(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024018321
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】レンズ及びレンズ装置
(51)【国際特許分類】
G02B 3/00 20060101AFI20240201BHJP
G02B 1/115 20150101ALI20240201BHJP
G02B 5/18 20060101ALI20240201BHJP
G02B 7/02 20210101ALI20240201BHJP
【FI】
G02B3/00
G02B1/115
G02B5/18
G02B7/02 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】30
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022121580
(22)【出願日】2022-07-29
(71)【出願人】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002505
【氏名又は名称】弁理士法人航栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤原 正憲
【テーマコード(参考)】
2H044
2H249
2K009
【Fターム(参考)】
2H044AD01
2H249AA04
2H249AA14
2H249AA55
2H249AA64
2K009AA02
2K009CC03
(57)【要約】
【課題】レンズ及びレンズ装置を提供する。
【解決手段】レンズ10は、樹脂を含んで構成された光学層13と、第1部材11及び第2部材12と、第1反射防止層11A及び第2反射防止層12Aと、を含み、第1反射防止層11A及び第2反射防止層12Aは、レンズ10の光軸方向の最外面に設けられ、第1反射防止層11A及び第2反射防止層12Aの透過率は、光の波長の短波長側から順に極大値と極小値を有する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂を含んで構成された光学層と、部材と、反射防止層と、を含むレンズであって、
前記反射防止層は、前記レンズの光軸方向の最外面に設けられ、
前記反射防止層の透過率は、光の波長の短波長側から順に極大値と極小値を有する、レンズ。
【請求項2】
請求項1に記載のレンズであって、
前記極大値と前記極小値の差は、35%以上である、レンズ。
【請求項3】
請求項1に記載のレンズであって、
前記極大値は、前記極小値の1.3倍以上である、レンズ。
【請求項4】
請求項1に記載のレンズであって、
光の波長帯を、第1波長帯と、前記第1波長帯とは非重複の第2波長帯と、前記第1波長帯と前記第2波長帯の間の第3波長帯とし、
前記反射防止層の透過率は、前記第3波長帯に極小値を有し、前記第1波長帯に極大値を有する、レンズ。
【請求項5】
請求項4に記載のレンズであって、
前記極大値と前記極小値の差は、35%以上である、レンズ。
【請求項6】
請求項4に記載のレンズであって、
前記第1波長帯は、紫外域と部分的に重複する、レンズ。
【請求項7】
請求項4に記載のレンズであって、
前記反射防止層の透過率は、前記第2波長帯にピーク値を有する、レンズ。
【請求項8】
請求項4に記載のレンズであって、
前記反射防止層の前記第1波長帯における最大透過率は、第1閾値よりも高い値を有する、レンズ。
【請求項9】
請求項4に記載のレンズであって、
前記光学層の透過率は、前記第3波長帯に極小値を有する、レンズ。
【請求項10】
請求項9に記載のレンズであって、
前記光学層の厚み10μm換算において、前記第1波長帯における最大透過率は、第2閾値よりも高い値を有する、レンズ。
【請求項11】
請求項9に記載のレンズであって、
前記光学層の透過率は、前記第3波長帯において、前記光学層の前記極小値よりも前記第1波長帯側に極大値を有する、レンズ。
【請求項12】
請求項11に記載のレンズであって、
前記光学層の透過率は、前記第2波長帯にピーク値を有する、レンズ。
【請求項13】
請求項4に記載のレンズであって、
前記第2波長帯は、前記第1波長帯よりも長波長側である、レンズ。
【請求項14】
請求項4に記載のレンズであって、
前記第1波長帯は、前記光学層の樹脂に含まれる光重合開始剤の感光波長帯である、レンズ。
【請求項15】
請求項4に記載のレンズであって、
前記第2波長帯は、前記光学層の厚み10μm換算での平均透過率が第3閾値より高く、且つ、前記光学層の透過率の波長依存性を示すグラフの接線の傾きの平均値が第1傾き閾値から第2傾き閾値の範囲であり、且つ、前記反射防止層の平均透過率が第4閾値より高い、波長帯である、レンズ。
【請求項16】
請求項4に記載のレンズであって、
前記第3波長帯は、前記光学層の透過率の極小値よりも50nm長波長側の値と、前記光学層の透過率の極小値よりも150nm短波長側の値と、の間の波長帯である、レンズ。
【請求項17】
請求項4に記載のレンズであって、
前記反射防止層の透過率の前記極小値は、前記光学層の厚み10μm換算での透過率の極小値よりも短波長側にある、レンズ。
