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特開2024-19017タマネギ種植物における球重の程度を判定する方法、大玉性のタマネギ種植物を製造する製造方法、タマネギ種植物における球重に関する分子マーカー、及び大玉性のタマネギ種植物を判定するための判定キット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024019017
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】タマネギ種植物における球重の程度を判定する方法、大玉性のタマネギ種植物を製造する製造方法、タマネギ種植物における球重に関する分子マーカー、及び大玉性のタマネギ種植物を判定するための判定キット
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/11 20060101AFI20240201BHJP
   A01H 6/04 20180101ALI20240201BHJP
   C12Q 1/6876 20180101ALI20240201BHJP
   A01H 1/00 20060101ALI20240201BHJP
【FI】
C12N15/11 Z
A01H6/04 ZNA
C12Q1/6876 Z
A01H1/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023112495
(22)【出願日】2023-07-07
(31)【優先権主張番号】P 2022121521
(32)【優先日】2022-07-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】関根 大輔
(72)【発明者】
【氏名】塚▲崎▼ 光
(72)【発明者】
【氏名】奥 聡史
(72)【発明者】
【氏名】日浦 聡子
(72)【発明者】
【氏名】山内 歌子
【テーマコード(参考)】
2B030
4B063
【Fターム(参考)】
2B030AA02
2B030AB02
2B030AD07
2B030CA05
2B030CB02
2B030CG05
4B063QA20
4B063QQ04
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QR08
4B063QR55
4B063QR62
4B063QS25
4B063QS34
4B063QX02
(57)【要約】
【課題】大玉性のタマネギ個体を選別するための技術を提供する。
【解決手段】タマネギ種植物における球重の程度を判定する方法であって、
タマネギ種植物において、下記(a)~(d)のいずれかの塩基に相当する塩基:
(a)配列番号1に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの125番目の塩基;
(b)配列番号2に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの57番目の塩基;
(c)配列番号3に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの115番目又は117番目の塩基;及び
(d)配列番号4に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの45番目の塩基;
から5cM以内の遺伝距離にある塩基の少なくとも1つ、又は、当該塩基を含む連続したポリヌクレオチドを、タマネギ種植物における球重に関する分子マーカーとして判定する工程を含む、方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タマネギ種植物における球重の程度を判定する方法であって、
タマネギ種植物において、下記(a)~(d)のいずれかの塩基に相当する塩基:
(a)配列番号1に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの125番目の塩基;
(b)配列番号2に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの57番目の塩基;
(c)配列番号3に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの115番目又は117番目の塩基;及び
(d)配列番号4に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの45番目の塩基;
から5cM以内の遺伝距離にある塩基の少なくとも1つ、又は、当該塩基を含む連続したポリヌクレオチドを、タマネギ種植物における球重に関する分子マーカーとして判定する工程を含む、方法。
【請求項2】
前記分子マーカーは、前記(a)~(d)のいずれかの塩基に相当する塩基から10kbの範囲内にある塩基の少なくとも1つ、又は、当該塩基を含む連続したポリヌクレオチドである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記分子マーカーは、前記(a)~(d)のいずれかの塩基に相当する塩基、又は、当該塩基を含む連続したポリヌクレオチドである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記判定する工程において、前記分子マーカーを含む領域を増幅するプライマーを用いて、前記タマネギ種植物のDNAにおける前記領域を増幅する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
大玉性のタマネギ種植物を製造する製造方法であって、
タマネギ種植物において、請求項1又は2に記載された方法によって、大玉性のタマネギ種植物を選抜する選抜工程
を含む、製造方法。
【請求項6】
前記選抜工程において選抜された大玉性のタマネギ種植物の後代において、前記選抜工程を1又は複数回繰り返し行う、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
タマネギ種植物における球重に関する分子マーカーであって、
下記(a)~(d)のいずれかの塩基に相当する塩基(SNP):
(a)配列番号1に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの125番目の塩基;
(b)配列番号2に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの57番目の塩基;
(c)配列番号3に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの115番目又は117番目の塩基の塩基;及び
(d)配列番号4に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの45番目の塩基;
から5cM以内の遺伝距離にある塩基の少なくとも1つ、又は、当該塩基を含む連続したポリヌクレオチドを含む、分子マーカー。
【請求項8】
大玉性のタマネギ種植物を判定するための判定キットであって、
タマネギ種植物において、下記(a)~(d)のいずれかの塩基に相当する塩基:
(a)配列番号1に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの125番目の塩基;
(b)配列番号2に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの57番目の塩基;
(c)配列番号3に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの115番目又は117番目の塩基の塩基;及び
(d)配列番号4に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの45番目の塩基;
から5cM以内の遺伝距離にある塩基の少なくとも1つ、又は、当該塩基を含む連続したポリヌクレオチドを含む領域を増幅するプライマーを含む、判定キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タマネギ種植物における球重の程度を判定する方法、大玉性のタマネギ種植物を製造する製造方法、タマネギ種植物における球重に関する分子マーカー、及び大玉性のタマネギ種植物を判定するための判定キットに関する。
【背景技術】
【0002】
国産タマネギの約6割は業務加工用に利用されており、業務加工用の需要が高い。タマネギの加工時には皮むきやカット作業を行うが、大玉性のタマネギは一般的なタマネギに比べて、より少ない球数で必要な加工量を得ることができるため、加工適性が高い。また、タマネギは単位面積あたりの栽培できる株数(個体数)が限られており、各個体の球重が収量に直結するため、大玉性のタマネギは単収増加にも大きく貢献する。加えて、タマネギの主要産地である北海道において、2021年は高温少雨によりタマネギが小玉化し、前年比の30%減の収量となったが、大玉性のタマネギは、異常気象年での球重確保や収量安定化にも貢献する。このように、大玉性のタマネギは、今後の業務加工野菜の産地拡大や、サプライチェーン形成に不可欠である。
【0003】
従来、大玉性のタマネギの育種方法として、実際にタマネギを栽培し、収穫した球の重さ等の形質を測定して大玉の個体を選抜することで系統化して品種育成する方法が用いられている。タマネギの育種方法としては、特許文献1に記載された、分子マーカーを利用した辛み及び催涙性のないタマネギの育種方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-058087号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の大玉性のタマネギの育種方法では、タマネギの栽培、収穫、形質測定等に多くの時間と労力を要する。特に、タマネギは2年生作物であることから、従来の形質評価に基づいた育種選抜では開発に10年以上の長い年月を要する。また、タマネギの生育は栽培環境の影響を強く受けるため、ある年に選抜した大玉の個体の後代が別の年では大玉にならないことも多く、大玉性のポテンシャルが高い個体を正確に選抜することが難しい。さらに、特許文献1に記載されているような分子マーカーを利用した、大玉性のタマネギの育種方法は知られていない。そして、業務加工向けの大玉性のタマネギ品種は開発されていないことから、効率的に大玉性のタマネギを育種する方法が求められている。
【0006】
本発明の一態様は、このような問題に鑑み、大玉性のタマネギ個体を選別するための技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係るタマネギ種植物における球重の程度を判定する方法は、
タマネギ種植物において、下記(a)~(d)のいずれかの塩基に相当する塩基:
(a)配列番号1に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの125番目の塩基;
(b)配列番号2に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの57番目の塩基;
(c)配列番号3に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの115番目又は117番目の塩基;及び
(d)配列番号4に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの45番目の塩基;
から5cM以内の遺伝距離にある塩基の少なくとも1つ、又は、当該塩基を含む連続したポリヌクレオチドを、タマネギ種植物における球重に関する分子マーカーとして判定する工程を含む。
【0008】
本発明の一態様に係る大玉性のタマネギ種植物を製造する製造方法は、タマネギ種植物において、請求項1又は2に記載された方法によって、大玉性のタマネギ種植物を選抜する選抜工程を含む。
【0009】
本発明の一態様に係るタマネギ種植物における球重に関する分子マーカーは、
下記(a)~(d)の塩基に相当する塩基(SNP):
(a)配列番号1に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの125番目の塩基;
(b)配列番号2に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの57番目の塩基;
