(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024018462
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】改質された物質を製造する方法
(51)【国際特許分類】
C08J 7/00 20060101AFI20240201BHJP
D06M 15/05 20060101ALI20240201BHJP
D06M 15/03 20060101ALI20240201BHJP
C08B 15/08 20060101ALN20240201BHJP
A61Q 5/00 20060101ALN20240201BHJP
A61K 8/73 20060101ALN20240201BHJP
【FI】
C08J7/00 Z
D06M15/05
D06M15/03
C08B15/08
A61Q5/00
A61K8/73
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022121821
(22)【出願日】2022-07-29
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構、ムーンショット型農林水産研究開発事業「フードロス削減とQoL向上を同時に実現する革新的な食ソリューションの開発」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(71)【出願人】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100118371
【弁理士】
【氏名又は名称】▲駒▼谷 剛志
(72)【発明者】
【氏名】徳安 健
(72)【発明者】
【氏名】山岸 賢治
(72)【発明者】
【氏名】池 正和
(72)【発明者】
【氏名】水野 正浩
(72)【発明者】
【氏名】田川 聡美
【テーマコード(参考)】
4C083
4C090
4F073
4L033
【Fターム(参考)】
4C083AD211
4C083AD261
4C083AD262
4C083CC31
4C083EE29
4C083FF01
4C090BA24
4C090BA35
4C090BA41
4C090BA47
4C090BB52
4C090BD03
4C090CA01
4C090DA07
4C090DA26
4C090DA32
4F073AA01
4F073AA09
4F073BA07
4F073BA08
4F073BA19
4F073BA24
4F073EA65
4L033AA05
4L033AA07
4L033CA02
4L033CA03
(57)【要約】
【課題】 改質された物質を製造する方法を提供すること。
【解決手段】 改質された物質を製造する方法であって、(1)疎水性表面を有する物質を提供する工程と、(2)セルロース繊維と水溶性多糖とを共存させて、該セルロース繊維を解繊する工程と、(3)該物質に、該水溶性多糖との共存下で解繊されたセルロース繊維を適用することにより、該物質の疎水性表面を改質する工程と、を含む、方法が提供される。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
改質された物質を製造する方法であって、
(1)疎水性表面を有する物質を提供する工程と、
(2)セルロース繊維と水溶性多糖とを共存させて、該セルロース繊維を解繊する工程と、
(3)該物質に、解繊された該セルロース繊維を適用することにより、該物質の疎水性表面を改質する工程と
を含む、方法。
【請求項2】
前記セルロース繊維の解繊が、前記セルロース繊維に対して前記水溶性多糖を添加して混合物を得ることによって行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
解繊された前記セルロース繊維が、少なくとも2μm以上の繊維長を有する繊維を含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
工程(3)が、水溶性多糖の存在下で実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
工程(3)において存在する水溶性多糖が、工程(2)で使用される水溶性多糖と同一である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
工程(3)において存在する水溶性多糖の濃度が、約0.1wt%以下である、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記水溶性多糖が、キシランまたはその誘導体、β-グルカンまたはその誘導体、マンナンまたはその誘導体、キトサンまたはその誘導体、またはそれらの任意の組み合わせを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記疎水性表面を有する物質が、合成樹脂基材、植物の葉、茎、花、実、根、動物の体表面、毛髪を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記合成樹脂基材が、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリスチレン、ポリビニルアルコール、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリエチレンテレフタレートサクシネート、ポリブチレンアジペートテレフタレート、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)、またはそれらの任意の組み合わせを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記改質が、親水性の付与、電荷の付与、抗菌性の付与、またはそれらの任意の組み合わせを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記セルロース繊維が適用された物質に、機能性分子を結合させる工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記機能性分子が、色素、蛍光色素、発光色素、酸化剤、導電性物質、金属、イオン性物質、酵素、生物、多糖、タンパク質、またはそれらの任意の組み合わせを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
疎水性表面を改質するための繊維を製造する方法であって、
(A)セルロース繊維と水溶性多糖とを共存させて、該セルロース繊維を解繊する工程と、
(B)解繊した該セルロース繊維に、機能性分子を結合させる工程と
を含む、方法。
【請求項14】
前記セルロース繊維の解繊が、前記セルロース繊維に対して前記水溶性多糖を添加して混合物を得ることによって行われる、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
疎水性表面を有する物質を改質するための、セルロース繊維および/または水溶性多糖を含む改質剤。
【請求項16】
前記セルロース繊維が、水溶性多糖との共存下で解繊したものである、請求項15に記載の改質剤。
【請求項17】
請求項1に記載の方法によって製造された物質。
【請求項18】
請求項13または14のいずれか一項に記載の方法によって製造された繊維。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、改質された物質を製造する方法、および機能性繊維を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロース繊維を解織してセルロースナノファイバーを製造する技術に関しては、主に植物由来パルプを原料としたTEMPO酸化・リン酸エステル化、酵素加水分解法のような化学的方法や、グラインダー、ホモジナイザー、水中対向衝突法などが知られている。
【0003】
バクテリアセルロースを解織することで、紙質感の低い良質なセルロースファイバーが得られると期待されており、例えば、バクテリアセルロースをパルプ解織装置で処理した後にホモジナイザーで加圧解織処理を行い、チョコレートドリンク、クラムペースト、アイスクリーム、豆腐、かまぼこ、ハンバーガーパテ、ソーセージ、及び餡などに添加する技術が知られている。また、ナタデココをブレンダーで20,000rpmで10分間処理した後、高圧均質化処理(最大600barで10回通過)する方法や、高剪断ブレンダーで解織し、さらに超音波装置で処理する方法も知られている。