【請求項18】
請求項17に記載のレンズであって、
前記反射防止層の透過率の前記極小値と、前記光学層の厚み10μm換算での透過率の極小値との差は、50nm以上150nm以下である、レンズ。
【請求項19】
請求項4に記載のレンズであって、
前記第1波長帯と前記第2波長帯と前記第3波長帯は、350nm以上の範囲に含まれる、レンズ。
【請求項20】
請求項19に記載のレンズであって、
前記第1波長帯は、350nm以上450nm未満の範囲である、レンズ。
【請求項21】
請求項19に記載のレンズであって、
前記第3波長帯は、450nm以上650nm未満の範囲である、レンズ。
【請求項22】
請求項19に記載のレンズであって、
前記第2波長帯は、650nm以上1650nm未満の範囲である、レンズ。
【請求項23】
請求項1に記載のレンズであって、
前記光学層には、回折格子が形成されている、レンズ。
【請求項24】
請求項1に記載のレンズであって、
前記部材は、第1部材と第2部材を含み、
前記光学層は、第1層と第2層を含む、レンズ。
【請求項25】
請求項24に記載のレンズであって、
前記第1部材と、前記第1層と、前記第2層と、前記第2部材は、この順で積層され、
前記反射防止層は、前記第1部材の前記第1層とは反対側、及び、前記第2部材の前記第2層とは反対側に設けられる、レンズ。
【請求項26】
請求項25に記載のレンズであって、
前記第1層と前記第2層の界面に回折格子が形成されている、レンズ。
【請求項27】
樹脂を含んで構成された光学層と、部材と、反射防止層と、を含むレンズであって、
前記反射防止層は、前記レンズの光軸方向の最外面に設けられ、
前記反射防止層の透過率の極小値は、前記光学層の透過率の極小値よりも短波長側にあり、
前記反射防止層の透過率の前記極小値と、前記光学層の前記極小値との差は、50nm以上150nm以下である、レンズ。
【請求項28】
樹脂を含んで構成された光学層と、部材と、反射防止層と、を含むレンズであって、
前記反射防止層は、前記レンズの光軸方向の最外面に設けられ、
短波長側において透過率の第1極大値を有し、
長波長側において透過率の第2極大値を有し、
前記第1極大値と前記第2極大値の間に透過率の極小値を有し、
光の透過率の波長依存性を示すグラフにおいて、前記第2極大値となる波長よりも長波長側の前記グラフの接線の傾きの絶対値の平均値が、前記第2極大値から前記極小値までの間の前記グラフの接線の傾きの絶対値の平均値よりも小さい、レンズ。
【請求項29】
請求項28に記載のレンズであって、
前記第1極大値と前記極小値との差は、20%以上である、レンズ。
【請求項30】
請求項1から29のいずれか1項に記載のレンズを備えるレンズ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レンズ及びレンズ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、紫外線をカットする樹脂複合型光学素子が記載されている。
【0003】
特許文献2には、可視域の少なくとも一部の波長帯域の光を反射散乱し、赤外域の少なくとも一部の波長帯域の光を透過する反射散乱部を備え、赤外域の少なくとも一部の波長帯域の光に対する直進透過率が75%以上である光学部材が記載されている。
【0004】
特許文献3には、ガラス基板と、上記ガラス基板に積層された、光学形状部を有する光硬化樹脂層と、を有し、上記ガラス基板は、270~410nmの範囲の波長の光を反射し、それ以外の光は透過するバンド反射フィルターを備えている複合型光学素子が記載されている。
【0005】
特許文献4には、基材上に硬化樹脂層を設けてなる樹脂接合型光学素子において、上記硬化樹脂層は上記基材の一方の表面に設けられ、上記基材の他方の表面には波長365nmの光に対する反射率が1%以下の反射防止膜が設けられている樹脂接合型光学素子が記載されている。
【0006】
特許文献5には、複数のレンズを有し、上記複数のレンズの少なくとも一部に対してコーティングが施され、近赤外光波長域において、1550nmを含む近赤外光ピーク波長域よりも短波長側の光透過率が、上記近赤外光ピーク波長域の短波長端から少なくとも1350nmまで波長が短くなるにつれて減少し、上記近赤外光ピーク波長域よりも長波長側の光透過率が、上記近赤外光ピーク波長域の長波長端から少なくとも1750nmまで波長が長くなるにつれて減少する、撮像レンズが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2009/038134号
【特許文献2】国際公開第2016/117452号
【特許文献3】特開2010-139532号公報
【特許文献4】特開2000-266907号公報
【特許文献5】特許6955307号公報
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の技術は以下に示すものである。
【0009】
(1)
樹脂を含んで構成された光学層と、部材と、反射防止層と、を含むレンズであって、
上記反射防止層は、上記レンズの光軸方向の最外面に設けられ、