(c)配列番号3に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの115番目又は117番目の塩基の塩基;及び
(d)配列番号4に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの45番目の塩基;
から5cM以内の遺伝距離にある塩基の少なくとも1つ、又は、当該塩基を含む連続したポリヌクレオチドを含む。
【0010】
本発明の一態様に係る大玉性のタマネギ種植物を判定するための判定キットは、
タマネギ種植物において、下記(a)~(d)のいずれかの塩基に相当する塩基:
(a)配列番号1に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの125番目の塩基;
(b)配列番号2に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの57番目の塩基;
(c)配列番号3に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの115番目又は117番目の塩基の塩基;及び
(d)配列番号4に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの45番目の塩基;
から5cM以内の遺伝距離にある塩基の少なくとも1つ、又は、当該塩基を含む連続したポリヌクレオチドを含む領域を増幅するプライマーを含む。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一態様によれば、大玉性のタマネギ個体を選別するための技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例1において作成した分子マーカーの分布図である。
図2】実施例1のアソシエーション解析結果を示す図である。
図3】実施例1における各マーカーの遺伝子型毎の球重を示す図である。
図4】実施例2における各マーカーの遺伝子型毎の球重を示す図である。
図5】実施例2における第2マーカーの波形データを示す図である。
図6】実施例3における第1マーカー及び第4マーカーの遺伝子型の判定結果を示す図である。
図7】実施例4におけるアガロースゲル電気泳動の結果を示す図である。
図8】実施例5において作成した連鎖地図を示す図である。
図9】実施例5におけるQTL解析の結果を示す図である。
図10】実施例5における各マーカーの遺伝子型毎の球重を示す図である。
図11】実施例6におけるアガロースゲル電気泳動の結果を示す図である。
図12】実施例6におけるフラグメント解析の結果を示す図である。
図13】実施例6におけるマーカーのフラグメント解析の結果を示す図である。
図14】実施例6におけるマーカーのフラグメント解析の結果を示す図である。
図15】実施例6における各マーカーの遺伝子型毎の球重を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、本明細書中に記載された文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。また、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上(Aを含みかつAより大きい)、B以下(Bを含みかつBより小さい)」を意味する。
【0014】
本明細書中で使用される場合、用語「ポリヌクレオチド」は、「核酸」又は「核酸分子」と交換可能に使用され、ヌクレオチドの重合体が意図される。ここで、核酸は、DNAの形態(例えば、cDNA若しくはゲノムDNA)、又は、RNA(例えば、mRNA)の形態にて存在し得る。DNA又はRNAは、二本鎖であっても、一本鎖であってもよい。一本鎖DNA又はRNAは、コード鎖(センス鎖)であっても、非コード鎖(アンチセンス鎖)であってもよい。本明細書において使用される場合、塩基の表記は、適宜IUPAC及びIUBの定める1文字表記を使用する。
【0015】
本発明の一態様において、タマネギ種植物には、タマネギ(Allium cepa)及びタマネギの変種であるシャロットが含まれる。タマネギの品種は、一例として、「札幌黄」、「もみじ3号」、「北もみじ2000」等が挙げられる。
【0016】
タマネギ種植物は、育種素材の候補植物であるか、育種のプロセスで得られた植物であり得る。育種素材の候補植物としては、例えば、交配に用いる親植物、及び、遺伝子組換え技術を利用した分子育種に用いられる植物が含まれる。また、育種のプロセスで得られた植物としては、例えば、タマネギ種植物の上述したような品種に属する植物を種内交雑した植物、及びこれらの後代系統である。また、タマネギ種植物は、ある品種に属するタマネギ種植物と他の品種に属するタマネギ種植物との交雑植物のように種間交雑した植物、及びその後代系統であってもよい。さらに、タマネギ種植物は、大玉性であることが分かっている品種同士を種間交雑した植物、及びその後代系統であってもよい。また、タマネギ種植物は、大玉性であることが分かっている個体同士を種内交雑した植物、及びその後代系統であってもよい。
【0017】
本明細書において、植物とは、植物体の一部又は全部であってもよい。植物体の一部としては、例えば、繁殖素材(種子、鱗茎等)、鱗葉、花、根等が挙げられる。
【0018】
本明細書において、タマネギ種植物が大玉性であるとは、タマネギ種植物の球重が、他のタマネギ種植物の球重と比較して相対的に重いことが意図される。ここで、タマネギ種植物の球重は、タマネギ種植物個体の鱗茎の重さが意図され、鱗茎重とも称される。なお、タマネギ種植物における球重は鱗茎の横径と比例するため、大玉性の指標として、球重に替えて又は球重と共に、鱗茎の横径を用いてもよい。
【0019】
〔タマネギ種植物における球重に関する分子マーカー〕
本発明の一態様に係る分子マーカーは、タマネギ種植物における球重に関する分子マーカーである。分子マーカーは、大玉性のタマネギ種植物を選抜可能な分子マーカーであり、大玉性を有するタマネギ種植物を選抜可能な一塩基多型(SNP)のアレル、又は、塩基の挿入及び欠失(InDel)を検出するための分子マーカーである。
【0020】
分子マーカーは、下記(a)~(d)の塩基に相当する塩基:
(a)配列番号1に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの125番目の塩基;
(b)配列番号2に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの57番目の塩基;
(c)配列番号3に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの115番目又は117番目の塩基;及び
(d)配列番号4に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの45番目の塩基;
から5cM以内の遺伝距離にある塩基の少なくとも1つ、又は、当該塩基を含む連続したポリヌクレオチドを含む。
【0021】
本発明の一態様に係る分子マーカーは、タマネギ種植物の第8染色体上の球重に関する遺伝子座を特定するために用いることができる。球重に関する遺伝子座とは、球重に影響する量的形質遺伝子座又は遺伝子領域を意味する。前記量的形質遺伝子座(Quantitative Trait Loci;QTL)は、一般に、量的形質の発現に関与する染色体領域を意味する。QTLは、染色体上の特定の座を示す分子マーカーを使用して規定できる。前記分子マーカーを使用してQTLを規定する技術は、当該技術分野において周知である。
【0022】
本発明の一態様に係る分子マーカーは、一例として、SNPマーカー、AFLP(分子増幅断片長多型)マーカー、RFLPマーカー、マイクロサテライトマーカー、SCARマーカー、CAPSマーカー、InDelマーカー等である。
【0023】
上記(a)~(d)の塩基に相当する塩基から5cM以内の遺伝距離にある塩基の少なくとも1つ、又は当該塩基を含む連続したポリヌクレオチドは、一例として、本実施例に記載されたSNPマーカー又はこれと同一視できるSNPマーカーである。本実施例に記載されたSNPマーカーと同一視できるSNPマーカーは、本実施例に記載されたSNPマーカーから5cM以内の遺伝距離にあるSNPマーカーである。
【0024】
本発明の一態様において、分子マーカーは、上記(a)~(d)のいずれかの塩基に相当する塩基から5cM以内の遺伝距離にある塩基である。上述したように、上記(a)~(d)の塩基に相当する塩基の近傍に、球重に関わる遺伝子が存在すると予測できる。したがって、上記(a)~(d)のいずれかの塩基に相当する塩基から5cM以内の遺伝距離にある塩基は、上記(a)~(d)の塩基に相当する塩基と同様に、球重に関する分子マーカーとして使用可能である。後述する実施例に示すように、上記(a)~(d)の塩基に相当する塩基は、それぞれ5cM以内の遺伝距離にある。分子マーカーは、上記(a)~(d)の塩基に相当する塩基からの3cM以内の遺伝距離にある塩基であることが好ましく、より好ましく2cM以内の遺伝距離にある塩基である。
【0025】
本発明の他の態様において、分子マーカーは、上記(a)~(d)のいずれかの塩基に相当する塩基から10kbの範囲内にある塩基である。後述する実施例に示すように、上記(a)~(d)の塩基に相当する塩基はそれぞれ、同じ連鎖群上に位置しており、それらの近傍に強いQTLが検出されている。したがって、上記(a)~(d)の塩基に相当する塩基の近傍に、球重に関わる遺伝子が存在すると予測できる。すなわち、上記(a)~(d)のいずれかの塩基に相当する塩基から10kbの範囲内にある塩基は、上記(a)~(d)の塩基に相当する塩基と同様に、球重に関する分子マーカーとして使用可能である。分子マーカーは、上記(a)~(d)のいずれかの塩基に相当する塩基から、好ましくは8kbの範囲内にある塩基であり、より好ましくは5kbの範囲内にある塩基である。
【0026】
本発明のさらに他の態様において、分子マーカーは、上記(a)の塩基に相当する塩基から5cM以内の遺伝距離にあり、かつ、上記(d)の塩基に相当する塩基から5cM以内の遺伝距離にある塩基である。また、分子マーカーは、上記(a)の塩基に相当する塩基から3cM、2cM、又は1cM以内の遺伝距離にあり、かつ、上記(d)の塩基に相当する塩基から3cM、2cM、又は1cM以内の遺伝距離にある塩基である。
【0027】
なお、本発明の一態様において、分子マーカーは、上記(a)~(d)の塩基に相当する塩基と連鎖不平衡である塩基であってもよい。「連鎖不平衡」とは、2つの対立遺伝子がそれぞれ独立に遺伝する場合よりも大きな頻度で互いに連鎖して遺伝することをいう。本発明の一態様において、分子マーカーは、上記(a)~(d)の塩基に相当する塩基と連鎖不平衡である塩基であり、好ましくは、上記(a)~(d)のいずれかの塩基に相当する塩基と連鎖不平衡係数r2≧0.9の関係にある塩基である。
【0028】
また、上記(a)~(d)の塩基に相当する塩基と連鎖不平衡である塩基は、より好ましくは、上記(a)~(d)のいずれかの塩基に相当する塩基と連鎖不平衡係数r2≧0.95の関係にある塩基である。また、上記(a)~(d)の塩基に相当する塩基と連鎖不平衡である塩基は、さらに好ましくは、上記(a)~(d)の塩基に相当する塩基と連鎖不平衡係数r2≧1の関係にある塩基である。上記(a)~(d)のいずれかの塩基と連鎖不平衡である塩基は、一例として、複数のタマネギ種植物から採取したDNAをシークエンサーにて配列解析し、連鎖不平衡にある塩基を探索することにより同定することができる。
【0029】
SNPマーカーは、(i)SNPに相当する塩基自体、(ii)SNPを含む連続したポリヌクレオチド、又は、(iii)2以上のSNPを含む連続したポリヌクレオチドであり得る。
【0030】
(i:SNPマーカー)
本発明の一態様に係る分子マーカーを用いれば、タマネギ種植物における球重の程度を判定することができる。
【0031】
ここで、SNPは、DNAの塩基配列中のある特定の領域内に一塩基の変異が見られるDNA多型を意味している。SNPマーカーにおいて、SNPは、タマネギ(Allium cepa)のゲノム配列を基準とした一塩基多型である。基準植物であるタマネギのゲノム配列(Onion genome sequence v1.2)は、ゲノムデータベース(https://www.oniongenome.wur.nl)に公表されている。