【0004】
このようにセルロースを解織することで得られるセルロース解織物については、食品分野において種々の応用が期待されている。また、セルロースを主成分とする植物茎葉部、キチンやそれを主成分とする甲殻類外殻などの水不溶性炭水化物を解織することで、食品産業のみならず、プラスチック、繊維、膜、紙などの非可食品産業においても利用性が向上することから、高い注目を集めている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、様々な水溶性多糖の共存下でセルロース繊維を解繊して調製した懸濁物の特性を解析し、プラスチックなどの疎水性表面をもつ物質との高い相互作用を見出した。
【0006】
したがって、本開示は以下を提供する。
(項目1)
改質された物質を製造する方法であって、
(1)疎水性表面を有する物質を提供する工程と、
(2)セルロース繊維と水溶性多糖とを共存させて、該セルロース繊維を解繊する工程と、
(3)該物質に、該水溶性多糖との共存下で解繊されたセルロース繊維を適用することにより、該物質の疎水性表面を改質する工程と、
を含む、方法。
(項目2)
前記セルロース繊維の解繊が、前記セルロース繊維に対して前記水溶性多糖を添加して混合物を得ることによって行われる、上記項目に記載の方法。
(項目3)
解繊された前記セルロース繊維が、少なくとも2μm以上の繊維長を有する繊維を含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目4)
工程(3)が、水溶性多糖の存在下で実施される、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目5)
工程(3)において存在する水溶性多糖が、工程(2)で使用される水溶性多糖と同一であるか、または異なるものである、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目6)
工程(3)において存在する水溶性多糖の濃度が、約0.1wt%以下である、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目7)
前記水溶性多糖が、キシランまたはその誘導体、β-グルカンまたはその誘導体、マンナンまたはその誘導体、キトサンまたはその誘導体、またはそれらの任意の組み合わせを含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目8)
前記疎水性表面を有する物質が、合成樹脂基材、植物の葉、茎、花、実、根、動物の体表面、毛髪を含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目9)
前記合成樹脂基材が、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリスチレン、ポリビニルアルコール、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリエチレンテレフタレートサクシネート、ポリブチレンアジペートテレフタレート、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)、またはそれらの任意の組み合わせを含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目10)
前記改質が、親水性の付与、電荷の付与、抗菌性の付与、またはそれらの任意の組み合わせを含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目11)
前記セルロース繊維が適用された物質に、機能性分子を結合させる工程をさらに含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目12)
前記機能性分子が、色素、蛍光色素、発光色素、酸化剤、導電性物質、金属、イオン性物質、酵素、生物、多糖、タンパク質、またはそれらの任意の組み合わせを含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目A1)
疎水性表面を改質するための繊維を製造する方法であって、
(A)セルロース繊維と水溶性多糖とを共存させて、該セルロース繊維を解繊する工程と、
(B)解繊した該セルロース繊維に、機能性分子を結合させる工程と
を含む、方法。
(項目A2)
前記セルロース繊維の解繊が、前記セルロース繊維に対して前記水溶性多糖を添加して混合物を得ることによって行われる、上記項目に記載の方法。
(項目A3)
解繊された前記セルロース繊維が、少なくとも2μm以上の繊維長を有する繊維を含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目A4)
前記水溶性多糖が、キシランまたはその誘導体、β-グルカンまたはその誘導体、マンナンまたはその誘導体、キトサンまたはその誘導体、またはそれらの任意の組み合わせを含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目A5)
前記機能性分子が、色素、蛍光色素、発酵色素、酸化剤、導電性物質、金属、イオン性物質、酵素、生物、多糖、タンパク質、またはそれらの任意の組み合わせを含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目B1)
疎水性表面を有する物質を改質するための、セルロース繊維および/または水溶性多糖を含む改質剤。
(項目B2)
前記セルロース繊維が、水溶性多糖との共存下で解繊したものである、上記項目に記載の改質剤。
(項目B3)
前記セルロース繊維の解繊が、前記セルロース繊維に対して前記水溶性多糖を添加して混合物を得ることによって行われる、上記項目のいずれか一項に記載の改質剤。
(項目B4)
解繊された前記セルロース繊維が、少なくとも2μm以上の繊維長を有する繊維を含む、上記項目のいずれか一項に記載の改質剤。
(項目B5)
前記改質が、水溶性多糖の存在下で実施される、上記項目のいずれか一項に記載の改質剤。
(項目B6)
前記改質の際に存在する水溶性多糖が、解繊時の水溶性多糖と同一であるか、または異なるものである、上記項目のいずれか一項に記載の改質剤。
(項目B7)
前記改質の際に存在する存在する水溶性多糖の濃度が、約0.01wt%以下である、上記項目のいずれか一項に記載の改質剤。
(項目B8)
前記水溶性多糖が、キシランまたはその誘導体、β-グルカンまたはその誘導体、マンナンまたはその誘導体、キトサンまたはその誘導体、またはそれらの任意の組み合わせを含む、上記項目のいずれか一項に記載の改質剤。
(項目B9)
前記疎水性表面を有する物質が、合成樹脂基材、植物の葉、茎、花、実、根、動物の体表面、毛髪を含む、上記項目のいずれか一項に記載の改質剤。
(項目B10)
前記合成樹脂基材が、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリスチレン、ポリビニルアルコール、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリエチレンテレフタレートサクシネート、ポリブチレンアジペートテレフタレート、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)、またはそれらの任意の組み合わせを含む、上記項目のいずれか一項に記載の改質剤。
(項目B11)
前記改質が、親水性の付与、電荷の付与、抗菌性の付与、またはそれらの任意の組み合わせを含む、上記項目のいずれか一項に記載の改質剤。
(項目C1)
上記項目のいずれか一項に記載の方法によって製造された物質。
(項目CC1)
上記項目のいずれか一項に記載の方法によって製造された繊維。
【0007】
本開示において、上記の1つまたは複数の特徴は、明示された組み合わせに加え、さらに組み合わせて提供され得ることが意図される。なお、本開示のさらなる実施形態および利点は、必要に応じて以下の詳細な説明を読んで理解すれば、当業者に認識される。
【0008】
なお、上記した以外の本開示の特徴及び顕著な作用・効果は、以下の発明の実施形態の項及び図面を参照することで、当業者にとって明確となる。
【発明の効果】
【0009】