上記反射防止層の透過率は、光の波長の短波長側から順に極大値と極小値を有する、レンズ。
【0010】
(2)
(1)に記載のレンズであって、
上記極大値と上記極小値の差は、35%以上である、レンズ。
【0011】
(3)
(1)又は(2)に記載のレンズであって、
上記極大値は、上記極小値の1.3倍以上である、レンズ。
【0012】
(4)
(1)から(3)のいずれかに記載のレンズであって、
光の波長帯を、第1波長帯と、上記第1波長帯とは非重複の第2波長帯と、上記第1波長帯と上記第2波長帯の間の第3波長帯とし、
上記反射防止層の透過率は、上記第3波長帯に極小値を有し、上記第1波長帯に極大値を有する、レンズ。
【0013】
(5)
(4)に記載のレンズであって、
上記極大値と上記極小値の差は、35%以上である、レンズ。
【0014】
(6)
(4)又は(5)に記載のレンズであって、
上記第1波長帯は、紫外域と部分的に重複する、レンズ。
【0015】
(7)
(4)から(6)のいずれかに記載のレンズであって、
上記反射防止層の透過率は、上記第2波長帯にピーク値を有する、レンズ。
【0016】
(8)
(4)から(6)のいずれかに記載のレンズであって、
上記反射防止層の上記第1波長帯における最大透過率は、第1閾値よりも高い値を有する、レンズ。
【0017】
(9)
(4)から(8)のいずれかに記載のレンズであって、
上記光学層の透過率は、上記第3波長帯に極小値を有する、レンズ。
【0018】
(10)
(9)に記載のレンズであって、
上記光学層の厚み10μm換算において、上記第1波長帯における最大透過率は、第2閾値よりも高い値を有する、レンズ。
【0019】
(11)
(9)又は(10)に記載のレンズであって、
上記光学層の透過率は、上記第3波長帯において、上記光学層の上記極小値よりも上記第1波長帯側に極大値を有する、レンズ。
【0020】
(12)
(11)に記載のレンズであって、
上記光学層の透過率は、上記第2波長帯にピーク値を有する、レンズ。
【0021】
(13)
(4)から(12)のいずれかに記載のレンズであって、
上記第2波長帯は、上記第1波長帯よりも長波長側である、レンズ。
【0022】
(14)
(4)から(13)のいずれかに記載のレンズであって、
上記第1波長帯は、上記光学層の樹脂に含まれる光重合開始剤の感光波長帯である、レンズ。
【0023】
(15)
(4)から(14)のいずれかに記載のレンズであって、
上記第2波長帯は、上記光学層の厚み10μm換算での平均透過率が第3閾値より高く、且つ、上記光学層の透過率の波長依存性を示すグラフの接線の傾きの平均値が第1傾き閾値から第2傾き閾値の範囲であり、且つ、上記反射防止層の平均透過率が第4閾値より高い、波長帯である、レンズ。
【0024】
(16)
(4)から(15)のいずれかに記載のレンズであって、
上記第3波長帯は、上記光学層の透過率の極小値よりも50nm長波長側の値と、上記光学層の透過率の極小値よりも150nm短波長側の値と、の間の波長帯である、レンズ。
【0025】
(17)
(4)から(16)のいずれかに記載のレンズであって、
上記反射防止層の透過率の上記極小値は、上記光学層の厚み10μm換算での透過率の極小値よりも短波長側にある、レンズ。
【0026】
(18)
(17)に記載のレンズであって、
上記反射防止層の透過率の上記極小値と、上記光学層の厚み10μm換算での透過率の極小値との差は、50nm以上150nm以下である、レンズ。
【0027】
(19)
(4)から(18)のいずれかに記載のレンズであって、
上記第1波長帯と上記第2波長帯と上記第3波長帯は、350nm以上の範囲に含まれる、レンズ。
【0028】
(20)
(4)から(19)のいずれかに記載のレンズであって、
上記第1波長帯は、350nm以上450nm未満の範囲である、レンズ。
【0029】
(21)
(4)から(19)のいずれかに記載のレンズであって、
上記第3波長帯は、450nm以上650nm未満の範囲である、レンズ。
【0030】
(22)
(4)から(19)のいずれかに記載のレンズであって、
上記第2波長帯は、650nm以上1650nm未満の範囲である、レンズ。
【0031】
(23)
(1)から(22)のいずれかに記載のレンズであって、
上記光学層には、回折格子が形成されている、レンズ。
【0032】
(24)
(1)から(23)のいずれかに記載のレンズであって、
上記部材は、第1部材と第2部材を含み、
上記光学層は、第1層と第2層を含む、レンズ。
【0033】
(25)
(24)に記載のレンズであって、
上記第1部材と、上記第1層と、上記第2層と、上記第2部材は、この順で積層され、
上記反射防止層は、上記第1部材の上記第1層とは反対側、及び、上記第2部材の上記第2層とは反対側に設けられる、レンズ。
【0034】
(26)
(24)又は(25)に記載のレンズであって、
上記第1層と上記第2層の界面に回折格子が形成されている、レンズ。
【0035】
(27)
樹脂を含んで構成された光学層と、部材と、反射防止層と、を含むレンズであって、
上記反射防止層は、上記レンズの光軸方向の最外面に設けられ、
上記反射防止層の透過率の極小値は、上記光学層の透過率の極小値よりも短波長側にあり、
