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特開2024-18526閾値下うつ及び/又はプレゼンティーズムの検出を支援するための支援方法、支援装置、支援プログラム、及び支援システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024018526
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】閾値下うつ及び/又はプレゼンティーズムの検出を支援するための支援方法、支援装置、支援プログラム、及び支援システム
(51)【国際特許分類】
   G16H 50/20 20180101AFI20240201BHJP
   G06N 20/10 20190101ALI20240201BHJP
【FI】
G16H50/20
G06N20/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022121918
(22)【出願日】2022-07-29
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、未来社会創造事業「うつ兆候のモバイルヘルスによるプレゼンティーズム軽減」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(71)【出願人】
【識別番号】504143441
【氏名又は名称】国立大学法人 奈良先端科学技術大学院大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡本 泰昌
(72)【発明者】
【氏名】横山 仁史
(72)【発明者】
【氏名】清水 あやか
(72)【発明者】
【氏名】吉本 潤一郎
(72)【発明者】
【氏名】ガルシア フェラン カルロ
(72)【発明者】
【氏名】古川 壽亮
【テーマコード(参考)】
5L099
【Fターム(参考)】
5L099AA04
(57)【要約】
【課題】本発明は、閾値下うつ及び/又はプレゼンティーズムを検出するための客観的な指標を提供することを一課題とする。
【解決手段】本発明のある実施形態は、コンピュータが実施する、閾値下うつ及び/又はプレゼンティーズムの検出を支援するための支援方法により、課題を解決する。前記支援方法は、被検者から取得した、神経生理指標に関する特徴量と、神経認知指標に関する特徴量を判別器に入力し、判別器から出力データを取得することを含む。前記判別器は、閾値下うつ及び/又はプレゼンティーズムを有することを示す陽性ラベルが付された第1の対照者と閾値下うつ及び/又はプレゼンティーズムを有さないことを示す陰性ラベルが付された第2の対照者から取得した神経生理指標に関する特徴量と、神経認知指標に関する特徴量に基づいて、出力データとして閾値下うつ及び/又はプレゼンティーズムであることを示唆する確率を出力するように構成された機械学習アルゴリズムである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータが実施する、閾値下うつ及び/又はプレゼンティーズムの検出を支援するための支援方法であって、
被検者から取得した、神経生理指標に関する特徴量と、神経認知指標に関する特徴量を判別器に入力し、判別器から出力データを取得することを含み、
前記判別器は、閾値下うつ及び/又はプレゼンティーズムを有することを示す陽性ラベルが付された第1の対照者と閾値下うつ及び/又はプレゼンティーズムを有さないことを示す陰性ラベルが付された第2の対照者から取得した神経生理指標に関する特徴量と、神経認知指標に関する特徴量に基づいて、出力データとして閾値下うつ及び/又はプレゼンティーズムであることを示唆する確率を出力するように構成された機械学習アルゴリズムである、
支援方法。
【請求項2】
神経生理指標に関する特徴量が、音声特徴量、及び脈波特徴量であり、
神経認知指標に関する特徴量が、表情判別課題特徴量、数字符号置換課題特徴量、及び反応時間課題特徴量である、
請求項1に記載の支援方法。
【請求項3】
閾値下うつ及び/又はプレゼンティーズムの検出を支援するための支援装置であって、
前記支援装置は、制御部を備え、前記制御部は、
被検者から取得した、神経生理指標に関する特徴量と、神経認知指標に関する特徴量を判別器に入力し、判別器から出力データを取得し、
前記判別器は、閾値下うつ及び/又はプレゼンティーズムを有することを示す陽性ラベルが付された第1の対照者と閾値下うつ及び/又はプレゼンティーズムを有さないことを示す陰性ラベルが付された第2の対照者から取得した神経生理指標に関する特徴量と、神経認知指標に関する特徴量に基づいて、出力データとして閾値下うつ及び/又はプレゼンティーズムであることを示唆する確率を出力するように構成された機械学習アルゴリズムである、
支援装置。
【請求項4】
コンピュータに実行させたときに、コンピュータに、
被検者から取得した、神経生理指標に関する特徴量と、神経認知指標に関する特徴量を判別器に入力し、判別器から出力データを取得させるステップを実行させ、
前記判別器は、閾値下うつ及び/又はプレゼンティーズムを有することを示す陽性ラベルが付された第1の対照者と閾値下うつ及び/又はプレゼンティーズムを有さないことを示す陰性ラベルが付された第2の対照者から取得した神経生理指標に関する特徴量と、神経認知指標に関する特徴量に基づいて、出力データとして閾値下うつ及び/又はプレゼンティーズムであることを示唆する確率を出力するように構成された機械学習アルゴリズムである、