水溶性多糖の共存下でセルロース繊維を解繊して調製した懸濁物は、様々な物質に適用することができ、特に疎水性表面を有する物質に対して親水性付与剤として用いることができ、水の接触角改変によるインク浸透性制御、水滴付着の抑制、表面相互作用による結合・化学的誘導体化のための足場提供、酵素や微生物や酸化チタンなどの親水性物質の足場提供などの機能を発現させることができる。よって、本開示の方法は、プラスチック等の表面加工・高機能化工程への適用が期待される。
【0010】
また本開示の方法によれば、プラスチックなどの疎水性をもつ物質の表面を修飾し、親水性を付与することで、印刷・ラベル適性を向上したり、油滴など他成分との結着性を制御したり、酸化剤、エチレン分解剤などの被覆・固定を行ったりすることができることから、素材の高付加価値化や用途拡大が期待できる。
【0011】
また、素材の表面を改質し、親水性素材の活用を通じて生物関連機能(センサー機能、酵素機能、抗菌性など)、通電・帯電機能などを付与する技術への応用も期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本開示の一実施形態に係る方法において、基板へのセルロース繊維の吸着の状態を示す写真である。BWX:バーチウッドキシラン、TMG:タマリンドシードガム、Chitosan:キトサン
【
図2】
図2は、本開示の一実施形態に係る方法において、基板へのセルロース繊維の吸着量を示すグラフである。BC:バクテリアセルロース、BWX:バーチウッドキシラン、TMG:タマリンドシードガム、Chitosan:キトサン、CMC:カルボキシメチルセルロース、Guargum:グアーガム、Sodium alginate:アルギン酸ナトリウム
【
図3】
図3は、セルロース繊維の解繊の前または後に水溶性多糖を添加した場合のそれぞれの基板へのセルロース繊維の吸着量を示すグラフである。BWX:バーチウッドキシラン、TMG:タマリンドシードガム、Chitosan:キトサン、CMC:カルボキシメチルセルロース、Guargum:グアーガム、Sodium alginate:アルギン酸ナトリウム
【
図4】
図4は、タマリンドシードガム(TMG)濃度の吸着効果への影響を示す写真である。
【
図5】
図5は、本開示の一実施形態に係る方法において、基板に結合したセルロース/多糖複合物に対する洗浄効果を示す結果である。BWX:バーチウッドキシラン、TMG:タマリンドシードガム、Chitosan:キトサン
【
図6】
図6は、本開示の一実施形態に係る方法において、セルロース繊維としてファインパルプ(FP)を用いた場合の結果である。
【
図7】
図7は、本開示の一実施形態に係る方法において、水溶性多糖との共存下で解繊したセルロース繊維が結合した基板表面の接触角を測定した結果である。BWX:バーチウッドキシラン、TMG:タマリンドシードガム、Chitosan:キトサン
【
図8】
図8は、本開示の一実施形態に係る方法において、水溶性多糖との共存下で解繊したセルロース繊維が結合した基板表面の拡大写真である。
【
図9】
図9は、本開示の一実施形態において、解繊したセルロース繊維/水溶性多糖複合物中のキシログルカンを可視化した写真である。解繊したセルロース繊維/水溶性多糖複合物における水溶性多糖としては、タマリンドシードガムを用いた。タマリンドシードガムの主成分はキシログルカンであるため、本実施例ではキシログルカンの可視化を行った。BC:バクテリアセルロース、TMG:タマリンドシードガム
【
図10】
図10は、本開示の一実施形態に係る方法において、イチョウの葉に解繊したセルロース繊維/水溶性多糖複合物を適用した場合の写真である。BC:バクテリアセルロース、TMG:タマリンドシードガム
【
図11】
図11は、本開示の一実施形態に係る方法において、トマトに解繊したセルロース繊維/水溶性多糖複合物を適用した場合の写真である。ミニトマトの表皮を示している。BC:バクテリアセルロース、TMG:タマリンドシードガム、Chitosan:キトサン
【
図12】
図12は、本開示の一実施形態に係る方法において、トマトに解繊したセルロース繊維/水溶性多糖複合物を適用した場合の拡大写真である。ミニトマトの表皮を示している。
【
図13】
図13は、本開示の一実施形態に係る方法において、トマトに解繊したセルロース繊維/水溶性多糖複合物を適用した場合の写真である。上段がミニトマトの全体を、下段がミニトマトを半分にカットしたものをそれぞれ示している。BC:バクテリアセルロース、TMG:タマリンドシードガム、Chitosan:キトサン
【
図14】
図14は、本開示の一実施形態に係る方法において、髪の毛に解繊したセルロース繊維/水溶性多糖複合物を適用した場合の写真である。BC:バクテリアセルロース、TMG:タマリンドシードガム、Chitosan:キトサン
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示を最良の形態を示しながら説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。従って、単数形の冠詞(例えば、英語の場合は「a」、「an」、「the」など)は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての専門用語および科学技術用語は、本開示の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
【0014】
以下に本明細書において特に使用される用語の定義および/または基本的技術内容を適宜説明する。
【0015】
本明細書において、「約」とは、後に続く数値の±10%を意味する。
【0016】
本明細書において、「解繊」とは、バクテリアセルロースやパルプなどの繊維に代表されるような水不溶性炭水化物を解きほぐし、スラリー状にすることをいう。
【0017】
本明細書において「多糖」とは、複数の単糖が重合したものをいい、本開示では代表的に五糖以上の任意の単糖を含む。多糖に使用される単糖は特に限定されるものではないが、例えば、グルコース、ガラクトース、フラクトース、キシロース、アラビノース、ガラクツロン酸、グルクロン酸、マンノース、グルコサミン、N-アセチルグルコサミン、ラムノース、アンヒドロガラクトースなどを含み、これらの側鎖が修飾されたもののうち、1種類または複数種類から構成されるものを含むことができる。単糖の結合様式は、直鎖状、枝分かれ状、及び環状に加えて、それらのうち複数の様式をとるものや、他の糖、タンパク質、または脂質などの糖以外の物質と結合しているものも含まれる。
【0018】
本明細書において、「水溶性多糖」とは、水溶性の多糖類を意味し、天然物としても多種の化合物が存在するが、本明細書では天然物の他、人工的に合成したものを用いてもよい。本明細書において、水溶性多糖には、そのままでは水溶性ではないものの、酸やアルカリによって処理した後、または加熱処理などした後に水溶性となる多糖類も含まれる。例えば、これらに限られるものではないが、キシランまたはその誘導体(グルクロン酸残基、アラビノース残基等で置換されている状態のものを含む。)、β-グルカンまたはその誘導体((1-3),(1-4)β-グルカン、キシログルカン、キサンタンガム、タマリンドシードガム(主成分:キシログルカン)など)、マンナンまたはその誘導体(ガラクトマンナンなど)、水溶性セルロース誘導体またはその塩(カルボキシメチルセルロース塩、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースなどセルロースを化学修飾した多糖を含む。)、キトサンまたはその誘導体(部分脱アセチル化キチンなど)、アルギン酸またはその塩またはそれらの誘導体、カラギーナン、ジェランガム、ペクチンまたはその部分構造物またはそれらの誘導体、及びそれらの任意の組み合わせを含むことができる。
【0019】
本明細書において、「セルロース繊維」とは、水不溶性の炭水化物をいい、例えば、バクテリアセルロース(ナタデココ)、ペプチドグリカン、植物セルロース(ファインパルプ)、植物繊維質(野菜粉など)などの水不溶性のセルロースを主成分とする植物組織、カニ殻、海老殻、動物組織、昆虫粉末、藻類菌体、糸状菌菌体、酵母菌体、細菌菌体(納豆菌菌体、乳酸菌菌体など)などを含むことができる。またセルロース繊維は、複数種類の炭水化物から構成される水不溶物であっても良い。
【0020】