上記反射防止層の透過率の上記極小値と、上記光学層の上記極小値との差は、50nm以上150nm以下である、レンズ。
【0036】
(28)
樹脂を含んで構成された光学層と、部材と、反射防止層と、を含むレンズであって、
上記反射防止層は、上記レンズの光軸方向の最外面に設けられ、
短波長側において透過率の第1極大値を有し、
長波長側において透過率の第2極大値を有し、
上記第1極大値と上記第2極大値の間に透過率の極小値を有し、
光の透過率の波長依存性を示すグラフにおいて、上記第2極大値となる波長よりも長波長側の上記グラフの接線の傾きの絶対値の平均値が、上記第2極大値から上記極小値までの間の上記グラフの接線の傾きの絶対値の平均値よりも小さい、レンズ。
【0037】
(29)
(28)に記載のレンズであって、
上記第1極大値と上記極小値との差は、20%以上である、レンズ。
【0038】
(30)
(1)から(29)のいずれかに記載のレンズを備えるレンズ装置。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【
図1】本発明のレンズ装置の一実施形態であるレンズ装置100の構成を示す模式図である。
【
図2】光学系1に含まれるレンズ10の光軸OPを通る断面の模式図である。
【
図3】レンズ10の各構成要素の透過率特性の好ましい例を示す図である。
【
図4】
図3に示した透過率特性を持つ各構成要素から構成されたレンズ10の透過率特性と、このレンズ10を含むレンズ装置100の透過率特性とを示す図である。
【
図5】レンズ10の変形例であるレンズ10Aの断面模式図である。
【
図6】実施例、参考例、及び比較例の評価結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
特許文献5に例示されるように、広い波長域での撮影を可能とするためのレンズが知られている。レンズには、空気層との界面における光の反射を防ぐために、ARコート(Anti Reflection Coating)に代表される反射防止層が設けられることがある。広い波長域の光を十分に透過できるレンズを実現するためには、この反射防止層における光の透過率を、広い波長域において高める必要がある。本明細書における特定の部材の光の透過率とは、ある波長の光を上記部材に入射させた場合の、上記部材に入射する光の強度に対する上記部材から出射する光の強度の割合を意味する。
【0041】
また、レンズには、樹脂を含んで構成された光学層が含まれることがある。この光学層は、樹脂材料を成形し、光によって樹脂材料を硬化させることで形成されるのが一般的である。このような光学層を含むレンズにおいて、特に、光学層の樹脂材料を硬化させるために必要な光の波長帯と、撮影のためにレンズに求められる光の波長帯とが異なり、且つ、これらの波長帯が大きく離れている場合には、これら2つの波長帯を合わせた広い波長帯において透過率を高めた反射防止層を形成することが求められる。しかし、広い波長帯での透過率が高くなるように反射防止層を形成することは容易ではない。
【0042】
また、上記光学層を含むレンズにおいては、光学層自体が、樹脂材料を硬化させるために必要な波長帯の光を多く透過することが求められる。したがって、特に上記2つの波長帯が異なる場合には、光学層において、上記2つの波長帯を合わせた広い波長帯において透過率を高めることが求められる。しかし、光学層において、広い波長帯の光に対する平均透過率を高めようとすると、光学性能を高めることが難しくなる。一方、光学層において、光学性能を十分に確保しようとすると、広い波長帯の光に対する平均透過率を高めることが難しくなる。このように、光学層では、光学性能と透過率とがトレードオフの関係にある。なお、光学層には、例えば、回折格子が含まれる場合があり、その場合の光学性能とは、回折効率である。
【0043】
発明者は、検証の結果、光軸方向の最外面に反射防止層が設けられ、且つ、光学層を含むレンズにおいて、反射防止層の透過率特性(光の波長毎の透過率の関係)を第1透過率特性とすることで、長波長側の広い波長帯(例えば650nm以上1650nm以下の範囲の波長帯)の光によって撮影が可能なレンズを容易に実現できることを見出した。
【0044】
第1透過率特性は、光の波長の短波長側から順に、透過率の極大値と透過率の極小値を有するものである。ここで言う極大値及び極小値とは、透過率特性を示すグラフの単なる変曲点のことではなく、変曲点であって且つ両者の差が35%以上あるものを言う。この第1透過率特性によれば、極小値を境にして短波長側の第1範囲と長波長側の第2範囲とで、反射防止層の透過率を個別に設計できる。このため、これら2つの範囲を合わせた広い波長帯で反射防止層の透過率を高くする場合と比べると、個々の範囲における反射防止層の透過率を容易に高めることができる。例えば、広い波長帯で反射防止層の透過率を一定以上にしようとすると、反射防止層の設計が複雑となり、場合によっては所望の透過率を実現できない可能性がある。これに対し、上記第1範囲と上記第2範囲とで個別に透過率を設計できることで、反射防止層の設計が簡易なものとなり、所望の透過率を実現できるようになる。例えば、光学層の樹脂材料の硬化に必要な光の波長帯が上記第1範囲に含まれ、撮影に必要な光の波長帯が上記第2範囲に含まれる構成とすることで、光学層の樹脂材料の硬化を短時間且つ安定して行うことができると共に、撮影を高い感度で実施することが可能なレンズを形成できる。