閾値下うつ及び/又はプレゼンティーズムの検出を支援するための支援プログラム。
【請求項5】
閾値下うつ及び/又はプレゼンティーズムの検出を支援するための支援システムであって、
前記支援システムは、指標取得端末と、支援装置とを備え、
前記指標取得端末は、被検者に由来する神経生理指標に関するデータと、神経認知指標に関するデータを取得し、
前記支援装置は、被検者から取得した、神経生理指標に関するデータから抽出された神経生理指標に関する特徴量と、神経認知指標に関するデータから抽出された神経認知指標に関する特徴量を判別器に入力し、判別器から出力データを取得し、
前記判別器は、閾値下うつ及び/又はプレゼンティーズムを有することを示す陽性ラベルが付された第1の対照者と閾値下うつ及び/又はプレゼンティーズムを有さないことを示す陰性ラベルが付された第2の対照者から取得した神経生理指標に関する特徴量と、神経認知指標に関する特徴量に基づいて、出力データとして閾値下うつ及び/又はプレゼンティーズムであることを示唆する確率を出力するように構成された機械学習アルゴリズムである、
支援システム。
【請求項6】
前記指標取得端末は、音声取得装置と、被検者が装着したウエアラブル端末が送信する前記被検者の脈波データを受信する生体情報受信デバイスを備える、
請求項5に記載の支援システム。
【請求項7】
前記支援装置は、神経生理指標に関するデータから神経生理指標に関する特徴量を抽出し、神経認知指標に関するデータから神経認知指標に関する特徴量を抽出する、
請求項5に記載の支援システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書には、閾値下うつ及び/又はプレゼンティーズムの検出を支援するための支援方法、支援装置、支援プログラム、及び支援システムが開示される。
【背景技術】
【0002】
閾値下うつは、うつ症状は有するがうつ病の診断閾値は越えない「未病段階」のうつである。近年、職場のうつなどのメンタルヘルスの問題が大きな経済的損失を与えていることに大きな注目が集まっている。職場でのうつによる経済的損失の多くが、閾値下うつによるプレゼンティーズム(出勤はしているが労働効率が低下している状態)によるものある。閾値下うつによるプレゼンティーズムは、閾値上うつ(いわゆる「うつ病」)によるアブセンティーズム(病欠や病気休業の状態)にとは区別されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、閾値下うつは閾値上うつ(うつ病)に比べて顕在化する症状の数が少なく、本人や周囲は気づきにくい。これまで閾値下うつやプレゼンティーズムのスクリーニングは質問紙(問診)で行ってきたが、自己評価による報告バイアスや特異度の低さの問題があった。現時点では閾値下うつやプレゼンティーズムの簡便で客観的な指標(バイオマーカー)は確立していない。客観的な指標に基づいた的確なアセスメントができれば、必要な人に、必要な介入を提供でき、介入提供の効率化を計ることができる。
本発明は、閾値下うつ及び/又はプレゼンティーズムを検出するための客観的な指標を提供することを一課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明のある実施形態は、コンピュータが実施する、閾値下うつ及び/又はプレゼンティーズムの検出を支援するための支援方法に関する。前記支援方法は、被検者から取得した、神経生理指標に関する特徴量と、神経認知指標に関する特徴量を判別器に入力し、判別器から出力データを取得することを含む。前記判別器は、閾値下うつ及び/又はプレゼンティーズムを有することを示す陽性ラベルが付された第1の対照者と閾値下うつ及び/又はプレゼンティーズムを有さないことを示す陰性ラベルが付された第2の対照者から取得した神経生理指標に関する特徴量と、神経認知指標に関する特徴量に基づいて、出力データとして閾値下うつ及び/又はプレゼンティーズムであることを示唆する確率を出力するように構成された機械学習アルゴリズムである。
【0005】
好ましくは、神経生理指標に関する特徴量は、音声特徴量、及び脈波特徴量であり、神経認知指標に関する特徴量は、表情判別課題特徴量、数字符号置換課題特徴量、及び反応時間課題特徴量である。
【0006】
本発明のある実施形態は、閾値下うつ及び/又はプレゼンティーズムの検出を支援するための支援装置に関する。前記支援装置は、制御部を備え、前記制御部は、被検者から取得した、神経生理指標に関する特徴量と、神経認知指標に関する特徴量を判別器に入力し、判別器から出力データを取得する。前記判別器は、閾値下うつ及び/又はプレゼンティーズムを有することを示す陽性ラベルが付された第1の対照者と閾値下うつ及び/又はプレゼンティーズムを有さないことを示す陰性ラベルが付された第2の対照者から取得した神経生理指標に関する特徴量と、神経認知指標に関する特徴量に基づいて、出力データとして閾値下うつ及び/又はプレゼンティーズムであることを示唆する確率を出力するように構成された機械学習アルゴリズムである。
【0007】