【0032】
「(a)~(d)の塩基」とは、本実施例に記載されたSNPマーカーである。「(a)~(d)の塩基に相当する塩基」とは、本実施例に記載されたSNPマーカーと同一視できるSNPマーカーである。「(a)~(d)の塩基」は、第8染色体上の球重に関する遺伝子領域上の変異である。第8染色体上の球重に関する遺伝子座は、基準となるタマネギ種植物由来の塩基配列からなる。他のタマネギ種植物においては、基準となる塩基配列に対してSNP以外の部分でも塩基配列が異なる部分が含まれ得る。このSNPマーカーが位置するゲノム上の領域は、多数のタマネギ種植物間で保存されているため、ホモロジー検索等の手法によって、このSNPマーカーを特定することができる。
【0033】
すなわち、他のタマネギ種植物において、第8染色体上の球重に関する遺伝子座(すなわち植物間で高度に保存されている遺伝子座)が存在する場合、「(a)~(d)の塩基に相当する塩基」とは、ホモロジー検索等の手法によって、(a)~(d)の塩基に相当するとされた第8染色体上の球重に関する遺伝子座上の塩基を指す。例えば、後述する(a2)~(d2)に記載のポリヌクレオチドや、(a3)~(d3)に記載のポリヌクレオチドが、第8染色体上の球重に関する遺伝子座の一例である。
【0034】
本発明の一態様に係る分子マーカーは、上記の(a)~(d)SNPを含むSNPマーカーである。このSNPマーカーは、本発明者らが新たに同定したSNPマーカーであり、当業者は、このSNPマーカーのそれぞれのSNPを表す塩基配列に基づき、当該SNPマーカーのゲノム上の位置を特定することができる。
【0035】
(a)のSNP(以下、SNP(a)ともいう)は、配列番号1に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの125番目の塩基又はこれに相当する塩基の多型を示している。また、(b)のSNP(以下、SNP(b)ともいう)は、配列番号2に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの57番目の塩基又はこれに相当する塩基の多型を示している。さらに、(c)のSNP(以下、SNP(c)ともいう)は、配列番号3に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの115番目若しくは117番目の塩基又はこれに相当する塩基の多型を示している。また、(d)のSNP(以下、SNP(d)ともいう)は、配列番号4に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの45番目の塩基又はこれに相当する塩基の多型を示している。なお、SNP(a)、SNP(b)、SNP(c)、及びSNP(d)は、それぞれ、後述する実施例におけるCHR8_77892311(第1マーカー)、Scaffold_9797_10963(第2マーカー)、CHR8_82152739(82152741)(第3マーカー)、及びScaffold_62471_59198(第4マーカー)に対応している。
【0036】
本発明の一態様に係る分子マーカーは、SNP(a)に相当する塩基のアレルが、Cのホモ接合型又はC/Tのヘテロ接合型であるとき、当該タマネギ種植物は大玉性であると判定することができる。また、SNP(b)に相当する塩基のアレルが、Tのホモ接合型又はT/Cのヘテロ接合型であるとき、当該タマネギ種植物は大玉性であると判定することができる。さらに、SNP(c)に相当する塩基のアレルについて、115番目の塩基がTのホモ接合型又はT/Cのヘテロ接合型、あるいは、117番目の塩基がAのホモ接合型又はA/Tのヘテロ接合型であるとき、当該タマネギ種植物は大玉性であると判定することができる。また、SNP(d)に相当する塩基のアレルが、Tのホモ接合型又はT/Cのヘテロ接合型であるとき、当該タマネギ種植物は大玉性であると判定することができる。また、分子マーカーは、SNP(a)~(d)の少なくとも2つをハプロタイプブロックとして解析することにより、タマネギ種植物における球重の程度、又は、タマネギ種植物が大玉性を有するか否かを判定してもよい。
【0037】
(a)~(d)の塩基に相当する塩基から5cM以内の遺伝距離にある塩基であるSNPは、一例として、配列番号21に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの89番目の塩基又はこれに相当する塩基の多型を示している(実施例における第5マーカー)。また、(a)~(d)の塩基に相当する塩基から5cM以内の遺伝距離にある塩基であるSNPの他の例は、配列番号22に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの109番目の塩基又はこれに相当する塩基の多型を示している(実施例における第6マーカー)。また、(a)~(d)の塩基に相当する塩基から5cM以内の遺伝距離にある塩基であるSNPの他の例は、配列番号23に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの70番目の塩基又はこれに相当する塩基の多型を示している(実施例における第7マーカー)。また、(a)~(d)の塩基に相当する塩基から5cM以内の遺伝距離にある塩基であるSNPの他の例は、配列番号24に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの67番目の塩基又はこれに相当する塩基の多型を示している(実施例における第8マーカー)。また、(a)~(d)の塩基に相当する塩基から5cM以内の遺伝距離にある塩基であるSNPの他の例は、配列番号25に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの34番目の塩基又はこれに相当する塩基の多型を示している(実施例における第9マーカー)。
【0038】
本発明の一態様に係る分子マーカーは、配列番号21に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの89番目の塩基に相当する塩基のアレルが、Tのホモ接合型又はC/Tのヘテロ接合型であるとき、当該タマネギ種植物は大玉性であると判定することができる。また、配列番号22に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの109番目の塩基に相当する塩基のアレルが、Cのホモ接合型又はC/Aのヘテロ接合型であるとき、当該タマネギ種植物は大玉性であると判定することができる。さらに、配列番号23に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの70番目の塩基に相当する塩基のアレルが、Tのホモ接合型又はT/Cのヘテロ接合型であるとき、当該タマネギ種植物は大玉性であると判定することができる。また、配列番号24に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの67番目の塩基に相当する塩基のアレルが、Aのホモ接合型又はA/Gのヘテロ接合型であるとき、当該タマネギ種植物は大玉性であると判定することができる。また、配列番号25に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの34番目の塩基に相当する塩基のアレルが、Tのホモ接合型又はG/Tのヘテロ接合型であるとき、当該タマネギ種植物は大玉性であると判定することができる。
【0039】
また、(a)~(d)の塩基に相当する塩基から10kbの範囲内にある塩基、又は、当該塩基を含む連続したポリヌクレオチドを含む分子マーカーの他の例として、以下に示す第10~第26マーカーが挙げられる。分子マーカーは、第1~第26マーカーの少なくとも2つをハプロタイプブロックとするものであってもよい。
【0040】
第10マーカーは、配列番号36に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの99番目の塩基に相当する塩基における挿入欠失(InDel)多型である。第11マーカーは、配列番号37に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの113番目の塩基に相当する塩基におけるInDel多型である。第12マーカーは、配列番号37に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの207番目から208番目の塩基に相当する塩基におけるInDel多型である。
【0041】
第13マーカーは、配列番号38に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの241番目の塩基に相当する塩基におけるInDel多型である。第14マーカーは、配列番号38に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの299番目の塩基に相当する塩基から300番目の塩基に相当する塩基におけるInDel多型である。第15マーカーは、配列番号39に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの249番目の塩基に相当する塩基におけるInDel多型である。第16マーカーは、配列番号40に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの84番目から86番目の塩基に相当する塩基におけるInDel多型である。
【0042】
第17マーカーは、配列番号41に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの70番目の塩基に相当する塩基におけるInDel多型である。第18マーカーは、配列番号42に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの55番目から70番目の塩基に相当する塩基におけるInDel多型である。第19マーカーは、配列番号43に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの45番目の塩基に相当する塩基におけるInDel多型である。第20マーカーは、配列番号44に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの43番目から44番目の塩基に相当する塩基におけるInDel多型である。第21マーカーは、配列番号44に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの92番目から94番目の塩基に相当する塩基におけるInDel多型である。第22マーカーは、配列番号44に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの147番目から148番目の塩基に相当する塩基におけるInDel多型である。第23マーカーは、配列番号44に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの215番目から233番目の塩基に相当する塩基におけるInDel多型である。
【0043】
第24マーカーは、配列番号45に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの129番目の塩基に相当する塩基におけるInDel多型である。第25マーカーは、配列番号46に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの78番目の塩基に相当する塩基におけるInDel多型である。第26マーカーは、配列番号46に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの194番目の塩基に相当する塩基におけるInDel多型である。
【0044】
第10マーカーは、配列番号36に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの99番目の塩基に相当する塩基がAであるとき、当該タマネギ種植物は大玉性であると判定することができる。第10マーカーにおいて、配列番号36に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの99番目の塩基に相当する塩基が、36塩基(AAAACATTTTTGATGATGATCATGAAGTGAAGAGTA)に置換されているとき、当該タマネギ種植物は小玉性であると判定することができる。
