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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024018525
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】鋼部材の補強構造
(51)【国際特許分類】
   E01D 22/00 20060101AFI20240201BHJP
   E01D 1/00 20060101ALI20240201BHJP
   E04G 23/02 20060101ALI20240201BHJP
【FI】
E01D22/00 B
E01D1/00 E
E04G23/02 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022121917
(22)【出願日】2022-07-29
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和3年9月10日土木学会全国大会第76回年次学術講演会にて公開
(71)【出願人】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】507194017
【氏名又は名称】株式会社高速道路総合技術研究所
(71)【出願人】
【識別番号】505398941
【氏名又は名称】東日本高速道路株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】505398952
【氏名又は名称】中日本高速道路株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】505398963
【氏名又は名称】西日本高速道路株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】506353585
【氏名又は名称】学校法人ものつくり大学
(71)【出願人】
【識別番号】304021288
【氏名又は名称】国立大学法人長岡技術科学大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 俊太
(72)【発明者】
【氏名】秀熊 佑哉
(72)【発明者】
【氏名】宮下 剛
(72)【発明者】
【氏名】大垣 賀津雄
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼原 良太
(72)【発明者】
【氏名】服部 雅史
【テーマコード(参考)】
2D059
2E176
【Fターム(参考)】
2D059AA06
2D059BB33
2D059GG02
2D059GG23
2D059GG40
2E176AA07
2E176BB29
(57)【要約】
【課題】鋼部材におけるフランジの局部座屈の発生を抑制できる補強構造を提供する。
【解決手段】鋼部材の補強構造は、ウエブとフランジとを有し且つ圧縮力を受ける鋼部材の補強構造であって、繊維シートの繊維方向が、主圧縮方向と当該主圧縮方向とは異なる1方向との少なくとも2方向へ沿うように、当該繊維シートが少なくとも前記フランジに対し積層して接着されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウエブとフランジとを有し且つ略部材軸方向に圧縮力を受ける鋼部材の補強構造であって、
繊維シートの繊維方向が、主圧縮方向と当該主圧縮方向とは異なる1方向との少なくとも2方向へ沿うように、当該繊維シートが少なくとも前記フランジに対し積層して接着された
前記鋼部材の補強構造。
【請求項2】
前記繊維シートの繊維方向が、少なくとも前記2方向へ沿うように、当該繊維シートが前記フランジ及び前記ウエブに対し積層して接着された
請求項1に記載の鋼部材の補強構造。
【請求項3】
前記繊維シートが、等方性に近づくように、少なくとも前記フランジに対し積層して接着された
請求項1に記載の鋼部材の補強構造。
【請求項4】
前記繊維方向が前記1方向に沿って接着された繊維シートの積層数が、
前記繊維方向が前記主圧縮方向に沿って接着された繊維シートの積層数の50%以上である
請求項1に記載の鋼部材の補強構造。
【請求項5】
前記1方向は、前記主圧縮方向に対して直交する方向である
請求項1に記載の鋼部材の補強構造。
【請求項6】
前記繊維シートは、高伸度弾性パテ材を介して接着されている
請求項1に記載の鋼部材の補強構造。
【請求項7】
前記繊維シートは、炭素繊維シートである
請求項1に記載の鋼部材の補強構造。
【請求項8】
前記鋼部材が、トラス橋において、床版を支持するトラス構造の橋桁部分を構成する上弦材、下弦材、斜材、及び垂直材のいずれかである
請求項1に記載の鋼部材の補強構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼部材の補強構造に関する。
【背景技術】
【0002】
高速道路などのトラス橋は、上弦材、下弦材、斜材、及び垂直材などの鋼部材により構成されている。これらの鋼部材は、地震が発生した場合に、圧縮力を受けて局部座屈が生じるおそれがあるため、耐震補強が必要とされている。
【0003】
耐震補強としては、これらの鋼部材に対して鋼板(当て板)を接合する補強工法が知られている。しかしながら、当該補強方法では、死荷重の増加や再劣化などの問題がある。
【0004】
一方、特許文献1には、鋼橋の鋼桁における腹板及び下フランジに対して、パテ層を介して、連続繊維シートを接着する構造が開示されている。
【0005】
また、非特許文献1には、H型断面の鋼短柱における腹板及びフランジに対して、高伸度弾性パテ材を介して、炭素繊維シートを接着する構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012-52293号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】秀熊佑哉、小林朗、大垣賀津雄、菊地新平、宮下剛、奥山雄介、「炭素繊維シート接着により補強された鋼短柱の局部座屈強度に関する実験研究」土木学会第72回年次学術講演会、2017/09/12