本発明のある実施形態は、閾値下うつ及び/又はプレゼンティーズムの検出を支援するための支援プログラムに関する。前記支援プログラムは、コンピュータに実行させたときに、コンピュータに被検者から取得した、神経生理指標に関する特徴量と、神経認知指標に関する特徴量を判別器に入力し、判別器から出力データを取得させるステップを実行させる。前記判別器は、閾値下うつ及び/又はプレゼンティーズムを有することを示す陽性ラベルが付された第1の対照者と閾値下うつ及び/又はプレゼンティーズムを有さないことを示す陰性ラベルが付された第2の対照者から取得した神経生理指標に関する特徴量と、神経認知指標に関する特徴量に基づいて、出力データとして閾値下うつ及び/又はプレゼンティーズムであることを示唆する確率を出力するように構成された機械学習アルゴリズムである。
【0008】
本発明のある実施形態は、閾値下うつ及び/又はプレゼンティーズムの検出を支援するための支援システムに関する。前記支援システムは、指標取得端末と、支援装置とを備える。前記指標取得端末は、被検者に由来する神経生理指標に関するデータと、神経認知指標に関するデータを取得する。前記支援装置は、被検者から取得した、神経生理指標に関するデータから抽出された神経生理指標に関する特徴量と、神経認知指標に関するデータから抽出された神経認知指標に関する特徴量を判別器に入力し、判別器から出力データを取得する。前記判別器は、閾値下うつ及び/又はプレゼンティーズムを有することを示す陽性ラベルが付された第1の対照者と閾値下うつ及び/又はプレゼンティーズムを有さないことを示す陰性ラベルが付された第2の対照者から取得した神経生理指標に関する特徴量と、神経認知指標に関する特徴量に基づいて、出力データとして閾値下うつ及び/又はプレゼンティーズムであることを示唆する確率を出力するように構成された機械学習アルゴリズムである。
【0009】
好ましくは、前記指標取得端末が、音声取得装置と、被検者が装着したウエアラブル端末が送信する前記被検者の脈拍データを受信する生体情報受信装置を備える。
【0010】
好ましくは、前記支援装置が、神経生理指標に関するデータから神経生理指標に関する特徴量を抽出し、神経認知指標に関するデータから神経認知指標に関する特徴量を抽出する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、閾値下うつ及び/又はプレゼンティーズムを検出するための客観的な指標を提供することができる。これにより、閾値下うつ及び/又はプレゼンティーズムを有する者を早期に検出するための情報を提供できる。また、閾値下うつ及び/又はプレゼンティーズムを有する者を早期に発見することにより、早期に必要な介入を提供でき、結果的に企業としての損失の低減、労働生産力の向上などの効果が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】訓練装置10のハードウエア構成を示す。
図2】訓練プログラム1042の処理の流れを示す。
図3】支援装置20のハードウエア構成を示す。
図4】支援プログラム2042の処理の流れを示す。
図5】支援プログラム2042のステップS23における処理の流れを示す。
図6】支援システム100のハードウエア構成を示す。
図7】対象者のBDI-IIの得点の分布と度数(人数:n)と、累積%を示す。
図8】今回検討した検査項目を示す。
図9】質問紙の回答結果を示す。
図10】閾値下うつとプレゼンティーズムの関連性を示す。
図11】閾値下うつとプレゼンティーズムの関連性を示す。
図12】脈波計によって取得した二時点2分間変動による心拍変動解析と、SilmeeTM Bar type Liteによって取得した36時間の心拍変動における閾値下うつ群と健常者群の特徴量の解析結果を示す。
図13】閾値下うつ群と健常者群のERTによる情動認知の結果を示す。
図14】閾値下うつ群と健常者群の神経認知指標(非情動認知)機能を評価した際に統計学的に差が認められた、THINK-it(SCORE、Time_mean)、DSST(Response)、CANTAB(IEDTLS4)、RTI(RTIFMTDS、RTISMRT)、PDQ-D5の結果を示す。
図15】今回の検討において、統計学的な差が認められた検査項目を示す。
図16】実際に機械学習モデルを用いて、指標の選択頻度を検討した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
1.閾値下うつ及び/又はプレゼンティーズムを検出するための指標
本明細書において、閾値下うつは、抑うつ症状を有するがうつ病(閾値上うつ病)の診断基準を満たさない状態である。従来の閾値上うつ病の診断基準は、アメリカ精神医学会の精神障害の診断と統計マニュアル第5版(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, DSM-5)にしたがう。
【0014】
プレゼンティーズムとは、欠勤にはいたっておらず勤怠管理上は表に出てこないが、健康問題が理由で生産性が低下している状態を示す。一方、アブセンティーズムは健康問題による仕事や学業の欠勤(病欠)を意味している。プレゼンティーズムの評価は、例えばWHO Health and Work Performance Questionnaire等の質問票により行うことができる。
閾値下うつ及びプレゼンティーズムは、精神的健康状態について未だ疾患には至っていないものの、いわゆる「未病」の状態であるといえる。
【0015】