【0045】
第11マーカーは、配列番号37に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの113番目の塩基に相当する塩基がGであるとき、当該タマネギ種植物は大玉性であると判定することができる。第11マーカーにおいて、配列番号37に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの113番目の塩基に相当する塩基が、27塩基(GTGTTGCACAATGACACTTTTGTCGG)に置換されているとき、当該タマネギ種植物は小玉性であると判定することができる。
【0046】
第12マーカーは、配列番号37に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの207番目から208番目の塩基に相当する塩基がTGであるとき、当該タマネギ種植物は大玉性であると判定することができる。第12マーカーにおいて、配列番号37に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの207番目から208番目の塩基に相当する塩基がTである欠失型であるとき、当該タマネギ種植物は小玉性であると判定することができる。
【0047】
第13マーカーは、配列番号38に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの241番目の塩基に相当する塩基がTであるとき、当該タマネギ種植物は大玉性であると判定することができる。第13マーカーにおいて、配列番号38に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの241番目の塩基に相当する塩基が、89塩基(TTTGCAAGACGATTTGAAAGAAAAAGAAAACGAGGGAAAAAGAAAAGAAAGTAAAAAGAAATAAATAATGGTTGGTCGACCGATAAAAT)に置換されているとき、当該タマネギ種植物は小玉性であると判定することができる。
【0048】
第14マーカーは、配列番号38に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの299番目から300番目の塩基に相当する塩基がCCであるとき、当該タマネギ種植物は大玉性であると判定することができる。第14マーカーにおいて、配列番号38に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの299番目から300番目の塩基に相当する塩基がCである欠失型であるとき、当該タマネギ種植物は小玉性であると判定することができる。
【0049】
第15マーカーは、配列番号39に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの249番目の塩基に相当する塩基がAであるとき、当該タマネギ種植物は大玉性であると判定することができる。第15マーカーにおいて、配列番号39に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの249番目の塩基に相当する塩基が、5塩基(ATTTA)に置換されているとき、当該タマネギ種植物は小玉性であると判定することができる。
【0050】
第16マーカーは、配列番号40に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの84番目から86番目の塩基に相当する塩基がAAAであるとき、当該タマネギ種植物は大玉性であると判定することができる。第16マーカーにおいて、配列番号40に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの84番目から86番目の塩基に相当する塩基がAの欠失型であるとき、当該タマネギ種植物は小玉性であると判定することができる。
【0051】
第17マーカーは、配列番号41に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの70番目の塩基に相当する塩基がAであるとき、当該タマネギ種植物は大玉性であると判定することができる。第17マーカーにおいて、配列番号41に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの70番目の塩基に相当する塩基が、20塩基(ATATATATAGGCCATGTGTG)に置換されているとき、当該タマネギ種植物は小玉性であると判定することができる。
【0052】
第18マーカーは、配列番号42に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの55番目から70番目の塩基に相当する塩基がTTGTACAAAAACAATTであるとき、当該タマネギ種植物は大玉性であると判定することができる。第18マーカーにおいて、配列番号42に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの55番目から70番目の塩基に相当する塩基がTの欠失型であるとき、当該タマネギ種植物は小玉性であると判定することができる。
【0053】
第19マーカーは、配列番号43に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの45番目の塩基に相当する塩基がCであるとき、当該タマネギ種植物は大玉性であると判定することができる。第19マーカーにおいて、配列番号43に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの45番目の塩基に相当する塩基が、14塩基(CCATCTATTCCATC)に置換されているとき、当該タマネギ種植物は小玉性であると判定することができる。
【0054】
第20マーカーは、配列番号44に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの43番目から44番目の塩基に相当する塩基がACであるとき、当該タマネギ種植物は大玉性であると判定することができる。第20マーカーにおいて、配列番号44に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの43番目から44番目の塩基に相当する塩基がAの欠失型であるとき、当該タマネギ種植物は小玉性であると判定することができる。
【0055】
第21マーカーは、配列番号44に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの92番目から94番目の塩基に相当する塩基がAAAであるとき、当該タマネギ種植物は大玉性であると判定することができる。第21マーカーにおいて、配列番号44に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの92番目から94番目の塩基に相当する塩基がAの欠失型であるとき、当該タマネギ種植物は小玉性であると判定することができる。
【0056】
第22マーカーは、配列番号44に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの147番目から148番目の塩基に相当する塩基がTCであるとき、当該タマネギ種植物は大玉性であると判定することができる。第22マーカーにおいて、配列番号44に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの147番目から148番目の塩基に相当する塩基がTの欠失型であるとき、当該タマネギ種植物は小玉性であると判定することができる。
【0057】
第23マーカーは、配列番号44に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの215番目から233番目の塩基に相当する塩基がGTCTTAGGGATTCGGCTTTであるとき、当該タマネギ種植物は大玉性であると判定することができる。第23マーカーにおいて、配列番号44に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの215番目から233番目の塩基に相当する塩基がGの欠失型であるとき、当該タマネギ種植物は小玉性であると判定することができる。
【0058】
第24マーカーは、配列番号45に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの129番目の塩基に相当する塩基がTであるとき、当該タマネギ種植物は大玉性であると判定することができる。第24マーカーにおいて、配列番号45に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの129番目の塩基に相当する塩基が、6塩基(TAAAAT)に置換されているとき、当該タマネギ種植物は小玉性であると判定することができる。
【0059】
第25マーカーは、配列番号46に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの78番目の塩基に相当する塩基がTであるとき、当該タマネギ種植物は大玉性であると判定することができる。第25マーカーにおいて、配列番号46に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの78番目の塩基に相当する塩基が、3塩基(TGT)に置換されているとき、当該タマネギ種植物は小玉性であると判定することができる。
【0060】
また、第26マーカーは、配列番号46に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの194番目の塩基に相当する塩基がTであるとき、当該タマネギ種植物は大玉性であると判定することができる。第26マーカーにおいて、配列番号46に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの194番目の塩基に相当する塩基が、22塩基(TGTCACAGACGTCTATCACCTG)に置換されているとき、当該タマネギ種植物は小玉性であると判定することができる。
【0061】
(ii:SNPを含むポリヌクレオチド)
本発明の一態様に係る分子マーカーは、SNP(a)を含む連続したポリヌクレオチド(以下、ポリヌクレオチド(a)ともいう)、SNP(b)を含む連続したポリヌクレオチド(以下、ポリヌクレオチド(b)ともいう)、SNP(c)を含む連続したポリヌクレオチド(以下、ポリヌクレオチド(c)ともいう)、又はSNP(d)を含む連続したポリヌクレオチド(以下、ポリヌクレオチド(d)ともいう)であってもよい。
【0062】
ポリヌクレオチド(a)は、(a1)配列番号1に示す塩基配列において、SNP(a)を含む領域の塩基配列からなるポリヌクレオチド、(a2)(a1)のポリヌクレオチドの塩基配列において、SNP(a)以外の塩基配列に対して、1又は数個の塩基が置換、欠失、付加又は挿入された塩基配列からなり、タマネギ種植物が大玉性を有するか否かを判定する機能を有するポリヌクレオチド、又は、(a3)(a1)のポリヌクレオチドの塩基配列において、SNP(a)以外の塩基配列に対して、90%以上の同一性を有する塩基配列からなり、タマネギ種植物が大玉性を有するか否かを判定する機能を有するポリヌクレオチドである。
【0063】
ポリヌクレオチド(b)は、(b1)配列番号2に示す塩基配列において、SNP(b)を含む領域の塩基配列からなるポリヌクレオチド、(b2)(b1)のポリヌクレオチドの塩基配列において、SNP(b)以外の塩基配列に対して、1又は数個の塩基が置換、欠失、付加又は挿入された塩基配列からなり、タマネギ種植物が大玉性を有するか否かを判定する機能を有するポリヌクレオチド、又は、(b3)(b1)のポリヌクレオチドの塩基配列において、SNP(b)以外の塩基配列に対して、90%以上の同一性を有する塩基配列からなり、タマネギ種植物が大玉性を有するか否かを判定する機能を有するポリヌクレオチドである。
【0064】