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特許文献1及び上記非特許文献1には、鋼部材のフランジに対して繊維シートを接着する構造が開示されているものの、鋼部材におけるフランジの局部座屈の抑制効果について検討されておらず、フランジに対してどのように繊維シートを配置することでフランジの局部座屈が抑制されるかが明らかではなかった。
【0009】
本発明は、略部材軸方向に圧縮力を受ける鋼部材におけるフランジの局部座屈の発生を抑制できる補強構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1態様に係る鋼部材の補強構造は、ウエブとフランジとを有し且つ略部材軸方向に圧縮力を受ける鋼部材の補強構造であって、繊維シートの繊維方向が、主圧縮方向と当該主圧縮方向とは異なる1方向との少なくとも2方向へ沿うように、当該繊維シートが少なくとも前記フランジに対し積層して接着されている。
【0011】
第1態様の補強構造によれば、繊維シートの繊維方向が、主圧縮方向と当該主圧縮方向とは異なる1方向との少なくとも2方向へ沿うように、当該繊維シートが少なくとも前記フランジに対し積層して接着されているので、フランジにおいて、主圧縮方向の剛性だけでなく、主圧縮方向とは異なる1方向における剛性も高まる。これにより、フランジにおいて面外変形が生じにくく、鋼部材におけるフランジの局部座屈の発生を抑制できる。
【0012】
第2態様に係る鋼部材の補強構造は、第1態様において、前記繊維シートの繊維方向が、少なくとも前記2方向へ沿うように、当該繊維シートが前記フランジ及び前記ウエブに対し積層して接着されている。
【0013】
第2態様の補強構造によれば、繊維シートの繊維方向が、少なくとも2方向へ沿うように、繊維シートがフランジ及びウエブに対し積層して接着されているので、ウエブにおいて、主圧縮方向の剛性だけでなく、主圧縮方向とは異なる1方向における剛性も高まる。これにより、ウエブにおいて面外変形が生じにくく、鋼部材におけるウエブの局部座屈の発生も抑制できる。
【0014】
第3態様に係る鋼部材の補強構造は、第1態様において、前記繊維シートが、等方性に近づくように、少なくとも前記フランジに対し積層して接着されている。
【0015】
第3態様の補強構造によれば、繊維シートが、少なくともフランジに対し積層状態が等方性に近づくように積層して接着されているので、主圧縮方向の剛性、及び、主圧縮方向とは異なる1方向における剛性を含めたフランジ全体の剛性が高まる。これにより、フランジにおいて面外変形が生じにくく、鋼部材におけるフランジの局部座屈の発生を抑制できる。
【0016】
第4態様に係る鋼部材の補強構造は、第1態様において、前記繊維方向が前記1方向に沿って接着された繊維シートの積層数が、前記繊維方向が前記主圧縮方向に沿って接着された繊維シートの積層数の50%以上である。
【0017】
第4態様の補強構造によれば、繊維方向が1方向に沿って接着された繊維シートの積層数が、繊維方向が主圧縮方向に沿って接着された繊維シートの積層数の50%未満である場合に比べ、フランジにおいて、主圧縮方向とは異なる1方向における剛性も高まる。これにより、フランジにおいて面外変形が生じにくく、鋼部材におけるフランジの局部座屈の発生を抑制できる。
【0018】
第5態様に係る鋼部材の補強構造では、第1態様において、前記1方向は、前記主圧縮方向に対して直交する方向である。
【0019】
第5態様の補強構造によれば、フランジにおいて、主圧縮方向の剛性だけでなく、主圧縮方向に対して直交する方向における剛性も高まる。これにより、フランジにおいて面外変形が生じにくく、鋼部材におけるフランジの局部座屈の発生を抑制できる。
【0020】
第6態様に係る鋼部材の補強構造では、第1態様において、前記繊維シートは、高伸度弾性パテ材を介して接着されている。
【0021】
第6態様の補強構造によれば、繊維シートは、高伸度弾性パテ材を介して接着されているので、繊維シートをフランジの変形に追従されることができ、繊維シートの剥離が抑制される。この結果、繊維シートによる補強効果が維持され、鋼部材におけるフランジの局部座屈の発生を抑制できる。
【0022】
第7態様に係る鋼部材の補強構造では、第1態様において、前記繊維シートは、炭素繊維シートである。
【0023】
炭素繊維シートは、軽量且つ高強度であるため、第7態様の補強構造によれば、死荷重の増加を抑制しつつ、鋼部材におけるフランジの局部座屈の発生を抑制できる。
【0024】
第8態様に係る鋼部材の補強構造は、第1態様において、前記鋼部材が、トラス橋において、床版を支持するトラス構造の橋桁部分を構成する上弦材、下弦材、斜材、及び垂直材のいずれかである。
【0025】
第8態様の補強構造によれば、床版を支持するトラス構造の橋桁部分を構成する上弦材、下弦材、斜材、及び垂直材のいずれかにおいて、鋼部材におけるフランジの局部座屈の発生が抑制されるので、トラス構造の橋桁部分の耐震補強を行うことができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明は、上記構成としたので、略部材軸方向に圧縮力を受ける鋼部材におけるフランジの局部座屈の発生を抑制できるという優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本実施形態に係る補強構造を示す断面図である。
図2】(A)は、断面H形状の鋼部材の側面図であり、(B)は(A)における2B-2B線断面図である。
図3】(A)は、断面I形状の鋼部材の側面図であり、(B)は(A)における3B-3B線断面図である。
図4】(A)は、断面C形状の鋼部材の側面図であり、(B)は(A)における4B-4B線断面図である。
図5】(A)は、断面T形状の鋼部材の側面図であり、(B)は(A)における5B-5B線断面図である。
図6】(A)は、断面箱形状の鋼部材の側面図であり、(B)は(A)における6B-6B線断面図である。