閾値下うつ及び/又はプレゼンティーズムを検出するための指標として、本発明では、従来の質問票を用いた指標ではなく、客観的に取得可能なデータに基づく指標を使用する。これは、従来の質問票は、被検者本人が記載するため、客観性に欠けるためである。
閾値下うつ及び/又はプレゼンティーズムを検出するための指標として、神経生理指標に関する特徴量と、神経認知指標に関する特徴量を使用する。
神経生理指標に関する特徴量として、例えば音声特徴量、脈波特徴量等を挙げることができる。前記特徴量は、下記で説明する各種データから取得される。
【0016】
音声特徴量の抽出には、例えば、不安や緊張などの精神面の変化に伴い、声帯の不随意の変化が起こり、声の周波数に変化が生じることを利用する。例えば、iPhone(登録商標)に接続したマイクに向かって発話させ、この音声データに基づいて、声の周波数の変動パターンを解析する。感情を「冷静」、「興奮」、「喜び」、「怒り」、「悲しみ」の5グループに分け、声に含まれるそれぞれの感情成分の割合から、Vivacity(快活度)、Relaxation(寛ぎ度)、Vitality(快活度と寛ぎ度から算出される、検査時の心の健康状態)、Mental activity(過去2週間分のVitalityから出した傾向値で、中長期的なメンタルヘルスの指標)等を算出する。Vivacity、Relaxation、Vitality、Mental activityについて算出された値を特徴量として使用する。声の周波数の変動パターンから心の健康状態を推測するアプリとして、MIMOSYS(PST株式会社)を使用することができ、当該アプリからの出力データを音声特徴量として使用することができる。
【0017】
また、音声特徴量として、Mdvi(recalc)を使用することができる。Mdvi(recalc)には、Mdvi(recalc)1、及びMdvi(recalc)2が存在する。これは、テスト-リテストを兼ね同じ項目について、異なる日にもう一度テストしているためであり、末尾の1や2は1回目の測定、2回目の測定を示す。Mdvi(recalc)1、及び/又はMdvi(recalc)2は、音声波形から取り出されたゼロ交差率(zero-crossing rate; ZCR)とハースト指数(Hurst exponent; HE)から算出される。MdviはShinohara et al., (文献:Shinohara, S., et al. (2020). Sensors, 20(18), 1-14)ではALVI(arousal level voice index)と表記されており、覚醒度を反映する音声指標と考えられている。ゼロ交差率は、音声の音圧の波形が基準圧力を横切る単位時間あたりの回数を、音声における波形の変化の激しさの度合いとして算出したもので、声の荒々しさを表すと考えられている。ハースト指数は、音声の波形における変化の相関性を示し、音声の滑らかさを表すと考えられている。音圧レベル変化の加速度から算出された、声の覚醒度を示すEALVI(Evaluation of emotional arousal level index)(文献:Shinohara, S., et al. (2020). Sensors, 20(18), 1-14; Shinohara, S., et al. (2021). Scientific Reports, 11(1), 1-11.)も特徴量として使用することができる。
【0018】
脈波特徴量の抽出には、疲労ストレス計で測定される脈波のデータを使用する。自律神経は感情や身体の状態変化に反応し、安静時には副交感神経が、ストレス時には交感神経がそれぞれ優勢となる。例えば、心拍変動を周波数解析し、HF(Hi Frequency)とLF(Low Frequency)の成分を算出する。LF値をHF値で除したLF/HF値は交感神経と副交感神経のバランスを示す指標として知られており、交感神経の働きが優位になるためLF/HF値も高くなる(文献:Hartmann, R., et al. (2019). Frontiers in Psychiatry, 10(JAN), 1-8)。脈波特徴量には、AVGHR、MINHR、MAXHR、RR、RA(※全員0)、HF、LF、TP、L/H、CCVTP、D-SCORE、A-AGE、BEATS、SCORE、STATUS(※binary)、RATINGが含まれ得る。脈波特徴量として、好ましくは、HF値、LF値、又はLF/HF値を使用するこことができる。LF値及びHF値は、指先における2分間の脈波を、疲労ストレス計(MF-100、株式会社疲労ストレス研究所・株式会社村田製作所が作成)により測定し、測定データについて周波数解析を行うことにより取得することができる。脈波特徴量として、好ましくは、HF値である。
【0019】
神経認知指標に関する特徴量として、例えば。情動バイアス課題(E motional Bias Task:EBT、Sad_Rate:7強度)の成績、表情判別課題(Emotion Recognition Task;ERT、unbiased hit rate(Hu):6感情 ×8強度)の成績、数字符号置換課題の成績、反応時間課題の成績を使用することができる。
【0020】