ポリヌクレオチド(c)は、(c1)配列番号3に示す塩基配列において、SNP(c)を含む領域の塩基配列からなるポリヌクレオチド、(c2)(c1)のポリヌクレオチドの塩基配列において、SNP(c)以外の塩基配列に対して、1又は数個の塩基が置換、欠失、付加又は挿入された塩基配列からなり、タマネギ種植物が大玉性を有するか否かを判定する機能を有するポリヌクレオチド、又は、(c3)(c1)のポリヌクレオチドの塩基配列において、SNP(c)以外の塩基配列に対して、90%以上の同一性を有する塩基配列からなり、タマネギ種植物が大玉性を有するか否かを判定する機能を有するポリヌクレオチドである。
【0065】
ポリヌクレオチド(d)は、(d1)配列番号4に示す塩基配列において、SNP(d)を含む領域の塩基配列からなるポリヌクレオチド、(d2)(d1)のポリヌクレオチドの塩基配列において、SNP(d)以外の塩基配列に対して、1又は数個の塩基が置換、欠失、付加又は挿入された塩基配列からなり、タマネギ種植物が大玉性を有するか否かを判定する機能を有するポリヌクレオチド、又は、(d3)(d1)のポリヌクレオチドの塩基配列において、SNP(d)以外の塩基配列に対して、90%以上の同一性を有する塩基配列からなり、タマネギ種植物が大玉性を有するか否かを判定する機能を有するポリヌクレオチドである。
【0066】
(a1)~(d1)のポリヌクレオチドは、例えば、第8染色体上の球重に関する遺伝子座の塩基配列に基づき、大玉性のタマネギ種植物から得ることができる。
【0067】
(a2)~(d2)のポリヌクレオチドは、(a1)~(d1)のポリヌクレオチドの塩基配列において、SNP(a)~(d)に相当する塩基は保存され、それ以外の塩基配列に、数個(例えば1~10個、好ましくは1~5個、より好ましくは1、2又は3個)の塩基の修飾(置換、欠失、挿入又は付加)を含むものであり得る。このようなポリヌクレオチドの塩基配列は、当該技術分野における当業者にとって明らかであり、上述したタマネギのゲノム配列を参照することにより、又は、大玉性のタマネギ種植物のゲノム上におけるSNPの近傍領域の塩基配列を解読することにより、決定することができる。
【0068】
(a3)~(d3)のポリヌクレオチドは、(a1)~(d1)のポリヌクレオチドの塩基配列において、SNP(a)~(d)に相当する塩基は保存され、それ以外の塩基配列に対して、例えば、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、又は99%以上の同一性を有するものであり得る。このような塩基配列の同一性は、例えば、BLAST、FASTA等の解析ソフトウェアを用いて、2つの塩基配列をアライメントとすることによって決定することができる。
【0069】
ポリヌクレオチド(a)におけるSNP(a)に相当する塩基のアレルが、Cのホモ接合型又はC/Tのヘテロ接合型であるとき、当該タマネギ種植物は大玉性であると判定することができる。ポリヌクレオチド(b)におけるSNP(b)に相当する塩基のアレルが、Tのホモ接合型又はT/Cのヘテロ接合型であるとき、当該タマネギ種植物は大玉性であると判定することができる。ポリヌクレオチド(c)におけるSNP(c)に相当する塩基のアレルが、TAAのホモ接合型又はTAA/CATのヘテロ接合型であるとき、当該タマネギ種植物は大玉性であると判定することができる。ポリヌクレオチド(d)におけるSNP(d)に相当する塩基のアレルが、Tのホモ接合型又はT/Cのヘテロ接合型であるとき、当該タマネギ種植物は大玉性であると判定することができる。また、分子マーカーは、ポリヌクレオチド(a)~(d)の少なくとも2つをハプロタイプブロックとして解析することにより、タマネギ種植物が大玉性であるか否かを判定することができる。
【0070】
(iii:3つのSNPを含むポリヌクレオチド)
本発明の一態様に係る分子マーカーは、SNP(a)~SNP(d)の少なくとも2つを含む連続したポリヌクレオチド(以下、ポリヌクレオチド(e)ともいう)であってもよい。ポリヌクレオチド(e)は、SNP(a)~SNP(d)の少なくとも2つの部位間の領域を、SNP(a)~SNP(d)の少なくとも2つの部位と共に含んでいる。ポリヌクレオチド(e)は、例えば、大玉性のタマネギ種植物における対応するSNP(a)~SNP(d)の少なくとも2つの部位間の領域を参照することで得られる。ポリヌクレオチド(e)の塩基配列は、大玉性のタマネギ種植物の塩基配列と少なくとも部分的に一致する。
【0071】
本発明の一態様に係る分子マーカーを用いて、タマネギ種植物における球重の程度を判定する方法、及び、タマネギ種植物が大玉性を有するか否かを判定する方法としては特に限定されず、例えば、SNPを検出する公知のSNP分析方法を用いることができる。このような公知のSNP分析方法には、タマネギ種植物の被検体のPCR増幅断片中のSNPを検出することによりSNP分析する方法が含まれる。タマネギ種植物の被検体は、幼苗の葉、茎、根等であり得、また、鱗茎であってもよい。また、本発明の一態様に係る分子マーカーを用いて、タマネギ種植物における球重の程度を判定する方法、及び、タマネギ種植物が大玉性を有するか否かを判定する方法の一態様は、後述する本発明の一態様に係るタマネギ種植物における球重の程度を判定する方法である。
【0072】
〔大玉性のタマネギ種植物〕
本発明の一態様に係る大玉性のタマネギ種植物は、後述する製造方法によって得られる植物である。大玉性のタマネギ種植物は、上述した分子マーカーで特定される上述したSNPを有し、他のタマネギ種植物よりも球重の重いタマネギ種植物である。
【0073】
本発明の一態様に係る大玉性のタマネギ種植物は、後述する製造方法に示すように、タマネギ種植物同士を交雑して得られた植物及びその後代系統、又は、タマネギ種植物の自殖後代から、上述した分子マーカーを用いて大玉性のタマネギ種植物を判別することで得られる。なお、上述したSNPを有するように遺伝子工学的に改変した大玉性のタマネギ種植物についても、本発明の範疇に含まれる。
【0074】
〔タマネギ種植物における球重の程度を判定する方法〕
本発明の一態様に係るタマネギ種植物における球重の程度を判定する方法(判定方法)は、タマネギ種植物において、下記(a)~(d)のいずれかの塩基に相当する塩基:
(a)配列番号1に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの125番目の塩基;
(b)配列番号2に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの57番目の塩基;
(c)配列番号3に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの115番目又は117番目の塩基;及び
(d)配列番号4に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの45番目の塩基;
から5cM以内の遺伝距離にある塩基の少なくとも1つ、又は、当該塩基を含む連続したポリヌクレオチドを、タマネギ種植物における球重に関する分子マーカーとして判定する工程を含む。
【0075】
本発明の一態様に係る判定方法は、上述した本発明の一態様に係る分子マーカーを用いて、タマネギ種植物の被検体において、球重の程度を判定する。本発明の一態様に係る判定方法は、タマネギ種植物の被検体のゲノム上において、SNP(a)~SNP(d)から5cM以内の遺伝距離にあるSNP又はInDelのいずれかを特定することで、被験タマネギ種植物が、大玉性を有するか否かを判定する。
【0076】
本発明の一態様に係る判定方法において、被検体であるタマネギ種植物は、育種素材の候補植物であるか、育種のプロセスで得られた植物である。被検体であるタマネギ種植物は、例えば、大玉性のタマネギ種植物と大玉性のタマネギ種植物との交雑植物、大玉性のタマネギ種植物と小玉性のタマネギ種植物との交雑植物、又は、小玉性のタマネギ種植物と小玉性のタマネギ種植物との交雑植物、及び、これらの後代系統であり得る。また、被検体であるタマネギ種植物は、球重が既知のタマネギ種植物と球重が不明なタマネギ種植物との交雑植物、又は、球重が不明なタマネギ種植物同士を交雑した交雑植物、及び、それらの後代系統であり得る。さらに、被検体であるタマネギ種植物は、大玉性のタマネギ種植物の自殖後代であり得る。タマネギ種植物の被検体は、葉、茎、根等であり得、また、鱗茎であってもよい。
【0077】
本発明の一態様に係る判定方法は、(a’)配列番号1に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの125番目の塩基のアレルが、Cのホモ接合型又はC/Tのヘテロ接合型であるとき、当該タマネギ種植物は大玉性であると判定する。また、判定方法は、(b’)配列番号2に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの57番目の塩基のアレルが、Tのホモ接合型又はT/Cのヘテロ接合型であるとき、当該タマネギ種植物は大玉性であると判定する。さらに、判定方法は、(c’)配列番号3に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの115又は117番目の塩基のアレルが、115番目の塩基がTのホモ接合型又はT/Cのヘテロ接合型、あるいは、117番目の塩基がAのホモ接合型又はA/Tのヘテロ接合型であるとき、当該タマネギ種植物は大玉性であると判定する。また、判定方法は、(d’)配列番号4に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの45番目の塩基のアレルが、Tのホモ接合型又はT/Cのヘテロ接合型であるとき、当該タマネギ種植物は大玉性であると判定する。
【0078】
本発明の一態様に係る判定方法において用いる分子マーカーの詳細については、上述した本発明の一態様に係る分子マーカーの説明を援用する。
【0079】
本発明の一態様に係る判定方法において、分子マーカーを用いてタマネギ種植物における球重の程度を検査する方法としては特に限定されず、公知のSNP分析方法を用いることができ、例えば、タマネギ種植物の被検体のPCR増幅断片中のSNPを検出することによりSNP分析する方法が挙げられる。本発明の一態様に係る判定方法は、前記分子マーカーを含む領域を増幅するプライマーを用いて、前記タマネギ種植物のDNAにおける前記領域を増幅してもよい。このようなプライマーは、一例として、SNP(a)~SNP(d)のいずれかを含む領域を増幅するプライマーである。すなわち、SNP(a)~SNP(d)のいずれかを含む領域を増幅するプライマーは、本発明の一態様に係る大玉性のタマネギ種植物を判定するための判定キットであり得る。
【0080】
タマネギ種植物の被検体のDNAにおける前記領域の増幅は、一例として、タマネギ種植物の被検体から抽出したDNAを鋳型にして、SNPを含む領域を増幅するプライマーセットを用いて、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により行うことができる。そして、得られた増幅断片におけるSNPの塩基(遺伝子型)を決定し、決定された塩基(遺伝子型)とタマネギ種植物における球重の程度との関係を示すデータに基づいて、タマネギ種植物における球重の程度を判定する。増幅断片における遺伝子型の決定方法については、従来公知の方法を用いることができ、一例として、DNAシーケンス解析、アガロースゲル電気泳動を利用する方法、リアルタイムPCRを用いたTaqMan解析等である。
【0081】
PCRにおいて用いるプライマーセットは、標的のSNPを含む領域のDNA断片を増幅することができるものである限り、特に限定されず、増幅断片の長さが短くなるようにプライマーセットを設計してもよい。例えば、プライマー増幅断片の長さが、好ましくは、200塩基対(bp)以下、160bp以下、150bp以下、140bp以下、130bp以下、120bp以下、又は100bp以下となるようにプライマーセットを設計する。プライマーセットは、フォワードプライマーと、リバースプライマーとが含まれる。これらのプライマーの長さは、例えば、15bp以上、16bp以上、17bp以上、18bp以上、19bp以上、20bp以上、又は25bp以上であってもよく、50塩基bp以下、40bp以下、又は30bp以下であってもよい。
【0082】