本明細書において、「繊維長」とは、繊維の長軸方向の長さをいい、繊維の長軸方向に、その繊維を崩壊させることなく、直線状に配置できるものと仮定した際の、繊維の両端の間の直線距離を意味する。
【0021】
本明細書において「炭水化物」とは、基本的に単糖を主要構成成分とする物質をいい、可食性炭水化物としては、消化性糖質および食物繊維を含む。炭水化物には、天然物としても多種の化合物が存在するが、本明細書で用いられる炭水化物は、人工的に合成したものであってもよく、炭水化物以外の物質を含む状態で存在していても良い。また、非可食性の植物細胞壁、微生物菌体内または菌体外多糖、種子、根、塊茎等における貯蔵性多糖、動物軟骨内多糖、動物細胞外マトリックス多糖、細胞外骨格多糖なども本明細書における炭水化物に含まれる。
【0022】
本明細書において「共存」とは、セルロース繊維と水溶性多糖とが同時に同じ系内に存在することをいい、本開示のセルロース繊維の解繊操作を行う際に、水溶性多糖が溶解した状態で存在していることをいう。本開示の解繊操作を行う際には、共存下にある水溶性多糖の少なくとも一部は、新たにセルロース繊維との複合体を形成できる状態にある。セルロース繊維の解繊操作後に水溶性多糖を加える態様は本明細書の「共存」とはいえず、既に水溶性多糖がセルロース繊維との複合体を形成してしまっているようなものを解繊する態様も、本明細書の「共存」での解繊とはいえない。
【0023】
本明細書において、物質の「改質」とは、改質操作前と比較して、改質対象となる物質の任意の性質を変化させ、または向上させることをいい、例えば、疎水性表面を有する物質の改質は、当該物質に対して親水性が付与されたり、抗菌性が向上したり、電荷が付与されたりすることができる。「抗菌性」とは、抗細菌、抗真菌、抗ウイルス、動植物の生育抑制性、およびこれらの忌避性を含む。
【0024】
本明細書において「疎水性表面」とは、広義に解釈され、水と馴染まない性質をもつ表面、および/または水滴を弾く表面をいう。一つの定義として、水に対する接触角が少なくとも約90°以上となる表面をいい、通常、プラスチックや合成樹脂からなる表面がこれに該当する。本明細書において、水に対する接触角とは、水平面(水平な表面)を有する当該部材と当該水平面上に滴下された水(液滴)とを接触させた状態において、液体の輪郭曲線と当該水平面との交点における当該輪郭曲線の接線と、当該水平面とがなす角度である。接触角は、例えば温度約20~約30℃において相対湿度約30~約70%の測定環境下で液滴法により測定することができる。
【0025】
本明細書において「疎水性表面を有する物質」とは、その少なくとも一部または全体にわたって上記疎水性表面を有する物質をいい、疎水性の程度は特に限られない。例えば、疎水性表面を有する物質としては、プラスチックなどの合成樹脂基材、葉、茎、花、実、根などの植物材料、皮膚、羽根、毛髪、外殻等の動物材料、菌体・バイオフィルム等の微生物材料、またはそれらを有する生体そのもの、鉄、アルミニウムなどの金属、タール状の石油関連物質、バイオマスを高温処理して得られるバイオオイル、および油脂による膜などを含むことができ、動物材料としては、鳥の羽や羊の毛、および節足動物、虫、昆虫などの皮膚や羽根を含むことができる。
【0026】
本明細書において「機能性分子」とは、対象となる物質に対して任意の機能を付与することができる分子であり、機能性分子が当該物質に付着、結合、混合などすることにより、機能性分子の機能に応じた特性を付与させることができる。機能性分子としては、例えば、色素、蛍光色素、発酵色素、酸化剤、導電性物質、金属、イオン性物質、酵素、生物、多糖、タンパク質、またはそれらの任意の組み合わせを挙げることができる。
【0027】
本明細書において、「…を適用する」とは、ある物質を他の物質に接触させるための任意の手段をいい、例えば、適用するための技術は、特に限定されるものではないが、ブラッシング、ローリング、噴霧、注入、塗装、吸収、吸着、浸水、飽和、浸透、浸漬、またはこれらを組み合わせて用いることもできる。
【0028】
本明細書において、「混合物」とは、複数の構成単位が混合、分散、または膨潤などしている状態や、ある構成単位が他の構成単位に溶解している状態をいう。
【0029】
(好ましい実施形態)
以下に本開示の好ましい実施形態を説明する。以下に提供される実施形態は、本開示のよりよい理解のために提供されるものであり、本開示の範囲は以下の記載に限定されるべきでない。したがって、当業者は、本明細書中の記載を参酌して、本開示の範囲内で適宜改変を行うことができることは明らかである。また、本開示の以下の実施形態は単独でも使用されあるいはそれらを組み合わせて使用することができる。
【0030】
本開示の一局面において、改質された物質を製造する方法であって、(1)疎水性表面を有する物質を提供する工程と、(2)セルロース繊維と水溶性多糖とを共存させて、該セルロース繊維を解繊する工程と、(3)該物質に、該水溶性多糖との共存下で解繊されたセルロース繊維を適用することにより、該物質の疎水性表面を改質する工程と、を含む、方法が提供される。
【0031】
本開示の方法においては、水溶性多糖との共存下で解繊されたセルロース繊維の特性を利用して、疎水性表面を有する物質を改質することを特徴とする。すなわち、本開示の方法は、セルロースの離解工程において起こり得る新たなセルロース表面の出現が、近傍のセルロース同士の会合を起こし、繊維の絡み合いを促すために離解がうまくいかないという仮説に基づいている。本開示の方法は、セルロースの離解工程において、セルロースと相互作用を示す多糖が離解時に共存することが、有用な解繊セルロース繊維を提供し、この解繊セルロース繊維が、疎水性表面を有する物質の改質剤として機能することを見出したことに基づくものである。
【0032】
一実施形態において、セルロース繊維を解繊する際に、水溶性多糖は溶液として存在していることが好ましく、例えば、水、水と他の物質との混合溶媒、アルコール、または親水性溶媒などに溶解したものとすることができる。このような水溶性多糖の溶液にセルロース繊維を混合して、その共存下でセルロース繊維を解繊することができる。また、別の実施形態において、解繊したセルロース繊維を、疎水性表面を有する物質に適用する際に、その物質は、それ自体として存在し、解繊したセルロース繊維またはその溶液を適用(例えば、噴霧)することができ、あるいはその物質を溶液状態にして、例えば、水、水と他の物質との混合溶媒、アルコール、または親水性溶媒などに溶解したものとした上で、解繊したセルロース繊維をその物質に接触させてもよい。このようにして、解繊したセルロース繊維を用いて、疎水性表面を有する物質を改質することができる。
【0033】
<水溶性多糖との共存下で解繊されたセルロース繊維>
本開示の方法において利用することができるセルロース繊維としては、バクテリアセルロース(ナタデココ)、澱粉、キチン、キトサン、パラミロン、ペプチドグリカン、マンナン、植物セルロース(ファインパルプ)、植物繊維質(野菜粉など)などの水不溶性のセルロースを主成分とする植物組織、カニ殻、海老殻、動物組織、昆虫粉末、藻類菌体、糸状菌菌体、酵母菌体、細菌菌体(納豆菌菌体、乳酸菌菌体など)などを挙げることができる。植物セルロースやバクテリアセルロースなどのセルロース繊維は、解繊の際に絡まりやすく、離解性が低いため、セルロース繊維だけを水に懸濁させた状態では、食品用ブレンダーや食品用ミキサーなどでは解繊させることができず、パルプ産業用の高出力のグラインダーやホモジナイザー、高圧処理装置、超音波処理装置などの特殊な装置を用いて解繊させる必要がある。本開示においては、このような特殊な装置を用いてしか解繊できなかったセルロース繊維を、水溶性多糖と共存させることで容易に解繊させ、この解繊したセルロース繊維の特性を利用して、疎水性表面を有する物質を改質する技術を提供する。
【0034】
一実施形態において、本開示の方法において用いるセルロース繊維は、化学反応などによって官能基を導入したものではない、天然のセルロース繊維を用いることができる。セルロース繊維に対して化学反応によって官能基を導入し、そのような官能基が導入されたセルロース繊維を利用すれば、任意の物質を改質することが可能であるが、本開示の方法では、このような化学反応を利用することなく、官能基のない天然のセルロース繊維を用いて、疎水性表面を有する物質を改質することができる技術を提供する。化学反応を利用して官能基を導入したセルロース繊維に対しては、化学構造自体、部分的化学構造、あるいは共存・残留する物質のもつ化学的、生物学的および物理的影響を考慮する必要があり、予め、安全性・品質安定性などの立場からの検証を行う必要が生じる場合がある。