表情判別課題は、6つの基本的な情動表情を識別する能力を測定する。画面には、強度を調整された特定の情動(悲しみ(SA)、幸福(HA)、恐怖(FE)、怒り(AN)、嫌悪(DI)、驚き(SU))を示す画像が200ms提示される。6表情の刺激画像を、モーフィングにより強度を調整し1~8までの8段階の強度で作成する。被検者は、表示される顔をみて、その顔の情動を判断する。結果は、正解及び不正解の数や割合、反応時間で評価し、これを特徴量として使用する。例えば、Hu_DI_8は、最も強度の強い「レベル8」の嫌悪の表情を、正しく「嫌悪」と判別できた率(Unbiased Hit rate:Hu)で、Hu_FE_6は「レベル6」の恐怖の表情を、正しく「恐怖」と判別できた率を示す(文献:Persad, S. M., & Polivy, J. (1993). Journal of Abnormal Psychology, 102(3), 358-368)。すなわち、各表情におけるUnbiased Hit rateが、表情判別課題の特徴量となる。特徴量として、好ましくは、ERTのDI_5、FE_6、SC_6、SC_8、SD_3、SD_6、SP_4におけるHuである。
【0021】
ここで、被検者が日本人である場合、刺激表情は、日本人の顔に由来することが好ましい。したがって、本明細書においては、Persad, S. M., & Polivy, Jに記載の刺激表情を日本人の顔に由来する表情に置き換えて使用することが好ましい。
【0022】
数字符号置換課題(digit symbol substituion test: DSST)は、数字と図形の対応表を見ながら、制限時間(例えば、2分)内にできるだけたくさんの数字と図形を一致させる認知機能検査で、実行機能、処理速度、注意力、集中力が反映される(文献:McIntyre, R. S., et al. (2016). International Journal of Neuropsychopharmacology, 19(10), 1-9)。また、この課題は、ソフトウェアTHINC-it(商標)を使用して、評価可能である。まず、2分間の「回答数」としてDSST_RESPONSEを算出する。誤答を入れた場合には次に進めないので、間違えた場合には正答となるまで入れ直すことが求められる。課題のシークエンスが先に進んだ分だけ「回答数」は伸びる。DSST_SCOREは、上記の「回答数」が、成人の平均値と比較してどの位置にいるかを表している。数字符号置換課題の結果データから抽出される特徴量として、好ましくは、DSST(SCORE、Time_mean、Error、Response)である。
【0023】
反応時間課題は、Cambridge Neuropsychological Test Automated Battery (CANTAB)ソフトウエアを使用して実施することができる。画面上の光る円に素早く反応し、できるだけ早くタッチする課題で、刺激が出現したときに待機場所から指を離すまでの「反応時間(Reaction Time)」と指を離して光る円にタッチするまでの「運動時間(Movement Time)」を測定する。エラーとなった試行は含まれておらず、正しく実行できた試行だけで計算される。
【0024】
反応時間課題には、刺激が決まった1か所にしか出現しないステージRTIS(RTI Simple)と、刺激が5か所のうちいずれかに出現するステージRTIF(RTI Five-choice)がある。RTISMTSD(RTI Standard Deviation (SD) Simple Movement Time)は、刺激が1か所だけのステージで、刺激が画面上で黄色に点滅した後、被験者が応答ボタンを離して標的刺激を選択するまでに要した運動時間の標準偏差をあらわす。RTIFMTSD(RTI Standard Deviation (SD) Five-Choice Movement Time)は、刺激が5か所のステージで、刺激が画面上で黄色に点滅した後、被検者が応答ボタンを離して標的刺激を選択するまでに要した運動時間の標準偏差をあらわす(文献:Simon, G. E., & VonKorff, M. (1997). The American journal of psychiatry, 154(10), 1417-1423)。すなわち、被検者が応答ボタンを離して標的刺激を選択するまでに要した運動時間の標準偏差が反応時間課題の特徴量となる。
【0025】
反応時間課題に基づく特徴量として、好ましくはRTI(RTIFMTSD、RTISMRT)である。
【0026】
上述した特徴量は、閾値下うつ及び/又はプレゼンティーズムを検出するためのバイオマーカーであるともいえる。
【0027】
2.機械学習モデルの訓練
本発明のある実施形態は、閾値下うつ及び/又はプレゼンティーズムの検出を支援する判別器(以下、単に「判別器」とも呼ぶ)を提供する。
本項では、機械学習モデルを判別器として機能するように訓練するための訓練方法について説明する。
【0028】
(1)概要
機械学習モデルは、機械学習モデルに応じた公知の方法に基づいて訓練される。本発明において使用される機械学習モデルは、特に制限されない。例えば、機械学習モデルとしてサポートベクターマシン、ランダムフォレスト、CatBoost、深層学習アルゴリズム等を挙げることができる。
【0029】