図7】(A)は、断面L形状の鋼部材の側面図であり、(B)は(A)における7B-7B線断面図である。
図8】(A)(B)(C)は、断面L形状の鋼部材の断面図である。
図9】鋼部材が適用されるトラス橋を示す側面図である。
図10】本実施形態に係る繊維シートを示す斜視図である。
図11】(A)は、本実施形態に係る繊維シートの他の例を示す斜視図であり、(B)は、当該繊維シートの繊維強化プラスチック線材を示す図である。
図12】評価試験1に用いた試験体を示す図である。
図13】評価試験1に用いた試験体の一覧を示す表である。
図14】評価試験1の評価結果を示す結果表である。
図15】評価試験2に用いた試験体を示す図である。
図16】評価試験2に用いた試験体の一覧を示す表である。
図17】評価試験2におけるAシリーズの評価結果を示すグラフである。
図18】評価試験2におけるBシリーズの評価結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下に、本発明に係る実施形態の一例を図面に基づき説明する。
【0029】
<補強構造10>
本実施形態に係る補強構造10について説明する。図1は、本実施形態に係る補強構造10を模式的に示す断面図である。なお、図1を含む各図に示される各部分同士の各方向(図中のX方向、Y方向及びZ方向)の寸法比は、実際の寸法比と異なる場合がある。
【0030】
図1に示される補強構造10は、ウエブ92とフランジ94とを有し且つ略部材軸方向に圧縮力を受ける鋼部材90を補強する構造であり、鋼部材90の座屈耐力を向上させる構造である。具体的には、補強構造10は、繊維シート40の繊維方向が、主圧縮方向と当該主圧縮方向とは異なる1方向との少なくとも2方向へ沿うように、繊維シート40が少なくともフランジ94に対し積層して接着された構造である。
【0031】
本実施形態では、補強構造10は、図1に示されるように、プライマー層20と、パテ層30と、複数の繊維シート40と、を有している。プライマー層20、及びパテ層30、複数の繊維シート40は、この順で、鋼部材90に対して設けられている。
【0032】
以下、補強対象である鋼部材90、及び補強構造10を構成する各部(プライマー層20、パテ層30、及び繊維シート40)の具体的な構成について説明する。
【0033】
<鋼部材90>
鋼部材90は、図2図8に示されるように、ウエブ92とフランジ94とを有し且つ略部材軸方向に圧縮力を受ける鋼部材である。鋼部材90の断面形状としては、例えば、H形状(図2参照)、I形状(図3参照)、C形状(図4参照)、T形状(図5参照)、箱形状(図6参照)、及びL形状(図7及び図8参照)が考えられる。
【0034】
図2図8の各図では、鋼部材90が延在する延在方向が、矢印Y方向にて示され、ウエブ92の厚み方向であってフランジ94の幅方向が、矢印X方向にて示され、ウエブ92の幅方向であってフランジ94の厚み方向が、矢印Z方向にて示されている。なお、延在方向(矢印Y方向)は、鋼部材90の長手方向であり、部材軸方向でもある。
【0035】
本実施形態では、鋼部材90は、延在方向(矢印Y方向)へ圧縮力を受ける部材である。すなわち、鋼部材90の主圧縮方向は、部材軸方向とされている。
【0036】
鋼部材90は、例えば、鋼橋の橋桁に用いられる部材である。具体的には、鋼部材90は、例えば、図9に示されるトラス橋100において、床版102を支持するトラス構造の橋桁部分104を構成する上弦材106、下弦材108、斜材109、及び垂直材107のいずれかとして適用される。なお、通常時において、引張部材となる斜材109や、下弦材108であっても、地震時などにおいては、部材軸方向へ圧縮力が作用する。鋼部材90としては、鋼橋の橋桁に用いられる部材である場合に限られず、延在方向(矢印Y方向)へ圧縮力を受ける部材として、機械、土木、建築などの分野において適用される部材が対象となる。
【0037】
また、鋼部材90は、例えば、鉄鋼で構成されている。鉄鋼としては、例えば、炭素のみを加えた炭素鋼、及び、炭素に加えて添加材(例えばニッケル、クロムなど)を添加した特殊鋼などがある。
【0038】
[断面H形状の鋼部材90H及び断面I形状の鋼部材90I]
断面H形状の鋼部材90H(図2(A)(B)参照)、及び断面I形状の鋼部材90I(図3(A)(B)参照)では、ウエブ92は、幅方向(矢印Z方向)の両端がフランジ94に固定されている。具体的には、ウエブ92の幅方向の両縁がフランジ94の中央部に支持されている。すなわち、ウエブ92は、両縁が支持された両縁支持板である。
【0039】
さらに、断面H形状の鋼部材90H、及び断面I形状の鋼部材90Iでは、フランジ94は、一対が備えられている。一対のフランジ94の各々は、ウエブ92の幅方向の一端及び他端の各々から、ウエブ92の厚み方向(矢印X方向)の両側へ張り出している。したがって、フランジ94は、自由突出板である。
【0040】
このように、断面H形状の鋼部材90H、及び断面I形状の鋼部材90Iでは、鋼部材90の断面において各辺を構成する板部のうち、両端が支持されていない板部が、フランジ94を構成する。
【0041】
[断面C形状の鋼部材90C]
断面C形状の鋼部材90C(図4(A)(B)参照)は、いわゆる溝形鋼である。断面C形状の鋼部材90Cでは、ウエブ92は、幅方向(矢印Z方向)の両端がフランジ94に固定されている。具体的には、ウエブ92の幅方向の両縁がフランジ94の一端に支持されている。すなわち、ウエブ92は、両縁が支持された両縁支持板である。
【0042】
さらに、断面C形状の鋼部材90Cでは、フランジ94は、一対が備えられている。一対のフランジ94の各々は、ウエブ92の幅方向の一端及び他端の各々から、ウエブ92の厚み方向(矢印X方向)の片側へ張り出している。換言すれば、一対のフランジ94の各々は、幅方向(矢印X方向)の一端が、ウエブ92の一端に支持されている。したがって、フランジ94は、片側が支持された片持ち板である。
【0043】