【0035】
バクテリアセルロースは、ナタデココなどとして製造されるゲル状の様態を示し、必要に応じて、公知の方法に従い、菌体などの共存物を除去し洗浄したり裁断したりした素材を用いることができる。裁断物として糖液などの安定化剤中で流通されるものの場合、必要に応じて脱糖・洗浄したものを用いることができる。また、乾燥物として流通している原料は、離解工程において吸水された状態にすることが望ましい。植物セルロース(パルプ)は、木材、草本、藻類などに由来する植物組織の裁断物であり、より好適には、細胞壁成分や細胞内成分などのセルロースと共存する成分の少なくとも一部が除去されて、セルロース含有量を向上させた原料であることが望ましい。その他のセルロース繊維でも同様に、粉砕に適する形状に裁断されたうえで、炭水化物の含有量を向上することで解繊効率の向上を図ることが望ましい。
【0036】
本開示の一実施形態において、セルロース繊維の解繊時に、水に溶解した水溶性多糖と共存させることで、食品用ブレンダーや食品用ミキサーなどでも解繊することができ、このようにして得た複合体はセルロース繊維と水溶性多糖とが混在して存在している。一実施形態において、本開示の方法において、セルロース繊維の解繊は、ボールミルなどの産業用機械を用いた、より過酷な条件での解繊であってもよい。また他の実施形態において、水に溶解した水溶性多糖との共存下でセルロース繊維を、食品用ブレンダーや食品用ミキサーなどを用いて解繊して得た複合体は、さらに、一層細かい離解物とするため、ボールミルなどの産業用機械で処理することもできる。
【0037】
本開示の一実施形態において、セルロース繊維の解繊時に、1または複数種類の水溶性多糖を添加することができる。本開示の一実施形態において、水溶性多糖としては、水不溶性セルロースなどの表面と相互作用する多糖であることが好ましく、例えば、これらに限られるものではないが、キシランまたはその誘導体(グルクロン酸残基、アラビノース残基、アセチル基、4-O-メチルグルクロン酸残基、フェルロイル基等で置換されている状態のものを含む。)、β-グルカンまたはその誘導体((1-3),(1-4)β-グルカン、キシログルカン、キサンタンガム、タマリンドシードガム(主成分:キシログルカン)など)、マンナンまたはその誘導体(ガラクトマンナンなど)、水溶性セルロース誘導体またはその塩(カルボキシメチルセルロース塩、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースなどセルロースを化学修飾した多糖を含む。)、キトサンまたはその誘導体(部分脱アセチル化キチンなど)、アルギン酸またはその塩またはそれらの誘導体、カラギーナン、ジェランガム、ペクチンまたはその部分構造物またはそれらの誘導体、及びそれらの任意の組み合わせを含むことができる。一実施形態において、β-グルカンまたはその誘導体は、(1-3),(1-4)β-グルカンを含むことができ、精製された(1-3),(1-4)β-グルカンだけではなく、オオムギ、小麦、オーツ麦などの(1-3),(1-4)β-グルカンを含む抽出物も本開示の水溶性多糖として用いることができる。このような抽出物を得る際には、オオムギなどに内在する(1-3),(1-4)β-グルカン分解酵素を失活させる必要があり、オオムギなどを焙煎した後に粉砕して抽出液を得たり、粉砕後に加熱処理してから抽出液を得たりするなどの方法が有効である。また抽出物の中には、(1-3),(1-4)β-グルカン以外の糖、例えばキシランの誘導体などの水溶性多糖も存在する場合もある。水溶性多糖の中には、増粘安定剤として入手しやすいものもあるが、オオムギ、小麦、オーツムギなどの(1-3),(1-4)β-グルカンを含む抽出物、米ぬかやフスマのようにキシラン誘導体を含む抽出物などは、食品素材から容易に得られる水溶性多糖であり、本開示による方法を家庭や小規模の製造現場で容易に行うことができるようになる。
【0038】
本開示の一実施形態において、これらの水溶性多糖は、必要に応じて酸やアルカリを添加したり、加熱することによって、溶解または高度に膨潤させてからセルロース繊維の解繊時に共存させることもできる。また本開示の一実施形態において、水溶性多糖にオートクレーブ殺菌やレトルト殺菌等の湿潤食品用の殺菌技術を適用することで、保存性を高めて品質を維持することもできる。解繊時における水溶性多糖とセルロース繊維との効果的な重量比は、水溶性多糖とセルロース繊維との相互作用の特性、水溶性多糖のもつ相互作用に関与する部分構造の特性、セルロース繊維中における炭水化物の純度、セルロース繊維中において相互作用に関係する表面の潜在的な露出可能量、解繊時の処理条件に依存する表面の露出度、解繊時の系内における共存物質の影響などによって変動する。一実施形態において、セルロース繊維の解繊時において、セルロース繊維と水に溶解した水溶性多糖とが共存していればよく、必要に応じて、その他の物質を添加することもできる。
【0039】
本開示の一実施形態において、セルロース繊維は、水に溶解した水溶性多糖と共存させることで、食品用ブレンダーまたは食品用ミキサーなどによって解繊することができ、その処理時間は約1秒~約120分、好ましくは約5秒~約60分、さらに好ましくは約10秒~約10分とすることができる。本明細書において「食品用ブレンダー」または「食品用ミキサー」とは、一般流通過程において入手可能ないわゆる家庭用のブレンダーまたはミキサーをいい、例えば、1回の処理で約20リットル以下であり、連続的処理を行う場合に約1時間あたり約50リットル以下の処理能力であるものであり、家庭用電機販売店・ネット販売サイトで家庭、ケーキ店、食材製造店、レストラン、小規模の食品製造店等向けに売られているものを含む。食品用ブレンダーまたは食品用ミキサーとしては、一人分~十数人分の食品をブレンド及び/またはミックスするための装置ないし機器を挙げることができる。
【0040】
一実施形態において、食品用ブレンダーまたは食品用ミキサーによる処理は、機械の加熱を避けるため、例えば、約10秒間、約20秒間、または約30秒間の処理を複数回にわけて、全体として約1分、約5分、約7分、または約10分などとすることもできる。一実施形態において、その処理温度は、共存させる水溶性多糖の特性によって適宜変更することができる。一実施形態において、解繊対象となるセルロース繊維として水不溶性セルロースを用いる場合には、水分子が液体である約0℃~約100℃において安定であり、水溶性多糖やその他の添加物の影響を考慮しない場合には、この温度帯で処理することができる。
【0041】
セルロース繊維を解繊する際には、セルロース繊維に剪断力を加えることで、二つ以上の塊に引きちぎるような処理を行う。つまり、本開示においては、上記のような水不溶性のセルロース鎖が会合した状態にあるバクテリアセルロースなどのセルロース繊維の解繊時に、セルロース繊維と相互作用する物質(例えば、水溶性多糖)を共存させることで、解繊時におけるセルロース繊維を構成する炭水化物同士の再会合による解繊抑制を阻止し、簡易に解繊したセルロース繊維を得ることができる。一旦解繊したセルロース繊維同士の再会合が起こる際には、例えばバクテリアセルロースでは、解繊時に、非晶質の炭水化物の遊離が起こり、その非晶質の炭水化物が、剥がれた場所またはその近傍に位置する炭水化物結晶の疎水面と相互作用を起こすものと考えられる。本開示では、非晶質の炭水化物が遊離しても、結晶の疎水面が別の物質で保護されていれば、再会合に繋がるような相互作用を起こしにくくなるとの仮説のもと、セルロース繊維と相互作用する物質(例えば、水溶性多糖)を添加し、仮説どおりに解繊が促進されたことを確認している。
【0042】
一実施形態において、セルロース繊維の解繊時に共存する水溶性多糖は、セルロース繊維に対して外部から添加したものとすることができる。このようにしてセルロース繊維と水溶性多糖の混合物を得て、それらの共存下においてセルロース繊維の解繊を行うことができる。セルロース繊維やその原料にもともと結合している多糖は、疎水性多糖といえるため、本開示の方法に使用し得る水溶性多糖とはならない。
【0043】