機械学習モデルは、(i)閾値下うつ及び/又はプレゼンティーズムを有することを示す陽性ラベルが付された第1の対照者から取得した神経生理指標に関する特徴量と、神経認知指標に関する特徴量、及び(ii)閾値下うつ及び/又はプレゼンティーズムを有さないことを示す陰性ラベルが付された第2の対照者から取得した神経生理指標に関する特徴量と、神経認知指標に関する特徴量に基づいて訓練される。陽性ラベル及び陰性ラベルは、包括して単に「ラベル」ともいう。各特徴量には、各特徴量を取得した対照者に付されたラベルが紐付けられている。1人の対照者から取得した特徴量とそれに紐付けられたラベルを1つの訓練データとし、複数の対照者(第1の対照者及び第2の対照者を含む)から取得された訓練データを訓練データセットとして機械学習モデルに入力し機械学習アルゴリズムを訓練する。訓練された機械学習アルゴリズムは、閾値下うつ及び/又はプレゼンティーズムが陽性である確率、及び又は陰性である確率を出力データとして出力する判別器として機能する。出力される確率は、百分率であっても、0から1の間で示される値であってもよい。
【0030】
(2)機械学習モデルの訓練装置
図1に、閾値下うつ及び/又はプレゼンティーズムの検出を支援する機械学習モデルの訓練装置(以下、単に「訓練装置」とも呼ぶ)10のハードウエア構成を示す。
訓練装置10は、入力デバイス111と、出力デバイス112とに接続されていてもよい。
【0031】
訓練装置10において、処理部(CPU)101と、メモリ102と、ROM(read only memory)103と、記憶デバイス104と、インタフェース106とは、バス109によって互いにデータ通信可能に接続されている。処理部101と、メモリ102と、ROM103は、訓練装置10の制御部100として機能する。
【0032】
処理部101は、訓練装置10のCPUであり、演算装置ともいう。処理部101は、GPU、MPUと協働してもよい。処理部101が、記憶デバイス104又はROM103に記憶されているオペレーションシステム(OS)1041と協働して後述する訓練プログラム1042を実行することにより、コンピュータが訓練装置10として機能する。
【0033】
ROM103は、処理部101により実行される訓練プログラム1042及びこれに用いるデータを記憶する。ROM103は、訓練装置10の起動時に、処理部101によって実行されるブートプログラムや訓練装置10のハードウエアの動作に関連するプログラムや設定を記憶する。
【0034】
記憶デバイス104は、オペレーションシステム(OS)1041と、後述する機械学習モデルを訓練するための訓練プログラム1042(以下、単に「訓練プログラム1042」と呼ぶ)と、モデルデータベース1043とを不揮発性に記憶する。モデルデータベース1043は、訓練前の機械学習モデル、又は訓練後の機械学習モデルを格納する。また、モデルデータベース1043は、訓練データを格納しうる。
【0035】
入力デバイス111は、タッチパネル、キーボード、マウス、ペンタブレット、マイク等から構成され、訓練装置10に文字入力又は音声入力を行う。入力デバイス111は、訓練装置10の外部から接続されても、訓練装置10と一体となっていてもよい。
出力デバイス112は、例えばディスプレイ、プリンター等で構成される。
【0036】
処理部101は、訓練装置10の制御に必要なアプリケーションソフトや各種設定をROM103又は記憶デバイス104からの読み出しにかえて、ネットワークを介して取得してもよい。前記アプリケーションプログラムがネットワーク上のサーバコンピュータの記憶デバイス内に格納されており、このサーバコンピュータに訓練装置10がアクセスして、訓練プログラム1042をダウンロードし、これをROM103又は記憶デバイス104に記憶することも可能である。
【0037】
また、ROM103又は記憶デバイス104には、例えば米国マイクロソフト社が製造販売するWindows(登録商標)、オープンソースのLinux(登録商標)などのグラフィカルユーザインタフェース環境を提供するオペレーションシステムがインストールされている。訓練プログラムは、前記オペレーティングシステム上で動作するものとする。すなわち、訓練装置10は、パーソナルコンピュータ等であり得る。
【0038】
(3)訓練プログラムによる処理
図2に、訓練プログラム1042が行う処理の流れを示す。制御部100が訓練プログラム1042を実行することにより、コンピュータが訓練装置10として機能する。
制御部100は、例えばオペレータが入力デバイス111から入力した処理開始要求を受け付け、訓練プログラム1042を実行し、訓練処理を開始する。
【0039】
ステップS11において、制御部100は、モデルデータベース1043より訓練対象の機械学習アルゴリズムと訓練データセットを読み出し、訓練データセットを機械学習アルゴリズムに入力する。制御部100は、続いて、入力した訓練データセットを用いて機械学習アルゴリズムを訓練する。
【0040】
ステップS12において、制御部100は、ステップS11において訓練された機械学習アルゴリズムの検証をおこなう。検証は、例えば、訓練した機械学習アルゴリズムに検証用のデータセットを入力して、Accuracy、Precision、Recall、真陽性率、偽陽性率、真陰性率、偽陰性率等を算出し、評価する。検証方法は公知である。
【0041】
3.閾値下うつ及び/又はプレゼンティーズムの検出の支援
(1)概要