このように、断面C形状の鋼部材90Cでは、鋼部材90の断面において各辺を構成する板部のうち、両端の支持数が少ない板部が、フランジ94を構成する。
【0044】
[断面T形状の鋼部材90T]
断面T形状の鋼部材90T(図5(A)(B)参照)では、ウエブ92は、幅方向(矢印Z方向)の一端がフランジ94に固定されている。具体的には、ウエブ92の幅方向の片縁がフランジ94の中央部に支持されている。すなわち、ウエブ92は、片側が支持された片持ち板である。
【0045】
さらに、断面T形状の鋼部材90Tでは、フランジ94は、ウエブ92の幅方向の一端から、ウエブ92の厚み方向(矢印X方向)の両側へ張り出している。したがって、フランジ94は、自由突出板である。
【0046】
このように、断面T形状の鋼部材90Tでは、鋼部材90の断面において各辺を構成する板部のうち、両端が支持されていない板部が、フランジ94を構成する。
【0047】
[断面箱形状の鋼部材90A]
断面箱形状の鋼部材90A(図6(A)(B)参照)は、延在方向(Y方向)が、鉛直方向に対して傾斜するように、又は、水平方向に沿うように配置されて使用される。当該使用例としては、例えば、鋼橋の橋桁に用いる場合、具体的には、図9に示されるトラス橋100において、上弦材106、下弦材108、及び斜材109に用いる場合が挙げられる。本実施形態では、断面箱形状の鋼部材90Aは、例えば、図6(B)に示されるZ方向が、鉛直上側を向くように配置される。
【0048】
断面箱形状の鋼部材90Aでは、ウエブ92及びフランジ94は、それぞれ、一対が備えられている。断面箱形状の鋼部材90Aでは、鋼部材90の断面において上辺及び下辺を構成する板部がフランジ94と定義され、鋼部材90の断面において右辺及び左辺を構成する板部がウエブ92と定義される。
【0049】
一対のウエブ92の各々は、幅方向(矢印Z方向)の両端がフランジ94に固定されている。具体的には、一対のウエブ92の各々において、ウエブ92の幅方向の両縁がフランジ94の幅方向(矢印X方向)の一端部に支持されている。すなわち、一対のウエブ92の各々は、両縁が支持された両縁支持板である。
【0050】
さらに、断面箱形状の鋼部材90Aでは、一対のフランジ94の各々は、幅方向(矢印X方向)の両端がウエブ92に固定されている。具体的には、一対のフランジ94の各々において、フランジ94の幅方向の両縁がウエブ92の幅方向(矢印Z方向)の一端部に支持されている。すなわち、一対のフランジ94の各々は、両縁が支持された両縁支持板である。
【0051】
このように、鋼部材90の断面において各辺を構成する板部において、両端の支持数が同じである断面箱形状の鋼部材90Aでは、鋼部材90の断面において各辺を構成する板部のうち、上辺及び下辺を構成する板部が、フランジ94を構成する。
【0052】
[断面L形状の鋼部材90L]
断面L形状の鋼部材90L(図7(A)(B)参照)は、延在方向(Y方向)が、鉛直方向に対して傾斜するように、又は、水平方向に沿うように配置されて使用される。当該使用例としては、例えば、鋼橋の橋桁に用いる場合、具体的には、図9に示されるトラス橋100において、上弦材106、下弦材108、及び斜材109に用いる場合が挙げられる。本実施形態では、断面L形状の鋼部材90Lは、例えば、図7(B)に示されるZ方向が、鉛直上側を向くように配置される。さらに、断面L形状の鋼部材90Lでは、例えば、図8(A)(B)(C)の各々に示されるZ方向が、鉛直上側を向くように配置することができる。
【0053】
そして、断面L形状の鋼部材90Lでは、鋼部材90の断面において上辺又は下辺を構成する板部がフランジ94と定義され、鋼部材90の断面において右辺又は左辺を構成する板部がウエブ92と定義される。
【0054】
ウエブ92は、幅方向(矢印Z方向)の一端がフランジ94の幅方向(矢印X方向)の一端に固定されている。換言すれば、ウエブ92の幅方向(矢印Z方向)の一端と、フランジ94の幅方向(矢印X方向)の一端とが互いに支持している。すなわち、ウエブ92及びフランジ94の各々は、片側が支持された片持ち板である。
【0055】
このように、鋼部材90の断面において各辺を構成する板部において、端部の支持数が同じである断面L形状の鋼部材90Lでは、鋼部材90の断面において各辺を構成する板部のうち、上辺又は下辺を構成する板部が、フランジ94を構成する。
【0056】
<プライマー層20>
プライマー層20は、鋼部材90の表面と、当該表面上に形成される層(具体的にはパテ層30)との接合性(接着性)を高める機能を有している。プライマー層20は、鋼部材90において繊維シート40が接着される面に対してプライマーが塗布されることで形成される。プライマー層20を形成するプライマーには、例えば、ウレタン樹脂等の樹脂が用いられる。なお、当該プライマーとしては、ウレタン樹脂に限られず、ウレタン樹脂以外の樹脂であってもよく、種々の材料を用いることができる。
【0057】
<パテ層30>
パテ層30は、繊維シート40の鋼部材90への接合状態を維持する機能を有している。具体的には、パテ層30は、鋼部材90の変形に繊維シート40を追従させることで、繊維シート40の鋼部材90からの剥離を抑制する機能を有している。
【0058】
パテ層30は、プライマー層20の表面に、高伸度弾性パテ材を塗布されることで形成される。当該パテ材としては、例えば、ポリウレア樹脂が用いられる。ここで、「高伸度」とは、硬化時において、引張最大荷重時伸びが、300%以上500%以下とされるものをいう。
【0059】
当該パテ材としては、具体的には、主剤、硬化剤、充填剤、添加剤などを含んでおり、その組成の一例を示せば、下記のとおりとされる。
【0060】
主剤:イソシアネート(例えば、4,4‘-ジフェニルメタンジイソシアネート)を反応成分とするプレポリマーであり、末端残存イソシアネートがNCO重量%で1~16重量部に調整されたものを使用する。
【0061】
硬化剤:主成分として芳香族アミン(例えばアミン価80~90)含む硬化剤を使用し、主剤のNCO:アミン比で、1.0:0.55~0.99重量部で計算されたものを使用する。さらに、硬化促進剤としてp-トルエンスルホン酸塩などを含むこともできる。
