最適化が実施され、全体達成確率欄gaに全体達成確率が表示される。このように、目標値の設定、スコア関数の構築及び最適化、並びに全体達成確率の出力を、ユーザインターフェースGの参照及び操作により繰り返し実施しながら、適切な目標値の検討を実施できる。
【0088】
次に、本実施形態における設計支援装置10による設計支援処理を詳細に説明する。
図9は、実施形態に係る設計支援装置10における設計支援方法の内容の一例を示すフローチャートである。設計支援方法は、プロセッサ101に設計支援プログラムP1が読み込まれて、そのプログラムが実行されることにより、各機能部11~17が実現されることにより実行される。
【0089】
ステップS1において、データ取得部11は、設計パラメータ群xt(tは1~Tの整数)と各特性項目の観測値ym,tとのペアからなる実績データを取得する。
【0090】
ステップS2において、モデル構築部12は、実績データに基づいて、特性項目mのそれぞれの予測モデルを構築する。
【0091】
ステップS3において、目標値取得部13は、各特性項目mの観測値に関する目標値を取得する。
【0092】
ステップS4において、スコア関数構築部15は、ステップS2において構築された予測モデル及びステップS3において取得された各特性項目の目標値に基づいて、スコア関数を構築する。
【0093】
ステップS5において、目標達成確率取得部16は、スコア関数の最適化を実施する。ここで、最適化範囲取得部14は、各設計パラメータvpの最適化範囲を取得し、目標達成確率取得部16は、取得された最適化範囲に基づいて、スコア関数の最適化を実施する。
【0094】
ステップS6において、目標達成確率取得部16は、スコア関数Aの最適化に基づいて得られる全体達成確率を取得する。
【0095】
ステップS7において、出力部17は、ステップS6において目標達成確率取得部16により取得された全体達成確率を出力(表示)する。
【0096】
次に、
図10を参照して、全体達成確率の出力の他の例を説明する。
図10は、目標値と全体達成確率とを関連付けて表示する表示画面(ユーザインターフェース)の例を模式的に示す図である。
【0097】
目標値取得部13は、複数の特性項目のうちの少なくとも一つの特性項目の観測値に関する目標値の範囲を取得してもよい。即ち、目標値取得部13は、目標値を示す一の値ではなく、数値範囲を取得してもよい。
図10に示される例では、説明の便宜のため、目標値取得部13が、少なくとも2以上の特性項目のうちの2つの特性項目a,bの目標値の数値範囲(y
a(target):1.0~4.0,y
b(target):10~40)を、ユーザによる入力等に基づいて取得した場合の例が示されている。
【0098】
スコア関数構築部15は、目標値の範囲内の各目標値に対応するスコア関数を構築する。具体的には、スコア関数構築部15は、例えば、各特性項目の目標値の範囲内を所定間隔で刻んで得られる各点の組合せごとにスコア関数を構築する。
【0099】
目標達成確率取得部16は、各スコア関数の最適化を実施することにより、取得された目標値の範囲内の各目標値の組合せに対応する全体達成確率を取得する。出力部17は、設定された目標値の範囲内における、目標値の範囲内の各目標値と対応する全体達成確率とを関連付けて出力する、
図10に示す例では、目標値y
a(target)が横軸、目標値y
b(target)が縦軸に設定され、出力部17は、目標値y
a(target)と目標値y
b(target)との組合せに対応する全体達成確率を出力し、出力された全体達成確率に基づく等高線を描画及び出力する。
【0100】
このような表示画面が出力されることにより、各目標値の組合せと全体達成確率との関連付けの参照により、特性項目の目標値の変化に応じた全体達成確率の変化を認識できる。従って、適切な目標値を設定することが容易となる。
【0101】
次に、コンピュータを、本実施形態の設計支援装置10として機能させるための設計支援プログラムについて説明する。
図11は、設計支援プログラムの構成を示す図である。
【0102】
設計支援プログラムP1は、設計支援装置10における設計支援処理を統括的に制御するメインモジュールm10、データ取得モジュールm11、モデル構築モジュールm12、目標値取得モジュールm13、最適化範囲取得モジュールm14、スコア関数構築モジュールm15、目標達成確率取得モジュールm16及び出力モジュールm17を備えて構成される。そして、各モジュールm11~m17により、データ取得部11、モデル構築部12、目標値取得部13、最適化範囲取得部14、スコア関数構築部15、目標達成確率取得部16及び出力部17のための各機能が実現される。
【0103】
なお、設計支援プログラムP1は、通信回線等の伝送媒体を介して伝送される態様であってもよいし、
図11に示されるように、記録媒体M1に記憶される態様であってもよい。
【0104】
以上説明した本実施形態の設計支援装置10、設計支援方法及び設計支援プログラムP1によれば、実績データに基づいて予測モデルが構築され、各特性項目に関する目標値が取得され、取得された目標値及び予測モデルに基づいて、目標達成確率項を含むスコア関数が構築される。そして、スコア関数の最適化により、全体達成確率が取得及び出力される。従って、出力された全体達成確率の参照により、目標値が適切であるか否かを判断できるので、適切な目標値の設定が容易となる。
【0105】
以上、本発明をその実施形態に基づいて詳細に説明した。しかし、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【符号の説明】
【0106】
10…設計支援装置、11…データ取得部、12…モデル構築部、13…目標値取得部、14…最適化範囲取得部、15…スコア関数構築部、16…目標達成確率取得部、17…出力部、21…設計パラメータ記憶部、22…観測値記憶部、23…目標値記憶部、24…最適化範囲記憶部、M1…記録媒体、m10…メインモジュール、m11…データ取得モジュール、m12…モデル構築モジュール、m13…目標値取得モジュール、m14…最適化範囲取得モジュール、m15…スコア関数構築モジュール、m16…目標達成確率取得モジュール、m17…出力モジュール、P1…設計支援プログラム。