本開示の一実施形態において、このようなセルロース繊維の解繊処理により、解繊されたセルロース繊維は少なくとも約2μm以上、約3μm以上、約4μm以上、約5μm以上、約6μm以上、約7μm以上、約8μm以上、約9μm以上、または約10μm以上の繊維長を有する繊維を含むことができる。セルロース繊維を解繊する際に、例えば対向衝突処理などのように、セルロース繊維に対して強い衝突エネルギーを与えて解繊すると、多くの繊維がナノレベルの大きさの繊維となってしまう。本開示の方法に用いる解繊処理の場合、水溶性多糖との共存下で、食品用ブレンダーまたは食品用ミキサーなどで攪拌するだけで解繊されるため、ナノレベルの大きさの繊維はごく少量しか存在せず、多くの繊維が上記の繊維長となるという特徴をもつ。
【0044】
<水溶性多糖との共存下で解繊されたセルロース繊維>
本開示の一実施形態において、上記のようにして得た解繊されたセルロース繊維を、疎水性表面を有する物質に適用することにより、当該物質を改質することができる。
【0045】
本開示の一実施形態に係る方法において、解繊されたセルロース繊維を、疎水性表面を有する物質に適用して被覆する際、その手法は特に限られないが、例えば、解繊されたセルロース繊維を含む溶液に、疎水性表面を有する物質を含浸または浸漬するか、あるいは解繊されたセルロース繊維を含む溶液を、疎水性表面を有する物質の表面に塗布することができる。一実施形態において、含浸や塗布は、組み合わせて行ってもよく、それぞれを繰り返し行ってもよい。塗布手段は特に制限はなく、エアースプレー、ハケ、ローラー等で行うことができる。
【0046】
一実施形態において、解繊されたセルロース繊維を適用した後の疎水性表面を有する物質は必要に応じて乾燥することもできる。乾燥は、例えば、加熱乾燥、強制乾燥、及び/又は常温乾燥により行うことができる。
【0047】
改質の対象となる物質は、疎水性表面を有するものであれば特に限られないが、例えば、プラスチック等の合成樹脂基材、葉、茎、花、実、根などの植物材料、皮膚、羽根、毛髪、外殻等の動物材料、菌体・バイオフィルム等の微生物材料、またはそれらを有する生体そのもの、鉄、アルミニウムなどの金属などを含むことができる。一実施形態において、動物材料には、鳥の羽や羊の毛、および節足動物、虫、昆虫などの皮膚や羽根を含むことができる。改質の対象となる物質として野菜や果実を用いることで、野菜や果実などへの抗菌成分、防腐剤、または防虫成分を付与することができ、また改質の対象となる物質として虫や葉を用いることで、虫や葉面などに対する殺虫剤の効果的散布を行うことができる。また一実施形態において、本開示の方法を用いることで、種々のリンスや皮膚保湿剤の高機能化を行うこともできる。
【0048】
一実施形態において、改質の対象となる物質としては、タール状の石油関連物質、バイオマスを高温処理して得られるバイオオイル、および油脂による膜などを含むことができ、このような物質を本開示の方法によって改質することで、これらの物質に油の資化菌を付着させることができる。
【0049】
一実施形態において、合成樹脂基材としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリスチレン、ポリビニルアルコール、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリエチレンテレフタレートサクシネート、ポリブチレンアジペートテレフタレート、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)、またはそれらの任意の組み合わせを挙げることができる。
【0050】
一実施形態において、ポリエチレンなどの疎水性表面を有する合成樹脂基材に、本開示の解繊されたセルロース繊維を適用する場合、当該基材表面を例えば親水性に改質することができる。本開示の解繊されたセルロース繊維によって付与される特性は、水溶性多糖やセルロース繊維の種類、またはその組み合わせによって変化し得るが、一実施形態において、解繊時に用いた水溶性多糖や、解繊後に任意に加えることのできる水溶性多糖の性質を適宜組み合わせることによって、目的の特性を付与することもできる。例えば、本開示の解繊されたセルロース繊維によって付与される特性は、親水性の付与、電荷の付与、抗菌性の付与、またはそれらの任意の組み合わせを挙げることができる。
【0051】
一実施形態において、本開示の解繊されたセルロース繊維を、疎水性表面を有する物質に適用することによって、どのくらいの量のセルロース繊維が吸着したかを確認するには、例えば、セルロース染色によって評価することができる。具体的には、疎水性表面を有する物質(例えばPPフィルム)上に、解繊されたセルロース繊維の分散水を滴下し、室温で10分以上静置する。その後、セルロース繊維を除去し、純水に5回ほど浸し、未吸着繊維を洗浄後、60℃で10分以上風乾する。これにリン酸バッファー(pH7.5)で1×10-3%に希釈したCalcofluor whiteを滴下し、10分以上静置することで蛍光染色する。次に蛍光染色した試料を蛍光顕微鏡観察し、蛍光画像を得る。蛍光画像から画像処理ソフト(image j/ Fiji)を用いてバックグラウンドの蛍光を除去し、明暗調整を施したのちに二値化した画像を吸着量評価に用いる。9枚の二値化した画像の画面上の白部分の割合を算出し、平均値と標準偏差を求めることができる。
【0052】
一実施形態において、解繊されたセルロース繊維を、疎水性表面を有する物質に適用する場合には、水溶性多糖の存在下で実施することもできる。上記のとおり、本開示の方法では、水溶性多糖との共存下でセルロース繊維を解繊するため、解繊した直後のセルロース繊維は、水溶性多糖と共存している。本開示の一実施形態において、この解繊したセルロース繊維を、疎水性表面を有する物質に適用して改質する際に、水溶性多糖を取り除いてから改質工程を行ってもよいし、水溶性多糖の存在下で改質工程を行ってもよい。
【0053】
一実施形態において、水溶性多糖の存在下で改質工程を実施する場合、その存在する水溶性多糖は、解繊工程の際に用いた水溶性多糖であってもよいし、解繊工程の際に用いた水溶性多糖とは異なるものであってもよい。すなわち、水溶性多糖との共存下でセルロース繊維を解繊し、その後その水溶性多糖を取り除き、異なる種類の水溶性多糖を、当該解繊したセルロース繊維に添加して、改質工程に用いることもできる。他の実施形態において、水溶性多糖との共存下でセルロース繊維を解繊し、その水溶性多糖を除去しないまま、異なる種類の水溶性多糖を添加することもできる。上記のとおり、本開示の方法において、改質工程によって付与される特性は、水溶性多糖やセルロース繊維の種類、またはその組み合わせによって変化し得えるため、目的の特性を付与するため、任意の水溶性多糖を添加してもよく、また水溶性多糖の除去または添加は任意の手法によって行うことができる。
【0054】
一実施形態において、改質する工程において存在する水溶性多糖の濃度は、水溶性多糖の種類や改質対象となる物質の種類に応じて適宜設定することができるが、例えば、約1.0wt%以下、約0.5wt%以下、約0.1wt%以下、約0.05wt%以下、約0.01wt%以下、約0.005wt%以下、または約0.001wt%以下とすることができ、下限値としては、例えば約0.0001wt%以上、約0.0005wt%以上、約0.001wt%以上、または約0.005wt%以上などとすることができる。
【0055】
本開示の一実施形態において、解繊されたセルロース繊維が適用された物質に、さらに機能性分子を結合させることもできる。このような機能性分子としては、任意のものを利用することができるが、例えば、色素、蛍光色素、発酵色素、酸化剤、導電性物質、金属、イオン性物質、酵素、生物、多糖、タンパク質、またはそれらの任意の組み合わせを挙げることができる。
【0056】
このような機能性分子は、解繊されたセルロース繊維と混合されることで、セルロース繊維の物性や特性を改変することができる。例えば、本開示の方法によって、疎水性表面を有する物質を、食品素材へのコーティングとして用いる場合(例えば、トマト表面へのコーティング)には、調味料、砂糖、澱粉、油脂、タンパク質、無機塩、ゲル化剤、他の食品やその加工物、栄養成分、機能性成分などを加えることができる。セルロース繊維は、これらの機能性分子との適合性は高いが、水溶性多糖に対するこれらの分子の適合性、あるいは複合体を構成するセルロース繊維と水溶性多糖との相互作用への影響は、水溶性多糖の種類や解繊条件などによって異なるため、その適用範囲は個別に決定することが好ましい。例えば、塩やpHによる効果は、水溶性多糖によっては、帯電効果やそれに伴う分散効果に影響を及ぼし、分散状態を制御することができる。