【0062】
充填剤:硅石粉、搖変剤等が含まれ、1~500重量部で適宜配合される。
【0063】
添加剤:着色剤、粘性調整剤、可塑剤等が含まれ、1~50重量部で適宜配合される。
【0064】
パテ層30(すなわち、硬化時のパテ材)の引張最大荷重時伸びが、例えば300%以上500%以下とされ、パテ層30の引張弾性率が、例えば50N/mm以上、100N/mm以下とされ、パテ層30の引張強度が、例えば、8N/mm以上とされる。パテ層30の厚さは、例えば、0.2以上、10mm以下に設定される。
【0065】
パテ層30の引張弾性率が100N/mmを超える場合には、鋼部材90に局部座屈が生じて鋼部材90のフランジ94が面外変形しようとする際に、繊維シート40が変形に十分追従することができない。一方、パテ層30の引張弾性率が50N/mm未満である場合には、繊維シート40をフランジ94の変形に追従されることができるが、繊維シート40による補強効果が十分得られない。
【0066】
また、パテ層30の引張最大荷重時伸びが300%未満である場合には、局部座屈によりフランジ94が大きく変形するとパテ層30が破断し、繊維シート40が剥離する。一方、引張最大荷重時伸びが500%を超えると、引張弾性率との共存が困難になる。
【0067】
なお、当該パテ材としては、ポリウレア樹脂に限られず、ポリウレア樹脂以外の樹脂であってもよく、種々の材料を用いることができる。
【0068】
<繊維シート40>
繊維シート40は、連続繊維を含むシート材であって、鋼部材90を補強する機能するシート材である。繊維シート40は、パテ層30上に接着樹脂により接着される。すなわち、繊維シート40は、高伸度弾性パテ材を介して接着されている。
【0069】
繊維シート40の接着に用いられる接着樹脂としては、例えば、常温硬化型エポキシ樹脂が用いられる。なお、当該接着樹脂としては、常温硬化型エポキシ樹脂に限られず、例えば、エポキシアクリレート樹脂、アクリル樹脂、MMA樹脂、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、又は、光硬化型樹脂などであってもよく、種々の樹脂を用いることが可能である。
【0070】
繊維シート40に用いられる連続繊維としては、例えば、炭素繊維が用いられる。すなわち、本実施形態では、繊維シート40として炭素繊維シートを用いている。なお、当該連続繊維としては、炭素繊維に限られず、例えば、アラミド、PBO(ポリパラフェニレンベンズビスオキサゾール)、ポリアミド、ポリアリレート、ポリエステル等の有機繊維、バサルト繊維、ガラス繊維、鋼繊維等の金属繊維などであってもよく、種々の繊維を用いることが可能である。また、連続繊維は、一種類に限られず、複数種類を選択して使用することが可能である。
【0071】
繊維シート40は、具体的には、図10に示されるように、連続繊維42が1方向(図10におけるA方向)に配列された繊維層44と、繊維層44を支持する支持層46と、を備えている。支持層46は、繊維層44の片面に配置され、繊維層44を支持するメッシュ状の支持シートで構成されている。この支持層46によって、繊維層44の連続繊維42がばらけることが抑制される。このように、繊維シート40では、A方向が繊維方向とされている。なお、支持層46は繊維層44の両面に配置してもよく、連続繊維42のばらけが何らかの方法で抑制されていれば、支持層46を有さない構成であってもよい。
【0072】
ここで、繊維シート40は、繊維シート40の繊維方向が、鋼部材90の主圧縮方向(Y方向)と、主圧縮方向とは異なる1方向との少なくとも2方向へ沿うように、少なくともフランジ94に対し積層して接着されている。
【0073】
本実施形態では、繊維シート40は、繊維シート40の繊維方向が、鋼部材90の主圧縮方向(Y方向)と、フランジ94の幅方向(X方向)との2方向へ沿うようにフランジ94に対し積層して接着されている。フランジ94の幅方向(X方向)は、「主圧縮方向とは異なる1方向」の一例であって、「主圧縮方向に対して直交する方向」の一例である。
【0074】
なお、「主圧縮方向とは異なる1方向」としては、フランジ94の幅方向に限られず、フランジ94の幅方向に対して傾斜する方向であってよい。また、繊維シート40の繊維方向が、3方向以上へ沿うように、フランジ94に対して積層されていてもよい。具体的には、例えば、繊維シート40の繊維方向が、鋼部材90の主圧縮方向と、フランジ94の幅方向と、フランジ94の幅方向に対して傾斜する方向とを含む3方向以上に沿うように、フランジ94に対して積層することが可能である。
【0075】
本実施形態では、前述のように、繊維シート40が、繊維方向が直交するようにフランジ94に対して積層されているため、繊維シート40をその厚み方向に見て、繊維方向が等角度間隔に配置される。このため、繊維シート40は、積層部分が等方性に近づくように、フランジ94に対し積層して接着されている。
【0076】
このように、「繊維シート40が等方性に近づくように積層する」とは、繊維シート40をその厚み方向に見て、繊維方向が等角度間隔に配置される場合をいう。したがって、繊維シート40の繊維方向が、3方向以上へ沿うように、フランジ94に対して積層する場合には、繊維シート40をその厚み方向に見て、各繊維方向を等角度間隔で配置することにより、繊維シート40が等方性に近づくように、積層することが可能である。
【0077】
また、本実施形態では、繊維シート40は、例えば、フランジ94におけるウエブ92とは反対側の表面94Aに対して接着されている。なお、繊維シート40は、フランジ94におけるウエブ92側の表面94Bに対して接着されていてもよい。また、繊維シート40は、フランジ94の表面94A及び表面94Bの両方に接着されていてもよい。
【0078】
また、繊維方向が、フランジ94の幅方向(X方向)に沿って接着された繊維シート40(以下、フランジ幅方向の繊維シート40という)の積層数が、繊維方向がフランジ94の主圧縮方向(Y方向)に沿って配置された繊維シート40(以下、フランジ主圧縮方向の繊維シート40という)の積層数の50%以上とされている。具体的には、本実施形態では、例えば、フランジ幅方向の繊維シート40の積層数が、フランジ主圧縮方向の繊維シート40の積層数と同じとされている。