以下に示すようなSNP(a)~SNP(d)の少なくとも1つを含む領域を増幅するプライマーセットは、本発明の一態様に係る大玉性のタマネギ種植物を判定するための判定キットであり得る。
【0083】
SNP(a)を含む領域を増幅するプライマーセットは、下記(I)又は(II)のプライマーセットを含む:
(I)配列番号5に示される塩基配列における15以上の連続する塩基を含む第1のプライマーと、配列番号6に示される塩基配列における15以上の連続する塩基を含む第2のプライマーとからなるプライマーセット;
(II)配列番号7に示される塩基配列における15以上の連続する塩基を含む第3のプライマーと、配列番号8に示される塩基配列における15以上の連続する塩基を含む第4のプライマーと、配列番号9に示される塩基配列における15以上の連続する塩基を含む第5のプライマーとからなるプライマーセット。
【0084】
上記(I)のプライマーセットを用いることで、大玉性のタマネギ種植物においては配列番号1に示す塩基配列の125番目の塩基がCであるPCR増幅産物が得られ、SNP(a)に相当する塩基を検出することができる。また、上記(II)のプライマーセットを用いれば、SNP(a)を含む領域を特異的に増幅し、蛍光量の測定により遺伝子型を決定することができる。
【0085】
SNP(b)を含む領域を増幅するプライマーセット(III)は、例えば、配列番号10に示される塩基配列における15以上の連続する塩基を含む第6のプライマーと、配列番号11に示される塩基配列における15以上の連続する塩基を含む第7のプライマーとからなる、プライマーセットである。このプライマーセットを用いることで、大玉性のタマネギ種植物においては配列番号2に示す塩基配列の57番目の塩基がTであるPCR増幅産物が得られ、SNP(b)に相当する塩基を検出することができる。
【0086】
SNP(c)を含む領域を増幅するプライマーセット(IV)は、例えば、配列番号12に示される塩基配列における15以上の連続する塩基を含む第8のプライマーと、配列番号13に示される塩基配列における15以上の連続する塩基を含む第9のプライマーとからなる、プライマーセットである。このプライマーセットを用いることで、大玉性のタマネギ種植物においては配列番号3に示す塩基配列の115番目の塩基がT及び117番目の塩基がAの少なくとも一方であるPCR増幅産物が得られ、SNP(c)に相当する塩基を検出することができる。
【0087】
SNP(d)を含む領域を増幅するプライマーセットは、下記(V)~(VII)のプライマーセットを含む:
(V)配列番号14に示される塩基配列における15以上の連続する塩基を含む第10のプライマーと、配列番号15に示される塩基配列における15以上の連続する塩基を含む第11のプライマーとからなるプライマーセット;
(VI)配列番号16に示される塩基配列における15以上の連続する塩基を含む第12のプライマーと、配列番号17に示される塩基配列における15以上の連続する塩基を含む第13のプライマーと、配列番号18に示される塩基配列における15以上の連続する塩基を含む第14のプライマーとからなるプライマーセット;
(VII)配列番号19に示される塩基配列における15以上の連続する塩基を含む第15のプライマーと、配列番号20に示される塩基配列における15以上の連続する塩基を含む第16のプライマーとからなるプライマーセット。
【0088】
上記(V)のプライマーセットを用いることで、大玉性のタマネギ種植物においては配列番号4に示す塩基配列の45番目の塩基がTであるPCR増幅産物が得られ、SNP(d)に相当する塩基を検出することができる。また、上記(VI)のプライマーセットを用いれば、SNP(d)を含む領域を特異的に増幅し、蛍光量の測定により遺伝子型を決定することができる。さらに、上記(VII)のプライマーセットを用いれば、SNP(d)を含む領域を特異的に増幅し、アガロース電気泳動により遺伝子型を決定することができる。
【0089】
また、プライマーセットは、(a)~(d)の塩基に相当する塩基から5cM以内の遺伝距離にある塩基を検出するための以下のプライマーセットであってもよい。例えば、配列番号26示される塩基配列における15以上の連続する塩基を含むプライマーと、配列番号27に示される塩基配列における15以上の連続する塩基を含むプライマーとからなる、プライマーセットである。このプライマーセットを用いることで、大玉性のタマネギ種植物においては配列番号21に示す塩基配列の89番目の塩基がTであるPCR増幅産物が得られ、(a)~(d)の塩基に相当する塩基から5cM以内の遺伝距離にある塩基に相当する塩基を検出することができる。
【0090】
また、例えば、配列番号28に示される塩基配列における15以上の連続する塩基を含むプライマーと、配列番号29に示される塩基配列における15以上の連続する塩基を含むプライマーとからなる、プライマーセットである。このプライマーセットを用いることで、大玉性のタマネギ種植物においては配列番号22に示す塩基配列の109番目の塩基がCであるPCR増幅産物が得られ、(a)~(d)の塩基に相当する塩基から5cM以内の遺伝距離にある塩基に相当する塩基を検出することができる。
【0091】
また、例えば、配列番号30に示される塩基配列における15以上の連続する塩基を含むプライマーと、配列番号31に示される塩基配列における15以上の連続する塩基を含むプライマーとからなる、プライマーセットである。このプライマーセットを用いることで、大玉性のタマネギ種植物においては配列番号23に示す塩基配列の70番目の塩基がTであるPCR増幅産物が得られ、(a)~(d)の塩基に相当する塩基から5cM以内の遺伝距離にある塩基に相当する塩基を検出することができる。
【0092】
また、例えば、配列番号32に示される塩基配列における15以上の連続する塩基を含むプライマーと、配列番号33に示される塩基配列における15以上の連続する塩基を含むプライマーとからなる、プライマーセットである。このプライマーセットを用いることで、大玉性のタマネギ種植物においては配列番号24に示す塩基配列の67番目の塩基がAであるPCR増幅産物が得られ、(a)~(d)の塩基に相当する塩基から5cM以内の遺伝距離にある塩基に相当する塩基を検出することができる。
【0093】
また、例えば、配列番号34に示される塩基配列における15以上の連続する塩基を含むプライマーと、配列番号35に示される塩基配列における15以上の連続する塩基を含むプライマーとからなる、プライマーセットである。このプライマーセットを用いることで、大玉性のタマネギ種植物においては配列番号25に示す塩基配列の34番目の塩基がTであるPCR増幅産物が得られ、(a)~(d)の塩基に相当する塩基から5cM以内の遺伝距離にある塩基に相当する塩基を検出することができる。
【0094】
(a)~(d)の塩基に相当する塩基から10kbの範囲内にある塩基を検出するためのプライマーセットの他の例として、以下に示す、第10~第26マーカーの少なくとも1つを含む領域を増幅するプライマーセットが挙げられる。
【0095】
例えば、配列番号47に示される塩基配列における15以上の連続する塩基を含むプライマーと、配列番号48に示される塩基配列における15以上の連続する塩基を含むプライマーとからなる、プライマーセットである。このプライマーセットを用いることで、第10マーカーを含む領域が増幅され、大玉性のタマネギ種植物においては配列番号36に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの99番目の塩基に相当する塩基がAであるPCR増幅産物が得られる。
【0096】
また、例えば、配列番号49に示される塩基配列における15以上の連続する塩基を含むプライマーと、配列番号50に示される塩基配列における15以上の連続する塩基を含むプライマーとからなる、プライマーセットである。このプライマーセットを用いることで、第11及び第12マーカーを含む領域が増幅され、大玉性のタマネギ種植物においては配列番号37に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの113番目の塩基に相当する塩基がGであるか、207番目から208番目の塩基に相当する塩基がTGであるの少なくとも一方であるPCR増幅産物が得られる。
【0097】
また、例えば、配列番号51に示される塩基配列における15以上の連続する塩基を含むプライマーと、配列番号52に示される塩基配列における15以上の連続する塩基を含むプライマーとからなる、プライマーセットである。このプライマーセットを用いることで、第13及び第14マーカーを含む領域が増幅され、大玉性のタマネギ種植物においては配列番号38に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの241番目の塩基に相当する塩基がTであるか、299番目から300番目の塩基に相当する塩基がCCであるの少なくとも一方であるPCR増幅産物が得られる。
【0098】
また、例えば、配列番号53に示される塩基配列における15以上の連続する塩基を含むプライマーと、配列番号54に示される塩基配列における15以上の連続する塩基を含むプライマーとからなる、プライマーセットである。このプライマーセットを用いることで、第15マーカーを含む領域が増幅され、大玉性のタマネギ種植物においては配列番号39に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの249番目の塩基に相当する塩基がAであるPCR増幅産物が得られる。
【0099】
また、例えば、配列番号55に示される塩基配列における15以上の連続する塩基を含むプライマーと、配列番号56に示される塩基配列における15以上の連続する塩基を含むプライマーとからなる、プライマーセットである。このプライマーセットを用いることで、第16マーカーを含む領域が増幅され、大玉性のタマネギ種植物においては配列番号40に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの84番目から86番目の塩基に相当する塩基がAAAであるPCR増幅産物が得られる。
【0100】
また、例えば、配列番号57に示される塩基配列における15以上の連続する塩基を含むプライマーと、配列番号58に示される塩基配列における15以上の連続する塩基を含むプライマーとからなる、プライマーセットである。このプライマーセットを用いることで、第17マーカーを含む領域が増幅され、大玉性のタマネギ種植物においては配列番号41に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの70番目の塩基に相当する塩基がAであるPCR増幅産物が得られる。
【0101】
また、例えば、配列番号59に示される塩基配列における15以上の連続する塩基を含むプライマーと、配列番号60に示される塩基配列における15以上の連続する塩基を含むプライマーとからなる、プライマーセットである。このプライマーセットを用いることで、第18マーカーを含む領域が増幅され、大玉性のタマネギ種植物においては配列番号42に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの55番目から70番目の塩基に相当する塩基がTTGTACAAAAACAATTであるPCR増幅産物が得られる。
【0102】
また、例えば、配列番号61に示される塩基配列における15以上の連続する塩基を含むプライマーと、配列番号62に示される塩基配列における15以上の連続する塩基を含むプライマーとからなる、プライマーセットである。このプライマーセットを用いることで、第19マーカーを含む領域が増幅され、大玉性のタマネギ種植物においては配列番号43に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの45番目の塩基に相当する塩基がCであるPCR増幅産物が得られる。
【0103】
また、例えば、配列番号63に示される塩基配列における15以上の連続する塩基を含むプライマーと、配列番号64に示される塩基配列における15以上の連続する塩基を含むプライマーとからなる、プライマーセットである。このプライマーセットを用いることで、第20及び第23マーカーを含む領域が増幅される。そして、大玉性のタマネギ種植物においては配列番号44に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの43番目から44番目の塩基に相当する塩基がACであるか、92番目から94番目の塩基に相当する塩基がAAAであるか、147番目から148番目の塩基に相当する塩基がTCであるか、215番目から233番目の塩基に相当する塩基がGTCTTAGGGATTCGGCTTTであるかの少なくともいずれかであるPCR増幅産物が得られる。