【0045】
また、発明者は、検証の結果、光軸方向の最外面に反射防止層が設けられ、且つ、光学層を含むレンズにおいて、光学層の透過率特性を第2透過率特性とすることで、長波長側の広い波長帯(例えば650nm以上1650nm以下の範囲の波長帯)の光によって高感度の撮影が可能なレンズを容易に実現できることを見出した。
【0046】
第2透過率特性は、光の波長の短波長側から順に、透過率の極大値と透過率の極小値を有するものである。この第2透過率特性によれば、極小値を境にして短波長側の第3範囲と長波長側の第4範囲とで、光学層の透過率及び回折効率を個別に設計できる。このため、これら2つの範囲を合わせた広い波長帯で光学層の設計を行う場合と比べると、個々の範囲における光学層の透過率と光学性能を容易に高めることができる。例えば、光学層の樹脂材料の硬化に必要な光の波長帯が上記第3範囲に含まれ、撮影に必要な光の波長帯が上記第4範囲に含まれる構成とすることで、光学層の形成を短時間且つ安定して行うことができると共に、撮影を高い感度で実施することが可能なレンズを形成できる。
【0047】
以下、本発明のレンズ装置の一実施形態を例にして詳細を説明する。
【0048】
図1は、本発明のレンズ装置の一実施形態であるレンズ装置100の構成を示す模式図である。レンズ装置100は、被写体側から光軸OPに沿って順に並べられた光学系1、光学系2、及び光学系3を備える。レンズ装置100は、
図1の例では3つの光学系を備えているが、少なくとも1つの光学系を備えていればよい。
【0049】
光学系1、光学系2、及び光学系3は、それぞれ、レンズ、絞り、光学フィルタ、ハーフミラー、又は偏向素子等の光学素子を少なくとも1つ含んで構成される。レンズは、対物レンズ、ズームレンズ、又はフォーカスレンズ等である。本形態では、光学系1は、少なくとも1つのレンズを含む。
【0050】
図2は、光学系1に含まれるレンズ10の光軸OPを通る断面の模式図である。以下、光軸OPの延びる方向を光軸方向と記載する。
【0051】
レンズ10は、例えば、レンズ装置100において最も被写体側に配置される対物レンズである。レンズ10は、凸レンズ形状の第1部材11と、光軸方向における第1部材11の一方側(被写体側)の表面に積層された第1層21及び第1層21に積層された第2層22を含む光学層13と、第2層22に積層された凹レンズ形状の第2部材12と、光軸方向における第1部材11の他方側の表面に形成された第1反射防止層11Aと、光軸方向における第2部材12の被写体側の表面に形成された第2反射防止層12Aと、を備える。
【0052】
第1部材11と第2部材12は、それぞれ、ガラス又は樹脂等により構成されている。第1部材11と第2部材12は、それぞれ、レンズ10に必要とされる光学特性又は用途等によって、凹レンズ形状又は凸レンズ形状等の任意の形状とすることができる。第1部材11と第2部材12の各々の透過率特性は、特に限定されるものではないが、光学層13や後段に配置される光学系等を紫外線から保護するために、例えば波長が300nm以下の範囲の光に対する10mm換算透過率が閾値TH1(例えば、5%)以下となっていることが好ましい。第1部材11と第2部材12により、部材が構成される。
【0053】
第1層21と第2層22は、それぞれ、樹脂を含む層である。第1層21と第2層22は、それぞれ、屈折率を制御するために金属又は金属酸化物の粒子や有機色素が含まれていてもよい。第1層21は、第2層22側の面に、凸状の複数の構造物を有している。第1層21と第2層22は、屈折率が異なっており、第1層21に形成された構造物と第2層22との界面によって、回折格子が構成されている。
【0054】
レンズ10は、表面に金型等によって第1層21を形成した第1部材11と、表面に樹脂を塗布した第2部材12を準備し、第1部材11の第1層21側と、第2部材12の樹脂側とを接合し、第2部材12に塗布された樹脂を硬化させることで製造される。第1層21は、その形状を切削等によって型に作成し、紫外線硬化又は熱硬化、或いは射出成形等の成形プロセスによって樹脂に形状を転写する方法で例えば形成できる。第1層21を紫外線硬化する場合は、第1層21に光重合開始剤を含み、光照射によって硬化するものが用いられる。この場合、第1層21に含まれる樹脂は、350nm以上450nm未満の範囲の波長の光によって硬化するものが好ましく用いられる。換言すると、第1層12の樹脂に含まれる光重合開始剤の感光波長帯は、350nm以上450nm未満の範囲となっていることが好ましい。
【0055】
第2層22に含まれる樹脂は、光重合開始剤を含み、光照射によって硬化するものが用いられる。第2層22に含まれる樹脂は、350nm以上450nm未満の範囲の波長の光によって硬化するものが好ましく用いられる。換言すると、第2層22の樹脂に含まれる光重合開始剤の感光波長帯は、350nm以上450nm未満の範囲となっていることが好ましい。