【0079】
なお、フランジ幅方向の繊維シート40の積層数は、フランジ主圧縮方向の繊維シート40の積層数の50%以上とされていればよく、同じである場合に限られない。
【0080】
また、フランジ幅方向の繊維シート40と、フランジ主圧縮方向の繊維シート40とをフランジ94の表面94Aに積層する際には、フランジ幅方向の繊維シート40、及びフランジ主圧縮方向の繊維シート40のどちらの繊維シート40を先に積層してもよい。また、フランジ幅方向の繊維シート40、及びフランジ主圧縮方向の繊維シート40の各々を複数枚積層する際には、フランジ幅方向の繊維シート40、及びフランジ主圧縮方向の繊維シート40の一方を先に複数枚積層した後、他方を複数枚積層してもよいし、フランジ幅方向の繊維シート40、及びフランジ主圧縮方向の繊維シート40を交互に積層してもよい。
【0081】
さらに、本実施形態では、繊維シート40は、フランジ94に加えて、繊維シート40の繊維方向が、鋼部材90の主圧縮方向(Y方向)と、主圧縮方向とは異なる1方向との少なくとも2方向へ沿うように、ウエブ92に対し積層して接着されている。具体的には、繊維シート40は、繊維シート40の繊維方向が、鋼部材90の主圧縮方向(Y方向)と、ウエブ92の幅方向(Z方向)との2方向へ沿うようにウエブ92に対し積層して接着されている。ウエブ92の幅方向(Z方向)は、「主圧縮方向とは異なる1方向」の一例であって、「主圧縮方向に対して直交する方向」の一例である。
【0082】
なお、「主圧縮方向とは異なる1方向」としては、ウエブ92の幅方向に限られず、ウエブ92の幅方向に対して傾斜する方向であってよい。また、繊維シート40の繊維方向が、3方向以上へ沿うように、ウエブ92に対して積層されていてもよい。具体的には、例えば、繊維シート40の繊維方向が、鋼部材90の主圧縮方向と、ウエブ92の幅方向と、ウエブ92の幅方向に対して傾斜する方向とを含む3方向以上に沿うように、ウエブ92に対して積層することが可能である。
【0083】
本実施形態では、前述のように、繊維シート40は、繊維方向が直交するようにウエブ92に対して積層されているため、繊維シート40をその厚み方向に見て、繊維方向が等角度間隔に配置される。このため、繊維シート40は、等方性に近づくように、ウエブ92に対し積層して接着されている。
【0084】
繊維シート40は、ウエブ92の両側の表面92Aのうち、例えば、一方の面に対して積層して接着されている。なお、繊維シート40は、ウエブ92の両側の表面92Aの両方に対して積層して接着されていてもよい。
【0085】
また、繊維方向が、ウエブ92の幅方向(Z方向)に沿って接着された繊維シート40(以下、ウエブ幅方向の繊維シート40という)の積層数が、繊維方向がウエブ92の主圧縮方向(Y方向)に沿って配置された繊維シート40(以下、ウエブ主圧縮方向の繊維シート40という)の積層数の50%以上とされている。具体的には、本実施形態では、ウエブ幅方向の繊維シート40の積層数が、ウエブ主圧縮方向の繊維シート40の積層数と同じとされている。
【0086】
なお、ウエブ幅方向の繊維シート40の積層数は、ウエブ主圧縮方向の繊維シート40の積層数の50%以上とされていればよく、同じである場合に限られない。
【0087】
また、ウエブ幅方向の繊維シート40と、ウエブ主圧縮方向の繊維シート40とをウエブ92の表面92Aに積層する際には、ウエブ幅方向の繊維シート40、及びウエブ主圧縮方向の繊維シート40のどちらの繊維シート40を先に積層してもよい。また、ウエブ幅方向の繊維シート40、及びウエブ主圧縮方向の繊維シート40の各々を複数枚積層する際には、ウエブ幅方向の繊維シート40、及びウエブ主圧縮方向の繊維シート40の一方を先に複数枚積層した後、他方を複数枚積層してもよいし、ウエブ幅方向の繊維シート40、及びウエブ主圧縮方向の繊維シート40を交互に積層してもよい。
【0088】
なお、繊維シートの一例としては、図10に示される繊維シート40に限られない。繊維シートの一例としては、例えば、図11(A)(B)に示される繊維シート140であってもよく、繊維を含む繊維シートであればよい。
【0089】
図11(A)(B)に示される繊維シート140は、連続繊維142を含む繊維強化プラスチック線材143を複数本、長手方向にスダレ状に引き揃え、当該線材143を互いに線材固定材145にて固定した繊維シート(所謂ストランドシート)である。繊維強化プラスチック線材143は、図11(B)に示されるように、連続繊維142にマトリクス樹脂147が含浸され、当該マトリクス樹脂147が硬化されることで形成される。
【0090】
さらに、繊維シート40としては、連続繊維42が1方向に配列された繊維シートに樹脂を含浸し、前記樹脂が硬化された繊維シート(所謂、FRP板)とすることもできる。このとき、繊維シートに含浸する樹脂は、常温硬化型或いは熱硬化型のエポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、アクリル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂などの熱硬化性樹脂や、現場重合型フェノキシ樹脂、ナイロン、ビニロンなどの熱可塑性樹脂を使用することができ、好適には熱硬化性樹脂であるエポキシ樹脂が使用される。また、繊維シート40への樹脂含浸量は、30~70重量%、好ましくは、40~60重量%とされる。
【0091】
<施工方法>
次に、前述の補強構造10を鋼部材90に対して施工する施工方法について説明する。なお、本施工方法により補強構造10が形作られるので、本施工方法は、補強構造10を製造する製造方法ともいえる。
【0092】
本施工方法は、例えば、下地処理工程と、プライマー塗布工程と、パテ材塗布工程と、繊維シート接着工程と、を有している。
【0093】