本発明のある実施形態は、閾値下うつ及び/又はプレゼンティーズムを検出するための支援に関する。前記支援は、上記2.において訓練された機械学習アルゴリズムである判別器を使用し、被検者について、閾値下うつ及び/又はプレゼンティーズムを有するかいなかを示唆する情報を提供する。より具体的には、被検者から取得した神経生理指標に関する特徴量と、神経認知指標に関する特徴量を判別器に入力し、判別器から出力データを取得する。出力データは、閾値下うつ及び/又はプレゼンティーズムであること、あるいはないことを示唆する確率である。好ましくは、判別器から出力された出力データに基づいて、被検者が、閾値下うつ及び/又はプレゼンティーズムを有するか否かのラベルを出力する。
【0042】
被検者から取得される神経生理指標に関する特徴量、及び神経認知指標に関する特徴量は、上記第1の対照者又は第2の対照者から取得される特徴量の項目に対応することが好ましい。1人の被検者から取得した特徴量のセットを解析データセットとして、訓練された機械学習モデルに入力し、判別器から出力データを得る。
【0043】
(2)閾値下うつ及び/又はプレゼンティーズムを検出することを支援する支援装置
図3に、閾値下うつ及び/又はプレゼンティーズムを検出することを支援する支援装置(以下、単に「支援装置」とも呼ぶ)20のハードウエア構成を示す。
支援装置20は、入力デバイス211と、出力デバイス212とに接続されていてもよい。
【0044】
支援装置20において、処理部(CPU)201と、メモリ202と、ROM(read only memory)203と、記憶デバイス204と、インタフェース206とは、バス209によって互いにデータ通信可能に接続されている。処理部101と、メモリ202と、ROM203は、支援装置20の制御部200として機能する。
支援装置20の各構成は、記憶デバイス204の構成を除き、訓練装置10の対応する構成と同様である。
【0045】
記憶デバイス204は、オペレーションシステム(OS)2041と、後述する閾値下うつ及び/又はプレゼンティーズムを検出することを支援する支援プログラム2042(以下、単に「支援プログラム2042」と呼ぶ)と、モデルデータベース2043とを不揮発性に記憶する。モデルデータベース2043は、訓練後の機械学習モデル(判別器)を格納する。また、モデルデータベース2043は、被検者から取得された神経生理指標に関する特徴量と、神経認知指標に関する特徴量を解析データとして格納しうる。
支援装置20は、例えばサーバ装置であってもよい。
【0046】
(3)支援プログラムによる処理
図4に支援プログラム2042が行う処理の流れを示す。制御部200が支援プログラム2042を実行することにより、コンピュータが支援装置20として機能する。
制御部200は、例えばオペレータが入力デバイス211から入力した処理開始要求を受け付け、支援プログラム2042を実行し、支援処理を開始する。
ステップS21において、制御部200は、モデルデータベース2043より判別器と解析データセットを読み出し、解析データセットを判別器に入力する。
【0047】
ステップS22において、判別器は、解析データセットに基づく確率を出力データとして出力する。確率は、被検者が、閾値下うつ及び/又はプレゼンティーズムを有するか否かを示す確率である。確率は、百分率であってもよく、0から1までの数値で表されてもよい。
【0048】
ステップS23において、制御部200は、ステップS22において、判別器が出力した確率に基づいて、前記被検者が、閾値下うつ及び/又はプレゼンティーズムを有するか否かを示すラベルを出力してもよい。例えば、確率が高いほど閾値下うつ及び/又はプレゼンティーズムが陽性である可能性が高いときを例にする。図5に示すように、制御部200は、ステップS231において、ステップS22において出力された確率が基準値以上であるかいなかを判断する。確率が基準値以上である場合(YES)、制御部200は、陽性ラベルを出力する。確率が基準値未満である場合(NO)、制御部200は、陰性ラベルを出力する。
【0049】
4.プログラムを記憶した記憶媒体
本発明のある実施形態は、訓練プログラム1042、及び/又は支援プログラム2042、を記憶した、メディアドライブ等のプログラム製品に関する。すなわち、訓練プログラム1042、及び/又は支援プログラム2042は、ハードディスク、フラッシュメモリ等の半導体メモリ素子、光ディスク等のメディアドライブに格納され得る。また、メディアドライブはサーバ装置等のコンピュータであってもよい。メディアドライブへのプログラムの記録形式は、各装置がプログラムを読み取り可能である限り制限されない。前記メディアドライブへの記録は、不揮発性であることが好ましい。
【0050】
5.変形例
支援装置20は、指標取得端末50とともに閾値下うつ及び/又はプレゼンティーズムの検出を支援するための支援システム1000(以下、「支援システム1000」)を構成してもよい。支援システム1000の概要を図6に示す。
【0051】
指標取得端末50は、制御部501と、音声取得デバイス502と、入出力デバイス503と、生体情報受信デバイス504とを備える。指標取得端末50は、スマートフォン等のモバイル端末、タブレット型パーソナルコンピュータ、汎用パーソナルコンピュータ等の被検者が使用可能な端末である。好ましくはスマートフォンである。音声取得デバイス502は、例えばマイク等である。入出力デバイス503はタッチパネル等である。生体情報受信デバイス504は、例えば指標取得端末50と通信可能に接続された生体情報取得装置70が取得した被検者の測定データを受信するBluetooth(商標)、等である。生体情報取得装置70として、例えば、脈波データを取得するための疲労ストレス計(MF-100、株式会社疲労ストレス研究所・株式会社村田製作所が作成)等の測定装置、SilmeeTM Bar type Lite(TDKプロダクトセンター)等のウエアラブル端末等を挙げることができる。