【0056】
第1反射防止層11Aと第2反射防止層12Aは、レンズ10の光軸方向の最外面に設けられている。第1反射防止層11Aと第2反射防止層12Aは、それぞれ、それが形成される面にTiO2、Ta2O5、Al2O3、SiO2、及びMgF2等の光を透過する材料を薄膜状に積層したコーティングで構成される。第1反射防止層11Aと第2反射防止層12Aは、それぞれ、薄膜を形成する材料の屈折率と厚さと層数とを調整することで、特定の波長域の透過率を高くし、この特定の波長域とは異なる別の波長域の透過率を小さくすることができる。特定の波長域の透過率を高くし、別の波長域の透過率を小さくするためのコーティング材料、コーティング厚さ、及びコーティング層数は、コンピュータシミュレーション等により設計することができる。第1反射防止層11Aと第2反射防止層12Aは、反射防止層を構成しており、以下ではこれらを総称して単に反射防止層とも記載する。
【0057】
図3は、レンズ10の各構成要素の透過率特性の好ましい例を示す図である。
図3に示す透過率特性C1は、レンズ10の第1部材11と第2部材12の各々の好ましい透過率特性を示している。
図3に示す透過率特性C2は、第1反射防止層11Aと第2反射防止層12Aの各々の好ましい透過率特性を示している。透過率特性C2は、前述した第1透過率特性の具体例の1つである。
図3に示す透過率特性C3は、第1層21の好ましい透過率特性を示している。透過率特性C3は、前述した第2透過率特性の具体例の1つである。
図3に示す透過率特性C3の透過率は、光軸方向における第1層21の平均厚みを10μmとして換算した場合の値を示している。
【0058】
図4は、
図3に示した透過率特性を持つ各構成要素から構成されたレンズ10の透過率特性と、このレンズ10を含むレンズ装置100の透過率特性とを示す図である。
図4に示す透過率特性C4は、レンズ10の透過率特性を示している。
図4に示す透過率特性C5は、レンズ装置100の透過率特性を示している。透過率特性C2、透過率特性C3、透過率特性C4、及び透過率特性C5については、それぞれ、波長が350nm以上1700nm以下の範囲に対する透過率を示している。
図4に示す透過率特性C4及び透過率特性C5のそれぞれの透過率は、光軸方向における光学層13の平均厚みを10μmとして換算した場合の値を示している。透過率特性C1~C5は、それぞれ、透過率の波長依存性を示すグラフを構成する。
【0059】
図3は、光学層13の第2層22に含まれる樹脂の感光波長帯(以下、第1波長帯B1と記載)を、紫外域(波長380nm以下の範囲)と部分的に重複する350nm以上450nm未満の範囲とし、レンズ10全体において、波長が650nm以上1650nm以下の範囲(以下、第2波長帯B2と記載)における平均透過率が十分に高くなる(具体的には30%以上となる)ように設計した場合の例を示している。
【0060】
第2波長帯B2は、レンズ装置100を通して撮影を行う際に用いられる波長帯であり、レンズ装置100の後段に配置される撮像素子に到達させるべき光の波長帯である。第2波長帯B2は、第1波長帯B1とは非重複となっている。以下では、第1波長帯B1と第2波長帯B2の間の波長帯(450nm以上650nm未満の範囲)を第3波長帯B3と記載する。
【0061】
第1波長帯B1、第2波長帯B2、及び第3波長帯B3を合わせた波長帯(350nm以上1650nm以下の範囲)を全体波長帯B0と記載する。以下で説明する透過率の極大値、極小値、及びピーク値等は、この全体波長帯B0における値として説明する。
【0062】
図3に示す透過率特性C1は、全体波長帯B0における透過率が70%以上となっている。したがって、第1部材11及び第2部材12は、それぞれ、350nm以上の波長の光をほとんど透過し、350nmよりも短い波長の光をほとんど透過させない。
【0063】
図3に示す透過率特性C2は、第1波長帯B1に透過率が第1閾値(例えば70%)よりも高い値を有し、且つ、第1波長帯B1に透過率の極大値を有するものとなっている。この構成により、第2層22の樹脂を硬化させる際の光が反射防止層を十分に透過できるため、第2層22の樹脂の硬化に要する時間を短縮したり、その硬化を安定して行ったりすることができる。なお、第2層22の樹脂の硬化は、第1反射防止層11A側から光を照射することで行われる。第2層22の樹脂の硬化は、第2反射防止層12Aから光を照射することで行われる場合もある。
【0064】
また、透過率特性C2は、第3波長帯B3に透過率の極小値を有している。この構成により、第1波長帯B1における反射防止層の透過率と、第2波長帯B2における反射防止層の透過率の設計が容易となる。特に、第2波長帯B2における反射防止層の平均透過率を高い値にすることが可能となる。
【0065】
また、透過率特性C2は、第2波長帯B2に透過率のピーク値(最大値)を有するものとなっている。換言すると、透過率特性C2において、極大値はピーク値よりも小さくなっている。また、透過率特性C2は、第2波長帯B2において平均透過率が第4閾値(例えば98.5%、望ましくは99%)より高いものとなっている。また、透過率特性C2は、第2波長帯B2における透過率が、第1波長帯B1における透過率より高いものとなっている。これらの構成により、第2波長帯B2の光を多く透過できるレンズを実現することができる。