下地処理工程では、例えば、ブラスト法や、ディスクサンダー等の工具を用いて、ケレンを行う。これにより、既存の塗膜及びサビ等の付着物が除去され、下地を露出される。
【0094】
プライマー塗布工程では、前述のプライマーを塗布する。これにより、プライマー層が形成される。したがって、プライマー塗布工程は、プライマー層を形成するプライマー層形成工程ともいえる。
【0095】
パテ材塗布工程では、前述のパテ材を塗布する。これにより、パテ層が形成される。したがって、パテ材塗布工程は、パテ層を形成するパテ層形成工程ともいえる。
【0096】
繊維シート接着工程では、パテ層30の表面に対して、繊維シート40を前述の接着樹脂により接着する。具体的には、例えば、接着樹脂を下塗りし、下塗りした接着樹脂に繊維シート40を貼り付け、脱泡する。その後、接着樹脂を上塗りし、脱泡する。
【0097】
なお、繊維シート40上に保護層を形成してもよい。この場合では、保護層を構成する樹脂等の保護材が繊維シート40の表面に塗布される。
【0098】
<本実施形態の作用効果>
本実施形態の作用効果を説明する。
【0099】
補強構造10によれば、繊維シート40の繊維方向が、鋼部材90の主圧縮方向(Y方向)と、主圧縮方向とは異なる1方向との少なくとも2方向へ沿うように、繊維シート40が、少なくともフランジ94に対し積層して接着されている。
【0100】
このため、フランジ94において、主圧縮方向の剛性だけでなく、主圧縮方向とは異なる1方向における剛性も高まる。これにより、フランジ94において面外変形が生じにくく、鋼部材90におけるフランジ94の局部座屈の発生を抑制できる。
【0101】
本実施形態では、主圧縮方向とは異なる1方向は、主圧縮方向に対して直交する方向(具体的にはフランジ94の幅方向)である。すなわち、本実施形態では、繊維シート40の繊維方向が、鋼部材90の主圧縮方向(Y方向)と、フランジ94の幅方向との2方向へ沿うように、繊維シート40がフランジ94に対し積層して接着されている。
【0102】
このため、フランジ94において、主圧縮方向の剛性だけでなく、幅方向の剛性も高まる。これにより、フランジ94において面外変形が生じにくく、鋼部材90におけるフランジ94の局部座屈の発生を抑制できる。
【0103】
また、本実施形態では、繊維シート40は、等方性に近づくように、フランジ94に対し積層して接着されている。
【0104】
このため、主圧縮方向の剛性、及び、幅方向の剛性を含めたフランジ94全体の剛性が高まる。これにより、フランジ94において面外変形が生じにくく、鋼部材90におけるフランジ94の局部座屈の発生を抑制できる。
【0105】
また、本実施形態では、フランジ幅方向の繊維シート40の積層数が、フランジ主圧縮方向の繊維シート40の積層数の50%以上とされている。
【0106】
このため、フランジ幅方向の繊維シート40の積層数が、フランジ主圧縮方向の繊維シート40の積層数の50%未満である場合に比べ、フランジ94の幅方向の剛性が高まる。これにより、フランジ94において面外変形が生じにくく、鋼部材90におけるフランジ94の局部座屈の発生を抑制できる。
【0107】
また、本実施形態では、繊維シート40は、フランジ94に加えて、繊維シート40の繊維方向が、鋼部材90の主圧縮方向(Y方向)と、主圧縮方向とは異なる1方向との少なくとも2方向へ沿うように、ウエブ92に対し積層して接着されている。
【0108】
このため、ウエブ92において、主圧縮方向の剛性だけでなく、主圧縮方向とは異なる1方向における剛性も高まる。これにより、ウエブ92において面外変形が生じにくく、鋼部材90におけるウエブ92の局部座屈の発生も抑制できる。
【0109】
さらに、本実施形態では、繊維シート40は、高伸度弾性パテ材を介して接着されている。このため、繊維シート40をフランジ94の変形に追従されることができ、繊維シート40の剥離が抑制される。この結果、繊維シート40による補強効果が維持され、鋼部材90におけるフランジ94の局部座屈の発生を抑制できる。
【0110】
また、本実施形態では、繊維シート40は、炭素繊維シートである。炭素繊維シートは、軽量且つ高強度であるため、本実施形態によれば、死荷重の増加を抑制しつつ、鋼部材90におけるフランジ94の局部座屈の発生を抑制できる。
【0111】
以上のように、補強構造10によれば、鋼部材90におけるフランジ94の局部座屈の発生を抑制できるので、図9に示されるトラス橋100において、床版102を支持するトラス構造の橋桁部分104を構成する上弦材106、下弦材108、斜材109、及び垂直材107のいずれかとして適用された鋼部材90に対して、補強構造10を適用することで、橋桁部分104の耐震補強を行うことができる。
【0112】
<評価試験1>
本試験では、本実施形態に係る補強構造10による鋼部材90の補強効果について評価を行った。具体的には、本試験では、以下のとおり、試験体を炭素繊維シートで補強し、当該試験体に対してその長手方向(Y方向)に圧縮試験を行った。
【0113】
[試験体]
鋼部材90の試験体として、図12(A)(B)に示されるように、トラス橋引張部材を模したH形断面柱を用いた。試験体は、長手方向の寸法Lを600mmとし、ウエブの幅方向の寸法bw及び一対のフランジの幅方向の寸法bfを200mmとした。ウエブの板厚twを9mmとし、一対のフランジの板厚tfを6mmとしている。鋼種はSS400を用いた。
【0114】
図13の一覧に示されるように、補強方法を替えた7体の試験体を設定した。試験体の終局状態は、各部材ごとに道路橋示方書の耐荷力曲線を用い求めた。また、本試験では、フランジの局部座屈に対する繊維シートの補強効果を把握するため、ウエブの幅厚比パラメータRを0.44と十分小さくした。
【0115】
[補強方法]
載荷軸と繊維方向が平行な鉛直シートと、載荷軸と繊維方向が直角な水平シートと、の二種類を用いて試験体を補強した。
【0116】
また、決定した繊維シートの積層数を片面にすべて積層する場合と、フランジの裏表に積層数の半数ずつを分けて施工する両面施工の場合と、を行った。
【0117】
[載荷方法]