制御部501は、CPU、メモリ、ROM、記憶デバイス等を備える。
【0052】
制御部501は、オペレーティングシステム、及びアプリケーションソフトウエアと協働して神経生理指標に関する特徴量を抽出するための神経生理指標に関するデータ、及び神経認知指標に関する特徴量を抽出するための神経認知指標に関するデータを取得する。各データは、測定したデータそのものである。
例えば、音声特徴量を抽出するためのデータは、例えば、被検者が音声を音声取得装置502に入力し、この音声データを制御部501が取得する。
【0053】
例えば、脈波特徴量を抽出するためのデータは、生体情報取得装置70が取得した被検者の脈波の測定データを生体情報受信デバイス504が受信し、この測定データを制御部501が取得する。
【0054】
表情判別課題特徴量、数字符号置換課題特徴量、及び反応時間課題特徴量等を抽出するためのデータは、上記1.において述べたアプリケーションソフトウエアへの被検者の入力データ入力データである。被検者は、アプリケーションソフトウエアによって入出力装置503に表示される課題の回答を入出力デバイス503を介して入力し、制御部501は、これを取得する。
【0055】
制御部501は、取得した各種データをネットワーク99を介して支援装置20に送信する。
【0056】
各種データからの特徴量の抽出は、指標取得端末50が行ってもよく、支援装置20が行ってもよい。
【0057】
6.効果の検証
(1)解析対象及び検査項目
今回の解析は、閾値下うつのラベルを有する者87名(19.64±1.02歳、女性:男性=37:50)と閾値下うつのラベルを有さない者81名(19.51±0.96歳、女性:男性=48:33)を対象に行った。図7に、対象者のBDI-IIの得点の分布と度数(人数:n)と、累積%を示す。BDI-IIが10点以上の対象者66名(19.65±1.07歳、女性:男性=25:41)を閾値下うつのラベルを有する対照者群(閾値下うつ群)とし、BDI-IIが9点以下の対象者を閾値下うつのラベルを有さない対照者群(健常者群)とした。オレンジバーは、健常者群を示し、青色バーは閾値下うつ群を示す。
検討した検査項目を図8に示す。赤字は、CANTABにおいてうつ病の判別に使用が推奨されている指標を示す。
【0058】
(2)結果
図9に、従来から行われている質問紙の回答結果を示す。BDI-IIの結果は、特に閾値下うつ群と健常者群との間で差が大きかった(d=3.00)。
図10及び図11に閾値下うつとプレゼンティーズムの関連性を示す。閾値下うつとプレゼンティーズムには、強い関連性が認められた。
【0059】
図12に脈波計(MF-100、株式会社疲労ストレス研究所・株式会社村田製作所が作成)によって取得した二時点2分間変動による心拍変動解析と、SilmeeTM Bar type Lite(TDKプロダクトセンター)によって取得した36時間の心拍変動における閾値下うつ群と健常者群の特徴量の解析結果を示す。二時点2分間変動におけるHF_t2では両群に統計的な差が認められた(*はp<0.05を示す)。36時間の心拍変動では、HF、LF、LFHF(LF/HF)において、両群に差が認められた。
【0060】
図13に、閾値下うつ群と健常者群のERTによる情動認知の結果を示す。嫌悪(DI)のレベル5、恐怖(FE)のレベル6、喜び(SC)のレベル6及びレベル8、悲しみ(SD)のレベル3及びレベル6、驚き(SP)のレベル4において両群に統計的な差が認められた。
【0061】
図14に、閾値下うつ群と健常者群の神経認知指標(非情動認知)機能を評価した際に統計学的に差が認められた、THINK-it(SCORE、Time_mean)、DSST(Response)、CANTAB(IEDTLS4)、RTI(RTIFMTDS、RTISMRT)、PDQ-D5の結果を示す。
【0062】
図15に今回の検討において、統計学的な差が認められた検査項目を示す。今回の検討において閾値下うつ群と健常者群との間で差が認められた項目は、必ずしも従来使用が推奨されていた指標とは一致しなかった。
【0063】
次に、実際に機械学習モデルを用いて、指標の選択頻度を検討した。機械学習モデルとして、SVM、RF、CatBoostを使用した。結果を、図16に示す。また、指標は、すべての指標(All)、AUCの評価において機械学習モデルの性能がよかった上位60指標(FS)、AUCの評価において機械学習モデルの性能がよかった上位5指標(Top5)とした。
【0064】
その結果、音声特徴量、及び脈波特徴量である神経生理指標に関する特徴量が、表情判別課題特徴量、数字符号置換課題特徴量、及び反応時間課題特徴量である神経認知指標に関する特徴量が、Top5に含まれていた。
【符号の説明】
【0065】
20 支援装置
201 制御部
1000 支援システム
50 指標取得端末
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16