【0057】
本開示の他の局面によれば、機能性繊維を製造する方法であって、セルロース繊維と水溶性多糖とを共存させて、該セルロース繊維を解繊する工程と、解繊した該セルロース繊維に、機能性分子を結合させる工程とを含む、方法が提供される。このような方法においては、本明細書の他の箇所で説明した特徴を有することができる。
【0058】
本開示の他の局面によれば、疎水性表面を有する物質を改質するための、セルロース繊維および/または水溶性多糖を含む改質剤が提供される。本開示の改質剤は、本明細書の他の箇所で説明した特徴を有することができる。
【0059】
本開示の他の局面によれば、本明細書の他の箇所で説明した方法によって製造された物質が提供される。またさらに他の局面によれば、本明細書の他の箇所で説明した方法によって製造された繊維が提供される。このような物質や繊維は、本明細書の他の箇所で説明した特徴を有することができる。
【実施例0060】
解繊したセルロース繊維は以下のように調整した。
バクテリアセルロース(BC、国内産ナタデココ(業務用)、森永製菓)3kgを20L容容器に入れ、水道水15Lを加え緩やかに攪拌した。24時間毎に水を計5回交換して脱糖を行った。これを湿重量20gとり、27gの0.35%多糖溶液を添加した後、家庭用ミキサー(フードミルTML180、テスコム)で速度(25,000rpm)、30秒×4回粉砕することで離解した。
【0061】
以下の実施例では小ミキサー系で調製したものを使用した。また実施例5のファインパルプについては、以下のとおりに調製したものを用いた。
【0062】
ワットマン定性濾紙No.1を10gのタマリンドシードガム水溶液(w/w)と混合して、50mLのステンレスジャー、25mm径のステンレスボールを入れて、ボールミル(ボールミル:ヴァーダー・サイエンティフィック株式会社(日本法人本社:東京)ミキサーミル MM301)で、15往復/秒、4分の粉砕を行ったものを、ファインパルプとして使用した。
【0063】
(実施例1:基板へのセルロース繊維の吸着量測定)
本実施例では、解繊したセルロース繊維が基板にどの程度吸着するのかを確認した。以下に詳細を示す。
【0064】
【0065】
基板上にセルロース繊維を含む溶液を滴下し、室温で10分間、静置した。この液滴を取り除いた後、純水を静かに滴下し、直ぐに取り除いた。この作業を5回繰り返し、基板に吸着していないセルロース繊維の除去を行った。上記洗浄作業を行った後、60℃の恒温機内で10分間、乾燥を行った。
【0066】
上記処理を行った基板に、Calcofluor white溶液を滴下し、室温で10分間静置することで、セルロース繊維の染色を行った。Calcofluor white溶液を取り除いた後、リン酸緩衝液(pH7.5)を静かに滴下し、直ぐに取り除いた。この作業を3回繰り返し、余計なCalcofluor white溶液の除去を行った。
【0067】
上記染色後に、極少量のリン酸緩衝液(pH7.5)を滴下し、蛍光顕微鏡(オリンパス BX51)で観察を行った。結果を
図1に示した。いずれもセルロース繊維にはバクテリアセルロース(BC)を使用した。
図1中、「水溶性多糖なし」は、解繊時に水溶性多糖を添加していないものを示す。
図1の右4つのパネルは、それぞれ、水溶性多糖としてバーチウッドキシラン(BWX)、タマリンドシードガム(TMG)、キトサン(Chitosan)を添加してBCを解繊した。この結果から、基板への吸着量はバクテリアセルロースのみを吸着させた場合よりも、水溶性多糖とともに解繊した場合のほうが高くなり、解繊時にセルロース繊維と水溶性多糖を共存させることで、疎水表面の改質を行うことができることがわかる。
【0068】
また基板に吸着したセルロース繊維量をグラフ化したものを
図2に示した。BCはバクテリアセルロースを、TMGはタマリンドシードガムを、BWXはバーチウッドキシランを、CMCはカルボキシメチルセルロースを、それぞれ示す。このグラフからも、基板への吸着量はバクテリアセルロースのみを吸着させた場合よりも、水溶性多糖とともに解繊した場合のほうが高くなることがわかる。水溶性多糖がタマリンドシードガムの場合、PETに対する吸着性が著しく高くなる。キトサンの場合もPETに対する吸着性が高い。一方、ポリスチレンに対しては、キトサンを水溶性多糖として利用すると吸着量が高くなる。バーチウッドキシランでは、PPに対しての吸着性が高くなる。
【0069】
(実施例2:多糖を添加するタイミングの検証)
本実施例では、セルロース繊維を解繊する前に水溶性多糖を添加した場合と、解繊した後に水溶性多糖を添加した場合とで、基板への吸着量に変化がみられるかを確認した。基盤への吸着実験は実施例1と同様にして行った。結果を
図3に示す。BCはバクテリアセルロースを、TMGはタマリンドシードガムを、BWXはバーチウッドキシランを、CMCはカルボキシメチルセルロースを、それぞれ示す。
図3は、セルロース繊維を解繊した後に水溶性多糖を添加した場合、および解繊する前に水溶性多糖を添加した場合の、疎水性基材への吸着量を
図2と同様の手法によってArea fractionとして測定し、解繊後に添加した場合のArea fractionから、解繊前に添加した場合のArea fractionを差し引いたグラフである。すなわち、この値がマイナスの値になればなるほど、解繊前に水溶性多糖を添加することで、吸着量が増加していることを示すものとなる。この結果から、種々の疎水性基板において、セルロース繊維を解繊した後に水溶性多糖を添加した場合よりも、解繊する前に水溶性多糖を添加した場合のほうが、疎水性基板への吸着量が多くなることがわかる。
【0070】
(実施例3:タマリンドシードガム(TMG)濃度の吸着効果への影響)
本実施例では、水溶性多糖としてタマリンドシードガムを用いた場合に、その濃度によって、基板への吸着量が変化するかどうかを確認した。基盤への吸着実験は実施例1と同様にして行った。結果を
図4に示した。この結果から、タマリンドシードガムの共存下で解繊したバクテリアセルロースは、その濃度によって基板への吸着量が変化することがわかる。また、水溶性多糖とセルロース繊維の合計の濃度が高い場合には、基板へのセルロース繊維/水溶性多糖複合体のアクセシビリティが低下し、水溶性多糖やセルロース繊維の濃度が低いほうがより基板に吸着することがわかる。タマリンドシードガムの濃度が吸着に与える影響を検討した結果、タマリンドシードガム濃度が0.01%程度以上の場合、吸着した繊維が、水洗により剥がれてしまうことが示唆された。吸着させる際の濃度としては0.001%程度が望ましい。
【0071】
(実施例4:基板に結合したセルロース繊維/水溶性多糖複合物に対する洗浄効果)
本実施例では、一度基板に滴下したセルロース繊維/水溶性多糖複合物を洗浄した場合の吸着量の変化を確認した。
【0072】
基板としては実施例1の表1のものを使用した。
【0073】
基板上にセルロース繊維を含む溶液を滴下し、室温で10分間、静置した。この液滴を取り除いた後、純水を静かに滴下し、直ぐに取り除いた。この作業を5回繰り返し、基板に吸着していないセルロース繊維の除去を行った。その後、脱イオン水またはEtOH上で30分間浸透し、洗浄操作とした。
【0074】
上記処理を行った基板に、Calcofluor white溶液を滴下し、室温で10分間静置することで、セルロース繊維の染色を行った。Calcofluor white溶液を取り除いた後、リン酸緩衝液(pH7.5)を静かに滴下し、直ぐに取り除いた。この作業を3回繰り返し、余計なCalcofluor white溶液の除去を行った。
【0075】
上記染色後に、極少量のリン酸緩衝液(pH7.5)を滴下し、蛍光顕微鏡(オリンパス BX51)で観察を行った。結果を
図5に示した。この結果から、水溶性多糖の種類によっては、洗浄工程によって吸着量が減少するもの、または変化しないものがあることがわかる。また水溶性多糖としてキトサンを用いた場合には、洗浄したあとでも、セルロース繊維/水溶性多糖複合体が凝集することなく、基板表面に分散して結合した状態を維持していることがわかる。
【0076】
(実施例5:ファインパルプ(FP)を用いた検証)
本実施例では、バクテリアセルロース以外のセルロース繊維(ファインパルプ)を用いて、水溶性多糖との共存下で解繊した場合の基板への吸着量を確認した。結果を
図6に示した。本実施例では、TMGは、0.2wt% TMG液10gで統一している。