【0104】
また、例えば、配列番号65に示される塩基配列における15以上の連続する塩基を含むプライマーと、配列番号66に示される塩基配列における15以上の連続する塩基を含むプライマーとからなる、プライマーセットである。このプライマーセットを用いることで、第24マーカーを含む領域が増幅され、大玉性のタマネギ種植物においては配列番号45に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの129番目の塩基に相当する塩基がTであるPCR増幅産物が得られる。
【0105】
また、例えば、配列番号67に示される塩基配列における15以上の連続する塩基を含むプライマーと、配列番号68に示される塩基配列における15以上の連続する塩基を含むプライマーとからなる、プライマーセットである。このプライマーセットを用いることで、第25及び第26マーカーを含む領域が増幅され、大玉性のタマネギ種植物においては配列番号46に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの78番目の塩基に相当する塩基がTであるか、194番目の塩基に相当する塩基がTであるの少なくとも一方であるPCR増幅産物が得られる。
【0106】
SNP分析におけるPCRは、単独のプライマーセットを含む反応系でDNA断片を増幅するシングルプレックスPCR、又は、複数のプライマーセットを含む反応系で遺伝子増幅するマルチプレックスPCR、のいずれであってもよい。マルチプレックスPCRの場合は、異なる波長を有する蛍光物質(例えば、NED、6-FAM、VIC、PET、HEX)により標識したプライマーセットを混合してもよい。
【0107】
PCRの反応条件は、用いるDNAポリメラーゼ及びPCR装置の種類、増幅断片の長さ等に応じて適宜に設定され得る。サイクル条件としては、変性工程、アニーリング工程及び伸長工程の3工程を1サイクルとする3ステップPCR法、及び、変性工程とアニーリング及び伸長工程との2工程を1サイクルとする2ステップPCR法を適用することができる。3ステップPCRにおける反応条件の一例としては、90~100℃で40~60秒(例えば、94℃で30秒)の変性工程、10~60秒(例えば、30秒)のアニーリング工程、及び65~80℃で10~90秒(例えば、72℃で60秒)の伸長工程を、10~40サイクル(例えば15サイクル)行う。アニーリング温度は、一例として、55~70℃(例えば、60℃)の初期アニーリング温度から40~60℃(例えば、45℃)の最終アニーリング温度まで、所定サイクル毎に段階的に低下させる条件(例えば、1サイクル毎に1℃低下)が挙げられる。鋳型となるDNAの状態に応じて、SNPを安定的に検出するために、PCR反応条件を調整してもよい。
【0108】
SNP分析におけるPCRとして、PCRによる増幅及びSNPマーカーの特定を行うTaqMan(登録商標)-PCR法のようなリアルタイムPCRを用いてもよい。すなわち、プライマーセットを用いて増幅した増幅断片に含まれるSNPを検出するTaqMan(登録商標)プローブをさらに用いてもよい。リアルタイムPCR法を用いることにより、高処理能力の判別方法を提供することができる。なお、PCRにより増幅した増幅断片においてSNPを特定する方法としては、自動DNAシークエンサー等を用いて増幅断片の塩基配列を決定することにより、解析してもよい。
【0109】
タマネギ種植物の被検体から、PCRにより増幅するDNAを抽出する方法としては、特に限定されず、公知のDNA抽出方法を用いることができる。また、市販のDNA抽出キットを用いて、DNAを抽出してもよい。被検体の種類及び夾雑物の量等に応じて、DNA抽出工程の前に、適宜に前処理を行ってもよい。また、被検体から抽出されたDNAは、PCR反応において鋳型として用いるために、必要に応じて洗浄又は精製してもよい。さらに、被検体から抽出されたDNAを2種類の制限酵素で消化した制限酵素切断断片をPCRにより増幅してもよい。
【0110】
また、本発明の一態様に係る判定方法においては、SNP(a)~SNP(d)と連鎖不平衡状態にある遺伝子多型を分析し、SNP(a)~SNP(d)を同定してもよい。上記連鎖不平衡状態は、一例として、連鎖不平衡係数が0.9以上の連鎖不平衡状態である。
【0111】
本発明の一態様に係る判定方法によれば、分子マーカーにより、被験タマネギ種植物が、大玉性であるか否かを判定することができる。したがって、判定結果に基づき大玉性のタマネギ種植物及びその後代系統を選抜することができる。
【0112】
本発明の一態様に係る判定方法によれば、幼苗の段階で大玉性のタマネギ種植物を選抜することが可能であり、育種選抜のための期間を大幅に短縮することができる。また、幼苗の段階で選抜された大玉性の幼苗のみを栽植して生育することで、圃場の利用効率を向上させることができる。
【0113】
〔大玉性のタマネギ種植物を製造する製造方法〕
本発明の一態様に係る製造方法は、大玉性のタマネギ種植物を製造する方法であって、タマネギ種植物において、本発明の一態様に係る判定方法によって、大玉性のタマネギ種植物を選抜する選抜工程を含む。また、製造方法は、前記選抜工程において選抜された大玉性のタマネギ種植物の後代において、前記選抜工程を1又は複数回繰り返し行ってもよい。
【0114】
また、製造方法は、選抜工程の前に、タマネギ種植物同士を交雑する交雑工程を包含し、選抜工程において、前記交雑工程により得られたタマネギ種植物又はその他殖後代のタマネギ種植物から、本発明の一態様に係る判定方法によって、大玉性のタマネギ種植物を選抜してもよい。
【0115】
さらに、製造方法は、選抜工程の前に、大玉性のタマネギ種植物の自殖後代を取得する工程を包含し、選抜工程において、取得された大玉性のタマネギ種植物の自殖後代から、本発明の一態様に係る判定方法によって、大玉性のタマネギ種植物を選抜してもよい。
【0116】
したがって、本発明の一態様に係る分子マーカー、大玉性のタマネギ種植物、及び判定方法に関する説明を、大玉性のタマネギ種植物を製造する方法の説明に援用する。
【0117】
交雑工程において、親植物として使用するタマネギ種植物は、例えば、大玉性のタマネギ種植物、小玉性のタマネギ種植物、球重の程度が不明なタマネギ種植物、並びにこれらの後代系統であり得る。
【0118】
また、交雑工程において、親植物として使用するタマネギ種植物は、本発明の一態様に係る大玉性のタマネギ種植物であってもよい。また、交雑工程において用いるタマネギ種植物は、本発明の一態様に係る判定方法により選抜された大玉性のタマネギ種植物であってもよい。すなわち、本発明の一態様に係る製造方法は、前記交雑工程の前に、本発明の一態様に係る判定方法により、被験タマネギ種植物から大玉性のタマネギ種植物を判別する判別工程をさらに含み得る。
【0119】
判別工程は、本発明の一態様に係る判定方法により、交雑工程により得られたタマネギ種植物又はその後代系統のタマネギ種植物から、大玉性のタマネギ種植物を判別する。
【0120】
本発明の一態様に係る製造方法によれば、分子マーカーによりタマネギ種植物が大玉性を有するか否かを判定し、判定結果に基づき選抜した大玉性のタマネギ種植物を製造することができる。
【0121】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例0122】
〔実施例1〕
国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構において育成したタマネギ系統について、230個体を東北農業研究センター内の圃場(盛岡)において、2019年に栽培した。収穫した各個体の鱗茎重を測定した。
【0123】
栽培したタマネギ系統について、系統内多型を取得するために、157の分子マーカーを作成した。これらの分子マーカーの分布を、図1に示す。図1は、実施例において作成した分子マーカーの分布図である。
【0124】
解析材料の各個体について、図1に示した157の分子マーカーの遺伝子型を取得した。157の分子マーカーのそれぞれに対するプライマーセットを4つに分割し(1プライマープレックスあたり約40プライマーセット)、プライマープレックスごとにマルチプレックスPCRを行った(1st PCR)。1st PCRの組成を表1に示し、PCR条件を表2に示す。
【0125】
【表1】
【0126】
【表2】
【0127】
1st PCR産物は、AMPure XP Reagentにより精製した。精製したテンプレートを100倍希釈して、2nd PCRに用いた。2nd PCRでは、1st PCR産物に次世代シーケンサーでの解析用のアダプター配列及び個体識別用のバーコード配列を添加した。2nd PCRの組成を表3に示し、PCR条件を表4に示す。
【0128】
【表3】
【0129】
【表4】
【0130】
作成したPCR産物について、192検体と38検体との2つに分割し、各々で1つにまとめて次世代シーケンサー(Thermo Fisher Scientific社Ion Torrent Proton system)により解析した。ソフトウェアTorrent Suite ver. 5(Thermo Fisher Scientific社)を用いて、得られた配列データを検体ごとに分けた後、各検体の配列データをリファレンス配列にマッピングした。ソフトウェアTorrent Variant Callerを用いて、各増幅領域内の多型情報(マーカー遺伝子型)を抽出した。
【0131】
得られた各個体の遺伝子型データと球重データを用いて、アソシエーション解析を行った。アソシエーション解析には、R package [rrBLUP]を使用した。第8染色体の40cM近傍領域(図1に示す矢印の位置)のマーカーにおいて、有意水準を上回る-log(p)値を検出した。結果を図2に示す。図2は、実施例のアソシエーション解析結果を示す図である。
【0132】
第8染色体の40cM近傍領域における、第1マーカー~第4マーカーの4つのマーカーを選抜した。第1マーカー(CHR8_77892311)、第2マーカー(Scaffold_9797_10963)、第3マーカー(CHR8_82152739)、及び第4マーカー(Scaffold_62471_59198)の詳細を表5にし、各マーカーのプライマー配列及び増幅産物の配列を表6に示す。なお、表6中の増幅産物の配列は、参照配列から抽出した塩基配列情報である。
【0133】
【表5】
【0134】
【表6】
【0135】
第1マーカーから第4マーカーのそれぞれについて、解析材料の各遺伝子型と球重の分布を比較し、スティール・ドゥワス(Steel-Dwass)の方法による多重検定を行った。結果を図3に示す。図3は、実施例1における、各マーカーの遺伝子型毎の球重を示す図である。
【0136】
図3に示すように、第1マーカーにおいては、遺伝子型がCのホモ接合型及びC/Tのヘテロ接合型である個体が、遺伝子型がTのホモ接合型である個体と比較して、球重が有意に重かった。また、第2マーカーにおいては、遺伝子型がTのホモ接合型及びT/Cのヘテロ接合型である個体が、遺伝子型がCのホモ接合型である個体と比較して、球重が有意に重かった。第3マーカーにおいては、遺伝子型がTAAのホモ接合型及びTAA/CATのヘテロ接合型である個体が、遺伝子型がCATのホモ接合型である個体と比較して、球重が有意に重かった。第4マーカーにおいては、遺伝子型がTのホモ接合型及びT/Cのヘテロ接合型である個体が、遺伝子型がCのホモ接合型である個体と比較して、球重が有意に重かった。
【0137】
〔実施例2〕
図3に示す、4マーカーが全てヘテロ型の個体を選抜し、その自殖後代の99個体を東北農業研究センター内の圃場(盛岡)において、2021年に栽培した。収穫した各個体の鱗茎重を測定した。以下に示すように、サンガー法により4マーカーの遺伝子型を取得した。
【0138】
各個体について、表6に示すプライマーセットを用いて、PCR反応を行った。PCRの組成を表7に示し、PCR条件を表8に示す。
【0139】
【表7】
【0140】
【表8】
【0141】