【0066】
透過率特性C2において、極小値は、極大値よりも十分に小さいことが好ましい。具体的には、透過率特性C2において、極小値と極大値との差は、35%以上とすることが好ましく、50%以上とすることがより好ましく、60%以上とすることが更に好ましい。また、透過率特性C2において、極大値は、極小値の1.3倍以上とすることが好ましく、極小値の2倍以上とすることがより好ましく、極小値の3倍以上とすることが更に好ましい。このように、透過率特性C2における極大値と極小値の差を大きくすることで、第1波長帯B1と第2波長帯B2のそれぞれにおける反射防止層の透過率の設計が容易となり、所望の透過率を持つ反射防止層を容易に実現可能となる。
【0067】
図3に示す透過率特性C3は、第1波長帯B1における最大透過率として、第2閾値(例えば50%)より高い値を有するものとなっている。この構成により、光学層13の第2層22の樹脂を硬化させる際の光が、第1層21を十分に透過できる。このため、光学層13の樹脂の硬化に要する時間を短縮したり、その硬化を安定して行ったりすることができる。
【0068】
また、透過率特性C3は、第3波長帯B3の長波長側に透過率の極小値(=約594nm)を有し、第2波長帯B2に透過率の極大値且つピーク値(最大値)を有するものとなっている。この構成により、極小値よりも長波長側で、光学層13の屈折率が制御しやすくなる。この結果、特に、第2波長帯B2における光学層13の平均透過率と平均回折効率を高い値にすることが可能となる。
【0069】
また、透過率特性C3は、第3波長帯B3においては、第3波長帯B3の長波長側の端部(650nm)から約50nm短波長側の波長において極小値となり、第3波長帯B3の短波長側の端部(450nm)から約150nm長波長側の波長において極小値となっている。このように、光学層13の透過率は、第3波長帯B3においては急峻に変化することで、極小値よりも長波長側の第1層21の樹脂の透過率及び回折効率の設計をより容易とすることができる。
【0070】
また、透過率特性C3は、第2波長帯B2においては、10μm換算の平均透過率が第3閾値(例えば40%)より高く、且つ、グラフの接線の傾きの平均値が第1傾き閾値TH2(例えば-0.08%/nm)から第2傾き閾値TH3(例えば-0.03%/nm)の範囲となっている。このように、光学層13の透過率は、第2波長帯B2においては短波長側にピークを有し、そこから長波長側に向かって緩やかに下降する。この構成によれば、第2波長帯B2における光学層13の平均透過率を容易に高めることができる。
【0071】
図3に示すように、反射防止層の透過率の極小値は、第1層21の透過率の極小値よりも短波長側にあることが好ましい。このような構成になっていることで、反射防止層及び光学層13のそれぞれの設計を容易とすることができる。
【0072】
反射防止層の透過率の極小値と、第1層21の透過率の極小値との差は、50nm以上150nm以下であることが好ましい。このような構成になっていることで、反射防止層及び光学層13のそれぞれの設計を容易とすることができる。また、
図4の透過率特性C4に示すように、撮影に用いる波長帯よりも短波長側において、透過率を小さくでき、また、透過率が高くなる波長帯の幅を狭くできる。
【0073】
図4に示すように、レンズ10の透過率特性C4は、短波長側において透過率の第1極大値(約33%)を有し、長波長側において透過率の第2極大値(約87%)を有し、第1極大値と第2極大値の間に透過率の極小値(約0%)を有するものとなっている。また、透過率特性C4は、上記第2極大値となる波長よりも長波長側のグラフの接線の傾きの絶対値の平均値が、上記第2極大値から上記極小値までの間のグラフの接線の傾きの絶対値の平均値よりも小さくなっている。レンズ10の各構成要素の透過率特性を
図3に示すものとすることで、600nm付近から透過率が急峻に立ち上がり、700nm付近から透過率が緩やかに下降するレンズ10を実現することができる。また、450nm付近にある程度の透過率を持つレンズ10を実現できる。また、透過率特性C4における短波長側の極大値と極小値との差を20%以上とすることができる。
【0074】
レンズ装置100においては、350nmから600nmの範囲の波長の光は撮影に用いないため、例えば、光学系2や光学系3に含まれるこの範囲の波長の光を吸収するフィルタ等で、透過率特性C5に示すように、この範囲の光は透過しないように構成される。
【0075】
図5は、レンズ10の変形例であるレンズ10Aの断面模式図である。レンズ10Aは、レンズ10において、第1部材11、第1反射防止層11A、及び光学層13が削除され、代わりに、凹レンズ形状の光学層130と反射防止層130Aが追加された構成となっている。光学層130は、樹脂を含んで構成されており、その透過率特性は、
図3の透過率特性C3と同じであることが好ましい。反射防止層130Aは、光学層130における第2部材12側と反対側の面に形成されており、その透過率特性は、