図6は、このTMGに、FP量として0.5g加えた場合と、0.125gを加えて解繊処理した実験結果をそれぞれ示す。この結果から、FP量に対してTMGを多くすると(0.125g FP/TMG)、より微細化することがわかる。またこの結果から、セルロース繊維としてバクテリアセルロースだけでなく、ファインパルプ(FP)を用いた場合にも、水溶性多糖(タマリンドシードガム)との共存下で解繊することで、ポリプロピレンやポリエチレンテレフタレートへの吸着量が増加することがわかる。ポリプロピレンにタマリンドシードガムを添加した場合、ファインパルプに対するタマリンドシードガムの添加比が高いと、繊維がより細く、短くなっていることが示唆された。
【0077】
PETフィルムに対しては、タマリンドシードガム未添加の場合ほとんど吸着がみとめられなかった。一方、タマリンドシードガムを添加した場合は、吸着がみとめられた。パルプに対するタマリンドシードガムの添加比により吸着する繊維の形態が異なる可能性が示唆された。
【0078】
(実施例6:水溶性多糖との共存下で解繊したセルロース繊維が結合した基板表面の接触角測定)
本実施例では、水溶性多糖との共存下で解繊したセルロース繊維が結合した基板表面の接触角を測定した。接触角の測定は以下のとおりに行った。まず各基板上にセルロース繊維の分散水を滴下し、10分、室温で静置後、純水で洗浄した。それを60℃で30分風乾したものを接触角測定試料とした。試料に5μlの純水を滴下し、水平方向から液滴をカメラで撮影した。撮影した画像から、液滴と基板の間の接触角を画像処理ソフト(imageJ/Fiji)を用いて計測した。計測は3回行い、平均値とS.D.を算出した。
【0079】
結果を
図7に示した。一般的に、接触角が90°よりも大きい角度となるものが、水をはじくものということができるため、この結果から、基板に水溶性多糖との共存下で解繊したセルロース繊維を基板に結合させることにより、基板の親水性を向上させ得ることがわかった。PETはもともと疎水性があまり高いものではないが、Chitosanを用いて解繊処理した場合には、親水性の程度を高くすることができることがわかる。
【0080】
また水溶性多糖との共存下で解繊したセルロース繊維が結合した基板表面を拡大観察した写真を
図8に示した。この写真では、解繊したセルロース繊維で「P」の文字を書いた部分のみにセルロース繊維が吸着している。この写真から、水溶性多糖との共存下で解繊したセルロース繊維が結合した基板表面では、セルロース繊維が比較的均一なネットワーク状に吸着しており、極端な凝集は見られないことがわかる。これは、吸着による繊維の固定が生じ、凝集が抑制されたと考えられる。
【0081】
(実施例7:解繊したセルロース繊維/水溶性多糖複合物中のキシログルカンの可視化)
本実施例では、解繊したセルロース繊維/水溶性多糖複合物中のキシログルカンを可視化した。解繊したセルロース繊維/水溶性多糖複合物における水溶性多糖としては、タマリンドシードガムを用いた。タマリンドシードガムの主成分はキシログルカンであるため、本実施例ではキシログルカンの可視化を行った。
【0082】
各基板上にセルロース繊維の分散水を滴下し、10分室温で静置後、純水で洗浄したのちに、ブロッキングバッファー(Blocking One(ナカライテスク))ブロッキング処理を行った。ブロッキングバッファーで100倍に希釈した抗キシログルカン抗体(LM15)を一次抗体として用いた。LM15の一次抗体溶液を、セルロース繊維を吸着させた基板上に滴下し1時間室温で静置後、リン酸バッファー(pH7.5)で5回洗浄した。次にLM15に対するFITCを伴う二次抗体溶液を基板上に滴下し1時間室温で静置後、リン酸バッファーで5回洗浄した。最後に1×10-3%のCalcofluor whiteを用いて、セルロース繊維を蛍光染色し蛍光顕微鏡観察した。
【0083】
結果を
図9に示した。この図から、解繊時に添加したTMG中に含まれるキシログルカンが、バクテリアセルロースのセルロース繊維と同じ場所に存在していることが示される。セルロースとキシログルカンとが同じ場所に存在し、複合体を形成し、その複合体が基板に結合していることがわかる。
【0084】
(実施例8:解繊したセルロース繊維/水溶性多糖複合物の生物由来の疎水表面への吸着試験)
本実施例では、解繊したセルロース繊維/水溶性多糖複合物が、生物由来の疎水表面に吸着するかどうかを確認した。生物試料(例えばイチョウの葉)を10mm角に切り出し、セルロース繊維の懸濁水に浸し、2分間振盪した。その後、純水で洗浄し、50℃で10分間乾燥した試料に対し、1×10
-3%のCalcofluor white水溶液を滴下しセルロース繊維を蛍光染色した。この試料をUV励起し蛍光顕微鏡を用いて観察した。生物試料としては以下の表のものを用いた。またイチョウの葉に吸着させた場合の写真を
図10に示した。
【0085】
【0086】
この結果から、イチョウの葉を用いた場合には、解繊したセルロース繊維/水溶性多糖複合物がよく吸着し、葉の表面が水をはじくようになったことがわかる。解繊したセルロース繊維/水溶性多糖複合物の吸着は、クチクラ層の発達の程度と関係している可能性がある。
【0087】
また水溶性多糖の種類を変えることで、良好に吸着するものもあり、対象となる生物試料と水溶性多糖との関係も重要であることがわかる。トマトについては、トマトをセルロース繊維の懸濁水に浸し、2分間振盪したのち、純水で洗浄した。これに1×10-3%のCalcofluor white水溶液を滴下しセルロース繊維を蛍光染色した。この試料をUV励起し蛍光顕微鏡を用いて観察した。
【0088】
市販のミニトマトを、BCのみの解繊物、TMGを添加して解繊したもの、Chitosanを添加して解繊したもののそれぞれにくぐらせた後、再度水に浸すと、Chitosanを加えて解繊したものについてはヌレ性があがっているのがわかる(
図11~13)。
図13の下段は、未処理とChitosanを加えて解繊したもので処理したミニトマトを半分に切ったのち、Calcofluor whiteによる染色を行い、UV照射した写真である。Chitosanを加えて解繊したもので処理したミニトマトの表面は、セルロースに結合したCalcofluor whiteが青白く発色していることから、ミニトマト表面にセルロース/キトサンが結合していることがわかる。キトサンは抗菌性作用をもつことから、食品産業において有用である。
【0089】
また髪の毛を用いた場合の写真を
図14に示した。髪の毛を用いた場合には、水溶性多糖としてタマリンドシードガムおよびキトサンのいずれを用いた場合にも良好に吸着することわかる。
【0090】
(実施例9:抗菌性の確認)
水溶性多糖としてキトサンを用いることで、得られた解繊した繊維に抗菌性を付与することができる。抗菌性の評価は、適切な微生物をプラスチックシャーレ中の寒天培地状で培養し、抗菌処理後の基材断片を置いて、微生物の生育抑制による阻止円の形成を観察することで確認する。または抗菌性の評価は、微生物の培養液を同基材の表面に滴下し、一定時間培養した後に基材ごと水に浸して微生物を遊離させて、その水の一部を寒天培地上で静置培養してコロニー数をカウントすることによって行う。
【0091】
(実施例10:解繊した繊維の発色)
解繊した繊維、または当該繊維が適用された物質に対して、機能性分子として蛍光色素を吸着させる。蛍光色素としてCalcofluor whiteを用意し、実施例7と同様に、目的の解繊した繊維や当該繊維が適用された物質を蛍光色素でラベルする。この際、基板表面に結合したセルロースに対して色素(Calcofluor White)を吸着させることができる。また、
図10に示したように、改質の際に利用したタマリンドシードガムに対して抗体をつけて発色させることもできる。
【0092】
(注記)
以上のように、本開示の好ましい実施形態を用いて本開示を例示してきたが、本開示は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願及び他の文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。
本開示によれば、プラスチックなどの疎水性をもつ物質の表面を修飾し、親水性を付与することで、印刷・ラベル適性を向上したり、油滴など他成分との結着性を制御したり、酸化剤、エチレン分解剤などの被覆・固定を行ったりすることができることから、素材の高付加価値化や用途拡大が期待できる。