載荷容量2000(kN)の油圧式アクチュエータを用い、単調増加で圧縮載荷を行った。試験体の設置では、載荷装置の回転軸とH形断面の弱軸が一致するようにした。
【0118】
[補強量の算出]
フランジの幅厚比パラメータRが、0.7以下となるように、繊維シートを鋼換算し、鉛直シートの積層数(補強量)を算出した。また、水平シートは鉛直シートと同数又は半数とした。
【0119】
[試験結果]
図14の結果表に示されるように、いずれの補強についても最大荷重は増加している(a’-1~a’-7)。
【0120】
また、鉛直シートの積層枚数を同数としたa’-1~a’-5については、水平方向のシートの枚数が増加すると最大荷重も増加する傾向が見られた。これは水平方向のシート枚数を鉛直方向のシート枚数に近づけることで、繊維シートの積層部分が等方性に近づき、水平方向の剛性も増加し、部材としての剛性が高まることで、面外変形の発生を抑制し、座屈の発生を抑制したと推察される。
【0121】
<評価試験2>
本試験では、前述の評価試験1とは異なる試験体を用いて、本実施形態に係る補強構造10による鋼部材90の補強効果について評価を行った。具体的には、本試験では、以下のとおり、試験体を炭素繊維シートで補強し、当該試験体に対してその長手方向(Y方向)に圧縮試験を行った。
【0122】
[試験体]
鋼部材90の試験体として、図15(A)(B)に示されるように、トラス橋における断面箱形状の下弦材を模した矩形断面短柱を用いた。試験体は、長手方向の寸法Lを600mmとした。鋼種はSS400を用いた。
【0123】
図16の一覧に示されるように、ウエブの板厚、一対のフランジの板厚、及び補強方法を替えた8体の試験体を設定した。試験体の終局状態は、各部材ごとに道路橋示方書の耐荷力曲線を用い求めた。
【0124】
[補強方法]
載荷軸と繊維方向が平行な鉛直シートと、載荷軸と繊維方向が直角な水平シートと、の二種類を用いて試験体を補強した。試験体としては、無補強であるもの、鉛直シートのみで補強したもの、鉛直シートと水平シートとを組み合わせて補強したものを用意した。
【0125】
[載荷方法]
載荷容量2000(kN)の油圧式アクチュエータを用い、単調増加で圧縮載荷を行った。
【0126】
[補強量の算出]
フランジの幅厚比パラメータRが、0.7以下となるように、繊維シートを鋼換算し、鉛直シートの積層数(補強量)を算出した。また、水平シートは鉛直シートと同数又は半数とした。
【0127】
[試験結果]
図17及び図18には、試験により得られた荷重-鉛直変位関係が示されている。なお、縦軸は、「鉛直荷重P」を示し、横軸は、「鉛直変位δ」を示し、それぞれ降伏荷重Pyと降伏変位δyで無次元化されている。
【0128】
補強を行った試験体(A-1~A-3、B-1~B-3)では、いずれのケースでも、最大荷重が無補強時の降伏荷重以上の値を示している。また、Aシリーズ、Bシリーズ共に、鉛直シートのみを用いた場合(A-1、B-1)よりも、鉛直シート及び水平シートを用いた場合(A-2、A-3、B-2、B-3)のほうが、最大荷重の増加が見られる。
【0129】
さらに、鉛直シートと水平シートを同数とした場合(A-2、B-2)において、最大荷重が最も大きくなる。これは水平方向のシート枚数を鉛直方向のシート枚数に近づけることで、繊維シートの積層部分が等方性に近づき、水平方向の剛性も増加し、部材としての剛性が高まることで、面外変形の発生を抑制し、座屈の発生を抑制したと推察される。
【0130】
以上のように、鉛直シートのみならず水平シートも積層接着することで、フランジの局部座屈の発生を抑制できることが確認された。
【0131】
本発明は、上記の実施形態に限るものではなく、その主旨を逸脱しない範囲内において種々の変形、変更、改良が可能である。
【0132】
<付記>
(態様1)
ウエブとフランジとを有し且つ略部材軸方向に圧縮力を受ける鋼部材の補強構造であって、
繊維シートの繊維方向が、主圧縮方向と当該主圧縮方向とは異なる1方向との少なくとも2方向へ沿うように、当該繊維シートが少なくとも前記フランジに対し積層して接着された
前記鋼部材の補強構造。
【0133】
(態様2)
前記繊維シートの繊維方向が、少なくとも前記2方向へ沿うように、当該繊維シートが前記フランジ及び前記ウエブに対し積層して接着された
態様1に記載の鋼部材の補強構造。
【0134】
(態様3)
前記繊維シートが、等方性に近づくように、少なくとも前記フランジに対し積層して接着された
態様1又は2に記載の鋼部材の補強構造。
【0135】
(態様4)
前記繊維方向が前記1方向に沿って接着された繊維シートの積層数が、
前記繊維方向が前記主圧縮方向に沿って接着された繊維シートの積層数の50%以上である
態様1~3のいずれか1つに記載の鋼部材の補強構造。
【0136】
(態様5)
前記1方向は、前記主圧縮方向に対して直交する方向である
態様1~4のいずれか1つに記載の鋼部材の補強構造。
【0137】
(態様6)
前記繊維シートは、高伸度弾性パテ材を介して接着されている
態様1~5のいずれか1つに記載の鋼部材の補強構造。
【0138】
(態様7)
前記繊維シートは、炭素繊維シートである
態様1~6のいずれか1つに記載の鋼部材の補強構造。
【0139】
(態様8)
前記鋼部材が、トラス橋において、床版を支持するトラス構造の橋桁部分を構成する上弦材、下弦材、斜材、及び垂直材のいずれかである
態様1~7のいずれか1つに記載の鋼部材の補強構造。
【符号の説明】
【0140】
10 補強構造
20 プライマー層
30 パテ層
40 繊維シート
42 連続繊維
44 繊維層
46 支持層
80 アミン価
90 鋼部材
92 ウエブ
92A 表面
94 フランジ
94A 表面
94B 表面
100 トラス橋
102 床版
104 橋桁部分
106 上弦材
107 垂直材
108 下弦材
109 斜材
140 繊維シート
142 連続繊維
143 繊維強化プラスチック線材
145 線材固定材
147 マトリクス樹脂
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18