図3の透過率特性C2と同じであることが好ましい。
【0076】
図5に示すレンズ10Aであっても、レンズ10と同様に、第2反射防止層12A及び反射防止層130Aと光学層130の設計を容易とすることができ、長波長側において広い範囲で高い透過率を持つレンズを容易に実現することができる。
【0077】
以下、
図2に示す構造のレンズ10の検証例について説明する。以下に示す実施例と比較例と参考例では、
図3に示す透過率特性C1を持つ第1部材11と第2部材12を用いて、
図2に示す構造のレンズ10を作製した。
【0078】
(実施例1)
第1反射防止層11Aは、
図3に示す透過率特性C2において、第1波長帯B1にある透過率の極大値を90%とし、第3波長帯B3にある透過率の極小値を47%としたコートA2を作製した。
第2反射防止層12Aは、
図3に示す透過率特性C2において、第1波長帯B1にある透過率の極大値を99%とし、第3波長帯B3にある透過率の極小値を31%としたコートA1を作製した。
光学層13は、
図3に示す透過率特性C3において、極小値が594nmとなるものを作製した。光学層13は、そこに有機色素を含めることで透過率の極小値を持たせることができる。
光学層13の第2層22の樹脂の硬化は、第1反射防止層11A側から光を照射することで行った。
【0079】
(実施例2)
実施例1において、第2反射防止層12Aを、コートA1からコートA3に変更したレンズ10を作製した。コートA3は、
図3に示す透過率特性C2において、第1波長帯B1にある透過率の極大値を95%とし、第3波長帯B3にある透過率の極小値を36%としたものを作製した。
【0080】
(実施例3)
実施例1において、第1反射防止層11AをコートA2からコートA1に変更したレンズ10を作製した。
【0081】
(比較例1)
実施例1において、第1反射防止層11Aを、コートA2からコートA4に変更したレンズ10を作製した。コートA4は、
図3に示す透過率特性C2において、第1波長帯B1にある透過率の極大値を62%とし、第3波長帯B3にある透過率の極小値を30%としたものを作製した。
【0082】
(比較例2)
実施例1において、第2反射防止層12Aを、コートA1からコートA5に変更したレンズ10を作製した。コートA5は、
図3に示す透過率特性C2において、第1波長帯B1にある透過率の極大値を56%とし、第3波長帯B3にある透過率の極小値を25%としたものを作製した。なお、光学層13の第2層22の樹脂の硬化は、第2反射防止層12A側から光を照射することで行った。
【0083】
(比較例3)
実施例1において、第1反射防止層11AをコートA2からコートA6に変更し、第2反射防止層12AをコートA1からコートA6に変更したレンズ10を作製した。コートA6は、全体波長帯B0において極小値を持たない透過率特性を有するものを作製した。コートA6は、第1波長帯B1にある透過率の極大値を91%とし、第3波長帯B3にある透過率の極小値を87%としたものを作製した。
【0084】
(参考例)
実施例1において、光学層13から有機色素を除いたレンズ10を作製した。参考例のレンズ10における光学層13は、有機色素を含まないため、全体波長帯B0において極小値を持たない透過率特性を有する。
【0085】
実施例1~3、参考例、及び比較例1~3のそれぞれのレンズ10について、3つの項目で評価を行った。第1評価項目は、生産適性である。第1評価項目は、レンズ10の製造に要する時間(光学層13の樹脂の硬化に要する時間と同義)が許容値以下である場合を“A(生産適性あり)”とし、レンズ10の製造に要する時間が許容値を超える場合を“B(生産適性なし)”とした。
【0086】
第2評価項目は、作製したレンズ10の第2波長帯B2における平均透過率である。第2評価項目は、平均透過率が実用上支障のない30%以上となる場合を“A(合格品)”とし、30%未満となる場合を“B(非合格品)”とした。
【0087】
第3評価項目は、作製したレンズ10の光学層13の第2波長帯B2における平均回折効率である。第3評価項目は、平均回折効率の下限値が実用上支障のない90%となる場合を“A(合格品)”とし、70%となる場合を“B(非合格品)”とした。
【0088】
図6は、実施例、参考例、及び比較例の評価結果を示す図である。実施例1-3及び参考例と比較例1-3の結果から分かるように、反射防止層の透過率特性を短波長側から極大値と極小値(両者の差が35%以上となる値)を有する構成とすることで、第2波長帯B2におけるレンズ全体の平均透過率を高めつつ、生産適性を良好にできることが証明された。また、実施例1-3と参考例の結果から分かるように、光学層13の透過率特性を、短波長側から極大値と極小値を有する構成とすることで、第2波長帯B2における光学層13の平均回折効率を高められることが証明された。
【符号の説明】
【0089】
1,2,3 光学系
100 レンズ装置
C1,C2,C3,C4,C5 透過率特性
B1 第1波長帯
B2 第2波長帯
B3 第3波長帯
10A,10 レンズ
11A 第1反射防止層
130A 反射防止層
11 第1部材
12A 第2反射防止層
12 第2部材
13,130 光学層
21 第1層
22 第2層