PCR増幅産物について、PCR産物 5に対してExo-SAP IT Express regent 1を使用して、Exo-SAP IT処理を行い、残ったプライマー等のヌクレオチドを分解した。Exo-SAP IT処理条件を表9に示す。
【0142】
【表9】
【0143】
Exo-SAP IT処理後のPCR産物を鋳型として、シーケンスPCR反応を行った。シーケンスPCR反応の組成を表10に示し、PCR条件を表11に示す。
【0144】
【表10】
【0145】
【表11】
【0146】
シーケンスPCR産物はエタノール沈殿後、10μlのホルムアミドに融解した。ホルムアミドに融解したシーケンスPCR産物について、DNAシーケンサー(ABI社 3730xl)での泳動を行い、波形データを取得した。4マーカーについて、各遺伝子型と球重の分布を比較し、スティール・ドゥワス(Steel-Dwass)の方法による多重検定を行った。結果を、図4に示す。図4は、実施例2における、各マーカーの遺伝子型毎の球重を示す図である。
【0147】
また、第2マーカーについて、サンガー法による波形解析のデータを図5に示す。図5は、実施例2の第2マーカーの波形データを示す図である。
【0148】
実施例2においても、実施例1と同様に、4つのマーカーが大玉性のタマネギの選抜において有用であることが示された。
【0149】
〔実施例3〕
第1マーカー及び第4マーカーについて、KASPマーカーを作成し、遺伝子型の特定に用いた。KASPプライマーミックスを、100μM アレル特異的FAMプライマー:100uM アレル特異的HEXプライマー:100μM 共通プライマーの比率が3:3:5の比率になるように調製した。プライマー配列を表12に示す。
【0150】
【表12】
【0151】
PCR反応の組成を表13に示し、PCR条件を表14に示す。KASP Master Mixとして、プライムテック製のKASP-TF V4.0 2X Master mix 96/384 Std Roxを用いた。
【0152】
【表13】
【0153】
【表14】
【0154】
PCR反応後、FAM及びHEXの蛍光量をリアルタイムPCR装置で測定し、ドットプロット図から遺伝子型を判定した。蛍光量の測定は、25℃で1分間行った。結果を図6に示す。図6は、実施例3の第1マーカー及び第4マーカーの遺伝子型の判定結果を示す図である。図6に示すように、KASPマーカーにより、第1マーカー及び第4マーカーの遺伝子型が特定可能であった。
【0155】
〔実施例4〕
第4マーカーについて、CAPSマーカーを作成し、遺伝子型の特定に用いた。プライマー配列を表15に示す。
【0156】
【表15】
【0157】
PCRの組成及び条件を表16及び表17に示す。Taq DNA Polymeraseとして、NEB社製のTaq DNA Polymerase with ThermoPol Buffer(M0267X)を用いた。
【0158】
【表16】
【0159】
【表17】
【0160】
PCR産物 4μlに、NEB社製のRsaI(#R0167S)を1ユニット及び10×バッファを0.7μl添加して7μlとし、37℃で一晩制限酵素処理した。
【0161】
TBE溶液に4%(w/v)の濃度となるようにアガロースゲルを作成し、制限酵素処理したPCR産物を電気泳動した。PCR産物の両側には100bpラダーを泳動した。結果を図7に示す。図7は、実施例4におけるアガロースゲル電気泳動の結果を示す図である。
【0162】
図7に示すように、CAPSマーカーにより、第4マーカーの遺伝子型が特定可能であった。
【0163】
〔実施例5〕
異なる2つのタマネギ品種(OPP-6(農研機構育成)、もみじ3号)の交雑から育成した個体(F)を自殖して、交雑後代集団(F、245個体)を育成し、圃場で栽培した。収穫した各個体の球重を測定した。
【0164】
441の分子マーカーを用いて、各個体の遺伝子型を取得した。441の分子マーカーのそれぞれに対するプライマーセットを10個に分割し(1プライマープレックス:約44プライマーセット)、プライマープレックスごとにマルチプレックスPCRを行った(1st PCR)。1st PCRの組成を表18に示し、PCR条件を表19に示す。
【0165】
【表18】
【0166】
【表19】
【0167】
1st PCR産物は、AMPure XP Reagentにより精製した。精製したテンプレートを100倍希釈して、2nd PCRに用いた。2nd PCRでは、1st PCR産物に次世代シーケンサーでの解析用のアダプター配列及び個体識別用のバーコード配列を添加した。2nd PCRの組成を表20に示し、PCR条件を表21に示す。
【0168】
【表20】
【0169】
【表21】
【0170】
作成したPCR産物について、192検体と53検体との2つに分割し、各々で1つにまとめて次世代シーケンサー(Thermo Fisher Scientific社Ion Torrent Proton system)により解析した。ソフトウェアTorrent Suite ver. 5(Thermo Fisher Scientific社)を用いて、得られた配列データを検体ごとに分けた後、各検体の配列データをリファレンス配列にマッピングした。ソフトウェアTorrent Variant Callerを用いて、各増幅領域内の多型情報(マーカー遺伝子型)を抽出した。
【0171】
得られた各個体のマーカー遺伝子型を用いて、連鎖地図を作成した(ソフトウェア Join map 4.0)。作成した連鎖地図を図8に示す。各マーカーを連鎖群(染色体)ごとに分類し、連鎖群でのマーカー間の遺伝距離を推定した。連鎖地図に沿って各個体のマーカー遺伝子型を並べ替えた後、取得した球重を用いてQTL解析を行った(ソフトウェアR/qtl)。解析結果を図9に示す。
【0172】
図9に示すピーク近傍の5つのマーカーを選抜した。第8マーカー(CHR8_82147275)は、第3マーカー近傍のSNPであり、第9マーカー(Scaffold_62471_59187)は、第4マーカー近傍のSNPである。第5マーカー~第9マーカーの5つのマーカーと、比較として用いた第1マーカーとの詳細を表22に示し、各マーカーのプライマー配列及び増幅産物の配列を表23に示す。なお、表23中の増幅産物の配列は、参照配列から抽出した塩基配列情報である。
【0173】
【表22】
【0174】
【表23】
【0175】
5つのマーカーそれぞれについて、遺伝子型と球重との分布を比較し、スティール・ドゥワス(Steel-Dwass)の方法による多重検定を行った。結果を図10に示す。図10は、実施例5における各マーカーの遺伝子型毎の球重を示す図である。
【0176】
図10においては、比較としての第1マーカーと、第5マーカーから第9マーカーの結果を示す。第1マーカーから第9マーカーまでのマーカーのうち、最も遺伝距離が離れている第1マーカーと第9マーカーとは、5cM程度離れていた。また、実施例1の第3マーカーと第8マーカーとの間の距離は5464bpであり、実施例1の第4マーカーと第9マーカーとの間の距離は11bpであった。
【0177】
図10に示すように、第5マーカーから第9マーカーについても、第1マーカーから第4マーカーと同様に、大玉性のタマネギの選抜に有用であった。
【0178】
〔実施例6〕
大玉性のタマネギを判別するための候補マーカーとして、第10~26のマーカーを選抜した。各マーカーについて、第1~第4マーカーのいずれかからの距離を含む詳細を、表24に示し、各マーカーのプライマー配列及び増幅産物の配列を表25に示す。表24に示すように、第10マーカーは第1マーカーとの距離10kb程度であり、第11~26マーカーは、それぞれ第1~第4マーカーのいずれかからの距離が10kb以内である。
【0179】
【表24】
【0180】
【表25】
【0181】
第18~第20マーカーについて、アガロースゲル電気泳動及びフラグメント解析を行なった。まず、第18~第20マーカーのそれぞれに対するプライマーセットを用いて、マルチプレックスPCRを行った。PCR組成及び条件を表26及び表27に示す。
【0182】
【表26】
【0183】
【表27】
【0184】
得られたPCR産物の全量を4%アガロースゲル(3%Sigma Type I-A, low EEO+1% LONZA MetaPhor)にアプライし、2段、3:1ゲル、250Vの条件において2時間電気泳動した。結果を図11に示す。図11は、第18~第20マーカーの3つのマーカーのアガロース電気泳動の結果を示す図である。図11に示すように、第18~第20マーカーの電気泳動により、これらのマーカーの遺伝子型が特定可能であった。
【0185】
次に、第18~第20マーカーのフラグメント解析を以下の通り行なった。まず、第18~第20マーカーのそれぞれに対するプライマーセットを用いて、マルチプレックスPCRを行った。PCR組成及び条件を表28及び表29に示す。
【0186】
【表28】
【0187】
【表29】
電気泳動用プレートを作製した。まず、HiDi-Formamide(Thermo/4311320) 1000μlと、GeneScan 600 LIZ dye Size Standard v2.0 (Thermo/4408399) 10μlとを混合して、懸濁液を作成した。96ウエルPCRプレートに作製した懸濁液を10μlずつ分注し、さらに、PCR産物を0.5μl添加した。空きウエルには滅菌水を10μl分注した。PCRプレートを95℃で5分加熱処理した後、氷上において急冷した。準備した電気泳動用プレートについて、ABI3730シーケンサーを用いて電気泳動した。電気泳動条件を表30に示す。
【0188】
【表30】
【0189】
電気泳動により得られた結果について、GeneMapper software(Applied Biosystems社製)を用い、フラグメントデータ解析を行った。結果を図12に示す。図12に示すように、第18~第20マーカーのフラグメント解析により、これらのマーカーの遺伝子型が特定可能であった。
【0190】
第13~第17マーカーについて、フラグメント解析を行なった。まず、第13~第17マーカーのそれぞれに対するプライマーセットを用いて、各々PCRを行った。PCR組成及び条件を表31及び表32に示す。
【0191】
【表31】
【0192】
【表32】
【0193】
電気泳動用プレートを作製した。まず、HiDi-Formamide(Thermo/4311320) 1000μlと、GeneScan 600 LIZ dye Size Standard v2.0 (Thermo/4408399) 10μlとを混合して、懸濁液を作成した。96ウエルPCRプレートに作製した懸濁液を10μlずつ分注し、さらに、PCR産物を0.5μlアプライした。空きウエルには滅菌水を10μl分注した。PCRプレートを95℃で5分加熱処理した後、氷上において急冷した。準備したPCRプレートについて、ABI3730シーケンサーを用いて電気泳動した。電気泳動条件を表33に示す。
【0194】
【表33】
【0195】
電気泳動により得られた結果について、GeneMapper software(Applied Biosystems社製)を用い、フラグメントデータ解析を行った。結果を図13及び14に示す。図13及び14に示すように、第13~第17マーカーのフラグメント解析により、これらのマーカーの遺伝子型が特定可能であった。
【0196】
また、遺伝子型と球重との分布を比較し、スティール・ドゥワス(Steel-Dwass)の方法による多重検定を行った。結果を図15に示す。図15は、実施例6における各マーカーの遺伝子型毎の球重を示す図である。図15に示すように、第18~20マーカーは、第1~4マーカーと同様に大玉性のタマネギの判別に有用であることが示された。第18~20マーカーは、いずれも第3マーカーとの距離が10kb以内である。第10マーカーは第1マーカーとの距離が10kb程度であり、第11~17、21~26マーカーについても、第1~4マーカーのいずれかとの距離が10kb以内であるため、これらのマーカーについても、第1~4、18~20マーカーと同様に大玉性のタマネギの判別に有用であると推察される。
【産業上の利用可能性】
【0197】
本発明は、農業分野、植物育種分野等に利用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
【配列表】
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